JP2015151488A - フッ素樹脂組成物の製造方法、成形品及び電線 - Google Patents

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Abstract

【課題】溶融成形したときに優れた機械物性を発現するフッ素樹脂組成物の製造方法、機械物性に優れた成形品、及び機械物性に優れた被覆層を有する電線の提供。【解決手段】融点が260℃以上で、カルボニル基を有する溶融成形可能なフッ素樹脂(A)と、フッ素原子を含まず、吸水率が0.1%以上である熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練してフッ素樹脂組成物を得る工程を有し、溶融混練前の前記熱可塑性樹脂(B)の水分含有率が1000質量ppm以上であることを特徴とするフッ素樹脂組成物の製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、フッ素樹脂組成物の製造方法、並びに前記製造方法により得られるフッ素樹脂組成物を用いた成形品及び電線に関する。
フッ素樹脂は、耐熱性、難燃性、耐薬品性、耐候性、非粘着性、低摩擦性、低誘電特性に優れ、電線被覆材、ケミカルプラント耐蝕配管材料、農業用ビニールハウス材料、厨房器用離型コート材料等の幅広い分野に用いられている。
また、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、「PFA」ともいう。)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(以下、「ETFE」ともいう。)等の溶融成形が可能なフッ素樹脂と、他の熱可塑性樹脂との溶融混練による複合化技術が注目されている。例えばフッ素樹脂とエンジニアリングプラスチックとのポリマーブレンドによって、エンジニアリングプラスチックに耐薬品性、靭性、摺動性といったフッ素樹脂特有の物性を付与する、またはフッ素樹脂にエンジニアリングプラスチック特有の高い強度及び剛性を付与することを目的としたポリマーアロイの開発が盛んに行われている。
しかし、フッ素樹脂は表面エネルギーが低く、分子間力も小さいために、他の大部分の熱可塑性樹脂との親和性が低い。そのため、フッ素樹脂と他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイは、フッ素樹脂特有の物性や他の熱可塑性樹脂特有の物性が充分に発現しない問題がある。
上記問題を解決するために、種々の検討がなされている。
例えば特許文献1には、室温における靭性、熱変形温度及び/又は透過性の改善を目的として、フッ素樹脂とポリエーテルケトンケトンとを特定の割合で溶融配合することが提案されている。
特許文献2には、成形物の機械的強度や伸度の向上、高フッ素含量のポリマーと非フッ素ポリマーとの均一分散を目的として、分子中にカルボン酸基もしくはその誘導体又はスルホン酸基もしくはその誘導体を官能基として有する含フッ素化合物を相溶化剤として使用することが提案されている。
特許文献3には、含フッ素ポリマーと非フッ素ポリマーとの相溶性を高め、それぞれのポリマーの特性を併有させることを目的として、主鎖の炭素原子に結合した水素原子を有し、グラフト化が可能な含フッ素樹脂と、この含フッ素樹脂にグラフト可能で、接着性を付与する官能基を有するグラフト性化合物と、エンジニアリングプラスチック等の非フッ素系ポリマーとのリアクティブブレンドによりポリマーアロイとすることが提案されている。
しかし、特許文献1〜3の方法による靭性、機械的強度等の機械物性の向上効果は未だ充分とはいえない。
例えば特許文献1の方法では、フッ素樹脂とポリアリールケトンとの親和性が不充分なために、それぞれの優れた物性が充分に発現せず、機械物性の向上効果が充分ではない。また、得られる組成物は、押し出し成形等の溶融成形を行うと樹脂の脱離が部分的におこり成形品の表面が荒れるなど、成形性にも問題がある。
特許文献2の方法では、耐熱性、耐薬品性等の低い低分子量の相溶化剤を使用するため、機械物性、耐熱性、耐薬品性等の向上効果が充分ではない。
特許文献3の方法では、グラフト化が可能なフッ素樹脂の熱安定性が低いことと、フッ素樹脂と非フッ素系ポリマーとの間の反応性及び親和性が低いことから、機械物性の向上効果が充分ではない。また、成形性にも問題がある。
特開平11−158340号公報 特開平11−209548号公報 特開平9−118802号公報
本発明は、溶融成形したときに優れた機械物性を発現するフッ素樹脂組成物の製造方法、機械物性に優れた成形品、及び機械物性に優れた被覆層を有する電線を提供することを目的とする。
本発明は以下の態様を有する。
[1]融点が260℃以上で、カルボニル基を有する溶融成形可能なフッ素樹脂(A)と、フッ素原子を含まず、吸水率が0.1%以上である熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練してフッ素樹脂組成物を得る工程を有し、
溶融混練前の前記熱可塑性樹脂(B)の水分含有率が1000質量ppm以上であることを特徴とするフッ素樹脂組成物の製造方法。
[2]前記フッ素樹脂(A)と前記熱可塑性樹脂(B)との体積比((A):(B))が、0.1:99.9〜50:50である、[1]のフッ素樹脂組成物の製造方法。
[3]前記フッ素樹脂(A)中のカルボニル基の含有量が、前記フッ素樹脂(A)の主鎖炭素数1×10個に対し10〜60000個である、[1]または[2]のフッ素樹脂組成物の製造方法。
[4]前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリールケトン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、及びポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]〜[3]のフッ素樹脂組成物の製造方法。
[5]前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリエーテルエーテルケトンである、[1]〜[4]のフッ素樹脂組成物の製造方法。
[6]前記フッ素樹脂(A)が、テトラフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンのいずれか一方又は両方に基づく構成単位(a)と、カルボキシ基および酸無水物基のいずれか一方又は両方を有する炭化水素モノマーに基づく構成単位(b)と、フッ素モノマー(ただしテトラフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンを除く。)に基づく構成単位(c)とを含有し、
前記構成単位(a)と前記構成単位(b)と前記構成単位(c)との合計モル量に対して、前記構成単位(a)が50〜99.89モル%で、前記構成単位(b)が0.01〜5モル%で、前記構成単位(c)が0.1〜49.99モル%である、[1]〜[5]のフッ素樹脂組成物の製造方法。
[7][1]〜[6]のフッ素樹脂組成物の製造方法により得られるフッ素樹脂組成物を溶融成形した成形品。
[8]摺動部材である、[7]の成形品。
[9][1]〜[6]のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物の製造方法により得られるフッ素樹脂組成物を溶融させ、芯線の周りに押し出して、前記芯線の表面を被覆する被覆層を形成した電線。
本発明のフッ素樹脂組成物の製造方法により得られるフッ素樹脂組成物は、溶融成形したときに、優れた機械物性を発現する。
本発明の成形品は、機械物性に優れる。
本発明の電線の被覆層は、機械物性に優れる。
本明細書において、熱可塑性樹脂(B)の吸水率は、JIS K7209:2000(プラスチック−吸水率の求め方)のA法に準拠した試験によって求められる。なお、JIS K7209:2000は、ISO 62:1999を翻訳し、技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成されたものである。
熱可塑性樹脂(B)の水分含有率は、赤外線水分計により求められる。詳しい測定条件は実施例に示すとおりである。
(A)成分と(B)成分との体積比((A):(B))は、以下の手順で求められる。
溶融混練する(混練機に投入する)(A)成分、(B)成分それぞれの質量w(g)を、それぞれの比重d(g/cm)で除することにより体積(cm)を算出し、(A)成分、(B)成分それぞれの体積(cm)からそれらの比を算出する。
比重は、23℃における値である。(A)成分、(B)成分それぞれの比重は水中置換(懸架)方法により測定できる。
本明細書における「構成単位」とは、モノマーが重合することによって形成された該モノマーに基づく単位を意味する。構成単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、重合体を処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
「モノマー」とは、重合性不飽和結合、すなわち重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する化合物を意味する。「フッ素モノマー」とは、分子内にフッ素原子を有するモノマーを意味し、「非フッ素モノマー」とは、分子内にフッ素原子を有しないモノマーを意味する。
≪フッ素樹脂組成物の製造方法≫
本発明のフッ素樹脂組成物の製造方法は、融点が260℃以上で、カルボニル基を有する溶融成形可能なフッ素樹脂(A)(以下、「(A)成分」ともいう。)と、フッ素原子を含まず、吸水率が0.1以上である熱可塑性樹脂(B)(以下、「(B)成分」ともいう。)とを溶融混練してフッ素樹脂組成物を得る工程(以下、「溶融混練工程」ともいう。)を有し、
溶融混練前の前記(B)成分の水分含有率が1000質量ppm以上であることを特徴とする。
<(A)成分>
(A)成分の融点は、260℃以上であり、260〜330℃が好ましく、260〜320℃がより好ましく、280〜310℃が特に好ましい。
(A)成分の融点が上記範囲の下限値以上であると、得られるフッ素樹脂組成物を溶融成形したときに、優れた機械物性が発現する。たとえば前記フッ素樹脂組成物を溶融成形した成形品や、前記フッ素樹脂組成物を溶融させ芯線の周りに押し出して形成した被覆層は、優れた機械物性を有する。上記範囲の上限値以下であると、得られるフッ素樹脂組成物が成形性に優れる。
(A)成分の融点は、(A)成分を構成する構成単位の種類や含有割合、分子量等によって調整できる。例えば後述する構成単位(a)の割合が多くなるほど、融点が上がる傾向がある。
(A)成分は、溶融成形が可能なものである。「溶融成形が可能」であるとは、溶融流動性を示すことを意味する。
溶融流動性を示す指標として、溶融流れ速度(Melt Flow Rate)(以下、「MFR」という。)が挙げられる。
(A)成分のMFRは、2g/10分以上であることが好ましく、3g/10分以上がより好ましく、6g/10分以上がさらに好ましく、10g/10分以上が特に好ましい。MFRが2g/10分以上であれば、容易に溶融成形可能であり、得られるフッ素樹脂組成物の成形性が向上する。
(A)成分のMFRは、機械強度に優れる点で、300g/10分以下であることが好ましく、100g/10分以下がより好ましく、60g/10分以下がさらに好ましく、50g/10分以下が特に好ましい。
本明細書において、(A)成分のMFRは、372℃にて49N荷重下で測定される値である。
MFRは、分子量の目安であり、MFRが大きいと分子量が低く、小さいと分子量が大きいことを示す。(A)成分の分子量、ひいてはMFRは、(A)成分の製造条件によって調整できる。例えばモノマーの重合時に重合時間を短縮すると、MFRが大きくなる傾向がある。
(A)成分は、カルボニル基を有する。カルボニル基を有することで、(A)成分と(B)成分との相溶性が向上する。
カルボニル基は、(A)成分の主鎖末端基に含まれてもよく、側基に含まれてもよく、それらの両方に含まれてもよい。
(A)成分は、カルボニル基と他の基または原子との組み合わせからなる基(以下、カルボニル基含有基ともいう。)を有することが好ましい。
カルボニル基含有基としては、構造中にカルボニル基(−C(=O)−)を含む基であれば特に限定されず、たとえば、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を含んでなる基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、酸無水物残基等が挙げられる。
前記炭化水素基としては、たとえば、炭素数2〜10のアルキレン基等が挙げられる。なお、該アルキレン基の炭素数は、カルボニル基を含まない状態での炭素数である。アルキレン基は直鎖状でも分岐状でもよい。
ハロホルミル基は、−C(=O)−X(ただし、Xはハロゲン原子である。)で表される。ハロホルミル基におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、フッ素原子が好ましい。すなわち、ハロホルミル基としては、フルオロホルミル基(「カルボニルフルオリド基」とも称する。)が好ましい。
アルコキシカルボニル基におけるアルコキシ基は、直鎖状でも分岐状でもよく、炭素数1〜8のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が特に好ましい。
(A)成分に含まれるカルボニル基含有基は1種でもよく、2種以上でもよい。
(A)成分中のカルボニル基の含有量は、(A)成分の主鎖炭素数1×10個に対し10〜60000個が好ましく、100〜50000個がより好ましく、300〜5000個が特に好ましい。カルボニル基の含有量が上記範囲の下限値以上であれば、(B)成分との親和性に優れ、上限値以下であれば、溶融加工性、熱安定性に優れる。
主鎖とは、鎖式化合物の主要な炭素鎖であり、一般に、炭素数が最大となる幹にあたる部分を指す。(A)成分の主鎖炭素数は、2000〜50000個が好ましく、3000〜30000個がより好ましく、5000〜25000個がさらに好ましい。
(A)成分中のカルボニル基の含有量は、赤外吸収スペクトル分析、核磁気共鳴(NMR)分析等の方法により測定できる。例えば、特開2007−314720号公報に記載のように、赤外吸収スペクトル分析等の方法を用いて、(A)成分を構成する全構成単位の合計に対するカルボニル基を有する構成単位の割合(モル%)を求め、該割合から、カルボニル基の含有量を算出することができる。
(A)成分は、カルボニル基の他、エポキシ基、アミド基、水酸基、アミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有してもよい。
(A)成分は、これらの官能基を、側基に有してもよく、主鎖末端に有してもよく、それらの両方に有してもよい。
(A)成分としては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)及びクロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」ともいう。)のいずれか一方又は両方に基づく構成単位(a)と、カルボキシ基及び酸無水物残基のいずれか一方又は両方を有する炭化水素モノマーに基づく構成単位(b)と、フッ素モノマー(ただしTFE及びCTFEを除く。)に基づく構成単位(c)とを含有するもの(以下、「(A1)成分」ともいう。)が好ましい。
(A)成分として(A1)成分を用いることで、成形加工性、熱安定性に優れる。
構成単位(b)を得るためのカルボキシ基及び酸無水物残基のいずれか一方又は両方を有する炭化水素モノマー(以下、「AMモノマー」ともいう。)としては、イタコン酸、シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、マレイン酸等のジカルボン酸、無水イタコン酸(以下、「IAH」とも称する。)、無水シトラコン酸(以下、「CAH」とも称する。)、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも称する。)、無水マレイン酸等のジカルボン酸の酸無水物が挙げられる。これらの中でも、IAH、CAH、NAHが好ましい。
AMモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
構成単位(c)を得るためのフッ素モノマー(ただしTFE及びCTFEを除く。)としては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン(以下、「VdF」ともいう。)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」ともいう。)等のフルオロオレフィン、CF=CFOR(ここで、Rは酸素原子を含んでもよい炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基である。)、CF=CFORSO(Rは酸素原子を含んでもよい炭素数1〜10のペルフルオロアルキレン基で、Xはハロゲン原子又は水酸基である。)、CF=CFORCO(ここで、Rは酸素原子を含んでもよい炭素数1〜10のペルフルオロアルキレン基で、Xは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。)、CF=CF(CFOCF=CF(ここで、pは1又は2である。)、CH=CX(CF(ここで、Xは水素原子又はフッ素原子で、qは2〜10の整数で、Xは水素原子又はフッ素原子である。)、及びペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1、3−ジオキソラン)等が挙げられる。
これらのモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
構成単位(c)を得るためのフッ素モノマーとしては、VdF、HFP、CF=CFOR、及びCH=CX(CFからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、CF=CFOR、及びCH=CX(CFからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
CF=CFORとしては、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF、CF=CFOCFCFCFCF、CF=CFO(CFF等が挙げられ、中でも、CF=CFOCFCFCFが好ましい。
CH=CX(CFとしては、CH=CH(CFF、CH=CH(CF)3F、CH=CH(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFH等が挙げられ、中でも、CH=CH(CFF、又はCH=CH(CFFが好ましい。
(A1)成分中の構成単位(a)〜(c)の含有割合としては、構成単位(a)と構成単位(b)と構成単位(c)との合計モル量に対して、構成単位(a)が50〜99.89モル%で、構成単位(b)が0.01〜5モル%で、構成単位(c)が0.1〜49.99モル%であることが好ましく、構成単位(a)が50〜99.4モル%で、構成単位(b)が0.5〜49.9モル%で、構成単位(c)が0.1〜3モル%であることがより好ましく、構成単位(a)が50〜98.9モル%で、構成単位(b)が1〜49.9モル%で、構成単位(c)が0.1〜2モル%であることが特に好ましい。
各構成単位の含有割合がこの範囲にあれば、得られるフッ素樹脂組成物を溶融成形したときに、優れた機械的強度が発現する。また、耐熱性、耐薬品性等にも優れる。
(A1)成分は、上述の構成単位(a)、(b)、(c)の他に、非フッ素モノマー(ただし、AMモノマーを除く。)に基づく構成単位(d)を含有してもよい。
構成単位(d)を得るための非フッ素モノマーとしては、エチレン(以下、「E」とも称する。)、プロピレン(以下、「P」とも称する。)等の炭素数2〜3のオレフィン、酢酸ビニル(以下、「VOA」とも称する。)等のビニルエステル等が挙げられる。これらのモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
構成単位(d)を得るための非フッ素モノマーとしては、E、P、VOAが好ましく、Eが特に好ましい。
(A1)成分が構成単位(d)を含有する場合、(A1)成分を構成する全構成単位の合計モル量に対する「構成単位(a)+構成単位(b)+構成単位(c)」の合計モル量の割合は、40モル%以上が好ましく、45モル%以上がより好ましく、50モル%以上が最も好ましい。
(A1)成分の好ましい例としては、TFE/IAH/CF=CFOCFCFCF共重合体、TFE/CAH/CF=CFOCFCFCF共重合体、TFE/IAH/HFP共重合体、TFE/CAH/HFP共重合体、TFE/IAH/VdF共重合体、TFE/CAH/VdF共重合体、TFE/IAH/CH=CH(CFF/E共重合体、TFE/CAH/CH=CH(CFF/E共重合体、TFE/IAH/CH=CH(CFF/E共重合体、TFE/CAH/CH=CH(CFF/E共重合体、CTFE/IAH/CH=CH(CFF/E共重合体、CTFE/CAH/CH=CH(CFF/E共重合体、CTFE/IAH/CH=CH(CFF/E共重合体、CTFE/CAH/CH=CH(CFF/E共重合体等が挙げられる。
(A1)成分は、主鎖末端基として、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルオキシ基、水酸基、カルボキシ基、カルボニルフルオリド基等の官能基を有してもよい。
該主鎖末端基を有すれば、溶融混練において、(B)成分との相溶性が高くなり、機械強度および臨界せん断速度が高くなるなどの成形性の向上も期待できる。
主鎖末端基は、フッ素樹脂の製造時に使用される、所定のラジカル重合開始剤又は連鎖移動剤を用いることにより、導入することができる。
該ラジカル重合開始剤としては、たとえば、ターシャリーブチルパーオキシピバレート、パーフルオロプチロイルパーオキサイド等が挙げられる。
該連鎖移動剤としては、たとえば、エステル基、カーボネート基、水酸基、カルボキシ基、カルボニルフルオリド基等の官能基を有する連鎖移動剤が挙げられる。具体的には、酢酸、無水酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコールが挙げられる。
(A)成分は、所望のフッ素樹脂が市販されていればそれを用いてもよく、各種原料化合物から重合等の適当な方法により製造してもよい。
カルボニル基含有基を有するフッ素樹脂の製造方法としては、例えば、以下の(1)〜(4)等が挙げられる。(A)成分の製造方法としては、(1)の方法が好ましい。
フッ素樹脂の製造方法としては、例えば、以下の(1)〜(4)等が挙げられる。
(1)重合反応でフッ素樹脂を製造する際に、カルボニル基含有基を有するモノマー(例えばAMモノマー)を使用する方法。
(2)カルボニル基含有基を有するラジカル重合開始剤や連鎖移動剤を用いて、重合反応でフッ素樹脂を製造する方法。
(3)熱分解によりカルボニル基含有基を生成する熱分解部位を有するフッ素樹脂を加熱して、該フッ素樹脂を部分的に熱分解することで、カルボニル基含有基を生成させ、カルボニル基含有基を有するフッ素樹脂を得る方法。
(4)カルボニル基含有基を有しないフッ素樹脂に、カルボニル基含有基を有するモノマーをグラフト重合して、該フッ素樹脂にカルボニル基含有基を導入する方法。
(A)成分の製造方法としては、(1)の方法が好ましい。
重合により(A)成分を製造する場合、重合方法としては、特に制限はなく、たとえば、ラジカル重合開始剤を用いる方法が用いられる。
ラジカル重合開始剤としては、その半減期が10時間である温度が、0〜100℃であることが好ましく、20〜90℃であることがより好ましい。具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等の非フッ素系ジアシルペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカ−ボネート等のペルオキシジカーボネート、tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル、(Z(CFCOO)(ここで、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、rは1〜10の整数である。)で表される化合物等の含フッ素ジアシルペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。
重合方法としては、塊状重合、フッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等の有機溶媒を使用する溶液重合、水性媒体及び必要に応じて適当な有機溶剤を使用する懸濁重合、水性媒体及び乳化剤を使用する乳化重合等が挙げられる。好ましくは、溶液重合である。
重合条件は特に限定されず、重合温度は0〜100℃が好ましく、20〜90℃がより好ましい。重合圧力は0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜3MPaがより好ましい。重合時間は1〜30時間が好ましい。
(A)成分にカルボニル基を導入するために、重合にAMモノマーを用いる場合、重合中のAMモノマーの濃度は、全モノマーの合計に対して0.01〜5モル%とすることが好ましく、0.1〜3モル%とすることがより好ましく、0.1〜1モル%とすることが特に好ましい。AMモノマーの濃度が前記の範囲内であれば、重合速度が良好で、かつ得られる(A)成分が、(B)成分との反応性に富む。AMモノマーの濃度が高すぎると、重合速度が低下する傾向がある。
重合中、AMモノマーが重合で消費されるにしたがって、消費された量を連続的又は断続的に重合槽内に供給し、AMモノマーの濃度を上記範囲内に維持することが好ましい。
重合時には、MFRを制御するために、連鎖移動剤を使用することができる。
連鎖移動剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のクロロフルオロハイドロカーボン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等のハイドロカーボンが挙げられる。
連鎖移動剤として、エステル基、カーボネート基、水酸基、カルボキシ基、カルボニルフルオリド基等の官能基を有する連鎖移動剤を用いると、該官能基が(A)成分に導入されるので好ましい。そのような連鎖移動剤としては、酢酸、無水酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコールが挙げられる。
<熱可塑性樹脂(B)>
(B)成分は、フッ素原子を含まず、吸水率が0.1%以上の熱可塑性樹脂である。
(B)成分の吸水率は、0.1%以上1.0%未満が好ましく、0.1%以上0.5%未満がより好ましく、0.1%以上0.3%未満がさらに好ましい。
(B)成分の吸水率が0.1%以上であることで、得られるフッ素樹脂組成物を溶融成形したときに、優れた機械物性が発現する。また、前記フッ素樹脂組成物は成形性にも優れる。(B)成分の吸水率が1.0%未満であると、成形加工性に優れる。
(B)成分の融点は、240℃以上が好ましく、260〜420℃がより好ましく、280〜400℃が特に好ましい。
(B)成分の融点が上記範囲の下限値以上であると、得られるフッ素樹脂組成物を溶融成形したときに、優れた機械物性が発現し、上記範囲の上限値以下であると、得られるフッ素樹脂組成物が成形性に優れる。
(B)成分のMFRは、1〜300g/10分が好ましく、3〜100g/10分がより好ましく、5〜50g/10分が特に好ましい。
(B)成分のMFRが上記範囲の下限値以上であると、得られるフッ素樹脂組成物の加工成形性に優れ、上記範囲の上限値以下であると、得られるフッ素樹脂組成物の機械物性 に優れる。
本明細書において、(B)成分のMFRは、(A)成分のMFRと同様、372℃にて49N荷重下で測定される値である。
(B)成分の具体例としては、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリールケトン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド等が挙げられる。ポリアリールケトンの具体例としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の吸水率はいずれも0.1%以上1.0%未満である。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(B)成分としては、機械強度、耐熱性の点で、ポリアリールケトン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミドが好ましく、機械強度に優れる点で、ポリエーテルエーテルケトンが特に好ましい。
(B)成分は、所望の化合物が市販されていればそれを用いてもよく、各種原料化合物から公知の方法により製造してもよい。
<その他の成分>
フッ素樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、(A)成分及び(B)成分以外の他の成分を含有させてもよい。他の成分としては、たとえば充填剤、可塑剤、難燃材、相溶化剤等の添加剤が挙げられる。
充填剤としては、高分子充填剤、無機充填剤等が挙げられる。
高分子充填剤としては、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカプロラクトン、フェノキシ樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、アクリルゴム、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−フェニルマレイミド共重合体等が挙げられる。
無機充填剤としては、CaCO、SiO、TiO、BaSO、ZnO、Al(OH)、Mg(OH)、タルク、マイカ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
可塑剤、難燃剤としては、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられる。
これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
添加剤をフッ素樹脂組成物に含有させる場合、添加剤の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計量に対して、1〜30体積%が好ましい。
添加剤の配合方法としては、溶融混練工程で(A)成分及び(B)成分とともに混練する方法、あらかじめ(A)成分または(B)成分のどちらか一方と混錬したものを用いて残りの(A)成分または(B)成分とを混錬する方法等が挙げられる。
<溶融混練工程>
溶融混練工程では、(B)成分の水分含有率を測定し、水分含有率が1000質量ppm以上の状態のものを(A)成分と溶融混練する。
(B)成分の水分含有率は、1500〜20000質量ppmが好ましく、2000〜15000質量ppmがより好ましく、3000〜10000質量ppmが特に好ましい。
溶融混練前の(B)成分の水分含有率が1000質量ppm以上であると、溶融混練時の(A)成分と(B)成分との相溶性が優れ、得られるフッ素樹脂組成物を溶融成形したときに、優れた機械物性が発現する。たとえば前記フッ素樹脂組成物を溶融成形した成形品や、前記フッ素樹脂組成物を溶融させ芯線の周りに押し出して形成した被覆層は、(A)成分の靭性(引張り伸度等)と(B)成分の機械的強度(引張り強度等)とを充分に兼ね備えた機械物性に優れたものとなる。また、靭性以外の(A)成分の物性や、機械的強度以外の(B)成分の物性も充分に発現する。また、このフッ素樹脂組成物は、成形性にも優れる。一方、前記水分含有率が1000質量ppm未満であると、溶融混練中において(A)成分と(B)成分との相溶性の向上はみられず、機械的強度の向上はみられない。
相溶性の観点からは前記水分含有率の上限は特に限定されないが、20000質量ppmを超えると、溶融混練中において水分過多となり(B)成分の熱分解が優先的におこるおそれがある。
溶融混練前の(B)成分の水分含有率は具体的には、溶融混練に用いられる混練機に投入される時点の水分含有率である。
溶融混練前の(B)成分の水分含有率を測定し、所望の水分含有率であれば、そのまま溶融混練に供することができる。
(B)成分の水分含有率が所望の水分含有率よりも少ない場合は、水分含有率を高め、所望の水分含有率となった時点で溶融混練に供する。水分含有率を高める方法としては、(B)成分を高湿度の環境下で保持する方法、混錬前の(A)及び/または(B)に微量の水分を噴射する方法、溶融混錬時にサブフィーダーより微量の水分を添加する方法等が挙げられる。
(B)成分の水分含有率が所望の水分含有率よりも多い場合は、水分含有率を低下させ、所望の水分含有率となった時点で溶融混練に供する。水分含有率を低下させる方法としては、(B)成分を低湿度の環境下で保持する方法、任意の時間で熱風乾燥させる方法等が挙げられる。
溶融混練工程は、(A)成分及び(B)成分を任意の体積比で混練機に供給し、所定の混練温度で混練することにより行うことができる。
(A)成分と(B)成分との体積比((A):(B))は、0.1:99.9〜50:50であることが好ましく、0.1:99.9〜40:60がより好ましく、0.1:99.9〜30:70がさらに好ましく、0.1:99.9〜20:80が特に好ましく、0.1:99.9〜10:90が最も好ましい。
(A):(B)が上記範囲内であれば、溶融混練時の(A)成分と(B)成分との相溶性が優れ、得られるフッ素樹脂組成物は、機械物性に優れる。また、成形性も良好であり、フッ素樹脂組成物を溶融成形したときに、外観不良が生じにくい。たとえば前記フッ素樹脂組成物を溶融成形した成形品や、前記フッ素樹脂組成物を溶融させ芯線の周りに押し出して形成した被覆層は、表面平滑性が高くまたはウェルドラインが低減されるなど、外観に優れたものとなる。一方で、(A):(B)が上記範囲外であると、(A)成分と(B)成分との親和性が低下し、機械的強度や成形性の向上効果が不足するおそれがある。特に(A)成分の割合が上記範囲の上限よりも多いと、得られるフッ素樹脂組成物を溶融成形したときに、(B)成分から(A)成分がブリードアウトして樹脂表面上で凝集し、成形不良及び外観不良を引き起こすおそれがある。
(A)成分及び(B)成分の混練機への供給方法としては、(A)成分及び(B)成分を予め混合し、その混合物を混練機に供給する方法、(A)成分及び(B)成分を別々に混練機に供給する方法等が挙げられる。
混練機としては、溶融混練に通常用いられる装置を用いることができ、たとえば、ラボプラストミル混練機(東洋精機社製)が挙げられる。混練は、たとえばスクリュー回転数20〜100rpm、混練時間5〜10分間の条件で行うことができる。
混練温度は、通常、(A)成分の融点及び(B)成分の融点のうち高い方の融点以上の温度であり、典型的には、(A)成分の融点及び(B)成分の融点のうち高い方の融点以上、かつ(A)成分の熱分解温度及び(B)成分の熱分解温度のうち低い方の熱分解温度未満の温度である。
混練温度は、280〜420℃が好ましく、300〜400℃がより好ましく、320〜380℃が特に好ましい。混練温度が前記範囲内であれば、溶融混練時の(A)成分と(B)成分との相溶性が優れ、機械物性および成形性の向上効果が高い。一方で、混練温度が前記範囲の上限値を超えると、(A)成分の熱分解が促進され、耐熱性が低下し、さらには(B)成分との相溶性も低下するおそれがある。混練温度が前記範囲の下限値未満であると、溶融混練時の(A)成分と(B)成分との相溶性が悪く、得られるフッ素樹脂組成物を溶融成形したときに機械物性が充分に発現しないおそれがある。
上記のように(A)成分と(B)成分とを混練することで、(A)成分と(B)成分とを含有するフッ素樹脂組成物が得られる。
得られるフッ素樹脂組成物は、溶融成形が可能であり、溶融成形によって成形品とすることができる。得られる成形品は靭性に優れ、機械強度に優れるだけでなく、フッ素樹脂特有の耐薬品性および耐摩耗性に優れたものとなる。
≪成形品≫
本発明の成形品は、前述のフッ素樹脂組成物の製造方法により得られるフッ素樹脂組成物を溶融成形したものである。
フッ素樹脂組成物の溶融成形は、通常の溶融成形法により行うことができる。例えば射出成形、押し出し成形、ブロー成形、プレス成形、トランスファ成形、カレンダー成形等による方法が挙げられる。
フッ素樹脂組成物の溶融成形に用いられる溶融成形装置としては、溶融成形に通常用いられるものであればよく、たとえば、メルト熱プレス機「ホットプレス二連式」(テスター産業社製)が挙げられる。
なお、成形品の製造は、上述のフッ素樹脂組成物の製造と連続して行うことができる。
本発明の成形品の用途は特に限定されず、種々の用途に用いることができる。具体例としては、特に限定するものではないが、摺動部材、チューブ材、絶縁フィルム、ポンプ部品、ローラー、ギア、ベアリング部材等が挙げられる。本発明の成形品は、靭性、機械的強度等の機械物性に優れることから、機械物性が要求される用途に用いられることが好ましく、摺動部材が特に好ましい。
≪電線≫
本発明の電線は、前述のフッ素樹脂組成物の製造方法により得られるフッ素樹脂組成物を溶融させ、芯線の周りに押し出して、前記芯線の表面を被覆する被覆層を形成したものであり、芯線と、その表面を被覆する、前記フッ素樹脂組成物からなる被覆層とを有する。
芯線としては、特に限定されず、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金、スズメッキ、銀メッキ、ニッケルメッキ等の各種メッキ線、より線、超電導体、半導体素子リード用メッキ線などが挙げられる。
フッ素樹脂組成物による芯線の被覆は、押出機を用いて、公知の電線押し出し成形法により行うことができる。
≪作用効果≫
以上説明したように、(A)成分と水分含有率が1000ppm以上である(B)成分とを溶融混練することで、溶融混練時の(A)成分と(B)成分との相溶性が増し、得られるフッ素樹脂組成物を溶融成形したときに、優れた機械物性が発現する。たとえば前記フッ素樹脂組成物を溶融成形した成形品や、前記フッ素樹脂組成物を溶融させ芯線の周りに押し出して形成した被覆層は、(A)成分の靭性と(B)成分の機械的強度とを充分に兼ね備えた機械物性に優れたものとなる。また、靭性及び機械的強度以外にも、フッ素樹脂及び他の熱可塑性樹脂それぞれの優れた物性が充分に発現する。また、該フッ素樹脂組成物は、溶融成形を行う際の成形性にも優れる。
従来、吸水率が高いエンジニアリングプラスチックでは、水分の影響により加水分解が起こるため、溶融成形前あるいは他材との溶融混練前に予備乾燥を行うことが必須条件となっている。
特にポリカーボネート、ナイロン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリールケトン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどは、加水分解の影響が強い。例えばポリアリールケトンは、成形品では耐加水分解性が高い一方で、成形時では容易に加水分解が起こる。そのため、これらのエンジニアリングプラスチックでは、予備乾燥を行っても、押し出し機へ原料を投入する際のホッパーの原料貯め時間が長くなると、その間に水分を吸収して成形不良及び物性不良が生じるなどの問題が出てくることが知られている。
また、これらのエンジニアリングプラスチックと他材(例えばフッ素樹脂)とのポリマーアロイにおいても問題が起こることが知られている。
しかし本発明では、驚くべきことに、水分を多く含んでいる状態のエンジニアリングプラスチックを用いても、(A)成分との溶融混練時に成形不良や物性不良が生じず、優れた機械物性及び成形性が得られる。
本発明が上記効果を奏するメカニズムとしては、いくつか考えられる。前述に規定した水分を含んだ(B)成分を溶融混練するとき、水の存在によって、(B)成分が有する官能基を起点として部分的な加水分解がおこり、主鎖または末端に活性ラジカルなどの反応活性点およびカルボキシ基などの極性を有する官能基が生じる。そこに、(A)成分の官能基と結合するか、或いは官能基を起点に熱分解した活性部位と結合または極性による相互作用が働くことによって、(A)成分−(B)成分間の界面張力の低下を可能にし、相溶性の向上につながり、結果として機械物性に優れたものが得られると考えられる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例中、ppmは質量ppmを示す。
後述する例1〜7のうち、例1〜2が実施例であり、例3〜7が比較例である。
各例で用いた原料、測定方法を以下に示す。
<原料>
(A)−1:後述する製造例1で得た、TFE/NAH/PPVE共重合体(融点300℃、MFR17.2g/10分)。
PFA−1:TFE/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(融点303℃、MFR15.2g/10分)、旭硝子社製、製品名「Fluon PFA 73PT」。
(B)−1:ポリエーテルエーテルケトン(吸水率0.14%、融点340℃、MFR17.3g/10分)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製、製品名「KetaSpire(登録商標) KT−820NT」。
<測定方法>
(含フッ素樹脂の組成)
含フッ素樹脂の組成(各構成単位のモル比)は、溶融NMR分析、フッ素含有量分析、及び赤外吸収スペクトル分析により測定したデータから算出した。
(含フッ素樹脂におけるカルボニル基の含有量)
以下の赤外吸収スペクトル分析によって、含フッ素樹脂におけるカルボニル基を有するモノマー(NAH)に基づく構成単位の割合を求めた。
含フッ素樹脂をプレス成形して200μmのフィルムを得た。赤外吸収スペクトルにおいて、含フッ素樹脂中のNAHに基づく構成単位における吸収ピークはいずれも1778cm−1に現れる。該吸収ピークの吸光度を測定し、NAHのモル吸光係数20810mol−1・l・cm−1を用いて、NAHに基づく構成単位の割合(モル%)を求めた。
そして該割合をa(モル%)とすると、含フッ素樹脂の主鎖炭素数1×10個に対するカルボニル基の個数は、[a×10/100]個と算出される。
(融点(℃))
樹脂又は組成物の融点(Tm)は、示差走査熱量測定(DSC)により求めた。具体的には、熱分析装置「EXSTAR DSC7020」(セイコーインスツル社製)を用いて、10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、そのトップピークである極大値に対応する温度(℃)を融点とした。
(MFR(g/10分))
テクノセブン社製メルトインデクサーを用い、ASTM D3307に準拠し、372℃にて49N(5kg)荷重下で、直径2mm、長さ8mmのノズルから10分間で流出する樹脂の質量(g)を測定し、その値をMFR(g/10分)とした。
(引張り強度、引張り伸度(強度:MPa、伸度:%))
サンプル形状をASTM D1822に準拠されたミクロダンベル(厚み1mm)とし、温度23±2℃、湿度50%±10%に制御された恒温、恒湿環境下において、東洋精機社製ストログラフを用いて、標線間距離7.6mm、引張り速度200m/分の条件で引張り強伸度試験を行った。最大点荷重時における応力が引張り強度であり、初期のサンプル長さに対する破断時のサンプル長さの割合が引張り伸度である。
(水分含有率(ppm))
熱可塑性樹脂(B)の水分含有率は、以下の手順で測定した。
赤外線水分計「FD610」(株式会社ケツト科学研究所社製)を用いて、乾燥温度140℃、時間静止モード10分、資料質量100gの条件にて、試験前後の質量減少率から水分含水率を測定した。
(吸水率(%))
熱可塑性樹脂(B)の吸水率の測定は、JIS K7209(プラスチックの吸水率及び沸騰水吸水率試験方法)のA法で規定された手順で実施した。具体的には、熱可塑性樹脂(B)を プレス 成形により、1辺が50±1mm、厚さが3±0.2mmの正方形の板とし、これを試験片とした。試験片に対し、50±2℃に保った恒温槽で24時間乾燥する状態調節を行った後、試験片の質量M1を測定した。その後、試験片を、23±2℃に保った水を入れた容器に入れ、24時問後、試験片を水から取り出し、試験片の質量M2を測定した。その結果から、下記式に従って算出した値を吸水率とした。
吸水率=(M2−M1)/M1×100
<製造例1:(A)−1の製造>
TFE(構成単位(a)のモノマー)、NAH(構成単位(b)のモノマー)、及びCF=CFO(CFF(ペルフルオロプロピルビニルエーテル。以下、「PPVE」とも称する。構成単位(c)のモノマー)を、以下のように重合して、フッ素樹脂(A1−1)を得た。
まず、369kgの1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン「AK225cb」(旭硝子社製)(以下、「AK225cb」とも称する。)と、30kgのPPVE(旭硝子社製)とを予め脱気し、内容積430Lの重合槽に入れた。
重合槽内を、50℃に昇温し、TFEを重合槽内に送り込むことで0.89MPa/G まで昇圧した。重合開始剤として、0.36質量%の(ペルフルオロブチリル)ペルオキシド/AK225cb溶液を、1分間に6.25mLの速度で合計3Lを重合槽内に送り込み、重合を行った。
重合中は、重合槽内を0.89MPa/Gに維持するため、TFE(旭硝子社製)を重合槽内に送り込んだ。同時に、該TFEを100モル%とした場合に、0.1モル%のNAH(日立化成社製)を重合槽内に送り込んだ。
重合開始8時間後、32kgのTFEを仕込んだ時点で、重合槽内を室温まで降温し、常圧まで降圧し、(A)−1を含有するスラリを得た。
得られたスラリ中の(A)−1とAK225cbとを固液分離した後、回収した固形分を150℃で15時間乾燥し、33kgの粒状の(A)−1を得た。
(A)−1の比重は、2.15であった。
(A)−1の共重合組成は、(TFEに基づく構成単位):(NAHに基づく構成単位):(PPVEに基づく構成単位)=97.9:0.1:2.0(モル比)であった。
(A)−1中のカルボニル基の含有量は、フッ素樹脂の主鎖炭素数1×10個に対し1000個であった。
(A)−1の融点は、300℃であった。
(A)−1のMFRは、測定温度372℃において17.2g/10分であった。
<例1〜2>
ラボプラストミル混練機(東洋精機社製)を用いて、表1に示す混合比(体積%)で、(A)−1と、水分含有率が2000ppm又は5000ppmの状態の(B)−1との溶融混練を実施し、フッ素樹脂組成物を得た。
このとき、溶融混練は、混練温度370℃、スクリュー回転数30rpmで、10分間の混練条件で実施した。
(B)−1の水分含有率は、高湿度の環境下で保持することにより調整した。
次に、得られたフッ素樹脂組成物を、200℃、3時間の条件で予備乾燥した後、メルト熱プレス機「ホットプレス二連式」(テスター産業社製)を用いて、370℃、10MPa、プレス時間5分の条件下でプレス成形し、大きさ80mm×80mm、厚み1.0±0.05mmのプレス成形品を得た。
前記プレス成形品から引張り強伸度試験用のサンプル片を得て、23℃の条件下において引張り強伸度試験を行い、引張り強度(MPa)及び引張り伸度(%)を求めた。結果を表1に示す。
<例3>
(B)−1を混練前に200℃、3時間の条件で予備乾燥し、水分含有率を20ppmとした以外は例1〜2と同様にしてフッ素樹脂組成物を得、プレス成形し、引張り強度及び引張り伸度を求めた。結果を表1に示す。
<例4>
(A)−1の代わりにPFA−1を用いた以外は例2と同様にしてフッ素樹脂組成物を得、プレス成形し、引張り強度及び引張り伸度を求めた。結果を表1に示す。
<例5>
(A)−1の代わりにPFA−1を用いた以外は例3と同様にしてフッ素樹脂組成物を得、プレス成形し、引張り強度及び引張り伸度を求めた。結果を表1に示す。
<例6>
(A)−1を用いず、(B)−1のみを用いた以外は例2と同様にしてフッ素樹脂組成物を得、プレス成形し、引張り強度及び引張り伸度を求めた。結果を表1に示す。
<例7>
(A)−1を用いず、(B)−1のみを用いた以外は例3と同様にしてフッ素樹脂組成物を得、プレス成形し、引張り強度及び引張り伸度を求めた。結果を表1に示す。
Figure 2015151488
上記結果に示すとおり、例1〜2で得たフッ素樹脂組成物のプレス成形品は、引張り強度が大きく且つ引張り伸度が大きく、機械物性に優れていた。
例1〜2と、(B)−1を水分含有率20ppmの状態で用いた以外は例1〜2と同様の例3との対比から、(B)成分を水分含有率1000ppm以上の状態で用いることが、引張り強度及び引張り伸度、特に引張り伸度の向上につながることが確認できた。
例2〜3と、(A)−1の代わりにPFA−1を用いた以外は例2〜3と同様の例4〜5とを対比すると、例4と例5との間の機械物性の差、特に引張り伸度の差は、例2と例3との間の機械物性の差に比べて少なかった。このことから、フッ素樹脂がカルボニル基を含有することが、水分含有率1000ppm以上の(B)成分との組み合わせにおいて、機械物性の向上につながることが確認できた。
例1〜2と、(B)−1を単独で用いた例6〜7とを対比すると、例6〜7は、例1〜2に比べて引張り強度が劣っていた。特に(B)−1の水分含有率が例2と同じ5000ppmの例6は、引張り強度も例1〜2に比べて劣っていた。
本発明のフッ素樹脂組成物は、溶融成形ができ、かつ溶融成形したときに優れた機械物性を発現する。
したがって、本発明によれば、チューブ材をはじめとする各種押し出し成形品、軸受け、歯車、電子機器、スペーサー、ローラー、カム等の射出成形品、その他様々な用途のフッ素樹脂を含有する成形品や、フッ素樹脂を含む被覆層を有する電線等に有用な材料を提供することができる。
さらに本発明は、原料の予備乾燥を必要とせず、水分による物性低下、成形不良等の、吸水率の高いエンジニアリングプラスチックを用いる場合の問題も解決できるものである。すなわち、吸水率の高いエンジニアリングプラスチックなどには、水分によって機械物性等の物性の低下や成形性の低下が引き起こされる問題があることが知られており、このことは前述の例6〜7の結果からも確認できる。しかし本発明では、水分含有率が高い状態にあるエンジニアリングプラスチックを用いても、得られるフッ素樹脂組成物が機械物性、成形性等に優れたものとなる。

Claims (9)

  1. 融点が260℃以上で、カルボニル基を有する溶融成形可能なフッ素樹脂(A)と、フッ素原子を含まず、吸水率が0.1%以上である熱可塑性樹脂(B)とを溶融混練してフッ素樹脂組成物を得る工程を有し、
    溶融混練前の前記熱可塑性樹脂(B)の水分含有率が1000質量ppm以上であることを特徴とするフッ素樹脂組成物の製造方法。
  2. 前記フッ素樹脂(A)と前記熱可塑性樹脂(B)との体積比((A):(B))が、0.1:99.9〜50:50である、請求項1に記載のフッ素樹脂組成物の製造方法。
  3. 前記フッ素樹脂(A)中のカルボニル基の含有量が、前記フッ素樹脂(A)の主鎖炭素数1×10個に対し10〜60000個である、請求項1または2に記載のフッ素樹脂組成物の製造方法。
  4. 前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリールケトン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、及びポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物の製造方法。
  5. 前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリエーテルエーテルケトンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物の製造方法。
  6. 前記フッ素樹脂(A)が、テトラフルオロエチレン及びクロロトリフルオロエチレンのいずれか一方又は両方に基づく構成単位(a)と、カルボキシ基及び酸無水物基のいずれか一方又は両方を有する炭化水素モノマーに基づく構成単位(b)と、フッ素モノマー(ただしテトラフルオロエチレン及びクロロトリフルオロエチレンを除く。)に基づく構成単位(c)とを含有し、
    前記構成単位(a)と前記構成単位(b)と前記構成単位(c)との合計モル量に対して、前記構成単位(a)が50〜99.89モル%で、前記構成単位(b)が0.01〜5モル%で、前記構成単位(c)が0.1〜49.99モル%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物の製造方法により得られるフッ素樹脂組成物を溶融成形した成形品。
  8. 摺動部材である、請求項7に記載の成形品。
  9. 請求項1〜6のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物の製造方法により得られるフッ素樹脂組成物を溶融させ、芯線の周りに押し出して、前記芯線の表面を被覆する被覆層を形成した電線。
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