[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置及び駆動力伝達装置の制御装置が搭載された四輪駆動車の構成例を示す概略構成図である。
この四輪駆動車900は、駆動源であるエンジン902と、トランスミッション及びフロントデファレンシャルを有するトランスアクスル903と、一対の前輪904L,904Rと、一対の後輪905L,905Rと、トルクカップリング906と、リヤディファレンシャル91と、トルクカップリング906とリヤディファレンシャル91との間に配置された歯車機構92と、プロペラシャフト908と、駆動力伝達装置1と、駆動力伝達装置の制御装置8(以下、単に「制御装置8」という)とを備えている。なお、図1において符号中の文字「L」は四輪駆動車900の前進方向に対する左側を示し、文字「R」は四輪駆動車900の前進方向に対する右側を示している。
トランスアクスル903は、エンジン902の駆動力が一対の前輪904L,904Rにのみ伝達される二輪駆動時に、プロペラシャフト908へのトルク伝達を遮断可能な噛み合いクラッチを有している。
トルクカップリング906は、四輪駆動時においてプロペラシャフト908から歯車機構92のドライブピニオン921を介してリヤディファレンシャル91へ伝達されるトルクを連続的に調節可能である。
リヤディファレンシャル91は、サイドギヤ911L,911Rと、一対のピニオンギヤ912と、一対のピニオンギヤ912を回転可能に支持するギヤ支持部材913と、サイドギヤ911L,911R及び一対のピニオンギヤ912を収容し、リングギヤ922と一体回転するリヤデフケース914とを有している。一対のピニオンギヤ912は、サイドギヤ911L,911Rにギヤ軸を直交させて噛合する。サイドギヤ911Lは、後輪905L側のアクスルシャフト100Lに連結され、サイドギヤ911Rは、後輪905R側のアクスルシャフト100Rに駆動力伝達装置1を介して連結される。
駆動力伝達装置1は、リヤディファレンシャル91のサイドギヤ911Rと後輪905R側のアクスルシャフト100Rとの連結を断接可能である。リヤディファレンシャル91のサイドギヤ911Rと後輪905R側のアクスルシャフト100Rとの連結が遮断されると、エンジン902の駆動力が後輪905Rに伝達されなくなると共に、リヤディファレンシャル91のサイドギヤ911L,911R及び一対のピニオンギヤ912が空回りすることにより後輪905Lにも駆動力が伝達されなくなる。これにより、一対の前輪904L,904Rのみにエンジン902の駆動力が伝達される二輪駆動状態となる。この際、サイドギヤ911Rはサイドギヤ911Lと逆方向に回転する。また、この二輪駆動状態では、トランスアクスル903の噛み合いクラッチによりエンジン902からプロペラシャフト908へのトルク伝達が遮断され、プロペラシャフト908の回転が停止する。
一方、リヤディファレンシャル91のサイドギヤ911Rと後輪905R側のアクスルシャフト100Rとが駆動力伝達装置1を介して連結され、トランスアクスル903の噛み合いクラッチを介してエンジン902の駆動力がプロペラシャフト908へ伝達されると、エンジン902の駆動力が一対の前輪904L,904R及び一対の後輪905L,905Rに伝達される。これにより、四輪駆動車900が四輪駆動状態となる。
制御装置8は、ECU(Electronic Control Unit)80内に配置された記憶素子81、CPU(Central Processing Unit)82、電流出力部83、及び電流センサ71と、駆動力伝達装置1に組み付けられたストロークセンサ72とを有して構成されている。記憶部81は、プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)や、ワークメモリとして使用されるRAM(Random Access Memory)等の記憶素子からなる。CPU82は、記憶部81に記憶されたプログラムに従って動作し、電流出力部83に指令信号を出力することによって後述する制御手段として機能する。
電流出力部83は、CPU82からの指令信号を受け、駆動力伝達装置1の後述する電磁コイル3に励磁電流を出力する。この指令信号には、励磁電流の出力を開始すべき開始指令信号、及び励磁電流の出力を停止すべき停止開始指令信号が含まれる。電流センサ71は、例えばホール素子やMR素子(磁気抵抗効果素子)を有し、電流出力部83から出力される励磁電流によって発生する磁界の強度に応じた電気信号をCPU82に供給する。
CPU82、電流センサ71、及びストロークセンサ72は、電流出力部83の励磁電流の出力状態を切り替えることにより、駆動力伝達装置1の断続を制御する制御部84を構成する。なお、制御装置8は、トルクカップリング906を制御するための機能及び構成をも有しているが、この機能及び構成については周知のものと同様であるので、その説明を省略する。第1回転部材11と第2回転部材12とは、駆動力伝達装置1の駆動力伝達が遮断された状態において、互いに相対回転する。
(駆動力伝達装置1の構成)
図2は、駆動力伝達装置1の断面図である。駆動力伝達装置1は、アクスルシャフト100R(図1参照)に相対回転不能に連結される第1回転部材11と、リヤディファレンシャル91(図1参照)のサイドギヤ911Rに相対回転不能に連結される第2回転部材12とを駆動力伝達可能に連結する。
駆動力伝達装置1は、第2回転部材12に駆動力伝達可能に係合する係合部材としての噛み合い部材2と、励磁電流の通電により磁力を発生する電磁コイル3と、制御装置8の制御によって軸方向移動する押圧部材としてのアーマチャ4と、アーマチャ4の軸方向移動により付勢部材6の付勢力に抗して噛み合い部材2を押圧して軸方向移動させる移動機構1aとを有している。アーマチャ4は、制御装置8から供給される電流により電磁コイル3に発生する磁力を受けて移動する。駆動力伝達装置1は、ハウジング10に収容されている。以下、これら各部材等の構成について詳細に説明する。
第1回転部材11及び第2回転部材12は、回転軸線Oを共有して同軸上で相対回転可能にハウジング10に支持されている。ハウジング10は、第1ハウジング部材101及び第2ハウジング部材102からなり、第1ハウジング部材101と第2ハウジング部材102とが複数のボルト103(図1には1つのボルト103のみを示す)によって相互に固定されている。第2ハウジング部材102には、アクスルシャフト100Rを挿入するための開口102aが形成されている。アクスルシャフト100Rの外周面と第2ハウジング部材102の開口102aの内面との間は、シール部材100dによって封止されている。
第2回転部材12は、第1ハウジング部材101との間に配置された玉軸受16によって回転可能に支持されている。第2回転部材12は、玉軸受16に支持された軸部121と、軸部121の端部から径方向外方に張り出して形成された張り出し部122と、張り出し部122の外径端部から回転軸線Oに沿って第1回転部材11側に延在する円筒部123と、円筒部123における回転軸線Oに沿って第1回転部材11側の端部から径方向外方に突出して形成された突起部124と、突起部124の外周に形成されたスプライン嵌合部125と、突起部124からさらに回転軸線Oに沿って第1回転部材11側に向かって突出し、円筒部123よりも外径が小さく形成された円筒状の小径筒部126を一体に有している。
第1回転部材11は、アクスルシャフト100Rを挿通させる挿通孔11aが形成された円筒部110と、円筒部110の外周面から径方向外方に張り出して形成されたフランジ部111と、フランジ部111の外径側の端部から回転軸線Oに平行な方向の第2回転部材側に向かって突出する鍔部113と、鍔部113の外周に形成された第1噛合部としてのスプライン嵌合部112とを一体に有している。また、フランジ部111の外周面111bは、回転軸線Oに平行な方向に対して傾斜し、後述する噛み合い部材2のフランジ部22側からスプライン嵌合部112側に向かって徐々に外径が拡大するテーパ面として形成されている。
挿通孔11aの内面には、アクスルシャフト100Rの外周スプライン嵌合部100aにスプライン嵌合する内周スプライン嵌合部11bが形成されている。第1回転部材11とアクスルシャフト100Rとは、内周スプライン嵌合部11bと外周スプライン嵌合部100aとのスプライン嵌合により相対回転不能に連結され、かつスナップリング100cによって軸方向の相対移動が規制されている。
第1回転部材11は、その軸方向における第2回転部材12側の端部に設けられた一端小径部110bが第2回転部材12の円筒部123の内側に配置された玉軸受17によって支持され、第2ハウジング部材102の開口102a側の端部に設けられた他端小径部110cが第2ハウジング部材102との間に配置された玉軸受18によって支持されている。一端小径部110bと他端小径部110cとの間には、一端小径部110b及び他端小径部110cよりも外径が大きい大径部110aが形成され、フランジ部111は、大径部110aにおける一端小径部110b側の端部に設けられている。
噛み合い部材2は、第2回転部材12に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。また、噛み合い部材2は、第1回転部材11の円筒部110における大径部110aに外嵌された円筒部21と、円筒部21における第1回転部材11のフランジ部111側の端部から径方向外方に張り出して形成されたフランジ部22と、フランジ部22の外径側の端部から回転軸線Oに沿って第2回転部材12側に延在する円筒部23と、円筒部23の内周に形成された第2噛合部としてのスプライン嵌合部24と、円筒部23のフランジ部22側の端部から径方向内方に向かって膨出した膨出部231とを一体に有している。
噛み合い部材2の膨出部231における内周面231aは、第1回転部材11のフランジ部111の外周面111bと平行に向かい合うように回転軸線Oに対して傾斜したテーパ面として形成されている。噛み合い部材2の内周面231aと第1回転部材11の外周面111bとは、噛み合い部材2の軸方向移動によって当接し、第1回転部材11と第2回転部材12とを回転同期させる摩擦力を発生させる摩擦面として機能する。
噛み合い部材2は、そのスプライン嵌合部24が第2回転部材12に設けられたスプライン嵌合部125に常に噛み合い、第2回転部材12との相対回転が規制されている。これにより、噛み合い部材2は、第2回転部材12に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。また、噛み合い部材2は、第2回転部材12から離間する方向への軸方向移動によって、スプライン嵌合部24が第1回転部材11に設けられたスプライン嵌合部112に噛み合う。噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第2回転部材12のスプライン嵌合部125及び第1回転部材11のスプライン嵌合部112に共に噛み合うと、第1回転部材11と第2回転部材12とが噛み合い部材2を介して駆動力伝達可能に連結される。
図2では、回転軸線Oよりも上側に噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合っていない状態(非連結状態)を示し、回転軸線Oよりも下側に噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合った状態(連結状態)を示している。
電磁コイル3は、樹脂からなるボビン31に制御装置8から供給される電流が流れる巻線32を巻き回してなる。この電磁コイル3は、鉄等の強磁性体からなる環状のヨーク30に保持され、ヨーク30は第2ハウジング部材102に支持されている。ヨーク30には、回転軸線Oに平行となるように配置された円柱状のピン300が嵌合する複数の穴部30aが形成され、この穴部30aにピン300の一端部が挿入されている。また、第2ハウジング部材102には、ピン300の他端部が嵌合する複数の穴部102bが形成されている。アーマチャ4は、ヨーク30との間に配置された皿バネ301によって、ヨーク30から離間する方向に弾性的に押し付けられている。
図3は、アーマチャ4を示す斜視図である。アーマチャ4は、中心部に第1回転部材11を挿通させる貫通孔4aが形成された円環板状の本体40と、貫通孔4aの内周面から本体40の中心に向かって突出する複数(本実施の形態では6つ)の押圧突起41とを一体に有している。本体40には、貫通孔4aの周囲に複数のピン300(図2に示す)を挿通させるピン挿通孔4bが複数箇所(本実施の形態では4箇所)に形成されている。押圧突起41は、ピストン部材5の後述する第1乃至第5の被係止部51〜55における軸方向端面51a〜55aに対向する対向面41aが、本体40の厚さ方向(回転軸線Oに平行な方向)に対して傾斜した傾斜面として形成されている。
アーマチャ4は、電磁コイル3が非通電であるときには、皿バネ301の押し付け力によって第2ハウジング部材102の受け部102cに当接し、電磁コイル3に通電されると、その磁力によってヨーク30に引き寄せられる。また、アーマチャ4は、ピン挿通孔4bに挿通された複数のピン300によって第2ハウジング部材102及びヨーク30に対する回転が規制されている。したがって、アーマチャ4は、第2ハウジング部材102の受け部102cに当接した第1位置と、ヨーク30に接近した第2位置との間を、複数のピン300に案内されて移動する。図2では、回転軸線Oよりも上側にアーマチャ4が第2位置にある状態を示し、回転軸線Oよりも下側にアーマチャ4が第1位置にある状態を示している。
移動機構1aは、第1回転部材11に対して軸方向移動不能かつアーマチャ4に対して相対回転不能に設けられた係止部19と、軸方向の異なる位置で係止部19に係止される複数の被係止部(後述する第1乃至第5の被係止部51〜55)が周方向に隣り合って形成された円筒状のピストン部材5と、噛み合い部材2をピストン部材5側に付勢する付勢部材6とを有し、アーマチャ4の軸方向移動に応動して係止部19が複数の被係止部のうち軸方向の位置が異なる他の被係止部を係止するように構成されている。
付勢部材6は、回転軸線O方向に沿って配列された複数の皿バネ60からなる。ただし、付勢部材6をコイルバネやゴム等の弾性体によって構成してもよい。また、付勢部材6は、回転軸線Oに沿った軸方向の一端が第2回転部材12の円筒部123の外周に嵌合された止め輪61に当接し、かつ軸方向の他端が噛み合い部材2の円筒部23の軸方向端面23aに当接している。
ピストン部材5は、噛み合い部材2と共に第1回転部材11の円筒部110における大径部110aに外嵌されている。噛み合い部材2及びピストン部材5は、第1回転部材11の円筒部110に隙間嵌めされ、第1回転部材11に対して軸方向移動可能かつ相対回転可能である。噛み合い部材2とピストン部材5との間には、転がり軸受13が配置されている。本実施の形態では、転がり軸受13が針状スラストころ軸受からなる。噛み合い部材2は転がり軸受13よりも第2回転部材12側に、またピストン部材5は転がり軸受13よりも係止部19側に、それぞれ配置されている。
ピストン部材5は、付勢部材6による押圧力を噛み合い部材2から転がり軸受13を介して複数の係止部19側への軸方向の付勢力として受ける。本実施の形態では、複数の係止部19が第2ハウジング部材102に一体に設けられているが、複数の係止部19は第2ハウジング部材102と別体でもよい。
ピストン部材5は、アーマチャ4の軸方向移動に応動し、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24と第1回転部材11のスプライン嵌合部112との噛み合いが解除される方向に、噛み合い部材2を回転軸線Oに沿って軸方向に押圧する。
図4は、第2ハウジング部材102に設けられた複数の係止部19を示す斜視図である。
第2ハウジング部材102には、第1回転部材11を挿通させる貫通孔102dが形成され、複数の係止部19は、貫通孔102dの内周面から第1回転部材11側に向かって突出し、かつ回転軸線Oに沿ってピストン部材5側に突出している。複数の係止部19は、貫通孔102dの周方向に沿って等間隔に設けられ、その個数はアーマチャ4の押圧突起41の個数と同じである。係止部19は、アーマチャ4の押圧突起41における対向面41aと同様に、後述するピストン部材5の被係止部51〜55における軸方向端面51a〜55aに対向する先端面19aが、回転軸線Oに平行な方向に対して傾斜した傾斜面として形成されている。
図5は、ピストン部材5を示し、(a)はピストン部材5を回転軸線Oに沿って複数の係止部19側から見た平面図、(b)はピストン部材5の一部を示す斜視図である。このピストン部材5には、軸方向の異なる位置で係止部19に係止される複数の被係止部が周方向に隣り合って形成されている。本実施の形態では、この複数の被係止部が第1乃至第5の被係止部51〜55からなる。これら第1乃至第5の被係止部51〜55は、転がり軸受13が当接する基端面5aとは反対側の端部に、周方向に沿って6組形成されている。
各組における第1乃至第5の被係止部51〜55は、ピストン部材5を回転軸線Oの方向から時計回りに見た場合に、第1の被係止部51に隣接して第2の被係止部52が形成され、第2の被係止部52に隣接して第3の被係止部53が形成され、第3の被係止部53に隣接して第4の被係止部54が形成され、第4の被係止部54に隣接して第5の被係止部55が形成されている。第5の被係止部55における第4の被係止部54とは反対側の端部には、軸方向に突出する壁部56が形成されている。
第1乃至第5の被係止部51〜55は、ピストン部材5の軸方向の位置が互いに異なり、第2の被係止部52は第1の被係止部51よりも基端面5aから離間し、第3の被係止部53は第2の被係止部52よりも基端面5aから離間し、第4の被係止部54は第3の被係止部53よりも基端面5aからさらに離間し、第5の被係止部55は第4の被係止部54よりも基端面5aからさらに離間して形成されている。
第1乃至第5の被係止部51〜55のそれぞれの軸方向端面51a〜55aは、ピストン部材5の周方向に対して傾斜している。より具体的には、第1の被係止部51の軸方向端面51aは第2の被係止部52側の端部ほど基端面5aに近づくように傾斜し、第2の被係止部52の軸方向端面52aは第3の被係止部53側の端部ほど基端面5aに近づくように傾斜し、第3の被係止部53の軸方向端面53aは第4の被係止部54側の端部ほど基端面5aに近づくように傾斜し、第4の被係止部54の軸方向端面54aは壁部55側の端部ほど基端面5aに近づくように傾斜し、第5の被係止部55の軸方向端面55aは壁部56側の端部ほど基端面5aに近づくように傾斜している。
壁部56は、その軸方向の端面56aが軸方向端面51a〜55aと同方向に傾斜している。また、壁部56は、その周方向における一方の壁面56bが第5の被係止部55に面している。
第1乃至第5の被係止部51〜55の軸方向端面51a〜55aには、アーマチャ4の押圧突起41における対向面41a及び係止部19の先端面19aが当接する。アーマチャ4の対向面41aは、軸方向端面51a〜55aのピストン部材5の径方向外側の部分に当接し、係止部19の先端面19aは、軸方向端面51a〜55aのピストン部材5の径方向内側の部分に当接する。ピストン部材5は、付勢部材6により、軸方向端面51a〜55aがアーマチャ4の押圧突起41及び係止部19に押し付けられる軸方向の付勢力を受ける。
係止部19が第1の被係止部51を係止するとき、係止部19の先端面19aと基端面5aとの間隔は最も短くなる。また、係止部19が第5の被係止部55を係止するとき、係止部19の先端面19aと基端面5aとの間隔は最も長くなる。
係止部19が第1の被係止部51を係止するとき、図2において回転軸線Oよりも下側に示すように噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合い、係止部19が第5の被係止部55を係止するとき、図2において回転軸線Oよりも上側に示すように噛み合い部材2のスプライン嵌合部24と第1回転部材11のスプライン嵌合部112との噛み合いが解除される。係止部19が第2乃至4の被係止部52〜54を係止した状態では、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112の一部に噛み合う。
移動機構1aと噛み合い部材2との間には、ピストン部材5の位置に応じて出力電圧が変化する位置センサとしてのストロークセンサ72が配置されている。ストロークセンサ72によって検出された出力電圧はCPU82(図1参照)へ出力される。このストロークセンサ72は、例えば電磁誘導により検出対象(ピストン部材5)に発生する渦電流を利用する方式や、検出対象の位置に応じた電気的な容量の変化を捉える方式等のものを用いることができる。
(移動機構1aの動作)
次に、移動機構1aの動作について、図6及び図7を参照して説明する。
図6(a)〜(d)は、第2ハウジング部材102における複数の係止部19以外の部分の図示を省略してアーマチャ4及びピストン部材5を示す模式図である。
図6(a)は、係止部19が第1の被係止部51を係止し、アーマチャ4が第1位置にある第1状態を示している。この第1状態では、付勢部材6の付勢力により第1の被係止部51の軸方向端面51aが係止部19の先端面19aに押し付けられ、かつアーマチャ4の押圧突起41における対向面41aに対向する。また、係止部19は第1の被係止部51の周方向の壁面51bに当接し、アーマチャ4の押圧突起41は壁面51bからピストン部材5の周方向に離間した位置で軸方向端面51aに対向する。第1の被係止部51の壁面51bは、第1の被係止部51と第2の被係止部52との間に形成された段差面であり、ピストン部材5の軸方向に平行な平坦な面である。第1の被係止部51において、軸方向端面51aと壁面51bとがなす角は鋭角である。
図6(b)は、電磁コイル3に通電され、図6(a)に示す第1状態からアーマチャ4が第2位置に移動した第2状態を示している。アーマチャ4は、第1状態から第2状態に移行する過程で押圧突起41の対向面41aが軸方向端面51aに当接し、押圧突起41がピストン部材5を噛み合い部材2側に押圧する。また、この第2状態では、係止部19が第1の被係止部51の壁面51bに当接した状態が解除され、ピストン部材5は、第1の被係止部51の軸方向端面51aとアーマチャ4の押圧突起41の対向面41aとの摺動により、第1所定角度だけ矢印X方向に回転する。このピストン部材5の回転により、第1の被係止部51の壁面51bがアーマチャ4の押圧突起41の側面41bに当接する。
つまり、アーマチャ4は、その軸方向の第1位置から第2位置への移動によってピストン部材5を噛み合い部材2側に押し込む押し込み動作を行うことにより、ピストン部材5を噛み合い部材2側に移動させると共に、ピストン部材5を第1所定角度だけ回転させる。この第1所定角度は、図6(a)に示すアーマチャ4の押圧突起41と第1の被係止部51の壁面51bとの間の隙間の距離d1に対応した角度である。このように、ピストン部材5は、電磁コイル3への通電によるアーマチャ4の第1位置から第2位置への移動によって第1所定角度だけ回転する。
アーマチャ4が第2位置にあるとき、係止部19の先端面19aは、第2の被係止部52との間に隙間をあけて軸方向端面52aに対向する。つまり、アーマチャ4が第2位置に移動したとき、ピストン部材5が第1所定角度回転して押圧突起41が壁面51bに当接し、係止部19の先端面19aが第1の被係止部51に隣り合う第2の被係止部52の軸方向端面52aに対向する。
図6(c)は、電磁コイル3への通電が遮断され、アーマチャ4が第2位置から第1位置に戻る途中の第3状態を示している。この第3状態では、係止部19の先端面19aが第2の被係止部52の軸方向端面52aに当接する。この係止部19の先端面19aと第2の被係止部52の軸方向端面52aとの当接により、ピストン部材5には、矢印X方向への回転力が作用するが、矢印X方向への回転は、アーマチャ4の押圧突起41の側面41bと第1の被係止部51の壁面51bとの当接により規制されている。
図6(d)は、アーマチャ4が第1位置に戻り、ピストン部材5が係止部19の側面19bに第2の被係止部52の周方向の壁面52bが当接するまで矢印X方向に回転した第4状態を示している。この第4状態では、付勢部材6の付勢力を受けたピストン部材5の第2の被係止部52の軸方向端面52aと係止部19の先端面19aとの摺動により、ピストン部材5が係止部19に対して第2所定角度回転する。これにより、係止部19が第2の被係止部52を係止する。この第2所定角度は、図6(c)に示す第3状態における第2の被係止部52の壁面52bと係止部19との間の距離d2に対応した角度である。つまり、電磁コイル3への通電の停止によるアーマチャ4の第2位置から第1位置への移動によってピストン部材5が第2所定角度さらに回転し、係止部19が第1の被係止部51に隣り合う第2の被係止部52を係止する。
移動機構1aは、アーマチャ4が第1位置と第2位置との間を複数回往復することにより、ピストン部材5が付勢部材6の付勢力に抗して噛み合い部材2を軸方向移動させる。本実施の形態では、ピストン部材5に階段状に形成された5つの被係止部(第1乃至第5の被係止部51〜55)を有するので、電磁コイル3への通電及び通電遮断が4回行われ、アーマチャ4が第1位置と第2位置の間を4往復することにより、係止部19が第1の被係止部51を係止する位置から第5の被係止部55を係止する位置までピストン部材5が回転する。
図6(a)に示すように、基端面5aから第1の被係止部51の軸方向端面51aまでの距離をd3とし、基端面5aから第4の被係止部54の軸方向端面54aまでの距離をd4とすると、距離d4は距離d3よりも長く、ピストン部材5は、この距離d4と距離をd3との差に応じた範囲で軸方向に進退移動する。
図7は、係止部19が第5の被係止部55を係止する状態から第1の被係止部51に移行する状態となり、駆動力伝達装置1が非連結状態から連結状態に移行する際の動作を説明する模式図である。
図7(a)は、係止部19が第5の被係止部55を係止し、アーマチャ4が第1位置にある状態を示している。この状態では、係止部19が第5の被係止部55の軸方向端面55a及び壁部56の周方向の壁面56bに当接する。
図7(b)は、アーマチャ4が第2位置に移動した状態を示している。アーマチャ4は、第1位置から第2位置に移動する過程で、押圧突起41が押し込み動作によってピストン部材5を噛み合い部材2側に押圧して移動させる。この際、図2において回転軸線Oよりも上側に示すように、噛み合い部材2の円筒部23における膨出部231の内周面231aが第1回転部材11のフランジ部111における外周面111bに軸方向に押し付けられる。これにより、第1回転部材11と第2回転部材12とが回転速度差をもって相対回転している場合には、内周面231aと、外周面111bとがそれぞれ摩擦摺動することにより、第1回転部材11の回転と第2回転部材12の回転とを同期させる摩擦力が発生する。
より具体的には、この摩擦力は、電磁コイル3への通電によるアーマチャ4の押し込み動作に伴うピストン部材5の軸方向移動によって、第1回転部材11のフランジ部111における外周面111bに、噛み合い部材2の円筒部23における膨出部231の内周面231aが押し付けられることにより発生する。つまり、制御装置8は、係止部19が第1の被係止部51を係止する前にピストン部材5を第2回転部材12側に押し込む押し込み動作を行わせることにより、第1回転部材11と噛み合い部材2との間に摩擦力を発生させて第1回転部材11と第2回転部材12との回転速度差を小さくする。
また、この押し込み動作によって係止部19が壁部56の周方向の壁面56bに当接した状態が解除されることにより、ピストン部材5が矢印X方向に第1所定角度だけ回転する。
図7(c)は、アーマチャ4が第2位置から第1位置に戻る途中の状態を示している。この状態では、係止部19の先端面19aが壁部56の軸方向の端面56aに当接し、ピストン部材5には、矢印X方向への回転力が作用する。
図7(d)は、アーマチャ4が第1位置に戻り、係止部19が第1の被係止部51を係止するまで矢印X方向に回転した状態を示している。図7(c)に示す状態から図7(d)に示す状態まで移行する過程で、ピストン部材5は距離d3と距離をd4との差に応じた範囲の全体に亘って軸方向に大きく変位し、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合う。
このように、アーマチャ4が磁力によって軸方向移動する方向と反対側にピストン部材5が軸方向移動したときに、付勢部材6の付勢力によって噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合う。より具体的には、噛み合い部材2は、係止部19が第1乃至第5の被係止部51〜55のうち噛み合い部材2から最も遠い位置に形成された第5の被係止部55との係止が解除されて噛み合い部材2に最も近い位置に形成された第1の被係止部51を係止するとき、付勢部材6の付勢力によってスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合い、第1回転部材11と第2回転部材12とがトルク伝達可能に連結された連結状態となる。
(制御装置8による駆動力伝達装置1の制御方法)
次に、制御装置8による駆動力伝達装置1の制御方法について説明する。
制御装置8の制御部84は、ピストン部材5の回転及び/又は移動を検出すること可能な検出手段と、この検出手段の検出結果に基づいてアーマチャ4の移動が可能であることを判断する制御手段とを有している。つまり、検出手段は、ピストン部材5の回転及び移動の少なくとも一方を検出することが可能である。本実施の形態では、検出手段として電流センサ71及びストロークセンサ72を用いる。電流センサ71及びストロークセンサ72の出力信号は、検出手段の検出結果に相当する。また、本実施の形態では、CPU82が記憶部81に記憶されたプログラムに従って動作することにより、このCPU82が制御手段として機能する。
CPU82は、ストロークセンサ72の出力信号の変化に基づいて、ピストン部材5が第1所定角度だけ回転したことの判定、及びピストン部材5が第2所定角度だけ回転したことの判定のうち、少なくともいずれかの判定を行う。本実施の形態では、CPU82は、電流センサ71によって検出された励磁電流の変化に基づいてピストン部材5が第1所定角度だけ回転したかの判定を行い、ストロークセンサ72の出力信号の変化に基づいてピストン部材5が第2所定角度だけ回転したことの判定を行う。以下、CPU82が制御手段として実行する処理内容について、図8乃至図11を参照して説明する。
図8は、CPU82が実行する処理のうち、駆動力伝達装置1を連結状態から非連結状態に切り換える際に実行する処理の具体例を示すフローチャートであり、図9は、図8に示すフローチャートの処理の実行時における電磁コイル3の励磁電流、及びストロークセンサ72の出力電圧の時間変化の例を示すグラフであり、図10は、図9における時刻t11〜時刻t21までの電磁コイル3の励磁電流、及びストロークセンサ72の出力電圧の時間変化を拡大して示すグラフである。図11は、駆動力伝達装置1を非連結状態から連結状態に切り換える際に実行する処理の具体例を示すフローチャートである。
まず、駆動力伝達装置1を連結状態から非連結状態に切り換える際にCPU82が実行する処理の内容について、図8を参照して説明する。
駆動力伝達装置1を連結状態から非連結状態に切り換える際、CPU82は、電流出力部83に指令信号を出力し、電磁コイル3への通電を開始する(ステップS10)。次に、CPU82は、電磁コイル3へ通電している通電状態か否かを判定する(ステップS11)。この判定の結果、通電状態であれば(ステップS11:Yes)、CPU82は、ピストン部材5が第1所定角度だけ回転したか否かを判定する(ステップS12)。この判定は、電流センサ71によって検出された励磁電流の変化に基づいて行うことができる。この判定処理の具体的な内容について以下に説明する。
ステップS10において電磁コイル3への通電を開始すると、電磁コイル3のリアクタンスに応じた時定数で励磁電流が徐々に上昇し、図10に示す時刻taにおいて励磁電流が極大値である電流値Iaまで上昇する。その後、磁化したアーマチャ4が電磁コイル3に接近することによる逆起電力により、励磁電流は図10に示す時刻tbにおいて極小値である電流値Ibまで下降(減少)する。また、この間の励磁電流による磁力によって、アーマチャ4が第1位置から第2位置へ移動し、図6(a)に示す第1状態から図6(b)に示す第2状態に移行する。これにより、ピストン部材5が押圧突起41の対向面41aに沿って第1所定角度だけ回転する。また、時刻taから時刻tbの間において、ストロークセンサ72の出力電圧がV1からV12まで上昇する。
押圧突起41の対向面41aは、前述のように傾斜面として形成されているので、ピストン部材5の回転によって押圧突起41の側面41bと第1の被係止部51の壁面51bとが衝突した際、磁化したアーマチャ4が電磁コイル3から離間する方向に僅かに押し戻される。このアーマチャ4の移動によって電磁コイル3に起電力が発生し、図10に示す時刻tbから時刻tcの間において励磁電流が再度上昇する。CPU82は、この時刻tbから時刻tcの間における励磁電流の上昇を電流センサ71によって検出することにより、ピストン部材5が第1所定角度だけ回転したか否かを判定する。このように、CPU82は、電流センサ71によって検出された励磁電流が上昇した後に下降し、その後再度上昇したときにピストン部材5が第1所定角度だけ回転したと判定する。
このように、CPU82は、電流センサ71によって検出された励磁電流の変化に基づいてピストン部材5が第1所定角度だけ回転したと判定したときに、アーマチャ4の第2位置から第1位置への移動が可能であると判断し、電磁コイル3への通電を遮断するので、ピストン部材5の移動によって係止部19が第1の被係止部51の壁面51bを乗り越える前に励磁電流が遮断され、図6(a)に示す第1状態に戻ってしまうことを回避することができる。
そして、CPU82は、ピストン部材5が第1所定角度だけ回転したと判定した場合(ステップS12:Yes)、電磁コイル3への通電を停止する(ステップS13)。この通電遮断の処理は、図10に示す時刻tcにおいて実行され、その後励磁電流が減少して時刻t12において励磁電流がゼロとなる。一方、ステップS12の判定においてピストン部材5が第1所定角度だけ回転していないと判定した場合(ステップS12:No)には、通電を停止することなく通電状態を継続し、再度ステップS11以降の処理を実行する。
また、ステップS11の処理において通電状態ではないと判定した場合(ステップS11:No)、CPU82は、ピストン部材5が第2所定角度だけ回転したか否かを判定する(ステップS14)。この判定は、ストロークセンサ72の出力電圧と所定の閾値との比較に基づいて行うことができる。この判定処理の具体的な内容について以下に説明する。
ステップS13で電磁コイル3への通電が停止されると、磁力の消滅によりアーマチャ4は第2位置から第1位置へ戻り、図6(c)に示す第3状態から図6(d)に示す第4状態へ移行する。これにより、ピストン部材5が第2所定角度だけ回転し、図10に示すように、時刻t12から時刻t21の間において、ストロークセンサ72の出力電圧がV12からV2まで上昇する。
CPU82は、このピストン部材5の第2所定角度の回転時におけるストロークセンサ72の出力電圧の変化に基づいて、ステップS14における判定処理を実行する。具体的には、CPU82は、予め設定された所定の閾値Vhと、ストロークセンサ72の出力電圧とを比較し、比較結果に基づいてピストン部材5が第2所定角度だけ回転したか否かを判定する。つまり、CPU82は、ストロークセンサ72の出力電圧値が、閾値Vhよりも大きい場合にピストン部材5が第2所定角度だけ回転したと判定する。
このように、制御装置8のCPU82は、ストロークセンサ72によって検出された出力電圧の変化に基づいてピストン部材5が第2所定角度だけ回転したと判定したときに、アーマチャ4の第1位置から第2位置への移動が可能であると判断し、電磁コイル3への通電を再開する。これにより、例えばアーマチャ4の押圧突起41が未だ被係止部51の周方向の壁面51bを乗り越えていない状態(例えば図6(c)に示す状態)で通電を再開してしまい、図6(b)に示す第3状態に戻ってしまうことを回避することができる。
そして、CPU82は、ピストン部材5が第2所定角度だけ回転したと判定した場合(ステップS14:Yes)、係止部19に係止される被係止部が第5の被係止部55(最上段)か否かを判定する(ステップS15)。この判定は、例えばCPU82が電磁コイル3への通電の開始及び停止を繰り返した回数をカウントしたカウント値に基づいて行ってもよく、ストロークセンサ72の出力電圧に基づいて行ってもよい。
この判定の結果、係止部19が第5の被係止部55を係止していなければ(ステップS15:No)、CPU82はステップS10以降の処理を再度実行する。一方、係止部19が第5の被係止部55を係止していれば(ステップS15:Yes)、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24と第1回転部材11のスプライン嵌合部112との噛み合いが解除され、駆動力伝達装置1が非連結状態であるので、図8に示すフローチャートの処理を終了する。
このように、CPU82の処理によって電磁コイル3への通電の開始及び停止が複数回(本実施の形態では4回)繰り返されることにより、係止部19に係止される被係止部が第1の被係止部51から第5の被係止部55まで順次移り変わり、駆動力伝達装置1が連結状態から非連結状態に切り換わる。第2回目以降の処理におけるステップS12及びステップS14の判定の処理は、上記説明した第1回目の処理と同様に行われる。ただし、ステップS14における判定処理の閾値は、各段階におけるストロークセンサ72の出力電圧に応じて変化する。
図9において、時刻t21から時刻t22における電磁コイル3の励磁電流は、係止部19に係止される被係止部が第2の被係止部52から第3の被係止部53に移行する過程における励磁電流を示し、時刻t31から時刻t32における電磁コイル3の励磁電流は、係止部19に係止される被係止部が第3の被係止部53から第4の被係止部54に移行する過程における励磁電流を示している。また、時刻t41から時刻t42における電磁コイル3の励磁電流は、係止部19に係止される被係止部が第4の被係止部54から第5の被係止部55に移行する過程における励磁電流を示している。この過程で、ストロークセンサ72の出力電圧がV2からV5まで順次高くなる。
次に、駆動力伝達装置1を非連結状態から連結状態に切り換える際にCPU82が実行する処理の内容について、図11を参照して説明する。
駆動力伝達装置1を非連結状態から連結状態に切り換える際、CPU82は、電流出力部83に指令信号を出力し、電磁コイル3への通電を開始する(ステップS20)。これにより、ピストン部材5の第5の被係止部55に位置したアーマチャ4の押圧突起41が第1位置から第2位置に移動し、ピストン部材5が噛み合い部材2を第2回転部材12側に押圧することにより、噛み合い部材2の内周面231aと第1回転部材11の外周面111bとが当接して摩擦摺動し、第1回転部材11と第2回転部材12とを回転同期させる摩擦力が発生する。すなわち、CPU82は、アーマチャ4の押圧突起41及び係止部19がピストン部材5の第1乃至第5の被係止部51〜55のうち、噛み合い部材2から最も遠い位置に形成された第5の被係止部55を係止した状態で電磁コイル3へ通電し、アーマチャ4を軸方向移動させることにより噛み合い部材2と第1回転部材11との間に摩擦力を発生させ、この摩擦力によって第1回転部材11の回転と第2回転部材の回転とを同期させる。
そして、CPU82は、第1回転部材11の回転と第2回転部材12の回転との回転数差が所定値以下であるか否かで同期が完了したか否かを判定し(ステップS21)、同期が完了するまで電磁コイル3への通電を継続する。この判定は、例えばプロペラシャフト908(図1参照)の回転速度と後輪905L,905Rの回転速度との比較によって行うことができる。
第1回転部材11の回転と第2回転部材12の回転とが同期したら(ステップS21:Yes)、CPU82は、電磁コイル3への通電を停止する(ステップS22)。これにより、図7(d)に示すように、係止部19がピストン部材5の第1の被係止部51を係止した状態となる。これにより、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24と第1回転部材11のスプライン嵌合部112とが噛み合い、駆動力伝達装置1が連結状態となる。つまり、噛み合い部材2は、係止部19がピストン部材5の複数の被係止部(第1乃至第5の被係止部51〜55)のうち噛み合い部材2から最も遠い位置に形成された第5の被係止部55を係止する状態が解除され、噛み合い部材2に最も近い位置に形成された第1の被係止部51を係止するとき、付勢部材6の付勢力によってスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合う。
なお、アーマチャ4の押圧突起41及び係止部19がピストン部材5の第5の被係止部55を係止する状態における電磁コイル3への通電の停止は、CPU82が第1回転部材11の回転と第2回転部材12の回転との同期が完了したと判定し、かつピストン部材5が第1所定角度だけ回転したと判定した場合に限り行ってもよい。すなわち、制御部84のCPU82は、第1回転部材11の回転と第2回転部材12の回転とが同期し、かつピストン部材5が第1所定角度だけ回転したと判定したとき、アーマチャ4の第2位置から第1位置への移動が可能であると判断してもよい。
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、次に述べる作用及び効果が得られる。
(1)CPU82は、ピストン部材5の移動を検出する検出手段(電流センサ71及びストロークセンサ72)の検出結果に基づいて電磁コイル3への通電の開始及び停止を制御する。これにより、ピストン部材5を図6(a)〜図6(d)に示す順序で確実に動作させることができると共に、駆動力の伝達状態(連結状態)と非伝達状態(非連結状態)との切り替えを速やかに行うことができる。つまり、仮に制御装置8が検出手段を有しない場合には、アーマチャ4及びピストン部材5の動作を確実に行わせるために、十分な時間的余裕をもって電磁コイル3への通電の開始及び停止を制御しなければならないが、ピストン部材5の移動を検出する検出手段の検出結果に基づいて電磁コイル3への通電の開始及び停止を制御することにより、ピストン部材5が動作した際に直ちに次の動作を行わせることができ、駆動力伝達装置1の連結状態と非連結状態との切り替えを速やかにかつ、確実に行うことができる。また、駆動力伝達装置1は、電動モータや減速機等を有しないので、部品点数を少なく抑えることができ、コストや重量の増大を抑制することができる。
(2)CPU82は、電流センサ71によって検出された励磁電流の変化に基づいてピストン部材5が第1所定角度だけ回転したと判定したときに、電磁コイル3への通電を停止するので、ピストン部材5が第1所定角度だけ回転する前に電磁コイル3への通電が停止されることを防ぐことができる。これにより、例えばピストン部材5の移動によって係止部19が第1の被係止部51の壁面51bを乗り越える前に通電が停止されることを回避することができる。
(3)CPU82は、ストロークセンサ72の出力電圧の変化に基づいてピストン部材5が第2所定角度だけ回転したと判定したときに、電磁コイル3への通電を再開するので、電磁コイル3への通電を停止した後のピストン部材5が第2所定角度だけ回転する前に電磁コイル3への通電が再開されることを防ぐことができる。これにより、例えばアーマチャ4の押圧突起41が、被係止部51の周方向の壁面51bを乗り越えていない状態で通電が再開されてしてしまうことを回避することができる。
(4)CPU82は、電流センサ71によって検出された励磁電流の変化に基づいてピストン部材51の回転を検出するので、コストの増大を抑制しながらピストン部材51の移動を検出することが可能となる。また、CPU82は、電流センサ71によって検出された励磁電流が上昇した後に下降し、その後再度上昇したときにピストン部材5が第1所定角度だけ回転したと判定するので、ピストン部材51の移動を確実に検知することができる。
(5)駆動力伝達装置1を非連結状態から連結状態に切り換える際には、この切り替えに先立って第1回転部材11と第2回転部材12とを回転同期させるので、第1回転部材11の回転と第2回転部材12の回転とが同期していない場合でも、別の同期装置を追加することなく駆動力伝達装置1を非連結状態から連結状態に切り換えることが可能となる。
以上、本発明の車両制御装置を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
本実施の形態では、ピストン部材5の軸方向の異なる位置に5つの被係止部(第1乃至第5の被係止部51〜55)を有する場合について説明したが、軸方向における少なくとも3つの異なる位置に複数の被係止部が形成されていればよい。
また、本実施の形態では、ピストン部材5が第1の所定角度回転したことを電流センサ71によって検出された励磁電流の変化に基づいて検知する場合について説明したが、ピストン部材5が第1の所定角度だけ回転したことをストロークセンサ72の出力電圧の変化に基づいて検知してもよい。
またさらに、本実施の形態では、本発明の押圧部材として電磁コイル3の磁力によって軸方向移動するアーマチャ4について説明したが、この押圧部材は、例えば回転機と回転機の回転運動を直線運動に変換する変換機構との組み合わせや、流体を制御する制御弁との流体により伸縮するシリンダであってもよい。