JP2015190002A - 非調質ウェルドボルト用鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】所定の成分組成を有し、ミクロ組織は、ベイナイトが面積分率で80%以上であり、かつ、2個以上のフェライト結晶粒と直接隣接するベイナイト結晶粒が面積分率で30%以上であることを特徴とする引張強度が650〜800MPaの非調質ウェルドボルト用鋼材。
【選択図】なし
Description
(1)溶接性向上には、カーボン当量(Ceq)の上限値を定めることが有効である。カーボン当量を低く抑えるためには、合金元素量の削減以外に方法は無い。しかしながら、合金元素量を削減すると、高強度の鋼材とするための組織であるベイナイト組織にならず、所望の強度を得られない可能性がある。そこで、焼入性の指標である理想臨界直径(DI)の下限値を規定する必要があると考えた。こうしてCeqとDIを同時に規定することで、良好な溶接性とベイナイト組織を得るための厳密な合金成分の管理が可能となる。
(2)しかしながら、ウェルドボルトは通常のボルト頭部より成形時に加えられる加工変形量が大きいため、上述したように、組織を単純にベイナイト化するだけではボルト頭部成形時に不具合が生じる。そこで、ボルト頭部成形時の不具合を解決するために鋭意研究を重ねた結果、さらなるミクロ組織の制御が有効であることを見出した。すなわち、ミクロ組織を単純にベイナイト化するだけでなく、ベイナイト結晶粒の周囲に、ベイナイトと比較して変形抵抗が低く且つ変形能が高いフェライトの結晶粒を2個以上直接隣接させるとともに、直接隣接するベイナイト結晶粒の割合を一定以上にすることで、ウェルドボルト頭部成形も可能になり、加工性が損なわれないことを見出した。
(3)錆生成抑制については、Si、Cu、Niの含有量適正化に関して鋭意検討を重ね、それぞれの元素の錆生成抑制に対する効果を定量化した結果、これらの含有量を適正化するための式を導出することができ、この式に基づき厳密な合金成分の管理が可能となり、錆生成を抑制することができる。
[1]成分組成が、質量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.20%以下、Mn:0.50〜1.50%、Ti:0.005〜0.100%、B:0.0002〜0.0050%、Al:0.080%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cu:0.20%以下、Ni:0.20%以下、N:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、下記(1)、(2)、(3)式を満たす範囲で含有し、ミクロ組織は、ベイナイトが面積分率で80%以上であり、かつ、2個以上のフェライト結晶粒と直接隣接するベイナイト結晶粒が面積分率で30%以上であることを特徴とする引張強度が650MPa以上800MPa以下の非調質ウェルドボルト用鋼材。
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14≦0.42…(1)
DI=15.9√C(1+0.64Si)(1+4.1Mn)(1+0.52Ni)(1+2.33Cr)(1+3.14Mo)≧50.0…(2)
Si+6Cu+9Ni≧1.0…(3)
ただし、上記式(1)〜(3)において、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Cu、は、各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
[2]さらに質量%で、Cr:0.50%以下を含有することを特徴とする[1]に記載の非調質ウェルドボルト用鋼材。
[3]さらに質量%で、Mo:0.50%以下、V:0.50%以下、Nb:0.060%以下のうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の非調質ウェルドボルト用鋼材。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の成分組成を有する鋼を熱間圧延後に巻取温度850℃以上で巻取り、次いで、巻取り温度から730〜780℃の温度範囲まで、冷却速度8〜12℃/sの冷却速度で冷却し、その後430〜480℃の範囲まで、冷却速度15〜22℃/sの冷却速度で冷却することを特徴とする引張強度が650MPa以上800MPa以下の非調質ウェルドボルト用鋼材の製造方法。
Cは鋼材の強度を確保し、熱間圧延後の冷却過程においてベイナイトを得るためには必須の元素である。また、合金コストも安く、C量を多く含有できれば合金コスト削減が可能である。これらの観点から、含有量の下限値を0.15%とする。しかし、Cの過剰な含有はBの焼入性向上効果を低下させるだけでなく、鋼材を脆化させる。また、適量のフェライト組織確保も困難にする。このため、C量の上限を0.30%とする。より好ましくは、上限を0.25%とする。
Siは溶接部の錆生成を抑制する効果がある。一方で、その効果に関してはCu、Niで代替可能である。また、Siの積極的な含有は鋼材の変形抵抗を上げ金型寿命を短くするため、Siの含有量は少ないほどよく、含まなくてもよい。一方で、上限は0.20%とする。より好ましくは、上限を0.15%とし、さらにより好ましくは、上限を0.10%とする。
Mnは鋼の焼入性を高め、固溶して鋼の強度を高めるのに有効な元素である。これらの効果を得るために下限値は0.50%とする。より好ましい下限値は0.60%とする。一方で、過剰な含有は鋼材の脆化を招くと共に適量のフェライトを得ることを困難にする。このため、上限は1.50%とする。より好ましくは上限を1.45%、さらにより好ましくは1.40%とする。
Tiは鋼中の固溶Nと結びついて窒素化合物を形成する。鋼中の固溶Nを取り除くことで、Bの焼入性向上効果が引き出されるため、Tiは必須の添加元素である。その効果を得るためには、0.005%以上とする。より好ましくは0.008%以上、さらにより好ましくは0.010%以上とする。Tiの含有量が0.005%未満である場合、Bが鋼中の窒素と全量結合して窒化物を形成し、Bの焼入性向上の効果が全く得られなくなる。一方で、Tiの効果は含有量の増加に伴い飽和する。また、過剰の含有は鋼製造中にTiが大気中の酸素と結びついて内部応力集中源である酸化物量の増加を招くため、好ましくない。このため、Ti量の上限を0.100%とする。より好ましくは上限を0.080%、さらにより好ましくは0.060%とする。
Bは微量で鋼の焼入性を劇的に向上させる元素である。0.0002%程度の微量の添加でも焼入性向上の効果が得られる。したがって、Bの下限は0.0002%とする。より好ましくは下限を0.0004%、さらにより好ましくは0.0005%とする。しかし、Bの効果は含有量増大と共に飽和し、合金コストも含有量に比例して増大する。このため、Bの上限を0.0050%とする。より好ましくは上限を0.0040%、さらにより好ましくは0.0030%とする。
Alは鋼の製造時の脱酸に必須の元素である。しかしながら、Alの効果は0.080%以上では飽和する。このため、上限を0.080%とする。より好ましくは0.065%、さらにより好ましくは0.050%である。一方、下限については、同じく脱酸能力のあるSiを積極的に含有できない以上、Alによる脱酸無しでは現実的なコストでの鋼材の商用製造が成り立たないため、添加必須とする。より好ましくは下限を0.005%、さらにより好ましくは0.010%とする。
Pは鋼中に存在すると、結晶粒界に偏析して鋼材を脆化する元素であり、その量は少なければ少ないほどよい。一方、鋼材の脆化を防ぐため、Pの上限を0.030%とする。より好ましくは上限を0.025%、さらにより好ましくは0.020%とする。
Sは鋼中に存在すると、鋼材を脆化する元素であり、その量は少なければ少ないほどよい。一方、鋼材の脆化を防ぐため、Sの上限を0.030%とする。より好ましくは上限を0.025%、さらにより好ましくは0.020%とする。
Cuは溶接部の錆生成を抑制する元素である。しかしながら、CuのほかにもSi、Niにより同様の効果が期待できる。このため、Cuは必ずしも必須ではなく、含まなくてもよい。一方、必要以上の含有は合金コストの増大を招く。したがって、Cuの上限を0.20%とする。より好ましくは上限を0.18%、さらにより好ましくは0.16%とする。
Niは溶接部の錆生成を抑制する元素である。しかしながら、NiのほかにもSi、Cuにより同様の効果が期待できる。このため、Niは必ずしも必須ではなく、含まなくてもよい。一方、必要以上の含有は合金コストの増大を招く。このため、Niの上限を0.20%とする。より好ましくは上限を0.18%、さらにより好ましくは0.16%とする。
Nは鋼の製造で不可避的に侵入してくる元素であり、鋼中にNが存在するとBと化合物を形成し、上述したBの焼入性向上効果を失わせる。また、鋼材製品の加工時に導入された転位と結びつき、歪時効を起こすことで製品の延性を低下させる元素である。このため、含有量は少ないほど良く、含まなくてもよい。一方で、鋼材の製造工程でのNの完全除去は、商用生産の観点から非現実的であり、Nの鋼中存在量の上限を規制し、Nの効果を実害が無い範囲にとどめるほうが現実的である。このため、Nの上限を0.0100%とする。より好ましくは上限を0.0090%、さらにより好ましくは0.0080%とする。
Crは鋼の焼入性を上げるとともに、鋼中に固溶して高強度化に効果があるため、Mn等に変えて含有することができる元素である。そのため、Crを含有する場合、好ましくは下限を0.05%、さらに好ましくは0.10%とする。しかしながら、Crを過剰に含有すると溶接性に悪影響を及ぼす。また、焼入性が上がる結果、鋼材製造時にマルテンサイト生成のリスクを高め、加工性を著しく低下させる。さらに、合金量増加により高コスト化する懸念がある。このため、含有する場合、上限を0.50%とする。より好ましくは上限を0.40%、さらにより好ましくは0.30%とする。
Moは鋼の焼入性を上げると共に、鋼中に固溶して高強度化に効果があり、Mn等に変えて含有することができる元素である。そのために、Moを含有する場合、好ましくは下限を0.05%以上、さらにより好ましくは0.10%以上とする。しかしながら、Moを過剰に含有すると溶接性に悪影響を及ぼす。また、焼入性が上がる結果、鋼材製造時にマルテンサイト生成のリスクを高め、加工性能を著しく低下させる。さらに、合金量増加により高コスト化する懸念がある。このため、含有する場合、上限を0.50%とする。より好ましくは上限を0.40%、さらにより好ましくは0.30%とする。
Vは製造時に微細な炭化物を形成し、鋼材を著しく高強度化させる効果をもつ元素であるとともに、鋼材の焼入性を上げる効果がある。そのために、Vを含有する場合、好ましくは下限を0.05%、さらに好ましくは0.10%とする。しかしながら、Vを過剰に含有すると溶接性に悪影響を及ぼす。さらに、合金量増加により高コスト化する懸念がある。このため、含有する場合、上限を0.50%とする。より好ましくは上限を0.40%、さらにより好ましくは0.30%とする。
Nbは製造時に微細な炭化物を形成し、鋼材を著しく高強度化させる効果をもつ元素である。そのため、Nbを含有する場合、好ましくは下限を0.010%、さらに好ましくは0.020%とする。しかしながら、Nbを過剰に含有すると、鋳造時にインゴットに割れを生じ、製造性が悪化する懸念がある。また、合金量増加により高コスト化する懸念がある。このため、含有する場合、上限を0.060%とする。より好ましくは上限を0.050%、さらにより好ましくは0.040%とする。
Ceqの値は溶接部の硬さの指標となる値である。Ceqの値が大きいほど溶接部の硬さが硬くなり、溶接部が脆化していることを意味する。引張強度が650MPa以上の非調質ウェルドボルト用鋼材において、溶接部のCeqの値としては、0.42(%)を上限とする。より好ましくは0.415(%)、さらにより好ましくは0.41(%)である。
DIは鋼の焼入性の指標である。後述する熱間圧延後の冷却速度の制御により所望のベイナイト組織を得るためには、50.0以上の値が必要である。より好ましくは50.5以上、さらにより好ましくは51.0以上である。
上記式(3)は、ウェルドボルトの溶接部の錆生成抑制効果を有する3元素の含有量のバランスを規定する式である。Si、Cu、Niは、ウェルドボルトの溶接部の錆生成を抑制する効果を有する元素であり、その効果は元素により異なる。Si添加による効果を1とすると、Cuはその6分の1の添加量でSiと同等の錆生成抑制効果が得られる。また、NiはSiの9分の1の添加量でSiと同等の錆生成抑制効果が得られる。そして、引張強度が650MPa以上の非調質ウェルドボルト用鋼材において、溶接部で錆生成を抑制するためには、上記式(3)を用いて得られる値が1.0以上とする必要がある。より好ましくは1.05以上、さらにより好ましくは1.10以上である。
Claims (4)
- 成分組成が、質量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.20%以下、Mn:0.50〜1.50%、Ti:0.005〜0.100%、B:0.0002〜0.0050%、Al:0.080%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cu:0.20%以下、Ni:0.20%以下、N:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、下記(1)、(2)、(3)式を満たす範囲で含有し、ミクロ組織は、ベイナイトが面積分率で80%以上であり、かつ、2個以上のフェライト結晶粒と直接隣接するベイナイト結晶粒が面積分率で30%以上であることを特徴とする引張強度が650MPa以上800MPa以下の非調質ウェルドボルト用鋼材。
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14≦0.42…(1)
DI=15.9C0.5(1+0.64Si)(1+4.1Mn)(1+0.52Ni)(1+2.33Cr)(1+3.14Mo)≧50.0…(2)
Si+6Cu+9Ni≧1.0…(3)
ただし、上記式(1)〜(3)において、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Cu、は、各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。 - さらに質量%で、Cr:0.50%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の非調質ウェルドボルト用鋼材。
- さらに質量%で、Mo:0.50%以下、V:0.50%以下、Nb:0.060%以下のうち少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の非調質ウェルドボルト用鋼材。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の成分組成を有する鋼を熱間圧延後に巻取温度850℃以上で巻取り、次いで、巻取り温度から730〜780℃の温度範囲まで、冷却速度8〜12℃/sの冷却速度で冷却し、その後430〜480℃の範囲まで、冷却速度15〜22℃/sの冷却速度で冷却することを特徴とする引張強度が650MPa以上800MPa以下の非調質ウェルドボルト用鋼材の製造方法。
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