JP2016019924A - 無針注射器 - Google Patents

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Abstract

【課題】生体等の注射対象領域に対して所望の注射深さを容易に実現し得る無針注射器を提供する。
【解決手段】無針注射器の射出部の先端部において、注射器の使用時において射出口を含む所定の領域が注射対象領域に対して接触状態となるように外部に突出し、且つ所定の厚さを有する隔壁部と、隔壁部において射出口を含む流路が複数形成されたノズル部であって、該複数の流路のそれぞれは、加圧された注射目的物質が流れ込み、且つ各流路に沿った該注射目的物質の通過距離が略等しくなるように形成されたノズル部と、が設けられる。そして、その先端部は、複数の流路が形成された上記隔壁部と、隔壁部を射出部の本体側に保持するための部材であって、該隔壁部とは独立して構成される保持部材とに分割構成される。
【選択図】図6

Description

本発明は、注射針を介することなく、注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器に関する。
注射針を介することなく注射を行う無針注射器では、加圧ガスやバネにより薬剤等を含む注射液に対して圧力を加えることで注射成分の射出が行われる構成が採用される。そして、注射液を生体内の所望の領域に送り込めるよう、注射液に掛けられる加圧力が調整されることになる。ここで、無針注射器において加圧された注射液を射出するノズルについては、正確な注射を実現するために瞬間的な注射作動中において十分な噴射圧が維持されるように、その口径やノズルの配置等が設定される。
しかしながら、多量の注射液を瞬間的に射出するためには、ノズル口径を大きくする必要があるが、その場合、ユーザの注射時の痛感が増大するおそれがある。そこで、無針注射器においてこのような課題を解決するためのノズル設計に関する技術が、特許文献1に開示されている。当該技術では、無針注射器本体の先端部を球面状の突起に形成し、そこに複数の小径のノズルを形成することで、注射時のユーザの痛感軽減と、短時間での注射完了のための注射液の射出圧の維持の両立が図られる。
特開2000−126293号公報
無針注射器については注射針を有していないことから衛生的にも好ましい構造を有するものであり、広範囲での使用が期待されている。一方で、注射針が無いことから注射液を所望の領域に運ぶには、注射針を有する注射器と比べても困難を伴う。従来技術として示されている上記無針注射器のノズル構成では、注射対象の領域と接触する部位(注射器の先端部)が曲面形状となるように形成され、そこに複数のノズルが配置されている。しかし、その注射器の内部空間は先細りの錐体形状として形成され、そこに収容されている注射液が上記複数のノズルへと流れ込むが、このとき各ノズルに沿って注射液が流れる通過距離は、ノズル毎に異なっている。この結果、ノズルを流れる注射液に対する流路抵抗は、ノズル毎に異なってしまい、その結果、各ノズルから射出された射出後の注射液の注射対象領域での挙動にばらつきが生じる。そのため、所望の注射対象領域(所望の注射深さ)への注射を安定的に実現することが難しくなる。
本発明では、上記した問題に鑑み、生体等の注射対象領域に対して注射目的物質を所望の注射深さで広範囲にわたり容易に射出実現し得る無針注射器を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、無針注射器から注射目的物質(注射液等)が注射器外部に射出される際に、注射目的物質が流れる流路の長さに着目した。注射目的物質が射出されるノズルとして複数の流路が設けられている場合、各流路の長さが異なると、流路の内壁面から注射目的物質が受ける抵抗力にばらつきが生じる。そこで、本発明は当該流路の長さを略等しくすることで、射出される注射目的物質に対する抵抗力のばらつき
を抑制することを可能とした。
具体的には、本発明は、注射針を介することなく、注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器であって、前記注射目的物質を封入する封入部と、前記封入部に封入された前記注射目的物質に対して加圧する加圧部と、前記加圧部によって加圧された前記注射目的物質が射出口から前記注射対象領域に対して射出される射出部と、を備える。そして、当該無針注射器において、前記射出部は、その先端部が、注射器の使用時において前記射出口を含む所定の領域が前記注射対象領域に対して接触状態となるように外部に突出し、且つ所定の厚さを有する隔壁部と、前記隔壁部において前記射出口を含む流路が複数形成されたノズル部であって、該複数の流路のそれぞれは、加圧された前記注射目的物質が流れ込み、且つ各流路に沿った該注射目的物質の通過距離が略等しくなるように形成されたノズル部と、を有するように構成される。
本発明に係る無針注射器では、封入部に封入されている注射目的物質に対して加圧部によって圧力が加えられることで、封入部から射出部に設けられた複数の流路のそれぞれに注射目的物質の移動が促される。その結果、各流路の射出口から注射目的物質が注射対象領域に対して射出される。この注射目的物質は、注射対象領域の内部で効能が期待される成分を含むものであり、上記のように加圧部により加えられる圧力がその射出時の駆動源である。そのため、加圧部による射出が可能であれば、注射目的物質の無針注射器内の収容状態や、液体やゲル状等の流体、粉体、粒状の固体等の注射目的物質の具体的な物理的形態は問われない。
たとえば、注射目的物質は液体であり、また固体であっても射出を可能とする流動性が担保されればゲル状の固体であってもよい。更には、注射目的物質は、粉体の状態であってもよい。そして、注射目的物質には、生体の注射対象領域に送り込むべき成分が含まれ、当該成分は注射目的物質の内部に溶解した状態で存在してもよく、又は当該成分が溶解せずに単に混合された状態であってもよい。一例を挙げれば、送りこむべき成分として、抗体増強のためのワクチン、美容のためのタンパク質、毛髪再生用の培養細胞等があり、これらが射出可能となるように、液体、ゲル状等の流体に含まれることで注射目的物質が形成される。
また、注射目的物質への加圧源は加圧による射出が可能である限りにおいて、様々な加圧源を利用することができる。たとえば、バネ等による弾性力を利用したもの、加圧されたガスを利用したもの、火薬の燃焼で発生するガスの圧力を利用したもの、加圧のための電気的アクチュエータ(モータやピエゾ素子等)を利用したものが、加圧源として挙げられる。また、ユーザの手動によって加圧を達成させる形態も採用し得る。
ここで、射出部は、複数の流路のそれぞれの射出口を注射対象領域に対して接触状態となるように突出した形状を有する隔壁部に当該複数の流路を含むノズル部が形成される。換言すれば、隔壁部に複数の流路の射出口を含む所定の領域が配置されることで、ユーザが各流路の射出口を注射対象領域に接触させやすくするとともに、接触させた後に、その接触状態を維持しやすくなる。そして、隔壁部自体は、所定の厚さ(隔壁部全体にわたって一定の厚さ)を有するものであって、その厚さを利用して複数の流路が形成される。したがって、厳密には隔壁部の厚さ方向に対して各流路がどの向きに設定されるかによるが、各流路の流路長さ、すなわち、各流路を加圧された注射目的物質が流れるときの通過距離に、隔壁部の厚さが反映されることになる。
そして、本発明に係る無針注射器では、ノズル部が、隔壁部に設けられた複数の流路を有し、その複数の流路について、各流路に沿った注射目的物質の通過距離がそれぞれ略等しくなるように、各流路が形成されている。このように各流路間で通過距離が等しくなる
ことで、各流路を流れる注射目的物質が流路の内壁面から受ける抵抗力のばらつきが抑制される。そのため、各流路から射出された射出後の注射目的物質の注射対象領域での挙動にばらつきが生じるのを抑制でき、以て、安定的に所望の注射深さを実現することが可能となる。
ここで、上記無針注射器において、前記隔壁部は、球面の一部に相当する形状となるように突出し、前記ノズル部における複数の流路は、前記隔壁部において該隔壁部の球面形状に応じて放射状に配置されてもよい。隔壁部の形状を球面の一部に相当する形状とすることで、注射器の使用時にユーザが突出部を注射対象領域に接触させたときに感じる痛感を和らげることが可能となる。なお、痛感抑制の観点に立てば、隔壁部の形状を、その他の適切な曲面を有する形状としても構わない。また、ノズル部における複数の流路が放射状に配置されることで、各流路を流れる注射目的物質が流路の内壁面から受ける抵抗力のばらつきを抑制しながら、注射目的物質を広範囲に射出することが可能となり、注射器としての利便性を更に高めることが可能となる。
また、上述までの無針注射器において、前記射出部の先端部は、注射器の使用時には、前記隔壁部以外の部位では、前記隔壁部を囲むように配置され且つ平面状の接触平面部を介してのみ前記注射対象領域に接触するように、前記射出部が構成されてもよい。このように、無針注射器の使用時において、先端部における隔壁部以外の注射対象領域との接触については、接触平面部を介してのみ接触状態が形成されることで、隔壁部と注射対象領域との密着性を上げることができる。すなわち、隔壁部以外に、注射対象領域の方に向けて突出した接触部位を設けないようにすることで、接触平面部を注射対象領域に接触させたときに隔壁部をより密着させて注射対象領域に接触させた状態を必然的に形成することが可能となり、以て、安定した注射深さの実現を図りやすくなる。
ここで、上記の無針注射器において、前記加圧部は、駆動源からの駆動力によって前記注射目的物質を押圧するプランジャを有し、また、前記封入部は、前記プランジャの先端部表面と、前記射出部の先端部の内壁面によって画定される空間を有し、該空間を該プランジャが該突出部に対して相対的に進行することで該プランジャによる注射目的物質の押圧が行われるように構成されてもよい。そして、前記先端部の内壁面は、前記隔壁部の外側表面に対応し且つ前記複数の流路のそれぞれの流入口が開口する隔壁側凹部と、前記接触平面部に対応した隔壁内側平面部とを有し、前記プランジャの先端部表面は、前記隔壁側凹部に相似したプランジャ側突出部と、前記隔壁内側平面部に相似したプランジャ側平面部とを有し、その場合、前記プランジャが前記封入部内の注射目的物質を押圧する際に、前記プランジャ側平面部が前記隔壁内側平面部に接触することで、該封入部内における該プランジャの進行が阻止される。
すなわち、プランジャの先端部表面と、封入部の注射目的物質を封入する空間を形成する先端部の内側表面(内表面)とを対応する形状とすることで、プランジャが駆動源からの駆動力で封入空間を進行した際に、当該封入空間に封入されていた注射目的物質を効率的に加圧して複数の流路に向かって押し出すことが可能となる。また、プランジャの進行自体は、プランジャの先端部表面の一部であるプランジャ側平面部と、射出部の先端部の内壁面の一部である隔壁内側平面部との接触によって阻止されることから、注射目的物質は、プランジャ側突出部と隔壁側凹部との間に収容されながら、隔壁側凹部に開口する流入口を経て複数の流路へと円滑に流れ込むことが可能となる。
なお、プランジャの進行において、プランジャ側突出部と隔壁側凹部とが、プランジャ側平面部と隔壁内平面部との接触よりも早く接触してしまうと、複数の流路の流入口が開口していないプランジャ側平面部と隔壁内側平面部に挟まれた空間に注射目的物質が流れ込み、そこに滞留してしまいやすくなるため、効率的な注射目的物質の射出が難しくなる
可能性もある。そこで、上記に示すように、プランジャが封入部内の注射目的物質を押圧する際には、プランジャ側平面部が隔壁内側平面部に先に接触して該プランジャの進行が阻止される構成とするのが好ましい。更には、注射液の効率的な射出の観点に立てば、プランジャ側平面部が隔壁内側平面部に接触した時点における、プランジャ側突出部と隔壁側凹部との間の距離は、可及的に短くなるのが好ましい。
また、プランジャ側平面部が隔壁内側平面部に先に接触して該プランジャの進行が阻止される構成の更なる利点として、無針注射器の機械的強度の設計がしやすくなる点が挙げられる。注射器の射出性能に大きく影響を与える複数の流路が形成されていない箇所でプランジャの進行を止めることで、注射目的物質が流路から受ける抵抗のばらつきを考慮する必要なく、プランジャの進行を確実に阻止できるように、プランジャ側平面部や隔壁内側平面部の厚さを大きくする等、強度補強に関する自由な設計が可能となる。
ここで、上述までの無針注射器において、前記突出部は、前記複数の流路が形成された前記隔壁部と、前記隔壁部を前記射出部の本体側に保持するための部材であって、該隔壁部とは独立して構成される保持部材と、を含むように構成されてもよい。複数の流路が形成された隔壁部と、それを保持する保持部材とを別の構成とすることで、無針注射器における複数の流路の製造が容易となる。また、隔壁部の複数の流路の製造については、パンチング等の製造手法を利用でき、また、既定の開口径を有する多孔板部材を利用し当該多孔板部材を曲げ加工して成形してもよい。また、保持部材による保持の態様としては、圧入、係合的な手法によるスナップフィット、螺合的な手法によるネジ込み、弾性部材による締め付け等が採用できる。
また、上述までの無針注射器において、前記複数の流路は、前記隔壁部の外側表面から突出した微小突起であって、該突起の内部に、加圧された注射目的物質が流れる貫通路が形成された複数のマイクロニードルで形成されてもよい。複数の流路がマイクロニードルとして形成されることで、射出部を注射対象領域に接触させたときに注射対象領域に対してマイクロニードルの突起が刺さった状態で、その内部の貫通路を経て注射目的物質を射出することができる。そのため、注射目的物質を注射対象領域の内部の所望の領域に、より確実に届けることが可能となる。なお、マイクロニードル自体は従来技術に係るものであり、例えば、米国特許第7,456,112号明細書、米国特許第6,881,203号明細書、米国特許6,503,231号明細書などに開示されている。
生体等の注射対象領域に対して、注射目的物質を所望の注射深さで広範囲にわたり容易に射出実現し得る無針注射器を提供することが可能となる。
本発明に係る無針注射器の概略構成を示す図である。 図1に示す無針注射器の注射液ユニット近傍の構成を示す図である。 図1に示す無針注射器の動力源であるイニシエータの構成を示す図である。 図1に示す無針注射器において、注射液の射出が完了した時点でのプランジャと隔壁部の内表面との接触状態を示す図である。 図1に示す無針注射器の注射液ユニットの変形例を示す図である。 図1に示す無針注射器における注射液ユニットの組立に関する図である。
以下に、図面を参照して本発明の実施形態に係る無針注射器1(以下、単に「注射器1」という)について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。
ここで、図1(a)は注射器1の断面図であり、図1(b)は注射器1をイニシエータ20側から見た側面図である。また、図2(a)は、注射器1の注射液ユニット8近傍の拡大図であって、図2(b)は、特に、注射器1の先端部の拡大図である。なお、本願の以降の記載においては、注射器1によって注射対象物に注射される注射目的物質を「注射液」と総称する。しかし、これには注射される物質の内容や形態を限定する意図は無い。注射目的物質では、注射対象物である皮膚構造体に届けるべき成分が溶解していても溶解していなくてもよく、また注射目的物質も、加圧することでノズル流路83から皮膚構造体に対して射出され得るものであれば、その具体的な形態は不問であり、液体、ゲル状等様々な形態が採用できる。
ここで、注射器1は、注射器本体2を有し、該注射器本体2の中央部には、その軸方向に延在し、軸方向に沿った径が一定である貫通孔14が設けられている。そして、貫通孔14の一端は、該貫通孔14の径より大きい径を有する燃焼室9に連通し、残りの一端は、ノズル流路83が形成された注射液ユニット8側に至る。更に、燃焼室9の、貫通孔14との連通箇所とは反対側に、イニシエータ20が、該連通箇所に対向するように設置される。
ここで、イニシエータ20の例について図3に基づいて説明する。イニシエータ20は電気式の点火装置であり、表面が絶縁カバーで覆われたカップ21によって、点火薬22を配置するための空間が該カップ21内に画定される。そして、その空間に金属ヘッダ24が配置され、その上面に筒状のチャージホルダ23が設けられている。該チャージホルダ23によって点火薬22が保持される。この点火薬22の底部には、片方の導電ピン28と金属ヘッダ24を電気的に接続したブリッジワイヤ26が配線されている。なお、二本の導電ピン28は互いが絶縁状態となるように、絶縁体25を介して金属ヘッダ24に固定される。さらに、絶縁体25で支持された二本の導電ピン28が延出するカップ21の開放口は、樹脂27によって導電ピン28間の絶縁性を良好に維持した状態で保護されている。
このように構成されるイニシエータ20においては、外部電源によって二本の導電ピン28間に電圧印加されるとブリッジワイヤ26に電流が流れ、それにより点火薬22が燃焼する。このとき、点火薬22の燃焼による燃焼生成物はチャージホルダ23の開口部から噴出されることになる。そこで、本発明においては、イニシエータ20での点火薬22の燃焼生成物が燃焼室9内に流れ込むように、注射器本体2に対するイニシエータ20の相対位置関係が設計されている。また、イニシエータ用キャップ12は、イニシエータ20の外表面に引っ掛かるように断面が鍔状に形成され、且つ注射器本体2に対してネジ固定される。これにより、イニシエータ20は、イニシエータ用キャップ12によって注射器本体2に対して固定され、以てイニシエータ20での点火時に生じる圧力で、イニシエータ20自体が注射器本体2から脱落することを防止できる。
なお、注射器1において用いられる点火薬22として、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼生成物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。適切な注射が可能な限りにおいて、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
ここで、燃焼室9内には、点火薬22の燃焼によって生じる燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させる、円柱状のガス発生剤30が配置されている。ガス発生剤30の一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。このガス発生剤30は、上記点火薬22と異なり、燃焼時に発生した所定のガスは常温においても気体成分を含むため、発生圧力の低下率は上記点火薬22と比べて小さい。さらに、ガス発生剤30の燃焼時の燃焼完了時間は、上記点火薬22と比べて長いが、燃焼室9内に配置されるときの該ガス発生剤30の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤30の燃焼完了時間を変化させることが可能である。これは、燃焼室9内に流れ込む点火薬22の燃焼生成物との接触状態が、ガス発生剤30の表面形状や、また燃焼室9内でのガス発生剤30の配置に起因する該ガス発生剤30と点火薬22との相対位置関係によって変化すると考えられるからである。
次に、貫通孔14には、金属製のピストン6が、貫通孔14内を軸方向に沿って摺動可能となるように配置され、その一端が燃焼室9側に露出し、その他端は注射液ユニット8に含まれるプランジャ7の一端に接触するように配置されている。ここで、注射液ユニット8の構成について説明する。注射液ユニット8は、皮膚構造体に注射すべき注射液MLを封入するための封入空間80を有する。この封入空間80は、円柱状の封入筐体84と、封入筐体84の先端側に設けられ、本発明に係る突出部を形成する先端部82と、プランジャ7の先端部とによって囲まれた空間として画定され、そこに注射液MLが封入されている。注射液ユニット8は、封入筐体84の基端部分(先端部82とは反対側の端部)に、注射器本体2と螺合するための固定部81が設けられており、注射器本体2に対して注射液ユニット8が着脱可能となるように構成される。そのため、注射液MLの注射が完了すると、その注射液ユニット8を取り外し新たな注射液ユニット8を取り付けることで、新たな注射が実行可能な状態となる。そのとき、注射液ユニット8に含まれるプランジャ7の端部は貫通孔14に挿入され、その内部に配置されているピストン6に接触するように、新たな注射液ユニット8の取り付けが行われる。
ここで、注射液ユニット8において、その先端には先端部82が設けられている。この先端部82は、注射器1の外部に向かって、すなわち注射液MLを射出すべき皮膚構造体が配置される方向に向かって突出した形状を有する隔壁部82aと、この隔壁部82aを囲むように形成される平面部82bとを有する。そして、この隔壁部82aには、封入空間80に封入されている注射液MLが射出される際に通過するノズル流路83が複数設けられている。図2に示す断面での隔壁部82aは、その外表面が球面の一部をなす形状を有しており、且つ隔壁部82aの厚さ(隔壁部82aの外表面と内表面82dとで定義される幅)も一定となっている。したがって、隔壁部82aの内表面82dも当該外表面と同じように球面の一部をなす凹状となっている。なお、平面部82bは、球状に突出した隔壁部82aを取り囲むように環状に形成される平面であって、その厚さ(平面部82bの外面と後述する内側平面82cとで定義される幅)は隔壁部82aの厚さより大きい。
ここで、ノズル流路83は、図2(b)に示すように、封入空間80と注射器1の外部とを連通する流路であり、封入空間80側に注射液MLが流れ込むための流入口83bが開口し、注射器1の外部に注射液MLを射出するための射出口83aが開口している。なお、この流入口83bは、全て、球状に突出した隔壁部82aの内表面82d上で開口しており、先端部82において平面部82bの内表面となる内側平面82c上では開口していない。なお、隔壁部82aの外表面と内表面82dとで挟まれた距離が隔壁部82aの厚さを画定し、内側平面82cと平面部82bの外表面とで挟まれた距離が平面部82bの厚さを画定する。そして、一定の厚さを有する隔壁部82aにおいて、複数のノズル流
路83は、それぞれ、隔壁部82aの球面形状の中心から放射状に延びる仮想線上に配置されている。そのため、複数のノズル流路83のそれぞれにおいて射出されることになる注射液MLが通過する実質的な通過距離は、いずれのノズル流路83でも概ね等しくなる。
次に、プランジャ7について説明する。プランジャ7は、上記の通り、その一端がピストン6と接触するように配置される。イニシエータ20の点火によってガス発生剤30から発生した燃焼ガスから受ける圧力が、ピストン6を介してプランジャ7に伝えられ、それを駆動力として、プランジャ7は封入筐体84の内部を先端部82に向かって進行することができる。このプランジャ7の進行によって封入されていた注射液MLが加圧されて、ノズル流路83から射出されることになるが、その射出態様の詳細については後述する。
ここで、プランジャ7の先端部は、封入空間80に封入されている注射液MLを効率的に加圧できるように、球面の一部をなす形状を有し、隔壁部82aと同じように突出したプランジャ側突出部7bと、プランジャ側突出部7bを取り囲むように環状に形成された平面を有するプランジャ側平面部7aから構成されている。後述する図4に示すように、注射液MLの射出完了時には、プランジャ側平面部7aの表面と内側平面82cとが接触した状態となるように、両者は互いに略相似した形状に形成される。また、注射液MLの射出完了時に、プランジャ側突出部7bが隔壁部82aの内表面82dで形成される凹部に概ね嵌り込むように、プランジャ側突出部7bの外表面と隔壁部82aの内表面82dは互いに略相似した形状に形成される。
このように構成される注射液ユニット8が図2(a)に示すように注射器本体2に取り付けられて、イニシエータ20による点火が行われると、ガス発生剤30から生じた燃焼ガスからの圧力を受けてプランジャ7が封入筐体80の内部を先端部82側に向かって進行し、最終的には、図4(a)に示すように、先端部82に当たってプランジャ7が停止する。この状態においては、プランジャ7の進行によって注射液MLが複数のノズル流路83を経て外部に射出された状態となる。なお、図4(b)は、プランジャ7が当該停止状態にある場合の、プランジャ7の先端部近傍の拡大図である。
当該停止状態は、プランジャ7のプランジャ側平面部7aと内側平面82cとが接触することで形成されている。この停止状態においては、厳密には、プランジャ7のプランジャ側突出部7bと隔壁部82aの凹状の内表面82dは接触しておらず、図4(b)に示すように最大でΔの間隙が形成される。なお、図4(b)に示す間隙の状態は、本実施例の理解を容易にするために過大に表現されており、実際には、製造上の公差等を踏まえて、プランジャ7のプランジャ側平面部7aと内側平面82cとの接触が確保できる範囲で当該間隙Δは可及的に小さくなるように設計される。先述のように、平面部82bの厚さが隔壁部82aの厚さよりも厚いことで、隔壁部82aや該隔壁部82aに形成されたノズル流路83が、変形するなどの影響を受けることがない。またプランジャ7は全体を弾性のある部材で形成した場合、プランジャ平面部7aと内側平面82cとが接触した際に、その圧力によって多少変形し、間隙Δをさらに小さくすることができる。
上述までのように構成される注射器1は、使用時においては、先端部82をユーザの皮膚構造体に押し付けて、先端部82の隔壁部82aに設けられているノズル流路83の射出口83bが皮膚構造体に塞がれた状態を形成した上で、イニシエータ20の点火が実行される。このとき、隔壁部82aは球面の一部を為すように形成されているため、先端部82が押し付けられた際のユーザの痛感を和らげることができる。更には、突出した形状の隔壁部82aは平面部82bによって囲まれ、先端部82が押し付けられた際にはこの平面部82bもユーザの皮膚構造体に接触できるように構成されているため、ノズル流路
83の射出口83aをより密着してユーザの皮膚構造体に接触させることが可能となる。
そして、注射液MLの射出が行われる際には、複数のノズル流路83のそれぞれに注射液MLが流れ込むが、上記の通り、複数のノズル流路83のそれぞれにおける注射液の通過距離は等しくなるように構成されている。その結果、注射液MLが流入口83bからノズル流路83に流れ込み射出口83aから射出されるまでの間、注射液MLがノズル流路83の内壁面から受ける抵抗に関し、各ノズル流路83の間のばらつきを抑制することが可能となる。そのため、各射出口83aから射出された注射液の挙動を安定な状態にすることができ、以てユーザの皮膚構造体において所望の注射深さに安定的に注射液MLを送り届けることが可能となる。更に、複数のノズル流路83は、上記の通り隔壁部82aにおいて放射状に配置されているため、広範囲の所望の注射深さに注射液MLを送り届けることが可能となる。
また、注射液MLの射出完了時には、図4(b)に示すように、プランジャ7のプランジャ側平面部7aと内側平面82cとが接触することで、プランジャ7の進行が阻止され、停止状態に至る。このとき、プランジャ7のプランジャ側突出部7bと隔壁部82aの凹状の内表面82dとの間には若干の間隙Δが形成されるため、注射液MLは最終的には、この間隙Δによる空間に残ることになる。しかしながら、複数のノズル流路83の流入口83bは、この間隙Δ側に開口していることから、間隙Δに残留している注射液MLを可及的に注射器1の外部に排出しやすい構造となっており、当該構造は、注射液MLの効率的な利用に資するものである。また、結果として、ランジャ7のプランジャ側平面部7aと内側平面82cが、プランジャ7のプランジャ側突出部7bと隔壁部82aの凹状の内表面82dより先に接触することが担保されている構造となっているため、注射液MLが間隙Δ側に円滑に導かれる。これも、注射液MLの効率的な利用に資するものと考えられる。
また、複数のノズル流路83を球状に突出した隔壁部82aにのみ形成し、平面部82bには形成していない。そのため、安定した注射液の射出実現のためにノズル流路83における通過距離を等しく設定するという上記条件に縛られることなく、平面部82bの厚さを適宜設定することが可能となる。本実施例では、上記の通り、プランジャ7の進行を平面部82によって阻止する構成を採用しているから、平面部82bの厚さを隔壁部82aの厚さよりも大きく設定し得る設計上の自由度は、平面部82bの強度を十分に確保して、プランジャ7を確実に止めるためにも極めて有用と考えられる。
<変形例1>
図5に、注射液ユニット8の変形例を示す。図5(a)は、注射液の射出前の注射液ユニット8の概略的な構成を示し、図5(b)は注射液の射出が完了したときの注射液ユニット8の概略的な構成を示している。当該変形例では、先端部82の隔壁部82aの内表面82dによって形成される凹部が、図2に示す例で部分的な球状として形成されているのに代えて、柱状に形成される。なお、当該柱状の凹部の横断面積は、進行するプランジャ7のプランジャ側突出部7bが嵌り込むことが可能である限りにおいて、円、矩形等、適宜な形状を採用し得る。当該変形例でも、複数のノズル流路83は、隔壁部82a側にのみ配置され、平面部82b側には配置されず、各ノズル流路83における注射液の通過距離は等しくなるように設計されている。また、図5(b)は、プランジャ7のプランジャ側平面部7aと内側平面82cとが接触することで、プランジャ7の進行が阻止された状態が示されている。なお平面部82bと隔壁部82aの厚さの関係、プランジャ側突出部7bと内表面82dとの間隙も、図4(b)の実施例のとおりである。
<変形例2>
ここで、図6に、先端部82の構成に関する変形例を示す。当該変形例では、複数のノ
ズル流路83が形成された隔壁部に相当する多孔板部材87が、封入筐体84とは独立して構成されている。当該多孔板部材87は、一定の板厚の板部材をパンチングプレスによって複数の貫通孔を設けるとともに型成型を行うことで、上述した球面の一部を為す形状に加工される。なお、パンチングプレス後の貫通孔は、上述した複数のノズル流路83として機能すべく、それぞれにおける注射液の通過距離は等しくなるように設計されている。そして、このように加工された多孔板部材87は、保持部材86によって挟まれて封入筐体84側に取り付けられる。なお、本変形例における保持部材86の取り付けは、保持部材86側の雌ネジと、封入筐体84側の雄ネジ85とが螺合することで実現される。
このように、隔壁部としての多孔板部材87を封入筐体84と別構成とすることで、注射液ユニット8、特にその先端部82の製造を容易とすることができる。なお、図6に示すように螺合することで多孔板部材87を保持する場合には、加圧された注射液がその保持部分から漏れ出さないように、保持部材86と多孔板部材87との間に、および/または多孔板部材87と封入筐体84との間にシール部材を配置させてもよい。
<変形例3>
また、上述までの実施例において、隔壁部82aもしくは多孔板部材87に形成される複数のノズル流路83は、エンボス状に多少突起した状態で形成された、たとえば米国特許第7,456,112号明細書、米国特許第6,881,203号明細書、米国特許明細書6,503,231号明
細書等に示すようなマイクロニードル状の形状であってもよい。その場合、各突起は皮膚構造体、すなわち注射器1の外側に向いて形成され、そのマイクロニードルの内部に注射液が通過するための貫通路が形成されている。そして、各マイクロニードルの貫通路における注射液の通過距離が等しくなるように設計されることで、上述した本発明に係るノズル流路83として機能する。
<その他の実施例>
本発明に係る注射器1によれば、上述した注射液を皮膚構造体に注射する場合以外にも、例えば、ヒトに対する再生医療の分野において、注射対象となる細胞や足場組織・スキャフォールドに培養細胞、幹細胞等を播種することが可能となる。例えば、特開2008−206477号公報に示すように、移植される部位及び再細胞化の目的に応じて当業者が適宜決定し得る細胞、例えば、内皮細胞、内皮前駆細胞、骨髄細胞、前骨芽細胞、軟骨細胞、繊維芽細胞、皮膚細胞、筋肉細胞、肝臓細胞、腎臓細胞、腸管細胞、幹細胞、その他再生医療の分野で考慮されるあらゆる細胞を、注射器1により注射することが可能である。より具体的には、上記播種すべき細胞を含む液(細胞懸濁液)を封入空間80に収容し、それに対して加圧することで、移植される部位に所定の細胞を注射、移植する。
さらには、特表2007−525192号公報に記載されているような、細胞や足場組織・スキャフォールド等へのDNA等の送達にも、本発明に係る注射器1を使用することができる。この場合、針を用いて送達する場合と比較して、本発明に係る注射器1を使用した方が、細胞や足場組織・スキャフォールド等自体への影響を抑制できるためより好ましいと言える。
さらには、各種遺伝子、癌抑制細胞、脂質エンベロープ等を直接目的とする組織に送達させたり、病原体に対する免疫を高めるために抗原遺伝子を投与したりする場合にも、本発明に係る注射器1は好適に使用される。その他、各種疾病治療の分野(特表2008−508881号公報、特表2010−503616号公報等に記載の分野)、免疫医療分野(特表2005−523679号公報等に記載の分野)等にも、当該注射器1は使用することができ、その使用可能な分野は意図的には限定されない。
1・・・・注射器
2・・・・注射器本体
6・・・・ピストン
7・・・・プランジャ
8・・・・注射液ユニット
9・・・・燃焼室
14・・・・貫通孔
20・・・・イニシエータ
30・・・・ガス発生剤
80・・・・封入空間
82・・・・先端部
82a・・・・隔壁部
82b・・・・平面部
82c・・・・内側平面
82d・・・・内表面
83・・・・・ノズル流路
83a・・・・射出口
83b・・・・流入口
84・・・・・封入筐体
86・・・・・保持部材
87・・・・・多孔板部材

Claims (5)

  1. 注射針を介することなく、注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する注射器であって、
    前記注射目的物質を封入する封入部と、
    前記封入部に封入された前記注射目的物質に対して加圧する加圧部と、
    前記加圧部によって加圧された前記注射目的物質が射出口から前記注射対象領域に対して射出される射出部と、を備え、
    前記射出部は、その先端部が、
    注射器の使用時において前記射出口を含む所定の領域が前記注射対象領域に対して接触状態となるように外部に突出し、且つ所定の厚さを有する隔壁部と、
    前記隔壁部において前記射出口を含む流路が複数形成されたノズル部であって、該複数の流路のそれぞれは、加圧された前記注射目的物質が流れ込み、且つ各流路に沿った該注射目的物質の通過距離が略等しくなるように形成されたノズル部と、
    を有し、
    前記先端部は、
    前記複数の流路が形成された前記隔壁部と、
    前記隔壁部を前記射出部の本体側に保持するための部材であって、該隔壁部とは独立して構成される保持部材と、
    を含む、無針注射器。
  2. 前記複数の流路は、前記隔壁部の外側表面から突出した微小突起であって、該突起の内部に、加圧された注射目的物質が流れる貫通路が形成された複数のマイクロニードルで形成される、
    請求項1に記載の無針注射器。
  3. 前記隔壁部は、球面の一部に相当する形状となるように突出しており、
    前記ノズル部における複数の流路は、前記隔壁部において該隔壁部の球面形状に応じて放射状に配置されている、
    請求項1又は請求項2に記載の無針注射器。
  4. 前記射出部の先端部は、注射器の使用時において、前記隔壁部以外の部位では、前記隔壁部を囲むように配置され且つ平面状の接触平面部を介してのみ前記注射対象領域に接触するように構成される、
    請求項1から請求項3の何れか1項に記載の無針注射器。
  5. 前記加圧部は、駆動源からの駆動力によって前記注射目的物質を押圧するプランジャを有し、
    前記封入部は、前記プランジャの先端部表面と、前記射出部の先端部の内壁面によって画定される空間を有し、該空間を該プランジャが該内壁面に対して相対的に進行することで該プランジャによる注射目的物質の押圧が行われるように構成され、
    前記先端部の内壁面は、前記隔壁部の外側表面に対応し且つ前記複数の流路のそれぞれの流入口が開口する隔壁側凹部と、前記接触平面部に対応した隔壁内側平面部とを有し、
    前記プランジャの先端部表面は、前記隔壁側凹部に相似したプランジャ側突出部と、前記隔壁内側平面部に相似したプランジャ側平面部とを有し、
    前記プランジャが前記封入部内の注射目的物質を押圧する際に、前記プランジャ側平面部が前記隔壁内側平面部に接触することで、該封入部内における該プランジャの進行が阻止される、
    請求項4に記載の無針注射器。
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