本発明の実施例を具体的に説明する前に、基礎となった知見を説明する。本発明の実施例は、車両に搭載された端末装置間において車車間通信を実行するとともに、交差点等に設置された基地局装置から端末装置へ路車間通信も実行する通信システムに関する。このような通信システムは、ITS(Intelligent Transport Systems)とも呼ばれる。通信システムは、IEEE802.11等の規格に準拠した無線LAN(Local Area Network)と同様に、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)と呼ばれるアクセス制御機能を使用する。そのため、複数の端末装置によって同一の無線チャネルが共有される。一方、ITSでは、不特定多数の端末装置へ情報を送信する必要がある。そのような送信を効率的に実行するために、本通信システムは、パケット信号をブロードキャスト送信する。
つまり、車車間通信として、端末装置は、車両の位置・速度・進行方向等の情報を格納したパケット信号をブロードキャスト送信する。また、他の端末装置は、パケット信号を受信するとともに、前述の情報をもとに車両の接近等を認識する。ここで、路車間通信と車車間通信との干渉を低減するために、基地局装置は、複数のサブフレームが含まれたフレームを繰り返し規定する。基地局装置は、路車間通信のために、複数のサブフレームのいずれかを選択し、選択したサブフレームの先頭部分の期間において、制御情報等が格納されたパケット信号をブロードキャスト送信する。
制御情報には、当該基地局装置がパケット信号をブロードキャスト送信するための期間(以下、「路車送信期間」という)に関する情報が含まれている。端末装置は、制御情報をもとに路車送信期間を特定し、路車送信期間以外の期間(以下、「車車送信期間」という)においてCSMA方式にてパケット信号をブロードキャスト送信する。その結果、路車間通信と車車間通信とが時分割多重される。なお、基地局装置からの制御情報を受信できない端末装置、つまり基地局装置によって形成されたエリアの外に存在する端末装置は、フレームの構成に関係なくCSMA方式にてパケット信号を送信する。
このような状況下において、本実施例に係る端末装置は、当該端末装置が搭載された車両(以下、「自車」ともいう)と、他の端末装置が搭載された他の車両(以下、「他車」ともいう)との交差を高精度に判定することを目的とする。特に、端末装置は、構成を簡易にするために、道路形状が示された道路情報を記憶せずに、他の車両と交差する際の相対的な関係を判定する。相対的な関係とは、すれ違い、同方向への走行、それら以外の交差であるとする。
端末装置は、自車の位置・速度・進行方向と他車の位置・速度・進行方向をもとに、自車と他車とが交差するか否かを判定する。交差する場合、端末装置は、交差地点に自車が直進して到達するまでの時間Taと、交差地点に他車が直進して到達するまでの時間Tbを導出し、TaとTbの大きい方の値をTcとする。また、端末装置は、自車と他車とを結ぶ直線を自車と他車とが走行して遭遇するまでの時間Tdも算出する。さらに、端末装置は、TdからTcの間に、自車および他車のヨーレートをもとに、各車両がとりうる進行方向を算出する。進行方向の差分(車両間の進行方向の相対角度)をもとに、端末装置は、すれ違い、同方向への走行、それら以外の交差のいずれかを判定する。
図1は、本発明の実施例に係る通信システム100の構成を示す。これは、ひとつの交差点を上方から見た場合に相当する。通信システム100は、基地局装置10、車両12と総称される第1車両12a、第2車両12b、第3車両12c、第4車両12d、第5車両12e、第6車両12f、第7車両12g、第8車両12h、ネットワーク202を含む。ここでは、第1車両12aのみに示しているが、各車両12には、端末装置14が搭載されている。また、エリア212が、基地局装置10の周囲に形成され、エリア外214が、エリア212の外側に形成されている。
図示のごとく、図面の水平方向、つまり左右の方向に向かう道路と、図面の垂直方向、つまり上下の方向に向かう道路とが中心部分で交差している。ここで、図面の上側が方角の「北」に相当し、左側が方角の「西」に相当し、下側が方角の「南」に相当し、右側が方角の「東」に相当する。また、ふたつの道路の交差部分が「交差点」である。第1車両12a、第2車両12bが、左から右へ向かって進んでおり、第3車両12c、第4車両12dが、右から左へ向かって進んでいる。また、第5車両12e、第6車両12fが、上から下へ向かって進んでおり、第7車両12g、第8車両12hが、下から上へ向かって進んでいる。
通信システム100において、基地局装置10は、交差点に固定して設置される。基地局装置10は、端末装置間の通信を制御する。基地局装置10は、図示しないGPS(Global Positioning System)衛星から受信した信号、あるいは図示しない他の基地局装置10にて形成されたフレームをもとに、複数のサブフレームが含まれたフレームを繰り返し生成する。ここで、各サブフレームの先頭部分に路車送信期間が設定可能であるような規定がなされている。
基地局装置10は、フレーム中の複数のサブフレームのうち、他の基地局装置10によって路車送信期間が設定されていないサブフレームを選択する。基地局装置10は、選択したサブフレームの先頭部分に路車送信期間を設定する。基地局装置10は、設定した路車送信期間においてパケット信号を報知する。路車送信期間において、複数のパケット信号が報知されることもある。また、パケット信号には、例えば、事故情報、渋滞情報、信号情報等が含まれる。なお、パケット信号には、路車送信期間が設定されたタイミングに関する情報およびフレームに関する制御情報も含まれる。
端末装置14は、前述のごとく、車両12に搭載され移動可能である。端末装置14は、基地局装置10からのパケット信号を受信すると、エリア212に存在すると推定する。端末装置14は、エリア212に存在する場合、パケット信号に含まれた制御情報、特に路車送信期間が設定されたタイミングに関する情報およびフレームに関する情報をもとに、フレームを生成する。その結果、複数の端末装置14のそれぞれにおいて生成されるフレームは、基地局装置10において生成されるフレームに同期する。端末装置14は、路車送信期間とは異なった期間である車車送信期間においてパケット信号を報知する。ここで、車車送信期間においてCSMA/CAが実行される。一方、端末装置14は、エリア外214に存在していると推定した場合、フレームの構成に関係なく、CSMA/CAを実行することによって、パケット信号を報知する。端末装置14は、他の端末装置14からのパケット信号をもとに、他の端末装置14が搭載された他の車両12との交差を認識するとともに、交差の際の相対的な関係を判定する。当該判定の詳細は後述する。
図2は、基地局装置10の構成を示す。基地局装置10は、アンテナ20、RF部22、変復調部24、処理部26、制御部28、ネットワーク通信部30を含む。また、処理部26は、フレーム規定部32、選択部34、生成部36を含む。
RF部22は、受信処理として、図示しない端末装置14あるいは他の基地局装置10からのパケット信号をアンテナ20にて受信する。RF部22は、受信した無線周波数のパケット信号に対して周波数変換を実行し、ベースバンドのパケット信号を生成する。さらに、RF部22は、ベースバンドのパケット信号を変復調部24に出力する。一般的に、ベースバンドのパケット信号は、同相成分と直交成分によって形成されるので、ふたつの信号線が示されるべきであるが、ここでは、図を明瞭にするためにひとつの信号線だけを示すものとする。RF部22には、LNA(Low Noise Amplifier)、ミキサ、AGC、A/D変換部も含まれる。
RF部22は、送信処理として、変復調部24から入力したベースバンドのパケット信号に対して周波数変換を実行し、無線周波数のパケット信号を生成する。さらに、RF部22は、路車送信期間において、無線周波数のパケット信号をアンテナ20から送信する。また、RF部22には、PA(Power Amplifier)、ミキサ、D/A変換部も含まれる。
変復調部24は、受信処理として、RF部22からのベースバンドのパケット信号に対して、復調を実行する。さらに、変復調部24は、復調した結果を処理部26に出力する。また、変復調部24は、送信処理として、処理部26からのデータに対して、変調を実行する。さらに、変復調部24は、変調した結果をベースバンドのパケット信号としてRF部22に出力する。ここで、通信システム100は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式に対応するので、変復調部24は、受信処理としてFFT(Fast Fourier Transform)も実行し、送信処理としてIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)も実行する。
フレーム規定部32は、図示しないGPS衛星からの信号を受信し、受信した信号をもとに時刻の情報を取得する。なお、時刻の情報の取得には公知の技術が使用されればよいので、ここでは説明を省略する。フレーム規定部32は、時刻の情報をもとに、複数のフレームを生成する。例えば、フレーム規定部32は、時刻の情報にて示されたタイミングを基準にして、「1sec」の期間を10分割することによって、「100msec」のフレームを10個生成する。このような処理を繰り返すことによって、フレームが繰り返されるように規定される。なお、フレーム規定部32は、復調結果から制御情報を検出し、検出した制御情報をもとにフレームを生成してもよい。このような処理は、他の基地局装置10によって形成されたフレームのタイミングに同期したフレームを生成することに相当する。
図3(a)−(d)は、通信システム100において規定されるフレームのフォーマットを示す。図3(a)は、フレームの構成を示す。フレームは、第1サブフレームから第Nサブフレームと示されるN個のサブフレームによって形成されている。これは、端末装置14が報知に使用可能なサブフレームを複数時間多重することによってフレームが形成されているといえる。例えば、フレームの長さが100msecであり、Nが8である場合、12.5msecの長さのサブフレームが規定される。Nは、8以外であってもよい。図3(b)−(d)の説明は、後述し、図2に戻る。
選択部34は、フレームに含まれた複数のサブフレームのうち、路車送信期間を設定すべきサブフレームを選択する。具体的に説明すると、選択部34は、フレーム規定部32にて規定されたフレームを受けつける。また、選択部34は、図示しないインターフェイスを介して、選択したサブフレームに関する指示を受けつける。選択部34は、指示に対応したサブフレームを選択する。これとは別に、選択部34は、自動的にサブフレームを選択してもよい。その際、選択部34は、RF部22、変復調部24を介して、図示しない他の基地局装置10あるいは端末装置14からの復調結果を入力する。選択部34は、入力した復調結果のうち、他の基地局装置10からの復調結果を抽出する。選択部34は、復調結果を受けつけたサブフレームを特定することによって、復調結果を受けつけていないサブフレームを特定する。
これは、他の基地局装置10によって路車送信期間が設定されていないサブフレーム、つまり未使用のサブフレームを特定することに相当する。未使用のサブフレームが複数存在する場合、選択部34は、ランダムにひとつのサブフレームを選択する。未使用のサブフレームが存在しない場合、つまり複数のサブフレームのそれぞれが使用されている場合に、選択部34は、復調結果に対応した受信電力を取得し、受信電力の小さいサブフレームを優先的に選択する。
図3(b)は、図示しない第1基地局装置10aによって生成されるフレームの構成を示す。第1基地局装置10aは、第1サブフレームの先頭部分に路車送信期間を設定する。また、第1基地局装置10aは、第1サブフレームにおいて路車送信期間につづいて車車送信期間を設定する。車車送信期間とは、端末装置14がパケット信号を報知可能な期間である。つまり、第1基地局装置10aは、第1サブフレームの先頭期間である路車送信期間においてパケット信号を報知可能であり、かつフレームのうち、路車送信期間以外の車車送信期間において端末装置14がパケット信号を報知可能であるような規定がなされる。さらに、第1基地局装置10aは、第2サブフレームから第Nサブフレームに車車送信期間のみを設定する。
図3(c)は、図示しない第2基地局装置10bによって生成されるフレームの構成を示す。第2基地局装置10bは、第2サブフレームの先頭部分に路車送信期間を設定する。また、第2基地局装置10bは、第2サブフレームにおける路車送信期間の後段、第1サブフレーム、第3サブフレームから第Nサブフレームに車車送信期間を設定する。図3(d)は、図示しない第3基地局装置10cによって生成されるフレームの構成を示す。第3基地局装置10cは、第3サブフレームの先頭部分に路車送信期間を設定する。また、第3基地局装置10cは、第3サブフレームにおける路車送信期間の後段、第1サブフレーム、第2サブフレーム、第4サブフレームから第Nサブフレームに車車送信期間を設定する。このように、複数の基地局装置10は、互いに異なったサブフレームを選択し、選択したサブフレームの先頭部分に路車送信期間を設定する。図2に戻る。選択部34は、選択したサブフレームの番号を生成部36へ出力する。
生成部36は、選択部34から、サブフレームの番号を受けつける。生成部36は、受けつけたサブフレーム番号のサブフレームに路車送信期間を設定し、路車送信期間において報知すべきパケット信号を生成する。ひとつの路車送信期間において複数のパケット信号が送信される場合、生成部36は、それらを生成する。パケット信号は、制御情報、ペイロードによって構成されている。制御情報には、路車送信期間を設定したサブフレーム番号等が含まれる。また、ペイロードには、例えば、事故情報、渋滞情報、信号情報等が含まれる。これらのデータは、ネットワーク通信部30によって、図示しないネットワーク202から取得される。処理部26は、変復調部24、RF部22に対して、路車送信期間においてパケット信号をブロードキャスト送信させる。制御部28は、基地局装置10全体の処理を制御する。
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ハードウエアとソフトウエアの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
図4は、端末装置14の構成を示す。端末装置14は、アンテナ50、RF部52、変復調部54、処理部56、制御部58を含む。処理部56は、タイミング特定部60、転送決定部62、取得部64、生成部66、第1処理部76、第2処理部78、第3処理部80、判定部82、通知部70を含み、タイミング特定部60は、抽出部72、キャリアセンス部74を含む。端末装置14は、前述のごとく、車両12に搭載可能である。アンテナ50、RF部52、変復調部54は、図2のアンテナ20、RF部22、変復調部24と同様の処理を実行する。ここでは差異を中心に説明する。
変復調部54、処理部56は、受信処理において、図示しない他の端末装置14あるいは基地局装置10からのパケット信号を受信する。なお、前述のごとく、変復調部54、処理部56は、路車送信期間において、基地局装置10からのパケット信号を受信し、車車送信期間において、他の端末装置14からのパケット信号を受信する。他の端末装置14からのパケット信号には、当該他の端末装置14が搭載される他の車両12の存在位置、進行方向、移動速度等(以下、「位置情報」と総称する)が少なくとも含まれる。さらに、パケット信号には、他の車両12のヨーレート情報も含まれる。ヨーレートは、ヨー角の変化する速さであり、車両12の重心点を通る鉛直軸まわりの回転角速度である。これは、横加速度とともに旋回運動を定義する。ヨーレートは、レートジャイロによって計測される。さらに、ヨーレートを積分するとヨー角になる。他の端末装置14における位置情報、ヨーレート情報の取得には公知の技術が使用されればよいので、ここでは説明を省略する。
抽出部72は、変復調部54からの復調結果が、図示しない基地局装置10からのパケット信号である場合に、路車送信期間が配置されたサブフレームのタイミングを特定する。その際、抽出部72は、図1のエリア212内に存在すると推定する。抽出部72は、サブフレームのタイミングと、パケット信号のメッセージヘッダの内容、具体的には、路車送信期間長の内容をもとに、フレームを生成する。なお、フレームの生成は、前述のフレーム規定部32と同様になされればよいので、ここでは説明を省略する。その結果、抽出部72は、基地局装置10において形成されたフレームに同期したフレームを生成する。パケット信号の報知元が、他の端末装置14である場合、抽出部72は、同期したフレームの生成処理を省略するが、パケット信号に含まれた位置情報、ヨーレート情報を抽出し、位置情報、ヨーレート情報を第1処理部76、第2処理部78へ出力する。
一方、抽出部72は、基地局装置10からのパケット信号を受信していない場合、図1のエリア外214に存在すると推定する。抽出部72は、エリア212に存在していることを推定した場合、車車送信期間を選択する。抽出部72は、エリア外214に存在していることを推定すると、フレームの構成と無関係のタイミングを選択する。抽出部72は、車車送信期間を選択した場合、フレームおよびサブフレームのタイミング、車車送信期間に関する情報をキャリアセンス部74へ出力する。抽出部72は、フレームの構成と無関係のタイミングを選択すると、キャリアセンスの実行をキャリアセンス部74に指示する。
キャリアセンス部74は、抽出部72から、フレームおよびサブフレームのタイミング、車車送信期間に関する情報を受けつける。キャリアセンス部74は、車車送信期間内でCSMA/CAを開始することによって送信タイミングを決定する。一方、キャリアセンス部74は、抽出部72から、フレームの構成に関係のないキャリアセンスの実行を指示された場合、フレームの構成を考慮せずに、CSMA/CAを実行することによって、送信タイミングを決定する。キャリアセンス部74は、決定した送信タイミングを変復調部54、RF部52へ通知し、パケット信号をブロードキャスト送信させる。
転送決定部62は、制御情報の転送を制御する。転送決定部62は、制御情報のうち、転送対象となる情報を抽出する。転送決定部62は、抽出した情報をもとに、転送すべき情報を生成する。ここでは、この処理の説明を省略する。転送決定部62は、転送すべき情報、つまり制御情報のうちの一部を生成部66に出力する。
取得部64は、図示しないGPS受信機、ジャイロスコープ、車速センサ等を含んでおり、それらから供給されるデータによって、図示しない車両12、つまり端末装置14が搭載された車両12の存在位置、進行方向、移動速度等(前述のごとく、「位置情報」と総称する)を取得する。なお、存在位置は、緯度・経度によって示される。進行方向は、方位角によって示され、北を基準方位(0度)として時計回りを正の角度としている。これらの取得には公知の技術が使用されればよいので、ここでは説明を省略する。また、取得部64は、図示しないレートジャイロも含んでおり、それから供給されるデータによって、端末装置14が搭載された車両12のヨーレート情報も取得する。取得部64は、位置情報、ヨーレート情報を生成部66、第1処理部76、第2処理部78へ出力する。
生成部66は、取得部64から位置情報、ヨーレート情報を受けつけ、転送決定部62から制御情報の一部を受けつける。生成部66は、これらが含まれたパケット信号を生成するとともに、キャリアセンス部74において決定した送信タイミングにて、変復調部54、RF部52、アンテナ50を介して、生成したパケット信号をブロードキャスト送信する。これは、車車間通信に相当する。
第1処理部76は、取得部64から位置情報、ヨーレート情報を受けつけるとともに、抽出部72から位置情報、ヨーレート情報を受けつける。第1処理部76は、取得部64から取得した位置情報における存在位置、進行方向をもとに、自車が現在位置から進行方向へ直進する場合の経路(以下、「自車経路」という)を導出する。一方、第1処理部76は、抽出部72から取得した位置情報における存在位置、進行方向をもとに、他車が現在位置から進行方向へ直進する場合の経路(以下、「他車経路」という)を導出する。図5は、第1処理部76および第2処理部78における処理の概要を示す。第1車両12aが前述の自車に相当し、第2車両12bが前述の他車に相当する。第1車両12aが直進した場合の経路が自車経路300であり、第2車両12bが直進した場合の経路が他車経路302である。図4に戻る。
これにつづいて、第1処理部76は、自車経路300と他車経路302とが交差するか否かを判定する。図5の場合、交差地点P1において、自車経路300と他車経路302とが交差する。交差する場合、第1処理部76は、第1車両12aの存在位置から交差地点P1までの自車経路300に沿った距離を第1車両12aの移動速度で除算することによって、第1車両12aが交差地点P1に到達するまでの時間Taを導出する。また、第1処理部76は、第2車両12bの存在位置から交差地点P1までの他車経路302に沿った距離を第2車両12bの移動速度で除算することによって、第2車両12bが交差地点P1に到達するまでの時間Tbを導出する。
第1処理部76は、時間Taと時間Tbとを比較し、大きい方を選択する。選択した時間は、第1到達時間Tcとされる。このような第1到達時間Tcは、取得部64において取得した位置情報と、変復調部54において受信したパケット信号に含まれた位置情報とをもとに導出された時間であって、かつ自車と他車とのそれぞれが直進して交差する地点までの時間であるといえる。第1処理部76は、第1到達時間Tcを第3処理部80へ出力する。一方、交差しない場合、第1処理部76は、処理を終了する。
第2処理部78は、取得部64から位置情報、ヨーレート情報を受けつけるとともに、抽出部72から位置情報、ヨーレート情報を受けつける。第2処理部78は、自車と他車とを結ぶ直線(以下、「最短経路」という)を導出する。これは、図5において最短経路304と示される。また、第2処理部78は、自車の移動速度と他車の移動速度との和によって、最短経路の距離を除算することによって、自車と他車とが遭遇する遭遇地点P2までの第2到達時間Tdを導出する。このような第2到達時間Tdは、取得部64において取得した位置情報と、変復調部54において受信したパケット信号に含まれた位置情報とをもとに導出された時間であって、かつ自車と他車とのそれぞれが、自車と他車とを結ぶ直線を走行して遭遇する地点までの時間であるといえる。第2処理部78は、第2到達時間Tdを第3処理部80へ出力する。なお、第1処理部76において処理が終了された場合、第2処理部78は処理を実行しない。
第3処理部80は、第1処理部76から第1到達時間Tcを受けつけるとともに、第2処理部78から第2到達時間Tdを受けつける。第3処理部80は、第2到達時間Tdから第1到達時間Tcの間に、取得部64において取得した自車のヨーレート情報によって、自車がとりうる進行方向の第1範囲を導出する。また、第3処理部80は、第2到達時間Tdから第1到達時間Tcの間に、変復調部54において受信したパケット信号に含まれた他車のヨーレート情報によって、他車がとりうる進行方向の第2範囲を導出する。
図6(a)−(b)は、第3処理部80における処理の概要を示す。図6(a)は、自車の進行方向(方位角)のとりうる第1範囲310を導出するための処理の概要を示す。自車の進行方向がDaと示され、自車のヨーレート情報がYaと示される。第3処理部80は、Da+YaTdを計算するとともに、Da+YaTcを計算する。図6(a)に示されるようにそれらの間の角度が第1範囲310に相当する。図6(b)は、他車の進行方向(方位角)のとりうる第2範囲312を導出するための処理の概要を示す。他車の進行方向がDbと示され、他車のヨーレート情報がYbと示される。第3処理部80は、Db+YbTdを計算するとともに、Db+YbTcを計算する。図6(b)に示されるようにそれらの間の角度が第2範囲312に相当する。図4に戻る。第3処理部80は、第1範囲310に関する情報と第2範囲312に関する情報とを判定部82へ出力する。
判定部82は、第3処理部80から、第1範囲310に関する情報と第2範囲312に関する情報とを受けつける。判定部82は、第1範囲310と第2範囲312との差分を計算する。具体的に説明すると、判定部82は、第1範囲310に含まれた方位角の最小値と最大値と、第2範囲312に含まれた方位角の最小値と最大値とをもとに、第1範囲310と第2範囲312との間における方位角の差から、車両間の相対角度の最小値から最大値の範囲を有した差分を計算する。ここでは、第1範囲310の最大値と第2範囲312の最大値との差、第1範囲310の最大値と第2範囲312の最小値との差、第1範囲310の最小値と第2範囲312の最大値との差、第1範囲310の最小値と第2範囲312の最小値との差が計算される。さらに、判定部82は、これらの中から、差分の最小値と最大値を選択する。判定部82は、方位角の差分と判定基準を比較することによって、自車と他車が交差する際の相対的な関係を判定する。
図7は、判定部82における判定基準を示す。図示のごとく、右向きに0度が規定されるとともに、時計回りに、90度、180度、270度が規定される。360度になると0度に戻る。また、180度を中心にした所定の範囲が「すれ違い領域」として規定され、0度を中心にした所定の範囲が「同一方向走行領域」として規定される。所定の領域は、例えば、±15度のように設定される。なお、すれ違い領域における所定の領域と、同一方向走行領域における所定の領域とが別の値とされてもよい。また、すれ違い領域と同一方向走行領域以外の領域のうち、90度側の領域が第1交差領域として規定され、270度側の領域が第2交差領域として規定される。
判定部82は、差分の絶対値がすれ違い領域を含む場合に、相対的な関係がすれ違いであると判定する。なお、差分は、車両間の相対角度の最小値と最大値とを含んだ範囲であるので、当該範囲のいずれかが、すれ違い領域に含まれるかが判定される。以下の判定においても同様である。また、判定部82は、差分の絶対値が同一方向走行領域を含む場合に、相対的な関係が同方向への走行であると判定する。判定部82は、その他の場合、つまり差分の絶対値が第1交差領域あるいは第2交差領域にすべて含まれる場合に、相対的な関係が交差であると判定する。図4に戻る。判定部82は、判定結果を通知部70へ出力する。
通知部70は、図示しないモニタなどに、受信したパケット信号の内容を表示する。通知部70は、判定部82からの判定結果を入力する。通知部70は、モニタあるいはスピーカを介して、判定結果、つまりすれ違い、同方向への走行、交差のいずれかを運転者に通知する。さらに、通知部70は、基地局装置10からのパケット信号に含まれた情報も運転者へモニタやスピーカを介して通知する。
以上の構成による通信システム100の動作を説明する。図8は、端末装置14による判定手順を示すフローチャートである。交差する場合(S10のY)、第1処理部76は、第1到達時間を導出する(S12)。第2処理部78は、第2到達時間を導出する(S14)。第3処理部80は、第1範囲310、第2範囲312を導出する(S16)。差分がすれ違い領域を含むのであれば(S18のY)、判定部82は、すれ違いと判定する(S20)。差分がすれ違い領域を含まず(S18のN)、差分が同一方向走行領域を含むのであれば(S22のY)、判定部82は、同一方向走行と判定する(S24)。差分が同一方向走行領域を含まなければ(S22のN)、判定部82は、交差と判定する(S26)。交差しない場合(S10のN)、処理は終了される。
本発明の実施例によれば、直進して交差するまでの第1到達時間と、直線的に遭遇するまでの第2到達時間とによって導出される第1範囲と第2範囲とをもとに、交差する際の相対的な関係を判定するので、道路情報を保持していなくても、車両同士の交差を推定できる。また、変化しうる角度の範囲をもとに、交差の相対的な関係を推定するので、車両同士の交差の推定精度を向上できる。また、差分をもとに、すれ違い、同方向への走行、交差のいずれかを判定するので、相対的な関係を詳細に判定できる。
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素あるいは各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
本実施例において、判定部82は、交差の相対的な関係として、すれ違い、同方向への走行、交差のいずれかを判定する。しかしながらこれに限らず例えば、判定部82は、すれ違うか否かを判定してもよく、同方向への走行であるか否かを判定してもよい。また、判定部82は、すれ違いあるいは同方向への走行であるか否かを判定してもよい。本変形例によれば、判定部82の処理を簡易にできる。
本実施例において、自車と他車とが交差しない場合に、第1処理部76は処理を終了しているが、例えば、交差しない場合に加えて、第1到達時間Tcが所定の時間を越えている場合にも、第1処理部76の処理を終了するようにしてもよい。本変形例によれば、判定部82での処理負担を軽減することができる。
本実施例において、第1到達時間Tcは、自車と他車とのそれぞれが直進して交差する地点までの時間としているが、自車と他車とのそれぞれが直進して衝突すると予想される地点までの時間としてもよい。衝突予想は、例えば、時間Taと時間Tbと時間差が所定の時間以内であることによって行われる。本変形例によれば、判定部82での処理負担を軽減することができる。また、車両の変化しうる角度の範囲をもとに、車両間の相対的な関係を再判定するので、車両の進路が曲がっている場合に発生するおそれのある衝突の誤判定を抑制することができる。
本発明の一態様の概要は、次の通りである。本発明のある態様の無線装置は、車両に搭載可能な無線装置であって、他の無線装置からのパケット信号であって、かつ当該他の無線装置が搭載される他の車両の位置情報とヨーレート情報とを少なくとも含んだパケット信号を受信する受信部と、本無線装置が搭載される車両の位置情報とヨーレート情報とを取得する取得部と、取得部において取得した位置情報と、受信部において受信したパケット信号に含まれた位置情報とをもとに、車両と他の車両とのそれぞれが直進して交差する地点までの第1到達時間を導出する第1処理部と、取得部において取得した位置情報と、受信部において受信したパケット信号に含まれた位置情報とをもとに、車両と他の車両とのそれぞれが、車両と他の車両とを結ぶ直線を走行して遭遇する地点までの第2到達時間を導出する第2処理部と、第2処理部において導出した第2到達時間から、第1処理部において導出した第1到達時間の間に、取得部において取得したヨーレート情報によって、車両がとりうる進行方向の第1範囲を導出するとともに、第2処理部において導出した第2到達時間から、第1処理部において導出した第1到達時間の間に、受信部において受信したパケット信号に含まれたヨーレート情報によって、他の車両がとりうる進行方向の第2範囲を導出する第3処理部と、第3処理部において導出した第1範囲と第2範囲との差分をもとに、車両と他の車両が交差する際の相対的な関係を判定する判定部と、を備える。
この態様によると、直進して交差するまでの第1到達時間と、直線的に遭遇するまでの第2到達時間とによって導出される第1範囲と第2範囲とをもとに、交差する際の相対的な関係を判定するので、車両同士の交差の推定精度を向上できる。
判定部は、(1)差分の絶対値が180度を中心にした所定の範囲に含まれる場合に、相対的な関係がすれ違いであると判定し、(2)差分の絶対値が0度を中心にした所定の範囲に含まれる場合に、相対的な関係が同方向への走行であると判定し、(3)その他の場合に、相対的な関係が交差であると判定してもよい。この場合、差分をもとに、すれ違い、同方向への走行、交差のいずれかを判定するので、相対的な関係を詳細に判定できる。