JP2015137384A - 金属皮膜およびその成膜方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】基材との密着性を高めつつ、その被削性をも高めることができる金属皮膜およびその成膜方法を提供する。【解決手段】銅粉末および錫粉末を混合した混合粉末pを、コールドスプレー法により基材11表面に吹き付けて、銅および錫からなる気孔を有した金属皮膜12を前記基材表面に成膜する工程と、前記銅と錫とを合金化することにより前記金属皮膜の気孔率が増加するように、前記金属皮膜を不活性ガス雰囲気下で加熱する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。【選択図】図1

Description

コールドスプレー法で金属粉末を基材表面に吹き付けることにより、基材表面に成膜した金属被膜およびその成膜方法に関する。
従来から、コールドスプレー法と呼ばれる方法を用いて、固相状態の金属粉末をガス圧縮と共に基材表面に吹き付けて、前記金属粉末の組成を含む金属被膜を成膜する金属被膜の成膜方法が提案されている。
このような成膜方法として、たとえば特許文献1には、スプレーノズルから2種以上の金属の粉末を含む皮膜材料を当該皮膜材料の融点温度未満の作動ガスと共に基材に向けて噴射して、基材に皮膜材料の皮膜を成膜する成膜方法が提案されている。
ここでは、粉末を構成する金属として、アルミニウム,ニッケル,チタン,鉄,銅,錫,鉛,コバルト,クロム,シリコン,マグネシウム,金,銀,白金,パラジウム,亜鉛,これらの合金の何れかから2以上の金属粉末選択し、これらの金属粉末の粒子同士を密着させた複合化粉末を製造し、これを用いて金属皮膜を成膜する。
さらに、成膜された金属皮膜に熱処理を行うことにより、2種以上の金属の化合物化または合金化を行う。このような結果、熱処理後に形成される金属皮膜は、皮膜組織に欠陥が多く発生したり、未反応部分が生じたりする事態が防止され、均質な化合物皮膜が形成される。
特開2011−208166号公報
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、緻密な金属皮膜を成膜することを前提としてコールドスプレー後に熱処理を行っているが、例えば被削性の高い多孔質皮膜を成膜しようとした場合、コールドスプレーのスプレー圧を下げたり、金属粉末を構成する凹凸により凹凸の多いものを用いたりするなどして、成膜しなければならなかった。
このような成膜方法で成膜された多孔質皮膜は基材との密着性が十分に得られるものではなく、多孔質皮膜の気孔率をさらに高めることは難しい場合があった。
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とすることころは、基材との密着性を高めつつ、その被削性をも高めることができる金属皮膜およびその成膜方法を提供することにある。
前記課題を鑑みて、発明者らは鋭意検討を重ねた結果、所定の異なる2種の金属を密着させると、原子の相互拡散が起こり(カーケンドル効果)、相互拡散の不均衡(拡散係数の差)により発生した原子空孔(格子欠陥)が消滅することなく集積し、これによりカーケンダルボイドが生成されることに着眼した。そこで、発明者らは、成膜した金属皮膜に対してカーケンダルボイドを積極的に生成させれば金属皮膜の多孔性を高めることができると考えた。
ここで、金属皮膜の気孔率を高めることができる金属の組み合わせとしては、例えば、AlとCu、CuとZn、CuとFe,AlとTi,AlとFe,CuとSnなどを挙げることができるが、発明者らは、特にこのなかでも、銅(Cu)と錫(Sn)の2つの金属の組み合わせが、より効果的に多孔性を高めることができるとの知見を得た。
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、本発明に係る銅粉末および錫粉末を混合した混合粉末を、コールドスプレー法により基材表面に吹き付けて、銅および錫からなる気孔を有した金属皮膜を前記基材表面に成膜する工程と、前記銅と錫とを合金化することにより前記金属皮膜の気孔率が増加するように、前記金属皮膜を不活性ガス雰囲気下で加熱する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
本発明によれば、コールドスプレー法により、銅粉末および錫粉末を混合した混合粉末を基材表面に吹き付けて、銅および錫からなる金属皮膜を成膜する。この際、基材の表面に成膜された金属皮膜は僅かに気孔を有している。そこで、本発明では、金属皮膜を不活性ガス雰囲気下で加熱することにより、金属皮膜中の銅と錫とが相互拡散して合金化する。この際に、上述したカーケンダルボイドが、金属皮膜の気孔の周り集積し、金属皮膜の気孔率が増加させることができる。
このようにして、コールドスプレー時に、金属皮膜の気孔率を高めるように、減圧して混合粉末を吹き付けたり、デントライト状などの特殊な粒子形状の粉末を用いたりしなくても、金属皮膜を所定の条件で加熱することにより、気孔率の高い多孔質皮膜とすることができる。このような結果、基材との密着性を高めつつ、気孔率が高まることにより被削性を高めた金属皮膜を得ることができる。
ここで、本発明にいう銅と錫とを合金化することにより金属皮膜の気孔率が増加するための加熱条件は、上述したカーケンダルボイドが生成され、たとえ銅と錫の合金が溶融したとしてもカーケンダルボイドを完全に閉塞しない(すなわちコールドスプレー時に生成された気孔率よりも高い気孔率となる)条件であれば特に限定されない。すなわち、金属皮膜を加熱時に、金属皮膜の一部が溶融したとしても、その気孔を塞ぐ等により、気孔率を減少させなければよい。
しかしながら、より好ましい態様としては、前記金属皮膜の加熱を、520℃未満で行う。ここで、520℃は、銅−錫合金(CuSn)の共晶温度であり、この温度未満で加熱することができるのであれば、銅、錫、さらには銅−錫合金(CuSn)が溶融することがない。したがって、銅と錫とを合金化することにより気孔率が増加した金属皮膜が溶融することがないので、増加した気孔率を維持することができる。
さらに好ましい態様としては、前記銅粉末と前記錫粉末との総量に対する前記銅粉末の割合を27〜87質量%にした前記混合粉末を用い、前記金属皮膜を加熱する工程において、銅−錫合金の針状組織が形成されるように、前記金属皮膜の加熱を行う。
この態様によれば、錫リッチの層(錫粒子)に銅が拡散することにより金属間化合物が生成され、錫リッチの層に銅−錫合金(CuSn)の針状組織(針状晶)が成長し、金属皮膜にこの組織を形成することができる。
さらに、銅と錫の合金化が進むと、拡散により針状晶の周りの錫が減少し、針状晶の周囲に空隙が形成される。これにより、針状組織を骨格とした多孔質の金属皮膜が形成される。本実施形態では、銅粉末と錫粉末とを上述した割合で混合したので、銅−錫合金の針状組織が形成され易い。ここで、銅粉末の割合が上述した割合が上述した範囲を外れた場合には、銅−錫合金の針状組織が形成され難いことがある。
さらに好ましい態様としては、前記混合粉末に、銅−錫合金よりも硬質のセラミック粉末をさらに混合した粉末を用いる。この態様によれば、セラミック粉末をさらに添加することにより、成膜された金属皮膜中に銅−錫合金よりも硬質のセラミック粒子が介在することになる。これにより、金属皮膜を切削または研削する際の削り粉が、セラミック粉末を添加していない場合よりも、より細かなものとなり、金属皮膜の快削性を高めることができる。さらに、このようなセラミック粒子により、工具に削り粉が付着し難くなるため、焼付き防止の効果も期待できる。
さらに本発明として、錫および銅からなる金属皮膜も開示する。本発明に係る金属皮膜は、銅−錫合金の針状組織を骨格とした多孔状の皮膜であり、前記金属皮膜の気孔率は、13〜37体積%であることを特徴とする。
本発明に係る金属皮膜は、このような銅−錫合金の針状組織を形成する(骨格とする)ことにより多孔状の皮膜となっている。これにより皮膜の骨格である針状組織は脆く壊れやすく、金属皮膜の被削性(アブレーダブル性)をより一層高めることができる。さらに、気孔率を13〜37体積%とすることにより、金属皮膜の被削性を高めることができる。すなわち、気孔率が13体積%未満の場合には、金属皮膜の被削性が低下することがあり、37体積%を超えるような針状組織を骨格とした多孔質皮膜を成膜することは難しい。
さらに、好ましい態様としては、前記金属皮膜には、銅−錫合金よりも硬質のセラミック粒子がさらに分散している。この態様によれば、金属皮膜中へのセラミック粒子の介在により、金属皮膜を切削または研削する際の削り粉がより細かなものとなり、金属皮膜の快削性を高めることができる。さらに、セラミック粒子により、工具に削り粉が付着し難くなるため、焼付き防止の効果も期待できる。
本発明によれば、基材との密着性を高めつつ、その被削性をも高めることができる金属皮膜を得ることができる。
本実施形態に係る成膜方法を説明するための図であり、(a)は、本実施形態に係る成膜工程を説明するための図であり、(b)は、本実施形態に係る加熱工程を説明するための図。 実施例2および比較例2〜5に係る金属皮膜の密着強度を示した図。 (a)は、比較例5に係る金属皮膜の表面の写真図であり、(b)は、実施例2に係る金属皮膜の表面の写真。 実施例3〜7、比較例6、7、9〜11、参考例に係る金属皮膜の気孔率と、摩擦摩耗試験前後の金属皮膜の重量変化を示した図。 実施例3、比較例10、比較例11に係る金属皮膜の写真を2値化したものであり、(a)は、比較例10に係る金属皮膜の写真であり、(b)は、比較例11に係る金属皮膜の写真であり、(c)は、実施例3に係る金属皮膜の写真。 (a)〜(c)は、実施例5に係る金属皮膜の針状組織の写真。
以下に、本発明に係る成膜方法の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る成膜方法を説明するための図であり、(a)は、本実施形態に係る成膜工程を説明するための図であり、(b)は、本実施形態に係る加熱工程を説明するための図である。
本実施形態に金属皮膜12は、アルミニウム製の基材11の表面に、固相状態の銅粉末および錫粉末を混合した混合粉末pを付着させ堆積させた金属被膜12であって、銅および錫の一部が合金化した多孔質皮膜12である。銅−錫合金の一部が針状組織を成しており、金属皮膜12は、針状組織を骨格とした多孔状の皮膜となっており、金属皮膜12の気孔率は、13〜37体積%となっている。
このような金属皮膜12は、図1に示すような成膜装置20を用いて製造することができる。成膜装置20は、圧縮ガス供給手段21と、銅及び錫を混合した粉末供給手段22と、ノズル23と、ノズル移動手段24と、を少なくとも備えている。
圧縮ガス供給手段21は、圧縮ガスを後述するノズル23に供給するため手段であって、圧縮ガスの圧力を調整する圧力調整弁21aを介してノズル23に接続されている。圧縮ガス手段21は、エア、不活性ガス等が充填されたボンベ、大気を圧縮するコンプレッサなどを挙げることができ、0.4〜1.0MPaの圧力条件の圧縮ガスをノズル23に供給できるものが好ましい。これは、0.4MPa未満であれば、被膜が形成され難く、1.0MPaよりも大きい場合には、耐圧性を有した成膜設備を要する。
また、圧縮ガス供給手段21の下流には、圧縮ガスを加熱するための加熱手段21bがさらに配設されている。加熱手段21bにより圧縮ガスを加熱し、所望の温度条件で後述する混合粉末pを基材11に吹き付けることができる。なお、加熱手段21bは、混合粉末pを圧縮ガスにより間接的に加熱するためものであり、圧縮ガス供給手段21の内部に配置されていてもよく、後述するヒータ23aにより混合粉末を所望の温度に加熱することができるのであれば、特に必要なものではない。
粉末供給手段22は、基材11に吹き付ける混合粉末がホッパー22aに収容されており、混合粉末pを所定の供給量でノズル23に供給可能なように、ノズル23に接続されている。混合粉末供給手段22に収容する混合粉末pは、上述した如く、銅粉末および錫粉末を混合した混合粉末である。銅粉末および錫粉末は、ガスアトマイズ粉末、水アトマイズ粉末などの一般的な粉末であり、金属皮膜12の密着性を確保することができるのであれば、その形態は特に限定されるものではない。
ノズル23は、ノズル移動手段24に接続されおり、ノズル移動手段24を駆動させることにより、ノズル23を、所定のルートに移動させることができる。ノズル23の内部には、供給された混合粉末pを加熱するためのヒータ23aが設けられている。
該装置20を用いて、以下の方法により熱伝導性部材を製造する。本実施形態では、まず、矩形の開口部26aを有したマスキング板26の下方に基材11を配置する。なお、基材11の表面の矩形状の成膜予定領域11aに相当する面積の開口部26aが形成されている。そして、吹き付け方向dにおいて、開口部26aと基材11の成膜予定領域11aが一致するように、基材11を配置する。
次に、圧力調整弁21aにより圧縮ガスを1.0MPa以下に圧力調整すると共に、加熱手段21bにより所定の温度に加熱し、ノズル23に供給する。一方、混合粉末を粉末供給手段22のホッパー22aに収容し、粉末供給手段22からノズル23に、混合粉末を供給する。ここで圧縮ガスを加熱手段21bで加熱するとともに、ノズル23内のヒータ23aにより、混合粉末の加熱し、混合粉末の温度調整を行う。
そして、ノズル23を所定の移動方向に移動させながら、基材11の成膜領域に混合粉末を吹き付けて、金属皮膜12の成膜を行う。このような状態で、ノズル23を介して、圧縮ガスと共に固相状態の銅粉末および錫粉末が混合した混合粉末pを基材11の表面に吹き付けて、金属皮膜12を基材11の表面に成膜する。
ここで、混合粉末に、銅−錫合金よりも硬質のセラミック粉末をさらに混合した粉末を用いてもよい。このようなセラミック粉末としては、例えば酸化物系セラミック、炭化物系セラミック、窒化物系セラミックなどを挙げることができる。セラミック粉末をさらに添加することにより、成膜された金属皮膜中にセラミック粒子が介在し、金属皮膜を切削または研削する際の削り粉が、セラミック粉末を添加していない場合よりも、より細かなものとなり、金属皮膜の快削性を高めることができる。さらに、セラミック粒子により、工具に削り粉が付着し難くなるため、焼付き防止の効果も期待できる。
次に、図1(b)に示すように、基材11の表面に成膜された金属皮膜12を不活性ガス雰囲気下で加熱する。具体的には、本実施形態では、金属皮膜の加熱を、520℃未満で行う。これにより、銅と錫とを合金化することにより、金属皮膜12にカーケンダルボイドを集積させ、金属皮膜の気孔率を増加させることができる。
すなわち、本実施形態では、コールドスプレー法により、基材11に対して密着性を十分に確保できるような圧力で、気孔を有した金属皮膜12を成膜し、金属皮膜12中の銅と錫とを合金化することにより金属皮膜の気孔率が増加するように、金属皮膜12を不活性ガス雰囲気下で加熱する。
本実施形態では、金属皮膜を不活性ガス雰囲気下で加熱する際に、上述した銅および錫を520℃未満で相互拡散させるため、銅と錫とが合金化し、銅−錫合金(CuSn)が溶融することがないので、成膜された金属皮膜の気孔率が増加する。
ここで、銅粉末と錫粉末との総量に対する錫粉末の割合を27〜87質量%にした混合粉末pを用い、金属皮膜12を加熱する工程において、銅−錫合金の針状組織が形成されるように、金属皮膜12の加熱を行う。
発明者らは、後述する実験により、金属皮膜の気孔率が13体積%以上となるとき、針状組織が形成され易いことを発見した。すなわち、このような気孔率の範囲となるように、銅と錫が合金化すると、銅−錫合金の針状組織が形成され易いことを発見した。
ここで、銅の密度が8.98g/cm、錫の密度が5.77g/cm、銅−錫合金(CuSn)の密度が11.3g/cmであり、金属皮膜全体に対して錫が多い場合には、以下の表1に示すように、それぞれの混合割合を算出することができる。
Figure 2015137384
一方、金属皮膜全体に対して銅が多い場合には、以下の表2に示すように、それぞれの混合割合を算出することができる。
Figure 2015137384
表1および表2に示す結果から、銅粉末と錫粉末との総量に対する銅粉末の割合を27〜87質量%にした混合粉末を用いれば、金属皮膜を熱処理することで針状組織が形成され易くなる。
さらに、表3に示すように、全ての銅粉末と錫粉末が合金化した場合には、金属皮膜の気孔率は、35体積%となり、熱処理前の金属皮膜の空孔を想定する(気孔率が2体積%)と、最大で37体積%の気孔率を得ることができるといえる。
Figure 2015137384
このように成膜された錫および銅からなる金属皮膜12は、銅−錫合金の針状組織を骨格とすることにより多孔状の皮膜となっている。これにより皮膜の骨格である針状組織は脆く壊れやすく、金属皮膜の被削性(アブレーダブル性)をより一層高めることができる。さらに、気孔率が、13〜37体積%とすることにより、金属皮膜の被削性を高めることができる。すなわち、気孔率が13体積%未満の場合には、金属皮膜の被削性が低下することがあり、37体積%を超えるような針状組織を骨格とした多孔質皮膜を成膜することは難しい。このようにして、本実施形態に係る金属皮膜は、アブレーダブル皮膜(自己摩耗型衝撃緩衝皮膜)として好適に用いることができる。
以下に本発明の実施例を示す。
(実施例1)
大きさ60mm×60mm×厚さ5mmのアルミニウム合金(JIS規格:AC4D−T6)の表面に、平均粒径20μmの球状の銅粉末と、平均粒径20μmの球状の錫粉末と、体積比(Cu:Sn)=5:1、質量比で銅粉末が88.6質量%となるように、混合粉末を作製し、ガス圧力1MPa、ガス温度500℃に圧縮したガスを粉末供給力20g/分で供給し、コールドスプレー法により金属皮膜を成膜した。成膜した金属皮膜を、窒素雰囲気下で、500℃、1時間で加熱した。得られた金属皮膜の熱処理前の膜密度、熱処理後の金属皮膜の気孔率を算出した。この結果を表1に示す。気功率は金属皮膜のみを切出して,アルキメデス法にて算出した。
(比較例1)
実施例1と同じように、金属皮膜を成膜した。実施例1と相違する点は、コールドスプレー法により成膜後に、金属皮膜を加熱していない点である。得られた金属皮膜の熱処理前の膜密度、熱処理後の金属皮膜の気孔率を算出した。
Figure 2015137384
(結果1および考察1)
表4に示すように、実施例1の如く、成膜した金属皮膜を、窒素雰囲気下で、500℃、1時間で加熱した場合には、金属皮膜の気孔率が増加している。これは、銅と錫の相互拡散により、これらが合金化し、カーケンダルボイドが生成されたことによると考えられる。実施例1の如く気孔率を増加させることにより、金属皮膜の被削性を高めることができる。
(実施例2)
実施例1と同じようにして、金属皮膜を成膜した。実施例1と相違する点は、体積比(Cu:Sn)=3:1、質量比で銅粉末が82.3質量%となるように、混合粉末を作製した点である。
(比較例2〜4)
実施例1と同じように、金属皮膜を成膜した。実施例1と相違する点は、比較例2〜4では混合粉末を用いずに、銅粉末を用いた点であり、比較例2に係る銅粉末には、球状のガスアトマイズで作製した銅粉末を用い、比較例3に係る銅粉末には、球状に近い形状の水アトマイズで作製した銅粉末を用い、比較例4に係る銅粉末には、樹枝状の電界分離法で作製した銅粉末を用い、成膜された金属粉末には熱処理を行っていない。
(比較例5)
実施例2と同じように、金属皮膜を成膜した。実施例2と相違する点は、コールドスプレー法により成膜後に、金属皮膜を加熱していない点である。
[密着強度試験]
実施例2および比較例2〜5に係る金属皮膜の熱処理前の膜密度、および熱処理後の気孔率を求め、さらに金属皮膜にピンを接合し、ピンを引っ張ることにより金属皮膜と基材との密着強度を測定した。この結果を、表5および図2に示す。なお、比較例4に係る金属皮膜は成膜後、基材から剥離をしたのでこの試験を行っていない。
さらに実施例2および比較例5に係る金属皮膜の表面を顕微鏡で観察した。この結果を図3(a),(b)に示す。図3(a)は、比較例5に係る金属皮膜の表面の写真であり、図3(b)は、実施例2に係る金属皮膜の表面の写真である。
Figure 2015137384
(結果2および考察2)
表5および図2に示すように、比較例2〜4の金属皮膜の密着強度の結果から、気孔率の増加に伴い密着強度は低下している。しかしながら、実施例2に係る金属皮膜の気孔率は、比較例5のものよりも増加しているが、実施例2に係る金属皮膜の密着強度は、比較例5の熱処理を行っていない金属皮膜と同等であった。
このように、実施例2の如く、熱処理により気孔率が20体積%に増加しても、金属皮膜の密着強度は確保されるといえる。すなわち、実施例2の結果から、コールドスプレー時の金属皮膜の密着強度を確保しておけば、熱処理後に金属皮膜の気孔率が増加しても、密着強度がほぼ維持されるといえる。
(実施例3〜7)
実施例1と同じようにして、金属皮膜を成膜した。実施例1と相違する点は、表6の体積比(質量比)となるように、混合粉末を作製した点である。実施例5〜7は同じ混合粉末を用いて、同じコールドスプレー条件にて試作した金属皮膜である。材料と成膜条件が同じであっても、金属皮膜の密度に差があったため、実施例5〜7に区別して評価を実施した。
(比較例6〜11)
実施例1と同じようにして、金属皮膜を成膜した。実施例1と相違する点は、表6の体積比(質量比)となるように、混合粉末を作製した点、および比較例6〜10に係る金属皮膜は熱処理を行っていない点である。なお、比較例11は、上述した実施例1と同じであり、本発明に含まれるものである。比較例6〜9は、上述した比較例2〜5と同じである。
[摩擦摩耗試験]
実施例3〜7および比較例6〜11に係る金属皮膜に対して、リングオンディスク摩耗試験を行った。具体的には、円筒状のインコネルからなるリング試験の端面を、各金属皮膜に荷重14kgf、回転数1000rpmで接触させて、5秒間回転、10秒間非回転を1サイクルとしてリング試験を回転させて、各金属皮膜の摩耗量(重量変化)を測定した。この結果を、図4に示す。なお、比較例8に係る金属皮膜は成膜後、基材から剥離をしたのでこの試験を行っていない。
また、参考例として、Ni50Cr−ベントナイト35体積%の金属皮膜をプラズマ溶射で作製した試験片の重量変化も合わせて、図4に示した。図4は、実施例3〜7、比較例6、7、9〜11、参考例に係る金属皮膜の気孔率と、摩擦摩耗試験前後の金属皮膜の重量変化を示した図である。なお、実施例3、5および比較例10、11では、金属皮膜を複数成膜して、摩擦摩耗試験を行った。
さらに、実施例3、比較例10、比較例11に係る金属皮膜を顕微鏡観察した。これらの結果を図5に示す。図5は、実施例3、比較例10、比較例11に係る金属皮膜の写真を2値化したものであり、(a)は、比較例10に係る金属皮膜の写真であり、(b)は、比較例11に係る金属皮膜の写真であり、(c)は、実施例3に係る金属皮膜の写真である。なお、図5(a)〜(c)に示す黒色部分は、空孔が含まれている部分である。
さらに、実施例5に係る金属皮膜の錫のみを薬液で溶解し、その表面の組織を顕微鏡で確認した。この結果を図6(a)〜(c)に示す。図6(a)〜(c)は、実施例5に係る金属皮膜の針状組織の写真である。
Figure 2015137384
(結果3および考察3)
表6、図5(b),(c)に示すように、金属皮膜の気孔率が増加するに従って、気孔が微細となり、気孔率が13%を超えた実施例3〜7に係る金属皮膜には、Cu−Sn合金からなる針状組織が観察された。図6(a)〜(c)に示すような針状組織は、短軸方向(針状組織の各針状部の太さ方向)のサイズは、500nm〜20μmであり、金属皮膜の気孔率が増加するに従ってより多く観察された。錫と銅の合金化の過程で、皮膜組織を繋ぐように銅−錫合金の針状組織が成長したと推測できる。
そして、図4に示すように、気孔率13体積%以上である実施例3〜7に係る金属皮膜は、摩擦摩耗試験の結果重量変化が大きく、被削性に優れている。これは、実施例3〜7に係る金属皮膜は、比較例6〜11よりも気孔率が高いという理由だけでなく、針状組織を骨格として金属皮膜が形成されていることにより、脆い皮膜構造となっているからであると考えられる。
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
本実施形態では、一定の割合で銅と錫の粉末を混合した混合粉末を用いたが、これらの混合比を成膜するに従って傾斜的に変更してもよい。

Claims (6)

  1. 銅粉末および錫粉末を混合した混合粉末を、コールドスプレー法により基材表面に吹き付けて、銅および錫からなる気孔を有した金属皮膜を前記基材表面に成膜する工程と、
    前記銅と錫とを合金化することにより前記金属皮膜の気孔率が増加するように、前記金属皮膜を不活性ガス雰囲気下で加熱する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする金属皮膜の成膜方法。
  2. 前記金属皮膜の加熱を、520℃未満で行うことを特徴とする請求項1の記載の金属皮膜の成膜方法。
  3. 前記銅粉末と錫粉末との総量に対する前記銅粉末の割合を27〜87質量%にした前記混合粉末を用い、前記金属皮膜を加熱する工程において、銅−錫合金の針状組織が形成されるように、前記金属皮膜の加熱を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の金属皮膜の成膜方法。
  4. 前記混合粉末に、銅−錫合金よりも硬質のセラミック粉末をさらに添加した粉末を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属皮膜の成膜方法。
  5. 錫および銅からなる金属皮膜であって、
    銅−錫合金の針状組織を骨格とした多孔状の皮膜であり、
    前記金属皮膜の気孔率は、13〜37体積%であることを特徴とする金属皮膜。
  6. 前記金属皮膜には、銅と錫の合金よりも硬質のセラミック粒子がさらに分散していることを特徴とする請求項5に記載の金属皮膜。
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