この種の真空処理装置では、通常、真空チャンバのいずれかの壁面部分に開口部が設けられ、真空チャンバ内を開放できるようにしている。そして、真空チャンバ内でスパッタリング法、CVD法または真空蒸着法による成膜処理、熱処理や処理対象物の移送等の各種の処理を実施するのに際しては、真空チャンバの開口部が蓋体、成膜源としてのスパッタリングカソードや開閉扉などの閉塞手段で閉塞され、その内部が真空引きされる。このような真空処理装置の中には、真空チャンバの設置面(床面)に対して起立した真空チャンバの壁面部分(即ち、真空チャンバの鉛直方向に沿う一側面)に開口部を設けると共に、真空チャンバ内に設置される繰出軸や巻取軸などの部品を支持する支持プレートで閉塞手段を兼用するものがある(例えば、特許文献1、図1及び図2参照)。
上記従来例のものでは、真空チャンバの開口部の周囲に支持プレートとのシール面をなすフランジ部が設けられると共に、支持プレートが床面上を移動自在な台車に立設されている。そして、真空チャンバ内を大気圧から真空引きして減圧する場合、先ず、台車を所定位置まで移動し、フランジ部に対峙する支持プレートの外周縁部を、Oリングを介してフランジに仮接合させる。このとき、閉塞手段の構成要素としてのOリングが、支持プレートとフランジ部とのシール面にその全周に亘って夫々当接した状態となる。次に、真空ポンプを作動すると、真空チャンバ内外の圧力差により支持プレートがフランジ部に向けて押圧されてOリングが支持プレートとフランジ部との両シール面に圧接し、真空チャンバの開口が支持プレートにより完全に閉塞されて真空チャンバが気密保持される。そして、真空ポンプの能力に応じた圧力まで真空チャンバ内が真空引きされる。
ところで、近年では、量産性の向上等のため、真空チャンバとして大容積のものが用いられようになり、それに伴い、開口部の開口面積も大きくなると共に支持プレート等の閉塞手段も大型化している。このため、例えば、閉塞手段が台車に立設されていると、その自重で真空チャンバの開口部に対して傾くことがあり、本来、閉塞手段がOリングを介してフランジ部に仮接合する所定位置まで台車を移動させても、Oリングの一部がフランジに当接せず、両者間に隙間(リーク箇所)が生じる。このような状態で真空ポンプを作動させても、閉塞手段がフランジに向けて押圧される真空チャンバ内外の圧力差が発生せず、何時までも真空チャンバが真空引きされず、所定の圧力(真空度)に達しないという不具合がある。このような場合、作業者が、リーク箇所を特定し、当該リーク箇所にて支持プレートをフランジ部に押し付ければよいが、これでは作業性が著しく悪い。
以下、図面を参照して、真空処理装置として、減圧下で真空チャンバ内に設置したシート状の基材Wを所定速度で繰り出す処理を行うものを例に本発明の真空処理装置及びその真空排気方法の実施形態を説明する。以下において、「上」、「下」、「左」、「右」といった方向を示す用語は図1を基準として説明することとする。
図1及び図2を参照して、VMは、本実施形態の真空処理装置であり、真空処理装置VMは、箱状の輪郭を持つ所定容積(例えば、10m3)の真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1は、床面Fに設置した架台P上に設置され、床面Fに対して起立した真空チャンバ1の右側壁面(即ち、真空チャンバ1の鉛直方向に沿う一側面)が開口され、この真空チャンバ1の開口部11の周囲には、シール面をなす方形のフランジ部12が設けられている。そして、真空チャンバ1内を真空引きした状態でシート状の基材Wを所定速度で繰り出す処理を行うのに際しては、開口部11が閉塞手段2で閉塞される。
閉塞手段2は、床面Fを走行自在な台車21の左側端部に立設した蓋体兼用の支持プレート22を備える。支持プレート22は、フランジ部12に対峙する外周縁部を持つ板状部材で構成され、台車21に設けたフレーム22aにより床面Fに対して起立した姿勢(鉛直方向に沿うよう)に保持されている。フランジ部12の対応する支持プレート22の部分には環状溝22bが形成され、環状溝22bにはOリング23が圧入されている。また、支持プレート22には図示省略の真空シール(例えば、オイルシール)を介して繰出軸24が挿設され、繰出軸24にシート状の基材Wが巻回されている。そして、駆動モータMにより回転駆動されてシート状の基材Wが所定速度で繰り出される。また、台車21には、真空チャンバ1等に冷媒や温媒を供給する媒体供給ユニット25などの部品が設置され、設備からの図示しないホースや配線が接続され、これらを収納したケーブルガイド26が敷設されている。
真空チャンバ1には、その内部を真空引きして減圧する真空ポンプ3が備えられている。真空ポンプ3としては、真空チャンバ1内を大気圧から真空引きできるものであれば特に制限はなく、例えば、ロータリーポンプやダイヤフラムポンプが使用される。また、真空チャンバ1と真空ポンプ3とは、第1の開閉弁41が介設された所定長さの第1の排気管51で接続され、第1の開閉弁41を閉弁した状態で真空ポンプ3を作動させて第1の開閉弁41と真空ポンプ3との間に位置する第1の排気管51の部分51aを所定圧力に真空引きできるようにしている。
また、真空チャンバ1には、第2の開閉弁42が介設された第2の排気管52を介して他の真空ポンプ6が接続され、真空ポンプ3により真空チャンバ1内を所定圧力(例えば、数Pa程度)に減圧した後、他の真空ポンプ6により真空チャンバ1内を上記圧力より低い所定圧力(例えば、10−3Pa程度)に更に真空引きできるようにしている。このような他の真空ポンプ6としては、ターボ分子ポンプや油拡散ポンプが使用され、ターボ分子ポンプを使用するような場合、図2に示すようにその背圧側が第3の開閉弁43が介設された第3の排気管53を介して真空ポンプ3に接続され、所謂バックポンプの役割を果たすようになっている。駆動モータM、真空ポンプ3,6及び各開閉弁41〜43の作動といった真空処理装置VMの作動は、図外の制御ユニットにより統括制御されるようになっている。
ところで、真空ポンプ3,6により真空チャンバ1内を大気圧から所定圧力に真空引きする場合、先ず、台車21を所定位置まで移動し、フランジ部12に対峙する支持プレート22の外周縁部を、Oリング23を介してフランジ部12に仮接合させる。このとき、本来、Oリング23がフランジ12にその全周に亘って当接した状態になるが、支持プレート22がその自重で真空チャンバ1の開口部11に対して傾いていたり、または、ケーブルガイド26内のホースや配線の引張力が台車21に作用したりして、図3に示すように、Oリング23の一部がフランジ部12に当接せず、Oリング23とフランジ部12との間に隙間(リーク箇所)が生じることがある。このような状態でも真空チャンバ1内が真空引きされるように構成しておけば、作業性が向上する等、有利である。
本実施の形態では、真空チャンバ1の真空排気方法として、台車21を所定位置まで移動した後、先ず、第1〜第3の各開閉弁41,42,43を閉弁した状態で真空ポンプ3を作動させ、第1の排気管51の部分51aを所定圧力に真空引きする。この場合、第1の排気管51の部分51aを真空引きする圧力は、例えば、当該部分51aの容積や真空チャンバ1の容積を考慮して適宜設定される。また、第1の排気管51の部分51aが所定圧力に達した否かは真空ポンプ3の作動開始からの経過時間で判別することができ、また、当該部分51aに図示省略の真空計を設け、その検出値で判断するようにしてもよい。次に、第1排気管51の部分51aが所定圧力に達すると、第1の開閉弁41のみを開弁して真空チャンバ1の真空引きを開始する。
以上の実施形態によれば、真空チャンバ1と支持プレート22との間に隙間(リーク箇所)があったとしても、第1の開閉弁41を開弁することで真空チャンバ1と第1の排気管51の部分51aとの圧力差で真空チャンバ1内が急激に減圧され、支持プレート22が真空チャンバ1のフランジ部12に向けて押圧される真空チャンバ1内外の圧力差が発生して真空チャンバ1の開口部11が支持プレート22により完全に閉塞され、真空チャンバ1が気密保持される。そして、真空ポンプ3,6の能力に応じた圧力まで真空チャンバ1内が真空引きされる。その結果、リーク箇所が存在する状態でも真空チャンバ1内を大気圧から真空引きすることができ、作業性を向上することができる。しかも、隙間を生じたOリング23やフランジ部12の部分に粉塵などが付着していても、この粉塵が、第1の開閉弁41を開弁することで真空チャンバ1内に吸い込まれる周辺空気と共に真空チャンバ1内に吸い込まれるので、微細なリークの発生を防止でき、有利である。
次に、本発明の効果を確認するため、図1に示す真空処理装置VMを用いて以下の実験を行った。真空チャンバ1内を大気圧から真空引きする真空ポンプ3としては、油回転ポンプを用い(排気速度は約7000L/min)、また、真空チャンバ1として、その内部の容積が5m3のものを用いた(開口部11の面積が約1900mm×1900mm、Oリング23が当接するフランジ部12のシール部分の周長は約7m)。そして、台車21を所定位置まで移動し、フランジ部12に対峙する支持プレート22の外周縁部を、Oリング23を介してフランジ部12に仮接合させ、上述した方法で真空チャンバ1内を大気圧から真空引きする操作を行った。この場合、第1の排気管51の部分51aを約60秒間排気し、その後に、第1の開閉弁41を開弁することとした。その結果、真空チャンバ1を真空引きする際に、真空チャンバ1が真空引きされず何時までも所定の圧力に達しない、という不具合は発生しなかった。
また、支持プレート22の外周縁部を、Oリング23を介してフランジ部12に仮接合するように台車21を所定位置まで移動したとき、支持プレート22の下辺においてフランジ部12との間に約5ミリの隙間を作り、上述した方法で真空チャンバ1内を大気圧から真空引きしたところ、真空チャンバ1が真空引きされることが確認された。なお、真空チャンバ1内を真空引きし得る隙間の範囲は、排気対象である真空チャンバ内部の容積、排気管51に接続する真空ポンプ3の排気能力、排気管51自体の内容積等により決まる。また、他の実験として、真空チャンバ1内の容積が3m3、部分51aの排気時間を30秒に設定して同様の実験を行ったが、上記同様、真空チャンバ1が真空引きされず何時までも所定の圧力に達しない、という不具合は発生しなかった。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。上記実施形態では、真空処理装置として、シート状の基材Wを所定速度で繰り出す処理を行うものを例に説明したが、これに限定されものではなく、真空チャンバ1内でスパッタリング法、CVD法または真空蒸着法による成膜処理、熱処理や処理対象物の移送等の各種の処理を実施するものにも適用できる。また、上記実施形態では、真空チャンバ1内に設置される部品(繰出軸24)を支持するものを兼用する支持プレート22で閉塞手段を構成したものを例に説明したが、閉塞手段が蓋体、開閉扉やスパッタリングカソードである場合にも本発明を適用することができ、特に、真空引き開始に先立って真空チャンバに閉塞手段を仮閉塞させるためのフック等の部品を備えていない場合に有利である。更に、本発明の真空処理装置の排気方法は、真空チャンバのいずれかの壁面部分に開口部が設けられ、この開口部を閉塞手段で閉塞してその真空チャンバ内を真空引きする際、真空チャンバと閉塞手段との間に隙間が生じ易い場合に広く適用できる。
また、上記実施形態では、第1の開閉弁41を設け、第1の排気管51の部分51aを所定圧力に真空引きできるようにしたものを例に説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではない。例えば、第1の排気管51にアキュムレータ等を接続し、第1の排気管51の部分51aにおいて減圧できる容積を大きくし、開閉弁41を開く前の真空チャンバ1と第1の排気管51の部分51aに蓄えられる真空エネルギーをより大きくすることができる(言い換えると、部分51aの容積を可変として蓄えられる真空エネルギーを可変とする)。これにより、真空チャンバ1と閉塞手段22との間に生じ得る隙間(リーク箇所)に応じて、装置自体の構成(排気管51の容積等)に変更を加えることなく、真空チャンバ1内を確実に真空引きすることが実現できる。他方で、第1の排気管51の配管径や長さを変えて部分51aの容積を可変として蓄えられる真空エネルギーを可変とすることもできる。