JP2015170445A - 質量分析装置及び質量分析方法 - Google Patents

質量分析装置及び質量分析方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2015170445A
JP2015170445A JP2014043872A JP2014043872A JP2015170445A JP 2015170445 A JP2015170445 A JP 2015170445A JP 2014043872 A JP2014043872 A JP 2014043872A JP 2014043872 A JP2014043872 A JP 2014043872A JP 2015170445 A JP2015170445 A JP 2015170445A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
ions
ion
flight
ion trap
mass
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2014043872A
Other languages
English (en)
Inventor
孝輔 細井
Kosuke Hosoi
孝輔 細井
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Shimadzu Corp
Original Assignee
Shimadzu Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Shimadzu Corp filed Critical Shimadzu Corp
Priority to JP2014043872A priority Critical patent/JP2015170445A/ja
Publication of JP2015170445A publication Critical patent/JP2015170445A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Landscapes

  • Electron Tubes For Measurement (AREA)

Abstract

【課題】イオントラップを用いたMSn分析と、イオントラップにイオンを捕捉しない通常の質量分析と、を選択的に行うことが可能な質量分析装置において、測定のスループットの一層の向上を図る。【解決手段】MSn分析のために、イオントラップ内に捕捉したイオンに対しプリカーサイオン選択・分離操作及びCIDによる解離操作を実施したあと、該イオントラップ内にクーリングガスを導入してイオンをクーリングする。そのクーリング操作の実行中に、サンプル12にレーザ光を照射し、サンプル12から生成されたイオンを加速する。加速されたイオンはイオントラップ内を通過し、フライトチューブ31内空間を飛行する間に質量分離されて検出器32に達する。それにより、MSn分析のためのイオン操作中に同一又は別のサンプルに対する通常の質量分析を実行しマススペクトルを取得することができる。【選択図】図1

Description

本発明は質量分析装置及び質量分析方法に関し、さらに詳しくは、イオントラップと飛行時間型質量分析器とを備える質量分析装置及び該質量分析装置を用いた質量分析方法に関する。
近年、ペプチド、糖鎖、脂質などの生体由来の物質の同定や構造解析を行うために、イオンを複数段階に解離させることが可能であるイオントラップと、高精度、高感度の質量分析が可能である飛行時間型質量分析計(TOFMS)と、を組み合わせたイオントラップ飛行時間型質量分析装置(以下「IT−TOFMS」と称す)が広く利用されている。
一般的なIT−TOFMSでは、マトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)法等によるイオン源により生成された試料成分由来のイオンをイオントラップに一旦捕捉し、そのあと、イオントラップにおいてプリカーサイオンの選択・分離、プリカーサイオンに対する衝突誘起解離(CID)などによる解離操作を実施する。そして、解離操作により生成されたプロダクトイオンをイオントラップから射出してTOFMSに導入し、TOFMSにおいてイオンを質量電荷比に応じて分離して検出する。イオントラップにおいてプリカーサイオンの選択・分離、プリカーサイオンに対する解離操作を複数回繰り返すことで、nが3以上のMSn分析を行うことができ、分子量が大きな化合物についても、その化合構造を反映した断片の情報を収集することができる。
このように一般的なIT−TOFMSは、大きな分子の構造解析に有用な情報を収集することができるという利点がある。その反面、イオンを解離させない通常の質量分析を実行する場合であっても、イオン源で生成されたイオンをイオントラップに一旦捕捉し、捕捉したイオンが持つエネルギを十分に減衰させるようなクーリング操作を行ったあとに、イオンをイオントラップから射出して質量分析を行う必要がある。そのため、イオントラップを用いずイオン源で生成されたイオンを飛行空間に直接導入する質量分析装置に比べると、測定に時間が掛かることが避けられない。また、イオントラップには捕捉可能な質量電荷比範囲に原理的な制約があるため、1回の測定により得られるマススペクトルの質量電荷比範囲は狭い。そのため、幅広い質量電荷比範囲のマススペクトルを取得したい場合には、イオントラップに捕捉される質量電荷比範囲を変えながら複数回の測定を繰り返し実行する必要がある。このため、イオントラップを備えないTOFMS並みの質量電荷比範囲の測定を行おうとすると、測定時間はかなり長くなってしまい、分析のスループットが低くなる。
分析現場では、分析の目的や分析対象である試料の種類などによって、分析のスループットや測定可能な質量電荷比範囲の広さなどを重視した単純な質量分析と、複雑な化合物の構造解析のためのMS分析とを選択的に行いたいことがしばしばある。こうした要望に応える装置として、従来、特許文献1に記載のIT−TOFMSが知られている。このIT−TOFMSでは、イオン源で生成され加速されたイオンが、イオントラップのイオン入射孔及びイオン出射孔を通過し得るように、イオン加速部と飛行時間型質量分析器との間にイオントラップを配置している。そして、イオントラップ内に高周波電場を形成せずに、イオン源で生成されイオン加速部で加速されたイオンがイオントラップの内部空間及び飛行時間型質量分析器のフライトチューブ内空間を含む飛行空間を飛行してイオン検出器に到達するまでの飛行時間を計測する第1の分析モードと、イオン源で生成されたイオンをイオントラップ内に導入して高周波電場によりイオントラップ内に一旦捕捉し、その捕捉したイオンに対するCIDなどの所定の操作をイオントラップ内で実行したあとに、イオン出射孔を通してイオンを射出して飛行時間型質量分析器のフライトチューブ内空間を飛行させイオン検出器に到達するまでの飛行時間を計測する第2の分析モードと、を1台の装置で切り替えて実行できるようにしている。
このIT−TOFMSにおいて、第1の分析モードでは、イオンはイオントラップ内を素通りするだけなので、相対的に短い時間で以て、広い質量電荷比範囲のマススペクトルを取得することができる。一方、第2の分析モードでは、イオンをイオントラップに捕捉して各種操作を行うため、測定時間は掛かるものの、複雑な分子構造の解析に有用なMSnスペクトルを取得することができる。
特開2011−175897号公報
古橋 治、ほか3名、「デジタルイオントラップ質量分析装置の開発」、島津評論、第62巻、第3・4号、2006年3月31日発行
プロテオミクスなどの生命工学、医療、医薬品開発などの分野では、複雑な化合物の同定や構造解析に一層の効率化、スピードアップが求められており、上記のような質量分析を用いた測定にも一層の時間短縮が求められている。上記IT−TOFMSでは1台の装置において、短い測定時間での質量分析(MS1分析)とMSn分析とを選択的に行うことが可能であるものの、それらを両方実行する場合にはそれぞれの測定の所要時間を合算した時間が掛かることが避けられず、測定時間の短縮には限界がある。
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、イオンの解離を伴わない通常の質量分析とMSn分析との両方を行いたい場合における測定の効率を、一層高めることができるIT−TOFMS及び該装置を用いた質量分析方法を提供することである。
上記課題を解決するためになされた本発明に係る質量分析装置は、試料からパルス状にイオンを生成するイオン化部と、該イオン化部で生成されたイオンを加速するイオン加速部と、イオン捕捉空間を形成する複数の電極からなり、該イオン捕捉空間へイオンを導入するイオン入射口と該イオン捕捉空間からイオンを導出するイオン射出口とが一直線上に設けられたイオントラップと、質量電荷比に応じてイオンを分離する飛行空間を内部に形成するフライトチューブと、該フライトチューブ内の飛行空間を飛行して来たイオンを検出する検出部と、を具備し、前記イオン化部で生成され前記イオン加速部で加速されたイオンが前記検出部に到達するまでのイオンの飛行軌道が前記イオン入射口及び前記イオン射出口を貫通するように、前記イオントラップが前記イオン加速部と前記フライトチューブとの間に配設されてなる質量分析装置において、
前記イオン化部で生成されたイオンを前記イオントラップに導入して高周波電場により一旦捕捉し、その捕捉したイオンに対するクーリング操作を含む所定の操作を該イオントラップ内で行った後に、前記イオン射出口を通してイオンを射出し前記フライトチューブで質量分離を行って前記検出部により検出する、という一連の分析動作の中で、前記イオントラップ内に捕捉されているイオンに対するクーリング操作を実行しているときに、前記イオン化部で試料からイオンを生成して該イオンを前記イオン加速部で加速し、その加速されたイオンが前記イオントラップの内部空間及び前記フライトチューブ内空間を含む飛行空間を飛行して前記検出部に到達するまでの飛行時間を計測するように各部の動作を制御する制御部、を備えることを特徴としている。
また上記課題を解決するためになされた本発明に係る質量分析方法は、試料からパルス状にイオンを生成するイオン化部と、該イオン化部で生成されたイオンを加速するイオン加速部と、イオン捕捉空間を形成する複数の電極からなり、該イオン捕捉空間へイオンを導入するイオン入射口と該イオン捕捉空間からイオンを導出するイオン射出口とが一直線上に設けられたイオントラップと、質量電荷比に応じてイオンを分離する飛行空間を内部に形成するフライトチューブと、該フライトチューブ内の飛行空間を飛行して来たイオンを検出する検出部と、を具備し、前記イオン化部で生成され前記イオン加速部で加速されたイオンが前記検出部に到達するまでのイオンの飛行軌道が前記イオン入射口及び前記イオン射出口を貫通するように、前記イオントラップが前記イオン加速部と前記フライトチューブとの間に配設されてなる質量分析装置、を用いた質量分析方法であって、
前記イオン化部で生成されたイオンを前記イオントラップに導入して高周波電場により一旦捕捉し、その捕捉したイオンに対するクーリング操作を含む所定の操作を該イオントラップ内で行った後に、前記イオン射出口を通してイオンを射出し前記フライトチューブで質量分離を行って前記検出部により検出する、という一連の分析動作の中で、前記イオントラップ内に捕捉されているイオンに対するクーリング操作を実行しているときに、前記イオン化部で試料からイオンを生成して該イオンを前記イオン加速部で加速し、その加速されたイオンが前記イオントラップの内部空間及び前記フライトチューブ内空間を含む飛行空間を飛行して前記検出部に到達するまでの飛行時間を計測することを特徴としている。
本発明に係る質量分析装置において、イオン化部はパルス的にイオンを生成可能なイオン化法を用いたものであればよく、MALDI法のほか、例えば、マトリクスを用いずにレーザ光を直接試料に照射してイオン化を行うレーザ脱離イオン化法、帯電液滴を試料に吹き付けてイオン化を行う脱離エレクトロスプレイイオン化法、プラズマ流を試料に照射してイオン化を行うプラズマ脱離イオン化法などによるイオン源でもよい。
また、フライトチューブの内部に形成される飛行空間は、直線的にイオンを飛行させるリニア型、イオンを折返し飛行させるリフレクトロン型、イオンを略同一の周回軌道又は反射軌道に沿って複数回飛行させるマルチターン型、など、いずれでもよく、またリニアモードとリフレクトロンモードとが切り替え可能であるリニア/リフレクロトン型でもよい。周知のようにリニア/リフレクロトン型では直線飛行したイオンを検出する検出器と折返し飛行したイオンを検出する検出器とが独立に設けられるから、この場合、前記検出部はこの2個の検出器を含むものとする。
また、イオントラップは典型的には、リング電極と一対のエンドキャップ電極とを含む三次元四重極型イオントラップであるが、リニア型イオントラップでもよい。
本発明に係る質量分析装置及び該装置を用いた質量分析方法において、例えばnが2以上であるMSn分析を行う際には、制御部の制御の下に、イオン化部は試料中の化合物をイオン化し、イオン加速部はその生成されたイオンを適宜加速して、イオン入射口を通してイオントラップに導入する。イオントラップを構成する複数の電極のうちの少なくとも1つには高周波電圧が印加され、これにより形成される高周波電場により、イオンはイオントラップ内に一旦捕捉される。そのあと、イオントラップを構成する複数の電極の少なくとも1つに所定の電圧が印加されることで、特定の質量電荷比を有する又は所定の質量電荷比幅に含まれるイオンがプリカーサイオンとしてイオントラップ内に選択的に残され、さらに外部からイオントラップ内にCIDガスが供給されるとともにプリカーサイオンが共鳴励振されることで、プリカーサイオンが解離する。
こうして生成されたプロダクトイオンがイオントラップからフライトチューブに向けて射出される前には、イオンの出発位置のばらつきを小さくするとともに、各イオンが有する初期エネルギのばらつきを小さくするために、所定時間のクーリング操作が実行される。このクーリング操作の実行中に、制御部の制御の下で、イオン化部は試料中の化合物をイオン化し、イオン加速部はその生成されたイオンを加速する。このときイオン化される試料は先の試料と同じでも別の試料でも構わない。加速されたイオンはイオン入射口を経てイオントラップ内に入って進行し、そのままイオン射出口を経てイオントラップ外へと出てフライトチューブに入射する。つまり、イオントラップ内空間、フライトチューブ内空間を含む飛行空間を飛行して、最終的に検出部に到達する。そこで、イオンのこの飛行時間を計測することで、該イオンの質量電荷比が求まる。
なお、このとき、つまり先にイオントラップ内に捕捉していたイオンのクーリング操作中には、イオントラップ内に多数のイオンが存在しており、そのイオンが存在する空間を、後からイオン加速部で加速されイオントラップに送り込まれたイオンが通過することになる。しかしながら、その空間の大きさに対して衝突断面積は遙かに小さいので、両者が衝突する確率はきわめて小さく、それぞれのイオンの損失は殆ど無視できる。
イオントラップ内でイオンに対するクーリング操作が終了したならば、制御部の制御の下に、イオントラップ内のイオンに所定の運動エネルギが付与されてイオン射出口を通してイオントラップから一斉に射出され、フライトチューブ内へと送り込まれる。そして、フライトチューブ内の飛行空間を飛行する間にイオンは質量電荷比に応じて分離され最終的に検出部に到達する。このときのイオンの飛行時間を計測することで、イオントラップ内での解離操作によって生成されたプロダクトイオンの質量電荷比を求めることができる。
以上のように本発明に係る質量分析装置及び質量分析方法では、MSn分析のためにイオントラップ内に捕捉したイオンに対するクーリング操作を行っている期間中、つまりはMSn分析の一連の動作の途中で、同一試料又は別の試料から生成したイオンに対する解離を伴わない質量分析を実行することができる。
また本発明に係る質量分析装置において、好ましくは、前記制御部が、
前記イオントラップ内に高周波電場を形成せずに、前記イオン加速部で加速されたイオンが前記イオントラップの内部空間及び前記フライトチューブ内空間を含む飛行空間を飛行して前記検出部に到達するまでの時間を計測する第1の分析モードと、
前記イオン化部で生成されたイオンを前記イオントラップに導入して高周波電場により一旦捕捉し、その捕捉したイオンに対する所定の操作を該イオントラップ内で行った後に、前記イオン射出口を通してイオンを射出し前記フライトチューブで質量分離を行って前記検出部により検出する第2の分析モードと、
該第2の分析モードにおける一連の分析動作の中で、クーリング操作を実行しているときに、前記イオン化部で試料からイオンを生成して該イオンを前記イオン加速部で加速し、その加速されたイオンが前記イオントラップの内部空間及び前記フライトチューブ内空間を含む飛行空間を飛行して前記検出部に到達するまでの飛行時間を計測する第3の分析モードと、
を選択的に実行するように各部を制御する構成とするとよい。
この構成では、高い精度、感度で通常の質量分析を行いたい場合には第1の分析モード、MSn分析のみを行いたい場合には第2の分析モード、通常の質量分析とMSn分析との両方をできるだけ高いスループットで行いたい場合には第3の分析モードと、目的に応じて使い分けることができる。
なお、第1の分析モードでは、イオントラップ内をフライトチューブ内空間と同様に高真空雰囲気にしておくことができるが、第3の分析モードでは、クーリングガスが充満している状態のイオントラップ内空間に、イオン加速部により加速したイオンを通過させる。そのため、同じ質量電荷比を持つイオンでも、クーリングガスの影響により飛行時間に差が生じる可能性があるし、その影響の度合いは質量電荷比によって異なる可能性がある。そこで、それぞれの条件の下で飛行時間を質量電荷比値に換算する校正情報を求めておくようにするとよい。
また、第1の分析モードでは、イオントラップ内に高周波電場が存在しないのに対し、第3の分析モードでは、イオントラップ内にイオンを捕捉するための高周波電場が存在する状態で、イオン加速部により加速されたイオンをイオントラップ中に通過させる必要がある。この高周波電場は周期的に強度が変化する電場であり、イオン加速部で略同時に加速されたイオンがイオントラップを通過するタイミングは質量電荷比によって異なる。そのため、イオントラップを通過するイオンが該イオントラップにおいて高周波電場により受ける力の強さや方向は、イオンの質量電荷比により相違する。その影響が問題となる場合には、質量電荷比に応じた高周波電場の影響の相違を考慮した校正を行うようにするとよい。
例えば、イオントラップとして、その各電極に印加する高周波電圧を矩形波電圧としたデジタルイオントラップ(非特許文献1参照)を使用する場合には、イオン加速部でイオンを加速するタイミングを、クーリング操作の際にイオントラップの電極に印加する矩形波電圧の立ち上がり、立ち下がりなど特定のタイミングに定めておく。そして、その条件の下で、質量電荷比値と補正情報との関係を、高周波電圧である矩形波電圧の周波数毎に実装置により求め、これを予め装置の記憶部などに記憶しておく。このときの補正情報には、その質量電荷比を有するイオンが受ける高周波電場の影響が反映されている。そして、実際の測定時には、クーリング操作の際にイオントラップの電極に印加する矩形波電圧の周波数に応じた情報を記憶部から読み出し、分析対象のイオンの質量電荷比毎に補正情報を用いて飛行時間から換算した質量電荷比値を補正すればよい。
また一般に、MALDIイオン源を用いた場合には、レーザ光照射毎のイオン生成量のばらつきの影響を軽減するために、同一試料に対しレーザ光照射を複数回行い、そのレーザ光照射毎に得られたマススペクトルデータを積算して最終的なマススペクトルを求めるようにしている。そこで、イオン加速部でイオンを加速するタイミングを、クーリング操作の際にイオントラップの電極に印加する矩形波電圧の1周期内で少しずつずらしつつ複数回の測定を実行し、その複数の測定のそれぞれで得られたマススペクトルデータを積算して最終的なマススペクトルを求めるようにしてもよい。これにより、イオンがイオントラップを通過する際に高周波電場が特定の状態に片寄ることを回避することができ、イオンが受ける高周波電場の影響が軽減される。これによって、第3の分析モードにおいて実行される通常の質量分析の質量精度を高めることができる。
イオントラップにおいてイオンが持つエネルギを十分に減衰させイオンを収束させるために、イオンのクーリング行程の実行時間は、一般的に、数十[msec]〜数[sec]程度設けられる。一方、イオン源が例えばMALDIイオン源である場合、高速なレーザ光源を用いれば、数[kHz]の周期で繰り返し測定が可能である。そのため、イオン加速部などの電圧の切替えに数[msec]程度の時間が掛かるとしても、上記クーリング行程の実行時間中に、通常の質量分析を数百〜数千回繰り返し行うことが可能である。
即ち、本発明に係る質量分析装置及び質量分析方法によれば、従来のIT−TOFMSでは、MSn分析を行う過程で単にイオンをクーリングするためにだけに費やされていた時間を有効に利用して、多数回の通常の質量分析を実行することができる。それにより、MSn分析と通常の質量分析とを行う際のスループットを向上させることができる。
本発明の一実施例によるIT−TOFMSの全体構成図。 本実施例のIT−TOFMSでの第1の分析モード(パススルーTOFモード)におけるイオンの挙動を示す概略図。 本実施例のIT−TOFMSでの第2の分析モード(イオントラップモード)におけるイオンの挙動を示す概略図。 本実施例のIT−TOFMSでの第3の分析モード(トラップ時パススルーモード)におけるイオンの挙動を示す概略図。 イオントラップのリング電極に印加される矩形波電圧波形の一例を示す図。 本実施例のIT−TOFMSにおいて校正データ記憶部に格納されるデータの一例を示す図。 本実施例のIT−TOFMSにおいて第3の分析モード実行時に高周波電場の位相の影響を軽減するための制御手法の説明図。
本発明に係る質量分析装置の一実施例であるIT−TOFMSについて、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例によるIT−TOFMSの全体構成図である。
本実施例のIT−TOFMSは、MALDI法を用いたイオン化部を含むイオン導入部1と、イオントラップ2と、リニア型の飛行時間型質量分析器を含む分析・検出部3と、を備える。
イオン導入部1は、サンプル12を保持する導電性のサンプルプレート11と、レーザ光を発するレーザ照射部15と、そのレーザ光を反射してサンプル12上に集光する反射鏡16と、レーザ光の照射によりサンプル12表面近傍で生成されたイオンを引き出す引出電極13と、引き出されたイオンを加速する加速電極14と、を含む。サンプル12は目的物質とマトリクスとが混合され調製されたものである。サンプルプレート11は図示しない試料ステージにより保持されている。試料ステージはその拡がり面内で直交する二軸方向に移動可能であり、それによって、サンプルプレート11上に形成された任意の位置のサンプルをレーザ光照射位置に移動させることができる。また、サンプルプレート11、引出電極13、及び加速電極14にはそれぞれ、加速電圧発生部71から所定のタイミングで所定の直流電圧が印加される。
イオントラップ2は、1個の円環状のリング電極21と、それを挟むように対向して配置された一対のエンドキャップ電極22、24とからなる三次元四重極型のイオントラップである。イオン導入部1側に位置する入口側エンドキャップ電極22の略中央にはイオン入射口23が穿設され、出口側エンドキャップ電極24の略中央でイオン入射口23と略一直線上にはイオン射出口25が穿設されている。また、必要に応じてイオントラップ2の内部空間には、ガス供給部4から供給される不活性なガスであるクーリングガス又は衝突誘起解離(CID)のためのCIDガスがガスバルブ5を通して導入される。この例では、イオントラップはデジタルイオントラップであり、リング電極21にはトラップ電圧発生部72より、主としてイオンを捕捉するための矩形波電圧が高周波電圧として印加される。また、一対のエンドキャップ電極22、24にはトラップ電圧発生部72より、イオンをイオントラップ2から射出するための直流電圧が印加される。なお、後述するように特定のイオンを共鳴励振によりイオントラップ2から排出したりCIDにより解離させたりする際に、エンドキャップ電極22、24に小振幅の矩形波電圧を印加する場合もある。
分析・検出部3は、外部からの電場や磁場の影響を遮蔽し、内部に細長い飛行空間を有するフライトチューブ31と、フライトチューブ31内の飛行空間を飛行する間に質量電荷比に応じて分離されたイオンを検出するイオン検出器32と、を含む。イオン検出器32は入射したイオンの量に応じたイオン強度信号を生成する。このイオン検出器32による検出信号はデータ処理部6に入力され、データ処理部6は検出信号をデジタルデータに変換したあと、所定のデータ処理を実行することにより、例えば所定の質量電荷比範囲に亘るマススペクトルを作成する。データ処理部6に付設された校正データ記憶部61には、飛行時間を質量電荷比に換算する際に使用される後述するような校正データが格納される。
サンプル12から発し加速電極14による加速電場で加速されたイオンが直線的に飛行してイオン検出器32に到達するまでの、イオンの飛行軌道の中心軸が図1中に示したイオン光軸Cである。図1に示すように、イオントラップ2は、そのイオン入射口23及びイオン射出口25の中心軸とイオン光軸Cとが略一致するように配設されている。
制御部8は、上述した加速電圧発生部71、トラップ電圧発生部72、レーザ照射部15、ガスバルブ5などを制御して後述する分析を実行する。また、制御部8に接続された操作部9は、ユーザが分析のための条件の入力や分析開始の指示などを行うためのものである。
なお、通常、データ処理部6及び制御部8の少なくとも一部は、パーソナルコンピュータをハードウエア資源とし、該コンピュータに予めインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを該コンピュータで実行することによりそれぞれの機能が達成されるようにすることができる。
本実施例の質量分析装置では、操作部9による操作に応じて、パススルーTOFモード、イオントラップモード、及び、トラップ時パススルーモード、という3つの分析モードのいずれかを選択的に行えるようになっている。この3つの分析モードにおける分析動作を図2〜図5を参照して説明する。
[パススルーTOFモード]
パススルーTOFモードは、短い測定時間で広い質量電荷比範囲に亘る通常の(イオンの解離操作を伴わない)質量分析を実施するモードである。図2はパススルーTOFモードにおけるイオンの挙動を示す概略図である。
このモードでは、制御部8の制御の下に、イオントラップ2の内部に実質的な電場が生じないように、トラップ電圧発生部72は例えばフライトチューブ31への印加電圧と同一の所定電圧を電極21、22、24に印加するか、又はそれら電極21、22、24に有意な電圧を印加しない状態とする。これにより、パススルーTOFモードでは、加速電極14の最後段からイオン検出器32に至るまでの空間はほぼ同電位になっており、この空間全体がイオンの自由飛行領域となる。
制御部8の制御の下に、所定のタイミングで以て、レーザ照射部15からパルス的に出射されたレーザ光がサンプル12に照射される。このレーザ光の照射により、サンプル12中の化合物はイオン化される。発生したイオンは、加速電圧発生部71から引出電極13及びサンプルプレート11にそれぞれ印加される電圧により形成される緩やかな下傾斜のポテンシャル勾配を有する電場により引出電極13に向かって引き出される。そして、引き出されたイオンは、レーザ光照射時点から所定の遅延時間が経過した時点で、加速電圧発生部71から引出電極13及び加速電極14に印加される加速電圧により形成される加速電場により大きな運動エネルギを付与され、略一斉に加速される。
加速されたイオンは、実質的な電場のないイオントラップ2の内部空間を通過し、さらにフライトチューブ31内の飛行空間に導入される(図2参照)。イオンはそれぞれ質量電荷比に応じた速度を以て飛行するから、自由飛行領域中を飛行する間に各イオンは質量電荷比に応じて時間的に分離され、質量電荷比が小さなものから順にイオン検出器32に到達して検出信号に反映される。この検出信号を受けたデータ処理部6は、各イオンの飛行時間を求めて質量電荷比に換算しマススペクトルを作成する。
このパススルーTOFモードでは、レーザ光照射によりサンプル12表面付近で生成されたイオンが速やかに加速され、イオントラップ2に捕捉されることなく自由飛行領域に導入される。そのため、広い質量電荷比範囲の分析を短時間で終了させることができる。
[イオントラップモード]
このイオントラップモードは、典型的にはMS分析を実施するモードである。図3(a)〜(d)はイオントラップモードにおけるイオンの挙動を示す概略図である。
イオントラップモードでは、第1段階としてサンプル12から発生させたイオンをイオントラップ2の内部に捕捉する。即ち、まず、パススルーTOFモード時と同様に、レーザ光照射により、サンプル12中の化合物がイオン化される。この場合、イオンをイオントラップ2で効率良く捕捉するために、生成されたイオンにはパススルーTOFモードのときほど大きな運動エネルギは付与されず、イオンは適度な速度で以てサンプル12近傍から引き出されてイオントラップ2に送られる。
イオントラップ2へのイオン入射時に、トラップ電圧発生部72はエンドキャップ電極22、24に適宜の直流電圧を印加することでイオンの入射を促進する。また、このときガスバルブ5を開いてイオントラップ2内にヘリウムなどのクーリングガスを導入しておくとよい。イオン入射口23を通したイオンの入射直後に、トラップ電圧発生部72はエンドキャップ電極22、24への電圧印加を停止し、リング電極21に所定の矩形波電圧を印加する。これにより、イオントラップ2内部に導入されたイオンを高周波電場により捕捉する(図3(a)参照)。
その後、例えばリング電極21に印加する矩形波電圧のデューティ比を変化させることにより、ターゲットとするイオン以外の不要なイオンをイオントラップ2の外部へ排出する。この操作により、ターゲットとする特定の質量電荷比を有するイオン、つまりプリカーサイオンを選択的にイオントラップ2の内部に残す。引き続き、ガスバルブ5を開いてイオントラップ2内にアルゴンなどのCIDガスを導入し、リング電極21に印加する矩形波電圧にプリカーサイオンの質量電荷比に対応した周波数の励起電圧を加える。これにより、捕捉していたプリカーサイオンを共鳴励振させCIDガスに接触させることにより、該イオンを解離させる(図3(b)参照)。そして、その解離により生成されたプロダクトイオンを、高周波電場によりイオントラップ2の内部に捕捉する。
分析対象であるプロダクトイオンをイオントラップ2の内部に捕捉したならば、ガスバルブ5を開いてイオントラップ2内にクーリングガスを導入し、振動しているイオンをクーリングガスに接触させ、該イオンが持つエネルギを減衰させる(図3(c)参照)。このクーリング行程を適宜の時間だけ実行することで、イオンのエネルギは十分に減衰し、イオントラップ2の中心近傍の狭い空間に収束する。
そうして十分にイオンをクーリングしたあとに、リング電極21への電圧印加を停止するとともに、トラップ電圧発生部72からエンドキャップ電極22、24に所定の直流電圧を印加し、イオントラップ2内のイオンに加速エネルギを与える。これにより、その直前までイオントラップ2内に捕捉されていたイオンは一斉に加速され、イオン射出口25を通ってフライトチューブ31内の飛行空間に導入される(図3(d)参照)。この飛行空間を飛行する間に各イオンは質量電荷比に応じて時間的に分離され、質量電荷比が小さなものから順にイオン検出器32に到達して検出信号に反映される。この検出信号を受けたデータ処理部6は各イオンの飛行時間を質量電荷比に換算し、プロダクトイオンスペクトル(MS2スペクトル)を作成する。
なお、イオントラップ2内におけるプリカーサイオンの選択・分離操作とCIDによる解離操作とを複数回繰り返すことにより、nが3以上のMSn分析を行うことができる。
[トラップ時パススルーモード]
このモードは、上記イオントラップモードにおいて例えばMS分析を実施するのと同時に、実質的にパススルーTOFモードと同様の通常の質量分析を実行するモードである。図4(a)〜(e)はイオントラップモードにおけるイオンの挙動を示す概略図である。
トラップ時パススルーモードでは、サンプル12から発生させたイオンをイオントラップ2の内部に捕捉し、その捕捉したイオンに対しプリカーサイオンの選択・分離操作、及びCIDによる解離操作を実施するまでは、イオントラップモードと全く同じである。即ち、トラップ時パススルーモードにおける図4(a)、(b)はイオントラップモードにおける図3(a)、(b)と同じである。
ただし、本モードでは、イオンがイオントラップ2に導入され、捕捉されてから適宜の時点で、後述する質量分析の対象としたいサンプルがレーザ光照射位置に来るように試料ステージを移動させておく。また、加速電圧発生部71からサンプルプレート11、引出電極13、及び加速電極14に印加する電圧をパススルーTOFモードの電圧に切り替えておく。
解離操作により生成されたプロダクトイオンをイオントラップ2の内部に捕捉したならば、ガスバルブ5を開いてイオントラップ2内にクーリングガスを導入し、捕捉したプロダクトイオンに対するクーリング操作を所定時間、実行する。本モードでは、このときパススルーTOFモードと同様に、制御部8の制御の下に、所定のタイミングで、レーザ照射部15からパルス的に出射されたレーザ光をサンプル12に照射し、サンプル12中の化合物をイオン化する。そして、サンプルプレート11と引出電極13との間に形成された電場により引き出されたイオンを、所定の遅延時間経過後に、加速電場により加速する。
加速されたイオンはイオン入射口23を通して、クーリング操作が実行されているイオントラップ2に導入され、そのままイオントラップ2内空間を通過して、イオン射出口25から出る(図4(c)参照)。そして、フライトチューブ31内の飛行空間に導入され、飛行空間を飛行する間に各イオンは質量電荷比に応じて時間的に分離され、イオン検出器32に到達して検出信号に反映される。つまり、このときのイオンの飛行経路はパススルーTOFモードと同じであり、検出信号を受けたデータ処理部6は各イオンの飛行時間を質量電荷比に換算しマススペクトルを作成する。
このとき、パススルーTOFモードとは異なり、イオントラップ2内にはイオンを捕捉する電場が形成されるとともにクーリングガスが供給されており、該イオントラップ2内にはMSn分析の対象であるプロダクトイオンが存在している。しかしながら、通常、イオントラップ2内に捕捉されているプロダクトイオンとイオントラップ2内を通過しようとするイオンとが交差する空間はイオンの衝突断面積に比べて遙かに大きい。そのため、イオントラップ2内を通過するイオンが捕捉されているプロダクトイオンに衝突する確率は十分に低く、その衝突によるイオンの損失は無視できる程度である。したがって、このトラップ時パススルーモードではパススルーTOFモードと殆ど遜色のない感度のマススペクトルを取得することができる。
また、イオントラップ2からイオンを射出して飛行時間を計測する場合、イオン射出前に各イオンが持つ運動エネルギを十分に減衰させるとともに初期位置のばらつきを小さくするためにイオンを収束させておく必要がある。そのため、数十[msec]〜数[sec]程度の期間、イオンに対するクーリング操作を行う必要がある。一方、MALDI法を利用したイオン源では、高速なレーザ光源を用いれば、数[kHz]の周期で繰り返し測定が可能である。そのため、加速電圧発生部71などにおける電圧の切替えに数[msec]程度の時間が掛かるとしても、上記クーリング操作の実行時間中に、パススルーTOFモードと同様の質量分析を数百〜数千回繰り返し行うことができる。
所定時間のクーリング行程が終了し、イオンがイオントラップ2の中心付近に収束した状態(図4(d)参照)で、リング電極21への電圧印加を停止するとともに、トラップ電圧発生部72からエンドキャップ電極22、24に所定の直流電圧を印加し、その直前までイオントラップ2内に捕捉していたイオンに加速エネルギを与える。これにより、イオンは一斉に加速され、イオン射出口25を通ってフライトチューブ31内の飛行空間に導入される(図4(e)参照)。この飛行空間を飛行する間に各イオンは質量電荷比に応じて時間的に分離されイオン検出器32に到達して検出信号に反映される。この検出信号を受けたデータ処理部6は各イオンの飛行時間を質量電荷比に換算し、プロダクトイオンスペクトル(MS2スペクトル)を作成する。
以上のようにして、本実施例のIT−TOFMSでは、分析目的や試料の種類などによって、パススルーTOFモード、イオントラップモード、トラップ時パススルーモード、のいずれかを選択してサンプル12に対する分析を実行し、マススペクトル若しくはMSスペクトルの一方、又はその両方を取得することができる。特に、本実施例のIT−TOFMSに特徴的であるトラップ時パススルーモードでは、1回のMSn分析を行う間に多数回の通常の質量分析(MS1分析)を実行することができるので、効率的にマススペクトルとMSnスペクトルとを取得することができる。
上述したようにトラップ時パススルーモードでは、パススルーTOFモードと同様にイオントラップ2にイオンを捕捉することなく質量分析を実施するが、パススルーTOFモードとは異なり、このときイオントラップ2内にはイオンを捕捉するための高周波電場が形成されおり、また、イオントラップ2内にはクーリングガスが充満している。イオントラップ2を通過しようとしているイオンにとって、クーリングガスの存在はいずれのイオンにもほぼ同条件であるが、高周波電場は必ずしも全てのイオンについて同条件とはいえない。それは次のような理由による。
本実施例のIT−TOFMSでは、イオントラップ2としていわゆるデジタルイオントラップを用いている。デジタルイオントラップはリング電極21などに印加する高周波電圧として矩形波電圧を用いたものであり、イオンを捕捉する際にはリング電極21に振幅が数百[V]〜数[kV]程度、周波数が数百[kHz]〜数[MHz]程度の矩形波電圧が印加される。通常、振幅は一定であるが、周波数は捕捉対象であるイオンの質量電荷比又は質量電荷比範囲に応じて異なる。図5(a)、(b)にイオン捕捉のためにリング電極21に印加される矩形波電圧波形の一例を示す。この例では、矩形波電圧のハイレベルの電圧をV1、ローレベルの電圧をV2としている。
当然のことであるが、リング電極21にハイレベルの電圧が印加されているときとローレベルの電圧が印加されているときとではイオントラップ2内に形成されている高周波電場の状態が相違し、イオントラップ2内にあるイオンに対して作用する力が異なる。そのため、トラップ時パススルーモードにおいてクーリング実行中にイオンがイオントラップ2を通過しようとしたとき、リング電極21に印加されている矩形波電圧がハイレベルであるかローレベルであるかによって、つまりは矩形波電圧の位相の相違によって、通過するイオンに作用する力が異なり、それによってイオンの飛行速度が影響を受ける可能性がある。
加速電極14等に印加される電圧により形成される加速電場によって加速されたイオンがイオントラップ2に到達するまでの時間はイオンの質量電荷比によって異なるため、イオンがイオントラップ2を通過する際に受ける高周波電場の作用は質量電荷比によって異なることになり、質量電荷比によって飛行速度の変化度合いも相違する可能性がある。飛行速度が変化すると飛行時間にずれが生じるから、質量電荷比による飛行速度の変化度合いの相違は質量電荷比による飛行時間ずれのばらつきをもたらし、質量精度の低下に繋がる。そこで、こうしたイオントラップ2をイオンが通過する際の高周波電場の位相の相違の影響を軽減するために、例えば次のような手法を採るとよい。
[方法A]イオンの質量電荷比毎の飛行時間又は質量電荷比値の補正
この場合には、イオンを加速するタイミング、つまり加速電極14等に加速電圧を印加するタイミングを、イオントラップ2のリング電極21に印加する矩形波電圧に同期させる。典型的には、図5中に符号T1で示したように、矩形波電圧の立ち上がり(又は立ち下がり)時点で加速を行うようにすればよい。加速エネルギ一定の条件の下では、イオンが加速電場により加速された時点からイオントラップ2に入射する時点までの時間は質量電荷比に依存する。したがって、上記のように加速のタイミングを定めることで、質量電荷比毎に所定周波数の矩形波電圧のどの期間にイオンがイオントラップ2を通過するのかを確定する、つまり、その再現性を確保することができる。
そこで、こうした条件の下で、矩形波電圧の周波数を複数段階に変えながら、イオンの質量電荷比毎に飛行時間又は質量電荷値の補正量を予備実験により求めておく。ここでいう補正量とは例えば、パススルーTOFモード、つまりはイオントラップ2内が高真空状態であり、且つ高周波電場が形成されていない状態(つまり実質的な電場が存在しない状態)で計測される飛行時間又は質量電荷比値とのずれに相当する値である。これにより、例えば図6に示すような、矩形波電圧の周波数f毎の質量電荷比と補正量との関係を示す補正データが求まる。この補正データを、パススルーTOFモードにおいて飛行時間から質量電荷比値へ換算を行うための質量校正情報とともに、校正データ記憶部61に格納しておく。そして、実際の測定時には、そのときに用いられる矩形波電圧の周波数に対応する補正データを校正データ記憶部61から読み出し、イオンの質量電荷比毎に飛行時間又は該飛行時間から換算された質量電荷比値を補正する。これによって、イオントラップ2内に形成されている高周波電場の影響による質量電荷比のずれが補正され、高周波電場の影響を軽減したマススペクトルを作成することができる。
なお、上述したような、矩形波電圧の周波数f毎の質量電荷比と補正量との関係を示す補正データを求めるための予備実験は、ユーザ自身が行う必要はなく、本装置を提供する製造メーカが実施し、その結果を校正データ記憶部61に格納しておくようにすることができる。
[方法B]異なる条件の下で得られたデータの積算による高周波電場の影響の軽減
MALDI法によるイオン化では、1回のレーザ光照射によって生成されるイオンの量のばらつきが比較的大きい。そのため、測定データの再現性を確保するために、通常、同じサンプルへのレーザ光照射を多数回行い、各レーザ光照射に対して得られた測定データを積算してその積算結果から最終的なマススペクトルを作成するという処理が行われる。そこで、この方法Bでは、多数回の測定による測定データを積算することで、イオントラップ2における高周波電場の位相の影響を軽減するようにする。
具体的には、例えば図7に示すように、加速電場によりイオンを加速するタイミングを、矩形波電圧の1周期内で徐々にずらし(T1→T2→…)、同一のサンプルに対して多数回の測定を実施する。矩形波電圧に対してイオン加速のタイミングが相違すると、同一質量電荷比のイオンがイオントラップ2を通過するときの高周波電場の位相状態が相違する。そのため、イオン加速のタイミングを矩形波電圧の1周期内で満遍なく設定し、それにより得られた測定データを積算することで、同一質量電荷比のイオンがイオントラップ2を通過するときの高周波電場の位相状態の影響は相対的に減少し、質量電荷比の相違による高周波電場の影響の度合いの相違は小さくなる。この場合、イオントラップ2内に高周波電場が形成されていない状態で求まる質量電荷比値に対するずれは解消されるわけではなく、積算されたデータの時間分解能の点では若干不利であるが、少なくとも質量電荷比毎の質量電荷比ずれの相違の程度のばらつきは軽減されるので、こうした考慮を行わない場合に比べて良好なマススペクトルを得ることができる。
上記方法A、Bのほか、分析対象のイオンの質量電荷比範囲を狭い範囲に限定し、矩形波電圧がハイレベルである期間中又はローレベルである期間中にのみイオントラップ2を通過するイオンを質量分析すれば、質量電荷比毎の高周波電場の相違はそもそも生じない。したがって、こうした方法によっても、質量電荷比毎の質量電荷比ずれの相違は解消できる。ただし、矩形波電圧の周波数が高い場合、該電圧がハイレベルである期間、ローレベルである期間は非常に短い。そのため、この期間中に通過可能なイオンの質量電荷比範囲はかなり狭くなることに注意を要する。
また、上記方法Bと同様に、加速電場によりイオンを加速するタイミングを矩形波電圧の立ち上がり及び立ち下がりとした2回の測定を行い、矩形波電圧がハイレベルである期間中又はローレベルである期間中にのみイオンがイオントラップ2を通過する質量電荷比範囲をそれぞれのデータから抜き出す。そして、それらデータを合成するようにしても、高周波電場の影響をなくすことができる。また、イオンがイオントラップ2を通過しているときに矩形波電圧がローレベルからハイレベル、又はその逆へと切り替わる質量電荷比範囲を補完するために、さらの複数回イオンを加速するタイミングを変化させて測定した結果も併せて利用するようにしてもよい。
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、追加、修正を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
1…イオン導入部
11…サンプルプレート
12…サンプル
13…引出電極
14…加速電極
15…レーザ照射部
16…反射鏡
2…イオントラップ
21…リング電極
22…入口側エンドキャップ電極
23…イオン入射口
24…出口側エンドキャップ電極
25…イオン射出口
3…分析・検出部
31…フライトチューブ
32…イオン検出器
4…ガス供給源
5…ガスバルブ
6…データ処理部
71…加速電圧発生部
72…トラップ電圧発生部
8…制御部
9…操作部
C…イオン光軸

Claims (3)

  1. 試料からパルス状にイオンを生成するイオン化部と、該イオン化部で生成されたイオンを加速するイオン加速部と、イオン捕捉空間を形成する複数の電極からなり、該イオン捕捉空間へイオンを導入するイオン入射口と該イオン捕捉空間からイオンを導出するイオン射出口とが一直線上に設けられたイオントラップと、質量電荷比に応じてイオンを分離する飛行空間を内部に形成するフライトチューブと、該フライトチューブ内の飛行空間を飛行して来たイオンを検出する検出部と、を具備し、前記イオン化部で生成され前記イオン加速部で加速されたイオンが前記検出部に到達するまでのイオンの飛行軌道が前記イオン入射口及び前記イオン射出口を貫通するように、前記イオントラップが前記イオン加速部と前記フライトチューブとの間に配設されてなる質量分析装置において、
    前記イオン化部で生成されたイオンを前記イオントラップに導入して高周波電場により一旦捕捉し、その捕捉したイオンに対するクーリング操作を含む所定の操作を該イオントラップ内で行った後に、前記イオン射出口を通してイオンを射出し前記フライトチューブで質量分離を行って前記検出部により検出する、という一連の分析動作の中で、前記イオントラップ内に捕捉されているイオンに対するクーリング操作を実行しているときに、前記イオン化部で試料からイオンを生成して該イオンを前記イオン加速部で加速し、その加速されたイオンが前記イオントラップの内部空間及び前記フライトチューブ内空間を含む飛行空間を飛行して前記検出部に到達するまでの飛行時間を計測するように各部の動作を制御する制御部、を備えることを特徴とする質量分析装置。
  2. 請求項1に記載の質量分析装置であって、前記制御部は、
    前記イオントラップ内に高周波電場を形成せずに、前記イオン加速部で加速されたイオンが前記イオントラップの内部空間及び前記フライトチューブ内空間を含む飛行空間を飛行して前記検出部に到達するまでの時間を計測する第1の分析モードと、
    前記イオン化部で生成されたイオンを前記イオントラップに導入して高周波電場により一旦捕捉し、その捕捉したイオンに対する所定の操作を該イオントラップ内で行った後に、前記イオン射出口を通してイオンを射出し前記フライトチューブで質量分離を行って前記検出部により検出する第2の分析モードと、
    該第2の分析モードにおける一連の分析動作の中で、クーリング操作を実行しているときに、前記イオン化部で試料からイオンを生成して該イオンを前記イオン加速部で加速し、その加速されたイオンが前記イオントラップの内部空間及び前記フライトチューブ内空間を含む飛行空間を飛行して前記検出部に到達するまでの飛行時間を計測する第3の分析モードと、を選択的に実行するように各部を制御することを特徴とする質量分析装置。
  3. 試料からパルス状にイオンを生成するイオン化部と、該イオン化部で生成されたイオンを加速するイオン加速部と、イオン捕捉空間を形成する複数の電極からなり、該イオン捕捉空間へイオンを導入するイオン入射口と該イオン捕捉空間からイオンを導出するイオン射出口とが一直線上に設けられたイオントラップと、質量電荷比に応じてイオンを分離する飛行空間を内部に形成するフライトチューブと、該フライトチューブ内の飛行空間を飛行して来たイオンを検出する検出部と、を具備し、前記イオン化部で生成され前記イオン加速部で加速されたイオンが前記検出部に到達するまでのイオンの飛行軌道が前記イオン入射口及び前記イオン射出口を貫通するように、前記イオントラップが前記イオン加速部と前記フライトチューブとの間に配設されてなる質量分析装置、を用いた質量分析方法であって、
    前記イオン化部で生成されたイオンを前記イオントラップに導入して高周波電場により一旦捕捉し、その捕捉したイオンに対するクーリング操作を含む所定の操作を該イオントラップ内で行った後に、前記イオン射出口を通してイオンを射出し前記フライトチューブで質量分離を行って前記検出部により検出する、という一連の分析動作の中で、前記イオントラップ内に捕捉されているイオンに対するクーリング操作を実行しているときに、前記イオン化部で試料からイオンを生成して該イオンを前記イオン加速部で加速し、その加速されたイオンが前記イオントラップの内部空間及び前記フライトチューブ内空間を含む飛行空間を飛行して前記検出部に到達するまでの飛行時間を計測することを特徴とする質量分析方法。
JP2014043872A 2014-03-06 2014-03-06 質量分析装置及び質量分析方法 Pending JP2015170445A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014043872A JP2015170445A (ja) 2014-03-06 2014-03-06 質量分析装置及び質量分析方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014043872A JP2015170445A (ja) 2014-03-06 2014-03-06 質量分析装置及び質量分析方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2015170445A true JP2015170445A (ja) 2015-09-28

Family

ID=54203026

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2014043872A Pending JP2015170445A (ja) 2014-03-06 2014-03-06 質量分析装置及び質量分析方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2015170445A (ja)

Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2017068729A1 (ja) * 2015-10-23 2017-04-27 株式会社島津製作所 飛行時間型質量分析装置
CN111742390A (zh) * 2018-02-22 2020-10-02 英国质谱公司 电荷检测质谱分析
US11842891B2 (en) 2020-04-09 2023-12-12 Waters Technologies Corporation Ion detector

Cited By (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2017068729A1 (ja) * 2015-10-23 2017-04-27 株式会社島津製作所 飛行時間型質量分析装置
CN111742390A (zh) * 2018-02-22 2020-10-02 英国质谱公司 电荷检测质谱分析
CN111742390B (zh) * 2018-02-22 2023-08-29 英国质谱公司 电荷检测质谱分析
US11837452B2 (en) 2018-02-22 2023-12-05 Micromass Uk Limited Charge detection mass spectrometry
US11842891B2 (en) 2020-04-09 2023-12-12 Waters Technologies Corporation Ion detector

Similar Documents

Publication Publication Date Title
WO2018109920A1 (ja) 質量分析装置
JP3990889B2 (ja) 質量分析装置およびこれを用いる計測システム
US7999223B2 (en) Multiple ion isolation in multi-reflection systems
JP5860958B2 (ja) タンデム質量分析のためのターゲット分析
JP4894918B2 (ja) イオントラップ質量分析装置
US7208728B2 (en) Mass spectrometer
US6852972B2 (en) Mass spectrometer
US7064319B2 (en) Mass spectrometer
JP4033133B2 (ja) 質量分析装置
JP2011119279A (ja) 質量分析装置およびこれを用いる計測システム
US20120280118A1 (en) Method for operating a time-of-flight mass spectrometer with orthogonal ion pulsing
US10510524B2 (en) Ion trap mass spectrometry device and mass spectrometry method using said device
JP2015514300A5 (ja)
JP4248540B2 (ja) 質量分析装置およびこれを用いる計測システム
JP5504969B2 (ja) 質量分析装置
JP2008108739A (ja) 質量分析装置およびこれを用いる計測システム
JP2015170445A (ja) 質量分析装置及び質量分析方法
JP3873867B2 (ja) 質量分析装置
JP6885512B2 (ja) 飛行時間型質量分析装置
JP4644506B2 (ja) 質量分析装置
WO2019211918A1 (ja) 直交加速飛行時間型質量分析装置
US20230126290A1 (en) Ion activation and fragmentation in sub-ambient pressure for ion mobility and mass spectrometry
JP2011034981A (ja) 質量分析装置およびこれを用いる計測システム
JP2015173072A (ja) 質量分析装置