ところで、図6に示したように、インホイールモータを備えた車両においては、発電機116及びエンジン117(電力供給装置)が、車体102のフレーム121に固定されたマウント装置150,151,152,153により支持される場合がある。この場合、マウント装置150〜153は、例えば、従前の車両において必要なドライブシャフトD(図6にて細い破線により示す)の駆動反力による振動を減衰する配置をそのまま踏襲して、フレーム121に固定される。このマウント装置150〜153の配置では、発電機116をエンジン117に組み付けた一体物における弾性主軸Ex’,Ey’,Ez’は重心位置Gを通らず、且つ、弾性主軸Ex’,Ey’,Ez’の方向が車体102の前後方向、左右方向、上下方向と一致していない。
一般に、車体102は、車両の走行に伴い、前後方向、左右方向及び上下方向に運動する。特に、インホイールモータを備えた車両では、サスペンション装置により変換される上下力で車体102の姿勢制御を行ったり、車両の旋回性を高めるトルクベクタリング制御を行うために、インホイールモータによる制駆動力(前後力)を個別に制御することできる。この場合、車体102の姿勢制御に伴い、前記一体物の重心位置Gには車体102の前後方向の加速度が作用する。加えて、トルクベクタリング制御に伴い、前記一体物には車体102の上下方向の軸回りにヨーモーメントが生じる。
マウント装置150,151により決定される弾性主軸Ex’の方向は、車体102の前後方向に一致しない。その結果、前記一体物の重心位置Gに対して車体102の前後方向に加速度が生じた場合、前記一体物は車体102の前後方向に対して並進運動しながら回転運動する。尚、マウント装置152,153により決定される弾性主軸Ey’の方向は、車体102の左右方向に一致しない。その結果、前記一体物の重心位置Gに対して車体102の左右方向に加速度が生じた場合、前記一体物は車体102の左右方向に対して並進運動しながら回転運動する。更に、マウント装置150〜153により決定される弾性主軸Ez’の方向は、車体102の上下方向に一致しない。その結果、前記一体物の重心位置Gに対して車体102の上下方向に加速度が生じた場合、前記一体物は車体102の上下方向に対して並進運動しながら回転運動する。
又、マウント装置152,153により決定される弾性主軸Ey’は前記一体物の重心位置Gを通らない。その結果、例えば、前記一体物の重心位置Gに対して車体102の前後方向の加速度が生じた場合、前記一体物は重心位置Gを通る慣性主軸ではなく弾性主軸Ey’回りに回転運動する。この場合、弾性主軸Ey’は重心位置Gよりも車体102の上下方向にて上方に位置するので、前記一体物には重心位置Gの並進運動を伴う回転運動が生じ、その結果、前記一体物は振り子状に揺動する(図6の太い実線及び太い破線を参照)。更に、弾性主軸Ey’の方向は車体102の左右方向と一致しないので、前記一体物の揺動方向は車体102の前後方向に対して傾く。揺動する方向が弾性主軸Ex’の方向と異なる場合、前記一体物には、前述したような回転運動が更に生じる。
これらの場合には、前記一体物に並進運動及び回転運動が互いに影響を及ぼし合う(並進運動及び回転運動が連成する)。その結果、前記一体物の運動態様が複雑化するので、前記一体物には複雑な振動が生じる。
又、トルクベクタリング制御が行われる場合、マウント装置150〜153により支持された前記一体物には、ヨーモーメントにより重心位置Gを通らない弾性主軸Ez’回りに回転運動が生じる場合がある(図6の太い二点鎖線を参照)。この場合、弾性主軸Ez’の方向と前記一体物において重心位置Gを通る慣性主軸の方向とが異なると、回転する前記一体物には弾性主軸Ez’が慣性主軸に一致するように偶力が発生する。偶力が発生すると、この偶力が前記一体物に振動を生じさせる可能性がある。この場合、車体102の上下方向の回転軸の方向に対して前記一体物の慣性主軸の方向が異なる場合にも、偶力が発生する。
このように、前述した従来のマウント装置150〜153の配置では、前記一体物の運動態様が複雑化し、その結果、前記一体物に複雑な振動を生じさせる。このため、前記一体物に発生した複雑な振動を制振することが難しくなるので、車両の乗員が不快な振動を知覚する。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、インホイールモータを駆動させるための電力供給装置の運動態様を簡略化して同装置に生じた振動を制振する車両を提供することにある。
上記目的を達成するための本発明の車両は、電力供給装置(S(13、16及び17))と、マウント装置(22、23、24、25、27、28、32及び33)とを備える。
電力供給装置(S(13、16及び17))は、車輪(10fl、10fr、10rl及び10rr)に組み込まれて同車輪を駆動又は制動するモータ(11fl、11fr、11rl及び11rr)に対して、同モータを駆動させるための電力を供給する。
マウント装置(22、23、24、25、27、28、32及び33)は、弾性部(22a、23a、24a、25a、27a、28a、32a及び33a)を有し、電力供給装置(S(13、16及び17))と車体(2)に固定された車体側部材(20、21、26、29及び30)との間に介装されることにより同装置を同車体側部材に対して支持する。
前記マウント装置は、
前記電力供給装置の重心位置(G)を通る3つの慣性主軸(Ix、Iy及びIz)の方向がそれぞれ前記車体の前後方向、左右方向及び上下方向に一致し、且つ、
前記電力供給装置における3つの弾性主軸(Ex、Ey及びEz)の方向が前記電力供給装置の重心位置(G)を通るとともに前記車体の前後方向、左右方向及び上下方向に一致するように、
前記電力供給装置を前記車体側部材に対して支持する。
本発明による車両によれば、電力供給装置は、車体の前後方向、左右方向、上下方向に一致する慣性主軸回りでのみ回転運動する。更に、電力供給装置は、車体の前後方向、左右方向、上下方向に一致する弾性主軸方向のみにて並進運動する。尚、慣性主軸とは、ある軸を中心にして剛体を回転させたとき、剛体とともに回転する座標系からみて、回転軸の方向を変えさせようとする偶力が発生しないような軸をいう。弾性主軸とは、ある軸に沿って力を加えたとき、力の方向と弾性変位の方向が一致し、且つ、角変位を生じないような軸をいう。
従って、車体に前後方向、左右方向及び上下方向の運動(直線運動)が生じる場合には、電力供給装置は、3つの弾性主軸方向に並進運動する。このため、例えば、車体の姿勢を制御するためにモータの制駆動力を制御して車体に対して前後方向の加速度を生じさせる場合には、電力供給装置に車体の前後方向への単純な並進運動を生じさせることができる。従って、電力供給装置の運動態様を単純化することができるので、電力供給装置に対して車両前方及び車両後方の一方に配置されたマウント装置は、電力供給装置の並進運動に伴う振動を制振(減衰)させることができる。
加えて、車体にピッチ方向、ロール方向及びヨー方向の運動(回転運動)が生じる場合には、電力供給装置は、3つの慣性主軸回りに回転する。このため、例えば、トルクベクタリング制御によりモータの制駆動力を制御して車体にヨーモーメントを生じさせる場合、電力供給装置に車体の上下方向に一致する慣性主軸回りの単純な回転運動を生じさせることができる。この場合には、電力供給装置には偶力が発生しないので、偶力に起因する振動は電力供給装置に生じない。従って、電力供給装置の運動態様を単純化することができるので、電力供給装置に対して車両前方及び車両後方の一方に配置されたマウント装置は、電力供給装置の回転運動に伴う振動を制振(減衰)させることができる。
更に、慣性主軸及び弾性主軸が車体の前後方向、左右方向及び上下方向に一致し且つ電力供給装置の重心を通るので、例えば、車体に対して前後方向の加速度を生じさせる場合、電力供給装置に振り子状の揺動が生じることを防止することができる。更に、この場合には、電力供給装置を車体の上下方向に一致する慣性主軸回りで水平に回転させることができる。その結果、電力供給装置の重心が車両の前後方向及び上下方向に並進運動することがなく、車体のフロアに対して車体の上下方向から振動を入力する(面外入力する)ことを防止することができる。これにより、車体のフロアに無用な振動を生じさせることを防止することができ、その結果、車両の乗り心地を向上させることができる。
本発明の一側面は、
前記マウント装置(22、23、24、25、27、28、32及び33)は、
少なくとも、前記車体の前後方向及び左右方向にそれぞれ一致する前記慣性主軸(Ix及びIy)によって決定される平面上に存在することにある。
本発明の一側面によれば、マウント装置を、車体の前後方向及び左右方向にそれぞれ一致する慣性主軸によって決定される平面上に設けることができる。これにより、電力供給装置における慣性主軸及び弾性主軸を極めて容易に一致させることができる。このため、例えば、車体に対して前後方向の加速度を生じさせる場合、電力供給装置に揺動が生じることを確実に防止することができる。その結果、車体のフロアに対する面外入力を確実に防止することができるので、車体のフロアに無用な振動を生じさせることを防止することができる。従って、車両の乗り心地を向上させることができる。
尚、上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は上記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
以下、本発明の実施形態に係る車両について図面を参照しながら説明する。図1に示したように、車両1は、左前輪10fl、右前輪10fr、左後輪10rl及び右後輪10rrを備えている。左前輪10fl、右前輪10fr、左後輪10rl及び右後輪10rrの内部には、モータ11fl、モータ11fr、モータ11rl及びモータ11rrがそれぞれ組み込まれている。
モータ11fl、11fr、11rl及び11rrは、所謂インホイールモータであって、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrのそれぞれとともに車両1のバネ下に配置される。モータ11fl、11fr、11rl及び11rrの回転(モータトルク)は、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrにそれぞれ伝達される。この車両1においては、各モータ11fl、11fr、11rl及び11rrの回転(モータトルク)をそれぞれ独立して制御することにより、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrに発生させる制駆動力をそれぞれ独立して制御することができるようになっている。
車輪10fl、10fr、10rl及び10rrは、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrのケーシングをそれぞれ介して、独立したサスペンション装置12fl、12fr、12rl及び12rrにより車体2にそれぞれ懸架されている。サスペンション装置12fl、12fr、12rl及び12rrは、車体2と、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrと、をそれぞれ連結する連結機構である。このため、サスペンション装置12fl、12fr、12rl及び12rrは、サスペンションリンク機構、上下方向の荷重を支え衝撃を吸収するためのサスペンションバネ、及び、バネ上(車体2)の振動を減衰させるショックアブソーバを備えている。サスペンション装置12fl、12fr、12rl及び12rrは、ストラット型サスペンション及びウィッシュボーン型サスペンション等、周知の4輪独立懸架方式のサスペンションである。
モータ11fl、11fr、11rl及び11rrは、例えば、ブラシレスモータであり、パワーコントロールユニット13(以下、単に「PCU13」と称呼する。)に接続される。PCU13は、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrに対応するように、4組の昇圧コンバータ及びインバータを含んで構成される。尚、図示を省略するが、PCU13は、電力供給に伴う発熱を冷却するための冷却機構を備えている。PCU13は、バッテリ14から供給される直流電力を昇圧するとともに交流電力に変換して、その交流電力をモータ11fl、11fr、11rl及び11rrに独立して供給する。これにより、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrは、力行制御されてモータトルク(駆動トルク)を発生し、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrにそれぞれ直接的に駆動力を発生させる。
一方で、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrは、それぞれ発電機としても機能し、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrのそれぞれの回転エネルギーにより発電する。PCU13は、発電電力(交流電力)を直流電力に変換し、その変換した直流電力をバッテリ14に回生する。これにより、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrは、ぞれぞれ回生制御されてモータトルク(回生制動トルク)を発生し、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrにそれぞれ直接的に制動力を発生させる。尚、PCU13は、図示を省略する電子制御ユニットにより、その作動が制御される。電子制御ユニットによるPCU13の制御については、本発明と直接関係しないので、その説明を省略する。
バッテリ14は、AC−DCコンバータ15を介して発電機16に接続される。発電機16は、内燃機関であるエンジン17に組み付けられており、エンジン17の駆動力により駆動されて交流電力を発電する。発電機16は、発電した交流電力をAC−DCコンバータ15に供給する。AC−DCコンバータ15は、発電機16から供給された交流電力を直流電力に変換し、その変換した直流電力をバッテリ14に供給する。これにより、バッテリ14は、発電機16により発電された電力を蓄電するとともに、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrからの回生電力を蓄電する。
尚、車両1に搭載されるエンジン17は、駆動力を発電機16に対してのみ出力する。即ち、車両1は、エンジン17を発電にのみ利用し、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrのモータトルクのみを利用して走行する、所謂、シリーズ式ハイブリッド車である。このため、車両1は、エンジン17によって発生された駆動力を、例えば、左前輪10fl及び右前輪10frに伝達するためのドライブシャフトを備えていない。
前述したように、エンジン17は発電機16を駆動するのみ、換言すれば、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrに電力を供給するために発電機16を駆動させる。加えて、PCU13は、発電機16によって発電されてバッテリ14に蓄電された電力を制御してモータ11fl、11fr、11rl及び11rrに供給する。従って、PCU13、発電機16及びエンジン17は、本発明の電力供給装置に含まれる。
発電機16及びエンジン17は、発電機16がエンジン17に組み付けられて(一体化されて)電力供給装置Sとされる。電力供給装置Sは車体2の前方端に固定される。以下、発電機16及びエンジン17からなる電力供給装置Sの車体2への固定を説明する。
車体2は、そのフロア前端部において車体2の左右方向に沿って延在するバンパーレインフォース20及び車体2の前後方向に沿って車体2の後方に向けて延在する左右一対のサイドフレーム21,21を備えている。図2に示したように、バンパーレインフォース20の左右両端には、左右一対のサイドフレーム21がそれぞれ連結されている。バンパーレインフォース20及び左右一対のサイドフレーム21は車体2に固定された車体側部材Bである。
電力供給装置Sは、バンパーレインフォース20及び左右一対のサイドフレーム21に対して固定される。この場合、電力供給装置Sの重心位置Gを通る直交3軸の慣性主軸Ix,Iy及びIzは、それぞれ、慣性主軸Ixが車体2の前後方向に一致し、慣性主軸Iyが車体2の左右方向に一致し、慣性主軸Izが車体2の上下方向に一致するようになっている。
電力供給装置Sは、フロント側マウント装置22及びフロント側マウント装置23を介してバンパーレインフォース20に固定される。加えて、電力供給装置Sは、サイド側マウント装置24及びサイド側マウント装置25を介して、左右一対のサイドフレーム21のそれぞれに固定される。
フロント側マウント装置22及び23は、それぞれ、弾性部22a及び弾性部23aを有する。フロント側マウント装置22及び23は、弾性部22a及び23aを介して電力供給装置Sと車体側部材Bとを連結するブラケットを有する周知のマウント装置である。サイド側マウント装置24及び25は、それぞれ、弾性部24a及び弾性部25aを有する。サイド側マウント装置24及び25は、弾性部24a及び25aを介して電力供給装置Sと車体側部材Bとを連結するブラケットを有する周知のマウント装置である。尚、周知のマウント装置としては、従来から車両に広く採用されているパッシブ型のマウント装置であり、例えば、液体封入式マウント装置等である。従って、フロント側マウント装置22及び23と、サイド側マウント装置24及び25の詳細な図示を省略する。
フロント側マウント装置22及び23は、電力供給装置Sとバンパーレインフォース20との間にて、車体2の左右方向に沿って互いに離間して設けられる。具体的に、フロント側マウント装置22は、エンジン17とバンパーレインフォース20との間に設けられる。フロント側マウント装置23は、発電機16とバンパーレインフォース20との間に設けられる。
フロント側マウント装置22及び23の弾性部22a及び23aは、車体2の前後方向にて、電力供給装置Sがバンパーレインフォース20に接近して圧縮される方向及び離間して伸長される方向のバネ定数が大きくなるように設定される。一方、弾性部22a及び23aは、電力供給装置Sがバンパーレインフォース20に対して車体2の上下方向及び左右方向に変位して圧縮又は伸長される方向のバネ定数が、前後方向に比べて小さくなるように設定される。
つまり、フロント側マウント装置22及び23は、電力供給装置Sが並進運動及び/又は回転運動によって車体2の前後方向に振動した場合、この振動を効率良く制振する特性(減衰特性)を有する。フロント側マウント装置22及び23は、周知の液体封入式マウント装置とすることができる。この場合、フロント側マウント装置22及び23の弾性部22a及び23aによる減衰力(減衰係数)は、電力供給装置Sに発生した並進運動による振動及び回転運動による振動の振動周波数のピークに合わせて設定される。尚、以下においては、並進運動による振動を「並進振動」と称呼し、回転運動による振動を「回転振動」と称呼する。
フロント側マウント装置22及び23は、電力供給装置Sの慣性主軸Ix及び慣性主軸Iyによって決定される平面上にて、電力供給装置Sとバンパーレインフォース20との間に介装される。これにより、フロント側マウント装置22及び23によりバンパーレインフォース20に対して支持された電力供給装置Sにおける弾性主軸Exを、電力供給装置Sの重心位置Gを通り、且つ、その方向を車体2の前後方向に一致させることができる。
サイド側マウント装置24及び25は、電力供給装置Sと左右一対のサイドフレーム21との間にそれぞれ設けられる。具体的に、サイド側マウント装置24は、エンジン17と車体2の右側のサイドフレーム21との間に設けられる。サイド側マウント装置25は、発電機16と車体2の左側のサイドフレーム21との間に設けられる。
サイド側マウント装置24及び25の弾性部24a及び25aは、電力供給装置Sが右側及び左側のサイドフレーム21に対して車体2の上下方向に変位して圧縮又は伸長される方向のバネ定数が大きくなるように設定される。一方、サイド側マウント装置24及び25の弾性部24a及び25aは、電力供給装置Sが右側及び左側のサイドフレーム21に接近して圧縮される方向及びフレーム21から離間して伸長される方向のバネ定数が、上下方向に比べて小さくなるように設定される。更に、サイド側マウント装置24及び25の弾性部24a及び25aは、電力供給装置Sが右側及び左側のサイドフレーム21に対して車体2の前後方向に変位して圧縮又は伸長される方向のバネ定数が、上下方向に比べて小さくなるように設定される。
つまり、サイド側マウント装置24及び25は、電力供給装置Sが車体2の上下方向にて振動した場合、この振動を効率良く制振する特性(減衰特性)を有する。サイド側マウント装置24及び25も、周知の液体封入式マウント装置とすることができる。この場合、サイド側マウント装置24及び25の弾性部24a及び25aによる減衰力(減衰係数)は、車両1の走行に伴って電力供給装置Sが車体2の上下方向に振動する際の振動周波数として既知の振動周波数に合わせて設定される。
サイド側マウント装置24及び25は、電力供給装置Sの慣性主軸Ix及び慣性主軸Iyによって決定される平面上にて、電力供給装置Sと右側及び左側のサイドフレーム21との間に介装される。これにより、サイド側マウント装置24及び25によって右側及び左側のサイドフレーム21に支持された電力供給装置Sにおける弾性主軸Eyを、電力供給装置Sの重心位置Gを通り、且つ、その方向を車体2の左右方向に一致させることができる。尚、サイド側マウント装置24及び25は、更に、電力供給装置Sの慣性主軸Iy及び慣性主軸Izによって決定される平面上にて、電力供給装置Sと右側及び左側のサイドフレーム21との間に介装される。これにより、フロント側マウント22及び23とサイド側マウント装置24及び25とによって車体側部材Bに支持された電力供給装置Sにおける弾性主軸Ezを、電力供給装置Sの重心位置Gを通り、且つ、その方向を車体2の上下方向に一致させることができる
電力供給装置Sが車体側部材Bに対してフロント側マウント装置22及び23とサイド側マウント装置24及び25とにより支持された車両1では、並進運動と回転運動とが連成することを防止して、電力供給装置Sの運動態様を簡略化することができる。従って、車両1においては、電力供給装置Sに発生する並進運動と回転運動とが連成することがないので、電力供給装置Sには単純な振動のみが生じる。以下、具体的に説明する。
車両1においては、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrが、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrのそれぞれに制駆動力(前後力)を発生させる。この場合、車両1のサスペンション装置12fl、12fr、12rl及び12rrのそれぞれは、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrにて発生する制駆動力に起因して車体2の上下方向に一致する上下力を発生させる。このため、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrにて発生させる制駆動力(前後力)を制御することにより、サスペンション装置12fl、12fr、12rl及び12rrにて発生する上下力を制御して車体2に入力することができる。このため、例えば、特開2012−086712号公報等に開示されているように、車両1においては、車体2に入力される上下力の大きさ及び向きを制御することにより、車体2の姿勢を制御することができる。更に、車両1は、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrによるそれぞれの制駆動力(前後力)を制御することにより、車体2(車両1)にヨーモーメントを発生させて車両1の旋回性を向上させる、所謂、トルクベクタリングを行うことができる。
車体2の姿勢を制御する場合、車体2に前後方向に沿った前後力が繰り返し作用する。このため、電力供給装置Sにも車体2の前後方向に沿った前後力が繰り返し作用し、その結果、電力供給装置Sに振動が発生する。この場合、電力供給装置Sは、重心位置Gを通る慣性主軸Ix,Iy及びIzが車体2の前後方向、左右方向及び上下方向に一致するように、車体側部材Bに固定される。更に、電力供給装置Sは、弾性主軸Ex,Ey及びEzが、重心位置Gを通り、且つ、車体2の前後方向、左右方向及び上下方向に一致するように、車体側部材Bに固定される。
従って、車体2の姿勢を制御する際に、車体2の前後方向において電力供給装置Sに振動が生じた場合、電力供給装置Sは弾性主軸Exに一致する方向に並進運動(並進振動)するのみである。従って、車体2の前後方向に沿った前後力が繰り返し作用する場合、この前後力により発生する並進運動に伴って回転運動は生じない。尚、車体2に固定された電力供給装置Sにおいては、前記前後力に加えて他方向から力が作用する場合も考えられる。この場合においても、電力供給装置Sは、弾性主軸Ey,Ez方向に並進運動するのみであり、この並進運動が慣性主軸Ix,Iy及びIz回りに回転運動を生じさせることはない。
トルクベクタリング制御する場合、車体2に上下方向の軸回りのヨーモーメントが作用する。このため、電力供給装置Sにも上下方向の軸回りのヨーモーメントが作用し、その結果、電力供給装置Sに振動が発生する。この場合、電力供給装置Sは慣性主軸Iz回りで回転運動(回転振動)するのみである。従って、電力供給装置Sには偶力が発生しない。尚、車体2に固定された電力供給装置Sにおいては、前記ヨーモーメントに加えてピッチモーメント及びロールモーメントが作用する場合も考えられる。この場合においても、電力供給装置Sは、慣性主軸Ix,Iy回りに回転運動するのみであり、電力供給装置Sに偶力を発生させることはない。
弾性主軸Ex方向への並進振動はフロント側マウント装置22及び23の弾性部22a及び23aが均等に圧縮又は伸長されることにより減衰される。回転振動は慣性主軸Iy回りでのみ生じるので、フロント側マウント装置22及び23は電力供給装置Sの回転に伴って交互に圧縮及び伸長される。その結果、電力供給装置Sの慣性主軸Iy回りの回転振動もフロント側マウント装置22及び23の弾性部22a及び23aが圧縮又は伸長されることにより減衰される。即ち、車体2に対して前後方向に沿った前後力が作用する場合には、フロント側マウント装置22及び23が電力供給装置Sに発生した並進振動及び回転振動を減衰させる。
ところで、車体2のフロアは、前輪位置にてサスペンション装置12fl及び12frを介して前輪10fl及び10frにより支持され、且つ、後輪位置にてサスペンション装置12rl及び12rrを介して後輪10rl及び10rrで支持されている。この場合、車体2のフロアの前端部において、車体2の上下方向に一致する方向の力が繰り返し入力されると(所謂、繰り返し面外入力が生じると)、車体2のフロアには前輪位置及び後輪位置をそれぞれ節とする二節曲げ振動が生じる。この二節曲げ振動が生じた場合、前輪位置及び後輪位置の間、換言すれば、乗員が乗車する車室位置が腹となるので、面外入力が生じると、乗員は不快な振動を知覚する虞がある。
前述したように、電力供給装置Sは、車体2のフロアの前端部に固定される。しかし、前述したように、車体2に繰り返し前後力が作用しても、慣性主軸Iy及び弾性主軸Eyが共に電力供給装置Sの重心位置Gを通るので、電力供給装置Sにおいては並進振動のみが発生する。従って、電力供給装置Sには振り子状の揺動は生じない。即ち、電力供給装置Sは、車体2のフロアと平行な方向に並進振動して、車体2のフロアと平行な方向にて繰り返し力を入力する(所謂、繰り返し面内入力が生じる)のみである。更に、前述したように、車体2にヨーモーメントが作用しても、電力供給装置Sは、慣性主軸Iz回りでのみで回転振動するので偶力に伴う振動が生じることがなく、且つ、車体2のフロアと平行な面内(水平な面内)で回転振動するので車体2のフロアに対して面外入力しない。従って、車体2のフロアには二節曲げ振動は生じない。その結果、車室位置で腹が生じないので、乗員に不快な振動を与えない。
尚、車両1の走行に伴って、車体2に上下方向に一致する上下動が発生した場合、電力供給装置Sも上下方向に一致する上下動が生じる。この場合には、サイド側マウント装置24及び25がこの上下動を速やかに減衰させる。これにより、電力供給装置Sが上下動することが防止され、その結果、フロアに無用な振動を生じさせない。
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、電力供給装置Sに発生する運動態様を簡略化することができる。従って、並進運動(並進振動)及び回転運動(回転振動)が互いに影響を及ぼし合うこと、換言すれば、連成することを防止することができる。その結果、電力供給装置Sに複雑な振動を生じさせることを防止することができる。この場合、電力供給装置Sの運動態様を簡略化することができるので、フロント側マウント装置22,23及びサイド側マウント装置24,25の減衰特性のチューニングが容易であり、且つ、減衰負荷を小さくすることができる。更には、電力供給装置Sに振り子状の揺動が生じることを防止することもできる。これにより、フロント側マウント装置22及び23は、電力供給装置Sに発生する並進運動(並進振動)及び回転運動(回転振動)を良好に減衰させることができるので、車両の乗り心地を向上させることができる。
<変形例>
上述したように、フロント側マウント装置22及び23は、電力供給装置Sの並進振動及び回転振動を減衰させることができる。ところで、これらの並進振動及び回転振動の振動周波数は、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrにて発生する制駆動力(前後力)の変動周期に依存して変化する。従って、フロント側マウント装置22及び23は、並進振動及び回転振動の振動周波数に応じて、適切に振動を減衰させる必要がある。上記実施形態では、フロント側マウント装置22及び23が、周知の液体封入式マウント装置であるとした。この場合、弾性部22a及び23aにおける減衰力(減衰係数)は、電力供給装置Sに発生した並進振動及び回転振動の振動周波数のピークに合わせて設定するようにした。
しかし、電力供給装置Sに発生する並進振動及び回転振動の振動周波数のうち、例えば、乗員が不快に感じる振動周波数は1つの周波数であるとは限らない。即ち、電力供給装置Sに発生する並進振動及び回転振動の振動周波数のうち、複数の振動周波数を選択的に減衰させなければならない場合がある。この場合、前述したように、電力供給装置Sに発生する並進振動及び回転振動の振動周波数は、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrにおける制駆動力の変動周期に起因するものである。このため、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrのモータトルクの制御に協調させて、フロント側マウント装置22及び23の減衰力(減衰係数)を変更する。
具体的に、フロント側マウント装置22及び23が、上記実施形態のように液体封入式マウント装置である場合、弾性部22a及び23aの液路に形成されているオリフィス径(減衰係数に相当)を切り替えるソレノイドを設ける。この場合、車両1には、ソレノイドの作動を制御するための電子制御ユニット(CPU、ROM、RAM等を有するマイクロコンピュータ)及びソレノイドを作動させるための駆動回路が設けられる。電子制御ユニットは、例えば、PCU13からの取得した信号に基づき、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrのモータトルクの制御に協調させて前記ソレノイドによるオリフィス径を切り替える。これにより、電力供給装置Sに発生する並進振動及び回転振動の振動周波数のうち、複数の振動周波数に合わせて減衰力のピークを合わせることができ、その結果、並進振動及び回転振動を適切に減衰させることができる。
更には、フロント側マウント装置22及び23として、パッシブ型のマウント装置に代えて、アクティブ型のマウント装置であるアクティブコントロールマウントを用いることもできる。このアクティブコントロールマウントでは、減衰力(減衰係数)を連続的に調整することが可能である。この場合、アクティブコントロールマウントであるフロント側マウント装置22及び23における減衰力(減衰係数)を変更するために、車両1には電子制御ユニット(CPU、ROM、RAM等を有するマイクロコンピュータ)及び各種センサが設けられる。電子制御ユニットは、例えば、車両1に搭載された加速度センサ及び路面形状を検出するカメラ等の検出信号に基づき、フィードフォワード制御により、フロント側マウント装置22及び23における減衰力(減衰係数)を変更する。更に、電子制御ユニットは、例えば、操舵角センサやヨーレートセンサ等の検出信号に基づき、車両1の旋回状態に応じたフィードバック制御により、フロント側マウント装置22及び23における減衰力(減衰係数)を変更する。
これにより、電力供給装置Sに発生する並進振動及び回転振動の振動周波数のうち、複数の振動周波数に合わせて減衰力のピークを合わせることができる。その結果、並進振動及び回転振動をより適切に減衰させることができる。
本発明は、上記実施形態及び変形例に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変更例を採用することができる。
例えば、上記実施形態及び変形例においては、電力供給装置Sがバンパーレインフォース20及び左右一対のサイドフレーム21に対して固定されるように実施した。電力供給装置Sは、車体2の他の車体側部材Bに固定することができる。
具体的に、図3に示したように、左右一対のサイドフレーム21及び同サイドフレーム21の後端部にて連結されるカウルフレーム26に対して電力供給装置Sを固定することが可能である。尚、この場合、左右一対のサイドフレーム21及びカウルフレーム26が車体側部材Bとなる。
この場合、電力供給装置Sに対して車体2の前後方向にて後方に位置するカウルフレーム26と電力供給装置Sとの間には、リア側マウント装置27及びリア側マウント装置28が介装される。リア側マウント装置27及び28は、前述したフロント側マウント装置22及び23と同様に、車体2の左右方向にて互いに離間して、カウルフレーム26に固定される。リア側マウント装置27及び28は、前述したフロント側マウント装置22及び23の弾性部22a及び23aと同様に、弾性部27a及び弾性部28aを有し、電力供給装置S及びカウルフレーム26を連結する。更に、リア側マウント装置27及び28は、前述したフロント側マウント装置22及び23と同様に、慣性主軸Ix及び慣性主軸Iyによって形成される平面上に配置され、電力供給装置Sに生じた並進振動及び回転振動を減衰させる。尚、この場合においても、電力供給装置Sは、左右一対のサイドフレーム21に対して、サイド側マウント装置24及び25によって支持される。
更に、図4に示したように、四角形状に形成されたサスペンションフレーム29(車体側部材B)に対して電力供給装置Sを固定することも可能である。この場合、電力供給装置Sは、車体2の左右方向にてサイド側マウント装置24及び25を介して、サスペンションフレーム29に固定される。加えて、電力供給装置Sは、車体2の前後方向にてリア側マウント装置27及び28を介して、サスペンションフレーム29に固定される。
上記実施形態及び上記変形例では、電力供給装置Sが発電機16及びエンジン17であり、且つ、車体2の前端部に配置(固定)された。前述したように、電力供給装置Sには、PCU13が含まれる。PCU13は、モータ11fl、11fr、11rl及び11rrに電力を供給する際に発生する熱を冷却する冷却機構を備えるために、その重量が大きくなる。従って、電力供給装置SであるPCU13も、以下に説明するように車体2に固定される。
図5に示したように、PCU13は、車体2の前端部に発電機16及びエンジン17が固定されるので、車体2の後端部に設けられた支持フレーム30に固定される。具体的に、PCU13は、支持フレーム30に対して、リア側マウント装置32及びリア側マウント装置33と、サイド側マウント装置34及びサイド側マウント装置35と、を介して固定される。
支持フレーム30は、トランクボード36の下方にて車体2に固定される。リア側マウント装置32及び33は、前述したフロント側マウント22及び23並びにリア側マウント装置27及び28と同様に、弾性部32a及び弾性部33aを有するとともに、PCU13の慣性主軸Ix及び慣性主軸Iyにより形成される平面上に配置される。サイド側マウント装置34及び35は、前述したサイド側マウント装置24及び25と同様に、弾性部34a及び弾性部35aを有するとともに、PCU13の慣性主軸Ix及び慣性主軸Iyにより形成される平面上に配置される。
車体2に前後力及びヨーモーメントが作用した場合には、前述した発電機16及びエンジン17の場合と同様に、PCU13にも弾性主軸Exに沿った並進運動が生じるとともに慣性主軸Iz回りに回転運動が生じる。しかし、このPCU13に生じた並進振動及び回転振動は、リア側マウント装置32及び33によって減衰される。更に、PCU13にも揺動が生じないので、車体2の後端部(所謂、車体後部のオーバーハング部)に面外入力が生じない。従って、車体2のフロアには、車室位置が腹となる二節曲げ振動が発生しない。よって、乗員に不快な振動を与えない。