JP2017106117A - 変圧器鉄心用方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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重宏 ▲高▼城
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Abstract

【課題】電子ビームによる磁区細分化処理が施された方向性電磁鋼板であって、鉄損に優れると共に、磁歪が小さくかつコイル内での磁歪ばらつきも小さいため、変圧器としたときの騒音を低くすることができる方向性電磁鋼板を提案する。【解決手段】還流磁区領域を、電子ビームを鋼板圧延方向に偏向せずに照射される位置と重ならない位置に、鋼板の圧延方向を横切る方向に対して形成し、この還流磁区領域を、長さ:200mm以上で連続とし、かつ該還流磁区領域の幅:d(μm)を、0.8d0≦d≦1.2d0、d0(μm):還流磁区領域の幅の、前記圧延方向を横切る方向での平均値とする。【選択図】図6

Description

本発明は、変圧器鉄心などの用途に供される方向性電磁鋼板であって、磁区細分化処理が施されて鉄損に優れると共に、コイル内での磁性、特に透磁率のばらつきが小さいため、変圧器に組んだ後の低鉄損化に有利な方向性電磁鋼板とその製造方法に関するものである。
変圧器使用における主要課題は、1.エネルギ使用効率改善、2.ノイズ低減である。ここで、変圧器で生じるエネルギ損失としては、主に導線に生じる銅損と、鉄心に生じる鉄損とがある。このうち、鉄損は、方向性電磁鋼板の結晶方位先鋭化や被膜張力増大などによって大きく改善されてきた。例えば、特許文献1には、最終冷延前の焼鈍条件を適正化することによって、磁束密度と鉄損に優れた方向性電磁鋼板を製造する方法が示されている。
さらに、近年においては、最終焼鈍後に、プラズマ炎やレーザ等を照射することによって、鉄損を劇的に改善する技術が確立されている。
例えば、特許文献2には、2次再結晶後の鋼板に対してプラズマアークを照射することにより、照射前には0.80W/kg以上あった鉄損W17/50を、0.65W/kg以下に低減する技術が示されている。また、特許文献3には、電子ビーム照射によって鋼板面に形成された磁区不連続部の平均幅と、被膜厚とを適正化することによって、鉄損が低く、騒音が小さいトランス用素材を得る技術が示されている。
ここで、変圧器の騒音には、鉄心の磁歪、接合部の電磁振動および筐体の共振が影響するとされている(非特許文献1および特許文献4参照)。このうち磁歪は、方向性電磁鋼板の磁区構造を由来としており、ランセット磁区と呼ばれる励磁方向以外の方向を向いた磁区(補助磁区の一種)が励磁方向の磁歪原因とされていて、磁歪低減のためには、被膜張力増大によって補助磁区を可能な限り低減する方法が有効であると言われている。
また、ランセット磁区のような補助磁区は、レーザなどで熱歪みを導入した部分にも存在する(以下、還流磁区という)ことが知られている。興味深いことに、両者の励磁における磁化挙動は異なっていて、ランセット磁区は励磁に伴って増大する一方で、還流磁区は消失する傾向にある。従って、両者のバランスをとることで、磁歪を極限まで低減することが可能であると言われている(非特許文献2参照)。
なお、レーザ照射した方向性電磁鋼板の低磁歪材およびその製造方法については、例えば、特許文献5や特許文献6などに示されている。
特開2012−1741号公報 特開2011−246782号公報 特開2012−52230号公報 特許第4840535号公報 特許第4216488号公報 特開2002−69594号公報 特開平4−264345号公報 特開平2−118022号公報 特開平5−43944号公報 特公平6−21358号公報
川崎製鉄技報Vol.29, No.3, p.164 日本応用磁気学会誌Vol.25、No.12, p.1618
レーザや電子ビーム(以下、単にビームともいう)による局所的な歪みは、圧延方向を横切る方向(以下、幅方向ともいう)に対して、圧延方向に周期的に繰返し施すことで、磁歪を大きく変えることができるが、幅方向においては同一の品質が得られにくいという問題があった。特に、近年要求されている生産性向上の観点から、1000mmを超える幅の鋼板を、できるだけ少ない発振器や電子銃で処理しようとした場合には、レーザや電子ビームの照射幅が増大して、鋼板幅方向の品質の同一性保持はいっそう困難になる。
ここで、電子ビーム照射の場合は、電子ビームを偏向すればするほど電子ビーム径が増大し、偏向照射中心部と異なるビーム性状となってしまう。また、レーザ照射の場合は、偏向幅位置に応じて焦点距離を調整したレンズを設置することによって、ある程度の均一な歪み導入部が得られるものの、電子ビーム照射と同様に、図1に示すように、偏向の端部では鋼板に対し斜めにビームを入射するため、ビーム形状が多少歪む現象が生じる。また、レーザ照射の場合には、鋼板の反射率が変わることによる変動も無視できない。
このようなコイルの位置によって異なるビーム性状は、透磁率のばらつき要因になる。そして、特に透磁率のばらつきが大きい場合に、変圧器の鉄損が劣化する傾向を発明者らは見出したのである。
図2は、変圧器に組んだ方向性電磁鋼板単板の透磁率ばらつき:σが、ビルディングファクターにおよぼす影響を示したものである。ここで、ビルディングファクターとは、鉄心に組まれる前の方向性電磁鋼板単板時の鉄損に対する、鉄心に組んだ後の変圧器の鉄損の割合を示すものであり、以後B.F.と記す。
また、方向性電磁鋼板の単板の磁性ばらつきは、鉄心に組まれる直前の斜角剪断された試料20枚の中央部において測定したSST測定による透磁率μ17/50の標準偏差σ(H/m)とした。
さらに、変圧器鉄損は、ラボ実験用の三相三脚の積み鉄心型の変圧器を模擬したモデル変圧器を用いて評価を行った。モデル変圧器の外形は500mm角で、幅:100mmの鋼板20枚(4枚積層)で構成した。三相は120°位相をずらして励磁を行い、磁束密度:1.7Tにおいて、鉄損測定を行った。
図2中、丸2点は、いずれも単板平均鉄損:0.87W/kg、平均透磁率:0.040H/mのものを使って鉄心を作製し、また立て菱形2点は、いずれも単板平均鉄損:0.74W/kg、平均透磁率:0.022H/mのものを使って鉄心を作製した。
以上の測定結果から、B.F.低減のためには、透磁率ばらつきを低減することが有効であることが明らかとなった。このメカニズムについて、現在のところ、透磁率が不均一であると、磁束は透磁率の高い部分を選択しながら流れるので、結果、磁路長が増大することになって、損失が増大するものと考えている。
電子ビーム照射において、偏向端部のビーム形状変化を抑制する方法としては、例えばスティングマトール(特許文献7参照)の導入、集束距離に応じたコイル電流調整(特許文献8、以下ダイナミックフォーカッシング技術)、デフォーカス照射する方法(特許文献9参照)、鋼板を湾曲矯正する方法(特許文献10参照)などが有効であることが知られている。
しかしながら、スティングマトール技術(特許文献7)は、ある1つの偏向状態において、ビーム形状を補正することができるものの、直線状に偏向走査させたすべての状態において補正できるものではなく、静的な使用に限定されている。
また、偏向照射幅が増大すると、ダイナミックフォーカッシング技術(特許文献8)を適用したとしても、全幅均一なビームを作ることが困難である。というのは、偏向照射幅が大きい場合、偏向中心と端部でビーム径差が大きくなるため、特に偏向走査速度が大きい場合には、偏向照射中の短時間に収束コイル電流を大幅に変化させる必要があるが、コイルの固有インピーダンスの影響などによって急激な電流変化は物理的に困難だからである。
さらに、特許文献9に示された方法は、ビームをデフォーカスするものであるため、磁気特性がばらつくおそれがある。また、ビーム径は、小さい方が鉄損低減に有利との従来知見がある。
また、鋼板を湾曲矯正するという特許文献10に示された方法は、鋼板に歪みや割れが発生するリスクが増大するばかりでなく、複雑な設備導入が必要になるため、現実的な方法ではない。
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、電子ビームによる磁区細分化処理が施された方向性電磁鋼板であって、鉄損に優れると共に、磁歪が小さくかつコイル内での磁歪ばらつきも小さいため、変圧器としたときの騒音を低くすることができる方向性電磁鋼板を、その製造方法と共に提案することを目的とする。
前掲した特許文献7〜10は、結局、偏向中心部と端部とで電子ビームの行路長:Δ(mm)が異なるために、フォーカスのされ方が異なるという考えに基づくものである。ここでΔ(mm)は、以下で表される。
Δ=WD×[{1+(L/(2WD))2}0.5−1]
WD(mm):偏向コイル中心から鋼板までの距離
これに対して、発明者らは、電子ビームによる磁区細分化処理効果に及ぼす、ビーム偏向の影響について鋭意検討した。その結果、おどろくべきことに、偏向端部で生じるビーム径増大は行路長:Δ(mm)のみによって支配されるのではなく、偏向動作自体によってもたらされることを知見したのである。
それを傍証する実験結果を以下に示す。
図3に示すように、収束コイル中心から鋼板までのビーム行路長が一定になるようにRD:320mm、TD:60mmの方向性電磁鋼板をTD方向に6枚並べて設置し、ビーム照射後の鉄損を調べた。その調査結果を図4に示すが、図4の結果によれば、鉄損は、偏向中心部(幅方向位置:180mm)近傍で最も低い値となって、行路長:Δ(=550mm)は同じであっても偏向量が増大するほど劣化していた。
ここに、偏向によって、ビームが不均一になる詳細なメカニズムを定量的に記述することは困難であるが、非点収差などの偏向収差の影響があるものと考えられる。
上記結果に基づき、発明者らは、幅方向に均一なビームとするためには、偏向量を抑制することが重要であるとの考えに到った。
図5に示すのは、電子線の偏向走査の様子である。従来の方法においては、電子銃から出た電子が偏向コイルによって幅方向にのみ偏向され、S1→P→E1のような照射が鋼板上で行われる。これに対して、発明者らは、電子ビームを圧延方向にも偏向させることによって、圧延方向にも幅方向にも偏向させない状態で電子ビームが鋼板に到達するビーム位置(図中P)を、走査領域外部とし、図中、点Qを偏向走査中心とすることを考え付いた。
ここでビーム偏向走査中の偏向角の変化量:η(deg.)を(最大偏向角-最小偏向角)、OP間距離をw(mm)、PQ間距離をR(mm)、偏向量(S1−E1間距離、S2−E2間距離)をL(mm)とすると、点S2(あるいはE2)における偏向角P−O−S2(P−O−E2)、すなわち最大偏向角は以下のように求められる。
∠P-O-S2=Cos−1 (w/(w2+R2+L2/4)0.5)
また、点Qにおける偏向角P−O−Qすなわち最小偏向角は以下のように求められる。
∠P-O-Q=Cos−1 (w/(w2+R2)0.5)
したがって、
η=Cos−1 (w/(w2+R2+L2/4)0.5)- Cos−1 (w/(w2+R2)0.5)
となる。
図6にw=600mm、L=200mmとして計算した、偏向角の変化量におよぼすPO間距離(シフト量)R(mm)の影響を示す。Rを増大するほど、偏向角の変化量は少なくてすむことが確認された。
これより、発明者らは、偏向走査中心位置を、圧延方向にも幅方向にも偏向させない状態で電子ビームが鋼板に到達するビーム位置(図中P)からシフトすることによって、偏向角の変動を抑制し、偏向走査領域内での磁性ばらつきを抑制できるのではないかと考えた。
そこで、発明者らは、偏向角の変動を抑制し、還流磁区領域に諸条件を設けることによって、偏向走査領域内での磁性ばらつきを効果的に抑制できるものと考え、さらに詳細な実験を行い、本発明を完成させた。
本発明は上記知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.圧延方向を横切る方向に対して形成され、かつ圧延方向に対して周期的に形成された還流磁区領域を有する方向性電磁鋼板において、
上記還流磁区領域はそれぞれ、長さが200mm以上で連続し、かつ個々の還流磁区領域における任意位置での幅:d(μm)が、
0.8d≦d≦1.2d
(μm):該還流磁区領域の幅の、上記圧延方向を横切る方向での平均値
であり、上記還流磁区領域の圧延方向の周期的間隔が鋼板の平均結晶粒径以下である変圧器鉄心用方向性電磁鋼板。
2.前記d(μm)が、前記d(μm)と、さらに
0.9d≦d≦1.1d
の関係を満足する前記1に記載の変圧器鉄心用方向性電磁鋼板。
3.前記の圧延方向に対して周期的に形成された複数の還流磁区領域からなる還流磁区群が、試料全幅にn(≧1)個存在する方向性電磁鋼板において、i番目の還流磁区群における、1つの還流磁区領域の長さをYi(i=1〜n)(mm)とし、コイル全幅をZ(mm)、上記還流磁区が圧延方向を横切る方向と圧延直角方向の傾角をθ(deg.)としたとき、
1.05Z≧Σ(i=1〜n)Yi×cosθ≧Z
の関係を満足する前記1または2に記載の変圧器鉄心用方向性電磁鋼板。
4.前記1〜3の何れかに記載の変圧器鉄心用方向性電磁鋼板を製造する方法であって、還流磁区の導入が、電子ビームを常時、圧延方向に偏向させた状態で、鋼板幅方向へ偏向走査させるものである変圧器鉄心用方向性電磁鋼板の製造方法。
5.前記電子ビームの偏向走査において、以下の式(1)で表される偏向角変動量:η(deg.)を、8(deg.)以下とする前記4に記載の変圧器鉄心用方向性電磁鋼板の製造方法。
η=Cos−1(w/(w2+R2+L2/4)0.5)−Cos−1(w/(w2+R2)0.5)・・・(1)
但し、w(mm):偏向コイル中心と鋼板との距離、R(mm):シフト量、L(mm):偏向量である
6.前記電子ビームの電子銃の加速電圧が40kV以上300kV以下である前記4または5に記載の変圧器鉄心用方向性電磁鋼板の製造方法。
7.前記電子ビームの圧延方向の走査間隔を、鋼板の平均結晶粒径以下とする前記4〜6の何れかに記載の変圧器鉄心用方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、幅方向に均一なビームを用いて方向性電磁鋼板を加工することができるため、コイル全体で均一な磁気特性とすることができるだけでなく、変圧器鉄心として使用した場合の鉄損を抑制することができるため、変圧器の使用エネルギ効率が向上し、産業上有用である。
収束レンズを通した電子ビームの偏向の端部の様子を示した図である。 変圧器に組んだ方向性電磁鋼板単板の透磁率ばらつき:σが、ビルディングファクターにおよぼす影響を示した図である。 収束コイルから鋼板までのビーム行路長が一定になるように方向性電磁鋼板を並べたことを説明する図である。 図3に示した並びにおけるビーム照射後の鋼板の鉄損を調べた結果を示す図である。 電子線の偏向走査の様子を示した図である。 シフト量:Rと偏向角変動量:ηとの関係を示した図である。 試料に電子ビームを照射する要領を示した図である。 還流磁区幅変化率と透磁率変化率との関係を示した図である。 偏向角変動量:ηと磁性ばらつき:σとの関係を示した図である。 磁性ばらつき:σとビルディングファクター:B.F.との関係を示した図である。
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、電子ビーム照射を行う方向性電磁鋼板について、コイル全幅における鉄損と鉄損ばらつき、さらには磁歪と磁歪ばらつきを低減するものである。
以下、本発明にかかる種々の条件の限定理由を述べる。
還流磁区の幅d(mm):試料全幅にて0.8d≦d≦1.2d、0.9d≦d≦1.1d
(mm):還流磁区領域の幅の、鋼板圧延方向を横切る方向での平均値
方向性電磁鋼板にレーザや電子ビームを照射すると、主磁区とは異なる磁区(以下、還流磁区)が形成される。還流磁区は、レーザ・電子ビームの走査線上に沿って生じるが、これと直角の方向に広がっている幅をd(mm)とする。偏向走査したビーム性状が均一でない場合、特にビーム径が変化する場合には、鋼板への入射エネルギ密度が変わるため、dが幅方向で不均一になる。
まず発明者らは、透磁率におよぼす還流磁区幅の影響を調べた。図7に示すように、RD:320mm、TD:30mmの方向性電磁鋼板を、その偏向走査の幅方向中心と圧延方向にも幅方向にも偏向させない状態で電子ビームが鋼板に到達するビーム位置(図中P)との最短距離fが変わるように置き、電子ビームを幅方向に平行に線間隔を5mmとして照射して、照射後の磁気特性を調べた。ここで、照射前の試料は全て同等の磁性(B、W17/50、μ17/50)のものを選んだ。図8に、透磁率の変化率(f=0となるように設置した試料の透磁率に対する、f≠0となるようにfを変化させて設置した試料の透磁率の変化率)におよぼす還流磁区幅変化率(f=0となるように設置した試料の試料幅方向中心部の還流磁区幅に対する、f≠0となるようにfを変化させて設置した試料の試料幅方向中心部の還流磁区幅の変化率)の影響を示す。
これより、還流磁区幅の変化率が、20%以下であれば透磁率の変化率を10%以下に、さらに10%以下であれば透磁率の変化率を5%以下と極めて小さくできることがわかった。従って、還流磁区の幅:d(mm)は、試料全幅にて0.8d≦d≦1.2dとすることが、肝要であって、0.9d≦d≦1.1dとすることが好ましい。
なお、還流磁区幅の、鋼板圧延方向を横切る方向での平均値:dは、図5における点Qを偏向走査中心とした照射の例では、E2〜S2方向での還流磁区幅の平均値となる。そして、E2〜S2方向でのそれぞれの位置での還流磁区幅dを、そのdに対して上記の範囲とすることが肝要となる。また、還流磁区は、結晶方位によって観察しにくいことがあるので、Goss方位の潜り角βが2、3°程度となる場所でdを測るのが良い。
1つの連続した還流磁区の長さ:X≧200mm:
Xは、電子ビームの鋼板上走査長さとほぼ一致する。走査長さが小さい場合には、偏向角が小さくビーム性状の変化が小さいことから、本発明効果が小さくなるため、後述する実施例で効果が認められた200mm以上の範囲で、鋼板に対して連続して付与されるものとする。
1.05Z≧Σ(i=1〜n)Yi×cosθ≧Z
Yi(i=1〜n)(mm):i番目の還流磁区群における、1つの還流磁区領域の長さ、Z(mm):試料(鋼板コイル)幅、θ(deg.):上記還流磁区が圧延方向を横切る方向と圧延直角方向の傾角、
上記関係式は、還流磁区の総長と試料幅の関係について制限を加えたものである。試料幅に対して、還流磁区幅の総長が小さい場合は、鋼板の幅方向で磁区細分化が不十分となる領域があることを意味しているから、幅方向で磁性ばらつきが生じる要因となる。一方、過度に大きい場合には、重複領域が出現することを意味しているが、重複領域は歪みが過度に導入されており、そうでない部分とやや磁性が異なることから、重複領域は少ないほうが良く、具体的には5%以内とする。従って、1.05Z≧Σ(i=1〜n)Yi×cosθ≧Zなる関係式を満足することが好ましい。なお、以下、b=Σ(i=1〜n)Yi×cosθとする。
η≦8 (deg.)
偏向角の差が小さいほど、幅方向のビームの均一性が増す。具体的には、後述する実施例に基づき、8deg.以下であるとビームの均一性は格段に向上する。
前述したように、ηは、以下の式で表される。
η=Cos−1 (w/(w2+R2+L2/4)0.5)- Cos−1 (w/(w2+R2)0.5)
また、図6に示したように、Rを増大するほど、偏向角の変化量は少なくてすむことが確認されている。
これより、発明者らは、鋼板上の偏向走査中心位置を圧延方向にも幅方向にも偏向させない状態で電子ビームが鋼板に到達するビーム位置(図5中Pで示される点)からシフトする、すなわちR≠0を満足することがビーム照射位置として重要であるとの結論に至った。従って、本発明では、上記還流磁区領域は、電子ビームを偏向せずに照射される位置と重ならない位置で形成されたものとすることが重要である。
電子ビームの発生条件としては、
加速電圧(Va):40〜300kV
同一加速電圧のもとでは、ビームの高速化に伴い、適正出力が増大して、低鉄損化に好ましくないビーム径の増大が生じるが、ビーム径増大の抑制には、高加速電圧化が最も有効である。ここに、Vaが40kV未満であると、ビーム径を絞ることが難しくなって鉄損低減効果が小さくなる一方で、Vaが300kV超であると、フィラメントなどの装置寿命が短くなるだけでなく、X線漏洩防止のために装置が過度に巨大化して、メンテナンス性・生産性が低下してしまう。
さらに加速電圧は、より高いほど物質を透過し、被膜での局所的なエネルギ集中を抑制することができるので、被膜の損傷を効果的に抑制するため、より好ましい範囲は、60〜200kVである。
RD線間隔:4〜30mm
電子ビームは、直線状あるいは点列状に鋼板の幅端部から、もう一方の幅端部へ照射し、これを圧延方向に周期的に繰返して行う。この繰返し間隔(RD線間隔、本発明では単に線間隔ともいう)は、4〜30mmであることが好ましい。線間隔が狭いと、鋼中に形成される歪領域が過度に大きくなって、鉄損(ヒステリシス損)と共に、磁気歪みも劣化するだけでなく、処理時間が増えるために、生産性が低下する。一方、線間隔が広すぎると、いくら深さ方向に還流磁区を拡大しても、磁区細分化効果が乏しくなって鉄損が改善しないからである。
また、単一結晶粒内の磁区は、その結晶粒内に還流磁区が存在する場合に良く磁区細分化されることから、望ましくは、RD線間隔は素材の圧延方向平均結晶粒径よりも小さいことがのぞましい。なお、圧延方向の平均結晶粒径D(μm)は、i番目の結晶粒の圧延方向最大長さをDi、面積率をSiとして、D=Σ(i=1〜N)Si×Diと定義する。RD線間隔がDよりも大きい場合には、鉄損が十分に低くならないだけでなく、変圧器鉄損低減に有利とされる還流磁区の絶対量が減少するため、B.F.が比較的大きくなる。
線角度:60°から120°
本発明では、鋼板の幅端部からもう一方の幅端部への直線状あるいは点列状の照射において、始点から終点に向かう照射方向は、圧延方向を横切れば問題はないが、圧延方向から60°から120°の方向とするのが好ましい。望ましくは90°である。90°から大きくずれると、歪み導入部の体積が過度に増大してしまうため、ヒステリシス損が劣化するからである。
加工室圧力:3Pa以下
加工室圧力が3Paより高いと、電子銃から発生した電子が散乱されて、地鉄に還流磁区を形成するための電子のエネルギが減少するために、十分な磁区細分化がなされず、鉄損が改善しないおそれがあるので、加工室圧力は3Pa以下が好ましい。なお、加工室圧力の下限値は特に制限されないが、設備の過度な負担を考えると0.02Pa程度である。
電子線照射パタン:
電子ビームは、電子線を走査させて、通板される鋼板に直線状あるいは点列状に分布される歪を与えていく。このとき、歪を導入する電子線の平均走査速度は30m/s以上とするのが良い。走査速度が30m/sより小さいと、高い生産性を達成できない。より好ましくは、60m/s以上である。
なお、本発明において、上述した工程や製造条件以外については、従来公知の電子ビーム照射方法および方向性電磁鋼板の製造方法を適宜使用することができる。
板厚:0.23mmのコイルを用いて磁区細分化処理を実施し、ついで、SST磁気測定を実施した。
SST磁気測定の試料は、各条件とも、圧延方向長さ:320mm×幅:100mmのサイズで、鋼板幅方向に10枚、圧延方向に7枚の計70枚切り出した。
また、磁区細分化処理の線角度は90°、加工室圧力は0.1Paとした。なお、試験No.14のもののみ、線間隔を平均結晶粒径よりも大きくした。
電子ビームの照射条件、SST磁気測定の結果およびB.F.をそれぞれ表1に記載する。
Figure 2017106117
表1に示した結果を、図9および図10に併せて示す。
図9より、ηが8(deg.)以下で特に透磁率のばらつきが減少することが分かる。また、図10より、本実施例においても、透磁率のばらつきが小さいほど、B.F.が改善されていることが分かる。

Claims (3)

  1. 圧延方向を横切る方向に対して形成され、かつ圧延方向に対して周期的に形成された還流磁区領域を有する方向性電磁鋼板において、
    上記還流磁区領域はそれぞれ、長さが200mm以上で連続し、かつ個々の還流磁区領域における任意位置での幅:d(μm)が、
    0.8d≦d≦1.2d
    (μm):該還流磁区領域の幅の、上記圧延方向を横切る方向での平均値
    であり、上記還流磁区領域の圧延方向の周期的間隔が鋼板の平均結晶粒径以下である変圧器鉄心用方向性電磁鋼板。
  2. 前記d(μm)が、前記d(μm)と、さらに
    0.9d≦d≦1.1d
    の関係を満足する請求項1に記載の変圧器鉄心用方向性電磁鋼板。
  3. 前記の圧延方向に対して周期的に形成された複数の還流磁区領域からなる還流磁区群が、試料全幅にn(≧1)個存在する方向性電磁鋼板において、i番目の還流磁区群における、1つの還流磁区領域の長さをYi(i=1〜n)(mm)とし、コイル全幅をZ(mm)、上記還流磁区が圧延方向を横切る方向と圧延直角方向の傾角をθ(deg.)としたとき、
    1.05Z≧Σ(i=1〜n)Yi×cosθ≧Z
    の関係を満足する請求項1または2に記載の変圧器鉄心用方向性電磁鋼板。
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