JP2015224356A - 銅合金板材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】0.2%耐力が高く、残留応力が小さい銅合金板材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の銅合金板材は、Ti:1.5〜4.5質量%を含有し、さらに、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Mn、Zr、Si、Mg、B、及びPから選択される1種以上を総計で0.01〜0.6質量%含有する、残部Cuおよび不可避不純物からなる銅合金板材であって、0.2%耐力が900MPa以上であり、前記銅合金板材の板幅方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布、および前記銅合金板材の圧延方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布において、それぞれの断面の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値が80MPa以下である。
【選択図】図1
【解決手段】本発明の銅合金板材は、Ti:1.5〜4.5質量%を含有し、さらに、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Mn、Zr、Si、Mg、B、及びPから選択される1種以上を総計で0.01〜0.6質量%含有する、残部Cuおよび不可避不純物からなる銅合金板材であって、0.2%耐力が900MPa以上であり、前記銅合金板材の板幅方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布、および前記銅合金板材の圧延方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布において、それぞれの断面の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値が80MPa以下である。
【選択図】図1
Description
本発明は、リードフレーム、コネクタ、ばね材等の電気・電子機器材料に用いられる高強度の銅合金板材とその製造方法に関するものである。
携帯電話やポータブルオーディオプレイヤー、デジタルカメラといった電子機器の小型化・多機能化が進むにつれ、これらに搭載される基板の軽量化・多層化が求められている。また、実装される部品にも、更なる軽量化・小型化が求められている。
従来、コネクタ、リレー等の部品にはりん青銅や黄銅等の固溶強化合金が使用されていた。しかし、近年、電子部品の著しい軽薄・短小化に伴って、これらの材料では強度を満足できない。そのため、特に信頼性が要求される部品には、強度の高いベリリウム銅、チタン銅等の高強度型銅合金の需要が増えているが、ベリリウム銅は、ベリリウム化合物が毒性を有すること、コストが高いといった問題点があり、チタン銅に対する需要が高まっている。チタン銅の強度や加工性の更なる改善に関して、種々の合金の組成や製造方法が提案されている(例えば特許文献1〜3)
特許文献1では、熱間圧延した後、加工度95%以上で冷間圧延し、引き続き時効処理を行う方法が提案されている。この方法により、1200MPa以上の引張強さを有するチタン銅合金が得られる旨が開示されている。また、特許文献2では、時効処理の母相に水素を導入する方法が提案されている。この方法では、時効処理時に固溶Tiと水素が反応し、水素化物が析出する。そして、強度の向上に寄与しないTiとCuとの金属間化合物の析出が抑制される。これにより、高強度・高導電性を有するチタン銅合金が得られ、旨が開示されている。さらに、特許文献3では、最終の溶体化処理の後、熱処理、冷間圧延、及び時効処理を順に行う方法が提案されている。熱処理は、従来の時効処理よりも短時間で、かつ、亜時効となる条件で行い、時効処理は、従来の時効処理よりも低温で行っている。このように2段階の時効処理を行うことで、強度及び曲げ加工性のバランスが向上したチタン銅が得られる旨が開示されている。
チタン銅においては、チタン含有量を高くする、圧延加工度を高くする、または強度の増加に寄与する析出物の量を増加させる方法により強度を増加させることができる。しかし、板厚0.1mm以下の薄板材では、冷間加工により生じる残留応力を抑制することが困難になり、調質焼鈍後の板材に対してエッチングやプレス加工を行うと、残留応力に起因して反り等の変形が生じる問題があった。特許文献1、2または特許文献3に記載された発明においては、最終段階で行われる時効処理前の冷間圧延において、残留応力の抑制が不十分であった。そのため、時効処理において、残留応力を十分に除去するためには、保持温度を高くする必要があり、強度の低下が不可避であるという問題があった。
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、導電率および0.2%耐力が高く、残留応力が小さく、かつ加工性に優れた銅合金板材およびその製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る銅合金板材は、Ti:1.5〜4.5質量%含有し、残部Cuおよび不可避不純物からなる銅合金板材であって、0.2%耐力が900MPa以上であり、前記銅合金板材の板幅方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布、および前記銅合金板材の圧延方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布において、それぞれの断面の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値が80MPa以下であることを特徴とする。
また、本発明に係る銅合金板材は、平均結晶粒径が0.1μm超50μm以下であることが好ましい。
また、本発明に係る銅合金板材は、厚さが5μm以上80μm以下であることが好ましい。
本発明に係る銅合金板材の製造方法は、鋳造、均質化熱処理、熱間加工、面削、第1の冷間加工、溶体化熱処理、第2の冷間加工および時効処理から構成される処理をこの順に施し、前記第2の冷間加工におけるワークロール径が150mm以下、ワークロールの表面粗さRaが0.5μm以下、圧延速度が300m/min以下、1パスあたりの加工率が3〜20%、かつ、総加工率が5〜90%であり、前記時効処理における処理温度が300〜500℃、処理時間が0.1〜15時間であることを特徴とする。
また、本発明に係る銅合金板材の製造方法は、鋳造、均質化熱処理、熱間加工、面削、第1の冷間加工、溶体化熱処理、第1の時効処理、第2の冷間加工、第2の時効処理から構成される処理をこの順に施し、前記第1の時効処理における処理温度が300〜700℃、処理時間が0.001〜12時間であり、前記第2の冷間加工におけるワークロール径が150mm以下、ワークロールの表面粗さRaが0.5μm以下、圧延速度が300m/min以下、1パスあたりの加工率が3〜20%、かつ、総加工率が5〜90%であり、前記第2の時効処理における処理温度が300〜400℃、処理時間が3〜12時間であることを特徴とする。
本発明の銅合金板材は、0.2%耐力が900MPa以上の特性を有する。また、銅合金板材の板幅方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布、および銅合金板材の圧延方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布において、それぞれの断面の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値が80MPa以下であるため、銅合金板材を加工する際に反り等の不良が発生しづらい。すなわち、本発明の銅合金板材は加工性に優れる。また、本発明の銅合金板材の製造方法では、銅合金板材の板幅方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布、および前銅合金板材の圧延方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布において、それぞれの断面の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値が80MPa以下である銅合金板材を、好適に提供することができる。
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態という。)について、具体的に説明する。本発明において銅合金板材とは、圧延工程によって、例えば板材や条材、箔などの特定の形状に加工された銅合金材を意味する。本願では、これらをまとめて銅合金板材と呼ぶ。また、本願では以降「質量%(mass%)」を単に「%」とも記す。
(1)銅合金板材の組成
本実施形態の銅合金板材におけるTiの含有量は1.5〜4.5質量%であり、好ましくは2.7〜3.5質量%である。Tiの含有量が1.5質量%未満では、チタン銅本来の変調構造の形成による強化機構を十分に得ることができないことから十分な強度が得られない。一方、Tiの含有量が4.5質量%を超えると、粗大なTiCu3が析出し易くなり、強度及び曲げ加工性が劣化する傾向にある。このようにTiの含有量を適正化することで、電子部品用に適した強度及び曲げ加工性を共に実現することができる。
本実施形態の銅合金板材におけるTiの含有量は1.5〜4.5質量%であり、好ましくは2.7〜3.5質量%である。Tiの含有量が1.5質量%未満では、チタン銅本来の変調構造の形成による強化機構を十分に得ることができないことから十分な強度が得られない。一方、Tiの含有量が4.5質量%を超えると、粗大なTiCu3が析出し易くなり、強度及び曲げ加工性が劣化する傾向にある。このようにTiの含有量を適正化することで、電子部品用に適した強度及び曲げ加工性を共に実現することができる。
所定の第三元素をチタン銅に添加すると、Tiが十分に固溶する高い温度で溶体化処理を行っても結晶粒が容易に微細化し、強度を向上させる効果がある。また、所定の第三元素は変調構造の形成を促進する。更に、Ti−Cu系の安定相の急激な粗大化を抑制する効果もある。そのため、チタン銅本来の時効硬化能が得られるようになる。
チタン銅において、第三元素として、上記効果が最も高いのがFeである。そして、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Mn、Zr、Si、Mg、B、及びPにおいてもFeに準じた効果が期待できる。単独の添加でも効果が見られるが、2種以上を複合添加してもよい。
これらの元素は、合計で0.01質量%以上含有するとその効果が現れる。しかし、合計で0.6質量%を超えると一度の溶体化処理では十分な固溶と適切な再結晶粒の発現を両立させることが難しくなり、強度と曲げ加工性のバランスが劣化する傾向にある。したがって、第三元素群としてFe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Mn、Zr、Si、Mg、B、及びPよりなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.01〜0.6質量%含有するのが好ましく、合計で0.01〜0.5質量%含有するのがより好ましい。
(2)銅合金板材の物性
本実施形態の銅合金板材は、板材中の残留応力が小さいことが特徴の1つである。残留応力は熱処理や冷間加工などによる不均一な変形の結果発生し、銅合金板材(圧延材)の表面および板材内部に広く分布している。圧延材の表面および内部の残留応力分布の勾配が大きい、すなわち残留応力の最大値と最小値の差が大きいと、エッチングやプレス加工を行った際に、残留応力が開放されて、反り等の変形が生じやすくなる。もしくは、加工時には変形として現れていなくても、使用中に変形を起こす可能性のある板材となる。よって、銅合金板材中の残留応力を小さく制御することが必要となる。
本実施形態の銅合金板材は、板材中の残留応力が小さいことが特徴の1つである。残留応力は熱処理や冷間加工などによる不均一な変形の結果発生し、銅合金板材(圧延材)の表面および板材内部に広く分布している。圧延材の表面および内部の残留応力分布の勾配が大きい、すなわち残留応力の最大値と最小値の差が大きいと、エッチングやプレス加工を行った際に、残留応力が開放されて、反り等の変形が生じやすくなる。もしくは、加工時には変形として現れていなくても、使用中に変形を起こす可能性のある板材となる。よって、銅合金板材中の残留応力を小さく制御することが必要となる。
そこで、本発明では、銅合金板材の圧延方向(RD;Rolling Direction)に垂直な断面および板幅方向(TD;Transverse Direction)に垂直な断面のそれぞれの断面の板厚方向(ND;Normal Direction)の残留応力分布において、それぞれの断面の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値を80MPa以下に制御している。より詳しくは、銅合金板材の圧延方向(RD)に垂直な断面における板厚方向の残留応力分布において、その断面の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値が80MPa以下であり、かつ、銅合金板材の板幅方向(TD)に垂直な断面における板厚方向の残留応力分布において、その断面の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値が80MPa以下である。
図1および図2を参照して、本実施形態の銅合金板材1の断面における残留応力分布について説明する。図1は、本実施形態の銅合金板材1の断面を説明するための図である。図1に、銅合金板材1の板幅方向(TD)に垂直な断面における板厚方向(ND)の残留応力分布2と、銅合金板材1の圧延方向(RD)に垂直な断面における板厚方向(ND)の残留応力分布3を示した。図2(A)は、図1における銅合金板材1の板幅方向(TD)に垂直な断面の部分拡大図であり、図2(B)は、図1における銅合金板材1の圧延方向(RD)に垂直な断面の部分拡大図である。
図2(A)において、曲線2aは、圧延方向(RD)の残留応力の値を示しており、軸2bは、残留応力が0であることを示す。板幅方向(TD)に垂直な断面における板厚方向(ND)の残留応力分布2では、その断面において圧延方向(RD)の残留応力が板厚に対してどのような分布をしているのかを示している。値Aは、圧延方向(RD)の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値を意味する。また、図2(B)において、曲線3aは、板幅方向(TD)の残留応力の値を示しており、軸3bは、残留応力が0であることを示す。圧延方向(RD)に垂直な断面における板厚方向(ND)の残留応力分布3では、その断面において板幅方向(TD)の残留応力が板厚に対してどのような分布をしているかを示している。値Bは、板幅方向(TD)の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値を意味する。これらの各断面における残留応力分布において、その最大応力値(σmax)と最小応力値(σmin)の差の絶対値を80MPa以下(|σmax−σmin|≦80MPa)とするように制御したのが本発明である。すなわち、A≦80MPa、かつ、B≦80MPaである。
なお、図2(A)および図2(B)に示すように、軸2b、軸3bに対して残留応力の正(プラス)の値を引張応力とし、負(マイナス)の値を圧縮応力とする。このようにすると、残留応力の最大値は引張応力であり、最小値は圧縮応力となる。すなわち、本発明における残留応力の制御は、「引張応力の最大値」と「圧縮応力の最小値」の差(絶対値)を80MPa以内とすることに相当する。それぞれの断面の板厚方向の残留応力分布における残留応力の最大値と最小値の差の絶対値は、より好ましくは50MPa以下である。それぞれの断面の板厚方向の残留応力分布における残留応力の最大値と最小値の差の絶対値について、下限は特に規定しないが、絶対値であるため0以上である。なお、本発明における残留応力は、Treuting−Read法に基づいて測定した値である。
本実施形態の銅合金板材は、平均結晶粒径が0.1μm超50μm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.1μm超25μm以下である。平均結晶粒径が0.1μm以下であると、加工性が悪化する。平均結晶粒径が50μmを超えると、十分な強度が得られず、また、圧延垂直方向と圧延平行方向の強度差が大きくなる。なお、本発明における平均結晶粒径は、JISH0501(切断法)に基づいて測定した値である。
本実施形態の銅合金板材は、0.2%耐力(YS)が900MPa以上である。好ましくは1000MPa以上である。0.2%耐力YSの上限値は特に限定されないが、現実的には2000MPa程度である。本発明における0.2%耐力は、通常の引張試験機による引張試験に基づいて測定した値である。
本実施形態の銅合金板材の厚さは、用途や成形条件等に応じて適宜調整可能であるが、5μm〜80μmであることが好ましい。より好ましくは、10〜80μmである。厚さが5μm未満であると、残留応力の最大値と最小値の差を80MPa以下になる圧延を行うには、パス回数が多くなり、生産効率が大幅に悪化する。なお、本実施形態の銅合金板材は、特に板厚80μm以下の銅合金板材が対象であるが、80μmを超える銅合金板材に適用することも可能である。本発明は、薄い板厚においても、残留応力が小さくかつ高い0.2%耐力を有することに技術的意義を有するものである。
上記物性を備えた銅合金板材は、高い強度が要求される電気・電子機器材料として好適に用いることができる。例えば、リードフレーム、コネクタ又はばね材などである。
(3)銅合金板材の製造方法
本実施形態の銅合金板材は、所定の組成からなる銅合金に、鋳造、均質化熱処理、熱間加工、面削、第1の冷間加工、溶体化熱処理、第2の冷間加工および時効処理の各工程をこの順に施すことにより製造される。以下、本実施形態の銅合金板材の製造方法について詳細に説明する。
本実施形態の銅合金板材は、所定の組成からなる銅合金に、鋳造、均質化熱処理、熱間加工、面削、第1の冷間加工、溶体化熱処理、第2の冷間加工および時効処理の各工程をこの順に施すことにより製造される。以下、本実施形態の銅合金板材の製造方法について詳細に説明する。
(3−1)鋳造
溶解及び鋳造によるインゴットの製造は、基本的に真空中又は不活性ガス雰囲気中で行う。溶解において添加元素の溶け残りがあると、強度の向上に対して有効に作用しない。よって、溶け残りをなくすため、FeやCr等の高融点の第三元素は、添加してから十分に攪拌したうえで、一定時間保持する必要がある。一方、TiはCu中に比較的溶け易いので第三元素の溶解後に添加すればよい。したがって、Cuに、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Mn、Zr、Si、Mg、B、及びPよりなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.01〜0.6質量%含有するように添加し、次いでTiを1.5〜4.5質量%含有するように添加してインゴットを製造することが望ましい。
溶解及び鋳造によるインゴットの製造は、基本的に真空中又は不活性ガス雰囲気中で行う。溶解において添加元素の溶け残りがあると、強度の向上に対して有効に作用しない。よって、溶け残りをなくすため、FeやCr等の高融点の第三元素は、添加してから十分に攪拌したうえで、一定時間保持する必要がある。一方、TiはCu中に比較的溶け易いので第三元素の溶解後に添加すればよい。したがって、Cuに、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Mn、Zr、Si、Mg、B、及びPよりなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.01〜0.6質量%含有するように添加し、次いでTiを1.5〜4.5質量%含有するように添加してインゴットを製造することが望ましい。
(3−2)均質化熱処理、熱間加工および面削
インゴット製造時に生じた凝固偏析や晶出物は粗大なので均質化熱処理でできるだけ母相に固溶させて小さくし、可能な限り無くすことが望ましい。これは曲げ割れの防止に効果があるからである。
インゴット製造時に生じた凝固偏析や晶出物は粗大なので均質化熱処理でできるだけ母相に固溶させて小さくし、可能な限り無くすことが望ましい。これは曲げ割れの防止に効果があるからである。
具体的には、鋳造工程の後には、900〜970℃に加熱して3〜24時間均質化熱処理を行い、続いて熱間加工を実施するのが好ましい。液体金属脆性を防止するために、熱間加工前及び熱間加工中は960℃以下とし、且つ、元の板厚から総加工率が90%までのパスは900℃以上とするのが好ましい。そして、パス毎に適度な再結晶を起こしてTiの偏析を効果的に低減するために、1パスあたりの加工率を10〜25%で実施するとよい。面削工程は、銅合金板材の表皮の酸化皮膜や変質層を除去するために行う。これは通常公知の方法により行うことができる。
(3−3)第1の冷間加工
溶体化熱処理工程前に第1の冷間加工を実施する。第1の冷間加工における総加工率を高くするほど、溶体化熱処理における再結晶粒を均一かつ微細に制御できる。但し、総加工率をあまり高くして溶体化熱処理を行うと、再結晶集合組織が発達して、塑性異方性が生じ、プレス成形性を害することがある。従って、第1の冷間加工の総加工率は好ましくは70〜99%ある。総加工率は{((圧延前の厚み−圧延後の厚み)/圧延前の厚み)×100%}で定義される。
溶体化熱処理工程前に第1の冷間加工を実施する。第1の冷間加工における総加工率を高くするほど、溶体化熱処理における再結晶粒を均一かつ微細に制御できる。但し、総加工率をあまり高くして溶体化熱処理を行うと、再結晶集合組織が発達して、塑性異方性が生じ、プレス成形性を害することがある。従って、第1の冷間加工の総加工率は好ましくは70〜99%ある。総加工率は{((圧延前の厚み−圧延後の厚み)/圧延前の厚み)×100%}で定義される。
(3−4)溶体化熱処理
第1の冷間加工工程の後、溶体化熱処理を一度行う。溶体化熱処理では、析出物を完全に固溶させることが望ましいが、完全に無くすまで高温に加熱すると、結晶粒が粗大化しやすいので、加熱温度は第二相粒子の固溶限付近の温度とする。Tiの添加量が1.5〜4.5質量%の範囲では、Tiの固溶限がTiの添加量と等しくなる温度は730〜840℃程度であり、例えばTiの添加量が3.2質量%では、Tiの固溶限がTiの添加量と等しくなる温度は800℃程度である。所定の加熱温度まで急速に加熱し、冷却速度も速くすれば粗大なTiの発生が抑制される。したがって、典型的には、Tiの固溶限がTiの添加量と等しくなる温度(730〜840℃)以上の温度に加熱する。より典型的にはTiの固溶限がTiの添加量と等しくなる温度より0〜20℃高い温度、好ましくは0〜10℃高い温度に加熱する。本発明においては溶体化熱処理を一度しか実施しないが、第三元素の添加量が少ないため、十分な固溶が行われ、微細な再結晶粒も得られる。
第1の冷間加工工程の後、溶体化熱処理を一度行う。溶体化熱処理では、析出物を完全に固溶させることが望ましいが、完全に無くすまで高温に加熱すると、結晶粒が粗大化しやすいので、加熱温度は第二相粒子の固溶限付近の温度とする。Tiの添加量が1.5〜4.5質量%の範囲では、Tiの固溶限がTiの添加量と等しくなる温度は730〜840℃程度であり、例えばTiの添加量が3.2質量%では、Tiの固溶限がTiの添加量と等しくなる温度は800℃程度である。所定の加熱温度まで急速に加熱し、冷却速度も速くすれば粗大なTiの発生が抑制される。したがって、典型的には、Tiの固溶限がTiの添加量と等しくなる温度(730〜840℃)以上の温度に加熱する。より典型的にはTiの固溶限がTiの添加量と等しくなる温度より0〜20℃高い温度、好ましくは0〜10℃高い温度に加熱する。本発明においては溶体化熱処理を一度しか実施しないが、第三元素の添加量が少ないため、十分な固溶が行われ、微細な再結晶粒も得られる。
また、溶体化熱処理での加熱時間は短いほうが結晶粒の粗大化を抑制できる。加熱時間は例えば30〜90秒とすることができ、典型的には30〜60秒とすることができる。この時点で第二相粒子が生成しても微細かつ均一に分散していれば、強度と曲げ加工性に対してほとんど無害である。しかし、粗大な第二相粒子は最終の時効処理で更に成長する傾向にあるので、この時点での第二相粒子は生成してもなるべく少なく、小さくしなければならない。
(3−5)第2の冷間加工および時効処理
溶体化熱処理に続いて、第2の冷間加工及び時効処理を順に行う。第2の冷間加工によってチタン銅の強度を高めることができる。総加工率を5〜90%、好ましくは10〜70%、より好ましくは15〜70%とする。冷間加工工程では残留応力の発生があり、エッチングやプレス加工における寸法精度の悪化を防ぐためには、表面及び内部における残留応力分布のばらつきをできるだけ抑える処理を行うことが重要である。第2の冷間加工工程における、残留応力分布のばらつきとは、銅合金板材の板幅方向に垂直な断面および圧延方向に垂直な断面のそれぞれの断面において、残留応力の最大値と最小値の差の絶対値である。
溶体化熱処理に続いて、第2の冷間加工及び時効処理を順に行う。第2の冷間加工によってチタン銅の強度を高めることができる。総加工率を5〜90%、好ましくは10〜70%、より好ましくは15〜70%とする。冷間加工工程では残留応力の発生があり、エッチングやプレス加工における寸法精度の悪化を防ぐためには、表面及び内部における残留応力分布のばらつきをできるだけ抑える処理を行うことが重要である。第2の冷間加工工程における、残留応力分布のばらつきとは、銅合金板材の板幅方向に垂直な断面および圧延方向に垂直な断面のそれぞれの断面において、残留応力の最大値と最小値の差の絶対値である。
ここで、第2の冷間加工工程のワークロール径は150mm以下である。ワークロール径が150mmを超えると、銅合金板材の内部側の変形が大きくなり、板材表面から板材内部の残留応力分布のばらつきが増加する。また、ワークロールの表面粗さは算術平均粗さRaで0.5μm以下であり、好ましくは0.3μm以下あり、更に好ましくは0.1μm以下である。算術平均粗さRaが0.5μmを超えると銅合金板材の表面と内部の変形量に差が生じ、残留応力分布のばらつきが大きくなる。算術平均粗さRaに特に下限値は設けないが、小さすぎるとロールと板の間にスリップが生じ圧延制御が不安定になる。また、圧延速度は300m/min以下、好ましくは200m/minである。圧延速度が300m/minを超えると、残留応力分布のばらつきを低減することができない。特に圧延速度に下限値は設けないが、低すぎると生産効率が悪化する。また、1パスあたりの加工率は3〜20%である。1パスあたりの加工率が3%未満もしくは、加工率が20%を超えると、表面と内部の変形量に大きな差が生じ、残留応力分布のばらつきが増す。また、総加工率は、5〜90%である。十分な強度を得るには、総加工率が10%以上とするのが好ましく、15%以上とするのがより好ましい。総加工率が90%を超えると、調質焼鈍工程後に、圧延方向に対して平行方向と垂直方向の強度差が大きくなり、電気・電子部品用銅合金板材として設計の自由度が減少する。
また、第2の冷間加工工程において、本実施形態の銅合金板材の中伸び、端伸びなどの程度を表す急峻度は1.0%以下であることが好ましい。このような急峻度を有する銅合金板材の形状は、良好と言える。
上記冷間圧延工程の後、時効処理を行う。時効処理は慣例の条件で行えばよいが、例えば、処理温度は300〜500℃、処理時間は0.1〜15時間であることが好ましく、処理温度が350〜450℃、処理時間が0.5〜8時間であることがより好ましい。
(4)変形例
上記実施形態では、所定の組成からなる銅合金に、鋳造、均質化熱処理、熱間加工、面削、第1の冷間加工、溶体化熱処理、第2の冷間加工および時効処理の各工程をこの順に施す製造方法を示したが、溶体化熱処理の後に、第1の時効処理、第2の冷間加工、第2の時効処理をこの順に施す製造方法であってもよい。鋳造、均質化熱処理、熱間加工、面削、第1の冷間加工、溶体化熱処理および第2の冷間加工の工程は、上記と同様であるため説明を省略し、以下では第1の時効処理および第2の時効処理について説明する。
上記実施形態では、所定の組成からなる銅合金に、鋳造、均質化熱処理、熱間加工、面削、第1の冷間加工、溶体化熱処理、第2の冷間加工および時効処理の各工程をこの順に施す製造方法を示したが、溶体化熱処理の後に、第1の時効処理、第2の冷間加工、第2の時効処理をこの順に施す製造方法であってもよい。鋳造、均質化熱処理、熱間加工、面削、第1の冷間加工、溶体化熱処理および第2の冷間加工の工程は、上記と同様であるため説明を省略し、以下では第1の時効処理および第2の時効処理について説明する。
溶体化熱処理工程の後、第1の時効処理を行う。第1の時効処理における処理温度は300〜700℃、処理時間は0.001〜12時間であることが好ましい。
第2の冷間加工工程の後、第2の時効処理を行う。第2の時効処理の条件は慣用の条件でよいが、時効処理を従来に比べて軽めに行うと、強度と曲げ加工性のバランスが更に向上する。具体的には、処理温度が300〜400℃、処理時間が3〜12時間であることが好ましい。
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
表1に記載した組成を有する銅合金を溶解して、これを鋳造して銅合金鋳塊を得た。その後、均質化処理、熱間加工、面削を施した。次に、総加工率が95%以上になるよう第1の冷間加工を行い、溶体化熱処理を行い、その後、水冷した。このときの加熱条件は材料温度が約820℃で1分とした。次に、表2に記載した条件で第1の時効処理を行なった。なお、このとき試験材の一部には第1の時効処理は行わなかった。次に、表2に記載した条件(ワークロール径、ワークロールの表面粗さ、総加工率、1パスあたりの最大加工率、圧延速度)で第2の冷間加工を行った。そして、表2に記載した条件(処理時間、処理温度)で第2の時効処理(第1の時効処理を行わなかった試験材も含む)を行い、厚さ0.03mmの銅合金板材を得た。
なお、本実施例では銅合金板材の板厚が0.03mm(=30μm)の例を示したが、本発明は加工条件や熱処理条件を本願の開示の範囲内で調整することによって、5〜80μmの板厚で実施できることを確認した。
(残留応力)
銅合金板材の圧延方向(RD)に垂直な断面及び板幅方向(TD)に垂直な断面における厚さ方向の残留応力はそれぞれ、以下の方法で測定した。まず、板幅方向(TD)に垂直な断面の残留応力分布は、圧延方向(RD)を「長手方向」として、銅合金板から幅20mm×長さ100mmの大きさの試験板を切り出す。試験片の片面の表層をエッチング液を用いて徐々に除去しながら、各深さにおける残部試験片の長手方向(x)及び幅方向(y)の曲率φx、φyを測定する。これを板厚が半分になるまで繰り返し実施する。曲率は試験片の反りを測定することで求める。試験片の反りを円周の一部と考え、この円に相当する半径の逆数を曲率とする。曲率は弦の長さと高さを測定すれば数学的に容易に求められる。その後、エッチング深さaと曲率の関係を図にプロットし、以下の式によってエッチング深さにおける圧延方向(x)の残留応力の最大値σxmax(a)及び最小値σxmin(a)を測定する。また、圧延方向(RD)に垂直な断面の残留応力分布についても、板幅方向(TD)を「長手方向」とする試験片を用いて、同様に測定を行う。本方法はTreuting−Read法と呼ばれるよく知られた方法であり、例えば下記の参考文献に記載されている。この方法に基づいて、銅合金板材の板幅方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布、および銅合金板材の圧延方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布における、それぞれの断面の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値を算出した。その結果を、表2に示す。
参考文献:R.G.Treuting、W.F.Read:J.App.Physics、22 (1951)130.
銅合金板材の圧延方向(RD)に垂直な断面及び板幅方向(TD)に垂直な断面における厚さ方向の残留応力はそれぞれ、以下の方法で測定した。まず、板幅方向(TD)に垂直な断面の残留応力分布は、圧延方向(RD)を「長手方向」として、銅合金板から幅20mm×長さ100mmの大きさの試験板を切り出す。試験片の片面の表層をエッチング液を用いて徐々に除去しながら、各深さにおける残部試験片の長手方向(x)及び幅方向(y)の曲率φx、φyを測定する。これを板厚が半分になるまで繰り返し実施する。曲率は試験片の反りを測定することで求める。試験片の反りを円周の一部と考え、この円に相当する半径の逆数を曲率とする。曲率は弦の長さと高さを測定すれば数学的に容易に求められる。その後、エッチング深さaと曲率の関係を図にプロットし、以下の式によってエッチング深さにおける圧延方向(x)の残留応力の最大値σxmax(a)及び最小値σxmin(a)を測定する。また、圧延方向(RD)に垂直な断面の残留応力分布についても、板幅方向(TD)を「長手方向」とする試験片を用いて、同様に測定を行う。本方法はTreuting−Read法と呼ばれるよく知られた方法であり、例えば下記の参考文献に記載されている。この方法に基づいて、銅合金板材の板幅方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布、および銅合金板材の圧延方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布における、それぞれの断面の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値を算出した。その結果を、表2に示す。
参考文献:R.G.Treuting、W.F.Read:J.App.Physics、22 (1951)130.
(0.2%耐力)
0.2%耐力は、圧延平行方向から切り出したJIS Z 2201−13B号の試験片をJIS Z 2241に準じて3本測定しその平均値を示した。0.2%耐力の測定結果を、表2に示す。
0.2%耐力は、圧延平行方向から切り出したJIS Z 2201−13B号の試験片をJIS Z 2241に準じて3本測定しその平均値を示した。0.2%耐力の測定結果を、表2に示す。
(導電率)
導電率は、20℃(±0.5℃)に保たれた恒温漕中で四端子法により比抵抗を計測して導電率を算出した。なお、端子間距離は100mmとした。導電率の測定結果を、表2に示す。
導電率は、20℃(±0.5℃)に保たれた恒温漕中で四端子法により比抵抗を計測して導電率を算出した。なお、端子間距離は100mmとした。導電率の測定結果を、表2に示す。
(結晶粒径)
結晶粒径は、JIS H 0501(切断法)に基づいて測定した。すべての実施例において、結晶粒径は0.1μm超50μm以下の範囲にあることを確認した。
結晶粒径は、JIS H 0501(切断法)に基づいて測定した。すべての実施例において、結晶粒径は0.1μm超50μm以下の範囲にあることを確認した。
表2に示すように、実施例1〜15では、0.2%耐力がいずれも900MPa以上であり、板幅方向に垂直な断面および圧延方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布において、残留応力の最大値と最小値の差の絶対値がそれぞれの断面で80MPa以下である。すなわち、実施例1〜15の銅合金板材は、高強度で、かつ加工性に優れていることが分かった。一方、比較例1〜5、12〜14、22〜30の銅合金板材は、0.2%耐力が低いため、強度に劣ることが分かった。また、比較例6〜11、15〜21の銅合金板材は、板幅方向に垂直な断面の板厚方向における残留応力分布、および圧延方向に垂直な断面の板厚方向における残留応力分布の少なくとも一方において、残留応力の最大値と最小値の差の絶対値が大きいため、加工性に劣ることが分かった。比較例26〜30の銅合金板材は、0.2%耐力が低く、かつ、残留応力の最大値と最小値の差の絶対値が大きいため、強度、加工性ともに劣っていることが分かった。
1 銅合金板材
2、3 残留応力分布
2a、3a 曲線
2b、3b 軸
2、3 残留応力分布
2a、3a 曲線
2b、3b 軸
Claims (6)
- Ti:1.5〜4.5質量%含有し、残部Cuおよび不可避不純物からなる銅合金板材であって、
0.2%耐力が900MPa以上であり、
前記銅合金板材の板幅方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布、および前記銅合金板材の圧延方向に垂直な断面の板厚方向の残留応力分布において、それぞれの断面の残留応力の最大値と最小値の差の絶対値が80MPa以下であることを特徴とする銅合金板材。 - さらに、Fe、Co、Ni、Cr、V、Nb、Mo、Mn、Zr、Si、Mg、B、及びPから選択される少なくとも1種を合計で0.01〜0.6質量%含有することを特徴とする、請求項1に記載の銅合金板材。
- 平均結晶粒径が0.1μm超50μm以下であること特徴とする、請求項1又は2に記載の銅合金板材。
- 厚さが5μm以上80μm以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の銅合金板材。
- 請求項1から4のいずれか1項に記載の銅合金板材の製造方法であって、
鋳造、均質化熱処理、熱間加工、面削、第1の冷間加工、溶体化熱処理、第2の冷間加工および時効処理から構成される処理をこの順に施し、
前記時効処理における処理温度が300〜500℃、処理時間が0.1〜15時間であり、
前記第2の冷間加工におけるワークロール径が150mm以下、ワークロールの表面粗さRaが0.5μm以下、圧延速度が300m/min以下、1パスあたりの加工率が3〜20%、かつ、総加工率が5〜90%であることを特徴とする銅合金板材の製造方法。 - 請求項1から4のいずれか1項に記載の銅合金板材の製造方法であって、
鋳造、均質化熱処理、熱間加工、面削、第1の冷間加工、溶体化熱処理、第1の時効処理、第2の冷間加工および第2の時効処理から構成される処理をこの順に施し、
前記第1の時効処理における処理温度が300〜700℃、処理時間が0.001〜12時間であり、
前記第2の冷間加工におけるワークロール径が150mm以下、ワークロールの表面粗さRaが0.5μm以下、圧延速度が300m/min以下、1パスあたりの加工率が3〜20%、かつ、総加工率が5〜90%であり、
前記第2の時効処理における処理温度が300〜400℃、処理時間が3〜12時間であることを特徴とすることを特徴とする銅合金板材の製造方法。
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