JP2015088669A - 多値型磁気メモリ素子及び磁気メモリ装置 - Google Patents

多値型磁気メモリ素子及び磁気メモリ装置 Download PDF

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Abstract

【課題】磁気抵抗素子を多値化し、結果として大容量の多値型磁気メモリ素子及び磁気メモリ装置を提供する。
【解決手段】磁化固定層、中間層及び磁化自由層を備える磁気抵抗素子をメモリ単位とする多値型磁気メモリ素子であって、磁化自由層及び磁化固定層のうちの少なくとも一方が、磁化配列の自由度を持つ積層構造を有し、磁気抵抗素子は、磁界−抵抗曲線の縮退した複数のマイナーループを有し、2つの抵抗状態を有する。例えば、磁気抵抗素子は、所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する前の第1の抵抗状態と印加した後の第2の抵抗状態が、低抵抗状態と高抵抗状態の4通りの組み合わせである。
【選択図】図1

Description

本発明は、電流又は磁界又はその両方により情報(データ)を書き込むことができる多値型磁気メモリ素子及び磁気メモリ装置に関する。
近年、磁気メモリ素子は、磁気抵抗素子をメモリ単位として利用されている。磁気抵抗素子は、基本的には、磁化固定層/中間層/磁化自由層の3層からなり、磁化自由層と磁化固定層との磁化の向きが平行か、反平行であるかによって、素子の抵抗値が大きく変化する電子素子である。一般的な磁気抵抗素子では、上記3層のそれぞれの膜の厚さは数十から数ナノメートル(nm)である。磁化固定層と磁化自由層との向きに応じて、磁化固定層(又は磁化自由層)と中間層の界面で、上向きスピンを持つ電子と、下向きスピンを持つ電子の散乱が異なるため、磁気抵抗効果(外部磁界により抵抗状態が変化する現象)が発現する。
これまでに、中間層に非磁性金属を用いた巨大磁気抵抗(giant magneto−resistance)素子と、中間層に絶縁体(トンネル障壁層)を用いたトンネル磁気抵抗(tunnel magneto−resistance)素子とが提案されている。
近年の情報化社会の発展につれ、磁気メモリ素子においては、記録密度を高める技術が必要とされている。記録密度を高める方法には、(1)メモリ素子自体を小さくする方法と、(2)メモリ素子一つあたりの記録ビットを多値化する方法がある。前者(1)の方法では、最近では数十ナノメートル径まで微細化された磁気抵抗素子が使われるようになっている。このような微小な磁気抵抗素子の磁化を操作する(即ちデータの書き込み)には、磁気抵抗素子に直流電流を注入して磁化反転を誘起する「スピン注入磁化反転」(スピン移行トルクによる磁化反転・スピン転移スイッチングとも呼ばれる)が用いられる。1996年に、スロンチェスキーおよびベルジェによって提案された、スピン注入磁化反転は、反転電流が素子サイズに比例するという利点を持ち、サブミクロンサイズの磁気メモリ素子には不可欠の技術となっている。
それでもなお磁気メモリ素子のより高密度化(大容量化)を求める要求は強い。後者(2)の方法として、磁気メモリ素子(磁気抵抗素子)を多値化する技術がいくつか提案されている。例えば、面内磁化膜において、磁化自由層の磁化容易軸を複数持たせるように工夫し、多値のメモリとして利用する技術が、特許文献1「改良された記憶密度を備えた多値MRAM」に開示されている。また、スピン注入磁化反転をデータ書き込み手法とする複数の磁気抵抗素子を、面直方向に積層し(電気的には直列に接続)、全体の抵抗値が「3値以上の複数」の値を持つことを用いて「3値以上の複数」のビットを実現する技術が、特許文献2「スピン転移スイッチングを利用し且つ複数のビットを記憶する磁気メモリ素子」に開示されている。また、書き込み電流が異なる2つの磁気抵抗素子を面直方向に積層し、異なる値の電流パルスを複数与えることで一素子あたり「3値以上の複数」のビットを実現する磁気メモリが、特許文献3「磁気抵抗素子、磁気メモリセル及び磁気ランダムアクセスメモリ」に開示されている。
近年の磁気メモリ素子についての動向について記載する。スピン注入磁化反転の研究が進むにつれ、微細な磁気メモリ素子においては、反転電流値の低減が見込めるなどの理由から垂直磁化材料がより好ましいことが理論的にも示され、材料の開発及び該材料を用いた磁気抵抗素子の研究開発が進められている。この分野において、発明者らがこれまでに関与し、公知となった成果としては、非特許文献1および2にCoPtなどの強磁性−貴金属材料を用いた垂直磁化型磁気トンネル接合の開発、また非特許文献3にキャップ層としてMgOを用いることでFeB薄膜の垂直磁気異方性がより強くなることを示したことなどがある。更に、特許文献4「磁気抵抗素子及び磁気メモリ」および特許文献5「磁気抵抗素子及び磁気メモリ」では、垂直磁化材料を用いた磁気抵抗素子の開発について開示を行っている。
先行文献調査をしたところ、隣接する2つの強磁性層が非磁性層を介して磁気的に結合している「積層フェリ構造」は知られており、例えば特許文献6に開示されている。また、垂直磁性材料における積層フェリ構造のための層間結合材料の研究も盛んであり、例えば特許文献7「記憶素子、記憶装置」には、従来材料であるRuよりも更に交換結合力の大きな材料としてCrが開示されている。
特表2005−535111号公報 特表2007−504651号公報 WO2012/008349 特開2011−071352号公報 特開2012−064774号公報 特開2012−54576号公報 特開2013−115412号公報
K.Yakushiji,et al.,Applied Physics Express 3 (2010) 053003. K.Yakushiji,et al.,Applied Physics Letters 97 (2010) 232508. H.Kubota,et al.,Journal of Applied Physics 111 (2012) 07C723.
先行技術における磁気メモリを多値化する技術では、「2個以上の複数」の磁気抵抗素子を直列に接続し、各々の磁気抵抗素子を個別に操作することにより、「3値以上の複数」の抵抗値を実現し、その抵抗値を「3値以上の複数」のビットに割り当てている。この場合、「3値以上の複数」ビット検出のためには、抵抗値を精度よく測定する必要があり、磁気抵抗素子の出力検出部に、「2値以上の複数」の閾値を持つ比較器(コンパレータ)又はA/D変換器を必要とする欠点がある。
本発明は、これらの問題を解決しようとするものであり、「3値以上の複数」のビットには「3値以上の複数」の抵抗値が必要であるという従来の発想を覆し、磁化配列は異なるが同一(又は判別することが困難なほど差が少ない)抵抗値を持つ磁気メモリ素子を実現しようとするものである。本発明は、「3値以上の複数ビット」の読み出し可能な素子を実現して、これにより磁気メモリ素子を多値化した多値型磁気メモリ素子を提供すると共に、大容量の磁気メモリ装置を提供することを目的とする。
本発明は、前記目的を達成するために、以下の特徴を有する。
本発明の多値型磁気メモリ素子は、磁化固定層、中間層及び磁化自由層の基本3層を備える磁気抵抗素子をメモリ単位とする多値型磁気メモリ素子であって、前記磁化自由層及び前記磁化固定層のうちの少なくとも一方が、磁化配列の自由度を持つ積層構造を有し、前記磁気抵抗素子は、磁界−抵抗曲線の縮退した複数のマイナーループを有し、2つの抵抗状態を有することを特徴とする。前記磁化配列の自由度を持つ積層構造が、第1の強磁性層、非磁性層及び第2の強磁性層からなる基本3層の構造を少なくとも有し、前記第1及び第2の強磁性層が磁気的に結合して、前記第1及び第2の強磁性層の磁化の向きが平行又は反平行で安定状態を保っていることが望ましい。本発明の多値型磁気メモリ素子は、磁化固定層、中間層及び磁化自由層の基本3層、第1の強磁性層、非磁性層及び第2の強磁性層からなる基本3層の他に、バッファ層やキャップ層等の層を備えてもよい。
前記中間層は、磁化固定層と磁化自由層の間に位置する。前記磁気抵抗素子における、単一の閾値で判別できる2つの抵抗状態のうち、低い方を低抵抗状態(Rlow)といい、高い方を高抵抗状態(Rhigh)という。
本発明の多値型磁気メモリ素子は、磁化固定層、中間層及び磁化自由層を備える磁気抵抗素子をメモリ単位とする多値型磁気メモリ素子であって、前記磁気抵抗素子が、単一の閾値で判別できる、低抵抗状態と高抵抗状態を有し、前記磁気抵抗素子は、所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する前の第1の抵抗状態と印加した後の第2の抵抗状態が、前記低抵抗状態と前記高抵抗状態の4通りの組み合わせであることを特徴とする。
4通りとは、第1の抵抗状態と第2の抵抗状態が、(1)RlowとRlow、(2)RlowとRhigh、(3)RhighとRlow、(4)RhighとRhighの4通りである。
本発明の磁気メモリ装置は、磁化固定層、中間層及び磁化自由層を備える磁気抵抗素子をメモリ単位とする多値型磁気メモリ素子を有する磁気メモリ装置であって、前記磁気抵抗素子が、単一の閾値で判別できる、低抵抗状態と高抵抗状態を有し、前記磁気抵抗素子は、所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する前の第1の抵抗状態と印加した後の第2の抵抗状態が、前記低抵抗状態と前記高抵抗状態の4通りの組み合わせであり、前記磁気抵抗素子の、前記第1の抵抗状態と、前記第2の抵抗状態を保持し、第1の抵抗状態と第2の抵抗状態との組み合わせから4値の情報を得る回路と、前記磁気抵抗素子に、電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する回路を備える、ことを特徴とする。
本発明の多値型磁気メモリ素子は、磁化固定層、中間層及び磁化自由層を備える磁気抵抗素子をメモリ単位とする多値型磁気メモリ素子であって、前記磁気抵抗素子が、単一の閾値で判別できる、低抵抗状態と高抵抗状態を有し、前記磁気抵抗素子は、第1の所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する前の第1の抵抗状態と印加した後の第2の抵抗状態と、第2の所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加した後の第3の抵抗状態が、前記低抵抗状態と前記高抵抗状態の8通りの組み合わせである、ことを特徴とする。
8通りとは、第1の抵抗状態と第2の抵抗状態と第3の抵抗状態とが、第1、第2、第3の順に表記すると、(1)RlowとRlowとRlow、(2)RlowとRlowとRhigh、(3)RlowとRhighとRlow、(4)RlowとRhighとRhigh、(5)RhighとRhighとRhigh、(6)RhighとRhighとRlow、(7)RhighとRlowとRhigh、(8)RhighとRlowとRlowの8通りである。
本発明の磁気メモリ装置は、磁化固定層、中間層及び磁化自由層を備える磁気抵抗素子をメモリ単位とする多値型磁気メモリ素子を有する磁気メモリ装置であって、前記磁気抵抗素子が、単一の閾値で判別できる、低抵抗状態と高抵抗状態を有し、前記磁気抵抗素子は、第1の所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する前の第1の抵抗状態と印加した後の第2の抵抗状態と、第2の所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加した後の第3の抵抗状態が、前記低抵抗状態と前記高抵抗状態の8通りの組み合わせであり、前記磁気抵抗素子の、前記第1の抵抗状態と、前記第2の抵抗状態と前記第3の抵抗状態を保持し、前記第1、第2及び第3の抵抗状態の組み合わせから8値の情報を得る回路と、前記磁気抵抗素子に、電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する回路を備える、ことを特徴とする。
本発明における「磁化配列の自由度を持つ積層構造」において、2つの状態(平行と反平行)が、電流又は磁界により容易に遷移させられることが望ましい。あるいは、電流や磁界の代わりに電圧(電界)を用いて2つの状態の間を遷移させてもよい。
本発明の磁気抵抗素子は、磁化自由層の反転に対する磁界−抵抗曲線上のヒステリシスループが、「磁化配列の自由度を持つ積層構造」の中の複数の磁性層における異なる磁化配列に応じて、異なる反転磁界を有し、2つの抵抗状態を有する。
従来は、磁気抵抗素子を磁気メモリ素子として用いる場合、磁化自由層の磁化の向きを操作し、磁化の向きを、磁気抵抗効果を用いて検出している。本発明のように、磁化自由層あるいは磁化固定層に「磁化配列の自由度を持つ積層構造」を設けると、「磁化配列の自由度を持つ積層構造」の中の磁化配列の違いに応じて、磁化自由層の感じる残留磁界の大きさが変わり、結果として、磁化反転の起こる臨界磁界あるいは臨界電流あるいは臨界電圧の異なるマイナーループが複数存在することになる。
しかしながら、主たる磁気抵抗を発現する界面での磁気抵抗比(100%程度)と、「磁化配列の自由度を持つ積層構造」での磁気抵抗比(1%以下)の大きさが数桁異なるため、これらの複数のマイナーループを、抵抗値によって判別することは困難である。一般に、ある物理測定量に対して複数の状態が存在することを、状態が縮退しているという。したがって、本発明における磁気抵抗素子は、抵抗値に対して複数のマイナーループが縮退しているといえる。
本発明のカギとなる概念は、マイナーループの抵抗値としては縮退している磁化配列を、反転電流、あるいは反転磁界の差を用いて、読み出し・書き出しすることで、多値メモリとして利用できることを示したことにある。
さらに、抵抗の状態判定を一つの閾値で行うため、低抵抗状態・高抵抗状態での抵抗値は±30%程度以内に収まっていることが要求されるが、抵抗状態を確実に判定するためには±5%程度以内に収まっていることが望ましい。
本発明では、マイナーループの縮退数をM(ただし、Mは複数)とした場合、本発明によると、1素子あたり従来の容量のM倍以上の容量をもつ磁気メモリ素子が実現する。素子数をN(ただし、Nは1以上の整数)とすると、従来の2値メモリ素子で保持できる情報量は2Nであるが、本発明のメモリ素子N個で保持できる情報量は(2×M)Nとなり、その増加分が非常に大きい。さらに、本発明によれば、磁気抵抗素子の抵抗値を単一の閾値で判別するため、抵抗値を精度よく測定、分離、認識する必要がなく、磁気抵抗素子の出力検出部に「2値以上の複数」の閾値を持つ比較器(コンパレータ)又はA/D変換器を必要としないという利点がある。
実施形態1にかかる磁気抵抗素子の断面模式図である。 実施例1にかかる磁気抵抗素子の電流−抵抗曲線を示すグラフである。 実施形態1にかかる磁気抵抗素子の重なったマイナーループを示す模式図である。 実施形態1にかかる磁気メモリ素子について、読み出す方法の説明図である。 実施形態1にかかる磁気メモリ素子について、書き込む方法の説明図である。 実施形態2にかかる磁気抵抗素子の断面模式図である。 実施例2にかかる磁気抵抗素子の磁界−抵抗曲線を示すグラフである。 実施形態2にかかる磁気抵抗素子の重なったマイナーループを示す模式図である。 実施形態2にかかる磁気メモリ素子について、読み出す方法の説明図である。 実施形態2にかかる磁気メモリ素子について、書き込む方法の説明図である。 実施形態3にかかる磁気抵抗素子の断面模式図である。 実施形態3にかかる磁気抵抗素子の重なったマイナーループを示す説明図である。 実施形態3にかかる磁気メモリ素子について、読み出す方法の説明図である。 実施形態3にかかる磁気メモリ素子について、書き込む方法の説明図である。
本発明の実施の形態について以下説明する。
本発明は、「磁化配列の自由度を持つ積層構造」を備える新しい構造の磁気抵抗素子を提供するものである。この磁気抵抗素子は、積層構造の異なる磁化配列により、磁化自由層が縮退した状態を持つという特徴を持つ。従来の常識では、縮退した状態をもつ磁気メモリ素子の情報を読み出すことは不可能と考えられていた。発明者らは、本実施の形態に示す構造を有する磁気メモリ素子を作成し、スピン注入磁化反転の測定を行ったところ、電流−抵抗曲線又は磁界―抵抗曲線のループにおいて、閾値(磁化反転が起こる電流値)が異なる2つのマイナーループを持つ磁気メモリ素子が実現できることを見出した。
発明者らは、この閾値の差が、磁気メモリ素子(磁気抵抗素子)の中に含まれる「磁化配列の自由度を持つ積層構造」の磁化配列の差異であることに思い至り、更に、メモリ素子の初期の抵抗値(第1の抵抗状態1)を測定した後、所定の電流パルスを与えた後の抵抗値(第2の抵抗状態2)を測定し、この2つの抵抗状態の組み合わせることで、2つのマイナーループを分離する(即ち複数のビットとして用いる)ことが可能であることを見出した。具体的には、素子の初期の抵抗を測定した後、所定値の電流パルスを与え、再び抵抗の測定を行い、2回の測定の結果から、どちらのマイナーループに属していたかを判定するという手法である。例えば、2つのマイナーループが縮退している磁気抵抗素子を、この手法を用いることにより、4値、即ち(Rhigh,Rlowの2状態)×(マイナーループの数2)のメモリ素子として使うことができる。また、4つのマイナーループが縮退している磁気抵抗素子を用いれば、8値、即ち(Rhigh,Rlowの2状態)×(マイナーループの数4)のメモリ素子として使うことができる。
本発明の実施の形態における磁気抵抗素子は、複数のマイナーループを持ち、各マイナーループは同一又はほぼ同一の抵抗値である高抵抗状態Rhighを持ち、かつ同一又はほぼ同一の抵抗値である低抵抗状態Rlowを持つ。そして、各マイナーループは、(1)低抵抗状態Rlowから高抵抗状態Rhighへ反転するときの電流閾値及び(2)高抵抗状態Rhighから低抵抗状態Rlowへ反転するときの電流閾値が異なる。
電流による磁化反転は、その原理上、外部磁界を与えることでも可能である。従って、本実施の形態における説明は、電流閾値に代えて磁界閾値でも成立する。また、電界により磁気異方性が変えられる構造の磁気抵抗素子においては、電界による磁化反転が可能であり、そのような系では、上記説明の電流閾値に変えて電界閾値でも成立する。微細な素子に限定して外部磁界を与えることは、微細な素子の近傍にコイル(又は電線)を設置し、そこに電流を流すことにより可能である。なお、一般に外部磁界を与えることによる磁気メモリは磁界書き込み型とよばれ、例えば磁気アクセスメモリとして知られている。
次に本発明における磁気抵抗素子の構造について説明する。本発明の磁気抵抗素子は、基本的に「磁化固定層/中間層/磁化自由層」の3層構造を有する。磁化固定層、磁化自由層は、両方とも強磁性層である。
磁気抵抗効果は、2つの磁性層の相対的な磁化の向きで決まる。磁化を変化させるのに必要な力を保磁力と呼び、同様の材料・形状の物質の場合、保磁力は磁性層の厚みに比例する。そのため、一般には磁性膜において、薄い方が磁化自由層に、厚い方が磁化固定層になる。磁化を変化させ易い「磁化自由層」と変化させ難い「磁化固定層」に対し、外部から適当な大きさの電気的エネルギー(電流)又は磁気的エネルギー(磁界)又はそれらの両方を与えることにより、2つの磁性層の相対的な磁化の向きをコントロールすることができる。
通常の磁気抵抗素子の動作においては、磁化固定層の磁化の向きが変化しない範囲で使っているため、磁化固定層の磁化が「ピン止めされているように見える」ので、英語では磁化固定層を「magnetic pinned layer」とも言う。本発明の実施の形態では、メモリの用途に用いるので、磁化自由層は、磁気特性が硬磁性材料であり、0.5nm以上5.0nm以下が望ましく、さらに望ましくは0.8nmから2.0nmの膜厚であることが望ましい。また、磁化固定層は、磁化固定層に比べ磁化を十分大きくする必要があるので、積層フェリ構造単体、あるいは反強磁性層と結合させた積層フェリ構造、あるいは十分に厚い硬磁性層材料層を用いることができ、その厚さは1.0nm以上50nm以下が望ましく、さらには2.0nm以上15nm以下が望ましい。
磁化固定層又は磁化自由層を構成する強磁性層に使用する強磁性材料の種類には、特に制限はなくが、Fe、Co、Niまたはそれらの合金(例えばFeCo)が代表的である。製法の都合で中間状態又は最終状態としてアモルファス状態を望む場合には、これらにB(ボロン)、Si、Ti、Cr、Vなどを添加した合金FeB、FeCoB、FeCoBSi、FeCoBTi、FeCoBCr、FeCoBVなどを用いることもできる。また、垂直磁性材料としては、CoPt、CoPd、FePt、FePdなどの合金、またはそれらの合金を積層した合金、これらにB、Crなど添加した合金を用いることができる。
磁化固定層と磁化自由層との間に位置する中間層としては、(1)非磁性金属層の場合(巨大磁気抵抗素子)と(2)絶縁体層(トンネル障壁層と呼ばれる)の場合(トンネル磁気抵抗素子)などがあり、次に具体的に述べる。いずれの場合も、基本的には磁化固定層、中間層及び磁化自由層の3層構造で磁気抵抗素子として機能すれば良い。
(1)非磁性金属層の場合、材料としては例えばCu、Ag、Crなどが使用できる。その厚さは、0.3nm以上10nm以下程度である。特に、大きな磁気抵抗比を実現するCu、Agを用いた場合、その厚さは2nm以上10nm以下である。
(2)絶縁体層(トンネル障壁層)の場合、材料としては、例えばMg、Al、Si、Ca、Li等の酸化物、窒化物、ハロゲン化物等の様々な誘電体を使用できる。特に、大きな磁気抵抗比と小さな面抵抗を両立するMgO(酸化マグネシウム)を使うことが好ましい。前記酸化物、窒化物を絶縁体層に用いる場合は、その酸化物、窒化物の中に酸素、窒素欠損が多少存在していてもかまわない。その厚さは、0.3nm以上2nm以下程度である。
本発明の特徴の一つは、この磁化自由層又は磁化固定層又はその両方に「磁化配列の自由度を持つ積層構造」を導入したことである。「磁化配列の自由度を持つ積層構造」は、隣接する2つの強磁性層が非磁性層を介して磁気的に結合しているものを指し、2つの強磁性層の磁化の向きが同じ(平行)又は逆(反平行)で安定状態を保っているものである。従来の磁気抵抗素子でも類似の構造である「積層フェリ構造」を磁化固定層に使うことがある(特許文献6参照)。その場合、磁化固定層を構成する2つの強磁性層の結合を出来るだけ強くし、素子の動作時に2つの層の磁化の向きを変化しないようにするものである。一方、本発明で導入する「磁化配列の自由度を持つ積層構造」は、2つの強磁性層の結合を適度に調節することで、積層構造に含まれる2つの強磁性層の相対的な磁化の向きが変化することを許す。2つの強磁性層の相対的な磁化の向きが変化することで、磁化自由層に与える残留磁界の大きさが変化するため、複数のマイナーループが生じる。
本発明では、「磁化配列の自由度を持つ積層構造」中の非磁性層の厚みを調整することで、2つの強磁性層の磁気結合を適度に調節し、積極的に複数のマイナーループを縮退させている。非磁性層の調整について、例えば、材料としてRuを用いた場合で説明すると、Ru層の厚さで磁気結合の強さを変えることができる。結合の強さは、Ruの場合、0.4nm位から2nm位まで、正負に振動しながら減衰して行く。結合の強さの値が、正であれば強磁性結合(平行を好む結合)、負であれば反強磁性結合(反平行を好む結合)である。Ruの厚さが2nmを超えると、有効な結合が生じない。本実施の形態において、望ましい厚さは、Ruの場合、0.8nm以上1.2nm以下程度であり、特に0.9nm近傍が望ましい。
「磁化配列の自由度を持つ積層構造」中の非磁性層を構成する材料としては、(1)Ru(ルテニウム)、レニウム、イリジウム、ロジウム、クロム、銀、銅などの非磁性金属若しくはそれらの金属元素を含む合金、又は(2)MgO(酸化マグネシウム)、MgAlOx、FeOxなどの金属又は非金属酸化物などが挙げられる。
本発明の特徴の一つは、素子が縮退した複数のマイナーループを持つことである。各マイナーループは同一又はほぼ同一の抵抗値である高抵抗状態Rhighを持ち、かつ同一又はほぼ同一の抵抗値である低抵抗状態Rlowを持つ。各マイナーループは、(1)低抵抗状態Rlowから高抵抗状態Rhighへ反転するときの電流閾値若しくは磁界閾値並びに(2)高抵抗状態Rhighから低抵抗状態Rlowへ反転するときの電流閾値若しくは磁界閾値が、異なる。素子が微小になって電流で磁化反転が起こる場合、磁界−抵抗曲線でマイナーループが存在すれば、電流−抵抗曲線にも、電圧−抵抗曲線にもマイナーループが存在している。
磁化自由層及び磁化固定層のうちの少なくとも一方の構造として、「磁化配列の自由度を持つ積層構造」を導入し、人工的に磁化の向きを変えられる自由度を設け、それを多値メモリとして利用することは、本発明によって初めて出てきた概念である。
本実施の形態の磁気抵抗素子の各層は、各種スパッタ法、蒸着法、分子線エピタキシャル法などの薄膜形成装置を用いて作製することができる。
本発明においては、「磁化配列の自由度を持つ積層構造」を利用することが特徴であるので、磁気抵抗素子における磁化の向きは水平磁化(面内方向)でも垂直磁化(面直方向)でも良い。垂直磁化の場合、記録密度を高めることができるのでより望ましい。以下の実施形態においては垂直磁化型磁気抵抗素子で説明する。
(実施形態1)
本実施形態を図1乃至5を参照して以下説明する。図1は、実施形態1にかかる磁気メモリ素子の磁気抵抗素子の断面模式図である。図1−Aに、磁気抵抗素子の層構造を示す。本実施形態の磁気抵抗素子は、上部電極層11、磁性層1、非磁性層17、磁性層2、中間層13、磁性層、下部電極層15の順に積層された層構造を有する。磁化自由層12が磁性層1と非磁性層17と磁性層2とから構成され、磁化固定層14が磁性層から構成される。本磁気抵抗素子は、基本的に「磁化自由層12/中間層13(障壁層(トンネル障壁層))/磁化固定層14」の基本3層を一対の電極層(上部電極層11、下部電極層15)で挟んだ構造を備えるトンネル磁気抵抗素子である。本実施形態では、磁化自由層12が「磁性層1/非磁性層/磁性層2」の基本3層からなる「磁化配列の自由度を持つ積層構造」を持っていることが特徴である。
本素子において、磁気抵抗効果が主に発現するのは「磁化自由層の磁性層2/障壁層/磁化固定層の磁性層」の部分(以下、障壁層での磁気抵抗効果と記する)である。なお、磁化自由層内部の磁気抵抗効果(「磁性層1/非磁性層/磁性層2」での磁気抵抗効果)は、障壁層での磁気抵抗効果に比べて小さい。
次に、本実施形態の素子の磁化状態について述べる。以下、実施形態の説明において、磁気メモリ素子の磁化状態とは、磁化自由層あるいは磁化固定層、あるいはその両方に含まれる「磁化配列の自由度を持つ積層構造」での磁化の配列の組み合わせを指す。本実施形態の磁気メモリ素子は、磁化自由層の磁性層1と磁性層2の相対的な磁化の方向の差異によって、図1−B、C、D、Eに示すように、ゼロ磁界において4つの独立した磁化状態を持つ。この素子の構造を検討すると、状態B、Dでは障壁層を介して対峙する2つの磁性層(磁化自由層と磁化固定層)の磁化の向きが同一(平行)であるため、素子は低抵抗状態Rlowを示す。他方、状態C、Eでは、磁化の向きが反対(反平行)であるため、素子は高抵抗状態Rhighを示す。さらに、それぞれの抵抗状態(Rlow、Rhigh)において、その抵抗値にほとんど差がないため、2つの磁化状態が縮退している。即ち、本発明の多値型磁気メモリ素子は、4つの磁化状態を持つのにもかかわらず、2つの抵抗状態(Rlow、Rhigh)しか持たない。それに対して、従来技術の多値型磁気メモリ素子では、3つ以上の複数の磁化状態を持ち、それぞれの磁化状態に対応する3つ以上の抵抗状態(抵抗値)を持つ。
後述する実施例1に詳細に示すが、発明者らは、図1−Aに示す構造を持つ垂直磁化型トンネル磁気抵抗素子を製作し、その電流注入磁化反転の特性を測定した。素子の構成は、基板/電極層/バッファ層/「CoPt多層膜・FeB膜からなる磁化固定層」/MgO障壁層/「FeB膜・MgO非磁性層・FeB膜からなる磁化自由層」/電極層である。「FeB膜・MgO非磁性層・FeB膜」が本実施形態の機能を提供する「磁化配列の自由度を持つ積層構造」である。素子の大きさは、概ね100ナノメートル径、抵抗値は低抵抗状態でRlow=424Ω、高抵抗状態でRhigh=900Ω、磁気抵抗比が112%であった。図2に、実施例の素子のゼロ磁界におけるスピン注入磁化反転の結果(電流−抵抗曲線)を示す。
ここで簡単に、磁気抵抗素子におけるスピン注入磁化反転について説明する。電子はスピンを持っている。十分に厚い磁性層から流れ出る電子は磁性層と同じ向きのスピンを持つ。反平行になっている磁気抵抗素子において、磁化固定層から磁化自由層に電子が流れる状況を想定すると、磁化固定層から流れ出る電子のスピン(角運動量)が磁化自由層に受け渡される。この時、電流をどんどん大きくすると、磁化自由層にどんどん角運動量が受け渡され、最後には磁化自由層が反転してしまう。これがスピン注入磁化反転の原理である。平行になっている磁気抵抗素子の場合は、磁化自由層から磁化固定層に電子を流すと、磁化固定層で電子のスピンが揃えられる反作用で磁化自由層の向きが反平行となる。従って、通常の磁気抵抗素子におけるスピン注入磁化反転では、同一の磁化自由層が反転するため、低抵抗状態から高抵抗状態へと、その逆方向にそれぞれ単一の反転電流値を持つ。
しかしながら、図2に示すように、本実施形態の素子は、電流−抵抗曲線のループにおいて、それぞれの方向で2つの反転電流値を持っている。このループは、0電流の低抵抗状態(424Ω)から、正方向に電流を増やすことで、二つの閾値0.9mAと1.2mAで高抵抗状態(900Ω)へと至る。その後、電流を減らしていき、0電流を超えて、負方向に電流が増えていくと、二つの閾値−0.11mAと−0.39mAで低抵抗状態に戻る。これは、磁化自由層の有効な磁化が、それぞれの反転電流値の大きさに応じて2つあることになり、通常では理解できない現象である。更に詳しく調べると、それぞれの方向での反転電流は、図2の実線と点線で示した組み合わせであることがわかった。この結果は、本実施形態の素子において、磁気抵抗比には現れない複数の磁化状態が「磁化配列の自由度を持つ積層構造」の中に存在している(これにより磁化自由層の有効磁化が変わって見える)こと、即ち、少なくとも2つのマイナーループが縮退していることを示している。
本実施形態の磁気メモリ素子は、縮退している磁化自由層の磁化状態に応じて、異なる反転電流(又は反転磁界)値を持つという特性を持つ。本実施形態では、更にその反転電流(又は反転磁界)の差を利用し、縮退した磁化状態を判別することで、多値データの読み出しを可能とする。これにより、本実施形態は、磁気メモリ素子の大きさを変えることなく、従来技術とは全く異なる原理で、多値メモリ素子を実現できる。
次に判別する手法を述べる前に、本実施形態の素子の磁化状態について説明する。図2に示した電流−抵抗曲線は、2つのマイナーループ(実線と点線の2つのループ)が、電流方向(図のX軸方向)少しずれて重なっていると理解できる。図3に、電流−抵抗曲線の模式図、即ち重なったマイナーループの模式図を示す。ここで、図3の実線で示したマイナーループをループ1、破線で示したマイナーループをループ2と記す。また、ループ1の低抵抗状態Rlowから高抵抗状態Rhighへの反転電流値をI1、RhighからRlowへの反転電流値をI2、ループ2のRlowからRhighへの反転電流値をI3、RhighからRlowへの反転電流値をI4と記す。図2において、ゼロ電流近傍で2つのループの抵抗値にほとんど差異は見られないが、図3では説明のため、ループ1(実線)をY軸上方に少しずらして記載している。
ループ1では、磁化自由層の磁性層1の磁化が上向きとなり、磁性層2(中間層を介して磁化固定層と対峙)の磁化の向きにより抵抗値が変化(状態B→状態Cに遷移)する。ループ2では、磁化自由層の磁性層1の磁化が下向きとなり、磁性層2の磁化の向きにより抵抗値が変化(状態D→Eに遷移)する。磁性層2の向きと磁化固定層の向きが、平行のとき素子は低抵抗状態Rlowを示し、反平行のとき、素子は高抵抗状態Rhighを示す。磁性層1の向きにより、磁性層2に影響する漏れ磁界の強さが変化するため、2つのループの反転電流(又は反転磁界)に差が現れる。
<実施形態1の素子において多値メモリを読み出す方法>
実施形態1の素子は、ゼロ磁界かつゼロ電流値において、高抵抗状態Rhighで状態C、Eが、低抵抗状態Rlowで状態B、Dが縮退している。図4により、本素子においてそれぞれの状態を判別する手順を説明する。
(1)最初に第1動作として、素子に読み出し電流値IR1の電流を印加し抵抗値を測定し、抵抗状態1を得る。IR1は不等式:I2>IR1>I3を満足する値である。IR1は、ゼロでは測定できないのでゼロあってはならないが、ゼロに近いことが省エネルギーの観点で望ましい。
(2A)抵抗状態1がRlowであったならば、第2動作として、不等式:I1>IR2>I3を満足する電流値IR2の電流パルスを印加し、その後、読み出し電流値IR1の電流を印加し抵抗値を測定し、抵抗状態2を得る。
図4より、素子の磁化状態がループ1であれば素子の磁化は向きが反転しないが、ループ2であれば素子の磁化は向きが反転することがわかる。即ち、「第1動作で測定された抵抗状態1→第2動作での測定された抵抗状態2」の組が、「Rlow→Rlow」であれば状態B、「Rlow→Rhigh」であれば、素子の初期状態は状態Dであると判別できる。付け加えると、磁化反転を伴う後者の場合「Rlow→Rhigh」となる際に、素子の状態は状態Cとなり、初期状態は破壊されている。
(2B)抵抗状態1がRhighの場合は、図4には記載していないが、第2動作として、逆方向に不等式:I2>IR3>I4を満足する電流値IR3の電流パルスを印加し、その後、読み出し電流値IR1の電流を印加し抵抗値を測定し、抵抗状態2を得る。「第1動作で測定された抵抗状態1→第2動作での測定された抵抗状態2」の組が、「Rhigh→Rlow」であれば状態C、「Rhigh→Rhigh」であれば状態Eであると判別できる。このようにして、縮退した2つの状態を判別することができ、読み出しができる。
2つの抵抗状態の組と、磁化状態(データ表現)との関係を次の表1にまとめる。
Figure 2015088669
本実施形態の素子は、高抵抗状態Rhighと低抵抗状態Rlow状態のそれぞれについて2つの状態が縮退しているので、上述した読み出し方法により、1素子当たり4つの異なる磁化状態(状態B〜E)を判別することが可能である。つまり、本実施形態の素子は、4値のデータ(0〜3)を記録可能なメモリ素子と言える。
本実施形態では、4値のデータを読み出すために、最大2回の動作(工程)を必要とし、一見遅いように思える。しかしながら、磁気抵抗素子の動作は、読み込み・書き込みともに数十ナノ秒であり、ストレージメモリのアクセス速度としては極めて速いので、この複数回の工程は欠点とはならない。少なくとも、大容量ストレージとしての用途では、本実施形態の素子は極めて有用である。従来のNANDフラッシュメモリの速度は、読み出しは数十ナノ秒であるが、書き込みは1ミリ秒程度であり、本実施形態の磁気メモリ素子が優れていることが分かる。
前述したように、本発明における読み出し方法は、いわゆる「破壊読み出し」であり、データが破壊(消去)されるので、望む場合には、その後、同じデータを書き込む必要がある。次にその書き込む方法を説明する。
<実施形態1の素子において多値メモリを書き込む方法>
図5により、本実施形態のメモリ素子に4値のデータ(0〜3)を書き込むことが可能であることを説明する。本素子に、第1動作として、不等式:IW>I1を満足する書き込み電流値IWの電流パルスを印加すると、磁化自由層の磁性層1の磁化が上向きになり(ループ1のみが許される磁化配列となるため)、状態Cが実現する。この後、第2動作として、反対方向に不等式:I2>IW>I4を満足する書き込み電流値IWの電流パルスを印加すると、磁化自由層の磁性層2が反転し状態Bが実現する。
図5には記載していないが、同様に、第1動作として、不等式:I4>IWを満足する書き込み電流値IWの電流パルスを印加すると、磁化自由層の磁性層1の磁化が下向きとなり(ループ2のみが許される磁化配列となるため)、状態Dが実現する。この後、第2動作として、反対方向に不等式:I1>IW>I3を満足する書き込み電流値IWの電流パルスを印加すると、磁化自由層の磁性層2が反転し状態Eが実現する。
電流値と状態の関係を次の表2にまとめる。
Figure 2015088669
表2に示したように、1つ又は2つの電流パルス(又は連続した電流)を印加することにより、4つの独立したて状態(状態B〜E)を実現する(書き込む)ことができる。即ち、本実施形態の磁気メモリ素子に4値のデータ(0〜3)を書き込み(記録)することができる。
(実施例1)
図1−Aに示す構造を持つ垂直磁化型トンネル磁気抵抗素子を製作した。熱酸化シリコン基板上にトンネル磁気抵抗素子用の多層膜を、スパッタ法を用いて製膜した。
多層膜の構成は、
熱酸化シリコン基板/
下部電極層(Cuなどの金属で100nm程度)/
バッファ層(Taなどの金属で10nm程度)/
磁化固定層(CoPt積層膜2.4nm/Ru 0.9nm/CoPt積層膜1.3nm/FeB 1.0nm)/
障壁層(MgO 1nm)/
磁化自由層(FeB 1nm/MgO 1nm/FeB 2nm)/
上部電極層(Ta 5nm/Ru 7nm)
である。
その後、フォトリソグラフィーや電子線リソグラフィーによる微細加工を行い、直径90nm〜100nmの円柱状に加工し、微小トンネル磁気抵抗素子を得た。本素子の1つ又は複数をメモリ単位として本実施例の多値記録型磁気メモリ素子とする。本素子の抵抗を測るために0.1mAのバイアス電流(=読み出し電流値)を与えた。素子の抵抗は、低抵抗状態(Rlow)で424Ω、高抵抗状態(Rhigh)で900Ω、磁気抵抗比が112%であった。また、本素子の電流−抵抗曲線を測定すると、図3で示した電流値に対応する値は、I1=1.23mA、I2=−0.11mA、I3=0.88mA、I4=−0.39mAであった。
次に本素子に4つのデータ(0〜3)の書き込みを行った。方法は上記<実施形態1の素子において多値メモリを書き込む方法>に記した通りである。但し、具体的な電流パルスの電流値IWは次の表3に示す。パルス幅は200ナノ秒である。
Figure 2015088669
次に本素子からデータを読み出した。方法は上記<実施形態1の素子において多値メモリを読み出す方法>に記した通りである。但し、具体的な読み出し電流値IR1は0.10mAであり、電流パルスIR2は1.05mAであり、電流パルスIR3は−0.25mAであり、その時のパルス幅は200ナノ秒である。測定された抵抗状態1と抵抗状態2を次の表4に示す。
Figure 2015088669
(実施形態2)
本実施形態を図6乃至10を参照して以下説明する。図6は、本実施形態にかかる磁気メモリ素子の磁気抵抗素子の断面模式図である。図6−Aに、磁気抵抗素子の層構造を示す。本実施形態の磁気抵抗素子は、上部電極層11、磁性層(磁化自由層12)、中間層13、磁性層3、非磁性層27、磁性層4、下部電極層15の順に積層された層構造を有する。磁化自由層12が磁性層から構成され、磁化固定層14が磁性層3と非磁性層27と磁性層4とから構成される。本実施形態の素子は、実施形態1(図1)の素子と異なり、磁気固定層に「磁化配列の自由度を持つ積層構造」を持ち、ゼロ磁界かつゼロ電流値において磁性層3と磁性層4の磁化の向きが反平行又は平行になることを特徴とする。中間層13が障壁層(トンネル障壁層)であるトンネル磁気抵抗素子の例である。
本実施形態の素子は、磁化固定層の「磁化配列の自由度を持つ積層構造」に磁化配列の自由度を持ち、そのため電流−抵抗曲線のマイナーループが縮退している。その磁化配列の組み合わせを図6−B,C,D,Eに示す。状態Bと状態Eで、素子は同一の(又はほとんど区別できない)抵抗値を示し、同じく状態Cと状態Dで、素子は同一の(又はほとんど区別できない)抵抗値を示す。障壁層を挟む2つの磁性層の磁化配列(平行又は反平行)から、状態B、Eが高抵抗状態Rhigh、状態C、Dが低抵抗状態Rlowを示す。
また、本素子に、十分大きな磁界又は電流を与えると、図6−F、Gに示すように、すべての磁性層の向きが揃う。当然に障壁層を挟む2つの磁性層の磁化配列は平行になるので、素子は低抵抗状態Rlowを示す。
後述する実施例2に詳細に示すが、発明者らは、図6−Aに示す構造を持つ垂直磁化型トンネル磁気抵抗素子を製作し、その磁化反転の特性(外部磁界による抵抗変化)を測定した。素子の構成は、基板/電極層/バッファ層/「CoPt多層膜・Ru・CoPt多層膜・FeB膜からなる磁化固定層」/MgO障壁層/「FeB膜からなる磁化自由層」/電極層である。実施例2では「CoPt多層膜・Ru・CoPt多層膜・FeB膜からなる磁化固定層」が本実施形態の機能を提供する「磁化配列の自由度を持つ積層構造」である。素子の大きさは概ね100ナノメートル径、抵抗値は低抵抗状態Rlowで204Ω、高抵抗状態Rhighで379Ω、磁気抵抗比が86%であった。
図7に、実施例の素子の磁気抵抗曲線(磁界−抵抗曲線)を示す。明瞭に2つのマイナーループが縮退していることがわかる。
<実施形態2の素子のマイナーループ>
図8により、本実施形態の素子の磁化状態について説明する。本実施形態では、実施形態1とは異なり、磁界を変えることによりマイナーループを操作する例を示す。ここで、実線で示したループをループ1、破線で示したループをループ2と記す。それぞれのループは4つの反転磁界値を示すが、反転磁界の絶対値の小さなほうがマイナーループの反転閾値であり、絶対値の大きなほうが磁化固定層に含まれる「磁化配列の自由度を持つ積層構造」の磁化配列が変化する磁界である。
ここで、ループ1のマイナーループでのRlowからRhighへの反転磁界値をH1、RhighからRlowへの反転磁界値をH2、と記す。同じく、ループ2のマイナーループでのRlowからRhighへの反転磁界値をH3、RhighからRlowへの反転磁界値をH4と記す。図7に示したように、ゼロ磁界近傍で2つのループの抵抗値にほとんど差異はないが、図8では説明のため、ループ1をY軸上方に少しずらして記載している。
ループ1では、磁化固定層の磁性層3と磁性層4が磁化の向きを突き合わせる反平行配置(図では両者の矢印の頭が向き合う配置)を取る。このとき、障壁層を挟んで対峙する磁性層3と磁化自由層の磁化の向きの相違(平行又は反平行)により、素子の抵抗値が変化(状態DとE間を双方向に遷移)する。
ループ2では、磁化固定層の磁性層3と磁性層4が磁化の向きをそらせる反平行配置(図では両者の矢印の尻が向き合う配置)を取る。このとき、障壁層を挟んで対峙する磁性層3と磁化自由層の磁化の向きの相違(平行又は反平行)により、素子の抵抗値が変化(状態BとC間を双方向に遷移)する。
5、H6は、それぞれ状態F、状態Gへ転移するための閾値磁界である。不等式:H>H5を満足する磁界Hを素子に印加すると、磁化の向きがすべて上向きに揃い、状態Fとなる。その後、磁界を0に戻すと、磁化固定層の磁性層3が反転し状態Eとなる。反対に不等式:H6>Hを満足する磁界Hを素子に印加すると、磁化の向きがすべて下向きに揃い、状態Gとなる。その後、磁界を0に戻すと、状態Bとなる。
<実施形態2の素子において多値メモリを読み出す方法>
実施形態2の素子は、ゼロ磁界かつゼロ電流値において、高抵抗状態Rhigh状態で状態B、Eが、低抵抗状態Rlow状態で状態C、Dが縮退している。図9により、本素子においてそれぞれの状態を判別する(読み出す)手順を説明する。以下の手順においては、抵抗値を読むための0でないバイアス電流(又は電流パルス)を与えているものとする。また、バイアス電流は、この磁気抵抗素子において、スピン注入磁化反転が起きない程度に小さいことが望ましい。また、バイアス電流は、ゼロでは測定できないのでゼロあってはならないが、ゼロに近いことが省エネルギーの観点で望ましい。
(1)最初に第1動作として、ゼロ磁界において抵抗値を測定し、抵抗状態1を得る。
(2A)抵抗状態1がRhighであったならば、第2動作として、不等式:H1>HR1>H4を満足する磁界値HR1の磁界を印加した後、抵抗値を測定し、抵抗状態2を得る。図9より、素子の磁化状態がループ1であれば素子は反転しないが、ループ2であれば素子は反転することがわかる。即ち、「抵抗状態1→抵抗状態2A」の組が「Rhigh→Rhigh」であれば、素子は状態E、「Rhigh→Rlow」であれば、素子の初期状態は状態Bであると判別できる。付け加えると、磁化反転を伴う後者の場合「Rhigh→Rlow」となる事で、素子の状態は状態Cとなり、初期状態は破壊されている。
(2B)抵抗状態1がRlowであったならば、図9には記載していないが、同様にして、第2動作として、不等式:H5>HR2>H1を満足する磁界値HR2の磁界を印加した後、抵抗値を測定し、抵抗状態2を得る。「抵抗状態1→抵抗状態2」の組が
「Rlow→Rlow」であれば、素子は状態C、「Rlow→Rhigh」であれば、素子は状態Dであると判別できる。
実施形態2の素子では、負方向の磁界を用いても、縮退した2つの状態を判別することができる。例えば、抵抗状態1がRhighの場合、第2動作として、H2>HR3>H3を満足する磁界値HR3の磁界を印加した後、抵抗値を測定し、抵抗状態2Bを得る。この抵抗状態2Bが、(1)Rlowであれば、素子は状態Bであると判別でき、(2)Rhighであれば、素子は状態Eと判別することができる。
以上の読み出し方法により、素子の4つの独立した状態(状態B〜E)を判別(読み出し)することができる。換言すれば、素子の4値のデータ(0〜3)を読み出すことができると言える。
抵抗状態と磁化状態の関係を次の表5にまとめる。
Figure 2015088669
<実施形態2の素子において多値メモリを書き込む方法>
図10により、実施形態2の素子に4値のデータ(0〜3)を書き込むことが可能であることを、説明する。
初めに不等式:H>H5を満足する磁界Hを素子に印加すると、磁化の向きがすべて上向きに揃い、状態Fが生じる。そして、磁界を0に戻すと、磁化固定層の磁性層3が反転し状態Eが生じる。(即ち、第1動作として、不等式:HW>H5を満足する磁界値HWの磁界を印加すると、状態Eが生じる。)
状態Eを実現した後、第2動作としてH2>HW>H6となる磁界を与えると、磁化自由層の磁性層が反転し状態Dに遷移する。
逆に、図10には記載していないが、不等式:H6>Hを満足する磁界Hを素子に印加すると、磁化固定層と磁化自由層のすべての磁性層が下向きに揃い、状態Gが生じる。その後、磁界をゼロにすると状態Bが生じる。(即ち、第1動作として、不等式:H6>HWを満足する磁界値HWの磁界を印加すると、状態Bが生じる。)
状態Bが実現した後、第2動作としてH5>HW>H4となる磁界を与えると、磁化自由層の磁性層が反転し、状態Cに転移する。
電流値と状態の関係を次の表6にまとめる。
Figure 2015088669
このように、1つ又は2つの連続した磁界(又は磁界パルス)を与えることで、4つの独立した状態(状態B〜E)を実現する(書き込む)ことができる。換言すれば、素子に4値のデータ(0〜3)を書き込むことができると言える。
(実施例2)
図6−Aに示す構造を持つ垂直磁化型トンネル磁気抵抗素子を作製した。熱酸化シリコン基板上にトンネル磁気抵抗素子用の多層膜を、スパッタ法を用いて製膜した。
多層膜の構成は、
熱酸化シリコン基板/
下部電極層(Cuなどの金属で100nm程度)/
バッファ層(Taなどの金属で10nm程度)/
磁化固定層(CoPt積層膜2.4nm/Ru 0.9nm/CoPt積層膜1.3nm/FeB 1.0nm)/
障壁層(MgO 1nm)/
磁化自由層(FeB 1nm)/
キャップ層(MgO 1nm)/
上部電極層(Ta 5nm/ Ru 7nm)
である。
その後、フォトリソグラフィーや電子線リソグラフィーによる微細加工を行い、直径90nm〜100nmの円柱状に加工し、微小トンネル磁気抵抗素子を得た。本素子の1つ又は複数をメモリ単位として本実施例の多値記録型磁気メモリ素子とする。本素子の抵抗値を測るために1μA(=読み出し電流値)のバイアス電流を与えた。素子の抵抗値は、低抵抗状態Rlowが204Ω、高抵抗状態Rhighが379Ω、磁気抵抗比が86%であった。また、この素子の磁界‐抵抗曲線(図7に提示)を測定すると、図8で示した磁界値に対応する値は、H1=690Oe、H2=−280Oe、H3=−800Oe、H4=285Oe、H5=3260Oe、H6=−3300Oeであった。
次に本素子に4つのデータ(0〜3)の書き込みを行った。方法は上記<実施形態2の素子において多値メモリを書き込む方法>に記した通りである。但し、具体的な磁界値HWは次の表7に示す。
Figure 2015088669
次に本素子からデータを読み出した。方法は上記<実施形態2の素子において多値メモリを読み出す方法>に記した通りである。但し、第1動作としての磁界値HR1は500Oeであり、第2動作としての磁界値HR2は1000Oeである。測定された抵抗状態1と抵抗状態2を次の表8に示す。
Figure 2015088669
(実施形態3)
本実施形態は、実施形態1と実施形態2を組み合わせる構成である。本実施形態を図11乃至14を参照して以下説明する。図11は、本実施形態にかかる磁気メモリ素子の磁気抵抗素子の断面模式図である。図11−Aに、磁気抵抗素子の層構造を示す。本実施形態の磁気抵抗素子は、上部電極層11、磁性層1、非磁性層37、磁性層2、中間層13、磁性層3、非磁性層47、磁性層4、下部電極層15の順に積層された層構造を有する。磁化自由層12が磁性層1と非磁性層37と磁性層2とから構成され、磁化固定層14が磁性層3と非磁性層47と磁性層4とから構成される。中間層13は、例えば(障壁層(トンネル障壁層))であり、本磁気抵抗素子は、「磁化自由層12/中間層13(障壁層(トンネル障壁層))/磁化固定層14」の3層を一対の電極層(上部電極層11、下部電極層15)で挟んだ構造を備えるトンネル磁気抵抗素子である。本実施形態の素子は、実施形態1及び2に比べ、磁化自由層と磁化固定層の両方に、「磁化配列の自由度を持つ積層構造」を備え、少なくともどちらか一方の「磁化配列の自由度を持つ積層構造」がゼロ磁界において反強磁性配置を持つことを特徴とする。
本素子は、磁化固定層の「磁化配列の自由度を持つ積層構造」と磁化自由層の「磁化配列の自由度を持つ積層構造」の両方に、磁化配列の自由度を持ち、電流−抵抗曲線のマイナーループが、ゼロ磁界かつゼロ電流において、4重に縮退している。その磁化配列の組み合わせを図11−B,C,D,E,F,G,H,Iに示す。状態B,D,G,Iでは、障壁層を介して対峙する磁性層2と磁性層3の磁化の向きが反平行であり、そのため素子は高抵抗状態Rhighを示す。そして、それらの状態での抵抗値は同一又はほぼ同一(ほとんど区別できない)である。他方、状態C,E,F,Hでは、磁性層2と磁性層3の磁化の向きが平行であり、そのため素子は低抵抗状態Rlowを示す。また、本磁気メモリ素子に、十分大きな磁界または電流を与えると、図11−J,Kに示すように、すべての磁性層の向きが揃い、当然に磁性層2と磁性層3の磁化の向きが平行であり、そのため素子は低抵抗状態Rlowを示す。
図12により、実施形態3の素子の磁化状態について説明する。図12に示すように、本素子は縮退した4つのマイナーループを持つ。ここで、実線で示したループをループ1、一点鎖線で示したループをループ2、破線で示したループをループ3、二点鎖線で示したループをループ4と記す。また、ループ1のRlowからRhighへの反転電流値をI1、RhighからRlowへの反転電流値をI2、ループ2のRlowからRhighへの反転電流値をI3、RhighからRlowへの反転電流値をI4、ループ3のRlowからRhighへの反転電流値をI5、RhighからRlowへの反転電流値をI6、ループ4のRlowからRhighへの反転電流値をI7、RhighからRlowへの反転電流値をI8、と記す。ゼロ電流近傍で4つのループの抵抗値にほとんど差異はないが、図12では説明のため、それぞれのループをY軸上方に少しずつずらして記載している。
ループ1では、磁化自由層の磁性層1の磁化が上向きになり、磁化固定層の磁性層3の磁化の向きと磁性層4の磁化の向きが突き合わせる配置(図11では両者の矢印の頭が向き合う)を取り、それらの向きが反平行(状態D、高抵抗状態Rhigh)か、平行(状態E、低抵抗状態Rlow)か、で抵抗値が変わる。他のループでも、同様な機構で抵抗値が変化する。
9、I10は、それぞれ、状態J、状態Kへ転移するための閾値電流である。不等式:I>I9を満足する電流値Iの電流を素子に印加すると、磁化の向きがすべて上向きに揃う(状態J)。その後、電流をゼロに戻すと、磁化固定層の中の磁性層3と4の磁化の向きが向き合う配置(図12では矢印の頭が向き合う配置)になり、状態Bが生じる。反対に、I10>Iを満足する電流値Iの電流を素子に印加すると、磁化の向きがすべて下向きに揃う(状態K)。その後、電流をゼロに戻すと、状態Iが生じる。
<実施形態3の素子において多値メモリを読み出す方法>
実施形態の素子は、ゼロ磁界かつゼロ電流値において、高抵抗状態(Rhigh)で状態B,D,G,Iが、低抵抗状態(Rlow)で状態C,E,F,Hが縮退している。図13により、本素子においてこれら8個の状態を判別する手順を説明する。
(1)最初に、第1動作として、素子に読み出し電流値IR1の電流パルスを印加し抵抗値を測定し、抵抗状態1を得る。IR1は、不等式:I6>IR1>I4を満足する値である。IR1は、ゼロでは測定できないのでゼロあってはならないが、ゼロに近いことが省エネルギーの観点で望ましい。
(2)抵抗状態1がRhighであったならば、第2動作として、不等式:I9>IR2>I8を満足する電流値IR2の電流パルスを印加した後、読み出し電流値IR1の電流を印加し抵抗値を測定し、抵抗状態2を得る。図13より、抵抗状態2がRhighであれば、素子の磁化状態はループ1又はループ2、抵抗状態2がRlowであれば、ループ3又はループ4であると判別できる。
(3)抵抗状態1がRhighで抵抗状態2がRhighであったならば、第3動作として、不等式:I4>IR3>I2を満足する電流値IR3の電流パルスを印加した後、読み出し電流値IR1の電流を印加し抵抗値を測定し、抵抗状態3を得る。抵抗状態3がRhighであれば素子は状態D、抵抗状態3がRlowであれば素子は状態Bと判別できる。
(4)抵抗状態1がRhighで抵抗状態2がRlowであったならば、第3動作として、不等式:I7>IR3>I5を満足する電流値IR3の電流パルスを印加した後、読み出し電流値IR1の電流を印加し抵抗値を測定し、抵抗状態3を得る。抵抗状態3がRhighであれば素子は状態G、抵抗状態3がRlowであれば素子は状態Iと判別できる。
(5)図12には記載していないが、同様の手順によって、3つの抵抗状態(抵抗状態1、抵抗状態2、抵抗状態3)から、状態C,E,F,Hを判別することが可能である。
抵抗状態と状態の関係を次の表9にまとめる。
Figure 2015088669
以上の読み出し方法により、素子の8つの独立した状態(状態B〜I)を判別(読み出し)することができる。換言すれば、素子の8値のデータ(0〜7)を読み出すことができると言える。
<実施形態3の素子において多値メモリを書き込む方法>
図14により、実施形態3の素子に8値のデータ(0〜7)を書き込むことが可能であることを説明する。本素子に不等式:I>I9を満足する電流を印加すると、磁化固定層と磁化自由層のすべての磁性層が上向きとなり、状態Jが生じる。その後、電流を0にすると状態Bが生じる。
そこで、第1動作として、素子に不等式:IW>I9を満足する電流値IWの電流パルスを印加する。これにより状態Bが生じる。状態Bを実現した後、第2動作として、素子に不等式:I4>IW>I2を(又はI2>IW>I7)を満足する電流値IWの電流パルスを印加する。これにより状態C(又は状態E)が生じる。状態Eを実現した後、第3動作として、不等式:I3>IW>I1を満足する電流値IWの電流パルスを印加する。これにより状態Dが生じる。こうして、第1動作から第3動作により、4つの状態B,C,D,Eを実現すること(データの書き込み)ができる。
他方、図14には示していないが、本素子に不等式:I10>Iを満足する電流を印加すると、磁化固定層と磁化自由層のすべての磁性層が下向きとなり、状態Kが生じる。その後、電流を0にすると状態Iが生じる。そこで、今度は第1動作として、素子に不等式:I10>IWを満足する電流値IWの電流パルスを印加する。これにより状態Iが生じる。状態Iを実現した後、第2動作として、素子に不等式:I8>IW>I6(又はI1>IW>I8)を満足する電流値IWの電流パルスを印加する。これにより状態H(又は状態F)が生じる。状態Hを実現した後、第3動作として、素子に不等式:I7>IW>I5を満足する電流値IWの電流パルスを印加する。これにより状態Gが生じる。こうして、第1動作から第3動作により、4つの状態I,H,F,Gを実現すること(データの書き込み)ができる。
電流値と状態の関係を次の表10にまとめる。
Figure 2015088669
こうして、第1〜第3動作により、素子に8個の独立した状態(B〜I)を実現する(書き込む)ことができる。換言すれば、素子に8値のデータ(0〜7)を書き込むことができると言える。
上記実施形態等で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。
本発明によれば、磁気メモリ素子の大きさを変えることなく、かつ単一の閾値で判別できる2つの抵抗状態(高抵抗状態と低抵抗状態)のみで、磁気メモリ素子の容量を2倍以上にすることができ、結果として、大容量の不揮発メモリを提供することが可能となり、産業上有用である。
1、2、3、4 磁性層
11 上部電極層
12 磁化自由層
13 中間層
14 磁化固定層
15 下部電極層
17、27、37、47 非磁性層

Claims (6)

  1. 磁化固定層、中間層及び磁化自由層を備える磁気抵抗素子をメモリ単位とする多値型磁気メモリ素子であって、
    前記磁化自由層及び前記磁化固定層のうちの少なくとも一方が、磁化配列の自由度を持つ積層構造を有し、
    前記磁気抵抗素子は、磁界−抵抗曲線の縮退した複数のマイナーループを有し、2つの抵抗状態を有することを特徴とする多値型磁気メモリ素子。
  2. 前記磁化配列の自由度を持つ積層構造が、第1の強磁性層、非磁性層及び第2の強磁性層を少なくとも有し、前記第1及び第2の強磁性層が磁気的に結合して、前記第1及び第2の強磁性層の磁化の向きが平行又は反平行で安定状態を保っていることを特徴とする請求項1記載の多値型磁気メモリ素子。
  3. 磁化固定層、中間層及び磁化自由層を備える磁気抵抗素子をメモリ単位とする多値型磁気メモリ素子であって、
    前記磁気抵抗素子が、単一の閾値で判別できる、低抵抗状態と高抵抗状態を有し、
    前記磁気抵抗素子は、所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する前の第1の抵抗状態と印加した後の第2の抵抗状態が、前記低抵抗状態と前記高抵抗状態の4通りの組み合わせであることを特徴とする多値型磁気メモリ素子。
  4. 磁化固定層、中間層及び磁化自由層を備える磁気抵抗素子をメモリ単位とする多値型磁気メモリ素子を有する磁気メモリ装置であって、
    前記磁気抵抗素子が、単一の閾値で判別できる、低抵抗状態と高抵抗状態を有し、
    前記磁気抵抗素子は、所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する前の第1の抵抗状態と印加した後の第2の抵抗状態が、前記低抵抗状態と前記高抵抗状態の4通りの組み合わせであり、
    前記磁気抵抗素子の、前記第1の抵抗状態と、前記第2の抵抗状態を保持し、第1の抵抗状態と第2の抵抗状態との組み合わせから4値の情報を得る回路と、
    前記磁気抵抗素子に、電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する回路を備える、
    ことを特徴とする磁気メモリ装置。
  5. 磁化固定層、中間層及び磁化自由層を備える磁気抵抗素子をメモリ単位とする多値型磁気メモリ素子であって、
    前記磁気抵抗素子が、単一の閾値で判別できる、低抵抗状態と高抵抗状態を有し、
    前記磁気抵抗素子は、第1の所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する前の第1の抵抗状態と印加した後の第2の抵抗状態と、第2の所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加した後の第3の抵抗状態が、前記低抵抗状態と前記高抵抗状態の8通りの組み合わせである、
    ことを特徴とする多値型磁気メモリ素子。
  6. 磁化固定層、中間層及び磁化自由層を備える磁気抵抗素子をメモリ単位とする多値型磁気メモリ素子を有する磁気メモリ装置であって、
    前記磁気抵抗素子が、単一の閾値で判別できる、低抵抗状態と高抵抗状態を有し、
    前記磁気抵抗素子は、第1の所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する前の第1の抵抗状態と印加した後の第2の抵抗状態と、第2の所定の電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加した後の第3の抵抗状態が、前記低抵抗状態と前記高抵抗状態の8通りの組み合わせであり、
    前記磁気抵抗素子の、前記第1の抵抗状態と、前記第2の抵抗状態と前記第3の抵抗状態を保持し、前記第1、第2及び第3の抵抗状態の組み合わせから8値の情報を得る回路と、
    前記磁気抵抗素子に、電流、磁界及び電圧のうちの少なくとも一つ以上を印加する回路を備える、
    ことを特徴とする磁気メモリ装置。
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