JP2016000005A - イネ種子の催芽時殺菌処理方法 - Google Patents

イネ種子の催芽時殺菌処理方法 Download PDF

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健一 田中
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Hiroyuki Suzuki
広幸 鈴木
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Ryoichi Moriyama
亮一 森山
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Abstract

【課題】稲作の病害虫防除において、環境にやさしい、作業は簡単且つ殺菌効果は良好である稲種子の催芽時殺菌処理方法を提供する。【解決手段】稲種子の播種までに病原菌がもっとも活動や増殖しやすい催芽処理の段階に、催芽処理用温水に適切な濃度範囲の過酢酸を添加することによって、感染種子の殺菌処理を行なうものである。【選択図】なし

Description

本発明は、イネ種子の催芽時殺菌処理方法に関する。詳しくは、イネ種子伝染性の病原菌の防除を目的としたイネ種子の催芽時殺菌処理方法に関する。
日本の主要穀物として、イネ、コムギ、オオムギなどが挙げられる。そのうちのイネ(水稲)は、その育苗段階において、機械移植の普及によって箱育苗が標準となり、これにともなう苗の立ち枯れや生育不良等の障害が増加している。育苗期に発生する病害対策の基本は、温度、水、床土の酸度矯正などの適正管理により健全な苗を育てることであり、一番の対策は病害を発生させないことである。
箱育苗の病害としては、種子伝染性のいもち病、ばか苗病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病などと、土壌伝染性の苗立枯病、ムレ苗などを挙げることができる。特に、種子伝染性の病害を発生させないためには、発芽前の種子の段階で適切な防除(消毒)を行うことが重要であり、一般的に実施されている。
例えば、発芽前の種子の消毒に用いられる化学農薬としては、モミガードC・DF、スミチオン乳剤、スポルタック乳剤、トリフミン水和剤、ヘルシード水和剤、スターナ水和剤、スポルタックスターナSE、テクリードCフロアブルなどがある。
また、化学農薬以外による殺菌処理として、イネの種子に対し60℃の温湯で10分間の浸漬処理を行なう温湯処理、および、エコホープ 、エコホープDJ 、タフブロック 、モミゲンキ水和剤 、モミホープ水和剤などの微生物農薬による防除が挙げられる。
しかし、これらの防除方法は、いずれも問題点を有する。
化学農薬は、殺菌効果は顕著だが、その分扱いや廃棄方法に留意しなくてはならない。健康面や環境面から、使用(量と種類)を減らすよう指導、規制している農政地域もある。また、殺菌スペクトルの問題や、ある程度の期間使用すると、どうしても耐性菌が出現する、という問題も看過できない。
環境への負担軽減及び食の安全性の面から、無農薬の殺菌処理方法として温湯処理は安全で、扱いやすいものである。しかし、適用範囲も含めた殺菌効果では、化学農薬ほど顕著ではない。殺菌効果を高めるため、温湯処理後の種子を更に催芽時に2.5%となるよう食酢を添加した温水に32℃24時間浸漬処理する方法があるが(特許文献1)、作業手順は煩雑になり、作業上の不便さが生じるほかに、種子の発芽率に影響する温湯温度と食酢濃度を適正に管理しなければならない。
微生物農薬には、栽培で広く使用されている「エコホープDJ」「タフブロック」等がある。これは非病原性微生物(トリコデルマ菌やタラロマイセス菌)が種子籾の表面に定着し、催芽から出芽時にかけて大量に繁殖して、病原菌(ばか苗病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病、褐条病等)と競合することにより、病原菌の生育、増殖を抑制し発病を抑える。しかし、病害が甚発生している、あるいはしそうな状態では、その十分な防除効果を期待するのは難しい。
一方、近年、用途が広がり使用量も増加している殺菌剤に、過酢酸製剤がある。過酢酸製剤は、過酸化水素と酢酸を適切に混合し、それらの化学平衡反応により過酢酸が形成されて成るもので、成分として過酢酸、過酸化水素、酢酸および水を含む。耐性の強い芽胞に対し、その酸化作用から殺菌用途に用いられてきた過酸化水素よりも有効であること、有機物存在下でも塩素のように殺菌力が低下しないこと、また、酵素やDNAのような生体必須分子を非可逆的に酸化変性させる殺菌メカニズムから耐性菌が出現しにくいこと等の特徴を有し、飲料用PETボトルの殺菌剤、医療用内視鏡の消毒剤、納豆菌などを扱う食品工場での除菌洗浄剤として、使用が拡大してきている。
この過酢酸製剤の特徴として、使用後の処理の容易さも挙げられる。過酢酸製剤は、経時変化的に、あるいはpH調整などによって、水、酸素と生分解の容易な酢酸(塩)になる。そうした面からも、環境面や健康面で取扱いの容易な殺菌剤と考えられている。
こうした特徴のある過酢酸製剤を農業分野に適用しようという試みは、すでにいくつかなされている。浸種前や催芽前及び催芽後のイネ種子を、過酢酸濃度200〜1000ppmで60分〜24時間浸漬処理し、イネの病害を防除する方法が報告されている(特許文献2)。また、イネなどの種子や根、殻、果実、花などの農産物に対し、過酢酸などの過酸化物をエネルギー源に暴露して発生する発生期原子状酸素を作用させて微生物を殺菌する方法(特許文献3)が報告されている。
特許文献2に開示されたのは浸種前や催芽前及び催芽後のイネ籾を浸漬処理する殺菌方法であり、イネの育苗手順作業の他にイネ籾の殺菌処理を行うことになる。特許文献3は、過酢酸の持つ殺菌力を病原菌の殺菌に直接用いる、という技術ではない。
一方、殺菌処理を行なう時期において、イネの種子は、通常、播種するまでに、浸種処理や催芽処理を行なう。浸種処理はイネの種子に吸水させて発芽効率を高めるもので、10℃〜15℃程度の比較的低温な水にイネ種子を7日間程度浸漬する。浸種水温が20℃以上になると細菌性病害の発生を助長するので、浸種水温は一般的に10〜15℃の範囲に保たれる。
しかし、一般的に殺菌剤の殺菌力は処理温度に依存し、殺菌処理時の温度が低いほど殺菌力は低くなる。浸種前の殺菌処理は比較的低い温度で行なうことになるため、十分な殺菌効果が得られない恐れがある。例えば、特許文献1に開示された温湯処理後の食酢処理は、浸種前に行なう場合には殺菌効果がない。特許文献2に開示した浸種前の殺菌処理は10℃〜15℃程度の比較的低温で処理することとなり、過酢酸の殺菌力が温度に依存することから十分な殺菌効果が得られたかどうか不安が残る。
その浸種処理後、催芽処理を行なう。催芽処理は、20℃以上、一般的には30℃〜32℃の温水に24時間程度浸漬するという条件で、広く実施されている。この処理によって、イネの種子は発芽、発根して「ハトムネ」状の播種に好適な状態に同調的になるので、この種子を育苗箱などに播種し、苗を育てる。
この催芽処理では、特に30℃〜32℃の温度領域では微生物の活動、増殖に好適な温度条件と、発芽、発根時にイネの種子から周囲に滲出する有機物によって催芽処理温水が富栄養化することによって、病害微生物の感染種子が存在すると、その病害微生物が急速に増殖し、温水に拡散することで、感染していなかった種子にまで病害微生物の汚染が広がる。例えば、催芽時の32℃という温度はイネの発芽に最適な温度であるが,褐条病菌の生育にも最適で,催芽条件が褐条病の発病に大きく影響する。その結果、これらイネ種子を播種して育苗すると、病害微生物による病害が著しく発生することになる。
こうした健全種子への感染を少しでも抑制するため、催芽処理時に温水を循環させない、浸種を十分に行って催芽時間を短くするようといった指導が成されているところもあるが、均一な加温による発芽、発根の同調化には影響が出る。また、催芽時の殺菌処理に使用されるのは微生物農薬のみで、ほとんどの化学農薬は浸種前〜催芽前の時期に使われる。むしろ、このもっとも病原菌が増殖しやすい催芽処理作業での根本的な殺菌技術が希求されている。
特開2006−050982公報 特開平7−258005公報 特表2005−514169公報
品質的にも量的にも安定した米作りを維持することは、日本の農業においてもっとも重視される課題であり、稲作に係る病害虫防除は、その要諦と見なされている。かかる稲作の病害虫防除において、イネの種子殺菌が果たす役割は大きく、より効果面や安全面、取扱い面で優れた殺菌剤及び殺菌方法が求められている。本発明は、そのイネ種子の殺菌に関し、作業は簡単且つ殺菌効果は良好であるイネ種子の催芽時殺菌処理方法を提供するものである。
本発明者らは、鋭意努力した結果、本発明を成し遂げたものである。本発明は、イネ種子の播種までに病原菌がもっとも活動や増殖しやすい催芽処理時に、適切な濃度範囲の過酢酸によって、混入している感染種子の殺菌処理を行ない、特に当該処理段階で懸念される健全種子への感染拡大も防除することにより、健全なイネ催芽種子の調製、ひいてはイネの良好な生育を成し得るものである。
すなわち、本発明は次の構成からなる。
[1]浸種処理後のイネ種子を催芽処理する時の温水に過酢酸を添加することを特徴とするイネ種子の催芽時殺菌処理方法。
[2]前記催芽処理する時の温水に添加する過酢酸の濃度は全量に対する100ppm〜1000ppmであることを特徴とするイネ種子の催芽時殺菌処理方法。
[3]前記催芽処理する時の温水の温度は20℃〜32℃であることを特徴とするイネ種子の催芽時殺菌処理方法。
本発明において、催芽処理時の過酢酸製剤による殺菌処理だけで、イネ種子に感染した病害菌を殺滅することができ、催芽処理時に健全種子にまで感染が拡大することを防げることができるので、稲作に好適な健全種子が得られる。
以下、本発明の実施するための形態を詳細に説明する。
前述したように、イネの播種にいたるまでの作業工程で、病原菌感染の広がる懸念が最も強いのは、20℃〜32℃程度の温水での催芽処理時である。この処理段階において微生物にとって好適な温度や、イネ籾から栄養分となる有機物が滲出することによって、病原菌がもっとも活動や増殖しやすい条件となる。その結果、この作業工程までに生存していた病原菌が、催芽処理の温水中に拡散、増殖し、健全種子にまで感染を広げてしまうことになる。
本発明に係るイネ種子の催芽時殺菌処理方法において、催芽処理作業に使われる温水に過酢酸製剤を添加し、全量に対する過酢酸の濃度が100ppm〜1000ppmになるようすることで、催芽処理する同時に感染種子にある病原菌及び温水中に増殖した病原菌を殺滅し、病原菌が健全な種子への感染拡大を防けることができ、稲作に好適な健全種子が得られることである。
本発明にかかるイネ種子の催芽時殺菌処理後、イネ種子は、特に水洗等行なわずに次の播種、育苗作業工程に進むことができる。催芽処理に使われる温水に添加する過酢酸は、全量に対する濃度が100ppm〜1000ppmの範囲内であれば、特に特別な作業を行なう必要がなく、普段の催芽処理をする同時に、イネの病害であるいもち病、ばか苗病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病、褐条病菌など病原菌を一次処理で殺滅することができる、且つイネ種子の発芽阻害が生じない。
過酢酸などの過酸化物による殺菌メカニズムは、十分に解明されていないが、おおよそ、酵素タンパクやDNAに、酸化作用による不可逆的な変性あるいはダメージを与えるため、と考えられている。このため、一般的な化学合成農薬などに比べ、耐性菌が出現しにくいとされている。特に、過酢酸は、酢酸と類似の分子構造なため、菌体細胞中への浸透性が強く、酸化力の強さとあいまって、優れた殺菌性を示すものと考えられている。
本発明で催芽処理時に添加する過酢酸製剤の後処理は簡単である。24時間の殺菌処理後、添加した過酢酸等の過酸化物は、通常半分以上が分解している。分解後の最終分解物は、水、酸素及び酢酸であり、無毒である。
また、分解していない過酢酸などの過酸化物は、化学合成農薬や金属イオンと違い、使用後の処理も容易である。基本的には、苛性ソーダ等のアルカリ剤で中和し、亜硫酸ナトリウムやチオ硫酸ナトリウムなどで残っている過酢酸、過酸化水素を還元分解すれば、生活廃水として処理できる。あるいは、中和後にカタラーゼ等で過酸化物を分解してもよい。
本発明の過酢酸製剤は、市販品を入手してもいい、あるいは過酸化水素と酢酸を混合して調製することもできる。用いる過酸化水素、および酢酸の濃度は、得ようと考える過酢酸の濃度に応じて、適宜選択すればよい。過酸化水素と酢酸を混合し、撹拌して室温もしくは適度な加温条件で数日間静置すると、両者の化学平衡反応によって過酢酸が生成され、過酢酸製剤が調製される。
具体的に例を挙げると、35wt%過酸化水素23.5g、80wt%酢酸54gおよび蒸留水22.5gを混合し、40℃で4日静置し、5.5wt%の過酢酸を含む過酢酸製剤を得ることができる。
こうして得られた過酢酸製剤を、そのまま、もしくは過酢酸濃度が適切になるよう水で希釈して用いる。過酢酸製剤による殺菌効果は、過酢酸の濃度と処理時間、温度、また殺菌対象とする病害細菌やカビの種類に依存するため、それらを勘案して適切な濃度、処理時間及び温度を設定する必要がある。催芽処理の温水の温度条件として、20℃以上、好ましくは30℃〜32℃、催芽処理時間が12時間〜24時間であることを勘案すると、好適な過酢酸濃度としては、100〜1000ppm、より好ましくは200〜500ppmである。100ppm未満の濃度では、十分な殺菌効果が得られない恐れがある。また、1000ppmを超える濃度では、イネの発芽阻害が生じる危惧がある。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものとして使用したものではない。
過酢酸製剤はオキシペール100(製品名、保土谷化学工業(株)製)を用いた。本製剤の過酢酸濃度は10%であり、これを希釈して、実験を行なった。対照薬剤として、市販のテクリードCフロアブルを用いた。イネ種子は、もみ枯れ細菌病に自然感染したコシヒカリを用いた。
もみ枯れ細菌病に自然感染したイネ種子(コシヒカリ)は、15℃で7日間の浸種処理を行ない、次いで32℃の温水で24時間の催芽処理を行なった後、育苗培土を入れたイチゴパックに播種し、温室内で育成させ、19日後に苗の状態を調査した。
実験は2回、毎回3反復で行なった。過酢酸製剤は、催芽時の温水に400倍希釈(過酢酸濃度が250ppm)および4000倍希釈(過酢酸濃度が25ppm)となるよう添加した。対照実験では、市販の種子殺菌用化学農薬としてテクリードCフロアブルを用いて、確立している最適とされる使用条件(希釈倍率、浸種前処理等)に従い、浸種処理前に200倍希釈で24時間殺菌処理を行い、あとは同様に浸種処理、催芽処理を行なった。3反復での平均データを取得し、1回目の実験結果を表1に、2回目の結果を表2に示す。対照区の激発(87)は発病率(発病苗数/総苗数(%))が87%、少発(18)は発病率が18%であることを示す。
Figure 2016000005
Figure 2016000005
以上の結果から、本発明に関わるイネ種子の催芽時殺菌処理方法は催芽処理時に適用した場合、過酢酸が対照薬剤などと比較して、イネ種子に薬害を引起すことなく感染した病害菌の殺滅防除に有効であることが示された。
本発明は、イネ種子の催芽処理時に適用する殺菌処理方法として、種子感染性病害を防除するうえで発芽を阻害しない、きわめて簡単且つ有効である。

Claims (3)

  1. 浸種処理後のイネ種子を催芽処理する時の温水に過酢酸を添加することを特徴とするイネ種子の催芽時殺菌処理方法。
  2. 前記催芽処理する時の温水に添加する過酢酸の濃度は全量に対する100ppm〜1000ppmであることを特徴とする請求項1に記載のイネ種子の催芽時殺菌処理方法。
  3. 前記催芽処理する時の温水の温度は20℃〜32℃であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のイネ種子の催芽時殺菌処理方法。
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