JP2015149916A - 撥水性を賦与した改質穀粒又は改質穀粒破砕物とその製造法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 穀皮を除去した状態の穀粒そのもの、外皮又は胚芽の少なくとも一部を除去した穀粒、及び、穀粒破砕物のいずれか一種以上を原料として用い、この穀粒又は穀粒破砕物からなる原料を水酸化カルシウムと水とを主成分とする溶液又は懸濁液と接触処理する工程;接触処理後の原料を前記溶液又は懸濁液から分離処理する工程;分離処理後の原料を乾燥処理する工程;さらに必要に応じて、乾燥処理工程により得られた改質穀粒又は改質穀粒破砕物を破砕処理する工程;を行うことを特徴とする、撥水性を賦与した改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法を提供する。
【選択図】 なし
Description
ここで「穀粒」とは、コメ、コムギ、トウモロコシ、オオムギ、エンバク、ライムギ、キビ、アワ、ヒエ、ソバ、アマランサス等の穀物および疑似穀物の粒子(種子)を指しており、原則として外側の穀皮(籾殻などのいわゆる殻と呼ばれる部分)を除いたものであって、内側の胚乳、胚芽の他、外皮(種皮、果皮)を含む概念である。例えば、コメでは籾殻を除いた玄米、コムギでは原麦を指すが、六条皮麦、二条大麦のように頴(いわゆる殻の部分)が癒着して外れないものにあっては、穀皮を含む。
穀粒は、食料及び飼料として不可欠な食品素材である。穀粒の主要な用途としては、次の(1)〜(3)が挙げられる。
(1)ご飯のような「粒食」としての食料・飼料用途、
(2)小麦粉のような粉末化後の食品素材等(「粉末及びその加工食品」)としての用途、
(3)コーンスターチや米澱粉のように、澱粉を取り出した後の食品素材や糖化原料等(「澱粉原料」)としての用途、
また、米粉についても、我が国では米の消費拡大に係る政策的後押しもあり、米粉利用のための技術開発が急速に進んでいる。これまでに、米粉製造に適した稲品種開発の他、損傷澱粉量を減らし製パン適性を向上するための湿式気流粉砕技術(非特許文献1参照)や、ペクチナーゼなどの酵素によって前処理する技術(非特許文献2参照)、などが開発されてきた。
また、トウモロコシ穀粒については、ドライミリングを行うことで、コーングリッツ、コーンミール、コーンフラワー等として利用する技術が開発されてきた。当該加工物は、コーンフレーク等のシリアル原料、ビール副原料、スナック等の膨化菓子原料、ミックス粉(パン製品、天ぷら粉、唐揚げ粉等)に配合して利用されている。
このような背景の中で、多様な価値をもつ穀物製品を創造する手段を産業界に提供するため、穀粒素材の品質改変技術のさらなる高度化が求められている。特に、穀粒全般に横断的に適用可能な技術の開発が期待されている。そのような技術が開発されれば、産業界への波及効果は広範囲に及ぶものと期待されている。
しかしながら、これまで穀粉の吸水特性の改変に係る研究は行われていない。
即ち、本発明の目的は、穀粒及びその破砕物に対して、吸水特性を改変した、特には撥水性を賦与した素材の製造技術を提供することにある。
即ち、本発明者らは、水酸化カルシウムを用いて穀粒および穀粒を破砕して得た粉に処理を施したときに、処理後の穀粒、穀粒を処理後に破砕して得た粉、破砕して得た粉を処理したものが撥水性を示すという新たな現象を見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
(1)穀皮を除去した状態の穀粒そのもの、外皮又は胚芽の少なくとも一部を除去した穀粒、及び、穀粒破砕物のいずれか一種以上を原料として用い、この穀粒又は穀粒破砕物からなる原料を水酸化カルシウムと水とを主成分とする溶液又は懸濁液と接触処理する工程;前記接触処理後の原料を前記溶液又は懸濁液から分離処理する工程;前記分離処理後の原料を乾燥処理する工程;さらに必要に応じて、前記乾燥処理工程により得られた改質穀粒又は改質穀粒破砕物を破砕処理する工程;を行うことを特徴とする、撥水性を賦与した改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
(2)前記「穀粒」或いは前記「穀粒破砕物」における「穀粒」が、コメ粒、コムギ粒、トウモロコシ粒、オオムギ粒、エンバク粒、ライムギ粒、キビ粒、アワ粒、ヒエ粒、ソバ粒、及びアマランサス粒のうち少なくとも一種類である、前記(1)に記載の改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
(3)前記「水酸化カルシウムと水を主成分とする溶液又は懸濁液」が、水に対する水酸化カルシウムの存在比が0.025%(w/v)以上のものであり、かつ穀粒又は穀粒破砕物に対する水酸化カルシウムの存在比が0.1%(w/w)以上のものである、前記(1)又は(2)に記載の改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
(4)前記「接触処理する工程」が、温度0℃以上であり、かつ穀粒又は穀粒破砕物を構成する澱粉の糊化温度未満の温度範囲内で、1分間以上の時間接触させるものである、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
(5)前記「溶液又は懸濁液から分離処理する工程」が、接触工程後の穀粒又は穀粒破砕物と;溶液又は懸濁液の主成分である水酸化カルシウム水溶液、未溶解の水酸化カルシウム粒子及び遊離成分とを;両者のサイズ差又は比重差により分離回収するものである、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
(6)前記「溶液又は懸濁液から分離処理する工程」として、接触処理後の穀粒又は穀粒破砕物と;溶液又は懸濁液の主成分である水酸化カルシウム水溶液、未溶解の水酸化カルシウム粒子及び遊離成分とを;両者のサイズ差又は比重差により分離回収した後、得られた穀粒又は穀粒破砕物を洗浄する操作を行うものである、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
(7)前記「乾燥処理する工程」が、前記「乾燥処理後の穀粒又は穀粒破砕物」を、水分含量30%以下まで乾燥するものである、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造法により得られた、撥水性を賦与された改質穀粒又は改質穀粒破砕物。
(9)吸水特性又は消化特性のいずれか一つ以上が改変され、かつカルシウム量が増強されている、前記(8)に記載の撥水性を賦与された改質穀粒又は改質穀粒破砕物。
(10)前記(8)又は(9)に記載の撥水性を賦与された改質穀粒又は改質穀粒破砕物を、酸、キレート剤、エタノール又はアセトンを用いて処理し、任意のタイミングで撥水性を低下させることを特徴とする改質穀粒又は改質穀粒破砕物の構造制御方法。
(11)前記(8)に記載の撥水性を賦与された改質穀粒破砕物を用いた打ち粉。
(12)前記(8)に記載の撥水性を賦与された改質穀粒破砕物を用いた揚げ衣。
(13)穀皮を除去した状態の穀粒そのもの、外皮又は胚芽の少なくとも一部を除去した穀粒、及び、穀粒破砕物のいずれか一種以上を原料として用い、この穀粒又は穀粒破砕物からなる原料を水酸化カルシウムと水とを主成分とする溶液又は懸濁液に接触処理する工程;前記接触処理後の原料を前記溶液又は懸濁液から分離処理する工程;前記分離処理後の原料を乾燥処理する工程;を行うことを特徴とする、穀粒又は穀粒破砕物について撥水性を賦与する方法。
すなわち、本発明によれば、穀粒及びその破砕物に対して、吸水特性や水分布特性を改変した素材の製造技術が提供される。
穀粒及びその破砕物について、吸水の有無、吸水量や速度を制御することにより、澱粉糊化工程の制御を高度化するのみならず、水・油脂等との相互作用の制御を可能とする。また、吸水の制御は分解酵素の浸入速度や水交換速度に影響することから、消化性あるいは生分解性の制御を行うことができる。
本発明においては、「穀粒」として、コメ粒、コムギ粒、トウモロコシ粒、オオムギ粒、エンバク粒、ライムギ粒、キビ粒、アワ粒、ヒエ粒、ソバ粒、アマランサス粒のうち少なくとも一種類を用いることが好ましい。
このようなものを原料として用いる理由は、穀粒内部が吸水できる状態にすることにある。従って、(1)穀皮を除去した状態の穀粒そのもの(例えば、玄米など)よりも、一層穀粒内部が吸水できる状態になることから、(2)外皮又は胚芽の少なくとも一部を除去した穀粒か、(3)穀粒破砕物のいずれかであることがより好ましい。これにより、次に行う接触工程での水酸化カルシウムにての改質処理がより容易となる。
穀粒の破砕は、例えばサイクロンミル等を用いて行うことができる。破砕の程度は、穀物の種類や、所望する破砕物のサイズに応じて適宜選定すればよい。
ここで水は、通常、蒸留水など純水が用いられるが、水道水であってもよい。
なお、本発明においては、水酸化カルシウムを用いることが必要不可欠であって、多種のアルカリ、例えば水酸化ナトリウムや水酸化マグネシウムなどを用いても、本発明の目的を達成することはできない。
また、本発明においては、水酸化カルシウムを用いることが必要不可欠であって、塩化カルシウムや炭酸カルシウムなどを用いても、本発明の目的を達成することはできない。
なお、上記の穀粒又は穀粒破砕物からなる原料に、水酸化カルシウムと水とを主成分とする溶液又は懸濁液を浸透させやすいことから、浸漬する方法が好ましい。
このように浸漬する方法を採用する場合には、同様の理由から撹拌下に浸漬して上記の穀粒又は穀粒破砕物からなる原料に、水酸化カルシウムと水とを主成分とする溶液又は懸濁液をよく浸透させることもできる。
一方、水に対する水酸化カルシウムの濃度の上限値は、必要とする撥水性の程度や、水酸化カルシウムを洗浄除去したい場合の操作性(操作の難易性)等に応じて、適宜選定されるため、一義的に決定することは困難であるが、通常、5%(w/v)以下、より好ましくは2.5%(w/v)以下である。
一方、穀粒又は穀粒破砕物の質量に対する水酸化カルシウムの質量の上限値は、必要とする撥水性の程度や、水酸化カルシウムを洗浄除去したい場合の操作性(操作の難易性)等に応じて、適宜選定されるため、一義的に決定することは困難であるが、通常、20%(w/v)以下、より好ましくは10%(w/v)以下である。
また、水酸化カルシウムは、主としてこんにゃくの製造に用いられる他、水あめを製造する際の硫酸の中和剤、糖蜜の脱糖や砂糖の精製等に使用される食品添加物として用いられているが、水酸化カルシウム処理した穀粒の吸水特性が大幅に改変するという本発明の知見を示唆するような報告は、これまで全くなされていない。
ここで「分離処理」としては、沈澱分離、濾過分離、遠心分離等の方法を用いることができ、これにより前記「接触処理」における穀粒又は穀粒破砕物からなる原料と;水酸化カルシウムと水とを主成分とする溶液又は懸濁液;との接触を断ち切る。
例えば、水酸化カルシウム由来の微粒子や水に対して、穀粒又は穀粒破砕物をサイズの差で分離するのが容易であるが、破砕物の粒度が細かい場合には、適切なサイズのメッシュを選択するか、又は遠心分離方式により水分と分離しながら、水酸化カルシウムを溶解させて水側に移行させる方法等を選択することができる。
特に前記「溶液又は懸濁液から分離処理する工程」として、接触処理後の穀粒又は穀粒破砕物と;溶液又は懸濁液の主成分である水酸化カルシウム水溶液、未溶解の水酸化カルシウム粒子及び遊離成分とを;両者のサイズ差又は比重差により分離回収することが好ましい。
この洗浄操作により、不要な水酸化カルシウムが除去される。
分離処理工程、さらに分離処理工程後に適宜行われる洗浄工程を経て得た、水酸化カルシウムによる接触処理後の穀粒又は穀粒破砕物は、乾燥したときに撥水性を発揮するようになるため、水分含量が30%以下となるように乾燥させる必要がある。腐敗抑制を考えて、処理後の穀粒又は穀粒破砕物の水分含量が15%以下となるように調整することが望ましい。
この破砕処理工程は、例えばサイクロンミル等の破砕処理機を用いることにより、行うことができる。破砕の程度は、目的に応じて適宜選定すればよい。
本発明において得られた改質穀粒又は穀粒破砕物の撥水性については、改質処理後に吸水性が低下する性質として定義することができる。
例えば、改質穀粒又は改質穀粒破砕物に対しては、穀粒上あるいは一定条件で水平に広げた破砕物に、一定量の水滴をのせたときの接触角を測定することや、のせた水滴が穀粒内あるいは穀粒破砕物に浸透するまでの時間を測定することによって、その改質が行われたことを評価することができる。また、改質穀粒あるいは穀粒破砕物に対して、底に穴の空いた容器に一定条件で詰め、水を張ったバットの上に置き、底の穴を通して水を吸収させたときの初速度、最終吸水量、半吸水時間を測定することによってその改質が行われたことを評価することができる。
なお、このようにして得られた、改質穀粒又は改質穀粒破砕物は、中和することにより、撥水性が失われたものとなる。しかしながら、このように中和して撥水性が失われた場合でも、改質穀粒又は改質穀粒破砕物中のカルシウム含量は高いままである。
この現象は、他のアルカリである水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウムや、カルシウム塩である炭酸カルシウム、塩化カルシウムでは見出されなかったことから、pHがアルカリ側という点のみならず、カルシウムイオンが機能することが重要と考えられる。
すなわち、このようにして得られた、改質穀粒又は改質穀粒破砕物は、改質処理前の素材と比較して、アミラーゼ消化性が穏やかになることから、消化特性あるいは生分解性も改変されたものとなっており、血糖値の上昇を穏やかにし、あるいは生分解性を穏やかにするものと考えられる。
また、穀粒の組織構造が維持されたものでは、水酸化カルシウム処理の効果が顕著であったことから、破砕前の水浸入経路に対して水酸化カルシウム水溶液が入り込むことにより、狭い空間内での蛋白質や脂質膜などのアルカリ変性、そしてカルシウムのもつイオン結合や高次構造形成作用の両者が関与している可能性が考えられる。穀粒を水酸化カルシウム処理後に破砕して得た粉は撥水性を有しており、この粉を水中で激しく攪拌すると撥水性が低減すること、懸濁液にエタノールやアセトンなどの極性の高い溶媒を添加した場合にも撥水性が失われることから、粉の表面を疎水性成分が覆っており、物理的衝撃又は徐々に溶解することにより剥がれ落ちて親水性が回復している可能性が考えられる。
穀粒の種類、剥皮等の前処理の度合い、水酸化カルシウムによるアルカリ処理条件などによって、吸水特性の有無やその程度が変化する。吸水特性としては、撥水性の他、初期吸水速度の低下、粒子内部への吸水阻止など、複数の特性が含まれる。これらの性質に関連して、粒子が水相から油相に移行する性質、加熱処理時に遅延して吸水するために澱粉の糊化が遅れる性質、吸水が阻止されるために粒子内部のpHがアルカリ性に維持されるという性質などが観察される。また、粒子内の澱粉がアルカリによって部分的に糊化する条件下では、最終的な吸水量の増加が観察される。また、前記したように、本素材を用いると、処理前の素材と比較してアミラーゼ消化性が穏やかになることから、血糖値の上昇を穏やかにするものと考えられる。
(1)穀粒(穀粉)を加熱するもの:ポップコーン、ポン菓子、はったい粉など。
(2)前記(1)のうち加熱時に油を用いるもの:揚げ衣、ムニエルの衣など。
(3)穀粒(穀粉)を吸水させてから加熱するもの:炊飯米、かゆ、団子、餅、おかき、蒸しパン、うどんなど。
(4)前記(3)のうち、加熱時に油を加えるもの:天ぷら、パイ、クッキー、パン、揚げあられなど。
(5)穀粒(穀粉)に油を加えて加熱し、さらに吸水させて加熱するもの:ピラフ、ルー、ソースなど。
(6)穀粒(穀粉)を吸水させて加熱したもの、即ち前記(2)のものをさらに加熱するもの:焼き餅、ビーフン、トルティーヤなど。
(7)前記(6)のうち加熱時に油を加えるもの:チャーハン、タコシェル、チュロスなど。
従って、本発明の撥水性を賦与された、改質穀粒又は改質穀粒破砕物は、打ち粉や揚げ衣などとして有効に用いることができる。
また、‘穀粒の含水量’は、湿潤基準(wet base)の重量含水率である「%(w.b.)」で示した。当該値は、‘水分の重量’を‘水分と固形分の重量の和’で除して100を乗じた値である。
穀粒原料に対して水酸化カルシウム処理を行い、‘穀粒’の親水性に与える影響を検討した。
穀粒原料として、表1に示す穀粒である、‘うるち米の精白米’、‘もち米の精米’、‘小麦乾燥穀粒の部分搗精品’、を調製して準備した。
当該各穀粒原料10gを容器に量り取り、水酸化カルシウム粉末1g[原料に対して10%(w/w) 相当量、純水に対して2.5%(w/v) 相当量]及び純水40mLを加えてよく撹拌し、20℃にて12時間静置した。
静置処理後の溶液を捨て、純水40mLで3回洗浄して水酸化カルシウムを除去し、水分含量が15%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
対照として、各穀粒原料に水酸化カルシウムを含まない純水のみを加えて静置、洗浄、及び乾燥を行った。
‘穀粒’の親水性を次のように評価した。穀粒の表面にマイクロピペットを用いて6μLの純水の水滴を破砕物の上に落とし、水滴が穀粒表面に浸透するまでにかかる時間を測定した。結果を表1に示した。
このことから、水酸化カルシウム処理により穀粒の親水性が低下し、撥水性を示すようになることが明らかになった。
穀粒原料に対して水酸化カルシウム処理を行い、その後に破砕して得た‘穀粒破砕物’の親水性に与える影響を検討した。
穀粒原料として、表2に示す穀粒である‘うるち米精白米’、‘うるち米玄米の部分搗精品’、‘もち米精米’、‘小麦乾燥穀粒の部分搗精品’、を調製して準備した。
当該各穀粒原料10gを容器に量り取り、水酸化カルシウム粉末1g[原料に対して10%(w/w) 相当量、純水に対して2.5%(w/v) 相当量]及び純水40mLを加えてよく撹拌し、20℃, 12時間の静置処理を行った。
静置処理後の溶液を捨て、純水40mLで3回洗浄して水酸化カルシウムを除去し、水分含量が30%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
その後、0.5mmスクリーンを装着したサイクロンミル(Cyclotec 1093, Tecator, Sweden)を用いて高速粉砕(破砕)し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
対照として、各穀粒原料に水酸化カルシウムを含まない純水のみを加えて静置、洗浄、乾燥、粉砕、及び乾燥を行った。
‘穀粒破砕物’の親水性の度合いは、次のように評価した。破砕物0.2gを、水平な面に直径2.5cm程度になるように水平に広げた。マイクロピペットを用いて6μLの純水の水滴を破砕物の上に落とし、水滴が破砕物と馴染んで浸透するまでの時間(水平に広げた穀粒破砕物に水滴が浸透するまでにかかる時間である。以下、単に「穀粒破砕物に水滴が浸透するまでにかかる時間」と称する。)を測定した。結果を表2に示した。
試験例2において、穀粒原料として、穀皮を除去した状態の‘うるち米玄米’又は‘トウモロコシ乾燥穀粒’を用いたこと以外は、試験例1と同様にして行い、穀粒の親水性を評価したところ、十分な撥水性が得られなかったが、これは穀皮を除去した状態の‘うるち米玄米’又は‘トウモロコシ乾燥穀粒’にとっては、浸漬・静置時間が短いことによるものではないかと思われた。
そこで、試験例2における浸漬・静置時間(12時間)をさらに延ばして試験を行った。
即ち、‘うるち米玄米’又は‘トウモロコシ乾燥穀粒’を一晩(16時間)吸水させ、その後に水酸化カルシウムを加えてさらに二日間(48時間)低温(4℃)下に静置し、水洗い(水洗浄)をした後、水分含量が30%(w.b.)程度になるまで乾燥させ、その後、粉砕し、さらに水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
対照として、各穀粒原料に水酸化カルシウムを含まない純水を加えて静置、洗浄、乾燥、粉砕、及び乾燥を行った。
その結果、表3に示すように、穀皮を除去した状態の‘うるち米玄米’又は‘トウモロコシ乾燥穀粒’であっても、十分な時間をかければ吸水し、これら穀皮を除去した状態の「穀粒」にも撥水性を付与できることが分かった。
穀粒破砕物に直接水酸化カルシウム処理を行った場合において、当該穀粒破砕物の吸水特性に与える影響を検討した。
穀粒破砕物として、‘うるち米の米粉’、‘トウモロコシ破砕物’、‘ソバ穀粒破砕物’、‘アマランサス穀粒破砕物’を調製した。当該穀粒破砕物10gを容器に量り取り、水酸化カルシウム粉末1g[原料に対して10%(w/w) 相当量、純水に対して2.5%(w/v) 相当量]を加え、次いで純水40mLを加えてよく撹拌し、20℃にて16時間の緩やかな撹拌処理を行った。
当該処理後の溶液を捨て、純水40mLで5回洗浄して水酸化カルシウムを除去し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
なお、対照として、水酸化カルシウムを加えずに同様の処理を行ったものを調製した。
上記(1)の処理を経た‘穀粒破砕物’の親水性の度合いを、試験例2に記載の方法と同様にして評価した。結果を表4に示した。
このことから、穀粒そのものにではなく、穀粒破砕物に対して‘直接’水酸化カルシウム処理を行った場合でも、吸水特性が変化して撥水性が付与できることが示された。
穀粒に対して各種アルカリ化合物を用いた処理を行い、穀粒破砕物の親水性に与える影響を検討した。
穀粒原料として、表3に示す穀粒である‘うるち米精白米’(試料3-1, 3-2, 3-3)を調製して準備した。
当該各穀粒原料10gを容器に量り取り、純水40mL及び各種アルカリ化合物を濃度が0.34 Mとなるように加えて加えてよく撹拌し、20℃, 12時間の静置処理を行った。
静置処理後の溶液を捨て、純水40mLで3回洗浄してアルカリ化合物を除去し、水分含量が30%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
その後、0.5mmスクリーンを装着したサイクロンミル(Cyclotec 1093, Tecator, Sweden)を用いて高速粉砕(破砕)し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
‘穀粒破砕物’の親水性の度合いを、試験例2に記載の方法と同様にして評価した。結果を表5に示した。
なお、対照として、水酸化カルシウム処理を行わなかった上記試料2-2の結果を合わせて表5に示した。
このことから、穀粒や穀粒破砕物の親水性を低下させて撥水性を付与する作用は、アルカリ化合物全般に奏される作用ではなく、水酸化カルシウムに特異的な作用であることが示唆された。
穀粒に対して各種カルシウム化合物を用いた処理を行い、その穀粒粉砕物の親水性に与える影響を検討した。
穀粒原料として、表6に示す穀粒である‘うるち米精白米’を調製した。
当該各穀粒原料10gを容器に量り取り、純水40mL及び各種カルシウム化合物を濃度が0.34 Mとなるように加えて加えてよく撹拌し、20℃, 12時間の静置処理を行った。
静置処理後の溶液を捨て、純水40mLで3回洗浄してカルシウム化合物を除去し、水分含量が30%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
その後、0.5mmスクリーンを装着したサイクロンミル(Cyclotec 1093, Tecator, Sweden)を用いて高速粉砕(破砕)し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
‘穀粒破砕物’の親水性の度合いを、試験例2に記載の方法と同様にして評価した。結果を表6に示した。
なお、対照として、水酸化カルシウム処理を行わなかった上記試料2-2の結果を合わせて表6に示した。
このことから、穀粒や穀粒破砕物の親水性を低下させて撥水性を付与する作用は、カルシウム化合物全般に奏される作用ではなく、水酸化カルシウムに特異的な作用であることが明らかとなった。
穀粒粉砕物を水酸化カルシウム処理するにあたり、水酸化カルシウム添加量が穀粒粉砕物の吸水特性に与える影響を検討した。
穀粒破砕物として、‘うるち米の米粉’を調製した。当該穀粒破砕物10gを容器に量り取り、表7に示す量の水酸化カルシウム粉末[原料に対して0.1〜10%(w/w)相当量、純水に対して0.025〜2.5%(w/v) 相当量]を加え、次いで純水40mLを加えてよく撹拌し、20℃にて16時間の緩やかな撹拌処理を行った。
当該処理後の溶液を捨て、純水40mLで5回洗浄して水酸化カルシウムを除去し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
なお、対照として、水酸化カルシウムを加えずに同様の処理を行ったものを調製した。
上記(1)の処理を経た‘穀粒破砕物’の親水性の度合いを、試験例2に記載の方法と同様にして評価した。結果を表7に示した。
このことから、当該穀粒破砕物の吸水特性を変化させて撥水性を付与する作用は、水酸化カルシウム添加量の増加に伴い増強される作用であることが示唆された。特に穀粒重量に対して5%(w/w)以上[純水に対して1.25%(w/v)以上]の水酸化カルシウムを添加することが有効であることが示された。
また、この結果から、改質処理に用いる水酸化カルシウムの濃度を調節することによって、吸水特性を調節可能であることが示された。
水酸化カルシウム処理を行うにあたり、水酸化カルシウム処理時間が穀粒粉砕物の吸水特性に与える影響を検討した。
穀粒破砕物として、‘うるち米の米粉’を調製した。当該穀粒破砕物10gを容器に量り取り、水酸化カルシウム粉末1g[原料に対して10%(w/w) 相当量、純水に対して2.5%(w/v) 相当量]を加え、次いで純水40mLを加えてよく撹拌し、20℃にて表8に示す時間の間、緩やかな撹拌処理を行った。
当該処理後の溶液を捨て、純水40mLで5回洗浄して水酸化カルシウムを除去し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
なお、対照として、水酸化カルシウムを加えずに同様の処理を行ったものを調製した。
上記(1)の処理を経た‘穀粒破砕物’の親水性の度合いを、試験例2に記載の方法と同様にして評価した。結果を表8に示した。
このことから、当該穀粒破砕物の吸水特性を変化させて撥水性を付与する作用は、10秒程度の短時間の水酸化カルシウム処理を行っただけでも容易に付与される作用であることが示された。
また、長時間(24時間)の水酸化カルシウム処理を行った場合でも、吸水特性に悪影響がないことが示された。
水酸化カルシウム処理を行って得た穀粒破砕物について、その吸水の経時変化すなわち吸水特性を評価した。
穀粒破砕物として、‘うるち米の米粉’を調製した。当該穀粒破砕物10gを容器に量り取り、水酸化カルシウム粉末1g[原料に対して10%(w/w) 相当量、純水に対して2.5%(w/v) 相当量]を加え、次いで純水40mLを加えてよく撹拌し、20℃にて12時間の間、穏やかな撹拌処理を行った。
当該処理後の溶液を捨て、純水40mLで5回洗浄して水酸化カルシウムを除去し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
なお、対照として、水酸化カルシウムを加えずに同様の処理を行ったものを調製した。
上記(1)の処理を経た‘穀粒破砕物’について、穴あき缶を用いた吸水性簡易評価法を用いて吸水特性の評価を行った。具体的には、底に1cm間隔で1〜2mmの穴を開けたアルミ製容器(例えばラピッドビスコアナライザーのカップ)に水酸化カルシウム処理後の穀粒破砕物を5g入れ、水を張ったバットに容器を浸し、初期は30秒間隔、その後は2〜10分毎に水から容器を引き上げ、質量を測定した。
吸水量から乾物重に対する全吸水量を計算して、時間を横軸、全吸水率を縦軸としたグラフにプロットした。結果を図1に示した。
このことから、水酸化カルシウム処理によって穀粒破砕物に付与された撥水性は、長時間保持される性質であることが示された。
水酸化カルシウム量を変化させて水酸化カルシウム処理を行って得た穀粒破砕物について、その吸水特性の変化を検討した。
穀粒破砕物として、‘うるち米の米粉’を調製した。当該穀粒破砕物10gを容器に量り取り、図2に示す量の水酸化カルシウム粉末[原料に対して0.1〜10%(w/w)相当量、純水に対して0.025〜2.5%(w/v) 相当量]を加え、次いで純水40mLを加えてよく撹拌し、20℃にて16時間の緩やかな撹拌処理を行った。
当該処理後の溶液を捨て、純水40mLで5回洗浄して水酸化カルシウムを除去し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
なお、対照として、水酸化カルシウムを加えずに同様の処理を行ったものを調製した。
上記(1)の処理を経た‘穀粒破砕物’について、吸水量の経時変化を試験例9に記載の方法と同様にして測定した。結果を図2に示した。
このことから、水酸化カルシウム処理においては、特に穀粒質量に対して2%(w/w)以上(純水に対して0.5%(w/v)以上)の水酸化カルシウムを添加することにより、穀類破砕物に安定した撥水性を付与できることが示された。
また、水酸化カルシウム添加量を敢えて低く調節[0.1〜2%(w/w穀粒)の間で調節]することにより、穀粒破砕物の吸水特性を自在に改変できることが示された。
水酸化カルシウム処理の処理時間を変化させて得た穀粒破砕物について、その吸水特性の経時変化を検討した。
穀粒原料として、‘うるち米’を準備した。当該穀粒10gを容器に量り取り、水酸化カルシウム粉末1g[原料に対して10%(w/w) 相当量、純水に対して2.5%(w/v) 相当量]を加え、次いで純水40mLを加えてよく撹拌し、20℃にて図3に示す時間の間、静置を行った。
当該処理後の溶液を捨て、純水40mLで3回洗浄して水酸化カルシウムを除去し、水分含量が30%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
その後、0.5mmスクリーンを装着したサイクロンミル(Cyclotec 1093, Tecator, Sweden)を用いて高速粉砕(破砕)し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
なお、対照として、水酸化カルシウムを加えずに同様の処理を行ったものを調製した。
上記(1)の処理を経た‘穀粒破砕物’について、吸水量の経時変化を試験例9に記載の方法と同様にして測定した。結果を図3に示した。
このことから、水酸化カルシウム処理を2時間以上行うことにより、穀粒破砕物に安定した撥水性を付与できることが示された。
また、水酸化カルシウム処理時間を敢えて短く調節(0〜2時間の間で調節)することにより、穀粒破砕物の吸水特性を自在に改変できることが示された。
水酸化カルシウム処理して得た穀粒破砕物について、その加温時粘度特性の変化を検討した。
穀粒原料として、‘うるち米’を準備した。当該穀粒10gを容器に量り取り、水酸化カルシウム粉末0.2g[原料に対して2%(w/w) 相当量]又は0.5g[原料に対して5%(w/w) 相当量]を加え、次いで純水40mLを加えてよく撹拌し、20℃にて16時間の間、静置を行った。
当該処理後の溶液を捨て、純水40mLで3回洗浄して水酸化カルシウムを除去し、水分含量が30%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
その後、0.5mmスクリーンを装着したサイクロンミル(Cyclotec 1093, Tecator, Sweden)を用いて高速粉砕(破砕)し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
なお、対照として、水酸化カルシウムを加えずに同様の処理を行ったものを調製した。
上記(1)の処理を経た‘穀粒破砕物’について、ラピッドビスコアナライザー(Newport Scientific社製)を用いて、加温に伴う粘度特性の評価を行った。
具体的には、AACC公定法61-02.01に従い、測定容器に水分含量12%(w.b.)の時のサンプル量が3.00gとなるように量り取った穀粒破砕物と、全水分量が25.0mLとなるように水を加え、羽を差し込み、50℃に設定した測定槽にセットした。
960回転/分のスピードで10秒間羽を回転させた後に、160回転/分にし、その後測定中はこのスピードを保持した。当該状態にて羽を回転させながら50℃で1分間保持した後、3分45秒の間に95℃まで温度を上昇させ、2分30秒95℃で保持した。その後、3分45秒間で50℃まで温度を下降させ、1分30秒50℃で保持した。このときに羽にかかる力を検出することにより、粘度を経時的に測定した。結果を図4に示した。
具体的には、穀粒質量に対して2%(w/w)[純水に対して0.5%(w/v) 相当量]の水酸化カルシウムで処理した試料(試料12-3)では、加温に伴う粘度上昇が大幅に低減することが示された。特に、穀粒質量に対して5%(w/w) [純水に対して1.25%(w/v) 相当量]の水酸化カルシウムで処理した試料(試料12-2)では、粘度上昇はほとんど見られなかった。
このことから、穀粒の吸水特性の度合いを調節することによって、加熱に伴う粘度特性パターンの制御が可能となることが示された。
穀粒原料に対して水酸化カルシウム処理を行い、その後に破砕して得た穀粒粉砕物の親水性及び親油性に与える影響を検討した。
穀粒原料として、‘うるち米’を準備した。当該穀粒10gを容器に量り取り、水酸化カルシウム粉末1g[原料に対して10%(w/w) 相当量、純水に対して2.5%(w/v) 相当量]を加え、次いで純水40mLを加えてよく撹拌し、20℃にて16時間の間、静置を行った。
当該処理後の溶液を捨て、純水40mLで3回洗浄して水酸化カルシウムを除去し、水分含量が30%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
その後、0.5mmスクリーンを装着したサイクロンミル(Cyclotec 1093, Tecator, Sweden)を用いて高速粉砕(破砕)し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
なお、対照として、水酸化カルシウムを加えずに同様の処理を行ったものを調製した。
上記(1)の処理を経た‘穀粒破砕物’について、親水性及び親油性の評価を行った。評価の方法は、試料に対して表9に記載の各工程A〜Eのいずれかを行い、性状を目視にて評価した。水酸化カルシウム処理した穀粒破砕物(改質米粉)の結果を表9-1に、対照(対照米粉)の結果を表9-2に、それぞれ示した。
一方、水酸化カルシウム処理を行わない穀粒破砕物(対照米粉)は、親水性が強く、工程A〜Dを行った試料(試料13-6〜13-9)では下層である水層に沈殿した。また、工程Eを行った試料では、油となじみ油層で沈殿した(試料13-10)。
この結果から、水酸化カルシウム処理した穀粒破砕物では、本来は親水性を示す特性であったものが、親油性が強い特性に、改質されていることが示された。
穀粒原料に対して水酸化カルシウム処理を行い、その後に破砕して得た穀粒粉砕物のアミラーゼ消化性への影響を検討した。
穀粒原料として、‘うるち米’を準備した。当該穀粒10gを容器に量り取り、水酸化カルシウム粉末1g[原料に対して10%(w/w) 相当量、純水に対して2.5%(w/v) 相当量]を加え、次いで純水40mLを加えてよく撹拌し、20℃にて16時間の間、静置を行った。
当該処理後の溶液を捨て、純水40mLで3回洗浄して水酸化カルシウムを除去し、水分含量が30%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
その後、0.5mmスクリーンを装着したサイクロンミル(Cyclotec 1093, Tecator, Sweden)を用いて高速粉砕(破砕)し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
なお、対照として、水酸化カルシウムを加えずに同様の処理を行ったものを調製した。
上記(1)の処理を経た‘穀粒破砕物’について、Englystらの方法(Am J Clin Nutr 1999;69:448-54)の改変法を用いてアミラーゼによる消化性の評価を行った。
具体的には、糖含量が約0.6gとなるように米粉を50mL遠沈管に量り取り、5mLの純水及び10mLのペプシン塩酸溶液を加え、37℃で30分間静置した。ここで、ペプシン塩酸溶液は、0.05N塩酸にペプシン(P7000、Sigma、USA)を0.5 g/mLとなるように懸濁して作成した。
0.5M酢酸ナトリウム溶液を用いてpHを5.2±0.5となるように調製し、1%アジ化ナトリウム溶液を0.5 mL加え、総液量が20 mLとなるように純水を加えて調製した。
直径10mmのガラス玉3個を遠沈管に入れ、5mLのパンクレアチン溶液を加え、37℃で振とう(100往復/分)した。ここで、パンクレアチン溶液は次のように調製した。3gのパンクレアチン(P7545、Sigma、USA)を20 mLの純水に懸濁し、10分間撹拌した後、1500回転で10分間遠心分離し、上清を15 mL回収した。この上清に0.67 mLアミログルコシダーゼ(A7095、Sigma、USA)と1 mLインベルターゼ(104738、Merck、Germany)を加えて、パンクレアチン溶液とした。
パンクレアチン溶液を投入した後、一定時間毎に200μLサンプリングし、直ちに4mLのエタノールを加えて反応を停止した。この溶液のグルコース量を、グルコーステストキット(例えば、グルコースCII-テストワコー,和光純薬工業)を用いて測定した。結果を図5に示した。
このことから、水酸化カルシウム処理した穀粒破砕物(改質米粉:試料14-1)では、ペプシン、パンクレアチン、アミログルコシダーゼ、インベルターゼからなる人工消化液による消化性が穏やかであることが示された。
穀粒原料に対して水酸化カルシウム処理を行い、その後に破砕して得た穀粒粉砕物の各種特性を検討した。
穀粒原料として、‘うるち米’を準備した。当該穀粒10gを容器に量り取り、水酸化カルシウム粉末1g[原料に対して10%(w/w) 相当量、純水に対して2.5%(w/v) 相当量]を加え、次いで純水40mLを加えてよく撹拌し、20℃にて16時間の間、静置を行った。
当該処理後の溶液を捨て、純水40mLで3回洗浄して水酸化カルシウムを除去し、水分含量が30%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
その後、0.5mmスクリーンを装着したサイクロンミル(Cyclotec 1093, Tecator, Sweden)を用いて高速粉砕(破砕)し、水分含量が14%(w.b.)程度になるまで乾燥させた。
なお、対照として、水酸化カルシウムを加えずに同様の処理を行ったものを調製した。
・加熱膨潤及び糊化の抑制
上記(1)の処理を経た‘穀粒破砕物’0.1gを試験管に量り取り、純水4mLを加えて撹拌し、80℃に温度設定したヒートブロックに入れた。
その結果、水酸化カルシウム処理した穀粒破砕物(改質米粉:試料15-1)は、温度が上昇しても純水と馴染まず、水面で浮遊した状態のまま維持されていた。即ち、加熱による膨潤及び糊化が抑制された特性となった。
一方、対照穀粒破砕物(対照米粉:試料15-2)では、純水中で沈澱して温度が上昇するにつれて膨潤し糊化した。
その結果、これらの全ての試料において、水酸化カルシウム処理した穀粒破砕物が水となじんで沈澱するようになり、糊化が進行した。
このことから、酸や有機溶媒を加えることによって、任意のタイミングで賦与された撥水性を低下することができることが示された。
その結果、シクロヘキサン、トルエン、食用サラダ油を加えた場合には、加えた液と改質米粉がなじみ、水相との界面に集まったが、水となじむことはなかった。
以下に、本発明の改質米粒粉砕物の調製方法を示す。
精米したコシヒカリの米粒1 kgに、50 gの水酸化カルシウム[原料に対して5%(w/w) 相当量、蒸留水に対して1.25%(w/v) 相当量]を懸濁した蒸留水4 Lを添加し、20℃で18時間放置した。
次に、米粒をざるにあげて、沈澱している水酸化カルシウムを分離し、さらに表面に付着した水酸化カルシウムを蒸留水ですすぎ、余剰の水酸化カルシウムを除去した。得られた米粒をバットに広げて水分含量30%程度になるまで室温で風乾し、試験用粉砕器で粉砕した。得られた粉砕物をバットに広げ、水分含量が14%程度になるまで室温で風乾し、改質米粒粉砕物とした。
比較用の米粒粉砕物として、コシヒカリ米粒1 kgに蒸留水4 Lを添加し、20℃前後で18時間放置した後に米粒をざるにあげ、蒸留水ですすぎ、水分含量30%程度になるまで風乾し、試験用粉砕器で粉砕し、さらに水分含量14%程度になるまで風乾したものを用いた。
小麦粉として中力粉(日清中力粉)300 gに、蒸留水145 mLに食塩15 gを溶かして作製した食塩水を加え、家庭用パン捏ね機で15分間混捏し、30分間寝かせてうどん生地とした。パスタマシンを用いて圧延、裁断し、打ち粉を振って生めんとした。
また、このときの打ち粉の付着の様子として、本発明の改質米粒粉砕物は生地上に薄く均一に広がっており、比較用の米粒粉砕物は生地上にダマになって付着しているところがあった。一方、生地同士の付着は、本発明の改質米粒粉砕物と比較用の米粒粉砕物とで大きな違いは見られなかった。
精米したコシヒカリの米粒1 kgに、50 gの水酸化カルシウム[原料に対して5%(w/w) 相当量、蒸留水に対して1.25%(w/v) 相当量]を懸濁した蒸留水4 Lを添加し、20℃で18時間放置した。
次に、米粒をざるにあげて、沈澱している水酸化カルシウムを分離し、さらに表面に付着した水酸化カルシウムを蒸留水ですすぎ、余剰の水酸化カルシウムを除去した。得られた米粒をバットに広げて水分含量30%程度になるまで室温で風乾し、試験用粉砕器で粉砕した。得られた粉砕物をバットに広げ、水分含量が14%程度になるまで室温で風乾し、改質米粒粉砕物とした。
比較用の米粒粉砕物として、コシヒカリ米粒1 kgに蒸留水4 Lを添加し、20℃前後で18時間放置した後に米粒をざるにあげ、蒸留水ですすぎ、水分含量30%程度になるまで風乾し、試験用粉砕器で粉砕し、さらに水分含量14%程度になるまで風乾したものを用いた。
木綿豆腐を3×4×1 cm程度の大きさに切り、軽く水気を取った。豆腐に揚げ衣として上記本発明の改質米粒粉砕物又は比較用の米粒粉砕物をまぶした。各粉砕物をバットに広げ、豆腐をその上において押しつけ、余分な粉砕物は軽くはたいて落とした。これを170℃に熱した揚げ油に投入し、3分間加熱した。
比較用の米粒粉砕物をまぶした豆腐は、豆腐から水分が抜け、油揚げのような食感になっていた。一方、本発明の改質米粒粉砕物をまぶした豆腐は、3分間揚げても豆腐の水分が抜けずに、噛むと豆腐から水分がしみ出した。
精米したコシヒカリの米粒1 kgに、50 gの水酸化カルシウム[原料に対して5%(w/w) 相当量、蒸留水に対して1.25%(w/v) 相当量]を懸濁した蒸留水4 Lを添加し、20℃で18時間放置した。
次に、米粒をざるにあげて、沈澱している水酸化カルシウムを分離し、さらに表面に付着した水酸化カルシウムを蒸留水ですすぎ、余剰の水酸化カルシウムを除去した。得られた米粒をバットに広げて水分含量30%程度になるまで室温で風乾し、試験用粉砕器で粉砕した。得られた粉砕物をバットに広げ、水分含量が14%程度になるまで室温で風乾し、本発明の改質米粒粉砕物とした。
比較用の米粒粉砕物として、コシヒカリ米粒1 kgに蒸留水4 Lを添加し、20℃前後で18時間放置した後に米粒をざるにあげ、蒸留水ですすぎ、水分含量30%程度になるまで風乾し、試験用粉砕器で粉砕し、さらに水分含量14%程度になるまで風乾したものを用いた。
ボウルに室温にした無塩バター40 gを電動ミキサーで90秒撹拌し、上白糖30 gを加え、さらにミキサーで90秒撹拌した。よく撹拌してストレーナーで漉した鶏卵30 gを加え、60秒撹拌した。これに、本発明の改質米粒粉砕物又は比較用の米粒粉砕物を加え、手でこねて一つにまとめ、ラップに包んで4℃の冷蔵庫で30分寝かせた。生地の上下をラップではさみ、厚さ0.4 cm程度にのばし、直径3 cmの丸い抜き型で抜き、オーブンシートを敷いた天板に並べた。200 ℃に熱した電気オーブンで13分間焼成した。
本発明の改質米粒粉砕物を用いたクッキーは、比較用の米粒粉砕物を用いたものと比べてさくさく感が強く、さらに色づきが濃かった。
精米したコシヒカリの米粒1 kgに、50 gの水酸化カルシウム[原料に対して5%(w/w) 相当量、蒸留水に対して1.25%(w/v) 相当量]を懸濁した蒸留水4 Lを添加し、20℃で18時間放置した。
次に、米粒をざるにあげて、沈澱している水酸化カルシウムを分離し、さらに表面に付着した水酸化カルシウムを蒸留水ですすぎ、余剰の水酸化カルシウムを除去した。得られた米粒をバットに広げて水分含量30%程度になるまで室温で風乾し、試験用粉砕器で粉砕した。得られた粉砕物をバットに広げ、水分含量が14%程度になるまで室温で風乾し、本発明の改質米粒粉砕物とした。
比較用の米粒粉砕物として、コシヒカリ米粒1 kgに蒸留水4 Lを添加し、20℃前後で18時間放置した後に米粒をざるにあげ、蒸留水ですすぎ、水分含量30%程度になるまで風乾し、試験用粉砕器で粉砕し、さらに水分含量14%程度になるまで風乾したものを用いた。
本発明の改質米粒粉砕物を用いた揚げ菓子は、比較用の米粒粉砕物を用いたものと比べて色づきが濃く、膨らみが小さく、噛み応えがあった。
精米したコシヒカリの米粒1 kgに、50 gの水酸化カルシウム[原料に対して5%(w/w) 相当量、蒸留水に対して1.25%(w/v) 相当量]を懸濁した蒸留水4 Lを添加し、20℃で18時間放置した。
次に、米粒をざるにあげて沈澱している水酸化カルシウムを分離し、さらに表面に付着した水酸化カルシウムを蒸留水ですすぎ、余剰の水酸化カルシウムを除去した。得られた米粒をバットに広げて水分含量30%程度になるまで室温で風乾し、試験用粉砕器で粉砕した。得られた粉砕物をバットに広げ、水分含量が14%程度になるまで室温で風乾し、本発明の改質米粒粉砕物とした。
比較用の米粒粉砕物として、コシヒカリ米粒1 kgに蒸留水4 Lを添加し、20℃前後で18時間放置した後に米粒をざるにあげ、蒸留水ですすぎ、水分含量30%程度になるまで風乾し、試験用粉砕器で粉砕し、さらに水分含量14%程度になるまで風乾したものを用いた。
比較用の米粒粉砕物を用いた天ぷら衣は、サツマイモから大きく離れることなかったが、本発明の改質米粒粉砕物を用いた天ぷら衣は、サツマイモから浮き上がり、衣とサツマイモの間に空間ができてふくれた天ぷらとなった。
[実施例6;ポップコーンとしての評価]
ポップコーン用のトウモロコシ粒100 gを、5 gの水酸化カルシウム[原料に対して5%(w/w) 相当量、蒸留水に対して1.25%(w/v) 相当量]を懸濁した蒸留水400 mLに入れ、20℃で18時間放置した。
次に、トウモロコシをざるにあげ、沈澱している水酸化カルシウムを分離し、さらに表面に付着した水酸化カルシウムを蒸留水ですすぎ、余剰の水酸化カルシウムを除去した。得られたトウモロコシ粒をバットに広げて水分含量15%程度になるまで室温で風乾し、本発明の改質トウモロコシ粒を得た。比較用のトウモロコシ粒として、蒸留水400 mLに入れ、20℃で18時間放置した後に水を切り、水分含量15%程度になるまで室温で風乾したものを用いた。
本発明の改質トウモロコシ粒から作ったポップコーンは、比較用のトウモロコシ粒のものより香ばしい香りがあったが、食感は両者でほぼ同等であった。
Claims (13)
- 穀皮を除去した状態の穀粒そのもの、外皮又は胚芽の少なくとも一部を除去した穀粒、及び、穀粒破砕物のいずれか一種以上を原料として用い、この穀粒又は穀粒破砕物からなる原料を水酸化カルシウムと水とを主成分とする溶液又は懸濁液と接触処理する工程;前記接触処理後の原料を前記溶液又は懸濁液から分離処理する工程;前記分離処理後の原料を乾燥処理する工程;さらに必要に応じて、前記乾燥処理工程により得られた改質穀粒又は改質穀粒破砕物を破砕処理する工程;を行うことを特徴とする、撥水性を賦与した改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
- 前記「穀粒」或いは前記「穀粒破砕物」における「穀粒」が、コメ粒、コムギ粒、トウモロコシ粒、オオムギ粒、エンバク粒、ライムギ粒、キビ粒、アワ粒、ヒエ粒、ソバ粒、及びアマランサス粒のうち少なくとも一種類である、請求項1に記載の改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
- 前記「水酸化カルシウムと水を主成分とする溶液又は懸濁液」が、水に対する水酸化カルシウムの存在比が0.025%(w/v)以上のものであり、かつ穀粒又は穀粒破砕物に対する水酸化カルシウムの存在比が0.1%(w/w)以上のものである、請求項1又は2に記載の改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
- 前記「接触処理する工程」が、温度0℃以上であり、かつ穀粒又は穀粒破砕物を構成する澱粉の糊化温度未満の温度範囲内で、1分間以上の時間接触させるものである、請求項1〜3のいずれかに記載の改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
- 前記「溶液又は懸濁液から分離処理する工程」が、接触工程後の穀粒又は穀粒破砕物と;溶液又は懸濁液の主成分である水酸化カルシウム水溶液、未溶解の水酸化カルシウム粒子及び遊離成分とを;両者のサイズ差又は比重差により分離回収するものである、請求項1〜4のいずれかに記載の改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
- 前記「溶液又は懸濁液から分離処理する工程」として、接触処理後の穀粒又は穀粒破砕物と;溶液又は懸濁液の主成分である水酸化カルシウム水溶液、未溶解の水酸化カルシウム粒子及び遊離成分とを;両者のサイズ差又は比重差により分離回収した後、得られた穀粒又は穀粒破砕物を洗浄する操作を行うものである、請求項1〜5のいずれかに記載の改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
- 前記「乾燥処理する工程」が、前記「乾燥処理後の穀粒又は穀粒破砕物」を、水分含量30%以下まで乾燥するものである、請求項1〜6のいずれかに記載の改質穀粒又は改質穀粒破砕物の製造法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の製造法により得られた、撥水性を賦与された改質穀粒又は改質穀粒破砕物。
- 吸水特性又は消化特性のいずれか一つ以上が改変され、かつカルシウム量が増強されている、請求項8に記載の撥水性を賦与された改質穀粒又は改質穀粒破砕物。
- 請求項8又は9に記載の撥水性を賦与された改質穀粒又は改質穀粒破砕物を、酸、キレート剤、エタノール又はアセトンを用いて処理し、任意のタイミングで撥水性を低下させることを特徴とする改質穀粒又は改質穀粒破砕物の構造制御方法。
- 請求項8に記載の撥水性を賦与された改質穀粒破砕物を用いた打ち粉。
- 請求項8に記載の撥水性を賦与された改質穀粒破砕物を用いた揚げ衣。
- 穀皮を除去した状態の穀粒そのもの、外皮又は胚芽の少なくとも一部を除去した穀粒、及び、穀粒破砕物のいずれか一種以上を原料として用い、この穀粒又は穀粒破砕物からなる原料を水酸化カルシウムと水とを主成分とする溶液又は懸濁液に接触処理する工程;前記接触処理後の原料を前記溶液又は懸濁液から分離処理する工程;前記分離処理後の原料を乾燥処理する工程;を行うことを特徴とする、穀粒又は穀粒破砕物について撥水性を賦与する方法。
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INTERNATIONAL JOURNAL OF FOOD SCIENCE AND TECHNOLOGY, vol. 49, no. 2, JPN6017042569, 7 September 2013 (2013-09-07), pages 578 - 586, ISSN: 0003675863 * |
JOURNAL OF FOOD ENGNEERING, vol. 67, JPN6018018214, 2005, pages 451 - 456, ISSN: 0003798536 * |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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CN115368122A (zh) * | 2022-09-16 | 2022-11-22 | 深圳市吉迩科技有限公司 | 一种改性硅藻土多孔陶瓷浆料及陶瓷粉体 |
CN115368122B (zh) * | 2022-09-16 | 2023-10-03 | 深圳市吉迩科技有限公司 | 一种改性硅藻土多孔陶瓷浆料及陶瓷粉体 |
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JP6423157B2 (ja) | 2018-11-14 |
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