本発明は、操作開始時刻において、被制御体を構成する第一支持体および第二支持体の質量の位置と速度を検出することで作成した制御信号に従って、前記の操作時間の間、以下に示す軌道制御をおこなうことで該第二支持体の位置と速度をフィードフォワード制御もしくはサンプル値制御する軌道制御装置である.
該被制御体が、固定支持体Aに移動自在に支持された第一支持体と、前記第一支持体に振動自在に支持される第二支持体とで構成されていた軌道制御装置Aの場合においては、該軌道操作は該第二支持体に加える強制変位であり、制御信号は該第二支持体からなる振動子の固有周期を2πとした無次元化時間tの強制変位関数X(t0+t')である(式1)で表される.これにより該第二支持体の軌道は、(式39)に示される軌道関数x1(t0+t')に従って変化する.これらの関数は、t'=0〜Δtの範囲において成り立つ.
例えば、該軌道制御装置Aの具体例は、図7の概略図に示されるように、該第一支持体3aは1次元アクチュエータ8aにより移動自在に制御されることで強制変位を受け、該第二支持体1aはバネ2aで該第一支持体3aに接続された単振動子となっている.またセンサー11aaによって前記操作時間毎に該第一支持体3aの位置や速度が、またセンサー11abによって前記操作時間毎に該第二支持体1aの位置や速度が測定され、これらの情報から決定された強制変位関数X(t0+t')に従って、該第一支持体3aが動かされるように、該1次元アクチュエータ8aは制御器10aにより制御される.
一方、該被制御体が、固定された第一支持体と、前記第一支持体に振動自在に支持される第二支持体とで構成されていた軌道制御装置Bの場合においては、該軌道操作は該第二支持体に加える外力であり、制御信号は該第二支持体1dからなる振動子の固有周期を2πとした無次元化時間tの外力関数FI(t0+t')となる.これにより該第二支持体の軌道は、軌道関数y1(t0+t')に従って変化する.これらの関数は、t'=0〜Δtの範囲において成り立つ.
例えば、該軌道制御装置Bの具体例は、図10の概略図に示されるように、該第一支持体は該固定支持体7dそのものであり、該第二支持体1dはバネで該固定支持体Dに接続された単振動子となっている.また該第二支持体1dは透磁率の高い軟磁性体でできており、周囲に配置したコイル等から発生する電磁力で外力が加わるようになっている.さらにセンサー11dbによって前記操作時間毎に該第二支持体1dの位置や速度が測定され、この情報から決定された外力関数FI(t0+t')に従って電源から電流がコイルに流れ、その電流量は制御器により制御される.
他方、前記被制御体が、仮想的な該三体振動系において定義される固定支持体に振動自在に支持された第一支持体と、前記第一支持体に振動自在に支持される第二支持体とで構成されていた軌道制御装置Cの場合においては、軌道操作は該第一支持体に加える外力であり、制御信号は該第二支持体からなる振動子の固有周期を2πとした無次元化時間tの外力関数F'IIp(t0+t')である(式3)で表される.これにより該第二支持体の軌道は、(式36)に示される軌道関数x1p(t0+t')に従って変化する.これらの関数は、t'=0〜Δtの範囲において成り立つ.
例えば、該軌道制御装置Cの具体例は、図11の概略図に示されるように、該第一支持体3cはバネ4cを介して該固定支持体7cに接続され、さらに該第二支持体1cはバネ2cで該第一支持体3cに接続されることにより、直列に接続された二体振動子となっている.また該第一支持体1cは透磁率の高い軟磁性体でできており、周囲に配置したコイル15c等から発生する電磁力で外力が加わるようになっている.さらにまたセンサー11caによって前記操作時間毎に該第一支持体3cの位置や速度が、またセンサー11cbによって前記操作時間毎に該第二支持体1cの位置や速度が測定され、これらの情報から決定された関数F'IIp(t0+t')に従って外力が加わるように、電源16cからコイル15cに流れる電流量は制御器10cにより制御される.
一方、前記被制御体が、固定支持体Dに振動自在に支持された第二支持体とで構成されていた軌道制御装置Dの場合においては、軌道操作は該第二支持体に加える外力であり、制御信号は該第二支持体からなる振動子の固有周期を2πとした無次元化時間tの外力関数FIII(t0+t')である(式4)で表される.これにより該第二支持体の軌道は、(式39)に示される軌道関数x1(t0+t')に従って変化する.これらの関数は、t'=0〜Δtの範囲において成り立つ.
例えば、該軌道制御装置Dの具体例は、図10の概略図と同じであり、該第二支持体1dはバネ2dで該固定支持体Dである7dに接続された単振動子となっている.また該第二支持体1dは透磁率の高い軟磁性体でできており、周囲に配置したコイル15d等から発生する電磁力で外力が加わるようになっている.さらにセンサー11dbによって前記操作時間毎に該第二支持体1dの位置や速度が測定され、この情報から決定された外力関数FIII(t0+t')に従って外力が加わるように、電源16dからコイル15dに流れる電流量が制御器10dにより制御される.
他方、前記被制御体が、固定支持体Eに移動自在に支持された第二支持体で構成されていた軌道制御装置Eの場合においては、軌道操作は該第二支持体に加える外力であり、制御信号は該第二支持体からなる振動子の固有周期を2πとした無次元化時間tの外力関数FIV(t0+t')である(式5)で表される.これにより該第二支持体の軌道は、(式39)に示される軌道関数x1(t0+t')に従って変化する.これらの関数は、t'=0〜Δtの範囲において成り立つ.
例えば、該軌道制御装置Eの具体例は、図12の概略図に示されるように、該第二支持体1eは固定支持体Eである7eに移動自在に支持された自由物体となっている.また該第二支持体1eは透磁率の高い軟磁性体でできており、周囲に配置したコイル16e等から発生する電磁力で外力が加わるようになっている.さらにセンサー11ebによって前記操作時間毎に該第二支持体1eの位置や速度が測定され、この情報から決定された関数FIV(t0+t')に従って外力が加わるように、電源16eからコイル16eに流れる電流量が、制御器10eにより制御される.
本発明における該第一支持体や該第二支持体の位置と速度は、各支持体自体に取り付けるか、非接触に測る位置センサーや速度センサー、もしくは加速度センサーや画像処理装置等を用いて測る.
本発明における該第二支持体からなる振動子は、バネと重りからなる単振動子であったり、ワイヤーで吊るされた重りからなる振り子であったりする.また片持ち梁等の連続体においても、その主たる振動が一つのモードに限られる場合は、一振動子とみなして使用することができる.
ただし振り子や片持ち梁の場合、位置が振り子の回転角となることから、これを重力とは垂直な根元の位置の変化で制御する場合には、特別に注意が必要である.この場合、該第二支持体である振り子等の位置の変化は、後で述べるように、一般化座標としての角度の変化であり、該第一支持体である根元の強制変位量は、一般化座標として根元の加速度の変化量を用いる必要がある.
また本発明における制御法は、複雑な構造体においても、該構造体を多体振動子としてモデル化し、モード解析することにより現れるモード質量とモード剛性からなる特定の振動モードが複数ある場合、各該振動モードの固有周期により定められた各前記操作時間を用いて、各該振動子のモード質量の位置および速度の情報から定まる強制変位量もしくは外力を該構造体に与えることにより、同様に該構造体の振動を各該振動モードごとにフィードフォワード制御もしくは各該振動モードごとにサンプル値制御することができる.
本発明における該第一支持体や該第二支持体に付与する外力は、各支持体に取り付けた軟磁性体を外側のコイルに発生させた磁場で引きつけることにより実現する.その際、軟磁性体の移動方向の断面積を変化させたり、外部磁場を時間とともに変化させたりすることで、外力を変化させる.また複数個のコイルを用いたり、バネの復元力を用いたりすることで各支持体に往復運動を与える.
ロボットアームやハードディスクのアーム等の柔軟構造物は自身が持つ柔軟性のため、運動の停止の際に残留振動が生じる.また、天井クレーン等の振り子も同様に、振り子の根元の運動の停止の際に残留振動が生じる.さらに半導体露光装置(ステッパー)は僅かな残留振動も影響することから、これを抑える必要がある.これらの装置においては、正確な位置決めのために残留振動が静止までに時間を要することから、ロボットやクレーンを用いた運搬作業やハードディスクの読み書き速度、半導体の露光工程において作業効率の低下を招く.
残留振動低減のため、主としてフィードバック制御が用いられているが、フィードバックゲインの大きさによっては逆に発振し、高速な位置制御が困難となる.そこで、フィードフォワード制御および、遺伝的アルゴリズム等を用いた最適軌道計画によって残留振動低減に関する研究がおこなわれているが(小島宏行,羽廣賢一,遺伝的アルゴリズムを用いた直進形クレーンの最適軌道計画と残留振動抑制制御の実験,日本機械学会論文集C編. vol. 69, no. 682, 2003-6, pp. 1479-1485)、その多くが、初期位置から目的位置に移動させる際の軌道を定めるものなので、系の設計パラメーターが変化するたびに最適軌道を求める必要があり、移動中の不意な外乱や、状況によってパラメーターが変化する作業現場において対応できないでいた.
本発明における軌道制御装置Aは、根元の強制変位を目標位置、目標速度を0とすることで定めた強制変位関数X(t0+t')に従って変化させることで、一体振動系を所定の操作時間で完全に静止させる制振操作が可能となる.ここでは本発明における軌道制御装置Aの実施例を説明するために、この制振操作を柔軟構造物の制振制御に応用する.
片持ち梁等の柔軟構造物は複数の固有モードを持つものの、主として一次モードが基本振動として立ちやすい.また変位が微小な場合、非線形性はそれほど大きくないことから、その振る舞いをバネ‐質量からなる線形振動系によって近似的に表現することができる.そこで、ここではロボットアームやハードディスクのセンサー用のアーム、露光装置の精密ステージ搭載部等の柔軟構造物を図7に示すような軌道制御装置Aによって振動制御を行う.
(式1)の一体振動系における強制変位関数X(t0+t')を柔軟構造物の移動に応用する.片持ち梁である柔軟構造物を図13に示すロボットアームとすると、一体振動系のモード質量の位置の変化は、アーム先端のロボットハンド18の位置の変化であり、一体振動系の根元の位置の変化は、アーム根元の加速度の変化に相当する.
またこの場合、一体振動系の質量は、片持ち梁のモード質量であり、一体振動系のバネ定数は、片持ち梁の等価バネ定数である.
またロボットアームの振動が、主として関節にある減速機等の低い回転バネ定数による回転である場合、一体振動系の質量は、関節周りのロボットアームの慣性モーメントであり、一体振動系のバネ定数は、単位角度当たりのモーメントの増加量となる.
また、片持ち梁である柔軟構造物を図14に示すハードディスクの磁気ヘッド21を支えるアーム先端部の片持ち梁20とすると、一体振動系のモード質量の位置の変化は、片持ち梁に支えられた磁気ヘッドの位置の変化であり、一体振動系の根元の位置の変化は、片持ち梁を支える比較的剛性の高いアーム19の先端部の位置の変化に相当する.
また、片持ち梁である柔軟構造物を除振台を含んだ半導体露光装置全体とすると、一体振動系のモード質量の位置の変化は、多数のレンズ系28からなる光学系の上に乗った光源27の位置の変化であり、一体振動系の根元の位置の変化は、ウエハーステージ30やレクチルステージ29の移動の反力による除振台32を含んだ半導体露光装置全体の水平方向の位置の変化に相当する.図15に除振台を含んだ半導体露光装置全体の水平方向の位置の変化によって加振される光源の位置変化の模式図を示す.
ここで、角振動数パラメーターをα1=1、αp≠1=0とし、操作を開始する時刻である基準時刻をt0=20、操作する柔軟構造物の操作時間を固有周期と等しくΔt=2π、Xin=X (t0) = 0.0、Vin=V (t0) = 0.0とする.また柔軟構造物のモード質量の元の位置をxin=x1(t0)=-1.5、元の速度をvin= x1(t0) =v1(t0)=0.0、目標位置をxen=x1 (t0+Δt)=0.0、目標速度をven= x1(t0+Δt) =v1(t0+Δt)=0.0とする.20< t <20+Δtの範囲で関数X(t0+t')を用いて強制変位を与え、t <20、t >20+Δtの範囲では強制変位量を0とした場合の数値結果について、アーム先端の位置の変化を図16に、アーム根元の位置の変化を図17に示す.
図16より、振動子の質量は、強制変位を加えるt=20までは自由振動が続き、一周期分の強制変位を受けた後、完全に静止状態となることがわかる.またその際、可動体に与えた強制変位量は、図17のようになり、一般にBang-bang関数といわれるものの形になっている.つまり本発明は、これまで解析的に示されてこなかったBang-bang関数を定式化し、定量化、一般化を可能にしたことが分かる.本関数を用いることで、任意の位置、速度の状態から別の任意の位置、速度の状態に所定の操作時間での操作が可能となる.
ハードディスク等、ヘッドとデータの位置が近い場合、短い距離でのヘッドの移動が必要となり、静止状態から移動し、すぐに止まるシーク制御の必要がある.ここでは、次に、静止状態から、1周期の操作時間後に移動して再び静止する制御について考える.
一体振動系において、根元の強制変位と先端の振動子の位置の変化が同じ場合、バネのポテンシャルエネルギーは 0 となり、運動エネルギーが無い場合、系は静止状態となる.
(式1)の強制変位関数X(t0+t')において、位置操作前、位置操作後での根元の位置の変化と振動子の位置の変化がそれぞれ同じ場合、ある位置における静止状態から、別の位置における静止状態への操作となる.
角振動数パラメーターをα1=1、αp≠1=0とし、 Xin=X (t0) =-d/2、Vin=V (t0) = 0.0、位置の変化量を搬送距離 d、元の速度をvin=0、目標の速度を ven=0、元の位置をxin=-d/2、目標の位置を xen= d/2とした場合、(式1)に示される強制変位関数X(t0+t')は以下の(式53)のように書き改められる.
操作時間を振動子の固有周期と等しくΔt = 2π とし、 t0=3Δtに強制変位関数による操作を開始する.3Δt≦t≦ 4Δtの範囲では(式53)で表される強制変位関数X(t0+t')を与え、t < 3Δtの範囲では強制変位を0、t > 4Δtの範囲では強制変位をdとした場合の振動子の質量と可動体の位置の時間変化を図18に示す.ここでXsedは可動体の位置の時間変化を、x1振動子の質量の位置の時間変化を示す.これはハードディスクのヘッドを短距離移動させるシーク制御や位置を整定するセントリング制御や同じ位置を保ち続けるフォロイング制御における最速制御に相当する.また半導体露光装置(ステッパー)における残留振動を抑制させた断続的な移動にも使用できる.
こうした振動制御の際、第一支持体に相当する物体の速度や位置、回転量や回転速度等の測定も必要なことから、これらの量を測るセンサーも取り付けると良い.
ここでは、(式53)に示される強制変位関数X(t0+t')について、柔軟構造物のモード質量の元の位置をxin=x1(t0) = 0.0、元の速度をvin= x1(t0) =v1(t0) = 0.0、目標速度をven= x1(t0+Δt) =v1(t0+Δt)=0.0とし、振動子の根元と振動子の質量の搬送距離をd= 2.0とした.静止状態にある振動子が強制変位を受けて、別の位置で静止状態となることが分かる.
次に同じく柔軟構造物に対して、図7に示すような軌道制御装置Aを用いることによって、強制変位関数X(t0+t')を等速搬送時の振れ止め制御に応用する.一体振動系の根元を一定速度で動かす際、その速度に達するまでに振動子に加速度が生じることから、根元が一定速度に到達後、振動子には振動が生じる.そこで根元が速度 v0で等速並進運動を行っている一体振動系において、制振操作を行った場合、図19に示すような振動体の質量と可動体の位置の変化を示した.ここでXsedは可動体の位置の時間変化を、x1振動子の質量の位置の時間変化を示す.これは一定速度で移動するロボットアームの先端と根元の位置および速度の変化に相当する.
ここでは、(式1)に示される強制変位関数X(t0+t')について、角振動数パラメーターをα1=1とし、αp≠1=0、操作時間を振動子の固有周期と等しくΔt = 2πとし、操作を開始する時刻である基準時刻をt0=5Δtとし、振動子の根元の等速運動速度をv0= 1.0、振動子の質量の初期位置と初期速度を x1(0)= 1.0、v1(0)= v0、振動子の質量の操作開始時の位置を xin=x1(t0)= x1(0)+5Δtv0、振動子の質量の操作開始時の速度をvin=v1(t0)=v0、振動子の質量の目標位置を xen= x1(t0+Δt)= x1(0)+6Δtv0、振動子の質量の目標速度をven= v1(t0+Δt)=v0とした.本制振操作により、根元が等速並進運動を行っている系でも、残留振動をその大きさに問わず所定の操作時間で消滅させることができる.
柔軟構造物を一体振動系とみなすことで、これまで示したように所定の操作時間での制振が可能となる.しかし、制振の際の根元に掛かる大き過ぎる力はギヤ等の駆動系の破損を招く.そこで、ここではロボットアームの制振操作を多段階で行い、静止までの操作回数による根元の加速度の変化を数値計算より観察する.
図7に示すような軌道制御装置Aにおいて、(式1)の強制変位関数X(t0+t')を用いて多段階の制振操作を行った場合の振動子の質点の運動を図20に示す.Nは操作を行った回数であり、ここでは1回、3回と5回を示している.ここでは(式1)に示される強制変位関数X(t0+t')について、角振動数パラメーターをα1=1、αp≠1=0とし、操作を開始する時刻である基準時刻をt0=0、操作時間を操作する柔軟構造物の固有周期と等しくΔt=2πとし、Xin=X(t0) = 0.0、Vin=V(t0) = 0.0とする.また柔軟構造物のモード質量の元の位置をxin=x1(t0)=1.0、元の速度をvin=v1(t0)=0.0、N回後の目標位置がxen=x1 (t0+Δt)=0.0、目標速度をven= v1(t0+Δt)=0.0とした.
制振操作を行う際、静止までの全操作回数を N回とし、M 回目の操作で、位置、速度が初期値に対して それぞれ(N-M)/N倍となるように元の位置 xin、元の速度vin、目標位置xen、目標速度vinを毎回設定し操作を行った.図20に振動子の質量の加速度の変化を示す.計算結果から、静止までの操作回数が増えるほど、根元に掛かる加速度は減少し、負荷が軽減される.
一方、ロボットアームの移動距離が長い場合、これに要する時間Tは、ロボットアームの固有周期τよりも長くなるのが一般である.この場合、所定の操作時間Δt毎にロボットアームの任意の軌道の位置で残留振動なく静止させるような強制変位関数X(t0+t')を決定することができる.
次に5τ後に1.0の位置で残留振動なく停止させるよう(式1)に示した強制変位関数X(t0+t')をつなぐことで作成した強制変位曲線を図21に示す.またこれによって駆動される従節機構の軌道とサイクロイド曲線と一緒に図22に示す.滑らかに上昇しているのがサイクロイド曲線であり、揺れながら上昇しているのが、従節機構の軌道である.従節機構は、所定の操作時間Δtごとに残留振動なくサイクロイド曲線を通るよう制御できることが分かる.これにより、任意の軌道を残留振動なく移動するロボットハンドの操作が可能となる.
多関節ロボットハンドにおいて、先端部の剛性が低く、根元の剛性が高い場合、剛性の高い関節の位置や角度の変化を上記の強制変位関数や以下に示す強制角変位関数で設計することで、先端の剛性の低い部分の残留振動を抑えてロボットハンドを移動させることができる.
一方、工業用の多関節ロボットアームにおいては、腕の剛性は高いものの、関節部はハーモニックドライブ(登録商標)等の高減速機が用いられることから剛性が低い.そのため工業用の多関節ロボットアームの残留振動は、専ら関節部の回転振動として発生する.
一関節のロボットアームは、図90に示すような一体回転振動体でモデル化できることから、後述する(式58)に示す強制角変位関数Θ(t0+t')を用いてロボットアームを操作することにより、回転の残留振動を抑えることができる.
図90に示すように、ロボットアームの関節にはハーモニックドライブ(登録商標)等による減速機がついており、これがモーター等のアクチュエータ154によって回転される.アクチュエータの回転角θmは、減速機の回転バネ156を伝わってロボットアーム157を角度θa回転させる.ロボットアームの回転角および回転角速度はエンコーダー158によって測定し、アクチュエータの回転角および回転角速度はエンコーダー154によって測定することで、操作時間Δt後に回転の残留振動を抑える強制角変位関数Θ(t0+t')が定まる.
強制角変位関数Θ(t0+t')によるロボットアームの残留振動の低減効果は、他の技術と同様である.
これらの技術は、ハードディスクのシーク制御にも応用することができ、同じ技術がハードディスクのシーク制御ばかりでなく、セトリング制御やフォロイング制御にも使用得きることから、従来ハードディスクでおこなわれているような、モードの切り替えによる制御の不安定性や二自由度制御系に現れる目標位置への精度の悪さを克服することができる.
またヘッドの位置を表わすサーボ情報がディスク上に離散的に等間隔でしか書き込まれていないことから、ヘッドの位置や速度情報が一定時間間隔でしか得ることができないなどの問題があり、従来はこれらの値の推定によって起こる制御の障害が存在した.ところが、本発明により、ヘッドの位置を表わすサーボ情報を得る時間間隔を磁気ヘッドを支える片持ち梁を制御する所定の操作時間Δtの自然数分の1とすることで、任意の軌道を通る残留振動を抑えたサンプル値制御ができる(図22).
なによりも本発明のサンプル制御法自体に、被制御振動系の所定の操作時間Δt間のフィードフォワード制御と被制御振動系の前記操作時間毎のフィードバック制御が自然に内在していることが、二自由度制御系等の複雑な組み合わせによる制御系とは違った大きなメリットになっている.
他方、これらの技術を半導体露光装置の駆動制御に応用する場合、操作時間を1ステップごとのウエハーステージの駆動時間となるようにする.これにより、光源や装置本体は残留振動なく正確に位置決めすることができる.
また1ステップの移動後に残留振動が残った場合でも、サンプル制御することにより、半導体露光装置の揺れは、所定の操作時間後に動的に残留振動を小さくすることができる.
半導体露光装置の水平方向の移動量は、ウエハーステージの駆動力の反作用による運動であり、移動量が導出した強制変位関数X(t0+t')になるようにウエハーステージの駆動力を調整しなければならない.
一方、半導体露光装置は、除振台に載っており、この除振台は、土台の基礎とバネで結ばれている.そのため、土台を固定支持体とし、除振台を第一支持体、レンズやレクチルを積んだ導体露光装置は片持ち梁のように揺れることから、これのモード質量を第二支持体とすることができる.
半導体露光装置の光源近くに振動を測るセンサーをセットして、露光装置の揺れの位置と速度を測れるようにし、また除振装置の上にもセンサーを付けて、除振台の位置と速度を測れるようにする.これにより、第一支持体と第二支持体の位置と速度の情報を得ることができる.これにより、半導体露光装置の揺れは、軌道制御装置Cの構造により、振動を制御できることが分かる.
ステージにより生じる力は、ウエハーステージの加速度とウエハーステージの質量の積となる.このため、ウエハーステージによる力を外力関数F'IIp(t0+t')とするためには、ウエハーステージの加速度が外力関数F'IIp(t0+t')とウエハーステージの質量の商となるように制御すればよいことが分かる.
またウエハーステージと同じ高さに、ステージとは切り離した本体側に画像センサーを設置し、レクチル像の動きやエッジの変化から、レクチルや光源の位置や速度をセンシングするなどの工夫が必要となる(図15).
次に、本発明における図7に示すような軌道制御装置Aにおける実施例の一つとして、導出した強制変位関数X(t0+t')の天井クレーンの制振への応用について述べる.本発明を天井クレーンに応用した装置の概略図を図23に示す.天井クレーンは、ワイヤー36で吊るされた荷物37からなる振動子の根元を天井のクラブトロリー34等が水平方向に移動することにより駆動させる機械であり、クラブトロリー34等の加速度は第一支持体の位置変化である強制変位関数X(t0+t')に、ワイヤー36の鉛直方向から振れ角θ(t0+t')は軌道関数x1(t0+t')に相当することから、クラブトロリー等の動きにより、天井クレーンの荷物の位置や速度を制御できる.
一方、天井クレーンは振り子であることから、非線形振動となり、固有周期も振幅に依存する.そのため固有周期の変化に対する対処が必要となる.しかし近似的には線形振動子と同じ扱いができることから、天井クレーンの荷物の位置や速度を任意に変化させることにより、荷物運搬後の残留振動の抑制ばかりでなく、荷物を運搬開始する際に生じる振動や、運搬中の加速操作により発生する振動も同様に抑制することができる.
本発明では、操作を始める瞬間の該振れ角θ(t0+t')と振れ角速度dθ(t0+t')/dtおよびクラブトロリーの位置と速度を知る必要がある.天井クレーンにおいてこれらの量は、吊り下げられた荷物の位置と速度およびクラブトローリの位置と速度から算出することができる.近年はレーザーを使った安価な距離計や速度計が販売されているが、工場で頻繁に移動する天井クレーンにこれらのセンサーからのレーザー光を当て続けるのは難しい.
一方、天井クレーンはワイヤーによって荷物を吊り下げられているので、固有周期が分かればワイヤーの長さが計算できる.また近年、荷物に取り付けられる小型の3次元加速度センサーも販売されていることから、荷物が最下点を通った瞬間およびその際の遠心力を求めることができ、これから荷物の位置と速度を計算することができる.加速度センサーからの信号は、Bluetooth(登録商標)等の電波で飛ばすことにより、逐次情報を得ることが可能となる.クラブトロリー34の水平方向の位置及び速度に関する情報も、適宜センサー等を用いて取得する.
他方、天井クレーンは運搬方向にモーターが付いていることから、計算されたタイミングで運搬方向や速度を変化させることは可能である.モーターの付近に加速度センサーからの情報を受け取る通信ユニットとこれを受けて強制変位関数X(t0+t')を計算し、出力する演算出力ユニット、この出力に合わせてモーターに電気を送るアンプユニットからなる制御器を新たに設ける.このようにして設計された天井クレーンの該略図は図23と同じである.2次元天井クレーンの場合は、それぞれの軸において、これらを配置する.
本発明は、所定の操作時間後に振動子の位置および速度を任意に変化させることができることから、天井クレーンの停止の際の揺れの減衰ばかりでなく、移動開始時の荷物の移動時の揺れも止めることができる.天井クレーンの非線形性を無視すれば、図19は、移動開始時の揺れを治めて一定速度で移動させた荷物の軌道に等しい.
一方、同様に天井クレーンの非線形性を無視すれば、図18は、目的位置に着いた天井クレーンの残留振動を強制変位により制振させた操作に等しい.
荷物の残留振動は加速度センサーにより検知することができるので、常にクレーンが揺れを監視し、止めるように自動化することができる.
また、制御器を既存のクレーンに導入するにはコストがかかることから、制御器の出力を音や表示板のバーの長さで知らせるようにした指示機として、天井クレーン操作者に追いノッチ操作のタイミングや量を教えることも可能である.この場合、指示機は、小型にできることから、天井クレーンの操作盤に組み込むことも、併設して一緒に持つことも可能になる.
次に、天井クレーンの簡易モデルから運動方程式を導出する.振り子の質量をm、長さをl、ワイヤーの鉛直方向からの傾きである振れ角をθ、重力加速度をgとし、トロリーの水平方向の移動により振り子の根元に強制変位量Xtr(t)を与えた場合の系の運動方程式は以下の(式54)のように表される.(式54)を代表時間Tr=√(l / g)、単位長さlで無次元化すると以下の(式55)が得られる.該振れ角θが小さい場合、(式55)は線形近似することで、(式56)のように書き換わる.
ここで前記第二支持体の一般化座標x(t0+t')を回転振動体の回転角θ(t0+t')、前記第一支持体の一般化座標X(t0+t')を回転体の強制変位角Θ(t0+t')とすることで、軌道制御装置Aにおける運動方程式(式37)は次の回転の運動方程式(式57)に書き換わる.
(式37)と(式57)の比較から、一体回転振動体に対する角度・角速度を操作する強制角変位関数Θ(t0+t')は、(式1)の強制変位関数X(t0+t')を変形することで次の(式58)のように導かれる.ここでと前記第一支持体基準一般化座標Xinは基準時刻におけるワイヤーの該強制変位角Θ(t0)=Θinに、前記第一支持体基準一般化速度Vinは基準時刻におけるワイヤーの該強制変位角速度Θ(t0)=Θinに、前記第二支持体基準一般化座標xinは基準時刻におけるワイヤーの該振れ角θ(t0)=θinに、前記第二支持体基準一般化速度vinは基準時刻におけるワイヤーの該振れ角速度dθ(t0)/dt =dθin/dtに置き換わる.
天井クレーンの運動方程式を線形近似した(式56)と、軌道制御装置Aにおける回転の運動方程式(式57)を比べることで、トロリーの水平方向の移動による該強制変位量Xtr(t)と一体回転振動体に対する角度・角速度を操作する該強制角変位関数Θ(t0+t')の間に(式59)の関係が成り立つ.
つまり、負の該強制角変位関数Θ(t0+t')は、トロリーの水平方向の移動による該強制変位量Xtr(t)の2回時間微分と等しいことから、トロリーの水平方向の負の加速度を(式58)のようにすれば良いことが分かる.ここから天井クレーンのワイヤーの該振れ角と該振れ角速度を任意に操作するために必要なトロリーの水平方向の加速度(式60)が求まる.
一方、実際の天井クレーンのワイヤーは、(式55)で表される振り子による非線形性が存在することから、(式60)に従ってトロリーの水平方向の加速度を定めても、天井クレーンのワイヤーの該振れ角と該振れ角速度は目的の値からずれることになる.
特に天井クレーンの場合、起動や停止等によりトロリーの水平方向に加速度の発生することから、ワイヤーが揺れていない状態から一定の該振れ角に振り切った状態にする加振操作と、ワイヤーが一定の該振れ角に振り切った状態から揺れていない状態にする減振操作の二つを組み合わせることで、荷物を残留振動なく運ぶことができる.
該操作時間と目標とする該振れ角(目標振れ角)を様々に変化させながら加振操作のシミュレーションをおこなったところ、目標振れ角の変化は図87に示すようになった.ここで縦軸は操作時間後の振れ角と目標振れ角との比であり、該操作時間は該振れ角の前記固有周期を2πとする代表時間として無次元化している.
該操作時間がΔt=0.9πとΔt=1.5πの時に該目標振れ角の値によらず縦軸は1の値を取ることから、Δt=0.9πもしくはΔt=1.5πの該操作時間による加振操作をおこなうことにより、天井クレーンのワイヤーを目標とする振れ角になるように制御できることが分かった.つまり、前記操作時間の間に前記振れ角を0から所定の角度に増加させる加振操作においては、前記操作時間を前記固有周期の0.45倍、もしくは0.75倍とすることで、より精度の高い操作が可能となる.
また同様に、該操作時間と基準時刻の該振れ角(基準振れ角)を様々に変化させながら減振操作のシミュレーションをおこなったところ、目標振れ角の変化は図88に示すようになった.よって該操作時間がΔt=1.23πの減振操作により、該基準振れ角の値によらず目標振れ角を0に近くするように制御できることが分かった.つまり、前記操作時間の間に前記振れ角を所定の角度から0に減少させる減振操作においては、前記操作時間を前記固有周期の0.615倍とすることで、より精度の高い操作が可能となる.
しかし基準振れ角が大きい場合は、目標振れ角は依然として0とはならなかったことから、振り子の振動による非線形性の効果を除去する工夫は、依然必要である.
これらの操作時間で適切な天井クレーンの操作ができた理由として、左右に揺れるワイヤーの非線形性による効果が、この操作時間でちょうど打ち消しあったものと考えられる.
図89に、該操作時間をΔt=0.9πとして加振操作をおこない、その直後、該操作時間をΔt=1.23πとして減振操作をおこなうことで、残留振動を抑えて操作した天井クレーンの軌道のシミュレーション結果を示す.3回にわたったトロリーの加減速によるワイヤーの振れ角は毎回抑えられ、操作後一定速度での移動する様子が分かった.
(式60)に示したトロリーの水平方向の加速度からトロリーの軌道が計算できることから、本発明を用いることで、揺れを抑えた状態で荷物を運搬できる自動クレーンのサンプル値制御が可能となることが分かる.
次に角振動数パラメーターをα1=1、αp≠1=0とし、操作を開始する時刻である基準時刻をt0=20、操作時間Δtをワイヤーに吊るされた荷物の固有周期2πと等しくおくことで、Δt = 2πとし、元の振れ角をθin = θ (t0)、元の角速度をdθin/dt =dθ(t0) /dt= 0.0 、目標の振れ角をθen = θ (t0+Δt)=0、目標の角速度をdθen/dt=dθ(t0+Δt) /dt= 0.0とした.無次元時間における20 < t < 20 + Δtの範囲では、駆動体に(式58)による強制変位を与え、t < 20、t > 20 + Δtの範囲では駆動体の強制変位量を0とした場合について、以下に示す数値計算をおこなった.
初期振れ角がθin =π/20と比較的小さい場合では、図24に示すように静止操作後、振り子はほぼ静止した.一方、図25に示すように、初期振れ角がθin=π/4と比較的大きい場合では、静止操作後、多少振れ角が減少したものの、静止するまでには至らなかった.これは振れ角が大きいほど、振り子の非線形性が顕著となり、振り子の固有周期がΔtからずれたためであると考えられる.
次に制振操作後の振り子の振れ角をθend とし、初期振れ角θin に対する減衰比η = θend/θin を図26に示す.初期振れ角が大きくなるにつれて、減衰効果が失われていく様子が分かる.
次に同条件にて二回続けて制振操作を行った場合の数値計算結果を図27に示す.ここでは初期値をθin= π/4.0、dθin/dt= 0.0、一度目の制振操作における元の振れ角をθin= θ (t0)、元の角速度をdθin/dt= dθ (t0) /dt、二度目の制振操作における元の振れ角をθin = θ (t0+Δt)、元の角速度をdθin/dt= dθ(t0+Δt)/dtとした.一度の制振操作では静止しきれなかった図25に対し、二度の静止操作を行った図27では十分に静止できていることが分かる.
次に制振操作をする際、操作開始時の制御側が想定した元の振れ角であるθinと、実際の振れ角θ (t0)とずれた場合について、系の挙動を数値計算を用いて観察する.実際の振れ角である初期振れ角がθ (t0) であり、想定した元の振れ角である適切振れ角がθinであった場合の減衰比η = θen/θ (t0)の関係を図28に示す.
適切振れ角と初期振れ角が同じ大きさのとき、最も減衰されていることが分かる.また、初期振れ角が適切振れ角より多少前後しても減衰比は小さく、十分に減衰されることが分かる.一方、初期振れ角が適切振れ角よりも十分に大きい場合、十分な減衰効果は得られないが、少なくとも初期振れ角よりも大きくなることはない.しかしながら、初期振れ角が適切振れ角よりも十分に小さい場合、初期振れ角よりも大きくなる場合があることが分かる.
他方、振り子においては、その非線形性によって現れる振幅による固有周期の変化は、完全楕円積分を使った関数で表されることが古くから知られている.微小振幅における固有周期が2πの振り子の固有周期は、級数解として以下の(式61)で表され(戸田盛和、楕円関数入門、日本評論社)、θmax=50°では5%、θmax=90°では18%ものずれが現れる.
そこで、(式58)の式における固有周期2πを(式61)のT(θav)で補正することとし、以下の(式62)ように強制角変位関数Θ’(t0+t'、θav)を定義しなおす.ここでω+’とω-’は、(式63)と(式64)に示すように、操作時の平均の振れ角がθavであった時の前記二体連成振動系の二つの固有角振動数のω+とω-の補正値である.
(式62)に示される式を用いてθmax=57°で揺れているクレーンを止めたところ、残留振動なく振り子は停止した.
他方、クレーンは、ワイヤーの長さlを変化させながら運転されることが多い.各時刻におけるワイヤーの長さを(式61)に代入することにより、その時々の振り子の固有周期が求められ、これにより定められた(式62)の強制角変位関数Θ’(t0+t'、θav)を用いて定まるトロリーの加速度を用いてクレーンを操作することにより、残留振動を抑えることができる.
荷物の位置を下げ、ワイヤーを長くさせながら運転した場合には、コリオリ力が粘性減衰として働くことから、揺れはより収まる.しかし、荷物の位置を上げ、ワイヤーを短くさせながら運転した場合には、コリオリ力が加振として働くことから、揺れは収まりにくくなる.そのため本関数にはさらなる工夫が必要となる.
前述したように該操作時間をΔt=0.9πとして加振操作をおこない、その直後、該操作時間をΔt=1.23πとして減振操作をおこなうことで、振れ角を0に近づける制振操作が可能となる.ワイヤーが触れない場合、コリオリ力が影響しないことから、ワイヤーの長さを変化させる場合には、その前に制振操作を入れることで、より精度の良い天井クレーン操作が可能となる.
振り子の場合、上記のような該操作時間を限定した制振操作や、固有周期の解を用いた補正は、他の振動操作関数においても有用である.
一方、工場の流れ作業等で、荷物の揺れの振幅がある程度決まっている場合には、ワイヤーの根元に掛ける強制変位を2次元の板カムによって作成することもできる.以下では、図8に示すような軌道制御装置Aによって振動制御を行った実施例を示す.
本装置においては、加速度センサーからの信号から特定の位置を検出して、カムを起動させる.今回の強制変位関数X(t0+t')から計算したカムの形状の例を図29に示す.
ここでは角振動数パラメーターをα1=1、αp≠1=0とし、Xin=X(t0) = 0.0、Vin=V(t0) = 0.0とする.元の振れ角をθin = θ(t0) = 1.0、元の角速度をdθin/dt =dθ(t0) /dt= 0.0 、目標の振れ角をθen = θ(t0+Δt)=0、目標の角速度をdθen/dt=dθ(t0+Δt) /dt= 0.0とした.図29中の黒点はカムの回転中心を、×点はカムの静止操作開始時の位置を示す.このカムの一回転により、カムフォロアに(式58)の強制変位が生じる.カムの回転開始角度と振動の位相を同期させ、カムの回転周期とワイヤーに吊るされた荷物の操作時間を合わせることにより、強制変位は振動を低減させることができる.
このカムを従来の柔軟構造物の根元、あるいは天井クレーンに取り付けることで、機械構造を大きく変えることなく、所定の操作時間での系の制振の実現が期待できる.ただし、本制振手法では制振対象の状態が限られる.そのため、カムを用いて制振操作を行う場合、制振対象に発生する揺れの大きさが毎回一定となるようにする、カムを複数取り付ける、複数の制振操作パターンを一つのカムで行う等の工夫が必要となる.
(式58)の角度・角速度を操作する強制角変位関数Θが示す通り、荷物が真下を通る(θin =0)瞬間を操作開始時間とする場合、カムの変位量は、操作開始時間の角速度dθin/dtに比例する.図9のような装置を用いて、カムの変位量を移動可能な梃子で調整出来れば、カムの回転周期を天井クレーンの操作時間に合わせて回転させることで、様々な振幅の揺れを停止させる機構が可能となる.カムの代わりに一軸アクチュエータを用いれば、任意の揺れに対応可能なことはもちろんである.
今回、図7〜図9に示すような軌道制御装置Aに対して示した制振技術は、建設用クレーンや鋳物工場での熔湯の運搬機械、ロボットアームでも応用可能である.またハードディスクのアームにおいても、先端に位置と速度は装置自体が検出可能であることから、シーク後の残留振動を同様に減少させることが可能となる.また露光装置においても、精密ステージ搭載部の残留振動を低減させるのに使用することができる.
これらの応用においても、第二支持体に相当するものばかりではなく、第一支持体における物体の速度や位置を検出する必要がある.
位置や速度の検出や、制御量の計算などには時間を要することから、センサーによる計測自身は、所定の操作時間以上のサンプリング速度で、高速に多数のデータを解析し、モデル計算を行うなどして、基準となる時刻の速度や位置を前もって推定するような工夫をすることが好ましい.
次に、図7に示すような軌道制御装置Aによって振動制御を行った実施例を説明するために、導出した強制変位関数X(t0+t')を建物の制振法に応用する例について述べる.特に長周期地震動や強風により大きな揺れが生じる高層建築物を例に説明する.
本発明では、例として、既に提案され、実施例もある集積ゴムや滑り支承等の免震支承体の上に建てられた高層建築物の土台と地面を油圧アクチュエータで水平方向に強制変位させることができる装置を用いる(吉田治、蔭山満、佐野剛志、遠藤文明、渡辺哲巳、勝俣英雄、スーパーアクティブ制震「ラピュタ2D」、大林組技術研究所報、No.74. 2010、pp. 1-8).アクチュエータは建物の周囲のそれぞれの面に取り付けることにより、任意の方向からの揺れに対応して強制変位を掛けることが可能となる.
まさに地震を受けている瞬間においは、不規則強制力が入っていることから、本発明以上に特別な工夫が必要となる.しかしながら、地震を受けている瞬間においても、免震装置を組み込んだ建物の揺れの多くは、地震動によって蓄積された片持ち梁としての1次モードの振動であることから、本発明はある程度有効であると考えられる.また地震動等が終わった後に残る残留振動を消す方法としては十分に効力を発揮するものと考えられる.また強風による揺れは、加振が蓄積されて起こるものであることから、本発明は同様に有効であると考えられる.
本発明を実行するには、揺れを制御し始める瞬間の建物のモード質量の位置と速度を推定しなければならない.そのためセンサーは、建物のいくつかの階層とに取り付けられた加速度もしくは速度もしくは位置センサー11abを用いる.また建物の免震支承体上に加速度もしくは速度もしくは位置センサー11aaを取り付ける.これにより制振装置は図30のように表される.
建物に残る残留振動の多くが建物を片持ち梁とした際の1次モードの振動であることから、建物の最上階に加速度センサーやGPSによる高感度位置センサーを取り付けると良い.もしくは建物上部の映像を外部から映すことで、その位置変化を画像処理によりリアルタイムで計測するシステムを用いても良い.建物の固有周期が数秒であることから、速い計測ができるシステムであれば対応できるであろうし、同じ周期による振動が繰り返されることから、正確に予測することも可能と考えられる.
次の時刻における特定の方向の片持ち梁としての建物の位置や速度が推定されたところで、DSPにより振動を抑えるような条件で強制変位関数X(t0+t')を計算し、この方向に沿うように油圧アクチュエータ42を駆動させる.所定の操作時間ごとにこれを繰り返すサンプル制御をおこない、振幅が0となるまで続ける.油圧の大きさが小さくても、油圧による強制変位は、振動を抑える方向に働くことから、毎前記操作時間ごとに繰り返すことで建物の振動は収まる方向に働く.これを任意の方向について行うことにより、任意の方向からの地震や強風に対して建物の揺れを抑えることができる.
その際、油圧アクチュエータ等の強制変位量や速度がどれほどであるかについても、例えば位置や速度を推定できるセンサー11aaを免震支承体上に取り付けて測定する.
建物の残留振動は、比較的単純であることから、それを低減させるための強制変位は同じカム曲線で設計できる.そのためDSP等の高度な計算装置を使わなくても、カムと梃子の機械機構でも作製することができる(図8).カムの回転開始角度と振動の位相を同期させ、カムの回転速度と振動の操作時間を合わせることにより、強制変位は振動を低減させることができる.一方、梃子を利用することにより、カムの大きな変位を小さくして、逆に強制力を多くすることもできることから、一般のモーターやエンジンを使っても、建物の揺れを抑えることが可能となる.また建物に電流を流す主電源線を建物の基礎部に固定し、主電源線の周囲の磁場を変化させることでローレンツ力を発生させ、建物の基礎部に所定の強制変位を与えることで、建物の揺れを抑えることが可能となる.
例えば、高層建築物が減衰の少ない梁でモデル化されたとして、主となる1次のモードの固有周期が2πであった場合、これに阪神大震災と同じ揺れ(図65)が襲った時の建物のモード質量の揺れをシミュレーションしてみると、図66のようになる.
地震が始まってから固有周期後に油圧アクチュエータが動き出したとして、建物の免震支承体の直上に強制変位関数X(t0+t')を与えて、建物の揺れを抑えるように操作時間が固有周期となるようにサンプル値制御してみたところ、同じ地震が襲った建物のモード質量の揺れは、図67のように小さくなることが分かる.
この際、第二支持体であるビルのモード質量の位置とモード質量の速度を計測もしくは推定するのにかかる時間と強制変位関数X(t0+t')を算出する時間とアクチュエータが対応して動くまでの時間の和であるタイムラグを考慮して、毎回制御を始める所定の操作時間のタイムラグ以上前に、ビルのモード質量の位置と速度を測定始める必要がある.通常のビルの固有周期が数秒であるのに対し、タイムラグは、十分小さく抑えられるものと考えられる.
また、こうして測定した位置と速度の値を元に、所定の操作時間後のビルのモード質量の位置が釣り合い位置に、モード質量の速度が0になるように、目標値(第二支持体の目標一般化座標と第二支持体の目標一般化速度)を定めて、強制変位関数X(t0+t')を算出する.こうして求めた値を元にアクチュエータを動かしてビルの免震支承体の上に強制変位を入れることで、振動の制御をおこなう.
毎回の所定の操作時間毎に、ビルのモード質量の位置とモード質量の速度を計測し、これを目標値と比較し、そのずれを無くすように、次の操作時間において、再びビルに強制変位によるフィードフォワード制御をおこなう.これを繰り返すことによって、ずれを次第に小さくすることができる.この様子を図68に示す.
この制御は、所定の操作時間間内においては、フィードフォワード制御であるものの、各前記操作時間での各基準時刻に算出される強制変位関数X(t0+t')は、目標値と実際の値のずれを小さくするように補正を受けることから、フィードバック制御となっている.決められた一定時間でフィードバック制御をおこなうことから、サンプル値制御の一種ではあるが、各時間間隔内にフィードフォワード的な制御をおこなうことや、振動操作関数が被制御体の特徴(固有周期)から決まることが、従来の技術にはなく新しい.
本装置においては、各瞬間の地震の加速度を考慮することなく、建物の揺れだけを測定してサンプル値制御するだけで良いことから、従来の地震動を打ち消す方向で働かせるアクティブ制振で問題となった位相のずれによる加振の心配が起こらない.
また強制変位関数X(t0+t')は、どんなに小さくとも揺れを抑える方向に働くことから、強制変位を与えるアクチュエータの出力が小さい場合においても、地震の大きさに関わらず、制振効果が得られる.これは従来のアクティブ制振には見られなかった特徴である.但し、制振にかかる時間は長くなることは免れない.
一方、最近問題となっている高層建築の風による揺れは、弱い風の力が積分されて、大きな建物の揺れとなっていることから、今回のサンプル値制御を常時働かせることで、僅かな強制変位量でも揺れを小さく抑えることができ、住人に快適な居住環境を提供することができる.
原油の大型タンクにおいても積層ゴムや滑り支承等の免震支承体40の上にタンクの基礎を設置することで、水平方向の位置の変化が可能となる.タンクの基礎と地面との間に、原油タンクを取り囲むように数台の油圧アクチュエータ42を設置することで、任意の方向における基礎部分の強制変位が可能となる(図31).もしくは前記のカムと梃子の機械機構でも可能である.
大型タンクに入れられた原油のスロッシングは、後に述べるように、容器に入れた液体のスロッシングと等価であり、振り子の揺れに近似できることから、クレーンの制振と同じ強制変位関数X(t0+t')を用いることができる.
大型タンクの液面の揺れは、タンク上面の周囲数か所に取り付けた液面計44でも良いし、タンクの底の周囲数か所に取り付けた液圧計でも良い.地震があった場合、これらのセンサーの変化に同期させて、所定の強制変位関数X(t0+t')に合わせて、原油タンクの基礎を水平方向に強制変位させることにより、タンク内部の液体のスロシングは減少する.
その際、強制変位させるタンクの底面にも同様に位置・速度センサー11を取り付け、所定の操作時間毎の位置や速度を測定もしくは推定させる.
または、地震があった場合、これらのセンサーの変化に同期させて、所定の強制変位関数X(t0+t')の二階時間積分に合わせて、原油タンクの基礎を水平方向に強制変位させることにより、タンク内部の液体のスロシングは減少する.後者の方が、精度が高いことから、より良い結果が得られる.
さらに、スロッシング量に合わせて、クレーン同様、振り子の固有周期の非線形性による、固有周期の補正を行った(式62)の強制角変位関数Θ(t0+t')の二階時間積分から求めた加速度関数に合わせて、原油タンクの基礎を水平方向に強制変位させることにより、タンク内部の液体のスロシングはさらに減少する.
次に図7に示すような軌道制御装置Aを高架送電線の水平方向の揺れの抑制によるギャロッピング防止に応用した場合について考察する.高架送電線は、二支点間に張られた架空索条であり、静止状態における形状は懸垂線となる.ケーブルの高圧鉄塔接続部と懸垂線の最下部との高さの差をD、高圧鉄塔間の距離を2l、重力加速度をgとすると、架空索条の1次固有角振動数ωcは、以下の(式65)
で表されることが知られており(荒木謙一、2支柱間に張られた架空索条の固有撓み振動について‐1‐、土木学会論文集、 vol. 6、 1951-8、 pp. 53-57)、クレーンと同じ一定の柄の長さを持つ振り子として扱うことができる.よって、振り子の根元である高圧鉄塔におけるケーブル接続部を碍子によって吊り下げられた可動部として、(式3)の外力関数FIIp(t0+t')に従ってケーブル接続部に外力を与えるなり、(式58)の強制角変位関数Θ(t0+t')に従って強制変位の加速度を与えるなりすることにより、ケーブルの揺れを制振させることができる.
ギャロッピング防止に応用した例を図32〜図37に示す.図32〜図34では、各高架鉄塔に掛かる送電線が各鉄塔で固定された場合について述べる.
高架鉄塔46に掛かる各送電線49一本ずつの碍子57、もしくは碍子付近に接続部を設ける.この接続部の両側から張力用のロープ50をそれぞれの方向に1本ずつ伸ばし、高架鉄塔46の各支柱47に固定する.ロープは絶縁体とするか、碍子を介して絶縁する.この際、張力の変動を保証するバネ等を介すると良い.
高架鉄塔に掛かる各送電線49一本ずつには、揺れの位置と速度を測るセンサー11cbを取り付ける.センサーに加速度センサーなどを用いれば、安価であり、位置や速度を推定することもできる.センサーの情報は、接続部の強制変位を制御する制御器に情報を送る.
第一支持体である碍子57や接続部の位置や速度の情報も必要であることから、これらの量を推定するセンサー11caも取り付ける必要がある.
高架鉄塔46の支柱47にコントローラー56に接続されたモーター51を置く.モーターには2つのプーリーが接続されており、各プーリーには逆方向にロープ1本ずつ固定されており、回転により一方の長さが長くなると、もう一方は短くなる.
また送電線の位置や速度、モードの違いを測るために、送電線の中央と1/4、3/4長さの位置に速度センサーまたは加速度センサー11cbを取り付ける.これらの値を無線で両側の高架鉄塔にある制御装置に送る.
両高架鉄塔にある制御装置は、センサーにより送電線の揺れを感知した際、接続された碍子を同時に(式58)で示された強制角変位関数Θ(t0+t')に従って強制変位させる.位置の変化量はセンサーからの送電線の位置や速度の値により決定する.また振動子の固有周波数は送電線の固有周波数と同じにする.強制変位は、揺らす側のロープを引っ張り、反対側を緩めることによる実施する.これにより、送電線の揺れが低減される.
送電線は、高圧線ほど、スパンの長い分布定数振動系であり、単純な1次モードの他、風によっては2次モードなどが立ち得る.モードの異なる送電線の揺れを止めるには、固有周波数をそれぞれのモードのものに一致させ、両鉄塔で位相が異なる操作をする必要のあることから注意が必要である.
一般にギャロッピングは、急に生じるものではなく、徐々に大きくなっていく横揺れが成長して、やがて縦揺れへと変化するものである.本手法により、僅かな横揺れでも、発生時に低減させることができることから、ギャロッピングの発生を防ぐことができる.毎回の小さな揺れを消すので、 ロープを引っ張るモーターの出力はそれほど大きなものは必要がない.
また各送電線はスペーサー等で接続されていない限り、同じ揺れを示すとは限らないので、各線ごとに制御する必要がある.逆に3本なり、6本なりがスペーサー等で結合された送電線の場合は、同じ揺れを示すことから、まとめて制御することが可能であろう.
次に本発明を高架送電線の水平方向の揺れの抑制によるギャロッピング防止に応用した別の例を図35〜37に示す.電線の位置や速度、モードの違いを測るために取り付けた速度センサーまたは加速度センサーは先の例と同じである.
ここでは、各高架鉄塔に掛かる送電線が各鉄塔から吊り下げられた可動な碍子57によって固定された場合について述べる.鉄塔から2本の碍子57を離して、送電線を吊り下げる.日本の碍子間の送電線は余裕を持たせることにより、各鉄塔間の送電線の水平方向の位置の変化量は独立に制御することができる(図35).
各碍子に接続部を設け、この接続部を高架鉄塔の支柱に取り付けられた一次元アクチュエータと接続し、駆動させる(図36).
もしくは碍子の上下部にコイル60を取り付け、これに電流を流すことで電磁石とし、この電流値を送電線の電流と同期させて商用周波数で変化させることにより、ローレンツ力で加振させることもできる(図37).その際、碍子に取り付けられた送電線の位置の変化量をセンサー11caで監視して制御する必要がある.
交流の流れる送電線に適切にローレンツ力を働かせるには、同じ商業周波数の交流磁場を適切な位相で与える必要があるが、送電線からとった商業電流の位相を修正するなり、商業電流をブリッジダイオードなどで整流化して、商業周波数でスイッチングするなりの工夫が必要となる.
両高架鉄塔にある制御装置は、センサー11caおよび11cbにより送電線の揺れを感知した際、所定の操作時間毎の送電線の状態に合わせて変化する(式3)の外力関数FIIp(t0+t')に従ってコイル60に流す電流量に変調をかけることにより、吊り下げた碍子57を強制変位させる.外力関数FIIp(t0+t')はセンサーからの送電線の位置や速度の値により、振動を低減させるように決定する.本手法により、僅かな横揺れでも、発生時に低減させることができることから、ギャロッピングの発生を防ぐことができる.
本装置においては、各瞬間の風の力を考慮することなく、送電線の揺れだけを測定してサンプル値制御するだけで良い.また外力関数FIIp(t0+t')は、どんなに小さくとも揺れを抑える方向に働くことから、ローレンツ力を与えるコイル60の電流は小さいものでも構わない.但し、制振にかかる時間は長くなることは免れない.よって鉄塔に取り付けた小型風車や太陽電池の出力でコイルの電源を賄うなどの工夫も考えられる.
一方、本装置により、送電線の揺れのエネルギーは、送電線を流れる電気エネルギーに変換される.つまり送電線を揺らす風のエネルギーは、電気エネルギーに変換されることから、本装置が風力発電機となることが分かる.
図69に今回の発電機の原理を示す.この発電機は、軌道制御装置Cによる振動制御機構を利用したもので、固定支持体7cである固定部97に振動自在に第一支持体3cが取り付けられ、第一支持体3cに振動自在に第二支持体1cである外力受け138が取り付けられている.ここでこれらの支持体の振動の方向は一方向に決められており、ここでは上下方向であったとする.
次に、第一支持体3cには、ケーブル等の細長い導電体135が取り付けられており、その電気の流れる方向は、先ほどの振動の方向とは垂直であり、この図の場合、紙に垂直方向に設置され、紙面の表側から裏側に電流iが流れているとする.さらに、第一支持体3cの周囲には、電磁石であるコイル60が取り付けられており、磁場の向きは、先ほどの振動の方向と電流の流れる方向に対して、ともに垂直であるように設置する.この図の場合は、電磁石の磁場の向きは左右方向である.
ここで、第二支持体である振動子が外界からの力を受けやすく作られていたとして、例えば、上下方向を流れる風の力を受けて外力受け138が上下方向に加振されたとすると、これにつられて導電体135が取り付けられた第一支持体3cも上下方向に振動を始める.
いま、この電流iが流れる導電体に磁束密度Bを掛けることにより、フレミングの左手の法則に従って、ローレンツ力FB=i×Bが発生する.この磁束密度Bが一定であった場合、ローレンツ力も一定となる.一方、振動による導電体の速度の向きは、ランダムに正負が切り替わることから、発生する速度起電力も固有周期を中心にランダムに変化することが予想される.商用周波数と異なるランダムな交番電圧は、商用周波数を乱すことから、余り受入れられない.また商用周波数と異なるランダムな交番電圧は電気エネルギーを増加させない.
ところがいま、この第一支持体である導電体に掛かるローレンツ力FBを、電磁石であるコイル60に流す電流を変化させることにより、第二支持体の振動を減少させるように設定した(式3)の外力関数FIIp(t0+t')となるように制御したとすると、外界からの力で加振されていた第二支持体の振動は抑制される.
逆に第二支持体1cである外力受け138の振動により第一支持体3cである導電体135が上向きに速度vで動いていたとする.さらにこの導電体に対して磁場Bが左から右に掛けられていたとする.すると、フレミングの右手の法則により、紙面の表側から裏側の方向にv×B=Eで表される速度起電力による電圧が発生する. これにより単位時間当たり、P=iE=ivBの電力が発電される.この値はローレンツ力下で導電体135が速度vで動くに発生する仕事であるP=vFB=viBに等しいことから、導電体135がする力学的仕事が発電に使われることが分かる.これにより振動のエネルギーは効率的に電気エネルギーへと変化し、速度起電力の向きは電流と同じ方向に流れることから、本手法による発電が可能となる.
本手法による発電は、ランダムな波や風等の自然エネルギーによる加振からエネルギーを取る場合は、送電網に時間的変動を与えることから、これを平滑化する必要がある.長い導電体に沿って多数の本振動発電装置を取り付けることにより、平均化され、時間的な変動が小さくなるものと期待される.また本手法による発電は、導電体135が動かない場合は発電できないことから、大きな自然エネルギーが期待できない場合は、磁場を発生させる電磁石の電源92を切ることにより、エネルギー損失を防ぐことができる.本手法におけるエネルギーロスの大半は電磁石の銅損と鉄損であることから、ここでの電力ロス以上の発電が期待できる場合に、本装置を起動させれば、波力発電や風力発電が可能となる.
外力関数FIIp(t0+t')を制御するには、第一支持体および第二支持体にセンサー11ca、11cbをそれぞれに取り付け、それらの位置や速度を測定し、そのデータを基に、第二支持体の固有周期毎にサンプル値制御を用いることができる.またローレンツ力は電流によって変化することから、導電体に流す電流を測るセンサー136も必要となる.
一方、本原理を図37に示した送電線からなる軌道制御装置Cに応用した場合は、外力受け138である第二支持体1cは、高圧鉄塔46間を結ぶ送電線49そのものとなり、第一支持体3cは、碍子57によって吊るされた、コイル60の磁場を受ける領域の送電線の一部49となる.導電体49が送電線のように予め商用電流が流れていた場合には、周囲の磁場と電流に対して、働くローレンツ力が、送電線の振動であるギャロッピングを減少させるように働かせればよく、丁度前述した送電線のギャロッピング低減装置が、風のエネルギーを電気に変える風力発電機の作用も持っていたことが分かる.この場合、送電線49そのものが送電機構を担うことから、コストを大幅に削減できるなどのメリットがある.
この際、増加する電流量は失われる揺れのエネルギーに等しいことから、送電線の固有周期で電流が変調される危険性がある.一般に高圧送電線は、数百kmに渡って伸び、その間を流れる風の強弱は平均化されることから、本装置を高圧送電線の置かれる広範囲な領域に設置できれば、加えられる電力の位相の乱れは大きくはならないものと予想される.
また本装置の主たる目的を風力発電機とする場合には、送電線に流す電流を直流とすることにより、コイルに流す電流を交流とする必要がなくなり、より簡便となる.これを直流送電線に利用すれば、磁場を商用周波数で変化させる必要もなくなり、海峡を渡る風の自然エネルギーを効率よく集めることも期待される.
この場合、さらに送電線の周りに風受け等を取り付けることにより、より多くの風のエネルギーを利用することが可能となる.本手法は、既存の送電線に使われている高架鉄塔を支柱として用いることができ、また既存の送電線を電力網との接続に用いることができることから、設置も安くすむ.
加えて、本手法は、風の抗力によって加振される振動エネルギーを全て電力に変えることができることから、効率も良い.さらに、高圧鉄塔間のスパンは1kmにも及ぶことから、送電線に数cmの風受けを付けることで、一スパン当たり、大型風車と同様な面積の風を受けることが理論上可能となる.
一方、本手法は、波力発電に応用することもできる.図91に本装置を用いた波力発電の概念図を示す.海の波160は振り子型の波力受け159にある周期幅で当たり、波力受けの振動は導電体135を揺らす.導電体には上下方向にコイル60からなる電磁石が設置されており、制御器83によって制御された電源92から適切な電流を流すことにより、ローレンツ力が外力関数FIIp(t0+t')に従うように、上下方向に所定の磁束密度Bを与える.この際、外力関数FIIp(t0+t')は、位置・速度センサー11caで得た波力受けや導電体の位置や速度の情報によって決定される.
これにより波力によって生じた導電体の運動エネルギーは、 導電体を通して電気エネルギーに変換される.波力エネルギーは海岸線1m当たり平均7kWであることから、海岸1kmにこの装置を500台設置することで、1kmの海岸線当たり1MWの発電が期待される.装置自体に機械部を多く用いず、構造が簡単であることから、1基当たりのコストは50万円程度でできることから、発電コストは1kWh当たり10円以下となり、波による耐久性も高いと期待される.図92に本波力発電装置を海岸線に並べて使用した際のイメージ図を示す.
他方、軌道制御装置Dによる振動制御機構を利用することによっても、同様の振動発電を可能にする.図93に今回の発電機の原理を示す.この発電機は、軌道制御装置Dによる振動制御機構を利用したもので、固定支持体7dである固定部97に振動自在に第二支持体1dである外力受け138が取り付けられている.ここでこれらの支持体の振動の方向は一方向に決められており、ここでは上下方向であったとする.
次に、第二支持体1dには、ケーブル等の細長い導電体135が取り付けられており、その電気の流れる方向は、先ほどの振動の方向とは垂直であり、この図の場合、紙に垂直方向に設置され、紙面の表側から裏側に電流iが流れているとする.さらに、第二支持体1dの周囲には、電磁石であるコイル60が取り付けられており、磁場の向きは、先ほどの振動の方向と電流の流れる方向に対して、ともに垂直であるように設置する.この図の場合は、電磁石の磁場の向きは左右方向である.
ここで、第二支持体である振動子が外界からの力を受けやすく作られていたとして、例えば、上下方向を流れる風の力を受けて上下方向に加振されたとすると、これにつられて導電体135も上下方向に振動を始める.
いま、この電流iが流れる導電体に磁束密度Bを掛けることにより、フレミングの左手の法則に従って、ローレンツ力FB=i×Bが発生する.この磁束密度Bが一定であった場合、ローレンツ力も一定となる.一方、振動による導電体の速度の向きは、ランダムに正負が切り替わることから、発生する速度起電力も固有周期を中心にランダムに変化することが予想される.商用周波数と異なるランダムな交番電圧は、商用周波数を乱すことから、余り受入れられない.また商用周波数と異なるランダムな交番電圧は電気エネルギーを増加させない.
ところがいま、この第一支持体である導電体に掛かるローレンツ力FBを、電磁石であるコイル60に流す電流を変化させることにより、第二支持体の振動を減少させるように設定した(式5)の外力関数FIV(t0+t')となるように制御したとすると、外界からの力で加振されていた第二支持体の振動は抑制される.
この際、第二支持体1dである外力受け138には、位置・速度センサー137が取り付けられており、所定の操作時間毎のこれらの値から、外力関数FIV(t0+t')を用いて計算することで、外力受け138を制振させるのに適切な外力が定まる.
逆に第二支持体1dである外力受け138の振動により導電体135が上向きに速度vで動いていたとする.さらにこの導電体に対して磁場Bが左から右に掛けられていたとする.すると、フレミングの右手の法則により、紙面の表側から裏側の方向にv×B=Eで表される速度起電力による電圧が発生する. これにより単位時間当たり、P=iE=ivBの電力が発電される.この値はローレンツ力下で導電体135が速度vで動くに発生する仕事であるP=vFB=viBに等しいことから、導電体135がする力学的仕事が発電に使われることが分かる.これにより振動のエネルギーは効率的に電気エネルギーへと変化し、速度起電力の向きは電流と同じ方向に流れることから、本手法による発電が可能となる.
次に図8に示すような軌道制御装置Aを大電流用のリレーに応用した例を示す.従来の電磁リレーは、電磁石のON、OFFにより、単振動子や片持ち梁からなる可動電極板71を端子電極72に接触させるか離すかによって、電気的な接続の切り替えを行うことができる.近年は、半導体素子による電子スイッチも存在するが、内部抵抗が小さいことから、大電流や電圧の損失を気にする用途には重要な素子である.
一方、従来の電磁リレーは、可動電極板71が端子電極72に衝突する際、過度な速度でぶつかることから、簡単には静止せず、数度のチャタリングを起こして止まる.そのため電極の遊離の際に放電が生じ、接触抵抗を減らす電極のコーティングを飛ばしてしまう.そのため、大電流のリレーほど、チャタリングによる電気的な劣化が激しく、製品に必要な回数の耐久性を保つことができない.
そこで電磁リレーの電極板71の根元を円板カムで移動させることにより、本発明による(式1)や(式53)で示された強制変位関数X(t0+t')に従って電磁板先端の衝突位置や衝突速度を任意に制御することが可能になる.こうしてできた大電流用のリレーの該略図を図38に示す.第一支持体3aに相当する可動体であるカムフォロア67は1軸レール66の上に乗っており、圧縮用バネ64によってカム68に押し付けられている.カム68はモーター70によって回転できるようになっており、外部の信号を受けて半回転する.カムフォロア67にはバネ2aを介して第二支持体1aに対応する可動電極71が付けられており、カム68が半回転することにより上部にあった可動電極71は下がり、真下にある二つの端子電極72を接続し、ONの状態となる.またさらにカム68が半回転することにより、下部にあった可動電極71は上部へと移動し、真下の端子電極72は接続を失うことから、OFFの状態となる.可動電極とカムフォロアの位置や速度を測るために位置・速度センサー11ab、11aaがそれぞれ取り付けられているが、電磁リレーの場合、これらの動きは大きく変化しないことから、必ずしも必要としない。
一方の電極に接続するために必要なカム68の回転時間を可動電極板71の移動時間と同じとすることで、最速な電極の切り替えが可能となる.カム68の回転時間を電極板の操作時間と同じとすることで実現する最速な可動電極71の位置の移動の様子は図18に等しい.停止していた可動電極が移動し、速度0でゆっくりと逆の電力に接触する様子が分かる.接触時の速度が0となることから、衝突時の反発によるチャタリングが発生せず、電極の消耗も生じないものと期待される.
また衝突後、バネ2aを釣り合い位置よりもやや押し込むことにより、一定の弾性的な接触力で電極を接続できる.その際、上記で設定したカム68の回転角度をπよりも小さくし、残りを押し込みのために作動させると良い.
次に図7に示すような軌道制御装置Aを自動ドアに応用した例を示す.一般に従来の自動ドアは、ドアと駆動装置が直接に接続されており、その間に弾性的な緩衝材は存在しない.そのためドアが何かを挟んだ場合、衝撃が強く危険である.
本発明では、図39の該略図に示すように第二支持体1aである自動ドア73と第一支持体3aである駆動装置76の間にバネ2a等の弾性体を挟んで接続する.ドアは極力、移動時の摩擦抵抗を少なくするように天井のレール77に車輪を使って接続し吊るす.駆動装置76は、制御装置10aからの信号により、任意の強制変位が掛けられるようにする.ドア73とバネ2aは一つの振動子を形作り、駆動装置76は車輪を回転させて、強制変位を生む.
本発明による(式1)や(式53)で示された強制変位関数X(t0+t')に従って駆動装置76を動かすことにより、ドア73の先端位置は、各所定の操作時間で任意の位置と速度を持つことができる.また移動時のドアに発生する振動を減衰させることもできる.これにより、ドアをバネで接続しているにも拘らず、一定の速度でドアを開け閉めすることも、残留振動なくドアを停止させることもできる.最近の自動ドアに多用されているように、閉まる際に一度途中で停止させてゆっくりと閉める動作もスムーズに行うことができる.
バネ2aで接続されているにも拘らず、ドアは、ほぼ速度0でゆっくりと閉まり、閉じた際の衝撃を生まないように駆動できる.そして何よりも、バネ定数を十分に小さくすることで、ドアに手が挟まっても、怪我をすることがなくなり、フェールセーフな安全機能の付いた自動ドアが実現する.
一度閉まった後で、時間をおいてさらに駆動部でバネを押し込むことで、固く閉まったドアも実現できる.定常時のドアの開閉速度を一定とすることで、ドア自身の速度を検出する必要もなくなり、カムによる振動抑制装置も可能になる.
この自動ドアの応用においても、例えばドア本体の速度や位置、また駆動部の速度や位置を測るセンサーを取り付けて、前記操作時間毎にこれらの値を算出する.
次に図7や図8に示すような軌道制御装置Aを衝突機械に応用した例を示す.衝突機械の例として、精密プレス加工を考える.試料である金属の薄板は、金型を打ち付けられることにより、切り抜かれ、特定の形状に仕上がる.
ここでは、本発明を実現するために、図40に示すような概要を持った機械を考える.この機械は、ハンマーもしくは金型79が弾性体であるバネ2aに吊るされており、このバネの根元の支持台80は、一軸アクチュエータ8aに電源84やコントローラー83を使って任意の強制変位を与えられるように作られている.バネの根元の支持台80が一軸アクチュエータ8aにより強制変位することにより、ハンマーもしくは金型79が振動し、被加工材78に衝突し、加工がおこなわれる.衝突時のハンマーもしくは金型79の位置と速度は、センサー11abにより監視されている.ハンマーもしくは金型79に対する一次元アクチュエータ8aの位置は、上下が反転した形でも構わない.
本発明による(式1)や(式53)で示された強制変位関数X(t0+t')に従ってバネの根元の支持台を動かすことにより、ハンマーもしくは金型を任意の衝突位置、任意の衝突速度で試料に衝突させることができる.加工に伴い被加工材の位置が変位することから、その変位に従って強制変位関数X(t0+t')を変化させることにより対応できる.また強制変位関数X(t0+t')によって、毎回の衝突速度を変化させることができることから、可変的な衝突加工が可能となる.
加工位置や加工量が可変であることから、サーボプレスと同様な加工が本機械によって可能となる.ただし、サーボプレスのような、フィードバックを前提としたサーボモーターは必要なく、あくまでもフィードフォワードな制御であり、安価なシステムで機械を構築することができる.
自動搬送される金属板に、同様な加工を繰り返したい場合には、一軸アクチュエータ8aの代わりにカムを利用することができる.
この加工機械の応用においても、例えばハンマーもしくは金型の速度や位置を測るセンサー11abや支持台の速度や位置を測るセンサー11aaを取り付けて、所定の操作時間毎にこれらの値を算出する.
次に図7に示すような軌道制御装置Aを用いて振動子を使った表示機に応用した例を示す.表示機は、土台に取り付け磁石等を用いた固定部94と電池ボックス95、制御器兼通信装置93および電源92があり、土台の上に支持台91と取付金具88が乗っている.また駆動部固定部と振動子接続部の間に圧電素子等の駆動部90がある.電子ボックスを太陽電池95に取りかえることにより、電池の交換の心配なく振動子を使った表示機を動かし続けることができる(図41).
固定部94は例えば、Nd磁石であり、強力な磁場により鉄等の強磁性体に取り付けられる.取付金具88は、数mmから十数ミリ長さ、φサブミリ程度のリン青銅の棒であり、先端には振り子を吊り下げられるようなひっかけ部が取り付けられている.支持台91は土台から伸びた十分に厚い剛体であり、この中を駆動部の配線が通るようになっている.駆動部90は、駆動部固定部に固定された例えば積層圧電素子等の1次元アクチュエータであり、両端に制御回路からの電圧を印加することにより、ミクロンオーダーで伸び縮みする.駆動部の他端は、取付金具の棒に弾性的に圧縮応力が掛けられており、駆動部の変位により取付金具先端のひっかけ部が強制変位を受ける.
取付金具に振り子のひもを通して固定し、看板86を逆さに吊り下げることにより、看板を揺らすことのできる表示機器となる(図41).また取付金具に細いロッドを通すことにより、垂直に立てられた片持ち梁上の看板86が揺れる振動表示機にもなりうる(図42).
圧電素子にはヒステリシスが存在するが、圧縮応力が付与されていることから、位置の変化の再現性は良い.圧電素子の位置の変化量と付加電圧の関係を予め得ておくことにより、目的の強制変位関数X(t0+t')に沿った強制変位を与えることができる.
また圧電素子は、付加された応力に比例して電圧を発生させることから、振動子の加速度センサー11abとしても働く.圧電素子につなぐ配線を半導体スイッチで切り替えることにより、交互にセンサーと駆動系に切り替えることができる.こうして得られた振動子のタイミングに合わせて、圧電素子を伸び縮みさせれば、振動子は加振することも、制振することも可能となる.これにより従来の駆動装置よりも極めて小さなシステムで、振動子を揺らしたり静止させたりすることができる.
通信装置93に他の機器からの信号線を接続することにより、外部からの信号に応じて、振動子を振動させたり、また静止させたりすることができる.制振制御をおこなうことで、外乱による振動子の揺れをすぐに抑えることができ、情報の誤りを防ぐことができる.
一方、通信装置93にBlueTooth(登録商標)等の信号を受信できる無線回路を使うことで、外部からの無線信号に応じて、振動子を振動させたり、また静止させたりすることができる.
例えば、携帯からの無線信号を受信して、携帯ストラップの揺れを自由に制御できれば、ストラップの揺れが電話やメールの着信を知らせることができる.
また例えば、バックミラーの両側に二つの振り子をそれぞれ吊り下げて、車載のナビゲーションシステムからの無線信号に応じて、それぞれの振り子の揺れを自由に制御できれば、ナビゲーションの地図を確認することなく、正面を向いたまま、曲がる方向を知ることができる.また揺れの振幅で曲がるまでの距離を表すこともできる.
また例えば、大型ショッピングセンターの売り場の天井に吊り下げられた表示板に応用することができる.端末機やWeb上からお客が商品名を入力することで、特定の表示板を揺らす無線信号を出せば、特定の商品がある場所の表示板を揺らすことができ、お客を適切な場所まで誘導することができる.
また例えば、バネ性の良い金属線の先端に広告を取り付け、これを任意に揺らせば、小さな場所にも設置可能なムービングディスプレーを実現できる.
さらに例えば、この表示機の振り子を使えば、広げた紙の特定の位置で振り子を大きく振らせ、また他の位置で停止させることができる.これによりダウジングと呼ばれる占い振り子を真似したゲームを作成することができる.
これらムービングディスプレーの応用においても、例えばディスプレー本体の速度や位置、また駆動部の速度や位置を測るセンサーを取り付けて、所定の操作時間毎にこれらの値を算出する.
次に(式1)に示した強制変位関数X(t0+t')を用いて、カム曲線の導出に応用した例を示す.図8に示すような軌道制御装置Aにおいて、振動子の質量を静止状態から一定距離位置を変化させて静止させ、再び同じ距離戻して静止させる際に、残留振動を生じさせないカム曲線の例を図43に、これによって設計された2次元の板カムのプロファイルを図44に示す.図44中の原点はカムの回転中心を表わす.ここでは角振動数パラメーターをα1=1、αp≠1=0とし、Xin=X(t0) = 0.0、Vin=V(t0) = 0.0とする.最初の位置の変化において、元の振動子の質量の位置をxin = x1(t0) = 0.0、元の振動子の速度をxin =x1(t0) = 0.0 、目標の振動子の質量の位置をxen= x1(t0+Δt)=1.0、目標の振動子の質量の速度をxin =x1(t0+Δt) = 0.0とした.また次の位置の変化において、元の振動子の質量の位置をxin = x1(t0+Δt) = 1.0、元の振動子の速度をxin =x1(t0+Δt) = 0.0 、目標の振動子の質量の位置をxen= x1(t0+2Δt)=0.0、目標の振動子の質量の速度をxin =x1(t0+2Δt) = 0.0とした.
一方、図8に示すような軌道制御装置Aにおいて、図43のカム曲線によって駆動された従節機構である振動子の質量の軌道であるx1(t0+t’)を図45に示す.ここでは比較のため、一般的なカム曲線であるサイクロイド曲線も示した.従節機構の軌道が、これまでのカム曲線と非常に近いことが分かる.これまでのカム曲線が、カムフォロア‐の軌道を決めていたにすぎなかったのに反し、今回のカム曲線はそれによって駆動される振動子の質量の軌道を任意の設計できることが分かる.
一方、今回求められた図43のカムの加速度曲線は、図46のように表わされることから、従節機構を静止させるにも関わらず、停留カムではなく、これまでのカムの設計の常識とは異なることが分かる.
一方、角振動数ωtの振動子を残留振動なく静止させるよう設計されたカムを使って、異なる固有角振動数ωの振動子の根元を強制変位させた場合について、得られる振動子の振幅と両角振動数の比との関係を図47に示す.つまり図47は、カムの回転周波数ωcと振動子の固有角振動数ωtの比の制振機能に対する影響を表わす.
この図に示されるように、振動子の固有周波数ωがωtに等しい場合、振動子は残留振動なく静止することが分かる.一方、この周波数からずれるに従って、残留振動は残り、完全には静止しない.ω/ωtが1より小さい場合は、残留振幅は大きくなるが、ほぼ1を超えることはない.逆にω/ωtが2近くになると、残留振幅は却って元よりも大きくなる.よって今回設計されるカムは、特定の固有周波数を持つ振動子に対して最も効率的に制振を示すが、それ以外につてはこれを保障するものではないことが分かる.カムの回転速度が任意に選択できるものであれば、振動子の固有周波数に合わせて調整することが望ましいことが分かる.
本発明で紹介したカムは、境界において傾きが不連続になる場合があることから、尖った形をしている.カムの基礎円半径を大きくすることで、滑らかでないこれらの点は、気にならないほどに変化するが、カムの使用に当たっては、真っ先に摩耗しやすい個所となるため、コーティング等を施すなどして、メインテナンスには気を配るべきであろう.
本発明で紹介したカムにおいて、カムの移動に要する時間ΔTをいくつかの様々な長さとなりうる前記操作時間Δtに分割することで、該質量は、残留振動なく前記操作時間Δtごとに決められた位置と速度となる経路を通るように設計することができる.
その場合、カム曲線は、所定の操作時間Δtごとの各時刻に決められた位置と速度となるように設計された強制変位関数X(t0+t')を接続することで定義される.任意のカム曲線において、前記操作時間Δtごとの振動子の質量の位置が定まっていた場合、強制変位関数X(t0+t')をつかって、前記操作時間Δtごとに所定の位置で振動子の質量を静止させるようカム曲線を設計することで、該質量を前記操作時間Δtごとに任意の位置で残留振動なく制御することができる.つまり、任意のカム曲線を元に強制変位関数X(t0+t')から決まるカム曲線を決めるだけで、残留振動を抑える回転周期が可変なカムの設計が可能となる.
次に(式1)に示した強制変位関数X(t0+t')を用いて、従節機構の変位曲線が前記操作時間Δtごとにサイクロイド曲線の所定の位置を通り、10Δtで一周する残留振動を生じさせないカム曲線の設計例を図48に示す.この例においては、従節機構の固有周期τはΔtと等しく置いた.またこれによって駆動される従節機構の軌道とサイクロイド曲線と一緒に図49に示す.従節機構は、前記操作時間Δtごとにサイクロイド曲線を通り、残留振動なく制御できることが分かる.これによって設計された2次元の板カムのプロファイルを図50に示す.図50中の原点はカムの回転中心を表わす.この板カムは、10Δtの周期で1回転する.
次に図7や図8に示すような軌道制御装置Aを容器に入れた液体のスロッシングの抑制に応用した例を示す.容器に入った液体がスロッシングした際のモデル図を図51に示す.ここでhsは容器内の液体の高さであり、θは水平面からの液面の傾き、gは重力加速度、mは容器内の液体の質量である.点Oは、液面の中央の位置である.液体のO点周りの慣性モーメントをJとすると、J=ml2から、容器内の液体の等価振り子長さlが求められるが、実際は以下に述べる振り子との近似から、スロッシングの固有振動数を測定して決めると良い.
図51のモデルにおいて、液体のスロッシングによる揺れは、点Oから吊り下げられた長さl、質量mの振り子に近似される.振り子における振動の制御は、天井クレーンにおいて説明したものと等価である.振り子の吊り下げ位置は、容器の移動によって実現することから、天井クレーンにおいて吊り下げ位置に対しておこなっていた強制変位を、容器に対しておこなうことでスロッシングは抑制される.
容器内の液体における制御物体の位置と速度は、容器内の液体の液面の水平面からの液面の傾きθ(t0+t')と液面の角速度dθ(t0+t')/dtであり、これは天井クレーンにおけるワイヤーの鉛直方向からの傾きである振れ角と揺れ角速度に対応する.
よって制御を始める瞬間の液面の水平面からの液面の傾きθinと液面の角速度dθin/dtを測定し、目的の液面の傾きと液面の角速度を0とすることで(式58)が与えられる.(式58)で表わされる角度・角速度を操作する強制角変位関数Θ(t0+t')で定められる強制変位量の加速度を容器の水平方向に与えることにより、液面のスロッシングは抑制される.スロシングは振り子と等価であることから、液面の傾きが大きいほど非線形性が存在し、本制御法後にも残留振動が残る.そのため、数回の振動抑制操作を与えたり、固有周期に振幅による補正を加えたり、操作時間を特定の時間に限るなどの工夫が必要なことは、天井クレーンと同じである.
図52に本発明におけるスロッシング抑制装置の概要図を示す.液体の入った容器98を載せる設置台104を一軸レール105の上に載せる.液体の進行方向を向いた台の側面にカムフォロア13aを取り付け、圧縮バネ64により設置台ごとカム12aに接触させる.カムフォロア13aには設置台の位置や速度を測るセンサー11aaが取り付けられている。液体の入った容器98を載せた設置台104は、移動可能な台車102の上に載っている.さらに容器の上部には液面の角度や角速度を測定する液面計103が取り付けられている.
カム12aは、特定の液面の角度や角速度を想定して設計し、液面計103からの信号がこの値近くになった時に、カム12aを作動させて容器の載った設置台104に決まった強制変位のパターンを入れる.また液体の揺れの固有周期に合わせて、前記操作時間も変化できるように回転周期も調整するようにする.センサーが所定の揺れを検知した際に毎回、この変化量を入れることで、搬送される液体のスロッシングは抑制される.
これにより、鋳造時の熔湯を溶解炉から鋳型まで運ぶ際に生じる熔湯のスロッシング等が防がれ、工場内での事故を防ぐことができる.
このカムの応用においても、例えば強制変位を受ける相手側の速度や位置、またカムフォロアの速度や位置を測るセンサーを取り付けて、前記操作時間毎にこれらの値を算出する.
次に、図7に示すような軌道制御装置Aによって振動制御を行った実施例を説明するために、導出した強制変位関数X(t0+t')を電車や自動車のアクティブサスペンションに応用する例について述べる.
例えば、鉄道における列車の場合、線路の上下方向や左右方向の軌道の位置の変化である軌道変位が、車体に振動を与え、振動が大きく成長することで脱線の危険がある.また車体の振動は乗客の乗り心地を低下させることから、これを極力減少させる必要がある. 自動車の場合も同様に路面の位置の変化が、車体に振動を与える.
従来、電車や自動車のアクティブサスペンションの多くは、制振させる車体を天井の一点から吊るされているとして制御を行なうスカイフック理論を用いて設計、制御されてきた.
ところが、自動車において路面の位置の変化が大きい場合、スカイフック理論を用いると、車高に同じだけの大きな位置の変化を与える必要があり、アクチュエータには大きなパワーが必要となる.また列車においても、車体は重いことから、僅かな位置の変化でも車体の車高を変化させるには、大きなパワーを必要とする.一般にアクティブサスペンションに用いられているアクチュエータはパワーが十分ではないことから、急な凹凸を通る場合には車体を制振させることはできない.
一方、線路や路面の変化に対してアクチュエータで僅かな補正を加えて、本発明による強制変位関数X(t0+t')とした場合、車体は線路や路面の変化と同様な位置の変化を示すものの、車体の残留振動を小さく抑えることができる.
またアクチュエータのパワーが十分でない場合についても、ばねと車体とからなる振動子の所定の操作時間ごとにサンプル値制御を掛けることにより、揺れを小さくすることができる.これにより自動車や列車の乗り心地は大幅に改善される.
一方、従来のアクティブサスペンションは、車体に掛かる加速度をセンサーで検知した後に、その逆加速度をアクチュエータで発生させて打ち消すことから、早い変化に追従することができず、制振が却って加振になったりする危険もある.
ところが本技術においては、後に述べるようにして得た道路や線路の起伏情報と速度制御技術の組み合わせにより、車体の残留振動を最適に制御する強制変位関数X(t0+t')をフィードフォワード的に決定することができる.
他方、道路や線路の起伏情報が得られれば、従来の制御技術においても、車体の振動の変化をシミュレーションすることはできるものの、車体の位置や速度を任意に操作するアクチュエータの位置の変化量を解析的に得ることはできない.
ところが本発明においては、強制変位関数が力学の逆問題を解くことから、車体の残留振動を急速に減少させる前記操作時間毎のサンプル値制御が可能となる.
自動車や列車の場合、タイヤや台車の一次ばねのバネ定数は、その上に乗るサスペンションにおけるバネのバネ定数よりもはるかに大きいことから、これを無視してもモデルとしては問題ない.そのため台車や車軸における位置の変化量は、路面や路線(以下、路面で統一)の位置の変化量からそのおおよそが求められる.
いま、図70に示すように車軸直上の台車等のバネ下質量145上に油圧等で駆動するアクチュエータ8aを取り付ける.この一軸アクチュエータ8aは制御器10aにより上下方向に任意に移動することができる.またアクチュエータ8aの上にはロアシート151を介してサスペンションバネ2aが取り付けられており、さらにバネ2aの上にバネ上質量である車体144が取り付けられている.また車体およびロアシートにはこれらの位置の変化方向に対する位置や速度を推定するセンサー11abや11aaがそれぞれ取り付けられている.また路面の上下方向の凹凸を測定するためのプレビューセンサー146が取り付けられている。
車体144とサスペンションバネ147とロアシート151が、図7に示すような軌道制御装置Aの一体振動子を構成していたとすると、車体は第二支持体1a、ロアシートは第一支持体3a、サスペンションバネはこれらをつなぐバネ2aとなる。また一軸アクチュエータ8aと路面による高さ方向の変位の和はロアシートである第一支持体3aに与える強制変位量に相当する。
路面が上下動に大きく変化した場合、車体は変動を受ける。いま前記操作時間毎に、車体144やロアシート151の高さ方向の位置や速度の情報を得た後に、車体の振動を止めるように定めた目標位置や目標速度から強制変位関数X(t0+t')を決定する。次の操作時間の間、高さ方向の路面の変化量Xdと一軸アクチュエータの変化量Xaの和(Xd+Xa)が強制変位関数X(t0+t')になるように、一軸アクチュエーター8aを変化させれば、車体の高さ方向の位置xに現れる残留振動を抑えることが可能となる.
この場合、次の操作時間に通過する路面や線路における高さ方向の変化量Xdを予めセンサーやクラウド情報から得ることができれば、次の操作時間における一軸アクチュエータの変化量Xaを予め、より適切に決めることができ、より残留振動を抑える効果が高まる.
しかし、次の操作時間に通過する路面や線路における高さ方向の変化量Xdを予測できなくとも、実際の変化量Xdをサンプル値制御におけるノイズとすることで、一操作時間遅れた残留振動の抑制制御は可能である.
例えば図82の実線のような滑らかなステップ状の路面変位Xdを考えた場合,従来技術ではアクチュエータの変化量は路面変位と同程度である必要があった.
一方,本技術では図82の破線に示すような僅かなアクチュエータの位置の変化Xaを与えることで,車軸や台車の位置変化と合わせてフィードフォワード的に決定された強制変位関数X(t0+t')を実現でき,車体の残留振動を抑制することができる.その際の車体の位置の時間変化xを図83に示す.車体はステップ状の上下動変化をした後、残留振動なく揺れが収まっていることが分かる。
本手法では、台車や車軸の左右に油圧等で駆動するアクチュエータを取り付けることで、左右方向の車体の残留振動を抑えることも可能となる.線路の揺れの多くは左右方向の変位であることから、列車には有効な方法となり得る。
自動車や列車のサスペンションによる固有振動数は通常、1.0〜1.5Hzとなるように設計されている.自動車や列車が90km/h(=25m/s)で走行した場合、1秒間に20〜25m進むために、この距離での線路や路面の変化が、車体や車両(以下、車体で統一)の振動に大きな影響を与える(古川敦、乗り心地向上のための軌道管理、RRR、Vol.65、p.22−25、2008).振動に影響を与える路面の距離は、速度によって定まり、その時々において一定の値をとることから、特性距離dsと呼ばれる.特性距離以上の距離に渡る路面や線路の変位は、自動車や列車を加振する原因となり得る.
列車の場合、線路の軌道変位は、あらかじめ測定しておくことが可能であり、GPSや周囲からの位置情報と併せることで、次の特性距離またはそれ以上の距離における台車の水平位置や垂直位置の時間変化を推定することができる.
また自動車の場合、道路の高さやうねりの情報は、車輪がどこを通るかに依存して大きく変化する.そのため、車体の前に前方の路面の高さやうねりの情報を計測するセンサーを設置し、この情報から次の特性距離内における路面の高さの時間変化を推定するなどの工夫が必要となる.また近年、道路の起伏やうねりについてのデーターがクラウド化する方向にあることから、GPSによる位置情報から、次の特性距離またはそれ以上の距離における路面の高さ方向の時間変化を計算することが可能になる.
これにより、自動車や列車が将来に通る経路において路面や軌道の変位量と車体の速度をvから、車軸や台車が上下または左右方向の変位の時間変化が推定できる.
いま、位置の変化がサイクロイド曲線のような凹凸が続いた道であった場合、何も制御せず減衰率も小さかった場合、この路面を通過した車両には大きな残留振動が現れる.
ところが、前記操作時間のごとの操作開始時の車体および車軸や台車の位置や速度情報を用いて、残留振動を停止させるように、実際の位置の変化になるべく近くなるようにパラメーターαpをフィッティングすることで(式1)の強制変位関数X(t0+t')が決定される.この強制変位関数X(t0+t')と実際の車軸や台車の変位の差分を補うようにアクチュエータを操作することで、アクチュエータとバネの間にあるロアシートの位置の時間変化を強制変位関数X(t0+t')に近づけることで、残留振動を全くゼロにすることができる.このように前記操作時間毎に車体および車軸や台車の位置や速度を用いて、次の特性距離の路面の変化を測定して定めたアクチュエータの強制変位関数によりサンプル値制御することにより、車体は常に残留振動のない状態に保つことができる.
本発明のアクティブサスペンションにおいては、車体の残留振動をゼロにすることはできるものの、車体自身は上下や左右方向に位置が変化することから、車体内部の乗客や物体に掛かる加速度はこれらの振動を誘起する.変化が極端に大きい場合は、目標位置を変化させることでアクチュエータによる位置の変化量を大きくし、より車体内部の加速度を減少させた制御も可能となる.
また車体の揺れは上下や左右方向だけにとどまらず、重心周りの回転方向の揺れも発生することから、車体の回転方向についても同様な制御が必要になる.
他方、道路の起伏やうねりについてのデーターがクラウドや車内のストレージに蓄積されていた場合、GPSによる位置情報から、先々の特性距離における路面の高さやうねりによる車軸や台車の位置の変化量Xdを知ることができる.現在の車の揺れ情報を基にこれを抑えることができる(式1)の強制変位関数X(t0+t')に近くなるように、Xdを選択することができれば、アクチュエータを用いずとも車の乗り心地を向上させることができる.
近年、自動車の自動運転やクルーズコントロールによる速度制御が可能となっていることから、車軸や台車の位置の変化量が揺れを抑える強制変位関数に近くなるようにルートや速度を選ぶことも可能となるものと期待される.この場合、道路の高さの変化やうねりが逆に振動を抑えるように働き、アクチュエータを用いずにできる最もエネルギー効率の高いアクティぐサスペンションとなりうる.
本発明によるアクティブサスペンションにより、より振動の少ない乗り心地の良い自動車や列車の開発が可能となる.
次に、図10に示すような軌道制御装置Dによって振動制御を行った実施例を説明するために、導出した(式4)の外力関数FIII(t0+t')をバネの自身の振動であるサージングの抑制に応用することで、バネにより予圧を加えられた接触部の遊離を防ぐ例について述べる.
機械部品の中には、バネの一端に接続された部品が他の部品によって強制変位を受け、もう一端が壁により固定されている機構が存在する(図71).例えば、自動車におけるバルブ機構においては、バネの一方に接続されている弁の尖端のタペットがカムによって周期的な駆動を受け、もう一端がエンジンの壁によって固定されている.
またブラシ付きDCモーターにおいては、バネの一方に接続された電機用ブラシが、整流子に接触しており、バネのもう一方がモーターのケースに固定されている.このバネはブラシ押えバネと呼ばれる.
さらに電気鉄道の架空電車線方式に使われるパンタグラフにおいては、枠組上にある復元バネの一端が摺動材を介して架線のトロリー線に接続されており、復元バネのもう一端の枠組が壁の役割を果たしている.
以下では統一して説明するために、壁と反対側でバネに接続された機械部品をカムフォロア、このカムフォロアに接触して強制変位を与える機械部品をカムに代表させて話を進める.
これらの機構においては、バネの予圧によって押し付けられているカムフォロアは、運動中、しばしばカムから離れる跳びが生じることが知られている.エンジンのバルブ機構の場合、この跳びは、タペットがカムから離れる弁躍りと呼ばれ、エンジンの損傷の原因となる.
また同様の機構により、ブラシ付きDCモーターにおける電機用ブラシが整流子から離れる跳びは、ブラシ踊りと呼ばれる.また同様の機構により、電気鉄道の架空電車線方式における摺動材がトロリー線から離れる跳びは、パンタグラフの離線と呼ばれる.ブラシ付きDCモーターやパンタグラフにおけるバネによる押し付け力は、電気的な接続を可能にしていることから、この跳びは、アーク放電を発生させ、電極を消耗させる原因となる.
電機用ブラシや摺動材の消耗は、これらの電極の定期的な交換を必要とすることから、寿命を延ばすためには、この跳びをより少なくする必要がある.また弁躍りは、エンジンの回転数の限界を決めることから、強力な出力を得るためには、より高回転まで弁躍りを発生させない工夫が必要となる.しかし、これらの現象については、メカニズムが明らかにされては来なかった.
カムの運動はバネそのものの重心を動かすことから、バネのサージングを誘発する可能性がある.いまバネ自身の質量をms、バネのバネ定数をksとすると、一端が壁に固定され、もう一端がΔxの位置の変化を受けているバネ自身の1次モードのサージングは、質量ms、バネ定数2ksのバネ‐質量系がΔx/2の位置の変化を受ける単振動としてRicardoの式によりモデル化され、バネのサージングの固有周期Δtsは(式66)で表される.
さらに精密なバネ定数は橋倉の式により求められる(橋倉勝治、弁発條の固有振動数計算式、日本航空学会誌、Vol.7、 No.60、 pp.143-152 (1940)).バネの根元には質量Mのカムフォロアがあり、これはカムによって一定の強制変位を受ける.
いまカムがサイクロイド曲線であり、バネ自身の固有周期から見たカムによる変位が、該バネの振動を成長させる振動操作関数とはならない場合、バネの重心の位置の変化は図72のようになり、大きなサージングは生じない.ここでxgはバネの重心位置であり、SAはカムによる変位量であり、両者の差はバネの重心位置の振動(サージング)の振幅を表す.
一方、このサイクロイド曲線に、(式1)の強制変位関数X(t0+t')で表されるバネの位置や速度を増加させる働きを持つ僅かな凹凸による位置の変化が該バネの振動を成長させる振動操作関数となる場合、図73に示すようにバネのサージングは大きく成長する. ここでSBは僅かな凹凸をもつカムによる変位量である.
他方、いまバネの予圧をP、カムのバネのバネ定数をk、カムの変位関数をX、カムフォロアの質量をM、バネの重心の位置をxとすると、運動するカムフォロアとカム間の接触圧Nは次の(式67)で表される.
図74に示すようにバネのサージングが激しくなることにより、この接触圧は負となることから、カムフォロアとカムが遊離する現象が発生する.これが弁踊りである.
またサージングが大きくなっている際、カムとカムフォロアの接触圧は図74のように変動することから、摩耗によりサージングを発生させる強制変位がカムに生じることとなる.例えば、鉄道架線のトロリー線に見られる波状摩耗は、復元バネのサージングによる圧力変動に起因するものと考えられる.また加工時にカムに生じる周期的な加工傷もサージングを発生させる強制変位となりうる.
つまり、弁躍りやブラシ踊り、パンタグラフの離線を防ぐには、接触圧を加える目的で取り付けられている復元バネのサージングを防ぐことが重要であることが分かる(小竹茂夫、川北雄一朗、バネの振動を成長させるカムの概周期成分、日本ばね学会ばね及び復元力応用講演会予稿集、 2013年 11月1日)、(小竹茂夫、川北雄一朗、一体衝突振動子の逆問題から見たエンジンの弁躍り現象とその抑制法、日本機械学会第24回内燃機関シンポジウム予稿集、 2013年 11月26日-28日).
バネのサージングを防ぐには、いくつかの方法が考えられる.一つは、アクティブな制振操作であり、例えば、バネの重心の位置や速度を測定して、所定の操作時間毎にバネの運動が停止するように、バネの根元に(式1)の強制変位関数X(t0+t')による位置の変化を与えたり、バネの重心に(式4)の外力関数FIII(t0+t')に従って外力を加えるなどの操作を施す.
バネ127の重心に外力を施すには、例えばバネ127の重心部のみを着磁させ、その周囲に設置したコイル60に電源を接続して、外力関数FIII(t0+t')に従った電磁力を与える(図75).この際、バネの重心の位置や速度を知る必要があることから、センサー11dbをコイル付近に設置する。
バネのサージングは、カムの僅かな位置の変化から与えられたエネルギーの蓄積であることから、上記の工夫により僅かな電磁力でも与え続けることにより十分に制御可能となり、適切な外力関数を与えることより、サージングは減少する.本方式においては、バネの重心部の着磁により発生するコイルの誘導起電力により、バネの重心の位置や速度も推定することができる.
例えば、周期的に摩耗したカムにより大きなサージングが発生しているバネの重心に、この重心の位置と速度に合わせて定めた外力関数FIII(t0+t')に従う外力を与えたところ、バネのサージングを抑えることができる.
この方式においては、バネの重心部近くに強磁性薄膜を作製したり、バネの重心部近くを窒化、炭化するなどの工夫を施すことにより、磁化がより残るように工夫することもできる.
さらにバネを半分にして、中央部にフェライト等の強磁性材を挟むことによっても同様の効果は得られる.この場合、挟む強磁性材のバネの長さ方向の密度をバネと同じになるように設計することにより、サージングが起こりにくくなるように工夫することができる.
一方、バネのサージングを防ぐには、単にバネの重心の運動に粘性抵抗を与えるだけでも可能となる.前述したようにバネの重心部を着磁した場合、重心部の激しい振動による誘導起電力により、周囲に設置したコイルに電圧が発生する.このコイルに抵抗を接続することにより、バネの重心の振動エネルギーは散逸し、サージングが防がれる.また発生した電圧を回生することにより、エネルギーハーベストも可能となり、自動車の燃費を向上させることができる.
また磁場のない環境下において、バネが通常の弾性変形を超えて塑性変形した場合には、着磁されたバネの残留磁化が減少する(小竹茂夫、残留磁化の変化が示す付加塑性変形、検査技術、2014年3月号、pp. 11−17).一方、通常のバネにおける弾性のみの変形では、伸びが元に戻れば、磁化も元に戻る.これは転位によってピン止めされている磁壁の振る舞いによるもので、弾性変形では転位が動かないことから残留磁化も変化しないものの、塑性変形によっては転位が動くことで、磁壁がより安定な方向に変化することに起因する.
バネの塑性変形は、疲労現象の進展を意味することから、バネの釣り合い位置が変化し、バネによる復元力が減少する.よって、コイルに発生する電圧をモニタリングすることにより、バネの疲労度合やへたり具合を評価することができる.
またこれらの技術において、着磁されたバネの残留磁化は経年劣化することから、コイルには運転静止時にバネに着磁を与える働きも必要となる.
他方、ブラシ付きDCモーターの場合、一般に整流子は、n個の複数の整流子片が絶縁片で分離されて円筒状に並んでいる.一般に電機ブラシが引っかからないように、整流子片の端は盛り下がっており、整流子の中央は盛り上がっていることから、整流子と接触して回転するブラシは、回転周期tcのモーターの回転に対してtc/nの周期で強制変位を受ける.数22より、周期的な山なりの位置の変化の繰り返しは、バネの重心の速度を増加させる(式1)の強制変位関数X(t0+t')であることから、整流子の形状そのものが、整流子に圧力を加えるブラシ押えバネのサージングを誘起させる危険性がある.
そのため、ブラシ付きDCモーターの使用時の最大回転周期がtcmaxであった場合、整流子に圧力を加えるブラシ押えバネ自身の固有周期τが、以下の(式68)を満たすように設計する必要があることが分かる.ここで分数の2がないときは、ちょうど共振条件であり、最もサージングが大きく成長するが、分数に2を付けることにより、ちょうどお互いの加振を打ち消しあってサージングが小さくなることが期待される.
他方、電気鉄道の架空電車線方式の場合、トロリー線は、ハンガーによってd間隔(通常5m)で吊り下げられており、カテナリーの形態をとる.そのため、摺動材は、d間隔で下側に強制変位を受けることになり、この周期的な位置の変化が復元バネにサージングを引き起こす.列車の運転における最大速度がvであった場合、復元バネは周期d/vで加振を受けることから、これがサージングを成長させないように、復元バネの固有周期τは以下の(式69)を満たすように設計する必要がある.
これによりパンタグラフは離線することがなくなり、摺動材の寿命が向上する.パンタグラフの場合、速度によっては、トロリー線と共振するのは、主バネの場合もあり、これの設計を同様に考慮しなければならない場合もありうることを付け加える.
次に、図10に示すような軌道制御装置Dによって振動制御を行った実施例を説明するために、導出した外力関数FIII(t0+t')を圧延装置に応用する例について述べる.
タンデム型多段圧延装置は高速で薄板を冷間圧延する際など、チャタリングと呼ばれる大きな縦揺れ振動が発生し、板厚に周期的な不均一を生じさせる.それらの理由についてはいまだ明らかになっていないが、多段圧延装置のモード共振周波数が、周期的な板厚変動と一致した場合に発生する自励振動であることは広き認識されている(石野和成、壁矢和久、吉川孝雄、 日本機械学会論文集、 69C、 687 (2003)、 2975.).
チャタリングの発生は板厚の精度を低下させるばかりでなく、振動の発生を抑えるために圧延速度を高められないなどの効率の低下を引き起こす.そのため、チャタリングを抑える技術の開発が望まれてきた.
これまでのチャタリングの防止には、圧延時の潤滑油を適切に選択したり(木村幸雄 他、冷間タンデム圧延におけるチャタリング発生機構、NKK技報、No.170、 (2000)、15.)、自励周波数をずらすために圧延速度を低下させるなどの工夫はされてきたが、チャタリングの発生を抑える受動的な対処法であり、一度発生したチャタリングを動的に抑える方法は提案されてこなかった.そのため、自励振動を越えて高速に圧延することができないことから、圧延プロセスの生産性を向上させることができないでいた.
本発明による軌道制御装置Dを用いれば、自励振動しているモードを一体振動子として取り扱うことにより、各振動モードの固有周期において定義される各操作時間毎にモード質量の位置と速度を測定し、この振幅を減少させるように外力を加えることで、自励振動を動的に減少させることができる.
いま、各多段圧延装置の各ロールと各ロール間を接続するバネをモデル化した直鎖バネモデルを図53に示す.ロールは、被圧延材109に近い方からワークロール108、中間ロール107、バックアップロール106である.振動や加圧は上下対称に生じるものと考えられ、上下各N段の直鎖バネモデルは、N個の固有振動モードを持つ.多体線形振動系のモードnの振動は、各モード質量mnと各モード剛性knからなる独立な1振動子として表すことができる.
一方、多段圧延装置のワーキングロール108の軸は圧延時において被圧延材109の板厚変動により上下方向に変位する.このワーキングロールの軸の変位h(t)は、一つの多段圧延装置の特定の振動モードに対して、根元の強制変位となることから、図7に示される該軌道制御装置Aと等価である.
よってチャタリングは、ワーキングロールの軸の変位h(t)が、多段圧延装置の特定の振動モードを成長させる働きを持つ強制変位関数となった場合に発生することが予想される.よってチャタリングの発生は板厚変動によるワーキングロールの軸の変位h(t)の強制変位関数としての働きから調べることができるが、ここでは詳しくは述べない.
他方、各ロールに外力を与える電磁力発生装置を取り付けた場合、発生する振動モードに合わせた周波数で、各ロールにある比率で割り振られたモード外力を与えることができる.これは前述した1振動子で表されるモード質量に対する外力と等価である.
成長したチャタリング振動の振幅に比べ、板圧変動の振幅が無視できるとすると、チャタリング振動下での電磁力発生装置が取り付けた多段圧延装置は、図10に示される該軌道制御装置Dと等価である.
発生したチャタリング振動に対して、所定の操作時間Δt毎にモード質量の位置や速度を測定し、モード質量の位置や速度を0に近づけるように決定された(式4)の外力関数FIII(t0+t')に従って外力を前記操作時間Δt間毎にワークロールに加えるサンプリング制御をおこなうことで、図54のように成長したチャタリング振動を抑制することが可能になる.図55に外力FIII(t0+t')によりモード質量の振幅が次第に小さくなっていくチャタリング振動の様子を示す.
図56にタンデム型多段圧延装置においてチャタリング振動を抑制するために、各ロールに外力を与える電磁力発生装置の概略図を示す.チャタリング振動は、ロールの上下方向に発生することから、各ロールの軸110にベアリングを介して接続させた軸受111に、透磁率の高いプランジャー113周りのコイル112により電磁力を与えることで、(式4)の外力関数FIII(t0+t')に従った外力を発生させる.これにより動的にチャタリングを回避することができ、多段圧延装置の振動モードを越えて、より高速で圧延することが可能となる.
この圧延機械の応用においても、例えば圧延ロールの速度や位置を測るセンサー11daや、駆動部の変位を測るセンサー11dbを取り付けて、前記操作時間毎のこれらの値を算出する.
次に、図10に示すような軌道制御装置Dによって振動制御を行った実施例を説明するために、導出した外力関数FIII(t0+t')を除去加工装置に応用する例について述べる.
除去加工装置は、旋盤やフライス盤、NCマシン、研削盤など多数の種類があり、工具またはワークを回転させながら、互いに接触させることで、ワークの一部を削り取る加工法である.
これら除去加工において、加工速度を上昇させたり、ワークやシャンクの剛性が足りない場合には、工具―ワーク間に大きな自励によるびびり振動が発生し、ワークに周期的な凹凸からなる痕跡が生じることが知られている.
びびり振動は加工の精度を低下させるばかりでなく、振動の発生を抑えるために加工速度を高められないなどの効率の低下を引き起こす.そのため、びびり振動を抑える技術の開発が望まれてきた.
例えば、丸棒の側面を削る場合、丸棒がチャックでしか支えられておらず、丸棒自体の剛性が低いとすると、丸棒自身は片持ち梁として振動する.この片持ち梁における特定の振動モードは、特定のモード質量と特定のモード剛性を持つ一振動子として取り扱うことができる.シャンク自体の剛性が低い場合には、以下の議論は片持ち梁としてのシャンクの振動に対する技術となる.
いま被削材である丸棒の側面の半径dが真円からずれることで変動しているとすると、シャンクと接触するワークは、h(t)で強制変位させることになる.
いま、ワークの曲げ剛性が小さく、自らの変位により特定の振動モードが発生するとすると、ワークの強制変位量h(t)は、自らの振動モードに対して、根元の強制変位となることから、ワークに発生するビビリ振動は図7に示される該軌道制御装置Aと等価である.
よってびびり振動は、ワークの真円からのずれであるh(t)が、ワーク自身の特定の振動モードを成長させる働きを持つ強制変位関数となった場合に発生することが予想される.よってびびり振動の発生はワークの真円からのずれであるh(t)の強制変位関数としての働きから調べることができるが、ここでは詳しくは述べない.
他方、図57に示すように、ワーク119に外力を与える電磁力発生装置であるプランジャー113とコイル112を支点となるチャック116とは別に取り付けた場合、発生する振動モードを打ち消すようにモード外力を与えることができる.これは前述した1振動子で表されるモード質量に対する外力と等価である.センサー11dbでとらえたワークの位置や速度の情報から、ワークの振動を抑えるように(式4)の外力関数FIII(t0+t')を決定し、これに従って電磁力をワークに与えることにより、びびり振動を防止できる除去加工装置(図57)ができる.成長したびびり振動の振幅に比べ、ワークの半径変動の振幅が無視できるとすると、びびり振動下での電磁力発生装置が取り付けた除去加工装置は、図10に示される該軌道制御装置Dと等価である.
発生したびびり振動に対して、所定の操作時間Δt毎にワークにおけるモード質量の位置や速度を測定し、モード質量の位置や速度を0に近づけるように決定された(式4)の外力関数FIII(t0+t')に従って外力を前記操作時間Δt毎にワークに加えるサンプリング制御をおこなうことで、びびり振動を抑制することが可能になる.外力によりモード質量のびびり振動の振幅が次第に小さくなっていく様子は図55と同じである.これにより動的に自励によるびびり振動を回避することができ、ワークの振動モードを越えて、より高速で切削することが可能となる.
これら切削機械の応用においても、例えばワークの速度や位置、また駆動部の駆動力を測るセンサーを取り付けて、前記操作時間Δt毎にこれらの値を算出する.
次に、図10に示すような軌道制御装置Dによって振動制御を行った実施例を説明するために、導出した(式4)の外力関数FIII(t0+t')を風車に応用する例について述べる.
風を受けて回転する風車は、風の変動ばかりでなく、一定の風速下においても回転により風による外力の変動を受ける.これは風車の羽根が支柱を通るたびに風が弱まるためであり、回転数fのN枚翼の風車の場合、tb=Nfの周期の風による外力の変動を受ける.
風車の支柱は羽根が大型化するにつれ、より高くなってきており、そのため支柱の固有周期が低くなりつつある.普段の風車の羽根の回転数は、支柱の固有振動数と一致しないように制御されているが、大型化された風車においては、風が強くなった場合、ある固有モードを越えて羽根を回転させなければならないことから、共振状態で運転する場合が避けられない.そのため支柱の振動が大きく加振なされるなどの弊害が生じる.
近年、10年を経過した風車の支柱が折れるなどの事故が発生しており、揺れによる支柱の疲労破壊が問題となってきている.疲労破壊を抑えるためには、発生する応力が疲労限界以下になるように、支柱の振動による振幅を抑える必要がある.
羽根の回転による外力の変動を受ける風車の支柱120は、地面に固定された支柱を片持ち梁とし、自励振動しているモードを一体振動子として取り扱うことにより、本発明における軌道制御装置Dとしてモデル化される.羽根の回転周期/羽根の枚数を操作時間Δtとすることで、 操作時間毎に風車のモード質量の位置と速度を測定し、この振幅を減少させるように羽根の回転位相を制御することで外力を変化させることで、自励振動を動的に減少させることができる.こうしてモデル化される風車の模式図を図58に示す.
風車の羽根の回転による外力の変動成分(ΔF)は、風車の支柱における特定の振動モードを発生させる外力となる.これは1振動子で表されるモード質量に対する外力と等価であることから、風による風車の支柱の振動は、図10に示される該軌道制御装置Dと等価となる.支柱の振動の発生は、風車の羽根の回転による外力の変動成分が、外力関数FIII(t0+t')として振動を増加させるように働くことから理解できるが、ここでは詳しくは述べない.
風車の羽根の回転は1/ Nfの周期を持つことから、これによる外力の変動は、Δt=1/ Nfの操作時間による軌道操作と等価になる.よって発生した支柱の振動に対して、前記操作時間Δt=1/ Nf毎に支柱の振動におけるモード質量の位置や速度をセンサー11dbで測定し、モード質量の位置や速度を0に近づけるように決定された(式4)の外力関数FIII(t0+t')に従って外力を前記操作時間Δt間に羽根の位置をサンプリング制御することで、支柱の振動を抑制することが可能になる.
例えば、(式4)の外力関数FIII(t0+t')より、支柱の釣り合い位置において支柱の揺れの速度が風下方向に最大になっている時、羽根の位相θをπ/2となるように羽根の速度を制御すれば、支柱の揺れを低減させることができる.また逆に支柱の釣り合い位置において支柱の揺れの速度が風下上向に最大になっている時、羽根の位相θを3π/2となるように羽根の速度を制御すれば、図55に示すように支柱の揺れを低減させることができる.支柱の固有周期が前記操作時間Δtとは異なっている場合においても、(式4)の外力関数FIII(t0+t')を使うことによって、制御が可能となる.
一般に支柱の振動が大きくなる場合は、風が強く、風車も効率を下げて運転しなければならない.そのため、振動を抑えるために羽根の位相を変化させるこれらの制御は、発電効率を若干下げる結果となるものの、疲労破壊を防ぎ、風車の寿命を長くすることから、より望ましい制御といえる.
これら風力発電の応用においても、例えばナセルの速度や位置、また駆動部である風力の量を測るセンサーを取り付けて、前記操作時間毎のこれらの値を算出する.
一方、風車が洋上に浮かんでいる洋上風力発電装置であった場合、その浮体は風や波によって大きく揺らされ、洋上風力発電装置の傾きが臨界値に達すると転覆してしまうことから、台風や嵐が接近した時などは揺れを抑える技術が必要となる.浮体が傾いた際に重心と浮心とのずれにより生じる偶力により洋上風力発電装置は重心周りにゆっくりと回転するため、制御すべき振動の固有周期は、風車の羽根が支柱を通る周期よりもゆっくりとしたものになる.そのため短い周期である羽根の回転の位相のずれは、浮体の重心周りの揺れに影響を与えない.
また風車は定格以上の風速においては、風によるトルク量を一定にするようにブレードピッチの向きを制御することから、風によるスラスト力が変化する.浮体全体のピッチ回転によってハブ近くの風力が周期的に変化することから、これに対応した風車の各羽根のブレードピッチを変化させる操作が、風のスラスト力をピッチ周期で変化させることから、浮体の揺れに最も影響する.
一般に、各羽根のブレードピッチの操作は、風車の回転速度を一定に保つために行われるが、浮体のピッチング振動が大きくなった場合には、回転速度を一定にする制御をやめて、本手法により洋上風力発電装置の浮体の揺れを防ぐ方を最優先するなどの対策が必要とされる.
浮体の重心は、波等の影響により、上下動や回転からなる6自由度に様々に揺れるが、それぞれの回転や一定方向の振動は影響が小さい場合、独立にあつかうことができる.また浮体の揺れの周期よりも風の変化がゆっくりで、一周期あたりの風が一定とみなせる場合、羽根のブレードピッチを揺れの周期で回転させることにより、風車に与える風のスラスト力を変化させることができることから、主としてピッチング方向の回転振動を抑えることができる.
いま、所定の操作時間毎のピッチング周りの浮体の回転の角度や角速度を測定することができれば、浮体のピッチング周りの揺れを抑制するようにモーメント関数である(式4)のFIII(t0+t')を決定することができる.さらに風の流量を測定し、風車に与える風の力によるモーメントが関数FIII(t0+t')になるようにブレードピッチの回転を制御すれば、浮体のピッチング周りの揺れの抑制を浮体の揺れの周期でサンプル値制御することができる.
また、周期毎のローリング周りの浮体の回転角度や角速度を測定することができれば、浮体のローリング周りの揺れを抑制するようにモーメント関数FIII(t0+t')を決定することができる.風車の左右に与える風の力の差によるモーメントが関数FIII(t0+t')になるように各羽根のブレードピッチの回転を制御すれば、浮体のローリング周りの揺れの抑制を浮体の揺れの周期でサンプル値制御することができる.
本装置においては、風の力が、どんなに小さくとも、洋上風力発電機の回転による揺れを抑える方向に働く.但し、制振にかかる時間が長すぎて転覆しないように、波による揺れの大きさに見合うだけの十分な風の強さを得るための風車の大きさを設計しなくてはならない.
また海洋構造物にあたる波の力により、制振に最適な風の力は外力関数FIII(t0+t')からずれるものの、巨大な洋上風力発電装置の回転エネルギーに対して、一回当たりの波の力は小さいことから、誤差として無視しても、制御には大きな影響は与えない.
一方、本装置は、風に対して揺れが逆方向に動くときに、より大きな力を及ぼすように羽根のブレードピッチを操作することから、回転のエネルギーは、羽根の運動エネルギーとなり、最終的に風力発電機のエネルギーとなって吸収される.
他方、洋上風力発電装置の揺れは、風ばかりでなく、海の波によっても引き起こされる.このうち回転による揺れを風の力で抑制させる本装置は、波の力を一度洋上風力発電装置の回転エネルギーに変え、さらにこれが羽根の運動エネルギーとなり、最後に風力発電機のエネルギーとなって吸収されることから、一種の波力発電として働くことが分かる.
特に沖合における波は、洋上風力発電装置の重心をヒーブ方向である上下に加振することから、波の周期が浮体の回転周期の倍であった場合には、波の振動と浮体の回転振動がオートパラメトリック共振として働くことから、波によって浮体の回転の揺れが増加する.特に本技術により制御しやすい洋上風力発電装置のピッチング周りの回転周期を、波の平均周期の半分になるように設計し、本方式によって、洋上風力発電装置のピッチング周りの揺れが十分に抑えることができるのならば、より効率の良い波力発電装置となる(図76).
この洋上風力発電装置の応用においても、例えば浮体本体の各水平方向の移動量を測るセンサーである11daや各回転方向の揺れや回転角とそれらの角速度を測るセンサーである11dbを取り付ける必要がある。また駆動力である風力の変化せいぎょすべきを測るセンサー136を取り付け、所定の操作時間よりも高いサンプリングにより、これらの値を算出する.
所定の操作時間Δtごとに浮体141のピッチング回転の角度と角速度を求め、ピッチング回転が収まるように(式4)のFIII(t0+t')を決定する。風力による風車に与えるスラスト力がこの関数になるように、140のブレードピッチ回転装置を制御する。これにより洋上風力発電装置のピッチング揺れを抑えることができる。2MW級の洋上風力発電装置においてピッチング回転の周期は30s程度であることから、ブレードピッチの回転は、十分に操作可能である。
次に、図12に示すような軌道制御装置Eや図10に示すような軌道制御装置Dによって振動制御を行った実施例を説明するために、導出した(式5)の外力関数FIV(t0+t')や(式4)のFIII(t0+t')をエンジンの電磁駆動バルブに応用する例について述べる.
エンジンのバルブ機構は、燃料の注入と排ガスの排出を制御するシステムであり、エンジンの燃焼効率に大きく影響する.しかし従来のバルブ機構は、ピストンの力をタイミングベルトで受けて駆動させるため、開閉の速度はエンジンの回転数に依存せざるを得ず、適切なタイミングと速度および開閉量でバルブを開閉することができなかった.そのため各回転速度で最も効率の良い動作をエンジンにさせることができないでいた.
これらの問題点を克服するために、近年では、バルブを動かすカム機構に工夫を施して、バルブの開閉のタイミングや開閉量を可変技術が、自動車会社各社から提案されているが、各回転数で全ての条件を最適化したバルブの制御はできないでいた(”見えてきた 次世代エンジン Part2 エンジンの可変技術”、日経Automotive Technology、 日本経済新聞社、(2006) 4号、 pp.130-135.).
加えて従来のエンジンのバルブ機構は、高速回転で機構の固有振動に起因したバルブ躍りが発生するため、バルブスプリングを高めに設定する必要がある.しかし、これは逆に低速運転時においてカムに大きな動摩擦を生む原因となり、燃費を低下させる.このように従来のバルブ機構においては、摩擦損の上昇とエンジンの高回転化はトレードオフの関係にあり、高速のエンジンを設計できない原因となっていたが、これらの問題点は、カム機構の可変技術では克服することができないでいた.
そこで、バルブの駆動をエンジンとは関係なく、回路からの電磁力で行う電磁駆動バルブが提案され、この開発が盛んに研究されている.これにより、最も効率の良い、自由なタイミングでバルブを開閉できる.またカムを必要としないことから摩擦損も減らすことができ、かつエンジンの高速回転を望める可能性がある.
ところが高速でバルブを駆動・停止させるには、大きな電磁力を必要とすることから、電磁駆動バルブは大きな電気エネルギーを必要とする.またバルブの開閉位置でバルブの速度が大きい場合には、衝突により大きな運動エネルギーが失われるだけでなく、跳ね返りによるバルブ踊りが発生することから、バルブは開閉位置で速度を限りなく0に近づける必要があり、 そのため最適な電磁場による駆動力の関数を求める必要がある.
電磁場バルブにおける最適な駆動力の関数については、これまでにも様々な研究が行われてきており、例えば打田らのような補償器を用いたフィードフォワード関数の提案もなされているが、オーバーシュートを防ぐことができず、残留振動を抑えることができないでいた(打田 正樹、長谷川 英之、森田 良文、藪見 崇生、”スライディングモード制御による自動車エンジン用電磁駆動バルブの位置決め制御 : フィードフォワード補償によるバルブ開時の制御性能の改善”、日本AEM学会誌、 Vol.18、No.1(2010)、pp.48-53.)、(打田 正樹、竹村 昌也、森田 良文、神藤 久、藪見 崇生、”自動車エンジン用電磁駆動バルブのための磁石可動型リニア振動アクチュエータの設計”、日本AEM学会誌、Vol.14、No.4(2006)、pp.394-399.).
電磁力により急激な加速を受けたバルブの速度を急激に0に抑えて閉じることは至難の業であり、これまでの研究においては、これらの問題を解決できておらず、電磁駆動バルブは未だ実用には至っていない.
一方、本発明により、図12に示すような軌道制御装置Eによって電磁駆動バルブを作製することができる.この仕組みで設計した電磁駆動バルブ機構の概略図を図60に示す.該第二支持体1eである透磁率の高い軟磁性体からなる可動鉄芯であるプランジャー131はバルブ126に接続され、ガイドによりバルブの開閉方向に自由に動けるように固定されている.また電磁力によりプランジャーにバルブの開閉方向外力を与えるため、プランジャー近くの周りにソレノイド129を配置する.ソレノイドは電源132や制御器133とつながっている.後述するように、電磁駆動バルブのバルブ踊りを無くすようにサンプル値制御したい場合、所定の操作時間Δt後のプランジャーの位置や速度を測る必要があることから、必要に応じてプランジャーに対する位置センサーや速度センサー11ebを取り付ける.
図60に示した電磁駆動バルブにおいては、プランジャー131およびソレノイド129を複数にしてバルブの移動方向に並べた.各ソレノイドに流す電流量やタイミングを工夫することにより、電磁力を変化させたり、バルブのリフト量を変えることができる.
この電磁駆動バルブの装置において、被制御体であるバルブ126は移動自由な第二支持体1eであることから、(式5)に示す外力関数FIV(t0+t')を与えることにより、閉じた位置で静止した状態から、Δt後に開いた位置で静止し、次に開いた位置で静止したバルブはΔt後に閉じた位置で静止することができる.
電磁駆動バルブをΔt=4msかけて開いた後、再び4msかけて閉じた場合に要した外力関数FIV(t0+t')の時間変化を図61に示す.異なる曲線は、大きい方から、バルブのリフト量がそれぞれ、10mm、5mm、2mmである.この際、バルブの描く軌道を図62に示す.
他方、図60に示す電磁駆動バルブの装置においては、電磁駆動バルブは自由物体であることから、制御を外れた場合、フェイルセーフが効かない.そのため電磁駆動バルブを弱いバネで接続させて動かす装置も考えられる.
そこでプランジャー131をバネ2dを介してフレーム128に接続させることで、プランジャーに制限を設けることができる.図63にこうして設計された電磁駆動バルブの概略図を示す.この電磁駆動バルブは、図10に示すような軌道制御装置Dとなり、(式4)で表される外力関数FIII (t0+t')をプランジャーに付与することにより、開閉を促す.
前記操作時間Δtがバルブを質量とする振動子の固有周期となる場合に必要なバネ定数の5%のバネ(k’=0.05)を使ってバルブを接続した装置において、バルブが図62と同じ軌道を描く場合に必要とされる外力を図64に示す.異なる曲線は、前述と同じ異なるバルブのリフト量において必要とされる電磁力である.
他方、図60の装置におけるプランジャーの代わりに、図77に示すように、交互に極を変える硬磁性体からなる永久磁石152を用いて、これをバルブ126と接続し、永久磁石の周囲にそれぞれが電源とつながった電磁石コイル15eを並べることによりリニアモーターとすることができ、これを使って同様に電磁駆動バルブを作製することができる.リニアモーターにおいては、永久磁石と電磁石コイルの極性を合わせる必要性があることから、稼働する永久磁石の位置を検出するセンサー11ebが必要となるが、これを用いることで、サンプル値制御に必要な前記操作時間Δt後のバルブの位置や速度を推定することができる.
電磁駆動バルブの駆動系にリニアモーターを用いた場合、電磁力が通電電流と比例することから、モーターに掛ける電圧信号を設計しやすいというメリットがある.例えば、バルブに掛ける電磁力は(式5)の外力関数FIV(t0+t')によって定められることから、推力係数(逆起電力係数)をκtとすると、電磁石コイル流す電流は、(式70)のように表される.
一方、リニアモーターの電磁石は、コイルと抵抗によりモデル化できることから、コイルに掛ける電圧をE(t0+t')とすると、(式71)が成り立つ.
これにより、コイルに掛ける電圧が設計できる.今、コイルのインダクタンスLを3.85mH、抵抗Rを2.0Ω、推力係数κtを10.0ととすると、図64のバルブリフト量10mmの外力を実現するための電圧は図78、電流は、図79のように表される.高速回転時のエンジンにおいて、リフト量10mmをΔt=4msかけて開いた後、再び4msかけて閉じる電磁駆動バルブに掛かる電圧は250V程度となることから、電気自動車やハイブリッド車で十分に実現可能となることが分かる.
これら電磁駆動バルブの応用においても、バルブの位置や速度を検出するセンサーを取り付けることにより、これらの値のずれから、バルブ踊り等を防止するサンプル値制御が可能であり、より高速なエンジンを実現することができる.
本振動操作関数は、軌道ばかりでなくその駆動力やその駆動力を与えるモーターに掛ける電圧や電流等の関数も得ることができることから、モーター自身のフィードフォワード制御が可能になり、サンプル値制御と組み合わせることで、簡便なDCモーターやリニアモーターにおいても、フィードフォワードを主体とした位置決め可能なモーターができる可能性がある.
この技術は、サーボモーターなどの高価な技術と同様な効果を、安価なDCモーターの改良により可能にできることから、新しい安価な位置決め装置として、産業に貢献することが期待される.
最後に各軌道制御装置において、振動を制御するのに必要な各強制変位関数および各外力関数のパラメーターの定め方について述べる.該第二支持体からなる振動子を単振動子とした場合の固有周期を2πとした無次元化時間tを用いて議論を行う.簡単のため、以下では慣性系を静止座標系にとり、慣性系の速度v0=0とした.静止座標系において実体のある支持体のうち一つを静止座標系の原点に置き、時刻0から、所定の操作時間毎に、制御をおこない、N回目の操作における各支持体の位置および速度につき、Nの添え字で示した.
なお、以下の説明では、異なる原点を持つ複数の座標系を取り扱うことから、慣性系で静止した固定座標系における各支持体の重心の座標を「位置」とよぶ.各N回目の操作において、置かれる3体振動系全体が釣り合い状態にあった時の各支持体の位置を、各支持体の“釣り合い位置”と呼び、固定座標系における固定支持体の釣り合い位置をO、N、固定座標系における第一支持体の釣り合い位置をOX、N、固定座標系における第二支持体の釣り合い位置をOx1、N、固定座標系における第三支持体の釣り合い位置をOx2、Nと呼ぶことにする.
また、各支持体の速度は、座標系の原点の取り方によらないことから、第一支持体の速度をV,N、第二支持体の速度をv1,N、第三支持体の速度をv2,Nと表現する.固定支持体の速度は常に0である.
また現実の問題と比較しやすくするため、3体振動系全体が釣り合い状態にあった時の各支持体間の重心間の距離を定めた.これは質量―バネモデルにおける各質量を質点と考えた時のバネの長さに相当する.そのため、ここではわかりやすく、バネの長さと表現する.今回、固定支持体と第一支持体間のバネの長さをL、第一支持体と第二支持体間のバネの長さをL1、第一支持体と第三支持体間のバネの長さをL2とした.
これにより、各支持体の位置の間には、(式72−1)〜(式72−3)の関係が成り立つ.
また各N回目の操作での固定座標系における第一支持体の位置をY,N、第二支持体の位置をy1,N、第三支持体の位置をy2,Nとおく.各N回目の操作における固定座標系における固定支持体の位置は、OO,N、に等しい.
またN回目の操作における各支持体の位置は、それぞれの釣り合い位置を原点と置く座標系によっても表現され、それぞれ「固定支持体の変位」、「第一支持体の変位」、「第二支持体の変位」、「第三支持体の変位」と呼ぶ.それぞれ、第一支持体の変位をX,N、第二支持体の変位をx1,N、第三支持体の変位をx2,Nと表現する.固定支持体の変位は常に0である.これまでの定義から、(式73−1)〜(式75−3)で表される関係が成り立つ.
固定座標系からみた、全体が釣り合い状態にあった時の各支持体の位置は、図80の上部のように表される.また釣り合い状態から外れた三体振動系の各支持体の位置は、それぞれ図80の下部のように表される.
以下では、各軌道制御装置の場合に分けて、様々な長さとなりうる所定の操作時間Δt毎に続けた一般的な軌道操作における、各種パラメーターの決め方と各支持体の位置や速度の変化について示す.各支持体は、負から正の方向に順に固定支持体、第一支持体、第二支持体と置くものとし、これらの支持体は正の方向に動かすものとして、議論を行う.
そのまえに、今回の発明の各軌道制御装置に関して、共通に成り立つ関係式を示す.
今回の軌道操作を受けた様々な長さとなりうる前記操作時間ΔtN毎の第二支持体の変位や速度は、いずれの場合も、(式74−1)〜(式74−4)の関係式を満たす.
第二支持体は、今回の各軌道制御装置において、常に実在することから、N回目の操作における操作開始時刻である基準時刻t=tNにおける第二支持体の変位x1,Nは目標値として定められる.
一方、N回目の操作における第二支持体の変位の増加量(d1,N)は、それぞれ(式75)の式で表される.
第二支持体は、今回の各軌道制御装置において、常に実在することから、N回目の操作における操作開始時刻である基準時刻t=tNにおける第二支持体の位置y1,Nについては、(式76)の関係式を満たす.
該操作時間Δt毎の離散力学系において、第二支持体と第三支持体間の相互作用と第一支持体の運動とは切り離されることから、被制御体が強制変位関数X(t0+t')による振動制御を受けた場合、第一支持体の変位および速度は、(式77−1、式177−2)の関係式を満たす.
強制変位関数X(t0+t')の値は、第一支持体の変位であることから、第一支持体の変位について、常に(式78)の関係式が成り立つ.
他方、各支持体の速度は、座標系の原点の取り方によらないことから、第二支持体の速度は、常にv1,Nである.また第二支持体の速度V,N=(−1)NV,0となる.前述のように、固定支持体の速度は、常に0である. これはすべての軌道制御装置について等しいことから、以下では、速度の議論は行わない.
次に、個々の軌道制御装置について、議論を行う.
軌道制御装置Aの場合、第二支持体の他に、第一支持体が実在であることから、N回目の操作における操作開始時刻である基準時刻t=tNにおける第一支持体の位置は連続した物理量Y,Nで表される.固定座標系における各基準時間での第一支持体の位置Y,Nと第二支持体の位置y1,Nの時間変化を図81に示す.N回目の操作における第一支持体の変位の増加量(D,N)を定義することで、(式79)の関係式が成り立つ.
軌道制御装置Aの場合、該被制御体が、固定支持体に移動自在に支持された第一支持体と、前記第一支持体に振動自在に支持される第二支持体とで構成されている.そのため第二支持体の他に、第一支持体が実在であることから、基準時刻t=tNにおける第一支持体の位置Y,Nと第二支持体の位置y1,Nが、最初に目標値として設定される.
第一支持体の変位に関する(式78)の関係式より、第一支持体の変位は、(式80)で表される.
固定座標系における第一支持体の釣り合い位置は、(式81)で表される.
よって、強制変位関数X(t0+t')は、(式81)で表される固定座標系における第一支持体の釣り合い位置OX,Nを原点として、X(t0+t')の強制変位が第一支持体に与えられることが分かる.
一方、釣り合い状態における第二支持体と第一支持体の間のバネの長さはL1であることから、第二支持体の釣り合い位置は、(式82)で表される.
よって、第二支持体の軌道関数x1(t0+t')は、(式82)で表される固定座標系における第二支持体の釣り合い位置Ox1,Nを原点として、x1(t0+t')の軌道を描くことが分かる.
他方、釣り合い状態における第一支持体と固定支持体の間のバネの長さはLであることから、固定支持体の釣り合い位置は、(式83)で表される.
軌道制御装置Aにおいて、固定支持体は、仮想であるものの、固定支持体の条件より、常に(式83)で表される固定支持体の釣り合い位置に存在する.
次に軌道制御装置Cの場合、固定支持体に振動自在に取り付けられた第一支持体と、第一支持体に振動自在に第二支持体が取り付けられていることから、第二支持体の他に、第一支持体と固定支持体が実在である.
はじめに、基準時刻t=tNにおける固定支持体の位置は常に固定されていることから、ここを固定座標系の原点にとることで.O,N=0となる.
一方、固定支持体の位置は原点となることから、第一支持体の釣り合い位置は、常にLとなる.また基準時刻t=0における第一支持体の位置は与えられることから、Y,0が定まる.さらに第一支持体の釣り合い位置は、常にLであることから、第二支持体の釣り合い位置は、常にL+L1となる.
外力関数F'IIp(t0+t')で表される振動操作関数による第一支持体の変位は、(式78)の関係式を満たすことから、基準時刻t=tNにおける第一支持体の位置に対して、(式84)の関係式が成り立つ.
外力関数F'IIp(t0+t')で表される振動操作関数による第二支持体の変位は、(式74−1)の関係式を満たすことから、基準時刻t=tNにおける第二支持体の位置に対して、(式85)の関係式が成り立つ.
次に軌道制御装置Eの場合、移動自在に支持された第二支持体から構成されていることから、第二支持体のみが実在である.よって、基準時刻t=tNにおける第二支持体の位置y1,Nは、最初に目標値として設定される.
一方、N回目の操作における第二支持体の変位の増加量(d1,N)は、それぞれ(式75)の式で表される.
第二支持体は、今回の各軌道制御装置において、常に実在することから、N回目の操作における操作開始時刻である基準時刻t=tNにおける第二支持体の位置y1,Nについては、(式76)の関係式を満たす.
よって、固定座標系における第二支持体の釣り合い位置は、(式86)で表される.
一方、釣り合い状態における第二支持体と第一支持体の間のバネの長さはL1であることから、第一支持体の釣り合い位置は、(式87)で表される.
軌道制御装置Eにおいて、第一支持体は、仮想であることから、N回目の操作における第一支持体の位置(Y,N)は、任意に定められる.
一方、N回目の操作における第一支持体の位置と釣り合い位置から、第一支持体の変位の増加量(D,N)は(式88)で表される.
ところが第一支持体の変位について、常に(式80)の関係式が成り立つことから、前記操作時間後に一定距離動いた第一支持体は、各回の基準時刻において.不連続に位置が変化することが分かる.
他方、釣り合い状態における第一支持体と固定支持体の間のバネの長さはLであることから、固定支持体の釣り合い位置は、(式89)で表される.
軌道制御装置Eにおいて、固定支持体は、仮想であるものの、固定支持体の条件より、常に(式89)で表される固定支持体の釣り合い位置に存在する.
次に軌道制御装置Dの場合、固定支持体Dに振動自在に支持された第二支持体とで構成されていることから、第二支持体のみが実在である.よって、基準時刻t=tNにおける第二支持体の位置y1,Nは、最初に目標値として設定される.
一方、N回目の操作における第二支持体の変位の増加量(d1,N)は、それぞれ(式75)の式で表される.
第二支持体は、今回の各軌道制御装置において、常に実在することから、N回目の操作における操作開始時刻である基準時刻t=tNにおける第二支持体の位置y1,Nについては、(式76)の関係式を満たす.
よって、固定座標系における第二支持体の釣り合い位置は、(式86)で表される.
一方、釣り合い状態における第二支持体と第一支持体の間のバネの長さはL1であることから、第一支持体の釣り合い位置は、(式87)で表される.
軌道制御装置Dにおいて、第一支持体の釣り合い位置は固定されていることから、第一支持体の釣り合い位置に原点を取ると、Ox,N=0となり、さらに(式90)が成り立つ.
第一支持体の釣り合い位置は原点であり、第一支持体の変位には、(式80)の関係が成り立つことから、第一支持体の位置は、(式91)が成り立つ.
軌道制御装置Dにおいて、第一支持体は仮想であることから、各回の操作において、第一支持体の変位の増加量(D,N)は任意に定められることから、各回の基準時刻において不連続となる.
他方、釣り合い状態における第一支持体と固定支持体の間のバネの長さはLであることから、固定支持体の釣り合い位置は、(式92)で表される.
固定支持体は釣り合い位置で固定されていることから、固定支持体の位置も、
(式89)で表される固定支持体の釣り合い位置に存在する.
[発明13]
本発明は、ハードディスクにおける磁気ヘッドの軌道を制御する発明3〜発明5のいずれか1つに記載の軌道制御装置であって、
前記第一支持体は、前記ハードディスクが備える、アーム回転軸を有するアームであり、
前記第二支持体は、前記アームに片持ち梁を介して支持された前記磁気ヘッドであり、
前記目標関数は、前記アームに与える前記アーム回転軸の回転角度の強制変位の目標関数であり、
前記制御手段は、前記目標関数に基づいて、前記基準時刻から前記操作時間経過までの間、前記アームに前記回転角度の強制変位を与えることで、前記磁気ヘッドの前記フィードフォワード制御を行う、
軌道制御装置としてもよい.
[発明14]
本発明は、除振台に載置された半導体露光装置が備える半導体露光用光源の軌道を制御する発明6又は発明7に記載の軌道制御装置であって、
前記固定支持体は、前記除振台を載置する基礎であり、
前記第一支持体は、基礎にバネを介して載置された前記除振台であり、
前記第二支持体は、前記半導体露光装置のフレーム全体からなる片持ち梁を介して前記除振台に支持された前記半導体露光用光源であり、
前記目標関数は、前記除振台に与える水平方向の外力の目標関数であり、
前記制御手段は、前記半導体露光装置内部で前記除振台に載置されたウエハーステージに前記水平方向の加速度を与えることで、該加速度と前記ウエハーステージの質量との積で与えられる前記水平方向の外力を前記除振台に与えるものであり、前記目標関数に基づいて、前記基準時刻から前記操作時間経過までの間、前記除振台に前記水平方向の外力を与えることで、前記半導体露光用光源の水平方向の前記フィードフォワード制御を行う、
軌道制御装置としてもよい.
[発明15]
本発明は、高架鉄塔に取り付けられた高圧送電線の軌道を制御する発明3〜発明5のいずれか1つに記載の軌道制御装置であって、
前記第一支持体は、前記高架鉄塔と前記高圧送電線とを結ぶ碍子であり、
前記第二支持体は、前記碍子に支持された前記高圧送電線であり、
前記目標関数は、前記碍子に与える前記高圧送電線と垂直な水平方向の強制変位の加速度の目標関数であり、
前記制御手段は、前記目標関数に基づいて、前記基準時刻から前記操作時間経過までの間、前記碍子に前記水平方向の強制変位を与えることで、前記高圧送電線の前記フィードフォワード制御を行う、
軌道制御装置としてもよい.
[発明16]
本発明は、高架鉄塔に取り付けられた高圧送電線の軌道を制御する発明6又は発明7に記載の軌道制御装置であって、
前記固定支持体は、前記高架鉄塔であり、
前記第一支持体は、前記高架鉄塔に取り付けられた前記高圧送電線を吊り下げる碍子であり、
前記第二支持体は、前記碍子に支持された前記高圧送電線であり、
前記目標関数は、前記高圧送電線に与える該高圧送電線と垂直な水平方向の外力の目標関数であり、
前記制御手段は、前記目標関数に基づいて、前記基準時刻から前記操作時間経過までの間、前記高圧送電線に前記水平方向の外力を与えることで、前記高圧送電線の前記フィードフォワード制御を行う、
軌道制御装置としてもよい.
[発明18]
本発明は、高架鉄塔に取り付けられた導電線の風力によって引き起こされる振動エネルギーを電気エネルギーに変換する発明17に記載の風力発電装置であって、
前記固定支持体は、前記高架鉄塔であり、
前記第一支持体は、前記高架鉄塔に取り付けられた前記導電線を吊り下げる碍子であり、
前記第二支持体および前記導電体は、前記碍子に支持された前記導電線であり、
前記磁場発生手段は、前記導電線に鉛直方向に磁場を与える電磁石であり、
前記磁場制御装置は、前記電磁石に取り付けられた可変電源装置であり、
前記基準情報取得手段は、前記導電線と前記碍子の位置と速度を計測可能な測定器であり、
前記送電手段は、前記導電線の端に取り付けられた変圧器であり、
複数の前記高架鉄塔間に前記導電線を吊り下げることにより、
前記導電線に掛かる風力を、高圧送電線の振動を介して発電に利用する、風力発電装置としてもよい.
[発明19−2]
本発明は、ロボットアームにおけるアーム先端部の振動を抑制する発明3〜発明5のいずれか1つに記載の軌道制御装置であって、前記第二支持体である前記アーム先端部と前記ロボットアームからなる片持ち梁を前記被制御体とし、前記ロボットアームの根元を前記第一支持体とし、前記目標関数は、前記根元に与える回転方向の強制変位の目標関数とし、前記ロボットアームの根元を動かす駆動機構を前記軌道操作アクチュエータとすることを特徴とするロボットアーム先端部の振動抑制装置としてもよい.
[発明20]
本発明は、衝突機械における振動を制御する発明3〜発明5のいずれか1つに記載の軌道制御装置であって、前記第二支持体である金型と前記金型と接続したバネからなる振動体を前記被制御体とし、バネを介して動かす金型駆動部を前記第一支持体とし、前記目標関数は、前記金型駆動部に与える鉛直方向の強制変位の目標関数とし、前記金型駆動部を動かす駆動機構を前記軌道操作アクチュエータとすることを特徴とする衝突機械における金型の軌道制御装置としてもよい.
[発明21]
本発明は、DCリレーにおけるチャタリング防止装置する発明3〜発明5のいずれか1つに記載の軌道制御装置であって、前記第二支持体である移動電極と前記移動電極に接続したバネからなる振動体を前記被制御体とし、前記バネの根元に接続したカムフォロアを前記第一支持体とし、前記目標関数は、前記カムフォロアに与える変位方向の強制変位の目標関数とし、前記カムフォロアを動かす可動カムを前記軌道操作アクチュエータとすることを特徴とするDCリレーにおけるチャタリング防止装置としてもよい.
[発明22]
本発明は、自動ドアにおける駆動装置のフェイルセーフ機能を有する発明3〜発明5のいずれか1つに記載の軌道制御装置であって、前記第二支持体であるドアと前記ドアに接続したバネからなる振動体を前記被制御体とし、前記バネの根元に接続した駆動体を前記第一支持体とし、前記目標関数は、前記駆動体に与える水平方向の強制変位の目標関数とし、前記駆動体を動かすモーターを前記軌道操作アクチュエータとすることを特徴とする自動ドアにおける駆動装置のフェイルセーフ機構としてもよい.
[発明23]
本発明は、容器中の液体のスロッシングを抑制する発明3〜発明5のいずれか1つに記載の前記軌道制御装置であって、前記液体を前記被制御体とし、前記容器を前記第一支持体とし、前記目標関数は、前記容器に与える水平方向の強制変位による加速度の目標関数とし、前記容器を動かす移動機構を前記軌道操作アクチュエータとすることを特徴とする容器中の液体のスロッシング抑制装置としてもよい.
[発明24]
本発明は、免震支承体の上に建てられた建築物の振動を抑制する発明3〜発明5のいずれか1つに記載の軌道制御装置であって、第二支持体である建築物からなる片持ち梁を前記被制御体とし、前記建築物を乗せた前記免震支承体を第一支持体とし、前記目標関数は、前記免震支承体に与える水平方向の強制変位の目標関数とし、前記建築物の前記免震支承体近くを動かすアクチュエータを前記軌道操作アクチュエータとすることを特徴とする建築物の振動抑制装置としてもよい.
[発明25]
本発明は、振動子の質量である表示物を加振もしくは制振する発明3〜発明5のいずれか1つに記載の軌道制御装置であって、第二支持体である振動子による表示装置を前記被制御体とし、前記振動子の根元の接続具を第一支持体とし、前記目標関数は、前記接続具に与える水平方向の強制変位による加速度の目標関数とし、前記接続具を動かすアクチュエータを前記軌道操作アクチュエータとすることを特徴とする振動子による表示装置としてもよい.
[発明29]
本発明は、エンジンのバルブ機構において、エンジン壁に取り付けられたカムによりタペットを介して強制変位を受ける弁バネのサージングを抑制する発明8又は発明9に記載の軌道制御装置であって、前記第二支持体である弁バネ自身の重心の振動を前記被制御体とし、前記エンジン壁を固定支持体Bとし、前記目標関数は、前記弁バネ自身の重心に与える振動方向の外力の目標関数とし、前記弁バネの重心に外力を与える装置を前記軌道操作アクチュエータとし、前記軌道操作アクチュエータにより、前記弁バネの重心に外力を与えることで、前記弁バネの重心の振動を抑制し、前記弁バネの重心の振動により発生する弁躍りを防止することを特徴とするエンジンのバルブ機構における弁躍り防止装置としてもよい.
[発明30]
本発明は、ブラシ付きDCモーターにおいて、モーター外壁に取り付けられた整流子により電機用ブラシを介して強制変位を受けるブラシ押えバネのサージングを抑制する発明8又はD9に記載の軌道制御装置であって、前記第二支持体であるブラシ押えバネ自身の重心の振動を前記被制御体とし、前記モーター外壁を前記固定支持体Bとし、前記目標関数は、前記押えバネ自身の重心に与える振動方向の外力の目標関数とし、前記ブラシ押えバネの重心に外力を与える装置を前記軌道操作アクチュエータとし、前記軌道操作アクチュエータにより、前記ブラシ押えバネの重心に外力を与えることで、前記ブラシ押えバネの重心の振動を抑制し、前記ブラシ押えバネの重心の振動により発生するブラシ躍りを防止することを特徴とするブラシ付きDCモーターにおけるブラシ躍り防止装置としてもよい.
[発明31]
本発明は、電気鉄道の架空電車線方式に使われる車体壁に取り付けられたパンタグラフにおいて、トロリー線により摺動材を介して強制変位を受ける復元バネのサージングを抑制する発明8又は発明9に記載の軌道制御装置であって、前記第二支持体である復元バネ自身の重心の振動を前記被制御体とし、前記車体壁を前記固定支持体Dとし、前記目標関数は、前記復元バネ自身の重心に与える振動方向の外力の目標関数とし、前記復元バネの重心に外力を与える装置を前記軌道操作アクチュエータとし、前記軌道操作アクチュエータにより、前記復元バネの重心に外力を与えることで、前記復元バネの重心の振動を抑制し、前記復元バネの重心の振動により発生する摺動材の離線を防止することを特徴とする電気鉄道の架空電車線方式におけるパンタグラフの離線防止装置としてもよい.
[発明32]
本発明は、バネのサージングを抑制する発明29〜発明31のいずれか1つに記載の軌道制御装置であって、強磁性体を含む前記バネの重心近傍を着磁し、前記バネの重心の周囲にコイルを設置することで、前記バネのサージングにより発生する誘導起電力により、前記バネの振動エネルギーを電気エネルギーに変換することを特徴とするバネのサージングにおけるエネルギーハーベスト装置としてもよい.
[発明33]
本発明は、バネのサージングを抑制する発明29〜発明31のいずれか1つに記載の軌道制御装置であって、強磁性体を含む前記バネの重心近傍を着磁し、前記バネの重心の周囲にコイルを設置することで、前記バネのサージングにより発生する誘導起電力により、前記バネの重心近傍の残留磁化の減少度合いを推定することで、前記バネの疲労度合を検査することを特徴とするバネの疲労度検査装置としてもよい.
[発明34]
本発明は、発明30又は発明31に記載のサージングを抑制するバネであって、使用における一つの整流子片もしくは一つのハンガー間隔を通過する最も短い時間よりも前記バネのサージングの振動の固有周期を短くすることを特徴とするバネの設計法としてもよい.
[発明35]
本発明は、多段圧延装置におけるフレームに振動自在に取り付けられた多段圧延ロールのチャタリングを防止する発明8又は発明9に記載の軌道制御装置であって、前記第二支持体である多段圧延ロールのモード質量と前記多段圧延ロールを接続したバネからなるモード剛性からなる振動体を前記被制御体とし、前記多段圧延ロールにおけるワークロールを前記第二支持体とし、前記フレームを前記固定支持体Dとし、前記目標関数は、前記ワークロールに与える振動方向の外力の目標関数とし、前記多段圧延ロールの軸に外力を与える装置を前記軌道操作アクチュエータとし、前記軌道操作アクチュエータにより、前記多段圧延ロールのモード質量にモード外力を与えることで、前記多段圧延ロールの振動を抑制することを特徴とする多段圧延装置におけるチャタリング防止装置としてもよい.
[発明36]
本発明は、加工除去装置におけるチャックに取り付けられたワーク(シャンク)のびびり振動を防止する発明8又は発明9に記載の軌道制御装置であって、前記第二支持体であるワーク(シャンク)のモード質量と前記ワーク(シャンク)のモード剛性からなる振動体を前記被制御体とし、前記加工除去装置のチャックを前記固定支持体Dとし、前記目標関数は、前記ワークに与える振動方向の外力の目標関数とし、前記ワーク(シャンク)に外力を与える装置を前記軌道操作アクチュエータとし、前記軌道操作アクチュエータにより、前記ワーク(シャンク)のモード質量にモード外力を与えることで、前記ワーク(シャンク)の振動を抑制することを特徴とする前記加工除去装置におけるびびり振動防止装置としてもよい.
[発明37]
本発明は、土台に取り付けられた風車における支柱の振動を防止する発明8又は発明9に記載の軌道制御装置であって、前記第二支持体である前記支柱のモード質量と前記支柱のモード剛性からなる振動体を前記被制御体とし、前記風車の土台を前記固定支持体Dとし、前記モード質量に与える振動方向の外力の目標関数とし、前記支柱に接続された風車の羽根が受ける風の外力を前記軌道操作アクチュエータとし、前記風車の羽根の回転の位相を制御することで、前記支柱のモード質量に前記風の外力によるモード外力を与えることで、前記支柱の振動を抑制することを特徴とする前記風車における振動防止装置としてもよい.
[発明38]
本発明は、洋上風力発電装置における浮体周りの揺れを防止する発明8又は発明9に記載の軌道制御装置であって、前記第二支持体である前記洋上風力発電装置における浮体の重心周りの回転を前記被制御体とし、前記浮体の重心を前記固体支持体Aとし、前記目標関数は、前記浮体に与える重心周りの回転方向の外力の目標関数とし、前記洋上風力発電装置の一部である風車の羽根が受ける風の外力を前記軌道操作アクチュエータとし、前記洋上風力発電装置の羽根のブレードピッチを制御することにより、前記浮体に風の外力による回転モーメントを与えることで、前記浮体の重心周りの回転による揺れを抑制することを特徴とする前記洋上風力発電装置における振動抑制装置としてもよい.
[発明39]
本発明は、洋上風力発電装置における浮体周りの揺れを防止する発明38に記載の振動抑制装置を用いた発電装置であって、前記洋上風力発電装置における浮体のピッチング周りの固有振動数を周囲の波の平均振動数の半分にすることで、洋上の波の上下運動によって生じる前記浮体のヒーブ方向の振動エネルギーをパラメトリック共振により前記浮体のピッチング周りの振動エネルギーに変え、前記洋上風力発電装置の羽根のブレードピッチを制御することにより、前記浮体に風の外力による回転モーメントを与えて、前記浮体のピッチング周りの回転エネルギーを前記洋上風力発電装置の羽根の運動エネルギーに変換し、これを発電に用いることができることを特徴とする前記振動抑制装置を用いた波力発電装置としてもよい.
[発明40]
本発明は、電磁駆動によりエンジンにおけるバルブの軌道を制御する発明10又は発明11に記載の軌道制御装置であって、前記第二支持体である前記バルブを前記被制御体とし、前記エンジンバルブに外力を与える電磁アクチュエータを前記軌道操作アクチュエータとすることで、前記軌道操作アクチュエータにより前記バルブに外力を与えることで、前記バルブの軌道を制御することを特徴とする電磁駆動バルブとしてもよい.
[発明41]
本発明は、
前記制御手段は、
前記被制御体に含まれる実在振動子が、前記被制御体をその一部とする前記三体振動系の該実在振動子に対応する仮想振動子とは異なる場合において、前記仮想振動子の前記固有周期間における、前記実在振動子の運動が前記仮想振動子の運動と一致するように、前記操作時間の間において前記被制御体の少なくとも一部に与える一般化座標の強制変位又は一般化外力の前記目標関数に補正を入れることにより、修正された目標関数に基づいて、
前記基準時刻から前記操作時間経過までの間、前記被制御体の少なくとも一部に前記一般化座標の強制変位または前記一般化外力を与えることで、前記フィードフォワード制御を行う、
発明3〜発明9、D12〜発明39のいずれか1つに記載の軌道制御装置としてもよい.
[発明42]
本発明は、前記制御手段は、前記第二支持体基準一般化座標及び前記第二支持体基準一般化速度と、前記第一支持体基準一般化座標及び前記第一支持体基準一般化速度と、前記第二支持体目標一般化座標及び前記第二支持体目標一般化速度と、から決定される前記操作時間の間の前記三体振動系の自由運動に基づいて定まる、前記基準時刻から前記操作時間後の前記第一支持体の一般化座標及び一般化速度である第一支持体到達一般化座標及び第一支持体到達一般化速度を導出可能であり、
前記第二支持体基準一般化座標と前記第一支持体基準一般化座標との差よりも、前記第二支持体目標一般化座標と前記第一支持体到達一般化座標との差をゼロに近づけ、かつ、前記第二支持体目標一般化速度と前記第一支持体到達一般化速度とをともに同じ速度に近づけることで振動エネルギーを低減させるように、前記第二支持体目標一般化座標及び前記第二支持体目標一般化速度を決定し、該決定した第二支持体目標一般化座標と該決定した第二支持体目標一般化速度とに基づく前記フィードフォワード制御を行うことで、前記第二支持体の振動エネルギーを抑制する、
発明3〜発明9、D12〜発明39、発明41のいずれか1つに記載の軌道制御装置としてもよい.
[発明43]
本発明は、発明1〜発明42のいずれか1つに記載の軌道制御装置であって、
前記被制御体を一部である力学系として含む前記三体振動系における前記固定支持体がその慣性系の基準とする基準物体、の加速度を導出可能な加速度情報を取得する加速度情報取得手段を備え、
前記制御手段は、前記目標関数が前記一般化外力である場合は、前記加速度情報に基づいて導出される前記基準物体に生じた加速度による見かけの力を打ち消すように補正した前記軌道操作関数に従って前記一般化外力を与えることで前記フィードバック制御を行い、前記目標関数が前記一般化座標の強制変位である場合は、前記見かけの力によって生じた前記第二支持体の軌道のずれを打ち消すように補正した前記軌道操作関数に従って前記一般化座標の強制変位量を与えることで前記フィードバック制御を行う
軌道制御装置としてもよい.
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない.
図中の符号1は第二支持体(小振動子1の質量)、符号2は第二支持体のバネ(小振動子1のばね)、符号3は第一支持体(大振動子の質量)、符号4は第一支持体のバネ(大振動子のばね)、符号5は第三支持体(小振動子2の質量)、符号6は三支持体のバネ(小振動子2のばね)、符号7は固定支持体、符号8は一軸アクチュエータ、符号9はモーター、符号10は制御器、符号11は速度・位置センサー、符号12はカム、符号13はカムフォロア、符号14は梃子、符号15はコイル、符号16はバイポーラー電源、符号17はロッド、符号18はロボットハンド、符号19はアーム、符号20は片持ち梁、符号21は磁気ヘッド、符号22はサーボ情報、符号23は記録ディスク、符号24は位置・速度情報算出機、符号25は軸受、符号26は半導体露光装置、符号27は光源、符号28はレンズ、符号29はレクチル、符号30はウエハーステージ、符号31は画像センサー、符号32は除振台、符号33は制御器、符号34は移動機構(クラブトロリー)、符号35はレール、符号36はワイヤー、符号37は運搬物、符号38は高層ビル、符号39は制御器、符号40は免震支承体、符号41はロッド、符号42は油圧アクチュエータ、符号43は土台、符号44は液面センサー、符号45は原油タンク、符号46は鉄塔、符号47は支柱、符号48は碍子、符号49は送電線、符号50はロープ、符号51はモーター、符号52は碍子、符号53はバネ、符号54はロープ、符号55はプーリー、符号56は制御装置および電源、符号57は碍子、符号58は回転可能な取り付け具、符号59は取付台、符号60はコイル、符号61は取付台、符号62は電源、符号63は制御器、符号64は圧縮用バネ、符号65はケース、符号66は1軸レール、符号67はカムフォロア、符号68はカム、符号69は軸、符号70はモーター、符号71は可動電極板、符号72は端子電極、符号73はドア、符号74は壁、符号75は取り付け部、符号76は駆動装置(トロリー)、符号77はレール、符号78は被加工材、符号79はハンマーもしくは金型、符号80は支持台、符号81はフレーム、符号82はロッド、符号83は制御器、符号84は電源、符号85はケース、符号86は看板、符号87はひも、符号88は取付金具、符号89は弾性板、符号90は圧電素子、符号91は支持台、符号92は電源、符号93は制御器および通信装置、符号94は固定部(取り付け磁石)、符号95は太陽電池(電池ボックス)、符号96は弾性梁、符号97は固定部、符号98は容器、符号99は容器内の液体の質量と等価な振り子の質量(仮想)、符号100は等価振り子長さのワイヤー(仮想)、符号101は液体、符号102は台車、符号103は液面計、符号104は設置台、符号105は1軸レール、符号106はバックアップロール、符号107は中間ロール、符号108はワークロール、符号109は被圧延材、符号110は軸、符号111は軸受、符号112はコイル、符号113はプランジャー、符号114は電源、符号115は除去加工装置、符号116はチャック、符号117はシャンク、符号118は工具、符号119はワーク、符号120は支柱、符号121はナセル、符号122は風車の羽根、符号123は風、符号124は軸、符号125はエンジン壁、符号126はバルブ、符号127はバネ、符号128はフレーム、符号129はソレノイド、符号130は鉄芯、符号131はプランジャー、符号132は電源、符号133は制御器、符号134はバネ、符号135は導電体、符号136は電流センサー、符号137は磁気および位置および速度センサー、符号138は外力受け、符号139は外界からの外力、符号140はブレードピッチ回転装置、符号141は浮体、符号142は海洋、符号143は加速度センサー、符号144は車体(バネ上質量)、符号145はバネ下質量、符号146はプレビューセンサー、符号147はサスペンションバネ、符号148は路面、符号149は車輪、符号150は基準時刻における車輪、符号151はロアシート、符号152は永久磁石、符号153はステイター、符号154はエンコーダー付きのアクチュエータ、符号155は減速機、符号156は減速機の回転バネ、符号157はロボットアーム、符号158はロボットアームのエンコーダー、符号159は振り子型波力受け、符号160は海の波、符号161は固定塔、である.なお数字の下にアルファベットのサフィックスのついた符号は、同じ数字の場合、同じ名称である.