JP2015514747A - 乳児の発育促進 - Google Patents

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Abstract

本発明は、乳児の発育を促進する組成物と方法に関する。特には、本発明は、予想速度を上回る形で、早産児及び胎内発育遅延(SGA)児を含む低出生体重児の発育を促すのに、インスリンを用いることを開示する。【選択図】なし

Description

本発明は、乳児の発育を促進する組成物と方法、特には、新生児の発育を促す効果のある早産児及び胎内発育遅延(SGA)児用インスリンサプリメントと、そのインスリンサプリメントを含む調製乳に関する。
授乳は、その栄養面及び免疫面での利点により、乳児の健全な発育と発達を支える自然かつ適切な方法として認められている(ESPGHAN Committee on Nutrition:Agostoni C.et al.Breast−feeding:A commentary by the ESPGHAN Committee on Nutrition.J Pediatr Gastroenterol Nutr 2009.49:112−25)。母乳は、乳児の栄養要求に最も適する食事を提供する。母乳は乳児に、広範な感染症関連疾患に対する免疫防御力も提供し(Shulman R.J.Pediatr Res 1990.28:171−5)、特定の認知発達分野において長期的なメリットをもたらすことも分かっている。乳児に人乳を与えてから最初の数週間で、人乳の組成が変化することも周知である。人乳は、出産から最初の5日間は初乳、出産から6〜14日間は移行乳、その後は成熟乳と呼ばれる。授乳期の各段階の間、対応する人乳組成は、かなり異なる。例えば、初乳と移行乳は、成熟乳よりもカロリー密度が低く、タンパク質濃度が高く、糖質濃度が低い。ビタミン及びミネラル、並びにホルモン濃度も、上で定義した3つの人乳群で様々である。しかしながら、特にその乳児が早産児又は低体重児であるときには、授乳が必ずしも可能であるわけではない。
市販されているか、又はさもなければ乳児用調製乳の技術分野において知られている乳児用栄養補給調製乳には、多種多様なものがある。これらの乳児用調製乳は、発育している乳児の栄養面でのニーズを満たすために、ある範囲の栄養分を含み、典型的には、脂質、糖質、タンパク質、ビタミン、ミネラル、並びに乳児の最適な発育及び発達に有用なその他の栄養分を含む。ヒトの成熟乳と同様の組成を有する市販向けの乳児用調製乳を作製する取組みがなされているが、それらの調製乳は、典型的にはその調製乳の加工条件のせいで、ヒトの成熟乳と同一というわけではない。市販向けの乳児用調製乳に欠けている成分の1つはインスリンであり、インスリンは、活性型で母乳に存在することが知られている。
泌乳母獣及び乳飲みラットの観察により、哺乳類の乳のインスリンに生物活性があること、及び未成熟な腸細胞のインスリンに対する応答が増大していることが示されている(Buts J.P.et al.,J Pediatr Gastroenterol Nutr 1997.25:230−2)。インスリンは、腸管上皮細胞の増殖を刺激し、新生仔豚に与える飼料にブタインスリンを加えると、回腸ラクターゼ活性が向上する(Shehadeh N.et al.,Pediatr Diabetes 2001.2:175−177、Corps A.N.and Brown K.D.J Endocrinol 1987.113:285−90)。さらに、乳由来のインスリンは、膵臓の成熟に影響を及ぼし、ラットにおいて膵アミラーゼの発現を誘発する(Kinouchi T.et al.,JPGN2000.30:515−521)。人乳インスリン濃度(60.23±41.05μU/ml)が、牛乳(16.32±5.98μU/ml)と比べて有意に高いことと、乳児用調製乳ではインスリンがほとんど検出されないことが既に示されている。出産から3〜30日に採取したヒトの母乳におけるインスリン値の範囲は、6.45〜305.65μU/mlであった。追加の調査において、母乳におけるヒトインスリン濃度が、在胎期間又は生後日数の影響を受けるか否かをさらに評価した。分娩から3日目と10日目に、母乳のインスリンレベルを分析した。人乳インスリン(HMI)濃度は、分娩から3日目と10日目のいずれにおいても、出産時の在胎期間、母親の年齢、人種、分娩様式、妊娠中の体重増加、又は母体の体格指数(BMI)の影響を受けていなかった。HMI濃度は、分娩から3〜10日目に低下したが、この低下は正期産の母親(在胎期間37〜41週の群)のみで有意であった。したがって、早産児は、正期産児と同様の濃度のインスリンに曝される(Shahadeh N et al.,2003.Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed 88:F214−F216)。ヒトの初乳は、最大で約600μU/mlという高濃度のインスリンを含む(Read L C.et al.,1984.Pediatr Res 18(2):133−139)。
インスリンの腸内投与は、早産児の摂食不耐性を低下させるのに有益であり得(Shulman R J.Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed.2002.86:F131−F133)、マウスにおける自己免疫性糖尿病の発現を抑制することができる(Schatz D. A.et al.,Cleve Clin J Med 1996.63:270−4)。経口投与したインスリンは通常、腸内に吸収されず(Larkin M.Lancet 1997.349:1676)、観察される効果は局所的で、哺乳期に限られることがある(Shehadeh N.et al.,2001,上記文献)。さらに、非乳飲みマウスにおける経口インスリン補充は、インスリンの血清中レベルを向上させ、脂質の血清中レベルに対して有益な効果を有しており、この母集団において経口投与したインスリンの全身的な効果を示唆している。これは、成体ラットでのインスリンの腸管における経細胞輸送(傍細胞輸送ではない)の観察結果と一致している。
経口インスリンの長期的な悪影響に関する観察はなされていないが、経口インスリンを4〜28日齢の早産児に、4U/kg/日ほどの高さの濃度で投与したところ、ラクターゼ活性が向上し、この投与は、低血糖症又はその他の副作用を誘発させることなく、摂食不耐性を低下させるのに有益であり得る(Shulman 2002、上記文献)。未成熟な腸の乳飲みラットモデルにおいて、投与したインスリンが、粘膜量パラメーターと刷子縁膜(BBM)ヒドロラーゼの発現に及ぼす作用の分析によって、乳由来のインスリンの1日摂取推定量よりも約10倍多い薬理学的範囲で投与した経口インスリンの安全性も示されており、これは、経口インスリン補充の安全性を示している(Buts J P et al.,1997.J Pediatr Gastroenterol Nutr 25:230−2)。さらに、この調査結果により、特に、適切なビヒクル(ラット乳)中で投与すると、インスリンが腸のBBM酵素を早期に増強できることが示された。
本発明の発明者による米国特許第6,365,177号、及び同第6,399,090号は、栄養成分とインスリンサプリメントとを含む粉末又は溶液形状の乳児用調製乳を開示している。インスリン濃度は、溶液1ml当たり10〜1000μU(特には溶液1ml当たり30〜100μU)、又は粉末1グラム当たり83〜7,500μU(特には粉末1グラム当たり250〜750μU)の範囲内であり、乳児に与えたときに、乳児が糖尿病を発現する可能性が低下する。
米国特許出願公開第20070248652号、及び同第20060147494号は、インスリンを含む活性成分を封入する方法と、このような活性成分を含む製剤であって、ヒト及びヒト以外の生物の健康状態と発育能力を高めるために用いる方法と製剤を開示している。
米国特許第8,026,211号は、特に腸機能不全又は栄養失調を罹患した対象において、治療有効量のインスリンを経口及び/又は腸内投与することによって、腸機能を向上させる方法を開示している。
出生体重が2,500g未満の乳児は、低出生体重(LBW)とみなされ、新生児としての重大な健康問題、持続的な障害、更には死亡のリスクが高まる。特定のLBW児は更に、出生体重が1,500g未満の極低出生体重(VLBW)児と、出生体重が1000g未満の超低出生体重(ELBW)児に分類できる。LBW児の比率は、世界各地で異なる。例えば、世界保健機関(WHO)の推計によれば、2000年に開発途上地域で産まれた乳児の16.5%がLBWであった。これに対して、2005年に米国で産まれた乳児の約12人に1人(8.3%)がLBWであった。LBW児の比率は、特に米国のような先進地域で高まっており、人工妊娠による多胎妊婦の早産の増加に主に起因すると考えられる。
低出生体重の主な原因は、身長の低い両親という遺伝的背景以外では、早産、すなわち、最終月経期の初日から34週6日目よりも前に産まれた乳児であることと、胎児発育遅延、すなわち、正期産児であり得るが、低体重である乳児(胎内発育遅延(SGA)児又はSFD児としても知られる)であることである。胎内発育遅延(SGA)は、同じ在胎期間の男女別集団の基準平均に比べて、出生体重及び/又は身長の標準偏差(SD)が−2以下であることとして定義されている。SGAは、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、早産、又はこれら両方に起因し得る。
正常な在胎期間の最終週は、胎児の急激な発育によって特徴付けられる。したがって、早産児は、子宮内での急激な発育によって通常特徴付けられる期間に、子宮外での暮らしに曝される。生存するために、乳児のエネルギー消費は、発育促進作用から生存戦略にシフトし、この低い発育速度により、身体組成、インスリン感受性、血圧などを含む特徴に関わる後遺症を持続的に合併する。
国際公開(PCT)第1998/044917号は、早産児の発育を促進する方法であって、特定の長鎖多価不飽和脂肪酸の投与を含む方法を開示している。ドコサヘキサエン酸とアラキドン酸との組み合わせを含む乳児用調製乳を乳児に投与することが好ましい。
国際公開(PCT)第2012/052060号は、組換えヒト胆汁酸塩刺激リパーゼ(rhBSSL)の腸内投与によって、ヒト乳児、特にはヒトの低体重児又は早産児の発育速度を速める方法を開示している。
国際公開(PCT)第2012/150245号は、ATP感受性カリウム(K−ATP)チャネルアンタゴニストを含む医薬組成物と、早産児及び/又は胎内発育遅延児の高血糖を治療し、及び/又は発育を促す方法とを開示している。
産まれてから最初の数カ月間の発育遅延を克服するとともに、胎内発育遅延の健康への長期的悪影響の程度又は発生を軽減するように、早産児を補助できる授乳用調製乳に対する未充足ニーズが存在する。
本発明は、早産児及び胎内発育遅延(SGA)児を含む低出生体重児の発育と成熟を促すために、インスリンを用いることに関する。
本発明は部分的には、生後1〜4カ月の間、早産児及び/又はSGA児にインスリン強化調製乳を与えると、体重、身長、及び頭囲が、予想発育速度を上回って増加するという予期せぬ発見に基づく。さらに、ヒトの初乳又は乳と同程度の濃度範囲のインスリンが、胃腸管の成熟を有意に高め、その結果、乳児が非経口ではない完全経腸栄養に移行するまでに必要な時間を短縮し、低出生体重児の退院を早めることができることを本発明は開示する。早産児又はさもなければ低出生体重児に経口投与したインスリンが、生後1〜6カ月の重大な発育期間に、その乳児の発育を促すことを本発明は初めて示す。
すなわち、ある1つの態様によれば、本発明は、ヒトの低出生体重児の発育速度を速める方法であって、新生児のときに乳児にインスリンを経口投与することによって、予想速度を上回るように、乳児の発育速度を速めることを含む方法を提供する。
特定の実施形態によれば、低出生体重児は、ヒトの早産児、及びヒトの胎内発育遅延(SGA)児からなる群から選択する。
典型的な実施形態によれば、発育速度を速めることは、乳児の体重、身長、及び頭囲の少なくとも1つの測定値が、早産児又はSGA児の予想値を上回ることを含む。
別の実施形態によれば、発育、身長、及び頭囲の少なくとも1つの測定値は、少なくとも生後1カ月、2カ月、3カ月、又は4カ月に測定する。別の実施形態によれば、測定値は、少なくとも生後3カ月に測定する。特定の典型的な実施形態によれば、測定値は、生後6カ月に測定する。いくつかの実施形態によれば、これらの測定値の複数が予想を上回る。
追加の実施形態によれば、発育速度を速めることは、胃腸の成熟の測定値が早産児又はSGA児の予想値を上回ることを含む。特定の実施形態によれば、乳児の胃腸の成熟の測定値は、完全経腸栄養を達成するのに必要な日数によって設定する。これらの実施形態によれば、本発明の教示に従ってインスリンを低出生体重児に投与すると、完全経腸栄養を達成するのに必要な日数が、予想日数よりも短縮する。
追加の実施形態によれば、本発明の教示に従ってインスリンを低出生体重児に投与すると、乳児の入院期間が、予想入院期間よりも短縮する。
本発明の教示によれば、インスリンは、組成物内及び/又は乳児用調製乳内に直接投与できる。当該技術分野において既知のいずれかの腸内投与法を、本発明の教示に従って用いることができる。特定の典型的な実施形態によれば、インスリン又はインスリンを含む組成物を乳児用調製乳と混合して、インスリン強化調製乳を形成させる。特定の具体的実施形態によれば、インスリンを封入材に封入する。封入材は典型的には、多糖、粉乳、ホエイタンパク質、脂質、アラビアガム、及び微結晶性セルロースからなる群から選択する。当該技術分野において既知のその他の封入材も、本発明の範囲に包含される。
ある1つの実施形態によれば、インスリンをマルトデキストリン(MD)のマトリックス内にマイクロカプセル化して、インスリンサプリメントを形成させる。別の実施形態によれば、このマトリックスは更に、抗酸化剤、典型的にはビタミンCを含む。このマトリックスは、活性保持の点で、長期安定性と高温(42℃超)暴露耐性を有する封入インスリンをもたらす。
当該技術分野において既知のようないずれの乳児用調製乳も、本発明のインスリン強化調製乳を製造するための基礎的な調製乳として用いることができる。典型的には、乳児用調製乳は、使用前に水に再度溶解させて液体調製乳を形成させる乾燥粉末の形状である。
特定の実施形態によれば、インスリンは、液体インスリン強化調製乳として、50マイクロIU/ml(μIU/ml)〜600マイクロIU/ml(μIU/ml)の濃度範囲で投与する。いくつかの実施形態によれば、本発明のインスリン強化調製乳は、インスリンを50μIU/ml〜400μIU/mlの濃度範囲で含む。別の実施形態によれば、本発明のインスリン強化調製乳は、インスリンを75μIU/ml〜125μIU/mlの濃度範囲で含む。特定の典型的な実施形態によれば、インスリン強化調製乳は、100μIU/mlのインスリンを含む。別の典型的な実施形態によれば、インスリン強化調製乳は、400μIU/mlのインスリンを含む。特定の典型的な実施形態によれば、インスリンには生物活性がある。
本明細書に開示されているインスリン濃度範囲は、早産児の胃腸の成熟を促すことが知られているこれまでのインスリン濃度と比べて有意に低い(最大で4桁)。
したがって、特定の実施形態によれば、本発明は、低出生体重児の胃腸の成熟速度を速める方法であって、新生児のときに乳児に、インスリンを50μIU/ml〜600μIU/mlの濃度で含む液体組成物を経口投与することを含む方法を提供する。
特定の典型的な実施形態によれば、胃腸の成熟の促進により、乳児の完全経腸栄養を達成するのに必要な日数が短縮する。更なる実施形態によれば、胃腸の成熟の促進により、対象の入院日数が減少する。
特定の実施形態によれば、インスリンは、ヒトインスリン及びウシインスリンからなる群から選択した哺乳類インスリンである。特定の典型的な実施形態によれば、インスリンはヒトインスリンである。これらの実施形態によれば、インスリンは組換え又は半合成ヒトインスリンである。
本発明のインスリン又はインスリン強化調製乳は、通常の授乳、又はこれが不可能なときには経鼻胃管によって投与できる。
本発明の方法は、生後数週間又は数カ月、典型的には少なくとも生後1カ月、又は少なくとも生後2カ月、並びに最長で生後約3カ月、最長で生後4カ月、最長で生後5カ月、及び最長で生後6カ月以上の新生児を対象とする。本発明の教示に従ってインスリン又はインスリン強化調製乳を投与する期間は、すなわち哺乳瓶による授乳を母親と子供が相互に望む限りは、授乳期間を模擬できることが明らかに分かる。
特定の実施形態によれば、生後数週間又は数カ月間、インスリンを液体インスリン強化調製乳として、母乳で育てられた乳児の1日の平均授乳量と同様の1日の平均授乳量で投与する。特定の実施形態によれば、母乳の授乳と併せて、インスリン強化調製乳を投与する。別の実施形態によれば、インスリン強化調製乳を唯一の栄養として投与する。更なる追加の実施形態によれば、非経口栄養と併せて、インスリン強化調製乳を投与する。更なる追加の実施形態によれば、追加の食物と組み合わせて、インスリン強化調製乳を投与する。
本発明のその他の目的、特徴、及び利点は、下記の説明と図面から明らかになるであろう。
出生時における実測体重の平均値の予想体重の平均値との比較を示している。 (*)−実測値と予想値の平均値の差。効果は有意ではない。 (**)−実測値と予想値の平均値の差は、P<0.001で有意である。 出生時における実測身長の平均値の予想身長の平均値との比較を示している。 (*)−実測値と予想値の平均値の差。効果は有意ではない。 (**)−実測値と予想値の平均値の差は、P<0.025で有意である。
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明が、その用途において、下記の説明で示されているか、又は実施例によって例示されている詳細に限定されないことを理解すべきである。本発明は、別の実施形態であったり、又は様々な方法で実施若しくは実行したりすることができる。また、本明細書で用いられている表現及び用語は、説明目的のものであり、限定するものとみなしてはならないことも理解すべきである。
生後数週間又は数カ月間、本発明のインスリン強化調製乳を乳児に投与すると、乳児用調製乳1ml当たり50〜600μIUの濃度範囲のインスリンが、胎内発育遅延児(SGA)及び早産児を含む低出生体重児の発育を促すことを本発明は初めて開示する。
インスリンを乳児及び/又は早産児に経口投与する効果のうち、これまで開示されてきた効果としては、健常児及び非健常児における腸機能の向上、早産児における摂食不耐性の低下、及び成長後に糖尿病を発現するリスクの低下が挙げられる。本発明は、低出生体重児へのインスリン投与の追加かつ予想外の結果を開示する。低出生体重児の正常な発育にとっての主な障害物の1つは、生後数週間及び数カ月間、発達が遅いことにあり、この発達の遅さは、様々な発育パラメーターに長期的な影響を及ぼす。インスリン濃度の点で初乳及び/又は乳を模擬した調製乳を低出生体重児に与えると、上記の重要な時期における発育を有意に促すので、低出生体重の長期的な悪影響を防止し得ることが今では示されている。これらのインスリン濃度は、低出生体重児の胃腸管の成熟を促す効果が高いことを本発明は更に示しており、この効果は、これまでは本発明よりも有意に高いインスリン濃度のみで示されてきた現象である。
定義
本明細書で使用する場合、乳児に関する「低出生体重」という用語は、出生体重が2,500g未満の乳児を指し、1,500g未満の極低出生体重児と、1000g未満の超低出生体重児を含む。この用語は、早産児と胎内発育遅延(SGA)児を更に含む。
本明細書で使用する場合、「早産児」という用語は、在胎34週以下で産まれた乳児を指す。本明細書で使用する場合、この用語は、胎内発育遅延(SGA)で産まれた早産児と、在胎相当体重(AGA)で産まれた早産児を含む。
「胎内発育遅延児(SGA)」という用語は、その在胎期間の平均値に比べて、出生体重及び/又は身長の標準偏差が少なくとも−2である乳児を指す。
本明細書で使用する場合、「インスリン」という用語は、ランゲルハンス島によって自然に分泌されるとともに、糖質及び脂肪の代謝の調節、特にはグルコースのグリコーゲンへの変換において機能を果たすポリペプチドホルモンを指す。インスリンは、天然インスリン(精製、合成、若しくは組換え)、又はその類縁体であってよい。特定の実施形態によれば、インスリンという用語は、哺乳類インスリンを指す。特定の典型的な実施形態によれば、インスリンという用語は、組換えヒトインスリンと、生物活性があるその類縁体を指す。
本明細書で使用する場合、「IU(国際単位)」という用語は、純粋な結晶性インスリン約45.5μg(正確には1/22mg)の生物学的当量を指す。
「増加する」又は「促進する」(例えば体重)という用語は、本発明の調査測定値(乳児の体重、身長、頭囲、及び胃腸の成熟を含む)が、その予想値と比べて、少なくとも0.05%、0.1%、0.5%、1%、2%、5%、10%、15%、20%上昇することを指す。特定の実施形態によれば、胃腸の成熟の促進は、低出生体重児が完全経腸栄養に移行するのに必要な日数の短縮によって測定することが明らかに分かる。本明細書で使用する場合、「完全経腸栄養」という用語は、約130〜170、典型的には約140〜160ml/Kg/日の量の経腸栄養を指す。別の特定の実施形態によれば、胃腸の成熟の促進は、胃残留物(前の食事から、乳児の胃に残った残留物)の体積に従って評価する。胃残留物の体積は、胃腸の成熟と逆相関する。
本明細書で使用する場合、体重、身長、及び頭囲に関する「予想測定値」という用語は、特定の実施形態によれば、乳児の性別、在胎期間、及び出生体重(BW)のパーセンタイルごとに、Center for Disease Control and preventions(CDC)の発育基準表(http://www.cdc.gov/growthcharts)から得られる予想値を指す。別の実施形態によれば、体重、身長、及び頭囲に関する「予想測定値」という用語は、World Heath Organization(WHO) growth standards(WHO Multicentre Growth Reference Study Group;WHO Child Growth Standards:Methods and Development.Length/height−for−age,weight−for−age,weight−for−length,weight−for−height and body mass index−for−age:Methods and development.Geneva:World Health Organization,2006、http://www.who.int/childgrowth/standards/technical_report/en/index.htmlで入手可能、de Onis M,Garza C,Onyango AW,et al,editors、WHO Child Growth Standards.Acta Paediatr Suppl 2006;450: 1−101)による予想値を指す。
ある1つの態様によれば、本発明は、ヒトの低出生体重児の発育速度を速める方法であって、新生児のときに乳児にインスリンを経口投与することによって、乳児の発育速度を予想速度よりも速めることを含む方法を提供する。
特定の実施形態によれば、インスリン強化液体調製乳を形成する液体調製乳内で、インスリンを投与する。いくつかの実施形態によれば、インスリン強化調製乳は、インスリンを50μIU/ml〜600μIU/mlの濃度範囲で含む。いくつかの実施形態によれば、インスリン強化調製乳は、インスリンを50μIU/ml〜500μIU/mlの濃度範囲で含む。追加の実施形態によれば、インスリン強化調製乳は、インスリンを50μIU/ml〜400μIU/mlの濃度範囲で含む。別の実施形態によれば、インスリン強化調製乳は、インスリンを75μIU/ml〜125μIU/mlの濃度範囲で含む。特定の典型的な実施形態によれば、インスリン強化調製乳は、100μIU/mlのインスリンを含む。別の典型的な実施形態によれば、インスリン強化調製乳は、400μIU/mlのインスリンを含む。特定の典型的な実施形態によれば、インスリンには生物活性がある。
特定の実施形態によれば、インスリンは、ヒトインスリン及びウシインスリンからなる群から選択した哺乳類インスリンである。特定の典型的な実施形態によれば、インスリンはヒトインスリンである。これらの実施形態によれば、インスリンは、組換え又は半合成ヒトインスリンである。
正期産後のヒト初乳におけるインスリン濃度は、約400μU/ml〜600μUmlの範囲内であるであることが分かった(Ontsouka C E et al.,2004.Somestic.Animal Endocrinol 16:155−175、Read 1984、上記文献)。正期産後の乳のインスリン濃度は、これよりも低く、平均で約60μIU/mlであることが分かった。同様の値が、早産児の母親の母乳で、在胎期間にかかわらず測定された(Shehadeh N. et al.2003.上記文献、Shehadeh N.et al.2006 J Pediatr Gastroenterol Nutr 43:276−281)。
インスリンは、ヒト及びブタを含むいくつかの哺乳動物種の初乳に存在する栄養因子の1つとして示唆されてきた。ヒト及びブタの初乳中のインスリン濃度は、血清中の濃度よりも3〜30倍高く(ヒトの血清中濃度は、7〜24μIU/mlの範囲内である)、初乳の栄養活性の低下に応じて低下する。Shulman(1990、上記文献)は、腸回腸部質量とラクターゼ活性が、ミニブタ新生児において、85mU/mlのインスリンの経口投与に応答して増大したことを示した。回腸質量の増加は、小腸の全質量に影響を及ぼすほど十分に有意であり、インスリンで処置した群の方が、非処置群よりも高いことが分かった。この調査及びその他の調査において、調査した濃度でのインスリンの経口摂取が、血糖レベル又はインスリンレベルに影響を及ぼさないことが示されており、インスリンが、いずれかの有意な程度で全身に吸収されることがない旨を示している。Shulman(2002、上記文献)は、インスリンを4U/mlの高濃度でヒトの早産児に腸内投与すると、胃腸の機能(ラクターゼ活性の向上によって測定)が高まることを示した。
化合物を乳児に経口送達するための方法のうち、当該技術分野において既知のいずれの方法も、本発明の教示に従って用いることができる。特定の実施形態によれば、インスリンは、半固体の乳児用インスリン強化調製乳内で投与する。別の実施形態によれば、インスリンは、液体の乳児用インスリン強化調製乳として投与する。いくつかの実施形態によれば、乳児用調製乳は、生後数週間又は数カ月間、母乳で育てられる乳児と同様の1日の平均授乳量で投与する。
新生児〜6カ月齢児に投与する最適な調製乳量の計算値は、母乳を唯一の栄養として与えられる健常児で観察されるエネルギー消費量及びタンパク質消費量に基づいている。(EUにおける最小許容タンパク質含有量に従って)調製乳のエネルギー含有量を60〜75kcal/100mlとすると、推奨される調製乳消費量は115〜215ml/Kg/日である(Report of the Scientific Committee on Food on the Revision of Essential Requirements of Infant Formulae and Follow−on Formulae,May 2003)。
下記の実施例の項に示されているように、これまでの結果に付随して、調査に参加したいずれの乳児においても、最長で6カ月のフォローアップで、有害事象は観察されなかった。乳児用調製乳にインスリンを加えても、低血糖症は発生しなかったとともに、抗インスリン抗体の産生は刺激されなかった。
典型的な実施形態によれば、発育速度の促進は、早産児及び/又はSGA児において、生後6カ月の乳児体重、身長、及び頭囲の少なくとも1つの測定値が予想を上回ることを含む。いくつかの実施形態によれば、これらの測定値の複数が予想を上回る。
CDCの発育表による予想発育との比較において、インスリンを与えた乳児では、体重、身長、及び頭囲において、発育が促された。6カ月時点の予想発育との比較において、最も効果が大きかったのは体重(18.1%)で、続いて頭囲(17.6%)、身長(8.1%)の順であった。
下記の調査データを、公開されている表から得た予想値と比較した。これらの表に示されているデータは、特に母集団の違い(CDCの表は米国の集団に関するものであるが、本発明の調査はイスラエルで行った)により、現場で測定した発育速度とは異なる可能性がある。加えて、CDCが公表した表から得た発育予想値は、在胎期間及び多胎に関して明確でない。したがって、対照調査から得たデータは、本発明の教示によるインスリン投与の更に有意な効果を示すことができる。
予想外にも、最大で400μU/mlという範囲の低いインスリン濃度(ヒトの初乳及び乳のインスリン濃度と同様である)は、早産児及びSGA児の胃腸管の成熟を促す効果が高いことを本発明は更に示しており、この効果は、これまでは上記よりも有意に高いインスリン濃度のみで示されてきた現象である(例えばShulman 2002、上記文献)。
下記の実施例の項に示されているように、インスリンを400μU/mlで投与すると、処置した早産児が完全経腸栄養に移行するのに必要な日数が短縮される。この結果は、有意性が高い。早産児が、集中治療室から早期に退出可能になり、更には、早期に退院して自宅療養となることができるので、汚染のリスクが軽減されるからである。乳児の早期退院は、経済的な視点からも有意であり、早産児又はその他の低出生体重児の入院に伴うコストが有意に軽減される。
インスリンは、現在市販されている乳児用調製乳ではほとんど検出不可能である(Shehadeh N.2001.Acta Paediatr.90:93−95)。乳児用調製乳は典型的には、人乳における濃度よりもインスリン濃度の低い(典型的には3分の1未満)牛乳から製造される。加えて、調製乳の製造に関わる過酷な条件により、インスリン、特に生物活性があるインスリンが喪失する。
したがって、特定の現時点で典型的な実施形態によれば、インスリンを封入材の中に封入して、インスリンに安定性をもたらす。本明細書で使用する場合、「インスリン安定性」という用語は、インスリン初期活性の少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、95%、又は100%を保持することを指す。インスリンを封入する方法は、当該技術分野において既知である。このような方法の例は、本発明の出願者に譲渡された国際公開第2004/112494号、及び同第2005/115473号に示されている。
食品及び医薬業界では、例えばマイクロカプセル化を用いてコア材料を安定化させ、コア材料の放出のタイミングと速度を制御するとともに、多成分製剤の反応性又は非相溶成分間の化学的相互作用を分離及び防止する。すなわち、マイクロカプセル化によって、高感受性の生物活性剤を保護し、活性喪失を防ぎ、香味及び香りを遮断又は保持できるようになる。封入を用いて、発育促進剤のような生物活性成分の生物学的活性を、有害な温度、圧力、湿度、pH、浸透濃度、イオン濃度、化学分解、金属の存在、界面活性剤の存在、キレーターの存在、放射線(UV、IR、可視光が挙げられるが、これらに限らない)、酵素分解、微生物分解、及びこれらの組み合わせ、又は類似の破壊的因子のいずれかから守って保持してよい。
封入した生物活性成分の放出は、消化管内で自然に行われても、環境事象の結果であってもよい。
特定の実施形態によれば、インスリンを囲むか又はインスリンに組み込まれた保護層が、環境条件の変化への暴露に対する応答として、分解するか又は制御放出を行うように特別に設計されている。環境条件の変化は、時間、温度、含水量、圧力、pH、イオン強度、酵素活性、又はこれらの組み合わせであることができる。別の実施形態によれば、インスリンを乳児の消化系での消化から保護して、pHの上昇への応答としてのみインスリンを放出するように設計した材料に、インスリンを封入する。インスリンは、コアを温度上昇から保護するように設計した別の封入材を用いて、更に封入してもよい。当業者であれば、活性化合物を放出させる環境的誘因の順序は、厳格ではなく、製造の環境条件、食品中へ組み込む環境条件、食品に組み込んだ後に保管する際の環境条件、胃腸系内の所望の送達部位、タイミング、所望の生理活性に左右されることを認識するであろう。
生分解性マトリックスへのインスリンの取込みに影響を及ぼすことによって、インスリンの初期充填量、その後の放出、又はこれらの組み合わせに影響を及ぼし得るいずれかの因子を用いてよい。このような因子はとりわけ、初期溶媒濃度、その分子サイズ及び極性、溶媒を除去する温度及び圧力、生分解性マトリックスの数平均分子量(MWn)、並びにその多分散性指数を含んでよい。生分解性マトリックスがポリマーのときには、インスリンのサイズ及び極性、コポリマーの鎖沿いのモノマー比及びモノマー分布、又はこれらの組み合わせも考慮してよい。加えて、生分解性ポリマーの各モノマーにおけるD/L比が、放出速度に影響を及ぼすことになる。D/L比という用語は、乳酸のような単一の光学活性モノマーを観察するときに交差偏光レンズを回転させる方向(D−右、L−左)に影響を及ぼすモノマー分子の比率を指す。大半の哺乳類はD体特異的酵素を有するので、D/L比は、生分解性バイオポリマーの消化速度に影響を及ぼすことになり、その分子量、ひいてはその粘度に影響を及ぼすことによって、取り込んだインスリンの放出速度に影響を及ぼす。
例えば、上で引用した国際公開第2004/112494号、及び同第2005/115473号に記載されているように、様々な材料を封入材として用いてよい。特定の現時点で好ましい実施形態によれば、インスリンは、国際公開第2005/115473号に記載されているように、マルトデキストリン(MD)及びビタミンCのマトリックス内にマイクロカプセル化する。
封入したインスリンは、当該技術分野において既知のようないずれの乳児用調製乳とも混合できる。封入により、封入したインスリンを含む液体調製乳をSGA児が消費するときに、新生児の胃腸管又は胃を通過する間、インスリンを少なくとも部分的に保護して、十分な量のインスリンが活性なままで、本明細書に記載されているような発育促進活性を発揮するように、インスリンを保護することもできる。
下記の実施例は、本発明のいくつかの実施形態を更に十分に例示する目的で示されている。しかしながら、実施例は、いずれにおいても、本発明の広い範囲を限定するものとして解釈すべきではない。当業者は、本発明の範囲から逸脱せずに、本明細書に開示されている原理の多くの変形形態及び修正形態を容易に考案できる。
実施例1:臨床調査:インスリンが低出生体重児の発育パラメーターに及ぼす作用
対象集団
インスリン強化調製乳が低出生体重正期産児に及ぼす作用を調査した。この調査に参加するための選択基準には、在胎期間34〜42週の健常児(「正期産児」)、出生体重が1,650g超、典型的には1750グラム〜2500グラムであること、重大な先天的形成異常又はいずれかのその他の疾患徴候がないこと、暦齢240時間未満であること、母親が、調査期間中、乳児に母乳を与えることを希望しておらず、インフォームドコンセントに署名したことが含まれていた。登録前に、感染の疑いの指数が高い乳児、妊娠糖尿病、及び調査の1日目まで投薬が行われていた乳児は除外した。
乳児の性別、在胎期間、及び出生体重(BW)のパーセンタイルに従って、体重、身長、及び頭囲に関する実測結果を、CDCの発育基準表(上記文献)から得た予想値と比較した。補間又は外挿を用いて、各乳児のパーセンタイルと予想増大値を割り出した。予想値は、出生時のパーセンタイル測定値に固有のものである。性別、在胎期間、及び多胎性(単胎児又は双生児)に従って、イスラエルに関して公表されている表に従って、各BWのパーセンタイルを評価した(Dolberg S.et al.,IMAJ,7,2005,311−314)。身長及び頭囲のパーセンタイルに関しては、利用できるこのようなデータはなかった。したがって、各乳児のBWパーセンタイルをその他の2つの発育測定値のそれぞれに適用可能であると仮定した。
この調査は、Declaration of Helsinki on Biomedical research involving human subjects(South Africa revision 1996)のガイドラインと、GCP ICHのガイドラインに従って行った。
調査設計
低出生体重児に対するインスリン強化調製乳の安全性を評価するためのフェーズIの多施設共同の無作為化オープンラベル単独群調査をイスラエルのRabin Medical CenterとLaniado Hospitalで行った。この調査では、インスリン強化調製乳が、正期産(少なくとも34週の在胎期間)で産まれた低出生体重児の発育に及ぼす考え得る作用も調べた。インフォームドコンセント文書(ICF)への署名後に、調査基準を満たした適格乳児の両親に対し、調査への参加を促した。調査1日目から、乳児に乳児用インスリン強化調製乳(Materna、Maabarot、イスラエル)を与えた。乳児には、この調製乳を最初の4カ月間、補完食料を加えることなく与えた。乳児の性別、門地、出生時の在胎期間、母親の服薬、母親の年齢、家族の慢性疾患、及び登録時の乳児の状態を記録した。
保育室における乳児の標準的なケアは、観察期間中変えなかった。調査1日目、2日目、1週間、4週間、8週間、12週間、16週間、及び24週間に、フォローアップ調査のために新生児病棟に来るように、乳児の両親に頼んだ。調査中、乳児の体重、身長、頭囲、血中グルコースレベル、血球数、血中脂肪、血液化学、血中アミノ酸、インスリン抗体、及び血清中レベルを記録したとともに、食物消費量、嘔吐、吐き戻し、及び排便頻度を測定及び評価した。
体重、身長、及び頭囲の増大に関して、インスリン強化調製乳が発育に及ぼす考え得る作用を評価した。生後6カ月(最後のフォローアップ時)に、最大の効果が認められるにちがいないと仮定し、6カ月における発育実測値と発育予想値との差に有意性の検定を適用した。加えて、処置中(最初の4カ月)と処置後(次の2カ月)の発育差を考慮する目的で、最初の4カ月間、同様の検定を発育に適用した。
いずれかの重大な有害事象又は乳児の病態のいずれかの悪化が生じた場合には、乳児を調査から撤退させた。このような乳児には、考え得る副作用と有効性測定値に関して、生後6カ月までフォローアップを行った。重大な有害事象は観察されなかった。乳児用インスリン強化調製乳が低体重児の発育に及ぼす作用を調査するための多施設共同の二重盲検無作為化調査を2005年にイスラエルで実施する計画を立てた(Schneider HospitalのSirota教授の主導)。申し込み率の低さ(わずか8人の早産児)により、この調査は中止になった。しかしながら、乳児にインスリン強化調製乳を与えていた期間中、有害事象(低血糖症を含む)は記録されなかった。
調査製品のInsuMealは、マルトデキストリン18(医療品グレードのMD、コーンスターチ多糖、Cargill Ltd.製)と、ビタミンC(医療品グレード)のマトリックス内にマイクロカプセル化したインスリン(Actrapid(登録商標)HM(ge)、生合成ヒトインスリン、注射液、濃度100IU/ml、Novo Nordisk製)を、Materna Ltd.製の乳児用調製乳Premium1と混合したものからなる乾燥粉末である。マイクロカプセル化プロセスによって、乳児用調製乳内で液浸及び消費されるまでインスリンの生物活性が保護可能になる。InsuMealを60mlの温めたぬるま湯に加えたところ、その調製乳は、調製乳1ml当たり90μUのインスリンという濃度を有し、母乳における代表的な生理的インスリンレベルを模擬していた。
データ
下記の表1〜4に示されているデータを、11人の乳児(このうちの10人のみが選択基準を満たしていた)から得た。選択最小値は1,750グラムに設定していたが、1人(28番)の出生体重は1,550グラムであった。この乳児は推測分析から除外した。
加えて、別の乳児(22番)は、頭囲に関する推測分析から除外した。下に説明されているように、この除外は、出生時に測定した頭囲が異常値である可能性が非常に高いことに基づいている。
これらの乳児に対して行った測定の結果は表に示されているが、関連する推測分析(平均値、信頼区間、有意性試験)から除外した。表1は、調査に採用したすべての乳児の発育測定値(体重、身長、及び頭囲)を示している。
Figure 2015514747
分析方法
有効性に関する主要評価項目は、最初の6カ月間のZスコア(在胎期間に対して補正)の観点での発育として設定した。しかしながら、処置作用も、最初の4カ月間、及び4〜6カ月の期間中のZスコアの変化に関して評価した。
正規分布下において、Z値は、標準偏差(SD)単位における距離(例えば体重の平均値からの距離)を表している。しかしながら、乳児の体重の実分布の左テールは、正規分布の左テールよりも長い。低いパーセンタイルと関連するZ値を補正するために、CDCは、Z値の補正値の計算を可能にする式とパラメーター(L、M、S)を公表した(Kuczmarski R J et al.2000.CDC growth charts for United States:Methods and development.National Center for Health Statistics.Vital Health Stat 11(246).2002)。これらの公表値は、正期産児に関するものである。Z値の推定値は、予測測定値として適用できないが、Z値の推定値は、体重の増加に関して、2つの処置群を比較するのに有用である。
各乳児について、性別と、短い在胎期間に対して補正した月齢ごとに、Zスコア値を評価した。これらのパラメーターは、すべての月齢に関して、CDCの表に示されている。したがって、暦齢は、週範囲に対して補正した。例えば、生後5〜5.99カ月の正期産児に関するCDCの表に示されているパラメーターを用いて、38週の在胎期間後に産まれた6カ月(暦齢順)の乳児のZ値を評価した。表2は、各乳児に関して、暦齢別の補正済みZスコアを示している。表の下部には、Zの平均値とその95%信頼区間(CI)が、各暦齢について示されている。乳児番号28は、すべての測定値の平均値及びCIから除外した。出生体重に関する選択基準を満たさなかったからである。乳児番号22は、頭囲の平均値及びCIに関して除外した。22番の除外は、出生時の頭囲のZスコアが過度に大きいことに関連している(Z=1.82)。このZ値は、他の10人の乳児のZ値の範囲(−0.98〜−3.42)よりもはるかに大きいので、異常値と思われる。出生時の頭囲が上記の値以上であるのは、一般集団においてもわずか3.4%と見られるので、上記の値は、一般集団においてさえも、極めて異例である。
統計分析をZスコアに適用し、t分布を推測した。しかしながら、解釈しやすいように、発育測定値は、パーセンタイルとしても示されている(表3)。
Figure 2015514747
Figure 2015514747
3つの測定値のそれぞれについて、月齢別(出生時、4カ月、及び6カ月)に、Zスコアの平均値と95%信頼区間(CI)を評価した。
各乳児の自然発育は同じパーセンタイルにとどまると見られるという帰無仮説、すなわち、Zスコアは発育中、安定していると見られるという帰無仮説の下で、分析を行った。したがって、補給調製乳の作用は、6カ月時点のZスコアと、出生時のZスコアとの差として評価した。Zスコアの差の平均値(及び95%CI)は、両側t検定を用いて、5%のレベルで、有意性について評価及び検定した。その他の2つの期間のそれぞれにおける発育も同様に、Zスコアの対応のある差によって、有意性について評価及び検定した。表4は、3つの測定値のそれぞれについて、Zスコアの平均値の差と、その95%信頼区間を示している。
Figure 2015514747
結果
副作用
いずれの乳児においても、低血糖症又はインスリン抗体を含む一次的副作用は観察されなかった。全血球数及び白血球を含む血液学的検査は正常であった。グルコースレベル、アルブミン、グロブリン、SGot、GGT、ALP、Na、K、Ca、UA、クレアチニン、アミラーゼ、アミノ酸、抗インスリン抗体、及び脂質プロファイルを含む一般的な化学的性質はいずれも、正常範囲内であった。かんしゃく及び睡眠履歴、アレルギー反応、又は胃腸感染症を評価したところ、異常は認められなかった。1人の乳児において、トリグリセリドに関して、唯一の考え得る二次的副作用が見られた(328mg/dL)。
体重
分析した10人の乳児全員の体重は、予想よりも重かった。生後6カ月では、実測値と予想値との差(単位Kg)の平均値と95%信頼限界は0.67(0.37;0.96)であった。結果の有意性は高く、P<0.001である(図1)。
最初の4カ月間における体重増加に関する結果から、10人の乳児中、6人の発育が予想を上回っていることが示されている。4カ月時点における正味増加量の実測値と予想値(単位Kg)の差の平均値と95%信頼区間は0.23(−0.12;0.59)であった。4カ月時点の作用は有意でない(図1)。
身長
11人の乳児のうち10人を身長比較に含めた。生後6カ月では、身長増大の実測値と予想値との対応のある差(単位cm)の平均値と95%信頼限界は1.33(0.21;2.45)、P<0.025であった(図2)。
頭囲
11人の乳児のうち10人を頭囲比較に含めた。生後6カ月における頭囲増大の実測値と予想値との差(単位cm)の平均値と95%信頼限界は0.85(−0.65;2.35)であった。この差は有意ではない。
結果が、在胎期間に対して過剰に補正した暦齢の影響を大きく受ける可能性を考慮するために、正期産の在胎期間と想定したデータにも分析を適用した。表5は、各発育測定値のZスコアを示している。表6は、各期間におけるZスコアの変化の有意性と、この変化の平均値及び95%CIを示している。体重及び頭囲の6カ月間の発育に関しては、結果の有意性は高い(P<0.001)。6カ月の間に、体重平均値は1.0パーセンタイルから25.8パーセンタイルに移動し、この間に、頭囲の発育平均値は、1.7パーセンタイルから7.8パーセンタイルに移動した。身長の変化は、あまり有意でないが(P<0.11)、4.9パーセンタイルから9.2パーセンタイルに移動した。
したがって、これらの結果から、低体重児の発育の促進は、暦齢の過剰補正に関連付けられないことが明らかに示されている。
Figure 2015514747
*平均値とCIの評価から除外。
**頭囲に関する平均値とCIの評価から除外。
Figure 2015514747
結論としては、3つの測定値のそれぞれにおいて、6カ月間の発育は有意である。平均で、6カ月間の体重増加は、1.0パーセンタイルの乳児から25.8パーセンタイルの乳児に移動した。身長発育の平均値は、4.9パーセンタイルから33.4パーセンタイルに移動した。頭囲発育の平均値は、1.7パーセンタイルから23.4パーセンタイルに移動した。
実施例2:臨床調査:インスリンが低出生体重早産児の発育パラメーターに及ぼす作用
多施設共同の2群間無作為化二重盲検プラセボ対照調査を行って、乳児用インスリン強化調製乳が早産児に及ぼす作用を評価した。この調査では、乳児集団には、超低出生体重の乳児も含まれていた。(選択基準には、体重750グラム超の乳児も含めた)。初乳のインスリン濃度(400μU/ml)を模擬した濃度範囲でインスリンを与えた。この調査の主な目的は、基本的な早産児用経口調製乳へのインスリン補給によって、胃腸の成熟が促されるかを判断することであった。胃腸の成熟は、早産児が完全経腸栄養を行える能力(150〜160ml/kg/日)によって評価した。
調査設計
インフォームドコンセント文書(ICF)への署名後に、下記の調査基準を満たす適格早産児の両親に対し、調査への参加を促した。両親が調査への不参加を選択した早産児と同じように、乳児を新生児病棟に入院させた。乳児は、2つの処置群(試験群としての調査製品(InsuMeal(商標))と、コントロール群としてのプラセボサプリメント)のうちの1つに無作為に割り当てた。両親、乳児を治療する医療チーム、及び調査モニターには、処置群を知らせなかった。調査1日目から、試験群の乳児には、早産児用液体(RTF)調製乳Maternaと混合したInsuMeal(商標)添加剤を与え、コントロール群には、同じ早産児用RTF調製乳Maternaと混合したプラセボサプリメントを与えた。
乳児の性別、門地、出生時の在胎期間、母親の服薬、母親の年齢、家族の慢性疾患、並びに登録時の乳児の状態、体重、身長、及び頭囲を記録した。
調査の間、調査開始時から28日目又は28日目以前に退院した場合には退院まで、乳児の体重、食物摂取量、食物消費量、血中グルコースレベル、摂取した総非経口栄養量(TPN)、胃残留物、排便データ(頻度及び粘度)、嘔吐、並びに吐き戻しを毎日評価した。28日目又は退院日、及び3カ月のフォローアップ受診時に、2.5mlの血液を採取して、血中グルコースレベル、全血球数、脂質プロファイル、血液の一般的な化学的性質、血中アミノ酸、及び抗インスリン抗体を更に評価した。1日目、7日目、14日目、21日目、28日目、3カ月の受診時、6カ月の受診時に、乳児の身長と頭囲を測定した。身体検査も行った。
最高齢が生後7日で、在胎期間26〜33週で産まれ、体重が750グラム超で、感染が疑われる高い指数を有さず、安定した状態を示している早産児33人をこの調査に参加させた。
ブロック設計によって無作為化を行った。各サイトを、無作為に選択したサイズ4のブロックに分け、そのブロック内の乳児をID番号順に、2つの群(InsuMeal/プラセボ)のいずれか1つに割り当てた。4人の乳児ブロックの割り当てが完了したら、そのサイトを更なるブロックに割り当てた。
1人の対象は、合併症のため撤退させた。32人の対象を分析に含め、15人は男児、17人は女児であった(生後1〜7日)。
選択基準
この調査に含めるには、下記の基準を満たさなければならなかった。
1.在胎期間26〜33週で産まれた早産児。在胎期間は、妊娠日と初期の胎児超音波検査とを照合する(±2週間)。
2.出生体重≧750グラム。
3.生後日数≧7日。
4.登録時の吸入酸素の割合が≧0.60。
5.乳児の心臓血管が安定状態にある。
6.調査1日目以降、授乳しない。
7.分娩中に、心臓及び胸部の圧迫、又はいずれかの蘇生薬が乳児に施されていない。
8.インフォームドコンセントの書類に両親又は法定後見人が署名した。
除外基準
下記の基準の1つ以上満たす乳児は、調査から除外した。
1.在胎期間が<26週又は>33週である早産児。在胎期間は、妊娠日と初期の胎児超音波検査とを照合する(±2週間)。
2.出生体重<750グラム。
3.生後日数>7日。
4.登録時の吸入酸素の割外が>0.60。
5.乳児の心臓血管が不安定である。
6.調査1日目以降に授乳を行う。
7.重大な先天的形成異常。登録前に、遺伝性代謝障害又は内分泌障害と診断された乳児(登録後に診断されたが、先天的であることが知られている障害を含む)。
8.登録前に、感染の疑いの指数が高かった。
完全経口摂取。
9.壊死性腸炎を発現しているか、又は壊死性腸炎の疑いのある乳児。
10.妊娠糖尿病。
11.乳児がインスリンで治療されている。
12.調査参加時に、いずれかの理由でNPO(絶食)していた。
13.分娩中に、心臓及び胸部の圧迫、又はいずれかの蘇生薬が乳児に施された。
14.別の臨床調査に参加している。
調査製品
調査製品には、InsuMeal(商標)とプラセボを含めた。InsuMeal(商標)は、90mlの早産児用RTF調製乳と混合するように意図されているインスリンベースの添加剤である(製造者:Nestle Germany、輸入者:イスラエルのMaterna Laboratories。InsuMeal(商標)を調製乳に加えると、調製乳の濃度は、調製乳1ml当たり400μUインスリンとなり、これは、母乳のインスリンレベルを模擬している。
InsuMeal(商標)添加剤は、以下の3つの成分を含む。
(a)2つのジスルフィド結合によって結合された2本のポリペプチド鎖からなる巨大タンパク質(5,800ダルトン)であるヒトインスリン。インスリンは、1ミリリットル当たりナノグラムの濃度で哺乳類の乳に存在する天然の健康促進成分である。真性糖尿病と診断された個体が治療用量で注射するときには、インスリンは、ペプチドホルモンとしても分類される。
(b)多糖の混合物であり、デンプンの部分加水分解によって生成されるマルトデキストリン。マルトデキストリンは、乳児用調製乳の成分として広く用いられ、液体に速やかに溶解する。
(c)ビタミンC又はL−アスコルビン酸は、ヒトの必須栄養素である。生物においては、アスコルビン酸塩は抗酸化物質である。体を酸化ストレスから保護するとともに、いくつかの生体酵素反応における補因子であるからである。InsuMeal(商標)製剤では、ビタミンCは、インスリンの酸化のための指示薬として用いられている。
プラセボは、マルトデキストリンとビタミンCからなる。
調査の定義と授乳プロトコールのみに従って、InsuMeal(商標)を用いた。調製乳の授乳は、調査1日目に開始し、それから28日間又は28日目以前に退院した場合には退院日まで継続した。
InsuMeal(商標)は室温に保ち、乳児の届かない場所に保管した。InsuMeal(商標)に禁忌はない。
製品の授乳
乳児ごとに印をつけた調査対象の袋(InsuMeal/プラセボ)の中身を、新生児集中治療室(NICU)の看護師が、各食事の直前に、早産児用RTF調製乳Maternaの90mlのガラス瓶に入れた。加えたら、その瓶を閉じ、よく振って、添加剤が完全に溶解するようにした。乳児に、食事ごとに、新しい90mlのガラス瓶+添加剤を与えた。標準的な哺乳瓶と乳首を用いた。乳児が食事を終えたら、残った調製乳は、研究室で使用する目的のみで、ガラス瓶中に24時間保存した。乳児が安定しており健康であることが分かった場合には、瓶を破棄するか、さもなければ、スポンサーに通知して、調査のために瓶を集めた。
授乳プロトコール
出生時から、早産児に非経口栄養(PN)を行った。乳児が完全経腸栄養(150cc/kg/日)に達する前に、PNを停止可能とした。乳児に授乳する最初の3日間連続して(調査前でも可能)、少なくとも10ml/Kg/日の早産児用調製乳又は人乳を与えた。調査の間、乳児には、上記のような調査製品又はプラセボを与えた。乳児が乳をうまく吸収したら、1日当たりの授乳量を10〜25ml/Kg/日ずつ増加し、満量の140〜160ml/Kg/日、又は調査28日目、又は退院日(28日目以前に退院した場合)に到達させた。下位の表7に、授乳プロトコールの詳細がまとめられている。
Figure 2015514747
統計的方法
すべての測定変数と抽出パラメーターを記述統計によってまとめた。調査群別及び全体のサンプルサイズ、絶対頻度、及び相対頻度を含め、カテゴリー変数を集計表に示した。調査群別及び全体のサンプルサイズ、算術平均値、標準偏差、中央値、最小値、及び最大値を含め、連続変数を集計表に示した。
この調査で示されたデータの分析には、下記の統計的検定を用いた。
各調査群内の量的変数のベースラインからの変化の統計的優位性を検定するのに、ペアT検定を適用した。
量的パラメーターに関して、調査群間の差を検定するのに、2標本T検定とノンパラメトリックウィルコクソンランクサム検定を適用した。
調査群間におけるカテゴリー変数の頻度の差の統計的優位性を検定するのに、カイ二乗検定を適用した。
1日目からの体重の絶対変化と相対変化について、曲線下面積(AUC)を計算した。
適用したすべての検定は両側検定で、5%以下のp値を統計的に有意とみなした。データは、SAS(登録商標)バージョン9.1(SAS Institute、ノースカロライナ州ケーリー)を用いて分析した。
結果
人口学的統計データ
対象の人口学的統計とベースライン体重の分布は、下記の表8〜9に示されている。34人の対象のうち、46.9%が男児(コントロール群53.3%、処置群41.2%)で、調査初日時点の平均暦齢は、いずれの調査群においても5日前後(範囲1〜7日)で、平均出生体重は、処置群で1470.7グラム、プラセボ群で1464.3グラムであった。群間に統計的に有意な差は観察されなかった(P値=0.9570)。平均処置日数はコントロール群で24.7日、処置群で25.5であった。調査群間において、統計的に有意な差は観察されなかった(P値=0.5887)。
Figure 2015514747
Figure 2015514747
インスリンが体重に及ぼす作用
A.インスリンが、生後28日の乳児の体重に及ぼす作用
初日(1日目)の体重に対する体重変化の平均値の結果は、表10に示されている。この結果から、InsuMeal(商標)摂取群の方が、プラセボ摂取群に比べて、1日目から28日目までに、体重が大きく増加したことが示されている。
Figure 2015514747
出生体重1,300g未満の乳児のサブグループ分析でも、同様の結果が得られた(表11)。この分析では、1日目から28日目までに、InsuMeal(商標)摂取群の方が、プラセボ摂取群に比べて、体重の増加が更に顕著であった。
Figure 2015514747
B.インスリンが、生後3カ月の乳児の体重に及ぼす作用
最初の3カ月間における体重増加に関するコントロールとアッセイ群との差は、差Z3−Z0(Z0は出生時のZ値であり、Z3は3カ月時点のZ値である)に基づいていた。各暦齢と体重増加に関して、平均値と95%信頼限界(CL)を評価した。これらのデータは表12に示されている。InsuMeal(商標)群の平均増加値は、プラセボ群の約2倍であった(0.76SD対0.32SD)。2つの処置群間の差は、P=0.077で有意である。
Figure 2015514747
これらの結果によって、上記の実施例1で示された所見が裏付けられ、早産児を含む低出生体重児にインスリン強化調製乳を与えると、重大な生後数カ月の期間に、乳児の体重増加が加速され、その後の正常な発達につながることが示されている。
インスリンが胃腸の成熟に及ぼす作用
この調査の更なる目標は、経口投与したインスリンが、早産の低出生体重児の胃腸の成熟に及ぼす作用を調べることである。胃腸の成熟の測定値は、完全経腸栄養(少なくとも150ml/Kg/日の体積で乳児用調製乳を経口消費することとして定義)に達するのに必要な日数とした。完全経腸栄養に達するまでの平均日数は、インスリン摂取群で6.4日であったのに対して、プラセボ群では7.9日であった(表13)。この結果から、処置群では、コントロール群に比べて、完全経腸栄養に達するのに必要な期間を短縮する傾向が示されているが、統計的優位性はない(P値=0.2085)。
Figure 2015514747
出生体重<1300gの乳児のサブグループ分析(表14)と、性別ごとに示した乳児のサブグループ分析(データは示されていない)では、すべての乳児において行った分析と同様の結果を示した。
Figure 2015514747
早産児が退院できるまでの必要入院日数によって、乳児の成熟と発育を更に評価した。インスリン摂取群(28.8日)では、プラセボ処置を施した群における33.6日に比べて、退院までの日数が短縮する傾向が観察された(表15)。この差は、統計的優位性に達しなかった(P値=0.2192)。
Figure 2015514747
しかしながら、出生体重<1300gの乳児のサブグループ分析では、退院までの日数において、統計的に有意な差が示され、インスリン摂取群では35.8日、プラセボ摂取群では47.0日であった(表16、P値=0.0447)。
Figure 2015514747
上に示した結果には、ヒトの初乳及び乳を模擬した濃度範囲で投与したインスリンが、低出生体重児の発育速度に及ぼす有益な作用が明らかに示されている。特に、生後1〜6カ月の低出生体重児における発育促進により、発達ギャップが早期に縮まり、正常体重で生まれた乳児の発育速度に早期に達するので、典型的に低出生体重に伴う長期的な合併症が回避される。インスリン投与に起因する悪影響は観察されなかった。
具体的な実施形態の上記の説明は、本発明の大まかな本質を十分に示しているので、本発明者以外でも、現在の知見を適用することによって、過度の実験なしに、一般的概念から逸脱せずに、このような具体的な実施形態の様々な用途を容易に修正及び/又は適合でき、したがって、このような適合及び修正は、開示されている実施形態の均等物の意味及び範囲内と理解するように意図すべきである。本明細書で用いられている表現又は用語は、説明するためのものであり、限定するものではないと理解すべきである。開示されている様々な機能を実行するための手段、材料、及び工程は、本発明から逸脱しなければ、様々な代替的な形態を取ることができる。

Claims (26)

  1. ヒトの低出生体重児の発育速度を速める方法であって、新生児のときに、乳児にインスリンを経口投与することによって、予想発育速度を上回って、前記乳児の発育速度を速めることを含む方法。
  2. 前記低出生体重児が、ヒトの早産児及びヒトの胎内発育遅延(SGA)児からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
  3. 前記発育速度を速めることが、乳児の体重、身長、及び頭囲のうちの少なくとも1つにおいて、低出生体重児の予想値を上回る測定値を含む、請求項1に記載の方法。
  4. 前記測定値を少なくとも生後1カ月に測定する、請求項3に記載の方法。
  5. 前記測定値を少なくとも生後3カ月に測定する、請求項4に記載の方法。
  6. 前記測定値を生後6カ月に測定する、請求項5に記載の方法。
  7. 複数の測定値が予想を上回るようにする、請求項3に記載の方法。
  8. 前記インスリンが封入マトリックス内に封入されている、請求項1に記載の方法。
  9. 前記封入マトリックスが、多糖、粉乳、ホエイタンパク質、脂質、アラビアガム、又は微結晶性セルロースからなる群から選択した封入材を含む、請求項8に記載の方法。
  10. 前記封入材がマルトデキストリンであり、そのマトリックスが抗酸化物質を更に含む、請求項9に記載の方法。
  11. 前記インスリンを乳児用調製乳と混合して、インスリン強化調製乳を形成させる、請求項1又は8に記載の方法。
  12. 前記インスリン強化調製乳が、インスリンを50μIU/ml〜600μIU/mlの濃度範囲で含む、請求項11に記載の方法。
  13. 前記インスリン強化調製乳が、インスリンを50μIU/ml〜400μIU/mlの濃度範囲で含む、請求項12に記載の方法。
  14. 前記インスリン強化調製乳が、インスリンを75μIU/ml〜125μIU/mlの濃度範囲で含む、請求項13に記載の方法。
  15. 前記発育速度を速めることが、胃腸の成熟に関して、低出生体重児の予想値を上回る測定値を含む、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
  16. 完全経腸栄養に達するまでに必要な日数によって、前記乳児の胃腸の成熟の測定値を定める、請求項15に記載の方法。
  17. 前記完全経腸栄養に達するまでに必要な日数を、予想日数よりも短縮する、請求項16に記載の方法。
  18. 前記発育速度を速めることにより、乳児の入院期間が、予想入院期間よりも短縮する、請求項1に記載の方法。
  19. 前記インスリンに生物活性がある、請求項1に記載の方法。
  20. 前記インスリンが、ヒトインスリン及びウシインスリンからなる群から選択した哺乳類インスリンである、請求項1に記載の方法。
  21. 前記インスリンがヒトインスリンである、請求項20に記載の方法。
  22. 前記ヒトインスリンが、組換えヒトインスリン及び半合成ヒトインスリンからなる群から選択されている、請求項21に記載の方法。
  23. 通常の授乳及び経鼻胃管から選択した経路によって、前記インスリンを投与する、請求項1又は11に記載の方法。
  24. 少なくとも生後1カ月間〜最長で生後6カ月間、前記インスリンを投与する、請求項23に記載の方法。
  25. 生後1カ月間、前記インスリンを投与する、請求項24に記載の方法。
  26. 生後6カ月間、前記インスリンを投与する、請求項24に記載の方法。
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