JP2015206114A - 方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】歪みの近傍に線状の還流磁区部を形成し、かつ、消磁状態において、該還流磁区部から圧延方向に伸びた圧延方向長さが1.2mm以上の磁区を有し、さらに、該磁区が、該還流磁区部に沿った領域において、1mm当り平均で1.8本以上形成している。
【選択図】図2
Description
例えば、特許文献1には、39.3MPaという極めて高い張力の下で、鋼板に被膜を形成することによって、最大磁束密度:1.7T、周波数:50Hzで励磁した時の鉄損(W17/50)を0.80W/kg未満にした例が記載されている。
例えば、特許文献2には、2次再結晶後の鋼板にプラズマアークを照射することによって、照射前には0.80W/kg以上であった鉄損W17/50を、0.65W/kg以下に低減する技術が示されている。
図1に、磁区細分化処理を施した方向性電磁鋼板の処理表面から観察した特徴的な磁区構造を示す。
(I)このうち、(線状)還流磁区は、レーザや電子ビームを照射して歪みを導入した部分に、線状に形成される。当然、パルス状に照射した場合には、数珠状に繋がったような形状になるが、本発明では、還流磁区が途切れることなく連続的に形成されている限りにおいて、数珠状も併せて線状であると表現する。また、磁化の方向は、圧延方向とは異なる。なお、以下においては、この磁区を単に還流磁区と呼ぶ。
まず、還流磁区の幅、鋼板上の電子ビーム径を変化させずに、櫛状磁区を形成する方法として、最終収束コイルでの収束前のビーム径を調整した。本手法による効果は、鋼板に衝突する電子の入射角を変えたことに相当する。というのは、最終収束コイルでの収束前ビーム径が大きいほど、同じビーム径に縮小するためには、ビームをより強角度で収束させなければならないためである。また、上記調査中、電子ビームは加速電圧一定で点列状に鋼板に照射し、観察部の結晶方位、被膜張力はいずれも一定とした。
本発明は、上記知見に基づき、さらに検討を重ねて成されたものである。
1.圧延方向に対して周期的間隔で、圧延方向を横切る方向に、局所的な歪みが導入された方向性電磁鋼板であって、
上記歪みの近傍に線状の還流磁区部が形成され、
かつ、
消磁状態において、該還流磁区部から圧延方向に伸びた圧延方向長さが1.2mm以上の磁区を有し、
さらに、
該磁区が、該還流磁区部に沿った領域において、1mm当り平均で1.8本以上形成している
方向性電磁鋼板。
4mm≦s≦15mm
hw/s≦0.9μm
を満たす前記1に記載の方向性電磁鋼板。
本発明は、磁区細分化処理を施すことによって得られる変圧器鉄損に優れた方向性電磁鋼板とその製造方法に関するものである。ここで、本発明に用いる方向性電磁鋼板は、公知公用のものであれば特に使用上の制限はない。
なお、磁区細分化は、電子ビームによって行うのが好ましい。電子ビーム(または、単にビームという)は、電気的にその照射が制御されることから、磁区細分化処理速度が高いという特徴があり、また、レーザ法に比較するとエネルギ使用効率に優れるという特徴があるからである。
加速電圧は高い方が好ましい。これは、電子ビームの物質透過性が高まるためであり、被膜を透過しやすくすることによって、被膜損傷が抑制されやすくなるだけでなく、地鉄中での発熱中心部も板厚表面から、より板厚内部に深く入った部分となるので、より深い還流磁区を形成するのに有利だからである。さらに、ビーム径が小さくなりやすいという利点もある。これらの効果を得るためには、40kV以上の加速電圧とするのが良い。一方、加速電圧は高くなると、被照射体から発生するX線の遮蔽が困難になることから、実用上、加速電圧の上限は300kV程度とするのが好ましい。
ビーム電流は、ビーム径縮小の観点からは小さい方が良い。これは、荷電粒子同士が反発することによって、ビームが収束し難くなるためである。したがって、ビーム電流の上限は20mAとする。より好ましくは15mA以下である。一方、ビーム電流が小さすぎる場合には、鋼中に歪みを形成し磁区細分化することができないため、0.5mAを下限とする。
電子ビームは、気体分子によって散乱され、その径が大きくなってしまう。そのため、ビーム照射領域内は、3Pa以下の圧力とすることが有効である。また下限については、過度に低くすると、真空ポンプなどの真空系にかかるコストが増大するため、実用上10-5Pa程度である。
WDは、収束コイルから鋼板までの距離である。この距離は、ビーム径に著しい影響をおよぼすことが明らかとなっている。WDは小さい方が、ビームの行路長が短くなって、ビームが収束しやすくなる。したがって、1000mm以下とするのが好ましい。一方、WDが過度に小さくなると、ビームの偏向角も増大する傾向にあるので、ビーム照射領域内でビーム行路長の変化率が大きくなって、収束条件の調整が複雑化するため、実用上、300mm程度が下限である。
鋼板上のビーム径は、スリット幅30μmのスリット法によって測定したビームプロファイルの半値幅で定義する。ビーム径は小さいほど、前述した還流磁区を得るのに有利である。したがって、ビーム径は400μm以下とする。また、ビームは鋼板上でジャストフォーカスとなるように収束コイルに流す電流値を調整する。一方、ビーム径が50μm未満であると、そのために、WDを極度に低減するなどの処置を講じざるを得ず、その場合、1つの電子ビーム源によって偏向照射可能な距離が大幅に減少してしまう。その結果、1200mmほどの広幅コイルを照射するために、多数の電子銃が必要となって、メンテナンス性・生産性を減じてしまう。
本発明では、電子ビームを走査させて、通板される鋼板に直線状に分布される歪を与えていく。このとき、歪を導入する電子ビームの平均走査速度は30m/s以上とするのが良い。ここで、平均走査速度とは、直線状の連続電子線走査であれば、その速度とすれば良く、点列状の照射であれば、点列間最小距離/1点あたりの照射時間とすれば良い。この走査速度が30m/sより小さいと、高い生産性を達成できない。なお、上限について特に規定はないが、実用上、300m/s程度である。
電子ビームは、圧延方向を横切る方向に照射し、これを圧延方向に周期的に繰り返して行う。この間隔(線間隔)は、4〜15mmであることが好ましい。線間隔が狭いと、鋼中に形成される歪領域が過度に大きくなって、鉄損(ヒステリシス損)が劣化するだけでなく、磁気歪みをも劣化してしまう。さらには、生産性が低下する。一方で、線間隔が広すぎると、いくら深さ方向に還流磁区を拡大しても、磁区細分化効果が乏しくなって鉄損が改善しない。
上記、圧延方向を横切る方向とは、圧延方向から60から120°の方向とすることが望ましい。より望ましくは90°である。90°からずれると、それだけ歪み導入部の体積が過度に増大してしまうため、ヒステリシス損が劣化するからである。
櫛状磁区の本数が多いほど鉄損が改善するため、櫛状磁区本数は多い方が好ましく、還流磁区に沿った方向に1mm当り平均で1.8本以上形成している必要がある。櫛状磁区の本数は、結晶方位、結晶粒などの影響を受けると考えられるため、全試料の平均的な結晶方位である平均的なサイズの結晶粒の内部で定量化している。また、本発明では、圧延方向長さが1.2mm以上であるもののみを櫛状磁区としてカウントする。これは、櫛状磁区は還流磁区に接して生成しているように観察されるものの、還流磁区の極近傍は観察が困難であり、圧延方向長さが1.2mmに満たない櫛状磁区は、本発明に大きな影響を与えないからである。なお、櫛状磁区の本数の上限は、本発明に係る実験では、3本/mm程度であったが、3本/mmを超えても同様の効果を有すると推定される。
電子ビームを照射し、歪みが形成された部分には還流磁区が形成されるため、歪みの導入量は、およそ還流磁区の導入量、すなわち、還流磁区の幅×板厚方向深さ/線間隔(以下、歪み導入量指標:xという)で表すことができると考えられる。導入量が過度に多いとヒステリシス損が劣化するため、xは0.9μm以下であることが好ましい。ここで、還流磁区の幅は、磁性コロイドを利用した磁区観察法によって測定することができる。また、板厚方向深さについては化学研磨による方法で定量化した。すなわち、電子ビームを照射した面を段階的に過酸化水素水とフッ化水素の混合溶液によって減厚し、上記磁区観察法によって照射部の還流磁区が観察されなくなったときの減厚量を板厚方向深さとして定義した。
4mm≦s≦15mm
の関係を満足していることが好ましい。
同図より、歪み導入量指標が0.9μmよりも大きいと、鉄損が劣化することが明らかとなった。これは、歪みが過度に入りすぎることによって、ヒステリシス損が劣化したためである。また、歪みが入りすぎた条件では、磁歪振動の高調波成分も増大しており、変圧器としたとき、騒音上、好ましくないと考えられる。したがって、騒音上の観点から、歪み導入量指標は、0.9μm以下にすることが好ましい。また、図3では、歪み導入量指標が小さい場合にも、鉄損が劣化する傾向が確認できる。これは、渦電流損の改善効果が弱いためである。したがって、より低い鉄損を狙う場合には、歪み導入量指標を、0.56μm以上にすることが望ましい。
本発明における歪みの領域とは、前述した歪の近傍と同義である。また、被膜の損傷の確認方法は、EPMAを用いた画像診断によって行うことができる。具体的には、測定対象鋼板中の局所的に導入された歪み領域から圧延方向に互いに30cm以上離れた3本を選び、さらに歪みが導入された領域1本につき観察箇所7箇所を選び、計21箇所について、それぞれ400μm×400μmを観察範囲とし、10μm以上の長さを有する被膜損傷をカウントする。したがって、本発明における被膜の損傷が無いとは、歪みの領域内の、前記21箇所の400μm×400μmの範囲に、10μm未満の長さを有する損傷しかないものをいう。また、歪みが導入された領域に、歪みを導入しない領域とは明らかに異なる被膜性状となる部分が視認できる場合には、その部分も観察する。但し、幅方向の最端部近傍などの非定常部や、歪み導入前に既に損傷がある領域を観察範囲に選定しないようにする。
ビーム径が同一であっても、ビーム径比が異なれば、板厚方向の運動量が変化するため、鋼板におよぼす歪みの形態とさらには磁区構造が異なると考えられる。図4に、最終収束前のビームスポット径をAとして、鋼板上の平均ビームスポット径をBとした場合の、本発明に用いるビーム照射の説明図を示す。また、図5に、櫛状磁区本数におよぼすビーム径比(B/A)の影響を示す。さらに、鋼板上の平均ビーム径は、0.05〜0.4mmの範囲とするが、この時の鋼板上の平均ビームスポット径:Bの範囲は、0.15〜1.5mmである。
これは、歪み領域の幅wが増大し、歪み導入量指標xを0.9μm以下とすることが困難となるためである。なお、ここでいうビームスポット径とは、ビームの形状を表す指標であるが、ビーム径とは異なり、厚さ20μmのステンレス鋼にビームを照射した場合に形成される溶融スポット径と定義する。そして、最終収束前のビームスポット径とは、収束コイルに入射する直前のビームスポット径のことである。ここで、ビーム径と異なってビームスポット径を用いた理由は、収束前のビームはスリット法によってビーム径を測定することが困難であるためである。なお、本明細書中では、「ビーム径比」という場合には、ビームスポット径の比を示す。
ビーム径比が大きい場合、収束前のビーム径も比較的小さいことから、収束コイル内部でより均一な磁界を受けるために、ビームスポット内部での板厚方向および板面方向の運動量ばらつきが小さく、ビーム形状が丸く収束される。その結果、エネルギ密度が増大し、より強力なエネルギ密度でビームが照射されることによって、還流磁区部周辺で磁気エネルギ的不安定が生じ、櫛状の磁区がより多く形成されたと考えられる。
発明者らは、櫛状磁区が素材の結晶方位にも強く影響されることをつきとめ、鋼板の結晶粒の〈001〉軸のうち、圧延方向となす角が最小である〈001〉軸が鋼板表面となす角度(本発明において、β角という、0°≦β≦90°)が過度に小さいと、櫛状磁区が形成されにくいことが分った。
そこで、本発明においては、β角が1°以下となる結晶粒の面積率を、50%以下とすることが望ましい。より望ましくは、40%以下である。また、β角自身が大きすぎると、結晶方位の先鋭度が低下し、鉄損が劣化する。従って、本発明において、β角の平均値は1〜3°の範囲にあることが重要である。なお、本発明においては、例えば、磁気測定で使用する100mm×300mm程度のサンプル2枚の内の結晶粒の平均β角を求めることで、同一コイルにおける鋼板の結晶粒のβ角と評価することができる。
上掲図4に記載された構成を持つ電子ビーム照射設備を用い、表1に示す各種条件で実施例を行った。ここで、電子ビームの、加速電圧は70kV、電流は15〜25mA、WDは450mm、平均走査速度は80m/s、線角度は90°、加工室真空度は0.1Paとした。なお、素材は、3.4%Si含有鋼であり、磁束密度B8は、1.92Tであった。また、素材の結晶粒のβ角の平均値は、2.6(°)、素材のβ角が0〜1°となる結晶粒の面積率は35(%)であった。
さらに、被膜損傷は前述したように、EPMAで測定した。
さらに、実施例1と同じ電子ビーム照射設備及び表2に示した以外は実施例1と同じ電子ビーム照射条件を用い、磁束密度の異なる素材に電子ビーム照射した実施例を行った。鉄損等の実施結果を表2に示す。また、試験No.9の素材のβ角の平均値は2.9(°)、素材のβ角が0〜1°となる結晶粒の面積率は35(%)であった。試験No.10の素材のβ角の平均値は、2.6(°)、素材のβ角が0〜1°となる結晶粒の面積率は35(%)であった。試験No.11の素材のβ角の平均値は2.3(°)、素材のβ角が0〜1°となる結晶粒の面積率は37(%)であった。試験No.12の素材のβ角の平均値は、2.4(°)、素材のβ角が0〜1°となる結晶粒の面積率は34(%)であった。
さらに、実施例1と同じ電子ビーム照射設備及び電子ビーム照射条件を用い、ビーム径:0.2(mm)、ビーム径比:0.3、S:7.2(mm)、W:160(μm)、h:35(μm)、hw/s:0.8(μm)で、磁束密度B8が1.94Tで、β角の異なる素材に、それぞれ電子ビーム照射した実施例の鉄損結果を表3に示す。
Claims (6)
- 圧延方向に対して周期的間隔で、圧延方向を横切る方向に、局所的な歪みが導入された方向性電磁鋼板であって、
上記歪みの近傍に線状の還流磁区部が形成され、
かつ、
消磁状態において、該還流磁区部から圧延方向に伸びた圧延方向長さが1.2mm以上の磁区を有し、
さらに、
該磁区が、該還流磁区部に沿った領域において、1mm当り平均で1.8本以上形成している
方向性電磁鋼板。 - 前記周期的間隔をs(mm)とした場合、前記歪みの領域の幅:w(mm)と、領域の深さ:h(μm)との間で、以下の関係
4mm≦s≦15mm
hw/s≦0.9μm
を満たす請求項1に記載の方向性電磁鋼板。 - 前記歪みの領域に沿って、被膜の損傷が無い請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板。
- 磁束密度B8が1.94T以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板において、鋼板の結晶粒の〈001〉軸のうち、圧延方向となす角が最小である〈001〉軸が鋼板表面となす角度(β角):平均値で1〜3°の範囲で、かつ、該β角が0〜1°の範囲となる結晶粒が面積率で50%以下である方向性電磁鋼板。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、圧延方向に対して周期的間隔で、圧延方向を横切る方向に、局所的な歪みを導入するに当たり、該歪みを、鋼板上で0.4mm以下の平均ビーム径となるように収束させた電子ビームによって形成すると共に、該電子ビームの最終収束前における電子ビームスポット径に対する鋼板上の平均ビームスポット径の比(鋼板上の平均ビームスポット径/最終収束前における電子ビームスポット径)を0.2以上とする方向性電磁鋼板の製造方法。
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