以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための具体的な形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、
下記の形態のみには限定されない。
なお、以下では、低級オレフィンの酸化生成物の一つである、エチレンオキシドを被精留化合物として精留する工程を含む、エチレンオキシドの製造方法を例示して説明するが、被精留化合物はこれに限定されるものではない。本発明の精留装置の運転方法は、被精留化合物を加熱により気化させ、当該気化させた被精留化合物を冷却して液化させる目的であれば、いかなる被精留化合物を精留する際であっても、好適に用いることができる。被精留化合物としては、例えば、種々のエーテル、アルコール、ケトン、アルデヒド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでも、本発明の精留装置の運転方法は、被精留化合物が低沸点化合物であるときに有用である。具体的には、被精留化合物が常圧(1.01×105Pa)における沸点が5〜200℃である化合物であるとき、特に有用に用いられる。
以下で説明するエチレンオキシドの製造方法は、図1により概説される。図1は、本発明の一実施形態に係る精留装置の運転方法を実施するエチレンオキシドの製造プロセスの構成例を示すブロック図である。図1に示すエチレンオキシドの製造プロセスは、主として、エチレンを酸素と反応させてエチレンオキシドを得る工程(以下、単に「反応系」とも称する)、副生成物である炭酸ガスを回収する工程(以下、単に「炭酸ガス系」とも称する)、反応系において得られたエチレンオキシドを生成する工程(以下、単に「精製系」とも称する)を含む(図1)。
ここでは、まず、本発明の特徴的な要素である、精留装置の運転方法の実施を含む、精製系について説明する。
≪精製系≫
まず、精製系の前段階としての反応系において製造されたエチレンオキシドは、吸収塔2において吸収液により吸収されている。そして、当該吸収液は、当該吸収塔2の塔底液として、エチレンオキシド精製系へと送られる。精製系は、一例として、放散工程、脱水工程、軽質分分離工程、重質分分離工程(精留工程)などからなっている。本発明の精留装置の運転方法は、専ら上記重質分分離工程(精留工程)において実施される。また、精製系における上記重質分分離工程(精留工程)以外の工程の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。
[放散工程、脱水工程および軽質分分離工程]
以下では、まず、精製系にて行われる放散工程、脱水工程、軽質分分離工程について、図2および図3を参照して概説する。
図2は、本発明の一実施形態に係るエチレンオキシドの製造プロセスを実施するためのプロセスの構成例を示すブロック図である。
吸収塔2の塔底液(吸収液)は、エチレンオキシド放散塔(以下、単に「放散塔」とも称する)11へ供給される前に、通常は放散塔11における放散に適した温度にまで予め加熱される。具体的には、図2に示すように、吸収塔2の塔底液(吸収液)は導管12を通じて熱交換器13へ供給される。そして、この熱交換器13において、放散塔11の塔底液との間での熱交換が行われ、さらに必要であれば加熱器14によって加熱され、吸収塔2の塔底液(吸収液)は70〜110℃程度の温度まで加熱される。本実施形態において、放散塔11の塔底液との熱交換によって加熱された吸収塔2の塔底液(吸収液)は、導管15を通じて気液分離タンク16に供給される。気液分離タンク16においては、一部エチレンオキシドおよび水を含む不活性ガスの軽質分ガスが分離され、導管17を通じて排出される。一方、軽質分ガスをフラッシュした残部の吸収液は、導管18を通じて放散塔11の上部へ供給される。
続いて、例えば、図2に示すように水蒸気等の加熱媒体をリボイラー19へ供給し、当該リボイラー19において加熱された加熱媒体を用いて放散塔11を加熱するか、または、放散塔11の塔底部へ直接水蒸気を供給することによって放散塔11を加熱する。このようにして放散塔11が加熱されることによって、放散塔11の上部から供給された吸収液に含まれるエチレンオキシド(通常はその99質量%以上)が放散され、放散塔11の塔頂部から導管20を経て排出される。
エチレンオキシドが放散された後の残部の吸収液は、図2に示すように、放散塔11の塔底液として抜き出され、吸収塔2における吸収液として吸収塔2の上部へ供給され、循環使用されうる。ただし、吸収液の組成を調節する目的で、別途設けた導管を通じて、新鮮な水や、必要に応じて上述した添加剤を吸収塔2へと供給してもよい。また、吸収塔2と放散塔11との間を循環する吸収液の一部は放散塔11の塔底部から抜き出される。この塔底液は、エチレン酸化反応工程とエチレンオキシド放散工程との間で吸収液中に副生したエチレングリコールを含有しており、その一部は、導管21および導管22を通じて抜き出される。導管22を通じて抜き出された液は、燃焼処理に供されるか、または、含有するエチレングリコールを濃縮して回収するためのエチレングリコール濃縮工程に供給される。一方、導管22を通じて抜き出されなかった放散塔の塔底液は、熱交換器13を通過することで吸収塔2の塔底液との熱交換により冷却されて、吸収塔2の塔頂部へと循環される。
放散塔11の塔頂部から放散された、エチレンオキシドを含む放散物は、導管20を通じて、導管23および導管24に冷却水が通る放散塔凝縮器25へ送り、凝縮液は導管26を通じて放散塔11の塔頂部へ還流し、未凝縮蒸気は導管27を通じて脱水塔28(図3)へ供給される。
図3は、本発明の一実施形態に係るエチレンオキシドの製造プロセスを実施するためのプロセスの構成例を示すブロック図である。
脱水塔28に供給されたエチレンオキシドを含む蒸気は、導管29を通して還流される液と接触してよりエチレンオキシド濃度の高い蒸気となり、塔底から抜き出されるエチレンオキシド濃度の低い液は導管を通して放散塔凝縮器25へ送られる。
脱水塔28の塔頂部から排出された、エチレンオキシドを含む蒸気は、導管30を通じて、導管31および導管32に冷却水が通る脱水塔凝縮器33へ送られ、凝縮液の一部は導管29を通して脱水塔28の塔頂部へ還流し、脱水塔凝縮器33の未凝縮蒸気(エチレンオキシド含有未凝縮ガス)は導管34を通してエチレンオキシド再吸収塔(図示せず)へ供給される。エチレンオキシド再吸収塔では、上述した吸収塔2と同様に、吸収液との向流接触によってエチレンオキシドが再吸収される。
脱水塔凝縮器33の凝縮液の残部は導管36を通して軽質分分離塔37へ供給される。軽質分分離塔37のリボイラー38により水蒸気等の加熱媒体で導管39を通じて加熱する方式により加熱し、軽質分分離塔37の塔頂部より軽質分を含むエチレンオキシド蒸気は導管40を通じて導管41および導管42に冷却水が通る軽質分分離塔凝縮器43へ送り、凝縮液は導管44を通じて軽質分分離塔37の塔頂部へ還流し、軽質分分離塔凝縮器43の未凝縮蒸気(エチレンオキシド含有未凝縮ガス)は導管45を通してエチレンオキシドを回収するため上記のエチレンオキシド再吸収塔へ供給される。
軽質分分離塔37の塔底液は導管46を通してエチレンオキシド精留塔(以下、単に「精留塔」とも称する)47へ供給され、以下に続く重質分分離工程(精留工程)が行われる。
[重質分分離工程(精留工程)]
エチレンオキシドの製造プロセスでは、上記各工程を経た後、さらに以下の重質分分離工程(精留工程)が行われる。当該重質分分離工程(精留工程)において、本発明の一実施形態に係る精留装置の運転方法が実施される。
以下、図4を参照しつつ、精留工程における精留装置の運転方法について詳説する。図4は、本発明の一実施形態に係る精留装置の運転方法(エチレンオキシドの精留工程)を実施するためのプロセスの構成例を示すブロック図である。
精製工程は、上記軽質分分離塔37から、導管46を通して精留塔47に供給された塔底液を精留し、さらに高純度のエチレンオキシドを得るために行われる。ここで、精留工程に用いられる各機器を一括して「精留装置」と称し、図4では、二点鎖線にて示される範囲内の機器をまとめて精留装置100として記載する。本発明に係る精留装置100は、少なくとも、被精留化合物であるエチレンオキシドが内部を流通する精留塔47と、当該精留塔内の被精留化合物を加熱して気化させる加熱器としてのリボイラー48と、当該加熱器により加熱されて気化した被精留化合物を凝縮する凝縮器としての精留塔凝縮器(以下、単に「凝縮器」とも称する)51とを有する。詳細には、精留装置100は、精留塔47と、精留塔47の塔底部に加熱器としてのリボイラー48と、精留塔47の塔頂部に凝縮器としての凝縮器51とを備えている。塔底部に設けられたリボイラー48によって加熱されることにより、精留塔47の内部のエチレンオキシドが気化し、当該気化したエチレンオキシドは、塔頂部に設けられた凝縮器51によって冷却されることにより液化する。なお、精留塔47の塔底液は、アセトアルデヒド、水、および酢酸等の高沸点不純物の重質分分離のため、必要により導管55を通して抜き出される。
精留装置100に備えられる精留塔47の形式は、特に制限されるものではなく、棚段塔型式、充填塔型式等の公知の構造を採用することができる。棚段塔型式の蒸留塔の棚段としては種々あるがバブルキャップトレイ、ユニフラックストレイ、ターボグリッドトレイ、リップトレイ、フレキシトレイ、シーブトレイ、バラストトレイ等が挙げられる。また、充填塔型式の精留塔の充填物としては、ラシヒリング、ボールリング、サドル型リング、スパイラルリング、マクマホンパッキング、インターロックスメタルパッキング、等が挙げられる。
精留塔47の運転条件は、塔頂温度12〜75℃、塔頂部圧力0.10〜0.80MPa gauge、塔底温度35〜80℃、塔底圧力0.10〜0.80MPa gaugeであると好ましい。
精留装置100に備えられるリボイラー48もまた、公知の構造のものを適宜用いることができる。リボイラー48へは、当該リボイラー48を加熱するための加熱媒体として、圧力0.05〜0.20MPa gauge程度の水蒸気が供給されている。ただし、加熱媒体は他のものであってもよく、例えば、グリコール水溶液、温水などが用いられうる。また、精留塔47のリボイラー48を加熱するための加熱媒体を、後述する炭酸ガス放散塔8の塔頂部からの排ガスとの熱交換によって加熱してもよい。かような加熱方法を用いるため、上記加熱媒体(水蒸気)のリボイラー48への循環経路56上には熱交換器57が設置されている(図1を参照)。そして、この熱交換器57に対し、炭酸ガス放散塔8の塔頂部からの排ガスが導管58を通じて供給されるようにすることで、上記加熱媒体(水蒸気)との間で熱交換が起こって、当該加熱媒体(水蒸気)を加熱することができる。なお、熱交換器57で熱交換された後の排ガスは、図1に示すように、導管59を経由して再度炭酸ガス放散塔8の気液分離部10に循環させた後に大気中にパージするようにしてもよい。
精留装置100に備えられる凝縮器51には、少なくとも、電気を動力源とする第一の送水ポンプ51b(第一の冷却媒体移送装置)と、電気以外を動力源とする第二の送水ポンプ51c(第二の冷却媒体移送装置)と、を有している。なお、図4では、一点鎖線にて示される範囲内の機器をまとめて凝縮器51として記載する。凝縮器51は、上記第一および第二の送水ポンプ51bおよび51c以外に、さらに、エチレンオキシド蒸気を凝縮させるための凝縮部51aを備える。
凝縮部51aは、その内部に冷却媒体を流通させることができ、これによってエチレンオキシド蒸気を液化させると共に凝縮により得られたエチレンオキシドを回収することができる構造であれば、特に限定されるものではなく、公知の構造が用いられる。当該凝縮部51aは、各導管49a、49b、49c、49dを通して輸送される冷却媒体によって冷却される。凝縮部51aを冷却するための冷却媒体は、第一および/または第二の送水ポンプ51bおよび51cによって各導管49a、49b、49c、49d内を通って凝縮部51aへと輸送される。このようにして冷却された凝縮部51aに対し、精留塔47の塔頂部から、エチレンオキシド蒸気が送られる。
凝集器51に送られたエチレンオキシド蒸気は、冷却されることにより液化し、導管52を通して送液ポンプ51dに送られ、一部は精留塔47の塔頂部へ還流液として供給され、残部は導管53を通して製品エチレンオキシド(製品EO)として抜き出される。凝縮器51の未凝縮蒸気(エチレンオキシド含有未凝縮ガス)は導管54を通してエチレンオキシドを回収するためエチレンオキシド再吸収塔へ供給される。
ここで、凝縮器51に備えられる第一および第二の送水ポンプ51bおよび51cは、共に冷水塔60からの冷却水(冷却媒体)を凝縮部51aに輸送するものであるが、その動力源が互いに異なる。具体的には、第一の送水ポンプ51bは、その動力源として電気を用いる一方、第二の送水ポンプ51cは電気以外をその動力源として用いる。そして、本発明は、非定常時、たとえば、停電時や第一の送水ポンプ51bが破損した場合等において、第一の送水ポンプ51bが稼働停止した後に、第二の送水ポンプ51cを動作させることを特徴としている。なお、上記において「第一の送水ポンプ51bが稼働停止した」とは、装置自体の故障に起因するものや、第一の送水ポンプ51bへの電力供給が遮断されたことに起因するものが含まれる。
このように、通常運転時に稼働している第一の送水ポンプ51bが不測の事態により停止してしまった場合に、即座に第二の送水ポンプ51cを稼働させることで、凝縮部51aへの冷却媒体の供給が継続的に行われる。したがって、本発明によれば、精留工程において、凝縮器51が正常に動作しない場合(すなわち、通常時に稼働している第一の送水ポンプ51bが稼働しなくなった場合)であっても、精留塔47内の圧力上昇を生じさせることなく、凝縮器51や精留塔47の機器の破損を防止することができる。
本発明の精留装置の運転方法は、上記第一の送水ポンプ51bの稼働停止が、電力供給が遮断されたことに起因する場合に特に効果を発揮する。電力供給の遮断は特に緊急性の高いものであり、かような場合の対処ができる点で、本発明は特に有用である。
通常、エチレンオキシドの精留塔47は、塔底温度35〜80℃、塔底圧力0.10〜0.80MPa gaugeで精製を行う。第一の送水ポンプ51bの稼働停止から、第二の送水ポンプ51cを動作させるまでの時間は特に制限されないが、第二の送水ポンプ51cを動作させるタイミングとしては、まず、第一の送水ポンプ51bの稼働停止信号を精留塔100の制御部(計器室における計器板等)において受信した時点で動作させると好ましい。また、第二の送水ポンプ51cを動作させる別のタイミングとしては、第一の送水ポンプ51bへの電力供給が遮断された時点、すなわち、精留装置100の制御部において停電信号を受信した時点で動作させてもよい。したがって、本発明に係る運転方法では、第一の送水ポンプ51bの稼働停止信号または停電信号を受信したときに第二の送水ポンプ51cを動作させると好ましい。第一の送水ポンプ51bが稼働しなくなった時点、または第一の送水ポンプ51bへの電力供給が遮断された時点、すなわち、精留装置100の制御部において稼働停止信号または停電信号を受信した時点で第二の送水ポンプ51cを動作させることができれば、精留塔47の内部圧力を実用上問題のない範囲内に制御することができるため、機器の破損を防止することができる。
第一の送水ポンプ51bの稼働停止後に第二の送水ポンプ51cを動作させる方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、以下の方法が挙げられる。すなわち、冷却媒体の流量を計測する計器等により、第一の送水ポンプ51bの稼働停止が確認された後、手動で第二の送水ポンプ51cを動作させてもよいし、また、精留装置100の制御部において稼働停止信号または停電信号を受信した際に、自動的に第二の送水ポンプ51cを動作させる制御システムを構築することにより行ってもよい。第二の送水ポンプ51cをより迅速に動作させることができるという点で、後者の方法(すなわち、稼働停止信号または停電信号を受信した際、自動的に第二の送水ポンプ51cを動作させる制御システム)を用いることが好ましい。なお、上記制御システムは、公知の構成をそのまま適用することによって構築してもよいし、適宜改変して構築してもよい。
本発明に係る精留装置100に備えられる凝縮器51の第一および第二の送水ポンプ51bおよび51cの構造は特に制限されず、公知のものを適宜用いることができる。
上記第一の送水ポンプ51bは、その動力源として電気を用いるものであり、公知のポンプを用いることができる。使用可能なポンプとしては、渦巻きポンプ、タービンポンプ等の遠心ポンプ;軸流ポンプ等のプロペラポンプ;カスケードポンプ等の摩擦ポンプ;ピストンポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ等の往復動ポンプ;ギヤーポンプ、偏心ポンプ、スクリューポンプ等のロータリーポンプなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
一方、第二の送水ポンプ51cは、その動力源として電気を用いないものであり、その動力源が電気以外であるという点で、第一の送水ポンプ51bとは異なる。このとき、その動力源としては軽油、重油、LNG(液化天然ガス)、空気、水蒸気等を用いることができるが、これに限定されるものではない。これら動力源の中でも、容易に入手できるという理由から、軽油、重油、空気、水蒸気からなる群から選択される少なくとも一種を動力源として用いると好ましい。さらに、これらのなかでも、保存しやすく、取り扱いが容易であるという理由から、軽油が好ましい。なお、第二の送水ポンプ51cとして用いられうるポンプの種類は、上記第一の送水ポンプ51bと同様のものを用いることができる。凝縮器51に備えられる第二の送水ポンプ51cは、二以上であってもよく、使用するポンプの輸送能力等に応じて適宜決定される。
第一の送水ポンプ51bによる冷却媒体の流量(すなわち、導管49dによって凝縮部51aに流入する冷却媒体の流量)は、精留塔47の規模、塔底温度等にも依存する。第一の送水ポンプ51bが停止した場合、その流量は急速に低下し、なくなるが、ここで第二の送水ポンプ51cを動作させ、これにより冷却媒体の流量を回復することにより、凝縮部51aの冷却を効果的に行うことができる。このとき、第二の送水ポンプ51cの稼働後の冷却媒体の流量は、第一の送水ポンプ51bが稼働しているときの流量より少なくてもよい。
なお、上記では、冷却媒体として水を用いた場合について記載したが、冷却媒体は、これに限られるものではない。冷却媒体としては、その他公知の冷却媒体を適宜用いることができるが、比熱が高く安価である点で、水が好ましい。このとき、冷却媒体としての水は、工業用水、散水用水、消化用水等を適宜用いることができる。なお、図4では、第一および第二の送水ポンプ51bおよび51cが共に同一の冷水塔60から水を採取した構成を図示しているが、これらは互いに異なる貯水源から水を採取する構成としてもよい。また、図4では、冷却媒体は各導管49aおよび49b、49cおよび49dを通してそれぞれ凝縮部51aに流入し、共通の導管50を経由して冷水塔60へと戻る構成を図示しているが、凝縮部51aから冷水塔60の間の冷却媒体の移送用導管は、二系統以上としてもよい。さらに、第二の送水ポンプ51cは、凝縮部5aに対してのみ冷却媒体を輸送する構成に限定されるものではなく、上述の放散工程、脱水工程および軽質分分離工程においてそれぞれ用いられる、放散塔凝縮器25、脱水塔凝縮器33および軽質分分離塔凝縮器43等に対しても冷却媒体を輸送する構成としてもかまわない。
上記の通り、本発明に係る精留装置の運転方法は、エチレンオキシドの精留工程のために好適に用いられる。このように、本発明に係る精留装置の運転方法は、被精留化合物が低沸点化合物、特に低級オレフィン(具体的には、炭素原子数2〜5のオレフィン)の酸化生成物であるときに好適に用いられる。そして、本発明の精留装置の運転方法は、上記低級オレフィンの酸化生成物が、エチレンオキシドであるときにおいて特に有用である。
≪反応系≫
上記の精製系において精製されるエチレンオキシド(より詳細には、エチレンオキシドを含有する反応生成ガス)の生成は、特に制限されないが、例えば、以下のように、エチレンの接触気相酸化反応を用いて行われると好ましい。具体的には、エチレンを銀触媒の存在下、分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化させる工程(以下、「エチレン酸化反応工程」とも称する)を経ることにより得られたものであると好ましい。以下、図1を参照しつつ、エチレンの接触気相酸化反応によってエチレンオキシドを製造する系(反応系)について説明する。
エチレンオキシドを製造する際、接触気相酸化反応の技術自体は広く知られたものであり、本発明の実施にあたっても、従来公知の知見が適宜参照されうる。なお、反応生成ガスの組成等の具体的な形態に特に制限はない。一例として、反応生成ガスは、通常0.5〜5容量%のエチレンオキシドの他、未反応酸素、未反応エチレン、生成水、二酸化炭素、窒素、アルゴン、メタン、エタン等のガスに加えて、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドのアルデヒド類、酢酸等の有機酸類を微量含有している。
図1を参照すると、まず、エチレンや分子状酸素を含有する原料ガスは、昇圧ブロワ4で昇圧された後、熱交換器(図示せず)で加熱されてエチレン酸化反応器1に供給される。エチレン酸化反応器1は通常、銀触媒が充填された反応管を多数備えた多管式反応器である。エチレン酸化反応工程で生成した反応生成ガスは、熱交換器(図示せず)を通過することで冷却された後、エチレンオキシド吸収塔(以下、単に「吸収塔」とも称する)2に供給される。具体的には、反応生成ガスは吸収塔2の塔底部から供給される。一方、吸収塔2の塔頂部からは、水を主成分とする吸収液が供給される。これにより、吸収塔2の内部において気液の向流接触が行われ、反応生成ガスに含まれるエチレンオキシド(通常は99質量%以上)が吸収液に吸収される。また、エチレンオキシドの他にも、エチレン、酸素、二酸化炭素、不活性ガス(窒素、アルゴン、メタン、エタン等)、並びにエチレン酸化反応工程で生成したホルムアルデヒド等の低沸点不純物、アセトアルデヒド、酢酸等の高沸点不純物もその実質量が同時に吸収される。また、吸収液の組成について特に制限はなく、水を主成分とするもののほか、特開平8−127573号公報に開示されているようなプロピレンカーボネートが吸収液として用いられてもよい。また、必要に応じて、吸収液には添加剤が添加されうる。吸収液に添加されうる添加剤としては、例えば、消泡剤やpH調整剤が挙げられる。消泡剤としては、エチレンオキシドおよび副生エチレングリコール等に対して不活性であり、吸収液の消泡効果を有するものであればいかなる消泡剤も使用されうるが、代表的な例としては、水溶性シリコンエマルションが吸収液への分散性、希釈安定性、熱安定性が優れているため、効果的である。また、pH調整剤としては、例えば、カリウム、ナトリウムといったアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩等の、吸収液に溶解しうる化合物が挙げられ、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムが好ましい。なお、吸収液のpHは、好ましくは5〜12であり、より好ましくは6〜11である。
吸収塔2としては、通常、棚段塔形式または充填塔形式の吸収塔が用いられうる。吸収塔2の操作条件としては、反応生成ガス中のエチレンオキシド濃度が0.5〜5容量%、好ましくは1.0〜4容量%であり、吸収塔2の操作圧は0.2〜4.0MPa gauge、好ましくは1.0〜3.0MPa gaugeである。吸収操作は、高圧ほど有利であるが、そのとりうる値は酸化反応器の運転圧力に応じて決定されうる。また、反応生成ガスに対する吸収液のモル流量比(L/V)は、通常0.30〜2.00である。また、反応生成ガスの標準状態における空間線速度(GHSV[NTP])は、通常400〜6000h−1である。
吸収塔2において吸収されなかったエチレン、酸素、二酸化炭素、不活性ガス(窒素、アルゴン、メタン、エタン)、アルデヒド、酸性物質等を含有するガスは、吸収塔2の塔頂部から導管3を通じて排出される。そして、この排出ガスは、昇圧ブロワ4によって圧力を高められた後、導管5を通じてエチレン酸化反応器1へと循環される。なお、エチレン酸化反応工程の詳細については上述したとおりである。ここで、エチレン酸化反応工程は通常、銀触媒が充填された反応管を多数備えた酸化反応器中で、加圧(1.0〜3.0MPa gauge程度の圧力)条件下にて行われる。このため、吸収塔2の塔頂部からの排出ガスをエチレン酸化反応工程へと循環する前に、昇圧ブロワ4等の昇圧手段を用いて昇圧する必要があるのである。
≪炭酸ガス系≫
好ましい実施形態において、図1に示すように、吸収塔2の塔頂部から排出されるガス(炭酸ガス含有ガス)の少なくとも一部を、昇圧ブロワ4等の昇圧手段により昇圧し、導管6を通じて炭酸ガス吸収塔7へ供給する。以下、図1を参照しつつ、炭酸ガス吸収塔7へのガスの導入に始まる炭酸ガス回収系(以下、単に「炭酸ガス系」とも称する)について説明する。
上述したように吸収塔2の塔頂部から排出されるガスが加圧されて(導管6を通じて)炭酸ガス吸収塔7へ導入される場合、その際のガス圧力は0.5〜4.0MPa gauge程度に調節され、ガス温度は80〜120℃程度に調節される。炭酸ガス吸収塔7の後段には炭酸ガス放散塔8が設置されており、この炭酸ガス放散塔8の塔底部からはアルカリ性吸収液が炭酸ガス吸収塔7の上部へ供給される。そして、このアルカリ性吸収液との向流接触により、炭酸ガス吸収塔7へ導入されたガスに含まれる炭酸ガスや、少量の不活性ガス(例えば、エチレン、メタン、エタン、酸素、窒素、アルゴン等)が吸収される。炭酸ガス吸収塔7の塔頂部から排出される未吸収ガスは導管3へ循環され、新たに補充される酸素、エチレン、メタン等と混合された後、エチレン酸化反応器1へ循環される。
炭酸ガス吸収塔7において炭酸ガスを吸収した炭酸ガス濃厚吸収液は、炭酸ガス吸収塔の塔底部から抜き出された後、圧力0.01〜0.5MPa gauge、温度80〜120℃程度に調節され、塔底部にリボイラー9を備えた炭酸ガス放散塔8の上部に供給される。炭酸ガス放散塔8の上部の供液部において吸収液は、炭酸ガス吸収塔7と炭酸ガス放散塔8との圧力差によって圧力フラッシュを起こす。これにより、吸収液中の10〜80容量%の炭酸ガスおよび大部分の不活性ガスは吸収液から分離され、炭酸ガス放散塔8の塔頂部から排ガスとして排出される。この排ガスの排熱は、精製系におけるエチレンオキシド精留塔の熱源として利用されると好ましい。ここで、炭酸ガス放散塔8のリボイラー9への投入蒸気量を削減するという観点からは、炭酸ガス放散塔8の運転圧力は小さいほど好ましい。具体的には、炭酸ガス放散塔8の運転圧力は、好ましくは0〜0.1MPa gaugeであり、より好ましくは0.01〜0.015MPa gaugeである。
なお、上述した圧力フラッシュにより炭酸ガスの一部を分離された残りの炭酸ガス吸収液は、供液部の下方に設けられた気液接触部10に入り、リボイラー9より発生した蒸気および気液接触部10以下の部分から発生した炭酸ガスを主とするガスと向流接触して吸収液中の炭酸ガスの一部およびその他の不活性ガスの大部分が吸収液から分離される。炭酸ガス系におけるこれら一連のプロセスにより、気液接触部10の最上部から下方、好ましくは気液接触に必要な一理論段数以上に相当する気液接触部10の下部の炭酸ガス放散塔8の内部から、高純度の炭酸ガスが得られる。すなわち、気液接触部10で炭酸ガス吸収液中の不活性ガスは、下部から上昇してくるごく微量の不活性ガスを含む炭酸ガスと水蒸気とによって向流気液接触を起こして放散され、これにより不活性ガスの濃度は極めて低くなる。したがって、この放散後のガスを取り出せば高純度の炭酸ガスが得られる。
本発明の精留装置の運転方法は、上記の反応系、炭酸ガス系、精製系を含むエチレンオキシドの製造プロセス中、エチレンオキシドの反応生成ガスの精製系において特に好ましく用いられる。本発明の精留装置の運転方法によれば、電力供給が停止し、凝縮器が正常に動作しない場合であっても、精留塔本体内の圧力上昇を抑制し、機器(特に精留塔)の破損を防止することができる。また、本発明の精留装置の運転方法によれば、精留塔内に液状消火剤を投入する必要もないため、エチレンオキシドの製造設備を短期間で再稼働させることができる。
以下、実施例を用いて本発明の実施形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。
[実施例]
図1〜図4に示すエチレンオキシドの製造プロセスによりエチレンオキシドを製造した。
ここで、運転時、精留工程における精留塔内の塔内液は酸化エチレンがほぼ100%であり、運転温度(運転時の精留塔内の塔底部の温度)は50℃とした。このとき、リボイラーの熱源としては蒸気やエチレンオキシドの製造プロセスからの回収熱を用い、熱源(加熱器)温度は90℃とした。
上記条件の下、第一の送水ポンプに対して電力が供給されなくなった後(具体的には、停電信号を受信した後)、ただちに第二の送水ポンプ(エンジンポンプ)を稼働させた。なお、第一の送水ポンプに対して電力供給が遮断された際、通常電磁弁により熱源(加熱器)、軽質分分離塔から精留塔への塔内液の供給、精留塔からの塔内液、気体の抜き出しを遮断した。このとき、精留塔内の塔頂圧力は0.25MPaG(MPa gauge、以下同じ)、塔底部温度は50℃であった。
第一の送水ポンプに対する電力供給が停止してから、1時間ごとに精留塔内の圧力を表1に示す。
[比較例]
上記実施例において、第一の送水ポンプに対して電力が供給されなくなった後、第二の送水ポンプを稼働させなかったことを除いては、実施例と同様にしてエチレンオキシドを製造した。
第一の送水ポンプに対する電力供給が停止してから、1時間ごとに精留塔内の圧力を表1に示す。
電力供給停止後、加熱器側の残液の顕熱により、精留塔内の酸化エチレンが気化されるため、通常であれば、気化されたエチレンオキシドにより、精留塔内の内部圧力が上昇する(比較例)。これに対し、本発明の方法によれば、非定常時にもエンジンポンプなどの第二の送水ポンプによって緊急の冷却媒体を供給し続けることができるため、精留塔頂部に備えられた凝縮器によってエチレンオキシドが凝縮される。その結果、精留塔内の圧力上昇を抑制することができる。
したがって、上記表1に示す結果から、本発明に係る精留装置の運転方法によれば、電力供給が遮断された後であっても、精留塔内の圧力上昇が効果的に抑制され、機器(精留塔)の損傷を効果的に防止することができることが示された。また、上記精留装置の運転方法によれば、精留塔内に液状消火剤を直接投入することもないため、製造設備を短期間で再稼働させることも可能となる。