以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本発明の一実施形態に係る締結部材Xは、図1に示すように、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備え、例えば、半導体等の工業的製造プロセスを構成する装置や、食品、医療等の分野で用いられる装置に好適に使用されるものである。このような用途に用いられる雄ネジ部材1や雌ネジ部材2には、耐腐食性が要求され、発錆が無いか殆ど無いことも要求される。このような要求を満たすべく、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2は何れもステンレス製のものである。ステンレスであれば特に種類は問わず、オーステナイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト系(二相系)、マルテンサイト系の何れであってもよいが、本実施形態では、オーステナイト系ステンレス製の雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を適用している。
本実施形態に係る締結部材Xは、図2に示すように、上述した分野の製造プロセスにおいて、例えば材料を搬送するためのパイプシステムPの繋ぎ部分に使用されるものである。図1及び図2に示す雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2は、例えば、JIS規格に準拠するSUS304のM16,ピッチ1の60°の三角ネジである。
図1乃至図3に示すように、本実施形態に係る締結部材Xは、雄ネジ部材1として、基端部に六角形の頭部1A(六角ボルト)を有するものを適用している。この雄ネジ部材1は、外周面にネジ山1sが形成されているネジ軸部1Bの先端(ネジ軸部1Bのうち頭部1Aから遠い方の端)に、パイプシステムPを構成するプラスチック製のパイプP1が装着可能なパイプ装着部1Cを一体に形成している。本実施形態では、パイプ装着部1Cとして、ネジ軸部1Bの先端面(軸芯方向に直交する端面)から頭部1Aに対して離間する方向に所定寸法突出する小径部1Caと、小径部1Caの先端に形成した大径部1Cbと、大径部1Cbの先端から先端に向かって漸次小径となるテーパ部1Ccとを有するものを適用している。これら小径部1Ca、大径部1Cb及びテーパ部1Ccの軸中心は、ネジ軸部1B及び頭部1Aの軸中心と一致している。ここで、雄ネジ部材1の頭部1Aは、その基端部(図1の頭部1Aの下端部)が、図示しない別のパイプシステム(パイプ装置部1Cに装着されるパイプP1を有するパイプシステムPとは別のパイプシステムを意味し、以下の説明においても同義で用いる)又は別の装置(パイプ装置部1Cに装着されるパイプP1を有するパイプシステムPを備えた装置とは別の装置を意味し、以下の説明においても同義で用いる)に繋がっている場合もあれば、図示しない前記別のパイプシステム又は前記別の装置に繋がれておらず、止め(封)として機能する場合もある。前者の場合、雄ネジ部材1の内部には頭部1Aも含めて軸方向に貫通する貫通孔が形成され、頭部1Aの基端部(図1の頭部1Aの下端部)には、図示しない前記別のパイプシステム又は図示しない前記別の装置が、適宜の固定手段によって繋がれている。一方、後者の場合は、雄ネジ部材1の内部には貫通孔が形成されておらず、頭部1Aが止めとして機能する。
雌ネジ部材2は、図1及び図2に示すように、外周面を六角ナット状とし、内周面に雄ネジ部材1のネジ山1sに対応したネジ山2sを形成した袋ナット部2Aと、袋ナット部2Aの先端部(図1における袋ナット部2Aの上端部)に設けられ且つ内向きに突出させた鍔部2Bとを一体に有するものである。また、本実施形態の雌ネジ部材2は、袋ナット部2Aのうち先端側の内周面のうち、ネジ山2sを形成していない部分を凹凸のない面に設定したものである。本実施形態では、この凹凸のない面の高さ寸法(軸方向に沿った寸法)を、雄ネジ部材1のパイプ装着部1Cの高さ寸法より所定寸法分だけ短く設定している。
このような雄ネジ部材1及び雄ネジ部材1を有する締結部材Xは、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を相互に螺合締結する前に、雄ネジ部材1のパイプ装着部1CにパイプP1をその下端がネジ軸部1Bの先端に接触する位置まで嵌め込み(図3参照)、次いで、内径をパイプP1の外径よりも僅かに大きく設定し、且つ外径を雌ネジ部材2のネジ軸部1Bの内径よりも小さく設定した金属製の固定用リング3を、パイプP1をその外周側から嵌め込むようにパイプ装着部1Cに装着し(図4参照)、続いて、雌ネジ部材2を、雄ネジ部材1の先端側から雄ネジ部材1に締結する(図2参照)。ここで、雄ネジ部材1の頭部1Aの基端部(図1の頭部1Aの下端部)が、図示しない前記別のパイプシステム又は前記別の装置に固定されている場合、これら雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を相互に螺合締結した状態では、雄ネジ部材1の頭部1Aを含めた雄ネジ部材1全体に亘ってその軸方向に貫通するように形成されている貫通孔を通じて、パイプ装着部1Cに装着したパイプP1を有するパイプシステムと、雄ネジ部材1の頭部1Aの基端部(図1の頭部1Aの下端部)に装着した図示しない前記別のパイプシステム又は前記別の装置との間で流体のスムーズな送通が可能になる。つまり、例えばハイテク用のガスや食品を流体状にして、図1に示すパイプP1を有するパイプシステムPが繋がれている装置から、雄ネジ部材1の頭部1Aの基端部(図1の頭部1Aの下端部)に接続した前記別のパイプシステム又は前記別の装置に流体を送通させることができる。なお、装置の保守や流路の洗浄等の事情で、一時的に流体の送通を中断する場合には、頭部1Aの内部に貫通孔が形成されていない雄ネジ部材1を用いることで、この雄ネジ部材1が封の役目を担う止め部材として機能する。なお、雄ネジ部材の頭部に対する前記別のパイプシステムや前記別の装置の繋ぎ方(固定手段)や雄ネジ部材の頭部の形状は問わない。
このような構成の締結部材Xにおいて締結処理を実施する過程で、雌ネジ部材2を雄ネジ部材1に対してある程度締め付けていくと、雌ネジ部材2の先端部(上端部)に設けた鍔部2Bが固定用リング3を雌ネジ部材2の螺合進行方向(下方)に押圧し、これにより、固定用リング3が、パイプ装着部1Cのテーパ部1Ccとの間で、パイプ装着部1Cに装着しているパイプP1を径方向に挟み込んだ状態(抱え込んだ状態)でそのパイプP1をネジ軸部1B側(下方)に押し込むことになる。この際、パイプP1の端部(下端部)がネジ軸部1Bの先端面(上端面)に当接しているため、図4に示すように、パイプP1のうちテーパ部1Ccから大径部1Cbを越えた部分(テーパ部1Ccよりも下側に存在する部分)は圧縮されて、径方向に膨れるように変形するが、パイプP1の外周面は径方向において雌ネジ部材2の内周面(図示例ではネジ山2sを形成していない面であって且つ凹凸のない面)に対面するため、パイプP1の変形量は制限され、パイプP1に掛かる圧力が高くなる。その結果、その圧力は、固定用リング3を介して雌ネジ部材2を雄ネジ部材1の頭部1Aから離間する方向(上方)へ押圧する力となり、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2のネジ山1s,2s同士が接触する締結状態になる。
このように、締結前であって、且つ固定用リング3を介して雌ネジ部材2を雄ネジ部材1の頭部1Aから離間する方向(上方)へ押圧する力が雌ネジ部材2に作用しない状態(標準状態)では、図5に示すように、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2のネジ山2s,2s同士の間には公差に起因する隙間が存在し、締結作業にもほとんどトルクは掛からないが、固定用リング3を介して雌ネジ部材2を雄ネジ部材1の頭部1Aから離間する方向(上方)へ押圧する力が雌ネジ部材2に作用し始めると、図6に示すように、雄ネジ部材1のネジ山1sを構成する傾斜方向が異なるフランク11,12のうち一方のフランク11(同図における下向き面に相当するフランク11)と、雌ネジ部材2のネジ山2sを構成する傾斜方向が異なるフランク21,22のうち一方のフランク21(同図における上向き面に相当するフランク12)が相互に強く接触する。以下の説明では、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2のそれぞれにおいて、締結時に負荷を受ける側のフランクを圧力側フランク11,21とする。図6では、雌ネジ部材2の圧力側フランク21を相対的に太い実線で示している。なお、図5及び図6では、各図の紙面向かって右側における雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2のネジ山1s,2s同士の位置関係を模式的に示し、この位置関係に準じた位置関係となる紙面向かって左側における雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2のネジ山1s,2s同士の位置関係は省略している。
雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を相互に締結することで、パイプP1を有するパイプシステムP同士を繋ぐことができ、処理装置で加工される素材である液体や、処理装置で必要とされる雰囲気を形成する気体等の流体を、パイプP1を通じて処理装置に送ることが可能になる。
ところで、パイプP1を通じて処理装置に送る流体は、処理装置で処理される製品毎や処理装置の処理目的毎に異なる。したがって、最終製品の仕様によって、段取替(品種や工程内容が変わる際生じる段取り作業、作業開始前の材料、機械等の準備及び試し加工)を行い、パイプP1を通じて装置に送る流体の種類を変更する必要がある。そこで、処理装置に取り付けられたパイプP1と、流体を供給するタンク等の流体供給装置に取り付けられたパイプP1とを繋ぐ部材として上述の締結部材Xを適用し、一つ又は一種類の製品の処理が終わる毎に、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の締結状態を解除(開放)し、処理装置に取り付けられたパイプP1を内部洗浄した後に、そのパイプP1を、再度新たな流体を供給するタンク等の流体供給装置に取り付けられたパイプP1に締結部材Xを介して繋ぐことで、段取替作業を素早くスムーズに行うことができる。
パイプP1内を流れる流体は、雄ネジ部材1と雌ネジ部材2との締結部分やパイプP1の内向き面における腐食や発錆を嫌う場合が多いことから、本実施形態では、上述したように締結部材Xの雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2としてステンレス製のものを適用している。
しかしながら、ステンレスは、焼付き易い特性を有し、最初の締結処理時、又は最初の締結状態を解除する処理(開放処理)時、或いは、取替作業の毎に締結処理と開放処理とを繰り返した時に、焼付きが発生する場合がある。一旦焼付きが生じると、締結処理を適正且つスムーズに行うことができず、仮に締結できたとしても、段取替作業や保守点検の際に要求される開放処理が困難になり、最悪の場合には、処理装置と流体供給装置の両方のパイプシステムP全体を総入れ替えしなければならない事態に陥ることになり、このような事態の発生は現場において是が非でも回避したいという切実な要望がある。
そこで、締結処理時に潤滑剤を用いることで、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2のネジ山同士の摩擦を低減し、焼付きの発生を抑制・低減する態様が考えられる。
しかしながら、潤滑剤を用いることで焼付きは改善されるものの、パイプP1の中を通過する流体にとって、潤滑剤は異物であり、潤滑剤が製品に混入するリスクを考えると、雄ネジ部材1と雌ネジ部材2とを締結する場面における潤滑剤の使用は制限されるか、原則禁止される。また、製品に対する潤滑剤の混入が所定量までであれば許容される場合、その許容量を超えない程度の潤滑剤を使用することで、焼付きの発生を抑制・低減することが可能であると考えられるが、実際には、雄ネジ部材1、雌ネジ部材2、及びそれらの周辺部品を締結処理前に有機溶剤等で完全脱脂処理することや、経時変化によって潤滑剤の滑動効果が低下することで、焼付きが発生することも容易に推察できる。
そこで、本発明者は、J2S規格に準拠するSUS304のM16,ピッチ1の60°の三角ネジである雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備えた上述の締結部材Xを用いて締結実験を行った。締結実験に際して、先ず、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の各ネジ山1S,2Sを切削加工によって、図7に示すように、各ネジ山1S,2Sの角度を規定する互いに異なる方向に傾斜する2つのフランク(雄ネジ部材1であれば図7に示す1つのネジ山1sの角度を規定する2つのフランク11,12であり、雌ネジ部材2であれば図7に示す1つのネジ山2sの角度を規定する2つのフランク21,22である)の断面形状を何れも直線形状(以下では基準断面形状と称する場合がある)に形成し、さらにその雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の各ネジ山1s,2sの表面に、過酷な塑性加工を加えることで、各ネジ山1s,2sの表層の硬度をネジ山1s,2sの内部の硬度よりも高く設定した締結部材Xを作製し、図8に示すように、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の圧力側フランク11,21同士が相互に接触する状態となる締結処理を行ったところ、最初の締結処理時に焼付きは発生せず、締結処理及び解放処理を繰り返し行うことが可能であることが判明した。
ここで、「過酷な塑性加工」として、本実施形態では、切削加工処理後の雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を、高面圧下で、潤滑剤を供給しながら(油中で)、締結処理と開放処理を繰り返して行う処理(以下、油中予締結処理と称す)を採用した。また、このような油中予締結処理を繰り返すことによって、負荷を繰り返し受ける雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の各ネジ山1s,2sの表面部が塑性変形を受けて加工硬化するが、塑性変形後の各圧力側フランク11,21の断面形状(軸線を含む断面形状)がJ2Sで規格化されている寸法公差内に収まるようにしている。
また、本発明者は、油中予締結処理の回数が多いほどネジ山1s,2sの表層の硬度が上昇することに着目し、油中予締結処理を20回行った雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備えた締結部材Xと、油中予締結処理を40回行った雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備えた締結部材Xとをそれぞれ用いて締結実験を行った。さらに本発明者は、塑性加工を施した雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2に対して、窒化処理を施すことで、ネジ山1s,2sの表層の硬度をより一層上昇させた雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備えた締結部材Xを用いて締結実験を行った一方で、極端な軟質材の一例として、切削仕上げの雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2に対して溶体化処理を施し、切削加工処理によるネジ山1s,2sの表面の硬化を完全に除去した雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を用意し、このような雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備えた締結部材Xを比較材という位置付けで締結実験を行った。
締結実験で用いる雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2は、それぞれ少なくとも圧力側フランク11,21を脱脂(好ましくは完全脱脂)したものである。具体的には、締結実験を行う前に、アセトンで雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を含む締結部材Xの全ての部品を十分に洗浄して、全ての油脂分を除去したものである。締結実験では、トルクレンチを使用し、上述した締結手順、つまり、雄ネジ部材1のパイプ装着部1CにパイプP1を嵌め込んで装着し(図3参照)、固定用リング3を、パイプP1を外嵌するようにパイプ装着部1Cに装着した状態(図4参照)で、雌ネジ部材2及び雄ネジ部材1を締結する(図5参照)手順に従って、10秒間で1回転の速度で締結を行った。締結中にトルクが異常に上昇して10Nmを遙かに越えた場合は焼付きが発生したと判断し、締結実験を中止した。この場合は、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の締結状態を解除(解放)することが不可能であった。トルクの急上昇が無く、雌ネジ部材2が雄ネジ部材1の端面(上述した雄ネジ部材1の頭部1Aの端面(図2における上端面))に接触した時点で締結処理を止め、その時点で焼付きが無ければ、開放処理を行い、固定用リング3及びパイプP1を新しいものに取り替えて、締結実験を継続した。
ここで、締結実験を行った複数の締結部材Xごとに、供試材番号を付与し、各供試材である雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の製造履歴(ネジ山1s,2sに対する処理内容)、及びネジ山1s,2sの表層の硬度を表1に示すとともに、供試材ごとに焼付きが生じることなく締結できた回数(締結可能回数)を表2に示す。なお、表1における表層の硬度は、ビッカース硬度であり、例えばネジ山1s,2sの表層に対して10gfの荷重を掛けることで測定された硬度である。
表1における供試材のフランクの表層硬度の値は、フランクの複数箇所における表層硬度を測定した値の範囲、または測定した値のうち最高値を示している。
表1から把握できるように、切削上がりのネジ山1s,2sを有する雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備えた締結部材X(供試材番号1)では、締結可能回数が0回、つまり、最初の締結処理時の途中で焼付きが発生した。また、溶体化処理を施した雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備えた締結部材Xは、溶体化処理の前の処理内容が、切削加工のみである場合(供試材番号4)、切削加工後に塑性変形加工を施した場合(供試材番号5)の何れであっても、締結可能回数は0回であった。
また、切削加工後に、フランクを含むネジ山1s,2sの表面を塑性変形加工した雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備えた締結部材Xが、油中予締結処理を20回行うことでネジ山1s,2sの表面を塑性変形加工した場合(供試材番号2)には、締結可能回数が1回(2回目の締結処理時又は1回目の開放処理時に焼付き発生。以下、締結可能回数について同趣旨である)であり、油中予締結処理を40回行うことでネジ山1s,2sの表面を塑性変形加工した場合(供試材番号3)には、締結可能回数が5回であった。
切削加工した雄ネジ部材1又は雌ネジ部材2の何れか一方又は両方に対して窒化処理(本実験ではプラズマ窒化処理)を施した締結部材X(供試材番号6)では、締結可能回数が15乃至27回であった。具体的に、図9に示すように、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の両方が、切削加工後に窒化処理を施した締結部材Xでは、締結可能回数が15回(同図における円形の点でデータをプロットした散布図参照)であり、雌ネジ部材2が切削上がりであり、雄ネジ部材1が切削加工後に窒化処理を施したものである締結部材Xでは、締結可能回数が21回(同図における正方形の点でデータをプロットした散布図参照)であり、雄ネジ部材1が切削上がりであり、雌ネジ部材2が切削加工後に窒化処理を施したものである締結部材Xでは、締結可能回数が27回(同図における三角形の点でデータをプロットした散布図参照)であった。
また、切削加工後に、フランクを含むネジ山1s,2sの表面を塑性変形加工した雄ネジ部材1又は雌ネジ部材2の何れか一方又は両方に対して窒化処理を施した締結部材X(供試材番号7)では、締結可能回数が0乃至34回であった。具体的に、図10に示すように、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の両方が、切削加工後に塑性変形加工し、さらに窒化処理を施した締結部材Xでは、締結可能回数が34回(同図における円形の点でデータをプロットした散布図参照)であり、雌ネジ部材2が切削上がりであり、雄ネジ部材1が切削加工後に塑性変形加工及び窒化処理を施したものである締結部材Xでは、締結可能回数が0回(同図における正方形の点でデータをプロットした散布図参照)であった。
なお、雄ネジ部材1が切削上がりであり、雌ネジ部材2が切削加工後に塑性変形加工及び窒化処理を施したものである締結部材Xでは、12回目の開放処理を終えて、13回目の締結処理を開始する前の時点トラブルが発生してそれ以降の実験を続行できなくなった。パイプPを固定するリング3の寸法が微妙に異なっていたことがトラブルの原因であり、固定用リング3が雌ネジ部材2の入り口に噛んでしまい、抜き差しならない状態に陥ったことで13回目の締結処理を行うことができなかった。しかしながら、それまでの締結回数は12回であり、同図における三角形の点でデータをプロットした散布図から把握できるように、締め付けトルクが安定しており、上述した全ての締結実験に携わった(締結処理と開放処理を繰り返して行った)本発明者は、そのまま実験を続行していれば30回を遙かに超えるだろうとの感覚(感触)を得ていた。
以上の実験結果から、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の各ネジ山1s,2sの表層硬度を、切削上がりのネジ山1s,2sの表層硬度よりも上昇させることで、耐焼付き性が向上することが判明し、特に、ネジ山1s,2sの表層硬度がビッカース硬度320Hvより大きければ、或いは320Hvを越えれば、複数回の締結処理が可能であることが判明した。
上述の供試材番号2及び供試材番号3の締結部材Xは、切削加工後の雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の両方をネジ山1s,2sに対してそれぞれ所定の塑性変形加工(供試材番号2の雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2については、油中予締結を20回、供試材番号3の雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2については、油中予締結を40回)を施したものであり、雄ネジ部材1又は雌ネジ部材2の何れか一方を切削上がりにした場合や、雄ネジ部材1と雌ネジ部材2とで塑性変形加工の度合い異ならせた場合には、以下の表3に示す実験結果となった。同表における「雄ネジ」,「雌ネジ」の右に付した数字は油中予締結処理の回数である。同表に示す実験結果から把握できるように、雄ネジ部材1のネジ山1sの表層硬度と、雌ネジ部材2のネジ山の表層硬度とが異なった場合であっても、相対的に高い値を示す表層硬度が、ビッカース硬度320Hvを越えれば、複数回の締結処理が可能であることが判明した。
また、供試材番号6の締結部材Xについては、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の両方が、切削加工後に窒化処理を施したものである場合、雌ネジ部材2が切削上がりであり、雄ネジ部材1が切削加工後に窒化処理を施したものである場合、雄ネジ部材1が切削上がりであり、雌ネジ部材2が切削加工後に窒化処理を施したものである場合、これらの何れの場合にも複数回の締結処理が可能であることが実証され、雄ネジ部材1のネジ山1sの表層硬度と、雌ネジ部材2のネジ山の表層硬度とが異なった場合であっても、相対的に高い値を示す表層硬度が、ビッカース硬度320Hvを越える値であれば、複数回の締結処理が可能であることが判明した。特に、供試材番号6の締結部材Xに関しては、雄ネジ部材1のネジ山1sの表層硬度と、雌ネジ部材2のネジ山の表層硬度とが異なった場合の方が、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の各ネジ山1s,2sの表層硬度が同じである場合と比較して、締結可能回数が多くなることが分かった。
供試材番号7の締結部材Xについては、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の両方が、切削加工後に塑性変形加工し、さらに窒化処理を施したものである場合、雄ネジ部材1が切削上がりであり、雌ネジ部材2が切削加工後に塑性変形加工及び窒化処理を施したものである場合は、複数回の締結処理が可能であることが実証され、特に、後者の場合が前者の場合よりも、締結可能回数が多くなることが判明した。一方、供試材番号7の締結部材Xに関して、雌ネジ部材2が切削上がりであり、雄ネジ部材1が切削加工後に塑性変形加工及び窒化処理を施したものである場合は、締結可能回数が0回であったという実験結果に着目すると、雄ネジ部材1のネジ山1sの表層硬度が、切削上がりの雌ネジ部材2のネジ山2sの表層硬度よりも2倍以上高い場合(表1参照)は、焼付きが発生し易く、その原因は、雄ネジ部材1が雄ネジ部材1に対してタップとして作用して、摩耗損傷が生じ易いことであると考えられる。以上より、雄ネジ部材1が切削加工後に塑性変形加工及び窒化処理を施したものである場合は、雌ネジ部材2として切削上がりのものを適用するのではなく、切削加工後に塑性変形加工又は窒化処理の何れか一方の処理を施したもの、或いは切削加工後に塑性変形加工及び窒化処理の両方を施したものを適用することが好ましいことが把握できる。
以上に詳述した実験及び実験結果に基づき、相互に螺合締結可能なステンレス製の雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備えた締結部材Xが、雄ネジ部材1のネジ山1sのうち少なくとも圧力側フランク11の表層硬度、及び雌ネジ部材2のネジ山2sのうち少なくとも圧力側フランク21の表層硬度が、何れもビッカース硬度320Hvを越える第1条件、又は、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の表層の硬度と、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の表層硬度とを互いに異ならせ、相対的に硬度が高い方の圧力側フランクの表層硬度がビッカース硬度320Hvを越える第2条件、の何れか一方の条件を満たすものであれば、耐焼付き性を向上させることが可能であることが判明した。また、雄ネジ部材1と雌ネジ部材2の各圧力側フランク11,21における表層硬度の上限値としては、ビッカース硬度1600Hvを挙げることができ、同下限値としては、ビッカース硬度400Hvを挙げることができる。
特に、第1条件を満たす具体的な構成としては、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の各圧力側フランク11,12に対して、切削加工に加えて、所定の塑性加工又は窒化の少なくとも何れか一方の処理を施す構成を挙げることができる。
また、第2条件を満たす具体的な構成としては、雄ネジ部材1の圧力側フランク1に対して、切削加工に加えて、所定の塑性加工又は窒化の少なくとも何れか一方の処理を施すとともに、雌ネジ部材2の圧力側フランク21に対して、雄ネジ部材2の圧力側フランク21に対する処理とは異なる処理を施す構成や、雌ネジ部材2の圧力側フランク21に対して、切削加工に加えて、所定の塑性加工又は窒化の少なくとも何れか一方の処理を施すとともに、雄ネジ部材2の圧力側フランク21に対して、切削加工のみ、又は切削加工に加えて所定の塑性加工の処理を施す構成を挙げることができる。
なお本発明の構成は、上述した実施形態に限られるものではない。例えば上述の締結実験では、窒化処理として、硬度を短時間で効果的に上昇させることが可能であり、耐焼付き性が格段に向上するプラズマ窒化処理を例示したが、プラズマ窒化処理を施すことで、耐腐食性が劣化するという懸念もある。耐腐食性の劣化を回避すべく、プラズマ窒化を低温で行うことも考えられるが、低温窒化であればプラズマが不安定であり、窒化ムラが起こり易い。そこで、窒化処理としてガス窒化処理、特に低温でのガス窒化処理を採用することも可能である。もちろん、プラズマ窒化やガス窒化以外の窒化処理を選択することも可能である。
また、圧力側フランクに限らず、遊び側フランクに対しても、圧力側フランクと同様の硬化処理を施すことで、ネジ山の強度を向上させることができ、ネジ山の変形、しいてはネジ全体が変形を防止・抑制することができる。一方で、本発明の締結部材は、ネジ山のうち少なくとも圧力側フランクに対して硬化処理を施したものであればよく、遊び側フランクを含む他の部分に対する硬化処理の有無は限定されない。
さらにまた、ネジ山のうち少なくとも圧力側フランクに塑性変形加工を施すと、圧力側フランクの断面形状(軸線を含む断面形状)が標準形状から変形し、この変形した断面形状が、耐焼付き性の向上に寄与する場合も考えられる。
例えば、図11に示すように、締結部材Xを構成する雄ネジ部材1として、ネジ山1sの圧力側フランク11の断面形状を、湾曲させた凸形状に設定したものを適用するとともに、雌ネジ部材2として、ネジ山2sの圧力側フランク21の断面形状を、湾曲させた凹形状に設定したものを適用し、締結部材Xを構成する雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の軸芯を相互に一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態(標準状態)において凸形状の圧力側フランク11を含む雄ネジ部材1のネジ山1sと、凹形状の圧力側フランク21を含む雌ネジ部材2のネジ山2sとが相互に接触しないという条件(標準状態クリアランス条件)を満たす締結部材Xを作製し、締結処理を行ったところ、最初の締結処理時に焼付きは発生せず、締結処理及び解放処理を繰り返し行うことが可能であることが判明した。
特に、図11に示す雄ネジ部材1のネジ山1sにおける圧力側フランク11の凸形状は、雄ネジ部材1の軸芯を通る断面積を増大させる方向(雌ネジ部材2との螺合時に対面する雌ネジ部材2の圧力側フランク21に近付く方向)に湾曲させた凸形状であり、雌ネジ部材2のネジ山2sにおける圧力側フランク21の凹形状は、雌ネジ部材2の軸芯を通る断面積を減少させる方向(雄ネジ部材1との螺合時に対面する雄ネジ部材1の圧力側フランク11から離れる方向)に湾曲させた凹形状である。そして、同図に雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雄ネジ部材1の圧力側フランク21をそれぞれ直線形状(同図中の雄ネジ部材1における山頂境界部分1aと谷底境界部分1bを結ぶ点線で示す直線形状、雌ネジ部材2における山頂境界部分2aと谷底境界部分2bを結ぶ点線で示す直線形状)とした場合における寸法公差の限界までの距離を1とした場合、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の凸形状の突出高さ、及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凹形状の陥没深さを、標準状態クリアランス条件を満たす範囲でそれぞれ1又は限りなく1に近い値に設定した場合、締結可能回数は7回であった。ここで、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の凸形状の突出高さとは、雄ネジ部材1の圧力側フランク11を直線形状とした場合、その直線形状のフランク(同図における山頂境界部分1aと谷底境界部分1bを結ぶ点線で示す直線形状のフランク)からの最大突出長さであり、直線形状のフランクの垂線の最大値である。また、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凹形状の陥没深さとは、雌ネジ部材2の圧力側フランク21を直線形状とした場合、その直線形状のフランク(同図における山頂境界部分2aと谷底境界部分2bを結ぶ点線で示す直線形状のフランク)からの最大陥没深さであり、直線形状のフランクの垂線の最大値である。
このように、標準状態クリアランス条件を満たしつつ、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の凸形状と、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凹形状とを相補的な形状に設定することで、図12に示すように、締結時に、雄ネジ部材1の圧力側フランク11と雌ネジ部材2の圧力側フランク21とが相互に密着し、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雄ネジ部材1の圧力側フランク21をそれぞれ直線形状とした構成と比較して、締結時に接触面積が増大するスピードは圧倒的に早く、雄ネジ部材1の凸形状の圧力側フランク11と、雌ネジ部材2の凹形状の圧力側フランク21とが、締結時に最初は点接触であっても、締結力が増すほどに面接触の領域が速やかに増大し、面圧が急激に上昇する事態を抑制・低減することが可能であり、焼付きが生じ難いと推察できる。なお、図11及び図12では、雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2の軸芯を、直線状の1点鎖線CLで示している。
そして、本発明者は、標準状態クリアランス条件を満たしつつ、雄ネジ部材1の圧力側フランク11及び雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凸形状や凹形状の突出高さ、陥没深さを、適宜の値に設定した複数種類の締結部材Xを用意し、焼付きの生じ難さを究明すべく、上述した締結実験と同様の実験を行った。
その実験結果から、上述の標準状態クリアランス条件を満たしつつ、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の凸形状が、雄ネジ部材1の圧力側フランク11と雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ直線形状である場合の寸法公差の最大値を1として、1/2以上1以下の突出高さを有する凸形状であるという条件、また、上述の標準状態クリアランス条件を満たしつつ、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凹形状が、雄ネジ部材1の圧力側フランク11や雌ネジ部材2の圧力側フランク21がそれぞれ直線形状である場合の寸法公差の最大値を1として、1/2以上1以下の陥没深さを有する凹形状であるという条件、これら何れかの条件を満たす場合に締結可能回数が複数回以上になるということ、換言すれば、焼付きが生じ難いということが判明した。また、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の凸形状と、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の凹形状とが互いに補完する形状(互いにジャストフィットする形状)でなくても、耐焼付き性が向上する場合があることも明らかとなった。
このように、圧力側フランク11の断面形状(軸線を含んだ断面形状)を湾曲させた凸形状とし、軸芯を雌ネジ部材2の軸芯と一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態において凸形状の圧力側フランク11を含むネジ山1sが、雌ネジ部材2のネジ山2sに接触しないように設定した雄ネジ部材1によれば、潤滑剤を用いずとも、また少なくとも圧力側フランク11を脱脂しているものであっても、上述のように焼付きの発生を抑制・低減することができる。耐焼付き性が向上する理由としては、上述したように、締結時に、雄ネジ部材1の圧力側フランク11と、雌ネジ部材2のネジ山2s(具体的には雌ネジ部材2の圧力側フランク21)との接触点又は接触面における面圧が、雄ネジ部材1の圧力側フランク11の断面形状が直線状である態様と比較して減少することにより、従来であれば生じていた高面圧下での点接触に近い状況で周方向に強制摺動を抑制・低減できるからであると考えられる。
また、雄ネジ部材1おいて、圧力側フランク11の凸形状が、雄ネジ部材1の軸芯を通る断面積を増大させる方向、換言すれば、雌ネジ部材2との締結時に対面する雌ネジ部材2のネジ山2sの圧力側フランク21に近付く方向に湾曲させた凸形状であれば、耐焼付き性の向上とともに締結時のトルクを支える体積の増加をも実現することもでき、好適である。
また、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の断面形状を湾曲させた凹形状に設定し、軸芯を雄ネジ部材1の軸芯と一致させ且つ締結の負荷が掛からない螺合状態において凹形状の圧力側フランク21を含むネジ山2sが、雄ネジ部材1のネジ山1sに接触しないように設定した雌ネジ部材2によれば、潤滑剤を用いずとも、また少なくとも圧力側フランク21を脱脂しているものであっても、上述のように焼付きの発生を抑制・低減することができる。このような雌ネジ部材2の耐焼付き性が向上する理由としては、雄ネジ部材1に関して述べた理由と同様に、締結時に、雌ネジ部材2の圧力側フランク21と、雄ネジ部材1の圧力側フランク11との接触点又は接触面における面圧が、雌ネジ部材2の圧力側フランク21の断面形状が直線状である態様と比較して減少することにより、従来であれば生じていた高面圧下での点接触に近い状況で周方向に強制摺動を抑制・低減できるからであると考えられる。
そして、このような雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を備えた締結部材Xによれば、締結時において、断面形状を湾曲させた凸形状に設定した雄ネジ部材1の圧力側フランク11と、断面形状を湾曲させた凹形状に設定した圧力側フランク21とが、互いの湾曲させた面(弧)を密着また密接するように接触することで、締結による負荷発生時の接触面積が増え、この接触面積は締結力が増すほど速やかに増大することが期待でき、面圧の急激な上昇を抑制・低減することが可能であり、フランクの断面形状が直線状である従来の雄ネジ部材及び雌ネジ部材を備えた締結部材と比較して、焼付きが生じ難く、締結処置と開放処理との繰り返し可能回数を増やすことが可能であり、耐焼付き性の改善を図ることができる。
ここで、雄ネジ部材に関して、圧力側フランクの凸形状が、前記寸法公差の最大値を1として、1/2以上1以下の突出高さを有する凸形状であるという第1条件を満たさない凸形状、すなわち1/2に満たさない突出高さや1を超える突出高さを有する凸形状であっても、耐焼付き性が向上する場合はあると推察でき、同様に、雌ネジ部材に関して、圧力側フランクの凹形状が、前記寸法公差の最大値を1として、1/2以上1以下の陥没深さを有する凹形状であるという第2条件を満たさない凹形状、すなわち1/2に満たさない陥没深さや1を超える陥没深さを有する凹形状であっても耐焼付き性が向上する場合はあると推察できる。
雄ネジ部材のネジ山の角度を規定する互いに異なる方向に傾斜する2つのフランク(圧力側フランク、遊び側フランク)の湾曲した凸形状の突出高さに応じて、または凸形状の突出高さに応じることなく、雌ネジ部材のネジ山の角度を規定する互いに異なる方向に傾斜する2つのフランク(圧力側フランク、遊び側フランク)の湾曲した凹形状の陥没深さを適宜の値に設定することが可能である。ここで、雌ネジ(内ネジ)部材は、雄ネジ(外ネジ)部材と比較して、軸芯から遠い位置に配置される部材である。したがって、雌ネジ部材のネジ山とその周辺の部材の肉厚(径方向の厚み)をある程度大きく設定することが可能であり、雌ネジ部材のフランクに、雌ネジ部材の軸芯を通る断面積を減少させる方向に湾曲した凹形状が生じたとしても、ネジ山の強度にはさほど悪影響を及ぼさないと考えられるが、凹形状の陥没深さが大き過ぎると、雌ネジ部材のネジ山が雄ネジ部材のネジ山との締結状態を維持可能な強度を確保できないこともまた推察できる。よって、凹形状の陥没深さは、雌ネジ部材のネジ山が雄ネジ部材のネジ山との適切な締結状態を維持可能な強度を確保できる範囲内で設定することが肝要である。
なお、以上に詳述した雄ネジ部材及び雌ネジ部材の各フランクを湾曲した凸形状又は凹形状に設定する構成は、表層硬度に関する上述の第1条件又は第2条件の少なくとも何れか一方の条件を満たすと構成と相俟って、より一層優れた耐焼付き性を発揮するものである。
また、雄ネジ部材や雌ネジ部材が三角ネジ以外のネジであっても、本発明の根幹をなす技術的思想、つまり表層硬度に関する上述の第1条件又は第2条件の少なくとも何れか一方の条件を満たす構成を採用することによって、耐焼付き性の向上を期待することができる。
締結部材は、上述したような構成を有する雄ネジ部材及び雌ネジ部材を備えたものであればよく、締結処理時に積極的に雄ネジ部材及び雌ネジ部材の各圧力側フランク同士を接触させるための反撥部の構成や、反撥部の有無についても特に制約はない。パイプシステムの繋ぎ部分以外の種々の用途で本発明に係る締結部材を使用することも可能である。
また、雄ネジ部材や雌ネジ部材は、何れもステンレス製で同じ素材から形成されていることが好ましいが、具体的な素材は、SUS304以外のステンレス製のもの、例えばSUS316等であってもよい。
図11等では、圧力側フランク11,21全体の断面形状を湾曲させた凸形状や凹形状に設定した雄ネジ部材1及び雌ネジ部材2を例示したが、圧力側フランクの一部の断面形状のみを湾曲させた凸形状又は凹形状に設定した雄ネジ部材や雌ネジ部材であってもよい。つまり、圧力側フランクの所定部分の断面形状は、湾曲させた凸形状又は凹形状であり、他の部分の断面形状が直線形状であってもよい。遊び側フランクの断面形状もこれに準じた断面形状に設定することが可能である。
また、図11を参照しながら雄ネジ部材1の圧力側フランク11を例にして説明すると、湾曲した凸形状を規定する曲線が、ネジ山1sのうち軸方向に沿った山頂1tの範囲を規定する山頂境界部分1a又は谷底境界部分1bの何れか一方または両方を通過しない曲線であってもよく、さらにいえば、フランクの凸形状や凹形状を規定する曲線は、真円の円弧に限らず、楕円の円弧、放物線であってもよい。雄ネジ部材の遊び側フランク、雌ネジ部材の各フランクの湾曲を規定する曲線についても同様のことがいえる。
本発明に係る雄ネジ部材や雌ネジ部材の製造法は特に限定されず、切削加工又は転造法、或いはその他の製造法で製造されたものであってもよい。
その他、雄ネジ部材及び雌ネジ部材の巻きの方向、条数、径及びピッチ等についても上記実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。