JP2015171346A - 精子の希釈液及びそれを用いた精子の保存方法 - Google Patents

精子の希釈液及びそれを用いた精子の保存方法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来よりも安価であり、安定した品質管理が可能であり、精子の品質を向上させることができ、高い受胎性を有する精子の保存に用いる希釈液及びそれを用いた精子の保存方法を提供することである。【解決手段】大豆レシチンを含み、pHが6.8〜7.4の水溶液であることを特徴とする精子の希釈液を用いて、精子を冷蔵又は凍結して保存することにより、保存後の精子の品質を向上させることができ、受胎性の高い精子の提供をすることができる。【選択図】図1

Description

本発明は、精子の希釈液及びそれを用いた精子の保存方法に関する。
家畜の効率的な生産や育種、希少動物の種の保存、不妊治療の目的等において、精子の保存が行われている。一般的に、精子は、その運動性や代謝を抑えるために、希釈液で希釈した後、冷蔵もしくは凍結して低温保存される。この保存方法は、精子の品質に影響し、受精能力や受胎性を左右すると考えられている。
例えば、家畜の効率的な生産や育種という観点から、牛の繁殖において、日本国では人工授精の普及率はほぼ100%になっている。しかしながら、牛の受胎率は、年々低下しており、例えば乳用牛では、1989年の初回授精の受胎率が62.4%、1〜3回授精の受胎率が62.0%であったところ、2011年では初回授精の受胎率が45.6%、1〜3回授精の受胎率が44.4%にまで低下している(非特許文献1)。このような問題を解決するために、精子の品質を向上させ、受胎率を高める技術が検討されている(特許文献1、非特許文献2)。
希釈液の組成を改良することで、精子の品質を向上させる試みもある(特許文献2〜4)。しかしながら、これらの改良によっても、フィールド受胎率を向上させる効果が十分ではないのが実情である。また、これまで検討されてきた希釈液の改良では、高価な試薬を用いる場合もあるため、結果的に従来の生産現場で使用されてきた希釈液よりコストが上昇することとなり、生産現場での採用は困難なものとなっている。
国際公開第2012/074060号 特開平10−7501号 特開2008−259506号公報 特開2013−78272号公報
社団法人家畜改良事業団 平成23年受胎調査成績 2013年 社団法人畜産技術協会 牛の人工授精マニュアル 2003年3月 Guthrieら、Biology of Reproduction 67, 1811−1816 (2002)
本発明が解決しようとする課題は、従来よりも安価であり、安定した品質管理が可能であり、精子の品質を向上させることができ、高い受胎性を有する精子の保存に用いる希釈液及びそれを用いた精子の保存方法を提供することである。
本発明者らは、精子保存用の希釈液について精子運動性、精子の生存かつアクロソーム正常性、体外受精による精子侵入率、人工授精による受胎率等の観点から鋭意研究を行った結果、大豆レシチンを含むpH6.8〜7.4の水溶液を用いることで、精子の品質が向上し、受胎性が高まることを見出して、本発明に到った。
したがって、本発明は、以下の発明を包含する:
[1] 大豆レシチンを含み、pHが6.8〜7.4の水溶液であることを特徴とする精子の希釈液。
[2] 前記pHは、7.0〜7.4であることを特徴とする[1]に記載の精子の希釈液。
[3] 前記水溶液は、浸透圧が230〜3414mmol/kgであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の精子の希釈液。
[4] 前記水溶液は、浸透圧が1199〜1809mmol/kgであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の精子の希釈液。
[5] 前記水溶液は、浸透圧が1247〜1575mmol/kgであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の精子の希釈液。
[6] 前記大豆レシチンは、濃度が0.15〜1.0%(w/v)であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の精子の希釈液。
[7] 前記大豆レシチンは、濃度が0.2〜0.4%(w/v)であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の精子の希釈液。
[8] 前記大豆レシチンは、濃度が0.25〜0.35%(w/v)であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の精子の希釈液。
[9] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の精子の希釈液を用いて、冷蔵又は凍結を行う精子の保存方法。
本発明によれば、大豆レシチンを含み、pHが6.8〜7.4の水溶液である精子の希釈液を精子の保存に用いることにより、保存後の精子の品質が高く、受胎性の高い精子の提供ができる。また、既存の希釈液と比較しても、コストを低減した精子の希釈液を提供することができる。希釈液を凍結して保存することもでき、安定した品質管理を行うこともできる。
従来の卵黄を用いた希釈液(現行希釈液)と大豆レシチンを用いた希釈液(大豆レシチン希釈液)について、コスト低減の効果を表1に示す。卵黄を用いる場合は、新鮮な鶏卵を消毒してから濾紙を用いて卵黄のみを採取する必要があり、調製にはより多くの時間と人力を要する。大豆レシチンを用いることにより、卵黄を用いた時よりも希釈液1リットルあたり393円のコスト低減効果があった。
Figure 2015171346
図1は、大豆レシチン希釈液のpHを6.6〜7.4の範囲で変更して牛精子を凍結保存し、融解した後の精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を示したグラフである。値は、平均値と標準偏差で示す(n=20)。精子活力はpH6.8〜7.4で、生存かつアクロソーム正常率はpH6.6〜7.4で現行希釈液よりも値が高いことが示される。 図2は、大豆レシチン希釈液の大豆レシチン濃度を0.2〜1.0%(w/v)の範囲で変更して牛精子を凍結保存し、融解後の精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を示したグラフである。値は、平均値で示す(n=8)。精子活力及び生存かつアクロソーム正常率は、共に、大豆レシチン濃度0.2〜1.0%(w/v)で現行希釈液よりも値が高いことが示される。 図3は、大豆レシチン希釈液の大豆レシチン濃度を0.1〜0.45%(w/v)の範囲で変更して牛精子を凍結保存し、融解後の精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を示したグラフである。値は、平均値で示す(n=6)。精子活力は大豆レシチン濃度0.15〜0.45%(w/v)で、生存かつアクロソーム正常率は大豆レシチン濃度0.1〜0.45%(w/v)で現行希釈液よりも値が高いことが示される。 図4は、大豆レシチン希釈液の大豆レシチン濃度を0.2〜0.4%(w/v)の範囲で変更して牛精子を凍結保存し、融解後の精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を示したグラフである。値は、平均値と標準偏差で示す(n=10)。精子活力及び生存かつアクロソーム正常率は、共に、大豆レシチン濃度0.2〜0.4%(w/v)で現行希釈液よりも値が高いことが示される。 図5は、大豆レシチン希釈液のグリセリン濃度を4.0〜8.5%(v/v)の範囲で変更して牛精子を凍結保存し、融解後の精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を示したグラフである。値は、平均値で示す(n=18)。精子活力はグリセリン濃度6.5〜7.5%(v/v)で、生存かつアクロソーム正常率はグリセリン濃度5.0〜8.5%(w/v)で現行希釈液よりも値が高いことが示される。 図6は、大豆レシチン希釈液のグリセリン濃度を4.0〜8.5%(v/v)の範囲で変更して牛精子を凍結保存し、融解後の精子入りの希釈液の浸透圧とグリセリン濃度との対応関係を示す。 図7は、大豆レシチン希釈液を用いた牛精子の凍結保存にあたり、4℃から凍結開始時点までの冷却時間を1〜4分に調整して比較した時の融解後の精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を示したグラフである。値は、平均値で示す(n=5)。精子活力は冷却時間2〜3分で、生存かつアクロソーム正常率は冷却時間1〜4分で現行希釈液よりも値が高いことが示される。 図8は、大豆レシチン希釈液を用いた牛精子の凍結保存にあたり、凍結開始時点から−100℃までの冷却時間を1〜4分に調整して比較した時の融解後の精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を示したグラフである。値は、平均値で示す(n=5)。精子活力は冷却時間2〜4分で、生存かつアクロソーム正常率は冷却時間1〜4分で現行希釈液よりも値が高いことが示される。 図9は、大豆レシチン希釈液による希釈開始から凍結までの4℃静置時間を3〜7時間に調整して牛精子を凍結保存し、融解後の精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を示したグラフである。値は、平均値で示す(n=4)。精子活力及び生存かつアクロソーム正常率は、共に、4℃静置時間3〜7時間の範囲で現行希釈液よりも値が高いことが示される。 図10は、市販希釈液、凍結保存した大豆レシチン希釈液、冷蔵保存した大豆レシチン希釈液を用いて牛精子を凍結保存し、融解後の精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を比較したグラフである。値は、平均値で示す(n=4)。精子活力及び生存かつアクロソーム正常率は、共に、凍結保存した大豆レシチン希釈液及び冷蔵保存した大豆レシチン希釈液を用いた時は、市販希釈液及び現行希釈液よりも値が高いことが示される。 図11は、12頭の種雄牛(3〜4ロット)について、大豆レシチン希釈液を用いて牛精子を凍結保存し、融解後の精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を比較したグラフである。値は、平均値と標準偏差で示す。精子活力及び生存かつアクロソーム正常率は、共に、大豆レシチン希釈液は現行希釈液よりも値が高いことが示される。 図12は、12頭の種雄牛(3〜4ロット)について、大豆レシチン希釈液を用いて牛精子を凍結保存し、融解後のインキュベーション直後、3時間、6時間後の精子活力を示したグラフである。値は、平均値と標準偏差で示す。精子活力及び生存かつアクロソーム正常率は、共に、すべてのインキュベーション時間において、大豆レシチン希釈液は現行希釈液よりも値が高いことが示される。 図13は、大豆レシチン希釈液を用いて牛精子を凍結保存し、融解後の体外受精試験による精子侵入率を示したグラフである。値は、平均値と標準偏差で示す。精子侵入率は、大豆レシチン希釈液と現行希釈液で遜色ないことが示される。 図14は、人工授精試験結果を示したグラフである。大豆レシチン希釈液を用いた場合の受胎率は、現行希釈液より向上することが示される。
本発明は、大豆レシチンを含み、pHが6.8〜7.4であることを特徴とする精子の希釈液及びそれを用いた精子の保存方法に関する。
本発明に供される精子は、任意の動物由来のものを用いることができる。動物は、例えば、ヒトを含む任意の哺乳動物、家畜動物、愛玩動物、動物園動物、実験動物が挙げられる。家畜動物として、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等が挙げられる。愛玩動物として、イヌ、ネコ、ウサギ等が挙げられる。動物園動物として、パンダ等の絶滅が恐れられている種等が挙げられる。実験動物として、マウス、ハムスター、ラット、ウニ、ヒトデ等が挙げられる。精子は、精巣、精巣上体、射出精液、幹細胞、精巣幹細胞、iPS細胞、培養細胞等由来の任意のものを用いることができる。これらの精子を取得する方法は、例えば、精巣由来の精子であれば精巣を採取し精子を吸い出す方法等、精巣上体由来の精子であれば精巣上体尾部等から精子を吸い出すもしくは掻き出す方法等、射出精液由来の精子であれば雌体内への射精後に回収する方法や電気刺激や人工腟を用いて採取する方法等、幹細胞、精巣幹細胞、iPS細胞、培養細胞由来の精子であれば細胞培養を行って回収する方法等が挙げられる。取得した精子は、取得直後の精漿に浮遊した精液の状態でも、一時的に任意の水溶液等で希釈または洗浄されていてもよい。
本発明の希釈液は、所望の浸透圧及びpHを達成できれば、大豆レシチン及び任意の物質を用いることができる。精子を冷蔵して保存する場合は、好ましくは、希釈液に緩衝剤、糖、大豆レシチン、抗生物質を含む。精子を凍結して保存する場合は、好ましくは、希釈液に緩衝剤、糖、大豆レシチン、抗生物質、耐凍剤を含む。
本発明の希釈液に用いられる緩衝剤は、所望のpHを達成する目的で使用する。緩衝剤として、中性付近に緩衝作用を持つ緩衝剤であれば任意のものを選択することができ、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、メス、ヘペス、テス、トリシン等のグッド緩衝剤、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液等が挙げられる。また、所望のpHに調整するため酸もしくはアルカリを用いることができる。酸は、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、アスコルビン酸等が挙げられる。アルカリは、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属水酸化物等が挙げられる。
本発明の希釈液に用いられる緩衝剤として、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン及びクエン酸を用いる場合は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン濃度は、好ましくは50〜200mM、さらに好ましくは80〜150mM、クエン酸濃度は好ましくは20〜80mM、さらに好ましくは25〜60mMである。
本発明の希釈液に用いられる糖は、精子の保存性を向上する目的で使用する。糖として、例えば、グルコース、キシロース、ラムロース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、メリビオース、ラフィノース、メレチロース、スタキオース、デキストリン、N−アセチル−D−グルコサミン、D−グルクロン酸等が挙げられる。
本発明の希釈液に用いられる糖として、例えばフルクトース、ラクトース及びラフィノースを用いる場合は、フルクトース濃度は好ましくは1〜50mM、さらに好ましくは5〜20mM、ラクトース濃度は好ましくは1〜100mM、さらに好ましくは20〜60mM、ラフィノース濃度は好ましくは10〜100mM、さらに好ましくは30〜70mMである。
本発明の希釈液に用いられる糖として、例えばスクロース及びラクトースを用いる場合は、スクロース濃度は好ましくは10〜150mM、さらに好ましくは30〜70mM、ラクトース濃度は好ましくは10〜150mM、さらに好ましくは30〜70mMである。
本発明の希釈液に用いられる大豆レシチンは、精子の保存性を向上する目的で使用する。大豆レシチンを用いることで、従来の希釈液で卵黄使用における問題であった安定した品質管理ができない点、調製に手間がかかる点、大きなコストが発生する点、鳥インフルエンザ等の病原性ウィルスを媒介する懸念がある点が解決できる。大豆レシチンの濃度は、好ましくは0.15〜1.0%(w/v)、さらに好ましくは0.2〜0.4%(w/v)、特に好ましくは0.25〜0.35%(w/v)である。
本発明の希釈液に用いられる抗生物質は、細菌の増殖を防ぐ目的で使用する。抗生物質として、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、ジベカシン等が挙げられる。
本発明の希釈液に用いられる耐凍剤は、凍結保存時の精子の耐凍能を向上する目的で使用する。耐凍剤として、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
本発明の希釈液のうち、耐凍剤を含まない希釈液を1次希釈液といい、耐凍剤を含む希釈液を2次希釈液という。ただし、最終希釈時に所望の耐凍剤濃度を達成できれば、任意の濃度の耐凍剤を含む希釈液を用いることができる。
本発明の希釈液に用いられる耐凍剤として、グリセリンを用いる場合は、好ましくは5.0〜8.5%(v/v)、さらに好ましくは6.0〜8.0%(v/v)、特に好ましくは6.5〜7.5%(v/v)である。
本発明の希釈液のpHの調整は、1若しくは2以上の緩衝剤、酸又はアルカリで行う。好ましくはpH6.8〜7.4の範囲で使用することができ、さらに好ましくはpH7.0〜7.4の範囲で使用する。pHは、pHメータを用いて測定することができる。
本発明の希釈液の浸透圧は、精子の運動活性及び受精活性が維持できる浸透圧であれば任意の浸透圧であってもよいが、通常は230〜3414mmol/kgである。下限の230mmol/kgは、非特許文献3の記載により、精子の運動活性を維持できる下限値として特定されている。上限の3414mmol/kgは、2次希釈液の浸透圧であり、凍結保存時に1次希釈液と混合した場合に精子の運動活性を維持できる上限値として特定されている。浸透圧は、溶質の濃度、解離度等から理論値を計算することもできるが、溶液を構成する物質の相互作用等を考慮して、浸透圧計(オズモメーター)を用いて測定される。
本発明の1次希釈液の浸透圧は、非特許文献3の記載により、好ましくは230〜400mmol/kg、さらに好ましくは250〜350mmol/kg、特に好ましくは260〜330mmol/kgである。
本発明の2次希釈液の浸透圧は、好ましくは2152〜3414mmol/kg、さらに好ましくは2349〜2957mmol/kgである。凍結保存した精液の融解直後の浸透圧は、好ましくは1199〜1809mmol/kg、さらに好ましくは1247〜1575mmol/kgである。
本発明の精子の保存方法は、上記の希釈液に精子を懸濁し、冷蔵保存又は凍結保存を行うことである。精子の冷蔵保存とは、18℃以下であり凍らない程度の低温に精子を保存することをいう。精子の凍結保存とは、耐凍剤を含む本発明の希釈液を用いて精子を希釈した後、凍結して保存することをいう。例えば、牛精子を凍結保存する場合は、非特許文献2の方法に従って行う。
以下に実施例を挙げて、本発明の精子の希釈液及びそれを用いた精子の保存方法を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものでなく、本発明の技術分野において通常の変更をすることができる。
実施例1.大豆レシチン希釈液の調製例
12.1gのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(和光純薬工業)、6.5gのクエン酸一水和物(和光純薬工業)、2.6gのクエン酸3ナトリウム2水和物(和光純薬工業)、29.7gのラフィノース5水和物(和光純薬工業)、14.4gのラクトース(和光純薬工業)、3.6gのフルクトース(和光純薬工業)、60万UのペニシリンGカリウム(万有製薬)、0.6g(力価)のストレプトマイシン(明治製菓)を加え、3.0gの大豆レシチン(和光純薬工業)を加えて蒸留水で860mlにメスアップして1次希釈液を得た。1次希釈液に140mlのグリセリン(和光純薬工業)を加えて2次希釈液を得た。浸透圧は、蒸気圧法オズモメーター5520型(Wescor社)で測定し、25℃で1次希釈液が269mmol/kgであり、2次希釈液が2756mmol/kgであった。pHは、pHメータ(HORIBA社)で測定し、25℃で1次希釈液が7.20であり、2次希釈液が7.20であった。
実施例2.冷蔵保存精液の作製例
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の種雄牛から採取した精子に対して、12.1gのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、6.5gのクエン酸一水和物、2.6gのクエン酸3ナトリウム2水和物、29.7gのラフィノース5水和物、14.4gのラクトース、3.6gのフルクトース、60万UのペニシリンGカリウム、0.6g(力価)のストレプトマイシンを加え、3.0gの大豆レシチンを加えて蒸留水で860mlにメスアップした1次希釈液で5千万精子/mlになるように希釈し、4℃で冷蔵保存した。保存した精子入りの希釈液の浸透圧は290mmol/kg、pHは7.10であった。このような保存を行うことで、1週間程度、精子の品質を良好なまま維持することができた。
実施例3.凍結精液の作製例
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の種雄牛から採取した精子に対して、12.1gのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、6.5gのクエン酸一水和物、2.6gのクエン酸3ナトリウム2水和物、29.7gのラフィノース5水和物、14.4gのラクトース、3.6gのフルクトース、60万UのペニシリンGカリウム、0.6g(力価)のストレプトマイシンを加え、3.0gの大豆レシチンを加えて蒸留水で860mlにメスアップした1次希釈液で1億精子/mlになるように希釈し、1次希釈液に140mlのグリセリンを加えた2次希釈液を用いて、最終グリセリン濃度が7.0%になるように常法に従って5千万精子/mlになるように希釈した。希釈開始から凍結までの4℃静置は、5時間行った。2次希釈した精子を綿栓入りのプラスチック製ストロー(富士平工業、0.5ml細133型)に注入し、注入口を熱圧着により密封し、人工授精用のストローを作製した。これらの人工授精用ストローは、液体窒素蒸気中で常法に従って凍結を行い、液体窒素中に保存した。融解後の精子の入った希釈液は、浸透圧が1424mmol/kgであり、pHが7.13であった。このような凍結保存を行うことで、半永久的に、精子の品質を良好なまま維持することができた。
実施例4.希釈液のpHの違いが凍結融解後の精子運動性及び生存かつアクロソーム正常性に及ぼす影響
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の種雄牛から採取した精子に対して、酸又はアルカリを用いてpHを6.6〜7.4の0.2刻みで調整した実施例3に記載の1次希釈液で1億6千万精子/mlになるように希釈し、各々の1次希釈液にグリセリンを加えた2次希釈液を用いて、最終グリセリン濃度が7%になるように常法に従って8千万精子/mlになるように希釈した。対照区は、特許文献1に記載の一般社団法人家畜改良事業団が作製し販売する凍結精液の作製で用いられている最終グリセリン濃度が6.5%の現行希釈液とした。これらの希釈液からなる人工授精用ストローを作製し、凍結は常法に従って液体窒素を用いて行った。常法に従って融解した人工授精用ストローの中身をポリスチレンコニカルチューブに全量移し入れ、よく撹拌後、特許文献1に記載の精子洗浄液を用いて室温で5分間、2000rpmで2回遠心洗浄を行った。精子運動性は、精子運動解析装置Ceros(Hamilton Thorne)を用いて38℃において測定し、1秒間に50μm以上動いた精子の割合(精子活力(%))で示した。生存し、かつアクロソームが正常な精子の割合は、洗浄した精子を1000万/mlに調整し、2μg/mlのPI(Sigma)及び2μg/mlのPNA−FITC(Sigma)を加えて25℃で10分間インキュベーションし、フローサイトメーター(Cell Lab Quanta SC、ベックマン)を用いて、1サンプルあたり2万個の精子を検査し、PIで染色されない精子を生存精子と判定し、PNA−FITCで染色されない精子をアクロソーム正常精子と判定して示した。測定結果を図1に示す。pH6.8〜7.4の範囲で現行希釈液と比較して遜色のない精子の品質が担保され、精子運動性の観点からpH7.0〜7.4の範囲が特に好ましかった。
実施例5.大豆レシチン濃度の違いによる凍結融解後の精子運動性及び生存かつアクロソーム正常性に及ぼす影響
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の種雄牛から採取した精子に対して、大豆レシチンを0.15〜1.0%(w/v)の濃度になるように調整した実施例3に記載の1次希釈液で1億6千万精子/mlになるように希釈し、各々の1次希釈した精液はグリセリンを加えた2次希釈液を用いて最終グリセリン濃度が7.0%になるように常法に従って希釈した。対照区は、実施例4に記載の最終グリセリン濃度が6.5%の現行希釈液とした。これらの希釈液からなる人工授精用ストローを作製し、凍結は常法に従って液体窒素を用いて行った。常法に従って融解し、精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を実施例4に記載の方法に従って測定した。測定結果を図2〜図4に示す。図2より好ましい大豆レシチン濃度は0.15〜1%(w/v)であり、図3よりさらに好ましい大豆レシチン濃度は0.2〜0.4%(w/v)であり、図4より最も好ましい大豆レシチン濃度は0.3%(w/v)であった。
実施例6.大豆レシチンを用いた希釈液のグリセリン濃度の違いが凍結融解後の精子運動性及び生存かつアクロソーム正常性に及ぼす影響
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の種雄牛から採取した精子に対して、実施例3に記載の1次希釈液で1億6千万精子/mlになるように希釈し、1次希釈液に異った量のグリセリンを加えた2次希釈液を用いて、最終グリセリン濃度が4.0〜8.5%になるように常法に従って希釈した。対照区は、実施例4に記載の最終グリセリン濃度が6.5%の現行希釈液とした。これらの希釈液からなる人工授精用ストローを作製し、凍結は常法に従って液体窒素を用いて行った。常法に従って融解し、精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を実施例4に記載の方法に従って測定した。測定結果を図5に示す。また、希釈液の浸透圧は主にグリセリン濃度に影響を受けるため、凍結融解後の精子入りの希釈液の浸透圧とグリセリン濃度との対応関係を図6に示す。好ましくは、グリセリン濃度は5.5〜8.5%、凍結融解後の精子入りの希釈液の浸透圧は1199〜1809mmol/kg、さらに好ましくはグリセリン濃度6.0〜7.5%、凍結融解後の精子入りの希釈液の浸透圧は1247〜1575mmol/kgであった。
実施例7.大豆レシチン希釈液を用いて作製した人工授精用ストローの4℃から凍結開始までの冷却時間の違いが凍結融解後の精子運動性及び生存かつアクロソーム正常性に及ぼす影響
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の種雄牛から採取した精子に対して、実施例3に記載の1次希釈液で1億6千万精子/mlになるように希釈し、1次希釈液にグリセリンを加えた2次希釈液を用いて、最終グリセリン濃度が7.0%になるように常法に従って希釈した。これらの希釈液からなる人工授精用ストローを作製し、凍結は常法に従って液体窒素を用いて行った。凍結保存では、4℃から凍結開始時点までの冷却時間を1〜4分の1分刻みに調整し、凍結開始時点から−100℃までの冷却時間は一律3分とした。常法に従って融解し、精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を実施例4に記載の方法に従って測定した。測定結果を図7に示す。好ましい4℃から凍結開始時点までの冷却時間は、2〜3分であった。
実施例8.大豆レシチン希釈液を用いて作製した人工授精用ストローの凍結開始から−100℃までの時間の違いが凍結融解後の精子運動性及び生存かつアクロソーム正常性に及ぼす影響
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の種雄牛から採取した精子に対して、実施例3に記載の1次希釈液で1億6千万精子/mlになるように希釈し、1次希釈液にグリセリンを加えた2次希釈液を用いて、最終グリセリン濃度が7.0%になるように常法に従って希釈した。これらの希釈液からなる人工授精用ストローを作製し、凍結は常法に従って液体窒素を用いて行った。凍結保存では、4℃から凍結開始までの時間を一律3分とし、凍結開始から−100℃までの時間は1〜4分の1分刻みに調整した。常法に従って融解し、精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を実施例4に記載の方法に従って測定した。測定結果を図8に示す。好ましい凍結開始から−100℃までの時間は、2〜4分であった。
実施例9.大豆レシチン希釈液を用いて作製した凍結精液の融解時間の影響
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の種雄牛から採取した精子に対して、実施例3に記載の1次希釈液で1億6千万精子/mlになるように希釈し、1次希釈液にグリセリンを加えた2次希釈液を用いて、最終グリセリン濃度が7.0%になるように常法に従って希釈した。これらの希釈液からなる人工授精用ストローを作製し、凍結は常法に従って液体窒素を用いて行った。この凍結精液の融解は、常法に従って38℃の温湯中で行った。融解に要する時間を測定したところ、対照区(現行希釈液)が平均12秒であったの対し、大豆レシチンを用いた希釈液では平均13.4秒であった(n=20)。
実施例10.1次希釈液を用いて精液を希釈した後の4℃静置時間の違いが凍結融解後の精子運動性及び生存かつアクロソーム正常性に及ぼす影響
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の種雄牛から採取した精子に対して、実施例3に記載の1次希釈液で1億6千万精子/mlになるように希釈し、1次希釈液にグリセリンを加えた2次希釈液を用いて、最終グリセリン濃度が7.0%になるように常法に従って希釈した。対照区は、実施例4に記載の最終グリセリン濃度が6.5%の現行希釈液とした。希釈開始から凍結までの4℃静置時間は、3〜7時間の1時間刻みに調整した。これらの希釈液からなる人工授精用ストローを作製し、凍結は常法に従って液体窒素を用いて行った。常法に従って融解し、精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を実施例4に記載の方法に従って測定した。測定結果を図9に示す。好ましい4℃静置時間は、3〜7時間であり、さらに好ましくは3〜6時間であり、特に好ましくは4〜6時間であった。
実施例11.市販希釈液、冷蔵大豆レシチン希釈液及び凍結大豆レシチン希釈液を用いて作製した凍結精液の融解後の精子運動性及び生存かつアクロソーム正常性の比較
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の種雄牛から採取した精子に対して、実施例3に記載の1次希釈液で1億6千万精子/mlになるように希釈し、1次希釈液(冷蔵保存のもの及び凍結保存のもの)にグリセリンを加えた2次希釈液を用いて、最終グリセリン濃度が7.0%になるように常法に従って希釈した。比較例は、卵黄を含まない市販希釈液(pH6.72、浸透圧1456mmol/kg)とし、添付のプロトコルに従って希釈を行った。対照区は、実施例4に記載の最終グリセリン濃度が6.5%の現行希釈液とした。これらの希釈液を用いて人工授精用ストローを作製し、凍結は常法に従って液体窒素を用いて行った。常法に従って融解し、精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を実施例4に記載の方法に従って測定した。測定結果を図10に示す。冷蔵保存及び凍結保存した大豆レシチン希釈液を用いた場合、凍結融解後の精子の品質は殆ど変わらなかった。市販希釈液と比較しても、精子活力及び生存かつアクロソーム正常率は、大豆レシチン希釈液の方が優れていた。
実施例12.大豆レシチン希釈液及び現行希釈液を用いて作製した凍結精液の融解後の精子運動性及び生存かつアクロソーム正常性、並びにインキュベーション後の精子運動性の比較
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の12頭の種雄牛から採取した精子に対して、実施例3に記載の1次希釈液で1億6千万精子/mlになるように希釈し、1次希釈液にグリセリンを加えた2次希釈液を用いて、最終グリセリン濃度が7.0%になるように常法に従って希釈した。対照区は、実施例4に記載の最終グリセリン濃度が6.5%の現行希釈液とした。これらの希釈液からなる人工授精用ストローを作製し、凍結は常法に従って液体窒素を用いて行った。常法に従って融解し、精子活力及び生存かつアクロソーム正常率を実施例4に記載の方法に従って測定した。各種雄牛について、3〜4ロット分反復して実験を行った。測定結果を図11に示す。精子活力及び生存かつアクロソーム正常率は、大豆レシチン希釈液の方が高い値であった。また、特許文献1に記載の精子洗浄液を用いてインキュベーションした後の測定結果を図12に示す。洗浄直後、インキュベーション3時間及び6時間後の精子活力は、いずれも大豆レシチン希釈液の方が高い値であった。
実施例13.大豆レシチン希釈液を用いて作製した凍結精液の体外受精成績
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の種雄牛から採取した精子に対して、実施例3に記載の1次希釈液で1億6千万精子/mlになるように希釈し、1次希釈液にグリセリンを加えた2次希釈液を用いて、最終グリセリン濃度が7.0%になるように常法に従って希釈した。対照区は、実施例4に記載の最終グリセリン濃度が6.5%の現行希釈液とした。これらの希釈液からなる人工授精用ストローを作製し、凍結は常法に従って液体窒素を用いて行った。常法に従って融解し、常法に従って体外受精試験を行い、精子侵入率を測定した。測定結果を図13に示す。大豆レシチン希釈液は90%以上の精子侵入率を示し、精子の卵子への侵入能力には問題ないことが示された。
実施例14.本発明の大豆レシチン希釈液を用いて作製した凍結精液の人工授精による受胎率
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の乳用牛1頭及び肉用牛1頭の種雄牛から採取した精子に対して、実施例3に記載の1次希釈液で1億精子/mlになるように希釈し、1次希釈液にグリセリンを加えた2次希釈液を用いて、最終グリセリン濃度が7.0%になるように希釈した(試験区)。対照区は、実施例4に記載の最終グリセリン濃度が6.5%の現行希釈液とした。これらの希釈液からなる人工授精用ストローを作製し、凍結は常法に従って液体窒素を用いて行った。常法に従って融解した人工授精用ストローを注入器に装填し、明瞭な発情を示した雌牛に人工授精した。受胎の確認は、ノンリターン法又は胎膜触知法(60日)で行い、受胎率を測定した。測定結果は図14に示す。乳用牛の受胎率は試験区53.3%(n=45)及び対照区51.2%(n=41)、肉用牛では試験区62.5%(n=24)及び対照区52.0%(n=25)、全体では試験区56.5%及び対照区51.5%であり、試験区の受胎率は対照区より優れていた。また、非特許文献1の記載による初回授精の受胎率は、乳用牛が45.6%及び肉用牛が58.4%であり、試験区はその値を上回っており、大豆レシチン希釈液はフィールド受胎率の向上に寄与することが推察された。
本発明の大豆レシチン希釈液は、従来の希釈液と比較して安価に調製できるため、精子保存の生産コストを低減することができる。また、卵黄を用いた希釈液と異なり、トリインフルエンザ等のウィルスを媒介することもないため、安全性の高い精子を供給できるようになる。さらに、本発明の希釈液を利用することにより、精子の品質を向上させ、高受胎性の精子を供給できるようになり、フィールドでの効率的な子牛生産が可能となることが期待できる。

Claims (7)

  1. 大豆レシチンを含み、pHが6.8〜7.4の水溶液であることを特徴とする精子の希釈液。
  2. 前記pHは、7.0〜7.4であることを特徴とする請求項1に記載の精子の希釈液。
  3. 前記水溶液は、浸透圧が1199〜1809mmol/kgであることを特徴とする請求項1又は2に記載の精子の希釈液。
  4. 前記水溶液は、浸透圧が1247〜1575mmol/kgであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の精子の希釈液。
  5. 前記大豆レシチンは、濃度が0.15〜1.0%(w/v)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の精子の希釈液。
  6. 前記大豆レシチンは、濃度が0.2〜0.4%(w/v)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の精子の希釈液。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の精子の希釈液を用いて、冷蔵又は凍結を行う精子の保存方法。
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