JP2016022394A - インクジェット装置、およびそのインクジェット装置を用いた有機elデバイスの製造方法 - Google Patents

インクジェット装置、およびそのインクジェット装置を用いた有機elデバイスの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】装置内での貯留中にインクの粘度が上昇することに起因した吐出不良の発生を低減するインクジェット装置を提供する。【解決手段】ヘッド部103と、第2タンク102と、第2タンク102に貯留されたインクの溶存気体量を計測する溶存気体計測手段105と、貯留されたインクを脱気する脱気手段104と、制御手段107とを備え、制御手段107は、計測値がプロセス上限値以上である場合、インクの吐出を抑制し、計測値がプロセス上限値未満である場合、インクの吐出を許可し、さらに、計測値がプロセス上限値未満である場合に、計測値がプロセス上限値以上である場合よりも脱気手段104による脱気量を低減させる。【選択図】 図1

Description

本発明は、インクジェット装置を用いた印刷方式によって、有機ELデバイスを製造する技術に関する。
有機ELデバイスの光源部である有機EL素子は、有機材料の電界発光現象を利用した発光素子である。トップエミッション型の有機EL素子の場合、例えば、ガラスからなる基板に、アルミニウムあるいは銀を含有する高反射材料からなる画素電極が形成され、さらにその上に、高分子材料からなる有機発光層、ITOからなる対向電極等が積層された構造を有する。
インクジェット装置は、所望の位置にヘッドを移動させ、ヘッドからインクの液滴を吐出することで、所望の位置にインクを塗布することができる。このようなインクジェット装置は、有機ELデバイスの製造において、有機発光層の形成に用いられる。具体的には、有機材料を溶媒に溶解したインクを、画素電極の上に塗布し、乾燥させることで、有機発光層を形成することができる。
しかし、インクの粘度が高い場合、ヘッドが目詰まりして有機発光層の形成に支障をきたすことになる。そこで、目詰まり等の吐出不良の発生を抑制するために、様々なインクが検討されている。例えば特許文献1は、インク中における染料溶解度を規定値以下にすることで、インクの粘度を適切に調整し、目詰まりの発生を抑制する技術を開示している。
特開2005−89499公報
しかしながら、有機ELデバイスの製造に用いられる大規模なインクジェット装置では、製造開始時に適切な粘度に調整されたインクを用意しても、装置内での貯留中にインクの粘度が上昇して、吐出不良が発生することがある。
本発明は、上記課題を鑑み、装置内での貯留中にインクの粘度が上昇することに起因した吐出不良の発生を低減するインクジェット装置、およびそのインクジェット装置を用いた有機EL素子の製造方法を提供するものである。
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るインクジェット装置は、インクを吐出するヘッドと、インクを貯留するタンクとを有し、インクが前記ヘッドと前記タンクとの間で循環されるインクジェット装置であって、前記タンクに貯留されたインクにおける溶存気体の量を計測する溶存気体計測手段と、前記タンクに貯留されたインクから前記溶存気体を脱気する脱気手段と、前記ヘッドにおける吐出の制御、および前記脱気手段における脱気の制御を行う制御手段とを備え、前記制御手段は、前記吐出の制御として、前記溶存気体計測手段による計測値が第1の閾値以上である場合、前記ヘッドによるインクの吐出を抑制し、前記計測値が前記第1の閾値を下回る場合、前記ヘッドによるインクの吐出を許可し、前記脱気の制御として、前記第1の閾値以下の値である第2の閾値を前記計測値が下回る場合に、前記計測値が前記第2の閾値以上である場合よりも前記脱気手段による脱気量を低減させることを特徴とする。
上記態様によると、溶存気体量が第2の閾値を下回る場合に脱気量を低減させることで、過剰に脱気することを避けることができる。そのため、脱気にともないインクの粘度が上昇する速度を抑え、吐出不良が発生する程にインクの粘度が上昇するまでの時間を引き延ばすことができる。したがって、装置内での貯留中にインクの粘度が上昇することに起因した吐出不良の発生を低減することができる。
その一方で、溶存気体量が第1の閾値以上である状態ではインクを吐出することを抑制する。そのため、脱気量を低減させることにより溶存気体量が増加しても、溶存気体が過剰な状態で吐出を継続することを避けることができる。
本発明の実施の形態1に係る有機材料インク塗布システムの構成を示す図である。 有機ELデバイスの概略構成を示す部分断面図である。 (a)〜(d)図2に示した有機ELデバイスの製造工程を模式的に示す図である。 脱気・吐出制御の概要を示す図である。 溶存気体および粘度の時間変化と、脱気・吐出制御の関係を示す図である。 実施の形態1に係る有機ELデバイスの製造方法の脱気・吐出制御の処理手順を示すフローチャートである。 変形例1における溶存気体および粘度の時間変化と、脱気・吐出制御の関係を示す図である。 変形例1における脱気・吐出制御の処理手順を示すフローチャートである。 変形例2における溶存気体および粘度の時間変化と、脱気・吐出制御の関係を示す図である。 変形例2における脱気・吐出制御の処理手順を示すフローチャートである。
(本発明の各態様を得るに至った経緯)
上記のように、有機ELデバイスの製造に利用される大規模なインクジェット装置では、装置内で貯留しているインクの粘度が上昇して吐出不良が発生することがある。本発明者は、装置内での滞留時間が長い場合に、インクの粘度の上昇が顕著になるという現象を確認した。
この現象の原因として、本発明者は、インクの脱気処理に注目した。
有機ELデバイスの製造工程では、インクを貯留するタンクからヘッドへインクを供給し、ヘッドで吐出されず残ったインクを再びタンクへ戻すように、ポンプによってヘッドとタンクとの間でインクを循環させるインクジェット装置が利用されている(以下、「循環型インクジェット装置」と表現する)。循環型インクジェット装置では、タンクで貯留中にインクに気体が溶け込む。インク中に溶存気体が多いと、ヘッドでの吐出時に気体が発泡し、液滴の着弾精度が低下することが知られている。そこで従来は、タンク内のインクに対して脱気処理を行っている。脱気処理により溶存気体を減少させることで、液滴の着弾精度が低下することを避けることができる。
しかし、脱気処理では、インクから溶存気体のみならず、インクの溶媒成分も揮発していると考えられる。そのためタンク内での滞留時間が長いと過度に脱気が進み、インクの粘度の上昇が引き起こされていると考えられる。
以上から本発明者は、以下の本発明に係る各態様を想到するに至った。
即ち、本発明の第1態様であるインクジェット装置は、インクを吐出するヘッドと、インクを貯留するタンクとを有し、インクが前記ヘッドと前記タンクとの間で循環されるインクジェット装置であって、前記タンクに貯留されたインクにおける溶存気体の量を計測する溶存気体計測手段と、前記タンクに貯留されたインクから前記溶存気体を脱気する脱気手段と、前記ヘッドにおける吐出の制御、および前記脱気手段における脱気の制御を行う制御手段とを備え、前記制御手段は、前記吐出の制御として、前記溶存気体計測手段による計測値が第1の閾値以上である場合、前記ヘッドによるインクの吐出を抑制し、前記計測値が前記第1の閾値を下回る場合、前記ヘッドによるインクの吐出を許可し、前記脱気の制御として、前記第1の閾値以下の値である第2の閾値を前記計測値が下回る場合に、前記計測値が前記第2の閾値以上である場合よりも前記脱気手段による脱気量を低減させることを特徴とする。
本態様によると、溶存気体量が第2の閾値を下回る場合に脱気量を低減させることで、過剰な脱気を避けることができる。そのため、インクの粘度が上昇する速度を抑え、吐出不良が発生する程にインクの粘度が上昇するまでの時間を引き延ばすことができる。したがって、装置内での貯留中にインクの粘度が上昇することに起因した吐出不良の発生を低減することができる。
その一方で、溶存気体量が第1の閾値以上である状態ではインクを吐出することを抑制する。そのため、脱気量を低減させることにより溶存気体量が増加しても、着弾精度が低下した状態で吐出を継続することを避けることができる。
本発明の第2態様は第1態様において、例えば、前記タンクに貯留されたインクの粘度を計測する粘度計測手段をさらに備え、前記制御手段は、前記粘度計測手段における粘度計測値が第3の閾値を下回る場合に、前記脱気の制御を実行し、前記吐出の制御としてさらに、前記粘度計測値が前記第3の閾値以上である場合に、前記ヘッドによるインクの吐出を抑制するとしてもよい。
本態様によると、吐出不良が発生する程にインクの粘度が上昇するまでの時間を引き延ばしつつ、粘度が第3の閾値以上である状態になった場合には、インクを吐出することを抑制すことができる。したがって、インクの粘度が上昇することに起因した吐出不良の発生を低減することができる。
本発明の第3態様は第2態様において、例えば、前記制御手段は、溶存気体の前記計測値を出力値とし、前記第2の閾値よりも低い値を目標値とするフィードバック制御によって、前記計測値が前記第2の閾値を下回る場合の脱気量を決定するとしてもよい。
本態様によると、溶存気体量を目標値まで低減するよう制御しつつ、過剰な脱気を避けることができる。
本発明の第4態様は第2態様において、例えば、前記制御手段は、前記脱気の制御としてさらに、前記第2の閾値よりも低い値である第4の閾値を前記計測値が下回る場合に、前記計測値が前記第2の閾値から前記第4の閾値までの範囲内にある場合よりも前記脱気手段による脱気量を低減させ、前記計測値が前記第2の閾値から前記第4の閾値までの範囲内にある場合の脱気量は、前記タンクに貯留されたインクにおける溶存気体の量を低減させることができる脱気量であるとしてもよい。
本態様によると、溶存気体量を第4の閾値まで低減するよう制御しつつ、過剰な脱気を避けることができる。
本発明の第5態様は第4態様において、例えば、前記制御手段は、前記計測値が前記第4の閾値を下回る場合に、前記脱気手段による脱気を停止させるとしてもよい。
本態様によると、過剰な脱気をさらに避けることができる。
本発明の第6態様は第2態様において、例えば、前記タンクに貯留されたインクの粘度を低減させる粘度低減手段をさらに備え、前記制御手段はさらに、前記粘度計測値が前記第3の閾値以上である場合、前記粘度低減手段に前記粘度の低減を実行させるとしてもよい。
本態様によると、粘度が第3の閾値以上である状態になった場合には、インクを吐出することを抑制しつつ、インクの粘度の低減を図ることができる。したがって、インクの粘度が上昇することに起因した吐出不良の発生を低減することができる。
本発明の第7態様である有機ELデバイスの製造方法は、インクを吐出するヘッドと、インクを貯留し前記ヘッドとの間で循環させるタンクと、前記タンクに貯留されたインクから溶存気体を脱気する脱気手段とを備えたインクジェット装置を用いて有機発光層を形成することで、基板上に下部電極、前記有機発光層、および上部電極を順に積層した発光素子を有する有機ELデバイスを製造する有機ELデバイス製造方法であって、前記インクジェット装置のヘッドからインクを吐出させることによってインクを塗布する工程と、塗布されたインクを乾燥させることによって前記有機発光層を形成する工程とを有し、前記インクを塗布する工程では、前記タンクに貯留されたインクにおける溶存気体の量を計測し、計測値が第1の閾値以上である場合、前記ヘッドからのインクの吐出を停止し、前記計測値が前記第1の閾値を下回る場合、前記ヘッドからのインクの吐出を実行し、前記第1の閾値以下の値である第2の閾値を前記計測値が下回る場合に、前記計測値が前記第2の閾値以上である場合よりも前記脱気手段における脱気量を低減させるように、脱気制御を実行することを特徴とする。
本態様によると、溶存気体量が第2の閾値を下回る場合に脱気量を低減させることで、過剰な脱気を避けることができる。そのため、インクの粘度が上昇する速度を抑え、吐出不良が発生する程にインクの粘度が上昇するまでの時間を引き延ばすことができる。したがって、装置内での貯留中にインクの粘度が上昇することに起因した吐出不良の発生を低減することができる。
その一方で、溶存気体量が第1の閾値以上である状態ではインクを吐出することを抑制する。そのため、脱気量を低減させることにより溶存気体量が増加しても、着弾精度が低下した状態で吐出を継続することを避けることができる。
本発明の第8態様は第7態様において、例えば、前記インクジェット装置はさらに、前記タンクに貯留されたインクの粘度を計測する粘度計測手段を備え、前記インクを塗布する工程ではさらに、前記粘度計測手段における粘度計測値が第3の閾値を下回る場合に、前記脱気制御を実行し、前記粘度計測値が前記第3の閾値以上である場合に、前記ヘッドからのインクの吐出を抑制するとしてもよい。
本態様によると、吐出不良が発生する程にインクの粘度が上昇するまでの時間を引き延ばしつつ、粘度が第3の閾値以上である状態になった場合には、インクを吐出することを抑制すことができる。したがって、インクの粘度が上昇することに起因した吐出不良の発生を低減することができる。
本発明の第9態様は第8態様において、例えば、前記計測値を出力値とし、前記第2の閾値よりも低い値である第4の閾値を目標値とするフィードバック制御によって、前記計測値が前記第2の閾値を下回る場合の脱気量を決定するとしてもよい。
本態様によると、溶存気体量を目標値まで低減するよう制御しつつ、過剰な脱気を避けることができる。
本発明の第10態様は第8態様において、例えば、前記脱気制御では、前記第2の閾値よりも低い値である第4の閾値を前記計測値が下回る場合に、前記計測値が前記第2の閾値から前記第4の閾値までの範囲内にある場合よりも前記脱気手段における脱気量を低減させ、前記計測値が前記第2の閾値から前記第4の閾値までの範囲内にある場合の脱気量は、前記タンクに貯留されたインクにおける溶存気体の量を低減させることができる脱気量であるとしてもよい。
本態様によると、溶存気体量を第4の閾値まで低減するよう制御しつつ、過剰な脱気を避けることができる。
本発明の第11態様は第10態様において、例えば、前記脱気制御では、前記計測値が前記第4の閾値を下回る場合に、前記脱気手段による脱気を停止させるとしてもよい。
本態様によると、過剰な脱気をさらに避けることができる。
本発明の第12態様は第8態様において、例えば、前記インクジェット装置はさらに、前記タンクに貯留されたインクの粘度を低減させる粘度低減手段をさらに備え、前記インクを塗布する工程ではさらに、前記粘度計測値が前記第3の閾値以上である場合、前記粘度低減手段に前記粘度の低減を実行させるとしてもよい。
本態様によると、粘度が第3の閾値以上である状態になった場合には、インクを吐出することを抑制しつつ、インクの粘度の低減を図ることができる。したがって、インクの粘度が上昇することに起因した吐出不良の発生を低減することができる。
以下、本発明の各態様であるインクジェット装置および有機ELデバイス製造方法の実施の形態について、図を用いて説明する。
(実施の形態1)
<インクジェット装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態1に係るインクジェット装置100の構成を示す図である。インクジェット装置100は、循環型インクジェット装置であり、第1タンク101、第2タンク102、ヘッド部103、脱気手段104、溶存気体計測手段105、粘度計測手段106、制御手段107、粘度調節弁108、および追加溶媒タンク109から構成される。
第1タンクおよび第2タンクは、微量の有機発光材料を溶媒に溶解したインクを貯留するタンクである。有機ELデバイスの製造開始時に第1タンクおよび第2タンクに投入されるインクは、目詰まり等の吐出不良の発生を抑制するために、適切な粘度に調整されている。粘度の調整は、有機発光材料の濃度の選択や、溶媒の種類の選択により実現することができる。
ヘッド部103は、インクを吐出するインクジェットヘッドを有する。インクジェットヘッドには、例えば、ピエゾの変形でインクを吐出するピエゾ型インクジェットヘッドを用いることができる。
第1タンク101、第2タンク102、およびヘッド部103は、図に示すようにパイプにより連結されている。第1タンク101、第2タンク102、およびヘッド部103間では、図示しないポンプにより、破線矢印で示す向きにインクが循環している。
第2タンク102には、脱気手段104、溶存気体計測手段105、および粘度計測手段106が取り付けられている。脱気手段104、溶存気体計測手段105、および粘度計測手段106には、図示しないポンプにより、第2タンク102内からインクが引き入れられている。
脱気手段104は、真空減圧脱気装置であり、チャンバーと、チャンバーの内部に引き回された脱気チューブと、チャンバー内を減圧する真空ポンプとからなる。脱気チューブは気体透過性のある中空糸膜であり、第2タンク102からインクが引き入れられる。脱気処理では、真空ポンプの稼働によりチャンバー内を減圧した状態で脱気チューブにインクを通液することで、脱気チューブ内のインクから溶存気体が発泡し、発泡した気体が脱気チューブ外へ除去される。脱気処理後のインクは、第2タンク102へ戻される。
脱気手段104には、制御手段107から脱気量が指示される。ここで脱気量とは、脱気手段104における単位時間あたりの脱気処理の実行量であり、真空ポンプの稼働量および単位時間あたりに脱気チューブに流すインクの量によって表される。脱気量を増やすほど、脱気手段104で単位時間中にインクから揮発する溶媒成分の量も増大する。脱気手段104は、指示された脱気量に応じて、真空ポンプの稼働量、脱気チューブ内のインク流量を調整する。
溶存気体計測手段105は、第2タンク102から引き入れられたインク中に溶存する酸素等の大気ガスの溶存量を計測する。溶存気体計測手段105において計測された計測値(以下、「溶存気体計測値」)は、周期的に制御手段107へ通知される。酸素の溶存量の測定には、例えば、酸素還元電流を測定することによって電流値から溶存量を求める隔膜電極法等を用いることができる。
粘度計測手段106は、第2タンク102から引き入れられたインクの粘度を計測する。粘度計測手段106において計測された計測値(以下、「粘度計測値」)は、周期的に制御手段107へ通知される。粘度の計測には、例えば、毛細管粘度計法、回転粘度計法等を用いることができる。なお、粘度計測手段は、必ずしもインクの粘度を直接計測する必要はなく、粘度の指標となるインクの他の性質を計測してもよい。例えば、インクの粘度は、濃度および流速と密接な関係があるため、インクの濃度や流速を計測することでインクの粘度の指標とすることができる。濃度の測定には、液体密度によって屈折率が変化する性質を利用して液体濃度を求める屈折率測定法等を用いることができる。
制御手段107は、溶存気体計測値および粘度計測値に基づいて、ヘッド部103におけるインクの吐出、脱気手段104における脱気、および、粘度調節弁108の開閉による粘度低減処理の制御を行う。制御手段107は、不揮発メモリ、ワークメモリ、プロセッサからなるマイコンシステムであり、不揮発メモリに記録されているプログラムがプロセッサに読み込まれ、プログラムとハードウェア資源とが協動することにより、吐出の制御、脱気の制御、粘度低減処理の制御の各機能を実現する。
粘度調節弁108および追加溶媒タンク109は、本実施の形態における粘度低減手段である。追加溶媒タンク109は、溶媒を貯留するタンクであり、粘度調節弁108を介して、第1タンク101に連結されている。制御手段107による制御により粘度調節弁108が開かれ、図示しないポンプによって追加溶媒タンク109内の溶媒が第1タンク101へ送出されることで、粘度低減処理が実現される。
以上が、本実施の形態1に係るインクジェット装置100の構成である。
<有機EL表示パネル1>
次に、インクジェット装置100を用いて製造する有機ELデバイスの一例として、有機EL表示パネル1について説明する。
図2は、有機EL表示パネル1の1画素を示す部分断面図である。画素は色の異なる複数のサブ画素を含み、本実施の形態では画素が赤色サブ画素、緑色サブ画素、および青色サブ画素を含んでいる。図中では、赤色サブ画素の領域を「R」、緑色サブ画素の領域を「G」、青色サブ画素の領域を「B」の符号を付して示している。
有機EL表示パネル1は、ガラス基板、TFT(薄膜トランジスタ)層および層間絶縁層等を含むTFT基板11と、TFT基板11上に形成された隔壁層12とを備える。隔壁層12の膜厚は1um程度であり、その断面形状は順テーパー状である。
隔壁層12で区画されたサブ画素領域には、Al、Agのような金属からなる下部電極13と、ホール注入層14と、IL(中間)層15と、有機発光材料からなる有機発光層16R、16G、16Bとが積層されている。さらに、隔壁層12および発光層16を覆うような電子注入層17と、ITO(Indium Tin Oxide)のような透明材料からなる上部電極18と、SiN、SiONのような光透過性の材料からなる封止層19とが順に積層されている。
各サブ画素領域の発光色が赤色、緑色、青色とそれぞれ異なるのは、有機発光層16R、16G、および16Bの材料の違いによる。
<有機EL表示パネル1の製造方法>
実施の形態1に係る有機ELデバイス製造方法について説明する。
有機ELデバイス製造方法では、まず、図3(a)に示すように、TFT基板11と、隔壁層12と、下部電極13と、ホール注入層14と、IL層15とを備えた基板を準備する。
次に、図3(b)に示すように、隔壁層12で区間されたサブ画素領域に、有機発光層16R、16G、および16Bを形成する。この有機発光層16R、16G、および16Bの形成では、3種類のインクを個別に塗布するために、3つのインクジェット装置100が使用される。
1番目のインクジェット装置100は、電界発光現象により赤色光を発光する有機発光材料が溶解されているインクを赤色サブ画素に塗布する。ここで塗布されたインクを乾燥させることで有機発光層16Rが形成される。
2番目のインクジェット装置100は、電界発光現象により緑色光を発光する有機発光材料が溶解されているインクを緑色サブ画素に塗布する。ここで塗布されたインクを乾燥させることで有機発光層16Gが形成される。
3番目のインクジェット装置100は、電界発光現象により青色光を発光する有機発光材料が溶解されているインクを青色サブ画素に塗布する。ここで塗布されたインクを乾燥させることで有機発光層16Bが形成される。
これらのインクを塗布する工程(以下、「塗布工程」)では、それぞれのインクジェット装置100において、後述する脱気・塗布制御が実行される。
次に、図3(c)に示すように、隔壁層12および有機発光層16R、16G、16Bを覆うような電子注入層17、及び上部電極18を形成する。
最後に、図3(d)に示すように、上部電極18上に封止層19を形成すると、有機EL表示パネル1が完成する。
なお、電子注入層17、上部電極18、封止層19については公知の有機発光デバイス技術おける一般的な部材と形成技術を用いる。
以上の工程により、有機EL表示パネル1を製造する。
<塗布工程>
有機発光層16R、16G、および16Bの形成のためにインクを塗布する塗布工程でのインクジェット装置の動作について説明する。
塗布工程では、インクジェット装置100の制御手段107が脱気・塗布制御を実行する。図4は、脱気・吐出制御の概要を示す図である。脱気・吐出制御は、溶存気体計測値および粘度計測値に基づいて、ヘッド部103におけるインクの吐出、脱気手段104における脱気、および、粘度調節弁108の開閉による粘度低減処理を制御する処理である。
具体的には、溶存気体量および粘度のそれぞれに閾値を設定し、これらの閾値と、溶存気体計測値、および粘度計測値とを比較する。
本実施の形態1に係る有機ELデバイス製造方法では、溶存気体がこれ以上増加すると、ヘッド部103から吐出される液滴の着弾精度が許容されない精度に低下する溶存気体量(以下、「プロセス上限値」)を、溶存気体の閾値に用いる。溶存気体計測手段105で大気ガスとして酸素の溶存量を計測する場合、本実施の形態1では、プロセス上限値の一例として、飽和溶存酸素濃度での酸素溶存量の20[%]の値を用いる。また、粘度の閾値には、インクジェットヘッドに目詰まりを生じさせない程度の粘度(以下、「粘度上限値」)を用いる。吐出可能なインクの粘度の上限値はインクジェットヘッドの構造に依存するが、一般的には20[cp]程度である。本実施の形態1では、粘度上限値の一例として、20[cp]を用いる。
[脱気の制御]
溶存気体計測値がプロセス上限値以上であれば、制御手段107は、脱気手段104の最大能力で脱気するよう脱気量を指示する(以下、脱気手段104に最大能力で脱気させることを「全稼働制御」と表現する)。
溶存気体計測値がプロセス上限値未満であれば、制御手段107は、プロセス上限値よりも低い値を目標値とし溶存気体計測値を出力値としたPID制御により脱気量を決定し、脱気手段104に指示する。
この結果、溶存気体計測値がプロセス上限値未満である場合、脱気手段104に指示する脱気量は、溶存気体計測値がプロセス上限値以上である場合よりも低減する。
[粘度低減処理の制御]
粘度計測値が粘度上限値以上であれば、制御手段107は、粘度調節弁108を一定の時間だけ開放させ、追加溶媒タンク109と第1タンク101とをつなぐパイプに設けられたポンプを稼働させる。これにより、追加溶媒タンク109から第1タンク101へ一定量の溶媒が送出される。粘度調節弁108を開放させる時間の長さは、例えば、インクの粘度を粘度上限値から半減させるために必要な溶媒の量が、追加溶媒タンク109から第1タンク101へ流入するために必要な時間としてもよい。このような時間の長さは、追加溶媒タンク109から第1タンク101へ溶媒を送出するポンプの能力や、第1タンク101および第2タンク102に貯留されているインクの量等によって決定される。
一定の時間だけ粘度調節弁108を開放させた後、粘度計測値が粘度上限値未満であれば、制御手段107は、粘度調節弁108を閉鎖させ、追加溶媒タンク109と第1タンク101とをつなぐパイプに設けられたポンプを停止さる。
この結果、第1タンク101、第2タンク102、およびヘッド部103を循環するインクは、インクジェットヘッドに目詰まりを生じるほどに粘度が上昇した場合、溶媒が追加されることで粘度が低減する。
[吐出の制御]
溶存気体計測値がプロセス上限値以上であるか、または、粘度計測値が粘度上限値以上である場合、制御手段107は、ヘッド部103からのインクの吐出を停止させる。
溶存気体計測値がプロセス上限値未満、且つ、粘度計測値が粘度上限値未満である場合、制御手段107は、ヘッド部103からのインクの吐出を許可する。
この結果、液滴の着弾精度が許容されない程度に低下する場合や、インクジェットヘッドに目詰まりを生じる状態では、溶存気体量および粘度が許容される範囲になるまで、ヘッド部103からのインクの吐出が停止される。
[溶存気体および粘度の時間変化]
次に、塗布工程での脱気・吐出制御による溶存気体量および粘度の時間変化を、図5を用いて説明する。図5の上段には、溶存気体計測値を実線のグラフで示し、粘度計測値を破線のグラフで示している。横軸は、塗布工程の開始からの経過時間tを示す。
塗布工程の開始時にインクジェット装置100に投入されているインクには、多量の気体が溶存している。そのため、ヘッド部103は、制御手段107からの吐出停止指示によりインクの吐出を停止している。また、脱気手段104は、制御手段107による全稼働制御に従って、最大の脱気量で脱気処理を行う。最大の脱気量での脱気処理により溶存気体計測値は速やかに低下するが、脱気量と正の相関をもって溶媒成分もインクから揮発するため、インクの粘度計測値も上昇する。
全稼働制御に従って脱気処理を継続することで、t1において溶存気体計測値がプロセス上限値まで低下すると、ヘッド部103は、制御手段107からの吐出許可指示に応じてインクの吐出を開始する。
また、t1からは、制御手段107による脱気の制御がPID制御に切り替わり、脱気手段104は、脱気量を抑制した状態で脱気処理を行う。この結果、溶存気体計測値が低下する速度は、t1以前よりも低下する。PID制御に従った脱気処理中は、溶存気体はインク中から完全に除去されることなく、PID目標値に近い値にとどまる。
ここで、PID制御に従った脱気処理でも、溶媒成分が揮発するため粘度計測値は上昇し続ける。ただし、PID制御により脱気量が抑制されることで、溶媒成分の揮発量が減るため、t1以後に粘度計測値が上昇する速度は、t1以前よりも抑えられる。
その後、t2になると、粘度計測値が粘度上限値に達し、ヘッド部103は、制御手段107からの吐出停止指示によりインクの吐出を停止する。
また、t2では、制御手段107の粘度低減指示に応じて、粘度調節弁108が開放され、追加溶媒タンク109から第1タンク101へ溶媒が投入される。これにより粘度計測値は低減する。
しかし、追加溶媒タンク109に貯留されていた溶媒は脱気されていないため、溶存気体計測値は、溶媒の投入量に応じて上昇し、t3で存気体計測値がプロセス上限値と同じ値となる。その結果、t1から継続していたPID制御が、全稼働制御に切り替わり、脱気手段104は、t3から最大の脱気量で脱気処理を行う。
全稼働制御に従った脱気処理をt4まで継続することで、溶存気体計測値はプロセス上限値まで低下する。そのためt4以後は、ヘッド部103は、制御手段107からの吐出許可指示に応じてインクの吐出を再開し、脱気手段104は、PID制御に従って脱気量を抑制した状態で脱気処理を行う。
以上のように、実施の形態1に係る有機ELデバイス製造方法では、図5に示すように、溶存気体計測値がプロセス上限値まで低下したt1以後、PID制御に従って脱気処理を行い、脱気量を低減させている。その結果、t1以後の粘度の上昇速度が低下し、t1−t2間でインクの吐出を継続することができる。
一方、溶存気体計測値に応じた脱気・吐出制御を行わず、t1以後も全稼働制御により脱気処理を行った場合、t1以後も粘度の上昇速度が低下しない。その場合、図5において一点鎖線で示すように粘度が上昇し、txの時点で粘度上限値に達してインクの吐出を停止することになる。
このように、実施の形態1に係る有機ELデバイス製造方法では、インクの粘度が塗布を継続できない程に上昇するまでの時間を引き延ばし、塗布工程において、インクジェット装置100を長期にわたって稼働させることができる。従って、塗布工程において、インクジェット装置100の稼働率を向上させることができる。
<脱気・塗布制御の詳細>
次に、制御手段107における脱気・塗布制御の詳細について説明する。図6は、制御手段107における脱気・吐出制御の処理手順を示すフローチャートである。
脱気・塗布制御では、まず、溶存気体計測手段105から溶存気体計測値Aを取得し(ステップS1)、粘度計測手段106から粘度計測値Bを取得する(ステップS2)。
その後、制御手段107は、内部の不揮発メモリに保持している粘度上限値と、ステップS2で取得した粘度計測値Bとを比較する(ステップS3)。粘度計測値Bが粘度上限値未満である場合(ステップS3:No)は、ステップS4〜ステップS8の処理を実行し、粘度計測値Bが粘度上限値以上である場合(ステップS3:Yes)は、ステップS9〜ステップS10の処理を実行する。
ステップS3で粘度計測値Bが粘度上限値未満であった場合(ステップS3:No)に実行するステップS4では、制御手段107は、内部の不揮発メモリに保持しているプロセス上限値と、ステップS1で取得した溶存気体計測値Aとを比較する。溶存気体計測値Aがプロセス上限値未満(ステップS4:Yes)であれば、制御手段107は、インクの吐出を許可する吐出許可指示をヘッド部103へ通知し(ステップS5)、さらに、PID制御によって脱気量を決定し、脱気手段104へ指示する(ステップS6)。脱気量を決定するPID制御に用いるPID目標値は、あらかじめ設定され、制御手段107内部の不揮発メモリに保持されている。ステップS6において脱気手段104へ脱気量を指示した後は、ステップS1から処理を繰り返す。
溶存気体計測値Aがプロセス上限値以上(ステップS4:No)であれば、制御手段107は、インクの吐出を停止させる吐出停止指示をヘッド部103へ通知し(ステップS7)、さらに、脱気手段104の最大能力での脱気量を、脱気手段104へ指示する(ステップS8)。ステップS8において脱気手段104へ脱気量を指示した後は、ステップS1から処理を繰り返す。
ステップS3で粘度計測値Bが粘度上限値以上であった場合(ステップS3:Yes)、制御手段107は、インクの吐出を停止させる吐出停止指示をヘッド部103へ通知し(ステップS9)、さらに、一定時間の弁の開放を指示する粘度低減指示を、粘度調節弁108へ通知する(ステップS10)。ステップS10において粘度調節弁108へ粘度低減指示を通知した後は、ステップS1から処理を繰り返す。
<まとめ>
以上、説明したように、本実施の形態1に係るインクジェット装置100、および有機ELデバイスの製造方法では、インク中の溶存気体量がプロセス上限値未満である場合に、脱気手段104における脱気量を低減させる。そのため、脱気時に揮発する溶媒成分の量も低減でき、インクの粘度が上昇する速度を、抑えることができる。
したがって、装置内での貯留中にインクの粘度が上昇することに起因した吐出不良の発生を低減することができる。
(その他の変形例)
[脱気量の決定]
実施の形態1では、溶存気体計測値がプロセス上限値未満である場合の脱気量を、制御手段107が、PID制御により決定する構成について説明した。しかし、溶存気体計測値がプロセス上限値未満である場合の脱気量は、必ずしもPID制御によって決定する必要はない。例えば、P制御やPI制御により脱気量を決定してもよい。
また、これらのフィードバック制御を脱気量の決定に用いることなく、溶存気体計測値がプロセス上限値未満である場合の脱気量に、固定値を用いてもよい。溶存気体計測値がプロセス上限値未満である場合の脱気量に用いる固定値は、溶存気体計測値がプロセス上限値以上である場合の脱気量よりも小さい値であればよい。このような固定値をあらかじめ設定して、制御手段107の不揮発メモリに保持しておくことで、制御手段107における処理負荷を低減することができる。
溶存気体計測値がプロセス上限値未満である場合の脱気量の決定に、固定値を用いる例では、さらに、プロセス上限値よりも低い閾値を少なくとも1つ設けてもよい。この例では、溶存気体計測値が閾値を下回る場合、溶存気体計測値がその閾値以上である場合よりも低い脱気量を脱気手段104へ指示するように、制御手段107を構成する。
プロセス上限値よりも低い脱気目標値を設定し、溶存気体計測値が脱気目標値以上かつプロセス上限値未満である場合と、溶存気体計測値が脱気目標値未満である場合とで、脱気量に異なる固定値を用いた変形例1を説明する。
図7は、変形例1における溶存気体および粘度の時間変化と、脱気・吐出制御の関係を示す図である。図7の上段には、溶存気体計測値を実線のグラフで示し、粘度計測値を破線のグラフで示している。横軸は、塗布工程の開始からの経過時間tを示す。
変形例1に係る制御手段107は、吐出の制御、および粘度低減処理の制御については、実施の形態1の場合と同じ制御を行う。しかし、脱気の制御については、変形例1に係る制御手段107は、実施の形態1の場合と異なる制御を行う。
具体的には、制御手段107は、溶存気体計測値がプロセス上限値以上である場合、脱気手段104に最大能力の脱気量での脱気処理を行うように指示する。変形例1の説明においては、最大能力の脱気量での脱気処理を、「Highレベルでの脱気処理」と表現する。
溶存気体計測値が脱気目標値以上かつプロセス上限値未満である場合、制御手段107は、脱気手段104に最大能力の脱気量の半分の脱気量で脱気処理を行うように指示する。変形例1の説明においては、「Lowレベルでの脱気処理」と表現する。
溶存気体計測値が脱気目標値未満である場合、制御手段107は、脱気手段104に脱気処理を停止するように指示する。
このような脱気の制御により、図7に示すように、塗布工程の開始後、溶存気体計測値がプロセス上限値未満まで低下するt1までの期間は、脱気手段104は、Highレベルで脱気処理を行う。t1以後は、脱気手段104は、脱気量を低減させてLowレベルで脱気処理を行う。
その後、Lowレベルで脱気処理を継続することで、溶存気体計測値が脱気目標値未満まで低下するタイミング(t2、t4)で、脱気処理を停止し、脱気処理の停止により溶存気体計測値が脱気目標値以上に上昇するタイミング(t3、t5)で、Lowレベルでの脱気処理を再開する。このような動作によって、溶存気体量を脱気目標値に近い値に維持しつつ、過剰に脱気することを避けることができる。
そのため、t1−t5の期間は、Highレベルで脱気処理を行う塗布工程の開始からt1までの期間に比べて、溶存気体の脱気に伴って揮発する溶媒成分の量も抑えることができる。その結果、t1以後の粘度の上昇速度が低下し、t1−t5間でインクの吐出を継続することができる。
一方、t1以後もHighレベルで脱気処理を行った場合、t1以後も粘度の上昇速度が低下しない。その場合、図7において一点鎖線で示すように粘度が上昇し、txの時点で粘度上限値に達してインクの吐出を停止することになる。
このように、変形例1に係る有機ELデバイス製造方法でも、インクの粘度が塗布を継続できない程に上昇するまでの時間を引き延ばすことができる。
次に、変形例1における制御手段107の脱気・塗布制御の詳細について説明する。図8は、変形例1における脱気・吐出制御の処理手順を示すフローチャートである。
図8に示す処理手順は、図6に示す実施の形態1における脱気・吐出制御の処理手順と比較して、図6のステップS6を、ステップS16〜18に置換し、図6のステップS8をステップS20に置換したものである。ここでは、図6に示す処理手順との相違点についてのみ説明する。
図6に示す処理手順との第1の相違点であるステップS16〜18は、溶存気体計測値Aがプロセス上限値未満(ステップS4:Yes)である場合に、ステップS15でインクの吐出を許可する吐出許可指示をヘッド部103へ通知した後に実行される処理手順である。
ステップS16で制御手段107は、内部の不揮発メモリに保持している脱気目標値と、ステップS11で取得した溶存気体計測値Aとを比較する。溶存気体計測値Aがプロセス上限値より大きければ(ステップS16:No)であれば、制御手段107は、Lowレベルで脱気処理を実行するように、脱気量を脱気手段104へ指示する(ステップS17)。Lowレベルでの脱気処理における脱気量は、あらかじめ設定され、制御手段107内部の不揮発メモリに保持されている。ステップS17において脱気手段104へ脱気量を指示した後は、ステップS11から処理を繰り返す。
ステップS16における比較で、溶存気体計測値Aがプロセス上限値以下であれば(ステップS16:Yes)であれば、制御手段107は、脱気処理の停止を指示する脱気停止指示を、脱気手段104へ通知する(ステップS18)。ステップS18において脱気手段104へ脱気停止指示を通知した後は、ステップS11から処理を繰り返す。
図6に示す処理手順との第2の相違点であるステップS20は、溶存気体計測値Aがプロセス上限値以上(ステップS14:No)である場合に、ステップS19でインクの吐出を停止させる吐出停止指示をヘッド部103へ通知した後に実行される処理手順である。
ステップS20で制御手段107は、Highレベルで脱気処理を実行するように、脱気量を脱気手段104へ指示する(ステップS20)。Highレベルでの脱気処理における脱気量は、脱気手段104の最大能力での脱気量であり、制御手段107内部の不揮発メモリにあらかじめ保持されている。ステップS20において脱気手段104へ脱気量を指示した後は、ステップS11から処理を繰り返す。
以上の処理手順を制御手段107が実行することにより、変形例1に係る脱気・塗布制御を実現することができる。
なお、変形例1は、溶存気体計測値が脱気目標値未満である場合は、脱気手段104に脱気処理を停止する構成としたが、溶存気体計測値が脱気目標値未満である場合に脱気処理を必ずしも停止させる必要はない。溶存気体計測値が脱気目標値未満である場合の脱気量が、溶存気体計測値が脱気目標値以上である場合の脱気量でより低ければよい。例えば、溶存気体計測値が脱気目標値未満である場合、脱気手段104に最大能力の脱気量の1/4の脱気量で脱気処理を行うように指示するように、制御手段107を構成してもよい。
[脱気量を低減させる閾値]
実施の形態1の脱気・塗布制御では、吐出を停止させる溶存気体の閾値と、脱気量を低減させる溶存気体の閾値との両方に、プロセス上限値を用いている。しかし、脱気量を低減させる閾値には必ずしもプロセス上限値を用いる必要はない。
ただし、プロセス上限値は、溶存気体がこれ以上増加すると吐出される液滴の着弾精度が許容されない精度に低下する溶存気体量である。そのため、これよりも高い値を、脱気量を低減させる溶存気体の閾値に用いると、着弾精度が低い状態であるのに脱気量を低減するよう制御することになる。そこで脱気量を低減させる溶存気体の閾値には、プロセス上限値よりも低い値を用いることが好ましい。
プロセス上限値よりも低い脱気制限値を設定し、溶存気体計測値が脱気制限値未満である場合に、脱気量の決定にPID制御を用いる変形例2を説明する。図9は、変形例2での溶存気体および粘度の時間変化を示す図である。図9の上段には、溶存気体計測値を実線のグラフで示し、粘度計測値を破線のグラフで示している。横軸は、塗布工程の開始からの経過時間tを示す。
変形例2に係る制御手段107は、吐出の制御、および粘度低減処理の制御については、実施の形態1の場合と同じ制御を行う。すなわち、吐出の制御では、溶存気体の閾値としてプロセス上限値を用い、粘度低減処理の制御では、粘度の閾値として粘度上限値を用いる。
しかし、変形例2に係る制御手段107は、脱気の制御については、プロセス上限値ではなく、脱気制限値を溶存気体の閾値として用いる。
このような構成により、変形例2では、図9に示すように、t1で溶存気体計測値がプロセス上限値未満となり、ヘッド部103からの吐出が開始された後も、溶存気体計測値が脱気制限値未満となるt2まで、全稼働制御に従って脱気手段104が脱気処理を行う。体計測値が脱気制限値未満であるt2−t4の期間は、実施の形態1と同様のPID制御に従って、脱気手段104が脱気処理を行う。
このような変形例2でも、t2−t4の期間は、過剰に脱気することを避けることができる。そのため、t2−t4の期間は、全稼働制御に従って脱気処理を行う塗布工程の開始からt1までの期間に比べて、溶存気体の脱気に伴って揮発する溶媒成分の量も抑えることができる。
このように、変形例2でも、インクの粘度が塗布を継続できない程に上昇するまでの時間を引き延ばすことができる。
次に、変形例2における制御手段107の脱気・塗布制御の詳細について説明する。図10は、変形例1における脱気・吐出制御の処理手順を示すフローチャートである。
図10に示す処理手順は、図6に示す実施の形態1における脱気・吐出制御の処理手順と比較して、図6のステップS6を、ステップS38〜40に置き換えたものである。ここでは、図6に示す処理手順との相違点についてのみ説明する。
図6に示す処理手順との相違点であるステップS38〜40は、溶存気体計測値Aがプロセス上限値未満(ステップS34:Yes)である場合に、ステップS37でインクの吐出を許可する吐出許可指示をヘッド部103へ通知した後に実行される処理手順である。
ステップS38で制御手段107は、内部の不揮発メモリに保持している脱気制限値と、ステップS31で取得した溶存気体計測値Aとを比較する。溶存気体計測値Aが脱気制限値未満で(ステップS38:No)であれば、制御手段107は、PID制御によって脱気量を決定し、脱気手段104へ脱気量を指示する(ステップS39)。脱気量を決定するPID制御に用いるPID目標値は、あらかじめ設定され、制御手段107内部の不揮発メモリに保持されている。ステップS39において脱気手段104へ脱気量を指示した後は、ステップS31から処理を繰り返す。
溶存気体計測値Aが脱気制限値以上(ステップS38:Yes)であれば、制御手段107は、脱気手段104の最大能力での脱気量を、脱気手段104へ指示する(ステップS40)。ステップS40において脱気手段104へ脱気量を指示した後は、ステップS31から処理を繰り返す。
以上の処理手順を制御手段107が実行することにより、変形例2に係る脱気・塗布制御を実現することができる。
[粘度低減処理]
実施の形態1では、粘度低減処理として、粘度調節弁108を一定の時間だけ開放させることで、粘度計測値を粘度上限値の半分まで低下させる量の溶媒を、追加溶媒タンク109から第1タンク101へ流入させる手法を説明した。
しかし、粘度低減処理は、第1タンク101、第2タンク102、およびヘッド部103を循環するインクの粘度を粘度上限値以下に低減させる手法であれば、他の手法を用いてもよい。
例えば、粘度計測値を出力値、粘度上限値の半分の値を目標値としたフィードバック制御により、粘度調節弁108の開放する時間を調整してもよい。
あるいは、粘度低減処理は、第1タンク101、第2タンク102、およびヘッド部103を循環するインクに溶媒を混合せず、低粘度のインクを混合する手法であってもよい。
あるいは、粘度低減処理は、第1タンク101、第2タンク102、およびヘッド部103を循環するインクを破棄し、その後、適切な粘度に調整した新たなインクを第1タンク101に投入する手法であってもよい。複数種類の溶媒を混合したインクを用いており、脱気処理による揮発量が溶媒の種類毎に異なる場合、単純に初期のインクでの混合比で複数種類の溶媒を追加すると、第1タンク101、第2タンク102、およびヘッド部103を循環するインクの物性に、設計されたものからずれが生じるおそれがある。そのため、複数種類の溶媒を混合したインクを用いる場合には、粘度低減処理としてインクを入れ変える手法が有効である。
本発明は、例えば、有機ELデバイスの有機発光層の形成に用いる循環式のインクジェット装置として利用可能である。特に、インクの粘度が塗布を継続できない程に上昇するまでの時間を引き延ばすことで、塗布工程におけるインクジェット装置の稼働率を向上させることが可能である。
1 有機EL表示パネル
11 TFT基板
12 隔壁層
13 陽極
13 下部電極
14 ホール注入層
15 IL層
16R、16G、16B 有機発光層
17 電子注入層
18 上部電極
19 封止層19
100 インクジェット装置
101 第1タンク
102 第2タンク
103 ヘッド部
104 脱気手段
105 溶存気体計測手段
106 粘度計測手段
107 制御手段
108 粘度調節弁
109 追加溶媒タンク

Claims (12)

  1. インクを吐出するヘッドと、インクを貯留するタンクとを有し、インクが前記ヘッドと前記タンクとの間で循環されるインクジェット装置であって、
    前記タンクに貯留されたインクにおける溶存気体の量を計測する溶存気体計測手段と、
    前記タンクに貯留されたインクから前記溶存気体を脱気する脱気手段と、
    前記ヘッドにおける吐出の制御、および前記脱気手段における脱気の制御を行う制御手段とを備え、
    前記制御手段は、
    前記吐出の制御として、前記溶存気体計測手段による計測値が第1の閾値以上である場合、前記ヘッドによるインクの吐出を抑制し、前記計測値が前記第1の閾値を下回る場合、前記ヘッドによるインクの吐出を許可し、
    前記脱気の制御として、前記第1の閾値以下の値である第2の閾値を前記計測値が下回る場合に、前記計測値が前記第2の閾値以上である場合よりも前記脱気手段による脱気量を低減させる
    ことを特徴とするインクジェット装置。
  2. 前記タンクに貯留されたインクの粘度を計測する粘度計測手段をさらに備え、
    前記制御手段は、
    前記粘度計測手段における粘度計測値が第3の閾値を下回る場合に、前記脱気の制御を実行し、
    前記吐出の制御としてさらに、前記粘度計測値が前記第3の閾値以上である場合に、前記ヘッドによるインクの吐出を抑制する
    ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット装置。
  3. 前記制御手段は、溶存気体の前記計測値を出力値とし、前記第2の閾値よりも低い値を目標値とするフィードバック制御によって、前記計測値が前記第2の閾値を下回る場合の脱気量を決定する
    ことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット装置。
  4. 前記制御手段は、前記脱気の制御としてさらに、前記第2の閾値よりも低い値である第4の閾値を前記計測値が下回る場合に、前記計測値が前記第2の閾値から前記第4の閾値までの範囲内にある場合よりも前記脱気手段による脱気量を低減させ、
    前記計測値が前記第2の閾値から前記第4の閾値までの範囲内にある場合の脱気量は、前記タンクに貯留されたインクにおける溶存気体の量を低減させることができる脱気量である
    ことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット装置。
  5. 前記制御手段は、前記計測値が前記第4の閾値を下回る場合に、前記脱気手段による脱気を停止させる
    ことを特徴とする請求項4に記載のインクジェット装置。
  6. 前記タンクに貯留されたインクの粘度を低減させる粘度低減手段をさらに備え、
    前記制御手段はさらに、前記粘度計測値が前記第3の閾値以上である場合、前記粘度低減手段に前記粘度の低減を実行させる
    ことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット装置。
  7. インクを吐出するヘッドと、インクを貯留し前記ヘッドとの間で循環させるタンクと、前記タンクに貯留されたインクから溶存気体を脱気する脱気手段とを備えたインクジェット装置を用いて有機発光層を形成することで、基板上に下部電極、前記有機発光層、および上部電極を順に積層した発光素子を有する有機ELデバイスを製造する有機ELデバイス製造方法であって、
    前記インクジェット装置のヘッドからインクを吐出させることによってインクを塗布する工程と、塗布されたインクを乾燥させることによって前記有機発光層を形成する工程とを有し、
    前記インクを塗布する工程では、
    前記タンクに貯留されたインクにおける溶存気体の量を計測し、計測値が第1の閾値以上である場合、前記ヘッドからのインクの吐出を停止し、前記計測値が前記第1の閾値を下回る場合、前記ヘッドからのインクの吐出を実行し、
    前記第1の閾値以下の値である第2の閾値を前記計測値が下回る場合に、前記計測値が前記第2の閾値以上である場合よりも前記脱気手段における脱気量を低減させるように、脱気制御を実行する
    ことを特徴とする有機ELデバイスの製造方法。
  8. 前記インクジェット装置はさらに、前記タンクに貯留されたインクの粘度を計測する粘度計測手段を備え、
    前記インクを塗布する工程ではさらに、
    前記粘度計測手段における粘度計測値が第3の閾値を下回る場合に、前記脱気制御を実行し、
    前記粘度計測値が前記第3の閾値以上である場合に、前記ヘッドからのインクの吐出を抑制する
    ことを特徴とする請求項7に記載の有機ELデバイスの製造方法。
  9. 前記計測値を出力値とし、前記第2の閾値よりも低い値である第4の閾値を目標値とするフィードバック制御によって、前記計測値が前記第2の閾値を下回る場合の脱気量を決定する
    ことを特徴とする請求項8に記載の有機ELデバイスの製造方法。
  10. 前記脱気制御では、前記第2の閾値よりも低い値である第4の閾値を前記計測値が下回る場合に、前記計測値が前記第2の閾値から前記第4の閾値までの範囲内にある場合よりも前記脱気手段における脱気量を低減させ、
    前記計測値が前記第2の閾値から前記第4の閾値までの範囲内にある場合の脱気量は、前記タンクに貯留されたインクにおける溶存気体の量を低減させることができる脱気量である
    ことを特徴とする請求項8に記載の有機ELデバイスの製造方法。
  11. 前記脱気制御では、前記計測値が前記第4の閾値を下回る場合に、前記脱気手段による脱気を停止させる
    ことを特徴とする請求項10に記載の有機ELデバイスの製造方法。
  12. 前記インクジェット装置はさらに、前記タンクに貯留されたインクの粘度を低減させる粘度低減手段をさらに備え、
    前記インクを塗布する工程ではさらに、前記粘度計測値が前記第3の閾値以上である場合、前記粘度低減手段に前記粘度の低減を実行させる
    ことを特徴とする請求項8に記載の有機ELデバイスの製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2019071268A (ja) * 2017-10-06 2019-05-09 株式会社Joled 有機el表示パネルの製造方法及び封止層形成装置

Cited By (1)

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JP2019071268A (ja) * 2017-10-06 2019-05-09 株式会社Joled 有機el表示パネルの製造方法及び封止層形成装置

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