近年、LEDを用いた照明装置が実用化され、白熱電球や蛍光灯をはじめ、水銀灯やハロゲン灯にも置き換わりつつある。その理由は、低消費電力で同等輝度が得られ、地球温暖化の原因である二酸化炭素の排出量を大幅に削減できるエコ商品の切り札となるからである。例えば、60W級の白熱電球の同等輝度は、9WのLED電球で実現できている。このように、すべての照明がLED照明に代われば、二酸化炭素排出量の削減目標は容易に達成できるのであるが、これを阻んでいるのが、2つの照明装置の価格差がまだ大きいことである。ただ、寿命を考慮すれば、その価格差はかなり小さくなっているので、特殊な場所の照明は、それを交換する人件費も削減できることから、LED照明に置き換えられつつある。
ここで、店舗のダウンライトやスポット照明に使用されるハロゲン灯(ハロゲンランプとも記する)の色温度は、2700Kから3000K程度で、演色性はランプの中では、最も良く、色再現性が重要な場所では、この光源が用いられる。このハロゲン灯をLED電球で置き換える場合、前記の用途から、輝度と演色性とが課題になることが多い。
その内、輝度については、LED素子の発光効率が上がり、照明用LEDデバイス(照明用LED電子部品)の実力値で150lm/W(5000K)や100lm/W(3000K)に達しているので、問題はないように思われる。しかしながら、実際には、演色性を考慮に入れると、発光効率は低下する。例えば、色温度が3000Kの照明用LEDデバイスで、平均演色評価数Ra=80のデバイスは、発光効率が100lm/Wを可能であるが、Ra=85のデバイスは、80lm/Wと低くなる。つまり、演色性を良くすれば、発光効率は低下する。
ところで、LED素子を代表として、半導体発光素子を用いて、白色光を得る方法としては、第1ステップとしては、青色光で青色と補色の関係にある黄色の光を発するYAG系の蛍光体粉末を用い、前記半導体発光素子からの青色光に、YAG蛍光体で波長変換された黄色光を加算することで行われていた。しかしながら、このような方法で作られる疑似の白色光は、平均演色評価数Raの値が70台程度と低く、その照明で物の自然な色を再現するには無理があった。Raが低い原因は、光の赤成分が少ないためである。
そこで、第2ステップとして、LED素子の青色光で、光の3原色である緑色と赤色との光を発する2種類の蛍光体粉末が用いられるようになり、LED素子からの青色光と、その2種類の蛍光体からのブロードな光スペクトルを持つ緑色光および赤色光とによって、白色光を構成することが行われている。このような方法では、平均演色評価数Raの値は93と改善され、その照明による色再現性もかなり良くなっている。しかし、白色光としての明るさは、前述したように低下する。その原因は後述する。
そして将来、第3ステップとして、紫色光や紫外光を発する半導体発光素子の高輝度化が進めば、その紫色光や紫外光で光の3原色を発する3種の蛍光体粉末が用いられ、Raの値は、ハロゲンランプと同等の100になることが期待できる。現段階では、LED電球に用いられる照明用LEDデバイスは、前記第2ステップにあり、青色光を発光するLED素子と、その青色光で励起されて、ブロードな緑色光を発する緑色系蛍光体と、ブロードな赤色光を発する赤色系蛍光体とを備えて構成される。
ここで、光の明るさは、人間の視感度にも影響されるので、視感度を考慮した光束で表され、単位はlm(ルーメン)が用いられる。人間の視感度は、波長555nmの緑色系の光が最も高く、青色系や赤色系の光は低くなる。そのため、蛍光体による赤色系の光成分が多くなれば、ルーメン値は低くなる。演色性を良くするためには、一般的に、赤色系の光の中でも、長波の赤色光が必要で、その分(波長555nmから離れる程)、ルーメン値は低くなる。以上が、演色性を良くすると光束値が下がる第1の要因である。しかしながら、これ以外にも、重要な第2の要因があり、それを以下に記述する。
一般的に、緑色系蛍光体と赤色系蛍光体とは、上記のような所望とする色温度を再現できる配合比で混合されて利用される。このように緑色系蛍光体と赤色系蛍光体とを混合して使用する場合、蛍光体間で相互作用が生じる。これは、LED素子からの青色光で励起された緑色系蛍光体からはブロードな緑色光が発光されるが、その光の一部は、より変換波長の長い赤色系蛍光体の励起光にもなり得るためである。
したがって、緑色系蛍光体と赤色系蛍光体とを同じ量だけ混合した場合(混合比を1:1にした場合)は、緑色光成分は全く現れずに、赤色光成分だけが現れることになる。すなわち、緑色光の全てが、赤色系蛍光体に再吸収されて赤色光に変換されているのである。その結果、色温度は赤っぽく、色再現性も悪くなり、さらに光束値も小さくなっている。
この例から次の2つのことが理解できる。まず第1に、蛍光体を混合した場合には、LED素子が発する青色光から緑色系蛍光体によりブロードな緑色光に変換され、更にこの光が赤色系蛍光体によりブロードな赤色光に変換されるという2段階の変換を経由した光となるので、2段階の変換による損失が伴っている。すなわち、トータルとしての白色光の発光効率に、非常に大きな損失が発生する。第2に、緑色光成分の消失は、色温度の変化はもちろんであるが、平均演色評価数Raを大きく損なう。
ここで、ハロゲンランプを前記した第2ステップの照明用LEDデバイスで再現しようとする場合、3000K以下の色温度で、演色性がRa=90以上の値で、発光効率が100lm/Wのものが理想的である。これまでの照明用LEDデバイスは、上述のように、青色光を発光するLED素子に、色温度や演色性を再現するための蛍光体を混合して、LED素子の光取り出し面上に配置する構造が主であり、蛍光体間の相互作用までを考慮して、最適条件にした照明用LEDデバイスや、LED電球は存在していない。上記した理想的な照明用LEDデバイスを実現するためには、LED素子の発光効率や蛍光体粉末の変換効率(青色光で励起され固有の色の光を発する効率)の向上とともに、蛍光体間の相互作用を無くす照明用LEDデバイスの構造やLED電球の機構的な設計が重要である。
将来、紫LED素子や紫外LED素子の高輝度化および低コスト化が進み、蛍光体として青色系蛍光体が用いられるようになると、その青色系蛍光体、緑色系蛍光体、黄色系蛍光体、および赤色系蛍光体間の相互作用を、これまで以上に考慮する必要が生じる。
その相互作用を無くす1つの方法は、構造的に緑色系蛍光体の領域と赤色系蛍光体の領域とに分割して、LED素子の周りに配置すれば良い。このような例は、特許文献1や特許文献2に示されている。特許文献1の場合は、緑色系蛍光体の領域と赤色系蛍光体の領域とを分割して青色LED素子に配置する構造や、青色系蛍光体の領域と緑色系蛍光体の領域と赤色系蛍光体の領域とを分割して紫外LED素子に配置する構造が示されている。また特許文献2の場合も、青色系蛍光体の領域と緑色系蛍光体の領域と赤色系蛍光体の領域とを分割して紫外LED素子に配置する構造が示されている。
同様に、本願の発明者も、蛍光体間の相互作用を微小にする構造として、以下の発明を提案している。提案した発明は、青色光、紫色光、または紫外光を発する半導体発光素子と該半導体発光素子の光で励起されて固有の光を発する蛍光体からなる発光装置に関し、前記固有の光を発するために、青色系の光を発する青色系蛍光体、緑色系の光を発する緑色系蛍光体、黄色系の光を発する黄色系蛍光体、および、赤色系の光を発する赤色系蛍光体の中から、異なる発光色の蛍光体が2種類以上用い、前記2種類以上の蛍光体を互いに上下に重ならない状態で横方向に配置して、蛍光体間の相互作用を抑制した特定構造、すなわち蛍光体分離型構造である。
このように蛍光体間の相互作用が抑制された特定構造にすることで、演色性が良くて、高輝度な照明用LEDデバイスを実現することができる。ここで、特定構造とは、具体的には蛍光体分離型構造を示しており、異なる発光色の蛍光体を混合せずに、面方向に領域分離した構造で、分離した境界面での相互作用が微小にできるように、境界の厚みを500μm以下(さらに好ましくは、300μm以下)にしている。
このような蛍光体分離型構造によれば、照明用LEDデバイスとして、あるいはLED電球などのLED照明装置として、蛍光体間の相互作用を抑え、最適条件とした構造や機構設計とすることによって、特性も向上し、さらに安価な発光装置とその製造方法を提供することが可能となる。
しかし、特許文献1においては、各色の蛍光体の領域面積や蛍光体層の色度等の調整によって加算混色を微調整し易く、理想的な白色光に近付け易いと記され、特許文献2においては、各色の蛍光体の分量比を面積比で制御できるので、混合する場合より発光色のバラツキを小さくすることができると記されているだけで、これらの文献では、蛍光体間の相互作用による光の特性についての影響などは議論されていないのが実情である。
また、本願の発明者は、さらに、前記蛍光体分離型構造を備えた発光装置の製造方法として、以下のような製造方法を提案している。すなわち、上記発明に係る発光装置に用いる蛍光体含有フィルム片の製造方法であって、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれかの第1蛍光体粉末とシリコン樹脂とを混合してペースト状にし、該ペーストを耐熱性プラスチックシート上にフィルム状に塗布し、それを硬化して第1蛍光体含有フィルム片を形成する工程1と、該第1蛍光体含有フィルム片の所定の一部の領域から第1蛍光体含有フィルムを取り除く工程2と、該一部の領域に青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれかの第2蛍光体粉末と樹脂とを混合してペースト状にし、該ペーストを塗り込み硬化させ第2蛍光体含有フィルム領域を形成する工程3とを備えているものである。
このような工程を行うことで、たとえば特許文献1や特許文献2のように、RGBの専用マスクを用いて、全ての色をスクリーン印刷する場合に比べて、蛍光体の濃度や厚みの制御が行い易く、また精度も高くなっている。
しかしながら、工程3でのペーストの塗りこみは、ディスペンサーを用いて行われ、最後に面一になるように、スキジー等を用いて均してレベリングを行った後、硬化が行われる。そのレベリングの作業において、余分なペーストの一部はスキジーに溜り、レベリングの上流側から下流側に行くに従って、レベリング方向に対して横方向に広がり、前記第1蛍光体の表面に、伸ばされた状態で付着するという弊害がある。このようにして、蛍光体含有フィルム片の上流側と下流側とで、付着したペーストの状態が異なることになり、その結果、発光スペクトルが変化して、一定の所期の均一な発光スペクトルが得られないという問題が発生する。
本発明の目的は、余分なペーストの一部が第1蛍光体の表面に伸ばされた状態で非均一な状態で付着するという上記問題を解決する蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルムおよびその製造方法を提供することである。
本発明の蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルムは、発光素子上に被せられ、前記発光素子からの入射光を、波長変換して放射する蛍光体粉末を含有するフィルムにおいて、所定の支持材上に形成され、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれかの第1蛍光体粉末を含有し、所定の空隙部を有する第1蛍光体含有フィルムと、前記青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、少なくとも前記第1蛍光体以外のいずれかの第2蛍光体粉末を含有し、前記空隙部に嵌り込む第2蛍光体含有フィルム片と、前記空隙部に嵌め込まれた前記第2蛍光体フィルム片を、第1蛍光体含有フィルムに貼付ける透明樹脂とを含むことを特徴とする。
また、本発明の蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルムの製造方法は、所定の支持材上に、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれかの第1蛍光体粉末を含有し、所定の空隙部を有する第1蛍光体含有フィルムを作成する第1蛍光体形成工程と、前記青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、少なくとも前記第1蛍光体以外のいずれかの第2蛍光体粉末を含有し、前記空隙部に嵌り込む第2蛍光体含有フィルム片を作成する第2蛍光体形成工程と、前記第2蛍光体フィルム片を前記空隙部に嵌め込んで貼付ける貼付け工程とを含むことを特徴とする。
上記の構成によれば、発光素子上に被せられ、前記発光素子からの入射光を、波長変換して放射する蛍光体粉末を含有するフィルムを作成するにあたって、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれかの第1蛍光体粉末を含有する第1蛍光体含有フィルムを、ベースフィルムや半導体発光素子などの所定の支持材上に形成し、少なくとも前記第1蛍光体以外を含む1または複数の第2蛍光体をそれぞれ含有するフィルムは、フィルム片として、前記支持材上で前記第1蛍光体含有フィルムが形成されていない空隙部に嵌め込んで、透明樹脂で貼付ける。
したがって、2種類以上の蛍光体は互いに上下に重ならず、蛍光体間の相互作用を抑制することができる。さらに第1蛍光体含有フィルムおよび第2蛍光体含有フィルム片における蛍光体粉末の濃度や分散および厚みをそれぞれ正確に制御して、これらを作成することができるとともに、貼付けに使用される透明樹脂が、それらの第1蛍光体含有フィルムおよび第2蛍光体含有フィルム片上に漏出しても、発光スペクトルは変化せず、所期の均一な発光スペクトルを得ることができる。
さらにまた、本発明の蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルムの製造方法では、前記第1蛍光体形成工程は、第1蛍光体粉末と樹脂とを混合してペースト状にし、該ペーストを、前記支持材としてのプラスチックシート上または前記発光素子の発光面上に塗布し、それを硬化させた後、前記空隙部に相当する領域から第1蛍光体含有フィルム片を取り除いて前記空隙部を形成してなることを特徴とする。
上記の構成によれば、第1蛍光体含有フィルムは、塗布によって作成されるけれども、前記空隙部に該当する部分をマスクで形成するのではなく、支持材上に一旦均一に塗布し、硬化させた後、前記空隙部に該当する部分を切出し、剥離して形成する。
したがって、前記空隙部側への蛍光体の漏出を無すことができる。
また、本発明の蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルムの製造方法では、前記第1蛍光体粉末は、黄色系蛍光体であることを特徴とする。
上記の構成によれば、第1蛍光体含有フィルムにおいて、空隙部、すなわち第2蛍光体含有フィルム片が貼付けられる領域は、前記空隙部に該当する部分を引剥がして形成される。
したがって、その部分を、最も(格段に)値段の安い黄色系蛍光体で形成することで、無駄になる蛍光体のコストを抑えることができる。
さらにまた、本発明の蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルムの製造方法では、前記貼付け工程は、前記空隙部に透明樹脂を塗布し、該空隙部に第2蛍光体フィルム片を嵌め込んだ後、前記透明樹脂を硬化させてなることを特徴とする。
上記の構成によれば、透明樹脂は、漏出しても発光スペクトルは変化しないので、第2蛍光体フィルム片の貼付けを容易に行うことができる。
また、本発明の蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルムの製造方法では、前記貼付け工程において、前記透明樹脂を硬化させる前に、第1蛍光体含有フィルムの表面と、貼付けられた第2蛍光体含有フィルム片の表面とを均すことを特徴とする。
上記の構成によれば、第2蛍光体含有フィルム片が空隙部に正しく嵌込んでいなくても、該第2蛍光体含有フィルム片を空隙部に正確に嵌込むことができるとともに、該第2蛍光体含有フィルム片と第1蛍光体含有フィルムとの高さを合わせる(面一にする)ことができる。
さらにまた、本発明の蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルムの製造方法では、前記第2蛍光体形成工程は、前記第2蛍光体粉末と樹脂とを混合してペースト状にし、該ペーストを、プラスチックシート上に塗布し、それを硬化させた後、前記第2蛍光体含有フィルム片に切出すことで行われることを特徴とする。
上記の構成によれば、切出しおよびプラスチックシートからの引剥がしによって、前記空隙部の形状に正確に一致した第2蛍光体含有フィルム片を作成することができる。
また、本発明の蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルムの製造方法では、前記第2蛍光体含有フィルム片は、前記青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、少なくとも前記第1蛍光体以外を含む相互に異なる色の第2蛍光体粉末をそれぞれ含有する複数色のフィルム片からなることを特徴とする。
さらにまた、本発明の蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルムでは、前記第2蛍光体含有フィルム片は、前記青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、少なくとも前記第1蛍光体以外を含む相互に異なる色の第2蛍光体粉末をそれぞれ含有する複数色のフィルム片からなることを特徴とする。
上記の構成によれば、青色光の発光素子に緑色系蛍光体および赤色系蛍光体の組合わせや、紫外光の発光素子に青色系蛍光体、緑色系蛍光体および赤色系蛍光体の組合わせなど、高演色性の発光装置(デバイス)を実現することができる。
本発明の蛍光体含有フィルムおよびその製造方法によれば、第1蛍光体含有フィルムの空隙部に、第2蛍光体含有フィルム片を嵌め込んで、透明樹脂で貼付けるので、2種類以上の蛍光体は互いに上下に重ならず、蛍光体間の相互作用を抑制することができる。また、第1蛍光体含有フィルムおよび第2蛍光体含有フィルム片における蛍光体粉末の濃度や分散および厚みをそれぞれ正確に制御して、これらを作成することができるとともに、貼付けに使用される透明樹脂が、それらの第1蛍光体含有フィルムおよび第2蛍光体含有フィルム片上に漏出しても、発光スペクトルは変化せず、所期の均一な発光スペクトルを得ることができる。これによって、高輝度で高演色なLED電球などの照明装置を作成することができる。
以下、本発明に係る蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルムの製造方法の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
第1実施形態の製造方法を、図1〜23を参照して説明する。図1には、本発明に係る製造方法で製造した蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルムを用いて製造した発光装置の平面図と側断面図を示している。図1(b)は、図1(a)のX−X線断面図である。始めに、発光装置(デバイス)1の概要を説明する。発光装置1は、青色光を発光するLED素子2を備え、LED素子2の光取り出し面上には、後述する本発明の製造方法にて製造された蛍光体分離構造を有する分離型蛍光体含有フィルム片3が配置されている。
LED素子2の側面には、分離型蛍光体含有フィルム片3を底面とする逆四角錐形状の透明樹脂部6が形成されている。さらに該LED素子2において、前記分離型蛍光体含有フィルム片3が配置される面とは反対側の面は、電極形成面となり、その全面または一部に、+電極および−電極部が形成される。このLED素子2において、分離型蛍光体含有フィルム片3の配置される光出射面および電極形成面以外の露出した面は、反射壁5が形成されて被覆されている。このLED素子2の詳細構造の説明は、省略する。
分離型蛍光体含有フィルム片3は、それぞれ蛍光体粉末を含む第1蛍光体31と、第2蛍光体32と、第3蛍光体33とを備えて構成され、第2蛍光体32の幅はA、2つの第3蛍光体33の幅はそれぞれBと設計されている。なお、各図において、第1蛍光体31と、第2蛍光体32と、第3蛍光体33とを区別して図示するために、断面図でない場合も、異なるハッチングを施している。
以下においては、本発明に係る分離型蛍光体含有フィルム片3の製造方法を説明する。図2(a)は第1蛍光体含有フィルム31aの平面図、図2(b)は第1蛍光体含有フィルム31aの側断面図である。第1蛍光体含有フィルム31aは、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれかの第1蛍光体粉末とシリコン樹脂とを混合してペースト状にし、該ペーストを、ベースとなる耐熱性プラスチックシート9上にフィルム状に塗布し、それを硬化させて形成されている。
図3(a)(b)(c)は、第1蛍光体含有フィルム31aの側断面図であり、図3(d)は平面図である。図3に示したように、前記第1蛍光体含有フィルム31aに設定された所定の空隙部(図3では所定幅Wの領域)31cの両端を、ダイサーDにてダイシングし(図3(a)参照)、空隙部31cの第1蛍光体含有フィルム片31bをピンセット等の手段を用いて取り除いて(図3(b)参照)、前記空隙部31cを形成する(図3(c)参照)。これによって、図3(d)に示したように、所定幅Wの領域の空隙部31cの両側には、取り除かれなかった第1蛍光体含有フィルム31dが残存している。前記所定幅Wの領域は、設計値に基づいた幅に設定される。図1の例では、W=A+2Bとなるように設計されている。以上が、第1蛍光体形成工程となる。
次に、図4に示したように、空隙部31cの形成された第1蛍光体含有フィルム31aに、透明シリコン樹脂Sを塗布する。図4(b)は、図4(a)の一部拡大図である。 透明シリコン樹脂Sは、潤滑性を有し、空隙部31cに溜り込んでゆく。
一方、予め、もしくは並行して、図5に示すように、第2蛍光体含有フィルム32aを作成する。第2蛍光体含有フィルム32aは、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、第1蛍光体粉末以外の第2蛍光体粉末とシリコン樹脂とを混合してペースト状にし、該ペーストを、ベースとなる図示しない耐熱性プラスチックシート上にフィルム状に塗布し、それを硬化させて作成されている。その後、第2蛍光体含有フィルム32aは、図6(a)、(b)に示したように、ダイサーDを用いたダイシング加工によって、一定ピッチAの幅で切断しておく。図6(a)は、図5の一部拡大図であり、図6(b)は図6(a)の断面図である。このような第2蛍光体粉末を含有するペーストの塗布から、ダイシングされたフィルム片の耐熱性プラスチックシートからの引剥がしまでが、第2蛍光体形成工程となる。
また、上述の図5および図6と同様に、図7および図8で示すように、第3蛍光体含有フィルム33aを作成する。なお、この第3蛍光体含有フィルム33aは、特許請求の範囲においては、請求項7,9で示すような、もう1つの第2蛍光体含有フィルムに該当する。第3蛍光体含有フィルム33aは、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、前記第2蛍光体粉末以外のいずれかの第3蛍光体粉末と、シリコン樹脂とを混合してペースト状にし、該ペーストを耐熱性プラスチックシート上にフィルム状に塗布し、それを硬化させて作成されている。その後、この第3蛍光体含有フィルム33aは、図8(a)、(b)に示したように、ダイサーDを用いたダイシング加工によって、一定ピッチBの幅で切断しておく。 図8(a)は、図7の一部拡大図であり、図8(b)は図8(a)の断面図である。このような第3蛍光体含有フィルム33aおよびさらに他の色の蛍光体含有フィルムが作成される場合、その工程も、前記第2蛍光体形成工程として扱う。
この第3蛍光体含有フィルム33aは、第1蛍光体含有フィルム31aと同じ色の蛍光体を含有していてもよい。これは、たとえば第1蛍光体含有フィルム31aにおける第1蛍光体含有フィルム31dの一部を残存させずに取り除き、改めて第2蛍光体含有フィルム片32bとともに、第1蛍光体含有フィルム31aと同じ色の第3蛍光体含有フィルム片33bを貼付けて前記第1蛍光体含有フィルム31dの一部を形成する方が好ましい場合に行われる。その第1蛍光体含有フィルム31dの一部の形成位置、形状、面積などに応じて、このような工程の変更が適宜行われてもよい。
なお、ダイサーDによるダイシング加工に際しては、蛍光体の無駄をできるだけ少なくするために、例えば35μm幅の薄い刃(ブレード)を用いる。また、前記一定ピッチA、B、および空隙部31cの幅Wの加工に際しては、ダイサーDのブレード幅を考慮して、加工後の幅が前記A、B、Wになるように加工する。
次に、図9に示すように、第1蛍光体含有フィルム31aに、第2蛍光体含有フィルム32aおよび第3蛍光体含有フィルム33aのフィルム片を剥がして、移動させ易いように、例えばそれらを同一平面上に、隣接させて配置する。
次に、図10および図11に示すように、第3蛍光体含有フィルム33aから短冊状の第3蛍光体含有フィルム片33bを引き剥がして、第1蛍光体含有フィルム31aに形成された空隙部31cに嵌め込む。詳しくは、図10(a)(b)(c)に示すように、ピンセットまたは真空ピンセット等の手段Pを用いて、ダイシングによって前記短冊状に切離されている1本の第3蛍光体含有フィルム片33bをつかんで、図10(d)に示すように引き剥がす。続いて、図11(a)に示すように、第1蛍光体含有フィルム31aの空隙部31cの位置へ移動させ、図11(b)(c)に示すように、位置を微調整しつつ、該空隙部31cに嵌め込む。
以上の工程によって、図12に示すように、第3蛍光体含有フィルム33aから引き剥がされた一定ピッチBの幅の第3蛍光体含有フィルム片33bは、第1蛍光体含有フィルム31aに形成された空隙部31cに嵌め込まれる。図12において、第3蛍光体含有フィルム33aから1本の第3蛍光体含有フィルム片33bが引き剥がされた跡を白ヌキで示している。
図13には、第1蛍光体含有フィルム31aの空隙部31cに、前記1本の第3蛍光体含有フィルム片33bを嵌め込んだ状態の断面を示す。Sは、前述のように、塗布された透明シリコン樹脂である。図13(a)は、前記空隙部31c内に、第3蛍光体含有フィルム片33bが正しく嵌り込んだ状態を示し、図13(b)は、第1蛍光体含有フィルム31a側の第1蛍光体含有フィルム片31d上に、第3蛍光体含有フィルム片33bの一部が乗り上げた状態を示す。この乗り上げ状態は、後述する均し処理によって解消する。
次に、図11と同様に、図14で示すように、第2蛍光体含有フィルム32aから短冊状の第2蛍光体含有フィルム片32bを引き剥がして、第1蛍光体含有フィルム31aに形成された空隙部31cに嵌め込む。詳しくは、図14(a)(b)(c)に示すように、ピンセットまたは真空ピンセット等の手段Pを用いて、ダイシングにより前記短冊状に切断されている1本の第2蛍光体含有フィルム片32bをつかんで、図14(d)に示すように引き剥がす。続いて、図15(a)に示すように、第1蛍光体含有フィルム31aの空隙部31cの位置へ移動させ、図15(b)(c)に示すように、位置を微調整しつつ、該空隙部31cに嵌め込む。
以上の工程によって、図16に示すように、第2蛍光体含有フィルム32aから引き剥がされた一定ピッチAの幅の第2蛍光体含有フィルム片32bは、一定ピッチBの幅の第3蛍光体含有フィルム片33bと共に、第1蛍光体含有フィルム31aに形成された空隙部31cに嵌め込まれる。図16において、第2蛍光体含有フィルム32aから1本の第2蛍光体含有フィルム片32bが引き剥がされた跡を白ヌキで示している。
図17には、第1蛍光体含有フィルム31aの空隙部31cに、前記1本の第3蛍光体含有フィルム片33bおよび第2蛍光体含有フィルム片32bを嵌め込んだ状態の断面を示す。この図17では、第2蛍光体含有フィルム片32bの一部が第3蛍光体含有フィルム片33bの上に乗り上げている状態を示している。この乗り上げ状態も、後述する均し処理によって解消する。
次に、図10〜11に示した前述と同様の作業を繰り返して、第1蛍光体含有フィルム31dの間の空隙部31cに、2本目の第3蛍光体含有フィルム片33bを嵌め込む。この状態では、図18に示すように、空隙部31cには、1本の第2蛍光体含有フィルム片32bと、2本の第3蛍光体含有フィルム片33bが収められた状態となっている。図18において、第3蛍光体含有フィルム33aから2本の第3蛍光体含有フィルム片33bが剥ぎ取られた跡と、第2蛍光体含有フィルム32aから1本の第2蛍光体含有フィルム片32bが剥ぎ取られた跡とは、白ヌキで示している。図19には、図18の状態で、第2蛍光体含有フィルム片32bと、1本の第3蛍光体含有フィルム片33bとが、空隙部31cに正しく収まっていない状態を示している。
引き続き、以上の図10〜図19に示した作業を繰り返すことによって、図20で示すように、全ての空隙部31cに、それぞれ1本の第2蛍光体含有フィルム片32bと、2本の第3蛍光体含有フィルム片33bとを嵌め込む。図20において、第3蛍光体含有フィルム33aから複数本の第3蛍光体含有フィルム片33bが剥ぎ取られた跡と、第2蛍光体含有フィルム32aから複数本の第2蛍光体含有フィルム片32bが剥ぎ取られた跡とは、白ヌキで示している。
以上の作業を行うと、図22(a)の断面図に示すように、第2蛍光体含有フィルム片32bおよび第3蛍光体含有フィルム片33bは、第1蛍光体含有フィルム31dと高さが揃わず、空隙部31cに完全には(正しく)収まっていない場合も多い。この状態の平面を、模式的に図21(a)に示す。図21(a)では、第2蛍光体含有フィルム片32bおよび第3蛍光体含有フィルム片33bの段差を、前記短冊の長手方向のずれで表している。そのため、第2蛍光体含有フィルム片32bおよび第3蛍光体含有フィルム片33bが、全て空隙部31c内に収まるように、以下のような均し作業を行う。
具体的には、スキジー等の均し手段を用いて、第2蛍光体含有フィルム片32bおよび第3蛍光体含有フィルム片33bの表面を押さえながら、前記短冊の長手方向に走査することで、それらが空隙部31cに収まって高さが揃うように均す。この均し作業の結果、図22(b)の断面図に示すように、第2蛍光体含有フィルム片32bおよび第3蛍光体含有フィルム片33bが空隙部31c内に完全に収まって、上面が揃った(面一な)状態の、蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルム30が得られる。この状態の平面を、模式的に図21(b)に示す。以上、図10から図22までが、貼付け工程となる。
以上のようにして得られた、蛍光体分離構造を備えた蛍光体含有フィルム30を、例えば、150℃、1時間の状態で硬化させ、分離型蛍光体フィルムを製造する。このようにして得られた分離型蛍光体フィルムの平面図を図23(a)に示し、断面図を図23(b)に示し、内部構造を示すための拡大図を図23(c)に示す。図23(c)に示すように、第1、第2、もしくは第3蛍光体含有フィルムにおいては、第1、第2、もしくは第3蛍光体粒子(粉末)が、シリコン樹脂の内部に散在している状態となっている。前記シリコン樹脂は、微粉末のアエロジル(シリカ)も含んでいる。
このようにして製造した分離型蛍光体フィルムを、所定の大きさに裁断して、例えば図1に示したような分離型蛍光体フィルム片3を得て、トータルな白色光を発する、図1に示すような発光装置1を得ることができる。
なお、分離型蛍光体含有フィルム片3上に、電極の形成されたLED素子2を搭載し、透明樹脂部6および反射壁5が形成され、さらに被覆形成された後に、ベースとなる耐熱性プラスチックシート9は剥離される。多くの製造例では、大きな分離型蛍光体含有フィルム片3上に、上述のようにして複数の発光装置1が形成され、耐熱性プラスチックシート9が剥離された後、各発光装置1がダイサーDなどによって切出される。また、LED素子2をベースとして、該LED素子2上に、直接第1蛍光体含有フィルム31aが塗布形成されて、ベースとなる耐熱性プラスチックシート9を用いないようにしてもよい。
以上のように、本実施形態によれば、LED素子2上に被せられ、該LED素子2からの入射光を、波長変換して放射する蛍光体粉末を含有する蛍光体含有フィルム片3を作成するにあたって、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれかの第1蛍光体粉末を含有する第1蛍光体含有フィルム31aを、耐熱性プラスチックシート9やLED素子2などの所定の支持材上に形成し、少なくとも前記第1蛍光体以外を含む1または複数の第2蛍光体をそれぞれ含有するフィルムは、フィルム片32b,33bとして、前記支持材上で前記第1蛍光体含有フィルム31aが形成されていない空隙部31cに嵌め込んで、透明なシリコン樹脂Sで貼付けられる。
したがって、2種類以上の蛍光体は互いに上下に重ならず、蛍光体間の相互作用を抑制することができる。さらに第1蛍光体含有フィルム31aおよび第2蛍光体含有フィルム片32b,33bにおける蛍光体粉末の濃度や分散および厚みをそれぞれ正確に制御して、これらを作成することができるとともに、貼付けに使用される透明なシリコン樹脂Sが、それらの第1蛍光体含有フィルム31aおよび第2蛍光体含有フィルム片32b,33b上に漏出しても、発光スペクトルは変化せず、所期の均一な発光スペクトルを得ることができる。
また、本実施形態によれば、第1蛍光体形成工程では、第1蛍光体含有フィルム31aは、塗布によって作成されるけれども、空隙部31cに該当する部分をマスクで形成するのではなく、支持材上に一旦均一に塗布し、硬化させた後、空隙部31cに該当する第1蛍光体含有フィルム片31bを切出し、剥離して形成するので、空隙部31c側への蛍光体の漏出を無くすことができる。
そして、第1蛍光体含有フィルム31aの材料となる第1蛍光体粉末は、黄色系蛍光体であることが好ましい。これは、第1蛍光体含有フィルム31aにおいて、空隙部31c、すなわち第2蛍光体含有フィルム片32aが貼付けられる領域は、該空隙部31cに該当する第1蛍光体含有フィルム片31bを引剥がして形成されるので、その部分を、最も(格段に)値段の安い黄色系蛍光体で形成することで、無駄になる蛍光体のコストを抑えることができるためである。
さらにまた、本実施形態によれば、貼付け工程では、空隙部31cに透明なシリコン樹脂Sを塗布し、該空隙部31cに第2および第3蛍光体フィルム片32a,33aを嵌め込んだ後、シリコン樹脂Sを硬化させて貼付けを行うので、透明なシリコン樹脂Sは、漏出しても発光スペクトルは変化せず、第2および第3蛍光体フィルム片32a,33aの貼付けを容易に行うことができる。
また、本実施形態によれば、第2蛍光体形成工程は、第2蛍光体粉末とシリコン樹脂とを混合してペースト状にし、該ペーストを、プラスチックシート上に塗布し、それを硬化させた後、第2および第3蛍光体含有フィルム片32a,33aに切出すことで行うので、空隙部31cの形状に正確に一致した第2および第3蛍光体含有フィルム片32a,33aを作成することができる。
蛍光体は、LED素子2の発光(入射)波長や、所望出射波長から適宜選ばれれば良く、例えば、青色光のLED素子2に緑色系蛍光体および赤色系蛍光体の組合わせや、紫外光のLED素子2に青色系蛍光体、緑色系蛍光体および赤色系蛍光体の組合わせなどである。こうして、高演色性の発光装置(デバイス)1を実現することができる。