JP2015139868A - 高硬度鋼の切削加工ですぐれた耐チッピング性を長期に亘って発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
Description
(a) 硬質被覆層を構成するTiとAlの複合窒化物([Ti1−xAlx]N)層は、Alの含有割合x(原子比)の値が、0.40〜0.70の範囲内において所定の耐熱性、高温硬さおよび高温強度を有し、通常の切削加工条件下において必要とされる耐摩耗性は具備しているが、切刃部にきわめて大きな発熱を伴い、TiとAlの複合窒化物([Ti1−xAlx]N)層からなる硬質被覆層は高温強度が不足するために、切刃の境界部分に境界異常損傷が生じ、そして、これが原因となり切削性能を長時間維持することができず、比較的短時間で使用寿命に達してしまうこと。
「 硬質相成分として、少なくとも立方晶窒化硼素粒子を含有する焼結体を工具基体とし該工具基体に硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)前記焼結体全体を100容量%とした時の立方晶窒化硼素粒子の含有割合が、40〜70容量%であり、
(b)前記立方晶窒化硼素粒子は、粒径が2μm未満のものと2〜4μmのものとが混在し、その容量比が、1:9〜5:5であり、
(c)前記工具基体のバインダー中のTiN相の残留応力が−2.0GPaを超え0GPa以下の範囲内、かつ、硬質被覆層の総括的な残留応力が−4.5〜−0.5GPaの範囲内であり、
(d)前記硬質被覆層は、全層厚が1.3〜4.0μmであり、工具基体側から、
第一層:Ti1−xAlxN(xは原子比で、0.40≦x≦0.70)、
第二層:Ti1−y−zAlySizN(yおよびzは、それぞれ原子比で、0.45≦y≦0.65、0.01≦z≦0.10)の皮膜の積層構造を有するとともに第一層の厚さと第二層の厚さとの比が、1:3〜1:5であることを特徴とする表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
cBN基体中のcBN成分は、きわめて硬質で、cBN基焼結材料中で分散相を形成して、耐摩耗性の向上が図れるが、cBN基体全体に対する含有割合が40容量%未満では、cBN基体中に存在する硬質物質が少なく、所望の耐摩耗性を確保することができない。一方、70容量%を超えると、cBN基体自体の焼結性が低下し、cBN基体中にクラックの起点となる空隙が生成し、耐欠損性が低下する。そのため、本発明が奏する効果をより一層発揮するためには、cBN基体全体に占めるcBN粒子の含有割合は、40〜70容量%の範囲とすることが好ましい。
ここで、cBN基体に占めるcBN粒子の含有割合(容量%)は、cBN基体の断面組織をSEM(Scanning Electron Microscopy)によって15μm×15μm程度の視野領域で観察し、得られた二次電子像内のcBN粒子の部分を画像処理によって抜き出し、画像解析によってcBN粒子が占める面積を算出し、この面積割合をcBN粒子の含有割合(容量%)とした。
本発明におけるcBN粒子は、粒径が2μm未満のものと2〜4μmのものとが混在しており、両者の容量比が、1:9〜5:5であることを特徴としている。
その理由は、粒径が2〜4μmのcBN粒子のみがcBN基体中に存在する場合、硬さが大きく、かつ、比較的サイズが大きいために、切削加工時のcBN基体の耐摩耗性が発揮されるが、cBN粒子の脱落が発生しやすく、そのため耐欠損性が劣る。また、粒径が2μm未満のcBN粒子のみがcBN基体中に存在する場合、切削加工時にcBN粒子の脱落は発生しにくくなり耐欠損性は発揮されるものの、耐摩耗特性が劣る。そこで、粒径が2μm未満と2〜4μmのcBN粒子が混在することで切削加工時のcBN基体の耐摩耗性及び耐欠損性の欠点を補完しあい、発現されることを見出した。本発明は、cBN工具基体を構成するcBN粒子の粒径を制御することにより、最も切削性能の向上に寄与するcBN粒径の分布割合を幾つもの試験結果に基づき導出したところ、粒径が2μm未満のcBN粒子と2〜4μmのcBN粒子との混在比は、1:9〜5:5であると定めた。
図1に示すように、本発明では、cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力は−2.0GPaを超え0GPa以下の範囲内と定めている。
cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力が0GPaを超える場合(即ち、引張残留応力側になった場合)には、切削が進行し硬質被覆層が摩耗により消失し、クレーター部でcBN基体が露出した後、クレーター部のcBN基体の摩耗進行が早くなり、切削加工が進行した際のすくい面側から観察した逃げ面とホーニング面の稜線部の形態が先細りするまでの時間が短い。そのため、稜線部が切削加工時の負荷に耐えられなくなり、欠損に至る時間が短くなることから、cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力は0GPa以下の範囲(即ち、圧縮残留応力の範囲)とする。
以上のことから、本発明では、cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力について、−2.0GPaを超え0GPa以下の範囲とする。
成膜前の前処理後のcBN基体について、X線回折装置により回折ピークを求め、sin2Ψ法によって、残留応力を測定する。
測定には、Cr管球にて、cBN基体の逃げ面のバインダー中のTiN相成分に起因する(220)面の回折ピークを用い、ヤング率として、429GPa、ポアソン比として0.19を使用して、cBN基体表面と平行な方向の残留応力値を計算により求める。
これにより、前処理する前のcBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力を基準とした、成膜前の前処理後のTiN相の残留応力を求めることができる。
図1に示すように、本発明では、硬質被覆層の総括的な残留応力は−4.5〜−0.5GPaの範囲内と定めている。
硬質被覆層の統括的な残留応力が、−0.5GPaを超えるような場合には、硬質被覆層の硬さが低く、耐摩耗性が悪くなり、一方、−4.5GPa未満であると、刃先稜線部上の硬質被覆層は、切削加工時の負荷に対する感受性が高く、切削初期においてチッピングを生じやすいことから、硬質被覆層の統括的な残留応力は、−4.5〜−0.5GPaの範囲内の残留応力に定めた。
なお、残留応力については、引張残留応力をプラスで表現し、圧縮残留応力をマイナスで表現している。
X線回折装置によって、成膜後の被覆cBN基焼結工具について回折ピークを求めようとした場合、第一層に起因する回折ピークと第二層に起因する回折ピークとを分離することは困難であるから、第一層因の回折ピークと第二層起因の回折ピークを一つの回折ピークとみなして、sin2Ψ法を用い残留応力を測定した数値をもって、硬質被覆層の総括的な残留応力とした。
測定には、Cr管球にて第一層及び第二層の(220)面の回折ピークを用い、ヤング率として、530GPa、ポアソン比として0.2を使用して、cBN基体表面と平行な方向の残留応力値を計算により求める。
これにより、成膜前の前処理後のcBN基体中のTiN相の残留応力を基準とした、第一層および第二層の硬質被覆層の総括的な残留応力を求めることができる。
硬質被覆層の第一層を構成するTiとAlの複合窒化物([Ti1−xAlx]N)層におけるTi成分は高温強度の維持、Al成分は高温硬さと耐熱性の向上に寄与することから、硬質被覆層の第一層を構成するTiとAlの複合窒化物([Ti1−xAlx]N)層は、所定の高温強度、高温硬さおよび耐熱性を具備する層であって、焼入れ鋼等の高硬度鋼の切削加工時における基体と被覆層との密着性および切刃部の耐摩耗性を確保する役割を基本的に担う。ただ、Alの含有割合xが70原子%を超えると第一層の高温硬さと耐熱性は向上するものの、Ti含有割合の相対的な減少によって、立方晶単相から立方晶と六方晶の混相となり、硬さが低下するため、耐摩耗性が低下しやすくなり、一方、Alの含有割合xが40原子%未満になると、高温での耐酸化性が低下し、その結果、耐チッピング性の低下がみられるようになることから、Alの含有割合xの値を0.40〜0.70と定めた。
また、第一層および第二層の合計層厚が1.3μm未満である場合、切削加工において硬質被覆層が摩耗により消失する時間が速く、耐摩耗性が確保できない。第一層および第二層の合計層厚が4.0μmを超える場合、硬質被覆層が自己破壊に至る、あるいは、切削加工においてチッピングが発生しやすくなる。そのため、第一層および第二層の合計層厚を1.3〜4.0μmと定めた。
また、第一層の層厚に対する第二層の層厚が3未満である場合、主に耐摩耗性を確保する役割を担う第二層の層厚が薄いことにより、長時間の切削加工における耐摩耗性が確保できず、早期に寿命に至る。第一層の層厚に対する第二層の層厚が5を超える場合、主にcBN基体との密着性を確保する役割を担う第一層の層厚が薄いことにより、切削加工において耐剥離性が劣り、早期に寿命に至る。そのため、第一層の厚さと第二層の厚さとの比が、1:3〜1:5と定めた。
なお、cBN基体F〜Hは、後述する比較例のcBN基体である。
(b)ついで、前記cBN基体A〜Eのそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図2に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部に沿って装着し、一方側のカソード電極(蒸発源)として、また、他方側のカソード電極(蒸発源)として、それぞれ表3に示される目標組成に対応した成分組成を有する第一層形成用TiAl合金ターゲットと第二層形成用TiAlSi合金ターゲットを、回転テーブルを挟んで対向配置し、
(c)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、Arガス圧力:0.5〜1.0Paの雰囲気とすると共に、タングステンフィラメントに電流50〜60Aの条件下で1分のボンバード処理を3回繰り返す。ボンバード処理の間はタングステンフィラメントに電流を流さない時間を1分設定する事で、ろう材が溶融することを防止する。これらの処理により、cBN基体表面に不可避的に付着している有機物等の汚染物を除去する。
(d)次いで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2〜6Paの範囲内の所定の反応雰囲気とすると共に、回転テーブル上で自転しながら回転するcBN基体に−50〜−100Vの範囲内の所定の直流バイアス電圧を印加し、かつ第一層形成用Ti−Al合金ターゲットとアノード電極との間に100〜150Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、cBN基体の表面に、表3に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層を硬質被覆層の第一層として蒸着形成し、
(e)ついで装置内に導入する反応ガスとしての窒素ガスの流量を調整して6〜10Paの範囲内の所定の反応雰囲気とすると共に、回転テーブル上で自転しながら回転するcBN基体に−10〜−100Vの範囲内の所定の直流バイアス電圧を印加した状態で、第二層形成用Ti−Al−Si合金ターゲットのカソード電極とアノード電極との間に50〜150Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、cBN基体の表面に所定層厚の第二層を形成し、もってcBN基体の表面に、層厚方向に沿って表3に示される目標組成および目標層厚の第一層と第二層の積層からなる硬質被覆層を同じく表3に示される合計層厚(平均層厚)で蒸着形成することにより、本発明被覆cBN基焼結工具(以下、「本発明被覆工具」という)1〜10をそれぞれ製造した。
これにより、前記(a)のブラスト処理を施す前のcBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力を基準とした、cBN基体のバインダー中のTiN相の残留応力を求めた。
表3、表4にこれらの値を示す。
表3、表4にこれらの値を示す。
[切削条件A]
被削材:JIS・SCM415の浸炭焼入れ材(硬さ:HRC61)の丸棒、
切削速度: 180 m/min.、
切り込み: 0.2 mm、
送り: 0.15 mm/rev.、
切削時間: 15 分、
の条件での合金鋼の乾式連続切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)、
[切削条件B]
被削材:JIS・SCr420の浸炭焼入れ材(硬さ:HRC60)の丸棒、
切削速度: 250 m/min.、
切り込み: 0.2 mm、
送り: 0.1 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件での合金鋼の乾式連続切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅(mm)を測定した。
表5に、測定結果を示す。
これに対して、表4、表5に示される結果から、cBN基体、硬質被覆層が本発明のような条件を備えていない比較例被覆工具は、チッピング、欠損、剥離等が発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (1)
- 硬質相成分として、少なくとも立方晶窒化硼素粒子を含有する焼結体を工具基体とし該工具基体に硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)前記焼結体全体を100容量%とした時の立方晶窒化硼素粒子の含有割合が、40〜70容量%であり、
(b)前記立方晶窒化硼素粒子は、粒径が2μm未満のものと2〜4μmのものとが混在し、その容量比が、1:9〜5:5であり、
(c)前記工具基体のバインダー中のTiN相の残留応力が−2.0GPaを超え0GPa以下の範囲内、かつ、硬質被覆層の総括的な残留応力が−4.5〜−0.5GPaの範囲内であり、
(d)前記硬質被覆層は、全層厚が1.3〜4.0μmであり、工具基体側から、
第一層:Ti1−xAlxN(xは原子比で、0.40≦x≦0.70)、
第二層:Ti1−y−zAlySizN(yおよびzは、それぞれ原子比で、0.45≦y≦0.65、0.01≦z≦0.10)の皮膜の積層構造を有するとともに第一層の厚さと第二層の厚さとの比が、1:3〜1:5であることを特徴とする表面被覆切削工具。
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