以下、図1〜図18を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
[装置全体の構成]
図1に、本発明のプラズマエッチング方法に使用可能なプラズマ処理装置の構成を示す。このプラズマ処理装置は、下部2周波/上部1周波印加方式の容量結合型プラズマエッチング装置として構成されており、たとえば表面がアルマイト処理(陽極酸化処理)されたアルミニウムからなる円筒形の真空チャンバ(処理容器)10を有している。チャンバ10は保安接地されている。
チャンバ10の底部には、セラミックなどの絶縁板12を介して円柱状のサセプタ支持台14が配置され、このサセプタ支持台14の上にたとえばアルミニウムからなるサセプタ16が設けられている。サセプタ16は下部電極を構成し、この上に被処理基板としてたとえば半導体ウエハWが載置される。
サセプタ16の上面には、半導体ウエハWを静電吸着力で保持するための静電チャック18が設けられている。この静電チャック18は導電膜からなる電極20を一対の絶縁層または絶縁シートの間に挟み込んだものであり、電極20には直流電源22がスイッチ24を介して電気的に接続されている。直流電源22からの直流電圧によって、半導体ウエハWを静電気力で静電チャック18に吸着保持できるようになっている。静電チャック18の周囲でサセプタ16の上面には、エッチングの面内均一性を向上させるためのたとえばシリコンからなるフォーカスリング26が配置されている。サセプタ16およびサセプタ支持台14の側面にはたとえば石英からなる円筒状の内壁部材28が貼り付けられている。
サセプタ支持台14の内部には、たとえば円周方向に延びる冷媒室または冷媒通路30が設けられている。この冷媒通路30には、外付けのチラーユニット(図示せず)より配管32a,32bを介して所定温度の冷媒たとえば冷却水cwが循環供給される。冷媒cwの温度によってサセプタ16上の半導体ウエハWの処理温度を制御できるようになっている。さらに、伝熱ガス供給機構(図示せず)からの伝熱ガスたとえばHeガスが、ガス供給ライン34を介して静電チャック18の上面と半導体ウエハWの裏面との間に供給される。
サセプタ16には、イオン引き込み用の第1高周波電源36および第2高周波電源38がそれぞれ下部整合器40,42および下部給電導体44,46を介して電気的に接続されている。下部給電導体44,46は共通の導体たとえば給電棒であってもよい。
第1高周波電源36は、サセプタ16上の半導体ウエハWにプラズマのイオンを引き込むのに適した低めの周波数たとえば0.8MHzの第1高周波RFL1を可変のパワーで出力するように構成されている。一方、第2高周波電源38は、サセプタ16上の半導体ウエハWにプラズマのイオンを引き込むのに適した高めの周波数たとえば13MHzの第2高周波RFL2を可変のパワーで出力するように構成されている。
サセプタ16の上方には、このサセプタと平行に対向して上部電極48が設けられている。この上部電極48は、多数のガス噴出孔50aを有するたとえばSi、SiCなどの半導体材料からなる電極板50と、この電極板50を着脱可能に支持する導電材料たとえば表面がアルマイト処理されたアルミニウムからなる電極支持体52とで構成されており、チャンバ10の上部にリング状の絶縁体54を介して取り付けられている。この上部電極48とサセプタ16との間にプラズマ生成空間または処理空間PSが設定されている。リング状絶縁体54は、たとえばアルミナ(Al2O3)からなり、上部電極48の外周面とチャンバ10の側壁との間の隙間を気密に塞いでおり、上部電極48を非接地で物理的に支持している。
電極支持体52は、その内部にガスバッファ室56を有するとともに、その下面にガスバッファ室56から電極板50のガス噴出孔50aに連通する多数のガス通気孔52aを有している。ガスバッファ室56にはガス供給管58を介して処理ガス供給源60が接続されており、ガス供給管58にマスフローコントローラ(MFC)62および開閉バルブ64が設けられている。処理ガス供給源60より所定の処理ガスがガスバッファ室56に導入されると、電極板50のガス噴出孔50aよりサセプタ16上の半導体ウエハWに向けて処理空間PSに処理ガスがシャワー状に噴出されるようになっている。このように、上部電極48は処理空間PSに処理ガスを供給するためのシャワーヘッドを兼ねている。
上部電極48には、プラズマ励起用の第3高周波電源66が上部整合器68および上部給電導体たとえば給電棒70を介して電気的に接続されている。第3高周波電源66は、処理ガスの容量結合による高周波放電つまりプラズマ生成に適した周波数たとえば60MHzの第3高周波RFHを可変のパワーで出力するように構成されている。なお、プラズマ生成用の第3高周波RFHの周波数は、通常27MHz〜300MHzの範囲内で選ばれる。
サセプタ16およびサセプタ支持台14とチャンバ10の側壁との間に形成される環状の空間は排気空間となっており、この排気空間の底にはチャンバ10の排気口72が設けられている。この排気口72に排気管74を介して排気装置76が接続されている。排気装置76は、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを有しており、チャンバ10の室内、特に処理空間PSを所望の真空度まで減圧できるようになっている。また、チャンバ10の側壁には半導体ウエハWの搬入出口78を開閉するゲートバルブ80が取り付けられている。
チャンバ10の外に設置される可変直流電源82の一方の端子つまり出力端子は、スイッチ84および直流給電ライン85を介して上部電極48に電気的に接続されている。可変直流電源82はたとえば−2000〜+1000Vの直流電圧VDCを出力できるように構成されている。可変直流電源82の他方の端子は接地されている。可変直流電源82の出力(電圧、電流)の極性および絶対値およびスイッチ84のオン・オフの切換は、後述する制御部88からの指示の下でDCコントローラ83により制御されるようになっている。
直流給電ライン85の途中に設けられるフィルタ回路86は、可変直流電源82からの直流電圧VDCをスルーで上部電極48に印加する一方で、サセプタ12から処理空間PSおよび上部電極48を通って直流給電ライン85に入ってきた高周波を接地ラインへ流して可変直流電源82側へは流さないように構成されている。
また、チャンバ10内で処理空間PSに面する適当な箇所に、たとえばSi,SiC等の導電性材料からなるDCグランドパーツ(図示せず)が取り付けられている。このDCグランドパーツは、接地ライン(図示せず)を介して常時接地されている。
制御部88は、マイクロコンピュータを含み、このプラズマエッチング装置内の各部たとえば静電チャック用のスイッチ24、第1、第2および第3高周波電源36,38,66、整合器40,42,68、処理ガス供給部(60,62,64)、排気装置76、DCバイアス用の可変直流電源82およびスイッチ84、チラーユニット、伝熱ガス供給部等の動作を個別的および統括的に制御する。また、制御部88は、マン・マシン・インタフェース用のタッチパネル(図示せず)および各種プログラムや設定値等のデータを格納する記憶装置(図示せず)等とも接続されている。なお、この実施形態では、制御部88およびDCコントローラ83がDCバイアス制御部を構成している。
このプラズマ処理装置において、エッチング加工を行なうには、先ずゲートバルブ80を開状態にし、加工対象の半導体ウエハWをチャンバ10内に搬入して、静電チャック18の上に載置する。そして、処理ガス供給源60より所定の処理ガスつまりエッチングガス(一般に混合ガス)を所定の流量および流量比でチャンバ10内に導入し、排気装置76による真空排気でチャンバ10内の圧力を設定値にする。さらに、第3高周波電源66より所定のパワーでプラズマ生成用の第3高周波RFH(60MHz)を上部電極46に印加する。他方で、第1および第2高周波電源36,38よりそれぞれ所定のパワーでイオン引き込み用の第1高周波RFL1(0.8MHz)および第2高周波RFL2(13MHz)をサセプタ(下部電極)16に印加する。また、スイッチ24をオンにし、静電吸着力によって、静電チャック18と半導体ウエハWとの間の接触界面に伝熱ガス(Heガス)を閉じ込める。また、必要に応じて、スイッチ84をオンにし、可変直流電源82からの所定の直流電圧VDCを上部電極48に印加する。シャワーヘッド(上部電極)48より吐出されたエッチングガスは両電極16,48間で高周波の放電によってプラズマ化し、このプラズマに含まれるラジカルやイオンによって半導体ウエハWの主面の膜がエッチングされる。
このプラズマ処理装置は、プロセス中にプラズマから半導体ウエハWに入射するイオンのエネルギーを制御するために、2つの高周波電源36,38よりイオン引き込みに適した2種類の高周波RFL1(0.8MHz),RFL2(13MHz)をサセプタ12に重畳して印加するハードウェア構成(32〜46)を有し、エッチング加工の仕様、条件またはレシピに応じて制御部88が両高周波RFL1,RFL2のトータルパワーおよびパワー比を制御するようになっている。
[RFバイアス機能]
このプラズマ処理装置においては、上記のように、プロセス中には、第1高周波電源36および第2高周波電源38よりイオン引き込み用の第1高周波RFL1(0.8MHz)および第2高周波RFL2(13MHz)が重畳してサセプタ(下部電極)16に印加される。そうすると、プラズマ生成空間PSに臨むサセプタ16または半導体ウエハWの表面に生じるイオンシースには、図2に示すような両高周波RFL1,RFL2が重畳された負極性のシース電圧VS(t)が発生する。なお、図2では、イオンシースの中で両高周波RFL1,RFL2が重畳されている状態をわかりやすくするために、第1高周波RFL1の電圧(パワー)に比して第2高周波RFL2の電圧(パワー)が著しく小さい場合を示している。
プラズマからのイオンは、このようなシース電圧VS(t)により加速されて半導体ウエハWの表面に入射する。その際、入射イオンの加速度またはエネルギーは、その時のシース電圧VS(t)の瞬時値(絶対値)に依存する。つまり、シース電圧VS(t)の瞬時値(絶対値)が大きい時にイオンシース内に入ったイオンは大きな加速度または運動エネルギーでウエハ表面に入射し、シース電圧VS(t)の瞬時値(絶対値)が小さい時にイオンシース内に入ったイオンは小さな加速度または運動エネルギーでウエハ表面に入射する。
もっとも、イオンシース内で、イオンはシース電圧VS(t)に対して100%(係数1)以下のある感度で応答(加速運動)する。この応答感度または変換関数α(f)は、図3に示すようにRFバイアスに用いられる高周波の周波数fに依存して(逆比例して)変わり、次の式(1)で表わされる。
α(f)=1/{(cfτi)p+1}1/p ・・・・(1)
ただし、c=0.3×2π、p=5、τi=3s(M/2eVs)、Mはイオンの質量数、sはイオンのシース通過時間、Vsはシース電圧である。
したがって、イオンシース内のイオンの加速に寄与する正味のシース電圧つまりイオン応答電圧Vi(t)は次の式(2)で表わされる。
Vi(t)=α(f) VS(t) ・・・・(2)
図2に示すイオン応答電圧Vi(t)および図3に示す変換関数α(f)はAr+イオンについてのものであるが、他のイオンもシース電圧VS(t)およびRFバイアスの周波数に対して同様の特性を示す。
図2の電圧波形からもわかるように、イオンシース内のイオンは、周波数が低めの第1高周波RFL1(0.8MHz)に対しては略100%の感度(α(f)≒1)で応答(加速運動)し、周波数が高めの第2高周波RFL2(13MHz)に対しては略50%の感度(α(f)≒0.5)で応答(加速運動)する。
上記のようなイオン応答電圧Vi(t)に基づいて、下記の式(3)から図4および図5に示すような考え方でイオンエネルギー分布IEDを計算で求めることができる。
IED(Ei)∝Σi(dVi/dti) ・・・・(3)
図4は、RFバイアスに低めの周波数を有する単一の高周波を用いた場合のIEDおよびイオン応答電圧Vi(t)を示している。一方、図5は、RFバイアスに低めの周波数および高めの周波数をそれぞれ有する2つの高周波を用いた場合のIEDおよびイオン応答電圧Vi(t)を示している。
RFバイアスに単一の高周波を用いる単周波バイアス法によれば、図19A〜図19Cおよび図20A〜図20Cにつき上述したように、イオンエネルギー分布(IED)が定型的に最大エネルギー付近および最小エネルギー付近にイオンが多く集中する(ピークが現れる)ような分布形状になり、RFパワーを如何様に可変しても最小エネルギーを任意に可変することができないという制約が付く。
これに対して、このプラズマ処理装置におけるようにRFバイアスに2つの高周波RFL1(0.8MHz),RFL2(13MHz)を用いる2周波バイアス法によれば、両高周波RFL1,RFL2のトータルパワーおよび/またはパワー比を調整することにより、イオンエネルギー分布(IED)の最大エネルギーおよび最小エネルギーの各々を独立に制御することができる。
すなわち、このプラズマ処理装置においては、図6A〜図6Cに示すように、最大エネルギーをたとえば約2000eVに固定したまま最小エネルギーをたとえば約0eV〜1000eVの範囲内で任意に調節することができる。
また、図7A〜図7Cに示すように、最小エネルギーをたとえば約350eVに固定したまま最大エネルギーをたとえば約650eV〜2650eVの範囲内で任意に調節することができる。
なお、図6A〜図6Cおよび図7A〜図7CにおけるIED特性は、Ar+イオンについて計算したものである。他のイオンでもパターン的には同様の特性が得られる。また、両高周波RFL1(0.8MHz),RFL2(13MHz)の電圧値は各々の周波数のバイアス電圧の振幅値であり、RFパワーにも換算可能である。
また、このプラズマ処理装置においては、図6B[RFL1(0.8MHz)=340V,RFL2(13MHz)=1000V]、図7B[RFL1(0.8MHz)=500V,RFL2(13MHz)=500V]に示すように、2周波のRFバイアスによって、エネルギーバンドの全領域にわたってイオンを略均一に分布させることも可能である。さらには、図7C[RFL1(0.8MHz)=1000V,RFL2(13MHz)=500V]に示すように、最小エネルギーおよび最大エネルギーのイオン入射数よりも中間エネルギーのイオン入射数を多くすることも可能である。
さらに、このプラズマ処理装置においては、図8A[RFL1(0.8MHz)=1500V,RFL2(13MHz)=0V]、図8B[RFL1(0.8MHz)=1125V,RFL2(13MHz)=375V]、図8C[RFL1(0.8MHz)=750V,RFL2(13MHz)=750V]、図8D[RFL1(0.8MHz)=375V,RFL2(13MHz)=1125V]、図8E[RFL1(0.8MHz)=0V,RFL2(13MHz)=1500V]に示すように、2周波のRFバイアスによって、エネルギー平均値または中心値をたとえば1500Vに固定したまま、エネルギーバンドの幅EWをたとえば約1000eVから約3000Vの範囲内で任意に可変することも可能である。
このように、このプラズマ処理装置においては、RFバイアスに第1高周波RFL1(0.8MHz)のみを用いた場合のIED特性(図8A)と、RFバイアスに第2高周波RFL2(13MHz)のみを用いた場合のIED特性(図8E)との間で、エネルギーバンドの幅EWを任意に調節して中間のIED特性を得ることができる。
また、中間IED特性の中でも、第1高周波RFL1に対する第2高周波RFL2のパワー比が1125V:375V=3:1のときに得られる図8BのIED特性は、特徴的な凹型の分布形状を示している。すなわち、最小エネルギーおよびその近辺のエネルギー領域(約250eV〜約750eV)と最大エネルギーおよびその近辺のエネルギー領域(約2250eV〜約2750eV)にイオンが帯状に集中し、中間のエネルギー領域(約750eV〜約2250eV)では一様にイオン分布数が少ない。この凹型のIED特性は、両高周波RFL1,RFL2のいずれか一方を用いた場合のように最小エネルギーおよび最大エネルギーにイオンが尖頭的に集中するU型のIED特性(図8A、図8E)とも異なる。
なお、図示省略するが、図8D[RFL1(0.8MHz)=375V,RFL2(13MHz)=1125V]と図8E[RFL1(0.8MHz)=0V,RFL2(13MHz)=1500V]との中間でも、つまり第1高周波RFL1に対する第2高周波RFL2のパワー比が約1:30のときも、図8Bと同様の凹型の中間IED特性が得られる。
このように、このプラズマ処理装置においては、RFバイアスに周波数の異なる第1高周波RFL1および第2高周波RFL2を組み合わせて使用し、それらのトータルパワーおよび/またはパワー比を制御することにより、サセプタ12上の半導体ウエハWの表面に入射するイオンのエネルギー分布(IED)に関して、エネルギーバンド幅および分布形状さらには入射エネルギーの総量を多種多様に制御することができる。
ここで、第1高周波RFL1および第2高周波RFL2の周波数は上記の値(0.8MHz,13MHz)に限定されるものではなく、一定の範囲内で任意に選定してよい。図8AのIED特性と図8EのIED特性との対比からわかるように、単周波バイアスにおけるイオンエネルギー分布の幅(エネルギーバンド)EWは、周波数が低いほど広く、周波数が高いほど狭くなる。
これは、図9に示すように、周波数と変換関数α(f)との関係に対応している。したがって、エネルギーバンドEWの可変範囲を大きくするには、エッチングプロセスで支配的な作用を奏するイオンの種類(F+、Ar+,C4F6 +等)にも依存するが、基本的には、第1高周波RFL1の周波数を低めの値(好ましくは100kHz〜6MHz)に選定し、第2高周波RFL2の周波数を高めの値(好ましくは6MHz〜40MHz)に選定するのがよい。特に、第2高周波RFL2の周波数が高くなりすぎると、つまり40MHzを越えると、プラズマ生成効果が強くなり、RFバイアスとしては適さなくなるので、40MHz以下の周波数が望ましい。
[プロセスに関する実施形態]
上記のように、このプラズマ処理装置は、この種の従来装置に比してRFバイアス機能の制御性を著しく向上させており、特に異方性エッチングにおいて大なるプロセス性能を発揮することができる。
ここで、このプラズマ処理装置を好適に使用できるエッチング加工として、図10に示すようなHARC(High Aspect Ratio Contact)プロセスを例にとる。HARCプロセスは、絶縁膜または酸化膜(典型的にはSiO2膜)90に細くて深いコンタクトホール(またはビアホール)92を形成するエッチング加工技術であり、大規模集積回路の製造プロセスにおけるBEOL(Back End Of Line)のコンタクトエッチング(またはビアホールエッチング)に用いられている。
HARCプロセスでは、高アスペクト比の微細孔92を形成するために、高精度の異方性形状とマスク94(および下地膜96)に対する高い選択比が要求される。そのために、エッチャントガスにフルオロカーボン系のガスが用いられ、CFxラジカルによりマスク94およびSiO2膜90の孔92の側壁98に重合膜を側壁保護膜として堆積させながら、RFバイアスによりCFx +やAr+等のイオンをSiO2膜90の孔92の中に垂直に引き込んで垂直エッチングを行う技法が採られている。この場合、化学的に活性度の高いFラジカルは異方性および選択性の両方を低下させるので、Fラジカルの生成が少なくてC/F比の大きいC4F8、C5F8、C4F6等のガスが広く用いられている。
このようなHARCプロセスにおいて、SiO2膜のエッチング速度を高くするためには、(1)イオン入射量の増加、(2)ラジカル中のF総量の増加、および(3)十分なイオンエネルギーが必要である。そのために、上記(1)の要求条件に対しては[1]プラズマ生成用高周波のパワーを調整し、上記(2)の要求条件に対しては[2]フルオロカーボンガス(たとえばC4F8)の流量を調整し、上記(3)の要求条件に対しては[3]イオン引き込み用高周波のパワーを調整する手法が採られている。
また、マスク94(および下地膜96)に対するSiO2膜90の選択比を高くするためには、(4)適正なO2/C4F8流量比および(5)Ar希釈による全ガス流量の増加が必要である。そのために、上記(4)の要求条件に対しては[4]O2ガス流量を調整し、上記(5)の要求条件に対しては[5]Arガス流量を調整する手法が採られている。
なお、選択比に関する上記(4),(5)の要求条件は、次のようなエッチングのメカニズムに基づいている。すなわち、エッチング中の定常状態ではフルオロカーボンラジカルが常にSiO2膜の表面に照射されるので、その表面上に数分子層のCF膜が存在する。このCF膜の厚さはエッチング速度と密接な関係がある。
図11Aおよび図11Bに、エッチングガスとしてC4F8/Ar/O2の混合ガスを用いた場合に、ArガスとO2ガスの流量を固定し、C4F8ガスの流量を変化させたときのSiO2膜およびSiN膜のそれぞれのエッチング速度とそれらの膜表面にそれぞれ堆積するCF重合膜の厚さを示す。
図11Aに示すように、SiO2のエッチングにおいては、C4F8流量を上げていくと、エッチング速度(E/R)が11sccmまでは増大し、11sccmで極大値を示した後、CF膜厚の増加に反比例して減少し、22sccm以上では横ばいになる。ここで、C4F8流量が11sccmのときのSiO2上のCF膜厚は1nmと薄いが、これはSiO2エッチング時に放出される酸素がCF膜と反応して揮発性の物質を生成する(つまりCF膜を除去する)からである。
一方、図11Bに示すように、SiNのエッチングにおいては、酸素の放出がなく、代わりに窒素が放出されるが、そのCF膜除去能力は酸素よりも格段に小さいため、SiN上のCF膜厚は5nmと厚くなり、エッチングが抑制される。
なお、SiO2エッチングおよびSiNエッチングのいずれにおいても、添加ガスのO2はCF膜除去レートを調節する機能を有している。
上記のようなHARCプロセスにおいて、SiNは下地膜96に用いられ、マスク94には一般に有機膜が用いられている。有機膜も、上記のような条件でC4F8ガスの流量を変化させたときのエッチング速度およびCF膜厚についてはSiNと同様の特性を示す。
このように、エッチング時の酸素放出の有無または放出量の違いに基づくCF膜の厚みの違い、ひいてはエッチング速度の違いを利用し、[4]O2/C4F8流量比を調整することにより、さらには[5]選択比を悪化させるF原子ラジカルをAr希釈(全ガス流量の増加)で低減することにより、下地膜96のSiNやマスク94の有機膜(上層のフォトレジストを含むこともある)に対するSiO2膜の選択比を十分高くすることができる。
上記のように、一般のプラズマ処理装置においては、[1]プラズマ生成用高周波のパワー、[2]フルオロカーボンガス(たとえばC4F8)の流量、[3]イオン引き込み用高周波のパワー、[4]O2/C4F8流量比(特にO2流量)、[5]Ar流量についての各調整技術を駆使することによって、HARCプロセスにおいても高いエッチング速度と高選択比を達成することができる。ただし、HARCプロセスでは、非常に高い選択比を必要とするため、堆積性の非常に強い条件を用いなければならず、結果として、付着率の高いラジカルを用いることになる。
その場合、図12の(b)に示すように、側壁98上の堆積膜100の被覆性(カバレッジ)が悪化し、孔92の入口付近が狭くなって、ネッキング102が発生しやすくなる。ネッキング102が発生すると、孔92の底へのラジカルやイオンの供給が不十分になり、それによって孔底CD(Critical Dimension)の縮小や、孔底を垂直に削るエッチングレートの低下につながる。また、ネッキング102の上方で入射イオンが反射され、ネッキング102の下方で側壁98の抉れ(ボーイング)を発生させることもある。
このように、高い選択比を得るためには、付着率の高いラジカル(CxFyラジカル)を使用する必要があるが、それによってネッキング102が発生しやすくなる。そうかといって、ネッキング102を回避するために、付着率の低いラジカルを使用すると、図12の(a)に示すように、マスク94上の堆積膜100が薄くなりすぎて、十分な選択比が得られなくなる。
上記のように、HARCプロセスにおいては、ブランケット特性(エッチング速度、選択比)とエッチング形状との間にトレードオフの関係があり、イオン引き込み用に単一周波数の高周波を用いる従来のRFバイアス技術の下ではこのトレードオフの問題を解決することができなかった。
図13の(a)に、HARCプロセスにおいて付着率の高いラジカルを使用した場合の入射イオンのエネルギーに対する酸化膜(SiO2)および有機膜のエッチングイールドの特性を示す。上記のように付着率の高いラジカルを使用すると、低いイオンエネルギー領域ではマスク(有機膜)の表面が堆積膜で保護され、酸化膜だけが選択的にエッチングされる。そして、イオンエネルギーがある閾値Etを越えてから、イオン照射による物理的エッチングが堆積膜の保護を上回ってマスク(有機膜)が削られるようになる。もちろん、入射イオンのエネルギーが大きくなることによって、酸化膜のエッチングイールドも単調に増大する。
選択比を高くする観点からすれば、閾値Et付近のエネルギー領域にイオンが集中的に分布するようなイオンエネルギー分布特性が好ましい。ところが、従来方式(単周波バイアス法)のように単周波のRFバイアスで対応するとなると、図13の(b)に示すようにイオンエネルギー分布が閾値Etよりも低い領域にすっぽり収まる。この場合、最小エネルギー付近に集中するイオンは酸化膜のエッチングにほとんど寄与しない。それでも、最大エネルギー付近に集中するイオンの働きによって何とか高い選択比を得るようにはしても、上記のようなネッキング100を回避または抑制することはできない。
本発明者が、図15に示すようなHARCプロセスのモデルにおいて、有機膜表面の法線Nに対する入射角θが0°である箇所(マスク上面)と入射角θが80°である箇所(ネッキング斜面104)とでイオンエネルギーに対するエッチングイールドの特性を比較したところ、次のようなことが判明した。すなわち、図14の(a)に示すように、マスク上面(θ=0°)の方がネッキング箇所(θ=80°)よりもエッチングイールドの立ち上がりこそ早いが、入射イオンのエネルギーが所定値Esよりも大きくなると両者の関係が逆転して、ネッキング斜面104(θ=80°)の方がマスク上面(θ=0°)よりもエッチングされやすくなる。つまり、イオン照射によって、マスク上面も削られるが、それ以上にネッキング斜面102が効率よく削られて、ネッキングCDが拡大するという改善効果が得られる。
このようなHARCプロセスにおける酸化膜および有機膜(マスク)のエッチングイールド/イオンエネルギー特性に鑑みれば、図14の(b)に示すように、上記閾値Etの近傍でそれよりも低い第1のエネルギー領域と上記所定値Esの近傍でそれよりも高い第2のエネルギー領域とに跨って2極化した凹型のIED特性が非常に都合の良いことがわかる。
すなわち、上記第1のエネルギー領域にイオンが集中的に分布することによって選択比が高くなり、上記第2のエネルギー領域にイオンが集中的に分布することによってネッキング102が効果的に回避または抑制される。
また、上記第1のエネルギー領域と上記第2のエネルギー領域との間のエネルギー領域は、選択比向上およびネッキング抑制のいずれの観点からも望ましくない領域であり、この中間領域に分布するイオンが少ないことは利益に適っている。
本発明者が、上記のようなHARCプロセスの実験に図1のプラズマエッチング装置を使用し、第1高周波RFL1(0.8MHz)および第2高周波RFL2(13MHz)のパワー比を変えて、エッチング特性を比較したところ、図16および図17に示すような結果が得られた。主なエッチング条件は下記のとおりである。
ウエハ口径: 300mm
エッチングガス:C4F6O2=60/200/60sccm
チャンバ内の圧力: 20mTorr
温度: 上部電極/チャンバ側壁/下部電極=60/60/20℃
高周波電力: プラズマ生成用高周波(60MHz)=1000W
イオン引き込み用高周波(13MHz/0.8MHz)=
4500/0W,4000/500W,3000/150
0W, 2000/2500W, 1000/3500W,
0/4500W (6通り)
直流電圧: VDC=−300V
エッチング時間: 2分
この実験では、イオン引き込み用の第1高周波RFL1(0.8MHz)および第2高周波RFL2(13MHz)のトータルパワーを一定(4500W)に固定し、パワー比をパラメータとして4500/0Wから0/4500Wまで6段階選んだ。
HARCプロセスにおいて、好ましいエッチング特性は、SiO2膜のエッチング速度が大きいこと、マスク選択比が大きいこと、ネッキングCDとボーイングCDとの差が小さいこと、マスク側壁傾斜角が大きいことである。かかる観点から評価すると、第1高周波RFL1および第2高周波RFL2のパワーをRFL1=1000W,RFL2=3500Wに選んだ場合のエッチング特性が総合的に最も良い結果を示していることがわかる。この場合、両高周波RFL1,RFL2のパワー比はRFL2:RFL1=3.5:1であり、図示省略するが、図8Bと同様の凹型のIED特性が得られる。
上記のように、本発明の2周波バイアス法によれば、HARCプロセスにおけるトレードオフを巧みに解決することができる。他にも、本発明の2周波バイアス法によれば、穴あけエッチング加工における選択比とトップCD/ボーイングCD/ボトムCDのトレードオフや、プラズマCVDにおける成長速度とシームレス形状のトレードオフ等も上記と同様に解決することができる。
また、上記のようなHARCプロセスに対しては、本発明の2周波バイアス法によって得られる凹型のIED特性が有効に作用した。しかし、本発明の2周波バイアス法によって得られるフラット型のIED特性(図6B、図7B、図8C)や山形のIED特性(図7C)も、従来の単周波バイアス法によっては得られない独特な特性であり、或る所定のプロセス特性を最適化し得る可能性を有している。
[DCバイアス機能]
図1のプラズマ処理装置は、必要に応じて、スイッチ84をオンにし、可変直流電源82からの直流電圧VDCを上部電極48に印加するようになっている。このように、上部電極34に適度な直流電圧VDC、特に負極性で適度な大きさ(絶対値)の直流電圧VDCを印加することにより、プラズマエッチングのマスクに使われるフォトレジスト膜(特にArFレジスト膜)のエッチング耐性を強化することができる。
すなわち、可変直流電源82より直流電圧VDCを負極性の高圧(好ましくは第3高周波RFHの印加によって上部電極48に発生する自己バイアスよりも絶対値の大きな負極性の電圧)で上部電極48に印加すると、上部電極48とプラズマとの間に形成される上部イオンシースが厚くなる。これにより、プラズマ中のイオンが上部イオンシースの電界で加速されて上部電極48の電極板50にぶつかる際のイオン衝撃エネルギーが増し、γ放電によって電極板50より放出される2次電子-が多くなる。そして、電極板50より放出された2次電子は、上部イオンシースの電界でイオンとは逆方向に加速されてプラズマPRを通り抜け、さらに下部イオンシースを横断して、サセプタ16上の半導体ウエハW表面のレジストマスクに所定の高エネルギーで打ち込まれる。こうしてレジストマスクの高分子が電子のエネルギーを吸収すると、組成変化や構造変化、架橋反応などを起こして、改質層が形成され、エッチング耐性(プラズマ耐性)が強くなる。上部電極48に印加する負極性の直流電圧VDCの絶対値を大きくするほど、レジストマスクに打ち込まれる電子のエネルギーが増して、レジストマスクにおけるエッチング耐性増強の効果が大きくなる。
一方で、このプラズマ処理装置においては、上述したように、サセプタ16側のRFバイアスに周波数の異なる第1高周波RFL1および第2高周波RFL2を組み合わせて使用し、それらのトータルパワーおよび/またはパワー比を制御することにより、サセプタ16上の半導体ウエハWの表面に入射するイオンのエネルギー分布(IED)に関して、エネルギーバンド幅および分布形状さらには入射エネルギーの総量を多種多様に制御することができる。特に、第1高周波RFL1および第2高周波RFL2のそれぞれのパワーを有意の値に選んで組み合わせると、エネルギー分布(IED)の中で中間エネルギーのイオン入射数が飛躍的に増加して、入射エネルギーの総量が増大する。ところが、入射エネルギーの総量が多いと、レジストマスクがダメージを受けて、その表面が荒れたり、いわゆるLER(Line Edge Roughness)やLWR(Line Width Roughness)等の凹凸変形や蛇行変形を来たしやすくなる。
そこで、このプラズマ処理装置では、制御部88において、第1高周波RFL1および第2高周波RFL2のトータルパワーおよびパワー比の設定値から入射エネルギーの総量を割り出し(概算で可)、入射エネルギーの総量が多いときは、DCコントローラ83を通じて、上部電極48に印加する負極性の直流電圧VDCの絶対値を大きくして、レジストマスクのエッチング耐性を強化する。しかし、入射エネルギーの総量が少ないときは、レジストマスクのエッチング耐性を強化する必要性に乏しいだけでなく、次の理由から、上部電極48に印加する負極性の直流電圧VDCの絶対値を小さ目に制御するのが好ましい。
すなわち、このプラズマ処理装置においては、エッチングガスの高周波放電により、フロロカーボンガスCxFyが解離してF原子やCF3等の反応種が生成される。これらの反応種は半導体ウエハW表面の被加工膜と反応し、揮発性の生成物(たとえばSiF4)を作ると同時に、デポジションとなる重合膜(たとえば(CF2)n)も作る。上部電極48の電極板50がSi含有導電材の場合は、半導体ウエハW表面だけでなく電極板50表面でも同様の反応が起こり、双方で反応種が消費される。ここで、上部電極48に負極性(≦0V)の直流電圧VDCが印加されると、イオンアシスト効果が働いて電極板50表面のエッチング反応(つまり反応種の消費)が促進され、CリッチなCFxが多量に発生し、半導体ウエハW表面ではエッチングレートが低下してデボジションが強まる。負極性直流電圧VDCの絶対値を大きくするほど、電極板50表面におけるイオンアシスト効果が大きくなり、上記の作用に基づく半導体ウエハW表面におけるエッチングレートの減速とデボジションの増速が強まる。このことは、サセプタ16上の半導体ウエハWの表面に入射するイオンのエネルギー総量が少ない場合は、望ましくない。したがって、この場合、制御部88は、DCコントローラ83を通じて、上部電極48に印加する負極性の直流電圧VDCの絶対値を小さ目に制御する。
[他の実施形態または変形例]
図1のプラズマ処理装置では、第3高周波電源66より出力されるプラズマ生成用の第3高周波RFHを上部電極48に印加した。別の構成例として、図18に示すように、第3高周波電源66および整合器68をサセプタ(下部電極)16に電気的に接続し、プラズマ生成用の第3高周波RFHをサセプタ16に印加してもよい。
図1のプラズマ処理装置は、チャンバ内で平行平板電極間の高周波放電によってプラズマを生成する容量結合型プラズマ処理装置であった。しかし、本発明は、チャンバの上面または周囲にアンテナを配置して高周波の誘導電磁界の下でプラズマを生成する誘導結合型プラズマ処理装置や、マイクロ波のパワーを用いてプラズマを生成するマイクロ波プラズマ処理装置等にも適用可能である。
本発明におけるプラズマ処理装置は、プラズマエッチング装置に限定されず、プラズマCVD、プラズマ酸化、プラズマ窒化、スパッタリングなどの他のプラズマ処理装置にも適用可能である。また、本発明における被処理基板は半導体ウエハに限るものではなく、フラットパネルディスプレイ、EL素子または太陽電池用の各種基板や、フォトマスク、CD基板、プリント基板等も可能である。