JP2015227355A - ケロイド及び肥厚性瘢痕根治治療剤 - Google Patents

ケロイド及び肥厚性瘢痕根治治療剤 Download PDF

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Abstract

【課題】ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕の有効な治療剤を提供する。【解決手段】プロテウス・ブルガリス由来のコンドロイチナーゼABCからなる弾性線維再生化剤、及び該再生化剤を有効成分として含む、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕の治療剤を提供する。【選択図】図5

Description

本発明は、弾性線維形成促進剤並びにケロイド及び/又は肥厚性瘢痕の根治治療剤に関する。
本明細書中で使用する略号は以下のとおりである。
GAG:グリコサミノグリカン
CS:コンドロイチン硫酸
CS−A:コンドロイチン硫酸A
CS−B:コンドロイチン硫酸B
CS−C:コンドロイチン硫酸C
CSPG:コンドロイチン硫酸プロテオグリカン
GAGase:グリコサミノグリカン分解酵素
CSase:コンドロイチナーゼ(コンドロイチン硫酸分解酵素)
CSase−ABC:コンドロイチナーゼABC
CSase−B:コンドロイチナーゼB
CSase−AC:コンドロイチナーゼAC
肥厚性瘢痕やケロイドは、皮膚に生じた創傷が治癒する過程で、元通りの正常な組織が再生されることなく、線維性の「瘢痕組織」とよばれる組織が形成された、いわば創傷治癒における異常であると理解されている(非特許文献1、2)。肥厚性瘢痕は、大きく深い創傷や、感染・異物混入・不適切な縫合等、創傷治癒を妨げるような原因から生じるのに対して、ケロイドは虫さされや予防接種のような、ごく軽微な創傷からも生じ、元の創傷の範囲を越えて広がるという特徴を持つ(非特許文献2、3)。しかし、肥厚性瘢痕及びケロイドのいずれの病変部とも、細胞外基質の過剰蓄積と細胞増殖とを主な特徴とする赤色隆起性病変である点で共通している。病変部は非常に硬く、皮膚の伸縮性を著しく制限する。このことにより患部は痛みを伴うだけでなく、特に病変が関節部位に及ぶ場合は、関節可動域の制限等の機能的障害をひきおこす。患者が小児の場合は、病変部の成長障害をもたらす場合もあり、肥厚性瘢痕やケロイドの治療は、単なる整容的な理由だけではなく、機能的観点からも重要である。しかし、肥厚性瘢痕やケロイドの適切な動物実験モデルが存在せず、病因・病態の解明はほとんど進んでいないのが現状である。
現在行われている処置法は以下のとおりである。
1)圧迫固定療法:
通常、病変部表面に、片面に接着剤のついたスポンジ(レストン、フィクストン(登録商標)など)を直接貼付し、これをサージカルテープで圧迫し、固定する(非特許文献4〜6)。病変部が可動部位である場合は、さらにこの上から、包帯やサポーターを巻いたり、ガードルやコルセットを装着する(非特許文献7)。これらの圧迫によって、病変部は平坦化し、痛みやかゆみも軽減するが、圧迫を中止すると病変部は再び隆起し、痛みやかゆみも再発する。
2)外科的療法:
病変部が小さい場合や、幅が狭い肥厚性瘢痕の場合は、これを切除し、適切な形成外科的縫合を行えば症状は軽くなる。しかし、抜糸後も3ヶ月程度、圧迫固定療法を行う必要がある(非特許文献8)。また、この療法は、幅の広い病変部や、熱傷のような広範囲に及ぶ肥厚性瘢痕には用いることができない。さらにケロイドの場合には、切除により一旦病変部が平坦化しても、そこから再発し術前よりもさらに広範囲な病変部が生じてしまう
(非特許文献16)。この再発を防止するため、切除後に放射線療法を行う必要があるが、放射線療法は再発率を低下させるに止まり、根治療法にはならない(非特許文献16)。
3)被覆材による療法:
Perkinsらの報告(非特許文献9)以来、シリコンゲルシート貼付による肥厚性瘢痕やケロイドの治療が行われており、自覚症状が改善される場合がある。作用機序としては、保湿効果がいわれているが詳細は不明である(非特許文献10)。シリコンゲルのかわりに、ハイドロコロイド被覆材も用いられている。しかし、この療法は自覚症状の改善に止まり、効果も一定せず、しかも自覚症状の改善さえ認められない症例も多く、根治療法にはならない。
4)薬物療法:
肥厚性瘢痕やケロイドの病変部に、ステロイド薬(トリアムシノロン液)を局所注射することが行われている(非特許文献11)。この注射により、病変部が平坦化し、赤みが消退するとともに、かゆみも鎮静化する。しかし、投与量によっては、皮膚萎縮、低色素沈着、過度の色素沈着、毛細管拡張症などの全身的な副作用が生じることがあり、長期間の投与ができない。また、広範囲の病変に対して適応することもできない(非特許文献12、非特許文献16)。さらに女性では、少ない投与量でも月経不順等の副作用が生じることもある。しかもステロイド薬は、注射を中止すると、多くの患者において再発が認められることから、根治療法とはならず、患者は長期通院を余儀なくされている。ステロイド薬の作用は、サイトカイン抑制等の抗炎症効果と、それに引き続くケロイド細胞(ケロイドに特徴的な形質を持った大型の線維芽細胞)数の減少に基づくものである。ステロイド治療による再発は、抗炎症作用によるケロイド細胞数減少の誘導のみでは、根治に至らないことを示している(非特許文献16)。局所注射の他に、ベタメサゾンやフルドロキシコルチドなどのステロイド含有テープ剤を貼付する方法もあるが、自覚症状の改善が認められる程度で、効果は不安定である。また、患者によってはテープかぶれを起こす場合もある。内服療法としては、トラニラストが使用される(非特許文献13)。これも、かゆみ等の自覚症状が改善される場合があるに止まり、3ヶ月以上服用しなければならないことが多い。
このように、これまでの肥厚性瘢痕やケロイドの療法は、たとえ「治療」と称されていても対症療法に止まるものであった。すなわち、これまでの療法は、肥厚性瘢痕やケロイドにおける隆起した病変部分を単に平坦化したり、自覚症状を一過的に改善するに止まるものであり、病変組織を、正常組織に転化させて根本的に治療するという概念自体、肥厚性瘢痕やケロイドに関する医療分野では存在しなかったのである。よって、現在に至るまで、肥厚性瘢痕やケロイドを正常化する(正常な組織状態に回復させる)治療薬、即ち根治治療剤は、世の中に存在していない状況である。
ヒト皮膚の主要構成成分として、コラーゲン、弾性線維、GAGが知られている。肥厚性瘢痕やケロイドでは、I、III、VI型コラーゲンの過剰蓄積(非特許文献14,15)、弾性線維の正常構造の欠損(非特許文献17,18)が報告されている。弾性線維は、伸縮性に富み容易に伸びるが、力を取り去れば復元するゴムやばねのような線維であり、主成分はエラスチンである。弾性線維の形成機構の詳細は不明であるが、ミクロフィブリルという線維の周りにエラスチンタンパク質が沈着・クロスリンクされてできるとされている。ミクロフィブリルの主要構成タンパク質の一つとしてフィブリリン-1が知られている。肥厚性瘢痕やケロイドの病変組織の細胞外マトリックスでは、フィブリリン−1へのエラスチンの沈着・クロスリンクが欠損している(非特許文献17)。
特許文献1には、CSase−BやCSase−ACが線維芽細胞増殖を阻害するとの
試験結果に基づいて、CSaseを線維性組織サイズの減少に用いる旨が記載されている。しかし、仮にこれをケロイドに適用するとしても、線維芽細胞増殖を阻害して病変部分を平坦化するという従来の概念に止まるものである。細胞増殖抑制作用を有するステロイド薬が、その投与を中止するとケロイド等が再発し、肥厚性瘢痕やケロイドの根治治療に用いることができないことからすると、線維芽細胞増殖を阻害しただけでは病変部の正常化を期待することはできないのである。
ケロイド患者病変部の組織は、乾癬患者の病変組織や、マウス乾癬モデル動物の皮膚組織とは異なり、異常蓄積したコラーゲンから構成される密な膠原線維束の錯綜と、それら膠原線維束の硝子化、細胞外マトリックスへのCSPGの異常蓄積を特徴とする。また、ケロイド組織の特徴として、ヒト正常組織で認められるエラスチックファイバー(フィブリリン−1にエラスチンが沈着しクロスリンクした線維)が欠失していることが分かっている。
ヒト以外の動物ではケロイド等を発症せずに治癒へ至るために、先に記述したように、現在に至るまで、ケロイドへの根治治療効果を評価できる試験系の開発すらなされていなかった。従って、本発明のように、ケロイド等の病変組織自体を正常組織に回復させるという根治治療の概念すら存在せず、このようなことは不可能であると考えられていた。
特表2004−504262
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本発明は、ヒト特有の難治性疾患である、肥厚性瘢痕やケロイドを、正常な組織状態に回復させ、根治する(正常化する)治療薬を提供することを課題する。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意努力した結果、世界に先駆けてケロイド疾患への治療効果を正しく評価できる試験系の構築に成功した。これにより、ケロイド等の組織体積の縮小はもちろん、ケロイド等の根治治療へつながる組織の正常化の過程をも評価することが可能となった。ここで正常化の過程とは、ケロイド組織での弾性線維構造の再生化、異常増殖したケロイド細胞の減少、過剰蓄積したコラーゲン線維束の減少、硝子化の消失、ケロイド組織の縮小のことを指す。この新しい試験系とは、5mm角のケロイド患者病変部組織を採取し、免疫不全マウスであるヌードマウスの背部皮下に最小限の皮下ポケット作製とアンカーリングスーチャーの併用等による精密な技術で移植・固定する方法である。この方法で、長期間、動物皮膚の真皮内で、ケロイド患者病変部組織は、ケロイドの特徴を維持することが可能となり、病変部への被検物質投与による治療効果の評価が可能となった。
さらに本発明者らは、ケロイド等の組織の正常化に関連して、in vitro評価系である弾性線維形成アッセイ(エラストジェネシスアッセイ)を構築した。当該試験系は、被験物質によるエラスチックファイバー(フィブリリン-1にエラスチンが沈着しクロスリンクした線維)の阻害状態を測定できる試験系である。さらに本発明者らは、これらの試験系を用いて更に鋭意検討を重ねた結果、CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素が、弾性線維形成の促進や、ケロイドや肥厚性瘢痕の根治治療という、新たな途を開くものであることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素を含有する、弾性線維形成促進剤。
(2)前記酵素が、プロテウス・ブルガリス由来のCSase−ABCである、前記(1)に記載の弾性線維形成促進剤。
(3)CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素を含有する、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕の根治治療剤。
(4)エラスチンとフィブリリンの会合を促進することを特徴とする、(3)に記載の根治治療剤。
本発明はまた、CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素の弾性線維形成促進剤の製造における使用、並びに、CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素のケロイド及び/又は肥厚性瘢痕の根治治療剤の製造における使用に関する。
ケロイド患者病変部と正常部を含む皮膚組織の顕微鏡による観察結果を示す図(写真)である。斜め線の範囲がケロイド病変部であり、構造的に異なった隣接する部位が、正常皮膚組織像である。左図は、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、右図は、エラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色された標本である。EVGは、弾性繊維を黒く染色できる染色法である。 ケロイド組織と正常皮膚組織における弾性線維構成成分の発現に関する実験結果を示す図(写真)である。図2Aは、両組織における弾性線維構成成分のmRNAをRT−PCRにより増幅し、電気泳動した結果を示す図(写真)である。図2Bは、ケロイド組織における弾性線維構成成分のタンパク質の発現及び細胞外マトリックスでの局在の有無を免疫組織化学染色により検出した結果を示す図(写真)である。図2B上図は、エラスチンを染色した標本である。図2B下左図は、フィブリリン−1を染色した標本である。図2B下右図は、ヘキストにより個々のケロイド細胞の核を染色した標本である。 ケロイド組織中に蓄積されるCSの分析結果を示す図(写真)である。左上図は、正常皮膚組織切片を酵素処理を行わずにアルシアンブルー染色した標本である。左下図は、ケロイド組織切片を酵素処理を行わずにアルシアンブルー染色した標本である。右の3枚は上から、ケロイド組織切片をCSase−ABC、CSase−B又はCSase−AC処理した後、アルシアンブルー染色した標本写真である。 in vitroにおける弾性線維形成アッセイ(エラストジェネシスアッセイ)による、弾性線維形成を示す図(写真)である。左図は、細胞外マトリックスでのエラスチン線維の局在を示す染色結果、右図は、細胞外マトリックスでのフィブリリン−1線維の局在を示す染色結果を示す。 in vitroにおける弾性線維形成アッセイによる、弾性線維形成における各種CS(CS−A、CS−B又はCS−C単独並びにそれら各CSを組合わせたCS)の阻害効果を示す図(グラフ)である。細胞外マトリックスに沈着しているエラスチン線維を染色後、エラスチン沈着面積を数値化した。CS無添加に対する各種CS添加群のエラスチン沈着面積の相対比をグラフ化したものである。 in vivoでの、弾性線維形成におけるCSase−ABC注射の治療効果の観察結果を示す図(写真)である。図6Aの2枚の写真は、患者のケロイド病変部の写真と、その病理写真である(移植前)。左図の丸で囲んだ部分を拡大したものが、右図である。図6Bの2枚の写真は、ケロイド組織をヌードマウスの背部皮下2か所に移植後、CSase−ABC注射による治療効果の観察結果を示す図(写真)である。図6B左図は、移植直後、図6B右図は、CSase-ABC注射及びbuffer注射の結果を示す。図6Cの2枚の写真は、移植後35日目のCSase−ABC注射群のケロイド組織の顕微鏡による観察結果を示す図(写真)である。上から、buffer注射群及びCSase−ABC注射群のエラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色された図(写真)である。 in vivoでの、弾性線維形成におけるbuffer注射、CSase−ABC注射、CSase−B注射、CSase−AC注射の治療効果の観察結果を示す図(写真)である。図7Aの2枚の写真は、患者の病変部の病理写真(左)と、丸で囲んだ部分の拡大写真(右)である(移植前)。図7Bは、ケロイド組織をヌードマウスの背部皮下に移植後に、buffer注射、CSase−ABC注射、CSase−B注射、CSase−AC注射を行い、移植後35日目の治療効果の観察結果を示す図(写真)である。 ケロイド組織をヌードマウスの背部皮下に移植後に、buffer注射、CSase−ABC注射、CSase−B注射、CSase−AC注射を行い、移植後35日目の治療効果を組織学的に検討した結果を示す図(写真)である。左からbuffer注射、CSase−ABC注射、CSase−B注射、CSase−AC注射の結果を示す写真である。上段は、残存移植組織の面積をとらえた、低倍率での顕微鏡写真である。中段は、弾性線維構造の再生状態、コラーゲン線維束及び硝子化の状態を捉えた中程度の倍率の顕微鏡写真である。下段は、残存ケロイド細胞を捉えた高倍率での顕微鏡写真である。上段と中段は、エラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色をおこなった写真である。下段は、HE染色を行った写真である。中段のEVG写真は、buffer注射、CSase−ABC注射、CSase−B注射、CSase−AC注射における弾性線維再生化の程度を示した。異なった倍率の写真により、Buffer注射、CSase−ABC注射、CSase−B注射、CSase−AC注射における移植組織片の残存面積、弾性線維の再生化、ヒトケロイド細胞を示した。
以下、本発明について詳細に説明する。
<1>本発明促進剤
本発明に係る弾性線維形成促進剤は、CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素を含有する、弾性線維形成促進剤(以下、「本発明促進剤」ともいう。)である。
本発明促進剤に用いることができるCS−A、CS―B及びCS−Cを分解する酵素は、CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する作用を有する酵素であれば特に限定されない。すなわち、CS−A、CS−B及びCS−C以外のGAGを分解する作用を有するものであってもよい。
本明細書においてCS−Aを分解するとは、CS−AにおけるN−アセチルヘキソサミニド結合を脱離反応的に切断して、不飽和二糖4−硫酸を生成する作用をいい、CS−Bを分解するとは、CS−Bに作用し、不飽和二糖又は四糖を生成することをいい、CS−Cを分解するとは、CS−CにおけるN−アセチルヘキソサミニド結合を脱離反応的に切断して、不飽和二糖(又は四糖)6−硫酸を生成することをそれぞれ意味する。
本発明促進剤で使用する酵素として、具体的には、CSase−ABC(Proteus vulgaris由来;特開平6−153947号公報、T. Yamagata, H. Saito, O. Habuchi, S. Suzuki,J. Biol. Chem., 243, 1523(1968)、S. Suzuki, H. Saito, T. Yamagata, K. Anno, N. Seno, Y. Kawai, T. Furuhashi, J. Biol. Chem., 243, 1543(1968))が使用できる。
また、本発明で使用するCSase−ABCとして、市販されているものを使用することができる。例えば、生化学工業株式会社製のコンドロイチナーゼABC(カタログ番号100332)が例示される。
また、実施例で使用できる酵素として、上記CSase−ABCに加えて、CSase−AC(Flavobacterium heparinum由来;T. Yamagata, H. Saito, O. Habuchi, S. Suzuki, J. Biol. Chem., 243, 1523(1968))、CSase−ACII(Arthrobacter aurescens由来;K. Hiyama, S. Okada, J. Biol.Chem.,250, 1824 (1975)、K. Hiyama, S. Okada, J.
Biochem.(Tokyo), 80, 1201(1976))、CSase−ACIII(Flavobacterium sp. Hp102 由来;宮園博文、菊池博、吉田圭一、森川清志、徳安清親、生化学、61、1023(1989))、CSase−B(Flavobacterium heparinum由来;Y. M. Michelacci, C. P.Dietrich, Biochem. Biophys. Res. Commun.,56, 973(1974)、Y. M. Michelacci, C. P. Dietrich, Biochem. J., 151, 121(1975)、前山賢一、多和田明、上野暁子、吉田圭一、生化学、57, 1189(1985))等が知られており、これらのコンドロイチナーゼのいずれをも用いることができる。
また、本発明で使用する上記CSase−ABCは、主成分としてのCSase−ABC(以下、「リアーゼI」ともいう)の他に、いわゆる「コンドロイチン硫酸リアーゼII
」(特開平10−262660;以下「リアーゼII」という)が存在することが知られているが、本発明で使用する酵素としては、リアーゼIIが含まれた形で利用することもでき、それぞれの画分のみを含む高純度に精製された画分を用いることもでき、中でもリアーゼIのみを含む高度に精製された画分を用いることが好ましい。
上記高純度CSase−ABC画分(リアーゼI画分)及びリアーゼII画分の入手方法
としては、例えば、特開2002−335968や特開平10−262660を参照することができる。
また、ここにいうCSase−ABCの「由来」とは、当該CSaseをコードする遺伝子を元来保有する生物を起源とすることをいう。例えば、Proteus vulgaris由来のCSase−ABCとは、Proteus vulgarisが元来保有する遺伝子によって生産されるCSase−ABCを意味する。よって、Proteus vulgaris由来のコンドロイチナーゼABCには、Proteus vulgaris自体により産生されるものはもちろん、Proteus vulgarisから取得されたCSase−ABC遺伝子を利用して他の細胞で産生させたもの等も含まれる。さらに、上記遺伝子を利用して作成した変異体CSase−ABC遺伝子を用いて産生した組換え変異体CSase−ABC等も包含される。
本発明で使用する酵素は、医薬として使用できる程度に精製され、医薬として混入が許されない物質を実質的に含まない酵素であることが好ましい。例えば、100U/mg蛋白以上の酵素活性を有する精製されたCSase−ABCであることが好ましく、100U/mg蛋白以上の酵素活性を有し、エンドトキシンを実質的に含まず、核酸、プロテアーゼ含量が検出限界以下である精製されたCSase−ABCを用いることが特に好ましい。
なお、本明細書においてCSaseの1U(単位)は、至適pHおよび至適温度付近の条件において、CSから1分間に1マイクロモルの反応生成物を遊離させる酵素量である。念のため、以下に各種CSaseの1Uの定義を示す。
CSase−ABCの1Uとは、pH8.0、37度で1分間にCSから1マイクロモルの不飽和二糖を遊離させる酵素量と定義される。またCSase−AC(Flavobacterium heparinum由来)の1Uとは、pH7.3、37℃で1分間にCSから1マイクロモルの不飽和二糖を遊離させる酵素量と定義される。
また、CSase−B(Flavobacterium heparinum由来)の1Uとは、pH8.0、37℃で1分間にCS−Bから1マイクロモルのΔ4−ヘキスロン酸残基に相当するUV吸収物質を生成する酵素量として定義される。
本発明及び実施例で使用する酵素の酵素活性は、上記各酵素の至適条件下において不飽和二糖の生成量を測定し、1Uの酵素による生成量と比較することにより定量することができる。
例えば、酵素活性が100U/mg蛋白以上であるコンドロイチナーゼABCを使用することにより、注射用医薬品として生体内に投与した際に周辺組織に影響を与えること無く、目的部位(例えば、ケロイドや肥厚性瘢痕)のプロテオグリカンのCSを適切に分解することができ、安全性と有効性が高い医薬とすることができる。このようなCSase−ABCは、例えば、特開平6−153947号公報に記載の方法で得ることができ、市販のものを用いることもできる。
本発明促進剤は、実験用の試薬としても利用することができる。
また本発明は、CS−A、CA−B及びCS−Cを分解する酵素を含有する、弾性線維再生化剤(以下「本発明再生化剤」ともいう。)の概念をも包含する。
本発明再生化剤で使用する酵素としてはCSase−ABCを用いることが好ましく、中でもProteus vulgaris 由来のCSase−ABCが好ましく、リアーゼIのみを含む高度に精製された画分を用いることが極めて好ましい。
先に述べたとおり、ケロイド組織においては、エラスチンがフィブリリンー1蛋白に沈着・クロスリンクしないために、弾性線維の構造が欠失している。そこで本発明再生化剤を投与することにより、エラスチンとフィブリリンの会合を引き起こし、弾性線維を再生化することが出来る。本発明再生化剤において用いられる、「CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素」等の説明や好ましい投与方法、投与回数等は、本発明治療剤と同じである。
<2>本発明治療剤
本発明に係る治療剤は、CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素を含有する、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕の根治治療剤(以下、「本発明治療剤」ともいう。)である。
本発明治療剤は、有効成分としてCS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素のみを含むものであってもよく、また、当該酵素と共に、さらに他の薬効成分を配合してもよい。なお、当該薬効成分は、当該酵素との配合又は投与の組み合わせにより、一方の物質が他方の物質の本来有する作用を阻害する物質でない限りにおいて特に限定されない。
また、本発明治療剤の投与経路は特に限定されないが、本発明の有効成分を、例えば水、緩衝液、生理食塩水等に溶解し、皮下、皮内、筋肉内等に注射することができる。
また、本発明治療剤は、局所麻酔薬等と併用してもよい。
尚、本発明において、治療とは、対象疾患の罹患後に事後的に患者に対して行う通常の意味での治療だけでなく、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕の発生・再発の防止のために事前に行う予防的処置も包含する。
また、本発明において、根治治療とは、単に病変部位の大きさを縮小したり、対処療法として使用するのではなく、病変部位を正常な組織に回復せしめ、根本的かつ完全に治すことをいう。
後述する参考例からわかるように、CS−A、CS−B及び/又はCS−Cが共存する培養系において、ケロイド細胞を培養すると、エラスチンの細胞外マトリックスへの沈着、即ち、フィブリリンとの会合が阻害されることがわかる。また実施例からわかるように、ケロイド組織において、CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素を投与することによりエラスチンとフィブリリンの会合による、弾性線維の再生化が起こり、その結果、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕の根治治療を行うことが出来る。
本発明治療剤は、CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素を、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕疾患部においてエラスチンとフィブリリンの会合を促進し、すなわち弾性線維を再生化させることによって、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕を治療するために有効な量を含有させる。
ここで「有効な量」とは、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕において弾性線維再生化を促進し、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕状態を改善・正常化、再発予防するために有効な量
を意味する。この量は、患者の症状、病変部の容積、年齢等によって異なるものであり、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕において弾性線維形成を促進し、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕状態を改善・予防するのに有効な量である限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば、病変部5mm3あたり1回投与する分の本発明の治療剤中においては0.01U以上、0.02U以上、0.05U以上、0.1U以上、0.5U以上、1U以上、2U以上、4U以上等が例示される。より具体的には、0.01〜5U、0.01〜4U、0.01〜2U、0.01〜1U、0.01〜0.5U、0.01〜0.1U、0.01〜0.05U、0.01〜0.02U、0.02〜5U、0.02〜4U、0.02〜2U、0.02〜1U、0.02〜0.5U、0.02〜0.1U、0.02〜0.05U、0.05〜5U、0.05〜2U、0.05〜1U、0.05〜0.5U、0.05〜0.1U、0.1〜5U、0.1〜4U、0.1〜2U、0.1〜1U、0.1〜0.5U、0.5〜5U、0.5〜4U、0.5〜1U、1〜5U、1〜4U、1〜2U、2〜5U、2〜4U、4〜5Uの範囲を例示することが出来る。
また、本発明治療剤の投与回数は、1日1回でもよく、1日2〜4回、またはそれ以上の回数に分けて投与することもでき、そのような投与を必要に応じて毎日、あるいは適当な日数をおいて必要な期間投与することができる。
本発明治療剤の適用対象はケロイド及び/又は肥厚性瘢痕であれば特に限定されず、真性ケロイド、瘢痕ケロイド、肥厚性瘢痕、成熟瘢痕(例えば、ニキビ痕等が例示される)等に広く適用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[参考例1]ケロイド病変部と正常皮膚部の観察
組織材料として、ケロイド患者より、ケロイド病変部と正常皮膚部を含むヒト組織検体を摘出した。検体を4%パラホルムアルデヒドにて4℃、24時間固定後、パラフィン包埋し、パラフィンブロックを作製し、3μmのパラフィン断片を作製した。脱パラフィン後、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、エラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色により標本作製を行った。顕微鏡を使用し、ケロイド組織と正常皮膚組織を観察した。
結果を図1に示した。線で示した部分が、ケロイド病変部、隣接する部分が正常皮膚部である。EVG染色で、ケロイド病変部以外の正常皮膚部には黒く染色される弾性線維構造(矢印)が確認できるが、ケロイド病変部は、硝子化がその大部分に認められ、弾性線維構造形成が欠失していることが確認できる。
[参考例2]ケロイドの病変組織と正常皮膚組織における弾性線維構成成分のmRNA発現
組織材料として、ケロイド病変組織(4名)と、正常皮膚組織(3名)よりヒト検体を摘出した。ケロイド組織、正常皮膚組織より、RNeasy Plus kit(株式会社キアゲン製)を用いてトータルRNAを抽出した。1μg トータルRNAよりadvantage RT for PCR kit(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)を用いて、cDNAを合成し、弾性線維の構成成分である7種類の蛋白について、そのmRNAの発現を、RT−PCRにて調べた。PCRで用いたプライマーを表1に示す。
Blend Taq−plus(登録商標)(東洋紡績株式会社製)を用いてPCR反応を行い、特異的配列を増幅させ、電気泳動により確認した。PCR条件は、denaturation 94℃30秒、annealing 58℃30秒、extension 72℃1分である。DANCE、MFAP−2、GAPDHは30サイクル数、トロポエラスチン、フィブリリン−1、フィブリン−1、EMILINは35サイクル数で行った
結果を図2Aに示した。参考例1ではケロイド病変部に弾性線維構造が確認できないことを示した。本試験では、弾性線維の主要成分であるエラスチンをはじめ、フィブリリン−1等、弾性線維構成成分のmRNAが、ケロイド組織においても正常組織と同等のレベルで発現していることを示した。このことは、ケロイド組織における弾性線維構造の欠失は、エラスチン、フィブリリン−1等の産生が減少しているためではないことを示している。
[参考例3]ケロイド組織におけるエラスチンとフィブリリン−1蛋白の発現
参考例2では、ケロイド組織での正常レベルのエラスチン、フィブリリン−1のmRNAの発現を示した。次にエラスチン、フィブリリン−1の蛋白質レベルでの発現と細胞外マトリックスでの局在を免疫組織化学染色にて調べた。手順としては下記の通り行った。
エラスチン染色:ヒトケロイド組織を切断し、4%パラホルムアルデヒドを用いて、4℃、24時間固定した。その後パラフィン包埋し、6μm切片を作製した。脱パラフィン後、LSAB/HRPキット(ダコ ジャパン株式会社製)にて免疫組織化学染色を行った。1次抗体として、抗エラスチン抗体(1:100;エラスチンプロダクツ社製,PR533)を用いた。
フィブリリン−1染色:ヒトケロイド組織を切断し、直ちにOCTコンパウンドに包埋凍結した。10μm凍結切片を作製し、ブロックエースにてブロッキング後、抗フィブリリン−1抗体(1:200;ネオマーカー社製)にて反応させた。2次抗体は、Alexa Fluor 546 ヤギ抗ウサギIgG抗体(1:800;モレキュラープローブ社製)を用いた。 また、Hoechst(ヘキスト)(シグマ社製)にて細胞の核染色を行った。
結果を図2Bに示した。Hoechst(ヘキスト)染色により染色された部分は、細胞の核の局在、即ち細胞の局在を示しており、細胞の間隙は、細胞外マトリックスが存在する。エラスチン染色では、細胞内でのエラスチンの発現(矢印)は確認できるが、細胞外マトリックス中では、線維状の染色像が見られなかった(例示として*で細胞外マトリ
ックスの一部位を示した)。フィブリリン−1染色では、正常皮膚と同様に細胞外マトリックスで線維状の染色像が見られた。
これらは、ケロイド患者病変部の細胞では、エラスチン及びフィブリリン−1を共に産生しているが、細胞外マトリックス中でのエラスチンのフィブリリン−1への沈着は認められず、弾性線維構造が欠失していることを示している。産生されたエラスチンは、細胞外マトリックスへ分泌されるが弾性線維としてフィブリリン−1に会合・沈着しないために、ケロイド組織から代謝・消失しているものと考えられる。
[参考例4]ケロイド組織中に蓄積されるCSの分析
ケロイド組織と正常皮膚のCS蓄積量の比較を行った。また、ケロイド組織に蓄積しているCSの種類についても検討を行った。
方法は、参考例3と同様にして得られたケロイド組織切片(6μm)と正常皮膚組織切片(6μm)を脱パラフィン後、無処置、或いは各種CSase処理を行った後、アルシアンブルー染色(pH2.5)を行った。アルシャンブルーは、組織中のGAGを染色する色素である。CSase−ABC(Proteus vulgaris由来、生化学工業株式会社製)、CSase−B(Flavobacterium heparinum由来、生化学工業株式会社製)、CSase−AC(Flavobacterium heparinum由来、生化学工業株式会社製)をそれぞれ1mU/1μlになるように0.1mol Tris−HClバッファーにて溶解し、37℃2時間、組織切片を処理した後、アルシアンブルー液(pH2.5)にて染色を行った。
結果を図3に示した。左側の2枚の図は、CSase無処置のケロイド組織切片(下図)と正常皮膚組織切片(上図)のアルシャンブルー染色写真である。正常皮膚組織と比べて、ケロイド組織の染色性が強く、ケロイド病変部の細胞外マトリックスにGAGが蓄積していることが分かる。一方、右側の3枚の写真は、ケロイド組織切片をCSase−ABC、CSase−B、CSase−AC処理後にアルシャンブルー染色した写真である。 3酵素処理のすべてで、左側下図のケロイド組織(酵素処理なし)に比べてアルシアンブルー染色性が低下していたが、CSase−ABC処理においては、染色性が正常皮膚と同等のレベルまで低下することが確認できた。
[参考例5]弾性線維再生化におけるCSの影響
参考例4の結果から、過剰蓄積したCSにより、ケロイド組織における弾性線維形成の欠失(エラスチンのフィブリリンへの沈着阻害)が生じていることが示唆された。そこで、in vitro培養系(エラストジェネシスアッセイ)において、人為的にCS−A、CS−B又はCS−C単独並びにそれら各CSを組合せたCSを患者由来ケロイド細胞に処理し、最も弾性線維構造欠失(細胞外マトリックスでのエラスチン沈着の阻害)を引き起こすCSの組み合わせを検討した。
24穴細胞培養プレートに、直径13mmのカルチャープレート(イワキ株式会社製)を挿入し、このプレート上にヒトケロイド組織よりexplant法により採取したケロイド細胞を、1X104/wellで播種、DMEM培地(ギブコ社製)にて培養した。CS添加群としては、CS−A、CS−B及びCS−C単独並びにそれら各CSを組合わせた添加群を設定した。培地中に2日ごとにそれぞれ400μg/mlの上記3種CSを単独、またはそれぞれを組み合わせて、1ml添加した。またコントロールとして何も添加せずに培養した(無添加群)。9日目にカルチャープレートを取り出し、100%メタノールにて固定、2%BSAにて固定した後、1次抗体として、抗エラスチン抗体(1:100;エラスチンプロダクツ社製,PR533)、抗フィブリリン−1抗体(1:200;エラスチンプロダクツ社製, PR217)にて反応させた。二次抗体は、Alexa Fluor 546ヤギ抗ウサギIgG抗体(1:200;モレキュラープローブ社製)を用い、Hoechst(シグマ社製)にて細胞の核染色を行った。その後、共焦点レーザー顕微鏡
システム(株式会社ニコン製、Digital Eclipse C1si)にて観察し、画像を取得した。その後、エラスチン染色の画像解析を画像解析ソフト(Image pro)を用いて行った。画像のグレースケール化、画像反転を行い、核染色画像と照合しながら、核染色領域を含まない染色範囲が抽出できるようrangeを設定し、エラスチン染色部分の面積を測定した。得られた値をCS無添加群を100%とした相対%で示した。
図4にCS無添加群のエラスチン染色とフィブリリン−1染色写真を示した。楕円形に染色されている部分がヘキスト染色による細胞核の部位、即ち細胞の局在を示しており、細胞間隙が細胞外マトリックスの部分を示す。CS無添加群では、細胞外マトリックスでのエラスチンの沈着(左図:白矢印)、フィブリリン−1(右図:白矢印)の線維構造が確認された。各種CS添加群の結果を画像解析ソフトにて解析し、その結果をグラフで示した(図5及び表2)。CS−A、CS−B及びCS−C単独又はCS−A、CS−B及びCS−Cの2種を組合せたCSでは、CS無添加群に比べると、細胞外マトリックス中での若干の線維性エラスチン沈着の阻害が認められたが、CS−A、CS−B及びCS−Cの3種を同時に添加した群において、最も強い線維性エラスチン沈着の阻害作用が認められた。即ち、3種のCSを共存させた場合に、もっとも高い弾性線維形成阻害作用が起こることを示した。
[実施例1]移植ケロイド病変組織での弾性線維形成(再生化)におけるCSase−ABCの影響
参考例4の結果から、ケロイド組織に蓄積しているCSをCSase−ABCが最も良く分解していることが示唆された。また、参考例5の結果から、CS−A、CS−B及びCS−Cの全てが共存する場合が最も強く、弾性線維形成阻害を引き起こすことが示唆された。そこで、3種のCSすべてを分解できるCSase−ABCを選択し、当該酵素のin vivo(移植ケロイド病変組織)における治療効果、即ち弾性線維形成(再生化)と、ケロイド組織サイズに与える影響を調べた。
図6Aに移植に用いたケロイド患者(臨床症状は重篤であった。)組織片の病理組織の写真を示す。左図中の丸で囲んだ部分を拡大したものが右図である。大型の明るい線維芽細胞がケロイド細胞であるが、その数は多く(白矢印)、錯綜する硝子化したコラーゲン線維束が顕著に見受けられる(黒矢印)。弾性線維は欠失している。図中では、正常皮膚の所見は認められない。
図6Aの病変組織から、5mm角ケロイド組織を免疫不全マウス(c57 balb nu/nu 6週 雄、(日本エスエルシー)社製)背部2箇所に移植し、生着を確認後、移植8日後、18日後に、移植組織片の一方(右側の移植部)に0.1M Tris bufferに溶解した50mU/10μlのコンドロイチナーゼABC(Proteus vulgaris由来、生化学工業株式会社社製)を10μl注射した。もう一方の移植組織片(左側の移植部)には、コントロールとして0.1M Tris bufferを10μl局所注射した。移植35日後に組織片のサイズを目視的に観察し、写真をとった。
上記と同様に、同じ病変組織から得た5mm角ケロイド組織を免疫不全マウス背部に移植し、生着を確認後、移植7日後、14日後、21日後に、移植組織片の一方に0.1M Tris bufferに溶解した50mU/10μlのコンドロイチナーゼABCを10μl注射した。もう一方の移植組織片には、コントロールとして0.1M Tris bufferを10μl局所注射した。移植35日後(実験開始6週間後)に移植組織片を取り出し組織学的解析に供した。4%パラホルムアルデヒドにて4℃、24時間固定の後、パラフィンブロックを作製した。3μmの切片を作製し、脱パラフィン後、エラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色により標本作製を行った後、顕微鏡を使用し、移植部位の皮膚組織を観察した。
図6Bに免疫不全マウスにケロイド組織片を移植した直後と移植後4週間後の写真を示す。
左の写真はケロイド組織片を移植した直後の様子であり、右の写真は移植後35日後の写真である。右側写真の左側の移植部はbuffer注射(コントロール)のケロイド組織片、右側の移植部はCSase−ABC注射のケロイド組織片である。CSase−ABC注射により右側のケロイド組織片が、buffer注射した移植片に比べて、極端に縮小していることがわかる。
図6Cにbuffer注射又はCSase−ABC注射を施したケロイド組織片の移植後35日後の組織(EVG染色)観察結果の写真を示す。
その結果、buffer注射群の組織では、弾性線維形成は全く認められておらず、ほとんどの部分が硝子化のままであったが、CSase−ABC注射群の組織では黒色に染色される弾性線維形成(黒矢印)が広範囲にわたり確認でき弾性線維構造の再生がおこっていることが確認された。さらに赤色に染色されるコラーゲン線維束(白矢印)の状態が正常皮膚組織に類似した状態となっており、硝子化は消失していた。
以上のことから、CSase−ABC注射により、弾性線維の再生、錯綜コラーゲン線維束及び硝子化の消失、並びにケロイド組織ボリュームの顕著な縮小の誘導が確認され、CSase−ABC注射が弾性線維再生化を機序としたケロイドの根治治療薬となりうるという発明者の着想が実証された。
[実施例2]CSase−ABC、CSase−B、CSase−ACの治療効果の比較
実施例1と同様の方法で、CSase−ABC、CSase−B、CSase−ACの治療効果の比較を行った。CSase−ABC、CSase−B及びCSase−ACをそれぞれ50mU/10μlなるように0.1mol Tris−HClバッファーにて溶解し、移植組織片に、それぞれを10μl注射した。図7Aに移植片を採取したケロイド患者(臨床症状は中等であった)病変部の病理組織の写真を示す。左図中の丸で囲んだ部分を拡大したものが右図である。ケロイド細胞数(白矢印)は多いが、コラーゲンの硝子化程度は、実施例1(図6A)と比べて少ない。弾性線維は欠失しており、図中では、正常部位は認められない。図7Bの写真は、左から、背部片側に患者由来ケロイド組織片を移植し、生着後に、1週間毎に1回、計3回、buffer投与、CSase−ABC注射、CSase−B注射、CSase−AC注射を行い、移植後35日目にマウス背部を撮影した写真である。CSase−ABC注射によりケロイド組織片は、顕著な移植組織片サイズの縮小が認められ、その程度はマウス皮膚との見分けがつかない程の平坦化にまで達していた。CSase−B注射では、若干の移植組織片サイズの縮小が認められ、CSase−AC注射では、移植組織片サイズの縮小は、殆ど認められなかった。
CSase−ABC注射後の移植組織が、正常組織と同様の組織像、即ち、弾性線維の再生、錯綜コラーゲン束及び硝子化の消失まで達しているかどうかを確認するために、実施例1と同様の組織学的検討を行った。比較として、buffer注射、CSase−B
注射、CSase−AC注射個体に対しても、同様の組織学的検討を行った(図8)。上段には、残存ケロイド組織を線で囲み残存面積を示した。Buffer注射例での残存ヒトケロイド組織面積に対するCSase−B注射、CSase−AC注射、CSase−ABC注射例の相対値を算出するため、残存ケロイド組織面積(線で囲んだ面積)をImage−Pro Express J5.1を用いて計測した。Buffer注射での残存ヒトケロイド組織面積に比べて、CSase−B注射では若干の面積の縮小が、CSase−AC注射では、約半量の面積の縮小、CSase−ABC注射では、顕著な縮小が認められ、図7Bの目視の結果と一致した。図8の中段では、弾性線維の再生の程度と硝子化の状態を示すために、上段のそれぞれの丸で囲った部分を拡大した組織写真を示した。
Buffer注射、CSase−B注射、CSase−AC注射個体では、硝子化とコラーゲン線維の錯綜が多く認められる(黒矢印)が、CSase−ABC注射個体では、硝子化とコラーゲン線維の錯綜は、まったく認められず、明確な弾性線維の再生(白矢印)が認められる。実施例1でのCSase−ABC注射個体での結果に比べて、弾性線維再生化が組織全体に認められないのは、ケロイド組織が正常組織化したために、ヌードマウスの組織と同化を始めたためだと考えられる。ヌードマウスの皮膚には、弾性線維形成は認められないことが既に知られている。CSase−B注射、CSase−AC注射個体では明確な弾性線維構造はみとめられない。CSase−B注射固体の中段の写真中央部に濃く見える構造は、弾性線維ではなく、錯綜したコラーゲン束である(赤色に染色されている)。下段では、さらに拡大し、ケロイド細胞の様相を示した(HE染色)。正常のヒト線維芽細胞と比べて大型の細胞で、核も大型化し明るく染色されているのがケロイド細胞である(矢印)。Buffer注射,CSase−B注射、CSase−AC注射では、多くのケロイド細胞が認められたが、CSase−ABC注射では、ケロイド細胞が消失していた(すべて正常線維芽細胞であった)。1視野中のケロイド細胞数を3回カウントし、平均値を算出した。Buffer例を100とした場合の、それぞれの相対数を%で表した。上記の結果を表3にまとめて示した。
表3のCSase−AC注射及びCSase−B注射の結果からわかるように、ケロイド組織のサイズの減少がヒト線維芽細胞(ケロイド細胞)数の減少に直接関係が無いことがわかり、またCSase−ABC注射では、弾性線維の再生、錯綜コラーゲン束及び硝子化の消失、ケロイド細胞の消失まで達しており、CSase−ABCの治療効果が他のCSaseに比較して特段に優れていることが確認された。
本発明により、CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素を含有する弾性線維形成促進剤、CS−A、CS−B及びCS−Cを分解する酵素を含有するケロイド及び/又は肥厚性瘢痕の根治治療剤が提供される。上記薬剤は、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕における弾性線維の再生化、コラーゲン線維束の正常化、病変組織の正常化を促進させる作
用を有するので、根治治療に結び付き、既存薬のステロイド剤で頻発する再発の可能性はなく、ケロイド及び/又は肥厚性瘢痕を完全に治療することができる。
本発明の治療剤は、従来の治療法及び治療剤では十分な臨床効果が認められなかったケロイドや肥厚性瘢痕を低用量で完全に治療することができ、かつ重篤な副作用を示すことがない治療剤として広く利用できる。

Claims (3)

  1. コンドロイチナーゼABCを含有する、ケロイド組織及び/又は肥厚性瘢痕組織中の錯綜コラーゲン線維束の消失剤。
  2. ケロイド組織及び/又は肥厚性瘢痕組織の縮小に用いるための、請求項1に記載の消失剤。
  3. 前記コンドロイチナーゼABCが、プロテウス・ブルガリス由来のコンドロイチナーゼABCである、請求項1又は2に記載の消失剤。
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