JP2015044236A - 立向溶接の作業性に優れた高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ワイヤ全質量に対する質量%で、MnOが1.0%以上6.0%以下で、CaOが1.0%以上、6.0%以下でそれぞれ含有されること、N(X):ワイヤ全質量に対する元素Xの質量%とした時、式[Pcm=N(C)+N(Si)/30+N(Mn)/20+N(Cu)/20+N(Ni)/60+N(Cr)/20+N(Mo)/15+N(V)/10+5N(B)]で定義されるPcmの値が0.15%以上、0.40%以下の範囲であること、且つPとSの合計質量が0.040%以下に制限されていることの条件を満たし、残部がFe、アーク安定剤、及び不可避不純物であるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤとする。
【選択図】図4
Description
溶接金属の形状が凸形状となると、後続パスを溶接する際に、溶接金属の止端部4、4で融合不良を生じやすくなるため、融合不良を回避するには、溶接金属をグラインダー等で研削して、図3に示すように溶接金属3の表面を平滑化してから後続パスを溶接するなどの作業が必要となる。しかし、このような作業を行うことは、溶接施工能率の観点から大きな障害となる。
(a)MnOがワイヤ全質量に対する質量%で1.0%以上、6.0%以下で含有されること。
(b)CaOがワイヤ全質量に対する質量%で1.0%以上、6.0%以下で含有されること。
(c)下記の式(1)で定義されるPcmの値が0.15%以上、0.40%以下の範囲であり、且つPとSの合計質量がワイヤ全質量に対する質量%で0.040%以下に制限されていること。
Pcm=N(C)+N(Si)/30+N(Mn)/20+N(Cu)/20+N(Ni)/60+N(Cr)/20
+N(Mo)/15+N(V)/10+5N(B) ・・・式(1)
ここで、N(X):ワイヤ全質量に対する元素Xの質量%。
(d)残部がFe、アーク安定剤、及び不可避不純物であること。
[2] さらに、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2のうち1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で5.0%以下であることを特徴とする上記[1]に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[3] さらに、Si酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、B酸化物、Zr酸化物、Fe酸化物、MnOを除くMn酸化物の1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で4.0%以下であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[4] さらに、金属状態のAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laのうち1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対して2.0%以下であることを特徴とする上記[1]〜[3]の何れかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[5] さらに、MgCO3、CaCO3、SrCO3、BaCO3、MnCO3の1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で4.0%以下であることを特徴とする上記[1]〜[4]の何れかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[6] さらに、MgO、SrO、BaOの1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で3.2%以下であることを特徴とする上記[1]〜[5]の何れかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[7] さらに、Nbがワイヤ全質量に対する質量%で0.1%以下の範囲で含有されることを特徴とする上記[1]〜[6]の何れかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[8] 前記鋼製外皮にスリット状の隙間が無いことを特徴とする上記[1]〜[7]の何れかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[9] 前記鋼製外皮にスリット状の隙間があることを特徴とする上記[1]〜[7]の何れかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
立向溶接における溶接金属の形状評価においては、一般的に広く普及している測定方法がないため、本発明者らは溶接金属の形状を評価できる測定方法について検討し、以下のような方法を考案した。
即ち、図4に示すように角度90°で配置された鋼板1、1によって形成される角部2を開先として立向上進溶接を行い、得られた溶接金属3の両止端部4、4を結んだ線Aと、溶接金属3の凸部頂点5を通過し、線Aと並行な線Bとの間の距離をdceとして、このdce値を溶接金属の断面から測定して、溶接金属の形状を評価するようにした。
以下、そのような知見が得られた実験結果の一例を示す。なお、以降の説明において、「%」は特に説明がない限り、「質量%」を意味し、各成分の含有量は、ワイヤ全質量に対する質量%を意味するものとする。
先ず、鋼製外皮内に充填されるフラックス成分及びその他の成分について説明する。
MnOは、上記のように平滑な溶接金属形状を形成する作用があり、その目的でフラックス中に添加する。MnOの含有量が1.0%未満の場合には、含有量が少なすぎて立向溶接において溶接金属が凸形状となる場合がある。また、含有量が6.0%を超えるとアークが不安定となり溶融池が激しく振動する場合がある。このため、平滑な溶接金属形状が得られにくくなり凸形の溶接金属形状となり易い。以上の理由により、MnOは1.0%以上、6.0%以下と規定した。また、MnOの含有量が1.6%以上、5.5%以下の場合は溶接金属形状を平滑化する効果が明瞭であり好ましい。更に、含有量が2.6%以上、5.0%以下に制限されている場合は、溶接金属形状を平滑化する効果が特に明瞭に発現するため、尚一層好ましい。MnOは塩基性物質であり、ワイヤ中に含まれていても溶接金属酸素量を著しく増加させることは無い。このため、溶接金属の靭性は非常に良好である。
CaOはMnOと同様に塩基性物質であり、ワイヤ中に含まれていても溶接金属酸素量を著しく増加させることは無い。立向溶接においてはスラグで溶融池を保持することが極めて重要であり、スラグの融点は高温であることが必要である。CaOは高融点物質であるため、MnOと共に用いてスラグの融点を高温化するのに有効である。
Pcm=N(C)+N(Si)/30+N(Mn)/20+N(Cu)/20+N(Ni)/60+N(Cr)/20
+N(Mo)/15+N(V)/10+5N(B) ・・・式(1)
ここで、N(X):ワイヤ全質量に対する元素Xの質量%。
式(1)はPcmとして広く知られている式であり(溶接学会編:「溶接・接合技術概論」、産報出版、東京、(1998)118頁参照)、溶接金属の焼き入れ性を評価できる式である。
なお、式(1)では溶接金属の焼入れ性を議論しているので、酸化物、弗化物、炭酸塩として含有される元素は対象外である。
これらの弗化物は溶接継手における拡散性水素量を低減する効果を発現するので、その1種または2種以上を本発明のワイヤに含有することができる。しかしながら、5.0%を超えて含有されると、ヒューム発生量が多くなり、溶接作業環境に悪影響を生じやすくなる。このため、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2の1種または2種以上の合計質量は5.0%以下と規定した。また、ヒューム発生量を低減したい意向を有する溶接作業現場で本発明のワイヤを使用する場合は、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2の1種または2種以上の合計質量は3.0%以下が好ましく、ヒューム発生量を特に気にする溶接作業現場で本発明のワイヤを使用する場合は、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2の1種または2種以上の合計質量は1.0%未満以下が更に好ましい。尚、拡散性水素の低減効果を明瞭に得るにはMgF2、CaF2、SrF2、BaF2の1種または2種以上の合計含有量は0.2%以上が好ましい。
これらの酸化物がスラグ中に含まれると、溶接金属の酸素量が増加し、溶接金属の靭性が劣化する場合があることが知られている。従って、溶接金属の靭性確保の観点からは、これら酸化物の含有量は極力低く抑制されることが好ましい。しかしながら、これらの酸化物は溶接金属をスラグが包皮する際に、包皮の均一性を高めるため、スラグ剥離を容易とする効果がある。
金属状態のAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laは何れも強力な脱酸作用を有し、溶接金属の低酸素化に有効な元素であることが知られており、これらの元素の1種または2種以上の含有量の合計値が2.0%以下の範囲で添加できる。この脱酸効果を明瞭に発現するためには、Al、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laの合計含有量が0.2%以上であることが好ましい。一方、Al、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、La合計量が2.0%を超えて含有されるとM−A組織のような極所的硬質組織が生成し溶接金属の靭性が劣化する。このため、金属状態のAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laの合計含有量は2.0%以下と定めた。
本発明のワイヤには、炭酸塩としてCaCO3、MgCO3、SrCO3、BaCO3、MnCO3の1種又は2種以上を含有できる。これらの炭酸塩はアーク熱で熱分解してワイヤ内部から炭酸ガスを発生させる。これにより、溶接時にワイヤ先端に形成される溶滴の離脱を容易にし、溶滴を細かくする効果がある。
この効果を明瞭に得るためには、CaCO3、MgCO3、SrCO3、BaCO3、MnCO3の合計含有量が0.2%以上であることが好ましい。一方、CaCO3、MgCO3、SrCO3、BaCO3、MnCO3の1種又は2種以上の含有量の合計が4.0%を超えると炭酸ガスの発生が過剰となり、ワイヤ先端に形成される溶滴を吹き飛ばすので逆にスパッタ量が増加する。このためCaCO3、MgCO3、SrCO3、BaCO3、MnCO3の合計含有量はその上限値を4.0%以下とした。
CaCO3→CaO+CO2 ・・・式(2)
MgCO3→MgO+CO2 ・・・式(3)
BaCO3→BaO+CO2 ・・・式(4)
SrCO3→SrO+CO2 ・・・式(5)
MnCO3→MnO+CO2 ・・・式(6)
本発明のワイヤには、先に挙げた酸化物以外の酸化物として、MgO、SrO、BaOを含有できる。これらはスラグの粘性を低下させる働きがあるため、溶融池からのスラグ排出をより容易にする。MgO、SrO、BaOが含有されると溶融池にスラグが滞留せず、速やかに溶接方向の後方へスラグが流れていくので、溶接施工者はより容易に溶融池の位置を確認することができる。しかしながら、これらの含有量が多すぎるとスラグの粘性が著しく低下し、立向溶接で溶融池を保持できず、溶接不能となりやすいので、MgO、SrO、BaOの合計含有量は3.2%以下とした。尚、MgO、SrO、BaOの効果を発現するには、これらの合計含有量で0.1%以上の含有が好ましい。
本発明のワイヤを用いた溶接金属は一般的に多層盛り溶接であり、後続パスの溶接熱影響により、溶接金属の一部に軟化部分を生じる場合がある。この軟化を抑制するためにNbをワイヤ中に含有することができる。この効果を明瞭に得るためには、Nbの含有量が0.01%以上であることが好ましい。一方、Nbの含有量が0.1%を超えるとM−A組織のような硬化組織が過剰に生成し、溶接金属の靭性が劣化する。このため、Nbの含有量はその含有量を0.1%以下とした。
本発明のワイヤでも、従来一般的に用いられている鉄粉、アーク安定剤を含有させることは、何ら制限されるものではなく、それらの成分を必要に応じて外皮内に含有させることにより、フラックス入りワイヤの機能をより高めることができる。以下これらの成分について述べる。
すなわち、まず、外皮となる鋼帯、及び、金属酸化物、金属弗化物、合金成分、金属炭酸塩及びアーク安定剤が所定の含有量になるように配合したフラックスを準備する。鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールによりオープン管(U字型)に成形して鋼製外皮とし、この成形途中でオープン管の開口部からフラックスを供給し、開口部の相対するエッジ面を突合せシーム溶接する。溶接により得られた隙間無しの管を伸線し、伸線途中あるいは伸線工程完了後に焼鈍処理して、所望の線径を有し、鋼製外皮の内部にフラックスが充填されたスリット状の隙間がない(シームレス)ワイヤを得る。また、スリット状の隙間がある(シームを有する)ワイヤは、オープン管の開口部からフラックスを供給した後、シーム溶接をしない隙間有りの管とし、それを伸線することで得られる。
突合せシーム溶接されて作ったスリット状の隙間が無いワイヤを切断した断面は、図9(a)のように見える。この断面は、研磨して、エッチングすれば、溶接跡が観察されるが、エッチングしないと溶接跡は観察されない。そのため、シームレスと呼ぶことがある。溶接学会編「新版 溶接・接合技術入門」(2008年)産報出版、p.111には、シームレスタイプと記載されている。また、図9(b)や図9(c)のように隙間がある場合でも、突合せてから、ろう付けしたり、かしめてから、ろう付けしても、スリット状の隙間が無いワイヤが得られる。なお図9(b)、図9(c)において、ろう付けを施さなかったそのままのワイヤは、図示しているとおり、スリット状の隙間があるワイヤとなる。
表1に示す成分の鋼製外皮用の鋼板を、図6に示すようにU型に成形し、この段階で上部よりフラックスを鋼板のU溝内に充填した後、U型の鋼板をO型へと成形して管状のワイヤ素管とした。スリット状の隙間有りのワイヤでは、このワイヤ素管を伸線工程を経て直径1.2mmφの試作ワイヤに仕上げた。また、スリット状の隙間無しのワイヤでは、ワイヤ素管の鋼製外皮の合わせ目を溶接し、フラックスの吸湿原因となる鋼製外皮のスリット状隙間を無くする工程を経てから伸線を実施し、直径1.2mmφの試作ワイヤへと仕上げた。
各表において、表5のワイヤ番号1からワイヤ番号9のワイヤは、MnOの効果を検証したものである。表7のワイヤ番号10からワイヤ番号18のワイヤは、CaOの効果を検証したものである。表9ワイヤ番号19からワイヤ番号30はワイヤ成分から決定されるPcm値、Nb含有量、及びP、S含有量を検証するものである。
表19のワイヤ番号112からワイヤ番号123は、MgO、SrO、BaOの含有量を検証したものである。表21のワイヤ番号124は上記の各含有物質が複合添加された効果を検証したものである。表23のワイヤ番号125からワイヤ番号149は鋼製外皮のスリットを無くした場合の効果を検証したものである。
第1試験では、試作したワイヤの立向上進溶接の可否、スパッタ発生量、溶接金属形状の平滑さ、及びスラグ剥離性を評価した。第1試験は表3に示す立向姿勢の条件によって立向上進溶接で行った。第1試験に使用した鋼材は、表2に示す成分の10mm厚鋼板であり、これを図1に示すような90°の角度に組み立てて使用した。
第2試験で作製された溶接継手はX線検査で非破壊試験を実施し、溶接欠陥の有無を評価した。X線検査の後に溶接金属から、酸素分析用にピンサンプルを採取し、更にJIS Z 2242 に定める10mmフルサイズのVノッチシャルピー試験片を採取して試験に供した。シャルピー試験片のノッチは溶接金属の中央部に加工した。また、溶接金属の断面を切り出して、図8に示すように鋼板表面から7mm下の位置において溶接金属のビッカース硬度を2mm間隔で測定した。硬度計測に使用した荷重は98Nである。得られたビッカース硬度の最大値と最小値の差を硬度分布の均質性として評価した。
上記の第1試験から第3試験に関する合否基準は、表4に一覧表として記載した。
表5のワイヤを用いてMnO含有量を検証した結果を表6に示す。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号1番から7番では良好な結果が得られて合格となった。特に、MnOの含有量が1.6%以上、5.5%以下であるワイヤ番号2番から6番では溶接金属形状を平滑化する効果が明瞭であり好ましい結果であった。更に、MnO含有量が2.6%以上、5.0%以下であるワイヤ番号3番から5番では、溶接金属形状を平滑化する効果が特に明瞭に発現した尚一層好ましい結果であった。一方、MnO含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号8番と9番は平滑な溶接金属形状が得られず不合格であった。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号10番から16番では良好な結果が得られて合格となった。一方、CaO含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号17番は立向上進溶接が不能であり、ワイヤ番号18番ではスラグ巻込みが発生したため共に不合格であった。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号19番から26番では良好な結果が得られて合格となった。Nbが本発明の範囲で含有されたワイヤ番号24番から26番は、溶接金属内で後続パスの再熱を受けた部分の軟化が抑制されたため、溶接金属内の硬度差が少なくなり、より均質な硬度分布を有する溶接金属が得られた。一方で、Nb含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号27番は溶接金属の靭性が劣化して不合格であった。Pcm値が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号28番と29番も共に溶接金属の靭性が劣化して不合格であった。またPとSの合計含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号30番では溶接金属に割れが認められ、靭性も劣化したため不合格であった。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号31番から47番では良好な結果が得られて合格となった。弗化物の合計含有量が本発明の範囲で0.2%含有されているワイヤ番号32番から35番では拡散性水素を低減する効果が明瞭に発現しており、好ましい結果であった。ワイヤ番号36番から47番では、弗化物の合計含有量が本発明の範囲で0.8%以上であるので、拡散性水素の低減効果が更に明瞭に発現し、尚一層好ましい結果であった。一方、弗化物の合計含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号48番ではヒューム発生量が増加して不合格となった。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号49番から70番では良好な結果が得られて合格となった。特にSi酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、B酸化物、Zr酸化物、Fe酸化物、MnOを除くMn酸化物の合計含有量が本発明の範囲で0.2%以上であるワイヤ番号50番から70番ではスラグ剥離性が向上する好ましい結果であった。一方これらの酸化物が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号71番は溶接金属の酸素が高くなり、溶接金属の靭性が劣化して不合格であった。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号72番から92番では良好な結果が得られて合格となった。特にAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laの合計含有量が本発明の範囲で0.2%以上であるワイヤ番号74番から92番では溶接金属の酸素が低減し、溶接金属の靭性が更に向上する好ましい結果であった。一方、これら脱酸用金属元素の合計含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号93番では溶接金属の靭性が劣化したため不合格となった。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号94番から110番では良好な結果が得られて合格となった。特に、これらの合計含有量が本発明の範囲で0.2%以上であるワイヤ番号95番から110番ではスパッタ発生量が低減しており、より好ましい結果であった。一方これら炭酸塩の合計含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号111番では、スパッタ発生量が増加して不合格となった。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号112番から122番では良好な結果が得られて合格となった。特にMgO、SrO、BaOの合計含有量が0.2%以上であるワイヤ番号113番から122番では、溶接施工時に溶融池の観察がより容易に行うことができ、溶接作業者の作業負荷低減が確認できた。一方、MgO、SrO、BaOの合計含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号123番では立向上進溶接が不可能であり、不合格となった。
2 組み合わされた鋼板の角部
3 溶接金属
4 立向溶接によって形成された溶接金属の止端部
5 立向溶接によって形成された溶接金属の凸部頂点
A 溶接金属の両端の止端部を結ぶ線
B 溶接金属の凸部頂点をとおり線Aに平行な線
dce 線AとBの間の距離(mm)
Claims (9)
- 鋼製外皮にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、以下の(a)から(d)の条件を同時に満足することを特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
(a)MnOがワイヤ全質量に対する質量%で1.0%以上、6.0%以下で含有されること。
(b)CaOがワイヤ全質量に対する質量%で1.0%以上、6.0%以下で含有されること。
(c)下記の式(1)で定義されるPcmの値が0.15%以上、0.40%以下の範囲であり、且つPとSの合計質量がワイヤ全質量に対する質量%で0.040%以下に制限されていること。
Pcm=N(C)+N(Si)/30+N(Mn)/20+N(Cu)/20+N(Ni)/60+N(Cr)/20
+N(Mo)/15+N(V)/10+5N(B) ・・・式(1)
ここで、N(X):ワイヤ全質量に対する元素Xの質量%。
(d)残部がFe、アーク安定剤、及び不可避不純物であること。 - さらに、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2のうち1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で5.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- さらに、Si酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、B酸化物、Zr酸化物、Fe酸化物、MnOを除くMn酸化物の1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で4.0%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- さらに、金属状態のAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laのうち1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対して2.0%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- さらに、MgCO3、CaCO3、SrCO3、BaCO3、MnCO3の1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で4.0%以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- さらに、MgO、SrO、BaOの1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で3.2%以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- さらに、Nbがワイヤ全質量に対する質量%で0.1%以下の範囲で含有されることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- 前記鋼製外皮にスリット状の隙間が無いことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
- 前記鋼製外皮にスリット状の隙間があることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
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