本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークガソリンエンジンであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。
図2に、火花点火用の電気回路を示している。点火プラグ12は、点火コイル14にて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイル14は、半導体スイッチング素子131を有するイグナイタ13とともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0からの点火信号iをイグナイタ13が受けると、まずイグナイタ13の半導体スイッチ131が点弧して点火コイル14の一次側に電流が流れ、その直後の火花点火のタイミングで半導体スイッチ131が消弧してこの電流が遮断される。すると、自己誘導作用が起こり、一次側に高電圧が発生する。そして、一次側と二次側とは磁気回路及び磁束を共有するので、二次側にさらに高い誘導電圧が発生する。二次側の誘導電圧は、10kVないし30kVに達する。この高い誘導電圧が点火プラグ12の中心電極に印加され、中心電極と接地電極との間で火花放電する。
点火コイル14の一次側コイルは、半導体スイッチ131を介して車載の電源バッテリ17に接続する。半導体スイッチ131を点弧し、バッテリ17から供給される直流電圧を一次側コイルに印加して通電を開始すると、一次側コイルを含む一次側(低圧系)の回路を流れる一次電流は逓増する。
図3に、一次側コイルへの通電開始後の一次電流の推移を例示する。図3中、電流制限機能が働かない場合を破線で描画し、電流制限機能が働く場合を一点鎖線で描画している(実線については、後述する)。バッテリ17及び一次側コイルを含む一次側の電気回路をRL直列回路と仮定すると、t=0時点にて直流電圧Eを印加した場合の一次電流I(t)は、
I(t)≒{1−e-(R/L)t}E/R
となる。即ち、過渡現象として一次電流は逓増するが、その増加の速さは徐々に衰える。十分に長い時間が経過すると、図3中の破線のように一次電流はE/Rに飽和する。
イグナイタ13は、一次電流の過大化を抑制する電流制限機能を有している。この電流制限機能は、今日普及している既製のイグナイタのそれと同様である。具体的には、制御回路132が、検出抵抗133を介して、一次電流を当該抵抗133の両端間電圧の形で恒常的に計測する。そして、その一次電流(抵抗133の両端間電圧)の大きさが規定値以下である間は半導体スイッチ131を点弧する一方、規定値を超えたときには半導体スイッチ131を消弧する。これにより、一次電流を図3中の一点鎖線のように規定値にクリップする。
なお、イグナイタ13は、点火コイル14またはイグナイタ13自身の温度が上限値を超えるような異常発熱を感知した場合に、一次側コイルへの通電を強制的に遮断する機能をも有している。
本実施形態における点火コイル14は、気筒1に充填された混合気への火花点火のために最低限必要となるエネルギよりもずっと大きな放電エネルギを発生させることのできる、従来のコイルと比べて大きなインダクタンスを有するものである。
気筒1の燃焼室内に充填された混合気に着火するために必要となる火花放電のエネルギは、通常30mJ程度である。従来の点火コイルは、専ら30mJ程度の電気エネルギの印加を受けて火花放電電圧を発生させることを想定したものである。故に、その耐熱限界も、30mJないし50mJ程度のエネルギなら十分に耐えられるという程度に過ぎない。
これに対し、本実施形態では、必要に応じて火花放電のエネルギを増強することを考えており、最大で100mJないし130mJの電気エネルギを点火コイル14に印加する。従来の点火コイルに100mJもの大きな電気エネルギを印加すると、これが過加熱して損傷する懸念がある。本実施形態における点火コイル14は、混合気への火花点火のために必要となる電気エネルギよりもずっと大きな電気エネルギを蓄積することができ、また、そのような大きな電気エネルギが印加されたとしても発熱による損傷を生じないような高い耐熱性を有するものである。尤も、平常時は、火花点火に最低限必要な程度の電気エネルギのみを点火コイル14に印加するようにして、エネルギの浪費を避ける。
図3中、時点t1が、気筒1の点火タイミングである。この時点t1において、当該気筒1に付随するイグナイタ13の半導体スイッチ131を消弧し、当該気筒1に付随する点火コイル14の一次側コイルへの通電を遮断し、同点火コイル14にて発生する誘導電圧を当該気筒1の点火プラグ12の中心電極に印加する。
時点t0が、平常時における点火コイル14の一次側コイルへの通電開始時点である。即ち、時点t0から時点t1までの期間が、点火コイル14の一次側コイルへの通電時間となる。図3中、平常時において一次側コイルを流れる一次電流を実線で描画している。
翻って、時点t0’は、点火プラグ12に入力する火花放電のための電気エネルギを平常時よりも増大させる場合の、点火コイル14の一次側コイルへの通電開始時点である。即ち、時点t0’から時点t1までの期間が、点火コイル14の一次側コイルへの通電時間となる。通電開始時点t0’が平常時の通電開始時点t0よりも早いことから、この場合の通電時間は平常時の通電時間よりも長くなる。図3中、この場合の一次電流を一点鎖線で描画している。
既に述べた通り、点火コイル14の一次側コイルを流れる一次電流は、半導体スイッチ131の点弧(時点t0または時点t0’)の後逓増する。従って、点火タイミングt1にて一次側コイルを流れている一次電流は、通電開始時点t0’を早めるほど大きくなる。一次電流が大きくなることは、点火コイル14に印加する電気エネルギが大きくなることを意味し、ひいては、半導体スイッチ131の消弧(時点t1)により誘起され点火プラグ12の中心電極に印加される誘導電圧が大きくなることを意味する。
要するに、通電開始時点t0’を早める(点火タイミングt1において一次側コイルを流れている一次電流を大きくする)ほど、点火プラグ12に入力される電気エネルギが大きくなる。その結果として、点火プラグ12の中心電極と接地電極との間で生ずる火花放電の電圧が高くなり、火花放電が継続する時間も長くなる。
本実施形態のECU0は、燃料の燃焼の際に気筒1の燃焼室内に発生するイオン電流を検出し、そのイオン電流を参照して燃焼状態の判定を行うことができる。
図2に示しているように、本実施形態では、火花点火用の電気回路に、イオン電流を検出するための回路を付加している。この検出回路は、イオン電流を効果的に検出するためのバイアス電源部15と、イオン電流の多寡に応じた検出電圧を増幅して出力する増幅部16とを備える。バイアス電源部15は、バイアス電圧を蓄えるキャパシタ151と、キャパシタ151の電圧を所定電圧まで高めるためのツェナーダイオード152と、電流阻止用のダイオード153、154と、イオン電流に応じた電圧を出力する負荷抵抗155とを含む。増幅部16は、オペアンプに代表される電圧増幅器161を含む。
点火プラグ12の中心電極と接地電極との間のアーク放電時にはキャパシタ151が充電され、その後キャパシタ151に充電されたバイアス電圧により負荷抵抗155にイオン電流が流れる。イオン電流が流れることで生じる抵抗155の両端間の電圧は、増幅部16により増幅されてイオン電流信号hとしてECU0に受信される。
図4に、正常燃焼における、イオン電流及び気筒1内の燃焼圧力(筒内圧)のそれぞれの推移を例示する。図4中、イオン電流を破線で描画し、燃焼圧力を実線で描画している。イオン電流は、点火のための放電中は検出することができない。正常燃焼の場合のイオン電流は、火花点火の終了後、化学反応により、圧縮上死点の手前で減少した後、熱解離によって再び増加する。また、燃焼圧がピークを迎えるのとほぼ同時にイオン電流も極大となる。
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
外部EGR装置2は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものであり、排気通路4における触媒41の上流側と吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流側とを連通するEGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における排気マニホルド42またはその下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所、特にサージタンク33に接続している。
点火コイル14への通電やバルブ23、32類の開閉駆動、車両に実装された電装系への電力供給源となる発電機(オルタネータまたはモータジェネレータ、図示せず)は、内燃機関のクランクシャフトからエンジントルクの供給を受けて発電し、その発電した電力を車載のバッテリ17に充電する。
内燃機関の運転制御を司るECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、気筒1を内包するシリンダブロックの振動の大きさを検出するノックセンサから出力されるノック信号d、車載のバッテリ17の電流及び/または電圧を検出する電流/電圧センサから出力されるバッテリ電流/電圧信号e、内燃機関の温度を示唆する冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号g、燃焼室内での混合気の燃焼に伴って生じるイオン電流を検出する回路から出力される電流信号h等が入力される。
出力インタフェースからは、イグナイタ13に対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l等を出力する。
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量等に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、要求EGR率(または、EGR量)といった各種運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを出力インタフェースを介して印加する。
また、ECU0は、内燃機関の始動(冷間始動であることもあれば、アイドリングストップからの復帰であることもある)時において、電動機(スタータモータまたはモータジェネレータ)に制御信号oを入力し、電動機によりクランクシャフトを回転させるクランキングを行う。クランキングは、内燃機関が初爆から連爆へと至り、エンジン回転数即ちクランクシャフトの回転速度が冷却水温等に応じて定まる判定値を超えたときに(完爆したものと見なして)終了する。
ECU0は、ノックセンサが出力するノック信号dを参照して、各気筒1の膨張行程におけるノッキングやプレイグニッションといった異常燃焼の有無を判定し、その判定結果に応じた点火タイミングの調整を行っている。ECU0は、気筒1の膨張行程中にノックセンサを介して検出されたノック信号dのサンプリング値(現在の振動の強度)をノック判定値と比較し、ノック信号dのサンプリング値がノック判定値を上回ったならば、当該気筒1にてノッキング等の異常燃焼が起こったと判定する。逆に、ノック信号dのサンプリング値がノック判定値以下ならば、当該気筒1にて異常燃焼は起こっていないと判定する。
ノック判定値は、統計処理により予め算定される。ECU0は、ノッキングが起こっていないと思しき状況下で、気筒1の膨張行程中のシリンダブロックの振動をノックセンサを介してサンプリングし、ノック信号dを得る。そして、このノック信号dのサンプリング値のある期間内の時系列から、平均値及び標準偏差、ひいてはノック判定値を算出する。平均値をX、標準偏差をσとおくと、ノック判定値Jは、
J=X+Uσ
として求められる。上式における係数Uは、そのときの内燃機関の運転領域、即ちエンジン回転数及び負荷(アクセル開度、サージタンク33内吸気圧(新気の分圧であることがある)、気筒1に充填される吸気量(新気量であることがある)または燃料噴射量)に応じて設定する。係数Uを、空燃比の高低や要求EGR率等に応じて変えるようにしてもよい。ノック判定値は、各気筒1毎に個別に求めてもよいし、全気筒1で共通のものとしてもよい。
その上で、ECU0は、混合気を燃焼させる際の火花点火のタイミングを、対象の気筒1におけるノッキングの有無の判定結果に基づいて補正する。具体的には、現在の内燃機関の運転領域に応じて定まるベース点火タイミングに遅角補正量を加味して点火タイミングを決定することとし、その遅角補正量を、気筒1においてノッキングが起こらなくなるまで(例えば、混合気の着火燃焼の機会が訪れる毎に所定量づつ)逓増させるとともに、ノッキングが起こらない限りにおいて(混合気の着火燃焼の機会が訪れる毎に所定量づつ)逓減させてゆく。なお、ECU0は、内燃機関の運転領域[エンジン回転数,負荷(アクセル開度、サージタンク33内吸気圧、気筒1に充填される吸気量または燃料噴射量)]とベース点火タイミングとの関係を規定したマップデータまたは関数式をメモリに記憶保持している。ECUは、現在の運転領域をキーとして当該マップを検索するか、現在の運転領域のパラメータを当該関数式に代入して、ベース点火タイミングを知得する。
さらに、本実施形態のECU0は、気筒1に充填された混合気に火花点火する際に点火プラグ12に入力する電気エネルギの大きさを、現在の内燃機関の運転領域に応じて設定されるベース点火エネルギに、内燃機関の状況を示す要素に応じて設定される加減量を加味して決定する。
ベース点火エネルギは、内燃機関が特に加速も減速もしない定常運転状態、即ちエンジン回転数の単位時間あたりの変化量の絶対値が所定以下である状態において、混合気の着火燃焼が安定し、かつエンジントルクが最大となるか最大に近くなるような電気エネルギ量であり、予め実験的に(試験または適合により)求められる。
図5に、内燃機関の運転領域とベース点火エネルギとの関係を示している。ベース点火エネルギは、内燃機関の負荷が小さいほど大きくする。これは、負荷が小さいほど吸気量及び燃料噴射量が少なく、混合気の着火及び燃焼が不安定化しやすいことによる。また、ベース点火エネルギは、全体的には、エンジン回転数が高いほど減少する傾向にある。尤も、エンジン回転数が顕著に高い高回転域では、エンジン回転数が高いほど若干ながらベース点火エネルギが増す。ECU0は、内燃機関の運転領域[エンジン回転数,負荷]とベース点火エネルギWBとの関係を規定したマップデータまたは関数式をメモリに記憶保持している。ECUは、現在の運転領域をキーとして当該マップを検索するか、現在の運転領域のパラメータを当該関数式に代入して、設定するべきベース点火エネルギWBを知得する。
点火プラグ12に入力する電気エネルギの加減量は、運転領域以外の内燃機関の状況を示す各種の要素に応じて設定する。その要素の例を、以下に列挙する。
<1.冷却水温及び吸気温>内燃機関の温度即ち冷却水温が低いほど、点火プラグ12に入力する電気エネルギの量を増す(ベース点火エネルギWBに加増補正を加える)。並びに、サージタンク33内吸気温が低いほど、点火プラグ12に入力する電気エネルギの量を増す。冷却水温や吸気温が低いほど、混合気の着火及び燃焼が不安定化しやすいことによる。また、内燃機関の冷間始動直後の暖機の時期には、燃料噴射量の増量補正が実行されるので、その燃料噴射量の増量に呼応して点火プラグ12に入力する電気エネルギを加増する場合がある。ECU0は、内燃機関の冷却水温及び吸気温と点火エネルギの加減量W1との関係を規定したマップデータまたは関数式をメモリに記憶保持している。ECUは、現在の冷却水温及び吸気温をキーとして当該マップを検索するか、現在の冷却水温及び吸気温を当該関数式に代入して、設定するべき点火エネルギの加減量W1を知得する。
<2.加速の過渡期>内燃機関の加速度即ちエンジン回転数の単位時間あたりの増加量が大きいほど、点火プラグ12に入力する電気エネルギの量を増す。エンジン回転数の単位時間あたりの増加量が大きいほど、高いエンジントルクが要求されていることによる。ECU0は、エンジン回転数の単位時間あたりの増加量と点火エネルギの加減量W2との関係を規定したマップデータまたは関数式をメモリに記憶保持している。ECUは、現在のエンジン回転数の単位時間あたりの増加量をキーとして当該マップを検索するか、現在のエンジン回転数の単位時間あたりの増加量を当該関数式に代入して、設定するべき点火エネルギの加減量W2を知得する。
<3.EGR率>気筒1に充填される吸気に占めるEGRガスの割合であるEGR率が高いほど(または、EGRガス量が多いほど)、点火プラグ12に入力する電気エネルギの量を増す。EGR率が高いほど、混合気の着火及び燃焼が不安定化しやすいことによる。ECU0は、EGR率と点火エネルギの加減量W3との関係を規定したマップデータまたは関数式をメモリに記憶保持している。ECUは、現在のEGR率をキーとして当該マップを検索するか、現在のEGR率を当該関数式に代入して、設定するべき点火エネルギの加減量W3を知得する。
<4.点火タイミングの遅角補正量>点火タイミングの遅角補正量が大きいほど、点火プラグ12に入力する電気エネルギの量を増す。点火タイミングの遅角補正量が増大する要因としては、冷間始動直後の触媒41の活性化(昇温)を目的とした点火タイミングの遅角化(排気ガスの温度上昇)と、上述したノックコントロールシステムによるノッキングの鎮圧とがある。前者の点火タイミングの遅角化は、混合気の着火及び燃焼を不安定化させる要因となるので、これに応じて点火プラグ12に入力する電気エネルギの量を増すことが好適である。後者の点火タイミングの遅角化は、必ずしも混合気の着火及び燃焼を不安定化させる要因とはならないが、点火プラグ12に入力する電気エネルギの量を増すことで、火炎伝播をより確実なものとしてノッキングを抑止することができる。ECU0は、点火タイミングの遅角補正量と点火エネルギの加減量W4との関係を規定したマップデータまたは関数式をメモリに記憶保持している。ECUは、現在の点火タイミングの遅角補正量をキーとして当該マップを検索するか、現在の点火タイミングの遅角補正量を当該関数式に代入して、設定するべき点火エネルギの加減量W4を知得する。
<5.燃料カットからの復帰直後>車両に搭載される内燃機関では、燃料噴射を一時的に停止する燃料カットを実施することが知られている。一般に、アクセルペダルの踏込量が0または0に近い閾値以下となり、かつエンジン回転数が燃料カット許可回転数以上あるときに、燃料カット条件が成立したものとして燃料カットを開始する。そして、アクセルペダルの踏込量が閾値を上回った、エンジン回転数が燃料カット復帰回転数まで低下した等の何れかの燃料カット終了条件が成立したときに、燃料カットを終了、燃料噴射を再開する。燃料カットの終了直後の時期は、気筒1内及び点火プラグ12の電極の温度が低下している上、触媒41に多量の酸素が吸蔵されている。そこで、燃料カットの終了直後は、混合気の空燃比を通常の目標空燃比(理論空燃比またはその近傍)よりもリッチ化するように燃料噴射量の増量補正が行われる。この増量補正期間において、混合気への着火を確実なものとするべく、点火プラグ12に入力する電気エネルギの量を増す。ECU0は、燃料カットの終了直後の時期における点火エネルギの加減量W5をメモリに記憶保持しており、これを読み出すことで当該時期における点火エネルギの加減量W5を知得する。
<6.点火プラグのくすぶり>点火プラグ12の中心電極及び接地電極や、両電極間を絶縁する絶縁材(碍子)には、経時劣化として、カーボン等のデポジットが付着し堆積してゆく。この現象は、点火プラグの「くすぶり」と呼ばれる。点火プラグがくすぶると、両電極間の絶縁抵抗が低下して混合気への点火に適した火花放電を惹起できなくなり、混合気の着火及び燃焼が不安定化するおそれがある。また、点火プラグ12のくすぶりに起因して、気筒1においてノッキングやプレイグニッション等の異常燃焼が発生する可能性も高まる。そこで、点火プラグ12がくすぶっていると思しき状況下にて、点火プラグ12に入力する電気エネルギの量を増し、火花放電を増強して、点火プラグ12に堆積したデポジットを酸化ないし燃焼させて除去するクリーニング処理を行う。このクリーニング処理は同時に、点火プラグ12のくすぶりの悪影響を緩和ないし排除して混合気の着火及び燃焼を安定させることにも寄与する。
因みに、点火プラグ12にデポジットが堆積したことを感知する手法は幾つか考えられる。例えば、イオン電流検出用の回路を介して検出されるイオン電流信号hを参照して、点火プラグ12にデポジットが堆積したかどうかを判断することができる。点火プラグ12の電極や絶縁材にカーボン等の導電性のデポジットが付着すると、点火プラグ12の中心電極と接地電極との間の絶縁抵抗が低下する。イオン電流信号hを参照すれば、点火プラグ12の両電極間の絶縁抵抗の大きさを推測することが可能である。即ち、図4に示しているように、混合気の燃焼が概ね完了していると思われる膨張行程の終期におけるイオン電流の大きさLを計測し、この残留電流(または、漏れ電流)Lが所定量以上である場合に、中心電極と接地電極との間の絶縁抵抗が所定以下となった、換言すれば点火プラグ12がくすぶっていると判断できる。
あるいは、気筒1においてノッキングが起こる頻度を基に、点火プラグ12にデポジットが堆積したかどうかを判断することもできる。点火タイミングを決定する遅角補正量が所定量以上となった場合に、当該気筒1にて異常燃焼が高頻度で発生している、換言すれば当該気筒1の点火プラグ12がくすぶっていると判断できる。
点火プラグ12のくすぶりの度合いは、イオン電流信号hから明らかとなる残留電流Lが大きいほど(点火プラグ12の両電極間の絶縁抵抗が小さいほど)、または点火タイミングの遅角補正量が大きいほど(ノッキングの発生頻度が高いほど)、大きいと考えられる。点火プラグ12のクリーニング処理において点火プラグ12に入力する電気エネルギは、点火プラグ12のくすぶりの度合いが大きいほど増大させることが好ましい。ECU0は、点火プラグ12のくすぶりの度合いと点火エネルギの加減量W6との関係を規定したマップデータまたは関数式をメモリに記憶保持している。ECUは、現在の点火プラグ12のくすぶりの度合いをキーとして当該マップを検索するか、現在の点火プラグ12のくすぶりの度合いを当該関数式に代入して、設定するべき点火エネルギの加減量W6を知得する。
<7.内燃機関の暖機>内燃機関の冷間始動時、その始動から一定時間が経過するまでの間を暖機期間として燃料噴射量を増量補正する場合には、その暖機期間中、点火プラグ12に入力する電気エネルギをW7だけ加増する。
なお、内燃機関の各種状況に関わる要素に対応した各加減量Wi(iは要素の種類を識別する添字。例えば、冷却水温及び吸気温に対応する加減量W1については、i=1)は、0であることがあり、また、負値であることもある。
本実施形態のECU0は、気筒1に充填された混合気に火花点火する際に点火プラグ12に入力する電気エネルギの大きさWを、
W=WB*max[Wi]*fi(not max[Wi])
の形で算定する。各演算子*はそれぞれ、加算または乗算を意味する。max[Wi]は、内燃機関の各種状況に関わる要素に対応した各加減量Wi(即ち、W1、W2、W3、……)のうちの最大のものを表す。not max[Wi]は、内燃機関の各種状況に関わる要素に対応した各加減量Wiのうち、最大のもの(max[Wi])を除いた加減量Wi(そのうち少なくとも一つ。無論、max[Wi]を除く全ての加減量Wiであることもある)を表す。
並びに、fi(not max[Wi])は、not max[Wi]に基づいて定められる補正量であり、not max[Wi]の関数である。例えば、各加減量Wiのうちの最大のものがW1であったとすると、点火プラグ12に入力する電気エネルギの大きさWは、
W=WB*W1*f2(W2)*f3(W3)*f4(W4)*f5(W5)*f6(W6)*f7(W7)
となる。
但し、関数fi(not max[Wi])は、各種要素i毎に異なる関数であってもよいし、複数のまたは全ての要素iで同一の関数であってもよい。また、fi(not max[Wi])は、これを加味するための演算子*が加算である場合には0であることがあり、当該演算子*が乗算である場合には1(max[Wi]に乗ずる補正係数fi(not max[Wi])が1であることを意味する)であることがある。上記の例でいえば、*f2(W2)、*f3(W3)、*f4(W4)、*f5(W5)、*f6(W6)または*f7(W7)の何れか少なくとも一つを上記式から除く(即ち、何れか少なくとも一つを点火プラグ12に入力する電気エネルギWの算定に用いない)ことがある。
f(not max[Wi])が、内燃機関の各種状況に関わる要素に対応した各加減量Wiのうち二番目に大きいものであるということもあり得る。例えば、各加減量Wiのうち二番目に大きいものがW4であったとすると、点火プラグ12に入力する電気エネルギの大きさWを、
W=WB*W1*W4
として求めることがある。上記の例では、二番目に大きい加減量W4について、f4(not max[W4])=W4である。
fi(not max[Wi])の値(または、絶対値)は、max[Wi]の値(または、絶対値)以下とする。つまり、ECU0は、各加減量Wiのうち最大のもの(max[Wi])をベース点火タイミングWBにそのまま加味するとともに、それ以外の加減量(not max[Wi])のうち少なくとも一つをその値を割り引いた上でベース点火タイミングWBに加味する。換言すれば、max[Wi]を、not max[Wi]で補正した上でベース点火タイミングに加味する。
だが、点火コイル14は通電により熱を持つ。上述した点火エネルギWを点火プラグ12に入力するべく、点火コイル14に無制限に通電すると、点火コイル14が溶損するおそれがある。点火コイル14の熱害による損傷を避けるには、点火プラグ12に入力する電気エネルギWの大きさに上限を設定することにより、点火コイル14の一次側コイルに通電する時間に制限をかけるべきである。
その上で、本実施形態では、点火プラグ12に入力する電気エネルギWの上限を、点火コイル14の許容温度と現在の点火コイル14の温度との差分が大きいほど高く設定することとしている。
ECU0は、現在の点火コイル14の温度を推定により求める。現在の点火コイル14の温度は、点火コイル14の発熱量及び受熱量と、同点火コイル14の放熱量との兼ね合い即ち熱量の収支によって決まる。ECU0は、直近の過去に推定した点火コイル14の温度に、単位時間あたりの温度変化量を加算する形で、現在の点火コイル14の温度を推定する。そして、その温度推定を、所定周期即ち単位時間毎に反復的に遂行する。
点火コイル14自身の単位時間あたりの発熱量は、点火コイル14に印加された単位時間あたりの電力量に比例する。ECU0は、点火コイル14への印加電圧及び印加電流の瞬時値を実測または推算できるので、点火コイル14に印加された単位時間あたりの電力量ひいては点火コイル14の発熱量を演算することが可能である。点火コイル14の一次側コイルに通電しない半導体スイッチ131の消弧期間は、点火コイル14に印加される電力量が0となることは言うまでもない。点火コイル14の発熱量は、半導体スイッチ131の点弧期間の消弧期間に対する比(いわば、一次電流の平均値、一次電流のDUTY比)が大きいほど、即ちエンジン回転数が高いほど増加する。点火コイル14の単位時間あたりの発熱量を点火コイル14の熱容量(比熱)で除算すれば、当該発熱量に起因した点火コイル14の単位時間あたりの温度上昇分を把握できる。
点火コイル14が受熱するか放熱するかは、点火コイル14の温度とその周囲の温度との関係に応じる。点火コイル14の温度がその周囲に存在する内燃機関の温度よりも低い場合には、点火コイル14が内燃機関から受熱することになるので、内燃機関からの受熱量を考慮する。なお、内燃機関の温度は、冷却水温により示唆される。ECU0は、点火コイル14の推定温度と冷却水温との差と、点火コイル14の単位時間あたりの受熱量との関係を規定したマップデータまたは関数式をメモリに記憶保持している。ECUは、直近の過去に推定した点火コイル14の温度と現在の冷却水温との差分を求め、その差分をキーとして当該マップを検索するか、その差分を当該関数式に代入して、点火コイル14の単位時間あたりの受熱量を知得する。点火コイル14の単位時間あたりの受熱量を点火コイル14の熱容量で除算すれば、当該受熱量に起因した点火コイル14の単位時間あたりの温度上昇分を把握できる。
翻って、点火コイル14の温度が内燃機関の温度よりも高い場合には、点火コイル14が内燃機関に対して放熱することになるので、内燃機関に対する放熱量を考慮する。ECU0は、冷却水温と点火コイル14の推定温度との差と、点火コイル14の単位時間あたりの放熱量との関係を規定したマップデータまたは関数式をメモリに記憶保持している。ECUは、現在の冷却水温と直近の過去に推定した点火コイル14の温度との差分を求め、その差分をキーとして当該マップを検索するか、その差分を当該関数式に代入して、点火コイル14の単位時間あたりの放熱量を知得する。点火コイル14の単位時間あたりの放熱量を点火コイル14の熱容量で除算すれば、当該放熱量に起因した点火コイル14の単位時間あたりの温度降下分を把握できる。
さらに、点火コイル14が、内燃機関を収容する車両のエンジンルーム内に対して放熱する放熱量をも考慮する。この放熱量は、外気温(または、吸気温)が低いほど多くなり、また、車速が高いほど(即ち、走行風が強いほど)多くなる。ECU0は、外気温及び車速と、点火コイル14の単位時間あたりの放熱量との関係を規定したマップデータまたは関数式をメモリに記憶保持している。ECUは、現在の外気温及び車速をキーとして当該マップを検索するか、現在の外気温及び車速を当該関数式に代入して、点火コイル14の単位時間あたりの放熱量を知得する。点火コイル14の単位時間あたりの放熱量を点火コイル14の熱容量で除算すれば、当該放熱量に起因した点火コイル14の単位時間あたりの温度降下分を把握できる。
ECU0は、点火コイル14自身の発熱に起因する単位時間あたりの温度上昇分、内燃機関からの受熱に起因する単位時間あたりの温度上昇分または内燃機関に対する放熱に起因する単位時間あたりの温度降下分、並びに、エンジンルーム内の雰囲気に対する放熱に起因する単位時間あたりの温度降下分を合算して、点火コイル14の単位時間あたりの温度変化量を求める。この温度変化量を直近の過去に推定した点火コイル14の温度に加算すれば、現在の点火コイル14の推定温度を算出できる。
気筒1に充填された混合気への火花点火の際、ECU0は、点火コイル14の許容温度と現在の点火コイル14の推定温度との差分を求め、この差分が大きいほど、点火プラグ12に入力する電気エネルギWの上限を引き上げる。しかして、WB*max[Wi]*fi(not max[Wi])として算定した電気エネルギWがその上限を超える場合には、火花点火のために点火プラグ12に入力する電気エネルギの大きさを当該上限にクリップする。算定した電気エネルギWがその上限以下である場合には、当該電気エネルギWをそのまま点火プラグ12に入力する電気エネルギとする。
ECU0は、以上のようにして決定した電気エネルギを点火プラグ12に入力するべく、点火コイル14の一次側コイルに通電する時間を演算して、その通電時間の間だけ半導体スイッチ131を点弧する制御を実行する。一次側コイルへの通電時間は、決定した電気エネルギを点火プラグ12に入力するために、半導体スイッチ131の消弧時点t1で一次側コイルに流しておく一次電流を確保するのに必要な通電時間である。当該一次電流は、点火プラグ12に入力するべき電気エネルギが大きいほど大きい。
一次側コイルへの通電を開始する時点t0、t0’は、一次側コイルに印加される電圧の大きさにも依存する。点火タイミングt1に所要の一次電流を確保するための所要時間は、一次側コイルへの印加電圧が大きいほど短くなるからである。基本的に、現在のバッテリ17の電圧が高いほど、通電開始時点t0、t0’を遅くし、通電時間を短くする。
本発明では、気筒1に設置した点火プラグ12において火花放電を惹起して気筒内の混合気に点火する火花点火式内燃機関を制御するものであって、火花放電を惹起するために点火プラグ12に入力する電気エネルギの上限を、点火コイル14の許容温度と現在の点火コイル14の温度との差分が大きいほど高く設定する内燃機関の制御装置を構成した。
本実施形態によれば、現在の点火コイル14の温度が許容温度と比較して十分に低く、点火コイル14の損傷の可能性が低い状況において、火花点火のために点火プラグ12に入力する電気エネルギを増大させることが可能となる。ひいては、混合気の着火燃焼の安定化やエンジントルクの増強を実現でき、ドライバビリティの向上や、熱機械変換効率の向上による燃費性能の良化を見込める。
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、現在の点火コイル14の温度を推定していたが、点火コイル14の温度を検出するセンサまたは回路を実装し、当該センサまたは回路を介して現在の点火コイル14の温度を実測してもよい。無論、点火コイル14の温度を推定するようにすれば、点火コイル14の温度を検出するセンサまたは回路が不要であり、その分だけコストを削減できる。
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。