JP2016037031A - 微細繊維を含有する基材シート層と無機層とを含む、耐湿性複合シート - Google Patents

微細繊維を含有する基材シート層と無機層とを含む、耐湿性複合シート Download PDF

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Abstract

【課題】静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基を導入した微細繊維を用いたシートの、高温多湿環境での寸法変化を抑制する。【解決手段】微細繊維(好ましくは、静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基が導入された微細繊維)を含む、基材シート層、および基材シート層の少なくとも一方の側に形成された、無機層を含む、複合シートとする。基材シート層の少なくとも一方の側には、さらに有機層を有していてもよい。【選択図】なし

Description

本発明は、微細繊維含有シートを基材とする複合シートに関する。詳細には、置換基導入微細繊維を含有するシートを基材とし、さらに無機層や有機層を積層することにより、透明性が高い等の微細繊維含有シートの特徴を活かしつつ、高温高湿下での着色、寸法変化が抑制された複合シートに関する。
現在、有機ELや液晶ディスプレイ用基板の多くはガラス板が用いられている。しかし、ガラス板は比重が高く重い、割れる、曲げられないという特性を有しているため、今後の各種ディスプレイの軽量化、フレキシブル化などへの対応は困難だと考えられる。そこで、近年ガラス板代替として、ポリイミド、ポリカーボネートなどのプラスチックフィルムを用いた検討が進められている。プラスチックフィルムに関しては、種々の機能を追加するために、アンカーコート層や無機薄膜層を積層し、製造性やガスバリア性を高める検討が行われてきている(特許文献1)。
近年、繊維径が1μm以下の微細繊維、特にセルロース微細繊維が注目されている。セルロース微細繊維は弾性率が高く、熱膨張率の低いセルロース結晶の集合体であり、この微細繊維から調製された不織布や透明樹脂との複合体は、高透明、高弾性率、低線膨張係数、フレキシブルな特性を有することが報告されている。さらに繊維径の細いセルロース微細繊維の製造方法として、繊維原料を微細化(解繊)しやくするため、静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基を繊維原料に導入する方法が知られている(例えば、特許文献2〜5)。また、繊維原料を微細化(解繊)しやすいだけでなく、微細化(解繊)後の微細繊維含有スラリーの濾水性や脱水性が良好で、かつ得られた微細繊維および該微細繊維含有シートの経時黄変や加熱黄変を改善することが求められている。そのために、置換基導入微細繊維を微細化(解繊)した後、スラリー状の状態で導入した置換基を脱離する方法も検討されている(特許文献6)。
さらにセルロース微細繊維の基材に、酸素バリア性や水蒸気バリア性等を付与することを目的に、無機化合物からなる層を積層すること、熱可塑性樹脂を基材に含有させること、セルロースの配向性を高めること等が検討されてきている(特許文献7〜9)。
特開2012−96551号公報 特開2010−254726号公報 特開2008−308802号公報 国際公開2013/073652 特表2012−511596号公報 国際公開2013/176049 特開2010−125814号公報 特開2011−152693号公報 特開2011−202101号公報
一般に、プラスチックフィルムは、ガラスに比べ、線膨張係数が高く、高温プロセスを必要とする電子素子(無機材料)の形成時に、フィルムの反りや電子素子の破壊が起こり易い。軽量化やフレキシブル化が重視される用途においては、ガラス並みの透明性、低線膨張係数を有し、かつ各種プロセス温度に耐えうる耐熱性や耐黄変性を示す新規材料が求められている。
一方、静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基を導入した微細繊維を用いたシートの光学部材への適用に際する課題として、高温多湿環境での寸法変化がある。湿度による収縮は導入した置換基の影響が大きいものの、セルロースの水酸基も要因となるため、水酸基の封鎖やバリア層を設けることが必要となる。
本発明者らの検討によれば、置換基を導入したセルロース微細繊維を用いたシートは、置換基導入により、高い透明性が獲得されるものの、高温処理による着色が顕著であるという問題があった。一方、スラリーの段階で置換基を脱離させると水中での分散性が低下し、そのままシート化してもシート自体が高透明になり難いという問題があった。しかしながらこれらの問題は、中和度の変更やシート化後の置換基の脱離により、解消されうることが分かった。高温処理によっても着色が生じないのであれば、様々な条件を用いて、種々のバリア層を積層しうる。本発明は、以下を提供する。
[1] 微細繊維を含む、基材シート層、および基材シート層の少なくとも一方の側に形成された、無機層を含む、複合シート。
[2] 微細繊維が、静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基が導入された微細繊維である1に記載の複合シート。
[3] さらに、基材シート層の少なくとも一方の側に形成された有機層を含む、1または2に記載の複合シート。
[4] 微細繊維が、平均繊維幅2〜1000nmのセルロース微細繊維である、1〜3のいずれか1項に記載の複合シート。
[5] 置換基が、リン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される少なくとも1種であり、置換基導入量が0.01〜2.0mmol/gである、1〜4のいずれか1項に記載の複合シート。
[6] 基材シート層の厚みが、0.1〜1200μmである、1〜5のいずれか1項に記載の複合シート。
[7] 無機層が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウムおよび酸化窒化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、1〜6のいずれか1項に記載の複合シート。
[8] 有機層が、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を含む、1〜7のいずれか1項に記載の複合シート。
[9] 基材シート層が:
(a)繊維原料に、置換基導入繊維を得る工程と
(b)工程(a)で得られた置換基導入繊維を機械処理して、置換基導入微細繊維を得る工程と
(c)工程(b)で得られた置換基導入微細繊維からシートを調製する工程と
(d)工程(c)で得られたシートから導入置換基の少なくとも一部を脱離させる工程
を有する製造方法により製造された、1〜8のいずれか1項に記載の複合シート。
[10] 静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基が、リン酸由来の基であり、工程(a)の後であって工程(c)の前に、さらに
(e)置換基導入繊維または置換基導入微細繊維の中和度を変更する工程
を有する製造方法により製造された、9に記載の複合シート。
[11] 基材シート層の少なくとも一方の側に、
無機層、および無機層に積層された有機層が形成された、または
有機層、および有機層に積層された無機層が形成された、1〜10のいずれか1項に記載の、複合シート。
[12] 11に記載の複合シートを用いた、フレキシブルディスプレイ、太陽電池、照明素子、表示素子、タッチパネル、窓材または構造材。
[13] 1〜11に記載の複合シート、または11に記載の太陽電池、照明素子、表示素子、タッチパネル、窓材または構造材を用いた、製品。
本発明によれば、置換基導入微細繊維含有シートを基材とし、透明性、フレキシブル性、低線熱膨張係数を有し、さらに耐湿性が付与された複合シートを構成することができる。
基材シート層のための検量線。リン酸基量が既知である不織布を作製し、蛍光X線分析を実施後、P原子の特性X線強度とリン酸基導入量の検量線を作成し、実験に供試した。 基材シート層のための検量線。カルボキシル基が既知かつNa塩型である不織布を作製し、Na原子の特性X線強度とカルボキシル基導入量の検量線を作成し、実験に供試した。
本発明、その実施態様、その実施例について説明する際、部および%は、特に記載した場合を除き、質量部および質量%の意である。また数値範囲「a〜b」は、特に記載した場合を除き、両端の値aおよびbを含む。
本発明の複合シートは、少なくとも、
(1)基材シート層、および
(2)基材シート層の少なくとも一方の側に形成された、無機層
を含む。
〔基材シート層〕
本発明の複合シートにおける基材シート層は、微細繊維を含む。微細繊維は、好ましくは、静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基が導入された微細繊維である。
<繊維原料>
基材シート層のための繊維原料としては特に限定されないが、例えば、有機繊維、無機繊維、合成繊維等、半合成繊維、再生繊維が挙げられる。有機繊維としては、例えば、セルロース、炭素繊維、パルプ、キチン、キトサン等の天然物由来の繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、岩石繊維、金属繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。合成繊維としては、例えば、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニル、アラミド等が挙げられるがこれらに限定されない。半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、ポリノジックレーヨン、リヨセル、テンセル等が挙げられるがこれらに限定されない。
また、本発明で用いる繊維原料は特に限定されないが、後述する置換基導入が容易になることからヒドロキシル基またはアミノ基を含むことが望ましい。
繊維原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプから選ばれる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、などが挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻、麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロース、キチン、キトサンなどが挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本発明のパルプは上記1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細セルロース繊維の収率が高く、また、パルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細セルロース繊維が得られる点で特に好ましいが、特に限定されない。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択されるが、特に限定されない。この軸比の大きい長繊維の微細セルロース繊維を含有するシートは高強度が得られる。
<静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基>
繊維原料と反応する化合物としては特に限定されない。例えば、リン酸由来の基を有する化合物、カルボン酸由来の基を有する化合物、硫酸由来の基を有する化合物、スルホン酸由来の基を有する化合物、炭素数10以上のアルキル基を有する化合物、アミン由来の基を有する化合物等が挙げられる。取扱いの容易さ、微細繊維との反応性からリン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される少なくとも1種を有する化合物が好ましい。これらの化合物が微細繊維とエステルまたは/およびアミドを形成するのがより好ましいが、特に限定されない。
置換基導入繊維における置換基の導入量(滴定法による。)は特に限定されないが、繊維1g(質量)あたり0.005α〜0.11αが好ましく、0.01α〜0.08αがより好ましい。置換基の導入量が0.005α未満では、後述する工程(b)による繊維原料の微細化(解繊)が困難である。置換基の導入量が0.11αを超えると、繊維が溶解するおそれがある。ただし、αは繊維材料と反応する化合物が反応しうる官能基、例えばヒドロキシル基やアミノ基が繊維材料1gあたりに含まれる量(単位:mmol/g)である。なお、繊維表面の置換基の導入量(滴定法)の測定は、特に記載した場合を除き、次の方法で行うことができる:
絶乾質量で0.04g程度の固形分を含む微細繊維含有スラリーを分取し、イオン交換水を用いて50g程度に希釈する。この溶液を撹拌しながら、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下した場合の電気伝導度の値の変化を測定し、その値が極小となる時の0.01N水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を、滴定終点における滴下量とする。セルロース表面の置換基量XはX(mmol/g)=0.01(mol/l)×V(ml)/W(g)で表される。ここで、V:0.01N水酸化ナトリウム水溶液の滴下量(ml)、W:微細セルロース繊維含有スラリーが含む固形分(g)である。
導入される置換基が、リン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される少なくとも1種である場合、置換基導入量は、特に限定されないが、0.001〜5.0mmol/gとすることができる。0.005〜4.0mmol/gとしてもよく、0.01〜2.0mmol/gとしてもよい。
本発明の実施態様の一つにおいては、置換基導入繊維をシート化した後、後述する工程(d)において導入した置換基を、所望の程度にまで脱離する処理を行うことができる。脱離後の置換基導入量は特に限定されないが、例えば導入時の70%以下、好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下である。あるいは工程(d)は、脱離後のシートの置換基の導入量として、0.7mmol/g以下となるまで行うことができる。0.5mmol以下となるまで行うことが好ましく、0.1mmol/g以下となるまで行うことがより好ましく、0.047mmol/gとなるまで行うことがさらに好ましい。置換基含有量が少ない方が当該シートを加熱した際の黄変等を抑制できる。なお、本発明で基材シート層に関し、置換基導入量というときは、特に記載した場合を除き、蛍光X線分析により測定した値をいう。測定に際しては、必要に応じ、置換基導入量が既知であるシートを作製し、適切な原子の特性X線強度を置換基導入量に対してプロットし、検量線を作成して用いることができる。詳細な測定方法は、本明細書の実施例の項を参考にすることができる。なお、本発明の複合シートおよび基材シート層に関し、置換基導入量というときは、特に記載した場合を除き、最終生産物としての複合シートまたは基材シート層の置換基の量、すなわち工程(d)を経る場合は、脱離後の置換基量を指す。
<繊維幅、等>
置換基導入微細繊維の繊維幅は特に限定されないが、例えば1〜1000nmとすることができ、好ましくは2〜1000nm、より好ましくは2〜500nm、さらに好ましくは3〜100nmである。微細繊維の繊維幅が1nm未満であると、分子が水に溶解しているため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しなくなる。一方、1000nmを超えると微細繊維とは言えず、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が得られない。
微細繊維に透明性が求められる用途においては、繊維幅が30nmを超えると、可視光の波長の1/10に近づき、マトリクス材料と複合した場合には界面で可視光の屈折および散乱が生じ易く、透明性が低下する傾向にある。そのため、繊維幅は特に限定されないが、2nm〜30nmが好ましく、より好ましくは2〜20nmである。前記のような微細繊維から得られる複合体は、一般的に緻密な構造体となるために強度が高く、可視光の散乱が少ないため高い透明性も得られる。
微細繊維の繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%の微細繊維含有スラリーを調製し、該スラリーを親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅広の繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍、20000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。本発明における繊維幅はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
微細繊維の繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上が好ましい。繊維長が0.1μm未満では、微細繊維を樹脂に複合した際の強度向上効果を得難くなる。繊維長は、TEMやSEM、AFMの画像解析より求めることができる。上記繊維長は、微細繊維の30質量%以上を占める繊維長である。
微細繊維の軸比(繊維長/繊維幅)は特に限定されないが、20〜10000の範囲であることが好ましい。軸比が20未満であると基材シート層を形成し難くなるおそれがある。軸比が10000を超えるとスラリー粘度が高くなり、好ましくない。
<厚み>
基材シート層の厚みは、特に限定されないが、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。透明性、フレキシブル性の観点からは、基材シート層の厚みは1200μm以下とすることができ、1000μm以下としてもよく、500μm以下としてもよく、250μm以下としてもよい。
<基材シート層の製造方法>
基材シートは、少なくとも以下を含む製造方法により、製造することができる:
(a)微細繊維原料に静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基を導入して、置換基導入繊維を得る工程と
(b)置換基導入繊維を機械処理する工程と
(c)機械処理済置換基導入繊維からシートを調製する工程と
(d)シートから導入置換基の少なくとも一部を脱離させる工程、またはシートを多価アルコールで処理して導入置換基を脱離させる工程
を有する。
[工程(a)]
工程(a)は、繊維原料に静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基を導入して、置換基導入繊維を得る工程である。工程(a)としては特に限定されないが、乾燥状態あるいは湿潤状態の繊維原料に、該繊維原料と反応するような化合物を混合することにより、繊維原料に上記置換基を導入することが可能である。導入時の反応を促進するため、加熱する方法が特に有効である。置換基の導入における加熱処理温度は特に限定されないが、該繊維原料の熱分解や加水分解等が起こりにくい温度帯であることが好ましい。例えば、繊維原料としてセルロースを含む繊維原料を選択した場合は熱分解温度の観点から、250℃以下であることが好ましく、セルロースの加水分解を抑える観点から、100〜170℃で加熱処理することが好ましい。
繊維原料と反応するような化合物として、リン酸由来の基を有する化合物を用いる場合、特に限定されないが、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらの塩またはエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である。これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、また、繊維原料にリン酸基を導入して微細化(解繊)効率をより向上できることから、リン酸基を有する化合物が好ましいが、特に限定されない。
リン酸基を有する化合物としては特に限定されないが、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウムが挙げられる。更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムが挙げられる。更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウムが挙げられる。更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましいが、特に限定されない。
また、反応の均一性およびリン酸由来の基の導入効率が高いことから化合物は水溶液として用いることが好ましいが、特に限定されない。化合物の水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基導入の効率が高いことから7以下であることが好ましい。繊維の加水分解を抑える観点からpH3〜7が特に好ましいが、特に限定されない。
繊維原料と反応するような化合物として、カルボン酸由来の基を有する化合物を用いる場合、特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸などトリカルボン酸化合物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
上記カルボン酸由来の基を有する化合物のうち、工業的に適用しやすく、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましいが、特に限定されない。
繊維原料と反応するような化合物として、硫酸由来の基を有する化合物を用いる場合、特に限定されないが、無水硫酸、硫酸ならびにこれらの塩およびエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である。これらの中でも、低コストであり、また、繊維原料に硫酸基を導入して微細化(解繊)効率をより向上できることから、硫酸が好ましいが、特に限定されない。
前記工程(a)で繊維原料に置換基を導入することにより溶液中における繊維の分散性が向上し、解繊効率を高めることができる。
[工程(b)]
工程(b)は工程(a)で得られた置換基導入繊維を、解繊処理装置を用いて微細化(解繊)処理して、置換基導入微細繊維を得る工程である。
解繊処理装置としては特に限定されない。例えば、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、クレアミックス、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナーが挙げられる。また、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を適宜使用することができる。
解繊処理の際には、工程(a)で得られた置換基導入繊維を、水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。希釈後の置換基導入繊維の固形分濃度は特に限定されないが、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。希釈後の置換基導入繊維の固形分濃度が前記下限値以上であれば、解繊処理の効率が向上し、前記上限値以下であれば、解繊処理装置内での閉塞を防止できる。分散媒としては特に限定されないが、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては特に限定されないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。さらにアセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。これらは1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、微細繊維含有スラリーの分散安定性を妨げない範囲であれば、上記の水および極性有機溶剤に加えて非極性有機溶媒を使用しても構わない。
微細化(解繊)処理後の微細繊維含有スラリーにおける微細繊維の含有量は特に限定されないが、0.02〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。微細繊維の含有量が前記範囲であれば、後述のシートを製造する際の製造効率に優れ、スラリーの分散安定性に優れる。
[工程(c)]
工程(c)は工程(b)で得られた置換基導入微細繊維を、基材シート層に調製する工程である。
基材シート層は、特に限定されないが、前記微細繊維と前記微細繊維以外の繊維(以下、「追加繊維」という)を少なくとも1種以上混合して調製することもできる。追加繊維としては、例えば、無機繊維、有機繊維、合成繊維等、半合成繊維、再生繊維が挙げられるが、特に限定されない。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、岩石繊維、金属繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。有機繊維としては、例えば、セルロース、炭素繊維、パルプ、キチン、キトサン等の天然物由来の繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。合成繊維としては、例えば、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニル、アラミド等が挙げられるがこれらに限定されない。半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、ポリノジックレーヨン、リヨセル、テンセル等が挙げられるがこれらに限定されない。前記追加繊維は、必要に応じて化学的処理、解繊処理等の処理を施すことができる。追加繊維に化学的処理、解繊処理等の処理を施す場合、微細繊維と混合してから化学的処理、解繊処理等の処理を施すこともできるし、追加繊維に化学的処理、解繊処理等の処理を施してから微細繊維と混合することもできる。追加繊維を混合する場合、微細繊維と追加繊維の合計量における追加繊維の添加量は特に限定されないが、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。特に好ましくは20質量%以下である。
基材シート層の調製に際して、親水性高分子を添加してもよい。親水性高分子としては、特に限定されない。例えば、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース,カルボキシエチルセルロース,カルボキシメチルセルロース等)、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉等が挙げられる。また、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)が挙げられる。さらにポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体等が挙げられる。
また親水性高分子の代わりに親水性の低分子化合物を用いることもできる。親水性の低分子化合物としては、特に限定されない。例えば、グリセリン、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられる。親水性高分子、または親水性の低分子化合物を添加する場合の添加量は、特に限定されない。例えば、微細繊維の固形分100質量部に対し、1〜200質量部、好ましくは1〜150質量部、より好ましくは2〜120質量部、さらに好ましくは3から100質量部である。
基材シート層の調製は、特に限定されないが、典型的には下記の抄紙法、塗工法などに拠ることができる。
[抄紙法]
微細繊維含有スラリーを通常の抄紙で用いられる長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機のほか、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機、さらに手抄き等公知の抄紙方法で抄紙され、一般の紙と同様の方法でシート化することが可能である。つまり、微細繊維含有スラリーをワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得ることが可能である。スラリーの濃度は特に限定されないが、0.05〜5質量%が好ましく、濃度が低すぎると濾過に膨大な時間がかかり、逆に濃度が高すぎると均一なシートが得られないため好ましくない。スラリーを濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維は通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1〜20μm、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1〜20μm、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
微細繊維を含むスラリーからシートを製造する方法としては、特に限定されない。例えばWO2011/013567に記載の方法等が挙げられる。詳細には、次の製造装置を用いることによる。微細セルロース繊維を含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出された前記スラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、前記ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備える。前記搾水セクションから前記乾燥セクションにかけて前記無端ベルトが配設され、前記搾水セクションで生成された前記ウェブが前記無端ベルトに載置されたまま前記乾燥セクションに搬送される。
使用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
[塗工法]
塗工法は、微細繊維含有スラリーを基材上に塗工し、これを乾燥して形成された微細繊維含有層を基材から剥離することにより、シートを得る方法である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。基材の質は、特に限定されないが、微細繊維含有スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板が好ましいが、特に限定されない。その中で、適当なものを単独、または積層して使用するのが好適であるが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。微細繊維含有スラリーを基材上に塗工するには、上記基材に所定のスラリー量を塗工することが可能な各種コーターを使用すれば良いが、特に限定されない。例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター等が使用できる。中でもダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、エアドクターコーター等の塗工方式によるものが均一な塗工には有効である。
乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、40〜120℃とすることが好ましく、40〜105℃とすることがより好ましい。加熱温度を前記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、前記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制および微細繊維の熱による変色を抑制できる。
[工程(d)]
工程(d)は、工程(c)で得られた基材シート層から、導入された置換基の全部または一部を脱離させる工程である。本発明では、前記工程で製造した置換基が導入された微細繊維をシート化した後に、このシートに含有される微細繊維に導入された置換基を脱離させる。
工程(d)で置換基を脱離させるに際しては、アルコールを使用する。脱離する能力が高いという観点からは、多価アルコールを使用することが好ましい。多価アルコールとは、アルコールのうち2以上のOH基を有するものをいう。多価アルコールを用いる場合、OH/C比率が0.15以上のものを用いることが好ましい。より好ましくは0.2以上であるものを用いる。「OH/C比率」とは、分子に含まれる炭素(C)原子あたりのOH基の個数をいい、例えば、エチレングリコール(C262)のOH/C比率は1であり、ジエチレングリコール(C4103)のOH/C比率は0.67である。
多価アルコールであってOH/C比率が0.2以上であるものの例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、グリセリン(グリセロール、1,2,3−プロパントリオール)である。他の例は、ペンタンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、糖アルコールである(例えば、ソルビトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール)である。
工程(d)におけるアルコールの使用量は、置換基の脱離を十分に行うことができる限り特に限定されないが、シート質量に基づき、適宜決定することができる。いずれのアルコールを用いる場合も、例えば、シート1質量部に対し、アルコール1〜100質量部を用いることができる。シート1質量部に対するアルコールの使用量が1質量部より少ないと、脱離を十分に行うことができない場合がある。
工程(d)を行う温度は、置換基の脱離を十分に行うことができる限り特に限定されないが、140℃以上とすることができ、160℃以上が好ましく、170℃以上がより好ましい。ただし、繊維原料の分解が抑えられる温度を選択することが好ましく、特に限定されないが、例えば繊維原料としてセルロースを用いた場合は250℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。また、加熱の際には適宜、酸または塩基などの添加剤を加えてもよい。
工程(d)を行う時間は、置換基の脱離を十分に行うことができる限り特に限定されない。例えばアルコールとしてOH/C比率が1の多価アルコールであるグリセリンを用い、180℃で実施する場合は、10〜120分とすることができ、15〜90分が好ましく、15〜60分がより好ましい。他のアルコールを用いた場合も同様とすることができる。
工程(d)は、所望の程度にまで導入置換基が脱離されるまで行うことができる。脱離後の置換基の量は特に限定されないが、例えば導入時の70%以下、好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下である。あるいは工程(d)は、脱離後のシートの置換基の導入量として、0.7mmol/g以下となるまで行うことができる。0.5mmol以下となるまで行うことが好ましく、0.1mmol/g以下となるまで行うことがより好ましく、0.047mmol/gとなるまで行うことがさらに好ましい。置換基含有量が少ない方が当該シートを加熱した際の黄変等を抑制できる。なお、本発明で基材シート層に関し、置換基導入量というときは、特に記載した場合を除き、蛍光X線分析により測定した値をいう。測定に際しては、必要に応じ、置換基導入量が既知であるシートを作製し、適切な原子の特性X線強度を置換基導入量に対してプロットし、検量線を作成して用いることができる。詳細な測定方法は、本明細書の実施例の項を参考にすることができる。
[工程(e)]
本発明の一の実施態様においては、繊維原料に静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基としてリン酸基が導入される。この場合、工程(a)の後であって工程(c)の前に、さらに(e)置換基導入繊維または置換基導入微細繊維の中和度を変更する工程を有していてもよい。リン酸基が繊維に導入された際には、通常、中和度2(中和度100%ともいう。)である。
例えば、セルロース繊維にリン酸のナトリウム塩を用いてリン酸基を導入した場合、導入後の中和度2(中和度100%)の状態は、セルロース−O−P(=O)(−O-Na+)(−O-Na+)と表される。工程(d)においてアルコールを用いた置換基脱離を行う場合、アルコールが持つ水酸基上の電子対がリン酸基のリンに対し、求核攻撃しやすくなる状態が好ましい。中和度2(中和度100%)の場合、リン酸基はマイナスの電荷が強くなり、求核攻撃しにくくなる。また、セルロース−O−P(=O)(−O-+)(−O-+)と表される中和度0(中和度0%)の状態では、リン酸基間の水素結合が強くなり、求核攻撃しにくくなる。このため、中和度を変更することにより、リン酸基のマイナス電荷量およびリン酸基間の水素結合の影響を小さくすることができ、置換基の脱離効率が向上する。なお、本明細書では、繊維の例としてセルロース繊維を用いた場合を例に説明することがあるが、当業者であれば、その説明を他の種類の繊維を用いた場合にも適用して理解することができる。
工程(e)で中和度を変更する手段は、特に限定されないが、例えば、中和度2(中和度100%)の微細繊維を懸濁液にして、イオン交換処理することが挙げられる。イオン交換処理は、目的の効果が十分に得られ、かつ操作が簡便である点でも好ましい。イオン交換処理に際しては、陽イオン交換樹脂を用いる。また、対イオンとしては通常はH+イオンを用いる。適切な量の陽イオン交換樹脂で十分な時間処理することにより、中和度0(中和度0%)の微細繊維を得ることができる。得られた中和度0(中和度0%)の微細繊維と、中和度を変更していない中和度2(中和度100%)の微細繊維とを適切な比で混合することにより、中和度が0(中和度0%)〜2(中和度100%)の間の種々の中和度の微細繊維を得ることができる。
イオン交換処理に際して、強酸性イオン交換樹脂および弱酸性イオン交換樹脂のいずれも用いることができるが、強酸性のものを用いることが好ましい。具体的には、スチレン系樹脂あるいはアクリル系樹脂にスルホン酸基あるいはカルボキシ基を導入したものを用いることができる。イオン交換樹脂の形状は、特に限定されず、細粒(粒状)、膜状、繊維、液状等、種々のものを用いることができるが、微細繊維を懸濁液を効率よく処理するとの観点からは、粒状であることが好ましい。具体的な例としては、市販の、アンバージェット1020、同1024、同1060、同1220(オルガノ株式会社)が挙げられる。他の例としては、アンバーライトIR−200C、同IR−120B(以上、東京有機化学(株)社)、レバチットSP 112、同S100(バイエル社製)、GEL CK08P(三菱化学)、Dowex 50W−X8(ダウ・ケミカル)等が挙げられる。
イオン交換処理は、具体的には、粒状のイオン交換樹脂と繊維懸濁液(スラリー)を混合し、必要に応じ攪拌・振とうしながら、一定時間イオン交換樹脂と微細繊維とを接触させた後、イオン交換樹脂とスラリーとを分離することによる。
イオン交換樹脂で処理する際、繊維懸濁液(スラリー)の濃度やイオン交換樹脂との比は、特に限定されず、当業者であれば、イオン交換を効率的に行うとの観点から、適宜設計できる。以降の工程でシート化のための処理が容易である濃度としてもよい。具体的には、スラリーの濃度は、0.05〜5質量%が好ましい。濃度が低すぎると処理に時間がかかり、逆に濃度が高すぎると十分なイオン交換の効果が得られないため好ましくない。またこのような濃度範囲のスラリーを用いる場合、例えば、見掛け密度800〜830g/L−R、水分保有能力36〜55%、総交換容量1.8eq/L−Rの強酸性イオン交換樹脂を用いる。このとき、スラリー体積1に対し、1/50〜1/5イオン交換樹脂を用いることができる。処理時間も特に限定されず、当業者であれば、イオン交換を効率的に行うとの観点から、適宜設計できる。例えば、0.25〜4時間かけて処理することができる。
工程(e)は、所望の程度にまで中和度が変更されるまで行うことができる。また上述したように、中和度2(中和度100%)の繊維と中和度0(中和度0%)の繊維とを適切な比で混合することにより、中和度を調節してもよい。いずれの場合であっても、中和度は0(中和度0%)〜2(中和度100%)とすることができ、0.3(中和度15%)〜2(中和度100%)とすることが好ましく、0.3(中和度15%)〜1.7(中和度85%)とすることがより好ましい。
[他の工程]
本発明においては、上記工程(a)〜(d)以外に、必要に応じて、各工程の間、工程(a)の前、または工程(d)の後に、洗浄工程等の他の工程を適宜有してもよいが、特に限定されない。例えば、工程(b)より前段に異物除去工程、工程(b)より後段に遠心分離等による精製工程を採用しても良いが、特に限定されない。脱塩工程は、微細繊維の純度が高まる点で好ましい。脱塩工程を行う場合、手段は特に限定されず、濾過方式による洗浄、透析、イオン交換などが挙げられる。
なお、前掲特許文献6の方法では、基材シート層を調製する前の、スラリー状である微細繊維に対して置換基の脱離を行うために、水中での分散性が劣ることとなり、凝集が起こる場合がある。そのような場合には再分散工程を追加することができるが、シート化後に置換基の脱離を行う本発明においては、この再分散工程を追加しなくても、水中では置換基が維持されているので、置換基による微細繊維の分散効果が十分に発揮される。
〔無機層〕
本発明の複合シートは、基材シート層の少なくとも一方の側に、無機層が形成されている。無機層は、基材シート層の片側にのみ形成されていてもよく、両側に形成されていてもよい。また、基材シート層に接して形成されていてもよく、また基材シート層との間に別の層、例えば後述する有機層を挟んで形成されていてもよい。無機層は、少なくとも1層形成されていればよく、複数の層として積層されていてもよい。
<材質>
無機層を構成する物質としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;またはこれらの混合物が挙げられる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、またはこれらの混合物が好ましい。
<形成方法>
無機層の形成方法は、特に限定されない。一般に、薄膜を形成する方法は大別して、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)と物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)とがあるが、いずれも本発明のために適用できる。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられる。
一方、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。成膜速度が遅いという欠点はあるが、プラズマCVD法以上に、複雑な形状の面でもきれいに覆うことができ、欠陥の少ない薄膜を成膜することが可能であるという利点がある。また、ALD法には、膜厚をナノオーダーで制御することができ、広い面を覆うことが比較的容易である等の利点がある。さらにALD法は、プラズマを用いることにより、反応速度の向上、低温プロセス化、未反応ガスの減少が期待できる。
本発明のための無機層の形成方法としては、ガスバリア性の高い、均一な薄膜が得られるという観点からは、CVD法が好ましく、ALD法がより好ましい。
無機層を形成する際の条件は、当業者であれば、適宜設計できる。上述の工程(e)の中和処理や工程(d)の脱離処理を経た基材シート層であれば、高温多湿下の黄変が抑えられているため、様々な条件を問題なく無機成膜のために採用できる。例えば、置換基脱離処理を行った基材シート層に酸化アルミニウムの無機層を付与する場合、アルミニウム原料として、トリメチルアルミニウム(TMA)、およびTMAの酸化にはH2Oを用い、チャンバー温度を120〜170℃に設定することができる。また、TMAのパルス時間を0.05〜2秒、パージ時間を1〜10秒とし、H2Oのパルス時間を0.05〜2秒、パージ時間を1〜10秒とすることができる。このサイクルを数十〜数百回繰り返すことで、シート両面に膜厚10〜60nmの酸化アルミニウム膜が積層されたシートを得ることができる。
<厚み>
無機層の厚みは、特に限定されないが、安定な防湿性能の発現のためには、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。無機層の厚みは、透明性、フレキシブル性の観点からは、1000nm以下であることが好ましく、800nm以下であることがより好ましく、600nm以下であることがさらに好ましい。なお、本発明の複合シートの無機層に関し、厚みというときは、無機層を複数設ける場合は、特に記載した場合を除き、各々の無機層の厚みを指す。
〔有機層〕
本発明の複合シートは、基材シート層、無機層のほか、有機層を含んでいてもよい。有機層は、基材シート層の片側にのみ形成されていてもよく、両側に形成されていてもよい。また、基材シート層に接して形成されていてもよく、また基材シート層との間に別の層、例えば無機層を挟んで形成されていてもよい。有機層は、1層のみでもよく、複数の層として積層されていてもよい。
有機層の形成に際しては、基材シート層に対して、必要に応じ化学修飾処理や疎水化処理を行った上で、マトリクス樹脂を積層すること等により、行うことができる。本発明の基材シート層は、置換基脱離処理等がされているために高温での黄変が抑えられており、そのため有機層の形成に際しては、通常であれば黄変を促進する加熱工程やUV照射工程を含んでもよく、種々の手段を採りうる。
<マトリクス樹脂素材>
マトリクス樹脂は、特に限定されない。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(熱硬化性樹脂の前駆体が加熱により重合硬化した硬化物)、または光硬化性樹脂(光硬化性樹脂の前駆体が放射線(紫外線や電子線等)の照射により重合硬化した硬化物)等を用いることができる。これらは1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではない。例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。また、環状オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、または非晶性フッ素系樹脂等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。また、不飽和ポリエステル樹脂、珪素樹脂、ポリウレタン樹脂、シルセスキオキサン樹脂、またはジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。
光硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、上述の熱硬化性樹脂として例示したエポキシ樹脂、アクリル樹脂、シルセスキオキサン樹脂、またはオキセタン樹脂等が挙げられる。
さらに、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または光硬化性樹脂の具体例としては、特開2009−299043号公報に記載のものが挙げられる。
上記マトリクス樹脂としては、透明性に優れかつ高耐久性の複合体を得る点では、非晶質でガラス転移温度(Tg)の高い合成高分子が好ましい。非晶質の程度としては、結晶化度で10%以下であるものが好ましく、特に5%以下であるものが好ましい。また、Tgは110℃以上、特に120℃以上、とりわけ130℃以上のものが好ましい。Tgが低いと例えば、熱水等に触れた際に変形する恐れがあり、実用上問題が生じる。マトリクス樹脂のTgはDSC法による測定で求められ、結晶化度は、非晶質部と結晶質部の密度から算定することができる。
また、低吸水性の複合体を得るためには、マトリクス樹脂は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、またはアミノ基などの親水性の官能基が少ないことが好ましい。
有機層を積層した複合シートとしての特に好ましい実施態様の一つでは、マトリクス樹脂として、シルセスキオキサン樹脂を架橋して硬化したポリシルセスキオキサンを用いたものである。本実施態様に用いることができる市販のシルセスキオキサン樹脂としては、例えば、OX−SQ TX−100、OX−SQ SI−20、OX−SQ ME−20、OX−SQ HDX、AC−SQ TA−100が挙げられる。また、MAC−SQ TM−100、AC−SQ SI−20、MAC−SQ SI−20、MAC−SQ HDM(以上、東亜合成)、コンポセランSQシリーズ(荒川化学工業)が挙げられる。シルセスキオキサン樹脂の架橋には、チオール基含有シルセスキオキサン化合物を用いることができる。本実施態様に用いることができる市販のチオール基含有シルセスキオキサン化合物としては、例えば、コンポセランHBSQシリーズ(荒川化学工業)が挙げられる。
別の好ましい実施態様の一つでは、マトリックス樹脂として、電子線や紫外線を照射することにより、ラジカル重合で急速に三次元硬化するウレタンアクリレート樹脂組成物を用いてもよい。本実施態様に用いることができる市販のウレタンアクリレート樹脂としては、例えば、ビームセット575CB(荒川化学工業)等が挙げられる。架橋には、メチルエチルケトンを用いることができる。形成される樹脂層は、耐薬品性、表面硬化性が良好であるので、無機層にさらに積層し、表面硬度の大きい複合シートとするのに適している。
<厚み>
有機層の厚みは、特に限定されないが、基材シート層に耐湿性を付与するのに十分であり、かつシートの低線熱膨張である利点が損なわない程度であることが好ましい。例えば、0.1〜50μm程度とすることができ、0.1〜30μmとしてもよく、0.2〜20μmとしてもよく、0.5〜10μmとしてもよい。なお、本発明の複合シートの有機層に関し、厚みというときは、結城層を複数設ける場合は、特に記載した場合を除き、各々の有機層の厚みを指す。
<マトリクス樹脂の積層方法>
マトリクス樹脂を積層する方法としては、特に制限はなく、例えば、以下の方法が挙げられる。
(a)熱可塑性樹脂シートと基材シート層を交互に配置し、加熱プレス等で密着させる方法。
(b)基材シートの、または基材シートに積層された無機層の片面または両面に、液状の熱可塑性樹脂前駆体、熱硬化性樹脂前駆体および光硬化性樹脂前駆体から選ばれる1以上を塗布して重合硬化させる方法。
(c)基材シートの、または基材シートに積層された無機層の片面または両面に、樹脂溶液を塗布して溶媒を除去し、所望により重合硬化させる方法。ここで、樹脂溶液は、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂前駆体、熱硬化性樹脂前駆体、および光硬化性樹脂前駆体から選ばれる1以上の溶質を含む溶液である。
(a)の方法としては、基材シートの、または基材シートに積層された無機層の片面または両面に、熱可塑性樹脂のフィルムまたはシートを配置し、所望により加熱やプレスすることにより、熱可塑性樹脂と基材シート層を貼り合わせる方法が挙げられる。この場合、基材シート層の表面に接着剤やプライマーなどを塗布して貼り合わせてもよい。貼り合わせる際に気泡を抱き込まないように、加圧された2本のロールの間を通す方法や、真空状態でプレスする方法を用いることができる。
(b)の方法としては、基材シート層の片面または両面に、熱重合開始剤を処方した熱硬化性樹脂前駆体を塗布し、加熱することにより硬化させて両者を密着させる方法が挙げられる。また、基材シート層の片面または両面に、光重合開始剤を処方した光硬化性樹脂前駆体を塗布し、紫外線等の放射線を照射して硬化させる方法が挙げられる。
また、基材シート層に熱または光硬化性樹脂前駆体を塗布した後、さらに基材シート層を重ねるなど、多層構造にしてから、硬化させてもよい。
(c)の方法としては、溶媒に可溶な樹脂を溶解させた樹脂溶液を用意し、基材シート層の片面または両面に塗布し、加熱により溶媒を除去する方法が挙げられる。光硬化性樹脂の場合にはさらに、所望により放射線等による重合硬化を行う。
樹脂を溶解させる溶媒としては、樹脂の溶解性に応じて選択すればよい。
[硬化性組成物]
上記の熱可塑性樹脂前駆体、熱硬化性樹脂前駆体、および光硬化性樹脂前駆体には、適宜、連鎖移動剤、紫外線吸収剤、セルロース以外の充填剤、またはシランカップリング剤等を配合して、組成物(以下、「硬化性組成物」という。)としてもよい。
硬化性組成物が連鎖移動剤を含むと、反応を均一に進行させることができる。連鎖移動剤としては、例えば、分子内に2個以上のチオール基を有する多官能メルカプタン化合物を用いることができる。多官能メルカプタン化合物を用いることにより硬化物に適度な靱性を付与することができる。
メルカプタン化合物としては、特に限定されない。例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(β−チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)、またはトリス[2−(β−チオプロピオニルオキシエトキシ)エチル]トリイソシアヌレート等が挙げられる。これらの1種または2種以上を用いることが好ましい。
硬化性組成物に連鎖移動剤を含有させる場合、連鎖移動剤は硬化性組成物中のラジカル重合可能な化合物の合計に対して、通常30質量%以下の割合で含有させる。
硬化性組成物が紫外線吸収剤を含むと、着色を防止できる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤およびベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤から選ばれ、その紫外線吸収剤は1種類を用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
硬化性組成物に紫外線吸収剤を含有させる場合、紫外線吸収剤は硬化性組成物中のラジカル重合な可能化合物の合計100質量部に対して、通常0.01〜1質量部の割合で含有させる。
充填剤としては、特に限定されないが、例えば、無機粒子や有機高分子などが挙げられる。具体的には、シリカ粒子、チタニア粒子、またはアルミナ粒子などの無機粒子が挙げられる。また、ゼオネックス(日本ゼオン社)やアートン(JSR社)などの透明シクロオレフィンポリマーの粒子、またはポリカーボネートやポリメチルメタアクリレートなどの汎用熱可塑性ポリマーの粒子などが挙げられる。中でも、ナノサイズのシリカ粒子を用いると透明性を維持することができ好適である。また、紫外線硬化性モノマーと構造の似たポリマーの粒子を充填剤として用いると、高濃度までポリマーを溶解させることが可能であり、好適である。
シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えばγ−((メタ)アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−((メタ)アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシランが挙げられる。また、γ−((メタ)アクリロキシプロピル)メチルジエトキシシランγ−((メタ)アクリロキシプロピル)トリエトキシシラン、またはγ−(アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン等が挙げられる。これらは分子中に(メタ)アクリル基を有しており、他のモノマーと共重合することができるので好ましい。
硬化性組成物にシランカップリング剤を含有させる場合、シランカップリング剤は、硬化性組成物中のラジカル重合な可能化合物の合計に対して通常0.1〜50質量%、好ましくは1〜20質量%となるように含有させる。この配合量が少な過ぎると、これを含有させる効果が充分に得られず、また、多過ぎると、硬化物の透明性などの光学特性が損なわれる恐れがある。
[硬化方法]
硬化性組成物は、公知の硬化方法で重合硬化させて、硬化物とすることができる。
硬化方法としては、例えば、熱硬化、または放射線硬化等が挙げられ、好ましくは放射線硬化である。放射線としては、赤外線、可視光線、紫外線、または電子線等が挙げられるが、好ましくは波長1〜1000nmの電磁波である光である。より好ましくは波長が200nm〜450nm程度の電磁波であり、さらに好ましくは波長が300〜400nmの紫外線である。
具体的な硬化性組成物の硬化方法としては、予め硬化性組成物に加熱によりラジカルや酸を発生する熱重合開始剤を添加しておき、加熱して重合させる方法(以下「熱重合」という場合がある。)、予め硬化性組成物に紫外線等の放射線によりラジカルや酸を発生する光重合開始剤を添加しておき、放射線(好ましくは光)を照射して重合させる方法(以下「光重合」という場合がある。)、または予め熱重合開始剤と光重合開始剤の両方を添加しておき、熱と光の組み合わせにより重合させる方法が挙げられる。
放射線照射により重合硬化する場合、照射する放射線の量は、光重合開始剤がラジカルを発生させる範囲であれば任意である。しかし、極端に少ない場合は重合が不完全となるため硬化物の耐熱性、または機械特性が充分に発現されず、一方、極端に過剰な場合は硬化物の黄変等の光による劣化を生じる。そのため、モノマーの組成および光重合開始剤の種類、量に応じて、300〜450nmの紫外線を、好ましくは0.1〜200J/cm2の範囲で、より好ましくは1〜20J/cm2の範囲で照射する。
また、放射線を2回以上に分割して照射すると、さらに好ましい。すなわち1回目に全照射量の1/20〜1/3程度を照射し、2回目以降に必要残量を照射すると、複屈折のより小さな硬化物が得られる。
放射線照射に使用するランプの具体例としては、メタルハライドランプ、高圧水銀灯ランプ、紫外線LEDランプ、または無電極水銀ランプ等を挙げることができる。
重合硬化をすみやかに完了させるために、光重合と熱重合を同時に行ってもよい。この場合には、放射線照射と同時に硬化性組成物を30〜300℃の範囲で加熱して硬化を行う。また、硬化性組成物には、重合を完結するために熱重合開始剤を添加してもよいが、大量に添加すると硬化物の複屈折の増大と色相の悪化をもたらす。そのため、熱重合開始剤の添加量は、硬化性モノマー成分の合計に対して0.1〜2質量%であることが好ましく、0.3〜1質量%であることがより好ましい。
熱重合に使用する熱重合開始剤としては、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシケタール、またはケトンパーオキサイド等が挙げられる。具体的には、ベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)ジクミルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、または1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等を用いることができる。これらの重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
光照射時に熱重合が開始されると、重合を制御することが難しくなるので、熱重合開始剤は好ましくは1分半減期温度が120℃以上300℃以下であることがよい。
光重合に使用する光重合開始剤としては、通常、光ラジカル発生剤または光カチオン重合開始剤が用いられる。光重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
光ラジカル発生剤としては、この用途に用い得ることが知られている公知の化合物を用いることができる。例えば、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、または2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホシフィンオキシド等が挙げられる。これらの中でも、ベンゾフェノン、または2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドが好ましい。
光カチオン重合開始剤とは、紫外線や電子線などの放射線の照射によりカチオン重合を開始させる化合物であり、次のようなものが挙げられる。
例えば、芳香族スルホニウム塩として、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロボレート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルフォニウムヘキサフルオロ、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルフォニウムテトラフルオロボレート、ジフェニル−4−(フェニルチオ)フェニルスルフォニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドテトラフルオロボレート、またはビス[4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエトキシ))フェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
芳香族ヨードニウム塩としては、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロボレート、または4−メチルフェニル−4−(1−メチルエチル)フェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
芳香族ジアゾニウム塩としては、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、またはジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
芳香族アンモニウム塩としては、1−ベンジル−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ベンジル−2−シアノピリジニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムテトラフルオロボレート、1−(ナフチルメチル)−2−シアノピリジニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−鉄塩としては、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−鉄(II)ヘキサフルオロアンチモネート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−鉄(II)テトラフルオロボレート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−鉄(II)テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
これらの光カチオン重合開始剤の市販品としては、例えば、ユニオンカーバイド社製のUVI6990、UVI6979、ADEKA社製のSP−150、SP−170、またはSP−172、チバガイギー社製のイルガキュア261、またはイルガキュア250、ローディア社製のRHODORSIL PI2074、JMF−2456、または三新化学工業社製のサンエイドSI−60L、SI−80L、SI−100L、SI−110L、SI−180L、またはSI−100L等が挙げられる。
さらに、光カチオン重合開始剤の他にも、カチオン重合性モノマーを硬化させるための硬化剤を添加してもよい。硬化剤としては、例えば、アミン化合物、アミン化合物から合成されるポリアミノアミド化合物等の化合物、3級アミン化合物、イミダゾール化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、酸無水物、フェノール化合物、熱潜在性カチオン重合触媒、またはジシアンアミドおよびその誘導体等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、熱潜在性カチオン重合触媒としては、アデカオプトン CP−66、またはCP−77((株)ADEKA社製)、またはサンエイド SI−15、SI−20、SI−25、SI−40、SI−45、SI−47、SI−60、SI−80、SI−100、SI−100L、SI−110L、SI−145、SI−150、SI−160、またはSI−180L(三新化学工業(株)社製)などが挙げられる。
また、光増感剤を添加することもできる。具体的にはピレン、ペリレン、アクリジンオレンジ、チオキサントン、2−クロロチオキサントンおよびベンゾフラビン等が挙げられる。市販の光増感剤としては、アデカイプトマーSP−100((株)ADEKA社製)などが挙げられる。
光重合開始剤の成分量は、硬化性組成物中の重合可能な化合物の合計を100質量部としたとき、0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以上であることがさらに好ましい。また、前記光重合開始剤の成分量は、5質量部以下であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以下であることがさらに好ましい。
すなわち、前記光重合開始剤の成分量の範囲は、硬化性組成物中の重合可能な化合物の合計を100質量部としたとき、0.001〜5質量部が好ましく、0.01〜2質量部がより好ましく、0.05〜0.1質量部がさらに好ましい。
ただし、光重合開始剤が光カチオン重合開始剤である場合には、カチオン重合性モノマーの総量100質量部に対して、0.01質量部以上である。好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上であり、通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下である。
すなわち、光重合開始剤が光カチオン重合開始剤である場合には、前記光重合開始剤の成分量の範囲は、カチオン重合性モノマーの総量100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましい。また、0.1〜5質量部がより好ましく、0.5〜1質量部がさらに好ましい。
光重合開始剤の添加量が多すぎると、重合が急激に進行し、得られる硬化物の複屈折を大きくするだけでなく色相を悪化させる。例えば、光重合開始剤の濃度を5質量部とした場合、光重合開始剤の吸収により、紫外線の照射と反対側に光が到達できずに未硬化の部分が生ずる。また、黄色く着色し色相の劣化が著しい。一方、少なすぎると紫外線照射を行っても重合が充分に進行しないおそれがある。
[樹脂複合化の前段階としての化学修飾処理]
基材シートに有機層を積層する場合には、樹脂との密着性を向上させるため、マトリクス樹脂の積層前に、基材シート層に対し、化学修飾処理を施すことができる。
化学修飾とは、セルロース中のヒドロキシ基に化学修飾剤を反応させて化学修飾剤が有していた構造を含む官能基を付加させることである。
修飾方法としては、特に限定されるものではないが、セルロース繊維と次に挙げるような化学修飾剤とを反応させる方法がある。この反応条件についても特に限定されるものではないが、所望により溶媒、又は触媒等を用いたり、加熱、又は減圧等を行ったりすることもできる。
化学修飾剤の種類としては、酸、酸無水物、アルコール、ハロゲン化試薬、イソシアナート、アルコキシシラン、アルコキシシロキサン、シラザン及びオキシラン(エポキシ)等の環状エーテルからなる群より選ばれる1種又は2種以上の物質が挙げられる。
酸としては、例えば酢酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロパン酸、ブタン酸、2−ブタン酸、又はペンタン酸等が挙げられる。
酸無水物としては、例えば無水酢酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水プロパン酸、無水ブタン酸、無水2−ブタン酸、又は無水ペンタン酸等が挙げられる。
ハロゲン化試薬としては、例えば、アセチルハライド、アクリロイルハライド、メタクロイルハライド、プロパノイルハライド、ブタノイルハライド、2−ブタノイルハライド、ペンタノイルハライド、ベンゾイルハライド、ナフトイルハライド等が挙げられる。
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール等が挙げられる。
イソシアナートとしては、例えば、メチルイソシアナート、エチルイソシアナート、プロピルイソシアナート等が挙げられる。
アルコキシシランとしては、例えば、メトキシシラン、エトキシシラン等が挙げられる。
アルコキシシロキサンとしては、例えば、ブトキシポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
シラザンとしては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ジフェニルテトラメチルジシラザン等が挙げられる。
オキシラン(エポキシ)等の環状エーテルとしては、例えば、エチルオキシラン、エチルオキセタン等が挙げられる。
これらの中では特に無水酢酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、ベンゾイルハライド、ナフトイルハライド、メトキシシラン又はヘキサメチルジシラザンが好ましい。
これらの化学修飾剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性触媒や、酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒を用いることが好ましい。
化学修飾の際の温度条件としては、高すぎるとセルロースの黄変や重合度の低下等が懸念され、低すぎると反応速度が低下することから、10〜250℃が好ましい。反応時間は化学修飾剤や化学修飾率にもよるが、通常、数分間から数十時間である。
本発明において、セルロースの化学修飾率は、セルロースの全ヒドロキシ基に対して、通常65mol%以下、好ましくは50mol%以下、より好ましくは40mol%以下である。化学修飾率の下限は特にない。
化学修飾を行うことで、セルロースの分解温度が上昇し、耐熱性が高くなるが、化学修飾率が高すぎると、セルロース構造が破壊されて結晶性が低下するため、後述する複合体においては線熱膨張係数が大きくなる傾向にあり、好ましくない。
ここでいう化学修飾率とは、セルロース中の全ヒドロキシ基のうちの化学修飾されたものの割合のことである。化学修飾率は、IR、NMR、又は滴定法などにより求めることができる。例えば、滴定法によるセルロースエステルの化学修飾率は、前掲特許文献4に記載にしたがって求めることができる。
基材シート層に化学修飾を行った場合、化学修飾後、反応を終結させるために充分に洗浄することが好ましい。未反応の化学修飾剤が残留していると、後で着色の原因になったり、樹脂と複合化する際に問題になったりするので好ましくない。また、充分に洗浄した後、さらにアルコール等の有機溶媒で置換することが好ましい。この場合、基材シート層をアルコール等の有機溶媒に浸漬しておくことで容易に置換することができる。
また、基材シート層に化学修飾を行った場合、通常は、化学修飾後に基材シート層を乾燥する。この乾燥は送風乾燥であってもよいし、減圧乾燥であってもよいし、加圧乾燥であってもよいし、加熱乾燥であってもよい。
乾燥の際に加熱する場合、温度は50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、また、250℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
すなわち、乾燥の際に加熱する場合の温度の範囲は、50〜250℃が好ましく、80〜150℃がより好ましい。
加熱温度が低すぎると乾燥に時間がかかったり、乾燥が不充分になる可能性があり、加熱温度が高すぎると基材シート層が着色したり、分解したりする可能性がある。
また、加圧する場合、圧力(ゲージ圧)は0.01MPa以上が好ましく、0.1MPa以上がより好ましく、また、5MPa以下が好ましく、1MPa以下がより好ましい。
すなわち、加圧する場合の圧力(ゲージ圧)の範囲は、0.01〜5MPaが好ましく、0.1〜1MPaがより好ましい。
圧力が低すぎると乾燥が不充分になる可能性があり、圧力が高すぎると基材シート層がつぶれたり分解したりする可能性がある。
〔複合シート〕
<積層化>
本発明により構成される複合シートは、静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基が導入された微細繊維を含む基材シート層、および基材シート層の少なくとも一方の側に形成された、無機層を含む。複合シートは、基材シート層の少なくとも一方の側に形成された、少なくとも1層の無機層と少なくとも1層の有機層とを含むことが好ましい。無機層と有機層とを積層する場合、順番は特に限定されないが、基材シートの表面にまず有機層を積層することは、無機層を形成するための面を平滑にし、形成される無機層をより欠陥の少ないものとすることができる点で好ましい。また、有機層および無機層以外の他の構成層、例えば、上層の接着を容易にするための易接着層を含んでいてもよい。
無機層、有機層等の層数は特に限定されない。フレキシブル性や透明性を維持しつつ、耐湿性を十分にするとの観点からは、片側について、例えば、無機層と有機層とを交互に2層〜15層積層することが好ましく、3層〜7層積層することがより好ましい。
<特に好ましい特性>
本発明により得られる複合シートは、光学材料としての好ましい特性である、全光線透過率、ヘーズ、黄色度、線熱膨張係数、および水蒸気透過率等を有しうる。これらの特性の測定方法と好ましい範囲を以下に説明する。
[全光線透過率]
本発明に関し、全光線透過率(%)というときは、特に記載した場合を除き、JIS規格K7105に準拠し、ヘーズメータを用いてC光により測定した値をいう。
本発明の構成とすることにより、フレキシブル性、低線熱膨張係数を有し、さらに耐湿性が付与された複合シートにおいて、全光線透過率を80%以上とすることができる。好ましい態様においては82%以上とすることができ、より好ましい態様においては、90%以上とすることができる。
[ヘーズ]
本発明に関し、ヘーズ値というときは、特に記載した場合を除き、JIS規格K7136に準拠し、ヘーズメータを用いてC光による測定した値をいう。ヘーズはシートの透明性に関する指標であり、濁度(曇度)を表す。拡散透過光の全光線透過光に対する割合から求められるもので、表面の粗さにも影響を受けうる。
本発明の構成の複合シートとすることにより、フレキシブル性、低線熱膨張係数を有し、さらに耐湿性が付与された複合シートにおいて、ヘーズ値を2以下とすることができる。好ましい態様においては1.2以下とすることができ、より好ましい態様においては、1.0以下とすることができる。
[黄色度]
本発明に関し、黄色度というときは、特に記載した場合を除き、対象となるシートをASTM規格に準拠し、E313黄色インデックス(YI)を適切な分光光度計(Spectro Eye)により求められる値をいう。黄色度は、200℃、真空下の4時間加熱の前後で測定し、それらの差により判断することができる。
本発明の構成の複合シートとすることにより、加熱後の黄色度(YI)を、23以下にすることができる。好ましい態様においては12以下とすることができ、より好ましい態様においては、8以下とすることができる。また本発明の構成の複合シートとすることにより、加熱前後の黄色度の変化(△YI)を、17以下にすることができる。好ましい態様においては5以下とすることができ、より好ましい態様においては、3以下とすることができる。
[線熱膨張係数]
本発明に関し、線熱膨張係数というときは、特に記載した場合を除き、次のように求めた値をいう。対象となるシートをレーザーカッターにより、3mm幅×30mm長に切断する。これをチャック間20mm、荷重10g、窒素雰囲気下、室温から180℃まで5℃/min.で昇温、180℃から25℃まで5℃/min.で降温、25℃から180℃まで5℃/min.で昇温する。2度目に昇温したときの60℃から100℃の測定値から、線熱膨張係数を求める。
本発明の構成の複合シートとすることにより、線熱膨張係数を18以下とすることができる。好ましい態様においては15以下とすることができ、より好ましい態様においては、10以下とすることができる。
[湿度膨張係数]
本発明に関し、湿度膨張係数というときは、特に記載した場合を除き、適切な湿度伸縮測定装置を用い、本明細書の実施例の項に記載した条件で求めた値をいう。
本発明の構成の複合シートとすることにより、透明性が高く、フレキシブル性、低線熱膨張係数を有する複合シートにおいて、湿度膨張係数を50以下とすることができる。好ましい態様においては40以下とすることができ、より好ましい態様においては、20以下とすることができる。
[水蒸気透過率]
本発明に関し、水蒸気透過率(g/m2・day)というときは、特に記載した場合を除き、JIS規格K7129に準拠し、適切な水蒸気透過率測定装置を用いて、温度40℃、90%RHの雰囲気下で測定したときの値をいう。
本発明の構成の複合シートとすることにより、透明性が高く、フレキシブル性、低線熱膨張係数を有する複合シートにおいて、水蒸気透過率を800g/m2・day以下とすることができる。好ましい態様においては400g/m2・day以下とすることができ、より好ましい態様においては、200g/m2・day以下とすることができる。
[その他]
本発明の構成の複合シートとすることにより、表面粗さ、表面硬度、屈曲試験(マンドレル法)等においても優れたシートを得ることができる。これらの試験方法は、当業者にはよく知られている。
〔複合シートの用途〕
本発明の実施態様においては、透明性、高弾性率、低潜熱膨張係数を有するという微細繊維含有シートの特性を活かしつつ、黄変が抑えられ、かつ耐湿性が向上した複合シートが得られる。このような複合シートは、光学特性に優れるため、表示素子、照明素子、太陽電池もしくは窓材、またはこれらのためのパネルもしくは基板として用いるのに適している。
より具体的には、複合シートは、フレキシブルディスプレイ、タッチパネル、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイ、LED素子として用いるのに適している。また、複合シートは、シリコン系太陽電池、色素増感太陽電池などの太陽電池用基板として用いるのに適している。基板としての用途において、バリア膜、ITO、TFT等と積層してもよい。また、自動車、鉄道車両、航空機、住宅、オフィスビル、工場等の窓材として用いるのに適している。窓材としては、必要に応じてフッ素皮膜、ハードコート膜等の膜や耐衝撃性、耐光性の素材を積層してもよい。
複合シートは、低線膨張率、高弾性、高強度、軽量等の特性を生かして、透明材料用途以外の構造材としても用いることができる。特に、グレージング、内装材、外板、バンパー等の自動車、鉄道車両、航空機の材料、パソコンの筐体、家電部品、包装用資材、建築資材、土木資材、水産資材、その他工業用資材等として好適に用いることができる。
本発明の実施態様において提供される複合シートは、種々の製品に用いることができる。製品の例としては、上述の表示素子またはディスプレイを用いたコンピュータ、タブレット端末、携帯電話機;照明素子を利用した、電球、照明(照明器具・照明装置)、誘導灯、液晶パネル用バックライト、懐中電灯、自転車用前照灯、自動車車内灯およびメーターランプ、交通信号機、建物内外の高所照明、家庭用照明、学校用照明、医療用照明、工場用照明、植物育成用ライト、映像ライティング用照明、コンビニエンスストア等の24時間または深夜営業店舗における照明、冷蔵・冷凍庫内の照明灯;窓材や構造材を用いた、家屋、ビル、自動車、鉄道車両、航空機、家電等、様々なものを挙げることができる。
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明の範囲は、実施例によって限定されない。
〔実施例1〕
<リン酸基導入セルロース繊維の作製>
未叩解針葉樹クラフトパルプ(王子ホールディングス製)を絶乾質量で1000gに、尿素、リン酸ナトリウム(リン原子とナトリウム原子のモル比Na/P=1.45)、水からなる薬液を含浸させ、圧搾し、余剰の薬液を搾り取り、薬液含浸パルプを得た。薬液含浸パルプは絶乾質量で1000gのパルプ、950gの尿素、リン原子として400gのリン酸ナトリウム、1200gの水を含んでいた。薬液含浸パルプを150℃に加熱したオーブンで乾燥、加熱処理し、パルプにリン酸基を導入した。乾燥、加熱工程を経た薬液含浸パルプに、25Lのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを25Lのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが11〜13のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再び25Lのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、リン酸変性セルロース繊維を得た。
<機械処理>
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、1.0質量%のパルプ懸濁液にした。このパルプ懸濁液を、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社製:Panda Plus 2000)で、操作圧力1200barにて5回パスさせ、微細繊維状セルロース懸濁液を得た。さらに、湿式微粒化装置(スギノマシン社製:アルティマイザー)で245MPaの圧力にて5回パスさせ微細繊維状セルロース懸濁液(1)を得た。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、4.2nmであった。
<中和度変更>
機械処理により得られた微細繊維状セルロース懸濁液(1)に体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製:アンバージェット1024)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離し、微細繊維状セルロース懸濁液(2)を得た。微細繊維状セルロース懸濁液(1)と微細繊維状セルロース懸濁液(2)を体積比50:50で混合し、微細繊維状セルロース懸濁液(3)を得た。
<シート化>
微細繊維状セルロース懸濁液(3)にポリエチレングリコール(和光純薬社製:分子量400万)を微細繊維状セルロース100質量部に対し、15質量部になるように添加した。なお、固形分濃度が0.5質量%となるよう濃度調製を行った。シートの仕上がり坪量が37.5g/mになるように懸濁液を計量して、市販のアクリル板に展開し50℃のオーブンにて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の板を配置し、得られるシートが四角形になるようにした。以上の手順により、シートを得た。得られたシートの厚さは25μm、密度は1.49g/cm3であった。
<置換基脱離処理>
ステンレス板の上にスペーサーとして耐熱性ゴムシート(信越化学製:X−30−4084−U)に15cm角の穴をあけたものを載せ、穴の中にグリセリン50mLを展開した。そこに12cm四方に切り出したシートを浸漬し、その上にステンレス板を重ねて、180℃に加熱した熱プレス機(井元製作所製:手動油圧真空加熱プレス)に設置した。置換基脱離処理として、前記シートを180℃で30分間処理した後、シートを150mLのメタノールに浸漬し、洗浄を行った。洗浄を3回繰り返し、シートをガラスに貼り付け、100℃で5分加熱乾燥させ、シートを得た。
<酸化アルミニウム成膜処理>
置換基脱離処理を行った前記シートを、SUNALE R-100B(Picosun社製)で、酸化アルミニウム成膜を行った。アルミニウム原料として、トリメチルアルミニウム(TMA)、TMAの酸化にはH2Oを用いた。チャンバー温度を150℃に設定し、TMAのパルス時間を0.1秒、パージ時間を4秒とし、H2Oのパルス時間を0.1秒、パージ時間を4秒とした。このサイクルを405サイクル繰り返すことで、シート両面に膜厚30nmの酸化アルミニウム膜が積層されたシートを得た。
〔実施例2〕
実施例1と同様にして得られた置換基脱離シートの両面に、下記の手順で樹脂層を積層した。シルセスキオキサン系樹脂(荒川化学工業社製「コンポセランSQ107」)10重量部、硬化剤(荒川化学工業社製「HBSQ202」)30重量部、イソプロピルアルコール60重量部を混合し、塗工液を得た。次いで、基材の片面に塗工液をメイヤーバーにて塗工した。その後、100℃で3分間乾燥した後、UVコンベア装置(アイグラフィックス社製「ECS−4011GX」)を用いて300mJ/cm2の紫外線を照射して、塗工液を硬化し、厚さ5μmの樹脂層を成膜した。さらに、反対側の面にも同様の手順で厚さ5μmの樹脂層を成膜した。さらに得られた樹脂積層シート上に、実施例1と同様にして、酸化アルミニウム成膜した。以上の手順により、樹脂層を堆積した両面に、酸化アルミニウム膜が積層されたシートを得た。
〔実施例3〕
実施例2で得られた樹脂積層シートに、ICP−CVDロールtoロール装置(セルバック社製)でシリコン酸窒化膜を成膜した。キャリアフィルム(PETフィルム)の上面に、樹脂積層シートを両面テープで貼合して真空チャンバー内に設置した。真空チャンバー内の温度は50℃に設定し、流入ガスはシラン、アンモニア、酸素、窒素とした。プラズマ放電を発生させて45分間の成膜を行い、樹脂積層シートの片面に膜厚500nmのシリコン酸窒化膜が積層されたシートを得た。さらに、反対側の面にも同様の手順で成膜を行うことで、シート両面に膜厚500nmのシリコン酸窒化膜が積層されたシートを得た。
〔実施例4〕
実施例3で得られた酸化アルミニウム膜積層シートの両面に、下記の手順で樹脂層を積層した。ウレタンアクリレート樹脂組成物(荒川化学工業社製「ビームセット575CB」)50重量部、及びメチルエチルケトン50重量部を混合して、硬化性樹脂前駆体溶液を得た。上記の硬化性樹脂前駆体溶液をメイヤーバーを用いてシート上に塗工した。次いで80℃で3分間乾燥した後、UVコンベア装置(アイグラフィックス社製「ECS−4011GX」)を用いて300mJ/cm2の紫外線を照射して、硬化性樹脂前駆体溶液を硬化し、厚さ5μmの樹脂層を成膜した。さらに、反対側の面にも同様の手順で厚さ5μmの樹脂層を成膜した。以上の手順により、酸化アルミニウム膜を積層した両面に、樹脂層が積層されたシートを得た。
〔実施例5〕
広葉樹クラフトパルプ(LBKP)を105℃で3時間乾燥させて水分3質量%以下の乾燥パルプを得た。次いで、乾燥パルプ4gと無水マレイン酸4g(乾燥パルプ100質量部に対して100質量部)をオートクレーブに充填し、150℃で2時間処理した。次いで、無水マレイン酸で処理されたパルプを500mLの水で3回洗浄した後、イオン交換水を添加して490mLのスラリーを調製した。次いで、スラリーを攪拌しながら、4Nの水酸化ナトリウム水溶液10mLを少しずつ添加し、スラリーのpHを12〜13として、パルプをアルカリ処理した。その後、pHが8以下になるまで、アルカリ処理後のパルプを水で洗浄した。洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、1.0質量%のパルプ懸濁液にした。このパルプ懸濁液を、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社製:Panda Plus 2000)で、操作圧力1200barにて5回パスさせ、微細繊維状セルロース懸濁液を得た。さらに、湿式微粒化装置(スギノマシン社製:アルティマイザー)で245MPaの圧力にて5回パスさせ微細繊維状セルロース懸濁液(4)を得た。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、4.5nmであった。
微細繊維状セルロース懸濁液(4)を原料として、実施例1と同様にシートを作製後、置換基脱離処理を実施し、シートを得た。得られたシートを実施例2と同様の手順で酸化アルミニウム膜、樹脂層を積層し、酸化アルミニウム膜を積層した両面に、樹脂層が積層されたシートを得た。
〔比較例1〕
酸化アルミニウム成膜処理を行わない以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
〔比較例2〕
酸化アルミニウム成膜処理、樹脂層堆積を行わない以外は、実施例5と同様にしてシートを得た。
〔評価〕
<方法>
実施例1〜5、および比較例1、2で作製したシートについて以下の評価方法に従って評価を実施した。
(1)全光線透過率
JIS規格K7105に準拠し、ヘーズメータ(スガ試験機社製)を用いてC光による全光線透過率を測定した。
(2)ヘーズ
JIS規格K7136に準拠し、ヘーズメータ(スガ試験機社製)を用いてC光によるヘーズ値を測定した。
(3)黄色度
得られたシートを200℃、真空下で4時間加熱した後、ASTM規格に準拠し、E313黄色インデックスをGretag Macbeth社製ハンディ分光光度計(Spectro Eye)を用いて測定した。
(4)リン酸基量およびカルボキシル基量
蛍光X線分析により、シート中のリンおよびナトリウム原子濃度を測定した。すなわち、シートにX線を照射したときに、リンまたはナトリウム原子の内殻電子が励起されて生じた空孔に外殻の電子が遷移する際に放出されるリンまたはナトリウム原子の特性X線の強度を測定することによって、リンまたはナトリウム原子の濃度を得た。測定条件は以下の通りである。
・分析装置:スペクトリス社製 蛍光X線分析装置(XRF)PW-2404
・測定サンプル:直径27mmの円形サンプル
・X線管:Rh管
・対陰極:ロジウム
・分光結晶:Ge111 (リン)、PX1 (ナトリウム)
・励起光エネルギー:32kV−125mA
・測定線:リン P−Kα1、ナトリウム Na―Kα1
・2θ角ピーク:141.112(リン)、28.020(ナトリウム)
・測定時間:54秒(リン)、50秒(ナトリウム)
官能基導入量は、下記の方法で作成した検量線より算出した。リン酸基量が既知であるシートを作製し、蛍光X線分析を実施後、P原子の特性X線強度とリン酸基導入量の検量線を作成した(図1)。カルボキシル基も同様に、カルボキシル基が既知、かつNa塩型であるシートを作製し、Na原子の特性X線強度とカルボキシル基導入量の検量線を作成した(図2)。
(5)線熱膨張係数
得られたシートをレーザーカッターにより、3mm幅×30mm長に切断した。これを、SII製TMA120を用いて引っ張りモードでチャック間20mm、荷重10g、窒
素雰囲気下、室温から180℃まで5℃/min.で昇温、180℃から25℃まで5℃
/min.で降温、25℃から180℃まで5℃/min.で昇温した際の2度目の昇温
時の60℃から100℃の測定値から線熱膨張係数を求めた。
(6)湿度膨張係数
湿度伸縮試験は佐川製作所製の湿度伸縮測定装置を用い、下記の測定条件で行った。
・試験片:15mm×90mm N=3
・チャック間距離:50mm
・加重:10g
・温度:23度
・湿度:30%RH3時間→60%RH3時間
・湿度伸縮率(ppm/%RH)=(伸縮率(60%RH)−伸縮率(30%RH))/
(60%RH−30%RH)×106
・伸縮率(%RH)=((L(30)−L(0))/L(0)×100)
L(0):相対湿度50 %で所定の荷重をかけたときの試験片の長さ。
L(30):相対湿度30 %で所定の荷重をかけたときの試験片の長さ。
L(60):相対湿度60 %で所定の荷重をかけたときの試験片の長さ。
(7)水蒸気透過率
JIS規格K7129に準拠し、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製:PERMATRAN W/33)を用いて、温度40℃、90%RHの雰囲気下で測定した。
(8)表面粗さ
得られたシートをASME B46.12に準拠し、走査プローブ顕微鏡(Veeco社製Nanoscopel IV及びNanoscope IIIa)を用いて行った。プローブとしてSi単結晶プローブを使用し、測定モードをTappingモードとして、測定エリアを10μm×10μmとして画像の取り込みを行った。得られた画像について、走査プローブ顕微鏡に付属の解析ソフトウェアを用いて、うねりを除去するための画像処理としてFlatten処理(0次)を1回、及びPlanefit処理(XY)を1回行った後、表面粗さを算出した。
(9)表面硬度
得られたシートを、JIS K 5600 5−4 引っ掻き硬度(鉛筆法) に準拠し、鉛筆の硬さにより表面硬度を評価した。
(10)各層の厚みの測定
1μm以上の有機層の膜厚は樹脂塗工前後の膜厚をMahr社製 Millitron 1202dにて測定した。1μm以下の無機層の膜厚はFilmetrics社製膜厚測定機器F70にて測定。酸化アルニミウムもしくはシリコン酸窒化膜の成膜条件と同条件でシリコンウェハに成膜を行った後、F70で測定した各値を間接的にCNFシート上に成膜された無機層の膜厚とした。
<結果>
結果を表1に示した。
Figure 2016037031

Claims (13)

  1. 微細繊維を含む、基材シート層、および基材シート層の少なくとも一方の側に形成された、無機層を含む、複合シート。
  2. 微細繊維が、静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基が導入された微細繊維である請求項1に記載の複合シート。
  3. さらに、基材シート層の少なくとも一方の側に形成された有機層を含む、請求項1または2に記載の複合シート。
  4. 微細繊維が、平均繊維幅2〜1000nmのセルロース微細繊維である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合シート。
  5. 置換基が、リン酸由来の基、カルボン酸由来の基および硫酸由来の基からなる群より選択される少なくとも1種であり、置換基導入量が0.01〜2.0mmol/gである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合シート。
  6. 基材シート層の厚みが、0.1〜1200μmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合シート。
  7. 無機層が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウムおよび酸化窒化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の複合シート。
  8. 有機層が、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合シート。
  9. 基材シート層が:
    (a)繊維原料に、置換基導入繊維を得る工程と
    (b)工程(a)で得られた置換基導入繊維を機械処理して、置換基導入微細繊維を得る工程と
    (c)工程(b)で得られた置換基導入微細繊維からシートを調製する工程と
    (d)工程(c)で得られたシートから導入置換基の少なくとも一部を脱離させる工程
    を有する製造方法により製造された、請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合シート。
  10. 静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基が、リン酸由来の基であり、工程(a)の後であって工程(c)の前に、さらに
    (e)置換基導入繊維または置換基導入微細繊維の中和度を変更する工程
    を有する製造方法により製造された、請求項9に記載の複合シート。
  11. 基材シート層の少なくとも一方の側に、
    無機層、および無機層に積層された有機層が形成された、または
    有機層、および有機層に積層された無機層が形成された、請求項1〜10のいずれか1項に記載の、複合シート。
  12. 請求項11に記載の複合シートを用いた、フレキシブルディスプレイ、太陽電池、照明素子、表示素子、タッチパネル、窓材または構造材。
  13. 請求項1〜11に記載の複合シート、または請求項11に記載の太陽電池、照明素子、表示素子、タッチパネル、窓材または構造材を用いた、製品。
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