以下、本技術の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.二次電池用活物質を用いた電極
2.二次電池
2−1.角型
2−2.円筒型
2−3.ラミネートフィルム型
3.二次電池の用途
3−1.電池パック
3−2.電動車両
3−3.電力貯蔵システム
3−4.電動工具
<1.二次電池用活物質を用いた電極>
図1は、本技術の一実施形態の二次電池用活物質を用いた電極である負極の断面構成を表しており、図2および図3は、本技術の一実施形態の二次電池用活物質である負極活物質の断面構成を表している。図4〜図7は、負極活物質の断面構造のHAADF STEM写真(以下、単に「TEM写真」という。)である。
[負極の全体構成]
負極は、例えば、二次電池などに用いられるものであり、図1に示したように、負極集電体1の上に負極活物質層2を有している。この負極活物質層2は、負極集電体1の両面に設けられていてもよいし、片面だけに設けられていてもよい。ただし、負極集電体1はなくてもよい。
[負極集電体]
負極集電体1は、例えば、電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度に優れた導電性材料により形成されており、その導電性材料は、例えば、Cu、Niまたはステンレスなどの金属材料である。中でも、Liと金属間化合物を形成しないと共に負極活物質層2と合金化する材料が好ましい。
この負極集電体1は、炭素(C)および硫黄(S)を構成元素として含んでいることが好ましい。負極集電体1の物理的強度が向上するため、充放電時に負極活物質層2が膨張収縮しても負極集電体1が変形しにくくなるからである。具体的には、負極集電体1は、例えば、CおよびSがドープされた金属箔などである。CおよびSの含有量は、特に限定されないが、中でも、100ppm以下であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
負極集電体1の表面(負極活物質層2と接する面)は、粗面化されていてもよいし、粗面化されていなくてもよい。粗面化されていない負極集電体1は、例えば、圧延金属箔などであると共に、粗面化された負極集電体1は、例えば、電解処理またはサンドブラスト処理などが施された金属箔などである。電解処理とは、電解槽中で電解法を用いて金属箔などの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法により作製された金属箔は、一般的に、電解箔(例えば電解Cu箔など)と呼ばれている。
中でも、負極集電体1の表面は、粗面化されていることが好ましい。アンカー効果により、負極集電体1に対する負極活物質層2の密着性が向上するからである。負極集電体1の表面粗さ(例えば十点平均粗さRzなど)は、特に限定されないが、アンカー効果により負極活物質層2の密着性を向上させるために、できるだけ大きいことが好ましい。ただし、表面粗さが大きすぎると、かえって負極活物質層2の密着性が低下する可能性がある。
[負極活物質層]
負極活物質層2は、電極反応物質(リチウムイオン)を吸蔵放出可能である1または2以上の粒子状の負極活物質を含んでおり、必要に応じて、さらに負極結着剤または負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
この負極活物質は、SiおよびOを構成元素として含んでおり、必要に応じて他の1種類または2種類以上の元素も含んでいてもよい。ただし、SiおよびOに対するSiの原子割合(Si/(Si+O))は、負極活物質の表面において30原子%〜75原子%である。
「表面」とは、厳密には、負極活物質が二次電池に用いられた場合において、電解液と接する負極活物質の最表面(負極活物質と電解液との界面)である。なお、負極活物質の表面に後述する導電層が形成される場合には、「表面」とは、導電層と接する負極活物質の最表面(負極活物質と導電層との界面)である。
この原子割合は、原子割合(原子%)=[Siの原子量/(Siの原子量+Oの原子量)]×100により算出される。なお、SiおよびOのそれぞれの原子量は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(TEM/EDX)を用いて負極活物質の断面を表面側から測定することで特定可能である。TEM装置は日本電子株式会社製のJEM−2100F、EDX装置は日本電子株式会社製のJED−2300Tとする。測定条件は、加速電圧=200kV、ビーム電流=240pA、ビーム径=0.15mm、分析(積算)時間=30秒である。
負極活物質がSiを構成元素として含んでいるのは、高いエネルギー密度が得られるため、高い電池容量が得られるからである。また、負極活物質がSiと共にOと構成元素として含んでいるのは、優れたサイクル特性などが得られるからである。
原子割合が負極活物質の表面において30原子%〜75原子%であるのは、優れた初回充放電特性およびサイクル特性が得られるからである。詳細には、原子割合が30原子%よりも小さいと、Oの存在量がSiの存在量に対して相対的に大きくなりすぎるため、電気抵抗が増加する。これにより、初期の充放電時から十分な充放電効率が得られない。一方、原子割合が75原子%よりも大きいと、Siの存在量がOの存在量に対して相対的に大きくなりすぎるため、リチウムイオンの受け入れ性は向上するが、充放電を繰り返すとSiが劣化(表面劣化)しやすくなる。これにより、十分なサイクル特性が得られない。よって、リチウムイオンの受け入れ性を確保しつつ、優れた初回充放電特性およびサイクル特性を得るためには、原子割合が上記範囲内でなければならない。
中でも、負極活物質の表面における原子割合は、30原子%〜70原子%であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。
この負極活物質のうちの少なくとも表面近傍部分(表面およびその近傍の部分)において、原子割合は、負極活物質の中心に向かってどのように推移していてもよい。すなわち、原子割合は、次第に減少していてもよいし、次第に増加していてもよいし、一定でもよい。
中でも、原子割合は、負極活物質の表面から中心に向かって次第に減少していることが好ましい。負極活物質の中心側では、Siの存在量がOの存在量に対して相対的に大きくなるため、リチウムイオンの吸蔵放出量が確保されるからである。これにより、高い電池容量が得られる。また、負極活物質の表面側では、Siの存在量がOの存在量に対して相対的に小さくなるため、負極活物質の表面における原子割合が上記範囲内であれば、リチウムイオンが出入りしやすくなると共に、高いサイクル特性が得られるからである。
負極活物質のうちの少なくとも表面近傍部分の結晶性は、特に限定されないが、中でも、非結晶性または低結晶性であることが好ましい。充放電に負極活物質が膨張収縮しても、その負極活物質が破損(割れ等)しにくくなるからである。なお、「低結晶性」とは、結晶領域(結晶粒)が非結晶領域の中に点在している結晶状態を意味しており、その詳細に関しては後述する。
上記した負極活物質の表面近傍部分が低結晶性である場合、その低結晶性部分における結晶性の程度は、特に限定されない。中でも、Siの(111)面および(220)面に起因する結晶粒の平均面積占有率は35%以下であると共に、その結晶粒の平均粒径は50nm以下であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、平均面積占有率および平均粒径の測定方法に関しては後述する。
この負極活物質は、上記した物性を有していれば、全体としてはどのような構成を有していてもよい。
例えば、図2(A)に示したように、全体として物理的に1つの粒状体(負極活物質100)でもよい。この負極活物質100のSiに対するOの原子比z(O/Si)は、例えば、0.5≦z≦1.8を満たしている。すなわち、負極活物質100は、Siの酸化物(SiOz :0.5≦z≦1.8)を含んでいる。優れた電池容量、初回充放電特性およびサイクル特性などが得られるからである。
原子割合は、上記したように、負極活物質100の表面とその表面から中心に向かって次第に減少していることが好ましい。負極活物質100の中心側ではSiの存在量がOの存在量に対して相対的に大きくなると共に、表面側ではSiの存在量がOの存在量に対して相対的に小さくなるため、上記した利点が得られるからである。この場合において、負極活物質100の内部の原子割合は、特に限定されないが、中でも、負極活物質100の表面から中心に向かって300nmの位置において、35原子%〜60原子%であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
なお、負極活物質100は、SiおよびOと共に、それ以外の元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。具体的には、負極活物質100は、Feを構成元素として含んでいることが好ましい。負極活物質100の電気抵抗が低下するからである。この負極活物質100中において、Feは、SiおよびOとは別個に(遊離状態で)存在していてもよいし、SiおよびOのうちの少なくとも一方と合金または化合物を形成していてもよい。このFeを含んでいる負極活物質100の状態(Feの結合状態など)は、例えば、EDXなどを用いて確認可能である。
この負極活物質100の結晶性は、特に限定されず、高結晶性でもよいし、低結晶性でもよい。この負極活物質100の低結晶性に関する詳細は、後述する被覆部202の低結晶性と同様であるため、その説明を省略する。
または、例えば、図2(B)に示したように、コア部201および被覆部202を含む複合粒状体(負極活物質200)でもよい。この負極活物質200では、コア部201の表面に被覆部202が設けられており、そのようにコア部201が被覆部202により被覆されている様子は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いて確認可能である。また、コア部201および被覆部202の結晶性(結晶状態)は、図4〜図6に示したように、TEMなどを用いて確認可能である。
原子割合は、上記したように、負極活物質200の表面からコア部201と被覆部202との界面に向かって次第に減少していることが好ましい。負極活物質200の中心側(コア部201)ではSiの存在量がOの存在量に対して相対的に大きくなると共に、表面側(被覆部202)ではSiの存在量がOの存在量に対して相対的に小さくなるため、上記した利点が得られるからである。この場合において、負極活物質200の内部の原子割合は、特に限定されないが、中でも、コア部201と被覆部202との界面において、35原子%〜60原子%であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
コア部201は、例えば、SiおよびOを構成元素として含んでおり、そのSiに対するOの原子比x(O/Si)は、0≦x<0.5を満たしている。すなわち、コア部201は、例えば、ケイ素系材料(SiOx :0≦x<0.5)を含んでいる。原子比xが範囲外である場合(x≧0.5)と比較して、充放電時にコア部201がリチウムイオンを吸蔵放出しやすくなると共に不可逆容量が減少するため、高い電池容量が得られるからである。
コア部201の形成材料は、上記した組成(原子比x)から明らかなように、Siの単体(x=0)でもよいし、Siの酸化物(SiOx :0<x<0.5)でもよい。ただし、xはできるだけ小さいことが好ましく、x=0(Siの単体)であることがより好ましい。高いエネルギー密度が得られるため、電池容量がより高くなるからである。また、コア部201の劣化が抑制されるため、充放電サイクルの初期から放電容量が低下しにくくなるからである。ただし、「単体」とは、あくまで一般的な意味での単体であり、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。すなわち、Siの単体は、微量の不純物(O以外の元素)を含んでいてもよい。
コア部201の結晶性は、高結晶性、低結晶性または非結晶性のいずれでもよいが、中でも、高結晶性または低結晶性であることが好ましく、高結晶性であることがより好ましい。充放電時にコア部201がリチウムイオンを吸蔵放出しやすくなるため、高い電池容量などが得られるからである。また、充放電時にコア部201が膨張収縮しにくくなるからである。中でも、X線回折により得られるSiの(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は、20°以下であることが好ましい。また、Siの(111)結晶面に起因する結晶子サイズは、10nm以上であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
なお、コア部201は、SiおよびOと共に、それ以外の元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
具体的には、コア部201は、Feを構成元素として含んでいることが好ましい。コア部201の電気抵抗が低下するからである。SiおよびOに対するFeの割合(Fe/(Si+O))は、特に限定されないが、中でも、0.01重量%〜7.5重量%であることが好ましい。コア部201の電気抵抗が低下するだけでなく、リチウムイオンの拡散性が向上するからである。
コア部201中において、Feは、SiおよびOとは別個に(遊離状態で)存在していてもよいし、SiおよびOのうちの少なくとも一方と合金または化合物を形成していてもよい。このことは、後述するAl等に関しても同様である。このFeを含んでいるコア部201の状態(Feの結合状態など)は、例えば、EDXなどを用いて確認可能である。
この他、コア部201は、Al、Cr、Ni、B、Mg、Ca、Ti、V、Mn、Co、Cu、Ge、Y、Zr、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Ta、W、Pb、La、Ce、PrおよびNdなどのうちの少なくとも1種の元素を構成元素として含んでいてもよい。中でも、Al、Ca、Mn、Cr、MgおよびNiのうちの少なくとも1種が好ましい。コア部201の電気抵抗が低下するからである。SiおよびOに対するAl等の割合(Al等/(Si+O))は、特に限定されない。なお、コア部201がAlを含んでいると低結晶化するため、そのコア部201が充放電時に膨張収縮しにくくなると共に、リチウムイオンの拡散性がより向上する。
コア部201の平均粒径(メジアン径D50)は、特に限定されないが、中でも、0.1μm〜20μmであることが好ましい。より高い効果が得られるからである。詳細には、D50が小さすぎると、表面積が増加するため、安全性の低下を招く可能性があると共に、D50が大きすぎると、充電時の膨張に起因して負極活物質200の破損を招く可能性がある。この他、D50が小さすぎると、負極活物質200を含むスラリーを塗布しにくくなる可能性がある。
被覆部202は、コア部201の表面のうちの少なくとも一部に設けられている。このため、被覆部202は、コア部201の表面の一部だけを被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。前者の場合には、被覆部202がコア部201の表面のうちの複数箇所に点在していてもよい。
この被覆部202は、例えば、SiおよびOを構成元素として含んでおり、そのSiに対するOの原子比y(O/Si)は、0.5≦y≦1.8を満たしている。すなわち、被覆部202は、例えば、ケイ素系材料(SiOy :0.5≦y≦1.8)を含んでいる。充放電を繰り返しても負極活物質200の劣化が抑制されるからである。これにより、コア部201におけるリチウムイオンの出入りを確保しつつ、被覆部202によりコア部201が化学的および物理的に保護される。
詳細には、コア部201と電解液との間に被覆部202が介在すると、高反応性のコア部201が電解液と接触しにくくなるため、その電解液の分解反応が抑制される。この場合には、被覆部202がコア部201と同系統の材料(共通の元素(Si)を構成元素として含む材料)により形成されていれば、そのコア部201に対する被覆部202の密着性も高くなる。
また、被覆部202が柔軟性(変形しやすい性質)を有するため、充放電時にコア部201が膨張収縮しても、それに追随して被覆部202も膨張収縮(伸縮)しやすくなる。これにより、コア部201の膨張収縮時に被覆部202が破損(断裂等)しにくくなるため、被覆部202によるコア部201の被覆状態が充放電を繰り返しても維持される。よって、充放電時にコア部201が割れても新生面が露出しにくくなると共に、その新生面が電解液と接触しにくくなるため、電解液の分解反応が著しく抑制される。
被覆部202の形成材料は、上記した組成(原子比y)から明らかなように、Siの酸化物(SiOy )である。中でも、原子比yは、0.7≦y≦1.3を満たしていることが好ましく、y=1.2であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、被覆部202は、SiおよびOと共に、それ以外の元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。具体的には、被覆部202は、Fe、AlおよびCaのうちの少なくとも1種類を構成元素として含んでいることが好ましい。被覆部202の電気抵抗が低下するからである。SiおよびOに対するFe等の割合(Fe等/(Si+O))は、任意である。
被覆部202の結晶性は、特に限定されないが、コア部201の結晶性よりも低い(非結晶性に近い)ことが好ましく、より具体的には低結晶性または非結晶性(非晶質)であることが好ましい。高結晶性である場合と比較して、リチウムイオンが拡散されやすいため、コア部201の表面が被覆部202により被覆されていても、そのコア部201がリチウムイオンを円滑に吸蔵放出しやすくなるからである。なお、「被覆部202の結晶性がコア部201の結晶性よりも低い」とは、例えば、コア部201が高結晶性である場合には、被覆部202が低結晶性または非結晶性であることを意味している。または、例えば、コア部201が低結晶性である場合には、被覆部202が非結晶性であることを意味している。
中でも、被覆部202は、非結晶性であることがより好ましい。被覆部202の柔軟性が向上するため、その被覆部202が充放電時にコア部201の膨張収縮に追随しやすくなるからである。また、被覆部202がリチウムイオンをトラップしにくくなるため、コア部201におけるリチウムイオンの出入りがより阻害されにくくなるからである。
なお、図4および図7では、コア部201が高結晶性のSiであると共に被覆部202が非結晶性のSiOy である場合を示している。一方、図5および図6では、コア部201が高結晶性のSiであると共に被覆部202が低結晶性のSiOy である場合を示している。
ここで、「低結晶性」とは、HAADF STEMなどを用いて被覆部202の断面あるいは表面を観察した場合に、非結晶領域および結晶領域(結晶粒)の双方が存在している結晶状態を意味している。TEM写真から非結晶領域と結晶領域とが混在している様子を確認できれば、その被覆部202は低結晶性である。なお、非結晶領域と結晶領域とが混在している場合、その結晶領域は、粒状の輪郭を有する領域(結晶粒)として観察される。この結晶粒の内部には、結晶性に起因する縞状の模様(結晶格子縞)が観察されるため、その結晶粒を非結晶領域から識別できる。これに対して、「非結晶性」とは、いわゆる非晶質と同義であり、HAADF STEMなどを用いて被覆部を観察した場合に、非結晶領域だけが存在しており、結晶領域が存在していない結晶状態を意味している。なお、観察時の倍率は、例えば、1.2×106 倍とする。
非結晶性と低結晶性との違いは、図4および図5に示したTEM写真から明らかである。被覆部202が非結晶性である場合には、図4に示したように、非結晶領域だけが観察され、結晶領域(結晶格子縞を有する結晶粒)が観察されない。これに対して、被覆部202が低結晶性である場合には、図5に示したように、非結晶領域の中に結晶粒(矢印で指した部分)が点在している様子が観察される。この結晶粒は、Siの格子面間隔dに応じた所定の間隔の結晶格子縞を有しているため、その周辺の非結晶領域から明確に区別される。なお、図5に示したTEM写真をフーリエ変換した(電子回折図に相当する図を得た)ところ、スポットがリング状に並んでいたため、被覆部202の内部に多数の結晶領域が存在していることが確認された。
なお、HAADF STEMによる外郭部の観察手順は、例えば、以下の通りである。最初に、Cu製のTEM用グリッドの表面に接着剤を塗布したのち、その接着剤の上にサンプル(負極活物質200)をふりかける。続いて、真空蒸着法を用いて粉体サンプルの表面に炭素材料(黒鉛)を堆積させる。続いて、集束イオンビーム(FIB)法を用いて炭素材料の表面に薄膜(Pt/W)を堆積させたのち、さらに薄膜加工(加速電圧=30kV)する。最後に、HAADF STEM(加速電圧=200kV)を用いて負極活物質200の断面を観察する。この観察方法は、サンプルの組成に敏感な手法であり、一般に、原子番号のほぼ2乗に比例した明るいコントラストの画像が得られる。
図4および図5に示したTEM写真では、線Lを境界として結晶状態の異なる領域が観察される。この結晶状態の異なる領域をEDXで分析したところ、線Lよりも内側に位置する領域は高結晶性のコア部201(Si)であると共に、線Lよりも外側に位置する領域は低結晶性または非結晶性の被覆部202(SiOy )であることが確認された。
被覆部202の低結晶性の程度は、特に限定されないが、中でも、Siの(111)面および(220)面に起因する結晶粒の平均面積占有率は、35%以下であることが好ましく、25%以下、さらに20%以下であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。図5に示したように、「(111)面に起因する結晶粒」とは、格子面間隔d=0.31nmの結晶格子縞を有する結晶領域であり、「(220)面に起因する結晶粒」とは、格子面間隔d=0.19nmの結晶格子縞を有する結晶領域である。
この平均面積占有率の算出手順は、以下の通りである。最初に、図6に示したように、HAADF STEMを用いて被覆部202の断面を観察してTEM写真を得る。この場合には、観察倍率=1.2×106 倍、観察エリア=65.6nm×65.7nmとする。なお、図6は、図5と同じ領域を観察したTEM写真である。続いて、結晶格子縞の有無および格子面間隔dの値などを調べて、Siの(111)面に起因する結晶粒および(220)面に起因する結晶粒が存在する範囲を特定したのち、それらの結晶粒の輪郭をTEM写真中に描画する。続いて、各結晶粒の面積を算出したのち、面積占有率(%)=(結晶粒の面積の和/観察エリアの面積)×100を算出する。これらの輪郭の描画および面積占有率の算出に関しては、人為的に行ってもよいし、専用の処理ソフトなどを用いて機械的に行ってもよい。最後に、面積占有率の算出作業を40エリアで繰り返したのち、各エリアで算出した面積占有率の平均値(平均面積占有率)を算出する。この場合には、結晶粒の分布傾向を加味して平均面積占有率を算出するために、被覆部202を厚さ方向に二等分して、その内側部分および外側部分で20エリアずつ面積占有率を算出することが好ましい。
上記したように被覆部202を厚さ方向に二等分したとき、平均面積占有率は、内側部分と外側部分とで同じでもよいし、異なってもよい。中でも、内側部分における結晶粒の平均面積占有率は、外側部分における結晶粒の平均面積占有率と同じであるか、それよりも大きいことが好ましい(内側部分の平均面積占有率≧外側部分の平均面積占有率)。より高い効果が得られるからである。このことは、平均粒径に関しても同様である。なお、内側部分および外側部分における平均面積占有率および平均粒径は、上記したように、それぞれ20エリアずつ算出されることとする。
また、上記した結晶粒の平均粒径は、特に限定されないが、中でも、55nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。この平均粒径の算出手順は、エリアごとに平均粒径を算出したのち、その平均粒径の平均値(最終的な平均粒径)を算出することを除き、平均面積占有率を算出した場合と同様である。なお、結晶粒の粒径を測定する場合には、例えば、結晶粒の輪郭を円に変換(結晶粒の輪郭により画定される形状と同等の面積を有する円を特定)したのち、その円の直径を粒径とする。この粒径の算出は、平均面積占有率を算出した場合と同様に、人為的でも機械的でもよい。
この被覆部202の平均厚さは、特に限定されないが、中でも、できるだけ薄いことが好ましく、1nm〜3000nmであることがより好ましい。コア部201がリチウムイオンを吸蔵放出しやすくなると共に、被覆部202による保護機能が効果的に発揮されるからである。詳細には、平均厚さが1nmよりも小さいと、被覆部202がコア部201を保護しにくくなる可能性がある。一方、平均厚さが3000nmよりも大きいと、電気抵抗が高くなると共に、充放電時にコア部201がリチウムイオンイオンを吸蔵放出しにくくなる可能性がある。被覆部202の形成材料がSiOy である場合、そのSiOy はリチウムイオンを吸蔵しやすい一方で、一旦吸蔵したリチウムイオンを放出しにくい性質を有するからである。
被覆部202の平均厚さは、以下の手順により算出される。まず、SEMなどを用いて1個の負極活物質200を観察する。この観察時の倍率は、被覆部202の厚さを測定するために、コア部201と被覆部202との境界を目視で確認(決定)できるような倍率であることが好ましい。続いて、任意の10点で被覆部202の厚さを測定したのち、その平均値(1個当たりの平均厚さT)を算出する。この場合には、できるだけ特定の場所周辺に集中せずに広く分散されるように測定位置を設定することが好ましい。続いて、SEMによる観察個数の総数が100個になるまで、上記した平均値の算出作業を繰り返す。最後に、100個の負極活物質200に関して算出された平均値(1個当たりの平均厚さT)の平均値(平均厚さTの平均値)を算出して、被覆部202の平均厚さとする。
また、コア部201に対する被覆部202の平均被覆率は、特に限定されないが、できるだけ大きいことが好ましく、中でも、30%以上(30%〜100%)であることがより好ましい。被覆部202の保護機能がより向上するからである。
被覆部202の平均被覆率は、以下の手順により算出される。まず、平均厚さを算出した場合と同様に、SEMなどを用いて1個の負極活物質200を観察する。この観察時の倍率は、コア部201のうち、被覆部202により被覆されている部分と被覆されていない部分とを目視で識別できるような倍率であることが好ましい。続いて、コア部201の外縁(輪郭)のうち、被覆部202により被覆されている部分の長さと被覆されていない部分の長さとを測定する。そして、被覆率(1個当たりの被覆率:%)=(被覆部202により被覆されている部分の長さ/コア部201の外縁の長さ)×100を算出する。続いて、SEMによる観察個数の総数が100個になるまで、上記した被覆率の算出作業を繰り返す。最後に、100個の負極活物質200に関して算出された被覆率(1個当たりの被覆率)の平均値を算出して、被覆部202の平均被覆率とする。
なお、被覆部202はコア部201に隣接していることが好ましいが、コア部201と被覆部202との間に自然酸化膜(SiO2 )が介在していてもよい。この自然酸化膜は、例えば、コア部201の表層近傍が大気中で酸化されたものである。負極活物質200の中心にコア部201が存在すると共に外側に被覆部202が存在すれば、自然酸化膜の存在はコア部201および被覆部202の機能にほとんど影響を及ぼさない。
ここで、負極活物質200がコア部201および被覆部202を含んでいることを確認するためには、上記したSEM観察の他、例えば、X線光電子分光法(XPS)またはエネルギー分散型X線分析法(EDX)などを用いて負極活物質200を分析してもよい。
この場合には、負極活物質200の中心部および表層部の酸化度(原子x,y)などを測定すれば、コア部201および被覆部202の組成を確認できる。なお、被覆部202により被覆されているコア部201の組成を調べるためには、HFなどの酸を用いて被覆部202を溶解除去すればよい。
酸化度の測定に関する詳細な手順は、例えば、下記の通りである。最初に、燃焼法を用いて負極活物質200を定量して、全体のSi量およびO量を算出する。続いて、HFなどを用いて被覆部202を洗浄除去したのち、燃焼法を用いてコア部201を定量してSi量およびO量を算出する。最後に、全体のSi量およびO量からコア部201のSi量およびO量を差し引いて、被覆部202のSi量およびO量を算出する。これにより、コア部201のSi量およびO量が特定されるため、そのコア部201の酸化度を特定できる。同様に、被覆部202の酸化度も特定できる。なお、被覆部202を洗浄除去する代わりに、被覆部202により被覆されたコア部201と共に未被覆のコア部201を用いて酸化度を測定してもよい。
なお、負極活物質層2中において、複数の負極活物質200は互いに離間(分散)されていてもよいし、そのうちの2つ以上が接触(または連結)されていてもよい。2つ以上の負極活物質200が接触する場合、その負極活物質200同士の位置関係は任意でよい。
なお、被覆部202は、その内部に1または2以上の空隙を有しており、その空隙のうちの少なくとも一部に導電性材料が設けられていることが好ましい。すなわち、導電性材料は空隙に挿入されており、その空隙は導電性材料により埋められていることが好ましい。上記したコア部201の膨張収縮に追随する被覆部202の膨張収縮性を阻害せずに、負極活物質200の導電性が向上すると共に電解液の分解反応が抑制されるからである。この導電性材料は、例えば、炭素(C)を構成元素として含んでいることが好ましく、その導電性材料の具体例は、「他の負極活物質」として後述する炭素材料などである。
詳細には、被覆部202の内部に存在する空隙は、充放電時に負極活物質200が膨張収縮した際に生じる内部応力を緩和するためのスペースとして利用される。このため、被覆部202が空隙を有していると、負極活物質200が充放電時に破損しにくくなる。その一方で、空隙は、その内部に高反応性の被覆部202を露出させることになるため、その露出面で電解液が分解しやすくなる。この点に関して、空隙に導電性材料が設けられていると、その空隙の内部に高反応性の被覆部202が露出しにくくなるため、電解液の分解反応が抑制される。しかも、炭素は変形性(柔軟性)および高導電性に優れているため、炭素を構成元素として含む導電性材料はコア部201の膨張収縮に追随する被覆部202の膨張収縮性を阻害しにくいと共に、その被覆部202の導電性が向上する。
なお、導電性材料は、Cだけを構成元素として含んでいてもよいし、そのCと共にそれ以外の元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この「他の元素」の種類は、特に限定されないが、例えば、水素(H)または酸素(O)などである。
上記した空隙の形成要因は、特に限定されない。いかなる要因で形成されたかを問わず、被覆部202中に空隙が存在していれば、その空隙は応力緩和用のスペースとして機能し得るからである。
この被覆部202は、単層でもよいし、多層でもよいが、中でも、図7に示したように、多層であることが好ましい。被覆部202中(層間)に応力緩和用のスペース(空隙)が形成されやすいからである。図7に示した破線は、各層の境界の目安を表している。ただし、被覆部202は、全体に渡って多層でもよいし、一部だけ多層でもよい。
なお、例えば、図3に示したように、負極活物質100,200の表面に導電層210が設けられていることが好ましい。高反応性の負極活物質100,200が電解液と接触しにくくなるため、その電解液の分解反応が抑制されるからである。また、負極活物質100,200の電気抵抗が低下するからである。
導電層210は、負極活物質100,200の表面の一部だけを被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。前者の場合には、導電層210が負極活物質100,200の表面の複数箇所に点在していてもよい。
この導電層210は、例えば、負極活物質100,200よりも低い電気抵抗を有していることが好ましく、より具体的には、Cを構成元素として含んでいることが好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、導電層210の形成材料が導電性材料の形成材料と同じである場合には、その導電性材料の代わりに導電層210の一部により被覆部202の空隙が埋められており、その空隙が封孔されていてもよい。導電性材料と導電層210とを実質的に一括して形成できるからである。
ここで、一般的に、ラマンスペクトル法を用いて炭素材料を測定すると、そのラマンスペクトルには、黒鉛構造に由来するGバンドピークが1590cm-1近傍に検出されると共に、欠陥に由来するDバンドピークが1350cm-1近傍に検出される。このGバンドピークの強度IGとDバンドピークの強度IDとの比IG/IDは、G/D比とも呼ばれており、炭素材料の結晶性(純度)を表す指標である。
Cを構成元素として含む導電層210の比IG/IDは、特に限定されないが、中でも、0.3〜3.2であることが好ましく、2近辺であることがより好ましい。優れた結着性、導電性および変形性が得られるからである。
詳細には、比IG/IDが0.3よりも小さいと、結着性が高くなるため、導電層210同士の密着性および負極活物質100,200に対する導電層の密着性が向上する。しかしながら、導電性が低下すると共に硬くなるため、負極活物質100,200の膨張収縮に追随して導電層210が膨張収縮しにくくなると共に十分な導電性が得られない可能性がある。一方、比IG/IDが3.2よりも大きいと、導電性が高くなると共に軟らかくなるため、負極活物質100,200の膨張収縮に追随して導電層210が膨張収縮しやすくなると共に十分な導電性が得られる。しかしながら、結着性が低下するため、導電層210同士の密着性および負極活物質100,200に対する導電層210の密着性が低下する可能性がある。これに対して、比IG/IDが0.3〜3であると、導電層210の結着性および導電性が高くなると共に、負極活物質100,200の膨張収縮に追随して導電層210が膨張収縮しやすくなる。
なお、導電層210は、Cと共にそれ以外の元素のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この「他の元素」の種類は、特に限定されないが、例えば、HまたはOなどである。この導電層210の形成材料の具体例は、「他の負極活物質」として後述する炭素材料などである。
導電層210の平均厚さは、特に限定されないが、中でも、200nm以下であることが好ましい。また、負極活物質100,200に対する導電層210の平均被覆率は、特に限定されないが、中でも、30%以上であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。特に、平均厚さが200nmよりも大きいと、負極活物質100,200を含むスラリーの性状が悪化するため、そのスラリーを塗布しにくくなる可能性がある。なお、導電層210の平均被覆率および平均厚さの算出手順に関する詳細は、上記した被覆部202と同様である。
負極結着剤は、例えば、合成ゴムまたは高分子材料などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムまたはエチレンプロピレンジエンなどである。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリマレイン酸またはこれらの共重合体などである。この他、高分子材料は、例えば、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムまたはポリビニルアルコールなどでもよい。
負極導電剤は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックまたはケチェンブラックなどの炭素材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。なお、負極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料または導電性高分子などでもよい。
なお、負極活物質層2は、必要に応じて、上記した負極活物質と共に、他の種類の負極活物質のいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
この「他の負極活物質」は、例えば、炭素材料である。負極活物質層2の電気抵抗が低下すると共に、その負極活物質層2が充放電時に膨張収縮しにくくなるからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、または(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭またはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものである。炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状または鱗片状のいずれでもよい。
また、他の負極活物質は、金属酸化物または高分子化合物でもよい。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロールなどである。
負極活物質層2は、例えば、塗布法、焼成法(焼結法)またはそれらの2種類以上の方法により形成されている。塗布法とは、例えば、負極活物質を負極結着剤などと混合したのち、有機溶剤などに分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法と同様の手順により塗布したのち、負極結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法としては、公知の手法を用いることができる。例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法またはホットプレス焼成法などである。
[負極の製造方法]
この負極は、例えば、以下の手順により製造される。なお、負極集電体1および負極活物質層2の形成材料に関しては既に詳細に説明したので、その説明を省略する。
負極活物質100を用いる場合には、最初に、例えば、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法または溶融粉砕法などを用いて、粒子状(粉末状)のSi酸化物(SiOz :0.5≦z≦1.8)を得る。この場合には、原材料と一緒に金属材料を溶融させて、Si酸化物にFeなどの金属元素を含有させてもよい。続いて、Si酸化物を高温(例えば1000℃以下)で加熱する。これにより、Si酸化物の表面が還元処理され、その表面における原子割合が変化するため、負極活物質100が得られる。この場合には、必要に応じて、H2 ガスなどを用いてもよい。この負極活物質100の表面における原子割合は、例えば、圧力、加熱温度およびH2 ガスの導入量などの条件に応じて制御される。
負極活物質200を用いる場合には、最初に、例えば、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法または溶融粉砕法などを用いて、粒子状(粉末状)のコア部201(SiOx :0≦x<0.5)を得る。なお、コア部201にFeなどの金属元素を含有させる場合には、原材料と一緒に金属材料を溶融させる。
続いて、例えば、蒸着法またはスパッタ法などの気相成長法を用いて、コア部201の表面に被覆部202(SiOy :0.5≦y≦1.8)を形成する。このように気相成長法を用いると、被覆部202が非結晶性になりやすい傾向がある。この場合には、加熱しながら堆積処理を行い、または被覆部202の形成後に加熱することで、その被覆部202を低結晶性にしてもよい。低結晶性の程度は、例えば、加熱時の温度および時間などの条件に応じて制御される。この加熱処理により、被覆部202中の水分が除去されると共に、コア部201に対する被覆部202の密着性が向上する。
続いて、負極活物質100を得る場合と同様の手順により、被覆部202を高温(例えば1000℃以下)で加熱(還元)して、その被覆部202の表面における原子割合を変化させることで、負極活物質200を得る。この被覆部202の表面における原子割合は、例えば、圧力、温度およびH2 ガスの導入量などの条件に応じて制御される。
被覆部202を形成する場合には、必要に応じて、コア部201を回転させながら、シャッタなどの開閉機構を用いて堆積処理の可否を制御することで、多方向から複数回に渡ってコア部201の表面に堆積処理を施すことが好ましい。コア部201の表面が被覆部202により均一に覆われやすいからである。また、被覆部202が多層になるため、層間に応力緩和用のスペース(空隙)が形成されやすくなるからである。
被覆部202が空隙を有する場合には、熱分解化学蒸着(CVD)法などを用いて導電性材料を堆積させて、その被覆部202の空隙に導電性材料を埋め込むことが好ましい。この熱分解CVD法を用いる場合には、炭素源(有機ガス)として、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレンまたはプロパンなどを用いる。熱分解CVD法を用いることで、微細な空隙の内部まで炭素源が到達して熱分解されるため、その微細な空隙を導電性材料で容易に埋めることができる。このように被覆部202の微細な空隙に導電性材料が埋め込まれる構造は、上記したように、熱分解CVD法などを用いて導電性材料を被覆部202とは別個に形成することで初めて実現される特徴的な構造である。
負極活物質100,200を得たのち、必要に応じて、気相成長法または湿式コート法などを用いて負極活物質100,200の表面に導電層210を形成してもよい。この気相成長法は、例えば、蒸着法、スパッタ法、熱分解CVD法、熱分解CVD法、電子ビーム蒸着法または糖炭化法などである。中でも、熱分解CVD法が好ましい。導電層210が均一な厚さとなるように形成されやすいからである。
蒸着法を用いる場合には、例えば、負極活物質100,200の表面に蒸気を直接吹き付けて導電層210を形成する。スパッタ法を用いる場合には、例えば、Arガスを導入しながら粉体スパッタ法を用いて導電層210を形成する。CVD法を用いる場合には、例えば、金属塩化物を昇華させたガスとH2 およびN2 などの混合ガスとを、金属塩化物のモル比が0.03〜0.3となるように混合したのち、加熱(1000℃以上)して導電層210を形成する。湿式コート法を用いる場合には、例えば、負極活物質100,200を含むスラリーに含金属溶液を添加しながらアルカリ溶液を添加して金属水酸化物を形成する。こののち、水素による還元処理(450℃)を行って負極活物質100,200の表面に導電層210を形成する。なお、導電層210の形成材料として炭素材料を用いる場合には、負極活物質100,200をチャンバ内に投入し、そのチャンバ内に有機ガスを導入したのち、加熱処理(10000Pa、1000℃以上×5時間)を行って導電層210を形成する。この有機ガスの種類は、加熱分解により炭素を生じさせるものであれば特に限定されないが、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレンまたはプロパンなどである。
なお、導電層210を形成する場合には、その形成工程で表面の還元処理と導電層210の形成処理とを行ってもよい。この場合には、必要に応じて、過酸化水素と濃硫酸との酸化反応により表面をSiO2 化して還元作用を意図的に低減させることで、その還元量を制御してもよい。
続いて、負極活物質と負極結着剤などの他の材料とを混合して負極合剤としたのち、有機溶剤などの溶媒に溶解させて負極合剤スラリーとする。最後に、負極集電体1の表面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて負極活物質層2を形成する。こののち、必要に応じて負極活物質層2を圧縮成型および加熱(焼成)してもよい。
[負極の作用および効果]
この負極によれば、負極活物質がSiおよびOを構成元素として含んでおり、SiおよびOに対するSiの原子割合が負極活物質の表面において30原子%〜75原子%である。これにより、上記したように、負極活物質の表面における原子割合が適正化されるため、リチウムイオンの円滑な吸蔵放出が維持されたまま、抵抗増加が抑制されると共に、充放電を繰り返した場合におけるSiの表面劣化も抑制される。よって、負極を用いた二次電池の性能向上に寄与できる。
特に、負極活物質のうちの少なくとも表面近傍部分において原子割合が負極活物質の表面から中心に向かって減少しており、または一定であれば、より高い効果を得ることができる。また、負極活物質のうちの少なくとも表面近傍部分が非結晶性または低結晶性であり、結晶粒の平均面積占有率が35%以下であると共に平均粒径が50nm以下であれば、より高い効果を得ることができる。
また、負極活物質の原子比zが0.5≦z≦1.8を満たす場合には、原子割合が負極活物質の中心に向かって次第に減少しており、その負極活物質の表面から中心に向かって300nmの位置における原子割合が35原子%〜60原子%であれば、より高い効果を得ることができる。
また、負極活物質がコア部201(原子比xは0≦x<0.5)および被覆部201(原子比yは0.5≦y≦1.8)を含む場合には、原子割合が負極活物質の表面からコア部201と被覆部202との界面に向かって次第に減少しており、その界面における原子割合が30原子%〜60原子%であれば、より高い効果を得ることができる。この場合には、コア部201のメジアン径(D50)や、被覆部202の平均厚さまたは平均被覆率や、被覆部202を厚さ方向において二等分したときの内側部分と外側部分とにおける平均面積占有率および平均粒径の大小関係や、被覆部202における結晶粒の平均面積占有率または平均粒径が適正範囲内であれば、より高い効果を得ることができる。
また、被覆部202が空隙を有し、その空隙に導電性材料が設けられていれば、より高い効果を得ることができる。
また、負極活物質の表面に導電層210が設けられていれば、より高い効果を得ることができる。この場合には、導電層210がCを構成元素として含み、その導電層210の比IG/IDが0.3〜3.2であれば、さらに高い効果を得ることができる。また、導電層210の平均厚さまたは平均被覆率が適正範囲内であれば、より高い効果を得ることができる。
<2.二次電池>
次に、上記した二次電池用負極を用いた二次電池について説明する。
<2−1.角型>
図8および図9は、角型の二次電池の断面構成を表しており、図9では、図8に示したIX−IX線に沿った断面を示している。また、図10は、図9に示した正極21および負極22の平面構成を模式的に表している。
[二次電池の全体構成]
角型の二次電池は、主に、電池缶11の内部に電池素子20が収納されたものである。この電池素子20は、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回された巻回積層体であり、電池缶11の形状に応じて扁平状になっている。
電池缶11は、例えば、角型の外装部材である。この角型の外装部材は、図9に示したように、長手方向における断面が矩形型または略矩形型(一部に曲線を含む)の形状を有しており、矩形状だけでなくオーバル形状の角型電池にも適用される。すなわち、角型の外装部材とは、矩形状または円弧を直線で結んだ略矩形状(長円形状)の開口部を有する有底矩形型または有底長円形状型の器状部材である。なお、図9では、電池缶11が矩形型の断面形状を有する場合を示している。
この電池缶11は、例えば、Fe、Alまたはそれらの合金などの導電性材料により形成されており、電極端子としての機能を有している場合もある。中でも、充放電時に固さ(変形しにくさ)を利用して電池缶11の膨れを抑えるためには、Alよりも固いFeが好ましい。なお、電池缶11がFe製である場合、その表面にNiなどが鍍金されていてもよい。
また、電池缶11は、一端部が開放されると共に他端部が閉鎖された中空構造を有しており、その開放端部に取り付けられた絶縁板12および電池蓋13により密閉されている。絶縁板12は、電池素子20と電池蓋13との間に設けられていると共に、例えば、ポリプロピレンなどの絶縁性材料により形成されている。電池蓋13は、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されており、その電池缶11と同様に電極端子として機能してもよい。
電池蓋13の外側には、正極端子となる端子板14が設けられており、その端子板14は、絶縁ケース16を介して電池蓋13から電気的に絶縁されている。この絶縁ケース16は、例えば、ポリブチレンテレフタレートなどの絶縁性材料により形成されている。電池蓋13のほぼ中央には貫通孔が設けられており、その貫通孔には、端子板14と電気的に接続されると共にガスケット17を介して電池蓋13から電気的に絶縁されるように正極ピン15が挿入されている。このガスケット17は、例えば、絶縁性材料により形成されており、そのガスケット17の表面には、アスファルトが塗布されていてもよい。
電池蓋13の周縁付近には、開裂弁18および注入孔19が設けられている。開裂弁18は、電池蓋13と電気的に接続されており、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して電池の内圧が一定以上となった場合に、電池蓋13から切り離されて内圧を開放するようになっている。注入孔19は、例えば、ステンレス鋼球からなる封止部材19Aにより塞がれている。
正極21の端部(例えば内終端部)には、Alなどの導電性材料により形成された正極リード24が取り付けられていると共に、負極22の端部(例えば外終端部)には、Niなどの導電性材料により形成された負極リード25が取り付けられている。正極リード24は、正極ピン15の一端に溶接されていると共に端子板14と電気的に接続されており、負極リード25は、電池缶11に溶接されていると共にその電池缶11と電気的に接続されている。
[正極]
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを有している。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
正極集電体21Aは、例えば、Al、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵放出可能である正極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、必要に応じて正極結着剤または正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、正極結着剤または正極導電剤に関する詳細は、例えば、既に説明した負極結着剤および負極導電剤と同様である。
正極材料としては、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物は、例えば、Liと遷移金属元素とを構成元素として含む複合酸化物や、Liと遷移金属元素とを構成元素として含むリン酸化合物などである。中でも、遷移金属元素は、Co、Ni、MnおよびFeのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M11O2 またはLiy M12PO4 で表される。式中、M11およびM12は、1種類以上の遷移金属元素を表している。xおよびyの値は、充放電状態に応じて異なるが、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。特に、正極材料がNiまたはMnを含んでいると、体積安定率が向上する傾向にある。
Liと遷移金属元素とを含む複合酸化物は、例えば、Lix CoO2 、Lix NiO2 (xは任意の値)、または下記の式(1)で表されるリチウムニッケル系複合酸化物などである。Liと遷移金属元素とを含むリン酸化合物は、例えば、LiFePO4 またはLiFe1-u Mnu PO4 (u<1)などである。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。なお、正極材料は、上記以外の材料でもよい。例えば、Lix M14y O2 (M14はNiと式(1)に示したM13のうちの少なくとも1種とであると共に、x>1であり、yは任意である。)で表される材料などである。
LiNi1-x M13x O2 …(1)
(M13はCo、Mn、Fe、Al、V、Sn、Mg、Ti、Sr、Ca、Zr、Mo、Tc、Ru、Ta、W、Re、Y、Cu、Zn、Ba、B、Cr、Si、Ga、P、SbおよびNbのうちの少なくとも1種であり、xは0.005<x<0.5を満たす。)
この他、正極材料は、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物または導電性高分子などである。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムまたは二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンまたは硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンまたはポリチオフェンなどである。
[負極]
負極22は、上記した二次電池用負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを有している。負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成は、それぞれ負極集電体1および負極活物質層2の構成と同様である。リチウムイオンを吸蔵放出可能である負極材料の充電可能な容量は、正極21の放電容量よりも大きくなっていることが好ましい。充放電時に意図せずにLi金属が析出することを防止するためである。
図10に示したように、正極活物質層21Bは、例えば、正極集電体21Aの表面の一部(例えば長手方向における中央領域)に設けられている。これに対して、負極活物質層22Bは、例えば、負極集電体22Aの全面に設けられている。これにより、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aのうち、正極活物質層21Bと対向する領域(対向領域R1)および対向しない領域(非対向領域R2)に設けられている。この場合には、負極活物質層22Bのうち、対向領域R1に設けられている部分が充放電に関与するが、非対向領域R2に設けられている部分は充放電にほとんど関与しない。なお、図10では、正極活物質層21Bおよび負極活物質層22Bに網掛けしている。
上記したように、負極活物質層22Bに含まれる負極活物質の原子割合は、その表面において所定の範囲内である。しかしながら、充放電時にリチウムイオンが負極活物質から出入りすると、その負極活物質の原子割合が負極活物質層22Bの形成時の状態から変動し得る。しかしながら、非対向領域R2では、充放電の影響をほとんど受けず、負極活物質層22Bの形成状態が維持される。このため、負極活物質の表面における原子割合に関しては、非対向領域R2の負極活物質層22Bを調べることが好ましい。充放電の履歴(充放電の有無および回数など)に依存せずに、負極活物質の表面における原子割合を再現性よく正確に調べることができるからである。このことは、負極活物質の物性(結晶粒の平均面積占有率および平均粒径)および組成(原子比x〜z)などの他の一連のパラメータに関しても同様である。
この負極22の満充電状態における最大利用率(以下、単に「負極利用率」という。)は、特に限定されず、正極21の容量と負極22の容量との割合に応じて任意に設定可能である。
上記した「負極利用率」は、利用率Z(%)=(X/Y)×100で表される。ここで、Xは、負極22の満充電状態における単位面積当たりのリチウムイオンの吸蔵量であり、Yは、負極22の単位面積当たりにおける電気化学的に吸蔵可能なリチウムイオンの量である。
吸蔵量Xについては、例えば、以下の手順で求めることができる。最初に、満充電状態になるまで二次電池を充電させたのち、その二次電池を解体して、負極22のうちの正極21と対向している部分(検査負極)を切り出す。続いて、検査負極を用いて、金属リチウムを対極とした評価電池を組み立てる。最後に、評価電池を放電させて初回放電時の放電容量を測定したのち、その放電容量を検査負極の面積で割って吸蔵量Xを算出する。この場合の「放電」とは、検査負極からリチウムイオンが放出される方向へ通電することを意味しており、例えば、0.1mA/cm2 の電流密度で電池電圧が1.5Vに達するまで定電流放電する。
一方、吸蔵量Yに関しては、例えば、上記した放電済みの評価電池を電池電圧が0Vになるまで定電流定電圧充電して充電容量を測定したのち、その充電容量を検査負極の面積で割って算出する。この場合の「充電」とは、検査負極にリチウムイオンが吸蔵される方向へ通電することを意味しており、例えば、電流密度が0.1mA/cm2 であると共に電池電圧が0Vである定電圧充電に、電流密度が0.02mA/cm2 に達するまで行う。
中でも、負極利用率は、35%〜80%であることが好ましい。優れた初回充放電特性、サイクル特性および負荷特性などが得られるからである。
[セパレータ]
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、合成樹脂またはセラミックからなる多孔質膜であり、2種類以上の多孔質膜が積層された積層膜でもよい。合成樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどである。
[電解液]
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒に電解質塩が溶解されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この非水溶媒は、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、またはジメチルスルホキシドなどである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。より優れた特性が得られるからである。この場合には、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
特に、溶媒は、不飽和環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極22の表面に安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。不飽和環状炭酸エステルとは、1または2以上の不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルである。この不飽和環状炭酸エステルは、例えば、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレンまたは炭酸メチレンエチレンなどである。溶媒中における不飽和環状炭酸エステルの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01重量%〜10重量%である。
また、溶媒は、ハロゲン化炭酸エステル、すなわちハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルのうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。充放電時に負極22の表面に安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルであり、ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルである。
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、F、ClまたはBrが好ましく、Fがより好ましい。他のハロゲンよりも高い効果が得られるからである。ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。保護膜を形成する能力が高くなると共に、より強固で安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)または炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンまたは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。このハロゲン化環状炭酸エステルには、幾何異性体も含まれる。溶媒中におけるハロゲン化炭酸エステルの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01重量%〜50重量%である。
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。スルトンは、例えば、プロパンスルトンまたはプロペンスルトンなどである。溶媒中におけるスルトンの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物は、例えば、例えば、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物またはカルボン酸スルホン酸無水物などである。カルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸または無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸または無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸または無水スルホ酪酸などである。溶媒中における酸無水物の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。リチウム塩は、例えば、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 、LiAsF6 、LiB(C6 H5 )4 、LiCH3 SO3 、LiCF3 SO3 、LiAlCl4 、Li2 SiF6 、LiClまたはLiBrなどであり、その他の種類のリチウム塩でもよい。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
中でも、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 およびLiAsF6 のいずれか1種類または2種類以上が好ましく、LiPF6 またはLiBF4 が好ましく、LiPF6 がより好ましい。内部抵抗が低下するため、より優れた特性が得られるからである。
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
[二次電池の動作]
この角型の二次電池では、例えば、充電時において、正極21から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極22に吸蔵されると共に、放電時において、負極22から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
この二次電池では、特に、未充電状態で負極活物質中のSiのうちの少なくとも一部が既にLiと合金化していることが好ましく、すなわち未充電状態で負極22(負極活物質)にリチウムイオンが既に吸蔵(いわゆるプレドープ)されていることが好ましい。初期の充放電時における不可逆容量が低減するため、プレドープされていない場合と比較して初回充放電特性およびサイクル特性などが向上するからである。プレドープの有無に関しては、図10を参照して説明したように、非対向領域R2の負極活物質層22Bを調べることが好ましい。
[二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
正極21を作製する場合には、最初に、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤などに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードまたはバーコータなどのコーティング装置を用いて正極集電体21Aに正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて正極活物質層21Bを形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
負極22を作製する場合には、例えば、上記した負極と同様の作製手順により、負極集電体22Aに負極活物質層22Bを形成する。
なお、負極22にリチウムイオンをプレドープする場合には、例えば、正極活物質などと共にLi金属粉末とを混合したのち、不活性ガス(例えばArガスなど)の雰囲気中で加熱(例えば500℃)する。または、例えば、負極22を作製したのち、蒸着法などを用いて負極活物質層22にLi金属を堆積させてもよい。
電池素子20を作製する場合には、最初に、溶接法などを用いて、正極集電体21Aに正極リード24を取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード25を取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層させたのち、それらを長手方向に巻回させる。最後に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。
二次電池を組み立てる場合には、最初に、電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20の上に絶縁板12を載せる。続いて、溶接法などを用いて、正極リード24を正極ピン15に取り付けると共に、負極リード25を電池缶11に取り付ける。この場合には、レーザ溶接法などを用いて電池缶11の開放端部に電池蓋13を固定する。最後に、注入孔19から電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させたのち、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐ。
[二次電池の作用および効果]
この角型の二次電池によれば、負極22が上記した負極と同様の構成を有しているので、優れた電池特性を得ることができる。これ以外の効果は、負極と同様である。
<2−2.円筒型>
図11および図12は、円筒型二次電池の断面構成を表しており、図12では、図11に示した巻回電極体40の一部を拡大している。以下では、既に説明した角型の二次電池の構成要素を随時引用する。
[二次電池の構成]
円筒型の二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶31の内部に巻回電極体40および一対の絶縁板32,33が収納されたものである。この巻回電極体40は、セパレータ43を介して正極41と負極42とが積層および巻回された巻回積層体である。
電池缶31は、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されている。一対の絶縁板32,33は、巻回電極体40を上下から挟むと共にその巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
電池缶31の開放端部には、電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子(PTC素子)36がガスケット37を介してかしめられており、その電池缶31は密閉されている。電池蓋34は、例えば、電池缶31と同様の材料により形成されている。安全弁機構35および熱感抵抗素子36は、電池蓋34の内側に設けられており、その安全弁機構35は、熱感抵抗素子36を介して電池蓋34と電気的に接続されている。この安全弁機構35では、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板35Aが反転して電池蓋34と巻回電極体40との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子36は、温度上昇に応じた抵抗増加により、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット37は、例えば、絶縁材料により形成されており、その表面にはアスファルトが塗布されていてもよい。
巻回電極体40の中心には、センターピン44が挿入されていてもよい。正極41には、Alなどの導電性材料により形成された正極リード45が接続されていると共に、負極42には、Niなどの導電性材料により形成された負極リード46が接続されている。正極リード45は、安全弁機構35に溶接などされていると共に、電池蓋34と電気的に接続されている。負極リード46は、電池缶31に溶接などされている。
正極41は、例えば、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを有している。負極42は、上記した二次電池用負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bを有している。正極集電体41A、正極活物質層41B、負極集電体42A、負極活物質層42Bおよびセパレータ43の構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。また、セパレータ43に含浸されている電解液の組成は、角型の二次電池における電解液の組成と同様である。
[二次電池の動作]
この円筒型の二次電池では、例えば、充電時において、正極41から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極42に吸蔵されると共に、放電時において、負極42から放出された電解液を介して正極41に吸蔵される。
[二次電池の製造方法]
この円筒型の二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。最初に、例えば、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを形成して正極41を作製すると共に、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bを形成して負極42を作製する。続いて、溶接法などを用いて、正極41に正極リード45を取り付けると共に、負極42に負極リード46を取り付ける。続いて、セパレータ43を介して正極41と負極42とを積層および巻回させて巻回電極体40を作製したのち、その巻回中心にセンターピン44を挿入する。続いて、一対の絶縁板32,33で挟みながら巻回電極体40を電池缶31の内部に収納する。この場合には、溶接法などを用いて、正極リード45を安全弁機構35に取り付けると共に、負極リード46の先端部を電池缶31に取り付ける。続いて、電池缶31の内部に電解液を注入してセパレータ43に含浸させる。最後に、電池缶31の開口端部に電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子36を取り付けたのち、それらをガスケット37を介してかしめる。
[二次電池の作用および効果]
この円筒型の二次電池によれば、負極42が上記した負極と同様の構成を有しているので、角型の二次電池と同様の効果を得ることができる。
<2−3.ラミネートフィルム型>
図13は、ラミネートフィルム型二次電池の分解斜視構成を表しており、図14は、図13に示した巻回電極体50のXIV−XIV線に沿った断面を拡大している。
[二次電池の構成]
ラミネートフィルム型の二次電池は、主に、フィルム状の外装部材60の内部に巻回電極体50が収納されたものである。この巻回電極体50は、セパレータ55および電解質層56を介して正極53と負極54とが積層および巻回された巻回積層体である。正極53には正極リード51が取り付けられていると共に、負極54には負極リード52が取り付けられている。巻回電極体50の最外周部は、保護テープ57により保護されている。
正極リード51および負極リード52は、例えば、外装部材60の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード51は、例えば、Alなどの導電性材料により形成されていると共に、負極リード52は、例えば、Cu、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。これらの材料は、例えば、薄板状または網目状になっている。
外装部材60は、例えば、融着層、金属層および表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムである。このラミネートフィルムでは、例えば、融着層が巻回電極体50と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、または接着剤などにより貼り合わされている。融着層は、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのフィルムである。金属層は、例えば、Al箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレートなどのフィルムである。
中でも、外装部材60としては、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔およびナイロンフィルムがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムが好ましい。ただし、外装部材60は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムまたは金属フィルムでもよい。
外装部材60と正極リード51および負極リード52との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム61が挿入されている。この密着フィルム61は、正極リード51および負極リード52に対して密着性を有する材料により形成されている。このような材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂である。
正極53は、例えば、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを有している。負極54は、上記した二次電池用負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bを有している。正極集電体53A、正極活物質層53B、負極集電体54Aおよび負極活物質層54Bの構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。また、セパレータ55の構成は、セパレータ23の構成と同様である。
電解質層56は、高分子化合物により電解液が保持されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。この電解質層56は、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に電解液の漏液が防止されるので好ましい。
高分子化合物は、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリフッ化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。である。中でも、ポリフッ化ビニリデン、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましい。電気化学的に安定だからである。
電解液の組成は、例えば、角型の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層56において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。このため、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
なお、ゲル状の電解質層56に代えて、電解液を用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ55に含浸される。
[二次電池の動作]
このラミネートフィルム型の二次電池では、例えば、充電時において、正極53から放出されたリチウムイオンが電解質層56を介して負極54に吸蔵される。また、例えば、放電時において、負極54から放出されたリチウムイオンが電解質層56を介して正極53に吸蔵される。
[二次電池の製造方法]
このゲル状の電解質層56を備えたラミネートフィルム型の二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
第1手順では、最初に、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極53および負極54を作製する。この場合には、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを形成して正極53を作製すると共に、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bを形成して負極54を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、有機溶剤などとを含む前駆溶液を調製したのち、その前駆溶液を正極53および負極54に塗布してゲル状の電解質層56を形成する。続いて、溶接法などを用いて、正極集電体53Aに正極リード51を取り付けると共に、負極集電体54Aに負極リード52を取り付ける。続いて、電解質層56が形成された正極53と負極54とをセパレータ55を介して積層および巻回させて巻回電極体50を作製したのち、その最外周部に保護テープ57を接着させる。最後に、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回電極体50を挟み込んだのち、熱融着法などを用いて外装部材60の外周縁部同士を接着させて、その外装部材60に巻回電極体50を封入する。この場合には、正極リード51および負極リード52と外装部材60との間に密着フィルム61を挿入する。
第2手順では、最初に、正極53に正極リード51を取り付けると共に、負極54に負極リード52を取り付ける。続いて、セパレータ55を介して正極53と負極54とを積層および巻回させて、巻回電極体50の前駆体である巻回体を作製したのち、その最外周部に保護テープ57を接着させる。続いて、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、熱融着法などを用いて一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着させて、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材60の内部に注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材60の開口部を密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とし、ゲル状の電解質層56を形成する。
第3手順では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ55を用いることを除き、上記した第2手順と同様に、巻回体を作製して袋状の外装部材60の内部に収納する。このセパレータ55に塗布する高分子化合物は、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体または多元共重合体など)などである。具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体、またはフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、フッ化ビニリデンを成分とする重合体と一緒に、他の1種類または2種類以上の高分子化合物を用いてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材60の内部に注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材60の開口部を密封する。最後に、外装部材60に加重をかけながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ55を正極53および負極54に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸するため、その高分子化合物がゲル化して電解質層56が形成される。
この第3手順では、第1手順よりも電池膨れが抑制される。また、第2手順よりも高分子化合物の原料であるモノマーまたは有機溶剤などが電解質層56中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。これにより、正極53、負極54およびセパレータ55と電解質層56とが十分に密着する。
[二次電池の作用および効果]
このラミネートフィルム型の二次電池では、負極54が上記した負極と同様の構成を有しているので、角型の二次電池と同様の効果を得ることができる。
<3.二次電池の用途>
次に、上記した二次電池の適用例について説明する。
二次電池の用途は、それを駆動用の電源または電力蓄積用の電力貯蔵源などとして用いることが可能な機械、機器、器具、装置またはシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。二次電池が電源として用いられる場合、それは主電源(優先的に使用される電源)でもよいし、補助電源(主電源に代えて、または主電源から切り換えて使用される電源)でもよい。後者の場合における主電源の種類は、二次電池に限られない。
二次電池の用途としては、例えば、以下の用途などが挙げられる。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビまたは携帯用情報端末などの携帯用電子機器である。ただし、電子機器の用途は携帯用に限られない。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源またはメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルまたは電動のこぎりなどの電動工具である。ノート型パソコンなどの電源として用いられる電池パックである。ペースメーカーまたは補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、上記以外の用途でもよい。
中でも、二次電池は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具または電子機器などに適用されることが有効である。優れた電池特性が要求されるため、本技術の二次電池を用いることにより、有効に特性向上を図ることができるからである。なお、電池パックは、二次電池を用いた電源であり、いわゆる組電池などである。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、上記したように、二次電池以外の駆動源も併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に電力が蓄積されており、その電力が必要に応じて消費されるため、家庭用の電気製品などが使用可能になる。電動工具は、二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)が可動する工具である。電子機器は、二次電池を駆動用の電源として各種機能を発揮する機器である。
ここで、二次電池のいくつかの適用例について具体的に説明する。なお、以下で説明する各適用例の構成はあくまで一例であるため、適宜変更可能である。
<3−1.電池パック>
図15は、電池パックのブロック構成を表している。この電池パックは、例えば、図15に示したように、プラスチック材料などにより形成された筐体60の内部に、制御部61と、電源62と、スイッチ部63と、電流測定部64と、温度検出部65と、電圧検出部66と、スイッチ制御部67と、メモリ68と、温度検出素子69と、電流検出抵抗70と、正極端子71および負極端子72とを備えている。
制御部61は、電池パック全体の動作(電源62の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、中央演算処理装置(CPU)などを含んでいる。電源62は、1または2以上の二次電池を含んでいる。この電源62は、例えば、2以上の二次電池を含む組電池であり、それらの接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。一例を挙げると、電源62は、2並列3直列となるように接続された6つの二次電池を含んでいる。
スイッチ部63は、制御部61の指示に応じて電源62の使用状態(電源62と外部機器との接続の可否)を切り換えるものである。このスイッチ部63は、例えば、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオードなどを含んでいる。充電制御スイッチおよび放電制御スイッチは、例えば、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などの半導体スイッチである。
電流測定部64は、電流検出抵抗70を用いて電流を測定して、その測定結果を制御部61に出力するものである。温度検出部65は、温度検出素子69を用いて温度を測定して、その測定結果を制御部61に出力するようになっている。この温度測定結果は、例えば、異常発熱時に制御部61が充放電制御を行う場合や、制御部61が残容量の算出時に補正処理を行うために用いられる。電圧検出部66は、電源62中における二次電池の電圧を測定して、その測定電圧アナログ/デジタル変換(A/D)変換して制御部61に供給するものである。
スイッチ制御部67は、電流測定部66および電圧測定部66から入力される信号に応じて、スイッチ部63の動作を制御するものである。
このスイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過充電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部67(充電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に充電電流が流れないように制御するようになっている。これにより、電源62では、放電用ダイオードを介して放電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、充電時に大電流が流れた場合に、充電電流を遮断するようになっている。
また、スイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過放電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部67(放電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に放電電流が流れないように制御するようになっている。これにより、電源62では、充電用ダイオードを介して充電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、放電時に大電流が流れた場合に、放電電流を遮断するようになっている。
なお、二次電池では、例えば、過充電検出電圧は4.20V±0.05Vであり、過放電検出電圧は2.4V±0.1Vである。
メモリ68は、例えば、不揮発性メモリであるEEPROMなどである。このメモリ68には、例えば、制御部61により演算された数値や、製造工程段階で測定された二次電池の情報(例えば、初期状態の内部抵抗など)が記憶されている。なお、メモリ68に二次電池の満充電容量を記憶させておけば、制御部10が残容量などの情報を把握できる。
温度検出素子69は、電源62の温度を測定して、その測定結果を制御部61に出力するものであり、例えば、サーミスタなどである。
正極端子71および負極端子72は、電池パックを用いて稼働される外部機器(例えばノート型のパーソナルコンピュータなど)または電池パックを充電するために用いられる外部機器(例えば充電器など)に接続される端子である。電源62の充放電は、正極端子71および負極端子72を介して行われる。
<3−2.電動車両>
図16は、電動車両の一例であるハイブリッド自動車のブロック構成を表している。この電動車両は、例えば、図16に示したように、金属製の筐体73の内部に、制御部74と、エンジン75と、電源76と、駆動用のモータ77と、差動装置78と、発電機79と、トランスミッション80およびクラッチ81と、インバータ82,83と、各種センサ84とを備えている。この他、電動車両は、例えば、差動装置78およびトランスミッション80に接続された前輪用駆動軸85および前輪86と、後輪用駆動軸87および後輪88とを備えている。
この電動車両は、エンジン75またはモータ77のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン75は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジンなどである。エンジン75を動力源とする場合、エンジン75の駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。なお、エンジン75の回転力は発電機79にも伝達され、その回転力により発電機79が交流電力を発生させると共に、その交流電力はインバータ83を介して直流電力に変換され、電源76に蓄積される。一方、変換部であるモータ77を動力源とする場合、電源76から供給された電力(直流電力)がインバータ82を介して交流電力に変換され、その交流電力によりモータ77が駆動する。このモータ77により電力から変換された駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。
なお、図示しない制動機構により電動車両が減速すると、その減速時の抵抗力がモータ77に回転力として伝達され、その回転力によりモータ77が交流電力を発生させるようにしてもよい。この交流電力はインバータ82を介して直流電力に変換され、その直流回生電力は電源76に蓄積されることが好ましい。
制御部74は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源76は、1または2以上の二次電池を含んでいる。この電源76は、外部電源と接続され、その外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積可能になっていてもよい。各種センサ84は、例えば、エンジン75の回転数を制御したり、図示しないスロットルバルブの開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。この各種センサ84は、例えば、速度センサ、加速度センサ、エンジン回転数センサなどを含んでいる。
なお、上記では電動車両としてハイブリッド自動車について説明したが、電動車両は、エンジン75を用いずに電源76およびモータ77だけを用いて作動する車両(電気自動車)でもよい。
<3−3.電力貯蔵システム>
図17は、電力貯蔵システムのブロック構成を表している。この電力貯蔵システムは、例えば、図17に示したように、一般住宅または商業用ビルなどの家屋89の内部に、制御部90と、電源91と、スマートメータ92と、パワーハブ93とを備えている。
ここでは、電源91は、例えば、家屋89の内部に設置された電気機器94に接続されていると共に、家屋89の外部に停車された電動車両96に接続可能になっている。また、電源91は、例えば、家屋89に設置された自家発電機95にパワーハブ93を介して接続されていると共に、スマートメータ92およびパワーハブ93を介して外部の集中型電力系統97に接続可能になっている。
なお、電気機器94は、例えば、冷蔵庫、エアコン、テレビまたは給湯器などの1または2以上の家電製品を含んでいる。自家発電機95は、例えば、太陽光発電機または風力発電機などの1種類または2種類以上である。電動車両96は、例えば、電気自動車、電気バイクまたはハイブリッド自動車などの1種類または2種類以上である。集中型電力系統97は、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所または風力発電所などの1種類または2種類以上である。
制御部90は、電力貯蔵システム全体の動作(電源91の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源91は、1または2以上の二次電池を含んでいる。スマートメータ92は、例えば、電力需要側の家屋89に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能になっている。これに伴い、スマートメータ92は、例えば、必要に応じて外部と通信しながら、家屋89における需要・供給のバランスを制御し、効率的で安定したエネルギー供給を可能にするようになっている。
この電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統97からスマートメータ92およびパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積されると共に、独立電源である太陽光発電機95からパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積される。この電源91に蓄積された電力は、制御部91の指示に応じて、必要に応じて電気機器94または電動車両96に供給されるため、その電気機器94が稼働可能になると共に、電動車両96が充電可能になる。すなわち、電力貯蔵システムは、電源91を用いて、家屋89内における電力の蓄積および供給を可能にするシステムである。
電源91に蓄積された電力は、任意に利用可能である。このため、例えば、電気使用量が安い深夜に集中型電力系統97から電源91に電力を蓄積しておき、その電源91に蓄積しておいた電力を電気使用量が高い日中に用いることができる。
なお、上記した電力貯蔵システムは、1戸(1世帯)ごとに設置されていてもよいし、複数戸(複数世帯)ごとに設置されていてもよい。
<3−4.電動工具>
図18は、電動工具のブロック構成を表している。この電動工具は、例えば、図18に示したように、電動ドリルであり、プラスチック材料などにより形成された工具本体98の内部に、制御部99と、電源100とを備えている。この工具本体98には、例えば、可動部であるドリル部101が稼働(回転)可能に取り付けられている。
制御部99は、電動工具全体の動作(電源100の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源100は、1または2以上の二次電池を含んでいる。この制御物99は、図示しない動作スイッチの操作に応じて、必要に応じて電源100からドリル部101に電力を供給して可動させるようになっている。
本技術の実施例について、詳細に説明する。
(実施例1−1〜1−12)
以下の手順により、図13および図14に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。
正極53を作製する場合には、最初に、正極活物質(LiCoO2 )91質量部と、正極導電剤(グラファイト)6質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVDF)3質量部とを混合して正極合剤とした。続いて、正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体53A(12μm厚の帯状Al箔)の両面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて正極活物質層53Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層53Bを圧縮成型した。この場合には、満充電時に負極54にLi金属が析出しないように正極活物質層53Bの厚さを調整した。
負極54を作製する場合には、最初に、ガスアトマイズ法を用いて高結晶性のSi酸化物(SiOx :メジアン径D50=4μm)を得た。この場合には、原材料(Si)の溶融凝固時にO2 導入量を調整して組成(原子比z)を制御した。続いて、H2 ガスを供給しながらSi酸化物を加熱(1000℃以下)して、そのSi酸化物の表面を還元することで、負極活物質を得た。この負極活物質の構成は、表1に示した通りである。原子割合のうち、「表面」とは最表面の原子割合、「内部」とは表面から中心に向かって300nmの位置の原子割合、「推移」とは表面と上記内部位置との間における原子割合の推移(中心に向かう方向における原子割合の変化傾向)である。最後に、必要に応じて、蒸着法を用いて負極活物質の表面に導電層(C)を形成した。なお、導電層の平均厚さ=100nm、平均被覆率=80%、比IG/ID=1.8である。
続いて、負極活物質と負極結着剤の前駆体とを90:10の乾燥重量比で混合したのち、NMPで希釈してペースト状の負極合剤スラリーとした。この負極結着剤の前駆体は、NMPとN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)とを含むポリアミック酸である。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体54A(15μm厚の圧延Cu箔)の両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。最後に、結着性を高めるために塗膜を熱プレスしたのち、真空雰囲気中で焼成(400℃×1時間)した。これにより、負極結着剤(ポリイミド)が形成されたため、負極活物質および負極結着剤を含む負極活物質層54Bが形成された。なお、負極利用率が65%となるように負極活物質層54Bの厚さを調整した。
電解液を調製する場合には、溶媒(炭酸エチレン(EC)および炭酸ジエチル(DEC))に電解質塩(LiPF6 )を溶解させた。この場合には、溶媒の組成を重量比でEC:DEC=50:50、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
二次電池を組み立てる場合には、最初に、正極集電体53Aの一端にAl製の正極リード51を溶接すると共に、負極集電体54Aの一端にNi製の負極リード52を溶接した。続いて、正極53と、セパレータ55と、負極54と、セパレータ55とをこの順に積層してから長手方向に巻回させて、巻回電極体50の前駆体である巻回体を形成したのち、その巻き終わり部分を保護テープ57(粘着テープ)で固定した。このセパレータ55は、多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた積層フィルム(20μm厚)である。続いて、外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着して、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納した。この外装部材60は、外側から、ナイロンフィルム(30μm厚)と、Al箔(40μm厚)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(30μm厚)とが積層されたアルミラミネートフィルムである。続いて、外装部材60の開口部から電解液を注入してセパレータ55に含浸させて巻回電極体50を作製した。最後に、真空雰囲気中で外装部材60の開口部を熱融着した。
二次電池の初回充放電特性およびサイクル特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
初回充放電特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために、常温雰囲気中(23℃)で二次電池を1サイクル充放電させた。続いて、同雰囲気中で二次電池を再び充電させて充電容量を測定したのち、放電させて放電容量を測定した。最後に、初回効率(%)=(放電容量/充電容量)×100を算出した。充電時には、3mA/cm2 の定電流密度で電圧が4.2Vに達するまで充電したのち、4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm2 に達するまでさらに充電した。放電時には、3mA/cm2 の定電流密度で電圧が2.5Vに達するまで放電した。
サイクル特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために二次電池を1サイクル充放電させたのち、再び充放電させて放電容量を測定した。続いて、サイクル数の総数が100サイクルになるまで二次電池を充放電させて放電容量を測定した。最後に、容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。雰囲気温度および充放電条件は、充放電特性を調べた場合と同様にした。
初回効率および容量維持率は、負極活物質(SiOz )の表面および内部における原子割合に応じて変化した。この場合には、原子割合の推移が一定または減少であると、初回効率および容量維持率が高くなる傾向が得られた。特に、表面の原子割合が30原子%〜75原子%であると高い初回効率および容量維持率が得られ、30原子%〜70原子%であるとより高い容量維持率が得られた。また、内部の原子割合が35原子%〜60原子%であると、より高い初回効率および容量維持率が得られた。この他、負極活物質の表面に導電層を形成すると、初回効率および容量維持率がより高くなった。
(実験例2−1〜2−18)
表2に示したように、低結晶性の負極活物質を用いたことを除き、実験例1−6,1−8と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、原材料の溶融温度などを調整して負極活物質の物性(平均面積占有率および平均粒径)を制御した。
負極活物質(SiOz )の結晶性を変更しても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、表面の原子割合が30原子%〜75原子%であると高い初回効率および容量維持率が得られると共に、負極活物質の表面に導電層を形成すると初回効率および容量維持率がより高くなった。
(実験例3−1〜3−19)
負極活物質の構成を変更したことを除き、実験例1−1〜1−12と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。
負極54を作製する場合には、最初に、ガスアトマイズ法を用いて高結晶性のコア部(SiOx :メジアン径D50=4μm)を得た。この場合には、原材料(Si)の溶融凝固時にO2 導入量を調整して組成(原子比x)を制御した。このコア部の物性は、半値幅=0.6°、結晶子サイズ=90nmである。続いて、粉体蒸着法を用いてコア部の表面に非結晶性および単層の被覆部(SiOy )を形成した。この場合には、原材料(Si)の堆積時にO2 またはH2 の導入量を調整して組成(原子比y)を制御した。粉体蒸着法では、抵抗加熱および誘導加熱蒸着源を用いると共に、堆積速度=2nm/秒、ターボ分子ポンプを用いて真空状態(圧力=1×10-3Pa)とした。コア部および被覆部の構成は、表3に示した通りである。なお、原子割合に関する「内部」とは、ここではコア部と被覆部との界面における原子割合を意味する。
コア部の表面に単層の被覆部を形成しても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、表面の原子割合が30原子%〜75原子%であると、高い初回効率および容量維持率が得られると共に、負極活物質の表面に導電層を形成すると、初回効率および容量維持率がより高くなった。特に、コア部の原子比xが0≦x<0.5を満たすと共に被覆部の原子比yが0.5≦y≦1.8を満たすと、より高い初回効率および容量維持率が得られた。
(実験例4−1,4−2)
表4に示したように、多層の被覆部を形成すると共に必要に応じて被覆部の空隙に導電層を埋め込んだことを除き、実験例3−4と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。
被覆部を形成する場合には、シャッタ機構を用いてコア部を回転させながら多方向から蒸着処理を断続的に繰り返すことで、被覆部を多層にすると共に、その層間に空隙を形成した。また、導電層を形成する場合には、熱分解CVD法(炭素源ガスはメタンガス)を用いることで、被覆部の空隙に導電層の一部を埋設(封孔)した。
被覆部を多層にして空隙を形成すると、より高い容量維持率が得られると共に、その空隙を導電層で封孔すると、より高い初回効率および容量維持率が得られた。
(実験例5−1〜5−11)
表5に示したように、コア部のメジアン径(D50)を変更したことを除き、実験例3−4と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、コア部の形成工程においてメジアン径が異なる原材料(Si)を用いた。
メジアン径(D50)が0.1μm〜20μmであると、より高い初回効率および容量維持率が得られた。
(実験例6−1〜6−12)
表6に示したように、被覆部の平均厚さおよび平均被覆率を変更したことを除き、実験例3−4と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、被覆部の形成工程において、堆積速度および堆積時間を変化させて平均厚さを調整すると共に、投入電力および堆積時間を変化させて平均被覆率を調整した。
平均厚さが1nm〜3000nmであると、より高い初回効率が得られると共に、平均被覆率が30%〜100%であると、より高い容量維持率が得られた。
(実験例7−1〜7−23)
表7に示したように、被覆部の結晶性を変更したことを除き、実験例3−4と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、Arガスの雰囲気中でSiOy を加熱しながら堆積させて低結晶性の被覆部を形成すると共に、その加熱時の温度および時間を調整して、被覆部の物性(平均面積占有率、平均粒径および大小関係)を調整した。この「大小関係」とは、被覆部を厚さ方向に二等分したときの内側部分および外側部分における平均面積占有率および平均粒径の大小関係である。
平均面積占有率が35%以下、平均粒径が50nm以下であると共に、平均面積占有率および平均粒径が内側≧外側であると、より高い容量維持率が得られた。
(実験例8,9−1〜9−17,10−1〜10−5)
表8〜表10に示したように、負極活物質に金属元素を含有させたことを除き、実験例1−6,3−4と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、原材料としてSiOx 粉および金属粉を用いて共蒸着した。
負極活物質に金属元素を含有させると、初回効率および容量維持率の一方または双方が増加した。特に、コア部にFeを含有させる場合には、そのFeの含有量が0.01重量%〜7.5重量%であると、高い初回効率および容量維持率が得られた。
(実験例11−1〜11−18)
表11に示したように、導電層の構成を形成したことを除き、実験例3−4と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、導電層の形成工程において、堆積速度および堆積時間を変化させて平均厚さ、投入電力および堆積時間を変化させて平均被覆率、圧力、分解温度およびガス種を変更して比IG/IDをそれぞれ調整した。
導電層を形成すると、初回効率および容量維持率がより増加した。この場合には、平均厚さが200nm以下、平均被覆率が30%〜100%、比IG/IDが0.3〜3.2であると、より高い初回効率および容量維持率が得られた。
(実験例12−1〜12−3)
表12に示したように、負極集電体54AにCおよびSを含有させたことを除き、実験例3−4と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、負極集電体54Aとして、CおよびSが含有された圧延Cu箔を用いた。
負極集電体54AがCおよびSを含有していると、初回効率および容量維持率がより増加した。この場合には、CおよびSの含有量が100ppm以下であると、より高い容量維持率が得られた。
(実験例13−1〜13−9)
表13に示したように、負極結着剤の種類を変更したことを除き、実験例3−4と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、負極結着剤として、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアミド(PA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(PAAL)、炭化ポリイミド(炭化PI)、ポリエチレン(PE)、ポリマレイン酸(PMA)、またはアラミド(AR)を用いた。なお、PAAおよびPAALなどを用いる場合には、それらが溶解された17体積%の水溶液を用いて負極合剤スラリーを準備すると共に、熱プレスしてから焼成しないで負極活物質層54Bを形成した。
負極結着剤の種類を変更しても、高い初回効率および容量維持率が得られた。
(実験例14−1〜14−12)
表14に示したように、正極活物質の種類を変更したことを除き、実験例3−4と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。
正極活物質の種類を変更しても、高い初回効率および容量維持率が得られた。
(実験例15−1,15−2,16−1,16−2)
表15および表16に示したように、負極活物質にリチウムイオンをプレドープしたことを除き、実験例1−6,3−4と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。プレドープ方法としては、「粉末混合」では正極活物質等とLi金属粉末とを混合して負極合剤を調製すると共に、「蒸着」では負極54の作成後に蒸着法を用いてLi金属を堆積させた。
プレドープすると、より高い初回効率および容量維持率が得られた。
表1〜表16の結果から、SiおよびOを構成元素として含む負極活物質において、原子割合(Si/(Si+O))が負極活物質の表面において30原子%〜75原子%であると、優れた初回充放電特性およびサイクル特性が得られた。
以上、実施形態および実施例を挙げて本技術について説明したが、本技術は実施形態および実施例で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本技術の二次電池は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出による容量とリチウム金属の析出溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和により電池容量が表される二次電池についても同様に適用可能である。この場合には、リチウムイオンを吸蔵放出可能である負極材料が用いられると共に、その負極材料の充電可能な容量は正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
また、例えば、本技術の二次電池は、コイン型またはボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
また、例えば、電極反応物質は、NaまたはKなどの他の1族元素や、MgまたはCaなどの2族元素や、Alなどの他の軽金属でもよい。本技術の効果は、電極反応物質の種類に依存せずに得られるはずであるため、その電極反応物質の種類を変更しても同様の効果を得ることができる。
また、実施形態および実施例では、原子割合に関して、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明している。しかしながら、その説明は、原子割合が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本技術の効果を得る上で特に好ましい範囲であるため、本技術の効果が得られるのであれば、上記した範囲から原子割合が多少外れてもよい。このことは、特許請求の範囲で規定している平均面積占有率および平均粒径などの他の数値範囲に関しても同様である。
なお、本技術は以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
正極と、活物質を含む負極と、電解液とを備え、
前記活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であると共に、ケイ素(Si)および酸素(O)を構成元素として含み、
前記ケイ素および前記酸素に対する前記ケイ素の原子割合(Si/(Si+O))は、前記活物質の表面において30原子%〜75原子%であると共に、
前記活物質は、コア部と、そのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた被覆部とを含み、
前記被覆部は、多層であると共に層間に空隙を有し、その空隙のうちの少なくとも一部に、炭素(C)を構成元素として含む導電性材料が設けられている、
二次電池。
(2)
前記活物質の表面のうちの少なくとも一部に導電層が設けられており、
前記導電層は、炭素(C)を構成元素として含み、
ラマンスペクトル法により測定される前記導電層のGバンドピーク強度IGとDバンドピーク強度IDとの比IG/IDは、0.3〜3.2である、
上記(1)に記載の二次電池。
(3)
前記コア部のメジアン径(D50)は、0.1μm〜20μmであり、
前記被覆部の平均厚さは、1nm〜3000nmであり、
前記コア部に対する前記被覆部の平均被覆率は、30%以上である、
上記(1)または(2)に記載の二次電池。
(4)
前記コア部のメジアン径(D50)は、1μm〜15μmである、
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の二次電池。
(5)
前記被覆部の平均厚さは、100nm〜1000nmである、
上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の二次電池。
(6)
前記負極は、集電体の上に活物質層を有し、その活物質層は、前記活物質を含み、
前記集電体は、炭素(C)および硫黄(S)を構成元素として含むと共に、それらの含有量は、100ppm以下である、
上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の二次電池。
(7)
未充電状態において前記活物質中のケイ素のうちの少なくとも一部は、リチウム(Li)と合金化している、
上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の二次電池。
(8)
リチウムイオンを吸蔵放出可能であると共に、ケイ素(Si)および酸素(O)を構成元素として含み、
前記ケイ素および前記酸素に対する前記ケイ素の原子割合(Si/(Si+O))は、表面において30原子%〜75原子%であると共に、
前記活物質は、コア部と、そのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた被覆部とを含み、
前記被覆部は、多層であると共に層間に空隙を有し、その空隙のうちの少なくとも一部に、炭素(C)を構成元素として含む導電性材料が設けられている、
二次電池用活物質。
(9)
二次電池を電力供給源として備え、
前記二次電池は、正極と、活物質を含む負極と、電解液とを備え、
前記活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であると共に、ケイ素(Si)および酸素(O)を構成元素として含み、
前記ケイ素および前記酸素に対する前記ケイ素の原子割合(Si/(Si+O))は、前記活物質の表面において30原子%〜75原子%であると共に、
前記活物質は、コア部と、そのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた被覆部とを含み、
前記被覆部は、多層であると共に層間に空隙を有し、その空隙のうちの少なくとも一部に、炭素(C)を構成元素として含む導電性材料が設けられている、
電子機器。
(10)
二次電池を電力供給源として備え、
前記二次電池は、正極と、活物質を含む負極と、電解液とを備え、
前記活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であると共に、ケイ素(Si)および酸素(O)を構成元素として含み、
前記ケイ素および前記酸素に対する前記ケイ素の原子割合(Si/(Si+O))は、前記活物質の表面において30原子%〜75原子%であると共に、
前記活物質は、コア部と、そのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた被覆部とを含み、
前記被覆部は、多層であると共に層間に空隙を有し、その空隙のうちの少なくとも一部に、炭素(C)を構成元素として含む導電性材料が設けられている、
電動車両。
(11)
二次電池を電力供給源として備え、
前記二次電池は、正極と、活物質を含む負極と、電解液とを備え、
前記活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であると共に、ケイ素(Si)および酸素(O)を構成元素として含み、
前記ケイ素および前記酸素に対する前記ケイ素の原子割合(Si/(Si+O))は、前記活物質の表面において30原子%〜75原子%であると共に、
前記活物質は、コア部と、そのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた被覆部とを含み、
前記被覆部は、多層であると共に層間に空隙を有し、その空隙のうちの少なくとも一部に、炭素(C)を構成元素として含む導電性材料が設けられている、
電動工具。