以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
図1は、実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法に用いられる研削装置の構成を示す図である。図1(A)は、上面図であり、図1(B)は、側面図である。図2は、実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法を示すフローチャートである。図3は、実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法を説明するための図である。図3(A)は、削り加工位置ドリフト量測定方法を説明するための要部拡大図であり、図3(B)は、研削加工で形成された溝形状における深さ方向の寸法の定義を示す図であり、図3(C)は、移動工程における移動順を説明するための図である。図4は、実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法に用いられる被検物を示す図である。
本実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法は、削り加工するための削り工具によって互いに異なる複数の方向に削り加工できる削り加工装置における前記削り工具の位置のドリフト量を測定して定量化できる方法である。前記削り加工は、被加工物を削ることによって製品(中間製品を含む)に加工する加工方法であり、例えば切削加工や研削加工等である。したがって、削り加工装置には、例えば、切削加工を行う切削装置や、研削加工を行う研削装置等が挙げられる。前記切削加工は、例えばブレード刃等の切削工具(削り工具の一例)を用いて被加工物を切り削る加工方法であり、前記研削加工は、例えば研削砥石等の研削工具(削り工具の一例)を用いて被加工物の表面を除去して被加工物を加工する加工方法である。研削加工では、切削加工と異なり、砥粒の1つ1つが刃として作用する。このため、研削加工は、切削加工では加工できないような非常に硬い素材で形成された被加工物でも形状を削り出したり、面精度を上げたり(表面を平滑化したり)できる。研削加工と切削加工との相違は、この点であり、切削加工では削り工具の刃が1つであるのに対し、研削加工では、例えばダイヤモンド砥粒が比較的大量に研削液に含まれるため、刃が多数存在する工具を用いた加工になる。このため、研削加工は、砥粒が硬さの点で被加工物より劣っていても、被加工物を削って行くことが可能である。ドリフトは、上述したように、削り加工装置において、削り工具の位置制御や削り加工の条件を固定しても時間経過に従ってその削り工具の位置が次第にずれることであり、ドリフト量は、そのずれ量である。
本実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法は、削り加工装置、例えば切削装置にも適用できるが、ここでは、一例として、研削装置に適用する場合について説明する。本実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法が適用される研削装置10は、例えば、図1に示すように、被研削物(被加工物の一例)WPに接触することで被研削物WPを研削する研削砥石部1と、研削砥石部1を回転軸VX回りに回転駆動する回転装置2と、回転装置2をX軸方向に沿って前後に移動するX軸方向駆動機構4と、被研削物WPを保持して被研削物WPをY軸方向に沿って上下に移動(昇降)させるY軸方向駆動装置5と、Y軸方向駆動装置5をZ軸方向に沿って左右に移動させるZ軸方向駆動機構6と、被研削物WPの加工部位に研削液を供給する研削液供給回収装置7と、回転機構22、X軸方向駆動機構4、Y軸方向駆動機構52およびZ軸方向駆動機構6等の動作を数値的に制御する制御装置8とを備える。
なお、上述のように、この研削装置10の説明では、研削砥石部1の回転軸VXに沿う方向をY軸方向としてXYZ直交座標系が図1に示すように設定され、このXYZ直交座標系が適宜に用いられる。すなわち、このように設定されたXYZ直交座標系では、Y軸方向(すなわち、VX回転軸方向)が紙面上下方向(昇降方向)となり、これに直交するX軸方向が紙面奥行き方向(前後方向)となり、これらX軸方向およびY軸方向それぞれに直交するZ軸方向が紙面左右方向となっている。
研削砥石部1は、研削工具の一例であり、例えば、図1および図3(A)に示すように、円板形状すなわち円板状の外形を有しており、内部の本体11と、本体11の周囲を覆う研削層12とを備える。本体11は、例えば金属材料で形成され、研削層12は、例えばダイヤモンド砥粒をボンドで焼結した研削砥石で形成される。つまり、研削砥石部1の上面部と、周辺部と、底面部とは、研削面で被覆された状態となっている。これらのうち、前記上面部の研削面12aと前記底面部の研削面12cとは、平坦面となっており、前記周辺部の研削面12bは、外側に凸の半円を回転軸VX回り(Y軸回り)に回転させて得られるトロイダル面となっている。
回転装置2は、研削砥石部1を回転軸VX回りに回転駆動する装置であり、研削砥石部1を回転可能に下端に支持し一方向に伸びる長尺な棒状の部材から成る回転支持軸21と、回転支持軸21の軸線を回転軸(VX軸)として該回転支持軸21を回転駆動する回転機構22と、Y軸方向に沿って延び、回転機構22をその一方端の側面に支持するとともにその他方端の端面でX軸方向駆動機構4に固定支持される第1支持体23とを備え、制御装置8の制御に従って動作する。
Y軸方向駆動部5は、被研削物WPを保持してこの被研削物WPをY軸方向に沿って昇降する装置であり、例えば、保持機構51と、保持機構51をY軸方向に沿って昇降するY軸方向駆動機構52と、Y軸方向に沿って延び、Y軸方向駆動機構52をその一方端の側面に支持するとともにその他方端の端面でZ軸方向駆動機構6に固定支持される第2支持体53とを備え、制御装置8の制御に従って動作する。保持機構51は、被研削物WPを直接的にまたは間接的に保持するものである。より具体的には、保持機構51は、被研削物WPが比較的大きい場合には、被研削物WPをチャックして直接的に保持する。一方、保持機構51は、被研削物WPが比較的小さい場合には、被研削物WPを保持する保持治具3をチャックすることによって前記被研削物WPを間接的に保持する。前記保持治具3は、被研削物WPを例えばネジ留めや接着等によって固定して保持する。図1に示す例では、保持治具3は、被研削物WPを載置する載置台3であり、被検物TP1(TP2)は、接着剤によって載置台3に接着固定されている。Y軸方向駆動機構52は、被研削物WPの大きさに応じて保持機構51を介して被研削物WPを昇降し、研削砥石部1におけるY軸方向の移動範囲内に被研削物WPが配置されるように、被研削物WPのY軸方向に沿った位置を調整する。
X軸方向駆動機構4とZ軸方向駆動機構6とは、水平な同一の台座上に互いに並置され、制御装置8の制御に従ってそれぞれ動作する。
これら回転機構22、X軸方向駆動機構4、Y軸方向駆動機構52およびZ軸方向駆動機構6は、制御装置8の数値制御に従って動作し、研削砥石部1は、回転機構22によって回転支持軸21が回転軸VX回りに回転することで、回転軸VX回りに回転し、X軸方向駆動機構4によって回転支持軸21がX軸方向に沿って移動することで、研削砥石部1は、被研削物WPに対してX軸方向に沿って移動し、Y軸方向駆動機構52によって被研削物WPがY軸方向に沿って移動することで、研削砥石部1は、被研削物WPに対してY軸方向に沿って移動し、Z軸方向駆動機構6によって被研削物WPがZ軸方向に沿って移動することで、研削砥石部1は、被研削物WPに対してZ軸方向に沿って移動する。したがって、回転支持軸21の下端に支持された研削砥石部1は、その姿勢を保ったままで3次元的な所望の位置に所望の速度で変位できる。
研削液供給回収装置7は、制御装置8の制御に従って動作しており、回転装置2等に連動して研削砥石部1に対して研削液の供給や回収を行う。例えば、回転機構22を動作させて研削砥石部1を回転させつつ、X軸方向駆動機構4、Y軸方向駆動機構52およびZ軸方向駆動機構6を動作させてX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の所定の方向に移動させることにより、研削砥石部1によって被研削物WPに凹部(例えば線条溝)を形成する研削が可能になるが、この際、研削砥石部1の周辺に研削液供給回収装置7から研削液が供給され、周囲の容器(図略)に溢れた研削液は、研削液供給回収装置7に回収される。
制御装置8は、被研削物WPを研削砥石部1によって研削加工するべく、研削装置10の各部を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御するものである。より具体的には、制御装置8は、Y軸方向駆動機構52を動作させて昇降台51をY軸方向に沿って昇降させる。制御装置8は、回転機構22を数値的な制御で動作させて回転支持軸21を回転させ、またX軸方向駆動機構4を数値的な制御で動作させてX軸方向に沿って移動させ、またY軸方向駆動機構52を数値的な制御で動作させてY軸方向に沿って移動させ、また、Z軸方向駆動機構6を数値的な制御で動作させてZ軸方向に沿って移動させる。
次に、このような研削装置10に適用される削り加工位置ドリフト量測定方法について説明する。なお、この削り加工位置ドリフト量測定方法を実施する対象の削り加工装置10は、被加工物WPを実際に削り加工するために用いられる装置(実機)であることが好ましい。これによって、実機を検証でき、実機の加工環境と同環境で実機を検証できる。また検証で得られたドリフト量とその原因とを把握することで、前記原因の除去または低減が可能となり、その結果、前記実機のドリフト量の修正が可能となる。
この削り加工位置ドリフト量の測定に当たって、まず、ドリフトを測定するために用いられる所定の被検物(試験片)TP1が用意される。この被検物TP1は、後述の移動工程S3および削り加工工程S4によって削り加工可能であれば、任意の材料および任意の形状であってよい。本実施形態では、例えば、図3(A)および図4に示す、横4mm×縦4mm×高さ(長さ)20mmの角柱形状の部材である。また、被検物TP1は、蛍石(主成分フッ化カルシウム;CaF2)またはグラッシーカーボン(glassy carbon、ガラス状カーボン)で形成されていることが好ましい。このような材料で被検物TP1を形成することで、被検物TP1の削り加工で前記研削砥石部1の研削層12における摩耗を防止または抑制できる。このため、本実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法は、後述のように削り加工工程S4を複数回繰り返しても、研削砥石部1の摩耗に起因した誤差をドリフト量から排除または低減でき、精度良くドリフト量を定量化できる。また、このような削り加工位置ドリフト量測定方法は、比較的安価で被検物を形成できる。また例えば、被検物TP1は、実機で削り加工される被加工物と同材料で形成されていることが好ましい。このような削り加工位置ドリフト量測定方法は、実加工により近似した状態で、ドリフト量を定量化できる。
次に、この予め用意された被検物TP1が載置台3に所定の固定方法で固定される(固定工程S1)。前記固定方法は、例えば、接着剤による接着固定であることが好ましい。前記接着剤は、例えば、シアノアクリル酸エチルを主成分とする混合物から成る瞬間接着剤(例えば東亜合成株式会社製、商品名;ボンドアロンアルファ等)等である。これによれば、接着剤によって簡易にしっかりと被検物TP1を研削装置10の載置台3に固定できるから、このような削り加工位置ドリフト量測定方法は、後述の削り加工工程における削り加工中の位置ずれに起因した誤差をドリフト量から排除または低減でき、精度良くドリフト量を定量化できる。また、接着剤の接着層を薄く、例えば厚さ5μm以下に形成することで、このような削り加工位置ドリフト量測定方法は、削り加工中の温度変化が生じていても接着層の厚さ方向の伸び縮みに起因した誤差をドリフト量から排除または低減でき、精度良くドリフト量を定量化できる。
次に、研削装置10に研削加工の加工条件が入力される(条件入力工程S2)。前記加工条件は、複数の方向のうちの第1方向に沿って削り工具を移動させて前記第1方向に沿って所定の被検物を削り加工する削り加工工程を実行し、前記第1方向と直交する第2方向に所定の距離だけ前記削り工具を移動させる移動工程を実行し、前記削り加工工程は、複数回繰り返され、次回の削り加工工程は、今回の削り加工工程の終了から所定の時間の経過後に、前記移動工程を実施した後に、実施される条件である。例えば、本実施形態では、前記加工条件は、XYZの3方向のうちのX軸方向に沿って研削砥石部1を移動させてX軸方向に沿って所定の深さHzで被検物TP1を削り加工する研削加工工程S4を実行し、X軸方向と直交するY軸方向に所定の距離だけ研削砥石部1を移動させる移動工程S3を実行し、削り加工工程S4が複数回繰り返され、次回の研削加工工程S4が今回の研削加工工程S4の終了から所定の時間(例えば0.5時間、1時間、2時間等)の経過後に、移動工程S3を実施した後に、実施される条件である。より具体的には、一例として、前記加工条件は、図3に示すように、Z軸方向に深さHzで、X軸方向に沿った直線状の溝(線条溝)(1)〜(5)を、Y軸方向に所定の間隔(ピッチ)Pyを空けて、5本、研削加工する条件である。深さHzは、研削砥石部1における前記周辺部の研削面12bがトロイダル面となっているので、図3(B)に示すように、その最大深さで定義される。ピッチPyは、Y軸方向で互いに隣接する第1ないし第5線条溝(1)〜(5)間において、図3(A)に示すように、各線条溝(1)〜(5)のY軸方向での各中央位置間の距離である。そして、研削加工の順番は、図3(C)に示すように、まず第1に、研削加工を開始する開始位置(第1位置)P1に研削砥石部1を移動して第1線条溝(1)を研削加工し、次に、−Y軸方向に2×Pydだけ空けた第2位置P2に研削砥石部1を移動して第2線条溝(2)を研削加工し、次に、−Y軸方向に2×Pyだけ空けた第3位置P3に研削砥石部1を移動して第3線条溝(2)を研削加工し、次に、−Y軸方向とは逆方向の+Y軸方向に、3×Pyだけ空けた第4位置P4に研削砥石部1を移動して第4線条溝(4)を研削加工し、そして、−Y軸方向に2×Pyだけ空けた第5位置P5に研削砥石部1を移動して第5線条溝(5)を研削加工する順である。なお、図1に示す研削装置10では、被検物TP1を移動して研削砥石部1に対する被検物TP1の位置を位置決めする場合もあるが、ここでは、この場合も含めて研削砥石部1の移動で説明する。
このように加工条件が入力され、研削開始がオペレーターによって指示されると、研削装置10は、研削加工を開始する。すなわち、まず、研削装置10は、回転機構22、X軸方向駆動機構4、Y軸方向駆動機構52およびZ軸方向駆動機構6を制御装置8によって数値制御し、研削砥石部1を条件入力工程S2で入力された加工条件に従って削り工具(この例では研削砥石部1)を移動する(移動工程S3)。上述の例では、第1番目では、研削装置10は、研削砥石部1をY軸方向における被検物TP1の開始位置(第1位置)P1まで移動し、次の第2番目では、研削装置10は、研削砥石部1をY軸方向における被検物TP1の第2位置P2まで移動し、以下同様に、第3ないし第5番目それぞれでは、研削装置10は、研削砥石部1をY軸方向における被検物TP1の第3ないし第5位置P3〜P5それぞれまで移動する。
次に、研削装置10は、回転機構22、X軸方向駆動機構4、Y軸方向駆動機構52およびZ軸方向駆動機構6を制御装置8によって数値制御し、研削砥石部1を条件入力工程S2で入力された加工条件に従って削り加工(この例では研削加工)する(削り加工工程(この例では研削加工工程S4)。本実施形態では、削り加工は、研削加工であるので、この研削加工工程S4では、研削するために、研削装置10は、研削液供給回収装置7も制御装置8によって制御する。
次に、前記削り加工工程(前記研削加工工程)S4が終了すると、工程S2で入力された加工条件に基づいて前記削り加工工程(前記研削加工工程)S4が所定の繰り返し回数だけ実行されたか否かが判定される(繰り返し回数判定工程S5)。上述の例では、5本の第1ないし第5線条溝(1)〜(5)が形成されるので、前記削り加工工程S4が、5回、繰り返されたか否かが判定される。この判定の結果、前記削り加工工程S4が所定の繰り返し回数だけ実行されていない場合(No)には、時間経過判定工程S6が実行され、一方、前記削り加工工程S4が所定の繰り返し回数だけ実行されている場合(Yes)には、測定工程S7が実行される。
時間経過判定工程S6では、前記削り加工工程(この例では研削加工工程)S4の終了から所定の時間が経過したか否かが判定される。この判定の結果、前記削り加工工程(前記研削加工工程)S4の終了から所定の時間が経過している場合(Yes)には、処理が上述の移動工程S3に戻される。一方、この判定の結果、前記削り加工工程(前記研削加工工程)S4の終了から所定の時間が経過していない場合(No)には、処理が本工程S6に戻される。すなわち、前記削り加工工程(この例では研削加工工程)S4の終了から所定の時間が経過するまで、研削装置10は、待機(Wait)し、前記削り加工工程(この例では研削加工工程)S4の終了から所定の時間が経過するすると、次の線条溝を研削加工するために、処理を移動工程S3に戻して移動工程S3を実行する。
このような各工程S3〜S6によって、複数の方向のうちの第1方向に沿って削り工具を移動させて前記第1方向に沿って被検物を削り加工する削り加工工程S4が実行され、前記第1方向と直交する第2方向に所定の距離だけ前記削り工具を移動させる移動工程S3が実行され、削り加工工程S4は、複数回繰り返され、次回の削り加工工程S4は、今回の削り加工工程S4の終了から所定の時間の経過後に、移動工程S3を実施した後に、実施される。上述の例では、XYZの3方向のうちのX軸方向に沿って研削砥石部1を移動させてX軸方向に沿って所定の深さHzで被検物TP1を研削加工する研削加工工程S4が実行され、X軸方向と直交するY軸方向に所定の距離だけ研削砥石部1を移動させる移動工程S3が実行され、削り加工工程S4は、5回、繰り返され、次回の削り加工工程S4は、今回の削り加工工程S4の終了から所定の時間の経過後に、移動工程S3を実施した後に、実施される。
そして、測定工程S7では、被検物TP1に前記削り加工工程S4で形成された形状に関する所定の寸法が測定され、ドリフト量が定量化され、処理が終了される。この例では、被検物TP1に研削加工工程S4で形成された第1ないし第5線条溝(1)〜(5)に関する所定の寸法が測定される。より具体的には、前記形状に関する所定の寸法を測定できる所定の測定装置を用いて第1ないし第5線条溝(1)〜(5)における各深さHzおよび各ピッチPyが測定される。この測定工程S7は、測定装置を用いてオペレーターによって実施されても良く、また、削り加工装置(この例では研削装置10)に搭載された機上測定装置によって実施されても良い。これによれば、このような削り加工位置ドリフト量測定方法は、機上測定装置を用いることで簡易に機上測定装置の測定精度でドリフト量を定量化できる。測定装置として、例えば、接触式の超高精度3次元測定機や非接触式超高精度3次元測定機等が利用できる。また、好ましくは、前記ドリフト量は、削り加工装置(この例では研削装置10)に設定された例えば前記移動工程S3での移動間隔(ピッチPy)や削り加工の深さHz等の加工条件を基準に、計量される。このような削り加工位置ドリフト量測定方法は、前記基準からの誤差量でドリフト量を定量化できる。
従来では、実加工して形状精度のばらつきを求めることによって加工形状の繰り返し再現性が検証されていたが、この従来法では、実加工に時間がかかり、測定された加工形状のデータには実加工であるため多軸同時動作によって複合された原因が含まれ、原因と加工形状の誤差との相関が取り難かった。しかしながら、本実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法では、被検物TP1に実際に所定の時間ごとに削り加工(上述の例では研削加工)が実行され、この削り加工によって被検物TP1に形成された複数の形状(上述の例では第1ないし第5線条溝(1)〜(5))それぞれに対し、前記形状に関する所定の寸法が測定される。このため、本実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法は、被検物TP1を用いて実加工を擬似的に再現した実加工に近似した状態で、削り加工における時間経過に従って生じるドリフト量を定量化できる。そして、削り加工工程S4の削り加工および移動工程S3の移動それぞれが単軸動作で実現でき、しかもそれら第1方向(上述の例ではX軸方向)と第2方向(上述の例ではY軸方向)が互いに直交するので、例えば第2方向に沿った各形状間の間隔(ピッチ、前記所定の距離)やその深さ等の前記形状に関する所定の寸法を測定することで、上記削り加工位置ドリフト量測定方法は、ドリフトの原因を分離してドリフト量を定量化できる。また、このような削り加工位置ドリフト量測定方法は、前記繰り返し回数を増減することで、比較的短時間から比較的長時間までのドリフト量を定量化できる。
また、上述の削り加工位置ドリフト量測定方法は、削り加工工程S4を複数回繰り返す際に、移動工程S3を複数回実施する場合に、前記第2方向に沿う前回の移動方向と逆方向に今回前記削り工具を移動している。より具体的には、第2線条溝(2)、第3線条溝(3)および第4線条溝(4)を順に研削加工する際に、前回の第2線条溝(2)から第3線条溝(3)を形成するための−Y軸方向の移動と、今回の第3線条溝(3)から第4線条溝(4)を形成するための+Y軸方向の移動とは、互いに逆方向となっている。このような削り加工位置ドリフト量測定方法は、移動工程S3で第2方向(この例ではY軸方向)に沿う2方向のドリフト量を定量化できる。したがって、上記削り加工位置ドリフト量測定方法は、ドリフトの原因をより細分に分離してドリフト量を定量化できる。
次に、第1ないし第5線条溝(1)〜(5)を実際に形成した際のドリフト量の一例について説明する。図5は、実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法によって得られたY方向(上下方向)のドリフト量を示すグラフである。図6は、実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法によって得られたZ方向(深さ方向)のドリフト量を示すグラフである。これら図5および図6それぞれにおいて、横軸は、各第1ないし第5線条溝(1)〜(5)に割り当てられた識別子である溝番号(1)〜(5)であり、その縦軸は、μm単位で表すドリフト量である。表1は、第1ないし第5線条溝(1)〜(5)に対し、上から順に、Y測定位置(機械座標[mm])の基準値およびY軸方向のドリフト量としてのY中心誤差[μm]と、溝底位置[mm]の基準値およびZ軸方向のドリフト量としてのZ切り込み誤差[μm]とを示し、表2は、第1ないし第5線条溝(1)〜(5)に対し、研削加工順に、Y軸方向のドリフト量(Yズレ)およびZ軸方向のドリフト量(Zズレ)を示す。
図5および図6において、第1ないし第5線条溝(1)〜(5)は、Z軸方向に深さ0.5mm(Hz=0.5mm)で、X軸方向に沿った直線状の溝(線条溝)(1)〜(5)を、Y軸方向に所定の間隔(ピッチ)1mm(Py=1mm)を空けて、1時間ごとに、5本、研削加工する加工条件で、実機の研削装置10によって研削加工された。
図5、表1および表2では、ドリフト量は、加工条件での第1ないし第5線条溝(1)〜(5)におけるY軸方向の各中心位置(各第1ないし第5位置P1〜P5、基準値、表1の機械座標[mm])と、実際の研削加工によって実際に形成された第1ないし第5線条溝(1)〜(5)におけるY軸方向の各中心位置それぞれを実測した実測結果(実測値)とのずれ量(表1のY中心誤差[μm])である(ドリフト量(前記ずれ量)=前記基準値−前記実測値)。図5、表1および表2から分かるように、第1線条溝(1)の形成後、1時間経過後の第2線条溝(2)の形成では、Y軸方向に、約−0.1μm(−Y軸方向へ約0.1μm、以下同じ)のドリフトが生じ、その1時間経過後の第3線条溝(3)の形成では、Y軸方向に、約−0.2μmのドリフトが生じ、その1時間経過後の第4線条溝(4)の形成では、Y軸方向に、約−0.2μmのドリフトが生じ、そして、その1時間経過後の第5線条溝(5)の形成では、ドリフトが生じていない。このように定量化によって各時間のY軸方向に沿ったドリフト量が分かり、しかも、Y軸方向に沿ったドリフト量が時間経過に従って変動していることが分かる。
一方、図6、表1および表2では、ドリフト量は、加工条件での第1ないし第5線条溝(1)〜(5)における深さHz(基準値、表1の溝底位置[mm])と、実際の研削加工によって実際に形成された第1ないし第5線条溝(1)〜(5)における深さHzそれぞれを実測した実測結果(実測値)とのずれ量(表1のZ切り込み誤差[μm])である(ドリフト量(前記ずれ量)=前記基準値−前記実測値)。図6、表1および表2から分かるように、第1線条溝(1)の形成後、1時間経過後の第2線条溝(2)の形成では、Z軸方向に、約−0.1μm(−Z軸方向へ約0.1μm、以下同じ)のドリフトが生じ、その1時間経過後の第3線条溝(3)の形成では、Z軸方向に、約−0.1μmのドリフトが生じ、その1時間経過後の第4線条溝(4)の形成では、Z軸方向に、約−0.4μmのドリフトが生じ、そして、その1時間経過後の第5線条溝(5)の形成では、Z軸方向に、約−0.3μmのドリフトが生じている。このように定量化によって各時間のZ軸方向に沿ったドリフト量が分かり、しかも、Z軸方向に沿ったドリフト量が時間経過に従って変動していることが分かる。なお、図6の破線は、各実測値を最小二乗法によってフィッティングした誤差曲線である。
このような結果から4時間換算ズレ量は、Y軸方向に約−0.2μmであり、Z軸方向に約−0.4μmであった。なお、4時間時間換算ズレ量とは、第1線条溝(1)を基準(ズレ量0)とした場合における第2線条溝(2)〜第5線条溝(5)の最大ズレ量である。
このようなドリフトの検証は、例えば、削り加工装置の立ち上げの際や、削り加工装置の移設後の精度検査の際に実施される。そして、定量化したドリフト量を参照することによってその原因が考察され、この考察に基づいて前記削り加工装置が改善対策され、再び、ドリフトが検証される。これによって前記原因の正否が分かり、前記改善対策がドリフトに対し有効である否かが分かる。このようにドリフトとその原因との相関が取れ、改善対策とその効果とを簡潔に解析できる。
例えば、±0.3℃以内に温度管理された室内に研削装置10を設置しても、立ち上げ当初、Y軸方向に約5μm程度のドリフト量があった。種々の改善対策を試みてその検証した結果、飛散した研削液が研削装置10に付着し、その気化熱による研削装置10の伸縮でドリフトが生じていることが突き止められた。この結果、研削液が飛散して付着しやすい箇所にカバーを設置する改善対策等で、ドリフト量が約0.3μm以内に低減できた。
図7は、実施形態における削り加工位置ドリフト量測定方法によってX軸方向のドリフト量およびZ軸方向のドリフト量を定量化する場合において、被検物に研削加工で形成される溝形状の態様を説明するための図である。
なお、上述の実施形態では、Y軸方向のドリフト量およびZ軸方向のドリフト量とを定量化するために、削り加工工程(上述の例では研削加工工程)S4では、削り工具(上述の例では研削砥石部)1をX軸方向に沿って移動させながら、X軸方向に長尺でZ軸方向に深さを持つ溝形状を被検物TP1に研削加工で形成し、移動工程S3ではX軸方向に直交するY方向に削り工具1を移動したが、削り加工工程は、これに限定されるものではない。例えば、X軸方向のドリフト量およびZ軸方向のドリフト量とを定量化するために、図7に示すように、削り加工工程(上述の例では研削加工工程)S4では、削り工具1をY軸方向に沿って移動させながら、Y軸方向に長尺でZ軸方向に深さを持つ溝形状を被検物TS2に研削加工で形成し、移動工程S3ではY軸方向に直交するX方向に削り工具1を移動してもよい。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。