JP3554522B2 - 植物病害防除方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、酸性電解水を用いる植物病害防除方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
希薄食塩水等を電気分解して陽極側に得られる酸性電解水は主要殺菌成分として次亜塩素酸を含むので、食品衛生や医療方面での即効的な殺菌水として注目されている。近年、酸性電解水は農業分野へ応用されつつあり、種子消毒、作物への散布、土壌への灌注などが試みられている。酸性電解水の殺菌力を活かすことにより、農薬への過度の依存を軽減できるならば、環境への負荷低減を通じて環境保全ひいては人体への健康不安の解消に貢献できると期待される。
【0003】
酸性電解水による植物病害の防除については細菌性病害と糸状菌性病害のそれぞれについて報告がある。まず、細菌性病害の防除については、イネもみ枯細菌病苗腐敗症(以下、もみ枯細菌病と略す)および苗立枯細菌病の防除例がある(高橋義行ら、関東東山病害虫研究会年報、第43集、41〜43頁、1996年)が、単一pHの酸性電解水のみを用いた処理方法であり、pH2.3の酸性電解水を用いた時は効果が高いが、pH5.0〜5.5の酸性電解水を用いた場合は効果が劣る(本例の記載では電解酸化水あるいは単に酸化水と記載されているが、それらが酸性電解水と同義であることは当業者には周知のことである。)。
【0004】
次に植物病原性の糸状菌の防除については、特願平5−348730(特開平5−163101)に酸性電解水による果実、野菜等に対するうどんこ病予防の記載がある。特願平5−330854(特開平7−187931)に酸性電解水に農薬等を混ぜて芝草を殺菌することにより糸状菌性病害を防除する方法が開示されている。
【0005】
本出願人による、酸性電解水を用いる病害防除に関連する出願として特願平10−125227、同−125228、同−336671、同−338243および同−338244がある。
【0006】
病害防除の現場では細菌性病害と糸状菌性病害の両者を総合的に防除すること、すなわち総合防除が強く求められている。発芽阻害などの薬害が無いことはもちろんのこと、農薬に過度に依存している現状を鑑みるならば無農薬的もしくは減農薬的処理であることが望ましい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このような多くのニーズにこたえる、環境保全型の植物病害総合防除方法を鋭意探索したところ、酸性電解水処理と温湯処理との併用あるいは酸性電解水処理とベノミル製剤催芽時処理との併用を見いだし、本発明を完成させるにいたった。
すなわち本発明の第一の目的は酸性電解水処理と温湯処理を併用することを特徴とする植物病害総合防除方法を提供することであり、第二の目的は酸性電解水処理とベノミル製剤催芽時処理を併用することを特徴とする植物病害総合防除方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
酸性電解水とは塩素を含む水溶液を電気分解して陽極側に生成する水溶液のことである。電解質の種類や電解条件を適宜選択することによりpH1.5ぐらいからpH7.0未満の範囲の酸性電解水を調製することができる。
【0009】
酸性電解水中の有効塩素濃度(以下、単に塩素濃度と略す)は特に規定されるべきものではないが、好適には10ppm以上、更に好適には25ppm以上、特に好適には100ppm以上が望ましい。
【0010】
本発明の防除方法の対象となる植物は特に規定されるものではないが、好適にはイネ科植物である。イネ科植物とは単子葉植物の一科で、イネ、ムギ、トウモロコシ、アワ、ヒエ、サトウキビ、タケなどを含むものである。
【0011】
本発明の防除方法の対象となる植物病害は特に規定されるものではないが、酸性電解水の主要殺菌成分である次亜塩素酸の殺菌特性を鑑みるならば、好適には糸状菌性病害よりはむしろ細菌性病害である。酸性電解水処理の適性という点では、好適には種子伝染性の植物病害である。
本発明の防除方法は、農業用殺菌剤に感受性の病原菌のみならず、同耐性な病原菌による病害をも対象とするものである。
【0012】
ここで細菌性植物害としては、イネのもみ枯細菌病、内穎褐変病、苗立枯細菌病、褐条病、葉しょう褐変病、白葉枯病、株腐病、タバコの空胴病および立枯病、ハクサイ、キャベツ、タマネギ、ジャガイモ、花卉類の軟腐病、ジャガイモそうか病、サツマイモ立枯病、コンニャクおよびレタスの腐敗病、キュウリ斑点細菌病、ナス科野菜の青枯病、トマトかいよう病、花卉類の根頭がんしゅ病、カンキツかいよう病などが挙げられる。
【0013】
糸状菌性病害としては、イネのいもち病、ばか苗病、花卉類の苗立枯病などが挙げられる。ここで、いもち病は、糸状菌の一種で、不完全菌類に属する Pyricularia 属菌の寄生により苗や葉、穂などに褐色紡錘型の病班を形成する病害であり、イネいもち病、トウモロコシいもち病、シコクビエいもち病などが知られる。ばか苗病は、糸状菌の一種で、子嚢菌類に属する Gibberella 属の寄生によりイネ等が黄化・徒長する病害である。
【0014】
本発明の防除方法が使用される局面としては種子消毒、土壌消毒、散布消毒のいずれでもよいが、好適には種子消毒が挙げられる。特に好適な例としては、イネの育苗過程における浸種あるいは催芽過程において酸性電解水に浸漬することにより種もみを消毒する例が挙げられる。
【0015】
植物病害総合防除における酸性電解水処理の方法は何ら規定されるものではないが、防除効果が高くかつ薬害の無い好適な処理方法として、弱酸性の電解水を浸種・催芽時にかけ流す酸性電解水処理と強酸性の電解水に浸種し弱酸性の電解水中で催芽する酸性電解水処理を挙げることができる。
【0016】
弱酸性の電解水を浸種・催芽時にかけ流す酸性電解水処理とは、例えば、pH5付近の弱酸性の電解水を消毒処理槽に連続供給・排出によりかけ流して常時作りたての新鮮な酸性電解水と消毒対象物が接触するようにすることである。
【0017】
強酸性の電解水に浸種し弱酸性の電解水中で催芽する酸性電解水処理とは、pH1.5以上3.0未満の強酸性pHの酸性電解水に浸種し、pH3.0以上7.0未満の弱酸性pHの酸性電解水中で催芽させる処理方法であり、例えば、pH2の酸性電解水に浸種しpH5の酸性電解水水中で催芽させる処理方法である。
【0018】
温湯処理の条件は特に規定されるものではないが、温湯の温度が70℃を越えると植物の生育阻害をもたらすことがあり40℃未満では防除効果が低いので、40〜70℃ぐらいが好ましい範囲であり、処理時間も2時間以上処理しても防除効果の向上はみられないので2時間以内が好ましい。
【0019】
酸性電解水と糸状菌性病害用農薬との併用において注意しなければならないことがある。酸性電解水中の有効塩素と農薬成分との反応である。例えば、農薬中の殺菌成分と有効塩素が反応して農薬の殺菌活性が低下するといった事態である。
【0020】
現に、トリフルミゾール製剤を酸性電解水に溶かして希釈したところ、著しい沈殿が生じて同剤が無効化されたとの報告がある。農薬が無効化されるだけならばまだしも、有効塩素と農薬成分との反応により有害な副生物が生じて、それが収穫時に至るまで残留して消費者の健康に影響を及ぼすような事態になれば一大事である。
【0021】
そこで、浸種前処理に用いる農薬ではなく、酸性電解水処理が終わった後の例えば催芽時処理が可能な農薬との併用を検討した。酸性電解水の先処理にこだわるのは、逆の順序の場合、農薬がまぶされたもみを酸性電解水に漬けることにより農薬成分と塩素との反応を恐れるがためである。
【0022】
催芽段階以降に処理可能な農薬としてはベノミル製剤を挙げることができ、本発明は酸性電解水処理とベノミル製剤催芽時処理を併用することを特徴とする植物病害総合防除方法を提供するものである。中でも、酸性電解水浸種とベノミル製剤の催芽時処理との併用が好適である。
【0023】
【作用】
酸性電解水は、その主要殺菌成分である次亜塩素酸が殺菌作用を発揮する上で無数の作用点を有するので、殺菌力が強く、また、酸性電解水に対する耐性菌は出現しにくい。また、次亜塩素酸は塩素ガスとして蒸散しやすく残留性がないので、環境汚染の恐れがなく酸性電解水は環境保全性の点でもすぐれている。温湯は糸状菌のみならず、センチュウに対しても殺菌効果がある。
【0024】
【発明の実施の形態】
酸性電解水による種子消毒処理としては、pH2の酸性電解水中で浸種しpH5の酸性電解水中で催芽する処理とpH5の酸性電解水を浸種・催芽時にかけ流す処理が好適である。これらの酸性電解水処理と浸種前の55℃温湯−10分間処理あるいはベノミル製剤の催芽時処理を併用することにより、イネもみ枯細菌病苗腐敗症およびイネばか苗病の両者に対して優れた防除効果を示し、発芽阻害等の薬害もみられなかった。
【0025】
実施例1.イネもみ枯細菌病苗腐敗症防除試験(温湯処理を併用)
供試したもみはコシヒカリで、平成10年開花期にイネもみ枯細菌病菌を噴霧接種したものである。水選した後、用いた。もみ枯細菌病苗腐敗症とは、苗が淡褐色ないし褐色になり腐敗・枯死する病害である。1処理区あたり7g乾重量のもみを用いて3連で行った。
【0026】
「浸種(10℃あるいは20℃、5日)→催芽(32℃、1日)→播種→出芽→緑化→硬化」からなる育苗過程のうちの浸種および催芽過程において、pH2.0、塩素濃度200ppmの酸性電解水30mlで浸種して、pH5.0、同塩素濃度の酸性電解水30mlで催芽した(pH2→5処理と略す)。
【0027】
あるいはpH5.0、同塩素濃度の酸性電解水を浸種・催芽時に10時間に一回の頻度で全液量が入れ替るようにかけ流した(かけ流し処理と略す)。いずれの酸性電解水処理においても55℃温湯−10分の浸種前温湯処理(温湯処理と略す)を併用した。pH2.0の酸性電解水で浸種する場合のみ、発芽阻害回避のため、10℃で浸種し、他の場合は20℃で浸種した。
【0028】
酸性電解水は、0.1%塩化カリウム溶液を電解原水として15V/40Aの電解条件によりバッチ式の電解水製造装置を用いてpH2.0、塩素濃度200ppmのものを調製し、pH5.0の酸性電解水はこれのpHを水酸化ナトリウム溶液により調整して得た。水としてはミリQ水レベルの純水を用いた。
【0029】
対照区においては、もみを純水30mlに漬けて浸種・催芽を行った。農薬処理区においては、浸種前にオキソリニック酸・プロクロラズ水和剤の200倍希釈液15mlに24時間室温でもみを浸漬した後、十分に風乾させた。浸種以降の処理は対照区と同じである(農薬処理A)。
【0030】
播種16日後に苗立数、発病苗数、発病度の調査を行った、発芽率(%)は「(苗立数/播種粒数)×100」で算出し、発病度は調査苗に下記指数を与え、下記計算式により算出し、発病度に基づいて防除価を算出した。
0:健全苗、1:軽症苗、3:重傷苗、5:枯死苗
軽症苗:病状が肉眼で確認され、草丈が無処理区で良好な生育を示した苗の1/2以上の苗。
重症苗:病状が肉眼で確認され、草丈が無処理区で良好な生育を示した苗の1/2以下の苗。
発病度={(1N1+3N3+5N5)/5N}×100
N:調査総苗数、N1:軽症苗数、N3:重傷苗数、N5:枯死苗数
防除価={1−(処理区の発病度)/(無処理区の発病度)}×100
【0031】
【表1】
表1に示すように対照区においては発病度83.8のところ、温湯処理とpH2→5あるいはかけ流し処理を併用した場合の発病度はそれぞれ4.7、8.7となり、農薬処理Aと同程度の防除価それぞれ94.8、89.6を示した。
【0032】
実施例2.育苗期イネばか苗病防除試験(温湯処理を併用)
供試したもみは平成9年産トドロキワセで、ばか苗病菌が自然感染したものである。水選した後、用いた。ばか苗病とは育苗期および本田を通じて黄化・徒長特徴とする病害である。実施例1と同様に酸性電解水と温湯との併用処理、農薬処理Aおよび対照処理を行い、育苗した。ただし、1処理区あたり12g乾重量のもみを用いて3連で行い、浸種・催芽時の浴比は50ml/12gもみである。
【0033】
播種後16日後に苗立数、発病苗数の調査を行い、発病苗率より防除価を算出し、実施例1と同様にして発芽率を算出した。発病苗数は徒長苗数および苗基部にサケ肉色の菌叢を有する委凋枯死苗数の和である。
防除価={1−(処理区の発病苗率)/(無処理区の発病苗率)}×100
【0034】
【表2】
表2に示すように対照区において67.5%の発病率を示すところ、温湯処理とpH2→5あるいはかけ流し処理を併用した場合の発病率はそれぞれ0.2、0%、防除価はそれぞれ99.8、100となった。
【0035】
実施例3.イネもみ枯細菌病苗腐敗症防除試験(ベノミル製剤催芽時処理を併用)
供試したもみは黄金晴れで、平成10年開花期にイネもみ枯細菌病菌を噴霧接種したものである。水選した後、用いた。酸性電解水の調製方法および試験方法は実施例1に記載の通りである。対照処理も実施例1と同様であるが、それ以外の処理は以下の通りである。
【0036】
1)pH2浸種+ベノミル催芽;pH2.0、塩素濃度200ppmの酸性電解水で10℃、5日浸種した後、ベノミル水和剤の500倍希釈液中で催芽させた。
2)ベノミル催芽単独;純水で10℃、5日浸種した後、ベノミル水和剤の500倍希釈液中で催芽させた。
【0037】
【表3】
表3に示すように対照区においては発病度17.8のところ、「pH2浸種+ベノミル催芽」区では発病度4.1であり、防除価77であった。ベノミル催芽単独ではもみ枯細菌病苗腐敗症防除効果はなく、酸性電解水処理とベノミル製剤催芽時処理の併用で初めて総合防除が可能であった。
【0038】
実施例4.育苗期イネばか苗病防除試験(ベノミル製剤催芽時処理を併用)
酸性電解水の調製は実施例1に、試験方法は実施例2に、「pH2浸種+ベノミル催芽」区および対照区の処理方法は実施例3に記載の通りであり、農薬処理は以下の通りである。
農薬処理B;農薬処理Aと同様に、ペフラゾエート水和剤の200倍希釈液で浸種前処理を行った。
【0039】
【表4】
表4に示すように対照区において99.7%の発病苗率を示すところ、「pH2浸種+ベノミル催芽」区では発病苗率4.0であり、防除価96を示した。
【0040】
【発明の効果】
本発明により、防除効果が実用的に問題がないほどに高くかつ発芽阻害等の薬害の恐れが全くない、酸性電解水を用いる植物病害総合防除方法が確立された。本発明の総合防除方法を採用することにより、無農薬あるいは減農薬の環境保全型持続的農業が可能となる。
整理番号38
化学式等を記載した書面
明細書
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【産業上の利用分野】
本発明は、酸性電解水を用いる植物病害防除方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
希薄食塩水等を電気分解して陽極側に得られる酸性電解水は主要殺菌成分として次亜塩素酸を含むので、食品衛生や医療方面での即効的な殺菌水として注目されている。近年、酸性電解水は農業分野へ応用されつつあり、種子消毒、作物への散布、土壌への灌注などが試みられている。酸性電解水の殺菌力を活かすことにより、農薬への過度の依存を軽減できるならば、環境への負荷低減を通じて環境保全ひいては人体への健康不安の解消に貢献できると期待される。
【0003】
酸性電解水による植物病害の防除については細菌性病害と糸状菌性病害のそれぞれについて報告がある。まず、細菌性病害の防除については、イネもみ枯細菌病苗腐敗症(以下、もみ枯細菌病と略す)および苗立枯細菌病の防除例がある(高橋義行ら、関東東山病害虫研究会年報、第43集、41〜43頁、1996年)が、単一pHの酸性電解水のみを用いた処理方法であり、pH2.3の酸性電解水を用いた時は効果が高いが、pH5.0〜5.5の酸性電解水を用いた場合は効果が劣る(本例の記載では電解酸化水あるいは単に酸化水と記載されているが、それらが酸性電解水と同義であることは当業者には周知のことである。)。
【0004】
次に植物病原性の糸状菌の防除については、特願平5−348730(特開平5−163101)に酸性電解水による果実、野菜等に対するうどんこ病予防の記載がある。特願平5−330854(特開平7−187931)に酸性電解水に農薬等を混ぜて芝草を殺菌することにより糸状菌性病害を防除する方法が開示されている。
【0005】
本出願人による、酸性電解水を用いる病害防除に関連する出願として特願平10−125227、同−125228、同−336671、同−338243および同−338244がある。
【0006】
病害防除の現場では細菌性病害と糸状菌性病害の両者を総合的に防除すること、すなわち総合防除が強く求められている。発芽阻害などの薬害が無いことはもちろんのこと、農薬に過度に依存している現状を鑑みるならば無農薬的もしくは減農薬的処理であることが望ましい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このような多くのニーズにこたえる、環境保全型の植物病害総合防除方法を鋭意探索したところ、酸性電解水処理と温湯処理との併用あるいは酸性電解水処理とベノミル製剤催芽時処理との併用を見いだし、本発明を完成させるにいたった。
すなわち本発明の第一の目的は酸性電解水処理と温湯処理を併用することを特徴とする植物病害総合防除方法を提供することであり、第二の目的は酸性電解水処理とベノミル製剤催芽時処理を併用することを特徴とする植物病害総合防除方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
酸性電解水とは塩素を含む水溶液を電気分解して陽極側に生成する水溶液のことである。電解質の種類や電解条件を適宜選択することによりpH1.5ぐらいからpH7.0未満の範囲の酸性電解水を調製することができる。
【0009】
酸性電解水中の有効塩素濃度(以下、単に塩素濃度と略す)は特に規定されるべきものではないが、好適には10ppm以上、更に好適には25ppm以上、特に好適には100ppm以上が望ましい。
【0010】
本発明の防除方法の対象となる植物は特に規定されるものではないが、好適にはイネ科植物である。イネ科植物とは単子葉植物の一科で、イネ、ムギ、トウモロコシ、アワ、ヒエ、サトウキビ、タケなどを含むものである。
【0011】
本発明の防除方法の対象となる植物病害は特に規定されるものではないが、酸性電解水の主要殺菌成分である次亜塩素酸の殺菌特性を鑑みるならば、好適には糸状菌性病害よりはむしろ細菌性病害である。酸性電解水処理の適性という点では、好適には種子伝染性の植物病害である。
本発明の防除方法は、農業用殺菌剤に感受性の病原菌のみならず、同耐性な病原菌による病害をも対象とするものである。
【0012】
ここで細菌性植物害としては、イネのもみ枯細菌病、内穎褐変病、苗立枯細菌病、褐条病、葉しょう褐変病、白葉枯病、株腐病、タバコの空胴病および立枯病、ハクサイ、キャベツ、タマネギ、ジャガイモ、花卉類の軟腐病、ジャガイモそうか病、サツマイモ立枯病、コンニャクおよびレタスの腐敗病、キュウリ斑点細菌病、ナス科野菜の青枯病、トマトかいよう病、花卉類の根頭がんしゅ病、カンキツかいよう病などが挙げられる。
【0013】
糸状菌性病害としては、イネのいもち病、ばか苗病、花卉類の苗立枯病などが挙げられる。ここで、いもち病は、糸状菌の一種で、不完全菌類に属する Pyricularia 属菌の寄生により苗や葉、穂などに褐色紡錘型の病班を形成する病害であり、イネいもち病、トウモロコシいもち病、シコクビエいもち病などが知られる。ばか苗病は、糸状菌の一種で、子嚢菌類に属する Gibberella 属の寄生によりイネ等が黄化・徒長する病害である。
【0014】
本発明の防除方法が使用される局面としては種子消毒、土壌消毒、散布消毒のいずれでもよいが、好適には種子消毒が挙げられる。特に好適な例としては、イネの育苗過程における浸種あるいは催芽過程において酸性電解水に浸漬することにより種もみを消毒する例が挙げられる。
【0015】
植物病害総合防除における酸性電解水処理の方法は何ら規定されるものではないが、防除効果が高くかつ薬害の無い好適な処理方法として、弱酸性の電解水を浸種・催芽時にかけ流す酸性電解水処理と強酸性の電解水に浸種し弱酸性の電解水中で催芽する酸性電解水処理を挙げることができる。
【0016】
弱酸性の電解水を浸種・催芽時にかけ流す酸性電解水処理とは、例えば、pH5付近の弱酸性の電解水を消毒処理槽に連続供給・排出によりかけ流して常時作りたての新鮮な酸性電解水と消毒対象物が接触するようにすることである。
【0017】
強酸性の電解水に浸種し弱酸性の電解水中で催芽する酸性電解水処理とは、pH1.5以上3.0未満の強酸性pHの酸性電解水に浸種し、pH3.0以上7.0未満の弱酸性pHの酸性電解水中で催芽させる処理方法であり、例えば、pH2の酸性電解水に浸種しpH5の酸性電解水水中で催芽させる処理方法である。
【0018】
温湯処理の条件は特に規定されるものではないが、温湯の温度が70℃を越えると植物の生育阻害をもたらすことがあり40℃未満では防除効果が低いので、40〜70℃ぐらいが好ましい範囲であり、処理時間も2時間以上処理しても防除効果の向上はみられないので2時間以内が好ましい。
【0019】
酸性電解水と糸状菌性病害用農薬との併用において注意しなければならないことがある。酸性電解水中の有効塩素と農薬成分との反応である。例えば、農薬中の殺菌成分と有効塩素が反応して農薬の殺菌活性が低下するといった事態である。
【0020】
現に、トリフルミゾール製剤を酸性電解水に溶かして希釈したところ、著しい沈殿が生じて同剤が無効化されたとの報告がある。農薬が無効化されるだけならばまだしも、有効塩素と農薬成分との反応により有害な副生物が生じて、それが収穫時に至るまで残留して消費者の健康に影響を及ぼすような事態になれば一大事である。
【0021】
そこで、浸種前処理に用いる農薬ではなく、酸性電解水処理が終わった後の例えば催芽時処理が可能な農薬との併用を検討した。酸性電解水の先処理にこだわるのは、逆の順序の場合、農薬がまぶされたもみを酸性電解水に漬けることにより農薬成分と塩素との反応を恐れるがためである。
【0022】
催芽段階以降に処理可能な農薬としてはベノミル製剤を挙げることができ、本発明は酸性電解水処理とベノミル製剤催芽時処理を併用することを特徴とする植物病害総合防除方法を提供するものである。中でも、酸性電解水浸種とベノミル製剤の催芽時処理との併用が好適である。
【0023】
【作用】
酸性電解水は、その主要殺菌成分である次亜塩素酸が殺菌作用を発揮する上で無数の作用点を有するので、殺菌力が強く、また、酸性電解水に対する耐性菌は出現しにくい。また、次亜塩素酸は塩素ガスとして蒸散しやすく残留性がないので、環境汚染の恐れがなく酸性電解水は環境保全性の点でもすぐれている。温湯は糸状菌のみならず、センチュウに対しても殺菌効果がある。
【0024】
【発明の実施の形態】
酸性電解水による種子消毒処理としては、pH2の酸性電解水中で浸種しpH5の酸性電解水中で催芽する処理とpH5の酸性電解水を浸種・催芽時にかけ流す処理が好適である。これらの酸性電解水処理と浸種前の55℃温湯−10分間処理あるいはベノミル製剤の催芽時処理を併用することにより、イネもみ枯細菌病苗腐敗症およびイネばか苗病の両者に対して優れた防除効果を示し、発芽阻害等の薬害もみられなかった。
【0025】
実施例1.イネもみ枯細菌病苗腐敗症防除試験(温湯処理を併用)
供試したもみはコシヒカリで、平成10年開花期にイネもみ枯細菌病菌を噴霧接種したものである。水選した後、用いた。もみ枯細菌病苗腐敗症とは、苗が淡褐色ないし褐色になり腐敗・枯死する病害である。1処理区あたり7g乾重量のもみを用いて3連で行った。
【0026】
「浸種(10℃あるいは20℃、5日)→催芽(32℃、1日)→播種→出芽→緑化→硬化」からなる育苗過程のうちの浸種および催芽過程において、pH2.0、塩素濃度200ppmの酸性電解水30mlで浸種して、pH5.0、同塩素濃度の酸性電解水30mlで催芽した(pH2→5処理と略す)。
【0027】
あるいはpH5.0、同塩素濃度の酸性電解水を浸種・催芽時に10時間に一回の頻度で全液量が入れ替るようにかけ流した(かけ流し処理と略す)。いずれの酸性電解水処理においても55℃温湯−10分の浸種前温湯処理(温湯処理と略す)を併用した。pH2.0の酸性電解水で浸種する場合のみ、発芽阻害回避のため、10℃で浸種し、他の場合は20℃で浸種した。
【0028】
酸性電解水は、0.1%塩化カリウム溶液を電解原水として15V/40Aの電解条件によりバッチ式の電解水製造装置を用いてpH2.0、塩素濃度200ppmのものを調製し、pH5.0の酸性電解水はこれのpHを水酸化ナトリウム溶液により調整して得た。水としてはミリQ水レベルの純水を用いた。
【0029】
対照区においては、もみを純水30mlに漬けて浸種・催芽を行った。農薬処理区においては、浸種前にオキソリニック酸・プロクロラズ水和剤の200倍希釈液15mlに24時間室温でもみを浸漬した後、十分に風乾させた。浸種以降の処理は対照区と同じである(農薬処理A)。
【0030】
播種16日後に苗立数、発病苗数、発病度の調査を行った、発芽率(%)は「(苗立数/播種粒数)×100」で算出し、発病度は調査苗に下記指数を与え、下記計算式により算出し、発病度に基づいて防除価を算出した。
0:健全苗、1:軽症苗、3:重傷苗、5:枯死苗
軽症苗:病状が肉眼で確認され、草丈が無処理区で良好な生育を示した苗の1/2以上の苗。
重症苗:病状が肉眼で確認され、草丈が無処理区で良好な生育を示した苗の1/2以下の苗。
発病度={(1N1+3N3+5N5)/5N}×100
N:調査総苗数、N1:軽症苗数、N3:重傷苗数、N5:枯死苗数
防除価={1−(処理区の発病度)/(無処理区の発病度)}×100
【0031】
【表1】
表1に示すように対照区においては発病度83.8のところ、温湯処理とpH2→5あるいはかけ流し処理を併用した場合の発病度はそれぞれ4.7、8.7となり、農薬処理Aと同程度の防除価それぞれ94.8、89.6を示した。
【0032】
実施例2.育苗期イネばか苗病防除試験(温湯処理を併用)
供試したもみは平成9年産トドロキワセで、ばか苗病菌が自然感染したものである。水選した後、用いた。ばか苗病とは育苗期および本田を通じて黄化・徒長特徴とする病害である。実施例1と同様に酸性電解水と温湯との併用処理、農薬処理Aおよび対照処理を行い、育苗した。ただし、1処理区あたり12g乾重量のもみを用いて3連で行い、浸種・催芽時の浴比は50ml/12gもみである。
【0033】
播種後16日後に苗立数、発病苗数の調査を行い、発病苗率より防除価を算出し、実施例1と同様にして発芽率を算出した。発病苗数は徒長苗数および苗基部にサケ肉色の菌叢を有する委凋枯死苗数の和である。
防除価={1−(処理区の発病苗率)/(無処理区の発病苗率)}×100
【0034】
【表2】
表2に示すように対照区において67.5%の発病率を示すところ、温湯処理とpH2→5あるいはかけ流し処理を併用した場合の発病率はそれぞれ0.2、0%、防除価はそれぞれ99.8、100となった。
【0035】
実施例3.イネもみ枯細菌病苗腐敗症防除試験(ベノミル製剤催芽時処理を併用)
供試したもみは黄金晴れで、平成10年開花期にイネもみ枯細菌病菌を噴霧接種したものである。水選した後、用いた。酸性電解水の調製方法および試験方法は実施例1に記載の通りである。対照処理も実施例1と同様であるが、それ以外の処理は以下の通りである。
【0036】
1)pH2浸種+ベノミル催芽;pH2.0、塩素濃度200ppmの酸性電解水で10℃、5日浸種した後、ベノミル水和剤の500倍希釈液中で催芽させた。
2)ベノミル催芽単独;純水で10℃、5日浸種した後、ベノミル水和剤の500倍希釈液中で催芽させた。
【0037】
【表3】
表3に示すように対照区においては発病度17.8のところ、「pH2浸種+ベノミル催芽」区では発病度4.1であり、防除価77であった。ベノミル催芽単独ではもみ枯細菌病苗腐敗症防除効果はなく、酸性電解水処理とベノミル製剤催芽時処理の併用で初めて総合防除が可能であった。
【0038】
実施例4.育苗期イネばか苗病防除試験(ベノミル製剤催芽時処理を併用)
酸性電解水の調製は実施例1に、試験方法は実施例2に、「pH2浸種+ベノミル催芽」区および対照区の処理方法は実施例3に記載の通りであり、農薬処理は以下の通りである。
農薬処理B;農薬処理Aと同様に、ペフラゾエート水和剤の200倍希釈液で浸種前処理を行った。
【0039】
【表4】
表4に示すように対照区において99.7%の発病苗率を示すところ、「pH2浸種+ベノミル催芽」区では発病苗率4.0であり、防除価96を示した。
【0040】
【発明の効果】
本発明により、防除効果が実用的に問題がないほどに高くかつ発芽阻害等の薬害の恐れが全くない、酸性電解水を用いる植物病害総合防除方法が確立された。本発明の総合防除方法を採用することにより、無農薬あるいは減農薬の環境保全型持続的農業が可能となる。
整理番号38
化学式等を記載した書面
明細書
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
Claims (3)
- 酸性電解水処理と温湯処理とを併用してイネもみ枯細菌病苗腐敗症を防除することを特徴とする植物病害防除方法。
- pH3.0以上7.0未満の弱酸性電解水を浸種・催芽時にかけ流す酸性電解水処理と温湯処理とを併用し、イネもみ枯細菌病苗腐敗症を防除することを特徴とする植物病害防除方法。
- pH1.5以上3.0未満の強酸性電解水に浸種し、pH3.0以上7.0未満の弱酸性電解水中で催芽する酸性電解水処理と温湯処理を併用し、イネもみ枯細菌病苗腐敗症を防除することを特徴とする植物病害防除方法。
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