近年、ヒートポンプ式温水器で室温よりも高くした温水を、床構成材の中に張り巡らせたパイプに流通・循環させて暖房を行う熱媒体循環式の床暖房装置が普及している。このヒートポンプを使用した床暖房のうち電力で作動するものは、実施先で燃焼ガスを排出しないとともに室内の乾燥を招きにくい点で、優れた空調装置の1つとして評価されている。また、この装置は冷えやすい床面から緩やかに暖めることから、居住者の快適性の観点においても優れている。
しかし、このように熱媒体を床構成材に配置したパイプ中で流通させるだけでは熱媒体による熱を蓄えることができず、熱媒体の流通を停止させると比較的短時間で暖房機能が消失してしまうため、安価な深夜電力を利用して空調の運転コストを低減させるようなことはできない。そこで、特開平8−5105号公報に記載されているように、床のパイプをコンクリート中に埋設することにより、コンクリートの蓄熱作用で熱媒体の流通停止後も長時間に亘って冷暖房機能を継続させる蓄熱型の方式も提案されている。
しかしながら、このように床仕上げ材の下側空間にコンクリートを充填してパイプを埋設する場合、コンクリートが完全に乾燥するまでに約1年を要することから、その湿気でカビや腐食を生じやすくなることに加え、硬化したコンクリート塊の存在により、床構成材とパイプのメンテナンス作業の実施が困難となりやすい。
これに対し、特開2002−54818号公報には、パイプを配設した床仕上げ材の下側空間でコンクリートを充填する代わりに玉砂利を充填する方式も提案されている。このように、玉砂利を充填するだけの乾式の施工方法を採用したことで、乾燥のための期間を要さないことに加え、各種メンテナンス作業も比較的容易に行えるものとなり、且つ、玉砂利の特性でコンクリートよりも長い放熱時間を実現することができる。
しかしながら、このように蓄熱材の中にパイプを埋設させる方式にあっては、前述のコンクリートを用いたものと同様に、空調機能の立ち上がり時期が遅くなりやすいという難点がある。そこで、本願出願人・発明者らは、先に特開2011−174659号公報において、床仕上げ材下側空間にコンクリートや玉砂利を充填する代わりに、鉄分と気泡を含む溶岩石を石盤状に形成したものを配設し、その上面にパイプ用の溝を設けるとともに、その溝に一致する形状の凹部をプレス成形した薄板金属製の放熱板(放熱パネル)を配置して、その凹部にパイプを納めて温水を流通させる方式を提案した。
即ち、蓄熱材としての石盤の上面に金属製の放熱板を配設してその溝と凹部にパイプを納めたことで、温水で蓄熱材を加温すると同時に放熱板を介して床仕上げ材を直接的に加温できるため、暖房機能の立ち上がりが迅速なものとなり、且つ、溶岩石の特性により熱媒体の流通停止後でも比較的長い放熱時間を実現可能なものとした。
ところが、この方式においても、前述の熱媒体に玉砂利を使用する方式と同様に、熱媒体の底面と側面を介して床下空間側との間で熱交換を生じることから、熱効率及び空調機能の持続性の観点で改善の余地があり、且つ、熱媒体の調達に比較的高コストを要するため、施工コストの低廉化が達成しにくいという問題があった。
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
図1は、本実施の形態である床暖房装置1Aの部分縦断面図を示している。この床暖房装置1Aは、蓄熱型熱媒体循環式空調装置の一種であるが、大引3、構造用合板6、根太13,13,・・、床仕上げ材5からなる床構成材の中で水平方向に張り巡らされたパイプ100に図示しないヒートポンプ温水器で室温よりも高温に調整された温水を流通・循環させながら床面を介して室温を調整する、床暖房システムの一部を構成している。
斯かる床暖房装置1Aは、熱媒体調温手段としてのヒートポンプ温水器から送出された温水が流通・循環するパイプ100と、このパイプ100が張り巡らされた床仕上げ材5の下方で根太13,13,・・の間に形成された複数の空間50において、少なくともパイプ100の一部を埋没させるように配設された蓄熱材としての砂300とを備えてなるものであり、温水の流通を停止した後でも、加温された砂300が室温との温度差がある間は熱を放出して暖房機能を持続するようになっている。
そして、本発明においては、蓄熱材として使用される砂300が、上面を蓋14で開閉可能とされた平面視正方形で中空ブロック状の複数の蓄熱材容器10Aの中に充填されており、根太13,13,・・の間に形成された各空間50において、温水を流通させるパイプ100がその蓄熱材容器10Aの上端側を各々横向きに貫通した状態で配置されている点を特徴としている。
このように、蓄熱材を複数の蓄熱材容器10Aに充填して配置する方式を採用したことで、床暖房装置1Aの施工作業の容易化が実現するため、従来例と比べて施工コストを低廉に抑えることが可能となり、また、蓄熱材が蓄熱材容器10Aの中に収まったことにより、温水で加温された後でその底面及び側面を介した蓄熱材側と床下空間側との間の無駄な熱の移動が抑えられるため、蓄熱材の量を最小限としながら空調機能の持続性を確保しやすいものとなっている。
さらに、蓄熱材を充填した蓄熱材容器10Aの上端側をパイプ100が水平方向に貫通する方式として蓄熱材の上部側を熱媒体が通るようにしたことで、床上方向への熱の移動量を多く確保しながら直接的に床仕上げ材5を加温することができるため、暖房の立ち上がりの迅速さを確保可能としている。これに加えて、蓄熱材容器10Aを配設する各空間50の底面には、下向きの輻射熱等を反射する熱反射シート52が配設されており、その空間50側から床下空間側に向かう熱放射量を最小限に抑えられるようになっている。
図2は、前述した床暖房装置1Aにおいて、蓄熱材を充填するための蓄熱材容器10Aの詳細を示している。この蓄熱材容器10Aは、平面視正方形の中空ブロック状とされた樹脂成形品であって、器状の収納体11上部の開放部分に蓋14が開閉可能に嵌装されてなるものであり、その蓋14には、パイプ100の経路に沿ってこれを蓄熱材容器10Aの上端側で横向きに貫通させるための溝141が上面から陥凹した状態で形成されている。
また、その蓋14の上面側には、平面視で蓋14の4分の1のサイズの方形とされて、前記溝141に一致する位置にてパイプ100の直径と同等の深さ・幅に形成された溝状の凹部161を有してなる薄板金属製の放熱板16a,16a,16a,16aが、各凹部161を溝141に挿入した状態で配置されており、各凹部161にパイプ100が上から収まった状態で、図1に示したようにその上面及びパイプ100の上端側が床仕上げ材5の裏面に密着又は近接しており、これにより始動後の暖房の立ち上がりの迅速さを確保可能としている。
さらに、この蓄熱材容器10Aは中空ブロック状に形成されたものであるが、その収納体11の各側面は下向きに所定角度傾斜しており、蓋14を外した開口部に他の収納体11の底部側を挿入しながら縦方向に積み重ね可能とされている。そのため、収納体11を複数段積み重ねておくことで、蓄熱材容器10Aの保管・運搬のためのスペースを最小限に抑えることができる。
さらにまた、この蓄熱材容器10Aは、底面の4隅から円柱状の脚112a,112b,112c,112dが下向きに突設されており、配設した状態で底面が持ち上がって配設面との間の隙間で空気層が形成されることから、蓄熱材から下方向への熱の漏出を一層低減できるようになっている。
図3は、蓄熱材容器10A及びその上面に載せる放熱板16a,16a,16a,16aの詳細な構成を説明するための分解斜視図を示している。この蓄熱材容器10Aの主要部を構成する収納体11の4つの側面には、その上端側にパイプを通すためにU字状に切り欠いてなる切り欠き111a,111b,111c,111d,111e,111f,111g,111hが形成されている。
また、この収納体11の開口部に被せる蓋14には、平面視で2組の平行線が井字状に直角に交わって格子状に形成された溝141を有しているとともに、その各角部が面取りされており、その外縁側の8箇所で前述した収納体11の切り欠き111a,・・,111hに、溝141の突出部が上から嵌まるようになっている。
一方、蓋14の上面に配置する4枚の放熱板16aは、平面視正方形で蓋14の4分の1のサイズとされ、その中央部分を渡して形成した凹部161が、蓋14の溝141内に各々収まるようになっており、図示しないパイプ100がこの凹部161を通りながら、蓄熱材容器10Aの上端側及びこれに充填された砂300の上端側部分を、各々横向きに貫通した状態で配置される。尚、放熱板16aの凹部161は、その外面が蓋14の溝141内面に対して密着する部分と隙間を形成する部分がほぼ半々になる形状とされて、パイプ100からの熱伝導において床仕上げ材5側と蓋14・蓄熱材側との間で時間差を生じるものとされ、短時間で床面温度を上昇させた後に蓄熱材への蓄熱が行われるようになっている。また、この放熱板16aの素材としては、従来例に見られる薄板銅板のほか、比較的低廉な亜鉛メッキ薄板鉄板を使用することもできる。
さらに、本実施の形態では、I字状の溝を形成している凹部161を有した放熱板16aのほかに、図4の平面図に示すように直角に屈曲したL字状の凹部162が格子状の溝141内に収まるように形成された放熱板16bも用意されており、I字状とL字状の2種類の放熱板16a,16bを組み合わせながら蓋14の上面に配置可能とされている。これにより、図のように放熱板16aを4枚載せた蓄熱材容器10Aの隣に、放熱板16aを2枚、放熱板16bを2枚載せた蓄熱材容器10Aを並べることで、パイプ100の屈曲部にも容易に対応することができる。
即ち、図1の空調装置1Aの床仕上げ材5を外した状態の平面図である図5に示すように、同じ形状からなる複数の蓄熱材容器10Aの上面に載せる放熱板16a,16bの組み合わせを調整するだけで、様々な配置形状のパイプ100に対して容易に対応することができ、最小限の施工の手間にて温度ムラの少ない優れた床暖房を実現できるものである。
また、図5のように床仕上げ材5を外せば、パイプ100のメンテナンスを容易に実施することができ、且つ、蓄熱材容器10Aも置いてあるだけで固定されていないため、その入れ替えや床構成材のメンテナンスも容易に実施することができる。尚、上述した床暖房装置1Aに組み合わせるヒートポンプ温水器は、室温センサによる検出温度データを基に、流通させる水の温度を自動制御するものが一般的であるが、パイプ100の基端側と末端側の温水の温度差が所定範囲内(例えば3℃)以内となるように、水量を自動調整する機能を有しているものがムラの少ない床暖房を実現する観点で好ましい。
図6(A)は、図2の蓄熱材容器10Aの変形例としての蓄熱材容器10Bを示しており、(B)はその蓄熱材容器10Bに砂300を充填した状態で床仕上げ材5の下側の空間50に配置した場合の縦断面図を示している。この応用例は、上述した蓄熱材容器10Aと放熱板16a,16bの組み合わせを簡易化したものであるが、その蓄熱材容器10Bの収納体12は上述した収納体11とほぼ同様であるものの、その脚が硬質円柱状のものからゴム等の弾性体による弾性変形可能な半球状の脚122a,122b,122c,122dに変更されている。
また、上面から陥凹した凹部141を有する蓋14の代わりに、平坦な上面の下方をパイプ100が通るように周壁に切り欠き151a,・・,151hを設けた蓋15が、収納体12の開口部を開閉可能な状態で嵌装される構成となっており、且つ、収納体12の底面及び側面に密着するように熱反射シート55が内装されている点を特徴としている。
その熱反射シート55は、図7の展開図に示すように、側面を形成する部分の上端側にパイプ100を通すためのスリット551,・・,558が形成されており、図6(B)に示すように蓄熱材としての砂300を充填した状態で、パイプ100が通る部分はスリット551,・・,558の部分でこれを通しながら、その他の部分は閉鎖状態を維持して砂300が外部に漏出しにくくなっている。
したがって、図6(B)に示すように、図1におけるような構造用合板6の上面に配置する熱反射シート52を省くことができ、また、収納体12に熱反射シート55と砂300を充填した状態で、向きの調整を要することなくそのまま配設することができ、その後、パイプ100を配設して蓋15を被せるたけで施工が完了するため、施工の手間・コストを大幅に抑えることが可能なものとなっている。
また、弾性変形する脚122a,122b,122c,122dの存在により、床仕上げ材5の下側に形成される空間50の深さ精度が高いものでなくても、蓄熱材容器10Bの上面を床仕上げ材5の裏面に対して容易に密着または近接させることが可能となる。尚、熱反射シート55としては、発泡樹脂シートの表裏量面をアルミ等の金属薄膜で挟むとともにその表面に防蝕コートを施したものが、保温性・耐久性の観点で好ましい。
さらに、蓄熱材容器10Bを配設した状態で、蓋15の上面と床仕上げ材5裏面の距離が6mm未満になるようにすることが、輻射熱による暖房の効率化の観点で好ましい。加えて、蓋15の素材としては、熱伝導率と放射率の高い酸化金属等による薄板を使用すれば暖房の立ち上がり性能に優れたものとなり、熱伝導が遅効性で放射率の高くない樹脂成形品等を使用すれば、温水の流通停止後の暖房の持続性能に優れたものとなる。
尚、上述した実施の形態においては、蓄熱材として砂を用いた場合を説明したものであるが、その施工方法が乾式であるために比較的安価な海砂を使用することもできる。また、本発明に用いる蓄熱材はこれに限定されるものではなく、例えば玉砂利、砂と砂利のミックス、溶岩を砂利状に粉砕したもの、或いは蓄熱ゲル等を用いることができ、蓄熱性の高いものを用いることで空調機能の持続性に一層優れたものとなる。
また、本発明による空調は暖房に限らず冷房にも適用可能であり、室温よりも低い温度の冷水をパイプに通して床冷房を行いながら蓄熱材を冷却し、冷水の流通を停止した後でも蓄熱材との温度差で床冷房を継続させることができる。
以上、述べたように、床に張り巡らしたパイプに熱媒体を流通させて空調を行う空調装置において、本発明により熱媒体流通停止後の空調機能の持続性と空調機能の立ち上がりの迅速化を、低コストでありながら高レベルで実現できるようになった。