JP2015212404A - 軌道輪の製造方法、軌道輪および転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐衝撃性に優れた軌道輪の製造方法を提供する。【解決手段】軌道輪の製造方法は、0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.3質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成される成形体を準備する工程(S10)と、成形体がA1点以上の焼入温度に加熱された後、600℃以上850℃以下の温度における平均冷却速度が1.3℃/s以上となるようにMS点以下の温度まで冷却されることにより成形体を調質処理する工程(S21,S22)と、成形体を調質処理する工程の後、成形体において軌道輪の転走面となるべき環状領域に焼入硬化層を形成する工程(S31,S32)とを備えている。【選択図】図1
Description
本発明は、軌道輪の製造方法、軌道輪および転がり軸受に関し、より特定的には、転がり軸受の軌道輪の製造方法、転がり軸受の軌道輪および当該軌道輪を備える転がり軸受に関する。
鋼からなる転がり軸受の軌道輪に対する焼入硬化処理として、高周波焼入が採用される場合がある。この高周波焼入は、軌道輪が炉内で加熱された後、油などの冷却液中に浸漬される一般的な焼入硬化処理に比べて、設備をより簡略化できるとともに、短時間での熱処理が可能になるなどの利点を有している。たとえば特開2014−25097号公報(特許文献1)では、高周波焼入によって焼入硬化層が転走面に沿って全周にわたって形成された軌道輪が提案されている。
上記特許文献1において提案されているように転走面に沿って均質な焼入硬化層が形成された軌道輪でも、十分な耐衝撃性を確保することは困難であった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐衝撃性に優れた軌道輪の製造方法、耐衝撃性に優れた軌道輪および当該軌道輪を備える転がり軸受を提供することである。
本発明の一の局面に従った軌道輪の製造方法は、転がり軸受の軌道輪の製造方法である。上記軌道輪の製造方法は、0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.3質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成される成形体を準備する工程と、成形体がA1点以上の焼入温度に加熱された後、600℃以上850℃以下の温度における平均冷却速度が1.3℃/s以上となるようにMS点以下の温度まで冷却されることにより成形体を調質処理する工程と、成形体を調質処理する工程の後、成形体において軌道輪の転走面となるべき環状領域に焼入硬化層を形成する工程とを備えている。
本発明の他の局面に従った軌道輪の製造方法は、転がり軸受の軌道輪の製造方法である。上記軌道輪の製造方法は、0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.30質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンと、0.35質量%以上0.75質量%以下のニッケルとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成される成形体を準備する工程と、成形体がA1点以上の焼入温度に加熱された後、600℃以上850℃以下の温度における平均冷却速度が1.3℃/s以上となるようにMS点以下の温度まで冷却されることにより成形体を調質処理する工程と、成形体を調質処理する工程の後、成形体において軌道輪の転走面となるべき環状領域に焼入硬化層を形成する工程とを備えている。
上記本発明に従った軌道輪の製造方法では、成形体を調質する工程において600℃以上850℃以下の温度における冷却速度が1.3℃/s以上となるように成形体が急冷されることにより焼入処理される。そのため、成形体の冷却速度が遅い場合と比べて、焼入処理後の鋼中におけるパーライトの形成を抑制することができる。したがって、本発明に従った軌道輪の製造方法によれば、パーライト組織の形成が抑制されて耐衝撃性がより向上した軌道輪を製造することができる。
ここで、成形体を構成する鋼の成分範囲(製造される軌道輪を構成する鋼の成分範囲)が上記範囲に規定される理由について説明する。
炭素:0.43質量%以上0.65質量%以下
炭素含有量は、焼入硬化後における軌道輪の転走面の硬度に大きな影響を与える。成形体(軌道輪)を構成する鋼の炭素含有量が0.43質量%未満では、焼入硬化後における転走面に十分な硬度を付与することが困難となる。また、炭素含有量が0.43質量%未満では、非硬化領域の硬度が低くなり、当該領域の強度が不十分となるおそれがある。一方、炭素含有量が0.65質量%を超えると、焼入硬化の際の割れの発生(焼割れ)が懸念される。そのため、炭素含有量は0.43質量%以上0.65%質量%以下とした。
炭素含有量は、焼入硬化後における軌道輪の転走面の硬度に大きな影響を与える。成形体(軌道輪)を構成する鋼の炭素含有量が0.43質量%未満では、焼入硬化後における転走面に十分な硬度を付与することが困難となる。また、炭素含有量が0.43質量%未満では、非硬化領域の硬度が低くなり、当該領域の強度が不十分となるおそれがある。一方、炭素含有量が0.65質量%を超えると、焼入硬化の際の割れの発生(焼割れ)が懸念される。そのため、炭素含有量は0.43質量%以上0.65%質量%以下とした。
珪素:0.15質量%以上0.35質量%以下
珪素は、鋼の焼戻軟化抵抗の向上に寄与する。成形体(軌道輪)を構成する鋼の珪素含有量が0.15質量%未満では、焼戻軟化抵抗が不十分となり、焼入硬化後の焼戻や、軌道輪の使用中における温度上昇により転走面の硬度が大幅に低下する可能性がある。一方、珪素含有量が0.35質量%を超えると、焼入前の素材の硬度が高くなり、素材を成形する際の加工性が低下する。そのため、珪素含有量は0.15質量%以上0.35質量%以下とした。
珪素は、鋼の焼戻軟化抵抗の向上に寄与する。成形体(軌道輪)を構成する鋼の珪素含有量が0.15質量%未満では、焼戻軟化抵抗が不十分となり、焼入硬化後の焼戻や、軌道輪の使用中における温度上昇により転走面の硬度が大幅に低下する可能性がある。一方、珪素含有量が0.35質量%を超えると、焼入前の素材の硬度が高くなり、素材を成形する際の加工性が低下する。そのため、珪素含有量は0.15質量%以上0.35質量%以下とした。
マンガン:0.60質量%以上1.10質量%以下
マンガンは、鋼の焼入性の向上に寄与する。マンガン含有量が0.60質量%未満では、この効果が十分に得られない。一方、マンガン含有量が1.10質量%を超えると、焼入前の素材の硬度が高くなり加工性が低下する。そのため、マンガン含有量は0.60質量%以上1.10質量%以下とした。
マンガンは、鋼の焼入性の向上に寄与する。マンガン含有量が0.60質量%未満では、この効果が十分に得られない。一方、マンガン含有量が1.10質量%を超えると、焼入前の素材の硬度が高くなり加工性が低下する。そのため、マンガン含有量は0.60質量%以上1.10質量%以下とした。
クロム:0.30質量%以上1.20質量%以下
クロムは、鋼の焼入性の向上に寄与する。クロム含有量が0.30質量%未満では、この効果が十分に得られない。一方、クロム含有量が1.20質量%を超えると、素材コストが高くなるという問題が生じる。そのため、クロム含有量は0.30質量%以上1.20質量%以下とした。
クロムは、鋼の焼入性の向上に寄与する。クロム含有量が0.30質量%未満では、この効果が十分に得られない。一方、クロム含有量が1.20質量%を超えると、素材コストが高くなるという問題が生じる。そのため、クロム含有量は0.30質量%以上1.20質量%以下とした。
モリブデン:0.15質量%以上0.25質量%以下
モリブデンも、鋼の焼入性の向上に寄与する。モリブデン含有量が0.15質量%未満では、この効果が十分に得られない。一方、モリブデン含有量が0.25質量%を超えると、素材コストが高くなるという問題が生じる。そのため、モリブデン含有量は0.15質量%以上0.25質量%以下とした。
モリブデンも、鋼の焼入性の向上に寄与する。モリブデン含有量が0.15質量%未満では、この効果が十分に得られない。一方、モリブデン含有量が0.25質量%を超えると、素材コストが高くなるという問題が生じる。そのため、モリブデン含有量は0.15質量%以上0.25質量%以下とした。
ニッケル:0.35質量%以上0.75質量%以下
ニッケルも、鋼の焼入性の向上に寄与する。ニッケルは、本発明の軌道輪を構成する鋼において必須の成分ではないが、軌道輪の外形が大きい場合など、軌道輪を構成する鋼に特に高い焼入性が求められる場合に添加することができる。ニッケル含有量が0.35質量%未満では、焼入性向上の効果が十分に得られない。一方、ニッケル含有量が0.75質量%を超えると、焼入後における残留オーステナイト量が多くなり、硬さの低下、寸法安定性の低下などの原因となるおそれがある。そのため、軌道輪を構成する鋼に0.35質量%以上0.75質量%以下の範囲で添加することが好ましい。
ニッケルも、鋼の焼入性の向上に寄与する。ニッケルは、本発明の軌道輪を構成する鋼において必須の成分ではないが、軌道輪の外形が大きい場合など、軌道輪を構成する鋼に特に高い焼入性が求められる場合に添加することができる。ニッケル含有量が0.35質量%未満では、焼入性向上の効果が十分に得られない。一方、ニッケル含有量が0.75質量%を超えると、焼入後における残留オーステナイト量が多くなり、硬さの低下、寸法安定性の低下などの原因となるおそれがある。そのため、軌道輪を構成する鋼に0.35質量%以上0.75質量%以下の範囲で添加することが好ましい。
上記軌道輪の製造方法において好ましくは、成形体を準備する工程では、焼入温度よりも高い成形温度に加熱された鋼に成形加工を施すことにより成形体が準備される。また、成形体を調質処理する工程では、成形体を準備する工程が完了した後に連続して成形体が焼入温度に加熱される。
これにより、熱処理プロセスをより効率化することができる。なお、上記軌道輪の製造方法では、成形体の準備が完了した後に連続して当該成形体が焼入温度に加熱されることが必須ではなく、成形体が一旦室温まで冷却された後に再加熱されて焼入温度まで加熱されてもよい。
上記軌道輪の製造方法において好ましくは、上記成形加工はローリング鍛造である。このように上記軌道輪の製造方法においては、鋼材の成形加工法として一般的なローリング鍛造を採用することができる。
上記軌道輪の製造方法において好ましくは、焼入硬化層を形成する工程は、成形体を誘導加熱する誘導加熱部材が環状領域の一部に面するように配置され、環状領域の周方向に沿って成形体に対して相対的に回転することにより、成形体にA1点以上の温度に加熱された環状の加熱領域を形成する工程と、加熱領域全体をMs点以下の温度に同時に冷却する工程とを含んでいる。
これにより、軌道輪の外形形状に対して小さい誘導加熱部材を採用することができるため、焼入装置の製作コストを抑制することができる。また、加熱領域全体がMs点以下の温度に同時に冷却されるため、焼入硬化層が転走面に沿って全周にわたって同時に形成され、一部の領域に残留応力が集中することを抑制することができる。
上記軌道輪の製造方法において好ましくは、焼入硬化層を形成する工程は、加熱領域を形成する工程の後、冷却する工程の前に、成形体を加熱が停止された状態に保持する工程をさらに含んでいる。
これにより、加熱領域の形成が完了した後冷却開始前において成形体の周方向における温度のばらつきが抑制され、その結果より均質な焼入硬化層を形成することができる。
本発明の一の局面に従った軌道輪は、1000mm以上の内径を有する転がり軸受の軌道輪である。上記軌道輪は、0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.3質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成されている。上記軌道輪では、軌道輪の径方向に沿った断面において、軌道輪の転走面から15mm以上20mm以下の深さまでの領域を観察したときのパーライトの面積率が3%以下になっている。
本発明の他の局面に従った軌道輪は、1000mm以上の内径を有する転がり軸受の軌道輪である。上記軌道輪は、0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.30質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンと、0.35質量%以上0.75質量%以下のニッケルとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成されている。上記軌道輪では、軌道輪の径方向に沿った断面において、軌道輪の転走面から15mm以上20mm以下の深さまでの領域を観察したときのパーライトの面積率が3%以下になっている。
上記本発明に従った軌道輪では、上記断面観察したときの鋼中のパーライトの面積率が3%以下にまで抑制されているため、耐衝撃性がより向上している。したがって、本発明に従った軌道輪によれば、耐衝撃性に優れた軌道輪を提供することができる。なお、「パーライト」とは鋼の組織の一種であり、フェライトとセメンタイトとが交互に積層されて構成される層状の組織である。
上記軌道輪において好ましくは、高周波焼入により転走面の全周にわたって転走面を含むように焼入硬化層が形成されている。また、上記焼入硬化層は好ましくは、3mm以上の厚みを有し、かつ、60HRC以上の硬度を有している。これにより、耐久性がより優れた軌道輪を得ることができる。
本発明に従った転がり軸受は、内輪と、内輪の外周側を取り囲むように配置された外輪と、内輪と外輪との間に配置された複数の転動体とを備えている。内輪および外輪の少なくともいずれか一方は上記本発明に従った軌道輪となっている。そのため、本発明に従った転がり軸受によれば、耐衝撃性に優れた転がり軸受を提供することができる。
上記転がり軸受は好ましくは、風力発電装置において、内輪にはブレードに接続された主軸が貫通して固定され、外輪はハウジングに対して固定されることにより、主軸をハウジングに対して回転自在に支持する転がり軸受である。耐衝撃性に優れた転がり軸受である上記本発明に従った転がり軸受は、風力発電装置用転がり軸受として好適である。
以上の説明から明らかなように、本発明に従った軌道輪の製造方法、軌道輪および転がり軸受によれば、耐衝撃性に優れた軌道輪の製造方法、耐衝撃性に優れた軌道輪および当該軌道輪を備える転がり軸受を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
まず、本発明の一実施の形態である実施の形態1について説明する。本実施の形態に係る軌道輪の製造方法は転がり軸受の軌道輪の製造方法であり、転がり軸受の内輪が製造される場合を一例として以下のように説明される。
まず、本発明の一実施の形態である実施の形態1について説明する。本実施の形態に係る軌道輪の製造方法は転がり軸受の軌道輪の製造方法であり、転がり軸受の内輪が製造される場合を一例として以下のように説明される。
図1を参照して、まず工程(S10)として成形工程が実施される。この工程(S10)では、まず、0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.30質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼材が準備される。
次に、図2を参照して、鋼材が成形温度T0に加熱され、当該鋼材に対してローリング鍛造や旋削などの成形加工が施される。ここで、成形温度T0は、後述する全体焼入工程(S21)における焼入温度T1よりも高い温度であり、たとえば1000℃程度である。これにより、鋼材が転がり軸受の内輪の形状に成形加工された成形体が作製される。より具体的には、たとえば1000mm以上の内径を有し、平均肉厚が50mm以上である内輪の形状に対応した成形体が作製される。上記成分組成を満足する鋼としては、たとえばJIS規格SUP13などが挙げられる。
また、この工程(S10)では、上記成分組成を有する鋼材に限定されず、0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.30質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンと、0.35質量%以上0.75質量%以下のニッケルとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼材が準備され、同様に当該鋼材が成形加工されることにより成形体が得られてもよい。
次に、工程(S20)として調質工程が実施される。この工程(S20)では、全体焼入工程(S21)と、高温焼戻工程(S22)とが順に実施される。図2を参照して、まず全体焼入工程(S21)では、成形体全体がA1点以上の焼入温度T1に加熱され、均熱のために保持時間t1だけ保持される。より具体的には、上記成形工程(S10)が完了した後、成形体が成形温度T0から室温まで冷却されることなく連続して焼入温度T1に加熱される。焼入温度T1はたとえば850℃以上860℃以下であり、保持時間t1はたとえば40分以上240分以下である。なお、「A1点」とは、鋼を加熱した場合に鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点である。
次に、焼入温度T1に保持された成形体が、たとえば油や水などの冷却液中に浸漬されることにより急冷される。これにより、成形体全体が焼入温度T1からMs点(マルテンサイト変態点)以下の温度にまで冷却され、当該成形体が焼入処理される。なお、「Ms点」とは、オーステナイト化した鋼が冷却される際にマルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。
ここで、成形体全体の平均冷却速度は、600℃以上850℃以下の温度域において0.8℃/s以上であり、1.0℃/s以上であり、1.3℃/s以上である。より具体的には、成形体において完成後の軌道輪の転走面(内輪の内輪転走面)から15mm以上20mm以下の深さまでの領域に相当する領域における平均冷却速度が上記範囲である。このように成形体の冷却速度を制御することにより、鋼中におけるパーライトの形成を抑制することができる。なお、上記平均冷却速度は、たとえば熱電対で表面温度を実測し、CAEで逆解析することで求めることができる。
次に、高温焼戻工程(S22)では、上記工程(S21)において焼入処理された成形体が、A1点未満の焼戻温度T2に加熱されて保持時間t2だけ保持されることにより、焼戻処理される。焼戻温度T2はたとえば650℃であり、保持時間t2はたとえば120分以上720分以下である。上記工程(S21)および(S22)が実施されることにより、上記成形体に対して調質処理が施される。
次に、工程(S30)として焼入硬化工程が実施される。この工程(S30)は、工程(S31)として実施される誘導加熱工程と、工程(S32)として実施される冷却工程とを含んでいる。
まず、誘導加熱工程(S31)では、図3および図4を参照して、コイル21(誘導加熱部材)が、成形体10において転動体が転走すべき面である転走面11(環状領域)の周方向の一部に面するように配置される。コイル21は誘導加熱により成形体10を加熱するためのものであり、図4に示すように転走面11に対向する面が転走面11に沿った形状を有している。次に、成形体10が中心軸周り(矢印αの向きに)回転されるとともに、コイル21に対して電源(図示しない)から高周波電流が供給される。これにより、コイル21が転走面11の周方向に沿って成形体10に対して相対的に回転され、当該コイル21により転走面11が誘導加熱される。
これにより、成形体10の転走面11を含む表層領域がA1点以上の温度に誘導加熱され、転走面11に沿った円環状の加熱領域11Aが形成される。このとき、転走面11の表面の温度は、たとえば放射温度計などの温度計22により測定され、管理される。
次に、冷却工程(S32)においては、上記工程(S31)において形成された加熱領域11Aを含む成形体10全体に対して、たとえば冷却液としての水が噴射されることにより、加熱領域11A全体がMS点以下の温度に同時に冷却される。これにより、加熱領域11Aがマルテンサイトに変態し、硬化する。以上の手順により、高周波焼入が実施され、焼入硬化工程(S30)が完了する。これにより、3mm以上の厚みを有し、かつ60HRC以上の硬度を有する焼入硬化層が転走面11に沿って全周にわたり形成される。
次に、工程(S40)として焼戻工程が実施される。この工程(S40)では、上記工程(S31)および(S32)において焼入硬化された成形体10が、たとえば炉内に装入され、A1点以下の温度に加熱されて所定時間だけ保持される。これにより、成形体10に対して焼戻処理が実施される。
次に、工程(S50)として仕上工程が実施される。この工程(S50)では、たとえば転走面11に対して研磨加工などの仕上げ加工が実施される。以上のプロセスにより転がり軸受の内輪が完成し、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法が完了する。その結果、内径が1000mm以上であり、平均肉厚が50mm以上であり、厚みが3mm以上でかつ60HRC以上の硬度を有する焼入硬化層が転走面11に沿って全周にわたって均質に形成された内輪が完成する。
以上のように、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法では、調質工程(S20)において600℃以上850℃以下の温度域での冷却速度が1.3℃/s以上となるように成形体10が急冷されて焼入処理される。そのため、成形体10の冷却速度が緩やかな場合と比べて焼入処理後の鋼中におけるパーライトの形成を抑制することができる。その結果、軌道輪(内輪)の耐衝撃性をより向上させることができる。したがって、本実施の形態に係る軌道輪の製造方法によれば、耐衝撃性に優れた軌道輪を製造することができる。
上記本実施の形態に係る軌道輪の製造方法において、成形工程(S10)では、焼入温度T1よりも高い成形温度T0に加熱された鋼材に成形加工(ローリング鍛造)を施すことにより成形体10が準備されてもよい。また、調質工程(S20)では、成形工程(S10)が完了した後に連続して成形体10が焼入温度T1に加熱されてもよい。これにより、成形工程(S10)が完了した後、成形体10が一旦室温まで冷却される場合に比べて熱処理プロセスをより効率化することができる。
上記本実施の形態に係る軌道輪の製造方法において、焼入硬化工程(S30)は、成形体10を誘導加熱するコイル21が転走面11の一部に面するように配置され、転走面11の周方向に沿って成形体10に対して相対的に回転することにより、成形体10にA1点以上の温度に加熱された環状の加熱領域11Aを形成する誘導加熱工程(S31)と、加熱領域11A全体をMs点以下の温度に同時に冷却する冷却工程(S32)とを含んでいてもよい。これにより、軌道輪の外形形状に対して小さいコイル21を採用することができるため、焼入装置の製作コストを抑制することができる。また、加熱領域11A全体がMs点以下の温度に同時に冷却されるため、焼入硬化層が転走面11に沿って全周にわたって同時に形成され、一部の領域に残留応力が集中することを抑制することができる。
上記本実施の形態に係る軌道輪の製造方法において、焼入硬化工程(S30)では、成形体10を少なくとも一回だけ回転させればよいが、複数回回転させることが好ましい。これにより、成形体10の周方向における温度のばらつきを抑制し、より均質な焼入硬化を実現することができる。すなわち、コイル21は成形体10の転走面11の周方向に沿って相対的に2周以上することが好ましい。
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について説明する。実施の形態2に係る軌道輪の製造方法は、基本的には上記実施の形態1に係る軌道輪の製造方法と同様に実施され、かつ同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2に係る軌道輪の製造方法は、焼入硬化工程(S30)におけるコイル21の配置において上記実施の形態1の場合とは異なっている。
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について説明する。実施の形態2に係る軌道輪の製造方法は、基本的には上記実施の形態1に係る軌道輪の製造方法と同様に実施され、かつ同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2に係る軌道輪の製造方法は、焼入硬化工程(S30)におけるコイル21の配置において上記実施の形態1の場合とは異なっている。
図5を参照して、実施の形態2における焼入硬化工程(S30)では、成形体10を挟んで一対のコイル21が配置される。そして、成形体10が矢印αの向きに回転されるとともに、コイル21に対して電源(図示しない)から高周波電流が供給される。これにより、成形体10の転走面11を含む表層領域がA1点以上の温度に誘導加熱され、転走面11に沿った円環状の加熱領域が形成される。
このように、コイル21が成形体10の周方向に沿って複数個(本実施の形態では2個)配置されることにより、周方向における温度のばらつきを抑制し、均質な焼入硬化を実現することができる。また、周方向における温度のばらつきを一層抑制するためには、コイル21は成形体10の周方向において等間隔に配置されることが好ましい。
(実施の形態3)
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。実施の形態3に係る軌道輪の製造方法は、基本的には上記実施の形態1および2に係る軌道輪の製造方法と同様に実施され、かつ同様の効果を奏する。しかし、実施の形態3に係る軌道輪の製造方法は、焼入硬化工程(S30)における温度計22の配置において、上記実施の形態1および2の場合とは異なっている。
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。実施の形態3に係る軌道輪の製造方法は、基本的には上記実施の形態1および2に係る軌道輪の製造方法と同様に実施され、かつ同様の効果を奏する。しかし、実施の形態3に係る軌道輪の製造方法は、焼入硬化工程(S30)における温度計22の配置において、上記実施の形態1および2の場合とは異なっている。
図6を参照して、実施の形態3における焼入硬化工程(S30)では、加熱領域である転走面11の複数箇所(ここでは4箇所)の温度が測定される。より具体的には、実施の形態3の焼入硬化工程(S30)では、成形体10の転走面11の周方向に沿って等間隔に複数の温度計22が配置される。
これにより、転走面11の周方向において同時に複数箇所の温度が測定されるため、転走面11の周方向において均質な加熱が実現されていることを確認した上で成形体10を急冷し、焼入硬化処理を実施することができる。その結果、実施の形態3に係る軌道輪の製造方法によれば、転走面11の周方向において一層均質な焼入硬化を実現することができる。
なお、上記実施の形態においてはコイル21を固定し、成形体10を回転させる場合について説明したが、成形体10を固定し、コイル21を成形体10の周方向に回転させてもよいし、コイル21および成形体10の両方を回転させることにより、コイル21を成形体10の周方向に沿って相対的に回転させてもよい。ただし、コイル21には、コイル21に電流を供給する配線などが必要であるため、上述のようにコイル21を固定することが合理的である場合が多い。
また、上記実施の形態においては、軌道輪の一例として転がり軸受の内輪が製造される場合について説明したが、本発明を適用可能な軌道輪はこれに限られず、たとえば転がり軸受の外輪であってもよいし、スラスト型軸受の軌道輪であってもよい。ここで、焼入硬化工程(S30)において、たとえば転がり軸受の外輪を加熱する場合、コイル21を成形体の内周側に形成された転走面に面するように配置すればよい。また、焼入硬化工程(S30)において、たとえばスラスト型転がり軸受の軌道輪を加熱する場合、コイル21を成形体の端面側に形成された転走面に面するように配置すればよい。
さらに、成形体10の周方向におけるコイル21の長さは、効率よく均質な加熱を実現するように適切に決定することができるが、たとえば加熱すべき領域の長さの1/12程度、すなわち成形体(軌道輪)の中心軸に対する中心角が30°となる程度の長さとすることができる。
また、本発明における高周波焼入の具体的な条件は、軌道輪(成形体)の大きさ、肉厚、材質、電源の容量など条件を考慮して、適切に設定することができる。
さらに、上記実施の形態に係る軌道輪の製造方法において、焼入硬化工程(S30)は、誘導加熱工程(S31)の後、冷却工程(S32)の前に、成形体10を加熱が停止された状態に保持する工程を含んでいてもよい。より具体的には、たとえば加熱完了後3秒間加熱を停止した状態に保持されてもよい。これにより、加熱後の成形体における周方向の温度のばらつきをより効果的に抑制することができる。
(実施の形態4)
次に、上記実施の形態1〜3に係る軌道輪の製造方法により製造される軌道輪(転がり軸受の内輪や外輪)が、風力発電装置用軸受(風力発電装置用転がり軸受)を構成する軌道輪として用いられる実施の形態4について説明する。
次に、上記実施の形態1〜3に係る軌道輪の製造方法により製造される軌道輪(転がり軸受の内輪や外輪)が、風力発電装置用軸受(風力発電装置用転がり軸受)を構成する軌道輪として用いられる実施の形態4について説明する。
図7を参照して、風力発電装置50は、旋回翼であるブレード52と、ブレード52の中心軸を含むように、一端においてブレード52に接続された主軸51と、主軸51の他端に接続された増速機54とを備えている。さらに、増速機54は、出力軸55を含んでおり、出力軸55は、発電機56に接続されている。
主軸51は、風力発電装置用転がり軸受である主軸用軸受3により、軸まわりに回転自在に支持されている。また、主軸用軸受3は、主軸51の軸方向に複数個(図7では2個)並べて配置されており、それぞれハウジング53により保持されている。主軸用軸受3、ハウジング53、増速機54および発電機56は、機械室であるナセル59の内部に格納されている。そして、主軸51は一端においてナセル59から突出し、ブレード52に接続されている。
次に、風力発電装置50の動作について説明する。図7を参照して、風力を受けてブレード52が周方向に回転すると、ブレード52に接続された主軸51は、主軸用軸受3によりハウジング53に対して支持されつつ、軸まわりに回転する。主軸51の回転は、増速機54に伝達されて増速され、出力軸55の軸まわりの回転に変換される。そして、出力軸55の回転は、発電機56に伝達され、電磁誘導作用により起電力が発生して発電が達成される。
次に、風力発電装置50の主軸51の支持構造について説明する。図8を参照して、風力発電装置用転がり軸受としての主軸用軸受3は、風力発電装置用転がり軸受の軌道輪としての環状の外輪31と、外輪31の内周側に配置された風力発電装置用転がり軸受の軌道輪としての環状の内輪32と、外輪31と内輪32との間に配置され、円環状の保持器34に保持された複数のころ33(転動体)とを備えている。外輪31の内周面には外輪転走面31Aが形成されており、内輪32の外周面には2つの内輪転走面32Aが形成されている。そして、2つの内輪転走面32Aが、外輪転走面31Aに対向するように、外輪31と内輪32とは配置されている。
さらに、複数のころ33は、2つの内輪転走面32Aのそれぞれに沿って、外輪転走面31Aと内輪転走面32Aとに、ころ接触面33Aにおいて接触し、かつ保持器34に保持されて周方向に所定のピッチで配置されることにより複列(2列)の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。また、外輪31には、外輪31を径方向に貫通する貫通孔31Eが形成されている。この貫通孔31Eを通して、外輪31と内輪32との間の空間に潤滑剤を供給することができる。以上の構成により、主軸用軸受3の外輪31および内輪32は、互いに相対的に回転可能となっている。また、主軸用軸受3の軌道輪である外輪31および内輪32の少なくとも一方の軌道輪は後述する本実施の形態に係る軌道輪である。ここで、外輪31および内輪32の一方の軌道輪が本実施の形態に係る軌道輪であってもよいが、両方の軌道輪が本実施の形態に係る軌道輪であることが好ましい。
一方、ブレード52に接続された主軸51は、主軸用軸受3の内輪32を貫通するとともに、外周面51Aにおいて内輪の内周面32Fに接触し、内輪32に対して固定されている。また、主軸用軸受3の外輪31は、ハウジング53に形成された貫通孔の内壁53Aに外周面31Fにおいて接触するように嵌め込まれ、ハウジング53に対して固定されている。以上の構成により、ブレード52に接続された主軸51は、内輪32と一体に、外輪31およびハウジング53に対して軸まわりに回転可能となっている。
さらに、内輪転走面32Aの幅方向両端には、外輪31に向けて突出する鍔部32Eが形成されている。これにより、ブレード52が風を受けることにより発生する主軸51の軸方向(アキシャル方向)の荷重が支持される。また、外輪転走面31Aは、球面形状を有している。そのため、外輪31と内輪32とは、ころ33の転走方向に垂直な断面において、当該球面の中心を中心として互いに角度をなすことができる。すなわち、主軸用軸受3は、複列自動調心ころ軸受である。その結果、ブレード52が風を受けることにより主軸51が撓んだ場合であっても、ハウジング53は、主軸用軸受3を介して主軸51を安定して回転自在に保持することができる。
本実施の形態に係る軌道輪である外輪31および内輪32は、1000mm以上の内径を有する風力発電装置用転がり軸受(主軸用軸受3)の軌道輪である。外輪31および内輪32は、0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.3質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成されている。また、外輪31および内輪32を構成する鋼は上記成分組成の鋼に限定されず、0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.30質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンと、0.35質量%以上0.75質量%以下のニッケルとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼であってもよい。
外輪31および内輪32には、コイル21(図3)を用いた高周波焼入によって外輪転走面31Aおよび内輪転走面32Aの全周にわたって当該外輪転走面31Aおよび内輪転走面32Aを含むように均質な焼入硬化層が形成されている。当該焼入硬化層の厚みは3mm以上であり、好ましくは4mm以上であり、より好ましくは5mm以上である。また、当該焼入硬化層における硬度は60HRC以上であり、好ましくは61HRC以上であり、より好ましくは62HRC以上である。
外輪31および内輪32では、径方向に沿った断面(外輪転走面31Aおよび内輪転走面32Aに垂直な方向に沿った断面)において、外輪転走面31Aおよび内輪転走面32Aから15mm以上20mm以下の深さまでの領域を観察したときのパーライトの面積率が3%以下である。
パーライトの面積率は、たとえば以下のようにして算出することができる。まず、外輪31および内輪32が径方向に沿った方向において切断され、当該断面に研磨やエッチングなどの処理が施される。次に、外輪転走面31Aおよび内輪転走面32Aから15mm以上20mm以下の深さまでの領域において300μm×300μmの視野が複数設定され、当該視野において外輪31および内輪32を構成する鋼組織が光学顕微鏡を用いて観察される。そして、当該顕微鏡写真の画像を解析することにより、観察された鋼組織全体においてパーライト組織が占める割合をパーライトの面積率として算出することができる。
以上のように、本実施の形態に係る軌道輪である外輪31および内輪32は、上記本実施の形態に係る軌道輪の製造方法により製造されているため、転走面(外輪転走面31Aおよび内輪転走面32A)から15mm以上20mm以下の深さまでの領域におけるパーライトの面積率が3%以下にまで抑制されている。そのため、外輪31および内輪32は、パーライトの形成が抑制されていない従来の軌道輪に比べて耐衝撃性が向上している。また、当該外輪31および内輪32を備える本実施の形態に係る転がり軸受である主軸用軸受3は、従来の転がり軸受に比べて耐衝撃性がより向上したものとなっている。
なお、本実施の形態では、本発明の転がり軸受の一例として風力発電装置用軸受(主軸用軸受3)について説明したが、他の大型の転がり軸受への適用も可能である。具体的には、たとえばCTスキャナのX線照射部が設置された回転架台を、当該回転架台に対向するように配置される固定架台に対して回転自在に支持するCTスキャナ用転がり軸受に適用することができる。また、本発明の転がり軸受は、たとえば深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、スラスト玉軸受など、任意の転がり軸受の軌道輪に適用可能である。また、本発明の軌道輪は、上記種々の転がり軸受の軌道輪に適用可能である。
軌道輪を構成する鋼中のパーライトの抑制について、本発明の効果を確認する実験を行った。まず、上記本実施の形態に係る軌道輪の製造方法を用いて焼入された成形体を準備した。具体的には、まず上記成形工程(S10)と同様の手順により上記成分組成を有する鋼材が準備され、当該鋼材を転がり軸受の軌道輪の形状に成形加工した。次に、上記全体焼入工程(S21)と同様の手順により成形体を850〜860℃の焼入温度において保持した後、当該成形体を冷却液中に浸漬することにより焼入処理を実施した。ここで、成形体の平均冷却速度を1.3℃/s以上とした場合(実施例)、および1.3℃/s未満とした場合(比較例)の両方について上記全体焼入工程(S21)を実施した。
次に、焼入後の成形体(軌道輪)を径方向に沿って切断した。そして、転走面から15mm以上20mm以下の深さまでの領域において300μm×300μmの視野を複数設定し、当該視野において外輪31および内輪32を構成する鋼の組織を光学顕微鏡を用いて観察した。図9は、実施例における光学顕微鏡写真であり、図10は比較例における光学顕微鏡写真である。図9および図10から明らかなように、比較例においてはフェライト組織(パーライト組織)が多く観察されたのに対し、実施例においては主にベイナイト組織が観察され、パーライト組織はほぼ観察されなかった。実施例においてパーライトの面積率を算出すると、3%以下にまで低減されていた。この結果より、調質工程における鋼の冷却速度を制御することで、焼入後の鋼中におけるパーライトの形成を抑制可能であることが分かった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の軌道輪の製造方法、軌道輪および転がり軸受は、転がり軸受の軌道輪の製造方法、転がり軸受の軌道輪および当該軌道輪を備える転がり軸受において、特に有利に適用され得る。
3 主軸用軸受、10 成形体、11 転走面、31A 外輪転走面、32A 内輪転走面、11A 加熱領域、21 コイル、22 温度計、31 外輪、31E 貫通孔、31F,51A 外周面、32 内輪、32E 鍔部、32F 内周面、33A 接触面、34 保持器、50 風力発電装置、51 主軸、52 ブレード、53 ハウジング、53A 内壁、54 増速機、55 出力軸、56 発電機、59 ナセル、T0 成形温度、T1 焼入温度、T2 温度、t1,t2 保持時間
Claims (11)
- 転がり軸受の軌道輪の製造方法であって、
0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.3質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成される成形体を準備する工程と、
前記成形体がA1点以上の焼入温度に加熱された後、600℃以上850℃以下の温度における平均冷却速度が1.3℃/s以上となるようにMS点以下の温度まで冷却されることにより前記成形体を調質処理する工程と、
前記成形体を調質処理する工程の後、前記成形体において前記軌道輪の転走面となるべき環状領域に焼入硬化層を形成する工程とを備える、軌道輪の製造方法。 - 転がり軸受の軌道輪の製造方法であって、
0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.30質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンと、0.35質量%以上0.75質量%以下のニッケルとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成される成形体を準備する工程と、
前記成形体がA1点以上の焼入温度に加熱された後、600℃以上850℃以下の温度における平均冷却速度が1.3℃/s以上となるようにMS点以下の温度まで冷却されることにより前記成形体を調質処理する工程と、
前記成形体を調質処理する工程の後、前記成形体において前記軌道輪の転走面となるべき環状領域に焼入硬化層を形成する工程とを備える、軌道輪の製造方法。 - 前記成形体を準備する工程では、前記焼入温度よりも高い成形温度に加熱された前記鋼に成形加工を施すことにより前記成形体が準備され、
前記成形体を調質処理する工程では、前記成形体を準備する工程が完了した後に連続して前記成形体が前記焼入温度に加熱される、請求項1または2に記載の軌道輪の製造方法。 - 前記成形加工はローリング鍛造である、請求項3に記載の軌道輪の製造方法。
- 前記焼入硬化層を形成する工程は、
前記成形体を誘導加熱する誘導加熱部材が前記環状領域の一部に面するように配置され、前記環状領域の周方向に沿って前記成形体に対して相対的に回転することにより、前記成形体にA1点以上の温度に加熱された環状の加熱領域を形成する工程と、
前記加熱領域全体をMs点以下の温度に同時に冷却する工程とを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の軌道輪の製造方法。 - 前記焼入硬化層を形成する工程は、前記加熱領域を形成する工程の後、前記冷却する工程の前に、前記成形体を加熱が停止された状態に保持する工程をさらに含む、請求項5に記載の軌道輪の製造方法。
- 1000mm以上の内径を有する転がり軸受の軌道輪であって、
0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.3質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成され、
前記軌道輪の径方向に沿った断面において、前記軌道輪の転走面から15mm以上20mm以下の深さまでの領域を観察したときのパーライトの面積率が3%以下である、軌道輪。 - 1000mm以上の内径を有する転がり軸受の軌道輪であって、
0.43質量%以上0.65質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.60質量%以上1.10質量%以下のマンガンと、0.30質量%以上1.20質量%以下のクロムと、0.15質量%以上0.25質量%以下のモリブデンと、0.35質量%以上0.75質量%以下のニッケルとを含有し、残部鉄および不純物からなる鋼から構成され、
前記軌道輪の径方向に沿った断面において、前記軌道輪の転走面から15mm以上20mm以下の深さまでの領域を観察したときのパーライトの面積率が3%以下である、軌道輪。 - 高周波焼入により前記転走面の全周にわたって前記転走面を含むように焼入硬化層が形成されており、
前記焼入硬化層は3mm以上の厚みを有し、かつ、60HRC以上の硬度を有する、請求項7または8に記載の軌道輪。 - 内輪と、
前記内輪の外周側を取り囲むように配置された外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体とを備え、
前記内輪および前記外輪の少なくともいずれか一方は請求項7〜9のいずれか1項に記載の軌道輪である、転がり軸受。 - 風力発電装置において、前記内輪にはブレードに接続された主軸が貫通して固定され、前記外輪はハウジングに対して固定されることにより、前記主軸を前記ハウジングに対して回転自在に支持する、請求項10に記載の転がり軸受。
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