JP2015044236A - 立向溶接の作業性に優れた高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents

立向溶接の作業性に優れた高靭性ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ Download PDF

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【課題】高靭性溶接金属が得られ、且つ立向溶接において溶接金属の形状を凸形状ではなく平滑形状とすることができる溶接用フラックス入りワイヤを提供する。
【解決手段】ワイヤ全質量に対する質量%で、MnOが1.0%以上6.0%以下で、CaOが1.0%以上、6.0%以下でそれぞれ含有されること、N(X):ワイヤ全質量に対する元素Xの質量%とした時、式[Pcm=N(C)+N(Si)/30+N(Mn)/20+N(Cu)/20+N(Ni)/60+N(Cr)/20+N(Mo)/15+N(V)/10+5N(B)]で定義されるPcmの値が0.15%以上、0.40%以下の範囲であること、且つPとSの合計質量が0.040%以下に制限されていることの条件を満たし、残部がFe、アーク安定剤、及び不可避不純物であるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤとする。
【選択図】図4

Description

本発明は、鋼製外皮にフラックスが充填されたガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ(以下、単にワイヤと表記することがある。)に関するもので、特に、立向溶接の作業性に優れ、且つ高靭性な溶接金属が得られるフラックス入りワイヤに関する。
フラックス入りワイヤは、高能率なガスシールドアーク溶接を可能にする溶接材料として広く産業界に普及している。その代表的なワイヤとして、ルチルなどのTi酸化物を主たるスラグ形成材としたルチル系フラックス入りワイヤがある。このルチル系ワイヤは優れた溶接作業性を有しており、下向、立向等の各種溶接姿勢において容易に溶接が施工できる特徴を有している。しかし、このワイヤは、Ti酸化物をワイヤ中に多量に含有することからスラグの塩基度が低くなる。このため溶接金属の酸素量が高くなりやすく、例えば、高強度鋼や低温用鋼などの溶接において、溶接金属の靭性確保がしばしば困難となる。
そこで、種々の溶接姿勢に対応でき、かつ溶接金属の靭性を確保できるワイヤとして、ルチルに代わり、CaO、MgO、SrO、BaO等の酸化物やCaF等の弗化物を主成分として使用するフラックス入りワイヤが提案されている。例えば、本発明者らによる特許文献1では、CaO、CaF、MgO、MgF、SrO、SrF、BaO、BaF等をフラックス成分として含有することで、溶接金属の靭性を向上し、且つ全姿勢溶接を可能にするワイヤが開示さている。また、特許文献2では、BaFや鉄酸化物、Mn酸化物、Zr酸化物などの酸化物を用いて下向と立向姿勢を可能とし、かつ高靭性な溶接金属を得られるワイヤが開示されている。
特許第4834191号公報 特開2008−119748号公報
例えば、図1に示すように組み合わされた鋼板1、1の角部2を溶接する立向上進溶接では、溶接金属3の断面形状が、図2に示すような凸形状となりやすい。
溶接金属の形状が凸形状となると、後続パスを溶接する際に、溶接金属の止端部4、4で融合不良を生じやすくなるため、融合不良を回避するには、溶接金属をグラインダー等で研削して、図3に示すように溶接金属3の表面を平滑化してから後続パスを溶接するなどの作業が必要となる。しかし、このような作業を行うことは、溶接施工能率の観点から大きな障害となる。
本発明者らの検討では、CaOなどの酸化物と弗化物を主要なフラックス成分とするフラックス入りワイヤを用いることにより、溶接金属の垂れ落ちを生じることなく立向上進溶接が実施でき、かつ、高靭性な溶接金属を得ることができるが、溶接金属の形状が凸形状となる場合が認められた。特許文献1、2ではそのような問題については、特に言及されていない。
そこで、本発明はそのような問題点に鑑み、高靭性な溶接金属が得られ、且つ立向溶接において溶接金属の形状を凸形状ではなく平滑形状とすることができるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供することを課題とする。
本発明者らは、上述の課題を解決すべくフラックス入りワイヤに含有するべき新しいフラックス成分を探索した。その過程で、平滑な溶接金属形状を得るためにはワイヤにMnOとCaOを共に含有させることが有効であることを見出した。この検討に基づいてなされた本発明の要旨は次のとおりである。
[1] 鋼製外皮にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、以下の(a)から(d)の条件を同時に満足することを特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
(a)MnOがワイヤ全質量に対する質量%で1.0%以上、6.0%以下で含有されること。
(b)CaOがワイヤ全質量に対する質量%で1.0%以上、6.0%以下で含有されること。
(c)下記の式(1)で定義されるPcmの値が0.15%以上、0.40%以下の範囲であり、且つPとSの合計質量がワイヤ全質量に対する質量%で0.040%以下に制限されていること。
Pcm=N(C)+N(Si)/30+N(Mn)/20+N(Cu)/20+N(Ni)/60+N(Cr)/20
+N(Mo)/15+N(V)/10+5N(B) ・・・式(1)
ここで、N(X):ワイヤ全質量に対する元素Xの質量%。
(d)残部がFe、アーク安定剤、及び不可避不純物であること。
[2] さらに、MgF、CaF、SrF、BaFのうち1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で5.0%以下であることを特徴とする上記[1]に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[3] さらに、Si酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、B酸化物、Zr酸化物、Fe酸化物、MnOを除くMn酸化物の1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で4.0%以下であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[4] さらに、金属状態のAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laのうち1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対して2.0%以下であることを特徴とする上記[1]〜[3]の何れかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[5] さらに、MgCO3、CaCO、SrCO、BaCO、MnCOの1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で4.0%以下であることを特徴とする上記[1]〜[4]の何れかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[6] さらに、MgO、SrO、BaOの1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で3.2%以下であることを特徴とする上記[1]〜[5]の何れかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[7] さらに、Nbがワイヤ全質量に対する質量%で0.1%以下の範囲で含有されることを特徴とする上記[1]〜[6]の何れかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[8] 前記鋼製外皮にスリット状の隙間が無いことを特徴とする上記[1]〜[7]の何れかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
[9] 前記鋼製外皮にスリット状の隙間があることを特徴とする上記[1]〜[7]の何れかに記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
本発明によれば、高靭性溶接金属が得られ、且つ立向溶接において溶接金属の表面形状を凸形状ではなく平滑形状にできるフラックス入りワイヤを提供することができる。
立向上進溶接の要領を説明するための図である。 溶接金属の断面形状が凸形状である例を示す図である。 溶接金属の望ましい断面形状の1例を示す図である。 溶接金属の断面形状を評価する指標であるdce値を説明するための図である。 MnOの含有量がdce値に及ぼす影響を示す図である。 フラックス入りワイヤの製造工程を説明する図である。 溶接金属の欠陥、酸素量、シャルピー衝撃値及び硬度を評価するための開先形状を示す図である。 溶接金属の硬度計測位置を説明する図である。 ワイヤの切断断面の一例を示す図である。
特許文献1ではCaOを用いてスラグの融点を高融点とすることで全姿勢溶接を可能としている。しかしながら、そのフラックス入りワイヤでは、立向溶接は可能であるが、その溶接金属形状は図2のように凸形状となる場合が認められた。溶接金属の形状が凸形状となると、前述のように平滑化するための作業が必要になり、溶接施工能率上大きな問題となる。
そこで、本発明者らは、CaOなどの酸化物を含有するフラックス入りワイヤにおいて、立向溶接で形成される溶接金属の形状に対するCaO以外の酸化物の影響を調査した。
立向溶接における溶接金属の形状評価においては、一般的に広く普及している測定方法がないため、本発明者らは溶接金属の形状を評価できる測定方法について検討し、以下のような方法を考案した。
即ち、図4に示すように角度90°で配置された鋼板1、1によって形成される角部2を開先として立向上進溶接を行い、得られた溶接金属3の両止端部4、4を結んだ線Aと、溶接金属3の凸部頂点5を通過し、線Aと並行な線Bとの間の距離をdceとして、このdce値を溶接金属の断面から測定して、溶接金属の形状を評価するようにした。
フラックス成分としてワイヤ中に添加される酸化物は、主に、スラグを形成して溶接金属を包皮し、溶接金属の形状を良好に維持する作用を有しているので、CaO以外の酸化物に着目して、各種酸化物の含有量とdce値の関係を調べる実験を鋭意進めてきた。その過程で、特に、MnOが溶接金属の凸形状の解消に有効であることを見出した。
以下、そのような知見が得られた実験結果の一例を示す。なお、以降の説明において、「%」は特に説明がない限り、「質量%」を意味し、各成分の含有量は、ワイヤ全質量に対する質量%を意味するものとする。
図5に、MnO:0.4〜6.9%、CaO:3.7%、CaF:0.9%、Si酸化物:0.5%、Ti酸化物:0.3%をフラックス成分として含有するワイヤを用いて、図1に示す継手を立向上進溶接した場合の、溶接金属のdce値とMnO含有量の関係を示す。
図5に示されるように、MnO含有量が1.0%以上、6.0%以下の時にdce値が2.0以下に大きく低下し、溶接金属の凸形状が抑制されており、平滑形状の溶接金属が得られることが分かる。このような結果が得られた理由に関しては必ずしも明確にはなっていないが、溶融金属と溶融スラグの界面張力や止端部における溶融スラグと母材鋼板との濡れ性が影響していると推定している。
本発明は以上のような検討の結果なされたものであり、以下、本発明のフラックス入りワイヤについて、特徴とする技術要件の限定理由や好ましい態様について順次説明する。
先ず、鋼製外皮内に充填されるフラックス成分及びその他の成分について説明する。
最初に、MnOの含有に関してその理由を述べる。
MnOは、上記のように平滑な溶接金属形状を形成する作用があり、その目的でフラックス中に添加する。MnOの含有量が1.0%未満の場合には、含有量が少なすぎて立向溶接において溶接金属が凸形状となる場合がある。また、含有量が6.0%を超えるとアークが不安定となり溶融池が激しく振動する場合がある。このため、平滑な溶接金属形状が得られにくくなり凸形の溶接金属形状となり易い。以上の理由により、MnOは1.0%以上、6.0%以下と規定した。また、MnOの含有量が1.6%以上、5.5%以下の場合は溶接金属形状を平滑化する効果が明瞭であり好ましい。更に、含有量が2.6%以上、5.0%以下に制限されている場合は、溶接金属形状を平滑化する効果が特に明瞭に発現するため、尚一層好ましい。MnOは塩基性物質であり、ワイヤ中に含まれていても溶接金属酸素量を著しく増加させることは無い。このため、溶接金属の靭性は非常に良好である。
続いて、CaOの含有に関してその理由を述べる。
CaOはMnOと同様に塩基性物質であり、ワイヤ中に含まれていても溶接金属酸素量を著しく増加させることは無い。立向溶接においてはスラグで溶融池を保持することが極めて重要であり、スラグの融点は高温であることが必要である。CaOは高融点物質であるため、MnOと共に用いてスラグの融点を高温化するのに有効である。
CaOの含有量が1.0%未満の場合には含有量が少なすぎ、立向溶接において溶融池が溶接時に垂れ落ち、溶接が不能となる。また、6.0%を超えて含有するとスラグ融点が高すぎるためにスラグの凝固が早くなり、スラグの流動性が確保できないためスラグ巻込みが発生しやすくなる。以上の理由により、CaOは1.0%以上、6.0%以下と規定した。また、CaOの含有量は必要に応じて1.7%以上、5.5%以下、又は2.2%以上、4.9%以下に制限してもよい。
なお、MnOとCaOの合計含有量は4.0%以上とすることが好ましい。また、CaO、MnOは単体の酸化物でワイヤ中に含有される必要はなく、例えばCaO・MnOのような複合酸化物で含有されても問題無い。この場合、CaOとMnOは該当する部分の質量のみを含有量として計算する。
ワイヤに含まれる合金元素としては、C、Si、Mn、P、S、Cu、Ni、Cr、Mo、V、B等の各種元素があるが、これらの含有量は下記の式(1)で定義されるPcm値が0.15%以上、0.40%以下の範囲であり、且つPとSの合計質量がワイヤ全質量に対する質量%で0.040%以下に制限されていることが必要である。
Pcm=N(C)+N(Si)/30+N(Mn)/20+N(Cu)/20+N(Ni)/60+N(Cr)/20
+N(Mo)/15+N(V)/10+5N(B) ・・・式(1)
ここで、N(X):ワイヤ全質量に対する元素Xの質量%。
式(1)はPcmとして広く知られている式であり(溶接学会編:「溶接・接合技術概論」、産報出版、東京、(1998)118頁参照)、溶接金属の焼き入れ性を評価できる式である。
Pcm値が0.15%未満の場合は、溶接金属の焼入れ性が低すぎて、粒界フェライトのような粗大組織が生成し、溶接金属の靭性が劣化する。逆にPcm値が0.40%を超える場合は、溶接金属が硬くなりすぎてマルテンサイトのような硬化組織が主体となり、溶接金属の靭性が劣化する。このため、溶接金属に要求される靭性を確保するためには、Pcm値は0.15%以上、0.40%以下の範囲であることが必須である。
なお、式(1)では溶接金属の焼入れ性を議論しているので、酸化物、弗化物、炭酸塩として含有される元素は対象外である。
また、ワイヤ中のPとSの合計含有量は溶接金属の高温割れ回避と靭性確保の観点から0.04%以下に制限される必要がある。しかしながらPとSを過剰に低減することは工業的な観点から製造上の負荷が高くなり現実的では無く、PとSの合計含有量は0.001%以下に低減する必要はない。
以上が本発明の基本骨子であるが、本発明のワイヤを更に高性能にするための追加要件を以下に説明する。
まず、MgF、CaF、SrF、BaFの添加について述べる。
これらの弗化物は溶接継手における拡散性水素量を低減する効果を発現するので、その1種または2種以上を本発明のワイヤに含有することができる。しかしながら、5.0%を超えて含有されると、ヒューム発生量が多くなり、溶接作業環境に悪影響を生じやすくなる。このため、MgF、CaF、SrF、BaFの1種または2種以上の合計質量は5.0%以下と規定した。また、ヒューム発生量を低減したい意向を有する溶接作業現場で本発明のワイヤを使用する場合は、MgF、CaF、SrF、BaFの1種または2種以上の合計質量は3.0%以下が好ましく、ヒューム発生量を特に気にする溶接作業現場で本発明のワイヤを使用する場合は、MgF、CaF、SrF、BaFの1種または2種以上の合計質量は1.0%未満以下が更に好ましい。尚、拡散性水素の低減効果を明瞭に得るにはMgF、CaF、SrF、BaFの1種または2種以上の合計含有量は0.2%以上が好ましい。
続いて、Si酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、B酸化物、Zr酸化物、Fe酸化物、MnOを除くMn酸化物について述べる。
これらの酸化物がスラグ中に含まれると、溶接金属の酸素量が増加し、溶接金属の靭性が劣化する場合があることが知られている。従って、溶接金属の靭性確保の観点からは、これら酸化物の含有量は極力低く抑制されることが好ましい。しかしながら、これらの酸化物は溶接金属をスラグが包皮する際に、包皮の均一性を高めるため、スラグ剥離を容易とする効果がある。
そこで本発明者らは、これらの酸化物の含有量に関して溶接金属の靭性に悪影響を及ぼさない範囲を実験的に探索した。その結果、Si酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、B酸化物、Zr酸化物、Fe酸化物、MnOを除くMn酸化物の合計質量が4.0%以下であれば、溶接金属の靭性劣化が実用上問題にならない範囲に抑制でき、且つ良好なスラグ剥離性が確保されることを見出した。以上の理由により、Si酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、B酸化物、Zr酸化物、Fe酸化物、MnOを除くMn酸化物の1種または2種以上が含有される場合の合計質量を4.0%以下に制限する。また、スラグ剥離性の改善効果を明瞭に得るためには、これら酸化物の合計質量を0.2%以上とすることが好ましい。また必要に応じて、これら酸化物の合計含有量を2.8%以下、又は1.0以下%に制限することができる。
なお、上記酸化物が複合酸化物の場合には、例えば、Al・SiOでは、Alの部分をAl酸化物、SiOの部分をSi酸化物とするように、それぞれ当該する部分の質量を計算して合計質量を求めることとし、Si酸化物はSiO換算値、Al酸化物はAl換算値、Ti酸化物はTiO換算値、B酸化物はB換算値、Zr酸化物はZrO換算値、Fe酸化物はFeO換算値、MnOを除くMn酸化物はMnO換算値で含有量を定義する。
続いて、脱酸元素としてのAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laについて述べる。
金属状態のAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laは何れも強力な脱酸作用を有し、溶接金属の低酸素化に有効な元素であることが知られており、これらの元素の1種または2種以上の含有量の合計値が2.0%以下の範囲で添加できる。この脱酸効果を明瞭に発現するためには、Al、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laの合計含有量が0.2%以上であることが好ましい。一方、Al、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、La合計量が2.0%を超えて含有されるとM−A組織のような極所的硬質組織が生成し溶接金属の靭性が劣化する。このため、金属状態のAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laの合計含有量は2.0%以下と定めた。
これらの金属元素は必ずしも純金属(不可避不純物の含有は可)で含有させる必要は無く、Al−Mg等の合金の形態で含有されていても何ら問題ない。なお、ここでは溶接中の脱酸反応を前提としているので、酸化物、弗化物、炭酸塩として含まれるAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laは含まれない。
続いて、炭酸塩としてCaCO、MgCO3、SrCO、BaCO、MnCOについて述べる。
本発明のワイヤには、炭酸塩としてCaCO、MgCO3、SrCO、BaCO、MnCOの1種又は2種以上を含有できる。これらの炭酸塩はアーク熱で熱分解してワイヤ内部から炭酸ガスを発生させる。これにより、溶接時にワイヤ先端に形成される溶滴の離脱を容易にし、溶滴を細かくする効果がある。
この効果を明瞭に得るためには、CaCO、MgCO3、SrCO、BaCO、MnCOの合計含有量が0.2%以上であることが好ましい。一方、CaCO、MgCO3、SrCO、BaCO、MnCOの1種又は2種以上の含有量の合計が4.0%を超えると炭酸ガスの発生が過剰となり、ワイヤ先端に形成される溶滴を吹き飛ばすので逆にスパッタ量が増加する。このためCaCO、MgCO3、SrCO、BaCO、MnCOの合計含有量はその上限値を4.0%以下とした。
なお、CaCO、MgCO3、SrCO、BaCO、MnCOは、それぞれ、以下の式(2)から式(6)に示すとおり、CaO、MgO、BaO、SrO、MnOを含有している物質であり、CaCO、MgCO3、SrCO、BaCO、MnCOが含有される場合には、熱分解によって生成するCaO、MgO、BaO、SrO、MnOは前述のCaO、MnO及び後述のMgO、BaO、SrOのそれぞれの含有量に加算される。
CaCO→CaO+CO ・・・式(2)
MgCO→MgO+CO ・・・式(3)
BaCO→BaO+CO ・・・式(4)
SrCO→SrO+CO ・・・式(5)
MnCO→MnO+CO ・・・式(6)
続いて、MgO、SrO、BaOについて述べる。
本発明のワイヤには、先に挙げた酸化物以外の酸化物として、MgO、SrO、BaOを含有できる。これらはスラグの粘性を低下させる働きがあるため、溶融池からのスラグ排出をより容易にする。MgO、SrO、BaOが含有されると溶融池にスラグが滞留せず、速やかに溶接方向の後方へスラグが流れていくので、溶接施工者はより容易に溶融池の位置を確認することができる。しかしながら、これらの含有量が多すぎるとスラグの粘性が著しく低下し、立向溶接で溶融池を保持できず、溶接不能となりやすいので、MgO、SrO、BaOの合計含有量は3.2%以下とした。尚、MgO、SrO、BaOの効果を発現するには、これらの合計含有量で0.1%以上の含有が好ましい。
続いて、Nbの効果について説明する。
本発明のワイヤを用いた溶接金属は一般的に多層盛り溶接であり、後続パスの溶接熱影響により、溶接金属の一部に軟化部分を生じる場合がある。この軟化を抑制するためにNbをワイヤ中に含有することができる。この効果を明瞭に得るためには、Nbの含有量が0.01%以上であることが好ましい。一方、Nbの含有量が0.1%を超えるとM−A組織のような硬化組織が過剰に生成し、溶接金属の靭性が劣化する。このため、Nbの含有量はその含有量を0.1%以下とした。
続いて、鋼製外皮内に充填するその他の成分について説明する。
本発明のワイヤでも、従来一般的に用いられている鉄粉、アーク安定剤を含有させることは、何ら制限されるものではなく、それらの成分を必要に応じて外皮内に含有させることにより、フラックス入りワイヤの機能をより高めることができる。以下これらの成分について述べる。
鉄粉がフラックス中に含有すると、溶着効率の向上やアーク安定性の改善が図られることはよく知られている。しかし、鉄粉は過剰に添加すると伸線中にワイヤが破断しやすくなる傾向があるため、添加する場合の含有量は5.0%以下が好ましい。
アーク安定剤としては、一般的に用いられているLi、Na、K、Rbを含む酸化物、弗化物、炭酸塩等を適宜選択して、0.001%以上、1.0%以下程度の範囲で含有させることができる。
上記に説明した合金成分や金属脱酸成分の一部は鋼製外皮内に含有できるが、それらの成分は、ワイヤ全体で決められるものであるから、フラックス成分と鋼製外皮の何れに含有されていても問題が無く、ワイヤ全体としての含有量が重要である。
次に、ワイヤの鋼製外皮の形態に関して述べる。フラックス入りワイヤには、鋼製外皮の合わせ目を溶接した、鋼製外皮にスリット状の隙間が無いワイヤと、溶接を行わず鋼製外皮の合わせ目にスリット状の隙間を有するワイヤとに大別できる。本発明のワイヤは、フラックス中に、CaOや弗化物のような吸湿を起こしやすい物質を含んでおり、鋼製外皮に隙間があると吸湿の原因となるため、そのような隙間が無いワイヤが、吸湿を防止し溶接ワイヤの品質を安定させる観点から有用である。
もちろん鋼製外皮にスリット状の隙間があるワイヤとすることも可能であるが、その場合には、使用直前まで密閉容器に梱包してフラックスの吸湿を抑制することが好ましい。更に、拡散性水素を低減する観点から、ワイヤ表面に塗布される潤滑油は、パーフルオロポリエーテルのように水素分を含まない油が好ましいが、これ以外に通常に使用される潤滑油を本発明のワイヤに塗布しても問題無い。
本実施形態で用いるフラックス入りワイヤは、通常のフラックス入りワイヤの製造方法と同様の製造工程によって製造することができる。
すなわち、まず、外皮となる鋼帯、及び、金属酸化物、金属弗化物、合金成分、金属炭酸塩及びアーク安定剤が所定の含有量になるように配合したフラックスを準備する。鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールによりオープン管(U字型)に成形して鋼製外皮とし、この成形途中でオープン管の開口部からフラックスを供給し、開口部の相対するエッジ面を突合せシーム溶接する。溶接により得られた隙間無しの管を伸線し、伸線途中あるいは伸線工程完了後に焼鈍処理して、所望の線径を有し、鋼製外皮の内部にフラックスが充填されたスリット状の隙間がない(シームレス)ワイヤを得る。また、スリット状の隙間がある(シームを有する)ワイヤは、オープン管の開口部からフラックスを供給した後、シーム溶接をしない隙間有りの管とし、それを伸線することで得られる。
ここで、シームレスワイヤの形態、とくに断面構造について図9(a)〜図9(c)を用いて説明する。図9(a)〜図9(c)は、ワイヤの切断断面を示す図である。
突合せシーム溶接されて作ったスリット状の隙間が無いワイヤを切断した断面は、図9(a)のように見える。この断面は、研磨して、エッチングすれば、溶接跡が観察されるが、エッチングしないと溶接跡は観察されない。そのため、シームレスと呼ぶことがある。溶接学会編「新版 溶接・接合技術入門」(2008年)産報出版、p.111には、シームレスタイプと記載されている。また、図9(b)や図9(c)のように隙間がある場合でも、突合せてから、ろう付けしたり、かしめてから、ろう付けしても、スリット状の隙間が無いワイヤが得られる。なお図9(b)、図9(c)において、ろう付けを施さなかったそのままのワイヤは、図示しているとおり、スリット状の隙間があるワイヤとなる。
本発明のワイヤの直径に関しては特段の制約は無いが、溶接能率とワイヤ生産性の両方を鑑みて、1.2mmから1.6mmの範囲とすることが好ましい。更に鋼製外皮内に充填されたフラックス全質量はワイヤ全質量に対する質量%で6.0%以上、18.0%以下であることが好ましい。
以下、実施例を用いて本発明と比較例の効果を検証する。
表1に示す成分の鋼製外皮用の鋼板を、図6に示すようにU型に成形し、この段階で上部よりフラックスを鋼板のU溝内に充填した後、U型の鋼板をO型へと成形して管状のワイヤ素管とした。スリット状の隙間有りのワイヤでは、このワイヤ素管を伸線工程を経て直径1.2mmφの試作ワイヤに仕上げた。また、スリット状の隙間無しのワイヤでは、ワイヤ素管の鋼製外皮の合わせ目を溶接し、フラックスの吸湿原因となる鋼製外皮のスリット状隙間を無くする工程を経てから伸線を実施し、直径1.2mmφの試作ワイヤへと仕上げた。
試作したワイヤのフラックス組成を表5、7、9、11、13、15、17、19、21に示す。
各表において、表5のワイヤ番号1からワイヤ番号9のワイヤは、MnOの効果を検証したものである。表7のワイヤ番号10からワイヤ番号18のワイヤは、CaOの効果を検証したものである。表9ワイヤ番号19からワイヤ番号30はワイヤ成分から決定されるPcm値、Nb含有量、及びP、S含有量を検証するものである。
表11のワイヤ番号31からワイヤ番号48のワイヤは、MgF、CaF、SrF、BaFの効果を検証したものであり、表13のワイヤ番号49からワイヤ番号71のワイヤは、Si酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、B酸化物、Zr酸化物、Fe酸化物、MnOを除くMn酸化物の含有量を検証したものである。
表15のワイヤ番号72からワイヤ番号93は脱酸元素として含有されるAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laの含有量を検証したものである。表17のワイヤ番号94からワイヤ番号111はCaCO、MgCO3、SrCO、BaCO、MnCOの含有量を検証したものである。
表19のワイヤ番号112からワイヤ番号123は、MgOSrO、BaOの含有量を検証したものである。表21のワイヤ番号124は上記の各含有物質が複合添加された効果を検証したものである。表23のワイヤ番号125からワイヤ番号149は鋼製外皮のスリットを無くした場合の効果を検証したものである。
以上の試作したワイヤを用いて次の試験を行い、ワイヤの性能を評価した。
第1試験では、試作したワイヤの立向上進溶接の可否、スパッタ発生量、溶接金属形状の平滑さ、及びスラグ剥離性を評価した。第1試験は表3に示す立向姿勢の条件によって立向上進溶接で行った。第1試験に使用した鋼材は、表2に示す成分の10mm厚鋼板であり、これを図1に示すような90°の角度に組み立てて使用した。
立向上進溶接の可否は図1の溶接で安定して500mmの溶接長が得られたか否かで判断した。この溶接中に発生したスパッタを捕集してスパッタの重量を計測し、アークタイム1分間当たりのスパッタ発生量を評価した。溶接終了後に溶接金属を包皮しているスラグを剥離し、スラグ剥離に要した時間を計測した。スラグを剥離した後に溶接金属の断面を切出して、溶接金属の平滑さを図4に示す要領で計測した。
第1試験で合格したワイヤは第2試験へと進み、第2試験では溶接欠陥の有無と溶接属の酸素量、靭性、硬度分布を評価した。第2試験は表3に示す立向姿勢の条件によって立向上進溶接で行った。第2試験では、図7に示す開先を形成した鋼板を使用し、多層盛り溶接で鋼材の表面に余盛りが形成されるまで溶接を行い、その溶接長は500mmとした。
第2試験で作製された溶接継手はX線検査で非破壊試験を実施し、溶接欠陥の有無を評価した。X線検査の後に溶接金属から、酸素分析用にピンサンプルを採取し、更にJIS Z 2242 に定める10mmフルサイズのVノッチシャルピー試験片を採取して試験に供した。シャルピー試験片のノッチは溶接金属の中央部に加工した。また、溶接金属の断面を切り出して、図8に示すように鋼板表面から7mm下の位置において溶接金属のビッカース硬度を2mm間隔で測定した。硬度計測に使用した荷重は98Nである。得られたビッカース硬度の最大値と最小値の差を硬度分布の均質性として評価した。
更に、第3試験として溶接時のヒューム発生量と拡散性水素量を計測した。溶接時のヒューム発生量はJIS Z 3930に準拠して計測した。また、拡散性水素量はJIS Z 3118に準拠して計測した。第3試験では、表3に示す下向姿勢の条件を使用し、下向溶接で評価を実施した。
上記の第1試験から第3試験に関する合否基準は、表4に一覧表として記載した。
次に、試作したワイヤを用いた試験の評価結果を示す。
表5のワイヤを用いてMnO含有量を検証した結果を表6に示す。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号1番から7番では良好な結果が得られて合格となった。特に、MnOの含有量が1.6%以上、5.5%以下であるワイヤ番号2番から6番では溶接金属形状を平滑化する効果が明瞭であり好ましい結果であった。更に、MnO含有量が2.6%以上、5.0%以下であるワイヤ番号3番から5番では、溶接金属形状を平滑化する効果が特に明瞭に発現した尚一層好ましい結果であった。一方、MnO含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号8番と9番は平滑な溶接金属形状が得られず不合格であった。
表7のワイヤを用いてCaO含有量を検証した結果を表8に示す。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号10番から16番では良好な結果が得られて合格となった。一方、CaO含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号17番は立向上進溶接が不能であり、ワイヤ番号18番ではスラグ巻込みが発生したため共に不合格であった。
表9のワイヤを用いて合金元素含有量の指標としてPcm値、Nb含有量、PとSの合計含有量を検証した結果を表10に示す。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号19番から26番では良好な結果が得られて合格となった。Nbが本発明の範囲で含有されたワイヤ番号24番から26番は、溶接金属内で後続パスの再熱を受けた部分の軟化が抑制されたため、溶接金属内の硬度差が少なくなり、より均質な硬度分布を有する溶接金属が得られた。一方で、Nb含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号27番は溶接金属の靭性が劣化して不合格であった。Pcm値が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号28番と29番も共に溶接金属の靭性が劣化して不合格であった。またPとSの合計含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号30番では溶接金属に割れが認められ、靭性も劣化したため不合格であった。
表11のワイヤを用いて弗化物の含有量を検証した結果を表12に示す。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号31番から47番では良好な結果が得られて合格となった。弗化物の合計含有量が本発明の範囲で0.2%含有されているワイヤ番号32番から35番では拡散性水素を低減する効果が明瞭に発現しており、好ましい結果であった。ワイヤ番号36番から47番では、弗化物の合計含有量が本発明の範囲で0.8%以上であるので、拡散性水素の低減効果が更に明瞭に発現し、尚一層好ましい結果であった。一方、弗化物の合計含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号48番ではヒューム発生量が増加して不合格となった。
表13のワイヤを用いてSi酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、B酸化物、Zr酸化物、Fe酸化物、MnOを除くMn酸化物の含有量を検証した結果を表14に示す。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号49番から70番では良好な結果が得られて合格となった。特にSi酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、B酸化物、Zr酸化物、Fe酸化物、MnOを除くMn酸化物の合計含有量が本発明の範囲で0.2%以上であるワイヤ番号50番から70番ではスラグ剥離性が向上する好ましい結果であった。一方これらの酸化物が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号71番は溶接金属の酸素が高くなり、溶接金属の靭性が劣化して不合格であった。
表15のワイヤを用いて脱酸元素であるAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laの含有量を検証した結果を表16に示す。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号72番から92番では良好な結果が得られて合格となった。特にAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laの合計含有量が本発明の範囲で0.2%以上であるワイヤ番号74番から92番では溶接金属の酸素が低減し、溶接金属の靭性が更に向上する好ましい結果であった。一方、これら脱酸用金属元素の合計含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号93番では溶接金属の靭性が劣化したため不合格となった。
表17のワイヤを用いてCaCO、MgCO3、SrCO、BaCO、MnCOの含有量を検証した結果を表18に示す。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号94番から110番では良好な結果が得られて合格となった。特に、これらの合計含有量が本発明の範囲で0.2%以上であるワイヤ番号95番から110番ではスパッタ発生量が低減しており、より好ましい結果であった。一方これら炭酸塩の合計含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号111番では、スパッタ発生量が増加して不合格となった。
表19のワイヤを用いてMgOSrO、BaOの含有量を検証した結果を表20に示す。
本発明の範囲内に成分が調整されたワイヤ番号112番から122番では良好な結果が得られて合格となった。特にMgOSrO、BaOの合計含有量が0.2%以上であるワイヤ番号113番から122番では、溶接施工時に溶融池の観察がより容易に行うことができ、溶接作業者の作業負荷低減が確認できた。一方、MgOSrO、BaOの合計含有量が本発明の範囲を逸脱したワイヤ番号123番では立向上進溶接が不可能であり、不合格となった。
表21のワイヤ番号124番では、上記の含有物質が複合して含有された場合を検証した。結果を表22に示すが、全ての物質が本発明の範囲内で含有されているので、試験結果は良好であり合格であった。
表23のワイヤ番号125番から149番を用いて鋼製外皮のスリット状の隙間の影響を検証した結果を表24に示す。鋼製外皮のスリット状の隙間を無くすと、拡散性水素が一層低下して、より好ましい結果が得られ、ワイヤ番号125番から149番は全て合格であった。特に弗化物の含有と鋼製外皮のスリット状の隙間を無くす効果が重畳したワイヤ番号134番から149番では拡散性水素量が特に低減されており、より一層好ましい結果であった。尚、表23のワイヤは、鋼製外皮のスリット状の隙間が拡散性水素量に及ぼす影響を検証する目的で供試されているので、拡散性水素量以外の試験は割愛した。
以上に示したように、本発明のフラックス入りワイヤは平滑な溶接金属形状が立向上進溶接で容易に得られ、これによって溶接欠陥が発生する危険性を大幅に低減できることが明らかとなった。また、溶接金属の靭性も良好であり、溶接金属の安全性も非常に高いと判断される。また弗化物を含有させた場合には拡散性水素が低減でき、この効果は鋼製外皮のスリットを無くすることで更に明瞭に発現することが確認された。以上の結果より、本発明のフラックス入りワイヤは多大なる工業的価値を提供するものである。
1 鋼板
2 組み合わされた鋼板の角部
3 溶接金属
4 立向溶接によって形成された溶接金属の止端部
5 立向溶接によって形成された溶接金属の凸部頂点
A 溶接金属の両端の止端部を結ぶ線
B 溶接金属の凸部頂点をとおり線Aに平行な線
dce 線AとBの間の距離(mm)

Claims (9)

  1. 鋼製外皮にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、以下の(a)から(d)の条件を同時に満足することを特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
    (a)MnOがワイヤ全質量に対する質量%で1.0%以上、6.0%以下で含有されること。
    (b)CaOがワイヤ全質量に対する質量%で1.0%以上、6.0%以下で含有されること。
    (c)下記の式(1)で定義されるPcmの値が0.15%以上、0.40%以下の範囲であり、且つPとSの合計質量がワイヤ全質量に対する質量%で0.040%以下に制限されていること。
    Pcm=N(C)+N(Si)/30+N(Mn)/20+N(Cu)/20+N(Ni)/60+N(Cr)/20
    +N(Mo)/15+N(V)/10+5N(B) ・・・式(1)
    ここで、N(X):ワイヤ全質量に対する元素Xの質量%。
    (d)残部がFe、アーク安定剤、及び不可避不純物であること。
  2. さらに、MgF、CaF、SrF、BaFのうち1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で5.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  3. さらに、Si酸化物、Al酸化物、Ti酸化物、B酸化物、Zr酸化物、Fe酸化物、MnOを除くMn酸化物の1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で4.0%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  4. さらに、金属状態のAl、Ti、Mg、Zr、Ca、Ce、Laのうち1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対して2.0%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  5. さらに、MgCO3、CaCO、SrCO、BaCO、MnCOの1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で4.0%以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  6. さらに、MgO、SrO、BaOの1種または2種以上が含有され、その含有量の合計がワイヤ全質量に対する質量%で3.2%以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  7. さらに、Nbがワイヤ全質量に対する質量%で0.1%以下の範囲で含有されることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  8. 前記鋼製外皮にスリット状の隙間が無いことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
  9. 前記鋼製外皮にスリット状の隙間があることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
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