以下、図面を用いて、本発明を実施するための形態(以下、実施形態と称する)を説明する。
図1は、本発明の真空乾燥装置の実施形態を示す正面図である。図2は、図1に示す真空乾燥装置の一部断面を有する左側面図である。図3は、図1に示す真空乾燥装置の一部断面を有する平面図である。図4は、図1に示す真空乾燥装置の一部断面を有する背面図である。
図1から図4に示す真空乾燥装置1は、槽(チャンバ)内にファン装置を設けなくても、被処理物を槽内において減圧下で、ガス(好ましくは不活性ガス)による熱伝導により均一に乾燥処理して、水や有機溶剤等の蒸発物を効率良く槽外に排出できる、小型化を図った乾燥装置である。
図1と図2に示すように、真空乾燥装置1は、正面部2、背面部3、左側面部4、右側面部5、上面部6、底面部7から構成されている箱型のチャンバ装置である。底面部7の四隅位置には、脚8が設けられている。図1と図2に示すように、真空乾燥装置1の下部が機械室9であり、真空乾燥装置1の上部が上部装置10である。機械室9と上部装置10は、例えばSUSやアルミニウムにより作られている。
図2から図4に示すように、上部装置10は、その内部に、破線で示すように、真空槽である槽(チャンバ)20を有している。槽20は、例えばSUSやアルミニウムにより作られており、立方体または直方体形状の収容空間SPを有している。図2と図3に示すように、槽20は、天井面21、内底面22、背面23、左右の側面24,25により形成されている。槽20の収容空間SPの縦寸法、横寸法、高さ寸法は、例えば60cm×60cm×60cmであるが、被処理物の大きさや処理数等によりこれらの寸法は、任意に選択することができるので、特に限定されない。
図2と図3に示すように、正面部2には、槽20の矩形の開口部11が設けられており、蓋12は、取っ手12Aを有し、ヒンジ13を用いて左側面部4側に取り付けられている。これにより、蓋12は、ヒンジ13を中心にして開口部11を開閉できる。
図1に示すように、蓋12は、使用者が上部装置10の槽20の内部を観察できるように、耐熱ガラスののぞき窓12Bを有している。図2に示すように、機械室9は、必要な機器を収容しており、商用電源に接続するための接続ライン9Sを有している。
次に、図5から図7を参照して、ガス導入部30と、ガス排出部40と、ヒータHについて説明する。
図5は、ガス導入部30とガス排出部40が、槽20内に配置されている位置の概念例を示している。図6は、槽20内におけるガス導入部30とガス排出部40とヒータHの具体的な配置例を示す斜め後方から見た斜視図である。図7は、槽20内におけるガス導入部30とガス排出部40とヒータHの具体的な配置例と、その他の構成要素を含む真空乾燥装置のシステム例を示している。
図6と図7に示す槽20におけるガス導入部30は、槽20内の背面23から天井面21に沿って配置されているが、ガス排出部40は、槽20内の内底面22に沿って配置されている。これにより、図5から図7に示すように、ガス導入部30は、槽20の収容空間SPの一方側である上部に位置されているが、ガス排出部40は、槽20の収容空間SPの他方側である下部に位置されている。これらのガス導入部30とガス排出部40は、槽20の収容空間SP内で、対向して配置されている。
図5に示すように、槽20の収容空間SPの高さ方向の中間位置には、すなわちガス導入部30とガス排出部40の中間の位置には、被処理物(ワーク)Wを配置する配置棚Gが設けられている。
図5と図6に示すガス導入部30は、真空ポンプ60による真空引きにより、ヒータHにより加熱した不活性ガスを槽20の収容空間SP内に導入するための配管系である。また、ガス排出部40は、真空ポンプ60による真空引きにより、不活性ガスとともに水や有機溶剤等の蒸発物を、槽20の収容空間SPから、槽20の外部に排出する配管系である。
まず、槽20の収容空間SPに対して配置されているガス導入部30の構造例を、図6から図9を参照して説明する。なお、図7から図9において、槽20は破線で示している。
図8は、ガス導入部30の平面図であり、図9は、ガス導入部30の背面図である。
図6に示すように、ガス導入部30は、後で説明する不活性ガスを、真空ポンプ60による真空引き(減圧)により、槽20の収容空間SP内に導入する配管系である。図7に示すように、ガス導入部30は、槽20内であって、槽20の背面23から天井面21にかけて配置されている。
図6と図7に示すように、このガス導入部30は、槽20の背面23に沿って、Z方向(上下方向)に配置され、しかもX方向(前後方向)に沿って配置されている。詳細に説明すると、ガス導入部30は、Z方向(上下方向)に配置された第1ガス導入通路31と、X方向(前後方向)に沿って配置された第2ガス導入通路32と、複数本のガス拡散供給配管路33を有している。
図6と図9に示すように、第1ガス導入通路31は、第1接続端部31Aと、第2接続端部31Bを有し、第1接続端部31Aと第2接続端部31Bの間の部分は、蛇行した配置されている蛇行部分31Cとなっている。このように、蛇行部分31Cが設けられていることで、第1ガス導入通路31の流路長さを長く確保している。このように、第1ガス導入通路31の不活性ガスの流路長さを稼ぐことにより、図6に示すヒータH(HP1)は、第1ガス導入通路31を通る不活性ガスを、効率よく加熱して第2ガス導入通路32へ送ることができる。
図6に示すように、第1接続端部31Aは、マスフローコントローラを兼ねる流量計50に接続されている。この流量計50は、不活性ガス供給部51に対して、ガス供給用の電磁弁52を介して接続されており、不活性ガス供給部51から送られる不活性ガスの流量を測定する。制御部100は、電磁弁52の開閉動作を行う。流量計50が計測する不活性ガス流量等のデータは、制御部100に送られる。
図6と図7に示すように、第2ガス導入通路32の第1端部32Aは、第1ガス導入通路31の第2接続端部31Bに接続されている。第2ガス導入通路32は、X方向(前後方向)に配置され、第2ガス導入通路32の第2端部32Bは、開口部11付近まで達している。
図6と図7に示すように、第2ガス導入通路32の第1端部32Aと第2端部32Bの間には、例えば4本のガス拡散供給配管路33が、Y方向(左右方向)に沿って、間隔をおいて、接続されている。これらのガス拡散供給配管路33は、槽20内の天井面21に沿ってX−Y平面に配置されている。
各ガス拡散供給配管路33は、後で説明するが、例えば孔開きの円筒管であり、その円筒管には複数のガス拡散供給用の孔33Hを有している。すなわち、各ガス拡散供給配管路33は、多孔配管であり、各孔33Hは、収容空間SP内に不活性ガスを拡散することで、収容空間SP内における不活性ガスの整流効果を発揮して、商用空間SP内の温度分布を向上する。
図10(A)は、各ガス拡散供給配管路33における複数のガス拡散供給用の孔33Hの形成例を、分かり易くするために概念的に示している。実際には、各ガス拡散供給配管路33には、多数のガス拡散供給用の孔33Hが形成されている。各ガス拡散供給配管路33の孔33Hの直径は、ガス導入口33I側(ガス供給の上流側)から、末端部33J(ガス供給の下流側)側に至るに従って、徐々に大きくなっている。なお、分かり易くするために、始端部33I側の孔33Hは、「33HS」で示し、末端部33J側の孔33Hは、「33HL」で区別して示している。
これにより、真空ポンプ60により槽20の収容空間SP内を真空引き(減圧)することで、不活性ガスがガス導入口33Iから末端部33Jに向けて導入されると、不活性ガスは、徐々に大きくなっている孔33Hを通じて、均一に槽20内に導入することができる。すなわち、不活性ガス圧力が最も大きいガス導入口33Iから不活性ガス圧力が最も小さい末端部33Jに至るまで、均一に不活性ガスを導入することができ、槽20の収容空間SPにおける不活性ガスの分布を均一にすることができる。
上述したように、不活性ガスは、図6に示す不活性ガス供給部51と流量計50を経て、ガス導入部30の第1ガス導入通路31を通ることで、槽20の背面23に沿って、Z方向(上下方向)に送られ、天井面21に沿った第2ガス導入通路32を経て、複数本のガス拡散供給配管路33から、槽内20の収容空間SP内に、均一に供給できるようになっている。
図6と図7に示すヒータHは、槽20の収容空間SP内を加熱するための加熱手段である。このヒータHは、好ましくは槽20の背面23の全面と、天井面21の全面に配置されている。すなわち、ヒータHの第1部分HP1は、槽20の背面23の全面わたって配置され、ヒータHの第2部分HP2は、槽20の天井面21の全面にわたって配置されている。
しかも、ヒータHの第1部分HP1は、ガス導入部30の第1ガス導入通路31に密着して配置されており、ヒータHの第2部分HP2は、第2ガス導入通路32に沿って密着して配置されている。このヒータHは、好ましくは槽20の背面23と天井面21の外側に位置されている。ヒータHは、槽20の収容空間SP内をも加熱するだけではなく、ガス導入部30の第1ガス導入通路31と第2ガス導入通路32内を通る導入ガス(例えば不活性ガス)の加熱をも行う加熱手段である。
ヒータHは、ガス導入部30の第1ガス導入通路31と第2ガス導入通路32に対して接触させて加熱することで、予め加熱したガスを槽20の収容空間SP内に導入することができる。不活性ガスの導入量は、実際には少ないので、ヒータHをガス導入部30の第1ガス導入通路31と第2ガス導入通路32に対して接触させるだけで、通る不活性ガスを加熱することができる。ヒータHは、図7に示す制御部100の通電制御により発熱する。
図6と図7に示すように、ヒータHは、第1部分HP1と、第2部分HP2を有している。ヒータHの第1部分HP1は、Z方向に配置された矩形の加熱板であり、第1ガス導入通路31に直接接触している。また、ヒータHの第2部分HP2は、X方向に配置された矩形の加熱板であり、第2ガス導入通路32に沿って配置され、第2ガス導入通路32に直接接触している。
このように、ヒータHの第1部分HP1は、蛇行するようにして配置されている第1ガス導入通路31を直接接触して配置されている。このため、ヒータHの第1部分HP1は、第1ガス導入通路31を流れる不活性ガスの温度を、長い距離を稼ぎながら上げることができる。ヒータHの第1部分HP1と第2部分HP2が、第1ガス導入通路31と第2ガス導入通路32にそれぞれ直接接触していることにより、ヒータHは、第1ガス導入通路31と第2ガス導入通路32を通る不活性ガスを、効率よく加熱することができ、しかも予め加熱したガスを槽20の収容空間SP内に導入できるので、槽20の収容空間SP内の温度を均一に維持することができる。
これにより、ヒータHの第1部分HP1と第2部分HP2は、第1ガス導入通路31と第2ガス導入通路32の中を通る不活性ガスを効率よく加熱することができる。従って、加熱された不活性ガスが、各ガス拡散供給配管路33における複数のガス拡散供給用の孔33Hから、槽20の収容空間SP内に均一に放出することができる。
なお、さらに高温の不活性ガスを槽20の収容空間SP内に供給する必要がある場合には、図6に示すように、別のサブの予備ヒータHCを、例えば不活性ガス供給部51と流量計50との間に配置しても良い。これにより、予備ヒータHCは、導入しようとする不活性ガスをさらに予備加熱することができ、さらに高温の不活性ガスを用いて、収容空間SP内の被処理物Wを、効率よく真空加熱処理をすることができる。
次に、図5から図7に示すガス排出部40の構造例を説明する。
このガス排出部40は、上述したように、真空ポンプ60により槽20の収容空間SP内を真空引き(減圧)することで、不活性ガスとともに水や有機溶剤等の蒸発物を、槽20の収容空間SP内から、槽20の外部に排出することができる。
ガス排出部40は、槽20の底面22において、X−Y平面に沿って配置されている。ガス排出部40は、ガス排出連絡路41と、複数本のガス排出配管路43を有する。4本のガス排出配管路43は、ガス排出連絡路41に対して、Y方向に平行に間隔をおいて接続されている。
ガス排出連絡路41は、真空ポンプ60に真空バルブ61を介して接続されている。ガス排出部40の各ガス排出配管路43は、ガス導入部30の各ガス拡散供給配管路33の位置に対応する位置に配置されており、不活性ガスや水蒸気、有機溶剤等の蒸発物の流れを整流する。
図10(B)は、各ガス排出配管路43における複数のガス排出用の孔43Hの形成例を、分かり易くするために概念的に示している。実際には、各ガス排出配管路43には、多数のガス拡散供給用の孔43Hが形成されている。
図10(B)に示すように、孔43Hの直径は、真空吸引する際の始端部43I(排出ガスの上流側)側から、末端部43J(排出ガスの下流側)側に至るに従って、徐々に小さくなっている。なお、分かり易くするために、始端部43I側の孔43Hは、「43HL」で示し、末端部43J側の孔43Hは、「43HS」で区別して示している。
これにより、真空ポンプ60により槽20の収容空間SP内を真空引き(減圧)することで、水蒸気、有機溶剤等の蒸発物を含む不活性ガスが始端部43I側から、末端部43Jに向けて吸引されると、水蒸気、有機溶剤等の蒸発物を含む不活性ガスは、徐々に小さくなっている孔43Hを通じて、均一に槽20の収容空間SP内から吸引して、槽20の収容空間SPの外側に排出することができる。
すなわち、不活性ガスを吸引する真空圧が最も小さい始端部43Iから不活性ガスを吸引する真空圧が最も大きい末端部43Jに至るまで、均一に不活性ガスを吸引することができ、槽20の収容空間SPから外部に排出する際の水蒸気、有機溶剤等の蒸発物を含む不活性ガスの分布を均一にすることができる。
槽20の収容空間SP内の真空圧は、ワイドレンジの真空計70を用いる。槽20の収容空間SPの真空度の範囲は、例えば10,000Paから100Paに設定できるので、真空度の値は、溶剤の蒸気圧により調整する。この真空計70は、被処理物Wの真空加熱乾燥時に収容空間SP内に放出される溶剤の種類により異なるが、例えばハクマク真空計、ピラニー真空計、クリスタルゲージ真空計等である。真空計70により測定される真空度のデータは、制御部100に送られる。
真空加熱処理をする際に、乾燥対象物である被処理物Wから出る有機溶剤の種類としては、例えばLiイオン電池の電解質の溶媒であり、アルコール、Li電池の電極材料に含まれるNMP(N-メチルピロリドン)や、電解液に使用されるPC(プロピレンカーボネート)、EC(エチレンカーボネート)、DEC(ジメチルカーボネート)、EMC(エチルメチルカーボネート)、DEC(ジエチルカーボネート)を一例として有機溶剤である。
図7に示すように、真空ポンプ60の動作制御と真空バルブ61の開閉制御は、制御部100の指令により行われる。真空バルブ61は、制御部100の制御により、槽20の収容空間SP内への不活性ガスの導入量に合わせて開度を調整して、槽20の収容空間SP内の真空度を維持するようになっている。
ところで、この真空ポンプ60としては、好ましくはドライポンプを用いることができる。ドライポンプは、油や液体を真空室内に使用しない機械式の真空ポンプである。このドライポンプとしては、多段式ルーツ型ドライポンプが好ましい。
ルーツ型ドライポンプは、クリーンな真空が得られ、大気圧から到達圧力まで使用可能である。ケーシングと呼ばれる箱の中に、三つ葉のロータが2つ配置されており、2つのロータは、1対のギアによって互いに反対方向に同じ周期で回転することで、2つのロータ同士、ロータとケーシングは接触することが無く、わずかな隙間を保って回転して気体を移送して圧縮する。一軸に多段のロータを接続することで、大気圧まで圧縮・排気が可能なポンプである。ロータとケーシングには、油等の封液を使用していないので、クリーンな排気が可能である。ギアやベアリングには潤滑のために油を用いているが、シール構造を工夫することで、油はケーシング内には入らないようになっている。
真空ポンプ60としてのドライポンプとの組合せることで、ガスを導入しながら真空引きすることができる。しかし、油回転ポンプで同様の運転はできず、真空ポンプ60としてはドライポンプが必要になる。特に、ルーツ型ドライポンプは、他の方式のドライポンプより蒸気吸引量が飛躍的に大きく、真空乾燥に最適のポンプである。
ところで、図7に示すように、冷却トラップ80が、真空ポンプ60の配管経路に配置することが望ましい。冷却トラップ80は、被処理物Wの真空乾燥時に、槽20の収容空間SP内から排出される水蒸気や有害蒸気が真空ポンプ60側に排出されてしまって、真空ポンプ60が壊れるのを防止するのに用いられる。この冷却トラップ80は、被処理物Wの真空乾燥時に、槽20の収容空間SP内から排出される水蒸気や有害蒸気を真空系内で効率よく捕集する装置である。この冷却トラップ80は、排出される酸系や有機溶媒系の捕集にも使える。
次に、上述した真空乾燥装置1の動作例を、図11の処理手順を示すフロー図を用いて説明する。
まず、図1に示す蓋12を開けて、図7に示す槽20の収容空間SP内の配置棚Gには、被処理物(ワーク)Wを置く。この被処理物Wは、例えばLiイオン電池等である。被処理物Wは、ガス導入部30とガス排出部40の間の位置に保持されている。その後、蓋12を閉じることで、槽20の収容空間SPは密閉される。
図7に示す制御部100は、真空乾燥装置1の制御により、図11に示す各要素が動作する。図11は、図7に示す真空ポンプ60、真空バルブである電磁弁61、ガス導入用の電磁弁52、ヒータHの動作と、槽20の収容空間SP内の真空度Vの変化と、乾燥温度TEの変化と、外気導入(不活性ガス等の排出)の動作を示している。
図7の不活性ガス供給部51が供給する不活性ガスの種類は、例えば窒素ガスであるが、特に限定されず、被処理物Wの種類に応じて、不活性ガスの他の種類であるAr等を用いることができる。また、被処理物の酸化を考慮しなくていい場合には、ガスとしてはエアーであっても良い。
図11に示すように、制御部100は、時刻T1において、真空ポンプ60をオフからオンして作動させると、その後時刻T2において真空バルブである電磁弁61をオフからオンして電磁弁61を開く。真空ポンプ60のオン状態は、時刻T1から時刻T6まで維持される。
また、制御部100は、時刻T3において、ガス導入用の電磁弁52をオフからオンさせて開き、かつ制御部100は、時刻T3において、ヒータHに通電して発熱させることで、ヒータHの第1部分HP1と第2部分HP2は、それぞれガス導入部30の第1ガス導入通路31と第2ガス導入通路32の加熱を開始する。真空用の電磁弁61のオン状態は、時刻T2から時刻T5まで維持される。ガス導入用の電磁弁52のオン状態は、時刻T3から時刻T4まで維持される。
ヒータHのオン状態は、時刻T3から時刻T5まで維持される。なお、ヒータHは、時刻T2において、オフからオン状態にするようにして、予め早い時点(時刻T2)で加熱を開始するようにしても良い。
これにより、図11に示すように、槽20の収容空間SP内の真空度(V)は、時刻T2から時刻T3に至るに従って、急激に上昇して、時刻T3では真空度が予め定めたターゲット圧力PPに到達して、それ以後ガス導入用の電磁弁52が閉じる時刻T4まで、維持される。
図11に示す乾燥温度(TE)は、時刻T2から時刻T3にかけて上昇して、予め定めた目標値TEPに達すると、この乾燥温度TEPは、真空用の電磁弁61が閉じしかもヒータHがオフになる時刻T5まで維持される。
そして、図11に示す時刻T4に達すると、不活性ガスの導入用の電磁弁52がオンからオフになって閉じるので、槽20の収容空間SP内の真空度は、時刻T4以降はさらに大きくなって、槽20の収容空間SP内は高い真空度の状態に維持される。
図11において、時刻T4から時刻T5に達すると、真空用の電磁弁61がオンからオフになって閉じるとともに、ヒータHの通電がオンからオフになるので、ガス導入部30の第1ガス導入通路31と第2ガス導入通路32の加熱動作が停止される。
時刻T5では、槽20の収容空間SP内の乾燥温度TEが低下し始めるとともに、外気の導入を行って不活性ガスや、被処理物Wに含まれる水蒸気や有機溶剤等を、槽20の収容空間SP内から真空ポンプ60側に排出するので、真空度は下がる。そして、真空ポンプ60は、時刻T6においてオンからオフになり、動作を停止する。
上述した真空乾燥装置1では、被処理物Wの真空乾燥を行う際に、槽20の外部のヒータHが、槽20の外部から、ガス導入部30の第1ガス導入通路31と第2ガス導入通路32を通る不活性ガスを、長い流路長を用いて効率よく加熱して、槽20の収容空間SP内に一定量導入しながら乾燥処理を行う。
これにより、不活性ガスは、被処理物Wの酸化防止を果たし、しかも被処理物Wに対して真空中の輻射による加熱だけではなく、収容空間SP内において拡散して整流されている不活性ガスを用いて、被処理物Wに対して熱伝導により均一に加熱を行うことができる。なお、被処理物Wが酸化を考慮しなくて良い場合には、不活性ガスに代えて、ガスとしてはエアーを用いることもできる。
また、ヒータHは、槽(チャンバ)20の収容空間SPを加熱するだけではなく、収容空間に導入しようとするガスを、導入する過程で加熱する役割をも有している。すなわち、ヒータHは、槽20の収容空間SP内を加熱するとともに、ガス導入部30の第1ガス導入通路31と第2ガス導入通路32を通る不活性ガス(あるいはエアー)の加熱をも同時に行うことができる。このため、不活性ガス(あるいはエアー)の加熱をするために、別途ヒータを用意する必要がないので、真空乾燥装置1の小型化が図れる。
真空乾燥装置1は、好ましくはルーツ型のドライポンプ60を組み合わせている。これにより、ルーツ型のドライポンプ60は、ロータとケーシングには、油等を使用していないので、クリーンな排気が可能である。もし、通常用いられている油回転ポンプを用いると、油煙が生じて外部へ出てしまうおそれがある。
図11に示すように、制御部100は、予め乾燥温度を設定し、時刻T1では真空ポンプ60をオンして、時刻T2では真空用の電磁弁61をオンにして槽20の収容空間SP内の減圧を開始する。そして、時刻T3では、ヒータHに通電するとともにガス導入用の電磁弁52をオンにして不活性ガスの導入を開始して、ガス導入量を調整することで、槽20の収容空間SP内の真空度を制御できる。
真空乾燥装置1では、図7に示す槽20の収容空間SP内の温度分布の精度を向上できる。すなわち、ヒータHにより加熱した不活性ガスが、真空ポンプ60の真空引きにより、ファン装置を用いずに、ガス導入部30からガス排出部40に向けてダウンフローで流すことができる。真空の収容空間SPにおいては、被処理物Wに対しては、ヒータHによる熱の輻射だけではなく、不活性ガス雰囲気を用いた熱伝導が加わるので、槽20の収容空間SP内の温度分布を均一にして温度分布の精度を向上する。また、不活性ガスが導入されることで、被処理物Wの酸化を防止できる。
図12は、被処理物Wの例であるLiイオン電池200を熱処理する例を示している。Liイオン電池200は、低い作動電位と、充電回数が大きく取れるという優れた性質がある。Liイオン電池200は、SUS製の容器201を有している。この容器201内には、カーボン系材料の負極シートと、リチウムを含む遷移金属酸化物の正極シートと、負極シートと正極シートの間に配置されるセパレータを1組とする単位電池が、厚み方向に複数組積層された状態の内容物202が、配置され、容器201内には、カーボネート系の有機化合物を主体とする溶媒にLiPF6等のリチウム塩を溶解させた電解液を注入している。
図12に示す例では、容器201内に導入用ノズル210を配置して、加熱された不活性ガスを注入することで、Liイオン電池200を乾燥させることができる。
図13に示す例では、容器201の開口部は、蓋203により閉じており、蓋203の孔204には、導入用ノズル211を配置して、加熱された不活性ガスを注入することで、Liイオン電池200を乾燥させることができる。このようにすることで、孔204から加熱した不活性ガスを直接吹き込むことできるので、蓋203をした状態のLiイオン電池200において、電解質が存在している状態で、乾燥日数が30日から7日に大幅に短縮することができる。
このように、被処理物WとしてのLiイオン電池200のように、乾燥しようとする対象物が金属製の容器201の中にある場合には、被処理物Wの構造に応じて、加熱した導入ガスの導入用ノズル210、211の位置を変更することができる。導入用ノズル210、211は、加熱した不活性ガスを直接的に局所的に供給するのに用いることができる。
このため、容器201内の被処理物は、加熱した不活性ガスにより直接効率よく乾燥することができる。もし、このように容器201内の乾燥しようとする対象物を容器201の外側から間接的に乾燥しようとすると、容器201内の温度上昇には30日程度の時間が掛かってしまうことになる。
本発明の範囲外であるが、通常の場合、槽の収容空間内には、加熱した不活性ガス等のガスを供給しない場合には、真空雰囲気下で被処理物を加熱処理することになるが、この場合には、被処理物は、真空下であるので、輻射熱による加熱を行うだけであるために、被処理物Wの加熱には時間が掛かってしまうので、加熱効率が悪い。また、通常の場合、水分や溶剤を含む被処理物Wは、真空ポンプの排気量を大きくして真空化での排気量を稼がないと、うまく乾燥できない。このため、真空ポンプが大型化してコスト高になる。通常の場合、真空下では、被処理物Wを均一に加熱乾燥することが困難である。
本発明の範囲外であるが、通常の場合に、被処理物(被乾燥物)は、水分や有機溶剤等の蒸発物を多く含む場合に、この状態で真空乾燥装置に入れてしまうと、気化熱で被処理物の温度がなかなか上がらずに、水分であれば凍ってしまう。このように通常の場合には、真空乾燥しようとする被処理物は、高温で乾燥できないものであり、通常の真空オーブンでは、筐体からの熱伝導か、真空中での輻射加熱のみでの温度を上げるために、槽の処理空間における温度分布が悪く、被処理物を均一に乾燥できず、乾燥処理時間が長くかかってしまう。水分や有機溶剤等の蒸発物を多く含む被処理物は、真空ポンプを大きくして真空下での排気量を稼がないと、乾燥ができない。被処理物を均一に乾燥しようとすると、真空ポンプとしては、磁気シールタイプのシロッコファン装置で槽の収容空間内を撹拌する必要があるので、通常の真空乾燥装置は高額なシステムになってしまう。
これに対して、本発明の実施形態の真空乾燥装置1では、ヒータHにより予め加熱した不活性ガスを、被処理物Wを加熱する際の熱媒体として、一定量槽20の収容空間SP内に導入して、収容空間SP内では、不活性ガスをダウンフローで均一に拡散して整流する。
このようにすることで、本発明の実施形態では、熱の輻射に加えて槽20の収容空間SPの雰囲気の不活性ガスによる熱伝導が加わる。従って、槽20の収容空間SPの温度分布の精度が向上して、被処理物Wの温度を上げて、除去する有機溶剤の蒸気圧に合わせて真空度を制御して、乾燥させることができ、被処理物Wの加熱時間を短縮できる。本発明の実施形態の真空乾燥装置1では、槽20の収容空間SP内に拡散して整流した不活性ガスを熱媒体として、輻射だけでなく熱伝導を用いて、効率よく被処理物Wの温度を上げることができ、乾燥処理を促進できる。
上述した本発明の実施形態の真空乾燥装置1は、被処理物Wを真空下で乾燥する真空乾燥装置であって、被処理物Wを収容する収容空間SPを有する槽20と、収容空間SPを真空引きする真空ポンプ60と、真空ポンプ60の動作により、槽20の一方側から収容空間SPにガスを導入するガス導入部30と、真空ポンプ20の動作により、槽20の他方側から収容空間SPのガスを排出するガス排出部40と、槽20の収容空間SPを加熱するとともに、ガス導入部30に配置されてガス導入部30を通るガスを加熱する加熱手段としてのヒータHを備える。
これにより、真空乾燥装置1では、槽20の収容空間SP内は、真空ポンプ60により真空引きをすることで、ガス導入部30は、加熱手段であるヒータHにより加熱されたガスを、ヒータHにより加熱された収容空間SPに導入でき、被処理物Wを槽20の収容空間SP内において減圧下でガスによる熱伝導により均一に乾燥処理でき、被処理物Wの加熱処理後のガスは、加熱処理により被処理物Wから出た水や溶剤等の蒸発物を、ガス排出部40から槽20の収容空間SPの外に効率良く排出できる。しかも、ファン装置が不要であるので真空乾燥装置1の小型化を図ることができる
真空乾燥装置1では、加熱手段としてのヒータHは、ガス導入部30に直接接触して配置されているので、ガス導入部30を通るガスを直接的に効率良く加熱できる。
真空乾燥装置1では、ガス導入部30は、収容空間SP内の上部に配置され、ガス排出部40は、収容空間SP内の下部に配置され、ガス導入部30は、槽20の側面から槽20の上部に沿って配置され、加熱手段であるヒータHは、槽20の側面(背面23)の全面と槽の上部21の全面に配置されている。これにより、ガス導入部30は、加熱した不活性ガス等のガスを収容空間SPにおいて上部から収容空間内に導入でき、被処理物Wを加熱処理することで水や溶剤等の蒸発物を含むガスは、ガス排出部40を通じて、収容空間SPの外部に排出でき、ファン装置が無くても被処理物Wを、減圧下で均一に乾燥処理できる。
図10に例示するように、真空乾燥装1では、ガス導入部30は、ガスを槽20の収容空間SP内に拡散するガス拡散供給配管路33を有し、ガス拡散供給配管路は、複数の孔33Hを有し、孔33Hは、ガスが流れる上流側から下流側にかけて、徐々に大きくなり、ガス排出部40は、槽20の収容空間SP内のガスを収容空間SP内から真空引きにより排出するガス排出配管路43を有し、ガス排出配管路43は、複数の孔43Hを有し、孔43Hは、ガスが流れる上流側から下流側にかけて、徐々に小さくなる。
これにより、ガス拡散供給配管路33の複数の孔33Hは、ガスが流れる上流側から下流側にかけて、徐々に大きくなっているので、ガス拡散供給配管路は、長さ方向についてのガス供給圧力を均一化でき、収容空間内へのガスの供給を均一化することができる。しかも、ガス排出配管路43の複数の孔43Hは、ガスが流れる上流側から下流側にかけて、徐々に小さくなっているので、ガス排出配管路は、長さ方向についてのガス排出圧力を均一化でき、収容空間内の水や溶剤等の蒸発物を含むガスの排出を均一化することができる。
真空ポンプ60は、ドライポンプであることから、油や液体を真空室内に使用しない機械式の真空ポンプであるので、槽20の収容空間SPが油や液体で汚染されるのを防げる。ドライポンプは、ルーツ型ドライポンプであるので、クリーンな真空が得られる。
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、各実施形態は一例であり、特許請求の範囲に記載される発明の範囲は、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更できるものである。
例えば、図6と図7に示した加熱手段であるヒータHは、槽20の外部に配置して、ガス導入部30の第1ガス導入通路31と第2ガス導入通路32に直接接触させることで、槽20の収容空間SP内に供給する不活性ガスを予め加熱する構造である。しかし、これに限らずに、例えば、ヒータHは、槽20の収容空間SP内に配置して、このヒータHは、収容空間SPを加熱するとともにガス導入部を通る不活性ガスを加熱する構造を採用しても良い。いずれにして、ヒータHは、槽20の外側にあっても、内側にあっても良い。