JP2015030647A - 多結晶立方晶窒化ホウ素およびその製造方法 - Google Patents

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Kazuhiro Ikeda
和寛 池田
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均 角谷
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Abstract

【課題】導電性を付与しつつ機械的強度の低下を抑えた多結晶立方晶窒化ホウ素を提供する。
【解決手段】本発明は、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、異種元素の含有率が、厚み方向に段階的または連続的に変化する、多結晶立方晶窒化ホウ素である。
【選択図】図1

Description

本発明は、多結晶立方晶窒化ホウ素およびその製造方法に関する。
立方晶窒化ホウ素は、結晶構造がダイヤモンドに類似し、原子間距離もほぼ同じであるため、ダイヤモンドに準じる硬さを有し、またダイヤモンドに比して耐鉄性に優れることから、鉄鋼切削産業における各種工具としての有用性が高まっている。特に、多結晶体は、硬度が高く、さらに多結晶体を構成する単結晶の粒子をナノサイズにすることで等方性が向上し、より欠けにくく、耐摩耗性が高く、精密加工用途に適するといった特性が期待できる。
多結晶立方晶窒化ホウ素は、立方晶窒化ホウ素の粉末に焼結助剤を添加して焼結させることにより製造する方法と、六方晶窒化ホウ素を触媒や焼結助剤を加えずに高温高圧環境下で直接立方晶窒化ホウ素に変換することにより製造する方法が知られている。後者の製造方法によると、より高硬度の多結晶立方晶窒化ホウ素を得ることができる。
立方晶窒化ホウ素は、本来電気絶縁性であるが、特定の元素を添加することにより導電性を付与できることが、たとえばR.H.Wentorf.Jr., The Journal of Chemical Physics 34 (1961) 809(非特許文献1)、R.H.Wentorf.Jr., The Journal of Chemical Physics 36 (1962) 1990(非特許文献2)に報告されている。
R.H.Wentorf.Jr., The Journal of Chemical Physics 34 (1961) 809 R.H.Wentorf.Jr., The Journal of Chemical Physics 36 (1962) 1990
導電性を有さない立方晶窒化ホウ素を切断加工するためには、放電加工が適さないため、ワイヤー切断法やスライシングマシン加工により加工されているが、高硬度な立方晶窒化ホウ素を加工するため、砥石における砥粒の摩耗が激しく効率的な加工が困難であった。したがって、多結晶立方晶窒化ホウ素に導電性を付与することにより、多結晶立方晶窒化ホウ素の放電加工が可能となり、より精密な加工が可能となることが期待できる。
しかしながら、非特許文献1,2に記載の方法では、放電加工に十分な導電性を付与することは難しかった。非特許文献1,2においては、六方晶窒化ホウ素に添加元素を固溶させているが、この方法では、添加元素を六方晶窒化ホウ素中に原子レベルで分散させることは難しかった。したがって、六方晶窒化ホウ素を原料として直接変換して作製した立方晶窒化ホウ素においても、原子レベルで分散されている添加元素を含むことは難しく、立方晶窒化ホウ素に付与することができる導電性はわずかであった。また、従来の方法においては、導電性を付与することができたとしても、機械的強度の低下が懸念される。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、導電性を付与しつつ機械的強度の低下を抑えた多結晶立方晶窒化ホウ素、およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、異種元素の含有率が、厚み方向に段階的または連続的に変化する、多結晶立方晶窒化ホウ素である。
また、本発明は、六方晶窒化ホウ素を準備する準備工程と、六方晶窒化ホウ素を焼結させて多結晶立方晶窒化ホウ素に直接変換させる変換工程と、を備え、六方晶窒化ホウ素は、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、異種元素の含有率が、厚み方向に段階的または連続的に変化する、多結晶立方晶窒化ホウ素の製造方法である。
本発明によると、導電性を有しかつ機械的強度に優れた多結晶立方晶窒化ホウ素、およびその製造方法を提供できる。
第1cBN層と第2cBN層の積層構成の一例を示す図である。 第1cBN層と第2cBN層の積層構成の一例を示す図である。 第1cBN層と第2cBN層の積層構成の一例を示す図である。 第1cBN層と第2cBN層の積層構成の一例を示す図である。 六方晶窒化ホウ素を基材上に形成した状態の一例を示す斜視図である。 基材上の六方晶窒化ホウ素を直接変換して多結晶窒化ホウ素を作製した状態の一例を示す斜視図である。
本発明は、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、異種元素の含有率が、厚み方向に段階的にまたは連続的に変化する、多結晶立方晶窒化ホウ素(以下、立方晶窒化ホウ素を「cBN」ともいう)である。本発明の多結晶cBNは、結晶構造内にドープされた異種元素を含むことにより所望の導電性を付与することができ、かつ異種元素の含有率を厚み方向に変化するように構成することにより、導電性を付与しつつ機械的強度の低下を抑えることができる。機械的強度に優れているとは、硬度が高く、または靭性が高いことにより、物理的衝撃に対する強度が高いことを言う。
本発明の多結晶cBNは、体積抵抗率が100mΩcm以下であることが好ましい。これにより、放電加工が容易な多結晶cBNを提供することができる。
本発明の多結晶cBNを構成する単結晶の粒径は10nm以上500nm以下であることが好ましい。これにより、多結晶cBNの機械的強度をより向上させることができる。
本発明の多結晶cBNは、たとえば、異種元素の含有率が、厚み方向に段階的に変化し、異種元素の含有率が互いに異なる第1立方晶窒化ホウ素層(第1cBN層)と第2立方晶窒化ホウ素層(第2cBN層)とが積層されてなる構成である。これにより、第1cBN層と、第2cBN層との特性をそれぞれ調整して、導電性を有しかつ機械的強度に優れた多結晶cBNを実現することができる。
上記において、第1cBN層は、異種元素の含有率が1質量ppm以上6×10質量ppm以下であり、第2cBN層は、異種元素の含有率が1質量ppm未満である構成とすることができる。このような第1cBN層を設けることにより放電加工が可能となり、また第2cBN層は高硬度であるので、多結晶cBN全体として優れた機械的強度を有するように構成することができる。
または、第1cBN層および第2cBN層ともに異種元素の含有率が1質量ppm以上6×10質量ppm以下となるように構成してもよい。この場合、放電加工がより容易となるように構成することができる。
上記において、第1cBN層および第2cBN層の厚さは、好ましくは1nm以上100μm以下である。この場合、一方の層が単独では導電性を有しない層であったとしても、多結晶cBN全体として導電性を有するように構成することができる。また、上記において、第1cBN層に対する第2cBN層の厚さの比は、好ましくは0.0001以上10000以下である。
また、本発明は、六方晶窒化ホウ素(以下、六方晶窒化ホウ素を「hBN」ともいう)を準備する準備工程と、hBNを焼結させて多結晶cBNに直接変換させる変換工程と、を備え、hBNは、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、異種元素の含有率が、厚み方向に段階的または連続的に変化する、多結晶cBNの製造方法である。かかる製造方法によれば、高い硬度の多結晶cBNを製造することができるので、導電性を有しかつ機械的強度に優れた多結晶cBNを製造することができる。
上記製造方法において、準備工程は、窒化物ガスと、ホウ素化合物ガスと、異種元素を含むガスとを用いた化学気相成長法によりhBNを形成する工程を含むことが好ましい。かかる方法により、異種元素の含有率が厚み方向に変化するhBNを形成しやすく、導電性を有しかつ機械的強度に優れた多結晶cBNを容易に製造することができる。
上記製造方法において、六方晶窒化ホウ素は、異種元素の含有率が厚み方向に段階的に変化し、異種元素の含有率が互いに異なる第1hBN層と第2hBN層とが積層されてなり、準備工程において、第1hBN層と第2hBN層とは化学気相成長法により形成および積層されるように製造することができる。この方法によると、第1hBN層および第2hBN層は形成されるとともに積層されるので、第1hBN層と第2hBN層との界面において強度が低下することがなくより機械的強度に優れた多結晶cBNを製造することができる。
なお、上記製造方法において、六方晶窒化ホウ素は、異種元素の含有率が厚み方向に段階的に変化し、異種元素の含有率が互いに異なる第1六方晶窒化ホウ素層と第2六方晶窒化ホウ素層とが積層されてなり、準備工程において、第1hBN層と第2hBN層とが化学気相成長法により形成された後に積層されるように製造してもよい。
以下、本発明に係る多結晶cBN、および多結晶cBNの製造方法について、さらに詳細に説明する。
<多結晶立方晶窒化ホウ素(多結晶cBN)>
本発明の多結晶cBNは、窒素(N)と、ホウ素(B)と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含む。
本明細書において、「結晶構造内にドープされた異種元素」とは、異種元素が、窒素およびホウ素が共有結合することによって構成されるcBNの結晶構造において、一部の窒素またはホウ素と置換された状態で、換言すれば、結晶構造を構成する窒素およびホウ素と共有結合した状態で存在しており、原子レベルで結晶構造内に分散されている状態をいう。本実施形態の多結晶cBNは、好ましくはクラスター化した異種元素を含まない。クラスターは、複数の原子が凝集した状態で結晶構造内に存在する状態であり、結晶構造内に原子レベルで分散して存在する状態とは異なる。クラスター化した異種元素を含む場合、異種元素は結晶構造内に不均一に存在することになり、多結晶cBNの均質性を低下させるとともに、結晶構造に大きな歪みをもたらし、結果的に多結晶cBNの硬度を低下させることになるので好ましくない。
多結晶cBNにおいて、異種元素が含まれるかどうかおよびその含有率は誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)分析によって測定することができる。多結晶cBNに異種元素が含まれる場合に、異種元素が原子レベルで結晶構造内に分散されているかどうかは、たとえば、(1)多結晶cBN中に異種元素の結晶相が存在するかどうかを観察することによって、(2)多結晶cBNの導電性の有無を測定することによって、また、上記(1)および(2)を適宜組み合わせることによって確認することができる。
上記(1)に関し、原子レベルで結晶構造内に分散されている異種元素は、cBNとは異なる結晶相を構成しないため、異種元素の結晶相が観察されない。これに対して、クラスター化して存在する異種元素は、cBNとは異なる結晶相を構成するため、異種元素の結晶相が観察される。このような結晶相の有無は、たとえば、X線回折スペクトルによって観察することができ、また、結晶相の大きさによっては、目視によっても観察することができる。
上記(2)に関し、たとえば、cBNに対し、X線回折スペクトルによって異種元素の結晶相が存在しないことを確認し、さらに、cBNの体積抵抗率(Ωcm)を測定して導電性を確認する。異種元素の結晶相が確認されず、かつ体積抵抗率が所定値以下である場合に、異種元素が原子レベルで結晶構造内に分散されているとみなすことができる。
本発明の多結晶cBNは、異種元素の含有率が、厚み方向に段階的または連続的に変化する。異種元素の含有率が、厚み方向の一方向に増大または減少してもよいし、増大および減少を繰り返してもよい。
多結晶cBNにおいて、異種元素の含有率が、厚み方向に変化しているかどうかは、たとえば、多結晶cBNにおける異種元素の原子濃度分布を測定することによって確認することができる。原子濃度分布は、たとえば、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)によって測定することができる。結晶構造中の厚み方向に異なる任意の2点において測定される異種元素の原子濃度差を複数箇所で測定し、原子濃度差が所定の値以上である場合に、異種元素の含有率が厚み方向で変化している状態であるとみなすことができる。
本発明の多結晶cBNにドープされた異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種類以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素である。1族元素および2族元素は、最外殻のp軌道に電子がないので、アクセプターとなって多結晶cBNに導電性を付与することができる。1族元素としては、リチウム(Li)が例示され、2族元素としてベリリウム(Be),マグネシウム(Mg)が例示される。14族元素および16族元素は、最外殻のp軌道の電子を供与することによりドナーとなって多結晶cBNに導電性を付与することができる。14族元素としては、炭素(C),ケイ素(Si)が例示され、16族元素としては、硫黄(S)が例示される。酸素は、Bと酸化物を形成し、不活性であるのでドナーとはならず、したがって意図的に添加される異種元素から除かれる。
本実施形態の多結晶cBNは、異種元素として、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種以上のアクセプターとなる元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上のドナーとなる元素を含むものであり、アクセプターとなる元素を複数種類含んでいてもよく、またドナーとなる元素を複数種類含んでいてもよい。
本実施形態の多結晶cBNにおいて、異種元素の含有率は、全体で、たとえば0.001質量ppm以上6×10質量ppm以下であることが好ましい。異種元素の含有率が0.001質量ppm未満であると導電性を付与することが難しく、6×10質量ppmを超えると硬質材料に有用な十分な硬度を得ることが難しくなる。また、1×10質量ppm以上であることにより、容易に放電加工ができる程度の導電性を付与することができる。本明細書において、異種元素の含有率は、ICP分析により測定される値とする。
本実施形態の多結晶cBNは体積抵抗率が、好ましくは100mΩcm以下であり、さらに好ましくは10mΩcm以下である。体積抵抗率が100mΩcm以下であることにより、放電加工しやすく、放電加工により効率的な加工および精密な加工が可能となる。本明細書において、体積抵抗率とはJIS C2141に準じて測定される値とする。
本発明の多結晶cBNを構成する単結晶の粒径(結晶粒の最大長さ)は、好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは10〜500nmである。単結晶の粒径が500nm以下であることにより、等方性が向上し、欠けにくく、耐摩耗性に優れた多結晶cBNが得られる。多結晶cBNを構成する単結晶の粒径のばらつきは、0〜50%であることが好ましい。粒径のばらつきが上記範囲内であることにより、さらに等方性が向上し、耐摩耗性に優れた多結晶cBNが得られる。
本発明の多結晶cBNは、後述する多結晶cBNの製造方法により製造することができ、この製造方法によれば、単結晶の粒子間に結合剤を介在させることなく、粒子同士を強固に結合させることができる。これにより、本発明の多結晶cBNは、結合剤により粒子同士を結合させた場合と比して、高い硬度を有することができる。したがって、本発明の多結晶cBNは、結合剤を含有しないことが好ましい。
また、後述する製造方法によれば、不可避不純物の混入量が十分に低い多結晶cBNを製造することができる。具体的には、本発明の多結晶cBNにおいて、不可避不純物である各元素の各々の含有率を1×10質量ppm以下、さらには1×10質量ppm以下とすることができる。不可避不純物である各元素の各々の含有率が1×10質量ppm以下であることにより、単結晶粒界でのすべりを抑制することができ、単結晶粒同士の結合をより強固にすることができるため、多結晶cBNの硬度をさらに高めることができる。したがって、本実施形態のcBNにおいて、不可避不純物である各元素の各々の含有率は、好ましくは1×10質量ppm以下であり、さらに好ましくは1×10質量ppm以下である。なお、不可避不純物とは、窒素、ホウ素、および意図した異種元素以外の元素を意味し、水素(H)、酸素(O)、シリコン(Si)、遷移金属などを挙げることができる。
不可避不純物の各元素の各々の含有率は、ICP分析やSIMS分析で測定することができる。これらの分析方法による検出限界は1×10質量ppm程度であるので、不可避不純物は、これらの分析方法により検出されない程度であることが好ましい。
多結晶cBNの大きさは、目的とする構造、デバイス、工具、器具等に合わせて任意の値としてもよい。また、多結晶cBNの形状も、立方体、直方体、円柱等、任意の形状とすることができる。
また、本発明の多結晶cBNは、高い機械的強度を維持し、かつ放電加工ができるように構成することができることから、効率的な加工および精密な加工が可能である。多結晶cBNは、鉄系材料に対する耐摩耗性が高いので、たとえば、鉄系材料を加工するための工具に用いることができる。なお、鉄系材料とは、鉄を含む材料を意味し、純鉄の他、ステンレス(SUS)、ニッケル合金、コバルト合金、クロム合金などを挙げることができる。
工具としては、切削工具、研削工具、耐摩工具などを挙げることができる。切削工具としては、たとえば、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどを挙げることができる。
(第1の実施形態)
本実施形態の多結晶cBNは、異種元素の含有率が、厚み方向に段階的に変化し、異種元素の含有率が互いに異なる第1cBN層と第2cBN層とが積層されている。第1cBN層は、異種元素の含有率が1質量ppm以上6×10質量ppm以下であり、第2cBN層は、異種元素の含有率が1質量ppm未満であり、異種元素を含まない層であってもよい。
ここで第2cBN層の厚さは1nm以上100μm以下とすることが好ましい。第2cBN層の厚さが100μmを超えるときは、第2cBN層が1MV/cm以上の極めて高い耐電界強度を有するため、多結晶cBNを放電加工することが難しくなるからである。また、第1cBN層の厚さも1nm以上100μm以下とすることが好ましい。第1cBN層は第2cBN層と比較すると低い硬度となるので、第1cBN層の厚さが100μmを超える場合は、多結晶cBN全体として十分な機械的強度が得られないことがあるからである。
また、第1cBN層に対する第2cBN層の厚さの比は、好ましくは0.0001以上10000以下であり、より好ましくは0.1以上10以下である。
図1〜図4は、第1cBN層1と第2cBN層2との積層構成の具体例を示す図である。図1は、第1cBN層1と第2cBN層2とがそれぞれ1層積層された構成である。第1cBN層1と第2cBN層2とは同じ厚さを有する。この構成によると、1回の積層回数で本発明の構成を容易に実現することができる。
図2は、3層の第1cBN層1と2層の第2cBN層2とが交互に積層され、表面層がともに第1cBN層1となるように構成されている。第1cBN層1と第2cBN層2とは同じ厚さを有する。この構成によると、表面層がともに異種元素の含有率が高い第1cBN層1であり、さらに第1cBN層1の総厚が第2cBN層2の総厚より大きくなるので、第2cBN層2により機械的強度を確保しつつ、多結晶cBN全体として導電性を有する構成とすることができる。
図3は、4層の第1cBN層1と3層の第2cBN層2とが交互に積層され、表面層がともに第1cBN層1となるように構成されている。第1cBN層1に対する第2cBN層2の厚さの比は、0.1以上1未満である。この構成によると、表面層がともに異種元素の含有率が高い第1cBN層1であり、さらに第1cBN層1の総厚が第2cBN層2の総厚より大きくなるので、第2cBN層2により機械的強度を確保しつつ、多結晶cBNとして導電性を有する構成とすることができる。
図4は、4層の第1cBN層1と3層の第2cBN層2とが交互に積層され、表面層がともに第1cBN層1となるように構成されている。各層の厚さは一定ではない。この構成によると、各層の厚さを適宜調整することにより、導電性を有しかつ所望の特性を有する構成とすることができる。
異種元素を含まないcBN層は、光が照射された場合に、光が透過し、灰色透明な領域として現れる。これに対して、異種元素の含有率が1質量ppm以上6×10質量ppm以下であるcBN層は、透光性を有さない。したがって、第2cBN層2が異種元素を含有しない場合は、光を照射することにより、透光性の違いにより第1cBN層1と第2cBN層2とを確認することができる。
<多結晶立方晶窒化ホウ素(多結晶cBN)の製造方法>
本発明の多結晶cBNの製造方法は、六方晶窒化ホウ素(hBN)を準備する準備工程と、hBNを焼結させて多結晶cBNに直接変換させる変換工程と、を備える。準備されるhBNは、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種類以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、hBNにおける異種元素の含有率は、厚み方向に段階的または連続的に変化する。このようなhBNを用いて多結晶cBNを製造することにより、厚み方向に段階的にまたは連続的に変化するcBNを製造することができる。以下、図5および図6を用いながら、各工程について説明する。
(準備工程)
本工程は、hBNを準備する工程であり、これにより、図5に示すように、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種類以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、hBNにおける異種元素の含有量は、厚み方向に段階的または連続的に変化するhBN11を、基材12上に準備する。このようなhBNは、たとえば、以下の化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法を用いることにより基材上に形成することができる。
(CVD法)
まず、真空チャンバ内に、その主面上にcBNを気相成長させるための基材2を配置する。基材12の材料としては、1400℃〜2300℃程度の温度に耐え得る材料であれば、いかなる金属、無機セラミック材料、グラファイトなどの炭素材料、窒化ホウ素材料を用いてもよい。多結晶cBNの原材料となるhBNに混入する不純物を低減するという観点から、少なくとも基材の主面は窒化ホウ素材料であることが好ましい。
次に、真空チャンバ内に配置された基材12を1400℃以上2300℃以下程度の温度で加熱する。加熱方法としては公知の方法を採用することができ、たとえば、基材12を直接あるいは間接的に加熱可能なヒータを真空チャンバに設置する方法が挙げられる。
次に、真空チャンバ内に、窒化物ガスと、ホウ素化合物ガスと、異種元素を含むガスとを導入する。このとき、真空チャンバ内の真空度(圧力)を大気圧以下にする。これにより、窒化物ガスと、ホウ素化合物ガスと、異種元素を含むガスとを、真空チャンバ内で均一に混合させることができる。
窒化物ガスとしては、アンモニア、アミン化合物などを用いることができ、ガスの取り扱いが容易であり、不純物が少ないという観点から、アンモニアを用いることが好ましい。ホウ素化合物ガスとしては、たとえば、三塩化ホウ素(BCl)のようなハロゲン化ホウ素、有機ホウ素化合物、またはこれらを組み合わせて使用することができる。また、異種元素を含むガスとしては、異種元素の水素化物からなるガス、異種元素を含む炭化水素ガスを用いることが好ましい。異種元素の水素化物からなるガスを用いた場合、当該ガスを高温中で容易に分解することができるため、効率的に異種元素を基材上に供給することができる。
たとえば、異種元素としてSをドープさせる場合には、硫化水素(H2S)、硫化ジメチル(C26S)などを用いることが好ましく、Cをドープさせる場合には、メタン、エタンなどの炭化水素などを用いることが好ましく、Siをドープさせる場合には、シランなどを用いることが好ましく、Liをドープさせる場合には、メチルリチウムなどを用いることが好ましく、Beをドープさせる場合には、アルキルBe化合物などを用いることが好ましく、Mgをドープさせる場合には、水素化Mgなどを用いることが好ましい。
そして、混合されたガスを1400℃以上の温度で熱分解することにより、基材の主面上に、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含むhBN、換言すれば、異種元素が原子レベルで結晶構造内に分散して存在するhBN11が形成される。
CVD法においては、異種元素を含むガスの供給量や真空排気量を制御することによって、hBN11における異種元素の含有率を厚み方向に段階的にまたは連続的に変化させることができる。または、上記した方法により、異種元素の含有率が所望の値となるように複数のhBN層をそれぞれ形成して、かかるhBN層を積層して異種元素の含有率が厚み方向に段階的に異なるhBNを形成してもよい。
異種元素の含有率が厚み方向に段階的に異なるhBNとして、たとえば異種元素の含有率が互いに異なる第1hBN層と第2hBN層との積層体を構成することができる。この場合、第1hBN層は、異種元素の含有率が1質量ppm以上6×10質量ppm以下であり、第2hBN層は、異種元素の含有率が1質量ppm未満であるように構成することができる。異種元素の含有率は、その後の変換工程により形成される多結晶cBNに引き継がれるので、このようにhBNを構成することにより、第1cBN層と第2cBN層との積層体であり、第1cBN層の異種元素の含有率が1質量ppm以上6×10質量ppm以下であり、第2cBN層の異種元素の含有率が1質量ppm未満であるcBNを形成することができる。
または、異種元素の含有率が互いに異なる第1hBN層と第2hBN層との積層体として、第1hBN層と第2hBN層ともに、異種元素の含有率が1質量ppm以上6×10質量ppm以下である積層体を構成することができる。異種元素の含有率は、その後の変換工程により形成される多結晶cBNに引き継がれるので、このようにhBNを構成することにより、第1cBN層と第2cBN層との積層体であり、第1cBN層および第2cBN層の含有率が互いに異なり、かつ異種元素の含有率が1質量ppm以上6×10質量ppm以下であるcBNを形成することができる。
窒化物ガスとホウ素化合物ガスとの混合割合については、窒素とホウ素の原子濃度の違いが6%以下となるようにすることが好ましい。
上記CVD法において、hBN11に含まれる単結晶の粒径を10μm以下とするためには、不純物として酸素の混入を0.0001ppm以下にすることが好ましい。単結晶の粒径を10μm以下にすることにより、直接変換により製造される多結晶cBNにおける単結晶の粒径を1μm未満に抑えることができる。また、hBN11に含まれる単結晶の粒径を10nm以上500nm以下に調整することにより、多結晶cBNを構成する単結晶の粒径を10nm以上500nm以下にすることができる。なお、hBN11の構成は、単結晶を一部に含み、他の部分がアモルファス、多結晶、不定形状態である構成でもよく、単結晶から構成される多結晶であってもよい。より粒径が均一な多結晶cBNを得るためには、各構成が単相である構成のhBN11を形成することが好ましい。
本工程において、上記CVD法を用いることにより、基材上に、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含む六方晶窒化ホウ素であって、異種元素の含有率が厚み方向に変化するhBNを作製することができる。
窒化物ガスと、ホウ素化合物ガスと、異種元素を含むガスとは同時に真空チャンバ内に導入することが好ましい。これにより、各ガスを十分に混合することができ、異種元素のドープ量の制御が容易となる。また、各ガスは、基材の主面の真上方向から基材の主面に向けて供給してもよく、基材の主面に対して斜め方向あるいは水平方向から基材に向けて供給してもよい。より効率的に異種元素をドープするという観点からは、基材の主面の真上方向から基材の主面に向けて供給することが好ましい。また、さらに効率的に、異種元素をドープすべく、真空チャンバ内に、窒化物ガスと、ホウ素化合物ガスと、前記異種元素を含むガスとを基材の主面上に導く案内部材を設けてもよい。
また、本工程で準備されるhBNに関し、その密度は、1.6g/cm3以上2.2g/cm3以下であることが好ましい。hBNの密度が1.6g/cm3以上の場合、後述する変換工程において、hBNが多結晶cBNに直接変換されるときの体積の変化を十分に小さくすることができるため、製造される多結晶cBNに割れが発生する確率を抑制することができ、また、装置内の環境の変化を抑制することができ、結果的に、製造歩留まりを向上させることができる。
hBNの密度は、たとえば、hBNを基材の主面上に成長させる際の温度(℃)、各ガスの導入速度(ml/min)によって調整することができる。具体的には、温度を高くすることにより、また、各ガスの導入速度を速めることにより、hBNの密度を大きくすることができる。
また、本工程で準備されるhBNに関し、不可避不純物の含有率が低いことが好ましく、具体的には、不可避不純物である各元素の各々の含有率が1×10質量ppm以下であることが好ましい。これは、hBNにおける不可避不純物の含有率が、製造される多結晶cBNに引き継がれるためである。また、不可避不純物の含有率を低く抑えることにより、不可避不純物の存在に起因する粒成長を抑制することができるため、hBN中により均一な大きさの単結晶を含有させることができる。なお、ICP分析、SIMS分析など、hBN中の不可避不純物の含有率を測定可能な分析に用いられる分析装置は、一般的に、検出限界が1×10質量ppm以下であるため、含有率が1×10質量ppm以下の元素は、上記分析装置において検出されないことになる。
hBNへの不可避不純物の混入は、ガスを熱分解する際の真空チャンバ内の真空度を比較的高く設定することによって抑制することができる。通常、CVD法によりhBNを形成する場合、真空チャンバ内の真空度は100Torr〜150Torr程度に維持されるが、本発明者らは、この真空度を10Torr〜90Torr以下に維持することにより、不可避不純物である各元素の各々の含有率を1×10質量ppm以下に制御できることを知見している。
なお、上記CVD法では、基材を加熱した後に、真空チャンバ内に混合ガスを導入する方法について説明したが、混合ガスを導入した後に、基材を加熱する方法を用いてもよく、同時に行ってもよい。
(変換工程)
本工程は、hBNを焼結させて多結晶cBNに直接変換させる工程であり、これにより、図6に示すように、多結晶cBN13を、基材12上に作製する。
具体的には、まず、図5に示す基材12上のhBN11を、高温高圧装置に配置する。高温高圧装置とは、装置内部にhBNを配置することができ、かつ、該内部を上記のような条件下に制御可能な装置であればよく、たとえば、ベルト型プレス機を用いる。
そして、このhBN11を、1800℃〜2200℃、および7GPa以上という高温高圧条件下に曝す。これにより、hBN11は瞬間的に焼結され、図6に示すように、多結晶cBN13へと変換される。この場合、多結晶cBN13の形状は、わずかな体積変化を除き、hBN11の形状を引き継ぐことになる。なお、hBN11から基材12を取り除いた後に、hBN11のみを高温高圧条件下に曝してもよく、この場合にも、製造される多結晶cBNは、基本的にhBN11の形状を引き継ぐことになる。
本工程において、焼結助剤、触媒、結合剤などの添加剤を用いないことが好ましい。本工程によれば、添加剤を用いなくても、単結晶が強固に結合した多結晶cBNを製造することができ、添加剤を用いないことにより、添加剤を用いた場合と比してより高い硬度の多結晶cBNを製造することができる。
以上詳述した本実施形態の多結晶cBNの製造方法によれば、上述の特徴を有する多結晶cBN、すなわち、窒素と、ホウ素と、窒素およびホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、異種元素の含有率が厚み方向に段階的または連続的に変化する多結晶cBNを製造することができる。このような多結晶cBNは、従来の技術では製造できないものである。
また、本実施形態の製造方法によれば、異種元素はhBN中に分散するため、hBNから多結晶cBNに直接変換する際に、多結晶cBNの結晶粒が局所的に異常成長するのを効果的に抑制することができる。これにより、多結晶cBNを構成する単結晶の粒径をより均一にすることができ、高硬度の多結晶cBNを製造することができる。以下、上述の準備工程が異なる第2と第3の実施形態を説明する。
(第2の実施形態)
本実施形態の準備工程は、第1hBN層と第2hBN層とを上述のCVD法により順次形成するとともに積層する工程である。まず、上述したCVD法により基板12上に第1hBN層を形成し、その後CVD法において異種元素を含むガスの供給量を変化させて第1hBN層上に第1hBN層とは異種元素の含有率が異なる第2hBN層を形成する。かかる工程を繰り返して第1hBN層と第2hBN層とが交互に積層され、異種元素の含有率が厚み方向に段階的に異なるhBNを形成することができる。
本実施形態の準備工程によると、第1hBN層と第2hBN層の形成と積層が同一工程で行われるので、第1hBN層と第2hBN層の界面が汚染するのを防止することができる。
準備工程によりhBNを形成した後は、上述の変換工程によりhBNを焼結し、多結晶cBNに直接変換する。本実施形態の方法によると、純度が高くまたは第1cBN層と第2cBN層との結合状態が優れた多結晶cBNを形成することができる。
(第3の実施形態)
本実施形態の準備工程は、第1hBN層と第2hBN層とを上述のCVD法によりそれぞれ形成し、その後積層して第1hBN層と第2hBN層の積層体からなるhBNを形成する工程である。
本実施形態においては、第1hBN層と第2hBN層とを積層する前に、第1hBN層と第2hBN層とが接触する面について、清浄面を露出させることが好ましい。たとえば、サンドペーパーによる鏡面研磨を行ない清浄面を露出させて、それぞれの清浄面同士を不活性ガス雰囲気中において向かい合うように積層して積層体を構成し、焼結するための容器に封入することが好ましい。
本実施形態の準備工程によると、第1hBN層と第2hBN層の異種元素の含有率を容易に調整することができる。
準備工程によりhBNを形成した後は、上述の変換工程によりhBNを焼結し、多結晶cBNに直接変換する。本実施形態の方法によると、異種元素の含有率が段階的に変化する多結晶cBNを形成することができる。
実施例1〜8、比較例1〜3において、以下に詳述するように、CVD法でhBNを作製し、得られたhBNに関して、以下の方法により異種元素の含有率の測定を行なった。その後、当該hBNを直接変換して多結晶cBNを作製し、得られた多結晶cBNに関して、以下の方法により単結晶の粒径の測定、異種元素の含有率の測定、ヌープ硬度の測定、体積抵抗率の測定を行なった。
(単結晶の粒径の測定)
電子顕微鏡像を用いて得たSEM(Scanning Electron Microscopy)における各単結晶の粒径を実測した。
(異種元素の含有率の測定)
ICP−MS分析装置を用いて、各元素の含有率を測定した。
(ヌープ硬度の測定)
マイクロヌープ硬度計により、測定荷重を4.9Nとしてヌープ硬度を測定した。
(電気抵抗率の測定)
抵抗率測定器により、温度20℃での体積抵抗率を測定した。
<実施例1>
第3の実施形態の方法により、実施例1の多結晶cBNを作成した。以下、具体的に説明する。
(準備工程)
真空チャンバ内に、グラファイトからなる基材を配置した。次に、真空チャンバ内の基材を1500℃で加熱し、そして、真空チャンバ内の真空度を10Torrとして、真空チャンバ内に三塩化ホウ素を100sccm、アンモニアを10sccmで供給を1時間継続した。これにより、基材の主面上に、50μmの厚さの、ノンドープの第1hBN層が形成された。得られた第1hBN層は、基材から切り離した。第1hBN層の不可避不純物の濃度はSIMS分析で10質量ppm以下であった。
真空チャンバ内に、グラファイトからなる基材を配置した。次に、真空チャンバ内の基材を1500℃で加熱し、そして、真空チャンバ内の真空度を10Torrとして、真空チャンバ内に三塩化ホウ素を100sccm、アンモニアを10sccm、硫化水素を2sccmで供給を1時間継続した。これにより、基材の主面上に、50μmの厚さの、硫黄がドープされた第2hBN層が形成された。第2hBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。得られた第2hBN層は基材から切り離した。
第1hBN層および第2hBN層のそれぞれの一方の表面をサンドペーパーにより鏡面研磨を行なって清浄面を露出させ、それぞれの清浄面同士を不活性ガス雰囲気中において向かい合うように積層させて、焼結するための容器に封入した。
(変換工程)
次に、容器に封入された第1hBN層と第2hBN層との積層体であるhBNを、2000℃、20GPaの高温高圧環境下に曝すことにより、hBNをcBNに直接変換し、硫黄を含有しない50μmの厚さの第1cBN層と、硫黄の含有率が1×10質量ppmである50μmの厚さの第2cBN層との積層体からなる多結晶cBNを製造した。
多結晶cBNに光を照射したところ、光を透過した灰色透明な層と、透光性を失った層との明確な縞模様を確認した。
多結晶cBNの第1cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は40GPaであり、第2cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は30GPaであり、機械的強度に優れた多結晶cBNが得られた。なお、第2cBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
また、多結晶cBNの体積抵抗率は10mΩcmであり、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工してエンドミルを作製したところ、金属製のエンドミルの作製と同等の加工時間で、同等の精度の加工ができた。
<実施例2>
実施例2の多結晶cBNは、実施例1とは、準備工程において、第1hBN層作製時の原料ガスの供給時間および第2hBN層作製時の原料ガスの供給時間を1時間から12分に変更した点以外は同様の方法で作製した。
本実施例の準備工程においては、基材の主面上に、10μmの厚さの、ノンドープの第1hBN層が形成された。第1hBN層の不可避不純物の濃度はSIMS分析で10質量ppm以下であった。また、基材の主面上に、10μmの厚さの、硫黄がドープされた第2hBN層が形成された。第2hBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
その後、実施例1と同様にして変換工程を行ない、硫黄を含有しない10μmの厚さの第1cBN層と、硫黄の含有率が1×10質量ppmである10μmの厚さの第2cBN層との積層体からなる多結晶cBNを製造した。
多結晶cBNに光を照射したところ、光を透過した灰色透明な層と、透光性を失った層との明確な縞模様を確認した。
多結晶cBNの第1cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は45GPaであり、第2cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は35GPaであり、機械的強度に優れた多結晶cBNが得られた。なお、第2cBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
また、多結晶cBNの体積抵抗率は10mΩcmであり、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工してエンドミルを作製したところ、金属製のエンドミルの作製と同等の加工時間で、同等の精度の加工ができた。
<実施例3>
実施例3の多結晶cBNは、実施例1とは、準備工程において、第1hBN層作製時の原料ガスの供給時間および第2hBN層作製時の原料ガスの供給時間を1時間から12分に変更した点以外は同様の方法で作製した。
本実施例の準備工程においては、基材の主面上に、10μmの厚さの、ノンドープの第1hBN層が形成された。第1hBN層の不可避不純物の濃度はSIMS分析で10質量ppm以下であった。また、基材の主面上に、10μmの厚さの、硫黄がドープされた第2hBN層が形成された。第2hBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
その後、実施例1とは、変換工程における条件を、2000℃、18GPaの高温高圧環境下とした点以外は同様にして変換工程を行ない、硫黄を含有しない10μmの厚さの第1cBN層と、硫黄の含有率が1×10質量ppmである10μmの厚さの第2cBN層との積層体からなる多結晶cBNを製造した。
多結晶cBNに光を照射したところ、光を透過した灰色透明な層と、透光性を失った層との明確な縞模様を確認した。
多結晶cBNの第1cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は40GPaであり、第2cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は35GPaであり、機械的強度に優れた多結晶cBNが得られた。なお、第2cBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
また、多結晶cBNの体積抵抗率は10mΩcmであり、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工してエンドミルを作製したところ、金属製のエンドミルの作製と同等の加工時間で、同等の精度の加工ができた。
<実施例4>
実施例4の多結晶cBNは、実施例1とは、準備工程において、基材をBNとした点以外は同様の方法で作製した。
本実施例の準備工程においては、基材の主面上に、50μmの厚さの、ノンドープの第1hBN層が形成された。第1hBN層の不可避不純物の濃度はSIMS分析で10質量ppm以下であった。また、基材の主面上に、50μmの厚さの、硫黄がドープされた第2hBN層が形成された。第2hBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
その後、実施例1と同様にして変換工程を行ない、硫黄を含有しない50μmの厚さの第1cBN層と、硫黄の含有率が1×10質量ppmである50μmの厚さの第2cBN層との積層体からなる多結晶cBNを製造した。
多結晶cBNに光を照射したところ、光を透過した灰色透明な層と、透光性を失った層との明確な縞模様を確認した。
多結晶cBNの第1cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は45GPaであり、第2cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は40GPaであり、機械的強度に優れた多結晶cBNが得られた。なお、第2cBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
また、多結晶cBNの体積抵抗率は20mΩcmであり、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工してエンドミルを作製したところ、金属製のエンドミルの作製と同等の加工時間で、同等の精度の加工ができた。
<実施例5>
実施例5の多結晶cBNは、実施例1とは、準備工程において、第1hBN層作製時の原料ガスの供給時間および第2hBN層作製時の原料ガスの供給時間を1時間から12分に変更した点以外は同様の方法で作製した。
本実施例の準備工程においては、基材の主面上に、10μmの厚さの、ノンドープの第1hBN層が形成された。第1hBN層の不可避不純物の濃度はSIMS分析で10質量ppm以下であった。また、基材の主面上に、10μmの厚さの、硫黄がドープされた第2hBN層が形成された。第2hBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
その後、実施例1と同様にして変換工程を行ない、硫黄を含有しない10μmの厚さの第1cBN層と、硫黄の含有率が1×10質量ppmである10μmの厚さの第2cBN層との積層体からなる多結晶cBNを製造した。
多結晶cBNに光を照射したところ、光を透過した灰色透明な層と、透光性を失った層との明確な縞模様を確認した。
多結晶cBNの第1cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は45GPaであり、第2cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は40GPaであり、多結晶cBN全体のヌープ硬度は43GPaであり、機械的強度に優れた多結晶cBNが得られた。なお、第2cBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
また、多結晶cBNの体積抵抗率は30mΩcmであり、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工してエンドミルを作製したところ、金属製のエンドミルの作製と同等の加工時間で、同等の精度の加工ができた。
<実施例6>
実施例6の多結晶cBNは、実施例1とは、準備工程において、第1hBN層作製時の原料ガスの供給時間および第2hBN層作製時の原料ガスの供給時間を1時間から12分に変更した点以外は同様の方法で作製した。
本実施例の準備工程においては、基材の主面上に、10μmの厚さの、ノンドープの第1hBN層が形成された。第1hBN層の不可避不純物の濃度はSIMS分析で10質量ppm以下であった。また、基材の主面上に、10μmの厚さの、硫黄がドープされた第2hBN層が形成された。第2hBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
その後、実施例1とは、変換工程における条件を、2000℃、18GPaの高温高圧環境下とした点以外は同様にして変換工程を行ない、硫黄を含有しない10μmの厚さの第1cBN層と、硫黄の含有率が1×10質量ppmである10μmの厚さの第2cBN層との積層体からなる多結晶cBNを製造した。
多結晶cBNに光を照射したところ、光を透過した灰色透明な層と、透光性を失った層との明確な縞模様を確認した。
多結晶cBNの第1cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は45GPaであり、第2cBN層の単結晶の数平均体粒径は200nm、ヌープ硬度は40GPaであり、多結晶cBN全体のヌープ硬度は42GPaであり、機械的強度に優れた多結晶cBNが得られた。なお、第2cBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
また、多結晶cBNの体積抵抗率は25mΩcmであり、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工してエンドミルを作製したところ、金属製のエンドミルの作製と同等の加工時間で、同等の精度の加工ができた。
<実施例7>
実施例1と同様にして準備工程を行ない、基材の主面上に、50μmの厚さの、ノンドープの第1hBN層が形成された。第1hBN層の不可避不純物の濃度はSIMS分析で10質量ppm以下であった。また、基材の主面上に、50μmの厚さの、硫黄がドープされた第2hBN層が形成された。第2hBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
その後、実施例1と同様にして変換工程を行ない、硫黄を含有しない50μmの厚さの第1cBN層と、硫黄の含有率が1×10質量ppmである50μmの厚さの第2cBN層との積層体からなる多結晶cBNを製造した。
多結晶cBNに光を照射したところ、光を透過した灰色透明な層と、透光性を失った層との明確な縞模様を確認した。
多結晶cBNの第1cBN層の単結晶の数平均粒径は50nm、ヌープ硬度は45GPaであり、第2cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は35GPaであり、機械的強度に優れた多結晶cBNが得られた。なお、第2cBN層の硫黄の含有率は1×10質量ppmであった。
また、多結晶cBNの体積抵抗率は21mΩcmであり、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工してエンドミルを作製したところ、金属製のエンドミルの作製と同等の加工時間で、同等の精度の加工ができた。
<実施例8>
実施例8の多結晶cBNは、実施例1とは、準備工程において、第1hBN層作製時の原料ガスの供給時間および第2hBN層作製時の原料ガスの供給時間を1時間から20時間に変更した点以外は同様の方法で作製した。
本実施例の準備工程においては、基材の主面上に、1000μmの厚さの、ノンドープの第1hBN層が形成された。第1hBN層の不可避不純物の濃度はSIMS分析で10質量ppm以下であった。また、基材の主面上に、1000μmの厚さの、硫黄がドープされた第2hBN層が形成された。第2hBN層の硫黄の含有率は6×10質量ppmであった。
その後、実施例1と同様にして変換工程を行ない、硫黄を含有しない1000μmの厚さの第1cBN層と、硫黄の含有率が6×10質量ppmである1000μmの厚さの第2cBN層との積層体からなる多結晶cBNを製造した。
多結晶cBNに光を照射したところ、光を透過した灰色透明な層と、透光性を失った層との明確な縞模様を確認した。
多結晶cBNの第1cBN層の単結晶の数平均粒径は50nm、ヌープ硬度は48GPaであり、第2cBN層の単結晶の数平均粒径は200nm、ヌープ硬度は40GPaであり、機械的強度に優れた多結晶cBNが得られた。なお、第2cBN層の硫黄の含有率は6×10質量ppmであった。
また、多結晶cBNの体積抵抗率は10mΩcmであり、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工してエンドミルを作製したところ、金属製のエンドミルの作製と同等の加工時間で、同等の精度の加工ができた。
表1に、実施例1〜8について、上記した製造条件、および各層の特性を示している。
Figure 2015030647
<比較例1>
比較例1の多結晶cBNは、実施例4の準備工程における第1hBN層の形成と同様の方法により50μmの厚さのノンドープのhBNを形成し、かかるhBNを、2000℃、20GPaの高温高圧環境下に曝すことにより、cBNに直接変換し、硫黄を含有しない50μmの厚さのノンドープの多結晶cBNを形成した。
多結晶cBNのヌープ硬度は45GPaであった。また、この多結晶cBNを金属を加工する条件で放電加工を試みたが放電加工できなかった。
<比較例2>
比較例2においては、まず実施例1の準備工程における第1hBN層の形成と同様の方法により50μmの厚さのノンドープのhBNを形成し、かかるhBNに硫黄を気相合成により1×10質量ppm添加した。このようにして形成した硫黄が添加されたhBNを、2000℃、20GPaの高温高圧環境下に曝すことにより、多結晶cBNに直接変換した。このようにして得られた多結晶cBNのヌープ硬度は30GPaであり、十分な機械的強度が得られなかった。
<比較例3>
比較例3の多結晶cBNは、実施例4の準備工程における第2hBN層の形成と同様の方法により、硫黄がドープされた50μmの厚さのhBNを形成し、かかるhBNを、2000℃、20GPaの高温高圧環境下に曝すことにより、cBNに直接変換し、硫黄の含有率が1×10質量ppmである50μmの厚さの多結晶cBNを形成した。このようにして得られた多結晶cBNのヌープ硬度は40GPaであった。
以上の結果から、実施例1〜8の多結晶cBNは、機械的強度が優れ、放電加工がによる効率的な工具の加工が可能であった。
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 第1立方晶窒化ホウ素層、2 第2立方晶窒化ホウ素、11 六方晶窒化ホウ素(hBN)、12 基材、13 多結晶立方晶窒化ホウ素(多結晶cBN)。

Claims (12)

  1. 窒素と、ホウ素と、前記窒素および前記ホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、
    前記異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、
    前記異種元素の含有率が、厚み方向に段階的または連続的に変化する、多結晶立方晶窒化ホウ素。
  2. 体積抵抗率が100mΩcm以下である、請求項1に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素。
  3. 前記多結晶立方晶窒化ホウ素を構成する単結晶の粒径が10nm以上500nm以下である、請求項1または請求項2に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素。
  4. 前記異種元素の含有率が、厚み方向に段階的に変化し、
    前記異種元素の含有率が互いに異なる第1立方晶窒化ホウ素層と第2立方晶窒化ホウ素層とが積層されてなる、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素。
  5. 前記第1立方晶窒化ホウ素層は、前記異種元素の含有率が1質量ppm以上6×10質量ppm以下であり、
    前記第2立方晶窒化ホウ素層は、前記異種元素の含有率が1質量ppm未満である、請求項4に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素。
  6. 前記第1立方晶窒化ホウ素層および前記第2立方晶窒化ホウ素層は、前記異種元素の含有率が1質量ppm以上6×10質量ppm以下である、請求項4に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素。
  7. 前記第1立方晶窒化ホウ素層および前記第2立方晶窒化ホウ素層は、厚さが1nm以上100μm以下である、請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素。
  8. 前記第1立方晶窒化ホウ素層に対する前記第2立方晶窒化ホウ素層の厚さの比が、0.0001以上10000以下である、請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素。
  9. 六方晶窒化ホウ素を準備する準備工程と、
    前記六方晶窒化ホウ素を焼結させて多結晶立方晶窒化ホウ素に直接変換させる変換工程と、を備え、
    前記六方晶窒化ホウ素は、窒素と、ホウ素と、前記窒素および前記ホウ素により構成される結晶構造内にドープされた異種元素とを含み、前記異種元素は、1族元素および2族元素からなる群より選択される1種以上の元素、または14族元素および酸素以外の16族元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、前記異種元素の含有率が、厚み方向に段階的または連続的に変化する、多結晶立方晶窒化ホウ素の製造方法。
  10. 前記準備工程は、窒化物ガスと、ホウ素化合物ガスと、前記異種元素を含むガスとを用いた化学気相成長法により前記六方晶窒化ホウ素を形成する工程を含む、請求項9に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素の製造方法。
  11. 前記六方晶窒化ホウ素は、前記異種元素の含有率が厚み方向に段階的に変化し、前記異種元素の含有率が互いに異なる第1六方晶窒化ホウ素層と第2六方晶窒化ホウ素層とが積層されてなり、
    前記準備工程において、前記第1六方晶窒化ホウ素層と前記第2六方晶窒化ホウ素層とは化学気相成長法により形成および積層される、請求項10に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素の製造方法。
  12. 前記六方晶窒化ホウ素は、前記異種元素の含有率が厚み方向に段階的に変化し、前記異種元素の含有率が互いに異なる第1六方晶窒化ホウ素層と第2六方晶窒化ホウ素層とが積層されてなり、
    前記準備工程において、前記第1六方晶窒化ホウ素層と前記第2六方晶窒化ホウ素層とが化学気相成長法により形成された後に積層される、請求項10に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素の製造方法。
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