図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両用駆動装置10(以下、単に駆動装置10という)の構成を説明する骨子図である。この図1に示すように、本実施例の駆動装置10は、例えばFF(前置エンジン前輪駆動)型車両等に好適に用いられる横置き用の装置であり、主動力源であるエンジン12、第1電動機MG1、第2電動機MG2、第1差動機構としての第1遊星歯車装置14、及び第2差動機構としての第2遊星歯車装置16を共通の中心軸CE上に備えて構成されている。以下の実施例において、特に区別しない場合には、この中心軸CEの軸心の方向を軸方向(軸心方向)という。前記駆動装置10は、中心軸CEに対して略対称的に構成されており、図1においては中心線の下半分を省略して図示している。
前記エンジン12は、例えば、気筒内噴射されるガソリン等の燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン等の内燃機関である。前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、好適には、何れも駆動力を発生させるモータ(発動機)及び反力を発生させるジェネレータ(発電機)としての機能を有する所謂モータジェネレータであり、それぞれのステータ(固定子)18、22が非回転部材であるハウジング(ケース)26に固設されると共に、各ステータ18、22の内周側にロータ(回転子)20、24を備えて構成されている。
前記第1遊星歯車装置14は、ギヤ比がρ1であるシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、第1回転要素としてのリングギヤR1、ピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持する第2回転要素としてのキャリアC1、及びピニオンギヤP1を介してリングギヤR1と噛み合う第3回転要素としてのサンギヤS1を回転要素(要素)として備えている。前記第2遊星歯車装置16は、ギヤ比がρ2であるシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、第1回転要素としてのリングギヤR2、ピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持する第2回転要素としてのキャリアC2、及びピニオンギヤP2を介してリングギヤR2と噛み合う第3回転要素としてのサンギヤS2を回転要素(要素)として備えている。
前記第1遊星歯車装置14のリングギヤR1は、前記第1電動機MG1のロータ20に連結されている。前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1は、クラッチCL0を介して前記エンジン12の出力軸であるクランク軸12aに連結されている。前記第1遊星歯車装置14のサンギヤS1は、前記第2遊星歯車装置16のサンギヤS2と相互に連結されると共に、前記第2電動機MG2のロータ24に連結されている。前記第2遊星歯車装置16のキャリアC2は、出力部材である出力歯車28に連結されている。前記出力歯車28から出力された駆動力は、例えば、図示しない差動歯車装置及び車軸等を介して図示しない左右一対の駆動輪へ伝達される。一方、車両の走行路面から駆動輪に対して入力されるトルクは、前記差動歯車装置及び車軸等を介して前記出力歯車28から前記駆動装置10へ伝達(入力)される。
前記エンジン12のクランク軸12aと前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1との間には、それらクランク軸12aとキャリアC1との間を選択的に係合させる(クランク軸12aとキャリアC1との間を断接する)クラッチCL0が設けられている。前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1とリングギヤR1との間には、それらキャリアC1とリングギヤR1との間を選択的に係合させる(キャリアC1とリングギヤR1との間を断接する)クラッチCL1が設けられている。前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1と前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2との間には、それらキャリアC1とリングギヤR2との間を選択的に係合させる(キャリアC1とリングギヤR2との間を断接する)クラッチCL2が設けられている。前記第1遊星歯車装置14のリングギヤR1と非回転部材である前記ハウジング26との間には、そのハウジング26に対して前記リングギヤR1を選択的に係合(固定)させるブレーキBK1が設けられている。前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2と非回転部材である前記ハウジング26との間には、そのハウジング26に対して前記リングギヤR2を選択的に係合(固定)させるブレーキBK2が設けられている。
前記クラッチCL0、CL1、CL2、及び前記ブレーキBK1、BK2は、好適には、何れも油圧制御回路54から供給される油圧に応じて係合状態が制御される(係合乃至解放させられる)油圧式係合装置であり、例えば、湿式多板型の摩擦係合装置等が好適に用いられるが、噛合式の係合装置すなわち所謂ドグクラッチ(噛合クラッチ)であってもよい。更には、電磁式クラッチや磁粉式クラッチ等、電子制御装置30から供給される電気的な指令に応じて係合状態が制御される(係合乃至解放させられる)ものであってもよい。
前記駆動装置10において、前記第1遊星歯車装置14及び第2遊星歯車装置16は、前記クラッチCL2が係合された状態において全体として4つの回転要素を構成するものである。すなわち、前記駆動装置10において、前記第1遊星歯車装置14及び第2遊星歯車装置16に全体として備えられた4つの回転要素のうちの1つは、前記第1遊星歯車装置14の第2回転要素であるキャリアC1と前記第2遊星歯車装置16の第1回転要素であるリングギヤR2とが前記クラッチCL2を介して選択的に連結されるものである。このクラッチCL2による係合対象となる前記第2遊星歯車装置16の第1回転要素であるリングギヤR2が、非回転部材である前記ハウジング26に対して前記ブレーキBK2を介して選択的に連結されるものである。
前記駆動装置10において、好適には、前記クラッチCL0は、例えば前記エンジン12の運転時等において接続される一方、車両の走行状態等に応じて適宜解放されるが、以下の実施例においては、前記クラッチCL0が係合されているものとして説明を行う。ここで、前記駆動装置10において、前記クラッチCL0は必ずしも設けられなくともよい。すなわち、前記エンジン12のクランク軸12aと前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1とは、前記クラッチCL0を介することなくダンパ等を介して直接乃至間接的に連結されたものであってもよい。前記駆動装置10において、前記クラッチCL1及びブレーキBK1は必ずしも設けられなくともよい。
図2は、前記駆動装置10の駆動を制御するためにその駆動装置10に備えられた制御系統の要部を説明する図である。この図2に示す電子制御装置30は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェイス等を含んで構成され、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を実行する所謂マイクロコンピュータであり、前記エンジン12の駆動制御や、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2に関するハイブリッド駆動制御をはじめとする前記駆動装置10の駆動に係る各種制御を実行する。すなわち、本実施例においては、前記電子制御装置30が前記駆動装置10の制御装置に相当する。この電子制御装置30は、前記エンジン12の出力制御用や前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動制御用といったように、必要に応じて各制御毎に個別の制御装置として構成される。
図2に示すように、前記電子制御装置30には、前記駆動装置10の各部に設けられたセンサやスイッチ等から各種信号が供給されるように構成されている。すなわち、アクセル開度センサ32により運転者の出力要求量に対応する図示しないアクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、エンジン回転速度センサ34により前記エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、第1電動機回転速度センサ36により前記第1電動機MG1の回転速度NMG1を表す信号、第2電動機回転速度センサ38により前記第2電動機MG2の回転速度NMG2を表す信号、出力回転速度センサ40により車速Vに対応する前記出力歯車28の回転速度NOUTを表す信号、ブレーキ係合油圧センサ42により前記ブレーキBK2の係合圧を定めるためにそのブレーキBK2に供給される油圧PBK2を表す信号、バッテリSOCセンサ44によりバッテリ48の充電容量(充電状態)SOCを表す信号、エンジン水温センサ46により前記エンジン12の冷却水温TENGを表す信号等が、それぞれ前記電子制御装置30に供給される。
前記電子制御装置30からは、前記駆動装置10の各部に作動指令が出力されるように構成されている。すなわち、前記エンジン12の出力を制御するエンジン出力制御指令として、燃料噴射装置による吸気配管等への燃料供給量を制御する燃料噴射量信号、点火装置による前記エンジン12の点火時期(点火タイミング)を指令する点火信号、及び電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを操作するためにスロットルアクチュエータへ供給される電子スロットル弁駆動信号等が、そのエンジン12の出力を制御するエンジン制御装置52へ出力される。前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動を指令する指令信号がインバータ50へ出力され、そのインバータ50を介して前記バッテリ48からその指令信号に応じた電気エネルギが前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2に供給されてそれら第1電動機MG1及び第2電動機MG2の出力(トルク)が制御される。前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2により発電された電気エネルギが前記インバータ50を介して前記バッテリ48に供給され、そのバッテリ48に蓄積されるようになっている。前記クラッチCL1、CL2等、及び前記ブレーキBK1、BK2の係合状態を制御する指令信号が油圧制御回路54に備えられたリニアソレノイド弁等の電磁制御弁へ供給され、それら電磁制御弁から出力される油圧が制御されることで前記クラッチCL1、CL2等、及び前記ブレーキBK1、BK2の係合状態が制御されるようになっている。
前記駆動装置10は、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2を介して運転状態が制御されることにより、入力回転速度と出力回転速度の差動状態が制御される電気式差動部として機能する。例えば、前記第1電動機MG1により発電された電気エネルギを前記インバータ50を介してバッテリ48や第2電動機MG2へ供給する。これにより、前記エンジン12の動力の主要部は機械的に前記出力歯車28へ伝達される一方、その動力の一部は前記第1電動機MG1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、前記インバータ50を通してその電気エネルギが前記第2電動機MG2へ供給される。そして、その第2電動機MG2が駆動されて第2電動機MG2から出力された動力が前記出力歯車28へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機MG2で消費されるまでに関連する機器により、前記エンジン12の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
以上のように構成された駆動装置10が適用されたハイブリッド車両においては、前記エンジン12、第1電動機MG1、及び第2電動機MG2の駆動状態、及び前記クラッチCL2及び前記ブレーキBK2等の係合状態等に応じて、複数の走行モードの何れかが選択的に成立させられる。図3は、前記駆動装置10における各部の連結関係を概略的に示す図である。図4は、前記駆動装置10において成立させられる4種類の走行モードそれぞれにおける前記クラッチCL2、ブレーキBK2の係合状態を示す係合表であり、係合を「○」で、解放を空欄でそれぞれ示している。この図4に示す走行モード「EV1」、「EV2」は、何れも前記エンジン12の運転が停止させられると共に、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の少なくとも一方を走行用の駆動源として用いるEV走行モードである。「mode1」、「mode2」は、何れも前記エンジン12を例えば走行用の駆動源として駆動させると共に、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2により必要に応じて駆動乃至発電等を行うハイブリッド走行モードである。このハイブリッド走行モードにおいて、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の少なくとも一方により反力を発生させるものであってもよく、無負荷の状態で空転させるものであってもよい。
図4に示すように、前記駆動装置10においては、前記エンジン12を例えば走行用の駆動源として駆動させると共に、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2により必要に応じて駆動乃至発電等を行うハイブリッド走行モードにおいて、前記ブレーキBK2が係合されると共に前記クラッチCL2が解放されることで「mode1」が、前記ブレーキBK2が解放されると共に前記クラッチCL2が係合されることで「mode2」がそれぞれ成立させられる。前記エンジン12の運転が停止させられると共に、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の少なくとも一方を走行用の駆動源として用いるEV走行モードにおいて、前記ブレーキBK2が係合されると共に前記クラッチCL2が解放されることで「EV1」が、前記クラッチCL2及びブレーキBK2が共に係合されることで「EV2」がそれぞれ成立させられる。
前記駆動装置10において、前記クラッチCL0、CL1及び前記ブレーキBK1は、前記駆動装置10が適用されたハイブリッド車両の走行状態に応じて適宜係合乃至解放させられるものであるが、本実施例においては、図3に示すように、前記クラッチCL0が係合されると共に、前記クラッチCL1及びブレーキBK1が共に解放された状態において、前記クラッチCL2及びブレーキBK2を係合乃至解放させることで成立させられる駆動状態について説明する。すなわち、図4に示すように、前記クラッチCL2及びブレーキBK2の係合乃至解放の組み合わせに応じた複数の走行モードに係る制御について説明する。
図5〜図7は、前記駆動装置10(第1遊星歯車装置14及び第2遊星歯車装置16)において、前記クラッチCL2及びブレーキBK2それぞれの係合状態に応じて連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示しており、横軸方向において前記第1遊星歯車装置14及び第2遊星歯車装置16のギヤ比ρの相対関係を示し、縦軸方向において相対的回転速度を示す二次元座標である。車両前進時における前記出力歯車28の回転方向を正の方向(正回転)として各回転速度を表している。横線X1は回転速度零を示している。縦線Y1〜Y4(Y4a、Y4b)は、左から順に実線Y1が前記第1遊星歯車装置14のリングギヤR1(第1電動機MG1)、実線Y2aが前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1(エンジン12)、破線Y2bが前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2、破線Y3が前記第2遊星歯車装置16のキャリアC2(出力歯車28)、実線Y4aが前記第1遊星歯車装置14のサンギヤS1、破線Y4bが前記第2遊星歯車装置16のサンギヤS2(第2電動機MG2)それぞれの相対回転速度を示している。図5〜図7においては、縦線Y2a及びY2b、縦線Y4a及びY4bをそれぞれ重ねて表している。ここで、前記サンギヤS1及びS2は相互に連結されているため、縦線Y4a、Y4bにそれぞれ示すサンギヤS1及びS2の相対回転速度は等しい。
図5〜図7においては、前記第1遊星歯車装置14における3つの回転要素の相対的な回転速度を実線L1で、前記第2遊星歯車装置16における3つの回転要素の相対的な回転速度を破線L2でそれぞれ示している。前記縦線Y1〜Y4(Y2b〜Y4b)の間隔は、前記第1遊星歯車装置14及び第2遊星歯車装置16の各ギヤ比ρ1、ρ2に応じて定められている。すなわち、前記第1遊星歯車装置14における3つの回転要素に対応する縦線Y1、Y2a、Y4aに関して、サンギヤS1とキャリアC1との間が1に対応するものとされ、キャリアC1とリングギヤR1との間がρ1に対応するものとされる。前記第2遊星歯車装置16における3つの回転要素に対応する縦線Y2b、Y3、Y4bに関して、サンギヤS2とキャリアC2との間が1に対応するものとされ、キャリアC2とリングギヤR2との間がρ2に対応するものとされる。後述する図9〜図11の共線図において同じである。以下、図5〜図7等を用いて前記駆動装置10における各走行モードについて説明する。
図5に示す共線図は、前記駆動装置10における走行モード「mode1」に対応するものであり、好適には、前記エンジン12が駆動されて走行用の駆動源として用いられると共に、必要に応じて前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2による駆動乃至発電が行われるハイブリッド走行モードである。図5の共線図を用いて説明すれば、前記クラッチCL2が解放されることで前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1と前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2との相対回転が可能とされている。前記ブレーキBK2が係合されることで前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2が非回転部材である前記ハウジング26に対して連結(固定)され、その回転速度が零とされている。この走行モード「mode1」においては、前記エンジン12が駆動させられ、その出力トルクにより前記出力歯車28が回転させられる。この際、前記第1遊星歯車装置14において、前記第1電動機MG1により反力トルクを出力させることで、前記エンジン12からの出力の前記出力歯車28への伝達が可能とされる。前記第2遊星歯車装置16においては、前記ブレーキBK2が係合されていることで、前記第2電動機MG2により正のトルク(正の方向のトルク)が出力されると、そのトルクにより前記キャリアC2すなわち出力歯車28は正の方向に回転させられる。
図6に示す共線図は、前記駆動装置10における走行モード「mode2」に対応するものであり、好適には、前記エンジン12が駆動されて走行用の駆動源として用いられると共に、必要に応じて前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2による駆動乃至発電が行われるハイブリッド走行モードである。図6の共線図を用いて説明すれば、前記クラッチCL2が係合されることで前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1と前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2との相対回転が不能とされており、前記キャリアC1及びリングギヤR2が一体的に回転させられる1つの回転要素として動作する。前記サンギヤS1及びS2は相互に連結されていることで、それらサンギヤS1及びS2は一体的に回転させられる1つの回転要素として動作する。すなわち、走行モード「mode2」において、前記駆動装置10における前記第1遊星歯車装置14及び第2遊星歯車装置16における回転要素は、全体として4つの回転要素を備えた差動機構として機能する。すなわち、図6において紙面向かって左から順に示す4つの回転要素であるリングギヤR1(第1電動機MG1)、相互に連結されたキャリアC1及びリングギヤR2(エンジン12)、キャリアC2(出力歯車28)、相互に連結されたサンギヤS1及びS2(第2電動機MG2)の順に結合した複合スプリットモードとなる。
前記走行モード「mode2」においては、前記クラッチCL2が係合されることで前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1と前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2とが連結されており、前記キャリアC1及びリングギヤR2が一体的に回転させられる。このため、前記エンジン12の出力に対して、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の何れによっても反力を受けることができる。すなわち、前記エンジン12の駆動に際して、その反力を前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の一方乃至両方で分担して受けることが可能となり、効率の良い動作点で動作させたり、熱によるトルク制限等の制約を緩和する走行等が可能となる。
図5に示す共線図は、前記駆動装置10における走行モード「EV1」に対応するものでもあり、好適には、前記エンジン12の運転が停止させられると共に、前記第2電動機MG2が走行用の駆動源として用いられるEV走行モードである。図5の共線図を用いて説明すれば、前記クラッチCL2が解放されることで前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1と前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2との相対回転が可能とされている。前記ブレーキBK2が係合されることで前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2が非回転部材である前記ハウジング26に対して連結(固定)され、その回転速度が零とされている。この走行モード「EV1」においては、前記第2遊星歯車装置16において、前記第2電動機MG2により正のトルク(正の方向のトルク)が出力されると、そのトルクにより前記キャリアC2すなわち出力歯車28は正の方向に回転させられる。すなわち、前記第2電動機MG2により正のトルクを出力させることにより、前記駆動装置10の適用されたハイブリッド車両を前進走行させることができる。この場合において、好適には、前記第1電動機MG1は空転させられる。
図7に示す共線図は、前記駆動装置10における走行モード「EV2」に対応するものであり、好適には、前記エンジン12の運転が停止させられると共に、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の少なくとも一方が走行用の駆動源として用いられるEV走行モードである。図7の共線図を用いて説明すれば、前記クラッチCL2が係合されることで前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1と前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2との相対回転が不能とされている。更に、前記ブレーキBK2が係合されることで前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2及びそのリングギヤR2に係合された前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1が非回転部材である前記ハウジング26に対して連結(固定)され、その回転速度が零とされている。この走行モード「EV2」においては、前記第1遊星歯車装置14において、前記リングギヤR1の回転方向と前記サンギヤS1の回転方向とが逆方向となる。すなわち、前記第1電動機MG1により負のトルク(負の方向のトルク)が出力されると、そのトルクにより前記キャリアC2すなわち出力歯車28は正の方向に回転させられる。前記第2電動機MG2により正のトルク(正の方向のトルク)が出力されると、そのトルクにより前記キャリアC2すなわち出力歯車28は正の方向に回転させられる。すなわち、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の少なくとも一方によりトルクを出力させることにより、前記駆動装置10の適用されたハイブリッド車両を前進走行させることができる。
前記走行モード「EV2」においては、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の少なくとも一方により発電を行う形態を成立させることもできる。この形態においては、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の一方或いは両方により走行用の駆動力(トルク)を分担して発生させることが可能となり、各電動機を効率の良い動作点で動作させたり、熱によるトルク制限等の制約を緩和する走行等が可能となる。更に、前記バッテリ48の充電状態が満充電の場合等、回生による発電が許容されない場合に、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の一方或いは両方を空転させることも可能である。すなわち、前記走行モード「EV2」においては、幅広い走行条件においてEV走行を行うことや、長時間継続してEV走行を行うことが可能となる。従って、前記走行モード「EV2」は、プラグインハイブリッド車両等、EV走行を行う割合が高いハイブリッド車両において好適に採用される。
図8は、前記電子制御装置30に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図8に示す走行モード切替制御部60は、前記駆動装置10において成立させられる走行モードを判定する。すなわち、予め定められた関係から、前記アクセル開度センサ34により検出される要求駆動力に相当するアクセル開度ACC、前記出力回転速度センサ40により検出される出力回転速度に相当する車速V、及び前記バッテリSOCセンサ42により検出される前記バッテリ48の充電容量SOC等に基づいて、図4に示す4つの走行モード「mode1」、「mode2」、「EV1」、「EV2」の何れが成立させられるべき状態かを判定する。
前記走行モード切替制御部60は、前記判定の結果に応じて、図4に示す複数の走行モードを選択的に成立させる。すなわち、前記エンジン12の出力トルク及び前記第1電動機MG1及び前記第2電動機MG2の少なくとも一方の出力トルクを前記出力歯車28に伝達して走行するハイブリッド走行モード「mode1」、「mode2」と、前記エンジン12、前記第1電動機MG1、及び前記第2電動機MG2のうち、専ら前記第2電動機MG2の出力トルクを前記出力歯車28に伝達して走行するEV走行モード「EV1」と、前記エンジン12、前記第1電動機MG1、及び前記第2電動機MG2のうち、前記第1電動機MG1及び前記第2電動機MG2の出力トルクを前記出力歯車28に伝達して走行するEV走行モード「EV2」とを、選択的に成立させる。
クラッチ係合制御部62は、前記油圧制御回路54を介して前記クラッチCL2の係合状態を制御する。具体的には、前記油圧制御回路54に備えられた、前記クラッチCL2に対応する電磁制御弁からの出力圧を制御することで、前記クラッチCL2の係合状態(トルク容量)を定める油圧PCL2制御する。好適には、前記走行モード切替制御部60により判定される走行モードに応じて前記クラッチCL2の係合状態を制御する。すなわち、基本的には、前記駆動装置10において前記走行モード「mode2」、「EV2」が成立させられると判定された場合には、前記クラッチCL2を係合させるようにそのトルク容量を制御する。前記駆動装置10において前記走行モード「mode1」、「EV1」が成立させられると判定された場合には、前記クラッチCL2を解放させるようにそのトルク容量を制御する。
ブレーキ係合制御部64は、前記油圧制御回路54を介して前記ブレーキBK2の係合状態を制御する。具体的には、前記油圧制御回路54に備えられた、前記ブレーキBK2に対応する電磁制御弁からの出力圧を制御することで、前記ブレーキBK2の係合状態(トルク容量)を定める油圧PBK2を制御する。好適には、前記走行モード切替制御部60により判定される走行モードに応じて前記ブレーキBK2の係合状態を制御する。すなわち、基本的には、前記駆動装置10において前記走行モード「mode1」、「EV1」、「EV2」が成立させられると判定された場合には、前記ブレーキBK2を係合させるようにそのトルク容量を制御する。前記駆動装置10において前記走行モード「mode2」が成立させられると判定された場合には、前記ブレーキBK2を解放させるようにそのトルク容量を制御する。
エンジン駆動制御部66は、前記エンジン制御装置52を介して前記エンジン12の駆動を制御する。例えば、前記エンジン制御装置52を介して前記エンジン12の燃料噴射装置による吸気配管等への燃料供給量、点火装置による前記エンジン12の点火時期(点火タイミング)、及び電子スロットル弁のスロットル弁開度θTH等を制御することで、前記エンジン12により必要な出力すなわち目標トルク(目標エンジン出力)が得られるように制御する。
第1電動機駆動制御部68は、前記インバータ50を介して前記第1電動機MG1の駆動を制御する。例えば、前記インバータ50を介して前記バッテリ48から前記第1電動機MG1へ供給される電気エネルギ等を制御することで、前記第1電動機MG1により必要な出力すなわち目標トルク(目標第1電動機出力)が得られるように制御する。第2電動機駆動制御部70は、前記インバータ50を介して前記第2電動機MG2の駆動を制御する。例えば、前記インバータ50を介して前記バッテリ48から前記第2電動機MG2へ供給される電気エネルギ等を制御することで、前記第2電動機MG2により必要な出力すなわち目標トルク(目標第2電動機出力)が得られるように制御する。
前記エンジン12を駆動させると共に前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2を走行用の駆動源として用いるハイブリッド走行モードでは、前記アクセル開度センサ32により検出されるアクセル開度ACC及び前記出力回転速度センサ40により検出される出力回転速度NOUTに対応する車速V等に基づいて前記駆動装置10(出力歯車28)から出力されるべき要求駆動力が算出される。前記エンジン12の出力トルク及び前記第1電動機MG1、第2電動機MG2の出力トルクにより斯かる要求駆動力が実現されるように、前記第1電動機駆動制御部68及び第2電動機駆動制御部70を介して前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動が制御されると共に、前記エンジン駆動制御部66を介して前記エンジン12の駆動が制御される。
ブレーキ異常判定部72は、前記ブレーキBK2を係合できない異常を判定する。すなわち、前記ブレーキBK2に係合指令が出力されているにもかかわらず係合されない異常すなわちOFF故障(OFFフェール)が発生しているか否かを判定する。例えば、前記ブレーキBK2を解放させる指令が出力されている場合において、前記ブレーキ係合油圧センサ42により検出される、前記ブレーキBK2に対応する油圧アクチュエータに供給される油圧PBK2が、予め定められた閾値未満である場合(閾値以上に上昇しない場合)に、前記ブレーキBK2を係合できない異常を判定する。或いは、前記油圧PBK2に対応して油圧スイッチを備えた構成において、その油圧スイッチのON/OFFに応じて前記判定を行うものであってもよい。或いは、前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2の回転速度(ハウジング26に対する相対回転速度)に基づいて前記判定を行うものであってもよい。
ここで、運転席近傍に設けられた図示しないシフト操作装置において後進走行位置である後進レンジ(Rレンジ)が選択された場合、前記駆動装置10が適用されたハイブリッド車両の後進走行を行う走行モードであるリバースモードが成立させられる。図9は、前記駆動装置10のリバースモードにおいて、前記ブレーキBK2を正常に係合することができる場合について説明する共線図である。図9〜図11においては、前記第1電動機MG1、前記第2電動機MG2からそれぞれ出力されるトルクの方向を白抜矢印で示している。前記駆動装置10のリバースモードにおいて、前記ブレーキ異常判定部72の判定が否定される場合、すなわち前記ブレーキBK2を正常に係合することができる場合には、例えば図9の共線図に示すように、前記エンジン12の運転が停止させられ、前記クラッチCL2及び前記ブレーキBK2が共に係合された状態において、前記第2電動機MG2から負のトルク(負の方向のトルク)が出力される。これにより、前記出力歯車28が逆転すなわち負方向に回転させられることで、車両の後進走行が実現される。ここで、図9に示すように、前記クラッチCL2及び前記ブレーキBK2が共に係合された状態においては、前記エンジン12のクランク軸12aが非回転部材である前記ハウジング26に固定される。これにより、前記エンジン12の逆回転が好適に防止される。
図10は、前記駆動装置10のリバースモードにおいて、前記ブレーキBK2を正常に係合することができる場合に、前記エンジン12が駆動させられる様子を説明する共線図である。前記駆動装置10のリバースモードにおいて、前記エンジン12の駆動が行われる場合には、図10の共線図に示すように、前記ブレーキBK2が係合されると共に前記クラッチCL2が解放された状態で、前記エンジン12の駆動が行われる。
図11は、前記駆動装置10のリバースモードにおいて、前記ブレーキBK2を正常に係合することができない場合における本実施例の制御について説明する共線図である。本実施例の駆動装置10において、前記電子制御装置30は、後進走行に際して前記ブレーキBK2を係合できない場合には、前記クラッチCL2を係合させ、前記エンジン12の回転速度NEが規定の正回転領域内の値となるように前記第1電動機MG1の回転速度NMG1を決定すると共に、前記第2電動機MG2により負のトルクを発生させる。換言すれば、前記クラッチCL2を係合させ、前記第1電動機MG1の回転速度NMG1を所定の下限値以上、所定の上限値以下の範囲内に保った状態で、前記第2電動機MG2から負のトルクを発生させる。前記下限値は、少なくとも前記エンジン12を逆回転させない回転速度であり、車両の後退時における車速等によって決定される。前記上限値は、後述する共振帯の下限値未満の値となるように予め決定される。
すなわち、本実施例の駆動装置10において、前記シフト操作装置において後進走行位置である後進レンジが選択された場合であって、前記ブレーキ異常判定部72の判定が肯定される場合すなわち前記ブレーキBK2を係合できない異常が発生したことが判定される場合には、前記クラッチ係合制御部62により前記クラッチCL2を係合させる。前記クラッチCL2を係合させた状態において、前記エンジン12の回転速度NEが規定の正回転領域内の値となるように前記第1電動機駆動制御部68により前記第1電動機MG1の回転速度NMG1を決定する。換言すれば、要求車速(要求後進車速)又は要求エンジン回転速度に応じて、前記第1電動機MG1の回転速度NMG1を決定する。前記第1電動機MG1の回転速度NMG1を前記規定の正回転領域内の値に保った状態で、前記第2電動機駆動制御部70により前記第2電動機MG2から負のトルク(負の方向のトルク)が発生させられるように前記第2電動機MG2の駆動を制御する。これにより、前記出力歯車28が逆転すなわち負方向に回転させられることで、車両の後進走行が実現される。
図11の共線図では、前記第1遊星歯車装置14のキャリアC1の回転速度すなわち前記エンジン12の回転速度NEを示す実線Y2aに対応して、前記エンジン12の回転速度NEに応じて共振を発生させる共振帯を、右上から左下への斜線領域で示している。この共振帯は、例えば前記第1電動機MG1、前記エンジン12、及び前記出力歯車28を含む駆動系において、前記エンジン12の回転に起因して共振が発生する領域であり、前記駆動装置10の仕様等に応じて前記エンジン12の回転速度NEと共振帯との対応関係が定まる。前記共振帯は、好適には、前記エンジン12の回転速度NEと前記駆動装置10に発生する振動との関係が予め実験的に求められ、規定以上の振動が発生する領域が前記共振帯として予め定められたものである。ここで、本実施例の車両後進走行制御において前記第1電動機MG1の回転速度NMG1がその領域内の値とされるべく定められた前記規定の正回転領域は、好適には、前記エンジン12に共振を発生させる予め定められた共振帯とは異なる領域である。換言すれば、前記規定の正回転領域の上限値は、前記共振帯の下限値に対応する前記第1電動機MG1の回転速度NMG1未満の値に設定されている。このようにすることで、前記ブレーキBK2に異常が発生する等してそのブレーキBK2を係合できない場合において、後進走行時における共振による振動の発生を好適に抑制できる。
図12は、前記電子制御装置30による本実施例の車両後進走行制御の一例の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)ST1において、図示しないシフト操作装置において後進走行位置である後進レンジが選択されているか否かが判断される。このST1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させらえるが、ST1の判断が肯定される場合には、前記ブレーキ異常判定部72の動作に対応するST2において、前記ブレーキBK2を正常に係合することができないか否かが判断される。例えば、前記ブレーキBK2に係合指令が出力されているにもかかわらず係合されない異常が発生しているか否かが判断される。このST2の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、ST2の判断が肯定される場合には、前記クラッチ係合制御部62の動作に対応するST3において、前記クラッチCL2が係合させられる。次に、前記第1電動機駆動制御部68及び前記第2電動機駆動制御部70の動作に対応するST4において、前記エンジン12の回転速度NEが規定の正回転領域内の値となるように前記第1電動機MG1の回転速度NMG1が所定値以上の値とされ、前記第2電動機MG2から負のトルクが発生させられることで、前記出力歯車28が負方向に回転させられ、車両の後進走行が実現されて、それをもって本ルーチンが終了させられる。
本実施例によれば、後進走行に際して前記ブレーキBK2を係合できない場合には、前記クラッチCL2を係合させ、前記エンジン12の回転速度NEが規定の正回転領域内の値となるように前記第1電動機MG1の回転速度NMG1を決定すると共に、前記第2電動機MG2により負のトルクを発生させるものであることから、前記ブレーキBK2に異常が発生する等してそのブレーキBK2を係合できない場合においても、前記エンジン12に逆回転を発生させることなく、好適な後進走行を実現できる。すなわち、後進走行時におけるエンジン12の逆回転を抑制する駆動装置10の電子制御装置30を提供することができる。
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。