JP2016011474A - 歯面等の口腔清掃用不織布 - Google Patents

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康子 松林
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康充 小粥
Yasumitsu Kokayu
康充 小粥
比佐志 服部
Hisashi Hattori
比佐志 服部
カーロ和重 河邉
Karl Kazushige Kawabe
カーロ和重 河邉
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Yoshiaki Katsura
芳昭 桂
裕也 山本
Hironari Yamamoto
裕也 山本
真穂 吉川
Maho Yoshikawa
真穂 吉川
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Abstract

【課題】風合い(柔らかさ)や肌触り等の使用感が良く、安定的にハイドロキシアパタイトの特性(例えば菌吸着性等)を発揮させることが可能な、機能性不織布、特に歯面等の口腔清掃用不織布の提供。【解決手段】少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維を含む不織布の表面に、焼成ハイドロキシアパタイト粒子が熱融着により0.1〜20g/m2固着した機能性不織布であって、前記機能性不織布のせん断剛性が、8.5gf/cm・deg以下であることを特徴とする、機能性不織布、特に歯面等の口腔清掃用不織布。【選択図】なし

Description

本発明は、機能性不織布に関し、より詳細には、所定の機能性粒子が繊維表面に固着した機能性不織布、特に歯面等の口腔清掃用不織布に関する。
昨今の衛生意識の高まりにより、抗菌・除菌性を有する材料が望まれている。例えば、材料としての応用性が広い不織布に抗菌・除菌機能を有する機能性粒子を固着させることで不織布に抗菌・除菌性等を付加した機能性不織布が、広く用いられている。ここで、除菌作用を有する機能性粒子としては、ハイドロキシアパタイト粒子が挙げられる。ハイドロキシアパタイトは、優れたタンパク質吸着性及びイオン交換性等を有することから、菌を吸着する効果に優れ、更には粒子に菌が吸着された結果、除菌効果も有するものとなる。また、ハイドロキシアパタイトは、生体親和性も高いことから生体材料としても利用される等、人体に対しても安全に用いられる材料である。
上記機能性不織布としては、例えば、特許文献1では、マスクに対してリン酸カルシウム系化合物(例えばハイドロキシアパタイト)を含有する成分を噴射するスプレーが開示されており、当該発明によれば、簡易に抗菌性不織布を形成することが可能となる。また、特許文献2では、シランカップリング剤等を用いて、化学的にハイドロキシアパタイトを高分子材料に固着させる方法が開示されている。更に、特許文献3では、ハイドロキシアパタイトを始めとする機能性粒子を繊維集合体に含浸又はコーティングさせた後に、繊維集合体(不織布)を該繊維の軟化点以上の温度で熱処理することで機能性粒子を熱接着させた、機能性繊維集合体が開示されている。また、特許文献4では、フィラ―(固体粒子等、例えばハイドロキシアパタイト粒子)を溶液に分散させたフィラ―分散溶液を、湿熱ゲル化樹脂(水分存在下で加熱することによってゲル状となる樹脂)を含む繊維構造物(繊維束等)に付与することで、湿熱ゲル化樹脂とフィラ―を接触させ、次いで所定温度下で当該湿熱ゲル化樹脂にスチーム処理を施し湿熱ゲル化樹脂の一部をゲル化させることにより、フィラ―を樹脂表面に固着してなる、フィラ―固着繊維構造物が開示されている。
特開平11−199403号公報 特許第3836444号公報 特開平6−192961号公報 特許第4603898号公報
しかし、特許文献1に記載された発明により得られる機能性不織布は、ハイドロキシアパタイトが繊維間から脱落し易い等の理由から、除菌効果の持続性が悪いものであった。また、特許文献2に記載された方法は、化学的な結合による固着方法であるため、大きな表面特性が得られるような大きい径を有する粒子は、接着面となる範囲に対して粒子の体積や質量等が大きくなるため高分子材料に固着することが困難な場合があった。従って、当該方法によって得られる不織布の機能性が十分ではない場合もあった。更に、特許文献3及び特許文献4に記載された機能性不織布は、風合い(柔らかさ)や肌触り等の使用感の点で、人体(皮膚や粘膜等)に対して直接使用するには適さない、といった問題が生じ得るものであった。
そこで、本発明は、風合い(柔らかさ)や肌触り等の使用感が良く、安定的にハイドロキシアパタイトの特性(例えば菌吸着性等)を発揮させることが可能な、機能性不織布、特に歯面等の口腔清掃用不織布を提供することを課題とする。
本発明者等は、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、焼成ハイドロキシアパタイト粒子を特定の方法で不織布に固着させることで、焼成ハイドロキシアパタイト粒子が固着した所定のせん断剛性を有する機能性不織布を得ることができ、これにより、ハイドロキシアパタイト粒子の表面特性(菌吸着性等)が発揮され易く、安定的に粒子が繊維に保持されていることから長期間に渡り高い除菌機能を発揮し得ると共に、風合いや肌触り等の使用感が良く、人体に対しての使用、特に歯面等の口腔清掃用にも適した機能性不織布となることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明によれば、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維を含む不織布の表面に、0.1〜20g/mにて焼成ハイドロキシアパタイト粒子が熱融着により固着した口腔清掃用不織布であって、
前記口腔清掃用不織布のせん断剛性が、8.5gf/cm・deg以下である、口腔清掃用不織布が提供される。
前記口腔清掃用不織布において、前記不織布の繊維を100本数%とした際に、焼成ハイドロキシアパタイト粒子の固着に関与しない繊維を2〜98本数%含むことが好ましい。
前記口腔清掃用不織布において、前記不織布の目付が10〜500g/mであることが好ましい。
前記口腔清掃用不織布において、前記不織布の外表面側から観察した際に、繊維面積の5%以上が焼成ハイドロキシアパタイト粒子によって覆われている繊維を有していることが好ましい。
前記口腔清掃用不織布において、前記焼成ハイドロキシアパタイト粒子の、X線回折(CuKα線)における2θ=32°付近(300)面のピークの半値幅が0.8以下であることが好ましい。
前記口腔清掃用不織布において、前記焼成ハイドロキシアパタイト粒子の体積比率での粒径分布の半値幅が25μm以下であることが好ましい。
前記口腔清掃用不織布において、前記焼成ハイドロキシアパタイト粒子全体を100体積%とした際に、粒径20μm以上の粒子は10体積%以下であることが好ましい。
本発明によれば、風合い(柔らかさ)や肌触り等の使用感が良く、安定的にハイドロキシアパタイトの特性(例えば菌吸着性等)を発揮させることが可能な、機能性不織布、特に歯面等の口腔清掃用不織布を提供することが可能となる。
本実施形態に係る機能性不織布の使用前の形態例を示す写真である。 本実施形態に係る機能性不織布の使用形態例を示す写真である。 実施例1〜6、I〜II及び比較例2〜3で用いた焼成ハイドロキシアパタイト粒子のXRDスペクトルを示すグラフである。 比較例1で用いた未焼成ハイドロキシアパタイト粒子のXRDスペクトルを示すグラフである。 基材不織布1310−2AのSEM画像である。 第2実施例に係るハイドロキシアパタイトの粒度分布の測定結果である。 機能性不織布のSEM画像である。 被研削体の研磨方法及び、不織布による研磨方法を示す写真である。 歯面清掃試験1前後の実施例IIに係る機能性不織布のSEM画像である。 歯面清掃試験2前後の実施例IIに係る機能性不織布のSEM画像である。 歯面清掃試験1及び2の清掃試験後の比較のSEM画像である。
以下、本実施形態に係る機能性不織布の、構造、製造方法、物性及び用途に関して順次説明するが、本実施形態はこれらによって何ら限定されない。
≪機能性不織布の構造≫
初めに、本実施形態に係る機能性不織布の構造に関して説明する。本実施形態に係る機能性不織布は、ハイドロキシアパタイト粒子が熱融着によって不織布の表面に固着してなる所定の機能を有する不織布である。ここで、「粒子が熱融着によって不織布の表面に固着されている」とは、固体粒子と接触している不織布を構成する繊維(以下、「不織布の構成繊維」と記載する。)の少なくとも表面の樹脂が熱によって融解し、再度固化することによって、粒子が不織布の構成繊維表面に固着され、結果として、粒子が不織布の表面に固着された状態となっていることを意味する。この場合に、粒子の多くは、その一部が繊維に埋没する形で固定されている。また、「所定の機能を有する不織布」とは、本実施形態においては、後述するハイドロキシアパタイト粒子が有する機能が付与された不織布のことを意味する。以下に、本実施形態に係る機能性不織布の構成材料であるハイドロキシアパタイト粒子及び基材となる不織布(以下、「基材不織布」と記載する。)に関して詳述する。
<ハイドロキシアパタイト粒子>
先ず、本実施形態に係るハイドロキシアパタイト(水酸化燐灰石)粒子に関して説明する。尚、ここで示すハイドロキシアパタイト粒子の物性(アスペクト比及び粒径)は、不織布の表面に固着された状態のハイドロキシアパタイト粒子の物性を示すものである(不織布の表面に固着された状態のハイドロキシアパタイト粒子の物性と、機能性不織布の構成材料であるハイドロキシアパタイト粒子の物性とは、製造段階による形態変化等が生じる場合もあるため、必ずしも同一とは限らない)。
(組成)
ハイドロキシアパタイト(HAp:Hydroxyapatite)は、化学式Ca10(PO(OH)で示される塩基性リン酸カルシウムで、天然には歯や骨の主成分として、また鉱石として存在する。
(機能・特性)
ハイドロキシアパタイト粒子は、高い生体親和性を示す。特に骨親和性が高く、多孔体の焼結体は細胞が浸潤し易く、骨の欠損部分に適用することで、自家骨の形成を促す。また、ハイドロキシアパタイト粒子は、アミノ酸、タンパク質(例えば菌等)、脂質、糖等に対して高い吸着性を示す。更に、ハイドロキシアパタイトは優れたイオン交換性を有し、カルシウムイオン基は陽イオンと、リン酸基や水酸化物イオン基は陰イオンと、それぞれ交換される。例えば、歯にフッ化物イオンを含む薬剤を塗布すると、フッ化物イオンとハイドロキシアパタイトの水酸化物イオンとがイオン交換し、歯面に耐酸性が付与される。
(入手方法)
一般的なハイドロキシアパタイト粒子の製造方法としては、例えば溶液法(湿式法)が挙げられる。これは、中性若しくはアルカリ性の水溶液中でカルシウムイオンとリン酸イオンとを反応させることにより合成する方法であり、中和反応によるものや、カルシウム塩とリン酸塩を反応させるものがある。尚、一次粒子を焼成する等し、粒子を凝集させたより粒径の大きい粒子としたり、より緻密な粒子としたりすることも可能である。また、例えば、micro−SHAp(IHM−100P000、ソフセラ社)やハイドロキシアパタイト(太平化学産業社製)等のように、種々のハイドロキシアパタイト粒子が市販されており、その製造法や形状・特性等も様々なものが入手可能である。
(焼成)
基材不織布の表面に固着されたハイドロキシアパタイト粒子としては、焼成ハイドロキシアパタイト粒子(以下、特に断らない限り、「ハイドロキシアパタイト粒子」とある場合には、「焼成ハイドロキシアパタイト粒子」を意味する。)を用いる。ハイドロキシアパタイト粒子を焼成(例えば、800℃で1時間)することにより、粒子の結晶性が高くなり、且つ複数の一次粒子の凝集体が熱により融着して、より強固で安定な粒子となる。基材不織布に固着された粒子が未焼成ハイドロキシアパタイトである場合、機能性不織布に強い負荷が掛かる使用方法(例えば、払拭用途等)においては粒子が崩壊し易いため、崩壊した粒子が研磨成分のように働き、時間経過と共に肌触りが悪くなり得る。一方、基材不織布に固着された粒子が焼成ハイドロキシアパタイトである場合は、当該使用方法においても、粒子が崩壊し難く、肌触りがより良好なものとなり、更には、より長期間安定して機能性不織布の特性(例えば、菌吸着性等)が保持され得ると考えられる。尚、ハイドロキシアパタイト粒子が焼成されているか否かは、当該粒子の結晶性の度合いにより判断することができる。ハイドロキシアパタイト粒子の結晶性の度合いは、X線回折法(XRD)により測定することが出来、各結晶面を示すピークの半値幅が狭ければ狭いほど結晶性が高いといえる。具体的には、本形態における焼成ハイドロキシアパタイト粒子は、X線回折(CuKα線)における2θ=32°付近(300)面のピークの半値幅が、好適には0.8以下(より好適には、0.5以下)の高結晶性のハイドロキシアパタイト粒子である。
(アスペクト比)
本実施形態に係るハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比は、好適には1.45以下である。ハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比が1.45以下であれば、不織布の表面に固着されているハイドロキシアパタイト粒子の形状がある程度整い、対象面への粒子の接触の仕方がある程度一様なものとなることから、肌触りに優れる機能性不織布を得ることができる。特に、上記ハイドロキシアパタイト粒子の形状が塊状(好適には、略球状)であると、機能性不織布がより肌触りに優れるものとなる。また、当該効果をより向上させるためには、ハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比は、1.35以下がより好適であり、1.25以下が更に好適であり、1.2以下が特に好適である。ここで、不織布の表面に固着されているハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比の計測方法は下記測定方法(1)に従うものとする。
(測定方法1)
不織布の構成繊維に固着されたハイドロキシアパタイト粒子を撮影したSEMによる画像において、繊維の径方向において繊維の両端からはみ出していないような、略直上から撮影されている粒子を選択する。次いで、当該粒子上にその両端が粒子の外周上に位置する2本の線分を引く。このとき、一方の線分は、その長さが最大となるものとする。更に、当該線分の中点で、互いに直交するようにもう一方の線分を引く。このようにして引かれた2本の線分のうち、短い方の線分の長さを短径、長い方の線分の長さを長径とし、長径/短径の比を求める。更に、長径が大きなものから順に選んだ150個の粒子における当該長径/短径の平均値を求め、アスペクト比とした。但し、輪郭がぼやけて見える粒子、別の粒子に接近し過ぎていて境界が曖昧な粒子、粒子の一部がその他の粒子の影に隠れている粒子等を測定対象から除外した。当該アスペクト比が1に近い程、粒子の投影画像が円や正方形に近いものであり、粒子の立体形状は塊状(例えば球状)に近いものとなると考えられる。
(粒径)
本実施形態に係るハイドロキシアパタイト粒子の粒径は、当該粒子を基材不織布に十分な量固着させるために、好適には0.1μm以上10μm以下であり、より好適には0.5μm以上8μm以下であり、更に好適には1μm以上5μm以下である。また、ハイドロキシアパタイト粒子の粒径は、基材不織布の構成繊維(これに関しては後述する)の繊維径に対して、1/3以下の大きさとなることが好適である。ハイドロキシアパタイト粒子の粒径が、10μmを超える(又は、基材不織布の構成繊維の繊維径に対して、1/3を超える)と、固体粒子が繊維表面より脱落し易くなり、0.1μm未満であると、機能性不織布で対象面を払拭した際に、当該対象面と接触し得るハイドロキシアパタイト粒子の表面積が低下し、機能性不織布の機能性(菌吸着性等)に劣ってしまう。ここで、不織布に固着されているハイドロキシアパタイト粒子の粒径の計測方法は、下記測定方法(2)に従うものとする。
(測定方法2)
測定方法(1)と同様に、不織布の構成繊維に固着されたハイドロキシアパタイト粒子を撮影したSEM画像において、繊維の径方向において繊維の両端からはみ出していないような、略直上から撮影されている粒子を選択する。次いで、当該粒子上にその両端が粒子の外周上に位置する2本の線分を引く。このとき、一方の線分は、その長さが最大となるものとする。更に、当該線分の中点で、互いに直交するようにもう一方の線分を引く。このようにして引かれた2本の線分のうち、短い方の線分の長さを短径、長い方の線分の長さを長径とした。更に、長径の大きなものから順に選んだ150個の粒子における当該長径の平均値を求め、ハイドロキシアパタイト粒子の粒径とした。但し、輪郭がぼやけて見える粒子、別の粒子に接近し過ぎていて境界が曖昧な粒子、粒子の一部がその他の粒子の影に隠れている粒子等を測定対象から除外した。尚、ここでのハイドロキシアパタイト粒子の粒径は、1次粒子の粒径ではなく、複数の1次粒子が凝集した粒子の粒径を意味する。
<基材不織布>
次に、本実施形態に係る機能性不織布の基材不織布に関して説明する。本実施形態に係る基材不織布は、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維を有する限り、特に限定されない。当該基材不織布は、前記繊維のみを含むこともできるし、その他の繊維を含むこともできる。前記繊維(即ち、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維)以外の繊維としては、特に限定されず、表面が熱可塑性樹脂でない繊維、例えば、無機繊維や、融点を有さず、分解温度を有する繊維等を用いることができる。尚、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維としては、例えば、(実質的に)少なくとも表面が1種類又はそれ以上の種類の熱可塑性樹脂からなる繊維を含む。ここで、「主としてなる」とは、対象となる熱可塑性樹脂が繊維表面の構成樹脂に対して50質量%以上(好適には60質量%以上、より好適には70質量%以上、特に好適には90質量%以上)であることを意味する。
(繊維)
基材不織布の構成繊維としては、少なくとも表面が1種又は2種以上の熱可塑性樹脂からなるものであって、基材不織布の構成繊維が単一組成からなる単繊維や断面同心円状に複数成分を配置した芯鞘繊維、海島繊維、偏芯した芯鞘型繊維のように、複数の熱可塑性樹脂からなる複合繊維等とすることができる。尚、単繊維、複合繊維のいずれの場合であっても、繊維断面が異形断面を有する繊維であっても良い。また、基材不織布の構成繊維のうち、当該繊維表面に露出している、少なくとも一つの樹脂成分の融点(又は軟化点)が、固着されるハイドロキシアパタイト粒子の融点又は分解温度以下であることが必要となる。ハイドロキシアパタイト粒子が基材不織布の構成繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点以上の温度となった状態で、当該繊維表面と接触することによって、その接触部分に固着される。
このようなハイドロキシアパタイト粒子の融点又は分解温度以下に融点を有する熱可塑性樹脂として、具体的には、ポリエステル、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等)及びポリアミド等が好適である。更には、共重合ポリエステル、共重合ポリプロピレン、共重合ポリエチレン(例えば、エチレン−エチレン酢酸ビニル共重合体等)等も好適に使用可能である。これらの樹脂は用途に合わせて適宜選択することが可能であり、例えば皮膚や粘膜等への使用を想定した場合は、ポリグリコール酸やポリ乳酸、ポリラクチド/ポリグリコリド共重合体やポリジオキサノンなどの生体適合性の樹脂を使用することができる。融点の異なる2種類以上の樹脂が複合された複合繊維としては、例えば、共重合ポリエステル/ポリエステル、共重合ポリプロピレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリアミド、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリエステル、又はポリエチレン/ポリエステル、共重合ポリエチレン/ポリエチレン、共重合ポリエチレン/ポリプロピレン等の樹脂の組み合わせからなる複合繊維を挙げることができる。当該複合繊維としては、芯に高融点樹脂を有し、鞘に低融点樹脂を有する芯鞘型複合繊維である場合には、固体粒子が繊維面に固着され、担持される際に繊維の収縮や糸切れが更に生じ難くなるため好適である。このような芯鞘型複合繊維としては、高融点ポリエステル(例えば、融点255℃程度)と低融点ポリエステル(例えば、融点110℃)とからなる複合繊維や、ポリプロピレン(融点160℃)と高密度ポリエチレン(融点130℃)とからなる複合繊維等が挙げられる。
また、前記繊維は、芯部分が融点を有せずに分解温度を有するような繊維(例えば、レーヨン繊維、アセテート繊維、羊毛繊維、又は炭素繊維等の繊維)の表面に、鞘部分として、熱可塑性樹脂が、例えば、コーティング等により塗布されてなる繊維であってもよい。また、前記繊維は、芯部分が無機繊維であり、高融点を有するような繊維(例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、又は金属繊維等の繊維)の表面に、鞘部分として、熱可塑性樹脂が、例えば、コーティング等により塗布されてなる繊維であってもよい。
また、表面の熱可塑性樹脂は、公知の技術により改質されていても良く、例えばプラズマ処理によって親水化処理されていたり、グラフト重合などにより任意の表面官能基を結合されていたりすることができる。ここで、不織布に含まれる繊維の種類はJIS L1030−1「繊維製品の混用率試験方法 第1部:繊維鑑別」によって、またその混用率(質量比率)はJIS L1030−2「繊維製品の混用率試験方法 第二部:繊維混用率」によって求められる。
また、基材不織布の構成繊維としては、表面樹脂は当該粒子の固着時の粒子温度より高い融点または分解点を有する等の理由により当該粒子の固着が見られない繊維、即ち、当該粒子の固着に関与しない繊維を含んでいてもよい。この粒子温度より低い融点を有する繊維(低融点繊維)の融点と、粒子温度より高い融点または分解点を有する繊維の融点または分解点は、10℃以上の差があることが好ましく、15℃以上の差があることがより好ましく、20℃以上の差があることが更に好ましい。10℃以上の差があることで、ハイドロキシアパタイト粒子の固着操作によっても、粒子の固着に関与しない繊維の物性を変化させることがない。融点または分解点の温度差の好ましい範囲に上限はない。ハイドロキシアパタイト粒子の固着に関与しない繊維を含ませることで、せん断剛性値Gを8.5gf/cm・deg以下に調整することが容易になり、風合い(柔らかさ)や肌触り等の使用感が良い機能性不織布とすることができ、一方でハイドロキシアパタイト粒子の固着に関与する繊維を含ませることで、ハイドロキシアパタイトが有する菌吸着性等の機能を同時に発現させることができる。ハイドロキシアパタイト粒子の固着に関与する繊維と関与しない繊維との比率は、設計に応じて適宜選択することが出来るが、機能性不織布が、高い機能性を有するように、即ち、せん断剛性値を良好に保ち、またハイドロキシアパタイトが有する菌吸着性等の機能をより高いレベルで発現できるように、当該粒子の固着に関与する繊維の比率を選択することが望ましい。(粒子の固着に関与する繊維の比率に関しては、後述する)。
また、低融点繊維を主として含む層と、高融点繊維を主として含む層と、を備える基材不織布とすることで、ハイドロキシアパタイト粒子が偏在した不織布(より具体的には、不織布の主面のみに低融点繊維を含有させ、主面にハイドロキシアパタイト粒子が偏在した不織布)を得ることも可能である。不織布内部にハイドロキシアパタイト粒子が固着されたとしても、特に歯面の拭き取りでは有効に機能せず、むしろ不織布の柔軟性等を阻害する恐れがある。一方、主面のみに低融点繊維を含有させハイドロキシアパタイト粒子が偏在した不織布とすることで、不織布内部や反対面に柔軟性や風合いの良さに効果的な繊維(例えばポリアミドやアクリル、レーヨン繊維、アセテート繊維、コットンなど)を用いることが可能になる。ここで、「主面」とは機能性不織布を使用する際に、使用面となる面を指す。片面のみを主面とすることも、両面を主面とすることもできる。
基材不織布の構成繊維の平均径は、好適には1μm〜100μmの範囲であり、より好適には2μm〜50μmの範囲である。基材不織布の構成繊維の平均径が1μm未満であると、基材不織布の強度が低くなる傾向がある。特に、口腔用(特に、歯の除菌用)として使用する場合には強度が不足しやすい。また、粒径の大きなハイドロキシアパタイト粒子を固着する場合には、固着し難い傾向がある。一方、平均径が100μmを超えると、基材不織布にゴワツキ感が出てくるため好ましくない。ここで、繊維の平均径とは、基材不織布の主面を走査型電子顕微鏡等で拡大して撮影し、その繊維の映像で確認しうる繊維径(繊維の長手方向に直交する方向の長さ)について、繊維の任意の500箇所以上からのサンプリングによる数平均繊維径を、繊維の平均径とする。また、繊維の断面形状又は表面状態は、任意の形状又は状態とすることができる。例えば、熱可塑性樹脂からなる複合繊維が、水流等の機械的応力によって分割された断面形状が扇状などの異形断面形状を有する繊維であることができる。また、繊維表面に凹凸を有する多孔質繊維であることもできる。更には、熱可塑性樹脂からなる複合繊維が水流等の機械的応力によって、フィブリル状に分割された繊維とすることもできる。
(形状)
本実施形態に係る基材不織布の形状は特に限定されるものではなく、例えば、長尺状繊維シート(例えば、ロールに巻回した繊維シート)、又は非長尺状繊維シート(即ち、前記長尺状繊維シートを切断して得ることのできる繊維シート)等を挙げることができる。また、基材不織布の目付が10〜500g/mであることが好ましく、より好ましくは、30〜200g/mであり、さらに好ましくは、50〜100g/mである。
基材不織布の目付が10g/m未満であると、十分な強度が確保できないために、基材不織布に焼成ハイドロキシアパタイト粒子を熱融着により固着する工程や、固着した不織布を用いての歯面清掃等の作業において、不織布が破れるなどの破損する恐れが生じ、又、清掃作業の使用感や清掃効率も低下する恐れが生じる。
一方、500g/mを超えると、基材不織布のゴワツキ感を抑制したり、せん断剛性を良好に保つことが困難となる。
(厚さ)
不織布の厚さは、0.1mmから10mmが好ましく、0.5mmから3mmがより好ましい。0.1mmを下回ると不織布の強度が弱くなる傾向があり、10mmを超えると口腔内での操作性が悪くなる。尚、不織布厚さの計測方法は下記測定方法(a)に従うものとする。
(測定方法a)
接触面積5cm、荷重0.98Nの圧縮弾性試験機にて厚さを測定する。
<機能性不織布におけるハイドロキシアパタイト粒子の固着量>
基材不織布への焼成ハイドロキシアパタイト粒子の固着量は、0.1〜20g/mであり、好ましくは、0.3〜10g/mであり、より好ましくは、0.6〜4g/mである。基材不織布への焼成ハイドロキシアパタイト粒子の固着量が0.1g/m未満であると、焼成ハイドロキシアパタイト粒子による微生物やその生成物等のバイオフィルムをはじめとする汚れの清掃効果を十分に発揮することが困難と有り恐れが有る。一方、固着量が20g/mを超えると、基材不織布にゴワツキ感が出てきたり、せん断剛性が悪化する傾向にあるため好ましくない。尚、ハイドロキシアパタイト粒子担持量の評価方法(測定方法)は、下記測定方法(b−1)又は(b−2)に従うものとする。
(測定方法b−1)
ハイドロキシアパタイト粒子が固着している不織布から、直径5cmの試験片を4枚採取する。蛍光X線装置(株式会社リガク製 蛍光X線分析装置RIX1000)を用いて、カルシウム元素由来のX線強度を測定し、検量線法によりハイドロキシアパタイト担持量を算出する。
(測定方法b−2)
一定面積のハイドロキシアパタイト粒子が固着している不織布を電気炉等にて十分焼成し、灰分として残ったハイドロキシアパタイト粒子の質量から求める。
<機能性不織布におけるハイドロキシアパタイト粒子が固着した繊維>
基材不織布の繊維を100本数%とした際に、ハイドロキシアパタイト粒子の固着に関与しない繊維を2〜98本数%含むことが好ましく、より好ましくは、10〜95本数%であり、さらに好ましくは、15〜90本数%である。逆に言えば、基材不織布の繊維を100本数%とした際に、ハイドロキシアパタイト粒子の固着に関与する繊維を2〜98本数%含むことが好ましく、より好ましくは、5〜90本数%であり、さらに好ましくは、10〜85本数%である。
ハイドロキシアパタイト粒子の固着に関与しない繊維が2本数%未満であると、基材不織布のゴワツキ感を抑制したり、せん断剛性を良好に保つことが困難となる。特に、繊維面積の50%以上がハイドロキシアパタイト粒子によって覆われている繊維を有する場合はより困難となる。
一方、98本数%を超えると、基材不織布への焼成ハイドロキシアパタイト粒子の固着量を十分確保することが困難となり、焼成ハイドロキシアパタイト粒子による微生物やその生成物等のバイオフィルムをはじめとする汚れの清掃効果を十分に発揮することが困難となる恐れが有る。
則ち、ハイドロキシアパタイト粒子の固着に関与しない繊維は、不織布の良好な感触やせん断剛性の保全に貢献し、固着に関与する繊維は、粒子の担持により清掃効率に貢献して、能率良い役割分担を果たすことが期待される。又、全体的な粒子担持量が少なくても、一部の繊維に集中して粒子が担持されることにより、つまり、不織布の外表面側から観察した際に、繊維面積の5%以上がハイドロキシアパタイト粒子によって覆われている繊維のような、高密度に粒子が担持された繊維が存在することにより、清掃効率を保持するのに有効である。
また、不織布の厚さ方向において主面近傍と中心付近とで、不織布におけるハイドロキシアパタイト粒子の固着に関与する繊維の本数%を異ならせてもよい(不織布の主面近傍にハイドロキシアパタイトを偏在させる構成としてもよい)。このような構成とすることにより、口腔清掃等を行う際に、歯面等と接触し得る主面近傍には十分なハイドロキシアパタイトを配置しつつも、不織布内部や反対面に柔軟性や風合いの良さに効果的な繊維(例えばポリアミドやアクリル、レーヨン繊維、アセテート繊維、コットンなど)を用いることが可能になるため、使用感をより向上させることが可能となる。ここで、前述の通り「主面」とは機能性不織布を使用する際に、使用面となる面を指し、片面のみを主面とすることも、両面を主面とすることもできる。
尚、粒子の固着に関与しない繊維の比率の測定方法は、下記測定方法(c)に従うものとする。
(測定方法c)
不織布におけるハイドロキシアパタイト粒子の固着に関与しない繊維本数の比率は、基材不織布の主面を走査型電子顕微鏡等で拡大して撮影し、繊維の状態が確認できうる100本の繊維のうちハイドロキシアパタイト粒子の固着が見られない繊維の本数から求められる。
また、基材不織布の外表面側から観察した際に、繊維面積の5%以上がハイドロキシアパタイト粒子によって覆われている繊維を有していることが好ましく、より好ましくは、15%以上であり、さらに好ましくは、45%以上である。
繊維面積の5%未満であると、焼成ハイドロキシアパタイト粒子による微生物やその生成物等のバイオフィルムをはじめとする汚れの清掃効果を十分に発揮することが困難となり恐れが有る。
前記のような高密度に粒子が担持された繊維は、2〜98本数%含むことが好ましく、より好ましくは、5〜90本数%であり、さらに好ましくは、15〜85本数%である。
ここで、基材不織布の外表面側から観察した際の繊維面積に占めるハイドロキシアパタイトの比率の計測方法は下記測定方法(d)に従うものとする。
(測定方法d)
不織布基材を走査型電子顕微鏡で観察し、ハイドロキシアパタイトが付着している繊維の写真を撮影する。画像解析装置等を用いて、繊維面積とハイドロキシアパタイトの面積を求め、比率を算出する。
≪機能性不織布の物性≫
次に、本実施形態に係る機能性不織布の物性に関して説明する。本実施形態に係る機能性不織布は、所定のせん断剛性を有するもので、この物性を有することにより、風合い(柔らかさ)や肌触り等の使用感を良くすることができる。
<せん断剛性>
下記測定方法(3)に従い測定された本実施形態に係る機能性不織布のせん断剛性は、8.5gf/cm・deg以下である。機能性不織布のせん断剛性がこの範囲であれば、優れた風合い(柔らかさ)等の使用感を得られると共に、立体面に対して適用(払拭等)した場合にも、優れた追従性を有する。これらの効果をより効果的に発現させるためには、せん断剛性が、8.0gf/cm・deg以下であることが好適であり、7.5gf/cm・deg以下であることがより好適である。尚、本実施形態に係る機能性不織布のせん断剛性は低いほど好ましく、その下限値は特に規定するものではないが、例えば、1.0gf/cm・deg以上とすればよい。
(測定方法3)
測定対象の機能性不織布を20×20(cm)に裁断し、チャック間5cmの引張せん断試験機(例えば、カトーテック(株)製、KES−FB1)にセットし、10g/cmの張力をかける。そして、せん断角8゜までせん断させ、次に反対方向にせん断角8゜までせん断させる。このせん断角の変化に対する、単位幅あたりのせん断力の変化により、せん断剛性を求める。更に、このせん断剛性を機能性不織布の縦方向と横方向について3回ずつ測定し、その平均値をせん断剛性Gとする。
<静摩擦係数>
また、本発明の機能性不織布は、下記測定方法(4)に従って測定された機能性不織布の静摩擦係数が0.25以下であるのが好ましく、0.24以下であるのがより好ましく、0.22以下であるのが更に好ましい。このような静摩擦係数であることにより、人の皮膚や粘膜等の弱い箇所に対して、例えば払拭用途として用いた場合には、払拭対象に傷をつけ難く、肌触り、風合い(柔らかさ)等の使用感に優れている。尚、静摩擦係数の下限値は特に規定するものではないが、例えば、0.10以上とすればよい。
(測定方法4)
新東科学社製ポータブル摩擦計ミューズTYPE94i等の摩擦計を測定器として用い、測定数20にて試験を行い、その平均値を静摩擦係数とする。
≪機能性不織布の製造方法≫
以上、本実施形態に係る機能性不織布の構造及び物性について詳細に説明したが、続いて、上述した構造及び物性を有する機能性不織布の製造方法について説明する。本実施形態に係る機能性不織布の製造方法は、主に、ハイドロキシアパタイト粒子を基材不織布の表面に熱融着により固着させる工程(以下、「粒子固着工程」と記載する。)を含むものである。即ち、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維を含む不織布の表面に、前記熱可塑性樹脂の融点より高い温度に加熱した焼成ハイドロキシアパタイト粒子を含有する気流を吹き付けることにより、前記焼成ハイドロキシアパタイト粒子を前記不織布の表面に熱融着により固着させることで、機能性不織布を得る方法である。以下、本実施形態に係る機能性不織布の製造方法として、その原料であるハイドロキシアパタイト粒子及び基材不織布、並びに粒子固着工程について詳細に説明し、合わせて付加的な工程である前処理工程について説明するが、これには何ら限定されない。
<ハイドロキシアパタイト粒子>
(ハイドロキシアパタイト粒子の組成、機能・特性、入手方法及び製造方法)
本実施形態に係る機能性不織布の製造方法における、ハイドロキシアパタイト粒子の組成、機能・特性、及び入手方法等に関しては上述した通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
・製造方法
本最良形態に係る高結晶性ハイドロキシアパタイトの特に好適な製造方法について説明する。高結晶性ハイドロキシアパタイトは、アモルファスのハイドロキシアパタイトを焼結させることにより得ることができる。上記ハイドロキシアパタイトは、湿式法や、乾式法、加水分解法、水熱法等の公知の製造方法によって、人工的に製造されたものであってもよく、また、骨、歯等から得られる天然由来のものであってもよい。また、焼結温度の下限値としては、500℃以上がより好ましい。焼結温度が500℃よりも低いと、焼結が十分でない場合がある。一方、焼結温度の上限値としては、1800℃以下がより好ましく、1250℃以下がさらに好ましく、1200℃以下が特に好ましい。焼結温度が1800℃よりも高いと、ハイドロキシアパタイトが分解する場合がある。従って、焼結温度を、上記範囲内とすることにより、高結晶性ハイドロキシアパタイトを製造することができる。また、焼結時間としては、特に限定されるものではなく、適宜設定すればよい。尚、焼結により、粒子同士が融着してしまう場合もあるが、このような場合には、焼結後の粒子を粉砕して使用することが可能である。
本発明のハイドロキシアパタイトの製造方法は、スプレードライ工程、焼結工程を含む方法であることが好ましく、一次粒子生成工程、除去工程を含んでいてもよい。これらの工程は、例えば、一次粒子生成工程、スプレードライ工程、焼結工程、除去工程の順で行われる。
一次粒子生成工程
当該一次粒子生成工程は、ハイドロキシアパタイトを生成することができる工程であれば特に限定されるものではなく、製造する高結晶性ハイドロキシアパタイトの原料により適宜選択の上、採用すればよい。
本最良形態に係るハイドロキシアパタイトのように、微細(ナノメートルサイズ)でかつ粒子径が均一な(粒度分布が狭い)一次粒子群を生成する方法については、特に限定されるものではないが、例えば、特開2002−137910号公報記載の方法が利用可能である。つまり、界面活性剤/水/オイル系エマルジョン相にカルシウム溶液及びリン酸溶液を可溶化して混合させ、界面活性剤の曇点以上で反応させることでリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)微粒子(一次粒子)を合成することができるというものである。また、このとき上記界面活性剤の官能基及び親水性/疎水性比の割合を変えることによりリン酸カルシウム微粒子の大きさを制御することができる。
上記リン酸カルシウム微粒子を製造する原理を簡単に説明すれば、以下の通りである。界面活性剤/水/オイル系エマルジョン相にカルシウム溶液及びリン酸溶液を可溶化して混合させ、反応させてリン酸カルシウム微粒子を合成する方法においては、界面活性剤のミセルの中でリン酸カルシウムの核が成長し、粒子が成長する。このとき反応温度を変化させること(前記界面活性剤が非イオン系の界面活性剤である場合には、界面活性剤の曇点以上とすること)により、ミセルの熱力学的安定性を制御することができる。すなわち界面活性剤の反応温度を上げるということは、界面活性剤のミセルを形成する力を下げるということである。そうすると、ミセルという枠の中で制限を受けていたリン酸カルシウムの粒子成長の駆動力がミセルの枠を維持しようとする駆動力より大きくなると考えられる。よって、そのメカニズムを利用して粒子の形を制御できる。
界面活性剤のミセルを作る場合に、界面活性剤の官能基(親水性部位)及び分子内の親水性/疎水性比が重要であり、この違いによってミセルの安定性、曇点も異なってくる。また界面活性剤の曇点は、種類によって異なる。したがって、界面活性剤の種類を適宜変更することにより、上記界面活性剤の官能基及び親水性/疎水性比の割合を変えることができリン酸カルシウム微粒子の大きさを制御することができる。
尚、上記方法において用いる界面活性剤の種類は、特に限定されず、上記の特開平5−17111号公報に開示された他種類の公知の陰イオン、陽イオン、両性イオン、非イオン性界面活性剤から適宜選択して用いることができる。これらの界面活性剤の中でも、非イオン系の界面活性剤である場合には、界面活性剤の曇点を有するため、前述のメカニズムを利用した結晶の形状制御がし易くなる。より具体的には、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が利用可能である。また陽イオン界面活性剤としては、ステアリルアミン塩酸塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンゼンジメチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩等が利用可能であり、陰イオン界面活性剤としては、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム、オレイルアルコール硫酸エステルナトリウム等の高級アルコール硫酸エステル塩類、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類等が利用可能であり、両性界面活性剤としては、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、アミンオキサイド型等が利用可能である。上記の界面活性剤は1種類又は2種類以上の組み合わせで使用する。このなかで、曇点、溶解性の点から、特にペンタエチレングリコールドデシルエーテルを使用することが望ましい。
また上記方法において利用可能なオイル相としては、例えばトルエン、キシレン、ヘキサン、ドデカン、シクロヘキサン等の炭化水素類、クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル等のエーテル類、ブタノール等のアルコール類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等挙げられ、これら溶媒は、使用する界面活性剤に応じて、水の溶解度が小さく、上記界面活性剤のいずれかを溶解するように1種もしくは2種を選択する。この中で、水の溶解度、界面活性剤の溶解性の点から、特にドデカンを使用することが望ましい。この他反応温度、反応時間、原料の添加量等は、一次粒子の組成に応じて適宜最適な条件を選択の上、採用すればよい。ただし反応温度の上限は、水溶液の反応であるから溶液が沸騰しない温度であれることが好ましく、90℃以下が好ましい。
また、本工程には生成した一次粒子を水等で洗浄する工程、遠心分離、ろ過等で一次粒子を回収する工程が含まれていてもよい。
混合工程
当該混合工程は、一次粒子と融着防止剤とを混合する工程である。上記一次粒子生成工程によって得られた一次粒子群の粒子間に、あらかじめ融着防止剤を介在させておくことで、その後の焼結工程における一次粒子同士の融着を防止することができるというものである。尚、当該混合工程によって得られた一次粒子と融着防止剤との混合物を「混合粒子」と呼ぶ。
ここで「融着防止剤」としては、一次粒子間の融着を防止できるものであれば特に限定されるものではないが、後の焼結工程の焼結温度において、不揮発性であることが好ましい。焼結温度条件下で不揮発性であるために、焼結工程中に一次粒子間から消失することは無く、一次粒子同士の融着を確実に防止することができるからである。ただし焼結温度において100%の不揮発性を有する必要は無く、焼結工程終了後に一次粒子間に10%以上残存する程度の不揮発性であればよい。また融着防止剤は焼結工程終了後に熱による化学的に分解するものであってもよい。すなわち焼結工程終了後に残存していれば、焼結工程の開始前後で、同一の物質(化合物)である必要は無い。
また融着防止剤が、溶媒、特に水系溶媒に溶解する物質であることが好ましい。上記のごとく融着防止剤として、溶媒に溶解する融着防止剤を用いることによれば、融着防止剤が混在するリン酸カルシウム微粒子を純水等の水系溶媒に懸濁するだけで、融着防止剤(例えば炭酸カルシウム等)を除去することができる。特に水系溶媒に溶解する融着防止剤であれば、融着防止剤を除去する際に有機溶媒を用いる必要が無いため、除去工程に有機溶媒の使用に対応する設備、有機溶媒廃液処理が不要となる。それゆえ、より簡便にリン酸カルシウム微粒子から融着防止剤を除去することができるといえる。上記溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、水系溶媒としては、水、エタノール、メタノール等が挙げられ、有機溶媒としては、アセトン、トルエン等が挙げられる。
また上記水系溶媒は、融着防止剤の水への溶解性を上げるために、シュウ酸塩、エチレンジアミン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸塩等のキレート化合物を含んでいてもよい。さらに上記水系溶媒は、融着防止剤の水への溶解性を上げるために、塩化ナトリウム、硝酸アンモニウム、炭酸カリウム等の電解質イオンを含んでいてもよい。
ここで、融着防止剤の溶媒に対する溶解度は、高ければ高いほど除去効率が高くなるために好ましいといえる。係る好ましい溶解度は、溶媒100gに対する溶質の量(g)を溶解度とすると、0.01g以上が好ましく、1g以上がさらに好ましく、10g以上が最も好ましい。
上記融着防止剤の具体例としては、塩化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム等のカルシウム塩(又は錯体)、塩化カリウム、酸化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、リン酸カリウム等のカリウム塩、塩化ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム等のナトリウム塩等が挙げられる。
尚、当該混合工程において一次粒子と融着防止剤とを混合させる方法については、特に限定されるものではなく、固体の一次粒子に固体の融着防止剤を混合後、ブレンダーを用いて混合する方法であってもよいし、融着防止剤の溶液中に一次粒子を分散させる方法を行なってもよい。ただし、固体と固体を均一に混合することは困難であるため、一次粒子間に均一かつ確実に融着防止剤を介在させるためには、後者が好ましい方法であるといえる。後者の方法を採用した場合は、一次粒子を分散させた融着防止剤溶液を乾燥させておくことが好ましい。一次粒子と融着防止剤が均一に混合された状態を長期にわたってキープすることができるからである。後述する実施例においても、炭酸カルシウム飽和水溶液にハイドロキシアパタイト(HAp)一次粒子0.5gを分散させ、80℃にて乾燥させて混合粒子を取得している。
また当該混合工程は、側鎖にカルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、アミノ基又はこれらの塩のいずれかを有する高分子化合物を含む溶液と、上記一次粒子とを混合し、金属塩(アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩及び/又は遷移金属塩)をさらに添加する工程であってもよい。上記の工程を採用することによって、高分子化合物がリン酸カルシウム{ハイドロキシアパタイト(HAp)}表面に吸着することで融着防止剤混合過程におけるリン酸カルシウム{ハイドロキシアパタイト(HAp)}同士の接触を確実に防ぐことができ、その後にカルシウム塩を添加することでリン酸カルシウム{ハイドロキシアパタイト(HAp)}表面に確実に融着防止剤を析出させることが可能となる。尚、以下の説明において、側鎖にカルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、アミノ基又はこれらの塩のいずれかを有する高分子化合物のことを、単に「高分子化合物」と称する。
上記高分子化合物は、側鎖にカルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、アミノ基又はこれらの塩のいずれかを有する化合物であれば特に限定されるものではない。例えば、側鎖にカルボキシル基を有する高分子化合物としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、スチレン−無水マレイン酸共重合体等が挙げられ、側鎖に硫酸基を有する高分子化合物としては、ポリアクリル酸アルキル硫酸エステル、ポリメタクリル酸アルキル硫酸エステル、ポリスチレン硫酸等が挙げられ、側鎖にスルホン酸基を有する高分子化合物としては、ポリアクリル酸アルキルスルホン酸エステル、ポリメタクリル酸アルキルスルホン酸エステル、ポリスチレンスルホン酸等が挙げられ、側鎖にリン酸基を有する高分子化合物としては、ポリアクリル酸アルキルリン酸エステル、ポリメタクリル酸アルキルリン酸エステル、ポリスチレンリン酸、ポリアクリロイルアミノメチルホスホン酸等が挙げられ、側鎖にホスホン酸基を有する高分子化合物としては、ポリアクリル酸アルキルホスホン酸エステル、ポリメタクリル酸アルキルホスホン酸エステル、ポリスチレンホスホン酸、ポリアクリロイルアミノメチルホスホン酸、ポリビニルアルキルホスホン酸等が挙げられ、側鎖にアミノ基を有する高分子化合物としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリメタクリル酸アミノアルキルエステル、ポリアミノスチレン、ポリペプチド、タンパク質等が挙げられる。尚、当該混合工程においては、上記高分子化合物のいずれか1種類を用いればよいが、複数種類の高分子化合物を混合して用いてもよい。
尚、上記高分子化合物の分子量は特に限定されるものではないが、100g/mol以上1,000,000g/mol以下が好ましく、500g/mol以上500,000g/mol以下がさらに好ましく、1,000g/mol以上300,000g/mol以下が最も好ましい。上記好ましい範囲未満であると一次粒子間に入り込む割合が減少し、一次粒子同士の接触を阻止する割合が低くなる。また上記好ましい範囲を超えると、高分子化合物の溶解度が低くなること、当該高分子化合物を含む溶液の粘度が高くなること等の操作性が悪くなるために好ましくない。
尚、高分子化合物を含む溶液は、水溶液であることが好ましい。ハイドロキシアパタイト(HAp)は強い酸性条件下で溶解してしまうからである。尚、高分子化合物が含まれる水溶液のpHは、5以上14以下でHAp粒子が不溶な条件あれば特に限定されるものではない。当該高分子化合物を含む水溶液は、高分子化合物を蒸留水、イオン交換水等に溶解し、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液でpHを調整すればよい。
また上記水溶液に含まれる高分子化合物の濃度は、0.001%w/v以上50%w/v以下が好ましく、0.005%w/v以上30%w/v以下がさらに好ましく、0.01%w/v以上10%w/v以下が最も好ましい。上記好ましい範囲未満であると一次粒子間に入り込む量が少なく、一次粒子同士の接触を阻止する割合が低くなる。また上記好ましい範囲を超えると、高分子化合物の溶解が困難となること、当該高分子化合物を含む溶液の粘度が高くなる等の操作性が悪くなるために好ましくない。
本混合工程では、上記高分子化合物を含む溶液と、一次粒子とを混合する。かかる混合は、例えば、当該溶液中に一次粒子を投入し、撹拌操作等によって、当該一次粒子を分散させればよい。かかる操作によって、上記本発明に係る高結晶性リン酸カルシウムの製造方法では、一次粒子の表面に上記高分子化合物が吸着し、カルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、アミノ基又はこれらの塩のいずれかを当該一次粒子の表面に付加することができる。このとき当該カルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基又はアミノ基は、溶液中でイオンの状態で存在している。
次に高分子化合物を含む溶液と一次粒子とを混合した溶液に、金属塩(アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩及び/又は遷移金属塩)をさらに添加すれば、上記一次粒子の表面に存在するカルボン酸イオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン、リン酸イオン、ホスホン酸イオン、アミノイオンと、金属イオン(アルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオン及び/又は遷移金属イオン)とが結合し、一次粒子の表面にカルボン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、アミノ酸塩が生じる。かかる金属(アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属及び/又は遷移金属)のカルボン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、アミノ酸塩が、上記融着防止剤として機能する。従って、金属(アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属及び/又は遷移金属)のカルボン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、アミノ酸塩がその表面に生じた一次粒子は、いわゆる「混合粒子」である。尚、かかる金属(アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属及び/又は遷移金属)のカルボン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、アミノ酸塩は沈殿するため、当該沈殿物を回収後、乾燥させて後述する焼結工程に供すればよい。前記乾燥は、例えば減圧条件下(1×10Pa以上1×10−5Pa以下が好ましく、1×10Pa以上1×10−3Pa以下がさらに好ましく、1×10Pa以上1×10−2Pa以下が最も好ましい。)で、加熱(0℃以上200℃以下が好ましく、20℃以上150℃以下がさらに好ましく、40℃以上120℃以下が最も好ましい。)して行なう方法が挙げられる。尚、上記乾燥においては、乾燥温度を下げることができることから減圧条件下が好ましいが、大気圧条件下で行なってもよい。
上記アルカリ金属塩としては、特に限定されるものではないが、例えば塩化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ酸ナトリウム、酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、セレン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩化カリウム、次亜塩素酸カリウム、亜塩素酸カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ酸カリウム、酸化カリウム、過酸化カリウム、硫酸カリウム、チオ硫酸カリウム、セレン酸カリウム、亜硝酸カリウム、硝酸カリウム、リン化カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム等が利用可能である。
また上記アルカリ土類金属塩としては、例えば塩化マグネシウム、次亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、過酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、チオ硫酸マグネシウム、セレン酸マグネシウム、亜硝酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、リン化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ酸カルシウム、酸化カルシウム、過酸化カルシウム、硫酸カルシウム、チオ硫酸カルシウム、セレン酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等が利用可能である。
また上記遷移金属塩としては、例えば塩化亜鉛、次亜塩素酸亜鉛、亜塩素酸亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、ヨウ酸亜鉛、酸化亜鉛、過酸化亜鉛、硫酸亜鉛、チオ硫酸亜鉛、セレン酸亜鉛、亜硝酸亜鉛、硝酸亜鉛、リン化亜鉛、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、塩化鉄、次亜塩素酸鉄、亜塩素酸鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、ヨウ酸鉄、酸化鉄、過酸化鉄、硫酸鉄、チオ硫酸鉄、セレン酸鉄、亜硝酸鉄、硝酸鉄、リン化鉄、炭酸鉄、水酸化鉄等が利用可能である。またニッケル化合物であってもよい。
尚、高分子化合物を含む溶液と一次粒子とを混合した溶液に添加する金属塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩)は、1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。また金属塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属)は、固体の状態としてもよいが、均一に添加することができること、及び添加する濃度を制御することが可能である等の理由から水溶液として添加することが好ましい。また添加する金属塩(アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩及び/又は遷移金属塩)の量(濃度)は、一次粒子表面に存在するカルボン酸イオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン、リン酸イオン、ホスホン酸イオン、アミノイオンと結合して、金属(アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属及び/又は遷移金属)のカルボン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、アミノ酸塩が生じる条件であれば特に限定されるものではなく、適宜検討の上、決定すればよい。
尚、上記工程によって一次粒子の表面に生じた金属(アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属及び/又は遷移金属)のカルボン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、アミノ酸塩は、後述する焼結工程において熱分解を受け、金属(アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属及び/又は遷移金属)の酸化物になる。例えば、一次粒子の表面にポリアクリル酸カルシウムが生じている場合は、焼結工程によって酸化カルシウムとなる。尚、当該金属酸化物(アルカリ金属酸化物及び/又はアルカリ土類金属酸化物(例えば酸化カルシウム)及び/又は遷移金属酸化物)は水溶性であるため、後述する除去工程によって簡単に除去することが可能である。
尚、ポリアクリル酸ナトリウムは水に可溶なため、本混合工程において融着防止剤としてそのまま利用可能であるが、ポリアクリル酸カルシウムは水に不溶なため、一旦ポリアクリル酸のみを一次粒子表面に吸着させた後に、カルシウム塩等を添加することで、ポリアクリル酸カルシウムを一次粒子表面に析出させるようにすることが好ましい。また、高温(約300℃以上)で一次粒子を仮焼する際に高分子化合物は分解するため、仮焼後も融着防止剤として機能するように、高分子化合物の金属塩を一次粒子の表面に析出させておくことが好ましいといえる。ただし高分子化合物が分解しない(軟化しない)温度において一次粒子を仮焼(熱処理)する場合は、高分子化合物の金属塩を一次粒子の表面に析出させておく必要は特にない。
上記で本最良形態に係るリン酸カルシウム微粒子の製造方法について説明したが、上記混合工程において使用する融着防止剤は、カルシウムイオンを含む融着防止剤であることが好適である。即ち、融着防止剤として、先述のカルシウム塩、又は、先述の高分子化合物とカルシウム塩を使用することが好適である。これにより、焼結工程等におけるリン酸カルシウム微粒子からのカルシウム原子分流出を抑えることができるため、得られるリン酸カルシウム微粒子表面のリン原子に対するカルシウム原子との構成比(Ca/Pの値)が高くなる。これによって、リン酸カルシウム微粒子は、歯面に対して、より吸着し易くなる。当該メカニズムについては明らかではないが、歯の表面はマイナスチャージを有しており、これに対して、プラスチャージのカルシウムが微粒子表面に多く存在するため、当該微粒子の歯面への吸着力が高まると考えられる。尚、本最良形態に係るリン酸カルシウム微粒子表面のリン原子に対するカルシウム原子の存在比(Ca/P)は、1.60以上であることが好適である。当該原子の存在比はXPSにて測定するものとする。
スプレードライ工程
当該スプレードライ工程は、スプレードライヤーを用いて、上記一次粒子生成工程によって得られたハイドロキシアパタイトを目的の粒子径に凝集させ、乾燥させる工程である。
一次粒子生成工程によって得られたハイドロキシアパタイトを媒体中に分散させ、スプレードライヤー内の加熱流体中に当該分散液を噴霧し、媒体を気化、除去することで目的とする粒子径にあわせた凝集塊を作製することができる。
尚、分散液を得るために用いる媒体は、加熱流体の温度にあわせ適宜選択すれば良いが、水がより好ましい。また、加熱流体は、通常空気を用いることが望ましく、加熱温度は、分散液に用いた媒体の沸点以上に設定することが望ましい。
焼結工程
当該焼結工程は、上記混合工程ないしスプレードライ工程によって得られた粒子を焼結温度に曝して、当該粒子を高結晶性ハイドロキシアパタイトにする工程である。
当該焼結工程における焼結温度は、高結晶性ハイドロキシアパタイトの硬度が所望の硬度となるように適宜設定すればよく、例えば、100℃〜1800℃の範囲内がより好ましく、150℃〜1500℃がさらに好ましく、200℃〜1200℃が最も好ましい。尚、焼結時間については所望する高結晶性リン酸カルシウム微粒子の硬度等を基準に適宜設定すればよい。後述する実施例においては、800℃で1時間焼結を行なっている。
このように、本実施形態に係る機能性不織布の製造方法においては、焼成ハイドロキシアパタイト粒子を用いる。ハイドロキシアパタイト粒子を焼成(例えば、800℃で1時間)することにより、粒子の結晶性が高くなり、且つ複数の一次粒子の凝集体が熱により融着して、より強固で安定な粒子となる。このような強固で安定な焼成ハイドロキシアパタイト粒子を基材不織布に固着させることで、機能性不織布に強い負荷が掛かる使用方法(例えば、払拭用途等)においても、粒子が崩壊し難く、肌触りがより良好なものとなり、更には、より長期間安定して機能性不織布の特性(例えば、菌吸着性等)が保持することが出来る。一方、基材不織布に固着された粒子が未焼成ハイドロキシアパタイトである場合、機能性不織布に強い負荷が掛かる使用方法においては粒子が崩壊し易いため、崩壊した粒子が研磨成分のように働き、時間経過と共に肌触りが悪くなり得る。また、未焼成のハイドロキシアパタイト粒子は、表面がやや粘着性を有しており、当該粒子を含む気流を基材不織布に吹き付ける際に、粒子がその工程経路上に配置されている装置各所や配管等に付着してしまい、トラブルの原因となって生産性を低下させてしまう恐れもある。尚、ハイドロキシアパタイト粒子が焼成されているか否かの判断は、上述した通りである。
尚、当該焼結工程に用いる装置等は特に限定されるものではなく、製造規模、製造条件等に応じて市販の焼成炉を適宜選択の上、採用すればよい。
除去工程
当該除去工程は、焼結工程によって得られた高結晶性リン酸カルシウム微粒子の粒子間に混在する融着防止剤を取り除く工程である。
除去の手段及び手法については、上記混合工程において採用した融着防止剤に応じて適宜採用すればよい。例えば、溶媒溶解性を有する融着防止剤を用いた場合は、高結晶性リン酸カルシウム微粒子を溶解しない溶媒(非溶解性)でかつ融着防止剤を溶解する(溶解性)溶媒を用いることによって、融着防止剤のみを溶解して除去することができる。用いる溶媒としては、上記要件を満たす溶媒であれば特に限定されるものではなく、水系溶媒であっても、有機溶媒であってもよい。例えば、水系溶媒としては、水、エタノール、メタノール等が挙げられ、有機溶媒としては、アセトン、トルエン等が挙げられる。
また上記水系溶媒は、融着防止剤の水への溶解性を上げるために、シュウ酸塩、エチレンジアミン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸塩等のキレート化合物が含んでいてもよい。さらに上記水系溶媒は、融着防止剤の水への溶解性を上げるために、塩化ナトリウム、硝酸アンモニウム、炭酸カリウム等の電解質イオンを含んでいてもよい。
ただし、当該除去工程において有機溶媒の使用に対応する設備が不要となること、有機溶媒廃液処理が不要となること、製造作業の安全性が高いこと、環境に対するリスクが低いこと等の理由から、使用する溶媒は水系溶媒が好ましい。
尚、高結晶性ハイドロキシアパタイトは、pH4.0以下の条件において高結晶性ハイドロキシアパタイトが溶解するため、pH4.0〜pH12.0で除去工程を行なうことが好ましい。
ところで、溶媒を用いて融着防止剤を除去する場合は、焼結工程によって得られた融着防止剤を含む高結晶性リン酸カルシウムを溶媒に懸濁させた後、ろ過又は遠心分離によって高結晶性リン酸カルシウム粒子のみを回収すればよい。最良形態に係る高結晶性リン酸カルシウムの製造方法において上記操作は、1回に限られるものではなく2回以上行なってもよい。上記操作を複数回行なうことで、高結晶性リン酸カルシウムの融着防止剤の除去率がさらに向上するものといえる。ただし、製造工程が複雑になること、製造コストが高くなること、高結晶性リン酸カルシウムの回収率が低下すること等の理由により、必要以上に上記操作を行なうことは好ましくない。よって上記操作の回数は、目標とする融着防止剤の除去率を基準に適宜決定すればよい。
尚、本工程には、さらに粒子径を均一にするために分級する工程が含まれていてもよい。
但し、上記に製法では、特に平均粒子径1〜10μmにおいては、好適な製造方法であるが、必要に応じて、平均粒子径0.1μm程度のサブミクロンの場合には、前記一次粒子を単独乃至は併用して用いることにより、補っても良い。
上記製法にて得られたハイドロキシアパタイトは、結晶性が高く、粒子が崩壊しにくく、不織布に固着させる際に崩壊することが極めて少ない上に、本発明の実施形態において使用されてもやはり崩壊することが殆ど無く、優れた効果と快適な使用感を維持することが可能となる。
特に、気孔率が10%以下であるものや、医薬部外品原料規格「ヒドロキシアパタイト」の規格試験である濃塩酸試験で泡が生じないもの(炭酸イオンが実質上含有されない)は、特に優れており、上記製法にて得ることが可能である。
(ハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比及び形状)
ここで、本実施形態に係る機能性不織布の製造方法における、ハイドロキシアパタイト粒子としては、アスペクト比が1.45以下のものを用いることが好適である。ハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比が1.45以下であれば、加熱したハイドロキシアパタイト粒子を含む気流を基材不織布と接触させた際にも、等方的な形状のため基材不織布の構成繊維との接触面が安定して確保され易く、安定して基材不織布に粒子が固着され易くなる。そのため、製造された機能性不織布の品質が向上する(例えば、菌吸着性等が長期的に持続したり、払拭等の負荷に対する粒子の固着強度が向上する)。また、当該効果をより向上させるためには、ハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比は、1.35以下が好適であり、1.25以下がより好適であり、1.2以下が更に好適である。当該アスペクト比が1に近い程、粒子の投影画像が円や正方形に近いものであり、粒子の立体形状は塊状(例えば、略球状)に近いものとなると考えられる。特に、粒子が略球状であると、上記効果により優れるものとなる。
ここでいうハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比とは、以下の方法によって得られた数値を示す。ハイドロキシアパタイト粒子を撮影したSEM画像において、粒子上にその両端が粒子の外周上に位置する2本の線分を引く。このとき、一方の線分は、その長さが最大となるものとする。更に、当該線分の中点で、互いに直交するようにもう一方の線分を引く。このようにして引かれた2本の線分のうち、短い方の線分の長さを短径、長い方の線分の長さを長径とし、長径/短径の比を求める。更に、長径が大きなものから順に選んだ150個の粒子における当該長径/短径の平均値を求め、アスペクト比とした。但し、輪郭がぼやけて見える粒子、別の粒子に接近し過ぎていて境界が曖昧な粒子、粒子の一部がその他の粒子の影に隠れている粒子等を測定対象から除外した。
(ハイドロキシアパタイト粒子の粒径)
更に、本実施形態に係る機能性不織布の製造方法においては、基材不織布の表面に吹き付ける前のハイドロキシアパタイト粒子の粒径は、0.1μm以上10μm以下が好適であり、0.5μm以上8μm以下であることがより好適であり、1μm以上5μm以下が更に好適である。また、基材不織布の表面に吹き付ける前のハイドロキシアパタイト粒子の粒径は、本実施形態に係る基材不織布の構成繊維の繊維径に対して、1/3以下の大きさとなることが好適である。ハイドロキシアパタイト粒子の粒径をこのような範囲とすることにより、基材不織布の構成繊維に粒子を固着させる際の脱落が少なくなり、適度に粒子が固着されるため、優れた機能(例えば菌吸着性等)を有する機能性不織布が得られる。尚、ここでいうハイドロキシアパタイト粒子の粒径とは、以下の方法によって得られた数値を示す。ハイドロキシアパタイト粒子を撮影したSEM画像において、粒子上にその両端が粒子の外周上に位置する2本の線分を引く。このとき、一方の線分は、その長さが最大となるものとする。更に、当該線分の中点で、互いに直交するようにもう一方の線分を引く。このようにして引かれた2本の線分のうち、短い方の線分の長さを短径、長い方の線分の長さを長径とした。更に、長径の大きなものから順に選んだ150個の粒子における当該長径の平均値を求め、粒径とした。
(ハイドロキシアパタイト粒子の粒径のばらつき)
ハイドロキシアパタイト粒子全体を100体積%とした際に、粒径20μm以上の粒子は10体積%以下であることが好ましく、より好ましくは、17μm以上の粒子は10体積%以下であり、さらに好ましくは、14μm以上の粒子は10体積%以下である。
ハイドロキシアパタイト粒子全体を100体積%とした際に、粒径20μm以上の粒子は10体積%以下でない場合、本発明の不織布の使用感や清掃効率が低下する恐れがあり好ましくない。
尚、同様の理由で、ハイドロキシアパタイト粒子全体を100体積%とした際に、粒径0.5μm以下の粒子は10体積%以下であることが好ましく、より好ましくは、1μm以下の粒子は10体積%以下であり、さらに好ましくは、1.5μm以下の粒子は10体積%以下である。
(ハイドロキシアパタイト粒子の粒径分布の半値幅)
ハイドロキシアパタイト粒子の体積比率での粒径分布の半値幅が25μm以下であることが好ましく、より好ましくは、20μm以下であり、さらに好ましくは、15μm以下である。尚、粒径スケールは対数目盛とする。
半値幅が25μmを超えると、粒子が崩壊し易くなり、不織布に固着させる際に崩壊したり、本発明の実施形態において使用されてもやはり崩壊する恐れがあり、優れた効果と快適な使用感を維持することが困難となる可能性がある。
尚、上述の数値(特定の粒径の体積%及び半値幅)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定器LMS−30((株)セイシン企業製)の湿式測定によって得られた粒度分布に基づくものである。尚、測定時の溶媒としては、アルコール混合溶媒(登録商標「ソルミックス」品名AP−7、100%)に分散させる。
(ハイドロキシアパタイト粒子の結晶性)
上述したように、ハイドロキシアパタイト粒子の結晶性の度合いは、X線回折法(XRD)により測定することが出来、各結晶面を示すピークの半値幅が狭ければ狭いほど結晶性が高いといえる。具体的には、本形態における焼成ハイドロキシアパタイト粒子は、X線回折(CuKα線)における2θ=32°付近(300)面のピークの半値幅が、好適には0.8以下(より好適には、0.5以下)の高結晶性のハイドロキシアパタイト粒子である。この値を超えると、粒子が崩壊し易くなり、不織布に固着させる際に崩壊したり、本発明の実施形態において使用されてもやはり崩壊する恐れがあり、優れた効果と快適な使用感を維持することが困難となる可能性がある。
<基材不織布等>
(基材不織布の繊維、形状、厚さ及び目付)
本実施形態に係る機能性不織布の製造方法における、基材不織布の繊維、形状、厚さ、及び目付等に関しては上述した通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
(基材不織布の製造方法)
基材不織布の製法としては、従来の不織布の製法である、乾式法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法、又は短繊維を利用したカード法や湿式抄造法等が挙げられ、これらの方法によって作成された不織布を基材不織布とすることができる。また、これらの製法によって形成される繊維ウェブに、融点の異なる2種類以上の樹脂が複合された複合繊維等を予め混入させてから、加熱処理することにより、繊維間が接合された基材不織布とすることも可能である。また、前記繊維ウェブを機械的絡合処理によって絡合させて、基材不織布とすることもできる。尚、基材不織布の機械的絡合処理は、水流絡合又はニードルパンチ等による絡合処理であることが好適である。基材不織布に対してこのような絡合処理を用いることにより、基材不織布の風合い(柔らかさ)を優れたものとすることが出来る。また、前記繊維ウェブを、平滑なロールと凹凸のあるロールとの間に通して、部分的に結合させることで、基材不織布とすることもできる。また、種類の異なる繊維ウエブ又は不織布が、積層・一体化されていてもよい。
<粒子固着工程>
粒子固着工程では、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維を含む不織布(基材不織布)の表面に、熱可塑性樹脂の融点より高い温度に加熱したハイドロキシアパタイト粒子を含有する気流を吹き付けることにより、ハイドロキシアパタイト粒子を基材不織布の表面に熱融着により固着させる。より詳細には、ハイドロキシアパタイト粒子を上記熱可塑性樹脂の融点より高い温度に加熱し、熱可塑性樹脂の融点より高い温度に維持された状態でハイドロキシアパタイト粒子を基材不織布の構成繊維と接触させ、繊維表面の樹脂を熱によって融解させた後に、冷却して再度固化することによって、基材不織布の構成繊維表面(即ち、基材不織布の表面)にハイドロキシアパタイト粒子を固着させる。
このように、加熱したハイドロキシアパタイト粒子が混合された気流を調製するには、例えば、
(混合気流調製方法a)気流の中に、熱可塑性樹脂の融点以上に加熱したハイドロキシアパタイト粒子を供給する方法;
(混合気流調製方法b)熱可塑性樹脂の融点以上に加熱した気流の中に、ハイドロキシアパタイト粒子を供給する方法;或いは、
(混合気流調製方法c)気流の中にハイドロキシアパタイト粒子を供給したものを、熱可塑性樹脂の融点以上に加熱する方法
等を挙げることができる。この内、混合気流調製方法(a)によれば、熱可塑性樹脂(基材不織布の構成繊維の少なくとも表面の樹脂)の融点以上に加熱された気流が基材不織布自体に接触する、といったことがないことから、繊維の収縮等を起こし難いため好適である。従って、気流の吹き付けに先立っても、熱可塑性樹脂表面の温度を、一番融点が低い熱可塑性樹脂の融点未満としておくのが好ましい。
尚、本実施形態に係る機能性不織布の製造方法では、ハイドロキシアパタイト粒子を熱可塑性樹脂の融点以上に加熱することが必要であるが、繊維に過剰に高い温度のハイドロキシアパタイト粒子が固着して繊維の糸切れや収縮を起こすという問題が生じる場合には、熱可塑性樹脂の融点より100℃高い温度を超えない温度に加熱することが好ましく、熱可塑性樹脂の融点より50℃高い温度を超えない温度に加熱することがより好ましい。
前記混合気流調製方法(a)では、熱可塑性樹脂の融点より50℃低い温度以上の温度に加熱した気流に、熱可塑性樹脂の融点以上に加熱したハイドロキシアパタイト粒子を供給する方法が好ましい。この場合、気流とハイドロキシアパタイト粒子とが混合される際に、ハイドロキシアパタイト粒子の温度が熱可塑性樹脂の融点より低くならないように予熱する効果がある。また、加熱されたハイドロキシアパタイト粒子が繊維に衝突するまでにハイドロキシアパタイト粒子の温度が前記熱可塑性樹脂の融点より低くならないように保温する効果がある。尚、もし気流とハイドロキシアパタイト粒子との混合気流を繊維に吹き付けた際に、繊維に過剰に高い温度の気流が当たり、繊維の糸切れや収縮を起こすという問題が生じる場合は、熱可塑性樹脂の融点より50℃低い温度以上の温度に加熱した気流であり、且つ、加熱したハイドロキシアパタイト粒子の温度よりも低い温度に加熱した気流とすることが好ましい。
加熱した気流を得るには、例えば、気流発生手段(例えば、ブロアー又はコンプレッサーなど)によって気流を発生させ、次いで、公知の加熱手段によって所定温度(例えば、熱可塑性樹脂の融点より50℃低い温度以上の温度)に気流を加熱する方法を用いることができる。また、加熱したハイドロキシアパタイト粒子を得るには、例えば、ハイドロキシアパタイト粒子供給手段(例えば、ホッパー又は供給容器など)の内外にヒーターを取り付けて、ハイドロキシアパタイト粒子供給手段内のハイドロキシアパタイト粒子を所定温度(例えば、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度)に加熱する方法、或いは、一般的に粉体の乾燥機として用いられる流動層型乾燥機などの装置を利用して、所定温度(例えば、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度)にハイドロキシアパタイト粒子を加熱する方法などを用いることができる。
気流にハイドロキシアパタイト粒子を供給して混合気流を調製する方法としては、例えば、粒子供給手段(例えば、ホッパー又は供給容器など)からハイドロキシアパタイト粒子を気流中に一定量ずつ供給する方法、或いは、流動層型乾燥機などの装置を利用して前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度までハイドロキシアパタイト粒子を加熱した後、その流動層型乾燥機より気体中に加熱されたハイドロキシアパタイト粒子が分散混合された混合気体を取り出し、該混合気体を気流に供給する方法を挙げることができる。
また、これらの方法以外にも、粒子混合手段がエジェクターとなっており、気流発生手段としてのブロワー及び加熱管で生じた気流を粒子混合手段に送り、粒子混合手段には、粒子供給手段としてのロート状の供給容器と回転式の供給制御ロータと供給管とを連絡させておき、気流によって生じる吸引力によって、粒子供給手段から供給するハイドロキシアパタイト粒子を吸引して、気流の中にハイドロキシアパタイト粒子を供給する方法を用いることもできる。この場合、粒子混合手段において、ハイドロキシアパタイト粒子が供給される部分の気流の断面積を、その前後の断面積よりも小さくして気流を高速化すると、吸引力が強く働き、ハイドロキシアパタイト粒子の分散混合効果を大きくすることができる。
更には、例えば、粒子混合手段はエジェクターとなっており、気流発生手段としてのブロワー及び加熱管で発生した気流を粒子混合手段に送り、粒子混合手段には粒子供給手段である流動層型乾燥機より加熱気体中にハイドロキシアパタイト粒子が分散混合された混合気体を送り込み、気流によって生じる吸引力によって、粒子供給手段から供給する混合気体を吸引して、気流の中にハイドロキシアパタイト粒子を供給する方法を用いることもできる。
基材不織布(基材不織布の構成繊維)に気流を吹き付ける方法としては、例えば、ハイドロキシアパタイト粒子を含む混合気流を、噴出手段としてのノズルから噴出させると、ハイドロキシアパタイト粒子は、噴出時に与えられた運動エネルギーによる慣性力により基材不織布の構成繊維表面に衝突する。噴出手段は、例えば、前記粒子混合手段に直接接続させるか、或いは、接続管を介して接続させることができる。前記ノズルは、流体が噴出するに適した形状とすることができる。例えば、ハイドロキシアパタイト粒子の慣性力を高めるために、流路が絞られたものとしたり、或いは、ハイドロキシアパタイト粒子の噴出角度を広げるために、ノズルの先端を広げた形状としたりすることができる。また、ノズルから噴出するハイドロキシアパタイト粒子に応じて磨耗などの生じ難いノズル材質とすることも好ましい。
加熱したハイドロキシアパタイト粒子と基材不織布(基材不織布の構成繊維)との接触方法として、加熱したハイドロキシアパタイト粒子を含有する気流を基材不織布(基材不織布の構成繊維)に吹き付ける方法を用いる場合には、移動可能な不織布支持手段によって支持した基材不織布に、加熱したハイドロキシアパタイト粒子含有気流を吹き付けることが好ましい。このような支持手段としては、加熱したハイドロキシアパタイト粒子を含有する気流による吹き付けの処理が可能であれば特に限定されない。好適な例としては、例えば、加熱したハイドロキシアパタイト粒子を含有する気流による吹き付けの処理領域前後で、基材不織布を載置する回転ロール、前記吹き付け処理領域で基材不織布の両サイドをピンやグリップで把持しながら移動するテンター方式の装置、前記吹き付け処理領域の前後で基材不織布を挟んで支持する対ロール、或いは、前記吹き付け処理領域で基材不織布を載せながら吹き付けの処理が可能な開孔支持体(例えば、コンベアーネット等)を挙げることができる。尚、コンベアーネット等によれば、複数の基材不織布を同時に支持することも出来る。
また、前記支持手段によって支持した基材不織布に、加熱したハイドロキシアパタイト粒子を含有する気流を吹き付ける場合、基材不織布の幅方向に均一に吹き付けを行うため、加熱したハイドロキシアパタイト粒子を含有する気流の噴出手段を複数設置することも、噴出手段に設けられたノズル孔を複数設けることも可能である。また、ノズル孔をスリット状として、基材不織布の全幅までノズルの先端を広げた形状とすることも可能である。また、噴出手段を、基材不織布の幅方向に対してほぼ平行に、進行方向に対して直角又はある角度をつけて往復の移動を可能とすれば、噴出手段が少数であっても基材不織布全体を処理することができる。
更に、基材不織布に加熱したハイドロキシアパタイト粒子を含有する気流を吹き付けた後で、基材不織布(基材不織布の構成繊維)に固着しなかった余剰のハイドロキシアパタイト粒子を回収して、回収したハイドロキシアパタイト粒子を再利用することが好ましい。このような回収方法としては、基材不織布に加熱したハイドロキシアパタイト粒子を含有する気流の吹き付けを、密閉空間とした固着処理室で行い、余剰のハイドロキシアパタイト粒子が固着処理室の外へ飛散しないようにしておき、固着処理室にはハイドロキシアパタイト粒子回収手段である粒子回収ボックスを接続しておいて、この粒子回収ボックスによって余剰のハイドロキシアパタイト粒子を回収する方法を挙げることができる。また、基材不織布(基材不織布の構成繊維)に固着しなかった余剰のハイドロキシアパタイト粒子を除去するため、例えば、コンベアーネットを傾斜させ、振動により落下させたり、或いは、気流で吹き飛ばす方式の粒子回収手段を用いる方法を併用することも可能である。
尚、ハイドロキシアパタイト粒子を基材不織布の構成繊維に接触させ、ハイドロキシアパタイト粒子が熱融着された繊維とした後に、当該繊維を冷却する方法としては、ハイドロキシアパタイト粒子が繊維表面に固着可能な温度まで冷却することができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、室温に放置する方法、或いは、必要に応じて適当な冷却手段を用いる方法等を挙げることができる。
本実施形態に係る機能性不織布の製造方法によれば、加熱したハイドロキシアパタイト粒子を基材不織布の構成繊維の表面に接触させているので、繊維表面にハイドロキシアパタイト粒子が接触した部分のみが溶融してハイドロキシアパタイト粒子が固着されている。そのため、ハイドロキシアパタイト粒子の表面の内、接触部分以外又は固着部分以外の表面部分を溶融樹脂が覆ってしまうことが非常に少なくなっている。また、繊維表面の樹脂全体が溶融して流動化することによってハイドロキシアパタイト粒子が埋没してしまうことも、非常に少なくなっている。また、接触したハイドロキシアパタイト粒子の隙間より溶融樹脂が沁み出し、そのハイドロキシアパタイト粒子の外側にあるハイドロキシアパタイト粒子をも固着して、繊維表面上でハイドロキシアパタイト粒子が部分的に複層となってしまい、繊維表面にハイドロキシアパタイト粒子が均一に担持されないという問題が発生しない。つまり、基本的に均一な、単層に固着される。
尚、ここで示した製造方法は一例であり、ハイドロキシアパタイト粒子が熱融着によって固着された機能性不織布が得られる方法であれば、その製造方法は特に限定されない。例えば、ハイドロキシアパタイト粒子を含有する気流を吹き付ける代わりに、上述した温度に加熱したハイドロキシアパタイト粒子を基材不織布に対して自然落下させることにより、ハイドロキシアパタイト粒子と基材不織布の構成繊維とを接触させてもよい。その場合は、例えば、基材不織布を移動するコンベアー上に載せ、次にコンベアーの上部より加熱したハイドロキシアパタイト粒子を、例えば、散布することにより、基材不織布の構成繊維表面に加熱したハイドロキシアパタイト粒子が接触すると同時に、加熱したハイドロキシアパタイト粒子が熱可塑性樹脂(基材不織布の構成繊維)を接触点のみ溶かした状態で保持されるようにする。次に、室温に放置するか、或いは、必要に応じて適当な冷却手段、例えば、コンベアー上部より冷却空気を吹き付け、基材不織布とハイドロキシアパタイト粒子とを冷却して、ハイドロキシアパタイト粒子を基材不織布の構成繊維表面に固着させてもよい。ハイドロキシアパタイト粒子を加熱する方法としては、例えば、耐熱性の容器にハイドロキシアパタイト粒子を入れ、オーブンで加熱する方法、或いは、耐熱性のコンベアー上にハイドロキシアパタイト粒子を載せ、コンベアーを移動させながらコンベアー上部のヒーターを用いて連続的に加熱する方法などを挙げることができる。ハイドロキシアパタイト粒子の加熱方法としては、ハイドロキシアパタイト粒子全体を加熱できる方法であれば、任意の加熱方法を用いることができるが、この時の加熱の温度は、基材不織布の構成繊維の表面を構成する熱可塑性樹脂の内、最も低い融点を有する熱可塑性樹脂の融点より高く加熱する必要がある。
<前処理工程>
ここで、前処理工程として、ハイドロキシアパタイト粒子を接触させる前に、本実施形態に係る基材不織布を洗浄(例えばアルコール洗浄)し、基材不織布の製造過程で不織布に付着した油剤や汚れ等を除去することが好ましい。基材不織布自体を一度洗浄することで、より衛生面に優れた機能性不織布とすることが出来、後述するように、衛生面が重視される口腔用等の用途により好適なものとすることが出来る。
<後処理工程>
また、後処理工程として、本実施形態に係る機能性不織布を滅菌することも可能である。本実施形態に係る機能性不織布を、滅菌することで、より衛生面に優れた機能性不織布とすることが出来、後述するように、衛生面が重視される口腔用等の用途により好適なものとすることが出来る。滅菌方法としては、一般的に考えられる方法の何れを用いることも可能であり、例えばEOG(Ethylene Oxide Gas)、電子線照射、γ線照射、UV滅菌、オートクレーブ、アルコール滅菌、プラズマ滅菌などが挙げられる。滅菌には機能性不織布そのものを用いても、包装後の製品を用いても良く、通気性の包装材料を用いればEOG、オートクレーブの方法を採用でき、通気性のない包装材料でも素材を選択することにより電子線照射、γ線照射、UV滅菌による滅菌方法を用いることができる。
≪機能性不織布の用途≫
次に、本実施形態に係る機能性不織布の用途に関して説明する。ここで、本実施形態に係る機能性不織布は、特に口腔用の用途に適したものである。以下に、一般的な口腔環境に係る問題と、その解決手段である本実施形態に係る機能性不織布との関係を詳述し、次いでその他の好適な用途について説明する。尚、当該機能性不織布の用途としては、ヒト用に限られるものではなく、動物用としても利用可能であり、更には生物・非生物に関わらず広く利用可能である。
<口腔用>
口腔内に存在するプラークは、薄い、無色且つ粘着性の、ほとんど目に見えない膜である。この膜は、歯の表面上の大部分においてのみならず、舌の裏、口蓋、粘膜に連続的に形成されている。プラークは、バクテリア等の菌、唾液、タンパク、及び食べ物の残りかすから構成されている。
ここで、虫歯をもたらす病因学上の主な病原体は、グラム陽性細菌である連鎖球菌ミュータンス{gram (+) bacteria Streptococcus mutans}であると考えられる。当該ミュータンス菌の働きにより、歯の硬質組織(エナメル質)が脆くなり虫歯の穴(cavity)が形成され易くなる。
また、歯周病の主原因は、バクテリアによるプラークである。口腔内に存在するプラークが除去されないと、硬化して歯の表面等に蓄積することで歯周病が進行する。また、歯周病の最も進んだ段階である歯周炎では、歯を取り囲む支持組織が破壊される一方で、歯肉において、より多くのバクテリアによるプラークがつまったポケットが形成されて歯が抜ける。
このように、プラークは最も一般的な2つの口腔疾患である虫歯及び歯周病の開始及び進行の主原因となる。従って、口腔内環境を改善するためには、口腔内の有害な菌及びタンパク質を、効率よく除去・低減するとともに、口腔内プラーク形成を抑制することが不可欠である。
口腔内環境の改善を目的として、殺菌効果の強い成分を配合した口腔洗浄液等を用いて、口腔内で殺菌剤と口腔内菌を接触させ、殺菌を行う場合がある。しかし、一般に殺菌能力をもつ成分は刺激性が強く、敏感な口腔内粘膜又は必要な口腔内菌まで傷つけてしまう。また、より粘膜の弱い子供や高齢者には刺激が強いという欠点を有している。
ここで、リン酸カルシウムの一種であるハイドロキシアパタイトは、歯や骨の主成分のセラミックスであり、前述のように、優れた生体適合性、タンパク質吸着性及びイオン交換性等を有することから、生体材料や、歯磨剤等への配合剤として用いられている。特に、菌の吸着作用を有することから、口腔用製剤(例えば歯磨剤)にハイドロキシアパタイトを配合することで、敏感な口腔内粘膜等を傷つけることなく、口腔内のプラークを吸着し歯垢を除去することが可能と考えられる。このような効果を有するハイドロキシアパタイト配合の口腔用製剤として、ハイドロキシアパタイトを配合した歯磨剤、口腔洗浄剤、チューインガム等を挙げることが出来る。
ハイドロキシアパタイトの吸着力を利用して口腔内プラークを除去するためには、ハイドロキシアパタイト粒子に菌及びタンパク質等を吸着させた後に、菌を吸着したハイドロキシアパタイト粒子を口腔内から確実に除去することが必要である。しかし、例えばハイドロキシアパタイト配合歯磨剤を用いる場合、当該歯磨剤による洗浄後もプラークを吸着したハイドロキシアパタイトが口腔内に残存してしまい、菌・タンパク質の除去の割合が低くなってしまうという問題があった。また、通常歯磨剤は歯ブラシと共に用いるが、歯ブラシによる物理的掻き出しによる方法では、ハイドロキシアパタイトとプラークや口腔内組織とを充分に接触させることが困難であり、菌吸着効果が発揮されにくいため、口腔内環境の改善のために多量のハイドロキシアパタイトを配合する必要がある、という問題があった。
また、マイクロファイバーを用いた不織布、ブラシが、歯若しくは舌苔等口腔内環境を改善する製品として知られている。これにより物理的掻き出しにより口腔内から菌・タンパク質を除去することができる。
しかし、菌やタンパク質は口腔内に吸着しているため、物理的な掻き出しによる菌の除去は不十分であり、口腔内に残存してしまう可能性がある。また、掻き出しを充分に行おうとすると、口腔内の粘膜等を刺激し、傷つけてしまう。この結果、口腔内環境の改善が不十分であるという欠点を有している。
これに対して、本実施形態に係る機能性不織布によれば、風合い(柔らかさ)や肌触り等の使用感が良く、粒子が基材不織布に適度に固着した状態となっていることから、安定的にハイドロキシアパタイトの特性を発揮させることが可能となる。即ち、本実施形態に係る機能性不織布は、基材不織布自体が柔らかいため、歯等の立体面を拭った場合にその凹凸に追従することができ、物理的な菌やタンパク質の掻き出し効果に優れると共に、繊維に固着されたハイドロキシアパタイトの吸着効果を合わせ持つ。更には、口腔内粘膜等に接触しても刺激が少ないため、本実施形態に係る機能性不織布は口腔用の機能性不織布(例えば、舌苔シートやデンタルシート等)として特に好適に使用することが可能である。
本実施形態に係る機能性不織布の用途は、このように、口腔用途として特に好適なものであるが、水を利用できない環境で、効果的に、汚れ、菌等を吸着できる機能性不織布製品として、介護用、トラベル用(例えば、乗り物内での使用用途)、アメニティ用、衛生用や防災用の汚れ吸着シート等にも好適に利用可能である。更には、短時間で効率よく口腔内の菌やタンパク質の除去が可能なため、歯磨きを嫌がる動物用の、口内環境調整材(う蝕予防、歯周病予防、口臭抑制等)としても好適に使用可能である。
<その他の用途>
本実施形態に係る機能性不織布は、例えば、花粉除去シート、身体洗浄用シート、メイク除去シート、フェイスマスク、ベビー用シート等、皮膚への物理的刺激性が低い化粧料用基材としても好適に使用可能であり、花粉や脂質・タンパク質による汚れ、菌等を除去し得るだけでなく、各種アレルギー疾患の防止も可能である。
また、本実施形態に係る機能性不織布を創傷部位等へ被覆した場合、基材不織布に固着されたハイドロキシアパタイトによって感染症起因菌が吸着され、当該起因菌が吸着された機能性不織布を簡単に取り換えることが可能なため、創傷部位における感染症起因菌の減菌用途として利用出来る。
加えて、本実施形態に係る機能性不織布に固着されたハイドロキシアパタイトに予め様々な薬剤や微生物、生理活性物質を吸着させることにより、新たな機能を付与させることが可能である。例えば、固定化酵素の担体として用いることが可能であったり、特異抗体を吸着させることにより免疫測定法の診断薬担体としても応用が可能である。また、微生物等の担体として用いることにより生体触媒として応用が可能であったり、創傷被覆基材や化粧料用基材として用いた場合には、ハイドロキシアパタイトが緩やかに薬剤を除放する効果を発揮し得るため、薬剤の効用を長時間安定的に有効なものとする機能性不織布とすることも可能である。
また、本実施形態に係る機能性不織布は、種々の用途において、予め液体を充填し染み込ませることができる。特に、本実施形態に係る機能性不織布に、ハイドロキシアパタイト粒子を分散させた液体を染み込ませることで、当該機能性不織布の使用対象の表面からタンパク質汚れ・菌を除去する効果を更に強化することができる。この他、用途に合わせて水やアルコールなどの溶剤や様々な洗浄成分、香料、湿潤剤、保湿成分、保存剤、口腔用であれば甘味剤や清涼剤などを使用することができる。
≪機能性不織布の使用形態≫
本実施形態に係る機能性不織布は、シート状のまま使用したり、使用しやすい大きさにカットした機能性不織布シートを形成し、例えば手指に巻きつける等して使用することが出来る他、様々な形状に加工して用いることができる。例えば、図1に示すように、本実施形態に係る機能性不織布を指サックの形状に加工し、図2に示すように、当該指サック形状の機能性不織布を指に嵌めて使用することで、特に口腔内など狭い箇所に用いる場合に好適である(人の口腔用に限らず、例えばペット等の口腔用としても使用可能である)。
[第1実施例]
≪機能性不織布の準備≫
次の手順に従い機能性不織布を準備した。
1.基材不織布の準備
2.基材不織布へのハイドロキシアパタイト粒子固着
以下、それぞれに関して順次説明する。
<1.基材不織布の準備>
(基材不織布A)
ポリエチレン(融点130℃)/ポリプロピレン(融点160℃)芯鞘型複合繊維(繊度6.6dtex、繊維長102mm、繊維断面形状:円状(同心円状))70質量%、ポリエステル(融点255℃)/低融点ポリエステル(融点245℃)芯鞘型複合繊維(繊度2.2dtex、繊維長51mm、繊維断面形状:円状(同心円状))25質量%、エチレン−エチレン酢酸ビニル共重合体(融点110℃)/ポリプロピレン(融点160℃)芯鞘型複合繊維(繊度3.3dtex、繊維長64mm、繊維断面形状:円状(同心円状))5質量%を混合した後、カード機によって目付30g/mであるウェブaを作製した。
次いで、ポリエチレン(融点130℃)/ポリプロピレン(融点160℃)芯鞘型複合繊維(繊度20dtex、繊維長102mm、繊維断面形状:円状(同心円状))30質量%、ポリエチレン(融点130℃)/ポリプロピレン(融点160℃)芯鞘型複合繊維(繊度6.6dtex、繊維長102mm、繊維断面形状:円状(同心円状))65質量%、エチレン−エチレン酢酸ビニル共重合体(融点110℃)/ポリプロピレン(融点160℃)芯鞘型複合繊維(繊度3.3dtex、繊維長64mm、繊維断面形状:円状(同心円状))5質量%を混合した後、カード機によって目付50g/mのウェブbを作製した。
次いで、これらのウェブを重ね、ウェブa側よりニードルパンチ処理を施し、目付80g/m、厚さ0.87mmの二層構造不織布である、基材不織布Aを得た。
(基材不織布Bの準備)
ポリプロピレン(融点160℃)繊維(繊度2.2dtex、繊維長51mm、繊維断面形状:円状)70質量%、レーヨン(分解点310℃)繊維(繊度1.7dtex、繊維長40mm、繊維断面形状:やや扁平で溝のある楕円状)25質量%、ポリエチレン(融点130℃)/ポリプロピレン(融点160℃)芯鞘型複合繊維(繊度1.7dtex、繊維長51mm、繊維断面形状:円状)5質量%を混合した後、カード機によって目付60g/mであるウェブcを作製した。
次いで、ウェブcに対して水流絡合処理を施し、目付60g/m、厚さ0.58mmの基材不織布Bを得た。
(基材不織布Cの準備)
レーヨン(分解点310℃)繊維(繊度1.7dtex、繊維長40mm、繊維断面形状:やや扁平で溝のある楕円状)60質量%、ポリエチレン(融点130℃)/ポリプロピレン(融点160℃)芯鞘型複合繊維(繊度1.7dtex、繊維長51mm、繊維断面形状:円状(同心円状))40質量%を混合した後、カード機によって目付70g/mであるウェブdを作製した。
次いで、ウェブdに対して水流絡合処理を施し、目付70g/m、厚さ0.43mmの基材不織布Cを得た。
(基材不織布Dの準備)
レーヨン(分解点310℃)繊維(繊度3.3dtex、繊維長51mm、繊維断面形状:やや扁平で溝のある楕円状)80質量%、ポリプロピレン(融点160℃)繊維(繊度2.2dtex、繊維長50mm、繊維断面形状:円状(同心円状))15質量%、ポリエチレン(融点130℃)/ポリプロピレン(融点160℃)芯鞘型複合繊維(繊度1.7dtex、繊維長51mm、繊維断面形状:円状(同心円状))5質量%を混合した後、カード機によって目付60g/mであるウェブeを作製した。
次いで、ウェブeに対して水流絡合処理を施し、目付60g/m、厚さ0.43mmの基材不織布Dを得た。
(基材不織布Eの準備)
ポリエステル(融点255℃)/ポリプロピレン(融点160℃)分割型複合繊維(繊度3.3dtex、繊維長51mm、比重1.13、分割後の繊維断面形状:扇状)を用いて、カード機によって目付30g/mであるウェブfを作製した。
次いで、ポリエステル(融点255℃)繊維(繊度1.45dtex、繊維長38mm、繊維断面形状:円状)80質量%、ポリエステル(融点255℃)/ポリプロピレン(融点160℃)分割型複合繊維(繊度3.3dtex、繊維長51mm、比重1.13、分割後の繊維断面形状:扇状)20質量%を混合した後、カード機によって目付30g/mであるウェブgを作製した。
次いで、これらのウェブを重ね、ウェブf側より水流絡合処理を施し、分割型複合繊維を分割して得られた断面形状が扇状のポリエステル繊維及びポリプロピレン繊維を含んだ、目付60g/m、厚さ0.40mmの二層構造不織布である基材不織布Eを得た。
(基材不織布Fの準備)
ポリエステル(融点255℃)繊維(繊度1.5dtex、繊維長38mm、断面形状:円状)60質量%、ポリエステル(融点255℃)/ポリプロピレン(融点160℃)分割型複合繊維(繊度3.3dtex、繊維長51mm、比重1.13、分割後の繊維断面形状:楔形)20質量%、ポリエステル(融点255℃)/低融点ポリエステル(融点110℃)芯鞘型複合繊維(繊度2.2dtex、繊維長51mm、繊維断面形状:円状(同心円状))20質量%を混合した後、カード機によって目付30g/mであるウェブhを作製した。
次いで、ポリエステル(融点255℃)/ポリプロピレン(融点160℃)分割型複合繊維(繊度3.3dtex、繊維長51mm、比重1.13、分割後の繊維断面形状:楔形)80質量%、ポリエステル(融点255℃)/低融点ポリエステル(融点110℃)芯鞘型複合繊維(繊度2.2dtex、繊維長51mm、繊維断面形状:円状(同心円状))20質量%を混合した後、カード機によって目付20g/mであるウェブiを作製した。
次いで、これらのウェブを重ね、ウェブh側より水流絡合処理を施し、分割型複合繊維を分割して得られた断面形状が扇状のポリエステル繊維及びポリプロピレン繊維を含んだ目付50g/m、厚さ0.45mmの二層構造不織布である基材不織布Fを得た。
(基材不織布Gの準備)
ポリエステル(融点255℃)繊維(繊度1.45dtex、繊維長38mm、繊維断面形状:円状)70質量%、エチレン−ビニルアルコール共重合体(融点175℃)/ポリプロピレン(融点160℃)芯鞘型複合繊維(繊度2.8dtex、繊維長51mm、繊維断面形状:円状(同心円状))30質量%を混合した後、カード機によって目付60g/mであるウェブmを作製した。
次いで、ウェブmに対して水流絡合処理を施し、目付70g/m、厚さ0.42mmの基材不織布Gを得た。
<2.基材不織布へのハイドロキシアパタイト粒子固着>
(実施例1〜6)
略球状の焼成ハイドロキシアパタイト粒子(ソフセラ社製、品名:micro−SHAp、品番:IHM−100P000、粒径:4.0μm)を220℃に加熱し、160℃の気流と共に基材不織布A〜Fに吹き付けた後に放冷した。次いで、基材不織布の構成繊維間に絡んだのみであり、繊維表面に固着されていないハイドロキシアパタイト粒子をエアーにより除去した。尚、ハイドロキシアパタイト粒子の固着量は、基材不織布に吹き付けるハイドロキシアパタイト粒子の量によって調整した。この様にして、表1に示されるような、ハイドロキシアパタイト粒子が熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に固着した、実施例1〜6に係る機能性不織布を得た。
(比較例1)
また、略球状の未焼成ハイドロキシアパタイト粒子(ソフセラ社製、品名:未焼成micro−SHAp、粒径:4.0μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の製造方法にて、表1に示されるような、比較例1に係る機能性不織布を得た。
(比較例2)
略球状の焼成ハイドロキシアパタイト粒子(ソフセラ社製、品名:micro−SHAp、品番:IHM−100P000、粒径:4.0μm)を分散させた分散液を95℃に加熱し、基材不織布Gを当該分散液に10分間浸漬した。次いで、基材不織布の構成繊維間に絡んだのみであり、繊維表面に固着されていないハイドロキシアパタイト粒子を流水により除去した。この様にして、表1に示されるような、ハイドロキシアパタイト粒子が熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に固着した、比較例2に係る機能性不織布を得た。
(比較例3)
略球状の焼成ハイドロキシアパタイト粒子(ソフセラ社製、品名:micro−SHAp、品番:IHM−100P000、粒径:4.0μm)を分散させた分散液を基材不織布Aに含浸した後、乾燥機内で基材不織布Aの一部が溶融する温度(140℃)で10分間、基材不織布A全体を加熱した後に放冷することで、ハイドロキシアパタイト粒子の一部が繊維に熱融着により固着された不織布を作成した。更に、基材不織布の構成繊維間に絡んだのみであり、繊維表面に固着されていないハイドロキシアパタイト粒子をエアーにより除去した。この様にして、表1に示されるような、ハイドロキシアパタイト粒子が熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に固着した、比較例3に係る機能性不織布を得た。
(比較例4)
非球状の未焼成ハイドロキシアパタイト粒子(太平化学産業社製、品名:ヒドロキシアパタイト、粒径:5.0μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の製造方法にて、表1に示されるような、比較例4に係る機能性不織布を得た。
≪評価試験1≫
次に、準備した実施例1〜6及び比較例1〜4に係る機能性不織布を用いて、各種評価試験を行った。
<試験1>粒子のXRDスペクトル
実施例1〜6及び比較例2〜3で使用した焼成ハイドロキシアパタイト粒子と、比較例1で使用した未焼成ハイドロキシアパタイト粒子に関して、XRDを用いて下記の条件にて分析した。その結果を図3及び図4に示す。
(分析条件)
X線分析装置Mini Flex/HCM(株式会社リガク製)によって、測定を行った。測定条件は、以下の通りである。
・ターゲット:CuKα
・管電圧:30kV
・管電流:15mA
・走査範囲:5〜90°
・スキャンスピード:1.000°/分
・散乱スリット:4.2°
・受光スリット:0.3mm
図3に示すように、実施例1〜6及び比較例2〜3で使用したハイドロキシアパタイト粒子の2θ=31.8のピークでの半値幅は0.2であったことから、焼成されたものであることが確認された。一方、図4に示すように、比較例1で使用したハイドロキシアパタイト粒子はピーク分離が悪く2θ=31.8のピークでの半値幅は正確な値は算出できなかったものの約1.2であったことから、未焼成のものであることが確認された。
<試験2>アスペクト比の測定
実施例1に関して、基材不織布の構成繊維に固着されたハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比は、1.15であった。アスペクト比の測定方法としては、前述の測定方法(1)に従った。同様に、実施例2〜6及び比較例1〜3に係る機能性不織布に担持されたハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比を計測したところ、1.45以下となった。同様に、比較例4に関して、基材不織布の構成繊維に固着されたハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比を測定した結果、平均アスペクト比は1.45を超えていた。
<試験3>粒径の測定
実施例1に関して、基材不織布の構成繊維に固着されたハイドロキシアパタイト粒子の粒径は、4.42μmであった。粒径の測定方法としては、前述の測定方法(2)に従った。尚、実施例2〜6及び比較例1〜4に係る機能性不織布に担持されたハイドロキシアパタイト粒子の粒径を計測したところ、0.1μm以上10μm以下となった。
<試験4>せん断剛性試験
実施例1〜6及び比較例1〜4の機能性不織布に関して、測定方法(3)に従いせん断剛性Gを測定した。その結果を表2に示す。
<試験5>風合い官能試験
また、実施例1〜6及び比較例1〜4の機能性不織布について、モニター10人により、肌に触れた時の風合いを評価した。評価は、各モニターに機能性不織布の風合いについて、ソフト若しくはハードの何れかを選択回答してもらい、ソフトと回答した人数により、評価を行った。その結果を表2に示す。
<試験6>肌触り官能試験
ハイドロキシアパタイト粒子の違いによる肌触りの違いを確認するために、実施例1、比較例1及び比較例4の機能性不織布について、モニター10人により、肌に触れた時の肌触りを評価した。評価は下記の評価基準に従って5段階で点数化し、採点を行った。結果を表3に示す。
5点 良い(肌触りが良い)
4点 やや良い(肌触りが良い)
3点 どちらでもない(肌触りが良くも悪くもない)
2点 やや悪い(肌触りがあまり良くない)
1点 悪い(肌触りが悪い)
<試験7>静摩擦試験
ハイドロキシアパタイト粒子の焼成、未焼成の違いによる、静摩擦係数と肌触りとの関係を確認するために、実施例1及び比較例1の機能性不織布について、測定方法(4)に従い機能性不織布表面の静摩擦係数を測定した。その結果を表4に示す。
≪評価結果≫
表2より、比較例2及び3に係る機能性不織布は、せん断剛性値Gが8.5gf/cm・degを超えるものとなった。比較例2及び3に係る機能性不織布の製法、即ち、ハイドロキシアパタイトの固着方法として、基材不織布全体を加熱する工程が含まれる方法、特に、基材不織布を形成する繊維の少なくとも一部が融着する温度で基材不織布全体を加熱するような工程が含まれる方法(比較例3)では、繊維同士が融着した結果、基材不織布の柔らかさ(ソフトな風合い)が失われてしまったものと考えられる。
また、同表で示された風合い(柔らかさ)官能試験より、せん断剛性値Gが8.5gf/cm・deg以下である実施例1〜6に係る機能性不織布は、風合いに優れると判断された。対して、せん断剛性値Gが8.5gf/cm・degを超えた比較例2(9.3gf/cm・deg)及び比較例3(13.5gf/cm・deg)に関しては、風合いに劣ると判断された。このように、せん断剛性値Gが高い場合には、風合いに優れず、人の皮膚や粘膜等に使用した際等の使用感にも悪影響を及ぼすと考えられる。
表3の結果から、焼成ハイドロキシアパタイト粒子が固着した実施例1に係る機能性不織布は、未焼成ハイドロキシアパタイト粒子が固着した比較例1に係る機能性不織布及び比較例4に係る機能性不織布よりも、肌触りに優れることがわかる。同様に、表4の結果から、焼成されたハイドロキシアパタイト粒子が固着されていることにより、未焼成であるハイドロキシアパタイト粒子が固着されたものと比較し、機能性不織布の静摩擦係数が低減されていることがわかる。これは、比較例1に係る機能性不織布においては、摩擦試験中に、未焼成であるハイドロキシアパタイトが負荷により崩壊し、粒子が機能性不織布から脱落され易くなるため、当該粒子が研磨成分として働き、結果的に摩擦係数が高くなったものと推測される。従って、表3の結果と合わせて、本実施例に係る機能性不織布を、特に人の皮膚や粘膜等の摩擦に弱い箇所に対して、例えば払拭用途として用いた場合には、払拭対象に傷をつけ難く、肌触りの優れる実施例1、即ち、焼成したハイドロキシアパタイト粒子を用いた機能性不織布が好ましいことがわかる。尚、ここで、表3の結果から、略球状のハイドロキシアパタイト粒子を用いた比較例1と非球状のハイドロキシアパタイト粒子を用いた比較例4とを対比すると、比較例4の方が比較例1よりも肌触りに劣る結果となった。そのため、ハイドロキシアパタイト粒子は略球状であるのが好ましいことがわかる。
[第2実施例]
≪機能性不織布の準備≫
次の手順に従い機能性不織布を準備した。
1.基材不織布の準備
2.基材不織布へのハイドロキシアパタイト粒子固着
以下、それぞれに関して順次説明する。
<1.基材不織布の準備>
(基材不織布の準備)
ポリプロピレン(融点160℃)繊維(繊度2.2dtex(約19μm)、繊維長51mm、繊維断面形状:円状)70質量%、レーヨン(分解点310℃)繊維(繊度1.7dtex(短径約8μm〜長径約11μm)、繊維長40mm、繊維断面形状:やや扁平で溝のある楕円状)25質量%、ポリエチレン(融点130℃)/ポリプロピレン(融点160℃)芯鞘型複合繊維(繊度1.7dtex(約17μm)、繊維長51mm、繊維断面形状:円状(同心円状))5質量%を混合した後、カード機によって目付60g/mであるウェブcを作製した。
次いで、ウェブcに対して水流絡合処理を施し、目付60g/m、厚さ0.58mmの基材不織布(基材不織布1310−2A)を得た。図5に基材不織布1310−2AのSEM画像を示す。
<2.基材不織布へのハイドロキシアパタイト粒子固着>
略球状の焼成ハイドロキシアパタイト粒子(ソフセラ社製、品名:micro−SHAp、品番:IHM−100P000、Lot.:120228SC006(S)粒径:4.0μm、粒径分布の半値幅:15μm、20μm以上の粒子の比率:1.6体積%、1μm以下の粒子の比率:0体積%、図6参照)を220℃に加熱し、160℃の気流と共に基材不織布1310−2Aの片面に吹き付けた後に放冷した。次いで、基材不織布の構成繊維間に絡んだのみであり、繊維表面に固着されていないハイドロキシアパタイト粒子をエアーにより除去した。尚、ハイドロキシアパタイト粒子の固着量は、基材不織布に吹き付けるハイドロキシアパタイト粒子の量によって調整した。この様にして、表5に示されるような、ハイドロキシアパタイト粒子が熱可塑性樹脂からなる繊維の表面に固着した、実施例Iに係る機能性不織布(機能性不織布1310−2A−1.2)及び実施例IIに係る機能性不織布(機能性不織布1310−2A−2.5)を得た。尚、実施例1に係る機能性不織布(機能性不織布1310−2A−1.2)は、ハイドロキシアパタイトの固着量が、1.2g/m(測定方法(b−1)による、尚、測定方法(b−2)においても同様の結果となった)、せん断剛性は6.3gf/cm・deg、ハイドロキシアパタイトの固着に関与しない繊維本数の比率は40本数%、ハイドロキシアパタイトが特に高密度に固着した繊維本数の比率は9本数%で、これらの繊維に対するハイドロキシアパタイトの面積比率は62%であり、実施例IIに係る機能性不織布(機能性不織布1310−2A−2.5)は、ハイドロキシアパタイトの固着量が、2.5g/m(測定方法(b−1)による、尚、測定方法(b−2)においても同様の結果となった)、せん断剛性は6.4gf/cm・deg、ハイドロキシアパタイトの固着に関与しない繊維本数の比率は40本数%、ハイドロキシアパタイトが特に高密度に固着した繊維本数の比率は9本数%で、これらの繊維に対するハイドロキシアパタイトの面積比率は79%である。いずれの機能性不織布でも、ハイドロキシアパタイトが吹き付けられた面(主面となる)に、ハイドロキシアパタイト粒子がやや多く偏在しており、反対面ではハイドロキシアパタイト粒子がやや少ない状態であった。図7に実施例IIに係る機能性不織布のSEM画像を示す。
≪評価試験2≫
次に、ハイドロキシアパタイトを担持しない不織布1310−2Aを比較例Iとし、準備した実施例I〜II及び比較例Iに係る機能性不織布を用いて、各種評価試験を行った。
尚、実施例I〜IIに用いたハイドロキシアパタイト粒子は、第1実施例の実施例1〜6と同様である{図3に示すように、XRDスペクトル回析は、2θ=31.8のピークでの半値幅は0.2であり、焼成されたものである}。
<試験2−1>表面光沢性試験
実施例I〜II及び比較例Iに係る機能性不織布を用いて、研磨後の被研削体の光沢を測定した(研磨による表面光沢性を確認した)。
(評価方法)
・被研削体の準備
被研削体として、メタフィルC(歯科充填用コンポジットレジン)A2(Lot.LR1 3cmφ×0.5mmt)を0.02mmPEフィルムでサンドイッチし、光重合器:αライトIIで1.5分間、2回ずつ表面と裏面に照射し、被研削体1を作成した。さらに、被研削体として、EPIC−TMPT(歯科充填用コンポジットレジン)A2(Lot.MR1 3cmφ×0.5mmt)も上記と同様に硬化させ、被研削体2を形成した。♯600耐水研磨紙(三共理化学株式会社製FUJISTAR)の新鮮面で、下にキムタオルを敷いて研磨し、研磨面をしめったキムタオルで拭き、その後乾燥させた。
上記2種類の被研削体についてGLOSS Checker IG−331(株式会社堀場製作所)により、60°において光沢を測定した。尚、測定角度を90°ずつ回転させて4回とも光沢が3となるように研磨した(図8)。
・不織布による研磨
四つ折りにしたキムタオルに水を10ml滴下し、その上に不織布を置き、水をさらに10ml滴下した。1.4kgの重りに被研削体を貼り付け、布全体を円を描くように研磨した(図8)。20回研磨するごとに重りの角度を変更し、計200回、研磨を行った。
・光沢測定
被研削体を湿ったキムタオルで拭き取った後、乾燥したキムタオルで拭き取りし、GLOSS Checker IG−331(株式会社堀場製作所)により、60°において光沢を測定した。測定結果を表5、表6にそれぞれ示す。尚、表5は被研削体1に関する測定結果であり、表6は被研削体2に関する測定結果である。
<試験2−2>歯面清掃試験
次に、表7に示すように、実施例IIに係る機能性不織布を用いて、歯面清掃試験を行い、次いで、歯面清掃の前後において機能性不織布表面のSEM画像を観察した。
(評価方法)
実施例IIの機能性不織布(HAP担持)を用いて歯を磨いた(歯面清掃試験1)。また、歯ブラシで良く歯を磨いた後に同様に実施例IIの機能性不織布(HAP担持)を用いて歯を磨いた(歯面清掃試験2)。破面清掃試験1及び歯面清掃試験2を行った後のそれぞれの不織布を粉末観察用ペーストの上に固定し、200秒間の白金蒸着後、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)で加速電圧3kVにて観察した。
図9に歯ブラシを未使用の場合(歯面清掃試験1)の観察結果、図10に歯ブラシ使用後の場合(歯面清掃試験2)の観察結果を示す。図11に歯面清掃試験1と歯面清掃試験2の清掃試験後の比較結果を示す。
≪評価結果≫
<評価結果2−1>
表5より、ハイドロキシアパタイトの担持した機能性不織布(実施例I及び実施例IIに係る不織布)の方が、未担持のものよりも、被研削体をメタフィルC(被研削体1)とした研磨後の表面光沢が適度に高くなった。また、2.5g/mである実施例IIと、未担持の比較例Iとの間には、有意差(t検定:2.397≧2.145)が認められた。尚、t検定は、母平均の差の検定(JUSE−StatWorks/v5)の検定方法を用いた。
被研削体をEPIC−TMPT(被研削体2)とした場合にも、同様の結果が認められた。
<評価結果2−2>
先ず、ハイドロキシアパタイトを未担持の場合は表面がつるつるしているのに対し(図5)、ハイドロキシアパタイトを担持した実施例IIにおいては、表面はざらざらした状態となっていることが確認できる(図7)。
次に、図9より、歯ブラシを未使用の場合(歯面清掃試験1)、ハイドロキシアパタイト担持不織布(実施例IIに係る機能性不織布)で歯を磨くと、ハイドロキシアパタイトが担持されたファイバーに対して、優先的に汚れが付着することを確認した。この汚れは糸引きの激しい、納豆のような形態であった。
また、図10より、歯ブラシ使用後の場合(歯面清掃試験2)、ハイドロキシアパタイト担持不織布(実施例IIに係る機能性不織布)で歯を磨いても、ハイドロキシアパタイトが担持されたファイバーに対して汚れが付着することが確認できた。この汚れは、若干固形分が多いような観察結果であった。
このように、本発明に係る機能性不織布によれば、優れた菌吸着性を発揮した。
尚、当該試験にて、本発明に係る機能性不織布は、風合いや肌触り等の使用感が優れたものであることを確認した。
また、ハイドロキシアパタイトが未担持のもの、焼成していないハイドロキシアパタイトを担持したもの及びハイドロキシアパタイトの固着量が20g/mを超えるものについては、上記のような優れた効果を得ることができなかった。

Claims (7)

  1. 少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維を含む不織布の表面に、0.1〜20g/mにて焼成ハイドロキシアパタイト粒子が熱融着により固着した口腔清掃用不織布であって、
    前記口腔清掃用不織布のせん断剛性が、8.5gf/cm・deg以下である
    ことを特徴とする、口腔清掃用不織布。
  2. 前記不織布の繊維を100本数%とした際に、焼成ハイドロキシアパタイト粒子の固着に関与しない繊維を2〜98本数%含むことを特徴とする請求項1記載の口腔清掃用不織布。
  3. 前記不織布の目付が10〜500g/mであることを特徴とする請求項1又は2記載の口腔清掃用不織布。
  4. 前記不織布の外表面側から観察した際に、繊維面積の5%以上が焼成ハイドロキシアパタイト粒子によって覆われている繊維を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の口腔清掃用不織布。
  5. 前記焼成ハイドロキシアパタイト粒子の、X線回折(CuKα線)における2θ=32°付近(300)面のピークの半値幅が0.8以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の口腔清掃用不織布。
  6. 前記焼成ハイドロキシアパタイト粒子の体積比率での粒径分布の半値幅が25μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の口腔清掃用不織布。
  7. 前記焼成ハイドロキシアパタイト粒子全体を100体積%とした際に、粒径20μm以上の粒子は10体積%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の口腔清掃用不織布。
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