第1の実施の形態.
図1は第1の実施の形態にかかる電力変換装置の構成を例示する回路図である。当該電力変換装置は、整流回路51と、コンデンサ3と、電力変換器2と、制御部4とを備える。
整流回路51はダイオードブリッジで構成され、単相電源61から供給される交流電圧Vsを整流して直流電圧Vdcを出力する。
コンデンサ3は直流電圧Vdcをその両端に受けるものの、ここでは必ずしも平滑機能が要求されるものではない。第1の実施の形態によれば、平滑機能が小さくて直流電圧Vdcの脈動が大きくても、これに追従した制御を行うことができる。
電力変換器2は直流電圧Vdcをスイッチングすることによって、他の交流電圧に変換してこれを出力する。電力変換器2は、より具体的には当該スイッチングは、制御部4によって制御される。ここでは電力変換器2は、三相の交流回転機1を駆動させるための三相交流電圧を出力する場合が例示されている。もちろん、出力する交流電圧が単相であってもよい。
電力変換器2のスイッチングは通常、スイッチング用キャリアの一周期毎にスイッチングを制御する信号(以下「スイッチング制御信号」とも称す)が決定される。よってスイッチング損失はスイッチング用キャリアの周波数(キャリア周波数)に依存する。より具体的にはキャリア周波数が低いほどスイッチング損失が低減する。
他方、キャリア周波数が高いほど、直流電圧Vdcの脈動に対する制御の追従性を高めることができる。
図2は第1の実施の形態における位相領域を示すグラフである。具体的には交流電圧Vsの波形と、これを全波整流して得られる直流電圧Vdcの波形とを示している。図2から明白なように、直流電圧Vdcは交流電圧Vsの周波数、即ち電源周波数の2倍で脈動する。
直流電圧Vdcの波形は正弦波に基づいているので、その値が小さい領域ほど変化が大きい。具体的には交流電圧Vsの電源位相θを、交流電圧Vsの変化率が最も大きい位相を基準(0度)に採用すると、以下のように位相領域を把握することができる。但し、位相については360度と0度とは同様に扱う。
交流電圧Vsの変化率の絶対値が最も大きい位相(θ=180度、あるいは360度)を含む位相領域T01:
交流電圧Vsの変化率の絶対値が最も小さい位相(θ=90度、あるいはθ=270度)を含む位相領域T02。
以上のように位相領域を区分すると、位相領域T01における直流電圧Vdcの脈動は、位相領域T02における直流電圧Vdcの脈動よりも顕著である、と言える。
よって位相領域T02においては、位相領域T01よりも、直流電圧Vdcのサンプリング周期を長くしても、直流電圧Vdcの脈動に対する電力変換器2の制御の追従性を損ないにくいと言える。しかも、直流電圧Vdcの値が大きいときには電力変換器2に供給される電圧も大きいのであるから、位相領域T02における電力変換器2を制御する頻度を低減することは、スイッチング損失の低減をも招来する。
上述のように、直流電圧Vdcは、パルス幅変調に使用するスイッチング用キャリアのトップ及び/又はボトムでサンプリングされる。よって直流電圧Vdcのサンプリング周期を長くすることはキャリア周波数を低減することに相当する。
よって、位相領域T02におけるスイッチング用キャリアの周波数Fc2と、位相領域T01におけるスイッチング用キャリアの周波数Fc1とを導入して、Fc1>Fc2の関係を成立させることにより、直流電圧Vdcの脈動に対する電力変換器2の制御の追従性を確保しつつ、電力変換装置のキャリア周波数に依存するスイッチング損失を下げることができる。これはスイッチング素子の冷却装置などを簡素化でき、引いては電力変換装置を小型化することに資する。
図3は第1の実施の形態の動作を説明するグラフであり、電源位相θが0〜180度を採るときの、直流電圧Vdcの波形と、キャリア周波数fcの波形を示している。直流電圧Vdcの電源位相θに対する対称性から、電源位相θが180〜360度を採るときの直流電圧Vdcの波形は図2に示されるように図3と同様に現れる。同様にして、電源位相θが180〜360度を採るときのキャリア周波数fcの波形も図3と同様に現れる。
図3において位相領域T01は電源位相θが0度から値θ1(図3においてほぼ75度)の範囲及び値θ2(図3においてほぼ105度)から180度の範囲として把握される。上述のように、直流電圧Vdcの波形は180°を周期として繰り返されるので、位相領域T01を示す矢印について、電源位相θが0°、180°の位置には矢頭を付記していない。
位相領域T02は電源位相θが値θ1〜θ2の範囲として把握される。電源位相θが値θ1、値θ2のいずれかを採る場合、当該電源位相θは、位相領域T01,T02の境界にあるので、位相領域T01,T02のいずれにあると把握しても差し支えない。
図3においてキャリア周波数fcは位相領域T01,T02においてそれぞれ6kHz,3kHzを採っている。つまり図3ではFc1=6kHz、Fc2=3kHzの場合が例示されている。
図1に戻り、制御部4は、第1のキャリア周波数生成手段9、第2のキャリア周波数生成手段10、切替手段18、出力電圧指令演算手段12、PWM手段13を有している。
位相検出手段17は、交流電圧Vsの電源位相θを検出する。かかる検出技術については公知であるので、詳細な説明は省略する。但し、例えばゼロクロス検出回路を用いて交流電圧Vsに同期した信号を得て、電源位相θを算出する構成を採用することができる。つまり、位相検出手段17は電源位相θを直接に検出する手段に限定されず、電源位相θを算出、検出、推定できる機能を有していればよい。
第1のキャリア周波数生成手段9、第2のキャリア周波数生成手段10は、それぞれ周波数Fc1,Fc2を出力する。ここで上述のように、Fc1>Fc2の関係がある。切替手段18は、下記のように動作するので、第1のキャリア周波数生成手段9及び第2のキャリア周波数生成手段10と相まって、電源位相θに基づいてキャリア周波数fcの値を設定する周波数設定部19Aを構成する。
図4は切替手段18として採用される切替手段18Aの構成を例示するブロック図である。切替手段18Aは、選択部181、比較器182a,182b,182c,182d、AND(論理積)ゲート183a,183b,186、OR(論理和)ゲート184、スイッチングコントローラ185を有している。
比較器182a,182b,182c,182d、ANDゲート183a,183b、ORゲート184は、電源位相θが位相領域T01,T02のいずれにあるのかを判別し、その判別結果をANDゲート186に入力する。ここでは電源位相θが位相領域T01,T02にあることに対応して、ORゲート184からANDゲート186に入力する判別結果信号Dがそれぞれ論理“L”,“H”を採る場合が例示されている。以下、より詳細に説明する。
比較器182aは電源位相θと値θ1とを入力し、θ≧θ1であるか否かに応じて、それぞれ論理“H”,“L”を出力する。比較器182bは電源位相θと値θ2とを入力し、θ≦θ2であるか否かに応じて、それぞれ論理“H”,“L”を出力する。ANDゲート183aは比較器182a,182bのそれぞれが出力する論理の論理積を採って出力する。つまり、ANDゲート183aはθ1≦θ≦θ2であるか否かに応じてそれぞれ論理“H”、“L”を出力する。
これにより、電源位相θが図3に現れた位相領域T01にある場合にはANDゲート183aは論理“L”を出力し、図3に現れた位相領域T02にある場合にはANDゲート183aは論理“H”を出力する。
比較器182cは電源位相θと値θ1+180°とを入力し、θ≧θ1+180°であるか否かに応じて、それぞれ論理“H”,“L”を出力する。比較器182dは電源位相θと値θ2+180°とを入力し、θ≦θ2+180°であるか否かに応じて、それぞれ論理“H”,“L”を出力する。ANDゲート183bは比較器182c,182dのそれぞれが出力する論理の論理積を採って出力する。つまりANDゲート183bは、θ1+180°≦θ≦θ2+180°であるか否かに応じてそれぞれ論理“H”、“L”を出力する。
これにより、電源位相θが図3に現れない位相領域T01にある場合にはANDゲート183bは論理“L”を出力し、図3に現れない位相領域T02にある場合にはANDゲート183bは論理“H”を出力する。
ORゲート184はANDゲート183a,183bのそれぞれの出力の論理和を採って判別結果信号Dを出力する。これにより、上述の通り、電源位相θが位相領域T01,T02にあることに対応して、判別結果信号Dがそれぞれ論理“L”,“H”を採る。
選択部181は、第1のキャリア周波数Fc1(ここでは端子Aに入力)と第2のキャリア周波数Fc2(ここでは端子Bに入力)のいずれかを選択して、スイッチング用キャリアの周波数fcとして選択して出力する(ここでは端子Cから出力)。
スイッチングコントローラ185は選択部181における選択動作の可否を決定する選択許可信号Eを出力する。ANDゲート186は判別結果信号Dと選択許可信号Eとの論理積を採って選択部181に出力する。
選択許可信号Eが論理“H”をとるとき、選択部181は、判別結果信号Dが“H”であれば(電源位相θは位相領域T02にあって直流電圧Vdcの変動が緩やかであるので)端子Bを端子Cに接続し、周波数fcとして周波数Fc2を採用する。また判別結果信号Dが“L”であれば(電源位相θは位相領域T01にあって直流電圧Vdcの変動が急なので)端子Aを端子Cに接続する。
スイッチングコントローラ185の動作及び選択許可信号Eが“L”となる場合については後に説明をおこなうが、それまでは選択許可信号Eが“H”を採る場合について説明する。
図5は電源位相θと、比較器182a,182b,182c,182d、ANDゲート183a,183b、ORゲート184の動作を示すタイミングチャートである。図5において選択部181の動作は端子Cと接続される相手の端子に付記された記号(A),(B)を用いて示した。
出力電圧指令演算手段12は、電力変換器2から出力される(「他の」)交流電圧についての指令値たる電圧指令V*を生成する。電圧指令V*を求める方法については、一般的なV/f制御や交流回転機の制御方式であるベクトル制御などを採用することができる。かかる技術は公知であるので、詳細な説明は省略する。
PWM手段13は、パルス幅変調(Pulse Width Modulation)に基づいてスイッチング制御信号Gを、電力変換器2に与える変調信号生成部として機能する。具体的には、PWM手段13では、周波数Fc1を有するスイッチング用キャリアC1(図19参照)と、周波数Fc2を有するスイッチング用キャリアC2とを同期して生成している(図19のキャリアC2−1,C2−2,C2−3のいずれかとして図示される:これらの区別は後述する)。
そして切替手段18から出力された周波数fcが周波数Fc1,Fc2のいずれであるかに対応して、それぞれスイッチング用キャリアC1、C2をスイッチング用キャリアCとして採用して、スイッチング制御信号Gを生成する。
なお、後述する実施の形態においては、周波数Fc3を有するスイッチング用キャリアが、PWM手段13において採用される場合もある。
電力変換器2が有するスイッチング素子(図示省略)は、スイッチング制御信号Gに基づいてスイッチングし、交流回転機1に三相交流電圧を出力する。電力変換器2の構造自体は公知であるので、その詳細な説明は割愛する。
スイッチング制御信号Gは、スイッチング用キャリアと、出力電圧指令演算手段12から得られる電圧指令V*との比較により生成される。かかる生成自体は公知の技術であるので、詳細な説明は割愛する。
以上のようにして、電力変換器2のスイッチングは、図3に例示されたように位相領域T01.T02によって相違するキャリア周波数を有するスイッチング用キャリアに基づいて行われ、直流電圧Vdcの脈動に対する制御の追従性を確保しつつ、キャリア周波数に依存するスイッチング損失を下げることができる。
より具体的には、直流電圧Vdcのサンプリングにも用いられるスイッチング用キャリアの周波数を切り替えてすることにより、制御の追従性を確保しつつ、キャリア周波数に依存した電力変換器2のスイッチング損失を抑制することができる。
第2の実施の形態.
電圧指令V*を求めるに際し、交流回転機1において所望のトルクを得るためのトルク制御を採用することもできる。
但しこの場合、発生されるトルクには、直流電圧Vdcの脈動に起因した脈動が存在する。直流電圧Vdcが小さいときには出力されるトルクも小さいので、電力変換装置のトルク制御について、直流電圧Vdcの変化に対する制御の追従性は重視される必要はない。
他方、直流電圧Vdcが大きいときには出力されるトルクも大きいが、直流電圧Vdcの変化は(第1の実施の形態から理解されるように)小さいため、トルクの変化も小さく、やはり制御の追従性は重視される必要はない。
むしろ、直流電圧Vdcが小さい位相領域から直流電圧Vdcが大きい位相領域へ、あるいはその逆方向へ、それぞれ遷移する位相領域においてはトルクの変動が大きく、電力変換装置のトルク制御について追従性が重視される。また直流電圧Vdcが大きいときにはスイッチング損失も大きくなるので、トルク制御の制御周期は長いことが望ましい。
第2の実施の形態においても電力変換装置は第1の実施の形態と同じ構成(図1参照)を用いることができる。但し、切替手段18としては実施の形態1の切替手段18Aではなく、後述するように切替手段18Bを採用する。
図6は、第2の実施の形態における位相領域を示すグラフであり、第1の実施の形態の図2と対応している。図6は交流電圧Vsの波形と、これを全波整流して得られる直流電圧Vdcの波形とを示している。
また、図7は第2の実施の形態の動作を説明するグラフであり、第1の実施の形態の図3と対応している。図7では電源位相θが0〜180度を採るときの、直流電圧Vdcの波形と、キャリア周波数fcの波形と、想定されるトルクTの波形とを示している。
第2の実施の形態では、位相領域を下記のように区分する。
交流電圧Vsの変化率の絶対値が最も小さい位相(θ=90度、あるいは270度)を含む位相領域T04(θ3≦θ≦θ4の位相領域):
位相領域T04を挟んで隣接する一対の位相領域T05(θ1≦θ≦θ3の位相領域と、θ4≦θ≦θ2の位相領域の両方):
交流電圧Vsの変化率の絶対値が最も大きい位相を含み、位相領域T04,T05のいずれとも異なる位相領域T06(0°≦θ≦θ1の位相領域と、θ2≦θ≦180°の位相領域の両方):
値θ1,θ2は必ずしも第1の実施の形態における値θ1,θ2と同じ値を採る必要はないが、ここでは値θ1,θ2はいずれも第1の実施の形態と同じ値を採る場合が例示されている(θ1≒15°、θ2≒165°)。また値θ3,θ4としてそれぞれ約75度、約105度が採用される場合が例示されている。
電源位相θが相互に隣接する一対の位相領域の境界にある場合、電源位相θは当該一対の位相領域のいずれにあると把握しても差し支えない。
以上のように位相領域を区分すると、位相領域T05におけるトルクTの波形は、位相領域T04におけるトルクTの波形よりも変動が顕著である、と言える。また、更に、位相領域T05におけるトルクTの波形は、位相領域T06におけるトルクTの波形よりも変動が顕著である、とも言える。
よって位相領域T04あるいは更に位相領域T06においては、位相領域T05よりも、トルク制御の制御周期を長くしても、トルクTについて、電力変換器2の制御の追従性を損ないにくいと言える。通常、トルク制御の制御は、キャリア一周期を単位として行われるので、トルク制御の制御周期を長くすることはキャリア周波数を低減することに相当する。
よって位相領域T04におけるスイッチング用キャリアの周波数Fc4、位相領域T05におけるスイッチング用キャリアの周波数Fc5、を導入して、Fc4<Fc5の関係を成立させることにより、想定されるトルクTの変動に対する電力変換器2の制御の追従性を確保しつつ、電力変換装置のキャリア周波数に依存するスイッチング損失を下げることができる。これはスイッチング素子の冷却装置などを簡素化でき、引いては電力変換装置を小型化することに資する。
また、位相領域T06におけるスイッチング用キャリアの周波数Fc6を導入し、これと周波数Fc5との間に、Fc6<Fc5の関係を成立させることにより、上記効果を高めることができる。
図7では、キャリア周波数fcは位相領域T04,T05,T06においてそれぞれ3kHz,6kHz,3kHzを採っている。つまり図3ではFc4=Fc6=3kHz、Fc5=6kHzの場合が例示されている。
図8は図1における切替手段18として第2の実施の形態で採用される切替手段18Bの構成を例示するブロック図である。切替手段18Bは切替手段18Aと同様に、第1のキャリア周波数生成手段9及び第2のキャリア周波数生成手段10と相まって、電源位相θに基づいてキャリア周波数fcの値を設定する周波数設定部として把握される。切替手段18BはFc3=Fc1との前提の下で設計されている。
切替手段18Bは、選択部181、比較器182a,182b,182c,182d,182e,182f,182g,182h、ANDゲート183a,183b,183e,183f,186、NAND(論理積の反転)ゲート183c,183d、ORゲート184、スイッチングコントローラ185を有している。
比較器182a,182b,182c,182d、ANDゲート183a,183bへの入力は第1の実施の形態と同様である。よってANDゲート183aはθ1≦θ≦θ2であるか否かに応じてそれぞれ論理“H”“L”を出力し、ANDゲート183bはθ1+180°≦θ≦θ2+180°であるか否かに応じてそれぞれ論理“H”“L”を出力する。つまり、ANDゲート183a,183bのいずれかが“H”であれば、電源位相θは位相領域T05,T06のいずれかに有って、位相領域T04にはない。
比較器182eは電源位相θと値θ3とを入力し、θ≧θ3であるか否かに応じて、それぞれ論理“H”,“L”を出力する。比較器182fは電源位相θと値θ4とを入力し、θ≦θ4であるか否かに応じて、それぞれ論理“H”,“L”を出力する。NANDゲート183cは比較器182e,182fのそれぞれが出力する論理の論理積の反転を採って出力する。つまり、NANDゲート183cはθ3≦θ≦θ4であるか否かに応じてそれぞれ論理“L”、“H”を出力する。
ANDゲート183eはANDゲート183aの出力と、NANDゲート183cの出力との論理積を採って出力する。これにより、電源位相θが図7に現れた位相領域T05にある場合にはANDゲート183eは論理“H”を出力し、図7に現れた位相領域T04,T06にある場合にはANDゲート183eは論理“L”を出力する。
比較器182gは電源位相θと値θ3+180°とを入力し、θ≧θ3+180°であるか否かに応じて、それぞれ論理“H”,“L”を出力する。比較器182hは電源位相θと値θ4+180°とを入力し、θ≦θ4+180°であるか否かに応じて、それぞれ論理“H”,“L”を出力する。NANDゲート183dは比較器182g,182gのそれぞれが出力する論理の論理積の反転を採って出力する。NANDゲート183dは、θ3+180°≦θ≦θ4+180°であるか否かに応じてそれぞれ論理“L”、“H”を出力する。
ANDゲート183fはANDゲート183bの出力と、NANDゲート183dの出力との論理積を採って出力する。これにより、電源位相θが図7に現れない位相領域T05にある場合にはANDゲート183fは論理“H”を出力し、図7に現れない位相領域T04,T06にある場合にはANDゲート183fは論理“L”を出力する。
ORゲート184はANDゲート183e,183fのそれぞれの出力の論理和を採って判断結果信号JとしてANDゲート186へ出力する。上述の動作により判断結果信号Jは、電源位相θが位相領域T04,T06にある場合には論理“L”を、位相領域T05にある場合には論理“H”を、それぞれ採る。
選択部181の端子Aにはキャリア周波数Fc4(ここではキャリア周波数Fc6と等しい)が入力し、端子Bにはキャリア周波数Fc5が入力する。そして選択許可信号Eが論理“H”をとるとき、選択部181は、判断結果信号Jが“H”であれば(電源位相θは位相領域T04,T06にあってトルクTの変動が緩やかであるので)端子Bを端子Cに接続し、周波数fcとして周波数Fc4を採用する。また判断結果信号Jが“L”であれば(電源位相θは位相領域T05にあってトルクTの変動が急なので)端子Aを端子Cに接続する。
図9は電源位相θと、比較器182a,182b、182e、182f、ANDゲート183a、NANDゲート183c、ANDゲート183eの動作を示すタイミングチャートである。図9において選択部181の動作は端子Cと接続される相手の端子に付記された記号(A),(B)を用いて示した。
図10は第2の実施の形態の効果を説明するグラフであり、直流電圧Vdc、スイッチング用キャリアC、想定されるトルクT及び出力トルクTo、電力変換器2から交流回転機1へ出力される電流id,iqの波形を示す。但し、電流id,iqはそれぞれいわゆるd軸電流及びq軸電流であり、交流回転機1に流れる電流の、交流回転機1の界磁に対する同相成分及び直交成分である。
キャリアは位相領域T04,T06においてキャリア周波数3kHzを、位相領域T05においてキャリア周波数6kHzを、それぞれ採用している。
出力トルクToは交流回転機1において実際に発生したトルクであって、想定されるトルクTに対し、立ち上がりが遅くかつ緩慢になっていることが判る。しかしながら出力トルクToの変化が大きな領域は、想定されるトルクTの変化が大きい位相領域T05にある。よって図10は、位相領域T05においてスイッチング用キャリアCの周波数が高められるという望ましい結果を示している。
なお、位相領域T05と隣接する位相領域T04,T06と、位相領域T05との境界において、スイッチング用キャリアCはその周波数が変化する。これはスイッチング用キャリアの不連続を招来する可能性がある。図10ではかかる不連続が生じない場合を例示しているが、相互に隣接する位相領域同士の境界でのスイッチング用キャリアの波形の連続性については後の<変形例2>において詳細に説明する。
第3の実施の形態.
図11は第3の実施の形態にかかる電力変換装置の構成を例示する回路図である。当該電力変換装置は、第1の実施の形態及び第2の実施の形態で採用された制御部4に対し、周波数設定部19Aを周波数設定部19Bに置換した構成を有している。
周波数設定部19Bは切替テーブル手段191を含む。切替テーブル手段191は、位相領域毎にキャリア周波数を対応づけて記憶しており、入力された電源位相θに応じてキャリア周波数fcを出力する。
このような切替テーブル手段191を採用することにより、第1の実施の形態、第2の実施の形態で示されたような位相領域毎に対応したキャリア周波数fcの設定が実現されることは明白である。またより複雑な対応についても実現することが容易となる。例えばキャリア周波数を3種採用することも容易に実現できる。
図12は、第3の実施の形態における位相領域を示すグラフであり、第1の実施の形態の図2と対応している。図12は交流電圧Vsの波形と、これを全波整流して得られる直流電圧Vdcの波形とを示している。
また、図13は第3の実施の形態の動作を説明するグラフであり、第1の実施の形態の図3と対応している。図13では電源位相θが0〜180度を採るときの、直流電圧Vdcの波形と、キャリア周波数fcの波形と、想定されるトルクTの波形とを示している。
第3の実施の形態では、第1の実施の形態に対して、位相領域T02を、値θ5,θ6を境界として、位相領域T02’,T03に区分している。もちろん、位相領域T02’,T03を合体させた位相領域が第1の実施の形態の位相領域T02と必ずしも一致する必要はない。換言すれば、第1の実施の形態と第3の実施の形態との間で、値θ1,θ2が異なっていてもよい。
よって、第1の実施の形態と類似して、位相領域を下記のように区分して把握することができる。
交流電圧Vsの変化率の絶対値が最も大きい位相(θ=180度、あるいは360度)を含む位相領域T01(0°≦θ≦θ1の位相領域と、θ2≦θ≦180°の位相領域の両方):
交流電圧Vsの変化率の絶対値が最も小さい位相(θ=90度、あるいはθ=270度)を含む位相領域T02’(θ5≦θ≦θ6の位相領域):
位相領域T01,T02’のいずれとも異なる位相領域T03(θ1≦θ≦θ5の位相領域と、θ6≦θ≦θ2の位相領域の両方)。
第3の実施の形態では位相領域T02’,T03においてそれぞれキャリア周波数fcとして採用されるべき周波数Fc2’,Fc3を導入して、Fc2’<Fc3<Fc1の関係を設定する。例えばFc2’=3kHz、Fc3=4kHz、Fc1=6kHzに設定されている場合が図13に図示されている。
位相領域T02’,T03,T01はこの順に、直流電圧Vdcの脈動が顕著となって行くので、上述の関係を設定することにより、第1の実施の形態の効果を高めることができる。
あるいは、第3の実施の形態における位相領域を第2の実施の形態と類似して、下記のように区分して把握することもできる。
交流電圧Vsの変化率の絶対値が最も小さい位相(θ=90度、あるいは270度)を含む位相領域T02’(θ5≦θ≦θ6の位相領域):
位相領域T02’を挟んで隣接する一対の位相領域T03(θ1≦θ≦θ5の位相領域と、θ6≦θ≦θ2の位相領域の両方):
交流電圧Vsの変化率の絶対値が最も大きい位相を含み、位相領域T02’,T03のいずれとも異なる位相領域T01(0°≦θ≦θ1の位相領域と、θ2≦θ≦180°の位相領域の両方)。
よって位相領域の並び方から見れば、第3の実施の形態の位相領域T02’,T03,T01は第2の実施の形態のT04,T05,T06にそれぞれ対応する。しかしキャリア周波数fcとして採用される周波数の大小関係(Fc2’<Fc3<Fc1)は第2の実施の形態のそれ(T04<T05,T05>T06)とは異なっている。
なお、θ1=θ5、θ2=θ6であれば実質的に位相領域T03は無くなり、位相領域T02’は第1の実施の形態の位相領域T02と同様に扱うことができる。つまり第1の実施の形態については下記のように把握することもできる。
即ち、交流電圧Vsの変化率の絶対値が最も小さい位相を含む位相領域T02においてキャリア周波数fcは周波数Fc2を採り、位相領域T02を挟んで隣接する一対の位相領域T01においてキャリア周波数fcは周波数Fc1を採り、周波数Fc1は周波数Fc2よりも大きい。
第4の実施の形態.
第4の実施の形態においても電力変換装置は第3の実施の形態と同じ構成(図11参照)を用いることができる。また、第2の実施の形態と同じ位相領域(図6参照)が採用される。
図14は第4の実施の形態の動作を説明するグラフであり、第2の実施の形態の図7と対応している。
第4の実施の形態では第2の実施の形態とは異なり、位相領域T04においてキャリア周波数fcとして採用される周波数Fc4が周波数Fc5のみならず周波数Fc6よりも小さく設定される(Fc4<Fc6<Fc5)。例えば図14ではFc6=3kHz、F5=6kHz、Fc4=2kHzに設定されている場合が示されている。
このように、想定されるトルクTの波形が平坦であってトルク制御の制御周期を短くする必要が無く、かつ直流電圧Vdcの値が大きくてスイッチング損失が大きくなりがちな位相領域T04におけるキャリア周波数Fc4を低下させることは、第2の実施の形態の効果を高める。
第5の実施の形態.
整流された電圧の脈動は、単相交流電圧を整流する場合に限らず、三相交流電圧を整流した場合にも発生する。これはコンデンサの容量が小さいことで、より顕著となる。ここでは三相交流電圧を半波整流した場合における実施の形態について説明する。
図15は第5の実施の形態にかかる電力変換装置の構成を例示する回路図である。当該電力変換装置は、第3の実施の形態で示された構成(図11参照)に対し、単相電源61及び整流回路51をそれぞれ三相電源63A及び整流回路53Aに置換した構成を有している。
三相電源63Aは三相の交流電圧Vr,Vs,Vtと中性点電圧Vnとを出力し、いわゆる三相四線式の配電を実現する。整流回路53Aは相電圧を半波整流するダイオードブリッジであり、中性点電圧Vnを基準として交流電圧Vr,Vs,Vtを半波整流する。
ここでは周波数設定部19Bを用いることによって説明を簡単にするが、適宜に回路設計を行って周波数設定部19Aと同様の構成を採用することもできる。
図16は第5の実施の形態における位相領域を示すグラフであり、第1の実施の形態の図2と対応している。図16は交流電圧Vr,Vs,Vtの波形と、これを半波整流して得られる直流電圧Vdcの波形とを示している。
交流電圧Vr,Vs,Vtは、周知のように、その位相が相互に120°ずつずれており、ここでは電圧Vrよりも電圧Vsが、電圧Vsよりも電圧Vtが、それぞれ遅相である場合を例示している。
直流電圧Vdcの波形は交流電圧Vr,Vs,Vtのうちの最大値の波形をとり、電源電圧Vsの位相に換算して120°周期で脈動する。具体的には直流電圧Vdcは、三相交流電圧の内のいずれか二つが同じ正の電圧値を採る時点で最小となり、三相交流電圧の内のいずれか二つが同じ負の電圧値を採る時点で最大となる。
よって例えば第1の実施の形態のように、直流電圧Vdcの脈動に対する制御の追従性を確保しつつキャリア周波数に依存するスイッチング損失を下げるために、位相領域T1,T2を選定し、それぞれの位相領域において採用されるキャリア周波数を設定することができる。
この場合、直流電圧Vdcの波形についての上述の観点から交流電圧Vr,Vs,Vtの波形同士の交点を採って位相領域を下記のように選定することができる。
二つの交流電圧が同じ正の電圧値を採る第1位相(図16では位相θrs,θst,θtrとして例示)を含む位相領域T1:
二つの交流電圧が同じ負の電圧値を採る第2位相(これは第1位相よりも60°遅相である)を含む位相領域T2。
以上のように位相領域を区分すると、位相領域T1における直流電圧Vdcの脈動は、位相領域T2における直流電圧Vdcの脈動よりも顕著である、と言える。
よって位相領域T2においては、位相領域T1よりも、直流電圧Vdcのサンプリング周期を長くしても、直流電圧Vdcの脈動に対する電力変換器2の制御の追従性を損ないにくいと言える。しかも、直流電圧Vdcの値が大きいときには電力変換器2に供給される電圧も大きいのであるから、位相領域T2における電力変換器2を制御する頻度を低減することは、スイッチング損失の低減をも招来する。
更に、位相領域T1,T2のいずれとも異なる位相領域T3を選定してもよい。位相領域T1,T2,T3においてそれぞれスイッチング用キャリアが周波数Fc1,Fc2.Fc3を採用するとして、Fc2<Fc3<Fc1の関係を採用することによって、第3の実施の形態と同様に、直流電圧Vdcの脈動に対する制御の追従性を確保しつつキャリア周波数に依存するスイッチング損失を下げる効果を高めることができる。
第6の実施の形態.
ここでは三相交流電圧を全波整流した場合における実施の形態について説明する。図17は第6の実施の形態にかかる電力変換装置の構成を例示する回路図である。当該電力変換装置は、第5の実施の形態で示された構成(図15参照)に対し、三相電源63A及び整流回路53Aをそれぞれ三相電源63B及び整流回路53Bに置換した構成を有している。
三相電源63Bは三相の交流電圧Vr,Vs,Vtを出力し、いわゆる三相三線式の配電を実現する。整流回路53Bは線間電圧を全波整流するダイオードブリッジである。ここでは線間電圧としてVtr=Vt−Vr,Vrs=Vr−Vs,Vst=Vs−Vtを採用している。
第6の実施の形態でも第5の実施の形態と同様にして周波数設定部19Bを用いることによって説明を簡単にするが、適宜に回路設計を行って周波数設定部19Aと同様の構成を採用することもできる。
図18は第6の実施の形態における位相領域を示すグラフであり、第1の実施の形態の図2と対応している。図18は交流電圧Vr,Vs,Vtの波形と、線間電圧Vtr,Vrs,Vstの波形と、これらの線間電圧を全波整流して得られる直流電圧Vdcの波形とを示している。
線間電圧Vtr,Vrs,Vstは、周知のように、その位相が相互に120°ずつずれている。直流電圧Vdcの波形は線間電圧Vtr,Vrs,Vstの絶対値のうちの最大値の波形をとり、電源電圧Vsの位相に換算して60°周期で脈動する。具体的には直流電圧Vdcは、三相交流電圧Vr,Vs,Vtの内のいずれか二つが(正負を問わず)同じ電圧値を採る時点で最小となり、線間電圧Vtr,Vrs,Vstの内のいずれか二つが(正負を問わず)同じ電圧値を採る時点で最大となる。
よって例えば第1の実施の形態のように、直流電圧Vdcの脈動に対する制御の追従性を確保しつつキャリア周波数に依存するスイッチング損失を下げるために、位相領域T1,T2を選定し、それぞれの位相領域において採用されるキャリア周波数を設定することができる。
この場合、直流電圧Vdcの波形についての上述の観点から交流電圧Vr,Vs,Vtの波形同士の交点を採って位相領域を下記のように選定することができる。
二つの交流電圧が同じ電圧値を採る第1位相(図16では同じ正の電圧値を採る位相θrs,θst,θtr、同じ負の電圧値を採る位相θsr,θts,θrtとして例示)を含む位相領域T1:
二つの線間電圧が同じ電圧値を採る第2位相(これは第1位相よりも30°遅相である)を含む位相領域T2。
以上のように位相領域を区分すると、位相領域T1における直流電圧Vdcの脈動は、位相領域T2における直流電圧Vdcの脈動よりも顕著である、と言える。よって位相領域T1,T2においてそれぞれスイッチング用キャリアが周波数Fc1,Fc2を採用するとして、Fc2<Fc1の関係を採用することによって第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
更に、位相領域T1,T2のいずれとも異なる位相領域T3を選定してもよい。位相領域T3においてスイッチング用キャリアが周波数Fc3を採用するとして、Fc2<Fc3<Fc1の関係を採用することによって、第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
<実施の形態の総括的説明>
直流電圧Vdcの脈動それ自身を軽減する場合(例えば第1の実施の形態)と、直流電圧Vdcの脈動に起因する想定されるトルクTの脈動を軽減する場合(例えば第2の実施の形態)とでは、各位相領域におけるキャリア周波数の大小関係が異なる場合がある(特に直流電圧Vdcが零近傍の値を採る位相領域T01,T06と、このそれぞれを挟んで隣接する位相領域T02,T05との間での、キャリア周波数の大小関係)。
しかしながら、電源位相θで区分される位相領域に応じてスイッチング用キャリアの周波数fcを可変とし、上記の場合に応じて適宜に周波数fcを設定することにより、それぞれの場合に応じて電力変換器の制御の追従性を確保しつつ、キャリア周波数に依存したスイッチング損失を抑制することができる。
これは、ダイオードブリッジで交流電圧から整流された直流電圧が、交流電圧と同期して脈動することを利用している。交流電圧の位相に応じてスイッチング用キャリアの周波数を変更することにより、直流電圧の大きさやこれに基づいて変動するトルクに応じた周波数に応じた信号で電力変換器がスイッチングする。これにより、直流電圧の脈動やトルクの変動に対する電力変換器の制御の追従性を確保しつつ、キャリア周波数に依存したスイッチング損失を抑制し、ひいては電力変換装置を小型化することに資する。
<変形例1>
上記のいずれの実施の形態についても、位相領域を決定する位相、換言すれば位相領域の境界となる位相は、異なる側面から捉えることができる。例えば第5の実施の形態について見れば、図16を参照して、位相領域T1が含む第1位相θrs,θst,θtrは、電圧Vs,Vt,Vrの変化率の絶対値が最も大きい位相から60°遅相の位相であると把握することができる。
あるいは第6の実施の形態において位相領域T2が含む第2位相は、いずれかの電圧がゼロクロスする位相であると把握することができる。
このようにいずれの実施の形態においても、位相領域を決定する位相は、電源位相θの算出、検出、推定から導かれるので有れば、種々の観点で特定することができる。
<変形例2>
上記のいずれの実施の形態についても、隣接する位相領域同士の境界では、異なる周波数のスイッチング用キャリアが時間的に隣接する。それぞれのスイッチング用キャリアの波形の最大値(あるいはその近傍)同士が隣接するか、もしくは最小値(あるいはその近傍)同士が時間的に隣接することが望ましい。
このようにしてスイッチング用キャリアを切り替えることにより、それぞれのスイッチング用キャリアの最大値同士(あるいは最小値同士)の間の一周期は損なわれることがない。通常、スイッチング用キャリアと比較される指令値は、スイッチング用キャリアの最大値同士(あるいは最小値同士)の間の一周期において維持されるので、スイッチングによって出力される交流電圧は、指令値に応じたものとなる。
もちろん、指令値はスイッチング用キャリアの振幅に対応して設定されるので、切り替えられる複数のスイッチング用キャリアは、いずれもその最大値同士が等しく、かつ最小値同士が等しいことが望ましい。
図10で示されたスイッチング用キャリアCについてみれば、位相領域T05と、位相領域T04,T06との間の境界で最大値を採る場合が例示されている。
例えば第2の実施の形態において、周波数Fc5を採るスイッチング用キャリアCをスイッチング用キャリアC1とし、周波数Fc4(=Fc6)を採るスイッチング用キャリアCをスイッチング用キャリアC2とすると、Fc5=N・Fc4(但しNは2以上の整数)であれば、スイッチング用キャリアC1,C2同士の切り替わりにおいて、それぞれの最大値同士あるいは最小値同士を一致させることができる。
同様にしてFc1=M・Fc2(但しMは2以上の整数)であれば、スイッチング用キャリアC1(周波数Fc1)とスイッチング用キャリアC2(周波数Fc2)との間の切り替わりにおいて、それぞれの最大値同士あるいは最小値同士を一致させることができる。
但し、スイッチング用キャリアが切り替わるタイミングを、厳密に位相領域同士の境界に一致させることは必ずしも容易ではない。位相領域の境界となる位相の値は、必ずしもスイッチング用キャリアC2の最小値、あるいは最大値と一致するとは限らないからである。この観点からは、判別結果信号Dの“H”/“L”のみで選択部181の動作を制御することは望ましくない。
そこで、スイッチングコントローラ185は最も周波数が低いスイッチング用キャリア、ここではスイッチング用キャリアC2に基づいて、選択許可信号Eを出力し、これが“H”の場合のみ、判別結果信号Dに基づいて選択部181に選択の切替を行わせる。スイッチング用キャリアC2は、PWM手段13において用いられるので、PWM手段13で作成し、ここから得ることができる。
図19はスイッチング用キャリアの選定を説明するグラフである。但しここではスイッチング用キャリアC2として三種のキャリアC2-1,C2-2,C2-3を例示した。
キャリアC2-1,C2-2はスイッチング用キャリアC1の周波数Fc1の偶数分の一の周波数Fc2を有しており、ここではFc2=Fc1/2の場合が例示されている。キャリアC2-1は、その最大値を採るタイミングが、スイッチング用キャリアC1が最大値を採るタイミングから選択されるように同期する。キャリアC2-2は、その最小値を採るタイミングが、スイッチング用キャリアC1が最小値を採るタイミングから選択されるように同期する。
キャリアC2-3はスイッチング用キャリアC1の周波数Fc1の奇数分の一(当該奇数は3以上)の周波数Fc2を有しており、ここではFc2=Fc1/3の場合が例示されている。キャリアC2-3が最大値を採るときにはスイッチング用キャリアC1も最大値を採り、キャリアC2-3が最小値を採るときにはスイッチング用キャリアC1も最小値を採る。
このように、最も周波数が低いスイッチング用キャリアC2の最大値/最小値を検出し、そのタイミングで選択部111に選択の切替を行わせることが望ましい。かかる制御はスイッチングコントローラ185に担わせることができる。
具体的には、スイッチング用キャリアC2としてキャリアC2-1が採用される場合には、キャリアC2-1が最大値を採るタイミングで、スイッチングコントローラ185が選択許可信号Eを“H”にして、選択部181に選択の切替を行わせる。これにより、その切り替わりのタイミングにおいてスイッチング用キャリアC1,C2はいずれも最大値を採る。
スイッチング用キャリアC2としてキャリアC2-2が採用される場合には、キャリアC2-2が最小値を採るタイミングで選択許可信号Eを“H”にして、選択部181に選択の切替を行わせる。これにより、その切り替わりのタイミングにおいてスイッチング用キャリアC1,C2はいずれも最小値を採る。
スイッチング用キャリアC2としてキャリアC2-3が採用される場合には、キャリアC2-3が最大値を採るタイミングで選択部181に選択の切替を行わせることにより、その切り替わりのタイミングにおいてスイッチング用キャリアC1,C2はいずれも最大値を採る。またキャリアC2-3が最小値を採るタイミングで選択部181に選択の切替を行わせることにより、その切り替わりのタイミングにおいてスイッチング用キャリアC1,C2はいずれも最小値を採る。
かかる切替の観点からは、周波数Fc2が周波数Fc1の奇数分の一であることが望ましい。キャリアが最大値を採るタイミングで周波数を切り替える場合にも、最小値を採るタイミングで周波数を切り替える場合にも、適用できるからである。
同様にして、周波数Fc4,Fc5,Fc6を設定することが望ましい。
また、同様にして、スイッチング用キャリアC2の値に応じたタイミングで、切替テーブル手段191から周波数fcが出力されることが望ましい。
第3の実施の形態や第4の実施の形態で示されたように、キャリア周波数fcとして採用される周波数が3つ以上ある場合には、隣接する一対の位相領域で採用される周波数同士は互いに整数倍の関係に有ることが望ましい。即ち、第3の実施の形態に即してみれば、Fc1=m×Fc3,Fc3=n×Fc2’(m,nは2以上の整数)の関係があることが望ましい(図13の例示ではFc1=(3/2)×Fc3、Fc3=(4/3)×Fc2’であり、整数m,nが存在しなかった)。また第4の実施の形態に即してみれば、Fc5=2×Fc6=3×Fc4であり、3つの周波数Fc4,Fc5,Fc6は上記の望ましい関係を満足している。
<変形例3>
上記の説明では、制御部4はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成することができる。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。
当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。
また、制御部4はこれに限らず、制御部4によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。