以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。
また、以下の説明において、「搬送方向」とは、別に断らない限り、樹脂フィルム及び位相差フィルムの搬送方向を指し、「幅方向」とは、別に断らない限り、樹脂フィルム及び位相差フィルムの幅方向を指す。
また、以下の説明において、フィルムの正面レターデーションは、別に断らない限り、(nx−ny)×dで表される値である。ここで、nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、550nmとする。
さらに、以下の説明において、要素の方向が「平行」及び「垂直」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
[1.第一実施形態]
〔1.1.テンター装置の構成の説明〕
図1は、本発明の第一実施形態に係る製造方法で用いるテンター装置100を模式的に示す平面図である。図1において、オーブン110は一点鎖線で示す。
本発明の第一実施形態に係る製造方法では、図1に示すテンター装置100を用いて、熱可塑性樹脂からなる長尺の樹脂フィルム10を延伸することで、長尺の位相差フィルム20を製造する。
図1に示すように、テンター装置100は、オーブン110と、ガイドレール120R及び120Lと、固定具としてのクリップ130R及び130Lと、固定機としてのクリップクローザー140R及び140Lと、開放機としてのクリップオープナー150R及び150Lとを備える。
オーブン110は、その入口111を通して樹脂フィルム10を取り込み、その出口112を通して樹脂フィルム10を送り出すために、樹脂フィルム10の搬送路を覆うように設けられている。
また、このオーブン110は、その内部に隔壁113及び114を備えている。そして、これらの隔壁113及び114によって、オーブン110内の空間は、搬送方向の上流から順に、予熱室115、延伸室116及び緩和室117に区画されている。
オーブン110は、前記の予熱室115、延伸室116及び緩和室117の温度を、所望の温度に調整可能に設けられている。そのため、オーブン110は、オーブン110内を通過する樹脂フィルム10の温度を、予熱室115、延伸室116及び緩和室117のそれぞれで独立して、所望の温度に加熱しうる構成を有している。
ガイドレール120R及び120Lは、クリップ130R及び130Lを案内するためのレールであって、樹脂フィルム10の搬送路の両側に、対に設けられている。具体的には、一方のクリップ130Rを案内するためのガイドレール120Rが、樹脂フィルム10の搬送路の片側に設けられ、他方のクリップ130Lを案内するためのガイドレール120Lが、樹脂フィルム10の搬送路のもう片側に設けられている。
ガイドレール120Rは、樹脂フィルム10の端部11Rを固定して走行するクリップ130Rを案内しうる内側軌道部121Rと、内側軌道部121Rを走行し終えたクリップ130Rを搬送方向の上流に戻すための外側軌道部122Rとを含む無端状の連続軌道を有している。また、ガイドレール120Lは、樹脂フィルム10の端部11Lを固定して走行するクリップ130Lを案内しうる内側軌道部121Lと、内側軌道部121Lを走行し終えたクリップ130Lを搬送方向の上流に戻すための外側軌道部122Lとを含む無端状の連続軌道を有している。そのため、ガイドレール120R及び120Lは、これらのガイドレール120R及び120Lが有する所定の軌道をクリップ130R及び130Lに周回させうる構成を有している。
さらに、ガイドレール120R及び120Lは、オーブン110内の延伸室116において、ガイドレール120R及び120Lの間隔Wが下流ほど広くなる延伸区間160を有している。ここで、ガイドレール120R及び120Lの間隔Wとは、一方のガイドレール120Rの内側軌道部121Rと、もう一方のガイドレール120Lの内側軌道部121Lとの、樹脂フィルム10の幅方向における距離のことをいう。また、この延伸区間160よりも搬送方向の上流では、ガイドレール120R及び120Lは、延伸前の樹脂フィルム10の幅に対応した一定の間隔Wを有するように設けられている。さらに、この延伸区間160よりも搬送方向の下流では、ガイドレール120R及び120Lは、樹脂フィルム10を延伸して得られる位相差フィルム20の幅に対応した一定の間隔Wを有するように設けられている。
クリップ130Rは、樹脂フィルム10の幅方向の一方の端部11Rを把持することで固定しうるように設けらえている。また、クリップ130Lは、樹脂フィルム10の幅方向の他方の端部11Lを把持することで固定しうるように設けられている。したがって、テンター装置100においては、これらのクリップ130R及び130Lが、樹脂フィルム10の幅方向の両端部11R及び12Lを固定しうる構成を有している。
また、クリップ130R及びクリップ130Lは、図示しない駆動装置に駆動されて、それぞれガイドレール120R及び120Lに沿って走行しうるように設けられている。そのため、クリップ130R及びクリップ130Lは、樹脂フィルム10の幅方向の両端部11R及び11Lを固定した状態で、ガイドレール120R及び120Lの内側軌道部121R及び内側軌道部121Lに沿って走行しうる構成を有する。ここで、前述のように、オーブン110内の延伸区間160においてガイドレール120R及び120Lの間隔Wは、下流ほど広くなるように設定されている。このため、クリップ130R及びクリップ130Lは、オーブン110を通過するように樹脂フィルム10を搬送しながら、オーブン110内の延伸区間160において樹脂フィルム10を幅方向に延伸しうる構成を有している。
クリップクローザー140R及び140Lは、クリップ130R及び130Lに延伸前の樹脂フィルム10の両端部11R及び11Lを把持させることで固定させる器具であり、オーブン110の入口111よりも上流に設けられている。したがって、クリップクローザー140R及び140Lは、樹脂フィルム10がオーブン110に入る前に、クリップ130R及び130Lに樹脂フィルム10の両端部11R及び11Lを固定させうる構成を有する。
クリップオープナー150R及び150Lは、クリップ130R及び130Lに延伸後の樹脂フィルム10の両端部11R及び11Lを開放させる器具であり、オーブン110の出口112よりも下流に設けられている。したがって、クリップオープナー150R及び150Lは、樹脂フィルム10がオーブン110から出た後で、クリップ130R及び130Lに樹脂フィルム10を開放させうる構成を有している。
上述したテンター装置100を用いて樹脂フィルム10から位相差フィルム20を製造する場合、延伸前の樹脂フィルム10を、テンター装置100に供給する。供給された樹脂フィルム10がクリップクローザー140R及び140Lまで搬送されると、クリップクローザー140R及び140Lがクリップ130R及び130Lに樹脂フィルム10の両端部11R及び11Lを固定させる。その後、樹脂フィルム10は、両端部11R及び11Lをクリップ130R及び130Lに固定された状態で、オーブン110を通過するように搬送される。
入口111を通ってオーブン110内に入った樹脂フィルム10は、予熱室115において所定の予熱温度に加熱される。
その後、所定の予熱温度に加熱された樹脂フィルム10は、延伸室116へ搬送される。延伸室116では、樹脂フィルム10は、樹脂フィルム10に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以上の延伸温度に加熱された状態で搬送されながら、クリップ130R及び130Lによって幅方向に延伸される。
その後、延伸された樹脂フィルム10は、緩和室117に搬送される。緩和室117内の温度は、延伸温度よりも低い所定の緩和温度に設定されている。そのため、樹脂フィルム10は、緩和室117において、所定の緩和温度に冷却され、且つ、当該樹脂フィルム10の幅を規制した状態に保持されながら搬送され、出口112を通ってオーブン110の外に送出される。ここで、樹脂フィルム10の幅を規制した状態とは、樹脂フィルム10の幅を一定に保った状態のことをいう。また、前記の緩和温度は、通常、緩和室117内の所望の位置118に到達するまでに、樹脂フィルム10を当該樹脂フィルム10に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以下にまで冷却しうる温度に設定される。以下、前記の位置118を、適宜「基準位置」と呼ぶことがある。したがって、搬送方向においてこの基準位置118よりも下流では、樹脂フィルム10の温度は、当該樹脂フィルム10に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以下になっている。
オーブン110から出た後で、樹脂フィルム10は、当該樹脂フィルム10の幅を規制した状態を保持したままで搬送される。このように搬送される期間に樹脂フィルム10は常温の大気に晒されるので、樹脂フィルム10の温度は放熱によって更に低下する。そして、樹脂フィルム10がクリップオープナー150R及び150Lまで搬送されると、クリップオープナー150R及び150Lがクリップ130R及び130Lに樹脂フィルム10を開放させるので、樹脂フィルム10は、当該樹脂フィルム10の幅を規制した状態から開放される。開放された樹脂フィルム10には、延伸によってレターデーションが発現している。したがって、このように樹脂フィルム10の幅を規制した状態から開放された樹脂フィルム10が、位相差フィルム20として得られる。
また、樹脂フィルム10を開放したクリップ130R及び130Lは、ガイドレール120R及び120Lの外側軌道部122R及び122Lに沿って走行することにより、順次、クリップクローザー140R及び140Lに戻される。
〔1.2.準備工程〕
本発明の第一実施形態に係る製造方法では、前記のテンター装置100で位相差フィルム20を製造しながら、位相差フィルム20の幅方向の複数の測定領域において配向角θを測定し、その中から配向角θが所望の範囲から外れている測定領域を特定領域として特定する準備工程を行う。この準備工程においては、オーブン110内の延伸室116における延伸が終わってから、クリップ130R及び130Lから開放されるまでの工程(II)における樹脂フィルム10の温度以外は、後述する製造工程と同様にして位相差フィルム20を製造する。
図2は、位相差フィルム20の配向角θを説明するため、位相差フィルム20の例を模式的に示す平面図である。位相差フィルム20の配向角θとは、図2に示すように、位相差フィルム20の面内方向において、位相差フィルム20に含まれる分子の配向軸AOが、位相差フィルム20の基準軸ATDに対してなす角をいう。
位相差フィルム20を構成する樹脂の固有複屈折が正である場合、通常、位相差フィルム20に含まれる分子の配向軸AOは、位相差フィルム20の面内の遅相軸方向と平行な軸である。また、位相差フィルム20を構成する樹脂の固有複屈折が負である場合、通常、位相差フィルム20に含まれる分子の配向軸AOは、位相差フィルム20の面内の遅相軸方向と垂直な軸である。
さらに、本実施形態では、幅方向と平行な配向軸AOを有する位相差フィルム20を製造するための方法を例に示して説明する。そこで、本実施形態では、位相際フィルム20の幅方向に平行な基準軸ATDを設定し、この基準軸ATDに対して配向軸AOがなす角を、配向角θという。この配向角θは、位相差フィルム20の遅相軸方向の情報を含んでいる。そのため、配向角θにより、位相差フィルム20の遅相軸方向を評価することができる。
また、本実施形態では、位相差フィルム20の一方の面を見たときに、位相差フィルム20の基準軸ATDに対して配向軸AOが、反時計回りになす角度をプラス、時計回りになす角度をマイナスとし、配向角θは−90°≦θ≦+90°の範囲にあるとして説明する。
本実施形態のように樹脂フィルム10を幅方向に延伸して得られる位相差フィルム20では、延伸時に幅方向に張力がかけられる。したがって、位相差フィルム20に含まれる分子は幅方向に配向するので、理想的には、分子の配向軸AOと位相差フィルム20の幅方向とは平行となり、配向角θはゼロになるはずである。しかし、現実の製造現場では、前記の配向角θには幅方向でバラつきが生じる。
前記のように配向角θにバラつきが生じる場合の態様について説明する。図3及び図4は、それぞれ、位相差フィルム20の配向角θのバラつきの態様を説明するため、位相差フィルム20の例を模式的に示す平面図である。
図3及び図4に示すように、位相差フィルム20の測定地点PXにおける配向軸を考える。このとき、当該測定地点PXを通り且つ基準軸ATDに平行な基準線LTDを設定すると、測定地点PXにおける配向軸は、基準線LTDに対して配向角θをなす。ここで、位相差フィルム20上に、測定地点PXを通り、且つ、その測定地点PXでの配向軸に平行な線分LXを引いた場合、測定地点PXにおける配向の方向は、前記の線分LXによって表すことができる。
例えば図3に示すように、搬送方向の上流から下流を見て、位相差フィルム20の幅方向の中央よりも右側の測定地点PXでは配向角θがプラスの値となる配向、及び、位相差フィルム20の幅方向の中央よりも左側の測定地点PXでは配向角θがマイナスの値となる配向を、適宜、「ボーイング配向」ということがある。このボーイング配向を有する測定地点PXにおける配向軸は、例えば図3に示すように、配向の方向を示す線分LXの端点PL1が基準線LTDよりも搬送方向下流となる方向に、生じている。ここで、端点PL1とは、線分LXの2つの端点PL1及びPL2のなかで、位相差フィルム20の幅方向の端部21R及び21Lのうち測定地点PXに近い方の端部21R又は21L側の端点を指す。
また、例えば図4に示すように、搬送方向の上流から下流を見て、位相差フィルム20の幅方向の中央よりも右側の測定地点PXでは配向角θがマイナスの値となる配向、及び、位相差フィルム20の幅方向の中央よりも左側の測定地点PXでは配向角θがプラスの値となる配向を、適宜、「逆ボーイング配向」ということがある。この逆ボーイング配向を有する測定地点PXにおける配向軸は、例えば図4に示すように、配向の方向を示す線分LXの端点PL1が基準線LTDよりも搬送方向上流となる方向に、生じている。
位相差フィルム20における配向角θのバラつきは、位相差フィルム20の幅方向において、通常、前記のボーイング配向及び逆ボーイング配向の一方又は両方の組み合わせによって生じる。そこで、準備工程では、位相差フィルム20の配向角θを測定することにより、遅相軸方向が所望の方向から外れている幅方向の位置を調べ、更に、位相差フィルム20の幅方向のどこでボーイング配向及び逆ボーイング配向が生じているかを特定する。
図5は、本発明の第一実施形態に係る製造方法で用いるテンター装置100を模式的に示す平面図である。図5において、オーブン110は一点鎖線で示す。
図5に示すように、準備工程は、位相差フィルム20の配向角θを、位相差フィルム20の幅方向の複数の測定領域22〜25で測定する工程(IV)を含む。具体的には、工程(IV)では、クリップ130R及び130Lから開放された位相差フィルム20に、幅方向に複数の測定領域22〜25を設定する。そして、これらの測定領域22〜25それぞれの遅相軸方向を測定し、測定された遅相軸方向から配向角θを求める。
また、準備工程は、前記の工程(IV)の後で、測定領域22〜25のうちで目標範囲から外れた配向角θを有する特定領域を特定する工程(V)を含む。前記の目標範囲は、位相差フィルム20において許容できる遅相軸方向の精度を定める範囲であり、例えば−4°〜+4°の範囲、−1°〜+1°の範囲、などを設定しうる。
本実施形態では、工程(IV)において、位相差フィルム20の端部21Rに最も近い測定領域22で目標範囲を外れたマイナスの配向角θが測定され、位相差フィルム20の端部21Lに最も近い測定領域25で目標範囲を外れたプラスの配向角θが測定され、それ以外の測定領域23及び24では目標範囲内の配向角θが測定された例を示して説明する。したがって、工程(V)では、位相差フィルム20の両端部21R及び21Lに近い測定領域22及び25が、目標範囲から外れた配向角θを有する特定領域として特定される。また、測定された配向角θから、測定領域22及び25では配向軸A22及びA25が位相差フィルム20の幅方向に平行でなくなっており、逆ボーイング配向が生じていることが分かる。また、測定領域22及び25以外の測定領域23及び24は、目標範囲内の配向角θを有しており、その配向軸A23及びA24は位相差フィルム20の幅方向に平行になっている。
〔1.3.位相差フィルムの製造装置〕
図6及び図7は、本発明の第一実施形態に係る製造方法で用いる製造装置1を模式的に示す平面図である。図6において、測定領域22及び25には、斜線を付して示す。また、図7において、オーブン110並びに保温板170R及び170Lは、一点鎖線で示す。さらに、図7において、測定領域22及び25並びに調整領域181R及び181Lには、斜線を付して示す。
図6に示すように、前記の準備工程の後で、幅方向における遅相軸方向が均一な位相差フィルム20を製造するための製造装置1を用意する。この製造装置1は、上述したテンター装置100に、調温装置としての保温板170R及び170Lを設けた構成を有する。
保温板170R及び170Lは、開放前領域180に、樹脂フィルム10に当該樹脂フィルム10の幅方向において温度差を設けうるように設けられている。ここで、開放前領域180とは、樹脂フィルム10の搬送路において、オーブン110の出口112とクリップオープナー150R及び150Lとの間の領域をいう。
具体的には、図7に示すように、保温板170R及び170Lは、搬送方向における位置が同じである調整領域181R及び181L並びに領域181Cのうち、調整領域181R及び181Lを選択的に覆い、調整領域181R及び181L以外の領域181Cを覆わないように設けられている。ここで、調整領域181R及び181Lは、工程(V)で特定領域として特定された測定領域22及び25に対応する領域をいう。また、調整領域181R及び181Lが測定領域22及び25に対応する、とは、調整領域181R及び181Lを通って搬送された樹脂フィルム10の部分が、位相差フィルム20となったときに測定領域22及び25を通ることをいう。したがって、本実施形態に示す例では、測定領域22及び25の丁度上流にある開放前領域180内の領域が、調整領域181R及び181Lである。
保温板170R及び170Lは、熱を遮断しうる板状部材であり、例えば、樹脂製の段ボールシートを用いうる。この保温板170R及び170Lは、放熱による樹脂フィルム10の温度低下を妨げうる。このため、保温板170R及び170Lによって、調整領域181R及び181Lにおける樹脂フィルム10の温度を、保温板170R及び170Lが設けられていない場合よりも高温となるように調整しうる。
また、開放前領域180内の調整領域181R及び181L以外の領域181Cでは、保温板170R及び170Lによっては放熱は妨げられない。このため、開放前領域180内の調整領域181R及び181L以外の領域181Cでは、準備工程と同様に、樹脂フィルム10の温度は放熱によって低下する。
したがって、保温板170R及び170Lが設けられたことにより、開放前領域180では、樹脂フィルム10の幅方向において温度差が設けられうる。具体的には、調整領域181R及び181Lでの樹脂フィルム10の温度が、それ以外の領域181Cでの樹脂フィルム10の温度よりも高くなりうる。
このように、製造装置1は、開放前領域180での樹脂フィルム10の温度を幅方向において部分的に調整することにより、樹脂フィルム10に幅方向において温度差を設けうる構成を有する。後述する製造工程では、この構成によって、準備工程において位相差フィルム20に生じていた幅方向における遅相軸方向のバラつきを低減して、幅方向における遅相軸方向が均一な位相差フィルム20を製造する。
〔1.4.製造工程〕
前記のような製造装置1を用意した後で、幅方向における遅相軸方向が均一な位相差フィルム20を製造するため、位相差フィルム20の製造工程を行う。この製造工程では、図6及び図7に示すように、樹脂フィルム10を長手方向に搬送しながら延伸して、位相差フィルム20を連続的に製造する。
具体的には、製造工程では、延伸前の樹脂フィルム10を、製造装置1に供給する。樹脂フィルム10を供給された製造装置1は、樹脂フィルム10を長手方向に搬送する。そして、樹脂フィルム10がクリップクローザー140R及び140Lまで搬送されると、樹脂フィルム10の幅方向の両端部11R及び11Lを、クリップ130R及び130Lが固定する。その後、樹脂フィルム10は、クリップ130R及び130Lで両端部11R及び11Lを固定された状態で、入口111を通ってオーブン110内の予熱室115に入る。予熱室115において、樹脂フィルム10は、所定の予熱温度に加熱される。
前記の予熱温度は、後述する工程(I)での延伸温度を基準として、好ましくは「延伸温度−40℃」以上、より好ましくは「延伸温度−30℃」以上であり、好ましくは「延伸温度+20℃」以下、より好ましくは「延伸温度+15℃」以下である。
予熱室115を通った後、樹脂フィルム10は、延伸室116へと搬送される。
延伸室116へと搬送されてきた樹脂フィルム10は、延伸室116内に設けられた延伸区間160で当該樹脂フィルム10の幅方向に延伸される工程(I)を施される。この工程(I)により、樹脂フィルム10においては分子が配向して、位相差が生じる。
工程(I)での延伸温度は、樹脂フィルム10に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以上に設定される。このとき、具体的な延伸温度は、所望の正面レターデーションReが得られるように設定しうる。例えば、樹脂フィルム10に含まれる樹脂のガラス転移温度Tgを基準として、樹脂フィルム10の延伸温度は、好ましくはTg以上、より好ましくはTg+5℃以上、特に好ましくはTg+10℃以上であり、好ましくはTg+40℃以下、より好ましくはTg+30℃以下、特に好ましくはTg+25℃以下に設定しうる。延伸温度を前記温度範囲に収めることにより、位相差フィルム20が所望の正面レターデーションReを安定して有することができる。
樹脂フィルム10の工程(I)での延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.3倍以上、特に好ましくは1.5倍以上であり、好ましくは6.0倍以下、より好ましくは5.5倍以下、特に好ましくは5.0倍以下である。延伸倍率を前記範囲に収めることにより、位相差フィルム20が所望の面内レターデーションReを安定して有することができる。
工程(I)での延伸の後、樹脂フィルム10は、オーブン110の緩和室117を搬送され、出口112を通ってオーブン110の外に送り出され、その後、開放前領域180を通る。これらのとき、延伸後の樹脂フィルム10には、当該樹脂フィルム10の幅を規制した状態に保持される工程(II)が施される。工程(II)により、樹脂フィルム10の分子配向は安定化されて、延伸によって発現した光学特性(レターデーション等)が樹脂フィルム10に固定されるので、所望の位相差フィルム20が得られる。
工程(II)における樹脂フィルム10の幅は、工程(I)における延伸完了時の樹脂フィルム10の幅と同じに設定してもよく、工程(I)における延伸完了時の樹脂フィルム10の幅より小さくしてもよい。例えば、工程(II)における樹脂フィルム10の幅は、工程(I)における延伸完了時の樹脂フィルム10の幅の、0.98倍以上1.00倍以下に設定しうる。
また、前記の工程(II)は、樹脂フィルム10を、樹脂フィルム10に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以下に冷却する工程(II−1)を含む。本実施形態では、この工程(II−1)は、オーブン110の緩和室117において行われる。
具体的には、工程(I)で延伸された樹脂フィルム10は、緩和室117において、樹脂フィルム10の幅を規制した状態に保持されながら、所定の緩和温度で冷却される。その結果、樹脂フィルム10は、緩和室117内を搬送されるときに冷却され、基準位置118に到達するまでに、樹脂フィルム10に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以下に冷却される。
さらに、前記の工程(II)は、工程(V)で特定領域として特定された測定領域22及び25での位相差フィルム20の配向角θを目標範囲に収めるように、樹脂フィルム10のガラス転移温度Tg以下の温度を有する樹脂フィルム10に、樹脂フィルム10の幅方向において温度差を設ける工程(II−2)を含む。この工程(II−2)は、樹脂フィルム10のガラス転移温度Tg以下の温度を有する樹脂フィルム10に対して行われるので、搬送方向において基準位置118よりも下流で行われる。本実施形態では、工程(II−2)は、オーブン110の外の開放前領域180で行われる。
具体的には、開放前領域180の調整領域181R及び181Lをそれぞれ覆う保温板170R及び170Lにより、調整領域181R及び181Lでの樹脂フィルム10の温度が、調整領域181R及び181L以外の領域181Cでの樹脂フィルム10の温度よりも高温になるように、調整される。そのため、開放前領域180では、樹脂フィルム10の幅方向において温度差が設けられる。このように温度差が設けられたことにより、調整領域181R及び181Lを通る樹脂フィルム10の部分の配向は、ボーイング配向に近づくように変化する一方、それ以外の領域を通る樹脂フィルム10の部分の配向は変化しない。
その後、樹脂フィルム10は、クリップオープナー150R及び150Lまで搬送され、クリップ130R及び130Lから開放される。これにより、樹脂フィルム10は当該樹脂フィルム10の幅を規制した状態から開放され、位相差フィルム20を得る工程(III)が行われる。
図8は、本発明の第一実施形態に係る製造方法で用いる製造装置1を模式的に示す平面図である。工程(II−2)において設けられた温度差により、調整領域181R及び181Lを通る樹脂フィルム10の部分の配向が、ボーイング配向に近づくように変化したので、図8に示すように、位相差フィルム20の測定領域22及び25での逆ボーイング配向は解消される。そのため、測定領域22及び25での位相差フィルム20の配向角θは、目標範囲に収まる。また、測定領域23及び24でも、準備工程と同様、配向角θは目標範囲に収まる。よって、測定領域22〜25の全てにおいて、配向軸A22〜A25を位相差フィルム20の幅方向に平行にできるので、位相差フィルム20の幅方向における遅相軸方向のバラつきを低減することができる。
したがって、上述した製造方法により、幅方向における遅相軸方向が均一な位相差フィルム20を製造できる。
前記の工程(II−2)において設ける幅方向における温度差の大きさは、幅方向での配向角θのバラつきの大きさに応じて設定できる。前記の温度差の大きさは、例えば、通常1.0℃以上、好ましくは1.5℃以上、より好ましくは2.0℃以上、また、通常20℃以下、好ましくは15℃以下、より好ましくは10℃以下の範囲で設定しうる。ここで、温度差の大きさとは、幅方向に温度差を設けられた樹脂フィルム10の領域における、最高温度と最低温度との差のことをいう。
また、本実施形態のように、調整領域181R及び181Lでの樹脂フィルム10の温度を、準備工程における温度から工程(II−2)における温度へと変更する場合、その温度変化量は、準備工程で測定された測定領域22及び25での位相差フィルム20の配向角θに応じて設定しうる。一般に、準備工程と工程(II−2)とで樹脂フィルム10の温度が大きく異なっているほど、準備工程から工程(II−2)への間で配向角θは大きく変化する傾向がある。工程(II−2)における調整領域181R及び181Lでの樹脂フィルム10の温度と、準備工程における調整領域181R及び181Lでの樹脂フィルム10の温度との差(温度変化量)は、好ましくは1.0℃以上、より好ましくは1.5℃以上、特に好ましくは2.0℃以上であり、好ましくは20℃以下、より好ましくは18℃以下、特に好ましくは15℃以下である。
また、調整領域181R及び181L以外の領域181Cでの樹脂フィルム10の温度は、通常、準備工程と製造工程とで同じである。
さらに、工程(II−2)において、温度差を設けられたときの樹脂フィルム10の温度は、当該樹脂フィルム10の幅方向の全体で、所定の温度範囲に収まることが好ましい。具体的には、工程(II−2)において、温度差を設けられたときの樹脂フィルム10の温度は、当該樹脂フィルム10の幅方向の全体で、好ましくはTg−50℃以上、より好ましくはTg−45℃以上、特に好ましくはTg−40℃以上であり、好ましくはTg−5℃以下、より好ましくはTg−8℃以下、特に好ましくはTg−10℃以下である。ここでTgとは、樹脂フィルム10に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。工程(II−2)において樹脂フィルム10の温度を前記範囲の下限値以上にすることにより、配向角のコントロールを容易にできる。また、上限値以下にすることにより、レターデーションの変動を小さくできる。
本実施形態に係る製造方法によって幅方向における遅相軸方向が均一な位相差フィルム20を製造できる仕組みは、必ずしも定かではないが、本発明者の検討によれば、以下のように推察される。ただし、本発明は以下の推察によって制限されるものではない。
一般に、テンター装置を用いた位相差フィルムの製造方法では、樹脂フィルムの幅を規制した状態においては、樹脂フィルムに当該樹脂フィルムを延伸する力は加えられない。また、樹脂フィルムの温度が当該樹脂フィルムに含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以下となっていると、樹脂フィルム内の重合体の分子は容易には配向を変化させない。そのため、従来は、延伸後に樹脂フィルムの幅を規制した状態において、当該樹脂フィルムの温度がガラス転移温度Tg以下となっているときには、樹脂フィルムの遅相軸方向は変化しないと考えられていた。このため、位相差フィルムの幅方向における遅相軸方向のバラつきは、オーブン内における延伸時及びガラス転移温度Tg以上の加熱時に生じるものと考えられていた。このような理由により、従来のテンター装置を用いた位相差フィルムの製造方法では、幅方向において遅相軸方向を均一にするために、オーブン内の樹脂フィルムがガラス転移温度Tg以上の高温である期間において対策が取られてきた。
従来の対策により、位相差フィルムの幅方向における遅相軸方向のバラつきを低減することは、ある程度は可能であった。しかし、従来の対策だけでは、位相差フィルムの幅方向における遅相軸方向のバラつきの低減には限界があった。そのため、位相差フィルムの幅方向における遅相軸方向のバラつきをより一層低減するためには、従来とは異なる新たな技術が求められていた。
そこで本発明者が検討したところ、従来の技術常識からすれば意外なことに、次に説明するように、延伸後に樹脂フィルムがガラス転移温度Tg以下にまで冷却された後に、樹脂フィルムの遅相軸方向のバラつきが生じていることが分かった。
テンター装置では、延伸後の樹脂フィルムは、その両端部をクリップに固定された状態で所定の距離を搬送され、その後、クリップから開放されて位相差フィルムとして回収される。このように樹脂フィルムがその両端部をクリップで固定された状態で搬送される領域が、上述した実施形態に係るオーブン110内の緩和室117及びオーブン110の外部の開放前領域180に相当する。両端部をクリップで固定された状態で搬送される樹脂フィルムは、クリップで固定されている期間に、クリップによる拘束力を受ける。前記のクリップによる拘束力は、樹脂フィルムの幅方向において、クリップに近い端部ほど強く、クリップから遠い中央部ほど弱い。
ここで、ガラス転移温度Tg以下にまで冷却された樹脂フィルムの温度が、放熱によって更に低下すると、この樹脂フィルムには、収縮応力が生じる。そして、その収縮応力とクリップによる拘束力との組み合わせによる応力が、樹脂フィルムに生じる。収縮応力の大きさは、樹脂フィルムの温度の影響を受けうる。また、実際の製造装置では、樹脂フィルムは幅方向において僅かながら温度に分布を有することがありえる。そのため、収縮応力は、樹脂フィルムの幅方向で一定でないことがありえる。また、前記のように、クリップによる拘束力は、通常、樹脂フィルムの幅方向において一定ではない。したがって、ガラス転移温度Tg以下にまで冷却され且つ両端部をクリップで固定された状態で搬送される樹脂フィルムに生じる応力は、樹脂フィルムの幅方向において一定でない。この一定でない応力が、樹脂フィルムの遅相軸方向のバラつきの原因と考えられる。
そこで本発明者は、樹脂フィルムがガラス転移温度Tg以下にまで冷却された後、クリップから開放されるまでの領域において、樹脂フィルムの搬送条件を制御することにより、位相差フィルムの幅方向における遅相軸方向のバラつきを低減することを試みた。そして、樹脂フィルムの遅相軸方向が所望の方向からズレている場合、通常、
(a)樹脂フィルムのボーイング配向が生じている領域を冷却すると、その領域の配向は、逆ボーイング配向に近づくように変化し;
(b)樹脂フィルムの逆ボーイング配向が生じている領域を加熱すると、その領域の配向は、ボーイング配向に近づくように変化する;
ということを見出した。このような現象は、樹脂フィルムの温度が高いほど、クリップによる拘束力の影響が大きく作用するために生じるものと推察される。
これらの現象を利用すれば、遅相軸方向が所望の方向からズレている樹脂フィルムの部分の温度を調整することで、樹脂フィルムがガラス転移温度Tg以下にまで冷却された後において、遅相軸方向のズレの発生を防止することができる。さらに、それだけでなく、ガラス転移温度Tg以下にまで冷却される以前に生じた遅相軸方向のズレを修正することもできる。本実施形態に係る製造方法は前記の知見を利用し、遅相軸方向が所望の方向からズレている樹脂フィルムの部分を選択的に温度調整することにより、樹脂フィルムに幅方向において温度差を設けている。これにより、幅方向の各地点における遅相軸方向のズレを小さくできるので、幅方向における均一な遅相軸方向が実現されていると推察される。
また、本実施形態に係る製造方法の工程(II−2)のように、樹脂フィルムがガラス転移温度Tg以下になった状態で幅方向に温度差を設けて遅相軸方向のバラつきを低減させても、このような温度差を設けたことによっては位相差フィルムの正面レターデーションReに大きな変化を生じない。具体的には、準備工程での位相差フィルム20の測定領域22及び25の正面レターデーションReと、製造工程での位相差フィルム20のその測定領域22及び25の正面レターデーションReとの差ΔReは、好ましくは0.5nm以下、より好ましくは0.3nm以下であり、理想的には0nmである。これは、ガラス転移温度Tg以上の状態において幅方向に温度差を設けた場合、遅相軸方向だけでなく正面レターデーションReも大きく変化することと対照的である。したがって、本実施形態に係る製造方法によれば、正面レターデーションReへの影響を無視して遅相軸方向の調整を行えるので、幅方向における遅相軸方向を均一にするための操作を、より容易に行うことができる。
本実施形態に係る製造方法の工程(II−2)において、幅方向に温度差を設けた場合に正面レターデーションの変化を抑制できる理由は、必ずしも定かではないが、本発明者の検討によれば、以下のように推察される。ただし、本発明は以下の推察によって制限されるものではない。
工程(II−2)では、樹脂フィルム10は幅方向に延伸されないので、樹脂フィルム10には大きな外力は加えられない。そのため、工程(II−2)においては、正面レターデーションReが変化するほど大きな力が、樹脂フィルム10内の分子にかからない。また、工程(II−2)は樹脂フィルム10の温度がガラス転移温度Tg以下になった状態で行われるので、配向の変化を生じ難い。そのため、本実施形態に係る製造方法の工程(II−2)において、幅方向に温度差を設けても正面レターデーションReの変化が生じないものと考えられる。また、本実施形態に係る製造方法の工程(II−2)は、面内レターデーションReに影響が出ない程度の低温であっても、温度調整したことで当該温度調整をなされた領域の遅相軸方向の調整が可能であるという点で、意外な作用を奏するものといえる。
また、位相差フィルムの遅相軸方向を均一にするための方法として、発明者は、オーブン内で樹脂フィルムがガラス転移温度Tg以上であるときに、その樹脂フィルム全体の温度を調整したり、ガイドレールの形状を変更したりすることを検討した。しかし、このような従来の方法では、位相差フィルム全体としてボーイング配向及び逆ボーイング配向の調整は可能であるが、位相差フィルムの遅相軸方向を局所的に調整することは困難であった。これに対し、本実施形態の製造方法では、配向角が目標範囲から外れた領域の遅相軸方向を局所的に調整できる。したがって、本実施形態の製造方法によれば、位相差フィルムの遅相軸方向を均一にすることを、容易に行うことができる。
〔1.5.位相差フィルム〕
上述した製造方法により、その幅方向に実質的に平行な配向軸を有する位相差フィルム20が得られる。そのため、熱可塑性樹脂の種類を適切に選択することにより、その幅方向に実質的に平行な遅相軸を有する位相差フィルム20が得られる。具体的には、位相差フィルム20の幅方向と位相差フィルム20の遅相軸とがなす角度は、通常0.5°以下、好ましくは0.4°以下、より好ましくは0.3°以下であり、理想的には0°である。
また、上述した製造方法によって製造される位相差フィルム20は、幅方向における遅相軸方向が均一である。具体的には、位相差フィルム20の幅方向における配向角θのバラつきの大きさが、好ましくは1.0°以下、より好ましくは0.8°以下、特に好ましくは0.6°以下であり、理想的にはゼロである。ここで、配向角θのバラつきの大きさとは、配向角の最大値と最小値との差のことをいう。
位相差フィルム20のレターデーションは、当該位相差フィルム20の用途に応じて適切に設定しうる。例えば、位相差フィルム20の正面レターデーションは、好ましくは40nm以上、より好ましくは45nm以上、特に好ましくは50nm以上であり、好ましくは140nm以下、より好ましくは135nm以下、特に好ましくは130nm以下である。
位相差フィルム20の全光線透過率は、85%以上であることが好ましい。前記光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定しうる。
また、位相差フィルム20のヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値を採用しうる。
位相差フィルム20の厚みに制限は無いが、好ましくは5μm以上、より好ましくは8μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは80μm以下である。
位相差フィルム20の幅は、好ましくは500mm以上、より好ましくは800mm以上、さらに好ましくは1000mm以上である。一般に、幅の広い位相差フィルムにおいて幅方向で遅相軸方向を揃えることは難しいことに鑑みれば、上述した製造方法によってこのように広い幅の位相差フィルム20の遅相軸方向を均一にできる点は、大きな利点である。また、位相差フィルム20の幅の上限に制限はないが、好ましくは3000mm以下、より好ましくは2500mm以下である。
[2.第二実施形態]
第一実施形態では、逆ボーイング配向を有する樹脂フィルム10において、幅方向に温度差を設けることにより、前記の逆ボーイング配向を解消した例を示した。本発明はこのような例に限定されず、例えば、ボーイング配向を有する樹脂フィルム10において、幅方向に温度差を設けることにより、前記のボーイング配向を解消して、幅方向における遅相軸方向が均一な位相差フィルムを製造してもよい。以下、第二実施形態においてその例を示す。また、以下の第二実施形態において、第一実施形態と同様の要素は、第一実施形態と同様の符号を付して示す。
〔2.1.テンター装置の構成の説明〕
図9は、本発明の第二実施形態に係る製造方法で用いるテンター装置200を模式的に示す平面図である。図9において、オーブン110は一点鎖線で示す。
図9に示すように、テンター装置200は、準備工程において得られる位相差フィルム20の測定領域22〜25で測定される配向角θが第一実施形態と異なる点以外は、第一実施形態に係るテンター装置100と同様の構造を有する。
〔2.2.準備工程〕
本発明の第二実施形態に係る製造方法では、第一実施形態と同様に、位相差フィルム20の幅方向の複数の測定領域22〜25において配向角θを測定し、配向角θが所望の範囲から外れている測定領域を特定する準備工程を行う。したがって、準備工程では、位相差フィルム20の配向角θを、位相差フィルム20の幅方向の複数の測定領域22〜25で測定する工程(IV)と;前記の工程(IV)の後で、測定領域22〜25のうちで目標範囲から外れた配向角θを有する特定領域を特定する工程(V)とを行う。
本実施形態では、工程(IV)において、位相差フィルム20の端部21Rに最も近い測定領域22で目標範囲を外れたプラスの配向角θが測定され、位相差フィルム20の端部21Lに最も近い測定領域25で目標範囲を外れたマイナスの配向角θが測定され、それ以外の測定領域23及び24では目標範囲内の配向角θが測定された例を示して説明する。したがって、工程(V)では、位相差フィルム20の両端部21R及び21Lに近い測定領域22及び25が、目標範囲から外れた配向角θを有する特定領域として特定される。また、測定された配向角θから、測定領域22及び25では配向軸A22及びA25が位相差フィルム20の幅方向に平行でなくなっており、ボーイング配向が生じていることが分かる。また、測定領域22及び25以外の測定領域23及び24は、目標範囲内の配向角θを有しており、その配向軸A23及びA24は位相差フィルム20の幅方向に平行になっている。
〔2.3.位相差フィルムの製造装置〕
図10及び図11は、本発明の第二実施形態に係る製造方法で用いる製造装置2を模式的に示す平面図である。図10において、測定領域22及び25には、斜線を付して示す。また、図11において、オーブン110並びにエアノズル270R及び270Lは、一点鎖線で示す。さらに、図11において、測定領域22及び25並びに調整領域281R及び281Lには、斜線を付して示す。
図10に示すように、前記の準備工程の後で、幅方向における遅相軸方向が均一な位相差フィルム20を製造するための製造装置2を用意する。この製造装置2は、上述したテンター装置200に、調温装置としてのエアノズル270R及び270Lを設けた構成を有する。
エアノズル270R及び270Lは、図示しないスポットクーラーのノズルであり、開放前領域180内で搬送方向における位置が同じである調整領域281R及び281L並びに領域281Cのうち、調整領域281R及び281Lに選択的に冷風を噴射しうるように設けられている。ここで、調整領域281R及び281Lは、工程(V)で特定領域として特定された測定領域22及び25に対応する領域をいう。したがって、本実施形態に示す例では、測定領域22及び25の丁度上流にある開放前領域180内の領域が、調整領域281R及び281Lである。
エアノズル270R及び270Lから冷風を噴射されることにより、調整領域281R及び281Lにおける樹脂フィルム10の温度は、冷風が噴射されていない場合よりも低温となるように調整されうる。
また、開放前領域180内の調整領域281R及び281L以外の領域281Cでは、エアノズル270R及び270Lから冷風を噴射されない。このため、開放前領域180内の調整領域281R及び281L以外の領域281Cでは、準備工程と同様に、樹脂フィルム10の温度は放熱によって低下する。
したがって、エアノズル270R及び270Lが設けられたことにより、開放前領域180では、樹脂フィルム10の幅方向において温度差が設けられうる。具体的には、調整領域281R及び281Lでの樹脂フィルム10の温度が、それ以外の領域281Cでの樹脂フィルム10の温度よりも低くなりうる。
このように、製造装置2は、開放前領域180での樹脂フィルム10の温度を幅方向において部分的に調整することにより、樹脂フィルム10に幅方向において温度差を設けうる構成を有する。後述する製造工程では、この構成によって、準備工程において位相差フィルム20に生じていた幅方向における遅相軸方向のバラつきを、低減する。
〔2.4.製造工程〕
前記のような製造装置2を用意した後で、幅方向における遅相軸方向が均一な位相差フィルム20を製造するため、位相差フィルム20の製造工程を行う。この製造工程では、図10及び図11に示すように、保温板170R及び170Lの代わりにエアノズル270R及び270Lによって樹脂フィルム10に幅方向において温度差を設けること以外は、第一実施形態と同様の操作を行う。
具体的には、本実施形態に係る製造工程では、延伸前の樹脂フィルム10を長手方向に搬送しながら製造装置2に供給し、両端部11R及び11Lをクリップ130R及び130Lで固定し、入口111を通ってオーブン110へ搬送する。オーブン110内で、樹脂フィルム10は、予熱室115で所定の予熱温度に加熱され、延伸室116へと搬送される。
延伸室116へと搬送されてきた樹脂フィルム10は、延伸室116内に設けられた延伸区間160で当該樹脂フィルム10の幅方向に延伸される工程(I)を施される。この工程(I)により、樹脂フィルム10においては分子が配向して、位相差が生じる。
延伸後、樹脂フィルム10は、オーブン110の緩和室117を搬送され、出口112を通ってオーブン110の外に送り出され、その後、開放前領域180を通る。これらのとき、延伸後の樹脂フィルム10には、当該樹脂フィルム10の幅を規制した状態に保持される工程(II)が施される。また、前記の工程(II)は、樹脂フィルム10を、樹脂フィルム10に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以下に冷却する工程(II−1)と、樹脂フィルム10のガラス転移温度Tg以下の温度を有する樹脂フィルム10に、樹脂フィルム10の幅方向において温度差を設ける工程(II−2)を含む。
本実施形態に係る工程(II−2)は、開放前領域180で行われる。具体的には、開放前領域180の調整領域281R及び281Lにエアノズル270R及び270Lから冷風が噴射されることにより、調整領域281R及び281Lでの樹脂フィルム10の温度が、調整領域281R及び281L以外の領域281Cでの樹脂フィルム10の温度よりも低温になるように、調整される。そのため、開放前領域180では、樹脂フィルム10の幅方向において温度差が設けられる。このように温度差が設けられたことにより、調整領域281R及び281Lを通る樹脂フィルム10の部分の配向は、逆ボーイング配向に近づくように変化する。
その後、樹脂フィルム10は、クリップオープナー150R及び150Lまで搬送され、クリップ130R及び130Lから開放される。これにより、樹脂フィルム10は当該樹脂フィルム10の幅を規制した状態から開放され、位相差フィルム20が得られる(工程(III))。
図12は、本発明の第二実施形態に係る製造方法で用いる製造装置2を模式的に示す平面図である。工程(II−2)において設けられた温度差により、調整領域281R及び281Lを通る樹脂フィルム10の部分の配向が、逆ボーイング配向に近づくように変化したので、図12に示すように、位相差フィルム20の測定領域22及び25でのボーイング配向は解消される。そのため、測定領域22及び25での位相差フィルム20の配向角θは、目標範囲に収まる。また、測定領域23及び24でも、準備工程と同様、配向角θは目標範囲に収まる。よって、測定領域22〜25の全てにおいて、配向軸A22〜A25を位相差フィルム20の幅方向に平行にできるので、位相差フィルム20の幅方向における遅相軸方向のバラつきを低減することができる。
したがって、上述した製造方法により、幅方向における遅相軸方向が均一な位相差フィルム20を製造できる。
このように、本発明の第二実施形態に係る製造方法によっても、本発明の第一実施形態と同様に、幅方向における遅相軸方向が均一な位相差フィルム20を製造できる。
また、本発明の第二実施形態に係る製造方法によれば、本発明の第一実施形態と同様の利点を得ることができる。
[3.第三実施形態]
上述した実施形態では工程(II−2)をオーブン110の外部で行ったが、工程(II−2)はオーブン110の内部で行ってもよい。以下、第三実施形態においてその例を示す。また、以下の第三実施形態において、第一実施形態及び第二実施形態と同様の要素は、第一実施形態及び第二実施形態と同様の符号を付して示す。
図13は、本発明の第三実施形態に係る製造方法で用いる製造装置3を模式的に示す平面図である。図13において、オーブン110は一点鎖線で示し、また、測定領域22及び25には斜線を付して示す。
図13に示すように、製造装置3は、オーブン110の外部に設けられた保温板170R及び170Lの代わりに、オーブン110の緩和室117内に設けられた保温板370R及び370Lを備えること以外は、第一実施形態に係る製造装置1と同様の構造を有する。したがって、製造装置3は、第一実施形態と同様のテンター装置100、並びに、保温板370R及び370Lを備える。
保温板370R及び370Lは、緩和室117内の基準位置118よりも下流に、樹脂フィルム10に当該樹脂フィルム10の幅方向において温度差を設けうるように設けられている。具体的には、保温板370R及び370Lは、搬送方向における位置が同じである調整領域381R及び381L並びに領域381Cのうち、測定領域22及び25に対応した調整領域381R及び381Lを選択的に覆い、それ以外の領域381Cを覆わないように設けられている。
この際、保温板370R及び370Lが覆う調整領域381R及び381Lの位置は、第一実施形態に係る準備工程と同様の準備工程を行って領域22及び25を特定領域として特定し(図5参照)、その特定された領域22及び25に対応する調整領域381R及び381Lを設定することで、決定しうる。
図13に示すように、保温板370R及び370Lが設けられたことにより、調整領域381R及び381Lでの樹脂フィルム10の温度は、それ以外の領域381Cでの樹脂フィルム10の温度よりも高くなりうる。そのため、この製造装置3は、樹脂フィルム10の温度がガラス転移温度Tg以下になっている緩和室117内の領域において、樹脂フィルム10の幅方向において温度差を設けうる構成を有している。
このような製造装置3を用いて位相差フィルム20を製造する場合には、第一実施形態に係る製造工程と同様の製造工程を行う。この際、保温板370R及び370Lによって、ガラス転移温度Tg以下の温度を有する樹脂フィルム10に、幅方向において温度差が設けられる。そのため、調整領域381R及び381Lを通る樹脂フィルム10の部分の配向が、逆ボーイング配向を解消するように変化する。したがって、本実施形態の製造方法により、第一実施形態と同様に、幅方向における遅相軸方向が均一な位相差フィルム20を製造できる。
また、本実施形態に係る製造方法によれば、オーブン110の外部で温度差を設けることによる利点を除き、第一実施形態に係る製造方法と同様の利点を得ることができる。
[4.変形例]
本発明は、上述した実施形態に限定されず、更に変更して実施してもよい。
例えば、上述した実施形態のようにオーブン110の内部及び外部の一方だけで工程(II−2)を行うのではなく、オーブン110の内部及び外部の両方で工程(II−2)を行ってもよい。
また、例えば、上述した実施形態では、いずれも樹脂フィルム10の幅方向の端部近くの調整領域181R、181L、281R、281L、381R及び381Lでの温度を調整することで幅方向に温度差を設けたが、温度を調整する領域の位置は、樹脂フィルム10の幅方向の端部近くに限定されない。したがって、位相差フィルム20の幅方向の端部近く以外の領域においてボーイング配向又は逆ボーイング配向が生じている場合には、樹脂フィルム10の幅方向の端部近く以外の領域での温度を調整することで、幅方向において位相差フィルム20に温度差を設けてもよい。
さらに、例えば、保温板170R、170L、370R及び370L以外の調温装置を用いて、調整領域181R、181L、381R及び381Lでの樹脂フィルム10の温度を高めるようにしてもよい。具体例を挙げると、赤外線ヒーター等のヒーターを用いてもよい。
また、例えば、スポットクーラーから供給される冷風を噴射しうるエアノズル270R及び270L以外の調温装置を用いて、調整領域281R及び281Lでの樹脂フィルム10の温度を低くするようにしてもよい。具体例を挙げると、送風機、冷媒管などを用いてもよい。
[5.樹脂フィルム]
位相差フィルムを製造するために用いる樹脂フィルムとしては、熱可塑性樹脂からなる長尺のフィルムを用いる。この樹脂フィルムは、通常、熱可塑性樹脂の層を1層だけ備える単層構造のフィルムであるが、熱可塑性樹脂の層を2層以上備える複層構造のフィルムであってもよい。
熱可塑性樹脂の例としては、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等)、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂等)、ポリカーボネート樹脂、セルロースエステル樹脂、アクリル樹脂(例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂等)及びその他の樹脂(ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等)が挙げられる。中でも、位相差フィルムに求められる機械特性、耐熱性、透明度といった品質をバランス良く満たしうる観点から、ポリオレフィン樹脂がより好ましく、脂環式ポリオレフィン樹脂が特に好ましい。
脂環式ポリオレフィン樹脂は、主鎖及び側鎖の片方又は両方に脂環式構造を有する脂環式ポリオレフィン重合体を含む樹脂である。脂環式構造としては、例えば飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられる。中でも、機械強度及び耐熱性の観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、シクロアルカン構造が特に好ましい。
脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。脂環式構造を構成する炭素原子数が前記の範囲に収まる場合に、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性等の特性が高度にバランスされ、好適である。
脂環式ポリオレフィン重合体における、脂環式構造を有する構造単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択してもよく、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィン重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合を前記の範囲に収めることにより、位相差フィルムの透明性及び耐熱性を良好にできる。
脂環式ポリオレフィン重合体としては、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系重合体は、透明性と成形性が良好なため、好ましい。
ノルボルネン系重合体としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と任意の単量体との開環重合体、又はそれらの水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、若しくはノルボルネン構造を有する単量体と任意の単量体との付加重合体、又はそれらの水素化物;等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。ここで(共)重合体とは、重合体及び共重合体のことをいう。
ノルボルネン構造を有する単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えば、アルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
前記の極性基の種類としては、例えば、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な任意の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のモノ環状オレフィン類及びその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン等の環状共役ジエン及びその誘導体;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、及び、ノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な任意の単量体との開環共重合体は、例えば、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な任意の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン等の炭素原子数2〜20のα−オレフィン及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン等の非共役ジエン;などが挙げられる。これらの単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、及び、ノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な任意の単量体との付加共重合体は、例えば、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能な任意の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能な任意の単量体との付加重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、例えば、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素添加触媒を混合して、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって、得ることができる。
ノルボルネン系重合体の中でも、構造単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの構造単位の含有量が、ノルボルネン系重合体の構造単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このようなノルボルネン系重合体を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる位相差フィルムを得ることができる。
脂環式ポリオレフィン重合体の分子量は、使用目的に応じて適宜選定されうる。脂環式ポリオレフィン重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、位相差フィルムの機械的強度及び成型加工性が高度にバランスされ、好適である。ここで、前記の重量平均分子量は、溶媒としてシクロヘキサン(試料である重合体が溶解しない場合はトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定した、ポリイソプレン又はポリスチレン換算の値である。
また、脂環式ポリオレフィン重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上、特に好ましくは1.2以上であり、好ましくは10.0以下、より好ましくは4.0以下、特に好ましくは3.5以下である。分子量分布を前記範囲の下限値以上にすることにより、重合体の生産性を高めてコストを下げることができる。また、上限値以下にすることにより、低分子成分の量を抑制して緩和時間の短い成分を減らすことができるので、高温曝露時の配向緩和を低減させることが可能となる。
熱可塑性樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した重合体以外に任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分の例を挙げると、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、強化剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填剤、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止剤、および抗菌剤などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ただし、任意の成分の量は本発明の効果を損なわない範囲であり、重合体100重量部に対して、通常50重量部以下、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下、特に好ましくは10重量部以下である。また、下限はゼロである。
熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgは、使用目的に応じて適宜選択されうるものであり、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、また、好ましくは250℃以下である。ガラス転移温度Tgがこのような範囲にある熱可塑性樹脂のフィルムは、高温下での使用における変形及び応力が生じ難く、耐久性に優れる。
樹脂フィルムの製造方法に制限はない。樹脂フィルムは、例えば、当該樹脂フィルムを形成するための熱可塑性樹脂を任意のフィルム成形法で成形することによって得られる。フィルム成形法としては、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などが挙げられる。中でも、溶媒を使用しない溶融押出法が、残留揮発成分量を効率よく低減させることができ、地球環境や作業環境の観点、及び製造効率に優れる観点から好ましい。溶融押出法としては、ダイスを用いるインフレーション法などが挙げられ、中でも生産性や厚み精度に優れる点でTダイを用いる方法が好ましい。
また、樹脂フィルムは、延伸処理を施されていない未延伸フィルムであってもよく、必要に応じて延伸処理を施された延伸フィルムであってもよい。
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下の操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中にて行った。
[測定方法]
〔フィルム温度の測定方法〕
樹脂フィルムの温度は、デジタル温度計 TM-300(アズワン製)により測定した。
〔正面レターデーションReの測定方法〕
位相差フィルムの正面レターデーションReは、測定波長550nmで、AXOMETRICS社製「AxoScan」により測定した。
〔配向角θの測定方法〕
位相差フィルムの配向角θは、AXOMETRICS社製「AxoScan」により測定した。
[実施例1]
〔開環重合〕
窒素で置換した反応器に、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(以下、適宜「DCP」と略称する。)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(以下、適宜「TCD」と略称する。)、及び、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(以下、適宜「MTF」と略称する。)の混合物(重量比DCP/TCD/MTF=60/35/5)7部(重合に使用するモノマー全量に対して重量1%)と;シクロヘキサン1600部を加えた。
この反応器に、更に、トリ−i−ブチルアルミニウム0.55部、イソブチルアルコール0.21部、反応調整剤としてジイソプロピルエーテル0.84部、及び、分子量調節剤として1−ヘキセン3.24部を添加した。
この反応器に、更に、シクロヘキサンに溶解させた濃度0.65%の六塩化タングステン溶液24.1部を添加して、55℃で10分間攪拌した。
次いで、反応系を55℃に保持しながら、DCP、TCD及びMTF(重量比DCP/TCD/MTF=60/35/5)の混合物693部;並びに、シクロヘキサンに溶解させた濃度0.65%の六塩化タングステン溶液48.9部を、それぞれ系内に150分かけて連続的に滴下した。その後、30分間反応を継続し、重合を終了させて、開環重合体を含む反応液を得た。
重合終了後、ガスクロマトグラフィーにより測定したモノマーの重合転化率は、重合終了時で100%であった。
〔水素添加〕
開環重合体を含む反応液を、耐圧性の水素化反応器に移送し、ケイソウ土担持ニッケル触媒(日揮化学社製、製品名「T8400RL」、ニッケル担持率57%)1.4部、及び、シクロヘキサン167部を加え、180℃、水素圧4.6MPaで6時間反応させた。この反応溶液を、ラジオライト#500を濾過床として、圧力0.25MPaで加圧濾過(石川島播磨重工社製、製品名「フンダフィルター」)して水素化触媒を除去し、水素添加物を含む無色透明な溶液を得た。
次いで、前記水素添加物100部あたり0.5部の酸化防止剤(ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、製品名「イルガノックス1010」)を、得られた溶液に添加して、溶解させた。次いで、ゼータープラスフィルター30H(キュノーフィルター社製、孔径0.5μm〜1μm)にて順次濾過し、さらに別の金属ファイバー製フィルター(ニチダイ社製、孔径0.4μm)にて濾過して、微小な固形分を除去し、開環重合体水素添加物を得た。開環重合体水素添加物の水素添加率は、99.9%であった。
〔ペレットの作製〕
次いで、前記の開環重合体水素添加物を含む溶液から、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所社製)を用いて、溶媒及び揮発成分(シクロヘキサン及びその他の揮発成分)を除去した。この際の条件は、温度270℃、圧力1kPa以下に設定した。そして、この濃縮機に直結したダイから、開環重合体水素添加物を溶融状態でストランド状に押出し、冷却して、開環重合体水素添加物を含む脂環式ポリオレフィン樹脂のペレットを得た。このペレットのガラス転移温度Tgは、125℃であった。
〔樹脂フィルムの製造〕
前記のペレットを、100℃で5時間、乾燥した。乾燥したペレットを押出機に供給し、押出機内で溶融させ、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押出し、冷却した。これにより、厚さ50μm、幅1450mmの、長尺の樹脂フィルムを得た。
〔温度調整前の位相差フィルムの製造〕
得られた樹脂フィルムを、図5に示すように、オーブン110を備えるテンター装置100に連続的に供給し、幅方向に延伸して、厚さ20μmの位相差フィルム20を得た。この際の製造条件は、延伸温度は140℃;延伸倍率は2.5倍であった。この位相差フィルム20の全幅において配向角θを測定したところ、その幅方向の端からの距離が0〜600mmの測定領域22及び25が特定領域として特定されたので、この測定領域22及び25での正面レターデーションRe0及び配向角θ0を測定した。さらに、位相差フィルム20の幅方向の全体で配向角θを測定したところ、いずれの測定地点でも配向角θは幅方向に対して±0.5°の範囲に収まっており、幅方向における配向角θのバラつきの大きさは1.0°であった。
〔温度調整後の位相差フィルムの製造〕
次に、図7に示すように、オーブン110の出口112の直後の、前記の測定領域22及び25に対応する調整領域181R及び181Lを覆うように、樹脂フィルム10の幅方向の端からの距離が0〜650mmの範囲に保温板170R及び170Lを設置した。これにより、クリップ130R及び130Lによって幅を規制した状態において、保温板170R及び170Lに覆われた測定領域22及び25で、樹脂フィルム10は、温度が高くなるように温度調整される。そして、このように保温板170R及び170Lを設置した状態で、前記と同様に位相差フィルム20の製造を行った。
位相差フィルム20の製造の際、保温板170R又は170Lで覆われた調整領域181R及び181Lで、樹脂フィルム10の温度T1を測定した。この温度T1は、温度調整された領域における樹脂フィルム10の温度を表す。
また、前記の温度T1の測定地点と搬送方向における位置が同じであり、且つ、保温板170R又は170Lに覆われていない幅方向中央の地点で、樹脂フィルム10の温度T0を測定した。この温度T0は、温度調整されていない領域における樹脂フィルム10の温度を表す。
したがって、温度T0及び温度T1から、搬送方向の位置が共通となる幅方向に平行な領域において、どのような温度差が設けられているかが分かる。
さらに、得られた位相差フィルム20の測定領域22及び25で、正面レターデーションRe1及び配向角θ1を測定した。
そして、ΔRe=|Re0−Re1|により、測定領域22及び25それぞれにおける正面レターデーションReの変化量ΔReを求め、その結果から変化量ΔReの最大値を求めた。この変化量ΔReの最大値は、保温板170R及び170Lを設けたことによる位相差フィルム20の正面レターデーションの変化量の最大値を表す。
また、Δθ=|θ0−θ1|により、測定領域22及び25それぞれにおける配向角θの変化量Δθを求めた。この変化量Δθは、保温板170R及び170Lを設けたことによる位相差フィルム20の配向角θの変化量を表す。
さらに、位相差フィルム20の幅方向の全体で配向角θを測定したところ、いずれの測定地点でも配向角θは幅方向に対して±0.4°の範囲に収まっており、幅方向における配向角θのバラつきの大きさは0.8°であった。
[実施例2]
樹脂フィルムの製造の際に、樹脂の押し出し量を変更して樹脂フィルムの厚さを70μmとした。
また、位相差フィルムの製造の際に、幅方向への延伸倍率を3.5倍とした。
以上の事項以外は、実施例1と同様にして、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
[実施例3]
実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂のペレットを製造した。このペレットを用い、樹脂の押し出し量を変更したこと以外は実施例1の〔樹脂フィルムの製造〕と同様にして、厚さ85μmの長尺の樹脂フィルムを得た。
この樹脂フィルムを、調整ロール間でのフロート方式を用いた縦延伸機に供給した。この縦延伸機において、樹脂フィルムを、温度132℃で長手方向に1.15倍に延伸して、縦延伸フィルムを得た。
得られた縦延伸フィルムを、図1に示すように、オーブン110を備えるテンター装置100に連続的に供給し、幅方向に延伸して、厚さ50μmの位相差フィルム20を得た。この際の製造条件は、延伸温度は140℃;延伸倍率は1.45倍であった。この位相差フィルム20の全幅において配向角θを測定したところ、その幅方向の中央の測定領域が特定領域として特定されたので、この中央の測定領域での正面レターデーションRe0及び配向角θ0を測定した。
次に、オーブンの出口直後の、幅方向の中央部付近に、位相差フィルムの幅方向の中央の測定領域に対応する調整領域を設定した。そして、この調整領域に、スポットクーラーのエアノズルから冷風を吹き付けながら、前記と同様に位相差フィルムの製造を行った。
位相差フィルムの製造の際、冷風を吹き付けられる調整領域で、樹脂フィルムの温度T1を測定した。また、前記の温度T1の測定地点と搬送方向における位置が同じであり、且つ、冷風を吹き付けられていない幅方向の端部の地点で、樹脂フィルムの温度T0を測定した。
さらに、得られた位相差フィルムの幅方向の中央の測定領域で、正面レターデーションRe1及び配向角θ1を測定した。そして、実施例1と同様に計算して、前記の測定領域における正面レターデーションReの変化量ΔReの最大値、並びに、測定領域における配向角θの変化量Δθを求めた。
[実施例4]
図13に示すように、保温板370R及び370Lの搬送方向における設置位置を、オーブン110の出口112の直前に変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同様にして、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
[比較例1]
前記〔温度調整後の位相差フィルムの製造〕の際に、保温板の代わりに、オーブン内の延伸室に、延伸時の樹脂フィルムの両端部を加熱しうる赤外線ヒーターを設けた。そして、この赤外線ヒーターで加熱しながら位相差フィルムの製造を行った。
また、温度T1として、赤外線ヒーターで加熱された領域の樹脂フィルムの温度を測定し、温度T0として、前記の温度T1の測定地点と搬送方向における位置が同じであり、且つ、赤外線ヒーターによる加熱が行われていない幅方向中央の地点での樹脂フィルムの温度T0を測定した。
以上の事項以外は、実施例1と同様にして、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
[比較例2]
保温板の搬送方向における設置位置を、オーブン内の延伸室の直後の、ガイドレールの間隔が一定になった位置に変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同様にして、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
[結果]
前記の実施例及び比較例の結果を、下記の表に示す。
下記の表において、略称の意味は、以下の通りである。
COP:脂環式ポリオレフィン樹脂
Tg:樹脂のガラス転移温度。
厚み(延伸前):延伸前の樹脂フィルムの厚み。
MD倍率:長手方向への延伸倍率。
MD延伸温度:長手方向への延伸温度。
TD倍率:幅方向への延伸倍率。
TD延伸温度:幅方向への延伸温度。
厚み(延伸後):延伸後に得られた位相差フィルムの厚み。
T0:温度調整されていない領域における樹脂フィルムの温度。
T1:温度調整された領域における樹脂フィルムの温度。
ΔRe:温度調整を行う前後での測定領域における正面レターデーションReの変化量。
Δθ:温度調整を行う前後での測定領域における配向角θの変化量。
θのバラツキ(温度差なし):温度調整前の位相差フィルムの幅方向における配向角θのバラつきの大きさ。
θのバラツキ(温度差あり):温度調整後の位相差フィルムの幅方向における配向角θのバラつきの大きさ。
[検討]
実施例1、2及び4及び比較例1及び2では、いずれも、温度調整前に生じていた逆ボーイング配向が、温度調整によりボーイング配向に近づくように変化し、結果として逆ボーイング配向が解消されて、遅相軸方向のバラつきが抑制された位相差フィルムが得られた。
また、実施例3では、温度調整前に生じていたボーイング配向が、温度調整により逆ボーイング配向に近づくように変化し、結果としてボーイング配向が解消されて、遅相軸方向のバラつきが抑制された位相差フィルムが得られた。
したがって、温度調整を行うことにより、位相差フィルムの遅相軸方向を均一にできることが確認された。
しかし、比較例1及び2では、温度調整が行われた領域において位相差フィルムの正面レターデーションReが大きく変化している。そのため、所望の位相差フィルムを安定して製造することは難しい。
これに対し、実施例1〜4では、温度調整が行われた領域において位相差フィルムの正面レターデーションReは大きな変化を生じていない。
したがって、本発明により、正面レターデーションReの意図しない変化を抑制しながら所望の領域の配向角θを調整できるので、幅方向における遅相軸方向が均一な位相差フィルムを容易に製造できることが確認された。
[参考:温度調整によるボーイング配向及び逆ボーイング配向の調整]
以下、参考例を用いて、温度調整によってボーイング配向及び逆ボーイング配向を調整可能であることを示す。
[参考例1]
前記〔温度調整前の位相差フィルムの製造〕の際に、オーブンの出口直後において樹脂フィルムの温度TAを測定した。
また、前記〔温度調整後の位相差フィルムの製造〕の際に、保温板の代わりに、オーブンの出口直後にスポットクーラーのエアノズルを設けた。そして、オーブンの出口直後の領域の樹脂フィルムの幅方向全体に冷風を吹き付けながら、位相差フィルムの製造を行った。さらに、温度TBとして、冷風が吹き付けられた領域の樹脂フィルムの温度を測定した。
以上の事項以外は、実施例1と同様にして、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
[参考例2]
前記〔温度調整前の位相差フィルムの製造〕の際に、オーブンの出口直後において樹脂フィルムの温度TAを測定した。
また、前記〔温度調整後の位相差フィルムの製造〕の際に、保温板を、オーブンの出口直後の樹脂フィルムの幅方向の全体を覆うように設けた。さらに、温度TBとして、保温板に覆われた領域の樹脂フィルムの温度を測定した。
以上の事項以外は、実施例1と同様にして、位相差フィルムの製造及び評価を行った。
[結果]
前記の参考例の結果を、下記の表に示す。下記の表において、略称の意味は、以下の通りである。
TA:温度調整前における樹脂フィルムの温度。
TB:温度調整後における樹脂フィルムの温度。
[検討]
参考例1に示すように、ガラス転移温度Tg以下の温度の樹脂フィルムの温度を、幅を規制した状態に保持しながら温度が低くなるように調整すると、位相差フィルムの配向が逆ボーイング配向に近づく。
また、参考例2に示すように、ガラス転移温度Tg以下の温度の樹脂フィルムの温度を、幅を規制した状態に保持しながら温度が高くなるように調整すると、位相差フィルムの配向がボーイング配向に近づく。
これらのことから、テンター延伸機による位相差フィルムの製造方法において、ガラス転移温度Tg以下の樹脂フィルムを、幅を規制した状態に保持しながら温度調整することにより、そのボーイング配向及び逆ボーイング配向を調整可能であることが確認された。