JP2015182982A - 細菌の増殖抑制 - Google Patents

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Abstract

【課題】緑膿菌等の有害な細菌の増殖を効率的且つ効果的に抑制することを課題とする。【解決手段】標的細菌が鉄欠乏状態で分泌するヘム獲得蛋白質と、非消光性フタロシアニンとの複合体を標的細菌に捕捉させ、非消光性フタロシアニンのQ帯励起光を照射する。【選択図】図1

Description

本発明は細菌の増殖抑制に関する。詳しくは、緑膿菌等の細菌の増殖抑制ないし殺菌に有効な手段及びその用途に関する。
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)はグラム陰性の桿菌であり、土壌や水中、植物などの自然界に広く生息している。通常は弱毒菌であり、健常人に感染症を発症させることはまれであるが、手術後患者や高齢者など免疫状態が低下した易感染患者に対しては、肺炎、尿路感染症、菌血症などの日和見感染症を引き起こす。その他、コンタクトレンズの誤用等による角膜炎や角膜潰瘍、或いはグリーンネイル等の原因菌としても緑膿菌は知られている。
緑膿菌は強い薬剤抵抗性を持ち、多剤耐性菌になりやすい。そのため、院内感染の主な原因菌となっている。実際、2014年1月6日には、多剤耐性緑膿菌の院内感染によって11人が死亡する重大な事故が起きている。
緑膿菌は鉄欠乏状態になるとヘム(鉄ポルフィリン錯体)獲得蛋白質(HasA: Hem acquisition system A)を分泌し、鉄源としてのヘムを宿主から獲得するシステムを作動させる。HasAは菌体外でヘモグロビンなどのヘム蛋白質からヘムを獲得し、緑膿菌外膜の特異的受容体のHasRにヘムを受け渡す役割を持つ。HasAに合成金属錯体を取り込ませることによりHasRのヘムの獲得を阻害することができれば、緑膿菌の鉄獲得経路の一つを遮断することができる。本発明者らの研究グループはこの視点に立って研究を進め、HasAがヘムとは異なる骨格の合成金属錯体と複合体を形成することを示した上で、HasAと鉄フタロシアニンの複合体が緑濃菌のヘム獲得を阻害することを報告した(非特許文献1)。具体的には、生体内に生息する緑膿菌と同様の鉄欠乏状態で培養した緑膿菌に対して、鉄フタロシアニンを取り込ませたHasAを作用させるとヘムの獲得が阻害されることを明らかにした。通常、HasAはヘムをHasRに受け渡すと再びヘム鉄を獲得するために系外に放出されると考えられている。本発明者らによる実験結果は、鉄フタロシアニンがHasAに強く相互作用して取り込まれているために脱離機構が機能せず、「HasA−鉄フタロシアニン」がHasRから放出されずにHasRの相互作用部位をブロックしている可能性を示唆している。あるいは、HasRに受け渡された鉄フタロシアニンが、その高い疎水性のためにHasR内部にとどまり、ヘムの通路を遮断していると考えられる。尚、ヘム獲得系を持つ菌体に関する最近の報告(非特許文献2)を以下に示す。
Shirataki, C., Shoji, O., Terada, M., Ozaki, S.-i., Sugimoto, H., Shiro, Y. and Watanabe, Y. (2014), Inhibition of Heme Uptake in Pseudomonas aeruginosa by its Hemophore (HasAp) Bound to Synthetic Metal Complexes. Angew. Chem. Int. Ed., 53: 2862-2866. doi: 10.1002/anie.201307889 H. Contreras, N. Chim, A. Credali, C. W. Goulding, "Heme uptake in bacterial pathogens" Curr. Opin. Chem. Biol. 2014, 19, 34-41.
本発明の主たる課題は、緑膿菌等の有害な細菌の効率的且つ効果的な増殖抑制を可能にする手段及びその用途を提供することにある。
上記課題に鑑み研究を進める中、本発明者らはフタロシアニンの特性に注目し、HasAとフタロシアニンの複合体に殺傷(殺菌)効果を発揮させるという戦略を考案し、その有効性を検証した。具体的には、励起光の照射により一重項酸素を生成・放出可能な代表的フタロシアニン化合物(即ち、非消光性フタロシアニン)としてのガリウムフタロシアニンをHasAと複合体化し、鉄欠乏状態で培養した緑膿菌の培養液に添加した後、可視光を照射し、緑膿菌に与える影響を調べた。その結果、短時間の光照射によって緑膿菌が死滅するという、驚くべき効果が認められた。即ち、上記の戦略が極めて有効であることが判明した。ここで、HasAとガリウムフタロシアニンの複合体に可視光を照射すると、ガリウムフタロシアニンが可視光照射により励起され、励起三重項状態から溶存酸素へのエネルギー移動によって一重項酸素を生成し、これによって緑膿菌を死に陥らせたと考えられる。この作用機序に鑑みると、励起光の照射により一重項酸素を生成・放出可能なフタロシアニン化合物であれば、ガリウムフタロシアニンと同様の作用を発揮し得る。一方、ヘム獲得システムは、緑膿菌に限らず、セラチア菌、蛍光菌、ペスト菌等の細菌も利用している。また、黄色ブドウ球菌も類似のヘム獲得システムを持つ。従って、上記戦略はこれらの細菌に対しても有効であり、高い汎用性を有する。
以下の発明は主として上記の成果及び考察に基づく。
[1]標的細菌が鉄欠乏状態で分泌するヘム獲得蛋白質と、非消光性フタロシアニンとの複合体。
[2]前記標的細菌が緑膿菌、セラチア菌、蛍光菌、ペスト菌、黄色ブドウ球菌、結核菌、エルシニア属細菌、プロビデンシア属細菌、アクロモバクター属細菌、歯周病原性細菌、及びインフルエンザ菌からなる群より選択される、ヘム獲得系を持つ細菌である、[1]に記載の複合体。
[3]前記標的細菌が緑膿菌であり、前記ヘム獲得蛋白質が緑膿菌のHasA蛋白質である、[1]又は[2]に記載の複合体。
[4]前記非消光性フタロシアニンが以下のいずれかの化学式で表される、[1]又は[2]に記載の複合体、
Figure 2015182982
但し、式中のR1〜R16は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ホウ素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Mはガリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン、ベリリウムイオン、ホウ素イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ケイ素イオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、スカンジウムイオン、チタンイオン、銅イオン、ゲルマニウムイオン、ジルコニウムイオン、インジウムイオン、パラジウムイオン、ロジウムイオン、プラチナイオン、イリジウムイオン又はバナジウムイオンである;
Figure 2015182982
但し、式中のR1〜R16は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ホウ素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。
[5][1]〜[4]のいずれか一項に記載の複合体を有効成分とする細菌増殖抑制剤。
[6][5]に記載の細菌増殖抑制剤を含有する医薬。
[7]点眼薬である、[6]に記載の医薬。
[8][5]に記載の細菌増殖抑制剤を含有する、消毒、洗浄又は保存剤。
[9][5]に記載の細菌増殖抑制剤を標的細菌の感染組織又は臓器に送達した後、前記非消光性フタロシアニンのQ帯励起光を該感染組織又は臓器に照射するステップを含む、細菌の増殖抑制方法。
[10][5]に記載の細菌増殖抑制剤を添加した培養液で細胞又は組織を培養することを特徴とする、細胞又は組織の培養方法。
光照射実験のスキーム。 ガリウムフタロシアニンの構造。 光照射実験の結果。(A)ガリウムフタロシアニン捕捉HasA(Ga-Pc HasA)を添加して培養した。左は光照射あり、右は光照射なし。光照射することで、菌体を殺菌できていることがわかる。(B)Ga-Pc HasAを添加せずに培養した。左は光照射あり、右は光照射なし。(C)40 mM EDTAを加えない条件(受容体HasRが無い条件)で培養した。左は光照射あり、右は光照射なし。
1.細菌の増殖抑制用複合体
本発明の第1の局面は、ヘム獲得システムを持つ標的細菌の増殖抑制に有用な複合体に関する。ヘム獲得システムを持つ細菌では、鉄欠乏状態になるとヘム(鉄ポルフィリン錯体)獲得蛋白質(HasA)を分泌し、鉄源としてのヘムを宿主から獲得する。HasAは菌体外でヘモグロビンなどのヘム蛋白質からヘムを獲得し、緑膿菌外膜の特異的受容体であるHasRにヘムを受け渡す。本発明の典型的な使用方法では、鉄欠乏状態の標的細菌に対して本発明の複合体を作用させるとともに、複合体を構成する非消光性フタロシアニンのQ帯を励起可能な光(Q帯励起光)を照射する。このような操作の結果、HasRによるヘムの獲得が阻害され(HasRの相互作用部位が非消光性フタロシアニンでブロックされる。或いは、HasRに受け渡された非消光性フタロシアニンがHasR内部にとどまり、ヘムの通路を遮断する)、標的細菌の増殖が抑制されるとともに、非消光性フタロシアニンが励起され、励起三重項状態から溶存酸素へのエネルギー移動によって一重項酸素を生成し、標的細菌を傷害する。このような複合的な作用により、効率的且つ効果的に標的細菌の増殖を抑制する。標的細菌の種類や状態、或いは光の照射条件等によって効果は変動するものの、上記のごとき適用によれば、標的細菌(集団の一部又は全部)を死滅させることも可能である。実際、後述の実施例に示す通り、緑膿菌を標的細菌とした実験によって、極めて強い殺菌効果が確認されている。
本発明の複合体(ヘム獲得蛋白質−非消光性フタロシアニン複合体)は大別して二つの成分、即ち、細菌が鉄欠乏状態で分泌するヘム獲得蛋白質(本明細書中で「HasA」と呼称する)と、非消光性フタロシアニンから構成される。HasAは、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、セラチア菌(Serraia marcescens)、蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)、ペスト菌(Yersinia pestis)等、ヘム獲得系をもつ病原性細菌が分泌する蛋白質である。HasAの例(アミノ酸配列)を以下に示す。
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa):配列番号1
セラチア菌(Serraia marcescens):配列番号2
蛍光菌(Pseudomonas fluorescens:配列番号3
ペスト菌(Yersinia pestis):配列番号4
ヘム獲得蛋白質としてHasAの全長ではなく、HasAの一部(部分HasA。但し、HasRによって認識されるものであり、且つフタロシアニン捕捉能を維持している)を用いることにしてもよい。例えば、部分HasAの例は、全長HasAからシグナルペプチド部分を除去したものである。
本発明の増殖抑制剤によって増殖が抑制される細菌、即ち、増殖抑制の対象になる細菌のことを本明細書中では「標的細菌」と呼ぶ。標的細菌はヘム獲得系を有し、鉄欠乏状態でヘム獲得蛋白質を分泌する。標的細菌を例示すると、緑膿菌、セラチア菌、蛍光菌、ペスト菌である。類似のヘム獲得システムをもつ黄色ブドウ球菌、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、エルシニア属細菌(Yersinia pestis(ペスト菌)、Yersinia pseudotuberculosis、Yersinia enterocolitica等)、プロビデンシア属細菌(下痢(食中毒)の原因菌と推定されているProvidencia rustigianii等)、アクロモバクター属細菌(免疫不全患者を侵す新興のグラム陰性菌であるAchromobacter xylosoxidans等)、歯周病原性細菌(Porphyromonas gingivalis)、及びインフルエンザ菌(Haemophilus influenza)等への適用も想定される。本発明では標的細菌に対応するように、複合体を構成するHasAが選択される。例えば、標的細菌が緑膿菌の場合には緑膿菌のHasAを採用する。
フタロシアニンはπ電子が平面的に共役した環状構造を有する。フタロシアニンは特徴的な吸収を示し、Q帯と呼ばれる可視光領域の吸収帯をもつ。非消光性フタロシアニンとは、蛍光もしくはりん光発光能を有するフタロシアニンもしくは金属フタロシアニンである。金属フタロシアニンでは、中心金属とその価数によって発光特性は異なる。非消光性フタロシアニンに対して、Q帯を励起可能な光(Q帯励起光)を照射すると、励起三重項状態から酸素へのエネルギー移動により一重項酸素が生成する。ある種の金属イオンと錯体を形成したフタロシアニン(例えば、鉄フタロシアニンやコバルトフタロシアニン)では、励起によって生じたエネルギーが無輻射失活により失活するために、一重項酸素が生成しない。このような金属フタロシアニンは非消光性フタロシアニンに該当しない。
非消光性フタロシアニンの例(金属フタロシアニンと無金属フタロシアニン)を以下に示す。化学式1で表される化合物は、中心金属イオンがガリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン、ベリリウムイオン、ホウ素イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ケイ素イオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、スカンジウムイオン、チタンイオン、銅イオン、ゲルマニウムイオン、ジルコニウムイオン、インジウムイオン、パラジウムイオン、ロジウムイオン、プラチナイオン、イリジウムイオン又はバナジウムイオンの金属フタロシアニン化合物である。一方、化学式2で表される化合物は中心金属イオンを有しない無金属フタロシアニンである。
Figure 2015182982
但し、式中のR1〜R16は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ホウ素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Mはガリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン、ベリリウムイオン、ホウ素イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ケイ素イオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、スカンジウムイオン、チタンイオン、銅イオン、ゲルマニウムイオン、ジルコニウムイオン、インジウムイオン、パラジウムイオン、ロジウムイオン、プラチナイオン、イリジウムイオン又はバナジウムイオンである。
Figure 2015182982
但し、式中のR1〜R16は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ホウ素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。
「ハロゲン原子」は例えばフッ素原子、塩素原子又は臭素原子である。「置換基を有していても良い炭化水素基」の「炭化水素基」としては、例えばC1〜C6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基などが挙げられる。本発明において「C1〜C6アルキル基」とは、炭素数1乃至6個の直鎖、分枝鎖または環状アルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基を挙げることができる。好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基またはtert−ブチル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基である。また、アミド結合、エステル結合、エーテル結合などを介して結合されていてもよい。
本発明者らの研究によって(非特許文献1)、HasAとフタロシアニンが複合体を形成する際、HasAのループ状部分が上下からフタロシアニンを挟み込み、フタロシアニンを構成する4箇所のフタル酸イミド部分の内、1箇所がHasAと対合するという、特徴的な結合様式を示すことが明らかとなった。この事実に鑑み、化学式1又は2で表される非消光性フタロシアニンにおいて4箇所あるフタル酸イミド部分の内、HasAと対合する1箇所については、嵩高い置換基でないこと、及び、平面性を維持していることが望まれる。そこで、好ましい一態様では、R13〜16が水素原子である(R1〜R12については上記の定義に従う)化合物が非消光性フタロシアニンとして採用される。
特に好ましい一態様では、非消光性フタロシアニンとしてガリウムフタロシアニンを用いる。中心金属イオンがガリウムイオンの当該化合物は、HasAと安定な複合体を形成できるために安定性に優れる、長期にわたって効果を発揮することが可能である等の点で有利である。
本発明の複合体は例えば以下の方法で調製することができる。まず、HasAと非消光性フタロシアニンを用意する。HasAとして組換え蛋白質又は天然蛋白質を用いることができる。前者は、HasA蛋白質をコードする遺伝子を適当な宿主(例えば大腸菌)で発現させた後、発現産物(目的蛋白質)を回収することによって調製できる。回収した蛋白質は必要に応じて精製される。精製には、例えば、硫安沈殿等の塩析、透析、各種クロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなど)を用いることができる。このように組換え蛋白質としてHasAを得ることにすれば種々の修飾(例えば、ペプチドの付加)が可能である。後者(天然蛋白質)については、標的細菌が分泌した蛋白質を回収すればよい。例えば、HasAを分泌する条件下(培養液中に鉄を含まない、又は鉄含量の少ない条件)で標的細菌を培養した後、培養液から標準的な手法によってHasAを回収する。この場合においても、必要に応じて精製を行う。
非消光性フタロシアニンは市販品を用いることができる。また、ワイラー法、フタロニトリル法、リチウム法などの既報の方法によって又は既報の方法に準じて、新たに合成したものを使用することにしてもよい。フタロシアニン化合物の合成法については例えば「The porphyrin handbook: phthalocyanines: synthesis, KM Kadish, KM Smith, R Guilard -2003-」が参考になる。
次に、用意したHasAを0.2%(w/v)のHClを含む冷アセトンに添加してヘムを除去する。遠心分離によって沈殿物を回収し、尿素液(例えば7M。pH7.5)に溶解する。得られた溶液をPBSで透析する。その後、限外ろ過などによって濃縮する。必要に応じて、ゲル濾過カラムなどを利用して更に精製する。
得られたアポHasA溶液にDMSOを混合した後(DMSOの含有量25〜50%)、非消光性フタロシアニンのDMSO溶液(リガンドとしてのイミダゾールを含有する)を添加する。4℃で1時間インキュベートした後、PBS又は20mM Tris-HClで透析し、DMSOを除去する。非特異的結合成分を除去するため、陰イオンカラムで処理する。処理後のサンプルを限外ろ過などで濃縮する。必要に応じて、ゲル濾過カラムなどを利用して更に精製する。以上の操作によって、HasAと非消光性フタロシアニンの複合体が得られる。複合体の濃度は、ビシンコニン酸法(BCA法)等によって測定することができる。
本発明の別の態様では、非消光性フタロシアニンに代えて、(1)サブフタロシアニン、(2)金属ナフタロシアニン、(3)無金属ナフタロシアニン又は(4)特定の原子をベンゼン環に含むフタロシアニンを用いて、標的細菌の増殖抑制に有用な複合体を構成する。以下、各化合物の構造を示す。
(1)サブフタロシアニン
Figure 2015182982
但し、式中のR1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ホウ素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、りん原子、ケイ素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Bはホウ素イオンである。
(2)金属ナフタロシアニン
Figure 2015182982
但し、式中のR1〜R24は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ホウ素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、りん原子、ケイ素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Mはガリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン、ベリリウムイオン、ホウ素イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ケイ素イオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、スカンジウムイオン、チタンイオン、銅イオン、ゲルマニウムイオン、ジルコニウムイオン、インジウムイオン、パラジウムイオン、ロジウムイオン、プラチナイオン、イリジウムイオン又はバナジウムイオンである。
(3)無金属ナフタロシアニン
Figure 2015182982
但し、式中のR1〜R24は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ホウ素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。
(4)特定の原子をベンゼン環に含むフタロシアニン
Figure 2015182982
但し、式中のR1〜R16は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ホウ素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Mはガリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン、ベリリウムイオン、ホウ素イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ケイ素イオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、スカンジウムイオン、チタンイオン、銅イオン、ゲルマニウムイオン、ジルコニウムイオン、インジウムイオン、パラジウムイオン、ロジウムイオン、プラチナイオン、イリジウムイオン又はバナジウムイオンであり、Xはホウ素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子又はケイ素原子である。
上記一般式(化6)で表される化合物の具体例(ピリドポルフィラジン、ピラドポルフィラジン)を以下に示す。
ピリドポルフィラジン
Figure 2015182982
Mはガリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン、ベリリウムイオン、ホウ素イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ケイ素イオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、スカンジウムイオン、チタンイオン、銅イオン、ゲルマニウムイオン、ジルコニウムイオン、インジウムイオン、パラジウムイオン、ロジウムイオン、プラチナイオン、イリジウムイオン又はバナジウムイオンである。
ピラドポルフィラジン
Figure 2015182982
Mはガリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン、ベリリウムイオン、ホウ素イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ケイ素イオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、スカンジウムイオン、チタンイオン、銅イオン、ゲルマニウムイオン、ジルコニウムイオン、インジウムイオン、パラジウムイオン、ロジウムイオン、プラチナイオン、イリジウムイオン又はバナジウムイオンである。
2.細菌増殖抑制剤及びその利用
本発明の複合体の典型的な用途は、標的細菌の増殖抑制である。そこで本発明の第2の局面は、本発明の複合体を有効成分とする細菌増殖抑制剤及びその利用に関する。本発明の細菌増殖抑制剤は、例えば、床や流し、医療機器ないし器具(例えば、コンタクトレンズ、カテーテル、人工呼吸器、ネブライザー、吸痰チューブ、花瓶、加湿器のタンク)、家具(机、テーブル、収納庫など)、調理器具、食器、OA機器、喀痰、排泄物、吐瀉物など、標的細菌の付着、定着、混入、生育及び/又は増殖等のおそれがある場所や物の消毒(洗浄)に用いることができる。また、蓄尿、花瓶、水槽などに添加することにより、標的細菌の増殖ないし繁殖を防止することもできる。更には、コンタクトレンズ(視力補正用コンタクトレンズ、治療法コンタクトレンズ、検査用コンタクトレンズ)の洗浄や保存、手/指先の消毒(洗浄)にも本発明の細菌増殖抑制剤を用いることができる。以上のように、細菌増殖抑制剤は、消毒剤、洗浄剤、保存剤等に利用可能である。
本発明の細菌増殖剤を使用するにあたっては、例えば、対象物への滴下、塗布、噴霧等、或いは対象物の浸漬などの方法で細菌増殖抑制剤(予め消毒剤、洗浄剤、保存剤などの形態にしておいてもよい)を適用し、対象物に細菌増殖抑制剤が接触・作用する状態を形成させる。これによって、有効成分である複合体(ヘム獲得蛋白質−非消光性フタロシアニン複合体)が標的細菌に捕捉される。その後、本発明に特有の作用効果を発揮させるために、有効成分を構成する非消光性フタロシアニンのQ帯励起光を照射する。「Q帯励起光」として例えば、波長領域450nm〜850nmにピーク波長を有する光を採用することができる。光照射に利用する光源は特に限定されない。例えば、レーザー(半導体レーザー(レーザーダイオード)、固体レーザー等)、LED(発光ダイオード)、冷陰極管、キセノンランプ等を用いることができる。太陽光を利用することも可能である。
光照射時間は特に限定されないが、細菌増殖抑制作用が十分に発揮されるように、例えば、10分〜10時間、光を照射する。レーザー光であれば、10分以内の光照射でも細菌の増殖抑制と殺菌効果が期待できる。太陽光や照明などの場合には連続的な光照射ではなく、断続的又は間欠的に光を照射することにしてもよい。
本発明の細菌増殖抑制剤を医薬の成分として用いることもできる。即ち、本発明は細菌増殖抑制剤を含有する医薬も提供する。本発明の医薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
製剤化する場合の剤形も特に限定されない。剤形の例は錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、吸入剤、点鼻剤、点眼剤及び座剤である。本発明の医薬には、期待される治療効果(又は予防効果)を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の医薬中の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.001重量%〜約95重量%の範囲内で設定する。
本発明の医薬はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内又は腹腔内注射、点眼、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる。好ましくは、局所投与が採用される。
上記の如き投与によって、本発明の医薬の有効成分(細菌増殖抑制剤)を標的細菌の感染組織又は臓器に送達した後、本発明に特有の効果を発揮させるために、有効成分を構成する非消光性フタロシアニンのQ帯励起光を感染組織又は臓器に照射する。使用可能な光源や光照射時間は、前述の通りであるため、その説明を省略する。
本発明の医薬の適用例として、眼科領域の緑膿菌感染症の治療が想定される。具体的には、例えば、コンタクトレンズの不適切な装用による角膜の緑膿菌感染症の治療に本発明の医薬を適用し得る。この適用例の場合、本発明の医薬は例えば点眼薬として提供される。
発症率が極めて高く(白人の乳児の2〜3千人に1人)、呼吸困難や細菌感染症により成人に達するまでに多くの患者が亡くなる常染色体劣勢遺伝の「嚢胞性線維症」では、緑膿菌の呼吸器感染治療が特に重要となっている。本発明の医薬はこのような症例にも適用可能であり、呼吸器に感染した多剤耐性緑膿菌を高選択的に、そして感染した生体組織へのダメージを最小限にとどめながら治療効果を発揮させることができる。
本発明の細菌増殖抑制剤は細胞培養又は組織培養の分野においても有用である。本発明の細菌増殖抑制剤の存在下で培養を実施することにより、培養中の標的細菌の混入や増殖(即ち細菌汚染)を防止することができる。従って、本発明を適用すれば高品質の細胞、組織を調製することが可能になる。様々な動物種(例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター)の各種細胞、各種組織の培養に本発明を適用可能である。細胞の例を挙げれば心筋細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、骨細胞、軟骨細胞、破骨細胞、実質細胞、表皮角化細胞(ケラチノサイト)、上皮細胞(皮膚表皮細胞、角膜上皮細胞、結膜上皮細胞、口腔粘膜上皮、毛包上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、腸管粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(角膜内皮細胞、血管内皮細胞など)、神経細胞、シュワン細胞、グリア細胞、脾細胞、膵臓β細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、肝細胞、これらの前駆細胞又は幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞(MSC)、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)である。また、継代細胞、特定の細胞系譜へと分化誘導された細胞、株化細胞(例えば、HeLa細胞、CHO細胞、Vero細胞、HEK293細胞、HepG2細胞、COS-7細胞、NIH3T3細胞、Sf9細胞)の培養にも適用可能である。更には、植物細胞の培養にも本発明を適用可能である。組織の例を挙げれば、上皮組織(例えば)、内皮組織、粘膜組織、骨組織、軟骨組織である。
本発明の細菌増殖抑制剤を利用した培養方法では、細菌増殖抑制剤を添加した培養液で細胞又は組織を培養する。細菌増殖抑制剤の最適な添加濃度は、細胞又は組織への影響を考慮しつつ、予備実験を通して決定すればよい。その他の培養条件は常法に従えばよい。
<「HasA−ガリウムフタロシアニン」による、選択的な緑濃菌の殺菌>
緑濃菌を選択的に殺菌し得る新規な方法を開発すべく、フタロシアニンの特性に注目して以下の実験を行った。
1.ガリウムフタロシアニンを捕捉したヘム鉄獲得蛋白質(HasA)の調製
(1)HasAの調製
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)PAO1株のHasAはC末端の21アミノ酸が欠損した状態で分泌される。そこで、本実験においても欠損型の(truncated)HasAを用いることにした。既報の方法(非特許文献1)に従い、当該欠損型のHasA(アミノ酸配列を配列番号5に示す)を調製した。概要を説明すると、全長HasA(配列番号1)をコードする遺伝子をPCRで合成し、クローニングベクターに挿入した。ベクターに保持された全長遺伝子(配列番号6)から欠損型HasAをコードする領域を切り出し、サブクローニングした。得られた組換えプラスミドで大腸菌M15[pREP4](QIAGEN)を形質転換した。形質転換後の大腸菌をLB培地で培養し、IPTGを添加して発現を誘導した。引き続き培養した後、集菌し、-80℃で保存した。次に、菌体をHバッファー(20mM リン酸ナトリウム, 15mM 2-メルカプトエタノール, 20mM イミダゾール, 0.5M NaCl, pH7.4))に懸濁した後、超音波処理により菌体を破砕した。遠心分離後の上清をNiアフィニティーカラムで精製した。Hisタグを除去するためにトロンビンで処理した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で透析した。再度、Niアフィニティーカラムでの精製及び透析を行った。最終的に得られたサンプルを液体窒素で凍結し、使用直前まで-80℃で保存した。
(2)アポHasAの調製(ヘム鉄の除去)
ガラス製ビーカーに0.2 (w/v)塩酸アセトン溶液15mLとスターラーバーを入れ、穏やかに撹拌しながらHasAのPBS溶液(140 mM NaCl, 2.7 mM KCl, 10 mM Na2HPO4, 1.8 mM KH2PO4, pH 7.3)をパスツールピペットを使って一滴ずつ滴下するとアポHasA沈殿が生成する。遠心分離(5000rpm 10分間後)により、アポHasAを底に集め、上澄みを丁寧に取り除いた。7Mの尿素溶液(トリス塩酸緩衝溶液pH7.5)15mLを沈殿に加え、HasAを溶解させ、溶液を透析膜に移してPBSで透析した。透析後、不溶蛋白をフィルターで除去した。アポHasAの濃度は、可視紫外光吸収スペクトル測定により算出した(アポHasAの280nmのモル吸光係数:28.6mM-1cm-1)。
(3)ガリウムフタロシアニン捕捉HasA(Ga-Pc HasA)の調製
アポHasAのPBS溶液10mLに、5等量のガリウムフタロシアニン(図2)のジメチルスルホキシド溶液10mLを撹拌下に滴下し、4℃で1時間撹拌した(ジメチルスルホキシドの最終濃度は50%)。透析によりジメチルスルホキシドを除き、不溶蛋白質をフィルターで除去した。ゲル濾過カラムPD10とSephacryl S-200 HR(GEヘルスケア社)にて精製した。ガリウムフタロシアニン捕捉HasAの濃度は、ビシンコニン酸法(BCA法)により算出した。
2.光照射実験(図1)
緑膿菌PAO1株(独立行政法人 理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室より入手)の単一コロニーを3mLのM9培地をベースとする最小培地で24時間37℃、180rpmで培養し、この菌体溶液10μLを、40mMのEDTAを鉄イオン捕捉剤として加えた同じM9培地をベースとする最小培地(1.2% (w/v) Na2HPO4・12H2O, 0.6% (w/v) KH2PO4, 0.1% (w/v) NaCl, 0.2% (w/v) NH4Cl, 0.2% (w/v) カザミノ酸, 22 mM ブドウ糖, 0.0002% (w/v) ビタミンB1)で培養した。終濃度が1.0μMとなるようにガリウムフタロシアニンHasA溶液を添加して、ハロゲンランプの590nm以下の光をカットオフフィルターでカットした可視光を2時間30分照射した。光照射後の菌体溶液をLB培地(1% トリプトン、0.5% 酵母エキス、1% 塩化ナトリウム)プレートにプレーティングして12時間37℃でインキュベートし、形成されたコロニー数を光照射有と無で比較した。光照射をしなかったサンプルでは、100個以上のコロニーが観測されたのに対して、光照射を行った場合には、コロニーが観測されず、緑膿菌が増殖能力を失っていた(図3)。
3.まとめ
鉄欠乏状態で培養した緑膿菌の培養液に、非消光性のガリウムフタロシアニンとHasAの複合体を添加し、可視光を照射することによって、緑膿菌を殺菌できた。ガリウムフタロシアニンが可視光照射により励起され、励起三重項状態から溶存酸素へのエネルギー移動によって一重項酸素を生成し、細菌を死に陥らせたと考えられる。ヘム等のポルフィリン誘導体とは対照的に、フタロシアニンは生体由来組織への影響が最も少ない650nm〜700nmに非常に強い吸収を持つ。従って、理想的な光増感剤であり、肺がん、食道がん、子宮頸がんを治療する光線力学療法における第二世代の光増感剤としてその利用が検討されている。以上の実験結果は、緑膿菌の増殖抑制ないし殺菌という、フタロシアニンの新たな用途を示すものである。可視光照射しない場合には、「HasA−ガリウムフタロシアニン」による緑濃菌の生育阻害は観測されたが、殺菌には至らなかった。また、ヘム獲得システムを持たない大腸菌は殺菌されず生育阻害も観測されなかったことから、緑濃菌のヘム獲得システム選択的な殺菌機構と考えられる。さらに、低濃度(1μM)の「HasA−ガリウムフタロシアニン」で光殺菌が進行していることから、可視光照射によってHasRの存在する菌体外膜周辺に致命的な損傷を与えていると考えられる。
本発明はヘム獲得システムを巧みに利用して標的細菌の増殖を効果的に抑制する(殺菌も可能である)。ヘム獲得システムを有する緑膿菌、セラチア菌、蛍光菌、ペスト菌等の増殖抑制又は殺菌の手段として本発明を利用し得る。また、類似のヘム獲得システムを持つ黄色ブドウ球菌に対しても本発明を適用可能である。病原性細菌の増殖抑制又は殺菌には通常、抗生物質が用いられるが、薬剤耐性菌の出現が問題となる。本発明は抗生物質とは全く異なる機序で作用するものであり、薬剤耐性菌の出現という課題を克服し得る。また、高い選択性を示す本発明によれば、標的細菌選択的に増殖を抑制できる。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

Claims (10)

  1. 標的細菌が鉄欠乏状態で分泌するヘム獲得蛋白質と、非消光性フタロシアニンとの複合体。
  2. 前記標的細菌が緑膿菌、セラチア菌、蛍光菌、ペスト菌、黄色ブドウ球菌、結核菌、エルシニア属細菌、プロビデンシア属細菌、アクロモバクター属細菌、歯周病原性細菌、及びインフルエンザ菌からなる群より選択される、ヘム獲得系を持つ細菌である、請求項1に記載の複合体。
  3. 前記標的細菌が緑膿菌であり、前記ヘム獲得蛋白質が緑膿菌のHasA蛋白質である、請求項1又は2に記載の複合体。
  4. 前記非消光性フタロシアニンが以下のいずれかの化学式で表される、請求項1又は2に記載の複合体、
    Figure 2015182982
    但し、式中のR1〜R16は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ホウ素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、りん原子、ケイ素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Mはガリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン、ベリリウムイオン、ホウ素イオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ケイ素イオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、スカンジウムイオン、チタンイオン、銅イオン、ゲルマニウムイオン、ジルコニウムイオン、インジウムイオン、パラジウムイオン、ロジウムイオン、プラチナイオン、イリジウムイオン又はバナジウムイオンである;
    Figure 2015182982
    但し、式中のR1〜R16は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ホウ素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、りん原子、ケイ素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合体を有効成分とする細菌増殖抑制剤。
  6. 請求項5に記載の細菌増殖抑制剤を含有する医薬。
  7. 点眼薬である、請求項6に記載の医薬。
  8. 請求項5に記載の細菌増殖抑制剤を含有する、消毒、洗浄又は保存剤。
  9. 請求項5に記載の細菌増殖抑制剤を標的細菌の感染組織又は臓器に送達した後、前記非消光性フタロシアニンのQ帯励起光を該感染組織又は臓器に照射するステップを含む、細菌の増殖抑制方法。
  10. 請求項5に記載の細菌増殖抑制剤を添加した培養液で細胞又は組織を培養することを特徴とする、細胞又は組織の培養方法。
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