図1(a)は、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2を含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタ1(以下で単にプリンタと言うことがある)の概略の側面図であり、図1(b)は、概略の平面図である。プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pをガイドローラ82Aから搬送ローラ82Bへと搬送することにより、印刷用紙Pを液体吐出ヘッド2に対して相対的に移動させる。制御部88は、画像や文字のデータに基づいて、液体吐出ヘッド2を制御して、記録媒体Pに向けて液体を吐出させ、印刷用紙Pに液滴を着弾させて、印刷用紙Pに印刷などの記録を行なう。
本実施形態では、液体吐出ヘッド2はプリンタ1に対して固定されており、プリンタ1はいわゆるラインプリンタとなっている。本発明の記録装置の他の実施形態としては、液体吐出ヘッド2を、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に往復させるなどして移動させる動作と、印刷用紙Pの搬送を交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタが挙げられる。
プリンタ1には、印刷用紙Pとほぼ平行となるように平板状のヘッド搭載フレーム70(以下で単にフレームと言うことがある)が固定されている。フレーム70には図示しない20個の孔が設けられており、20個の液体吐出ヘッド2がそれぞれの孔の部分に搭載されていて、液体吐出ヘッド2の、液体を吐出する部位が印刷用紙Pに面するようになっている。液体吐出ヘッド2と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば0.5〜20mm程度とされる。5つの液体吐出ヘッド2は、1つのヘッド群72を構成しており、プリンタ1は、4つのヘッド群72を有している。
液体吐出ヘッド2は、図1(a)の手前から奥へ向かう方向、図1(b)の上下方向に細長い長尺形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。1つのヘッド群72内において、3つの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に沿って並んでおり、他の2つの液体吐出ヘッド2は搬送方向に沿ってずれた位置で、3つの液体吐出ヘッド2の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。液体吐出ヘッド2は、各液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲が、印刷用紙Pの幅方向に(印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に)繋がるように、あるいは端が重複するように配置されており、印刷用紙Pの幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
4つのヘッド群72は、記録用紙Pの搬送方向に沿って配置されている。各液体吐出ヘ
ッド2には、図示しない液体タンクから液体、例えば、インクが供給される。1つのヘッド群72に属する液体吐出ヘッド2には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群72で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群72から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。このようなインクを、制御部88で制御して印刷すれば、カラー画像が印刷できる。
プリンタ1に搭載されている液体吐出ヘッド2の個数は、単色で、1つの液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲を印刷するのなら1つでもよい。ヘッド群72に含まれる液体吐出ヘッド2の個数や、ヘッド群72の個数は、印刷する対象や印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッド群72の個数を増やしてもよい。また、同色で印刷するヘッド群72を複数配置して、搬送方向に交互に印刷すれば、同じ性能の液体吐出ヘッド2を使用しても搬送速度を速くできる。これにより、時間当たりの印刷面積を大きくすることができる。また、同色で印刷するヘッド群72を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、印刷用紙Pの幅方向の解像度を高くしてもよい。
さらに、色の付いたインクを印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を印刷してもよい。
プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pに印刷を行なう。印刷用紙Pは、給紙ローラ80Aに巻き取られた状態になっており、2つのガイドローラ82Aの間を通った後、フレーム70に搭載されている液体吐出ヘッド2の下側を通り、その後2つの搬送ローラ82Bの間を通り、最終的に回収ローラ80Bに回収される。印刷する際には、搬送ローラ82Bを回転させることで印刷用紙Pは、一定速度で搬送され、液体吐出ヘッド2によって印刷される。回収ローラ80Bは、搬送ローラ82Bから送り出された印刷用紙Pを巻き取る。搬送速度は、例えば、75m/分とされる。各ローラは、制御部88によって制御されてもよいし、人によって手動で操作されてもよい。
記録媒体は、印刷用紙P以外に、ロール状の布などでもよい。また、プリンタ1は、印刷用紙Pを直接搬送する代わりに、搬送ベルトを直接搬送して、記録媒体を搬送ベルトに置いて搬送してもよい。そのようにすれば、枚葉紙や裁断された布、木材、タイルなどを記録媒体にできる。さらに、液体吐出ヘッド2から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、液体吐出ヘッド2から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤や化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
また、プリンタ1に、位置センサ、速度センサ、温度センサなどを取り付けて、制御部88が、各センサからの情報から分かるプリンタ1各部の状態に応じて、プリンタ1の各部を制御してもよい。例えば、液体吐出ヘッド2の温度や液体タンクの液体の温度、液体タンクの液体が液体吐出ヘッド2に加えている圧力などが、吐出される液体の吐出量や吐出速度などの吐出特性に影響を与えている場合などに、それらの情報に応じて、液体を吐出させる駆動信号を変えるようにしてもよい。
次に、本発明の液体吐出ヘッド2を構成するヘッド本体13について説明する。図2は、図1に示された液体吐出ヘッド2の要部であるヘッド本体13を示す平面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大平面図であり、ヘッド本体13の一部を示す図である。図4は、図3と同じ位置の拡大平面図である。図3および図4では、図を分かりやすくするため、一部の流路を省略して描いている。また、図3および図4では、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータ基板21の下方にあって破線で描くべき
加圧室10、しぼり12および吐出孔8dなどを実線で描いている。図5(a)は図3のV−V線に沿った縦断面図であり、図5(b)は、ノズル8の拡大縦断面図であり、図5(c)は、ノズル8を外部開口8d側から見た拡大平面図である。
ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、圧電アクチュエータ基板21とを有している。流路部材4は、ノズル8を有するノズルプレート31と、プレート22〜30が積層された流路部材本体とが積層されて成っている。圧電アクチュエータ基板21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータ基板21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータ基板21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータ基板21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータ基板21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータ基板21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータ基板21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータ基板21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータ基板21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータ基板21に対向する領域に互いに隣接してヘッド本体13の長手方向に延在している。
流路部材4は、複数の加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの加圧室群9を有している。加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータ基板21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの加圧室10によって形成された各加圧室群9は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータ基板21が接着されることで閉塞されている。
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホールド5aに繋がった加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
全体では、マニホールド5から繋がる加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている
。各加圧室列に含まれる加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。吐出孔8dもこれと同様に配置されている。
吐出孔8dは、ヘッド本体13の解像度方向である長手方向において、約42μm(600dpiならば25.4mm/150=42μm間隔である)の間隔で略等間隔に配置されている。これによって、ヘッド本体13は、長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。台形形状の圧電アクチュエータ基板21がオーバーラップしている部分では、2つの圧電アクチュエータ基板21の下方にある吐出孔8dが、互いに補完し合うように配置されていることにより、吐出孔8dは、ヘッド本体13の長手方向に600dpiに相当する間隔で配置されている。
また、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の吐出孔8dを4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10に対向する位置には後述する個別電極35がそれぞれ形成されている。個別電極35は加圧室10より一回り小さく、加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
流路部材4の下面には多数の吐出孔8dが開口している。吐出孔8dは、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、吐出孔8dは、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータ基板21と対向する領域内に配置されている。吐出孔8の集まりである吐出孔群は圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータ基板21の変位素子50を変位させることにより吐出孔8dから液滴が吐出できる。そして、それぞれの領域内の吐出孔8dは、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、図5に示されているように、加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、吐出孔8dは下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、加圧室10を介して副マニホールド5aと吐出孔8dとが繋がる構成を有している。
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された加圧室10である。第2に、加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に
形成された個別供給流路6とが含まれている。
第3に、加圧室10の他端から吐出孔8dへと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には吐出孔8d)までの各プレートに形成されている。ディセンダの吐出孔8d側は特に断面積が小さい、ノズルプレート31に形成されたノズル8となっている。ノズル8は、厚さ方向の途中に断面積がもっとも小さくなっている部分があり、その部分からノズル8の内部開口8cに向かって断面積が大きくなっていくテーパー部8aと、その部分からノズル8の吐出孔(外部開口と呼ぶことがある)8dに向かって断面積が大きくなっていく逆テーパー部8bとからなっている。ノズル8の形状については、後述する。
第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜30に形成されている。
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から吐出孔8dに至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で吐出孔8dから吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、加圧室10の一端部に至る。さらに、加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した吐出孔8dへと進む。
圧電アクチュエータ基板21は、図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータ基板21の変位する部分である変位素子50の厚さは40μm程度であり、100μm以下であることにより、変位量を大きくすることができる。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータ基板21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34、Au系などの金属材料からなる個別電極35を有している。個別電極35は上述のように圧電アクチュエータ基板21の上面における加圧室10と対向する位置に配置されている。個別電極35の一端は、加圧室10と対向している個別電極本体35aと、加圧室10と対向している領域外に引き出されて引出電極35bからなっている。
圧電セラミック層21a、bおよび共通電極34は、それぞれ略同じ形状であることにより、これらを同時焼成により作製する場合に、反りを小さくできる。100μm以下の圧電アクチュエータ基板21は焼成過程で反りが生じやすく、その量も大きくなる。また、反りが生じていると、流路部材4に積層した際に、その反りを変形させて接合することになり、その際の変形が変位素子50の特性変動に影響し、ひいては液体吐出特性のばらつきにつながるため、反りは、圧電アクチュエータ基板21の厚さと同程度以下に小さいことが望ましい。そして、内部電極のある場所とない場所の焼成収縮挙動の差による反りを少なくするために内部電極34は内部にパターンのないベタで形成される。なお、ここで略同じ形状であると、外周の寸法の差がその部分の幅の1%以内であることを言う。圧電セラミック層21a、bの外周は、基本的に焼成前に重ねられた状態で切断して形成されるので、加工精度の範囲内で同じ位置になる。内部電極34も、ベタ印刷した後に、圧
電セラミック層21a、bと同時に切断することで形成されると反りが生じ難いが、圧電セラミック層21a、bと相似形状で少し小さいパターンで印刷することにより、圧電アクチュエータ21の側面に内部電極34が露出しなくなるため、電気的信頼性が高くなる。
詳細は後述するが、個別電極35には、制御部88から外部配線であるFPC(Flexible Printed Circuit)を通じて駆動信号(駆動電圧)が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータ基板21に対向する領域内のすべての加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電セラミック層21b上において、個別電極35からなる電極群を避ける位置に個別電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電セラミック層21bの内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されているとともに、多数の個別電極35と同様に外部配線と接続されている。
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する吐出孔8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータ基板21における各加圧室10に対向する部分は、各加圧室10および吐出孔8に対応する個別の変位素子50(アクチュエータ)に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が加圧室10毎に、加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータ基板21には変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって吐出孔8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
圧電アクチュエータ基板21を平面視したとき、個別電極本体35aは加圧室10と重なるように配置されており、加圧室10の中央に位置している部位の、個別電極35と共通電極34とに挟まれている圧電セラミック層21bは、圧電アクチュエータ基板21の積層方向に分極されている。分極の向きは上下どちらに向かっていてもよく、その方向に対応し駆動信号を与えることで駆動できる。
図5に示されるように、共通電極34と個別電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには厚み方向に分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータ基板21においては、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータ基板21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
本実施の形態における実際の駆動手順は、あらかじめ個別電極35を共通電極34より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極35が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、bが元の形状に戻り、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、bが加圧室10側へ凸となるように変形し、加圧室10の容積
減少により加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極35に供給することになる。このパルス幅は、加圧室10内において圧力波がマニホールド5から吐出孔8dまで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である
。これによると、加圧室10内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
上述したように、ノズル8は、ノズルプレート31に形成されている貫通孔である。ノズルプレート31の厚さ、すなわちノズル8の長さは、20〜100μmである。ノズル8の流体抵抗を低くするためには、できるだけ薄い方が望ましいが、薄すぎると製造上の取扱いが困難になるため、両立できる厚さで最適値に設定する。ノズル8の断面の形状は、円形状であるのが好ましいが、楕円形状、三角形状、四角形状などの回転対称な形状であってもよい。ノズル8の断面のもっとも狭い部分は、例えば、直径10〜60μmの円形状をしている。このノズル孔径は吐出量を設定する制御因子であり、所望の吐出量に応じて設定する。ノズル8の一方の開口は、流路部材4の外側に開口しており、液体が吐出される側の開口である外部開口8dである。また。ノズル8の他方の開口は、流路部材4の内側に向けて開口しており、液体が供給される側の開口である内部開口8cである。
ノズル8は、外部開口8d側において、外部開口8dに向かって開口の断面積が大きくなっている逆テーパー部8bを含んでいる。逆テーパー部8bは、外部開口8d側から見ると、ノズルプレート31を貫通している円形状の部分の周囲に円環状の領域として見える。外部開口8d側から見た場合、逆テーパー部8bの幅は、ほぼ一定になっている。これは、ノズル8の形状が円形状でない場合も同様である。
より具体的には、逆テーパー部8bの対向している部位の幅の差は、基本的に1.5μm以下となっている。幅の差は、好ましくは、1.0μm以下である。複数のノズル8のうち、逆テーパー部8bの対向している部位の幅の差が、1.5μmより大きいノズル8の割合は、10%より低い。その割合は、さらに5%より低く、特に2%より低いことが好ましく、全てのノズル8で、幅の差が1.5μm以下となっているのがさらに好ましい。なお、以下で特に記載がない限り、逆テーパー部8bの幅とは、外部開口8d側から見た場合の幅のことを示す。
詳細は後述するが、幅の差は液体の吐出方向に影響を与える。そのため、液体吐出ヘッド2において、ノズル8が印刷の解像度方向に並んでいる、液体吐出ヘッド2の長手方向における幅の差が特に重要である。なお、ノズルプレート31においては、ノズル8は、印刷の解像度である方向に関して、略等間隔にならんでいる。
図5(c)において、L1は、液体吐出ヘッド2の長手方向に沿った仮想直線であり、L1に沿っている、逆テーパー部8bの対向している部位の幅は、T1a[μm]とT1b[μm]である。対向している部分の幅の差は、T1a[μm]−T1b[μm]の絶対値であり、この値が1.5μm以下となっている。
L2は、印刷時に液体吐出ヘッド2と記録用紙Pとが相対的に搬送される方向である。L2に沿っている逆テーパー部8bの対向している部位の幅の差は、T2a[μm]−T2b[μm]であり、この値も1.5μm以下であるのが好ましい。また、L3、L4は、L1に対して45度傾いた仮想直線であり、L1〜4に沿っている逆テーパー部8bの対向している部位の幅の差を4カ所で測定し、それぞれ1.5μm以下であれば、逆テーパー部8bの幅が全体で、ほぼ一定であることが確認できる。
逆テーパー部8bの平均の幅は、1μm以下であるのが好ましい。ここで、逆テーパー
部8bの平均の幅とは、T1a、T1b、T2aおよびT2bの平均値である。また、逆テーパー部8bの平均の幅は、外部開口8d側から見たときの逆テーパー部8bの面積を、外部開口8bの外周の長さで割って算出してもよい。また、逆テーパー部8bの長さ、別の表現をすれば逆テーパー部8bの深さは、10μm以下、さらに5μm以下であるのが好ましい。逆テーパー部8bの長さが長いいほど吐出時のメニスカス位置がばらつきやすくなり、吐出方向がばらつきやすくなるため、逆テーパー部8bの長さは短い方が好ましい。
ノズル8は、内部開口8c側において、内部開口8cに向かって開口の断面積が大きくなっているテーパー部8aを含んでいる。テーパー部8aの内部開口8cは、ノズルプレート31に直交する方向に対して角度θで傾いている。θは10〜30度であるのが好ましい。テーパー部8aの傾きは、内部開口8c側において、テーパー部8aの長さの半分以上にわたってほぼ一定である。傾きがほぼ一定の部位から外部開口8d側に向かうと、傾きは徐々に緩やかになり、断面積がもっとも小さい部分で逆テーパー部8bに繋がる。テーパー部8aと逆テーパー部8bとの境界に急激に角度の変わる角部はなく、テーパー部8aから逆テーパー部8bにかけては、滑らかに角度が変わっている。
ここで、ノズル8の中心軸からある方向に位置するノズル8の内面の形状について考える。内部開口8c側では中心軸からの距離が長く、内部開口8cから外部開口8dに向かうと中央からの距離は短くなっていき、ある場所で距離がもっとも短くなる。この場所は、テーパー部8aと逆テーパー部8bの境界であり、最近接点Aと呼ぶ。ノズル8は、理想的には中心軸に対する回転体の形状を有していて、中心軸から見た角度毎に最近接点Aの深さ、すなわち、外部開口8dからの距離が変わらないのが好ましいが、製造上ある程度のばらつきが生じる。最近接点Aが急激に角度の変わる角部であり、中心軸からの角度毎に、最近接点Aの深さ方向の位置にばらつきが大きい場合、吐出方向のばらつきも大きくなってしまう。そのため、テーパー部8aから逆テーパー部8bにかけては、角部がなく、滑らかに角度が変わっていることが好ましい。
テーパー部8aおよび逆テーパー部8bを有するノズル8を備えた液体吐出ヘッド2について、印刷精度とノズル8の形状の関係を調べると、逆テーパー部8bの幅の形成ばらつきと液体の吐出方向に関係があることが分かった。具体的には、逆テーパー部8bの幅の広い方向に吐出方向がずれる傾向がある。吐出された液体の後端(以下でテールと言うことがある)が、逆テーパー部8bから離れようとするとき、テールが、逆テーパー部8bの幅の広い側に偏った位置からノズル8の外側に向かうことになる。このテールが吐出された液体の本体に追いついた際に、逆テーパー部8bの幅の広い方向に向かう力を加えるのではないかと考えられる。
内面の対向する部分の逆テーパー部8bの幅の差が1.5μm以下であれば、この影響を小さくでき、吐出方向の精度が高くなり、印刷精度を高くできる。液体吐出ヘッド2において、ノズル8の形成精度を確認するには、例えば、10個のノズル8について、L1方向の逆テーパー部8bの幅T1a、T1bを測定し、その差がすべて1.5μm以下であることを確認し、幅の差が1.5μmより大きいノズル8の割合が10%より低いことを確認すればよい。液体吐出ヘッド2のノズル8の数が10個より少なければ、全てのノズル8を測定し、全てのノズル8で幅の差が1.5μm以下であることを確認すればよい。測定個数は、幅の差が1.5μmより大きいノズル8の割合が5%より低いことを確認するため、20個測定して、そのようなものがないのを確認してもよい。幅の差が1.5μmより大きいノズル8の割合が2%より低いことを確認するため、50個測定して、そのようなものがないのを確認してもよい。また、必要に応じてL2、L3、L4の方向についても、幅の差を測定してもよい。
また、ノズル8の内面の表面粗さは、テーパー部8aよりも逆テーパー部8bの方が小さくなっている。これにより、逆テーパー部8b側の凹凸の影響で吐出方向が、ばらつくことが抑制できる。逆テーパー部8bの表面粗さが大きいと、テールが逆テーパー部8bから離れるのが遅くなることで逆テーパー部8bの幅の差の影響が大きくなる、あるいは、最後にテールが離れる位置が表面粗さの影響でばらつくなどの影響があり、そのようなことが起き難くなるからであると考えられる。ノズル8の内面の表面粗さは、ノズル8を縦方向に切断したもので測定できる。テーパー部8bの表面粗さは、例えばRmax0.13〜0.25μm、逆テーパー部8bの表面粗さは、例えばRmax0.10〜0.15μmにする。逆テーパー部8bの表面粗さは、テーパー部8aの表面粗さより0.02μm以上小さければ、吐出方向のばらつきがより抑制できるので好ましい。
続いて、このようなノズル8を備えたノズルプレート31を製造する2つの製造方法について説明する。最初に、感光した部分が硬化するネガ型のフォトレジストを用いた製造方法を説明し、続いて、感光した部分が溶解するポジ型のフォトレジストを用いた製造方法を説明する。
図6(a)〜(d)は、ネガ型のフォトレジストを用いたノズルプレート31の製造方法の各工程における縦断面図である。まず、ステンレスなどの金属からなる電鋳基板102を準備する。電鋳基板102の、後述の工程でめっきによりノズルプレート31を形成する側の面は、Rmax100nm以下に研磨する。図6(a)のように、電鋳基板102の、研磨された面の側に、ネガ型のフォトレジスト膜104を形成する。フォトレジスト膜104は、液体のフォトレジストをスピンコーティング等の手法で塗布したり、ドライフィルム型レジストを加熱圧着することで形成する。
所望の寸法および配置でノズル8が形成できるようにマスクパターンが形成されたフォトマスク106を準備する。図6(b)のように、フォトマスク106を通して、フォトレジスト膜104に露光する。光源は、高圧水銀灯のg線(波長436nm)、i線(波長365nm)、KrFエキシマレーザー(波長248nm)、ArFエキシマレーザー(波長193nm)などを用いればよい。
フォトマスク106は、ノズル8となる部分のみで光を透過するようになっており、その開口部に位置しているフォトレジスト膜104は、光が当たり、硬化する(以下で硬化した部分を硬化部と言うことがある)。光の回折現象により、フォトマスク106の開口部より外側へ回折光が広がる。開口部の境界付近では、外に広がっていった回折光の分、感光量低下する。基本的にフォトマスク106からの距離が大きくなるほど、この影響は大きくなるので、フォトマスク106から離れるにしたがって、硬化部の範囲は徐々に狭まっていく。これによりテーパー部8aとなる形状が形成される。
しかし、電鋳基板102の直上部のフォトレジスト膜104は、電鋳基板102とフォトレジスト膜104との界面で反射した光によっても露光される。そのため、この界面付近では、硬化部の寸法は大きくなる。反射光はフォトレジスト膜104内で拡散し減衰するので、界面からに遠ざかるにつれて硬化部の大きさは徐々に小さくなっていく。さらに界面から遠ざかると、テーパー部8aとなる形状に繋がり、硬化部の大きさは大きくなっていく。反射光の影響が出るのは、電鋳基板102とフォトレジスト膜104の界面から1〜10μm程度の範囲である。これにより、逆テーパー部8b、および逆テーパー部8bからテーパー部8aにかけて徐々に角度を変える形状となる硬化部が形成できる。ポジ型の製造方法の方が、逆テーパー部8bからテーパー部8aにかけての角度が滑らかに徐々に変わって繋がるようになるため、ネガ型よりもポジ型で作製するのが好ましい。
ここで、フォトレジスト膜104が形成された側の面が上述のように研磨されているた
め、電鋳基板102で反射された光が、ノズル8の外部開口8dとなる側でほぼ均一に反射される。これにより、ノズル8の逆テーパー部8bとなるフォトレジスト膜104の硬化部分の形状の位置によるばらつきを小さくできる。研磨が不十分で、凹凸が有ったり、反射率が低い部分があると、ノズル8内の位置によって、反射した光に強弱の差が生じる。反射光が弱い部分があると、その部分で硬化が進まないため、逆テーパー部8aが小さくなり、逆テーパー部8aの幅も小さくなる。逆に、反射光が強い部分があると、その部分で硬化が進むため、逆テーパー部8aが大きくなり、逆テーパー部8aの幅も大きくなる。そのような部分があると、ノズル幅の内面の対向する部分の逆テーパー部8aの幅の差が大きくなり、その差が1.5μm以上になると、吐出方向に精度の低下が生じてしまう。
未硬化のフォトレジスト膜104を取り除くと、ノズル8の形状の元となる、フォトレジスト膜104の硬化部が、図6(c)のように、パターンニングされて残る。この際、必要に応じて、超純水などですすいで、不要部分が残り難いようにする。
ノズルプレート31は、以上のようにして準備した、パターニングされたフォトレジスト膜104が形成された電鋳基板102に対してめっき膜31を形成することで作製する。電鋳基板102を、Ni、Cu、Cr、Ag、W、Pt、Pd、Rdなどを含んだめっき液に浸けて、電気を流すことで、図6(d)のように、フォトレジスト膜104が配置された電鋳基板102の面に、めっき膜31が形成される。めっき膜31は、例えば、Niを主成分としたものである。めっき膜31の形成は、フォトレジスト膜104の高さに達する前に時間管理などにより停止され、所定の厚さのノズルプレート31となる。続いて、ノズル8内部のフォトレジスト膜104を、有機溶剤などを用いて除去する。さらに、ノズルプレート31を電鋳基板102から剥離する。
このようにして、テーパー部8aおよび逆テーパー部8bを有するノズル8を備えたノズルプレート31を作製することができる。必要に応じて、ノズルプレート31の外部開口8d側の表面に、フッ素樹脂やカーボンなどで撥水(撥インク)膜などを形成してもよい。
なお、露光を行なう前にあらかじめ加熱して硬化反応を促進するようにしてもよい。加熱工程はオーブンやホットプレート等を使用すれば容易に制御できる。また、この加熱工程により、フォトレジスト膜104において、電鋳基板102側の硬化反応がより促進されるので、現像後のフォトレジスト膜104の側面の表面粗さは、電鋳基板102から遠い側より、電鋳基板102に近い側の方が小さくなる。現像後のフォトレジスト膜104の側面の表面粗さは、ノズル8に転写されてノズル8の内面の表面粗さになる。そのため、以上のように作製すると、逆テーパー部8bの表面粗さをテーパー部8aの表面粗さより小さくできる。吐出特性への影響の大きい逆テーパー部8bの表面粗さが小さくなることにより、吐出特性のばらつきが低減できる。
図6(e)〜(h)は、ポジ型のフォトレジストを用いたノズルプレート31の製造方法の各工程における縦断面図である。
図6(e)では、電鋳基板202の一方の面に、ポジ型のフォトレジスト膜204が形成されている。電鋳基板202は上述のネガ型で用いたものとほぼ同じものを用いればよいが、フォトレジスト膜204側の面の研磨は、必ずしも必要ではない。この製造工程では、電鋳基板202とフォトレジスト膜204との界面側がノズル8の内部開口8c側となるので、電鋳基板202とフォトレジスト膜204との界面での反射光の影響で内部開口8c側の形成精度がばらついても、外部開口8d側の形状がばらつく場合と比較して、吐出特性に与える影響が低いからである。しかし、研磨を行なうことにより、内部開口8
c側の形成精度を高くでき、吐出特性のばらつきを低減できるので、研磨は行った方がよい。ポジ型のフォトレジスト膜204は、ネガ型のフォトレジスト膜104と同様の手法で形成することができる。
図6(f)では、フォトマスク206はノズル8となる部分のみ遮光するようになっており、その他の透過する部分に位置しているフォトレジスト膜204は溶解除去される。先のネガ型のフォトレジストを用いたノズルプレート31の製造工程と同様に、光の回折現象によりフォトマスク206の遮光部より内側へ回折光が広がる。遮光部の境界付近では、内側に広がっていった回折光の分、感光量が低下する。基本的にフォトマスク206からの距離が大きくなるほど、この影響は大きくなるので、フォトマスク106から離れるにしたがって、溶解除去される範囲は徐々に狭まっていく。これにより図6(g)のようにテーパー部8aとなる形状が形成される。 図6(h)では、ネガ型のフォトレジストを用いた製造工程と同様にめっき膜31を形成している。ネガ型の製造方法では説明を省略したが、フォトレジスト膜204近傍では、周囲よりめっき膜31の形成速度が遅くなる。このため、フォトレジスト膜204近傍では、めっき膜31の成長が遅れ、フォトレジスト膜204に向かってめっき膜31の厚さが徐々に薄くなっている湾曲部31aが形成される。この現象は、ポジ型・ネガ型の両方の製造工程で生じるが、ポジ型の工程では、フォトレジスト膜204近傍のめっき膜31の厚みばらつきによって、湾曲部31aの寸法がばらつく。
湾曲部31aは、逆テーパー部8bの元となる形状であるが、めっき膜31の工程条件の管理だけでは、逆テーパー部8bの幅のばらつきが所望の範囲になるような、高い精度で湾曲部31aを形成するのは困難である。そこで、フォトレジスト膜204の残渣を取り除き、ノズルプレート31を電鋳基板202から剥離した後、ノズルプレート31を湾曲部31a側、すなわち外部開口8b側から研磨する。この研磨はラッピング、バフ研磨、化学研磨、電解研磨等の様々な手法で行なえる。ノズルプレート31の場所によって、湾曲部31aの形状に差異があるので、場所によって研磨量を調整することにより、逆テーパー部8bの対向している部分の幅の差を1.5μm以下にする。
ネガ型の製造方法でノズルプレート31を作製し、逆テーパー部8bの幅と、吐出方向のばらつきとの関係を調べた。ノズルプレート31を作製する工程においては、電鋳基板102の表面をRmax100nmに研磨して作製した本発明のノズルプレート31と、Rmax2μmの電鋳基板102で作製した本発明の範囲外のノズルプレート31を作製した。それらのノズルプレート31を用いて図2、3、4および5(a)に示した液体吐出ヘッド2を作製して評価を行なった。
作製したノズル8の形状は、ノズル8の厚さ40μm、テーパー部8aの厚さ35μm、逆テーパー部8bの厚さ5μm、外部開口8dは円形状で直径20μm、逆テーパー部8bの平均幅1.5μmであった。 図7(a)は、電鋳基板102の表面をRmax100nmに研磨して作製したノズルプレート31を用いて作製した液体吐出ヘッド2における、逆テーパー部8bの幅の差と着弾位置のずれとの関係を示したグラフである。図7(b)は、その際の、逆テーパー部8bの幅の差の発生頻度を示したグラフである。なお、グラフ中の「0.1〜0.3」等は、0.1以上0.3未満を表している。
図7(c)、(d)は、電鋳基板102の表面をRmax2μmで作製したノズルプレート31を用いて作製した液体吐出ヘッド2の同様の評価結果を示したグラフである。
評価では、50個のノズル8について、液体吐出ヘッド2の長手方向における、逆テーパー部8bの幅の差と、着弾位置のずれを測定した。測定するノズル8は、液体吐出ヘッ
ド2のノズルプレート31の全体にわたってほぼ均等に分布するようにランダムに決めた。なお、2つの液体吐出ヘッド2で評価したノズル8は、同じ位置のものとした。
逆テーパー部8bの幅の差は、図5(c)に示したように、液体吐出ヘッド2の長手方向に沿った仮想線L1と交差している部分の、対向している逆テーパー部8bの幅のT1a[μm]とT1b[μm]を測定した。図7(a)〜(d)のグラフでは、こられの差T1a−T1bの値を示している。つまり、グラフの逆テーパー部8bの幅の値が正であれば、図5(c)の右側の逆テーパー部8bの幅が大きく、負であれば、図5(c)の左側の逆テーパー部8bの幅が大きいことになる。
着弾位置のずれは、吐出孔8dから1mm離れた位置に着弾した液体の着弾位置のずれのうち、液体吐出ヘッド2の長手方向のずれを測定した。着弾位置のずれが正の値であれば、図5(c)における右側にずれていることを表している。
図7(a)、(c)のいずれにおいても、着弾位置は、逆テーパー部8bの幅の広い側にずれており、液体の飛翔方向が、逆テーパー部8bの幅の広い側に向かう傾向があるのが分かる。
図7(a)、(b)の評価では、逆テーパー部8bの対向している部分の幅の差が1.5μmより大きくなっているノズル8の割合は、50個中0個で、0%であり、その割合は10%より低くなった。つまり、図7(a)、(b)で評価した液体吐出ヘッド2は、本発明の範囲内のノズルプレート31を備えており、評価したノズル8における着弾位置ずれの絶対値は、最大でも5.8μmと小さくなった。また、この液体吐出ヘッド2は、600dpiで良好な印刷が可能であった。
これに対して、図7(c)、(d)の評価では、逆テーパー部8bの対向している部分の幅の差が1.5μmより大きくなっているノズル8の割合は、50個中11個で、12%であり、その割合は10%以上となった。つまり、図7(c)、(d)で評価した液体吐出ヘッド2は、本発明の範囲外のノズルプレート31を備えており、評価したノズル8における着弾位置ずれの絶対値は、最大で23.9μmと大きくなった。また、この液体吐出ヘッド2は、600dpiでの印刷結果は、上述の液体吐出ヘッド2に対して劣っていた。