JP2015139868A - 高硬度鋼の切削加工ですぐれた耐チッピング性を長期に亘って発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

高硬度鋼の切削加工ですぐれた耐チッピング性を長期に亘って発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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Abstract

【課題】高硬度鋼の切削加工において、すぐれた耐チッピング性を発揮する被覆cBN基焼結工具を提供する。【解決手段】 被覆cBN基焼結工具において、(a)焼結体全体に占めるcBN粒子の含有割合は40〜70容量%であり、(b)cBN粒子は、粒径が2μm未満のものと2〜4μmのものとが混在し、その容量比が、1:9〜5:5であり、(c)cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力が−2.0GPaを超え0GPa以下の範囲内、かつ、硬質被覆層の総括的な残留応力が−4.5〜−0.5GPaの範囲内であり、(d)硬質被覆層は、全層厚が1.3〜4.0μmであり、TiAlNからなる第一層とTiAlSiNからなる第二層で構成され、第一層と第二層の厚さとの比は、1:3〜1:5である被覆cBN基焼結工具。【選択図】図1

Description

本発明は、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性とともに、すぐれた密着性を具備し、したがって、合金鋼の焼入れ材などの高硬度鋼で広範な切削条件での切削加工に用いた場合にも、すぐれた耐摩耗性を発揮し、長期の切削に亘ってすぐれた切削性能を維持することができる、立方晶窒化硼素基超高圧焼結材料(以下、cBN基焼結材料という)で構成された工具基体の表面に硬質被覆層を形成した表面被覆立方晶窒化硼素基超高圧焼結材料製切削工具(以下、被覆cBN基焼結工具という)に関するものである。
一般に、被覆cBN基焼結工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるインサートや、前記インサートを着脱自在に取り付けて、面削加工や溝加工、さらに肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うインサート式エンドミルなどが知られている。
また、被覆cBN基焼結工具としては、各種のcBN基焼結材料で構成された工具基体(以下、cBN基体という)の表面に、Ti窒化物(TiN)層、TiとAlの複合窒化物((Ti,Al)N)層などの表面被覆層を蒸着形成してなる被覆cBN基焼結工具が知られており、これらが、例えば、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工に用いられていることも知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
また、(Ti,Al)(C,N)層にSiを微量含有させた炭窒化物は、硬度が高く、しかも、酸化開始温度も高くなること、さらに、その組成が(Ti1−x−yAlSi)(C1−z)で示される化学式において0.05≦x≦0.75,0.01≦y≦0.10,0.6≦z≦1を満足する場合は、高硬度で耐酸化性の良好な硬質皮膜となり、すぐれた耐摩耗性を発揮することも知られている(例えば、特許文献3参照)。
さらに、cBN基焼結材料からなる工具基体表面に、硬質被覆層を蒸着形成した被覆cBN基焼結工具であって、工具基体と硬質被覆層との界面における工具基体及び硬質被覆層の残留応力値が、それぞれが−2GPa以下の残留応力であり、かつ、両者の残留応力の差が0.5GPa以下であり、好ましくは、硬質被覆層中の残留応力の値が、硬質被覆層の表面に向かって絶対値で次第に小さくなる残留応力分布を形成することにより、長時間断続切削を行った場合でも、優れた耐チッピング性を示すことも知られている。(例えば、特許文献4参照)。
特開平7−300649号公報 特開平8−119774号公報 特許2793773号公報 特開2011−83865号公報
近年の切削加工装置の自動化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は、通常の切削条件と比べて、より広範な切削条件下での切削加工が要求される傾向にあるが、前記被覆cBN基焼結工具においては、各種の鋼や鋳鉄を通常条件下で切削加工した場合に特段の問題は生じない。しかし、これを、合金鋼の焼入れ材などのビッカース硬さ(Cスケール)50以上の高い硬さを有する高硬度鋼で広範な条件での切削に用いた場合、標準条件と異なる切削条件で切刃部に発生する高熱により、切刃の刃先の境界部分にはチッピングや欠損を生じ、この結果として、長期に亘ってすぐれた切削性能を維持することは困難となり、比較的短時間で使用寿命に至る場合があるのが現状である。
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、合金鋼の焼入れ材などの高硬度鋼で広範な条件での切削加工に用いた場合にも、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮し、長期の切削に亘ってすぐれた切削性能を維持することができる被覆cBN基焼結工具を提供することである。
そこで、本発明者等は、前述のような観点から、特に合金鋼の焼入れ材などの高硬度鋼で広範な条件での連続切削加工(以下、単に「切削加工」という)で、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆cBN基焼結工具を開発すべく研究を行った結果、
(a) 硬質被覆層を構成するTiとAlの複合窒化物([Ti1−xAl]N)層は、Alの含有割合x(原子比)の値が、0.40〜0.70の範囲内において所定の耐熱性、高温硬さおよび高温強度を有し、通常の切削加工条件下において必要とされる耐摩耗性は具備しているが、切刃部にきわめて大きな発熱を伴い、TiとAlの複合窒化物([Ti1−xAl]N)層からなる硬質被覆層は高温強度が不足するために、切刃の境界部分に境界異常損傷が生じ、そして、これが原因となり切削性能を長時間維持することができず、比較的短時間で使用寿命に達してしまうこと。
(b)一方、TiとAlとSiの複合窒化物([Ti1−y−zAlSi]N)層は、Alの含有割合y(原子比)の値が、0.45〜0.65の範囲内、Siの含有割合z(原子比)の値が、0.01〜0.10の範囲内において、所定の耐熱性、高温硬さおよび高温強度を有し、通常の切削加工条件下において必要とされる耐摩耗性は具備しているが、切刃部にきわめて大きな発熱を伴い、TiとAlとSiの複合窒化物([Ti1−y−zAlSi]N)層からなる硬質被覆層はcBN基体との密着力が劣るために、切刃の境界部分に境界異常損傷が生じ、そして、これが原因となり切削性能を長時間維持することができず、比較的短時間で使用寿命に達してしまうこと。
(c)TiとAlの複合窒化物([Ti1−xAl]N)層と[Ti1−y−zAlSi]N)層との積層構造とすることによって、前述したようなそれぞれの層が有する作用が相乗的に作用するとともに、一方の層が持つ欠点に対して、他方の層が持つ利点が補完的に作用する結果、硬質被覆層全体としての耐摩耗性が向上すること。
(d)また、cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力および硬質被覆層の総括的な残留応力を制御することにより、耐チッピング性を向上させるとともに、切削時の耐摩耗性を向上することができること。
本発明は、前述した(a)〜(d)に示される研究結果に基づいてなされたものであって、
「 硬質相成分として、少なくとも立方晶窒化硼素粒子を含有する焼結体を工具基体とし該工具基体に硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)前記焼結体全体を100容量%とした時の立方晶窒化硼素粒子の含有割合が、40〜70容量%であり、
(b)前記立方晶窒化硼素粒子は、粒径が2μm未満のものと2〜4μmのものとが混在し、その容量比が、1:9〜5:5であり、
(c)前記工具基体のバインダー中のTiN相の残留応力が−2.0GPaを超え0GPa以下の範囲内、かつ、硬質被覆層の総括的な残留応力が−4.5〜−0.5GPaの範囲内であり、
(d)前記硬質被覆層は、全層厚が1.3〜4.0μmであり、工具基体側から、
第一層:Ti1−xAlN(xは原子比で、0.40≦x≦0.70)、
第二層:Ti1−y−zAlSiN(yおよびzは、それぞれ原子比で、0.45≦y≦0.65、0.01≦z≦0.10)の皮膜の積層構造を有するとともに第一層の厚さと第二層の厚さとの比が、1:3〜1:5であることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、本発明の被覆cBN基焼結工具において、これを構成するcBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力および硬質被覆層の総括的な残留応力、硬質被覆層の組成、層厚等について説明する。
(a)cBN基体中のcBN粒子の含有割合:
cBN基体中のcBN成分は、きわめて硬質で、cBN基焼結材料中で分散相を形成して、耐摩耗性の向上が図れるが、cBN基体全体に対する含有割合が40容量%未満では、cBN基体中に存在する硬質物質が少なく、所望の耐摩耗性を確保することができない。一方、70容量%を超えると、cBN基体自体の焼結性が低下し、cBN基体中にクラックの起点となる空隙が生成し、耐欠損性が低下する。そのため、本発明が奏する効果をより一層発揮するためには、cBN基体全体に占めるcBN粒子の含有割合は、40〜70容量%の範囲とすることが好ましい。
ここで、cBN基体に占めるcBN粒子の含有割合(容量%)は、cBN基体の断面組織をSEM(Scanning Electron Microscopy)によって15μm×15μm程度の視野領域で観察し、得られた二次電子像内のcBN粒子の部分を画像処理によって抜き出し、画像解析によってcBN粒子が占める面積を算出し、この面積割合をcBN粒子の含有割合(容量%)とした。
(b)cBN基体中のcBN粒子の粒径:
本発明におけるcBN粒子は、粒径が2μm未満のものと2〜4μmのものとが混在しており、両者の容量比が、1:9〜5:5であることを特徴としている。
その理由は、粒径が2〜4μmのcBN粒子のみがcBN基体中に存在する場合、硬さが大きく、かつ、比較的サイズが大きいために、切削加工時のcBN基体の耐摩耗性が発揮されるが、cBN粒子の脱落が発生しやすく、そのため耐欠損性が劣る。また、粒径が2μm未満のcBN粒子のみがcBN基体中に存在する場合、切削加工時にcBN粒子の脱落は発生しにくくなり耐欠損性は発揮されるものの、耐摩耗特性が劣る。そこで、粒径が2μm未満と2〜4μmのcBN粒子が混在することで切削加工時のcBN基体の耐摩耗性及び耐欠損性の欠点を補完しあい、発現されることを見出した。本発明は、cBN工具基体を構成するcBN粒子の粒径を制御することにより、最も切削性能の向上に寄与するcBN粒径の分布割合を幾つもの試験結果に基づき導出したところ、粒径が2μm未満のcBN粒子と2〜4μmのcBN粒子との混在比は、1:9〜5:5であると定めた。
(c)cBN基体のバインダー中のTiN相および硬質被覆層の総括的な残留応力:
図1に示すように、本発明では、cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力は−2.0GPaを超え0GPa以下の範囲内と定めている。
cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力が0GPaを超える場合(即ち、引張残留応力側になった場合)には、切削が進行し硬質被覆層が摩耗により消失し、クレーター部でcBN基体が露出した後、クレーター部のcBN基体の摩耗進行が早くなり、切削加工が進行した際のすくい面側から観察した逃げ面とホーニング面の稜線部の形態が先細りするまでの時間が短い。そのため、稜線部が切削加工時の負荷に耐えられなくなり、欠損に至る時間が短くなることから、cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力は0GPa以下の範囲(即ち、圧縮残留応力の範囲)とする。
cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力が−2.0GPa以下となった場合には、切削が進行し硬質被覆層が摩耗により消失し、cBN基体が露出した後、逃げ面のcBN基体が切削加工によりチッピングを起こしやすくなる。そのため、切削加工が進行した際のすくい面側から観察した逃げ面とホーニング面の稜線部の形態において、逃げ面でチッピングした部位で先細りが顕著になる。そのため、稜線部が切削加工時の負荷に耐えられなくなり、欠損に至る時間が短くなることから、cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力は−2.0GPaを超える範囲とする。
以上のことから、本発明では、cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力について、−2.0GPaを超え0GPa以下の範囲とする。
cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力の測定は、以下のようにして行うことができる。
成膜前の前処理後のcBN基体について、X線回折装置により回折ピークを求め、sinΨ法によって、残留応力を測定する。
測定には、Cr管球にて、cBN基体の逃げ面のバインダー中のTiN相成分に起因する(220)面の回折ピークを用い、ヤング率として、429GPa、ポアソン比として0.19を使用して、cBN基体表面と平行な方向の残留応力値を計算により求める。
これにより、前処理する前のcBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力を基準とした、成膜前の前処理後のTiN相の残留応力を求めることができる。
硬質被覆層の総括的な残留応力:
図1に示すように、本発明では、硬質被覆層の総括的な残留応力は−4.5〜−0.5GPaの範囲内と定めている。
硬質被覆層の統括的な残留応力が、−0.5GPaを超えるような場合には、硬質被覆層の硬さが低く、耐摩耗性が悪くなり、一方、−4.5GPa未満であると、刃先稜線部上の硬質被覆層は、切削加工時の負荷に対する感受性が高く、切削初期においてチッピングを生じやすいことから、硬質被覆層の統括的な残留応力は、−4.5〜−0.5GPaの範囲内の残留応力に定めた。
なお、残留応力については、引張残留応力をプラスで表現し、圧縮残留応力をマイナスで表現している。
硬質被覆層の総括的な残留応力の測定は、以下のようにして行うことができる。
X線回折装置によって、成膜後の被覆cBN基焼結工具について回折ピークを求めようとした場合、第一層に起因する回折ピークと第二層に起因する回折ピークとを分離することは困難であるから、第一層因の回折ピークと第二層起因の回折ピークを一つの回折ピークとみなして、sinΨ法を用い残留応力を測定した数値をもって、硬質被覆層の総括的な残留応力とした。
測定には、Cr管球にて第一層及び第二層の(220)面の回折ピークを用い、ヤング率として、530GPa、ポアソン比として0.2を使用して、cBN基体表面と平行な方向の残留応力値を計算により求める。
これにより、成膜前の前処理後のcBN基体中のTiN相の残留応力を基準とした、第一層および第二層の硬質被覆層の総括的な残留応力を求めることができる。
(d)硬質被覆層の第一層、第二層:
硬質被覆層の第一層を構成するTiとAlの複合窒化物([Ti1−xAl]N)層におけるTi成分は高温強度の維持、Al成分は高温硬さと耐熱性の向上に寄与することから、硬質被覆層の第一層を構成するTiとAlの複合窒化物([Ti1−xAl]N)層は、所定の高温強度、高温硬さおよび耐熱性を具備する層であって、焼入れ鋼等の高硬度鋼の切削加工時における基体と被覆層との密着性および切刃部の耐摩耗性を確保する役割を基本的に担う。ただ、Alの含有割合xが70原子%を超えると第一層の高温硬さと耐熱性は向上するものの、Ti含有割合の相対的な減少によって、立方晶単相から立方晶と六方晶の混相となり、硬さが低下するため、耐摩耗性が低下しやすくなり、一方、Alの含有割合xが40原子%未満になると、高温での耐酸化性が低下し、その結果、耐チッピング性の低下がみられるようになることから、Alの含有割合xの値を0.40〜0.70と定めた。
硬質被覆層の第二層を構成するTiとAlとSiの複合窒化物([Ti1−y−zAlSi]N)層におけるTi成分は高温強度の維持、Al成分は高温硬さと耐熱性の向上、Si成分は靭性の向上に寄与することから、硬質被覆層の第二層を構成するTiとAlとSiの複合窒化物([Ti1−y−zAlSi]N)層は、第一層を構成する([Ti1−xAl]N)層よりも優れた高温強度、高温硬さ、耐熱性および靭性を具備する層であって、焼入れ鋼等の高硬度鋼の切削加工時における切刃部の第一層を構成する([Ti1−xAl]N)層よりも優れた耐摩耗性を確保する役割を基本的に担う。ただ、Alの含有割合yが65原子%を超えると第二層の高温硬さと耐熱性は向上するものの、Tiの含有割合の相対的な減少によって、高温強度が低下しチッピングを発生しやすくなり、一方、Alの含有割合yが45原子%未満になると、高温硬さと耐熱性が低下し、その結果、耐摩耗性の低下がみられるようになることから、Alの含有割合yの値を0.45〜0.65と定めた。また、Siの含有割合zが10原子%を超えると第二層の硬さは向上するものの、Alの含有割合およびTiの含有割合の相対的な減少によって、高温強度が低下し、チッピングを発生しやすくなる。一方、Siの含有割合zが1原子%未満になると、硬さと耐熱性が低下し、その結果、耐摩耗性の低下がみられるようになることから、Siの含有割合zの値を0.01〜0.10と定めた。
また、第一層および第二層の合計層厚が1.3μm未満である場合、切削加工において硬質被覆層が摩耗により消失する時間が速く、耐摩耗性が確保できない。第一層および第二層の合計層厚が4.0μmを超える場合、硬質被覆層が自己破壊に至る、あるいは、切削加工においてチッピングが発生しやすくなる。そのため、第一層および第二層の合計層厚を1.3〜4.0μmと定めた。
また、第一層の層厚に対する第二層の層厚が3未満である場合、主に耐摩耗性を確保する役割を担う第二層の層厚が薄いことにより、長時間の切削加工における耐摩耗性が確保できず、早期に寿命に至る。第一層の層厚に対する第二層の層厚が5を超える場合、主にcBN基体との密着性を確保する役割を担う第一層の層厚が薄いことにより、切削加工において耐剥離性が劣り、早期に寿命に至る。そのため、第一層の厚さと第二層の厚さとの比が、1:3〜1:5と定めた。
本発明の被覆cBN基焼結工具は、cBN基体中のcBN粒子の粒径が2μm未満のものと2〜4μmのものとが混在し、また、cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力と硬質被覆層の総括的な残留応力とを適正範囲に維持し、さらに、硬質被覆層を第一層と第二層との積層構造とすることによって、特に合金鋼の焼入れ材などの高硬度鋼で広範な条件での切削加工に用いた場合において、硬質被覆層にチッピング、欠損、剥離等の異常損傷の発生はなく、長期に亘って、すぐれた耐摩耗性を発揮するのである。
本発明の一つの実施態様における被覆cBN基焼結工具の縦断面模式図である。 被覆cBN基焼結工具を構成する硬質被覆層を形成するのに用いたアークイオンプレーティング装置の概略図を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。
つぎに、本発明の被覆cBN基焼結工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、2μm未満の粒径を有する立方晶窒化硼素(以下、微粒cBNという)粉末および2〜4μmの粒径を有する立方晶窒化硼素(以下、粗粒cBNという)粉末、ならびに、いずれも0.5〜4μmの範囲の平均粒径を有する窒化チタン(TiN)粉末、Al粉末、酸化アルミニウム(Al)粉末を用意し、これら原料粉末を表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで80時間湿式混合し、乾燥した後、120MPaの圧力で直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法をもった圧粉体にプレス成形し、ついでこの圧粉体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、900〜1300℃の範囲内の所定温度に60分間保持の条件で焼結して切刃片用予備焼結体とし、この予備焼結体を、別途用意した、Co:8質量%、WC:残りの組成、並びに直径:50mm×厚さ:2mmの寸法をもったWC基超硬合金製支持片と重ね合わせた状態で、通常の超高圧焼結装置に装入し、通常の条件である圧力:5GPa、温度:1200〜1400℃の範囲内の所定温度に保持時間:0.8時間の条件で超高圧焼結し、焼結後上下面をダイヤモンド砥石を用いて研磨し、ワイヤー放電加工装置にて一辺3mmの正三角形状に分割し、さらにCo:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびISO規格CNGA120408の形状(厚さ:4.76mm×一辺長さ:12.7mmの正三角形)をもったWC基超硬合金製チップ本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Cu:26%、Ti:5%、Ni:2.5%、Ag:残りからなる組成を有するAg合金のろう材を用いてろう付けし、所定寸法に外周加工した後、切刃部にチャンファーホーニング幅:0.13mm、チャンファーホーニング角度:25°、コーナーR:15μmのホーニング加工を施し、さらに仕上げ研摩を施すことによりISO規格CNGA120408のインサート形状をもったcBN基体A〜Hをそれぞれ製造した。
なお、cBN基体F〜Hは、後述する比較例のcBN基体である。
(a)ついで、成膜前の前処理として、前記cBN基体A〜Eのそれぞれに対して、表2の条件a〜dに示すメディア、噴射角度、噴射圧力、噴射時間でブラスト処理を施す。(ただし、表2の条件aはブラスト無し)
(b)ついで、前記cBN基体A〜Eのそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図2に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部に沿って装着し、一方側のカソード電極(蒸発源)として、また、他方側のカソード電極(蒸発源)として、それぞれ表3に示される目標組成に対応した成分組成を有する第一層形成用TiAl合金ターゲットと第二層形成用TiAlSi合金ターゲットを、回転テーブルを挟んで対向配置し、
(c)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、Arガス圧力:0.5〜1.0Paの雰囲気とすると共に、タングステンフィラメントに電流50〜60Aの条件下で1分のボンバード処理を3回繰り返す。ボンバード処理の間はタングステンフィラメントに電流を流さない時間を1分設定する事で、ろう材が溶融することを防止する。これらの処理により、cBN基体表面に不可避的に付着している有機物等の汚染物を除去する。
(d)次いで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2〜6Paの範囲内の所定の反応雰囲気とすると共に、回転テーブル上で自転しながら回転するcBN基体に−50〜−100Vの範囲内の所定の直流バイアス電圧を印加し、かつ第一層形成用Ti−Al合金ターゲットとアノード電極との間に100〜150Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、cBN基体の表面に、表3に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層を硬質被覆層の第一層として蒸着形成し、
(e)ついで装置内に導入する反応ガスとしての窒素ガスの流量を調整して6〜10Paの範囲内の所定の反応雰囲気とすると共に、回転テーブル上で自転しながら回転するcBN基体に−10〜−100Vの範囲内の所定の直流バイアス電圧を印加した状態で、第二層形成用Ti−Al−Si合金ターゲットのカソード電極とアノード電極との間に50〜150Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、cBN基体の表面に所定層厚の第二層を形成し、もってcBN基体の表面に、層厚方向に沿って表3に示される目標組成および目標層厚の第一層と第二層の積層からなる硬質被覆層を同じく表3に示される合計層厚(平均層厚)で蒸着形成することにより、本発明被覆cBN基焼結工具(以下、「本発明被覆工具」という)1〜10をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、成膜前の前処理として、前記cBN基体A〜Eのそれぞれに対して、表2の条件a〜gに示すメディア、噴射角度、噴射圧力、噴射時間でブラスト処理を施し(ただし、表2の条件aはブラスト無し)、前記(b)〜(e)と同様の方法を用いて、cBN基体の表面に、層厚方向に沿って表4に示される目標組成および目標層厚の第一層と第二層の積層からなる硬質被覆層を同じく表4に示される合計層厚(平均層厚)で蒸着形成することにより、比較例被覆cBN基焼結工具(以下、「比較例被覆工具」という)1〜10をそれぞれ製造した。ただし、比較例被覆工具9は、(Ti,Al)N層は無く、(Ti,Al,Si)N層のみの単層の硬質被覆層である。
さらに、比較の目的で、成膜前の前処理として、前記cBN基体F、G、Hのそれぞれに対して、表2の条件a、b、eに示すメディア、噴射角度、噴射圧力、噴射時間でブラスト処理を施し(ただし、表2の条件aはブラスト無し)、前記(b)〜(e)と同様の方法を用いて、cBN基体の表面に、層厚方向に沿って表4に示される目標組成および目標層厚の第一層と第二層の積層からなる硬質被覆層を同じく表4に示される合計層厚(平均層厚)で蒸着形成することにより、比較例被覆工具11〜13をそれぞれ製造した。
さらに、硬質被覆層について、その組成を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてのエネルギー分散型X線分析法(EDS)により測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示し、また、その平均層厚を走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
なお、上記で作製した本発明被覆工具1〜10および比較例被覆工具1〜13のcBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力を知るために、前記(a)のブラスト処理を施したcBN基体について、X線回折装置により回折ピークを求め、sinΨ法によって、残留応力を測定した。測定には、Cr管球にて、cBN基体の逃げ面のバインダー中のTiN相成分に起因する(220)面の回折ピークを用い、ヤング率として、429GPa、ポアソン比として0.19を使用して、cBN基体表面と平行な方向の残留応力値を計算により求めた。
これにより、前記(a)のブラスト処理を施す前のcBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力を基準とした、cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力を求めた。
表3、表4にこれらの値を示す。
さらに、本発明被覆工具1〜10および比較例被覆工具1〜13の硬質被覆層について、sinΨ法を用い、X線回折装置によって逃げ面上における総括的な残留応力の値を測定した。第一層:Ti1−xAlN(0.40≦x≦0.70)および第二層:Ti1−y−zAlSiN(0.45≦y≦0.65、0.01≦z≦0.10)はいずれも立方晶構造であることを確認した。また、X線回折装置により得られる第一層起因、第二層起因の回折ピークの位置は同等で分離が困難であることから、第一層および第二層の二つのピークを一つのピークとみなしてsinΨ法を用いて、残留応力を測定した数値をもって、硬質被覆層の総括的な残留応力とした。測定には、Cr管球にてTi1−xAlNおよびTi1−y−zAlSiNの(220)面の回折ピークを用い、ヤング率として530GPa、ポアソン比として0.2を使用して、cBN基体表面と平行な方向の残留応力値を計算により求めた。ただし、比較例被覆工具9は、(Ti,Al,Si)N層のみの残留応力測定結果である。
表3、表4にこれらの値を示す。
つぎに、前記各種の被覆cBN基焼結工具を、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具1〜10および比較例被覆工具1〜13について、以下に示す切削条件A、Bで切削試験を実施した。
[切削条件A]
被削材:JIS・SCM415の浸炭焼入れ材(硬さ:HRC61)の丸棒、
切削速度: 180 m/min.、
切り込み: 0.2 mm、
送り: 0.15 mm/rev.、
切削時間: 15 分、
の条件での合金鋼の乾式連続切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)、
[切削条件B]
被削材:JIS・SCr420の浸炭焼入れ材(硬さ:HRC60)の丸棒、
切削速度: 250 m/min.、
切り込み: 0.2 mm、
送り: 0.1 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件での合金鋼の乾式連続切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅(mm)を測定した。
表5に、測定結果を示す。

表3、表5に示される結果から、本発明被覆工具は、いずれも硬質被覆層が、全層厚がそれぞれ1.3〜4.0μmで、第一層と第二層との厚さの比が、1:3〜1:5である第一層:Ti1−xAlN(0.40≦x≦0.70)と第二層:Ti1−y−zAlSiN(0.45≦y≦0.65、0.01≦z≦0.10)の積層構造を有し、第一層がすぐれた耐熱性、高温強度とすぐれた高温硬さを備え、さらに、第二層がすぐれた耐熱性、高温硬さとより一段とすぐれた高温強度と耐衝撃強さを備えているとともに、cBN基体のバインダー中のTiN相に適切な残留応力が付与され、さらに、硬質被覆層全体としても、総括的な残留応力として適切な残留応力が付与されていることから、高硬度鋼の切削加工でも、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷を発生することなく、すぐれた耐摩耗性を発揮する。
これに対して、表4、表5に示される結果から、cBN基体、硬質被覆層が本発明のような条件を備えていない比較例被覆工具は、チッピング、欠損、剥離等が発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
本発明の被覆cBN基焼結工具は、各種の鋼や鋳鉄などの通常の切削条件での切削加工は勿論のこと、特に合金鋼の焼入れ材等のような高硬度鋼の、高熱発生を伴い切刃部にきわめて大きな機械的負荷が加わる切削条件であっても、すぐれた耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性をも示すものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。



Claims (1)

  1. 硬質相成分として、少なくとも立方晶窒化硼素粒子を含有する焼結体を工具基体とし該工具基体に硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
    (a)前記焼結体全体を100容量%とした時の立方晶窒化硼素粒子の含有割合が、40〜70容量%であり、
    (b)前記立方晶窒化硼素粒子は、粒径が2μm未満のものと2〜4μmのものとが混在し、その容量比が、1:9〜5:5であり、
    (c)前記工具基体のバインダー中のTiN相の残留応力が−2.0GPaを超え0GPa以下の範囲内、かつ、硬質被覆層の総括的な残留応力が−4.5〜−0.5GPaの範囲内であり、
    (d)前記硬質被覆層は、全層厚が1.3〜4.0μmであり、工具基体側から、
    第一層:Ti1−xAlN(xは原子比で、0.40≦x≦0.70)、
    第二層:Ti1−y−zAlSiN(yおよびzは、それぞれ原子比で、0.45≦y≦0.65、0.01≦z≦0.10)の皮膜の積層構造を有するとともに第一層の厚さと第二層の厚さとの比が、1:3〜1:5であることを特徴とする表面被覆切削工具。



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