本発明は、冷却水系、ボイラ水系、紙パルプ製造工程水系、地熱発電水系、逆浸透膜装置等の水中にシリカを含む水系におけるシリカ系スケールの析出を抑制できるスケール抑制剤に関する。更に詳しくは、これらの水系において、アルミニウムイオンや鉄イオンや亜鉛イオン等の金属イオンが共存しても十分なシリカ系スケールの析出を抑制できるスケール抑制剤に関する。
冷却水系、ボイラ水系、紙パルプ製造工程水系、地熱発電水系、逆浸透膜装置などにおける水と接触する伝熱面、各種機器類、配管等には、スケール障害が発生し易い。特に、開放循環式冷却水系では、省資源、省エネルギーの観点から、冷却水の廃棄量(ブロー量)を制限して高濃縮運転を行う場合があり、水中に溶解している塩類が濃縮されて難溶性の塩を形成しスケール化し易くなっている。
スケールは、熱交換器や配管や水と接触する各種機器における熱効率の低下、閉塞など装置の運転に重大な障害を引き起こすことから、その対策が重要視されている。水系で生成するスケール種としては、例えば炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。これらの一般的なスケールに対しては、アクリル酸やマレイン酸系の水溶性ポリマーやヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸等の有機ホスホン酸等を水系に添加することにより、問題を解決することが可能であり、これらのスケール抑制剤が広く一般的に使用されている。しかしながら、近年の冷却水の高濃縮化に伴って問題となってきたのがシリカ系スケールである。シリカ系スケールは、その性質上一旦生成するとその洗浄除去が非常に困難であるため、スケールの生成を事前に抑えることが重要である。
また、紙パルプ製造工程における古紙脱墨パルプ製造工程では、漂白に使われる過酸化水素の安定化剤として含まれるケイ酸ナトリウムなどが工程水に溶出したり、原料パルプ等からシリカが溶出し、pHが8〜10とアルカリ性となると、各種のケイ酸塩スケールが形成しやすくなる。このため、古紙脱墨パルプ製造工程内の配管、洗浄・脱水装置、スクリーン等の各所にこれらのスケールが沈着・付着し、配管の閉塞、洗浄不良及び脱水不良等の弊害が生じている。
シリカ系スケールには、無定形シリカとケイ酸塩スケールが含まれるが、ここで無定形シリカとはシリカ単独でその溶解度を超えたときに析出する非晶質のシリカスケールである。またケイ酸塩スケールとは、水中に含まれるシリカがカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオン等の金属イオンと結合し、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸鉄等の難溶性ケイ酸塩スケールとなり、場合によってはさらにこれらケイ酸塩類と無定形シリカ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等の難溶性無機化合物との複合物となり、金属表面等に付着したスケール状物をいう。
一般的にシリカは溶解度が低く、水中のシリカ濃度が数10mg/L程度でもスケール化する性質を持っており、濃縮度の上限を設定して水中のシリカ濃度を低く抑えているのが現状である。
一方、水中の濁度成分を除去するためにポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等のアルミニウム化合物を添加する方法が一般的に行われており、水中に少量のアルミニウムが残留することがある。一般に無定形シリカは温度が低いほど析出し易いが、水中に少量のアルミニウムが共存すると低温から高温までの広範な温度域においてアルミニウムを含有した無定形シリカスケールやケイ酸アルミニウムスケールが析出するようになる。
また、アルカリの添加や濃縮度の上昇により水系のpHを上昇させると、無定形シリカの溶解度は増加するが、アルカリ添加によるpH上昇はケイ酸塩スケールや他のスケールの析出傾向を助長する。例えば、冷却水系ではpH8以上で解離したケイ酸イオンがマグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄等のカチオンと反応してケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸鉄等のケイ酸塩のスケールを形成する。水温が高い場合や伝熱表面の温度が高い場合は、水中のシリカ濃度が数10mg/L程度の低濃度であっても、ケイ酸塩スケールは生成する。
このようなシリカ系スケールの生成、析出に対して、濃縮度の上限を設定して水中のシリカ濃度を低く抑える対応以外に、スケール抑制剤としてのいくつかの提案が知られているが、どのスケール抑制剤も効果が十分ではなかった。例えば、アクリルアミド系スケール抑制剤(特許文献1)は、シリカ濃度が低い場合にはある程度の効果を示すが、シリカ濃度が150mg/Lを超えるようなシリカ濃度が高い水系に対しては効果が十分でない。また、4級アンモニウム塩を使用する方法(特許文献2)、ポリエチレンイミン系化合物を使用する方法(特許文献3)は、水質条件によっては共存イオンの影響を受けて抑制剤自身が配管や熱交の壁面に析出、沈着する傾向があり、実用上問題がある。分子量1000〜100000のポリエチレングリコールとホスホン酸および/または分子量100000以下のカルボン酸ポリマーを含有するスケール抑制剤(特許文献4)は、アルミニウムイオンや鉄イオンや亜鉛イオンを含む水系において十分なスケール抑制効果を示さなかった。
特許第1851103号公報
特開昭57−110398号公報
特許第2974378号公報
特開平2−31894号公報
本発明の課題は、冷却水系、ボイラ水系、紙パルプ製造工程水系、地熱発電水系、逆浸透膜装置等の水中にシリカを含む水系において、シリカ系スケールの析出を抑制できるスケール抑制剤を提供することである。さらには、これらの水系において、アルミニウムイオンや鉄イオンや亜鉛イオン等の金属イオンが共存してもシリカ系スケールの析出を十分に抑制できるスケール抑制剤を提供することである。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、水中にアルミニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン等を含んでいても、特定の多価アルコール及び/又は多価フェノールの誘導体や脂肪酸モノアミドから選択される1種又は2種以上を、対象とする水系に添加することでシリカ系スケールの析出を抑制できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、請求項1に係る発明は、(A)エチレングリコール以外の多価アルコール及び/又は多価フェノールのエチレンオキシド付加物、(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテル、(C)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの加水分解物、(D)多価アルコール及び/又は多価フェノールとポリグリシジルエーテルの付加反応物、及び(E)脂肪酸モノアミドから選択される化合物の1種又は2種以上を有効成分として含有することを特徴とする、水系におけるシリカ系スケール抑制剤である。
請求項2に係る発明は、前記の、(A)エチレングリコール以外の多価アルコール及び/又は多価フェノールのエチレンオキシド付加物における分子中のOH比が10%以上であることを特徴とする請求項1記載のシリカ系スケール抑制剤である
請求項3に係る発明は、前記の、(E)脂肪酸モノアミドが、一般式(1)で示される化合物である請求項1記載のシリカ系スケール抑制剤である。
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜22のアルキル基又はアルケニル基、炭素数1〜22のヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルケニル基から選択されるか、あるいはR1とR2が一緒になって環状アミドの構成単位となり、R3は炭素数8〜22の飽和又は不飽和の脂肪酸残基である。)
本発明のシリカ系スケール抑制剤を対象水系に適用することによって、シリカスケールの析出を促進するアルミニウムイオン等の金属イオンが存在していても、長期間にわたって高いシリカ系スケール析出抑制効果を維持することができ、熱交換器やボイラの伝熱効率の低下、配管の閉塞などの問題を防ぐことが可能である。
本発明におけるシリカ系スケールは、一般に水中のシリカが単独で無定形シリカとして析出する一般的なシリカスケールと、水中のシリカと多価金属イオンが反応して多価金属のケイ酸塩として析出するケイ酸塩スケールを含む。ここでケイ酸塩とは、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸鉄、ケイ酸亜鉛など、あらゆる種類の多価金属のケイ酸塩を含む。
本発明で使用される(A)エチレングリコール以外の多価アルコール及び/又は多価フェノールのエチレンオキシド付加物は、例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(=ネオペンチルグリコール)、2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、シクロヘキサン−1,4―ジメタノール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、p−キシレングリコール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ジペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ショ糖、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(=ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールC)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(=ビスフェノールB)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(=ビスフェノールZ)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(=ビスフェノールAP)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(=ビスフェノールS)、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、1,1,2,2−テトラキシ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等の単独、もしくは、これらの混合物のエチレンオキシド付加物が挙げられる。ここで、スケール抑制効果に影響を及ぼさない範囲で、エチレンオキシドの一部をプロピレンオキシドに代替しても良い。
本発明で使用される(A)エチレングリコール以外の多価アルコール及び/又は多価フェノールのエチレンオキシド付加物は、一般に市販されているものがそのまま使用できる。例えば、グリセリンのエチレンオキシド付加物は日油(株)よりユニオックスG−450やG−750なる商品名で、トリメチロールプロパンのエチレンオキシド付加物は日本乳化剤(株)よりTMP−30やTMP−60なる商品名で、ペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物は日本乳化剤(株)よりPNT−40なる商品名で、ネオペンチルグリコールのエチレンオキシド付加物は四日市合成(株)よりNGE−04なる商品名で、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物は、日油(株)よりユニオールDA−400あるいはDA−700なる商品名でそれぞれ市販されている。
本発明で使用される(A)エチレングリコール以外の多価アルコール及び/又は多価フェノールのエチレンオキシド付加物におけるエチレンオキシド(EO)の付加モル数は通常1〜30の範囲であるが、好ましくは2〜20の範囲である。
本発明で使用される(A)エチレングリコール以外の多価アルコール及び/又は多価フェノールのエチレンオキシド付加物における分子中のOH比は、10%以上であることが好ましい。分子中のOH比がこの範囲を外れると十分なスケール抑制効果を示さない場合がある。
ここで、分子中のOH比は、次式で計算される。
分子中のOH比(%)={(分子中OH基の数)×17/(分子量)}×100
本発明で使用される(A)エチレングリコール以外の多価アルコール及び/又は多価フェノールにおいて、十分なスケール抑制効果を得るためには分子中に炭素数が大きい疎水基を有さない方が好ましく、具体的には疎水基の炭素数は10以下であることが好ましい。
本発明で使用される(A)エチレングリコール以外の多価アルコール及び/又は多価フェノールのエチレンオキシド付加物のより好ましい例は、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ソルビタン等の3個以上の水酸基を有する多価アルコールのエチレンオキシド付加物から選択され、かつ、分子中のOH比が10%以上の化合物である。
本発明で使用される(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルは、例えば、多価アルコール及び/又は多価フェノールとエピハロヒドリンの反応により得られる化合物であり、その製造方法は、例えば、特開昭61−178974号公報等に開示されている。ここで用いられる多価アルコール及び/又は多価フェノールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(=ネオペンチルグリコール)、2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、シクロヘキサン−1,4―ジメタノール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、p−キシレングリコール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ジペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ショ糖、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(=ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールC)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(=ビスフェノールB)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(=ビスフェノールZ)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(=ビスフェノールAP)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(=ビスフェノールS)、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、1,1,2,2−テトラキシ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等の単独、もしくは、これらの混合物が挙げられ、あるいは、それらのエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキサイドの付加物であってもよい。また、ここで用いられるエピハロヒドリンは、例えば、エピブロモヒドリン、エピクロロヒドリン、エピヨードヒドリン、β−メチルエピブロモヒドリン、β−メチルエピクロロヒドリン等から選ばれる。
本発明で使用される(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルは、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等が挙げられる。
本発明で使用される(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの好ましい例は、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルである。
本発明で使用される(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルは、一般に市販されているものがそのまま使用できる。例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテルはナガセケミテックス(株)よりデナコールEX−810(エポキシ当量113)あるいはEX−811(エポキシ当量132)なる商品名で、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルはナガセケミテックス(株)よりデナコールEX−850(エポキシ当量122)あるいはEX−851(エポキシ当量150)なる商品名で、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルはナガセケミテックス(株)よりデナコールEX−821(エポキシ当量185)、デナコールEX−830(エポキシ当量268)、デナコールEX−832(エポキシ当量284)、デナコールEX−841(エポキシ当量372)、デナコールEX−861(エポキシ当量551)なる商品名でそれぞれ市販されている。
本発明で使用される(C)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの加水分解物は、多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルに水とアルカリを加えて加熱することにより得ることができる。ここで用いられる多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルとして、前記の(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルとして挙げた化合物を用いることができる。
本発明で使用される(C)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの加水分解物の好ましい例は、エチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物である。
本発明で使用される(D)多価アルコール及び/又は多価フェノールとポリグリシジルエーテルの付加反応物で用いられる多価アルコール及び/又は多価フェノールとして、前記の(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの調製に用いられる多価アルコール及び/又は多価フェノールとして挙げた化合物、あるいは、それらの化合物のエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドの付加物を用いることができ、また、用いられるポリグリシジルエーテルとして、前記の(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルとして挙げた化合物が使用できるが、フタル酸ジグリシジルエーテル等の多塩基酸のポリグリシジルエーテルであってもよい。
本発明で使用される(D)多価アルコール及び/又は多価フェノールとポリグリシジルエーテルの付加反応物は、例えば、多価アルコール及び/又は多価フェノールとポリグリシジルエーテルを加え、酸触媒の存在下で30〜200℃に加熱することにより得ることができる。酸触媒としては、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル、ホウフッ化亜鉛、ホウフッ化カリウム、ホウフッ化スズ、塩化アルミニウム、塩化スズ等のルイス酸触媒等が挙げられる。
本発明で使用される(D)多価アルコール及び/又は多価フェノールとポリグリシジルエーテルの付加反応物を調製するための多価アルコール及び/又は多価フェノールとポリグリシジルエーテルの好ましい反応比率は、1モルの多価アルコール及び/又は多価フェノールに対してポリグリシジルエーテルが0.5〜2エポキシ当量の範囲である。この反応比率を外れると十分なスケール抑止性能を得られない場合があり、また、反応生成物がゲル化する場合もあるため好ましくない。
本発明で使用される(D)多価アルコール及び/又は多価フェノールとポリグリシジルエーテルの付加反応物の好ましい例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールエタン、及びトリメチロールプロパンから選択される1種以上とエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上との付加反応物である。
本発明で使用される(E)脂肪酸モノアミドは、脂肪族炭化水素鎖基と1個のカルボン酸基から構成される脂肪酸の1ないし3級アミドであり、脂肪酸は直鎖状または分枝鎖状であってもよく、飽和または不飽和であってもよく、環状アミドであることもできる。
本発明で使用される(E)脂肪酸モノアミドのより好ましい例は、下記の一般式(1)で示される化合物である。
(ここでR1およびR2は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜22のアルキル基又はアルケニル基、炭素数1〜22のヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルケニル基から選択されるか、あるいはR1とR2が一緒になって環状アミドの構成単位となり、R3は炭素数8〜22の飽和又は不飽和の脂肪酸残基である。)
本発明で使用される(E)脂肪酸モノアミドにおける好ましい脂肪酸残基は、植物油中や動物油中に存在する脂肪酸の置換または無置換残基である。該植物油ならびに動物油は、トール油、パーム油、大豆油、綿実油、ヤシ油、とうもろこし油、落花生油、カノラ油、ベニバナ油、ひまわり油、ババス油、ひまし油、あまに油、オリーブ油、桐油、牛脂、豚脂、魚脂等から選ぶことができる。ここで得られた脂肪酸は、通常は異なる炭素数を有する飽和ないし不飽和脂肪酸の混合物である。
本発明で使用される(E)脂肪酸モノアミドの例として、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、パルミトレイン酸アミド、オレイン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、エルカ酸アミド、ウンデシレン酸アミド、アラキドン酸アミド、バクセン酸アミド及び植物油脂肪酸や動物油脂肪酸等の、飽和ないし不飽和脂肪酸アミド;N−モノメチルオレイン酸アミド、N−モノエチルリノール酸アミド、N−モノイソプロピルステアリン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド及び植物油脂肪酸や動物油脂肪酸等の、飽和ないし不飽和脂肪酸のN−置換アミド;N,N−ジメチルステアリン酸アミド、N,N−ジメチルオレイン酸アミド、N,N−ジメチルリノール酸アミド、N,N−ジメチルリノレン酸アミド、N,N−ジメチルリシノール酸アミド、N,N−ジメチルアラキドン酸アミド、N,N−ジメチルエイコサペンタエン酸アミド、N,N−ジメチルドコサヘキサエン酸アミド、N,N−ジエチルオレイン酸アミド、N,N−ジプロピルオレイン酸アミド、N,N−ジヒドロキシエチルラウリン酸アミド、N,N−オレイン酸エチルラウリン酸アミド、N−メチル−N−ヒドロキシエチルラウリン酸アミド、N−エチル−N−ヒドロキシエチルミリスチン酸アミド、N−エチル−N−ヒドロキシエチルステアリン酸アミド及び植物油脂肪酸や動物油脂肪酸等の、飽和ないし不飽和脂肪酸のN,N−置換アミド;ドデカノイルモルフォリン、N−ステアラミド−3−メチルピペリジン、N−ステアラミドモルフォリン、N−ステアラミド−3,5−ジメチルピペリジン、1−ヘキサデコイルヘキサヒドロ[1H]アゼピン、ヘキサデコイル−3−メチルピペリジン等の、飽和ないし不飽和脂肪酸の環状アミド等が挙げられる。
本発明で使用される(E)脂肪酸モノアミドのより好ましい例は、N,N−ジメチルオレイン酸アミド、N,N−ジメチルリノール酸アミド、N,N−ジメチルリノレン酸アミド、N,N−ジメチルリシノール酸アミド、N,N−ジメチルアラキドン酸アミド、N,N−ジメチルエイコサペンタエン酸アミド、N,N−ジメチルドコサヘキサエン酸アミド、N,N−ジメチルエルカ酸アミド、N,N−ジエチルオレイン酸アミド、N,N−ジプロピルオレイン酸アミド及び植物油脂肪酸や動物油脂肪酸等の、不飽和脂肪酸のN,N−置換アミドである。
本発明で使用される(E)脂肪酸モノアミドは、公知の技術を用いて適当な脂肪酸とアミンとを反応させることによって製造することができる。例えば、トール油脂肪酸ジメチルアミドの場合は、トール油脂肪酸留分(1.0モル)にやや過剰モル量(1.1モル)のジメチルアミンを混合して反応させる。また、脂肪酸がトリグリセリドとして存在する植物油(例:大豆油、パーム油)の場合には、1.0モルの植物油に3.3モルのジメチルアミンを反応させる。該混合物を密閉容器内で、0.7MPaを超えない圧力下で徐々に170℃に加熱して反応を8時間行う。過剰のアミンは反応中に生成した水相中に除去される。トリグリセリドを含む場合は、過剰のアミンは反応後除去されるグリセリン相中に存在する。前記反応によって生成した水は、蒸留して取り出すか、又は生成物配合に組み込むことができる。脂肪酸のジエタノールアミドの合成法は、例えば、ジエタノールアミンと脂肪酸または脂肪酸混合物とを1:1モル比で混合し、次にこの混合物を真空下において還流温度で数時間加熱し、水を除去することにより製造される。
本発明で使用される(E)脂肪酸モノアミドは、市販品をそのまま用いることができる。例えば、ラウリン酸アミドはダイヤミッドY、パルミチン酸アミドはダイヤミッドKP、ステアリン酸アミドはダイヤミッドAP−1、ベヘン酸アミドはダイヤミッドBH、ヒドロキシステアリン酸アミドはダイヤミッドKH、オレイン酸アミドはダイヤミッドO−200、エルカ酸アミドはダイヤミッドL−200という商品名でそれぞれ日本化成(株)より市販されている。牛脂脂肪酸ジエタノールアミドはスタホームT、ラウリン酸ジエタノールアミドはスタホームDL、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミドはスタホームFならびにDF、オレイン酸ジエタノールアミドはスタホームDO、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミドはスタホームMF、ラウリン酸イソプロパノールアミドはスタホームLIPAという商品名でそれぞれ日油(株)より市販されている。また、ヤシ油脂肪酸−N−メチル−N−エタノールアミドは、アミノーンC−11Sという商品名で花王(株)より市販されている。N,N−ジメチルオレイン酸アミドは、日本乳化剤(株)よりテクスノールODM、あるいは日本化成(株)よりニッカアマイドMBO等の商品名でそれぞれ市販されている。トール油脂肪酸のジメチルアミドを含む製品は、バックマンラボラトリーズ(株)よりDMAD、SPI−2400、DMXS、SADA等の商品名でそれぞれ市販されている。
本発明のシリカ系スケール抑制剤は、前記(A)〜(E)に含まれる化合物の1種又は2種以上を有効成分として含有することを特徴とする。
本発明のシリカ系スケール抑制剤の、対象水系における有効成分の合計添加濃度は、対象水系の状況により一定ではないが、通常は0.2〜500mg/Lの範囲であり、好ましくは0.5〜50mg/Lの範囲である。0.2mg/L未満の添加量では、シリカ系スケールの析出抑制効果が十分でない場合があり、500mg/L以上の添加では、添加濃度の増加に見合うだけのシリカ系スケール抑制効果の向上が見込めないため、経済的でなく、更に、対象水系からの排水中のCODが高くなるため好ましくない。
本発明のシリカ系スケール抑制剤では、前記(A)〜(E)に含まれる化合物に加えて更にノニオン界面活性剤を加えることにより、シリカ系スケールの抑制効果を向上させる相乗効果を得ることができる。特に(E)脂肪酸モノアミドとノニオン界面活性剤の併用が好ましい。
前記のノニオン界面活性剤としては、下記一般式(2)で表されるノニオン界面活性剤が好ましい。
(式中、R4は炭素数8〜22、好ましくは10〜18の炭化水素基であり、直鎖であっても分岐鎖であってもよく、炭化水素基としては1級または2級の高級アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミドを原料とするものが挙げられる。−X−は−O−、−COO−、−CONH−等の官能基を表し、EOはエチレンオキシド、POはプロピレンオキサイド、n及びmは平均付加モル数を表し、nは3〜20、好ましくは5〜18、mは0〜6、好ましくは0〜3である。R5は水素原子、又は炭素数1〜6のアルキル基又はアルケニル基から選択され、好ましくは水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基又はアルケニル基である。また、一般式(2)において、−X−が−O−かつmが0かつR5が水素のとき、ノニオン界面活性剤はアルコールエトキシレートであり、この場合において、R4の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基の炭素数は10〜22、好ましくは10〜20、より好ましくは10〜18である。また、一般式(2)において−X−が−COO−のとき、ノニオン界面活性剤は脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤である。この場合において、R4の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基の炭素数は9〜21、好ましくは11〜21である。R4は不飽和結合を有していてもよい。また、この場合において、R5は、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。)一般式(2)で表されるノニオン界面活性剤は、随意に1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
前記ノニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、炭素数12〜13の合成アルコールに対して12〜15モルのエチレンオキシドを付加したもの、天然アルコールに12〜15モルのエチレンオキシドを付加したもの、ヘキサノールをガーベット反応に供して得られるC12アルコール1モルに10モル相当のエチレンオキシドを付加したもの(商品名:ISOFOL12−10EO、CONDEA社製)、ラウリン酸メチルエステルに15モル相当のエチレンオキシドを付加したもの、ブテンを3量化して得られるC12アルケンをオキソ法に供して得られるC13アルコールに7モル相当のエチレンオキシドを付加したもの(商品名:Lutensol TO7、BASF社製)、ペンタノールをガーベット反応に供して得られるC10アルコールに7モル相当のエチレンオキシドを付加したもの(商品名 :Lutensol XL70、BASF社製)、ペンタノールをガーベット反応に供して得られるC10アルコールに6モル相当のエチレンオキシドを付加したもの(商品名 :Lutensol XA60、BASF社製)、炭素数12〜14の第2級アルコールに、9モル相当又は15モル相当のエチレンオキシドを付加したもの(商品名:ソフタノール90又はソフタノール150、(株)日本触媒製)、ヤシ脂肪酸メチル(ラウリン酸/ミリスチン酸=8/2)に対してアルコキシル化触媒を用いて15モル相当のエチレンオキシドを付加したもの、ラウリン酸メチルにアルコキシル化触媒を用いて15モル相当のエチレンオキシドと3モル相当のプロピレンオキシドを付加したもの等が挙げられる。または、ポリオキシエチレン(付加モル数1〜20)ソルビタン脂肪酸(炭素数10〜22)エステル、ポリオキシエチレン(付加モル数1〜20)ソルビット脂肪酸(炭素数10〜22)エステル、ポリオキシエチレン(付加モル数1〜20)グリコール脂肪酸(炭素数10〜22)エステル、グリセリン脂肪酸(炭素数10〜22)エステル、アルキル(炭素数10〜22)グリコシド等が挙げられる。
前記ノニオン界面活性剤の対象水系に対する添加量は、本発明のシリカ系スケール抑制剤に含有される有効成分である、前記(A)〜(E)に包含される化合物の合計量に対して1/20〜1/2の比率で添加するのが好ましい。この範囲未満ではシリカ系スケール抑制の十分な相乗効果が得られない場合があり、この範囲を超えると添加量の増加に見合うだけのシリカ系スケール抑制の相乗効果の向上が見込めず、また、対象水系水の発泡性が大きくなり好ましくない。
本発明のシリカ系スケール抑制剤では、公知の、腐食抑制剤、微生物障害抑制剤、消泡剤などの化合物を併用して用いても良い。
腐食防止剤の例として、ベンゾトリアゾール類、重合リン酸塩、オルトリン酸、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、亜硝酸塩などが挙げられる。対象水系中に銅や銅合金が存在する場合は、ベンゾトリアゾール類を併用するのが好ましく、ベンゾトリアゾール類として、例えば、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1,2,3−メチルベンゾトリアゾール、アルキル置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール 、ハロ置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール誘導体、ハロ置換−1,2,3−メチルベンゾトリアゾール等が挙げられる。
微生物障害抑制剤の例として、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、液化塩素、塩素化イソシアヌル酸類、塩素化ジメチルヒダントイン類等の、水に溶解して次亜塩素酸及び/又は次亜臭素酸を生成する化合物;次亜塩素酸及び/又は次亜臭素酸を生成する化合物とスルファミン酸(塩)との反応物;2−メチルイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−クロロイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−5−クロロイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−ジクロロイソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン等の、イソチアゾリン化合物;2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド等の、有機ブロム化合物;メチレンビスチオシアネート、ビス(1,4−ジブロムアセトキシ)−2−ブテン、ベンジルブロムアセテート、ソジウムブロマイド、α−ブロモシンナムアルデヒド、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、ビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)亜鉛、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス−(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン、ビス(トリクロルメチル)スルホン、ジチオカーバメート、3,5−ジメチルテトラヒドロ−1,3,5,2H−チアジアジン−2−チオン、ブロム酢酸エチルチオフェニルエステル、α−クロ ルベンゾアルドキシムアセテート、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン、3−ヨード−2−プロペニルブチルカルバメート、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル及びp−クロル−m−キシレノール等が挙げられる。
最も好ましい微生物障害抑制剤は、次亜塩素酸及び/又は次亜臭素酸を生成する化合物であり、遊離残留塩素と遊離残留臭素の合計濃度として0.02〜1.0mg/L(Cl2換算)になるように対象水系水に添加するのが好ましい。
対象水系が開放循環式冷却水系である場合、循環水中のシリカ濃度は、計算シリカにより管理するのが好ましい。ここで、計算シリカ濃度(SC:mg/L)とは、循環水系の濃縮度(N)と循環水系への補給水のシリカ濃度(S:mg/L)の積(N×S)で定義され、実質的に循環水系に含まれているシリカ濃度である。ここで、濃縮度(N)は、シリカ濃度以外から求めた循環水の濃縮度である。濃縮度(N)の算出方法は、循環水の電気伝導度(ECR)と補給水の電気伝導度(ECM)の比(ECR/ECM)を算出する方法、あるいは、循環水と補給水のカルシウム硬度の濃度比から算出する方法がとられる。
本発明のシリカ系スケールの抑制剤を開放循環式冷却水系に用いた場合、計算シリカは、通常、120〜400mg/Lの範囲に維持されるが、好ましくは150〜250mg/Lの範囲に維持される。
また、対象水系中に、ステンレス鋼やチタン等の不動態化皮膜を形成する金属が使用されている場合は、スケール付着部における隙間腐食を起因とした孔食や応力腐食割れが発生し易いが、本発明のシリカ系スケール抑制剤を用いてシリカ系スケールの付着物を抑制することにより、炭素鋼、ステンレス鋼、銅合金、チタン等の金属の腐食を間接的に防止することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。また、特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
下記のシリカスケール抑制試験(1)とシリカスケール抑制試験(2)に用いたスケール抑制剤は次の通りである。
(実施例に用いたスケール抑制剤)
(A)エチレングリコール以外の多価アルコール及び/又は多価フェノールのエチレンオキシド付加物
A−1:ポリオキシエチレングリセリルエーテル(分子量450、EO付加モル数8.1)(商品名:ユニオックスG−450、日油(株)製)
A−2:ポリオキシエチレングリセリルエーテル(分子量750、EO付加モル数15)(商品名:ユニオックスG−750、日油(株)製)
A−3:トリメチロールプロパントリポリオキシエチレンエーテル(分子量270、EO付加モル数3.1)(商品名:TMP−30、日本乳化剤(株)製)
A−4:トリメチロールプロパントリポリオキシエチレンエーテル(分子量398、EO付加モル数6.0)(商品名:TMP−60、日本乳化剤(株)製)
A−5:ペンタエリスリトールポリオキシエチレンエーテル(分子量330、EO付加モル数4.4)(商品名:PNT−40、日本乳化剤(株)製)
A−6:ポリオキシエチレンネオペンチルグリコールエーテル(分子量305、EO付加モル数4.6)(商品名:NGE−04、四日市合成(株)製)
A−7:ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル(分子量400、EO付加モル数3.9)(商品名:ユニオックスDA−400、日油(株)製)
A−8:ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル(分子量660、EO付加モル数9.8)(商品名:ユニオックスDA−700、日油(株)製)
A−9:モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(分子量1227、EO付加モル数20)(試薬:Tween20、東京化成工業(株)製)
(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテル
B−1:エチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量113)(商品名:デナコールEX−810、ナガセケミテックス(株)製)
B−2:ジエチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量150)(商品名:デナコールEX−851、ナガセケミテックス(株)製)
B−3:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量268)(商品名:デナコールEX−830、ナガセケミテックス(株)製)
(C)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの加水分解物
C−1: エチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量132)(商品名:デナコールEX−811、ナガセケミテックス(株)製)と1mol/L−水酸化ナトリウムの1:9混合物を90℃で4時間加熱し、エチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物C−1を得た。
C−2:エチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量132)に代えてジエチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量150)(商品名:デナコールEX−851、ナガセケミテックス(株)製)を使用した以外はC−1と同様にしてジエチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物C−2を得た。
C−3: エチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量132)に代えてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量268)(商品名:デナコールEX−830、ナガセケミテックス(株)製)を使用した以外はC−1と同様にしてポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物C−3を得た。
(D)多価アルコール及び/又は多価フェノールとポリグリシジルエーテルの付加反応物
D−1:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)を試験管に加え、触媒としてホウフッ化亜鉛をトリエチレングリコールに対して2%加え、60℃で3時間加熱して、トリエチレングリコールとエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物D−1を得た。
D−2:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのジエチレングリコールと2エポキシ当量のポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−830)を使用した以外はD−1と同様にして、ジエチレングリコールとポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物D−2を得た。
D−3:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのポリエチレングリコール(平均分子量200)と1エポキシ当量のジエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−851)を使用した以外はD−1と同様にして、ポリエチレングリコール(平均分子量200)とジエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物D−3を得た。
D−4:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのポリエチレングリコール(平均分子量200)と1エポキシ当量のポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量185)(商品名:デナコールEX−821ナガセケミテックス(株)製)を使用した以外はD−1と同様にして、ポリエチレングリコール(平均分子量200)とポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物D−4を得た。
D−5:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのポリエチレングリコール(平均分子量200)と1エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)を使用した以外はD−1と同様にして、ポリエチレングリコール(平均分子量200)とエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物D−5を得た。
D−6:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのポリエチレングリコール(平均分子量400)と1エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)を使用した以外はD−1と同様にして、ポリエチレングリコール(平均分子量400)とエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物D−6を得た。
D−7:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのグリセリンと1エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)を使用した以外はD−1と同様にして、グリセリンとエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物D−7を得た。
D−8:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのソルビトールと1エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)を使用した以外はD−1と同様にして、ソルビトールとエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物D−8を得た。
(E)脂肪酸モノアミド
E−1:パルミチン酸アミド(商品名:ダイヤミッドKP、日本化成(株)製)
E−2:ステアリン酸アミド(商品名:ダイヤミッドAP−1、日本化成(株)製)
E−3:オレイン酸アミド(商品名:ダイヤミッドO−200、日本化成(株)製)
E−4:エルカ酸アミド(商品名:ダイヤミッドL−200、日本化成(株)製)
E−5:ラウリン酸−N,N−ジエタノールアミド(商品名:スタホームDL、日油(株)製)
E−6:ヤシ脂肪酸−N,N−ジエタノールアミド(商品名:スタホームDF、日油(株)製)
E−7:オレイン酸−N,N−ジエタノールアミド(商品名:スタホームDO、日油(株)製)
E−8:ラウリン酸−N−イソプロパノールアミド(商品名:スタホームLIPA、日油(株)製)
E−9:ヤシ脂肪酸−N−エタノールアミド(商品名:スタホームMF、日油(株)製)
E−10:N,N−ジメチルオレイン酸アミド(商品名:テクスノールODM、日本乳化剤(株)製)
E−11:トール脂肪酸−N,N−ジメチルアミド(50%以上)+脂肪族アルコールエトキシレート(10〜30%)混合物(商品名:DMAD、バックマンラボラトリーズ(株)製)
E−12:トール脂肪酸−N,N−ジメチルアミド(90.1%)+エトキシ化ドデシルフェノール(9.9%)混合物(商品名:SPI−2400、バックマンラボラトリーズ(株)製)
E−13:E−10+ラウリルアルコールエトキシレート(商品名:アデカトールLB−83、(株)ADEKA製)混合物(E−10:ラウリルアルコールエトキシレート=9:1の混合物)
(比較例に用いたスケール抑制剤)
F−1:ノニルフェニルエーテルのエチレンオキシド付加物(分子量441、EO付加モル数5)(試薬:東京化成工業(株)製)
F−2:ノニルフェニルエーテルのエチレンオキシド付加物(分子量661、EO付加モル数10)(試薬:東京化成工業(株)製))
F−3:ラウリルアルコールのエチレンオキシド付加物(分子量627、EO付加モル数10)(試薬:東京化成工業(株)製)
F−4:ステアリルアルコールのエチレンオキシド付加物(分子量447、EO付加モル数4)(試薬:東京化成工業(株)製)
F−5:エチレンオキシド・プロピレンオキシドブロックコポリマー(分子量1200)(商品名:プルロニックL−44、(株)ADEKA製)
F−6:エチレンオキシド・プロピレンオキシドブロックコポリマー(分子量1750)(商品名:プルロニックL−62、(株)ADEKA製)
F−7:ネオペンチルグリコール(試薬:東京化成工業(株)製)
F−8:トリメチロールプロパン(試薬:東京化成工業(株)製)
F−9:ペンタエリスリトール(試薬:東京化成工業(株)製)
F−10:グリセリン(試薬:東京化成工業(株)製)
F−11:ポリエチレングリコール400(分子量400)(試薬:東京化成工業(株)製)
F−12:ポリエチレングリコール2000(分子量2000)(試薬:東京化成工業(株)製)
F−13:ポリアクリルアミド(分子量10000)(試薬:ポリアクリルアミド, MW10000,50%水溶液、和光純薬工業(株)製)
F−14:ポリエチレンイミン(分子量600)(商品名:エポミンSP−006、(株)日本触媒製)
F−15:エチレンビスステアリン酸アミド(試薬:N,N’―エチレンビスオクタデカンアミド、東京化成工業(株)製)
1.シリカスケール抑制試験(1)(実施例1〜33、比較例1〜11)
メタケイ酸ナトリウム5水和物を水に溶解して調製したシリカ500mg/L含む溶液を、H型強酸性イオン交換樹脂を充填したカラムに通水してオルトケイ酸溶液を調製し、これに塩化カルシウム溶液、硫酸マグネシウム溶液、重炭酸ナトリウム溶液を加えて、カルシウム硬度150mgCaCO3/L、マグネシウム硬度50mgCaCO3/L、重炭酸イオン濃度100mgCaCO3/L、シリカ濃度500mg/Lを含む溶液を調製した。この溶液に表1、表2に示すスケール抑制剤をそれぞれ有効成分換算で25mg/L加え、更に、表1、表2に示す濃度に従って、ポリ塩化アルミニウムをAlとして、また、硫酸第二鉄をFeとして0〜5mg/Lそれぞれ加えて、水酸化ナトリウム溶液でpHを8.5に調整して試験液とした。尚、比較例7の「無添加」はスケール抑制剤を添加しなかった例である。試験液を50℃で5日間静置した後、試験液を0.8μmのメンブランフィルターで濾過し、残留シリカ濃度を測定した。ここで、残留シリカ濃度は、以下の方法により測定した。試験結果を表1、表2に示した。尚、(A)エチレングリコール以外の多価アルコール及び/又は多価フェノールのエチレンオキシド付加物を用いた実施例1〜14とそれに対応する比較例1〜6を表1に示し、それぞれのスケール抑制剤のOH比を表示した。
[残留シリカ濃度測定方法]
試験液1mLをフッ素樹脂製丸底試験管に入れ、1mol/Lの水酸化ナトリウムを2mL加えた後、110℃に加温したホットブロックで20分間加熱した。次いで、1mol/L塩酸を2mL加え、試験管を20℃まで冷却後、JIS K0101のモリブデン黄法によりシリカ濃度を測定した。ここで測定される残留シリカ濃度はオルトケイ酸、オルトケイ酸イオン、ポリケイ酸イオン等の溶解性シリカとコロイダルシリカの合計濃度である。
2.シリカスケール抑制試験(2)(実施例34〜51、比較例12〜17)
試験液のシリカ濃度を500mg/Lに代えて400mg/Lとし、表1、表2に示すスケール抑制剤に代えて、表3に示すスケール抑制剤をそれぞれ2mg/L加えた以外は、シリカスケール抑制試験(1)と同様の試験を行った。尚、比較例17の「無添加」はスケール抑制剤を添加しなかった例である。結果を表3に示した。
シリカスケール抑制試験(1)及びシリカスケール抑制試験(2)において、残留シリカ濃度が高いほどシリカスケールの析出を抑制している。表1〜表3の結果によって、本発明のシリカ系スケール抑制剤の優れたシリカスケール抑制効果が明確に示された。また、実施例48と実施例51の結果比較から、本発明のシリカ系スケール抑制剤の有効成分にノニオン界面活性剤を併用することによる相乗効果も確認された。
本発明のシリカ系スケール抑制剤は、冷却水系、ボイラ水系、紙パルプ製造工程水系、地熱発電水系等における、シリカ系スケールの析出抑制に利用することができ、また、アルミニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン等の金属イオンが共存する水系におけるシリカ系スケールの析出抑制にも利用できる。
2.シリカスケール抑制試験(2)(実施例34〜51、比較例12〜17)
試験液のシリカ濃度を500mg/Lに代えて400mg/Lとし、表1、表2に示すスケール抑制剤に代えて、表3に示すスケール抑制剤をそれぞれ有効成分換算で2mg/L加えた以外は、シリカスケール抑制試験(1)と同様の試験を行った。尚、比較例17の「無添加」はスケール抑制剤を添加しなかった例である。結果を表3に示した。
本発明は、冷却水系、ボイラ水系、紙パルプ製造工程水系、地熱発電水系、逆浸透膜装置等の水中にシリカを含む水系におけるシリカ系スケールの析出を抑制できるスケール抑制剤に関する。更に詳しくは、これらの水系において、アルミニウムイオンや鉄イオンや亜鉛イオン等の金属イオンが共存しても十分なシリカ系スケールの析出を抑制できるスケール抑制剤に関する。
冷却水系、ボイラ水系、紙パルプ製造工程水系、地熱発電水系、逆浸透膜装置などにおける水と接触する伝熱面、各種機器類、配管等には、スケール障害が発生し易い。特に、開放循環式冷却水系では、省資源、省エネルギーの観点から、冷却水の廃棄量(ブロー量)を制限して高濃縮運転を行う場合があり、水中に溶解している塩類が濃縮されて難溶性の塩を形成しスケール化し易くなっている。
スケールは、熱交換器や配管や水と接触する各種機器における熱効率の低下、閉塞など装置の運転に重大な障害を引き起こすことから、その対策が重要視されている。水系で生成するスケール種としては、例えば炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。これらの一般的なスケールに対しては、アクリル酸やマレイン酸系の水溶性ポリマーやヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸等の有機ホスホン酸等を水系に添加することにより、問題を解決することが可能であり、これらのスケール抑制剤が広く一般的に使用されている。しかしながら、近年の冷却水の高濃縮化に伴って問題となってきたのがシリカ系スケールである。シリカ系スケールは、その性質上一旦生成するとその洗浄除去が非常に困難であるため、スケールの生成を事前に抑えることが重要である。
また、紙パルプ製造工程における古紙脱墨パルプ製造工程では、漂白に使われる過酸化水素の安定化剤として含まれるケイ酸ナトリウムなどが工程水に溶出したり、原料パルプ等からシリカが溶出し、pHが8〜10とアルカリ性となると、各種のケイ酸塩スケールが形成しやすくなる。このため、古紙脱墨パルプ製造工程内の配管、洗浄・脱水装置、スクリーン等の各所にこれらのスケールが沈着・付着し、配管の閉塞、洗浄不良及び脱水不良等の弊害が生じている。
シリカ系スケールには、無定形シリカとケイ酸塩スケールが含まれるが、ここで無定形シリカとはシリカ単独でその溶解度を超えたときに析出する非晶質のシリカスケールである。またケイ酸塩スケールとは、水中に含まれるシリカがカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオン等の金属イオンと結合し、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸鉄等の難溶性ケイ酸塩スケールとなり、場合によってはさらにこれらケイ酸塩類と無定形シリカ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等の難溶性無機化合物との複合物となり、金属表面等に付着したスケール状物をいう。
一般的にシリカは溶解度が低く、水中のシリカ濃度が数10mg/L程度でもスケール化する性質を持っており、濃縮度の上限を設定して水中のシリカ濃度を低く抑えているのが現状である。
一方、水中の濁度成分を除去するためにポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等のアルミニウム化合物を添加する方法が一般的に行われており、水中に少量のアルミニウムが残留することがある。一般に無定形シリカは温度が低いほど析出し易いが、水中に少量のアルミニウムが共存すると低温から高温までの広範な温度域においてアルミニウムを含有した無定形シリカスケールやケイ酸アルミニウムスケールが析出するようになる。
また、アルカリの添加や濃縮度の上昇により水系のpHを上昇させると、無定形シリカの溶解度は増加するが、アルカリ添加によるpH上昇はケイ酸塩スケールや他のスケールの析出傾向を助長する。例えば、冷却水系ではpH8以上で解離したケイ酸イオンがマグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄等のカチオンと反応してケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸鉄等のケイ酸塩のスケールを形成する。水温が高い場合や伝熱表面の温度が高い場合は、水中のシリカ濃度が数10mg/L程度の低濃度であっても、ケイ酸塩スケールは生成する。
このようなシリカ系スケールの生成、析出に対して、濃縮度の上限を設定して水中のシリカ濃度を低く抑える対応以外に、スケール抑制剤としてのいくつかの提案が知られているが、どのスケール抑制剤も効果が十分ではなかった。例えば、アクリルアミド系スケール抑制剤(特許文献1)は、シリカ濃度が低い場合にはある程度の効果を示すが、シリカ濃度が150mg/Lを超えるようなシリカ濃度が高い水系に対しては効果が十分でない。また、4級アンモニウム塩を使用する方法(特許文献2)、ポリエチレンイミン系化合物を使用する方法(特許文献3)は、水質条件によっては共存イオンの影響を受けて抑制剤自身が配管や熱交の壁面に析出、沈着する傾向があり、実用上問題がある。分子量1000〜100000のポリエチレングリコールとホスホン酸および/または分子量100000以下のカルボン酸ポリマーを含有するスケール抑制剤(特許文献4)は、アルミニウムイオンや鉄イオンや亜鉛イオンを含む水系において十分なスケール抑制効果を示さなかった。
特許第1851103号公報
特開昭57−110398号公報
特許第2974378号公報
特開平2−31894号公報
本発明の課題は、冷却水系、ボイラ水系、紙パルプ製造工程水系、地熱発電水系、逆浸透膜装置等の水中にシリカを含む水系において、シリカ系スケールの析出を抑制できるスケール抑制剤を提供することである。さらには、これらの水系において、アルミニウムイオンや鉄イオンや亜鉛イオン等の金属イオンが共存してもシリカ系スケールの析出を十分に抑制できるスケール抑制剤を提供することである。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、水中にアルミニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン等を含んでいても、特定の多価アルコール及び/又は多価フェノールの誘導体や脂肪酸モノアミドから選択される1種又は2種以上を、対象とする水系に添加することでシリカ系スケールの析出を抑制できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、請求項1に係る発明は、(A)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであって、アミノ基を有さない化合物、(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの加水分解物であって、アミノ基を有さない化合物、(C)多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上の付加反応物であって、アミノ基を有さない化合物、及び(D)脂肪酸モノアミドであって、一般式(1)で示される化合物から選択される1種又は2種以上を有効成分として含有することを特徴とする水系におけるシリカ系スケール抑制剤である。
(式中、
R 1 および
R 2 は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜22のアルキル基又はアルケニル
基から選択されるか、あるいは
R 1 と
R 2 が一緒になって環状アミドの構成単位となり、
R 3 は炭素数8〜22の飽和ないし不飽和の脂肪酸残基である)
本発明のシリカ系スケール抑制剤を対象水系に適用することによって、シリカスケールの析出を促進するアルミニウムイオン等の金属イオンが存在していても、長期間にわたって高いシリカ系スケール析出抑制効果を維持することができ、熱交換器やボイラの伝熱効率の低下、配管の閉塞などの問題を防ぐことが可能である。
本発明におけるシリカ系スケールは、一般に水中のシリカが単独で無定形シリカとして析出する一般的なシリカスケールと、水中のシリカと多価金属イオンが反応して多価金属のケイ酸塩として析出するケイ酸塩スケールを含む。ここでケイ酸塩とは、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸鉄、ケイ酸亜鉛など、あらゆる種類の多価金属のケイ酸塩を含む。
本発明で使用される(A)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであって、アミノ基を有さない化合物は、例えば、多価アルコール及び/又は多価フェノールとエピハロヒドリンの反応により得られる化合物であり、その製造方法は、例えば、特開昭61−178974号公報等に開示されている。ここで用いられる多価アルコール及び/又は多価フェノールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(=ネオペンチルグリコール)、2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、シクロヘキサン−1,4―ジメタノール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、p−キシレングリコール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ジペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ショ糖、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(=ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールC)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(=ビスフェノールB)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(=ビスフェノールZ)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(=ビスフェノールAP)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(=ビスフェノールS)、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、1,1,2,2−テトラキシ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等の単独、もしくは、これらの混合物が挙げられ、あるいは、それらのエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキサイドの付加物であってもよい。また、ここで用いられるエピハロヒドリンは、例えば、エピブロモヒドリン、エピクロロヒドリン、エピヨードヒドリン、β−メチルエピブロモヒドリン、β−メチルエピクロロヒドリン等から選ばれる。
本発明で使用される(A)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであって、アミノ基を有さない化合物は、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等が挙げられる。
本発明で使用される(A)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであって、アミノ基を有さない化合物の好ましい例は、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルである。
本発明で使用される(A)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであって、アミノ基を有さない化合物は、一般に市販されているものがそのまま使用できる。例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテルはナガセケミテックス(株)よりデナコールEX−810(エポキシ当量113)あるいはEX−811(エポキシ当量132)なる商品名で、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルはナガセケミテックス(株)よりデナコールEX−850(エポキシ当量122)あるいはEX−851(エポキシ当量150)なる商品名で、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルはナガセケミテックス(株)よりデナコールEX−821(エポキシ当量185)、デナコールEX−830(エポキシ当量268)、デナコールEX−832(エポキシ当量284)、デナコールEX−841(エポキシ当量372)、デナコールEX−861(エポキシ当量551)なる商品名でそれぞれ市販されている。
本発明で使用される(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの加水分解物であって、アミノ基を有さない化合物は、多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルに水とアルカリを加えて加熱することにより得ることができる。ここで用いられる多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルとして、前記の(A)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであって、アミノ基を有さない化合物として挙げた化合物を用いることができる。
本発明で使用される(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの加水分解物であって、アミノ基を有さない化合物の好ましい例は、エチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物である。
本発明で使用される(C)多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上の付加反応物であって、アミノ基を有さない化合物で用いられる多価アルコール及び/又は多価フェノールとして、前記の(A)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであって、アミノ基を有さない化合物として挙げた化合物、あるいは、それらの化合物のエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドの付加物を用いることができる。
本発明で使用される(C)多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上の付加反応物であって、アミノ基を有さない化合物は、例えば、多価アルコール及び/又は多価フェノールとエチレングリコールジグリシジルエーテルを加え、酸触媒の存在下で30〜200℃に加熱することにより得ることができる。酸触媒としては、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル、ホウフッ化亜鉛、ホウフッ化カリウム、ホウフッ化スズ、塩化アルミニウム、塩化スズ等のルイス酸触媒等が挙げられる。
本発明で使用される(C)多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上の付加反応物であって、アミノ基を有さない化合物を調製するための多価アルコール及び/又は多価フェノールとエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上の好ましい反応比率は、1モルの多価アルコール及び/又は多価フェノールに対してエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上が0.5〜2エポキシ当量の範囲である。この反応比率を外れると十分なスケール抑止性能を得られない場合があり、また、反応生成物がゲル化する場合もあるため好ましくない。
本発明で使用される(C)多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上の付加反応物であって、アミノ基を有さない化合物の好ましい例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールエタン、及びトリメチロールプロパンから選択される1種以上とエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上との付加反応物である。
本発明で使用される(D)脂肪酸モノアミドであって、一般式(1)で示される化合物は、脂肪族炭化水素鎖基と1個のカルボン酸基から構成される脂肪酸の1ないし3級アミドであり、脂肪酸は直鎖状または分枝鎖状であってもよく、飽和または不飽和であってもよく、環状アミドであることもできる。
(
式中、R 1 および
R 2 は、それぞれ独立に水素、炭素数1〜22のアルキル基又はアルケニル
基から選択されるか、あるいは
R 1 と
R 2 が一緒になって環状アミドの構成単位となり、
R 3 は炭素数8〜22の飽和ないし不飽和の脂肪酸残基である)
本発明で使用される(D)脂肪酸モノアミドであって、一般式(1)で示される化合物における好ましい脂肪酸残基は、植物油中や動物油中に存在する脂肪酸の置換または無置換残基である。該植物油ならびに動物油は、トール油、パーム油、大豆油、綿実油、ヤシ油、とうもろこし油、落花生油、カノラ油、ベニバナ油、ひまわり油、ババス油、ひまし油、あまに油、オリーブ油、桐油、牛脂、豚脂、魚脂等から選ぶことができる。ここで得られた脂肪酸は、通常は異なる炭素数を有する飽和ないし不飽和脂肪酸の混合物である。
本発明で使用される(D)脂肪酸モノアミドであって、一般式(1)で示される化合物の例として、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、パルミトレイン酸アミド、オレイン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、エルカ酸アミド、ウンデシレン酸アミド、アラキドン酸アミド、バクセン酸アミド及び植物油脂肪酸や動物油脂肪酸等の、飽和ないし不飽和脂肪酸アミド;N−モノメチルオレイン酸アミド、N−モノエチルリノール酸アミド、N−モノイソプロピルステアリン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド及び植物油脂肪酸や動物油脂肪酸等の、飽和ないし不飽和脂肪酸のN−置換アミド;N,N−ジメチルステアリン酸アミド、N,N−ジメチルオレイン酸アミド、N,N−ジメチルリノール酸アミド、N,N−ジメチルリノレン酸アミド、N,N−ジメチルリシノール酸アミド、N,N−ジメチルアラキドン酸アミド、N,N−ジメチルエイコサペンタエン酸アミド、N,N−ジメチルドコサヘキサエン酸アミド、N,N−ジエチルオレイン酸アミド、N,N−ジプロピルオレイン酸アミド、N,N−ジヒドロキシエチルラウリン酸アミド、N,N−オレイン酸エチルラウリン酸アミド、N−メチル−N−ヒドロキシエチルラウリン酸アミド、N−エチル−N−ヒドロキシエチルミリスチン酸アミド、N−エチル−N−ヒドロキシエチルステアリン酸アミド及び植物油脂肪酸や動物油脂肪酸等の、飽和ないし不飽和脂肪酸のN,N−置換アミド;ドデカノイルモルフォリン、N−ステアラミド−3−メチルピペリジン、N−ステアラミドモルフォリン、N−ステアラミド−3,5−ジメチルピペリジン、1−ヘキサデコイルヘキサヒドロ[1H]アゼピン、ヘキサデコイル−3−メチルピペリジン等の、飽和ないし不飽和脂肪酸の環状アミド等が挙げられる。
本発明で使用される(D)脂肪酸モノアミドであって、一般式(1)で示される化合物のより好ましい例は、N,N−ジメチルオレイン酸アミド、N,N−ジメチルリノール酸アミド、N,N−ジメチルリノレン酸アミド、N,N−ジメチルリシノール酸アミド、N,N−ジメチルアラキドン酸アミド、N,N−ジメチルエイコサペンタエン酸アミド、N,N−ジメチルドコサヘキサエン酸アミド、N,N−ジメチルエルカ酸アミド、N,N−ジエチルオレイン酸アミド、N,N−ジプロピルオレイン酸アミド及び植物油脂肪酸や動物油脂肪酸等の、不飽和脂肪酸のN,N−置換アミドである。
本発明で使用される(D)脂肪酸モノアミドであって、一般式(1)で示される化合物は、公知の技術を用いて適当な脂肪酸とアミンとを反応させることによって製造することができる。例えば、トール油脂肪酸ジメチルアミドの場合は、トール油脂肪酸留分(1.0モル)にやや過剰モル量(1.1モル)のジメチルアミンを混合して反応させる。また、脂肪酸がトリグリセリドとして存在する植物油(例:大豆油、パーム油)の場合には、1.0モルの植物油に3.3モルのジメチルアミンを反応させる。該混合物を密閉容器内で、0.7MPaを超えない圧力下で徐々に170℃に加熱して反応を8時間行う。過剰のアミンは反応中に生成した水相中に除去される。トリグリセリドを含む場合は、過剰のアミンは反応後除去されるグリセリン相中に存在する。前記反応によって生成した水は、蒸留して取り出すか、又は生成物配合に組み込むことができる。
本発明で使用される(D)脂肪酸モノアミドであって、一般式(1)で示される化合物は、市販品をそのまま用いることができる。例えば、ラウリン酸アミドはダイヤミッドY、パルミチン酸アミドはダイヤミッドKP、ステアリン酸アミドはダイヤミッドAP−1、ベヘン酸アミドはダイヤミッドBH、ヒドロキシステアリン酸アミドはダイヤミッドKH、オレイン酸アミドはダイヤミッドO−200、エルカ酸アミドはダイヤミッドL−200という商品名でそれぞれ日本化成(株)より市販されている。N,N−ジメチルオレイン酸アミドは、日本乳化剤(株)よりテクスノールODM、あるいは日本化成(株)よりニッカアマイドMBO等の商品名でそれぞれ市販されている。トール油脂肪酸のジメチルアミドを含む製品は、バックマンラボラトリーズ(株)よりDMAD、SPI−2400、DMXS、SADA等の商品名でそれぞれ市販されている。
本発明のシリカ系スケール抑制剤は、前記(A)〜(D)に含まれる化合物の1種又は2種以上を有効成分として含有することを特徴とする。
本発明のシリカ系スケール抑制剤の、対象水系における有効成分の合計添加濃度は、対象水系の状況により一定ではないが、通常は0.2〜500mg/Lの範囲であり、好ましくは0.5〜50mg/Lの範囲である。0.2mg/L未満の添加量では、シリカ系スケールの析出抑制効果が十分でない場合があり、500mg/L以上の添加では、添加濃度の増加に見合うだけのシリカ系スケール抑制効果の向上が見込めないため、経済的でなく、更に、対象水系からの排水中のCODが高くなるため好ましくない。
本発明のシリカ系スケール抑制剤では、前記(A)〜(D)に含まれる化合物に加えて更にノニオン界面活性剤を加えることにより、シリカ系スケールの抑制効果を向上させる相乗効果を得ることができる。特に(D)とノニオン界面活性剤の併用が好ましい。
前記のノニオン界面活性剤としては、下記一般式(2)で表されるノニオン界面活性剤が好ましい。
(式中、
R 4 は炭素数8〜22、好ましくは10〜18の炭化水素基であり、直鎖であっても分岐鎖であってもよく、炭化水素基としては1級または2級の高級アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミドを原料とするものが挙げられる。−X−は−O−、−COO−、−CONH−等の官能基を表し、EOはエチレンオキシド、POはプロピレンオキサイド、n及びmは平均付加モル数を表し、nは3〜20、好ましくは5〜18、mは0〜6、好ましくは0〜3である。
R 5 は水素原子、又は炭素数1〜6のアルキル基又はアルケニル基から選択され、好ましくは水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基又はアルケニル基である。また、一般式(2)において、−X−が−O−かつmが0かつ
R 5 が水素のとき、ノニオン界面活性剤はアルコールエトキシレートであり、この場合において、
R 4 の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基の炭素数は10〜22、好ましくは10〜20、より好ましくは10〜18である。また、一般式(2)において−X−が−COO−のとき、ノニオン界面活性剤は脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤である。この場合において、
R 4 の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基の炭素数は9〜21、好ましくは11〜21である。
R 4 は不飽和結合を有していてもよい。また、この場合において、
R 5 は、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。)一般式(2)で表されるノニオン界面活性剤は、随意に1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
前記ノニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、炭素数12〜13の合成アルコールに対して12〜15モルのエチレンオキシドを付加したもの、天然アルコールに12〜15モルのエチレンオキシドを付加したもの、ヘキサノールをガーベット反応に供して得られるC12アルコール1モルに10モル相当のエチレンオキシドを付加したもの(商品名:ISOFOL12−10EO、CONDEA社製)、ラウリン酸メチルエステルに15モル相当のエチレンオキシドを付加したもの、ブテンを3量化して得られるB12アルケンをオキソ法に供して得られるB13アルコールに7モル相当のエチレンオキシドを付加したもの(商品名:Lutensol TO7、BASF社製)、ペンタノールをガーベット反応に供して得られるC10アルコールに7モル相当のエチレンオキシドを付加したもの(商品名 :Lutensol XL70、BASF社製)、ペンタノールをガーベット反応に供して得られるC10アルコールに6モル相当のエチレンオキシドを付加したもの(商品名 :Lutensol XA60、BASF社製)、炭素数12〜14の第2級アルコールに、9モル相当又は15モル相当のエチレンオキシドを付加したもの(商品名:ソフタノール90又はソフタノール150、(株)日本触媒製)、ヤシ脂肪酸メチル(ラウリン酸/ミリスチン酸=8/2)に対してアルコキシル化触媒を用いて15モル相当のエチレンオキシドを付加したもの、ラウリン酸メチルにアルコキシル化触媒を用いて15モル相当のエチレンオキシドと3モル相当のプロピレンオキシドを付加したもの等が挙げられる。または、ポリオキシエチレン(付加モル数1〜20)ソルビタン脂肪酸(炭素数10〜22)エステル、ポリオキシエチレン(付加モル数1〜20)ソルビット脂肪酸(炭素数10〜22)エステル、ポリオキシエチレン(付加モル数1〜20)グリコール脂肪酸(炭素数10〜22)エステル、グリセリン脂肪酸(炭素数10〜22)エステル、アルキル(炭素数10〜22)グリコシド等が挙げられる。
前記ノニオン界面活性剤の対象水系に対する添加量は、本発明のシリカ系スケール抑制剤に含有される有効成分である、前記(A)〜(D)に包含される化合物の合計量に対して1/20〜1/2の比率で添加するのが好ましい。この範囲未満ではシリカ系スケール抑制の十分な相乗効果が得られない場合があり、この範囲を超えると添加量の増加に見合うだけのシリカ系スケール抑制の相乗効果の向上が見込めず、また、対象水系水の発泡性が大きくなり好ましくない。
本発明のシリカ系スケール抑制剤では、公知の、腐食抑制剤、微生物障害抑制剤、消泡剤などの化合物を併用して用いても良い。
腐食防止剤の例として、ベンゾトリアゾール類、重合リン酸塩、オルトリン酸、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、亜硝酸塩などが挙げられる。対象水系中に銅や銅合金が存在する場合は、ベンゾトリアゾール類を併用するのが好ましく、ベンゾトリアゾール類として、例えば、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1,2,3−メチルベンゾトリアゾール、アルキル置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール 、ハロ置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール誘導体、ハロ置換−1,2,3−メチルベンゾトリアゾール等が挙げられる。
微生物障害抑制剤の例として、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、液化塩素、塩素化イソシアヌル酸類、塩素化ジメチルヒダントイン類等の、水に溶解して次亜塩素酸及び/又は次亜臭素酸を生成する化合物;次亜塩素酸及び/又は次亜臭素酸を生成する化合物とスルファミン酸(塩)との反応物;2−メチルイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−クロロイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−5−クロロイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−ジクロロイソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン等の、イソチアゾリン化合物;2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド等の、有機ブロム化合物;メチレンビスチオシアネート、ビス(1,4−ジブロムアセトキシ)−2−ブテン、ベンジルブロムアセテート、ソジウムブロマイド、α−ブロモシンナムアルデヒド、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、ビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)亜鉛、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス−(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン、ビス(トリクロルメチル)スルホン、ジチオカーバメート、3,5−ジメチルテトラヒドロ−1,3,5,2H−チアジアジン−2−チオン、ブロム酢酸エチルチオフェニルエステル、α−クロ ルベンゾアルドキシムアセテート、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン、3−ヨード−2−プロペニルブチルカルバメート、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル及びp−クロル−m−キシレノール等が挙げられる。
最も好ましい微生物障害抑制剤は、次亜塩素酸及び/又は次亜臭素酸を生成する化合物であり、遊離残留塩素と遊離残留臭素の合計濃度として0.02〜1.0mg/L(Cl2換算)になるように対象水系水に添加するのが好ましい。
対象水系が開放循環式冷却水系である場合、循環水中のシリカ濃度は、計算シリカにより管理するのが好ましい。ここで、計算シリカ濃度(Sc:mg/L)とは、循環水系の濃縮度(N)と循環水系への補給水のシリカ濃度(S:mg/L)の積(N×S)で定義され、実質的に循環水系に含まれているシリカ濃度である。ここで、濃縮度(N)は、シリカ濃度以外から求めた循環水の濃縮度である。濃縮度(N)の算出方法は、循環水の電気伝導度(ECR)と補給水の電気伝導度(ECM)の比(ECR/ECM)を算出する方法、あるいは、循環水と補給水のカルシウム硬度の濃度比から算出する方法がとられる。
本発明のシリカ系スケールの抑制剤を開放循環式冷却水系に用いた場合、計算シリカは、通常、120〜400mg/Lの範囲に維持されるが、好ましくは150〜250mg/Lの範囲に維持される。
また、対象水系中に、ステンレス鋼やチタン等の不動態化皮膜を形成する金属が使用されている場合は、スケール付着部における隙間腐食を起因とした孔食や応力腐食割れが発生し易いが、本発明のシリカ系スケール抑制剤を用いてシリカ系スケールの付着物を抑制することにより、炭素鋼、ステンレス鋼、銅合金、チタン等の金属の腐食を間接的に防止することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。また、特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
下記のシリカスケール抑制試験(1)とシリカスケール抑制試験(2)に用いたスケール抑制剤は次の通りである。
(実施例に用いたスケール抑制剤)
(A)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルであって、アミノ基を有さない化合物
A−1:エチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量113)(商品名:デナコールEX−810、ナガセケミテックス(株)製)
A−2:ジエチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量150)(商品名:デナコールEX−851、ナガセケミテックス(株)製)
A−3:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量268)(商品名:デナコールEX−830、ナガセケミテックス(株)製)
(B)多価アルコール及び/又は多価フェノールのポリグリシジルエーテルの加水分解物であって、アミノ基を有さない化合物
B−1: エチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量132)(商品名:デナコールEX−811、ナガセケミテックス(株)製)と1mol/L−水酸化ナトリウムの1:9混合物を90℃で4時間加熱し、エチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物B−1を得た。
B−2:エチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量132)に代えてジエチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量150)(商品名:デナコールEX−851、ナガセケミテックス(株)製)を使用した以外はB−1と同様にしてジエチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物B−2を得た。
B−3: エチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量132)に代えてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量268)(商品名:デナコールEX−830、ナガセケミテックス(株)製)を使用した以外はB−1と同様にしてポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの加水分解物B−3を得た。
(C)多価アルコール及び/又は多価フェノールと、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルから選択される1種以上の付加反応物であって、アミノ基を有さない化合物
C−1:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)を試験管に加え、触媒としてホウフッ化亜鉛をトリエチレングリコールに対して2%加え、60℃で3時間加熱して、トリエチレングリコールとエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物C−1を得た。
C−2:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのジエチレングリコールと2エポキシ当量のポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−830)を使用した以外はC−1と同様にして、ジエチレングリコールとポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物C−2を得た。
C−3:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのポリエチレングリコール(平均分子量200)と1エポキシ当量のジエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−851)を使用した以外はC−1と同様にして、ポリエチレングリコール(平均分子量200)とジエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物C−3を得た。
C−4:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのポリエチレングリコール(平均分子量200)と1エポキシ当量のポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ当量185)(商品名:デナコールEX−821ナガセケミテックス(株)製)を使用した以外はC−1と同様にして、ポリエチレングリコール(平均分子量200)とポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物C−4を得た。
C−5:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのポリエチレングリコール(平均分子量200)と1エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)を使用した以外はC−1と同様にして、ポリエチレングリコール(平均分子量200)とエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物C−5を得た。
C−6:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのポリエチレングリコール(平均分子量400)と1エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)を使用した以外はC−1と同様にして、ポリエチレングリコール(平均分子量400)とエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物C−6を得た。
C−7:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのグリセリンと1エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)を使用した以外はC−1と同様にして、グリセリンとエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物C−7を得た。
C−8:1モルのトリエチレングリコールと2エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)に代えて、1モルのソルビトールと1エポキシ当量のエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−811)を使用した以外はC−1と同様にして、ソルビトールとエチレングリコールジグリシジルエーテルの付加反応物C−8を得た。
(D)脂肪酸モノアミドであって、一般式(1)で示される化合物
D−1:パルミチン酸アミド(商品名:ダイヤミッドKP、日本化成(株)製)
D−2:ステアリン酸アミド(商品名:ダイヤミッドAP−1、日本化成(株)製)
D−3:オレイン酸アミド(商品名:ダイヤミッドO−200、日本化成(株)製)
D−4:エルカ酸アミド(商品名:ダイヤミッドL−200、日本化成(株)製)
D−5:N,N−ジメチルオレイン酸アミド(商品名:テクスノールODM、日本乳化剤(株)製)
D−6:トール脂肪酸−N,N−ジメチルアミド(50%以上)+脂肪族アルコールエトキシレート(10〜30%)混合物(商品名:DMAD、バックマンラボラトリーズ(株)製)
D−7:トール脂肪酸−N,N−ジメチルアミド(90.1%)+エトキシ化ドデシルフェノール(9.9%)混合物(商品名:SPI−2400、バックマンラボラトリーズ(株)製)
D−8:D−5+ラウリルアルコールエトキシレート(商品名:アデカトールLB−83、(株)ADEKA製)混合物(D−5:ラウリルアルコールエトキシレート=9:1の混合物)
(比較例に用いたスケール抑制剤)
E−1:ネオペンチルグリコール(試薬:東京化成工業(株)製)
E−2:トリメチロールプロパン(試薬:東京化成工業(株)製)
E−3:ペンタエリスリトール(試薬:東京化成工業(株)製)
E−4:グリセリン(試薬:東京化成工業(株)製)
E−5:ポリエチレングリコール400(分子量400)(試薬:東京化成工業(株)製)
E−6:ポリエチレングリコール2000(分子量2000)(試薬:東京化成工業(株)製)
E−7:ポリアクリルアミド(分子量10000)(試薬:ポリアクリルアミド, MW10000,50%水溶液、和光純薬工業(株)製)
E−8:ポリエチレンイミン(分子量600)(商品名:エポミンSP−006、(株)日本触媒製)
E−9:エチレンビスステアリン酸アミド(試薬:N,N’―エチレンビスオクタデカンアミド、東京化成工業(株)製)
1.シリカスケール抑制試験(1)(実施例1〜19、比較例1〜5)
メタケイ酸ナトリウム5水和物を水に溶解して調製したシリカ500mg/L含む溶液を、H型強酸性イオン交換樹脂を充填したカラムに通水してオルトケイ酸溶液を調製し、これに塩化カルシウム溶液、硫酸マグネシウム溶液、重炭酸ナトリウム溶液を加えて、カルシウム硬度150mgCaCO3/L、マグネシウム硬度50mgCaCO3/L、重炭酸イオン濃度100mgCaCO3/L、シリカ濃度500mg/Lを含む溶液を調製した。この溶液に表1に示すスケール抑制剤をそれぞれ有効成分換算で25mg/L加え、更に、表1に示す濃度に従って、ポリ塩化アルミニウムをAlとして、また、硫酸第二鉄をFeとして0〜5mg/Lそれぞれ加えて、水酸化ナトリウム溶液でpHを8.5に調整して試験液とした。尚、比較例5の「無添加」はスケール抑制剤を添加しなかった例である。試験液を50℃で5日間静置した後、試験液を0.8μmのメンブランフィルターで濾過し、残留シリカ濃度を測定した。ここで、残留シリカ濃度は、以下の方法により測定した。試験結果を表1に示した。
[残留シリカ濃度測定方法]
試験液1mLをフッ素樹脂製丸底試験管に入れ、1mol/Lの水酸化ナトリウムを2mL加えた後、110℃に加温したホットブロックで20分間加熱した。次いで、1mol/L塩酸を2mL加え、試験管を20℃まで冷却後、JIS K0101のモリブデン黄法によりシリカ濃度を測定した。ここで測定される残留シリカ濃度はオルトケイ酸、オルトケイ酸イオン、ポリケイ酸イオン等の溶解性シリカとコロイダルシリカの合計濃度である。
2.シリカスケール抑制試験(2)(実施例20〜32、比較例6〜11)
試験液のシリカ濃度を500mg/Lに代えて400mg/Lとし、表1に示すスケール抑制剤に代えて、表2に示すスケール抑制剤をそれぞれ有効成分換算で2mg/L加えた以外は、シリカスケール抑制試験(1)と同様の試験を行った。尚、比較例11の「無添加」はスケール抑制剤を添加しなかった例である。結果を表2に示した。
シリカスケール抑制試験(1)及びシリカスケール抑制試験(2)において、残留シリカ濃度が高いほどシリカスケールの析出を抑制している。表1、表2の結果によって、本発明のシリカ系スケール抑制剤の優れたシリカスケール抑制効果が明確に示された。また、実施例29と実施例32の結果比較から、本発明のシリカ系スケール抑制剤の有効成分にノニオン界面活性剤を併用することによる相乗効果も確認された。
本発明のシリカ系スケール抑制剤は、冷却水系、ボイラ水系、紙パルプ製造工程水系、地熱発電水系等における、シリカ系スケールの析出抑制に利用することができ、また、アルミニウムイオン、鉄イオン、亜鉛イオン等の金属イオンが共存する水系におけるシリカ系スケールの析出抑制にも利用できる。