以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両1000の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る車両1000を示す模式図である。図1に示すように、車両1000は、前輪100,102、後輪104,106、後輪104,106のそれぞれを駆動する駆動力発生装置(モータ)114,116、後輪104,106のそれぞれの車輪速を検出する車輪速センサ124,126、ステアリングホイール130、舵角センサ140、パワーステアリング機構145、ヨーレートセンサ150、加速度センサ160、外界認識手段170、制御装置(コントローラ)200を有して構成されている。
本実施形態に係る車両1000は、後輪104,106のそれぞれを駆動するためにモータ114,116が設けられている。このため、後輪104,106毎に駆動トルクを制御することができる。従って、前輪100,102の操舵によるヨーレート発生とは独立して、後輪104,106のそれぞれを駆動することで、トルクベクタリング制御によりヨーレートを発生させることができる。後輪104,106は、制御装置200の指令に基づき、後輪104,106に対応するモータ114,116が制御されることで、駆動トルクが制御される。
パワーステアリング機構145は、ドライバーによるステアリングホイール130の操作に応じて、トルク制御又は角度制御により前輪100,102の舵角を制御する。舵角センサ140は、運転者がステアリングホイール130を操作して入力した舵角θhを検出する。ヨーレートセンサ150は、車両1000の実ヨーレートγを検出する。車輪速センサ124,126は、車両1000の車両速度Vを検出する。
本実施形態に係る車両1000は、ドライバー(運転者)によるステアリングホイール130の操舵による操安制御と、外界認識手段170による運転支援制御を両立して行うことができる。なお、本実施形態はこの形態に限られることなく、4輪が独立して駆動力を発生する車両であっても良い。すなわち、後輪104,106と同様に前輪100,102のそれぞれを駆動するためにモータが設けられており、前輪100,102及び後輪104,106の駆動トルクを個別に制御することで旋回を行うものであっても良い。また、外界認識手段170を搭載せず、操安制御のみを行う車両においても実現可能である。また、本実施形態は、駆動力制御によるトルクベクタリングに限定されるものではなく、後輪の舵角を制御する4WSのシステム等においても実現可能である。また、本実施形態の運転支援制御は、外界認識手段170としてCCDカメラなどの撮像機器を例として挙げるが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、ナビゲーションシステムやGPS、レーダなどから、「路面の曲率」や「目標コースと車両前方注視点との差分(横変位量:図10のεに相当)」などの環境情報を取得できる構成であれば、第2目標ヨーレート(後述するγ2_Tgt)を演算可能であり、本発明で実現できる技術の範疇に入る。
図2及び図3は、本実施形態に係る車両1000が行う旋回制御を示す模式図である。図2は、操舵による旋回制御(操安制御)を示す模式図である。操舵による旋回制御では、ドライバーによるステアリングホイール130の操作に応じて後輪104,106に駆動力差を生じさせることで、車両1000の旋回を支援する。図2に示す例では、ドライバー(運転者)の操舵により車両1000が左に旋回している。また、後輪104,106の駆動力差によって、右側の後輪106に前向きの駆動力を発生させ、左側の後輪104には右側の後輪106に対して駆動力を抑制、または後ろ向きに駆動力を発生させることで、左右に駆動力差を発生させ、左回りの旋回を支援する方向にモーメントを発生させている。
また、図3は、外界認識手段170による旋回支援制御(運転支援制御)を示す模式図である。外界認識手段170による旋回支援制御では、外界認識手段170が撮像した車両前方の画像から、推定走行路が取得され、推定走行路に基づく車線追従ヨーレートが算出される。そして、車両1000が発生させるヨーレートが車線追従ヨーレートと一致するようにフィードバック制御が行われる。図3に示す例では、推定進行路に基づいて車両1000を左側へ旋回させるため、右側の後輪106に前向きの駆動力を発生させ、左側の後輪104には右側の後輪106に対して駆動力を抑制、または後ろ向きに駆動力させることで、左右に駆動力差を発生させている。
図4は、ドライバー(運転者)によるステアリングホイール130の操舵による操安制御と、外界認識手段170による運転支援制御が実装された車両が走行する状態を示した模式図である。図4では、道路300に沿って車両1000がコーナーを位置1→位置2→位置3→位置4のように進み、コーナーリングを行っている様子を示している。
図4の位置1はコーナーリング開始時点を示している。位置1では、外界認識手段170による運転支援制御によりコーナーの半径Rを予測し、コーナーへの進入直前から後輪104,106のトルクベクタリングによりスムーズなコーナーリングを開始する。
図4の位置2は、コーナーリングの最中を示している。ここでは、ステアリングホイール130の操舵角と外界認識手段170によって推定される推定進行路から後輪104,106のトルクベクタリング量を決定する。そして、決定したトルクベクタリング量に基づいて後輪104,106が制御される。
図4の位置3では、車両1000がコーナーの出口に近づいている。ここでは、コーナーの出口を予測した直進性の付与により操舵を安定して収束させる。そして、図4の位置4では、コーナーリングが完了する。
ところで、ドライバー(運転者)によるステアリングホイール130の操舵による操安制御と、外界認識手段170による運転支援制御を両立して行う場合に、ヨーレートセンサ150から得られる実ヨーレートγに基づいてフィードバック制御を行うと、センサノイズによる影響が大きくなる問題がある。
図5は、ヨーレートセンサ150が検出した車両の実ヨーレートγを示す特性図である。図5に示すように、ヨーレートセンサ150が検出した実ヨーレートγはノイズの影響によりS/N比が小さくなり、特に一転鎖線で囲んだ領域A11,A12では、実ヨーレートγにノイズが乗り、S/N比が小さくなっている。図6は、図5に示す実ヨーレートγをフィードバックヨーレートとして後輪104,106のモータ114,116の要求トルクを演算した場合を示している。ここで、図6に示す2つの特性は、後輪104,106の2つのモータ114,116の要求トルクにそれぞれ対応している。
図5と図6は時間軸が対応している。図6中に破線で囲んだ領域A21,A22は、図5中の領域A11,A12と対応しており、領域A11,A12の実ヨーレートγに基づいて領域A21,A22のモータ要求トルクが演算されている。図6に示すように、領域A21,A22における要求トルクは、領域A11,A12における実ヨーレートγのセンサノイズの影響により、大きく振動していることが判る。このように、ヨーレートセンサ150で検出した実ヨーレートγをフィードバックヨーレートとしてモータ114,116の制御を行うと、モータ114,116の要求トルクが振動し、この結果、車両1000が振動して乗り心地が悪くなる。
図5では実ヨーレートγが変化しており、車両1000が旋回している場合を示しているが、直進時においてもヨーレートセンサ150が検出した実ヨーレートγはノイズの影響を受けるため、旋回時と同様に車両1000の乗り心地が悪化することが想定される。また、外界認識手段170による運転支援制御の開始時においてもノイズの影響を受けるため、車両1000の乗り心地が悪化することが想定される。更に、Uターンを含む旋回時やコーナリングアシスト制御を実施しているタイミングにおいてセンサにノイズが乗った場合も、モータトルクが振動し車両の乗り心地が低下することが想定される。
一方、図7及び図8は、ヨーレートセンサ150で検出した実ヨーレートγにフィルタ処理を施した場合に車両1000に与える影響を示している。ここで、図7は、ヨーレートセンサ150が検出した車両1000のヨーレート(実線)と、実ヨーレートγにフィルタ処理を施したフィードバックヨーレートγ_F/B(破線)を示している。また、図8は、図6に示すフィードバックヨーレートγ_F/Bに基づいて後輪104,106のモータ114,116の要求トルクを演算した場合を示している。図7に示すように、ノイズ除去のためにローパスフィルタ等によるフィルタ処理を行うと、図中の一点鎖線A31,A32で囲んだ特性に示すように、フィードバックヨーレートγ_F/Bからノイズの影響を低減することができる。一方、フィルタ処理により得られたフィードバックのためのフィードバックヨーレートγ_F/Bには、実ヨーレートγに対して位相遅れが発生している。
この位相遅れに伴い、制御目標ヨーレートγTgtと、フィードバックヨーレートγ_F/Bとの間で補償すべき状態量が増加する。例えば、図7の時刻t1の時点では、ヨーレートセンサ150で検出した実ヨーレートγに対してフィードバックヨーレートγ_F/BがΔγだけ低下しているため、実際に必要な量以上にヨーレートが少ないと判断され、モータ114,116の要求トルクが必要以上に大きくなる。この結果、図8に示すように、モータの制御量が増大し、一点鎖線で囲んだ領域A41,A42ではモータ要求トルクの絶対値が車両制御上目安となる値ζ[Nm]を超えてしまい、同様の旋回を行った図6と比較するとモータ要求トルクが増大してしまうことが判る。この結果、モータトルクを過剰に発生させてしまい、ドライバーの意図以上に車両1000が旋回してしまい、車両1000の挙動が不安定になることが想定される。従って、位相遅れによるモータ要求トルクの増大を避けるためには、フィルタ処理を最小限に抑える必要が生じ、この結果、ノイズの影響を避けることができなくなる。
以上の点に鑑み、本実施形態に係る装置は、ドライバーの操舵ないし外界認識手段170が指示する推定進行路に応じて駆動用モータを制御する車両において、図6のような車両の振動を抑制し、乗り心地を改善する。具体的には、車両モデルによるヨーレートと実機で実際に発生しているヨーレートの乖離具合(モデルの信頼度)に応じて、制御モデルにフィードバックするヨーレートを切り替える。この処理により、操安制御、運転支援制御の状況の如何を問わず、センサノイズや車両振動に対する制御のロバスト性を確保するとともに、フィルタ処理に伴うフィードバックヨーレートの位相遅れを回避しながら、車両の旋回運動を支援することで、制御が車両全体に及ぼす振動を抑制し、乗り心地を改善できる。以下、詳細に説明する。
なお、モデルの信頼性を測る指標としては、車体スリップ角や横加速度、前後加速度など、ヨーレート以外の車両センサから取得できるパラメータを用いても良い。
図9は、制御装置200の構成を示す模式図である。制御装置200は、外界認識部202、車載センサ204、旋回支援角演算部206、運転支援制御用目標ヨーレート演算部208、操安制御用目標ヨーレート演算部210、制御目標ヨーレート演算部212、ヨーレート補正量演算部214、車両モデル216、フィルタ処理部218、駆動力制御部220を有して構成されている。
図4において、車載センサ204は、上述した舵角センサ140、ヨーレートセンサ150、車輪速センサ124,126を含む。舵角センサ140はステアリングホイール130の操舵角θhを検出する。また、ヨーレートセンサ150は車両1000の実ヨーレートγを検出し、車輪速センサ124,126は車両速度Vを検出する。
操安制御用目標ヨーレート演算部210は、一般的な平面2輪モデルを表す以下の式(1)から操安制御用目標ヨーレートγ1_Tgtを算出する。操安制御用目標ヨーレートγ1_Tgtは、平面2輪モデルの式(1)における車両ヨーレートγに相当し、式(1)の右辺に各値を代入することによって算出される。
なお、式(1)〜式(3)において、変数、定数は以下の通りである。
<変数>
γ:車両ヨーレート
V:車両速度
δ:タイヤ舵角
θh:ハンドル操舵角
<定数>
l:車両ホイールベース
lf:車両重心点から前輪中心までの距離
lr:車両重心点から後輪中心までの距離
m:車両重量
kf:コーナリングパワー(フロント)
kr:コーナリングパワー(リア)
Gh:ハンドル操舵角からタイヤ舵角への変換ゲイン(ステアリングギヤ比)
操安制御用目標ヨーレートγ1_Tgt(式(1)の左辺のγ)は、車両速度V、及びタイヤ舵角δを変数として、式(1)から算出される。式(1)のタイヤ舵角δは、直接センシングできないため、式(2)から、ハンドル操舵角θhに変換ゲインGhを乗じることで算出される。変換ゲインGhとして、ステアリングギア比が用いられる。また、式(1)における定数Aは車両の特性を表す定数であり、式(3)から求められる。
外界認識部202は、図1の外界認識手段170に相当する。外界認識部202は、CCDセンサ、CMOSセンサ等の撮像素子を有する左右1対のカメラを有して構成され、車両外の外部環境を撮像し、自車両が走行するレーンの白線Wを画像情報として認識することができる。また、外界認識部202は、撮像した左右1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって対象物までの距離情報を生成して取得することができる。また、外界認識部202は、三角測量の原理によって生成した距離情報に対して、周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め設定しておいた三次元的な立体物データ等と比較することにより、立体物データや白線データ等を検出する。これにより、外界認識部202は、先行車両や走行レーンを示す白線Wの他、一時停止の標識、停止線、ETCゲートなども認識することもできる。
図10は、外界認識部202による、進行路との横偏差εの算出方法を説明するための模式図である。図10に示すように、外界認識部202は、車両1000が走行する走行レーンの白線Wを検出し、外界認識部202から前方に向かって前方注視点距離Lだけ離れた直線L1と白線Wとの交点P1,P2で白線座標を求める。そして、交点P1,P2の中点P3で進行路座標を求める。また、外界認識部202の前方向と直線L1との交点P4(前方注視点)の座標を求める。図10において、進行路との偏差ε’は目標進行路と車両前方注視点との横変位量ε(P3−P4間の距離)で近似することができるため、ε’→εとする。
旋回支援角演算部206は、外界認識部202で事前に検知した目標進行路と車両前方注視点との横変位量εと前方注視点距離Lとから、操舵量に相当するパラメータ(=旋回支援角度α[rad])を算出する。旋回支援角度αは、以下の式(4)から算出することができる。
α=2×sin−1(ε/2L) ・・・・(4)
また、旋回支援角演算部206は、旋回支援角度αに対して、所定のチューニングゲイン(定数)を乗算することで、旋回支援角度目標値αTgtを算出する。
コーナー進入時、コーナー走行時等にステアリングホイール130による操舵量が不足した場合には、旋回支援角度目標値αTgtによるリアトルクベクタリング制御(運転支援制御)を実施する。このため、運転支援制御用目標ヨーレート演算部208は、旋回支援角度目標値αTgtを平面2輪モデルの(1)式のδに代入することで、運転支援制御用目標ヨーレートγ2_Tgtを求める。すなわち、運転支援制御用目標ヨーレートγ2_Tgtは、以下の式(5)から算出することができる。
操安制御用目標ヨーレート演算部210が算出した操安制御用目標ヨーレートγ1_Tgtと、運転支援制御用目標ヨーレート演算部208が算出した運転支援制御用目標ヨーレートγ2_Tgtは、共に制御目標ヨーレート演算部212に入力される。制御目標ヨーレート演算部212は、ステアリングホイール130の操舵角θhと、進行路との横偏差εとに基づき、ドライバーによる操舵の向きと外界認識部202が認識した推定進行路の向きが同じ場合は、入力されたγ1_Tgtとγ2_Tgtのうちゲインが高いものを制御目標ヨーレートγTgtとして選択し、ヨーレート補正量演算部214へ出力する。
また、制御目標ヨーレート演算部212は、ステアリングホイール130の操舵角θhと、進行路との横偏差εとに基づき、ドライバーによる操舵の向きと外界認識部202が認識した推定進行路の向きが逆向きの場合は、ドライバーが外界認識部202による推定進行路とは違う方向へ移動する意思があるものと判断する。この場合、制御目標ヨーレート演算部212は、外界認識部202による車線追従制御がドライバーの操舵と干渉することを防ぐため、所定のしきい値以上のステアリングホイール130の操舵量を検知した段階で、操安制御用目標ヨーレートγ1_Tgtを制御目標ヨーレートγTgtとして選択し、ヨーレート補正量演算部214へ出力する。
一方、車両モデル216、フィルタ処理部218では、車両1000が発生しているヨーレートを計算又は実測により求める。車両モデル216は、操舵角θhと車両速度Vとに基づき、操安制御用目標ヨーレート演算部210と同様の手法により車両モデルの式(1)からヨーレートモデル値γ_clcを算出する。ヨーレートモデル値γ_clcはヨーレート補正量演算部214へ出力される。フィルタ処理部218は、ヨーレートセンサ150が検出した実ヨーレートγに対してノイズを除去するためにフィルタ処理を行い、フィルタ処理の結果得られたヨーレートγ_filをヨーレート補正量演算部214へ出力する。
ヨーレート補正量演算部214は、減算部214a、重み付けゲイン演算部214b、フィードバックヨーレート(γF/B)演算部214c、減算部214dを有して構成されている。減算部214aは、ヨーレートモデル値γ_clcからヨーレートγ_filを減算し、ヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filとの差分γ_diffを求める。重み付けゲイン演算部214bは、ヨーレートモデル値γ_clcと実ヨーレートγ_filとの差分γ_diffに基づいて、重み付けゲインκを算出する。
フィードバックヨーレート(γF/B)演算部214cには、ヨーレートモデル値γ_clc、ヨーレートγ_fil、及び重み付けゲインκが入力される。フィードバックヨーレート(γF/B)演算部214cは、以下の式(6)に基づき、ヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filを重み付けゲインκによって重み付けし、フィードバックヨーレートγF/Bを算出する。算出されたフィードバックヨーレートγF/Bは、減算部214dへ出力される。
γF/B=κ×γ_clc+(1−κ)×γ_fil ・・・・(6)
図11は、重み付けゲイン演算部214が重み付けゲインκを算出する際のゲインマップを示す模式図である。図11に示すように、重み付けゲインκの値は、車両モデル216の信頼度に応じて0から1の間で可変する。車両モデル216の信頼度を図る指標として、ヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filとの差分(偏差)γ_diffを用いる。図11に示すように、差分γ_diffの絶対値が小さい程、重み付けゲインκの値が大きくなるようにゲインマップが設定されている。重み付けゲイン演算部214は、差分γ_diffに図11のマップ処理を施し、車両モデル216の信頼度に応じた重み付けゲインκを演算する。
図11において、TH1_Pは重み付けゲインκの切り替えのしきい値(+側)、TH2_Pは重み付けゲインκの切り替えしきい値(+側)、TH1_Mは重み付けゲインκの切り替えしきい値(−側)、TH2_Mは重み付けゲインκの切り替えしきい値(−側)、をそれぞれ示している。なお、+側のしきい値の大小関係はTH1_P<TH2_Pとし、−側のしきい値の大小関係はTH1_M>TH2_Mとする。
図11に示すゲインマップの領域A1は、差分γ_diffが0に近づく領域であり、S/N比が小さい領域や、タイヤ特性が線形の領域(ドライの路面)であり、車両モデル216から算出されるヨーレートモデル値γ_clcの信頼性が高い。このため、重み付けゲインκ=1として、式(6)よりヨーレートモデル値γ_clcの配分を100%としてフィードバックヨーレートγF/Bが演算される。これにより、ヨーレートγ_filに含まれるヨーレートセンサ150のノイズの影響を抑止することができ、フィードバックヨーレートγF/Bからセンサノイズを排除することができる。従って、車両1000の振動を抑制して乗り心地を向上することができる。
特に、運転支援制御では、車両1000がコーナーに進入する前の直進状態から、推定走行路に基づいて車両1000が旋回する量を予見的に制御する。従って、車両1000の旋回時のみならず、車両1000の直進状態においても、センサノイズの影響を排除することで、車両1000に振動を生じさせることなく、安定して直進させることが可能である。
このように、ヨーレートモデル値γ_clcの信頼度が高い領域は、差分γ_diffと走行状況から指定することができる。図11に示したように、ドライ路面(高μ)走行時であり、かつ転舵量が小さい場面(低曲率での旋回など)においては、重み付けゲインκが1となる様に差分γ_diffと重み付けゲインκを関係づけることが、マップによる係数設定の一例として想定される。なお、上述した平面2輪モデルは、タイヤのスリップ角と横加速度との関係(タイヤのコーナーリング特性)が線形である領域を想定している。タイヤのコーナーリング特性が非線形になる領域では、実車のヨーレートと横加速度が舵角やスリップ角に対して非線形になり、平面2輪モデルと実車でセンシングされるヨーレートとが乖離する。このため、タイヤの非線形性を考慮したモデルを使用すると、ヨーレートに基づく制御が煩雑になるが、本実施形態によれば、ヨーレートモデル値γ_clcの信頼度を差分γ_diffに基づいて容易に判定することが可能である。
また、図11に示すゲインマップの領域A2は、差分γ_diffが大きくなる領域であり、ウェット路面走行時、雪道走行時、または高Gがかかる旋回時などに相当し、タイヤが滑っている限界領域である。この領域では、車両モデル216から算出されるヨーレートモデル値γ_clcの信頼性が低くなり、差分γ_diffがより大きくなる。このため、重み付けゲインκ=0として、式(6)よりヨーレートγ_filの配分を100%としてフィードバックヨーレートγF/Bが演算される。これにより、ヨーレートγ_filに基づいてフィードバックの精度を確保し、実車の挙動を反映したヨーレートのフィードバック制御が行われる。従って、ヨーレートγ_filに基づいて車両1000の旋回を最適に制御することができる。また、タイヤが滑っている領域であるため、ヨーレートセンサ150の信号にノイズの影響が生じていたとしても、車両1000の振動としてドライバーが感じることはなく、乗り心地の低下も抑止できる。図11に示す低μの領域A2の設定については、設計要件から重み付けゲインκ=0となる領域を決めても良いし、低μ路面を実際に車両1000が走行した時の操縦安定性能、乗り心地等から実験的に決めても良い。
また、図11に示すゲインマップの領域A3は、線形領域から限界領域へ遷移する領域(非線形領域)であり、実車である車両1000のタイヤ特性も必要に応じて考慮して、ヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filの配分(重み付けゲインκ)を線形に変化させる。領域A1(高μ域)から領域A2(低μ域)への遷移、ないし領域A2(低μ域)から領域A1(高μ域)へ遷移する領域においては、重み付けゲインκの急変に伴うトルク変動、ヨーレートの変動を抑えるため、線形補間で重み付けゲインκを演算する。
また、図11に示すゲインマップの領域A4は、ヨーレートγ_filの方がヨーレートモデル値γ_clcよりも大きい場合に相当する。例えば、車両モデル216に誤ったパラメータが入力されてヨーレートモデル値γ_clcが誤計算された場合等においては、領域A4のマップによりヨーレートγ_filを用いて制御を行うことができる。更に、領域A4のマップによれば、フィルタ処理に伴うヨーレートγ_filの位相遅れに起因して、一時的にヨーレートモデル値γ_clcがヨーレートγ_filよりも小さくなった場合においても、ヨーレートγ_filを用いて制御を行うことができる。なお、重み付けゲインκの範囲は0〜1の間に限定されるものではなく、車両制御として成立する範囲であれば任意の値を取れる様に構成を変更することも、本発明の技術で成し得る範疇に入る。
減算部214dは、制御目標ヨーレート演算部212から入力された制御目標ヨーレートγTgtからフィードバックヨーレートγF/Bを減算し、γTgtとγF/Bとの差分ΔγTgtを求める。すなわち、差分ΔγTgtは、以下の式(7)から算出される。
ΔγTgt=γTgt−γF/B ・・・・(7)
差分ΔγTgtは、ヨーレート補正量としてモータ要求トルク演算部220へ出力される。
駆動力制御部220は、入力された差分ΔγTgtに基づいて、差分ΔγTgtが0となるように、すなわちフィードバックヨーレートγF/Bが制御目標ヨーレートγTgtとなるように、後輪104,106の駆動力発生装置(モータ)114,116の要求トルクを演算する。そして、駆動力制御部220は、演算した要求トルクに基づいて、モータ114,116を制御する。
以上のように、本実施形態では、車両1000が実現するべきヨーレートである制御目標ヨーレートγTgtを演算する。そして、車両モデル216から計算したヨーレートモデル値γ_clcと、実車から取得した実ヨーレートγをフィルタリング処理して得られるヨーレートγ_filとからフィードバックヨーレートγF/Bを計算する。
この際、車両モデル216から計算したヨーレートモデル値γ_clcの信頼度が高い状況ではγ_clcの比率が高くなるように、重み付けゲインκの値が大きな値に設定され、フィードバックヨーレートγF/Bが算出される。例えば、重み付けゲインκの値が1とされた場合は、車両モデル216から計算したヨーレートモデル値γ_clcがフィードバックヨーレートγF/Bとされ、ヨーレートモデル値γ_clcが100%フィードバックされる。これにより、ヨーレートγ_filがフィードバックに用いられることがないため、ヨーレートセンサ150から得られるヨーレートγ_filのS/N比が小さい領域におけるセンサノイズや、ノイズに起因する車両振動の影響を確実に抑えることが可能となり、車両1000の乗り心地、ドライバビリティを大幅に向上することができる。
また、例えば、路面とタイヤとの摩擦係数μが低い場合、高い横Gを受ける旋回時などには、車両モデル216から計算したヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filとの差分が大きくなり、車両モデル216から計算したヨーレートモデル値γ_clcの信頼度が低くなる。この場合、ヨーレートγ_filの比率が高くなるように、重み付けゲインκの値が小さな値に設定され、フィードバックヨーレートγF/Bが算出される。例えば、重み付けゲインκの値が0とされた場合は、ヨーレートγ_filがフィードバックヨーレートγF/Bとされ、ヨーレートγ_filが100%フィードバックされる。これにより、低μ時においても、操舵又は推定進行路に対する車両の追従性を向上させることが可能である。また、ヨーレートモデル値γ_clcの信頼度が低い場合は、路面とタイヤとの摩擦係数μが低い場合、高い横Gを受ける旋回時などに相当するため、ヨーレートセンサ150から得られるヨーレートγ_filのセンサノイズや車両振動の影響は路面に対するタイヤの滑りによって吸収されたり、旋回中のヨーレートに対してノイズの振幅が車両制御上無視できるほど微小な範囲で収まる。従って、ヨーレートγ_filを100%フィードバックした場合であっても、センサノイズや車両振動が制御に及ぼす影響を確実に抑えることができる。
また、ヨーレートモデル値γ_clcの信頼度を測る指標として、ヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filとの差分γ_diffを用い、差分γ_diffに応じて重み付けゲインκの値を設定する。そして、重み付けゲインκの値が0と1の中間の領域では、重み付けゲインκの値に基づいてヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filを重み付け処理して、フィードバックヨーレートγF/Bを計算する。これにより、ヨーレートモデル値γ_clcの信頼度に応じてヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filとの配分を最適に調整してフィードバックヨーレートγF/Bを算出することができる。
そして、車両1000の制御目標ヨーレートγTgtとフィードバックヨーレートγF/Bの差分から、ヨーレート補正量ΔγTgtを計算し、ヨーレート補正量ΔγTgtに基づいて後輪104,106のそれぞれを駆動する駆動力発生装置114,116の駆動力を制御する。
なお、上述した例では、操安制御に関するモデルの信頼度とフィードバック量との比較について説明したが、同様の手法により運転支援制御におけるモデルの信頼度とフィードバック量とを比較して信頼度を判定し、フィードバックヨーレートγF/Bを制御しても良い。この場合に、操安制御に関するモデルの信頼度に基づく重み付け演算とは別フローで演算しても良いし、しきい値などのパラメータを別途保有しても良い。
以上により、ドライバーによる操安制御と外界認識手段170によるプレビュー制御を並存させた駆動力システムにおいて、車両振動の抑制と乗り心地の確保を実現することが可能となる。
次に、図12に基づいて、本実施形態に係る車両の挙動制御装置の処理について説明する。図12は、本実施形態に係る車両の挙動制御装置の処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS10では、ヨーレートセンサ150が検出したヨーレートγに対してフィルタ処理部218によるフィルタ処理を行うことでヨーレートγ_filを取得する。次のステップS12では、車両速度Vと操舵角θhに基づいて、車両モデル216からヨーレートモデル値γ_clcを算出する。次のステップS14では、車両速度Vと操舵角θhに基づいて、操安制御用目標ヨーレートγ1_Tgtを算出する。次のステップS16では、旋回支援角度目標値αTgtに基づいて、運転支援制御用目標ヨーレートγ2_Tgtを算出する。次のステップS18では、γ1_Tgtとγ2_Tgtのうちゲインが高いものを制御目標ヨーレートγTgtとして取得する。
次のステップS20では、ヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filとの差分γ_diffを算出する。次のステップS22では、差分γ_diffが0以上であるか否かを判定し、差分γ_diffが0以上の場合はステップS24へ進む。ステップS24では、差分γ_diffとしきい値TH1_Pとを比較し、γ_diff≦TH1_Pであるか否かを判定する。ステップS24でγ_diff≦TH1_Pの場合はステップS26へ進み、重み付けゲインκを1とする。
ステップS24でγ_diff>TH1_Pの場合はステップS28へ進み、差分γ_diffとしきい値TH2_Pとを比較し、γ_diff≧TH2_Pであるか否かを判定する。ステップS28でγ_diff≧TH2_Pの場合はステップS30へ進み、重み付けゲインκを0とする。
ステップS28でγ_diff<TH2_Pの場合はステップS32へ進み、重み付けゲインκ=−(γ_diff−TH2_P)/(TH2_P−TH1_P)とする。
また、ステップS22で差分γ_diffが0未満の場合はステップS34へ進む。ステップS34では、差分γ_diffとしきい値TH1_Mとを比較し、γ_diff≧TH1_Mであるか否かを判定する。ステップS34でγ_diff≧TH1_Mの場合はステップS36へ進み、重み付けゲインκを1とする。
ステップS34でγ_diff<TH1_Mの場合はステップS38へ進み、差分γ_diffとしきい値TH2_Mとを比較し、γ_diff≦TH2_Mであるか否かを判定する。ステップS38でγ_diff≦TH2_Mの場合はステップS40へ進み、重み付けゲインκを0とする。
ステップS38でγ_diff>TH2_Mの場合はステップS42へ進み、重み付けゲインκ=−(γ_diff−TH2_M)/(TH2_M−TH1_M)とする。以上のように、ステップS20〜S42の処理によれば、図11のゲインマップに基づいて重み付けゲインκの値が決定される。
ステップS26,S30,S32,S36,S40,S42の後はステップS44へ進む。ステップS44では、上述した式(6)を用いてフィードバックヨーレートγF/Bを算出する。次のステップS46では、上述した式(7)を用いて差分ΔγTgtを算出する。次のステップS48では、差分ΔγTgtに基づいて駆動力制御部220がモータ要求トルクを演算する。
次に、図13〜図18に基づいて、本実施形態の効果について説明する。図13及び図14は、高μ時に車両モデルと実車挙動との間に乖離が生じる場合を示している。図13はヨーレートセンサ150で検出した実ヨーレートγに基づいてフィードバックヨーレートγF/Bを設定した場合を示している。一方、図14は、本実施形態に係るフィードバックヨーレート演算部214cが算出したフィードバックヨーレートγF/Bをフィードバックした場合を示している。図13(A)〜図13(C)のそれぞれにおいて、横軸(時間軸)は対応している。同様に、図14(A)〜図14(C)のそれぞれにおいて、横軸(時間軸)は対応している。
図13(A)は、時間(横軸)の経過に伴って、車両速度V、ヨーレートセンサ150の検出値に基づくヨーレートγ_fil、ステアリングの舵角θH、外界認識部204で認識される横変位量εが変化する様子を示している。
図13(B)は、図13(A)の縦軸を拡大して示しており、車両モデル216から求まるヨーレートモデル値γ_clcの特性を更に加えている。図13(A)及び図13(B)に示すように、運転支援制御により、横変位量εの増加に伴ってヨーレートγ_filが増加していることが判る。ヨーレートγ_filをフィードバックヨーレートγF/Bとしているため、図13(B)においてヨーレートγ_filとフィードバックヨーレートγF/Bの特性は一致している。
図13(C)は、ヨーレートγ_filをフィードバックヨーレートγF/Bとしてヨーレート補正量ΔγTgt=γTgt−γF/Bを算出し、ヨーレート補正量ΔγTgtから後輪104,106のモータ114,116の要求トルクを算出したものである。図13(C)で示す一点鎖線で囲んだ領域A41,A42では、フィードバックヨーレートγF/Bに含まれるノイズによってモータ要求トルクが振動していることが判る。なお、領域A41は、舵角θh及び横変位量εが0に近い状態に対応しており、直進走行時を示している。また、領域A42は、横変位量εが発生している状態に対応しており、旋回時を示している。
一方、図14は本実施形態に係るフィードバックヨーレート演算部214cが算出したフィードバックヨーレートγF/Bをフィードバックした場合を示している。図14に示す例では、図14(A)に示すように、一点鎖線で囲んだ領域A51において、ヨーレートセンサ150の検出値に基づくヨーレートγ_filにノイズが含まれており、S/N比が低下していることが判る。
図14(B)は、図14(A)の縦軸を拡大して示しており、車両モデル216から求まるヨーレートモデル値γ_clcの特性を更に加えている。図14(B)に示すように、車両モデル216から求まるヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートセンサ150の検出に基づくヨーレートγ_filとの間に乖離が生じているが、ここでは、γ_diffが図11のA1の範囲に収まっている状況における特性を示している。
図14(C)は、図14(B)に示すヨーレートモデル値γ_clcをフィードバックヨーレートγF/Bとして、ヨーレート補正量ΔγTgt=γTgt−γF/Bを算出し、ヨーレート補正量ΔγTgtから後輪104,106のモータ114,116の要求トルクを算出したものである。図14(C)に示すように、一点鎖線で囲んだ領域A52,A53(旋回時)において、ヨーレートセンサ150のノイズに伴うトルク振動が抑制されていることが判る。また、一点鎖線で囲んだ領域A54,A55を含め、直進時、旋回時のいずれにおいても、ヨーレートセンサ150のノイズに伴うトルク振動が抑制されていることが判る。
以上のように、図13、図14によれば、γF/Bとして車両モデル216から求まるヨーレートモデル値γ_clcを用いることで、モータトルクの振動を抑制できることが判る。モータ振動の抑制に伴い車両振動も抑制されるため、操安制御、ならびにプレビュー制御における乗り心地の向上に本実施形態が有用であることが判る。
図15〜図17は、低μ時に車両モデルと実車挙動との間に乖離が生じる場合を示している。図15は、この場合の舵角θH、車両速度V、偏差γ_diff、重み付けゲインκの変化を示しており、それぞれの時間軸は対応している。図15の特性において、一点鎖線で囲んだ領域A61,A62に対応する時間帯では、舵角θh(の絶対値)が大きくなるとともに車両速度Vが低下しており、車両1000がUターンをしていることを示している。領域A61,A62では、γ_clcとγ_filの偏差γ_diffが大きくなっており、γ_clcの信頼度が低くなっている。このため、重み付けゲインκは、γ_clcの信頼度に応じて変化し、領域A62においてκ=0.6程度まで低下している。
図16は、図15の条件において、領域A62で車両モデル216によるヨーレートモデル値γ_clcをフィードバックヨーレートγF/Bとしてモータトルクを制御した場合を示している。図16(A)、図16(B)において、横軸(時間軸)は対応している。ここで、図16(A)は、車両モデル216によるヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートセンサ150の検出に基づくヨーレートγ_filを示しており、ヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filに乖離が生じている。
図16(B)は、図16(A)に示す車両モデル216によるヨーレートモデル値γ_clcをフィードバックヨーレートγF/Bとしてモータトルクを制御した場合を示している。この場合、車両モデル216によるヨーレートモデル値γ_clcがヨーレートγ_filよりも大きいため、車両1000のヨーレートが十分に発生していると判断される。従って、モータトルクも低い値となり、走行環境に応じた制御ができなくなる。
一方、図17は、本実施形態による制御を示している。図17(A)、図17(B)において、横軸(時間軸)は対応している。図15の重み付けゲインκの特性に示すように、領域A62において重み付けゲインκは0.6程度の値である。このため、図17(A)に示すように、フィードバックヨーレートγF/Bは、式(6)により、車両モデル216によるヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filとの中間程度の値となる。
図17(B)は、図17(A)に示すフィードバックヨーレートγF/Bを用いてモータトルクを制御した場合を示している。この場合、フィードバックヨーレートγF/Bの値(の絶対値)が図16(B)の場合よりも小さくなる。従って、ヨーレートの不足分をトルクベクタリングで補うため、モータ要求トルクが大きくなることが判る。従って、本実施形態によれば、車両モデルの信頼度に応じてモータトルクが変動し、走行環境に応じた旋回支援が可能である。
また、図18は、図15に示す条件下において、偏差γ_diffに応じて車両モデル216によるヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filのいずれかを選択した場合を示している。図18(A)、図18(B)において、横軸(時間軸)は対応している。図18(A)に示すように、時刻t11まではフィードバックヨーレートγF/Bが車両モデル216によるヨーレートモデル値γ_clcとされ、時刻t11で偏差γ_diffが所定のしきい値以上になると、車両モデル216によるヨーレートモデル値γ_clcの信頼度が低くなったと判断し、フィードバックヨーレートγF/Bをヨーレートモデル値γ_filに切り換える。また、時刻t12で偏差γ_diffが所定のしきい値未満になると、車両モデル216によるヨーレートモデル値γ_clcの信頼度が高くなったと判断し、フィードバックヨーレートγF/Bをヨーレートγ_filから車両モデル216によるヨーレートモデル値γ_clcに切り換える。
図18(B)は、図18(A)の場合に、図18(A)に示すフィードバックヨーレートγF/Bを用いてモータトルクを制御した場合を示している。この場合、フィードバックヨーレートγF/Bを車両モデル216によるヨーレートモデル値γ_clcからヨーレートγ_filへ切り換えた際(t11の時点)にモータトルクが急に変化し、図17(B)と比較するとモータ要求トルクが旋回支援に必要なレベル以上となっている。また、フィードバックヨーレートγF/Bをヨーレートγ_filから車両モデル216によるヨーレートモデル値γ_clcへ切り換えた際にモータトルクが急に変化していることが判る。従って、旋回支援が過度に行われるとともに、切り換えの際に段付き感やショックを感じ、ドライバビリティが低下してしまう。
一方、図17(B)に示す本実施形態の制御によれば、重み付けゲインκによる重み付け制御により、フィードバックヨーレートγF/Bの変化が緩やかになり、モータ要求トルクの出力が抑制されている。従って、モータ要求トルクを旋回支援に必要なレベルに抑えることができるとともに、ドライバビリティを向上することが可能である。
以上説明したように本実施形態によれば、車両モデル216から計算したヨーレートモデル値γ_clcと、実車から取得した実ヨーレートγをフィルタリング処理して得られるヨーレートγ_filとからフィードバックヨーレートγF/Bを計算する。この際、車両モデル216から計算したヨーレートモデル値γ_clcの信頼度が高い状況ではγ_clcの比率が高くなるように、重み付けゲインκの値が大きな値に設定され、フィードバックヨーレートγF/Bが算出される。これにより、センサ値に基づくヨーレートγ_filの配分が少なくなるため、ヨーレートγ_filのS/N比が小さい領域におけるセンサノイズや、ノイズに起因する車両振動の影響を確実に抑えることが可能となり、車両1000の乗り心地、ドライバビリティを大幅に向上することができる。
また、車両モデル216から計算したヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートγ_filとの差分が大きくなり、車両モデル216から計算したヨーレートモデル値γ_clcの信頼度が低い場合は、ヨーレートγ_filの比率が高くなるように、重み付けゲインκの値が小さな値に設定される。これにより、路面摩擦係数が低い場合等において、操舵又は推定進行路に対する車両の追従性を向上させることが可能となる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。