JP2015156824A - 温度応答性高分子を用いた細胞培養装置 - Google Patents

温度応答性高分子を用いた細胞培養装置 Download PDF

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保子 柳田
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裕美子 木下
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Abstract

【課題】 温度応答性高分子を利用し、容易に作製可能な細胞の培養装置を提供する。【解決手段】 (1)細胞を収容するための空間、(2)前記空間の内外でのガス交換を可能にするためのガス透過膜、(3)前記空間への細胞の導入又は前記空間からの細胞の回収のための溶液ポート、(4)前記空間内に設置された基板であって、シランカップリング剤を用いて温度応答性高分子を固定化した基板を有することを特徴とする細胞培養装置。【選択図】 図1

Description

本発明は、温度応答性高分子を用いた細胞培養装置、及びそれを利用した細胞の培養方法に関する。
細胞を扱う研究を行う上で、継代培養は重要である。十分に増殖した細胞を定期的に剥離、希釈する操作を継代といい、これにより空間や栄養面での細胞培養環境を一定に保つことができる。
従来、継代における剥離操作では酵素試薬による処理が一般的であったが、細胞外マトリックスを酵素分解することで強制的に細胞を剥離するため、細胞膜の損傷が避けられなかった。一方、組織工学の発展に伴い、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミドなどの温度応答性高分子を利用した細胞シートの剥離回収手法が広く研究されている。例えば、特許文献1には、ガス透過膜が装着された上部部品と表面がポリ-N-イソプロピルアクリルアミドで被覆された下部部品とから構成される培養容器が記載されている。
特開2008-271912号公報
上記のように、細胞シートの剥離回収などにおいて、温度応答性高分子を利用することは以前から行われていたが、温度応答性高分子を基板に固定化する方法として、電子線を照射する方法やプラズマ処理する方法などが用いられていた。これらの方法は煩雑な操作を要し、また、高価な装置も必要であった。
本発明は、温度応答性高分子を利用した培養技術における上記の問題を解決し、容易に作製可能な培養装置を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、シランカップリング剤を使用して、温度応答性高分子を基板に固定化することにより、高価な装置を使用することなく、簡易に培養装置を作製できることを見出した。また、使用したシランカップリング剤は細胞接着の足場としても機能することも見出した。
本発明は、以上の知見に基づき、完成されたものである。
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔9〕を提供する。
〔1〕(1)細胞を収容するための空間、(2)前記空間の内外でのガス交換を可能にするためのガス透過膜、(3)前記空間への細胞の導入又は前記空間からの細胞の回収のための溶液ポート、(4)前記空間内に設置された基板であって、シランカップリング剤を用いて温度応答性高分子を固定化した基板を有することを特徴とする細胞培養装置。
〔2〕温度応答性高分子を固定化した基板が、シランカップリング剤と温度応答性高分子の混合液を基板上に塗布し、硬化させたものであることを特徴とする〔1〕に記載の細胞培養装置。
〔3〕温度応答性高分子が、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミドであることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の細胞培養装置。
〔4〕シランカップリング剤が、3-アミノプロピルトリエトキシシランであることを特徴とする〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の細胞培養装置。
〔5〕単細胞を通過させるが、細胞塊を通過させないフィルターが溶液ポートに設置されていることを特徴とする〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の細胞培養装置。
〔6〕溶液ポートの形状が、一端が細胞を収容するための空間に連通し、他端が装置外部に開口する管状であることを特徴とする〔1〕乃至〔5〕のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
〔7〕溶液ポートの形状が、細胞培養装置に細胞を導入する器具及び/又は細胞培養装置から細胞を回収する器具と密着する形状であることを特徴とする〔6〕に記載の細胞培養装置。
〔8〕〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載の細胞培養装置を用いた細胞の培養方法。
〔9〕〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載の細胞培養装置を用いた細胞の継代培養方法であって、以下の工程を有することを特徴とする細胞の継代培養方法、
(1)細胞培養装置に細胞を導入する工程、
(2)細胞培養装置の基板に固定化されている温度応答性高分子の転移温度より高い温度で細胞を培養する工程、
(3)温度応答性高分子を固定化した基板の温度を、その温度応答性高分子の転移温度より低い温度とし、温度応答性高分子を固定化した基板から細胞を剥離する工程、
(4)温度応答性高分子を固定化した基板から剥離した細胞を回収する工程
(5)回収した細胞を別の細胞培養装置に導入する工程。
本発明の培養装置は、シランカップリング剤を用いて温度応答性高分子を基板に固定化するため、従来の培養装置よりも簡単に作製することができる。また、使用したシランカップリング剤は、細胞接着の足場として機能するので、従来の培養装置よりも、細胞の接着増殖率において優れている。
本発明の細胞培養装置を模式的に表した図。 実施例1で作製した温度応答性高分子固定化基板を使用した水接触角測定実験の結果を示す図。 実施例2で作製した温度応答性高分子固定化基板(APSコート基板)を使用した水接触角測定実験の結果を示す図。 実施例2で作製した温度応答性高分子固定化基板(MASコート基板)を使用した水接触角測定実験の結果を示す図。 実施例1で作製した温度応答性高分子固定化基板を使用した細胞接着増殖率及び剥離率測定実験の結果を示す図。 実施例2で作製した温度応答性高分子固定化基板(APSコート基板)を使用した細胞接着増殖率及び剥離率測定実験の結果を示す図。 実施例2で作製した温度応答性高分子固定化基板(MASコート基板)を使用した細胞接着増殖率及び剥離率測定実験の結果を示す図。 三層型培養装置を構成する各部品の構造を模式的に表した図。 フィルターが細胞塊を単細胞に分散する仕組みを模式的に表した図。 疑似フィルター処理後の細胞塊と単細胞の割合を示す図。 フィルター処理後の細胞塊と単細胞の割合を示す図。 冷却処理前後の温度応答性高分子固定化基板の表面の顕微鏡写真。 種々の温度応答性高分子固定化基板を使用した細胞接着増殖率及び剥離率測定実験の結果を示す図。 フィルター処理前後の細胞塊と単細胞の割合を示す図。 継代1日及び4日後の細胞の増殖の様子を示す写真。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の細胞培養装置は、(1)細胞を収容するための空間、(2)前記空間の内外でのガス交換を可能にするためのガス透過膜、(3)前記空間への細胞の導入又は前記空間からの細胞の回収のための溶液ポート、(4)前記空間内に設置された基板であって、シランカップリング剤を用いて温度応答性高分子を固定化した基板を有することを特徴とする。
細胞を収容するための空間は、細胞及び培地を収容できるものであればどのようなものであってもよい。この空間の容積は、一般的な培養容器、例えば、培養ディッシュ、培養フラスコなどの同程度のものであってよい。具体的には、1〜1000cm3程度であることが好ましいが、これに限定されるわけではない。この空間の形状は、曲面を含むような形状(例えば、円筒形など)であってもよいが、作製の容易さなどの観点から、実質的に平面のみからなる形状であることが好ましい。実質的に平面のみからなる形状である場合、細胞を収容するための空間の形状は、例えば、立方体のような形状であってもよいが、温度応答性高分子を固定化した基板の面積を大きくできることから、高さの低い直方体状の形状であることが好ましい。
細胞を収容するための空間は密閉構造であることが好ましい。密閉構造をとることにより、細胞や培地の漏出を防止できるだけでなく、雑菌や異物の混入を防止することができる。
ガス透過膜は、細胞を収容するための空間の内外でのガス交換を可能にするものであればどのようなものでもよい。ここでいうガスとは、細胞の生育に必要な酸素などである。従って、ガス透過膜は酸素に対して一定の透過性を持つことが好ましい。具体的には、ガス透過膜の酸素透過性が0.5×1010cc・cm/cm2・sec・cmHg以上であることが好ましく、0.8×1010cc・cm/cm2・sec・cmHg以上であることがより好ましく、1.0×1010cc・cm/cm2・sec・cmHg以上であることが更に好ましい。また、ガス透過膜は炭酸ガスに対しても一定の透過性を持つことが好ましい。具体的には、ガス透過膜の炭酸ガス透過性が3.0×1010cc・cm/cm2・sec・cmHg以上であることが好ましく、4.5×1010cc・cm/cm2・sec・cmHg以上であることがより好ましく、6.0×1010cc・cm/cm2・sec・cmHg以上であることが更に好ましい。
ガス透過膜の材質は特に限定されず、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、シリコーンポリカーボネート、ポリブタジエン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができ、これらの中でもポリスチレンが好ましい。ガス透過膜の膜厚も特に限定されず、例えば、30μm以上、好ましくは50μm以上、さらに好ましくは80μm以上とすることができる。
溶液ポートは、細胞を収容するための空間への細胞の導入又は前記空間からの細胞の回収を可能にする形状であればどのようなものでもよいが、細胞の導入等は、通常、ピペットのような先端に行くに従って細くなっている管状の器具を用いて行われるので、そのような器具の使用に適した形状であることが好ましい。このような観点から、溶液ポートの形状は、一端が細胞を収容するための空間に連通し、他端が装置外部に開口する管状であることが好ましい。また、細胞の導入又は回収時における雑菌や異物の混入を防止する観点から、溶液ポートの形状は、細胞を導入又は回収する器具と密着する形状、即ち、同じ形状をとることが好ましい。例えば、細胞の導入等を行う器具として、ピペットのような先端に行くに従って細くなっている管状の器具を使うのであれば、溶液ポートの形状も、細胞を収容するための空間に連通する部分に近づくに従って細くなる管状であることが好ましい。
溶液ポートが常時装置外部に開口していたのでは、開口部から雑菌や異物が混入するので、細胞導入又は回収時以外は開口部を覆うため、開口部に蓋が取り付けられていることが好ましい。
細胞を収容するための空間が密閉性を持ち、また、溶液ポートの管状部が細胞を導入又は回収する器具と密着している場合、前記器具から前記空間内に細胞を含む培地を導入しようとしても、空間内の空気が外部に排出されないため、容易に培地を導入することができなくなる。この問題を解消するため、培地導入時に空間内の空気を外部に排出することを可能にする排気ポートを設けることが好ましい。排気ポートは、細胞を収容するための空間から空気を排出できればよいので、どのような形状であってもよく、例えば、細胞を収容するための空間に開けられた単なる孔であってもよく、また、装置作製上の容易さから、溶液ポートと同形状のものであってもよい。排気ポートが常時開口していたのでは、溶液ポートの場合と同様、雑菌や異物が混入するので、排気ポートには開口部を覆う蓋が取り付けられていることが好ましい。
本発明の培養装置は、主に継代培養に用いるので、本発明の培養装置で培養された細胞を、再度、本発明の培養装置で培養することになる。本発明の培養装置で培養された細胞は、温度応答性高分子を利用して基板から剥離されるため、単細胞だけでなく、複数の細胞からなる細胞塊も含んでいる。細胞塊は、単細胞に比べ栄養が十分に届かず、伸展しにくいため、細胞塊と単細胞を混在した状態で培養すると増殖能力の差から不均一な細胞集団となってしまう。このため、培養する細胞に細胞塊が混入しないようにするため、単細胞を通過させるが、細胞塊を通過させないフィルターを溶液ポートに設置することが好ましい。このようなフィルターを設置することにより、フィルターに接触した細胞塊は単細胞に分散し、フィルターを通過し、また、分散しなかった細胞塊はフィルターに阻まれ、培養装置内に入ることができなくなる。単細胞を通過させるが、細胞塊を通過させないようにするためには、フィルターの孔を、培養しようとする細胞よりもやや大きくなるようにすればよい。例えば、フィルターの孔を、培養しようとする細胞の最大径の1.2〜2.0倍の長さを直径とする円、又は前記した長さを一辺とする正方形とすることができる。また、実施例6では、一辺が50μm又は100μmの正方形の孔を有するナイロンメッシュを使用しているが、これらと同程度の孔を持つナイロンメッシュ(例えば、一辺が40〜60μm又は90〜110μmの正方形の孔を有するナイロンメッシュ)を使用してもよい。
温度応答性高分子とは、ある温度(相転移温度)より高い条件では疎水性を示し、その温度より低い条件では親水性を示す高分子である。
温度応答性高分子を固定化した基板は、温度応答性高分子とシランカップリング剤の混合液を基板に塗布して作製することができ、また、予めシランカップリング剤を塗布した基板に温度応答性高分子塗布して作製することもできる。
混合液を用いる作製法は、例えば、温度応答性高分子とシランカップリング剤の混合液をスピンコート法などにより基板に塗布し、これを加熱し、溶媒を除去することにより温度応答性高分子を硬化させることにより、行うことができる。ここで、温度応答性高分子としては、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)を使用することができる。シランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を使用することができるが、これ以外にも3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランなども使用することができる。シランカップリング剤や温度応答性高分子はエタノールなどの溶媒に溶解させて使用するが、エタノール以外にも、アセトン、イソプロパノールなどを使用することができる。基板としては、ガラス基板を使用することができるが、これ以外にもエポキシ樹脂基板なども使用することができる。シランカップリング剤の濃度は、例えば、5〜20wt.%とすることができるが、これに限定されるわけではない。温度応答性高分子の濃度は、例えば、1〜10wt.%とすることができるが、これに限定されるわけではない。実施例4に示すように、温度応答性高分子やシランカップリング剤の混合比は、細胞の接着増殖率と剥離率に大きな影響を与える。実施例4では、3%wt.% PNIPAAmと10%wt.% APTESの混合比が8:2、即ち、PNIPAAmとAPTESの混合比(重量比)が24(3×8):20(10×2)である場合に最も好ましい結果が得られている。従って、温度応答性高分子とシランカップリング剤を混合する際には、これと近似した混合比とすることが好ましい。具体的には、温度応答性高分子とシランカップリング剤の混合比が1:1〜1:2とすることが好ましい。スピンコードの条件は特に限定されないが、回転数は1000〜3000rpmで、10〜60秒程度とすることが好ましい。加熱の条件も特に限定されないが、100〜200℃で1〜5日程度することが好ましい。基板に固定化される温度応答性高分子の膜厚は50〜300nm程度でよいが、これに限定されるわけではない。
予めシランカップリング剤を基板に塗布する作製法は、例えば、基板にシランカップリング剤を塗布した後、温度応答性高分子をスピンコート法などにより塗布し、これを加熱し、溶媒を除去することにより温度応答性高分子を硬化させることにより、行うことができる。ここで、基板にシランカップリング剤を塗布する代わりにシランカップリング剤が塗布された市販の基板を使用してもよい。このような市販の基板としては、例えば、APSコートスライドグラス(松浪硝子工業社製)、MASコートスライドグラス(松浪硝子工業社製)などがある。使用するシランカップリング剤や温度応答性高分子、スピンコートや加熱の条件などは、上述した混合液を用いる作製法と同様のものでよい。
本発明の培養装置は、種々の培養法に用いることができ、例えば、細胞シートの作製などに用いることができるが、細胞出入が容易であることから、継代培養に用いるのが好ましい。
培養する細胞は、接着性細胞であることが好ましい。具体的な細胞としては、角膜上皮細胞、表皮角化細胞、口腔粘膜細胞、結膜上皮細胞、軟骨細胞、神経細胞、心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、脂肪細胞、及びこれらの幹細胞、並びにHeLa細胞などのがん細胞などを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。また、これらの細胞の由来は特に限定されず、ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ由来の細胞などを培養対象とすることができる。
培養細胞のための培地は、培養される細胞に対して通常用いられるものでよく、例えば、ウシ胎児血清(FCS)等の血清が添加されている培地やこのような血清が添加されていない無血清培地などを使用することができる。
装置内に導入された細胞は、温度応答性高分子固定化基板に接着して増殖していく。増殖した細胞の回収は、基板に接着している細胞を剥離させ、培地内に浮遊させ、培地共に溶液ポートからピペット等で吸引して行う。細胞の剥離は、培養装置の基板部分を、基板に固定化されている温度応答性高分子の相転移温度よりも低い温度することにより行う。
以下、本発明の培養装置を、図1を用いて説明する。
この図に示す培養装置は、その中央部に細胞を収容するための空間を有している。細胞を収容するための空間は、直方体状の形状をしており、その上面にガス透過膜1が、底面に温度応答性高分子固定化基板2が、側面に溶液ポート3が設けられている。また、溶液ポート3には蓋3aが取り付けられている。細胞を培地と共に培養装置に導入するときは、溶液ポート3の蓋3aを開け、ピペット等の細胞を導入する器具を溶液ポート3に挿入する。溶液ポート3は細胞を導入する器具と同様の形状をしており、細胞を導入する器具と密着することができる。このように溶液ポート3と細胞を導入する器具が密着することにより、外部からの雑菌や異物の混入を防止することができる。細胞の導入後は、蓋3aを閉め、培養装置内の雑菌等の混入を防止する。
培地と共に導入された細胞は、溶液ポート3から細胞を収容するための空間に移動する。細胞の培養は、温度応答性高分子固定化基板2に使用されている温度応答性高分子の相転移温度よりも高い温度で行う。相転移温度よりも高い温度では、温度応答性高分子固定化基板2の表面は疎水性を示すので、細胞は温度応答性高分子固定化基板2に接着し、増殖していく。
細胞が十分増殖した段階で、培養装置の温度応答性高分子固定化基板2の部分を冷やし、この部分が温度応答性高分子の相転移温度よりも低い温度になるようにする。これにより、温度応答性高分子固定化基板2の表面は親水性に変化し、細胞と温度応答性高分子固定化基板2との親和性が低下する。この後、培養装置を振盪させることにより、細胞は温度応答性高分子固定化基板2から剥離し、培地中に懸濁する。
培地中に懸濁した細胞の回収は、細胞の導入時と同様に、溶液ポート3の蓋3aを開け、ピペット等の細胞を回収する器具を溶液ポート3に挿入し、この器具を用いて行う。
培養装置内への細胞塊の混入の防止は、フィルター4を用いて行う。フィルター4は、溶液ポート3と同様の形状をしており、溶液ポート3と密着した状態で、溶液ポート3に挿入することができる。フィルター4を溶液ポート3に挿入した場合、フィルター4のフィルター部分は、溶液ポート3の細胞を収容するための空間との連通部分に位置するようになる。フィルター4を溶液ポート3に挿入した状態で、ピペット等から細胞を導入した場合、単細胞はフィルターをそのまま通過するが、細胞塊はフィルターと接触し、また、ピペット等からの液流に押され、単細胞に分散する。これにより、培養装置内への細胞塊の混入を防止できる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕 温度応答性高分子を固定化した基板の作製(1)
シランカップリング剤(APTES)と温度応答性高分子(PNIPAAm)の混合液を用いて、以下の手順で温度応答性高分子固定化基板を作製した。
1)100℃のピラニア溶液(30%H2O2:H2SO4=1:2)にガラス基板(松浪硝子製)を30分浸漬した。
2)高分子混合溶液(3wt.%PNIPAAm+10wt.%APTES EtOH溶液)をスピンコーター(ミカサ社製1H-D7)でガラス基板に塗布した(2000rpm、 30秒)。
3)恒温乾燥機(サンヨー社製MOV-112-S)で、160℃、3日間ガラス基板を加熱し、高分子を硬化させた。
4)クリーンベンチのUV灯で殺菌した(24時間)。
基板に塗布された高分子膜の膜厚を測定するため、基板中央にマスキングテープを貼ってスピンコートした基板も同様に作製した。硬化後にテープを剥離した後、触針式表面形状測定器Dektak150を用いて測定を行った。
高分子溶液の混合比率による違いを調べるため、3wt.%PNIPAAm:10wt.%APTES=9:1および3wt.%PNIPAAm:10wt.%APTES=6:4の高分子混合溶液を用いて作製した基板をそれぞれ測定した。また、基板を純水洗浄し、洗浄の前後で測定することによって、耐水性も確認した。測定の結果、作製した高分子膜の膜厚は混合比率を変更してもほぼ変化がなく、100 nm程度であることが判明した。
さらに、マスキングテープがスピンコートに影響を及ぼした可能性があったため、スピンコート後にピンセットで膜の一部を除いて、硬化させた基板を用いる方法に変更した。同時に、ガラス基板を新調したため、基板サイズも併せて変更した。
高分子溶液の混合比率に膜厚がほぼ依存しないことを確認するため、上記の混合比率に加え、3wt.%PNIPAAm:10wt.%APTES=8:2の高分子混合溶液も用いて、作製した基板を同様にそれぞれ測定した。その結果、測定方法を変更しても膜厚は100 -150nm程度となっており、高分子の混合比率による有意差がないことが明らかになった。しかし、PNIPAAmの割合が小さくAPTESの割合の大きな基板ほど、洗浄前後の膜厚変化が小さくなっており、高分子が移動、剥離しにくいと考えられる。これより、APTESがPNIPAAmと基板の密着性を高める役割を担っていることが示された。
〔実施例2〕 温度応答性高分子を固定化した基板の作製(2)
シランカップリング剤があらかじめコートされており、アミノ基を有するガラス基板を用いて温度応答性高分子固定化基板を作製した。
この作製法では、APSコートスライドグラスおよびMASコートスライドグラス(松浪硝子製)を基板として使用した。これらのガラス基板を用いることで、PNIPAAmとシランカップリング剤の混合が不要となる上、ピラニア洗浄による基板の親水化プロセスも省略できる。
作製方法や膜厚の測定方法は実施例1と同様であり、26×76mmのスライドグラスを26×24mmに切断して用いた。切断にはガラスカッターを使用した。
シランカップリング剤コート済であるため、PNIPAAm溶液のみスピンコートし、高分子膜を形成した。PNIPAAmの濃度で比較を行うために、3wt.%だけでなく、5wt.%および10wt.%のPNIPAAm溶液も同様に調製し、塗布した。APSコート基板、MASコート基板ともに、各濃度で作製し、膜厚の計測を行った。
測定の結果、PNIPAAmの濃度が3wt.%の場合、膜厚は165nm、5wt.%の場合、膜厚は350nm、10wt.%の場合、膜厚は1055nmであり、高濃度のPNIPAAm溶液を使用した基板ほど膜厚が増大することが判明した。
〔実施例3〕 水接触角変化の測定
本実施例では、基板の水接触角測定について述べる。基板表面に塗布した高分子の温度応答を確認するため、基板の温度を変化させて基板表面の濡れ性の変化を計測した。
(1)実施例1で作製した基板の測定
濡れ性の指標である水接触角の測定方法の1つにθ/2 法がある。水滴の容量が少ないときには、水滴の形状が球の一部とみなせることから、幾何学的関係に基づいて、水接触角を求める方法である。すなわち、水接触角は式:θ=2tan-1(h/r)から求めることができる。ただし、r は水滴の試験片に接している面の半径(mm)、h は試験片表面から水滴の頂点までの高さ(mm) である。また、水接触角測定装置の構成および濡れ性試験方法は、日本工業規格JIS-R3257:基板ガラス表面のぬれ性試験方法に準拠した。
3wt.%PNIPAAm:10wt.%APTES=9:1、8:2、6:4の高分子混合溶液をコートした基板、無コート基板、10wt.%APTESのみコートした基板の計5種類の基板に対し測定を行った。
測定時の室温は25℃、湿度は約60%であった。マイクロピペットを用いてイオン交換水を2μl量りとり、基板表面に滴下した。1 枚の基板に対し、各温度で5か所ずつ測定を行い、その平均値を求めた。水滴の撮像は滴下後1分以内に行い、分度器ソフトを使用して画像上でθ/2を測定し、水接触角を求めた。
基板温度を25℃から45℃まで5℃ずつ変化させ、水接触角の測定を行った結果、高分子を塗布した基板では、温度上昇に伴って水接触角が増加した。これは、基板表面の高分子が相転移し、基板表面の濡れ性が変化したためである。
用意した5種類の基板に対し、測定を行った結果を図2に示す。
測定結果より、PNIPAAmの割合の大きな基板ほど温度応答する要素が多いため、温度変化による水接触角の変化が大きくなることが判明した。無コート基板では、親水性で水接触角の小さい状態から変化しなかったのに対し、APTESのみコートした基板では、疎水性で一定の水接触角を保っており、シランカップリング剤のAPTESが基板表面を疎水化することが確認された。
(2)実施例2で作製した基板の測定
実施例2で作製した基板では、PNIPAAmの濃度で比較を行った。水接触角の測定方法は上記と同様であり、3wt.%、5wt.%、10wt.%のPNIPAAm溶液を塗布した基板および溶液無塗布の基板の計4種類の基板に対して測定を行った。各基板の測定結果を図3及び図4に示す。
APSコート基板、MASコート基板ともに測定を行ったが、基板の種類による有意差は見られなかった。PNIPAAm濃度の高い基板ほど、僅かに水接触角が大きくなっていたが、温度変化に対する水接触角の変化は同様であり、温度応答性はPNIPAAmの濃度によらず、ほぼ一定であることが判明した。これは、 3wt.%PNIPAAmで既に基板表面が高分子で十分覆われており、高濃度では主に高さ方向に蓄積するため、表面の高分子量が変化しないことが要因と考えられる。
〔実施例4〕 細胞培養による温度応答性基板の評価
本実施例では、細胞を用いた基板の特性評価について述べる。基板上で細胞を接着増殖させ、温度変化を与えて、温度応答性基板の細胞剥離能を評価した。
(1)実施例1で作製した基板の評価
実施例1で作製した基板を培養ディッシュ底面に導入し、 HeLa細胞を播種して基板上で培養を行った。インキュベータ内で3日間培養し、細胞が十分に接着増殖した後、室温25℃の顕微鏡下に約60分静置し、経過観察を行った。
経過観察の結果、温度低下によって基板が親水化するにつれ、細胞接着に必要となるアンカーが減少するため、接着面から剥離されて次第に球形に近い細胞が増加した。
また、変化しなかった細胞には、平たく伸展した細胞と球形に近い細胞があり、後者は増殖時から非接着状態であったために変化が見られなかったと推測される。死細胞も同様に球形に近い形状であるため、トリパンブルー染色評価によって、8割以上の細胞が生細胞であることを確認した。
1割以上形状が変化した細胞を剥離した細胞と見なし、3wt.%PNIPAAm:10wt.%APTES=9:1、8:2、6:4の高分子混合溶液をコートした基板、10wt.%APTESのみコートした基板の計4種類の基板に対し、それぞれ接着増殖率および剥離率の測定を行った。
その結果、PNIPAAmの相転移温度(32℃)以上で接着していた細胞のうち、室温で剥離された細胞の割合はAPTESに対するPNIPAAmの比率の高い基板で大きくなっていた。しかし、PNIPAAmの割合が最も大きい9:1の基板では、接着増殖率に対する剥離率は最も高いが、増殖率が低く、一方、6:4の基板では、接着増殖率は高いが、PNIPAAmの割合が小さいため、剥離率は半分以下となり、細胞剥離が不十分であった。したがって、実施例1で作製した基板の中では、接着増殖率、剥離率ともに高い3wt.%PNIPAAm:10wt.%APTES=8:2の基板が有効であると考えられる(図5)。
(2)実施例2で作製した基板の評価
実施例2で作製した基板を培養ディッシュ底面に導入し、上記と同様に、培養および剥離評価を行った。3wt.%PNIPAAm、5wt.%PNIPAAm、10wt.%PNIPAAmの各溶液を塗布した基板およびPNIPAAm無塗布の基板の計4種類の基板に対し、それぞれ接着増殖率および剥離率の測定を行った。
その結果、上記と同様に、基板の親水化に伴って球形に近い細胞が増加した。また、上記の結果と比較すると、APSコート基板、MASコート基板ともに接着増殖率が向上した。さらに、同一基板内ではPNIPAAmの濃度に依存せず、ほぼ一定の接着増殖率、剥離率となっているが、両者を比較すると、APSコート基板よりもMASコート基板のほうが、細胞剥離に優れていることが判明した(図6及び図7)。
〔実施例5〕 培養装置の作製
設計した培養装置は主に2種類であり、1枚のアクリル板の両面に基板とフィルムを接着した一層型培養装置および基板とフィルムをそれぞれアクリル板に接着し、3枚のアクリル板を重ね合わせた三層型培養装置である(図8)。
いずれの培養装置も培養液量が約2mlとなるように培養面積と高さを設計した。また、溶液の出入が速やかに行えるよう、溶液ポートと同一形状の排気ポートも併設することにした。
(1)一層型培養装置
アクリル板の加工は、レーザー加工機で行い、アクリル板は、厚さ3mmで無色透明のものを使用した。
加工したアクリル板の表面と裏面に、ガス透過フィルムと培養基板をそれぞれ接着し、溶液ポートとなるPCRチューブを挿入してシーリングテープで固定した。
PCRチューブは挿入前に、滅菌済の画鋲を用いて直径約1.5 mmの穴をあけておいた。また、培養装置本体の高さを溶液ポートの直径に合わせるため、治具もアクリル板のレーザー加工によって作製し、装着した。
しかし、一層型培養装置では、溶液ポート接続部分のシーリングが十分にできないため、数日経過すると液漏れしてしまうことが判明した。さらに、細胞も接着増殖できておらず、培養部分に直接、フィルムや基板を接着していることから、接着剤の溶出による細胞毒性が原因と推測された。これより、一層型培養装置は細胞培養に不適であると考えられたため、以降の実験において使用しないことにした。
(2)三層型培養装置
アクリル板の加工は、一層型培養装置と同様にレーザー加工機を用いて行った。アクリル板は、培養液層には厚さ5 mmのものを、その他には3 mmのものを使用し、フィルム接着部分に深さ0.1 mm、O-リング装着部分に0.5 mm、基板挿入部に1 mmの段加工を施した。
さらに、培養液層には、溶液ポートとなるPCRチューブを装着する穴が必要となるため、ボール盤で直径3mmの穴あけを行った。
三層型培養装置では、各層を密着させ、培養液の漏れを防ぐためにO-リングを装着しなければならない。そこで、使用するO-リングの選定を行った。
まず、サイズの選定を行ったが、O-リング溝が浅く、適切なサイズの汎用品がなかったため、設計を一部変更した。培養液層のアクリル板を8 mmのものにし、O-リング溝の深さを0.5mmから1.5mmに変更した。同時に、O-リングを装着しやすいよう、長方形ではなく丸みを帯びた溝とし、余白を縮小することで培養装置の小型化を図った。他の層も同様に余白を縮小し、厚さ3mmから、2mmのアクリル板に変更した。
次に、材質の選定を行った。O-リングの材質には様々な種類が存在するが、特性を参考にして、1種Aニトリルゴム(NBR)、50°シリコーン、テフロンの3種類を選定し、比較検討を行った。
各種類のO-リングについて、細胞毒性の有無を調べるために、 HeLa細胞を用いて培養評価を行った。UV滅菌を施したO-リングを入れて3日間培養した結果、ニトリルゴムでは全く接着増殖が見られず、トリパンブルー染色による生死判別評価を行ったところ、ほぼ100%の細胞が死細胞となっており、細胞毒性が確認された。50°シリコーンおよびテフロンでは毒性は確認されず、細胞が順調に接着増殖している様子が観察された。しかし、テフロンは柔軟性が低く、変形させてO-リング溝にはめ込むことができなかったため、培養装置に装着するO-リングには50°シリコーンを用いることにした。設計寸法と製作誤差を考慮して、型番はJIS B 2401 P番(運動用・円筒面固定用・平面固定用)のP22を選定した。
培養装置の組立ては、以下のように行った。
まず、以下のように各層の準備を行った。
透過フィルム層:25×27mmのポリスチレンガス透過フィルムを接着剤で接着した。
(フィルム外面を板に接着し、内面内側をO-リングが押さえるため、接着剤は溶出しない。)
培養液層:両面のO-リング溝にO-リングをはめ込んだ。
基板層:作製した温度応答性基板等の24×26mmの培養基板を挿入した。
次に、準備した各層をM4のねじを用いて重ね合わせ、上からナットできつく締めて固定した。ねじの種類は、鍋小ねじまたは六角ねじを使用した。
最後に、底に穴のあいたPCRチューブをボール盤であけた穴にねじ込むことで、一層型培養装置と同様の溶液ポートを取り付けた。ボール盤であけた穴の直径はチューブの直径よりも小さいため、チューブが圧縮されて接着剤を用いずに固定することができ、液漏れも防止できる。
また、基板層については、挿入部分とねじ止め用の穴が一部噛んでいることによって、ピンセットによる培養基板の出し入れを行い易くなっている。
基板層へ挿入された培養基板は接着固定不要であるため、培養終了後に基板を取り出すことが可能である。温度応答性基板ではなく、適当な培養基板を挿入すれば、細胞染色等を行うための細胞分析用の培養器具としても役立つと考えられる。
〔実施例6〕 細胞塊分散フィルターの作製
本実施例で作製するフィルターは、実施例5で作製した培養装置に装着して使用可能なものとし、継代培養における細胞の希釈操作時に使用する。具体的には、継代先の培養装置の溶液ポート内に挿入し、マイクロピペットで細胞溶液を押し付ける (図9)。
フィルター本体は、1000μlのマイクロピペット用チップを加工して作製した。メンブレン部分は、ナイロンメッシュを数枚重ね合わせたものを使用した。
メッシュの組み合わせによる分散効率の比較を行うため、15mlのファルコンチューブに100×100μm(以下、「□100」と記載する)および50×50μm(以下、「□50」と記載する)のナイロンメッシュを重ねて被せ、擬似フィルターとした。擬似フィルターを用いて細胞塊の分散を行い、単細胞の割合を算出した結果を示す(図10)。ここでは、細胞塊が分散可能であることを確認するため、培養ディッシュ上で増殖した接着細胞をセルスクレーパーで剥離し、細胞塊を含む溶液としたものを実験サンプルとして使用した。
図10より、Bの組み合わせでは約90%の細胞が単細胞となっており、高い分散効率が得られたことから、本フィルターはBの組み合わせを適用することにした。
また、フィルターによる細胞へのダメージを調べるため、フィルター通過後の死細胞率を算出し、無処理のものと比較した。その結果、フィルター通過後の死細胞率は20%未満であり、無処理のものとほぼ同値であったことから、フィルターを用いた細胞分散は細胞ダメージの少ない方法であることが判明した。
これらの結果を踏まえ、本実施例では50×50mmの正方形に裁断した滅菌済の□100と□50のナイロンメッシュをBの組み合わせで本体に挿入し細胞塊分散フィルターとした。底面に穴をあけて溶液ポートに見立てたPCRチューブにフィルターを装着し、図10と同様にフィルター処理前後の単細胞の割合を算出し、細胞塊の分散効率を調べた。その結果を図11に示す。このときの細胞回収率は約30%であり、過半数の細胞がフィルターで除去されてしまった。しかし、これはセルスクレーパーで剥離した細胞サンプルを使用したため、スクレーパーで押し固められて数十個の細胞が結合した巨大細胞塊が多数あり、それらの分解が不十分でフィルターに残留してしまったことが原因であると考えられる。したがって、温度応答で剥離された細胞サンプルを用いた場合のほうが、細胞回収率が高くなることが推測された。
〔実施例7〕 継代培養評価
実施例5で作製した培養装置を用いて継代培養の評価を行った。温度応答性高分子固定化基板としては実施例1及び2で作製した基板を使用した。実施例1で作製した基板としては、3wt.%PNIPAAm:10wt.%APTES=8:2の混合溶液を塗布した基板(以下、「8:2コート基板」と記載する)を使用することにし、実施例2で作製した基板としては、APSコートおよびMASコート基板に3wt.%のPNIPAAmを塗布した基板(以下「3%PNIPAAm-APS基板」、「3%PNIPAAm-MAS基板」と記載する)を用いることにした。
また、継代培養は、以下の通り行った。
1.培養液を37℃または室温の新しい培養液に入れ替える。
2.保冷剤を敷いて10 分静置する。
3.培養装置を10回程度振り、細胞を基板表面からかい離させて培養液に懸濁する。
4.新しい培養装置やディッシュに細胞溶液を移動し、希釈する。
5.顕微鏡で確認し、インキュベータ内に静置して再培養する。
各基板を培養装置に挿入して3日間培養し、高分子の温度応答による細胞剥離を行ったところ、図12に示すような変化が見られた。
8:2コート基板および3%PNIPAAm-MAS基板では、十分に接着増殖した細胞がほぼ全て剥離され、基板表面が露呈した(図12(a)及び(c))。一方、3%PNIPAAm-APS基板では、十分に細胞が接着増殖したが、温度応答による細胞剥離は他の2基板ほど顕著ではなく、多くの細胞が基板表面に接着したままであった(図12(b))。
この結果は、図13のようにまとめられ、3%PNIPAAm-MAS基板で高い接着増殖率と剥離率を示すことが判明した。PNIPAAm塗布なしの基板では接着増殖率は高いが、剥離率が著しく低く、8:2コート基板では、接着増殖率に対する剥離率は十分高いが、接着増殖率が3%PNIPAAm-MAS基板ほど高くなかった。一方、3%PNIPAAm-APS基板では、MAS基板と同等に接着増殖率は高いが、剥離率が低く、継代培養には不適であることが明らかになった。
〔実施例8〕 培養装置へのフィルター装着評価
実施例6で作製したフィルターを用いて、温度応答で剥離された細胞塊の分散評価を行った。実施例6と同様にフィルター処理前後の単細胞の割合を算出し、細胞塊の分散効率を調べたところ、6個以上の細胞が凝集した細胞塊の割合が減少し、単細胞の割合が7割以上まで増加した(図14)。さらに、このときの細胞回収率は70%程度であり、セルスクレーパーで剥離した細胞サンプルを使用した場合の約2倍の回収率となった。これは、温度応答で剥離された細胞は個々の細胞で剥離時間に差があることや、細胞塊が培養装置内で撹拌されて細分化されたため、セルスクレーパーで強制的に剥離された細胞塊より小さな細胞塊が多く、フィルターで除去されることなく分散されたことが要因であると推定される。したがって、温度応答による細胞剥離は、セルスクレーパーよりも単細胞になりやすく、酵素による剥離のような細胞膜の分解がないため、優れた剥離方法であると考えられる。
そして、継代時にフィルター処理を行った場合と行わなかった場合について、継代後の増殖の様子を観察したところ、フィルター処理された細胞サンプルのほうが、より均一に増殖することが確認された(図15)。
本発明は、上皮細胞や線維芽細胞などの接着性細胞の培養に有用なので、このような細胞を使用する産業、例えば、製薬業などに利用可能である。
1 ガス透過膜
2 温度応答性高分子固定化基板
3 溶液ポート
3a 蓋
4 フィルター

Claims (9)

  1. (1)細胞を収容するための空間、(2)前記空間の内外でのガス交換を可能にするためのガス透過膜、(3)前記空間への細胞の導入又は前記空間からの細胞の回収のための溶液ポート、(4)前記空間内に設置された基板であって、シランカップリング剤を用いて温度応答性高分子を固定化した基板を有することを特徴とする細胞培養装置。
  2. 温度応答性高分子を固定化した基板が、シランカップリング剤と温度応答性高分子の混合液を基板上に塗布し、硬化させたものであることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養装置。
  3. 温度応答性高分子が、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミドであることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞培養装置。
  4. シランカップリング剤が、3-アミノプロピルトリエトキシシランであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
  5. 単細胞を通過させるが、細胞塊を通過させないフィルターが溶液ポートに設置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
  6. 溶液ポートの形状が、一端が細胞を収容するための空間に連通し、他端が装置外部に開口する管状であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
  7. 溶液ポートの形状が、細胞培養装置に細胞を導入する器具及び/又は細胞培養装置から細胞を回収する器具と密着する形状であることを特徴とする請求項6に記載の細胞培養装置。
  8. 請求項1乃至7のいずれか一項に記載の細胞培養装置を用いた細胞の培養方法。
  9. 請求項1乃至7のいずれか一項に記載の細胞培養装置を用いた細胞の継代培養方法であって、以下の工程を有することを特徴とする細胞の継代培養方法、
    (1)細胞培養装置に細胞を導入する工程、
    (2)細胞培養装置の基板に固定化されている温度応答性高分子の転移温度より高い温度で細胞を培養する工程、
    (3)温度応答性高分子を固定化した基板の温度を、その温度応答性高分子の転移温度より低い温度とし、温度応答性高分子を固定化した基板から細胞を剥離する工程、
    (4)温度応答性高分子を固定化した基板から剥離した細胞を回収する工程
    (5)回収した細胞を別の細胞培養装置に導入する工程。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2018037841A1 (ja) * 2016-08-24 2018-03-01 富士フイルム株式会社 細胞処理装置および細胞処理方法

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