JP2015188442A - セサミン生産用植物培養細胞およびそれを用いるセサミン製造方法 - Google Patents
セサミン生産用植物培養細胞およびそれを用いるセサミン製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2015188442A JP2015188442A JP2014070759A JP2014070759A JP2015188442A JP 2015188442 A JP2015188442 A JP 2015188442A JP 2014070759 A JP2014070759 A JP 2014070759A JP 2014070759 A JP2014070759 A JP 2014070759A JP 2015188442 A JP2015188442 A JP 2015188442A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- sesamin
- plant
- cells
- pinoresinol
- endogenous
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Landscapes
- Breeding Of Plants And Reproduction By Means Of Culturing (AREA)
- Immobilizing And Processing Of Enzymes And Microorganisms (AREA)
- Preparation Of Compounds By Using Micro-Organisms (AREA)
- Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)
Abstract
【課題】セサミンを安定的に大量合成するための新規なセサミン生産用植物培養細胞、当該細胞を用いるセサミンの製造方法および当該細胞の保存方法を提供すること。
【解決手段】内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素を発現する植物由来の培養細胞であって、内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現を抑制し、外来性のセサミン合成酵素を発現するように改変された植物培養細胞。
【選択図】なし
【解決手段】内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素を発現する植物由来の培養細胞であって、内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現を抑制し、外来性のセサミン合成酵素を発現するように改変された植物培養細胞。
【選択図】なし
Description
本発明は、セサミン生産用植物培養細胞、当該植物培養細胞を用いるセサミン製造方法、および当該植物培養細胞の凍結保存方法に関するものである。
ゴマ(Sesamum indicum)種子中に含まれているセサミンは、多様な生理活性を有することが明らかにされており、コレステロール代謝、肝機能、免疫機能等の改善に有効であることが知られている。セサミンをゴマ種子あるいはゴマ種子の絞り粕から分離精製する方法はすでに実用化されており(特許文献1、2参照)、セサミンを主成分とする、アルコール分解促進作用などを有する肝機能活性増強剤が市販されている。しかし、セサミンの原料素材として供給可能であるのは、ゴマ油製品類の精製工程での副産物であり、ゴマ油製品類の需要の変動により供給が困難となることが危惧される。さらに、通常ゴマ種子は1年に1回しか収穫されない。しかも日本では、使用するゴマ種子のほとんどを輸入に依存している。それゆえ、今後のセサミンの需要増加を考慮すれば、安定的な原材料供給源の確保が課題となる。
上記課題の解決策として、本発明者らは、セサミン合成能を持たないレンギョウ(Forsythia koreana)の葉から調製した培養細胞に、ゴマ由来のセサミン合成酵素をコードする遺伝子と内因性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素(PLR:pinoresinol/lariciresinol reductase)の発現を抑制するためのRNA分子をコードする遺伝子を共導入し、セサミンの合成に成功したことを報告している(非特許文献1参照)。しかしながら、その合成効率はセサミンを安定的に大量合成するためには十分といえず、セサミンをより安定的に大量合成可能な植物培養細胞を樹立すると共に、合成効率を向上させるための培養環境および培養細胞の維持管理に関して、更なる検討が必要とされている。
Kim, H. J., E. Ono, K. Morimoto, T. Yamagaki, A. Okazawa, A. Kobayashi & H. Satake (2009) Metabolic engineering of lignan biosynthesis in Forsythia cell culture. Plant and Cell Physiology, 50, 2200-2209.
本発明は、セサミンを安定的に大量合成するための新規なセサミン生産用植物培養細胞、当該細胞を用いるセサミンの製造方法および当該細胞の保存方法を提供することを課題とする。
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素を発現する植物由来の培養細胞であって、内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現を抑制し、外来性のセサミン合成酵素を発現するように改変された植物培養細胞。
[2]内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素の発現を特異的に抑制するRNAを発現するよう構築されたRNAi発現ベクター、内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現を特異的に抑制するRNAを発現するよう構築されたRNAi発現ベクターおよびセサミン合成酵素遺伝子発現ベクターが導入されていることを特徴とする前記[1]に記載の植物培養細胞。
[3]セサミン合成酵素が、ゴマ由来のセサミン合成酵素である前記[1]または[2]に記載の植物培養細胞。
[4]ゴマ由来のセサミン合成酵素が、配列番号1または配列番号3に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなることを特徴とする前記[3]に記載の植物培養細胞。
[5]ゴマ、レンギョウまたはアマ由来の植物培養細胞であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の植物培養細胞。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の植物培養細胞を培養する培養工程と、植物培養細胞からセサミンを抽出および精製する抽出精製工程とを含むことを特徴とするセサミンの製造方法。
[7]培養工程において、赤色光を含む光照射条件下で培養することを特徴とする前記[6]に記載の製造方法。
[8]培養工程において、赤色光照射条件下で培養することを特徴とする前記[6]に記載の製造方法。
[9]さらに、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の植物培養細胞の凍結保存細胞を再培養する再培養工程を含む前記[6]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]凍結保存細胞が、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の植物培養細胞をアルギン酸ナトリウムビーズに封入して凍結保存した細胞である前記[9]に記載の製造方法。
[11]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の植物培養細胞を、セサミン合成能を維持したまま凍結保存する方法であって、前記植物培養細胞をアルギン酸ナトリウムビーズに封入して凍結することを特徴とする凍結保存方法。
[12]液体窒素中で凍結保存することを特徴とする前記[11]に記載の凍結保存方法。
[1]内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素を発現する植物由来の培養細胞であって、内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現を抑制し、外来性のセサミン合成酵素を発現するように改変された植物培養細胞。
[2]内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素の発現を特異的に抑制するRNAを発現するよう構築されたRNAi発現ベクター、内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現を特異的に抑制するRNAを発現するよう構築されたRNAi発現ベクターおよびセサミン合成酵素遺伝子発現ベクターが導入されていることを特徴とする前記[1]に記載の植物培養細胞。
[3]セサミン合成酵素が、ゴマ由来のセサミン合成酵素である前記[1]または[2]に記載の植物培養細胞。
[4]ゴマ由来のセサミン合成酵素が、配列番号1または配列番号3に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなることを特徴とする前記[3]に記載の植物培養細胞。
[5]ゴマ、レンギョウまたはアマ由来の植物培養細胞であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の植物培養細胞。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の植物培養細胞を培養する培養工程と、植物培養細胞からセサミンを抽出および精製する抽出精製工程とを含むことを特徴とするセサミンの製造方法。
[7]培養工程において、赤色光を含む光照射条件下で培養することを特徴とする前記[6]に記載の製造方法。
[8]培養工程において、赤色光照射条件下で培養することを特徴とする前記[6]に記載の製造方法。
[9]さらに、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の植物培養細胞の凍結保存細胞を再培養する再培養工程を含む前記[6]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]凍結保存細胞が、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の植物培養細胞をアルギン酸ナトリウムビーズに封入して凍結保存した細胞である前記[9]に記載の製造方法。
[11]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の植物培養細胞を、セサミン合成能を維持したまま凍結保存する方法であって、前記植物培養細胞をアルギン酸ナトリウムビーズに封入して凍結することを特徴とする凍結保存方法。
[12]液体窒素中で凍結保存することを特徴とする前記[11]に記載の凍結保存方法。
本発明により、セサミンを安定的に大量合成するための新規なセサミン生産用植物培養細胞、当該細胞を用いてセサミンを安定的に製造する方法、および当該細胞のセサミン合成能を維持したまま長期間凍結保存する方法を提供することができる。
〔植物培養細胞〕
本発明は、セサミン生産用の植物培養細胞を提供する。本発明の植物培養細胞は、内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素を発現する植物細胞由来の培養細胞であって、内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現を抑制し、外来性のセサミン合成酵素を発現するように改変された植物培養細胞であることが好ましい。
本発明は、セサミン生産用の植物培養細胞を提供する。本発明の植物培養細胞は、内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素を発現する植物細胞由来の培養細胞であって、内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現を抑制し、外来性のセサミン合成酵素を発現するように改変された植物培養細胞であることが好ましい。
内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素を発現する植物としては、例えば、ゴマ等のゴマ科植物、レンギョウ、オリーブ等のモクセイ科植物、アマ等のアマ科植物、キャベツ、ケール、ブロッコリー等のアブラナ科植物、アンズ、モモ、イチゴ等のバラ科植物などが挙げられる。なかでもピノレジノール含量が高いゴマ、レンギョウ、アマが好ましい。内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素を発現する植物は、内在性のセサミン合成酵素を有する植物でもよく、内在性のセサミン合成酵素を有しない植物でもよい。
セサミン合成酵素は、ピノレジノールからセサミンへの反応を触媒する酵素であればよい。このような酵素としては、ゴマ由来のセサミン合成酵素を好適に用いることができる。ゴマ由来のセサミン合成酵素としては、Sesamum indicumから単離されたチトクロームP−450であるCYP81Q1およびSesamum radiatumから単離されたチトクロームP−450であるCYP81Q2が知られている(Ono, E. et al., (2006) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 10116-10121.)。ただし、セサミン合成酵素はこれらに限定されず、他の公知のセサミン合成酵素および今後見出されるセサミン合成酵素は、いずれも本発明に好適に用いることができる。
ゴマ由来のセサミン合成酵素は、配列番号1に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質であることが好ましい。配列番号1に示されるアミノ酸配列はSesamum indicum CYP81Q1のアミノ酸配列であり、アクセッション番号BAE48234としてGenBank等の公知のデータベースに登録されている。また、ゴマ由来のセサミン合成酵素は、配列番号3に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質であることが好ましい。配列番号3に示されるアミノ酸配列はSesamum radiatum CYP81Q2のアミノ酸配列であり、アクセッション番号BAE48235としてGenBank等の公知のデータベースに登録されている。
配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列が挙げられる。「1〜数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。このような変異タンパク質は、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在するタンパク質を単離精製したものであってもよい。また、実質的に同一のアミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列が挙げられる。配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列も同じである。
ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素およびピノレジノール配糖化酵素は、用いる植物細胞に応じて決定される。例えば、レンギョウ細胞を用いる場合、ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素(PLR)はアクセッション番号AAC49608としてGenBank等の公知のデータベースに登録されているものが該当し、ピノレジノール配糖化酵素(UGT71A18)はアクセッション番号BAI65912としてGenBank等の公知のデータベースに登録されているものが該当する。
例えば、アマ細胞を用いる場合、ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素(PLR)としては、以下のアクセッション番号のPLRを挙げることができる。Q4R0I0、CAH60857(以上、Linum album)、Q4R0H9、E6Y2X0、CAH60858、ABW24501、P0DKC8、CAC51250(以上、Linum usitatissimum)、A3R052、ABM68630(以上、Linum perenne)、B5KRH5(Linum corymbosum)など。また、ピノレジノール配糖化酵素としては、以下のアクセッション番号のピノレジノール配糖化酵素を挙げることができる。AFJ52909、AFJ52910、AFJ52911、AFJ52912、AFJ52913、AFJ52914(以上、Linum usitatissimum)など。
他の植物細胞を用いる場合、用いる植物細胞のピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素およびピノレジノール配糖化酵素は、公知のデータベースを検索することにより、容易に見出すことができる。
他の植物細胞を用いる場合、用いる植物細胞のピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素およびピノレジノール配糖化酵素は、公知のデータベースを検索することにより、容易に見出すことができる。
植物細胞の内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現を抑制する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜選択して用いることができる。例えば、標的遺伝子を改変する方法(例えば、遺伝子ノックアウト法等)、転写後に抑制する方法(例えば、RNAiによるノックダウン法等)などが挙げられる。その他、標的遺伝子の転写を選択的に阻害・抑制する方法であってもよいし、スプライシング、翻訳、翻訳後修飾のいずれかのプロセスを選択的に阻害することにより、標的遺伝子産物の発現を特異的に抑制する方法であってもよい。
遺伝子ノックアウト法を用いる場合には、T−DNA、トランスポゾン等を利用して遺伝子破壊株の集団を作製し、この中から標的遺伝子が破壊された株を選抜することにより、標的遺伝子が破壊された植物細胞を取得することができる。
RNAiによるノックダウン法を用いる場合には、標的遺伝子のRNAiを生じさせるsiRNA(short interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)等のRNA分子を人工的に作製し、これを植物細胞内に導入することにより標的遺伝子の発現が抑制された植物細胞を得ることができる。植物細胞において持続的かつ安定的に標的遺伝子の発現を抑制するために、RNAi発現ベクター構築し、これを植物細胞に導入することが好ましい。RNAi発現ベクターは、(1)1本のRNAで適当な長さのヘアピン構造をもつdsRNAを対象細胞内で発現させるように設計されたもの、(2)センス鎖、アンチセンス鎖それぞれを対象細胞内で発現させ、会合させるように設計されたもの、のいずれであってもよい。
標的遺伝子のRNAiを生じさせるRNA分子は、標的遺伝子の塩基配列に基づいて公知の方法で設計することができる。標的遺伝子の塩基配列は、公知のデータベース(例えば、GenBank等)から容易に取得することができる。例えば、本発明においてレンギョウ細胞を用いる場合、レンギョウのピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素(PLR)をコードする遺伝子の塩基配列(配列番号5)は、アクセッション番号U81158としてGenBank等のデータベースに登録されている。また、レンギョウのピノレジノール配糖化酵素(UGT71A18)をコードする遺伝子の塩基配列(配列番号6)は、アクセッション番号AB524718としてGenBank等のデータベースに登録されている。また、本発明においてアマ細胞を用いる場合、上記例示した各アクセッション番号のピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素(PLR)をコードする遺伝子の延期配列、および、上記例示した各アクセッション番号のピノレジノール配糖化酵素をコードする遺伝子の延期配列に基づいてRNAiを生じさせるRNA分子を設計することができる。
レンギョウのピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素(PLR)の発現を抑制するためのRNA分子をコードするDNAは、レンギョウのPLR遺伝子のRNAiを生じさせるRNA分子をコードするDNAであればどのような塩基配列からなるものでもよい。本願発明者らは配列番号7で示される塩基配列からなるDNAを用いているが、これに限定されるものではない。また、レンギョウのピノレジノール配糖化酵素(UGT71A18)の発現を抑制するためのRNA分子をコードするDNAは、レンギョウのUGT71A18遺伝子のRNAiを生じさせるRNA分子をコードするDNAであればどのような塩基配列からなるものでもよい。本願発明者らは配列番号8で示される塩基配列からなるDNAを用いているが、これに限定されるものではない。
外来性のセサミン合成酵素を発現させる方法としては、セサミン合成酵素遺伝子発現ベクターを植物細胞内に導入する方法が挙げられる。セサミン合成酵素をコードする遺伝子の塩基配列は、公知のデータベース(例えば、GenBank等)から容易に取得することができる。例えば、本発明においてゴマ由来のセサミン合成酵素を用いる場合、CYP81Q1をコードする遺伝子の塩基配列(配列番号2)はアクセッション番号AB194714として、CYP81Q2をコードする遺伝子の塩基配列(配列番号4)はアクセッション番号AB194715としてGenBank等のデータベースに登録されている。
内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素の発現を特異的に抑制するRNAを発現するよう構築されたRNAi発現ベクター、内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現を特異的に抑制するRNAを発現するよう構築されたRNAi発現ベクターおよびセサミン合成酵素遺伝子発現ベクターは、1つのベクターに1つの発現カセットを含むベクターとして構築してもよく、1つのベクターに複数の発現カセットを含むベクターとして構築してもよい。1つのベクターに複数の発現カセットを含むベクターとしては、1つのベクターに2つの発現カセットを含むベクターとすることが好ましい。
発現ベクターは、植物細胞内で発現を可能とするプロモーターと、植物細胞内で発現させる遺伝子を含むように構築する。発現ベクターの母体となるベクターには、公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、コスミド等を用いることができ、導入される植物細胞や導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBR322、pBR325、pUC19、pUC119、pBluescript、pBluescriptSK、pBI系のベクター等を挙げることができる。特に、植物細胞へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121等を挙げることができる。
プロモーターは、植物細胞内で導入した遺伝子を発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、各種アクチン遺伝子プロモーター、各種ユビキチン遺伝子プロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、ナピン遺伝子プロモーター、オレオシン遺伝子プロモーター等を挙げることができる。この中でも、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、アクチン遺伝子プロモーターまたはユビキチン遺伝子プロモーターを好ましく用いることができる。上記各プロモーターを用いれば、植物細胞内に導入されたときに任意の遺伝子を強く発現させることが可能となる。
発現ベクターは、プロモーターおよび植物細胞内で発現させる遺伝子に加えて、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、例えば、ターミネーター、選別マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、発現ベクターは、さらにT−DNA領域を有していてもよい。T−DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて発現ベクターを植物細胞に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
転写ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものを好適に用いることができる。例えば、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。なかでもNosターミネーターがより好ましい。発現ベクターに転写ターミネーターを適当な位置に配置することにより、植物細胞に導入された後に、不必要に長い転写物を合成されることを防止することができる。
形質転換体選別マーカーとしては、例えば薬剤耐性遺伝子を用いることができる。具体的には、例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール等に対する薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。発現ベクターが薬剤耐性遺伝子を含むことにより、選択薬剤を含む培地中で生育する植物細胞を選択すれば、目的の形質転換植物細胞を容易に取得することができる。
翻訳効率を高めるための塩基配列としては、例えば、タバコモザイクウイルス由来のomega配列を挙げることができる。このomega配列をプロモーターの非翻訳領域(5‘UTR)に配置させることによって、目的遺伝子の翻訳効率を高めることができる。
発現ベクターは、一般的な形質転換方法によって植物細胞に導入することができる。発現ベクターを植物細胞に導入する方法(形質転換方法)は特に限定されるものではなく、公知の形質転換方法のなかから用いる植物細胞に応じた適切な方法を選択して用いればよい。具体的には、例えば、アグロバクテリウムを用いる方法や直接植物細胞に導入する方法を用いることができる。発現ベクターを直接植物細胞に導入する方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム法等を用いることができる。目的の遺伝子を保持しているアグロバクテリウムを植物へ感染させる手法は、植物の種類などに応じて適切に選択することができる。例えば、リーフディスク法(Horsch, R.&B.、 et al.: A simple and general method for trams-ferring cloned genes into plants. Science,227、 1229〜1231, 1985)、プロトプラスト共存培養法(Marton, L., et al.: In vitro transformation of cultured cell from Nicotiana tabacum by Agrobacterium tumefaciens. Nature,277, 129〜131, 1981)、カルス再生法(Plant Cell Reports, 12,7-11,1992)、または、減圧浸潤法(The Plant Journal, 19(3), 249-257, 1999)等を採用することができるがこれらに限定されない。
アグロバクテリウムを植物細胞へ感染させた後、選択マーカー遺伝子の種類に応じた選択条件下で培養し、目的の形質転換細胞を選択することができる。選択した細胞が、内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現が抑制され、外来性のセサミン合成酵素が発現していることは、宿主細胞におけるこれらの酵素の発現と比較することにより確認することができる。発現の確認には、PCR、ウエスタンブロッティング等の公知の方法を用いることができる。
本発明の植物培養細胞は、植物培養細胞に上記の各発現ベクターを導入して作製してもよく、植物体または植物の一部(例えば、葉、茎など)に上記の各発現ベクターを導入した後に、植物培養細胞を調製してもよい。本発明の植物培養細胞は、カルスで継代された状態の細胞、懸濁培養細胞として継代された状態の細胞およびプロトプラストのいずれであってもよい。
植物体またはその一部に上記の各発現ベクターを導入した後に、植物培養細胞を調製する場合、植物培養細胞方法は特に限定されず、植物に応じて公知の方法から適宜選択して用いることができる。カルスを誘導する場合、植物体の一部の組織(例えば、根、茎、葉の切片、種子、生長点、胚、花粉等)の表面を、必要に応じて70%アルコール、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液等を用いて滅菌した後、メス等を用いて適当な大きさの組織片(を切り出し、予め滅菌したカルス誘導培地に組織片を置床し適当な条件下で無菌培養する。カルス誘導培地としては、植物組織培養に通常用いられるムラシゲ・スクーグ(MS)培地、リンズマイヤー・スクーグ(LS)培地、ホワイト培地、ガンボーグB5培地、ニッチェ培地、ヘラー培地、モーレル培地等の基本培地(必要に応じて、カゼイン分解酵素、コーンスティープリカー、ビタミン類等をさらに補充することができる)に、オーキシン類および必要に応じてサイトカイニン類等の植物生長調節物質(植物ホルモン)を適当な濃度で添加した培地が挙げられる。オーキシン類としては、例えば、3−インドール酢酸(IAA)、3−インドール酪酸(IBA)、1−ナフタレン酢酸(NAA)、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)等が挙げられるが、それらに限定されない。オーキシン類は、例えば、約0.1〜約10ppmの濃度で培地に添加され得る。サイトカイニン類としては、例えば、カイネチン、ベンジルアデニン(BA)、ゼアチン等が挙げられるが、それらに限定されない。サイトカイニン類は、例えば、約0.1〜約10ppmの濃度で培地に添加され得る。
カルス誘導培地は、液体培地であっても固形培地であってもよい。固形培地の場合、例えば、寒天、アガロース、ゲランガム等を約0.5〜約2%(w/w)となるように添加すればよい。培養容器としては、ガラス製の培養チューブ、三角フラスコ、ビーカーや、プラスチック製のアグリポット等を用いることができる。培養は、使用する植物種についてそれぞれ公知の好適な条件下で行うことができるが、例えば、固形培地を用いる場合、約20〜約30℃で約7〜約28日間、静置培養する方法などが挙げられる。照明条件は培養に供される植物体に応じて適宜設定することができ、例えば24時間明期、16時間明期/8時間暗期、24時間暗期等が選択され得る。誘導されたカルスは、すぐに大量増殖のために液体培養に供してよく、継代用培地で継代培養することにより種株として維持してもよい。
〔セサミン製造方法〕
本発明は、上記本発明の植物培養細胞を用いてセサミンを製造する方法を提供する。本発明の製造方法は、上記本発明の植物培養細胞を培養する培養工程と、植物培養細胞からセサミンを抽出および精製する抽出精製工程とを含む方法であればよい。本発明の製造方法は、セサミンを製造できる限りこれらの工程以外の工程を含んでもよく、その内容は特に限定されない。
本発明は、上記本発明の植物培養細胞を用いてセサミンを製造する方法を提供する。本発明の製造方法は、上記本発明の植物培養細胞を培養する培養工程と、植物培養細胞からセサミンを抽出および精製する抽出精製工程とを含む方法であればよい。本発明の製造方法は、セサミンを製造できる限りこれらの工程以外の工程を含んでもよく、その内容は特に限定されない。
培養工程における植物培養細胞の培養方法は特に限定されず、公知の植物培養細胞の培養方法を適宜選択して用いることができる。好ましくは液体培地を用いる懸濁培養である。用いる液体培地としては、上記カルス誘導培地の説明で例示した各種の基本培地またはその修正培地に、必要に応じて、カゼイン分解酵素、コーンスティープリカー、ビタミン類、植物ホルモンなどを添加した培地を用いることができる。植物ホルモンとしては、上記カルス誘導培地の説明で例示したオーキシン類および/またはサイトカイニン類を、上記と同様の濃度で添加することができる。
使用する培養槽は特に限定されないが、1L〜25kL規模の大量培養槽を用いることが好ましい。例えば、通気型培養槽、気泡塔型培養槽、エアリフト型培養槽、回転ドラム型培養槽、通気攪拌型培養槽、スピンフィルター型培養槽などが挙げられる。培養槽の材質はガラス製またはステンレス製が一般的であるが特に限定されない。ただし、光照射条件で培養を行う場合は、光を透過する材質の培養槽を用いることが必要である。例えば、ガラス製、プラスチック製などが挙げられる。これらの培養槽は市販のものを好適に使用することができる。
培養は、滅菌した培養槽に液体培地を添加し、そこに本発明の植物培養細胞を接種することにより開始される。培養は回分培養、流加培養、連続培養のいずれを用いてもよい。培養開始時に接種する植物培養細胞の量は、培地量の約2%(v/v)〜約20%(v/v)であることが好ましく、約5%(v/v)〜約15%(v/v)であることがより好ましい。細胞の増殖速度、培養様式(回分培養、流加培養、連続培養等)、培養期間などに応じて適宜選択することができる。本発明の植物培養細胞は、通常2週間で約10倍に増殖することが確認されている。
培養温度は、通常10〜40℃、好ましくは10〜30℃、より好ましくは20〜30℃の範囲である。培養期間は、植物培養細胞の種類、培養様式、初期細胞密度などによって変動するが、例えば回分培養の場合、7〜70日間、好ましくは14〜60日間、より好ましくは20〜40日間である。
本発明の製造方法は、本発明の植物培養細胞を、赤色光照射条件下で培養することが好ましい。赤色光照射条件で培養することにより、暗条件または青色光照射条件で培養する場合に比べて、ピノレジノールアグリコン合成量およびセサミン合成量が顕著に増加することが確認されている。赤色光は、可視光領域(波長380〜800nm)において、波長550〜800nm領域の光成分が優勢である光であればよい。好ましくは波長600〜700nmにピークを有する赤色光であり、より好ましくは630〜670nmにピーク波長を有する赤色光である。本発明の製造方法における赤色光照射には、赤色光単独の照射のみでなく、赤色光を含む光の照射も含まれる。赤色光を含む光としては、自然白色光(例えば、日光など)、白色蛍光灯からの白色光などが挙げられる。光源は、赤色光を含む光を発生するものであれば特に限定されず、例えば、赤色LED、白色蛍光灯などを好ましく用いることができる。
本発明者らは、非特許文献1に記載のレンギョウ細胞(ゴマ由来のセサミン合成酵素を発現し、内因性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素の発現を抑制した形質転換細胞)を青色光照射条件下で培養した場合、暗条件で培養した場合と比較して増殖が抑制されずセサミン合成量が増加すること、赤色光照射条件下で培養した場合、暗条件で培養した場合と比較して増殖が抑制され、セサミン合成量は増加するが青色光照射の場合より合成量が低いことを報告している(Morimoto, K., Kim H.-J., Ono, E., Kobayashi, A., Okazawa, A., Satake, H. (2011) Effects of light on production of endogenous and exogenous lignans by Forsythia koreana wildtype and transgenic cells. Plant Biotechnol. 28(3), 331-337.)。しかし、本発明の植物培養細胞は、赤色光照射条件下で培養しても増殖が抑制されず、セサミン合成量は顕著に増加した。一方、本発明の植物培養細胞を青色光照射条件下で培養すると、セサミン合成量は増加せず、暗条件下で培養した場合とほぼ同等であった。
抽出精製工程において、植物培養細胞からセサミンを抽出および精製する方法は特に限定されず、公知の植物細胞抽出物の調製方法およびセサミン精製方法から適宜選択して用いることができる。例えば、本発明者らが実施例2で行った方法等が挙げられる。具体的には、懸濁培養した本発明の植物培養細胞を遠心分離、ろ過等の手段で採取し、これを凍結乾燥した後に破砕して80%エタノールを加えて間超音波処理を行う。得られたサンプルを遠心分離して上清を回収して濃縮し、βグルコシダーゼ処理し、これにアセトニトリルを加えてHPLCで精製する方法が挙げられる(実施例2参照)。実施例2において、本発明者らは植物培養細胞を凍結乾燥した後に破砕しているが、これに限定されず、植物培養細胞からそのまま抽出することも可能である。抽出溶媒には、50〜100%メタノール、50〜100%エタノールを用いることができる、また、酢酸エチルなどの低極性溶媒を用いてもよい。
本発明の製造方法は、さらに本発明の植物培養細胞の凍結保存細胞を再培養する再培養工程を含むことが好ましい。植物培養細胞は、継代培養で維持する場合、通常約2年で死滅するが、凍結保存細胞を用いることにより同一クローンの植物培養細胞を長期間保存することが可能になる。したがって、同一クローンの植物培養細胞を用いてセサミンを長期間安定に製造することが可能となる。
本発明の植物培養細胞を凍結保存する方法は、セサミン合成能を維持したまま凍結保存できる方法であればよい。このような凍結保存方法としては本発明の植物培養細胞をアルギン酸ナトリウムビーズに封入して凍結保存する方法を好ましく用いることができる。植物培養細胞を封入したアルギン酸ナトリウムビーズは、例えば以下の方法で作製することができるが、これに限定されない。
最初にアルギン酸ナトリウム溶液を調製する。アルギン酸ナトリウム溶液は、通常、植物培養細胞の培養に使用している液体培地にアルギン酸ナトリウムを溶解させることで調製できるが、その他の生理的塩類溶液(例えば、カルシウムを含まないPBSなど)アルギン酸ナトリウムを溶解させてもよい。アルギン酸ナトリウムの濃度は通常0.5%(w/v)〜5.0%(w/v)の範囲から選択され、より好ましくは1.0%(w/v)〜4.0%(w/v)、さらに好ましくは1.5%(w/v)〜3.0%(w/v)、特に好ましくは2.0%(w/v)〜2.5%(w/v)の範囲から選択される。アルギン酸ナトリウム溶液には、浸透圧調節用の添加物を添加することが好ましい。浸透圧調節用添加物としては、例えば、スクロース、マルトース、グルコース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール等が挙げられる。浸透圧調節用添加物の含有量は、通常0.1〜20%(w/v)の範囲から選択され、より好ましくは1〜10%(w/v)、さらに好ましくは2.5〜10%(w/v)、特に好ましくは2.5〜5%(w/v)の範囲から選択される。
次に、本発明の植物培養細胞とアルギン酸ナトリウム溶液を混合して細胞懸濁液を調製する。そのため、一定期間懸濁培養した懸濁培養液を遠心分離、ろ過等して培地を除去し、細胞を集める。集めた細胞と上記のアルギン酸ナトリウム溶液を混合することにより、アルギン酸ナトリウムを含む細胞懸濁液を調製することができる。細胞とアルギン酸ナトリウム溶液の混合比は、細胞の体積1に対してアルギン酸ナトリウム溶液の体積(容積)が0.5〜2であることが好ましく、1〜1.5であることがより好ましい。
次に、カルシウム溶液を調製する。カルシウム溶液の調製に用いるカルシウム塩は特に限定されないが、塩化カルシウムを好適に用いることができる。カルシウム溶液は、アルギン酸ナトリウム溶液と同様に、植物培養細胞の培養に使用している液体培地やその他の生理的塩類溶液を用いて調製することができる。本発明においては、アルギン酸ナトリウム溶液とカルシウム溶液のベースとなる溶液は、同じものを用いることが好ましい。塩化カルシウムを用いる場合、塩化カルシウム濃度は通常0.02〜0.5Mの範囲から選択され、より好ましくは0.04〜0.4M、さらに好ましくは0.06〜0.2M、特に好ましくは0.08〜0.15Mの範囲から選択される。カルシウム溶液には、浸透圧調節用の添加物を添加することが好ましい。浸透圧調節用添加物としては、例えば、スクロース、マルトース、グルコース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール等が挙げられる。浸透圧調節用添加物の含有量は、通常0.1〜20%(w/v)の範囲から選択され、より好ましくは1〜10%(w/v)、さらに好ましくは2.5〜10%(w/v)、特に好ましくは2.5〜5%(w/v)の範囲から選択される。
アルギン酸ナトリウムを含む細胞懸濁液をカルシウム溶液の中に1滴ずつ滴下することにより、植物培養細胞を封入したアルギン酸ナトリウムビーズを作製することができる。形成されるビーズ(ビーズ状ゲル)のサイズは、アルギン酸ナトリウムを含む細胞懸濁液を滴下する際に用いる器具先端の形状により決定される。すなわち小径のビーズを形成するには、細胞とアルギン酸混液をシリンジに吸引し、25G〜19G程度の注射針を介して滴下すればよい。または、マイクロピペットを用いて滴下してもよい。より大きなビーズを形成するには、注射針を付けていないシリンジ先端から直接滴下すればよい。またはピペットを用いて滴下してもよい。本発明の植物培養細胞を凍結保存するためのアルギニン酸ナトリウムビーズのサイズは、直径1mm〜10mmであることが好ましく、直径2mm〜7mmであることがより好ましく、直径3mm〜5mmであることがさらに好ましい。直径3mm〜5mmのビーズを形成させる場合、例えば市販の10mLプラスチックピペットを好適に用いることができる。
続いて、形成された植物培養細胞封入アルギン酸ナトリウムビーズ(以下、単に「ビーズ」と称する場合がある。)をカルシウム溶液から分離し、カルシウム塩を除去するためにビーズの洗浄を行う。洗浄は、ビーズに残存するカルシウム塩による細胞毒性が発現しない程度にカルシウム塩を除去できる方法であれば、どのような方法で行ってもよい。本発明者らは、植物細胞培養用の培地を添加して、10〜20分間、攪拌または振とうすることにより洗浄しているが、これに限定されない。
ビーズを浸漬して凍結するための凍結保存液は特に限定されず、例えば、植物細胞培養用の培地に公知の凍結保護物質を添加したものを保存液として好適に用いることができる。例えば、本発明者らは、2Mグリセロール、0.4Mスクロース、1%プロリンを凍結保護剤として含むガンボーグ5B培地を用いているが、これに限定されない。グリセロールの添加量は1.0〜5.0M、スクロースの添加量は0.1〜2.0M、プロリンの添加量は0.5〜10.0%(w/v)の範囲からそれぞれ選択することが好ましい。また、スクロースに代えて、凍結保護剤として通常使用される単糖(グルコース等)、二糖(ラクトース、トレハロース等)、糖アルコール(ソルビトール、マンニトール等)を用いることも可能である。
上記洗浄後のビーズは、凍結する前に凍結保存液に一定時間浸漬し、馴化させることが好ましい。ビーズを凍結保存液に一定時間浸漬することにより、ある程度細胞が脱水し、同時に脱水に対する耐性を誘導することができる。浸漬時間は特に限定されないが、10分〜3時間が好ましく、20分〜2時間がより好ましく、30分〜1.5時間がさらに好ましい。浸漬中は、緩やかに攪拌または振とうすることが好ましい。
凍結保存には、培養細胞の凍結保存に使用可能な公知の容器を用いることができる。具体的には、例えば市販のポリプロピレン製クライオバイアル(クライオチューブ、セラムチューブとも称される)などを好適に用いることができる。凍結保存液の液量は、ビーズが浸る最少量であることが好ましい。ビーズが浸る最少量は、凍結保存の形状および収容するビーズの個数に応じて適宜選択することができる。本発明者らは、1ml容量のポリプロピレン製クライオバイアルに250μlの凍結保存液と5個のビーズを入れて凍結保存しているが、これに限定されない。
ビーズおよび凍結保存液を収容した凍結保存容器は、予備凍結を行ってから液体窒素中で凍結保存することが好ましい。予備凍結には、公知の緩速予備凍結法や簡易予備凍結法を用いることができる。
ビーズおよび凍結保存液を収容した凍結保存容器は、予備凍結を行ってから液体窒素中で凍結保存することが好ましい。予備凍結には、公知の緩速予備凍結法や簡易予備凍結法を用いることができる。
再培養工程において、本発明の植物培養細胞の凍結保存細胞を再培養する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。すなわち、液体窒素から取り出した凍結保存容器を直ちに約37℃〜約40℃の温水に投入し、急速に融解させる。融解させたビーズを通常の液体培地と接触させる前に、浸透圧の急激な変化による細胞の障害を防止するために、通常の液体培地より浸透圧を高めた培地に浸漬することが好ましい。好ましくは、浸透圧の異なる培地を複数準備し、高い方から低い方へ順次浸漬させた後に、通常の液体培地を用いて培養を開始する。浸透圧調節剤としては、例えば、スクロース、マルトース、グルコース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、グリセリン等が挙げられる。浸透圧調節剤は、凍結保存液に用いたものと同じものを用いることが好ましい。浸透圧調節用培地の量は、ビーズの体積に対して過剰量を用いることが好ましく、大過剰量を用いることがより好ましい。浸漬時間は特に限定されないが、通常約5分〜約1時間である。浸漬中は、緩やかに攪拌または振とうすることが好ましい。本発明者らは、融解した凍結保存ビーズ(5個)を最初に1.2Mスクロース入り培地(30ml)に投入し15分間緩やかに振とうし、次に0.5Mスクロース入り培地(30ml)に投入し15分間緩やかに振とうした後、通常の液体培地に移行しているが、これに限定されない。
次に、浸透圧調節処理を経たビーズを通常の液体培地を用いた培養に移行させる。最初はビーズのままで培養することが好ましい。培養は通常の植物細胞の培養条件(例えば、25℃、暗条件、110rpm)を採用すればよい。ビーズのままで培養する期間は特に限定されず、封入された植物細胞がビーズのままで増殖できる適当な培養期間を適宜設定すればよい。ビーズのままで封入された植物細胞をある程度増殖させた後、ビーズを破壊して内部の細胞を培地中に回収し、培養を続ける。細胞密度が低すぎると細胞が増殖し難くなるため、培養容器とビーズの個数で細胞密度を適切に調節することが好ましい。本発明者らは、12ウェルプレートの1ウェルに約3mlの培地を入れ、その中に5個のビーズを入れて3日間培養した後、ビーズを破壊して培養を続けているが、これに限定されない。細胞の増殖を確認しながら培養を続け、適宜スケールアップして通常スケールの懸濁培養に移行することが好ましい。通常スケールの懸濁培養に移行した植物培養細胞を培養槽に液体培地に接種することにより、培養工程が開始される。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1:セサミン高生産レンギョウ細胞の作製〕
チョウセンレンギョウ(Forsythia koreana)の葉から調製した懸濁培養細胞(以下、「レンギョウ細胞」という。)に、ゴマ由来セサミン合成酵素遺伝子、内在性PLR遺伝子発現抑制用遺伝子、内在性ピノレジノール配糖化酵素遺伝子発現抑制用伝子を導入したセサミン高生産レンギョウ細胞を、以下の手順で作製した。
チョウセンレンギョウ(Forsythia koreana)の葉から調製した懸濁培養細胞(以下、「レンギョウ細胞」という。)に、ゴマ由来セサミン合成酵素遺伝子、内在性PLR遺伝子発現抑制用遺伝子、内在性ピノレジノール配糖化酵素遺伝子発現抑制用伝子を導入したセサミン高生産レンギョウ細胞を、以下の手順で作製した。
チョウセンレンギョウ植物は、京都大学生存圏研究所・梅澤俊明博士から入手した。表面を無菌処理したチョウセンレンギョウの葉片を、0.2mg/lの2,4−Dを加えたガンボーグ5B固形培地(ショ糖3%、寒天0.9%)に置床し、暗条件下27℃で6週間、カルスを誘導した。カルス組織は、4週間ごとに同じ培地を用いて継代、維持した。カルスをガンボーグ5B液体培地(50ml/200mlフラスコ)に移して細胞懸濁培養を開始した。懸濁培養細胞は、暗条件、110rpmにて振とう培養し、2週間ごとに培養細胞5mlを新しい液体培地50mlに加えて継代した(非特許文献1参照)。
ゴマ由来セサミン合成酵素遺伝子CYP81Q1(accession No. AB194714)および内在性PLR遺伝子(accession No.U81158)発現抑制用遺伝子を導入するためのバイナリ―ベクターpSPB3104は、非特許文献1の記載に従って作製した。図1にpSPB3104の構造を示した。図1中NPTIIはネオマイシンホスホトランスフェラーゼII遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子)、p35Sはカリフラワーモザイクウイルス(CaMW)35Sプロモーター、tNSはノパリン合成酵素遺伝子ターミネーターをそれぞれ表す。
次いで、内在性ピノレジノール配糖化酵素遺伝子UGT71A18(accession No.AB524718)発現抑制用遺伝子を導入するためのベクターを作製した。チョウセンレンギョウの懸濁培養細胞から抽出したトータルRNAから、プライマーにオリゴdT、逆転写酵素にSuperscript IIを用いて定法に従ってcDNA合成し、これを鋳型にしてPCRによりUGT71A18の部分ORFをPCRで増幅した。プライマーセットには、フォワード:RNAi-cacc-Reng14-Fw(5’-cacccaggaataggtcacttgatatcaa-3’、配列番号9)およびリバース:RNAi-Reng14-Rv(5’-gaatggagccaaactatcctt-3’、配列番号10)得られたPCR産物をRNAiベクターpANDA35HK(非特許Miki and Shimamoto Plant Cell Physiol. (2004)およびhttp://bsw3.naist.jp/simamoto/pANDA/real/pANDA35HK_map.htmを参照)にLRclonase(ライフテクノロジーズ社)を用いて製造元が推奨する方法で挿入し、pANDA35HK−UGT71A18を作製した。図2にpANDA35HK−UGT71A18の構造を示した。図2中NPTIIはネオマイシンホスホトランスフェラーゼII遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子)、HPTはハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(ハイグロマイシン耐性遺伝子)、p35Sはカリフラワーモザイクウイルス(CaMW)35Sプロモーター、gus linkerはベータグルクロニダーゼ遺伝子部分配列(塩基配列は、http://bsw3.naist.jp/simamoto/pANDA/real/gus_linker.htmを参照)、tはターミネーターをそれぞれ表す。
レンギョウ細胞の形質転換は、定法に従いアグロバクテリウムを用いて行った。Agrobacterium tumefaciens EHA105株をpSPB3104にて定法に従って形質転換した。得られた形質転換アグロバクテリウムを、カナマイシン50mg/mlを含むLB培地で28℃、180rpmで振とう培養し、OD600が1となるように4〜5時間培養した。9cmのシャーレに4日間培養したチョウセンレンギョウ懸濁培養細胞10mlを入れ、0.1mlの形質転換アグロバクテリウムを加えて2日間、27℃、暗条件で共存培養した。共存培養後、細胞懸濁液を4回新しい培地と交換し、アグロバクテリウムを除いた。この培養細胞をカナマイシン50mg/ml、セフォタキシム100mg/lを含むガンボーグ5B固形培地に置床し、形質転換培養細胞の選抜を行い、形質転換カルスを得た。これらをガンボーグ5B液体培地へ移し、培養細胞系統CPi−Fk(CYP81Q1過剰発現およびPLR RNAi)を得た。
次に、Agrobacterium tumefaciens EHA105株をpANDA35HK−UGT71A18にて定法に従って形質転換した。得られた形質転換アグロバクテリウムを、カナマイシン50mg/mlを含むLB培地で28℃、180rpmで振とう培養し、OD600が1となるように4〜5時間培養した。9cmのシャーレに4日間培養したCPi−Fk10mlを入れ、0.1mlの形質転換アグロバクテリウムを加えて2日間、27℃、暗条件で共存培養した。共存培養後、細胞懸濁液を4回新しい培地と交換し、アグロバクテリウムを除いた。この培養細胞をハイグロマイシン50mg/ml、セフォタキシム100mg/lを含むガンボーグ5B固形培地に置床し、形質転換培養細胞の選抜を行い、形質転換カルスを得た。これらをガンボーグ5B液体培地へ移し、培養細胞系統U18iCPi−Fk(CYP81Q1過剰発現、PLR RNAiおよびUGT71A18 RNAi)を得た。得られた2系統の形質転換チョウセンレンギョウ培養細胞は、200mlフラスコを用いて暗条件、25℃、120rpmにて振とう培養し、2週間ごとに増殖した培養細胞5mlを新しい液体培地50mlに加えて継代した。
CPi−FkおよびU18iCPi−FkにおけるCYP81Q1、PLRおよびUGT71A18の発現をRT−PCRにより確認した。CPi−Fk、U18iCPi−Fkおよび野生型チョウセンレンギョウ培養細胞よりトータルRNAを抽出し、オリゴdTプライマーとSuperScript IIを用いて定法に従ってcDNAを合成した。このcDNAを鋳型に用い、以下の各プライマーを用いてPCRを行った。
CYP81Q1増幅用プライマー
CYP81Q1-Fw:5’-atggaagctgaaatgctatattcagct-3’、配列番号11
CYP81Q1-Rv:5’-aacgttggaaacctgacgaagaactttttc-3’、配列番号12
PLR増幅用プライマー
PLR-Fw:5’-atgggaaaaagcaaagttttgatcattgg-3’、配列番号13
PLR-Rv:5’-cacgtaacgcttgaggtactcttccac-3’、配列番号14
UGT71A18増幅用プライマー
UGT71A18-Fw:5’-tagcagatcaacccagtaaat-3’、配列番号15
UGT71A18-Rv:5’-tcttgccatactgacgaatgg-3’、配列番号16
PCR酵素としてExTaq DNA polymerase(Takara Bio, Otsu Japan)を使用し、94℃30秒、57℃30秒、72℃1分を1サイクルとして最大35サイクル増幅した。PCR産物の解析は定法に従いアガロースゲル電気泳動にて行った。
CYP81Q1増幅用プライマー
CYP81Q1-Fw:5’-atggaagctgaaatgctatattcagct-3’、配列番号11
CYP81Q1-Rv:5’-aacgttggaaacctgacgaagaactttttc-3’、配列番号12
PLR増幅用プライマー
PLR-Fw:5’-atgggaaaaagcaaagttttgatcattgg-3’、配列番号13
PLR-Rv:5’-cacgtaacgcttgaggtactcttccac-3’、配列番号14
UGT71A18増幅用プライマー
UGT71A18-Fw:5’-tagcagatcaacccagtaaat-3’、配列番号15
UGT71A18-Rv:5’-tcttgccatactgacgaatgg-3’、配列番号16
PCR酵素としてExTaq DNA polymerase(Takara Bio, Otsu Japan)を使用し、94℃30秒、57℃30秒、72℃1分を1サイクルとして最大35サイクル増幅した。PCR産物の解析は定法に従いアガロースゲル電気泳動にて行った。
結果を図3に示した。図中「Cycles」はPCRサイクル数を示す。U18iCPi−Fkでは、野生型(WT)と比較して、外来遺伝子であるCYP81Q1の発現、内在性遺伝子PLRの発現抑制および内在性遺伝子UGT71A18の発現抑制が認められ、目的の細胞が得られたことを確認した。UGT71A18発現抑制用ベクターが導入されていないCPi−Fkでは、野生型(WT)と比較して、外来遺伝子であるCYP81Q1の発現および内在性遺伝子PLRの発現抑制が認められた。なお、「NPT2」はpSPB3104の導入を確認するため、「HPT」はpANDA35HK−UGT71A18の導入を確認するためのバンドである。
〔実施例2:セサミン高生産レンギョウ細胞を用いたセサミンの生産〕
CPi−FkおよびU18iCPi−Fkから、以下の方法でリグナンを抽出し、HPLCにより定量した。すなわち、暗条件で培養した各レンギョウ細胞5mlを50mlの培地に植え継ぎ、25℃、110rpm、暗条件で2週間培養した。次いで細胞をろ紙で濾し取り、液体窒素で凍結させた後、48時間凍結乾燥させた。凍結乾燥した細胞100mgを液体窒素で冷やしながら乳鉢、乳棒ですり潰した。80%エタノールを1ml加え、4℃で15秒間超音波処理した。得られたサンプルを4℃、10,000rpmで1分間遠心分離し、上清を回収した。上清を100μlに濃縮した後、100μlの0.3M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)、6U/mlのアーモンドβグルコシダーゼ(Sigma-Ardrich, USA)を加えて40℃、16時間酵素処理した。50%アセトニトリルとなるようにアセトニトリルを添加して混合し、15,000rpmで5分間遠心し、上清をMillex−LHフィルター(0.45μm 4mm-1 ;Millipore, Bedford, MA, USA)でろ過し、この水層部分をHPLCで分析した。
CPi−FkおよびU18iCPi−Fkから、以下の方法でリグナンを抽出し、HPLCにより定量した。すなわち、暗条件で培養した各レンギョウ細胞5mlを50mlの培地に植え継ぎ、25℃、110rpm、暗条件で2週間培養した。次いで細胞をろ紙で濾し取り、液体窒素で凍結させた後、48時間凍結乾燥させた。凍結乾燥した細胞100mgを液体窒素で冷やしながら乳鉢、乳棒ですり潰した。80%エタノールを1ml加え、4℃で15秒間超音波処理した。得られたサンプルを4℃、10,000rpmで1分間遠心分離し、上清を回収した。上清を100μlに濃縮した後、100μlの0.3M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)、6U/mlのアーモンドβグルコシダーゼ(Sigma-Ardrich, USA)を加えて40℃、16時間酵素処理した。50%アセトニトリルとなるようにアセトニトリルを添加して混合し、15,000rpmで5分間遠心し、上清をMillex−LHフィルター(0.45μm 4mm-1 ;Millipore, Bedford, MA, USA)でろ過し、この水層部分をHPLCで分析した。
HPLC分析のカラムには、Develosil C30−UG5カラム(4.6×150mm, Nomura Chemical, Japan)を用いた。HPLCは、溶液A[0.1%(v/v)H2O]と溶液B[90%アセトニトリル、0.1%(v/v)TFA(トリフルオロ酢酸)]を溶出液として、35−90%溶液B/20分間の直線濃度勾配、流速0.6ml/min、7分間90%溶液Bでの洗浄という条件で実施し、280nmにおける吸収によりリグナン類を検出した。
結果を図4に示した。図4のグラフの縦軸はリグナン量(mg/gDW)を示す。図4中「pinoresinol」はピノレジノールアグリコンを、「pinoresinol−total」はピノレジノール配糖体およびアグリコンの総和を意味する。図4から明らかなように、内在性ピノレジノール配糖化酵素遺伝子の発現を抑制したU18iCPi−Fkは、当該遺伝子を発現しているCPi−Fkと比較して、ピノレジノール量が約3倍増加し、セサミン生産量が約1.4倍増加した。
〔実施例3:セサミン高生産レンギョウ細胞に対する光照射の効果〕
暗条件下で培養したU18iCPi−Fkまたは野生型レンギョウ細胞を継代した直後から、白色蛍光灯、赤色LED(600-700 nm、630 nm peak)青色LED(450-550 nm、470 nm peak)をそれぞれ光量 100μmol m−2s−1 PPFD(photosynthetic photon flux density)にて照射しながら2週間培養し、光照射を行わず暗条件で培養を続けた各レンギョウ細胞のリグナン量と比較した。リグナンの抽出および定量は、実施例2と同じ方法で行った。
暗条件下で培養したU18iCPi−Fkまたは野生型レンギョウ細胞を継代した直後から、白色蛍光灯、赤色LED(600-700 nm、630 nm peak)青色LED(450-550 nm、470 nm peak)をそれぞれ光量 100μmol m−2s−1 PPFD(photosynthetic photon flux density)にて照射しながら2週間培養し、光照射を行わず暗条件で培養を続けた各レンギョウ細胞のリグナン量と比較した。リグナンの抽出および定量は、実施例2と同じ方法で行った。
結果を図5(A)および(B)に示した。(A)はU18iCPi−Fkの結果、(B)は野生型(WT)の結果である。グラフの縦軸はリグナン量[10μg/gDW]を示し、「Dark」は暗条件で培養した細胞、「Red」は赤色光を照射した細胞を示す。図5(A)および(B)から明らかなように、U18iCPi−Fkでは、赤色光照射により暗条件と比較してセサミン合成量が約1.5倍増加した。またピノレジノールアグリコンおよびマタイレジノールは、赤色光照射により暗条件と比較して約5倍増加した。一方、野生型レンギョウ細胞(WT)では、赤色光照射によりピノレジノールアグリコン、マタイレジノールともに量が減少した。
また、U18iCPi−Fkに対する赤色光照射がセサミンおよびピノレジノ―ルアグリコンの合成量に与える効果を白色光および青色光と比較した結果を図6(A)および(B)に示した。(A)はセサミン合成量の結果、(B)はピノレジノ―ルアグリコン合成量の結果である。グラフの縦軸はリグナン量[10μg/gDW]を示し、「Dark」は暗条件で培養した細胞、「White」は白色光を照射した細胞、「Blue」は青色光を照射した細胞、「Red」は赤色光を照射した細胞を示す。図6(A)から明らかなように、暗条件、白色光照射、青色光照射と比較して赤色光照射はセサミン合成量を約2〜3倍増加させることが示された。一方、図6(B)から明らかなように、赤色光照射によるピノレジノールアグリコンの合成量増加の割合は白色光照射による増加と同程度で、青色光照射と比べて約3倍高かった。
〔実施例4:セサミン高生産レンギョウ細胞の保存および再培養〕
継代後1週間経過したU18iCPi−Fk5mlを15mlチューブに入れ、100×g、5分間、室温にて遠心分離し、細胞を沈降させた。ピペットで上清を除き、細胞体積を目算した。細胞体積の1〜1.5倍体積量のビーズ液(2%(w/v)アルギン酸ナトリウム、3%(w/v)スクロース、0.2mg/l 2,4−Dを含むガンボーグ5B培地)を加え、数回ピペッティングして細胞を懸濁した。次いで250mlフラスコに90mlのゲル化液(0.1M塩化カルシウム、3%(w/v)スクロース、0.2mg/l 2,4−Dを含むガンボーグ5B培地)を分注した。ピペットを用いて細胞懸濁液をゲル化液の中に1滴ずつ滴下し、ビーズを作製した。
継代後1週間経過したU18iCPi−Fk5mlを15mlチューブに入れ、100×g、5分間、室温にて遠心分離し、細胞を沈降させた。ピペットで上清を除き、細胞体積を目算した。細胞体積の1〜1.5倍体積量のビーズ液(2%(w/v)アルギン酸ナトリウム、3%(w/v)スクロース、0.2mg/l 2,4−Dを含むガンボーグ5B培地)を加え、数回ピペッティングして細胞を懸濁した。次いで250mlフラスコに90mlのゲル化液(0.1M塩化カルシウム、3%(w/v)スクロース、0.2mg/l 2,4−Dを含むガンボーグ5B培地)を分注した。ピペットを用いて細胞懸濁液をゲル化液の中に1滴ずつ滴下し、ビーズを作製した。
ピペットを用いてゲル化液を除いた後、レンギョウ細胞培養用の通常培地(以下、単に「培地」という。)10mlを加え、よく撹拌した後に培地を除いた。約30mlの培地を加えて10〜20分間振とうした。培地を除き、約10mlのLSP液(2Mグリセロール、0.4Mスクロース、1%(w/v)プロリンを含む培地)でビーズを洗浄し、LSP液を除去した後、これにあらためて約50mlのLSP液を加えて1時間振とうした。1ml容量のポリプロピレン製クライオバイアルに250μlのLSP液を分注し、その中にピンセットを用いてビーズ5個を移した。バイアルを入れたラックを発泡スチロールの箱に入れて−30℃フリーザー中に4〜5時間静置し、予備凍結を行った。次いでバイアルを液体窒素中に移し、保存した。
液体窒素中で凍結保存したU18iCPi−Fkを以下の方法で再培養した。すなわち、50mlチューブに約30mlの希釈液(1.2Mスクロース入り培地)を分注した。クライオバイアルを40℃のお湯に投入し加温した後、試料を速やかに希釈液に移し、15分間ゆるやかに振とうした(約70rpm)。次いでピペットを用いて希釈液を除き、約30mlの希釈液(0.5Mスクロース入り培地)を加え、15分間ゆるやかに振とうした。希釈液を約30mlの培地と交換し、15分間ゆるやかに振とうした後、約3mlの培地を入れた12ウェルプレートにビーズを5個移し、3日間、通常条件で振とう培養を行った。その後スパーテルを用いてビーズを破壊し、内部の細胞を培地中に回収した。約2週間、通常の条件(25℃、暗条件、110rpm)で振とう培養を行い、細胞の増殖を確認したら6ウェルプレートに移し、さらに約2週間、通常条件で振とう培養した。細胞が増殖したことを確認し、通常スケール(50ml培地/200mlフラスコ)の培養に移行した。
U18iCPi−Fkを10日間保存した後に再培養し、55日目にリグナン量を定量した。また、U18iCPi−Fkを6か月間保存した後に再培養し、65日目にリグナン量を定量した。同じ細胞の保存前におけるリグナン量と比較した。リグナンの抽出および定量は、実施例2と同じ方法で行った。
結果を図7(A)および(B)に示した。(A)10日間保存した後に再培養した結果、(B)は6か月間保存した後に再培養した結果である。グラフの縦軸はリグナン量[μg/gDW]を示す。図7(A)に示したように、10日間極低温で保存したU18iCPi−Fkは、再培養開始後55日の時点で保存前と同程度のセサミンを合成することが明らかとなった。図4(B)に示したように、6か月間極低温で保存したU18iCPi−Fkは再培養開始後65日で保存前と同程度のセサミンを合成することが明らかとなった。
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
Claims (12)
- 内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素を発現する植物由来の培養細胞であって、内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素および内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現を抑制し、外来性のセサミン合成酵素を発現するように改変された植物培養細胞。
- 内在性ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素の発現を特異的に抑制するRNAを発現するよう構築されたRNAi発現ベクター、内在性ピノレジノール配糖化酵素の発現を特異的に抑制するRNAを発現するよう構築されたRNAi発現ベクターおよびセサミン合成酵素遺伝子発現ベクターが導入されていることを特徴とする請求項1に記載の植物培養細胞。
- セサミン合成酵素が、ゴマ由来のセサミン合成酵素である請求項1または2に記載の植物培養細胞。
- ゴマ由来のセサミン合成酵素が、配列番号1または配列番号3に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項3に記載の植物培養細胞。
- ゴマ、レンギョウまたはアマ由来の植物培養細胞であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の植物培養細胞。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の植物培養細胞を培養する培養工程と、植物培養細胞からセサミンを抽出および精製する抽出精製工程とを含むことを特徴とするセサミンの製造方法。
- 培養工程において、赤色光を含む光照射条件下で培養することを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
- 培養工程において、赤色光照射条件下で培養することを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
- さらに、請求項1〜5のいずれかに記載の植物培養細胞の凍結保存細胞を再培養する再培養工程を含む請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
- 凍結保存細胞が、請求項1〜5のいずれかに記載の植物培養細胞をアルギン酸ナトリウムビーズに封入して凍結保存した細胞である請求項9に記載の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の植物培養細胞を、セサミン合成能を維持したまま凍結保存する方法であって、前記植物培養細胞をアルギン酸ナトリウムビーズに封入して凍結することを特徴とする凍結保存方法。
- 液体窒素中で凍結保存することを特徴とする請求項11に記載の凍結保存方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2014070759A JP2015188442A (ja) | 2014-03-31 | 2014-03-31 | セサミン生産用植物培養細胞およびそれを用いるセサミン製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2014070759A JP2015188442A (ja) | 2014-03-31 | 2014-03-31 | セサミン生産用植物培養細胞およびそれを用いるセサミン製造方法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2015188442A true JP2015188442A (ja) | 2015-11-02 |
Family
ID=54423511
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2014070759A Pending JP2015188442A (ja) | 2014-03-31 | 2014-03-31 | セサミン生産用植物培養細胞およびそれを用いるセサミン製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2015188442A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2021033750A1 (ja) * | 2019-08-21 | 2021-02-25 | 学校法人早稲田大学 | 細胞分析装置システムおよび細胞分析方法 |
-
2014
- 2014-03-31 JP JP2014070759A patent/JP2015188442A/ja active Pending
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2021033750A1 (ja) * | 2019-08-21 | 2021-02-25 | 学校法人早稲田大学 | 細胞分析装置システムおよび細胞分析方法 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
US10047370B2 (en) | Tobacco enzymes for regulating content of plant metabolites, and use thereof | |
US20080229447A1 (en) | Transformation of immature soybean seeds through organogenesis | |
JPH06502759A (ja) | 組換えaccシンターゼ | |
CN110088284A (zh) | 高水平蒂巴因罂粟及其生产的方法 | |
EP3077523B1 (en) | Production of thapsigargins by thapsia cell suspension culture | |
US20090023212A1 (en) | Method for transforming soybean (Glycine max) | |
EP1498027B1 (en) | Plant with improved organogenesis and method of constructing the same | |
CN102146377B (zh) | 一种通过胚性细胞组织制备蛋白质的方法 | |
Alfermann | Production of natural products by plant cell and organ cultures | |
JP2015188442A (ja) | セサミン生産用植物培養細胞およびそれを用いるセサミン製造方法 | |
Chang et al. | Abscisic acid enhanced ajmalicine biosynthesis in hairy roots of Rauvolfia verticillata by upregulating expression of the MEP pathway genes | |
Bae et al. | Agrobacterium rhizogenes-mediated genetic transformation of radish (Raphanus sativus L. cv. Valentine) for accumulation of anthocyanin | |
WO2021153163A1 (ja) | 植物細胞の培養方法及び植物再生方法 | |
JPWO2006057306A1 (ja) | ストレス耐性及び/又は生産性を改良したイネ科植物、及びその作出方法 | |
Xing et al. | Studies on Agrobacterium-mediated genetic transformation of embryogenic suspension cultures of sweet potato | |
KR101918590B1 (ko) | 식물의 가뭄 스트레스 내성과 관련된 신규 유전자 및 그의 용도 | |
CN111154772A (zh) | 梨糖转运基因PbSWEET4及其应用 | |
KR101198648B1 (ko) | 직접 신초 유도를 통한 오이 계통의 형질전환 방법 및 상기방법에 의해 제조된 오이 계통 형질전환체 | |
KR101636317B1 (ko) | 주병조직 특이적 발현 프로모터 | |
Liu et al. | A simple and efficient method for obtaining transgenic soybean callus tissues | |
KR101397838B1 (ko) | 감귤 캘러스 세포의 제조방법 | |
CN114149993B (zh) | 一种调控植物可溶性糖含量的lncRNA及其应用 | |
Neelwarne | Red beet hairy root cultures | |
JP3772974B2 (ja) | 植物由来のプロモーター | |
TW201408774A (zh) | 自千年桐擴增出之提高植物生物量的基因及其應用 |