JP6743666B2 - 多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法、スクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、ウォータージェット用オリフィス、伸線ダイス、切削工具、電極ならびに多結晶ダイヤモンドを用いた加工方法 - Google Patents

多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法、スクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、ウォータージェット用オリフィス、伸線ダイス、切削工具、電極ならびに多結晶ダイヤモンドを用いた加工方法 Download PDF

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Description

本発明は、多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法に関する。本発明にかかる多結晶ダイヤモンドは、スクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、ウォータージェット用オリフィス、伸線ダイス、切削工具、電極などに好適に用いられる。さらに本発明は、多結晶ダイヤモンドを用いた加工方法に関する。
近年、ナノ多結晶ダイヤモンド(以下、「NPD」と記す場合がある)が、天然の単結晶ダイヤモンドを超える等方的な硬さを有することが明らかになってきた。このような素材にホウ素化合物を添加することにより導電性を付与したナノ多結晶ダイヤモンドが開発されている。さらに、ホウ素を原子置換型でダイヤモンド結晶粒中に含ませることにより、ダイヤモンド構造に基づいた半導体特性を示すナノ多結晶ダイヤモンドが開発されている。
たとえば、特開2012−106925号公報(特許文献1)では、ホウ素化合物を不純物として含み、大気中で加熱することにより表面に酸化ホウ素の保護膜を形成させ、耐酸化性を高めたダイヤモンド多結晶体が提案されている。特開2013−028500号公報(特許文献2)では、周期律表の第3族元素が原子置換型でダイヤモンド結晶粒中に含まれることにより、ホウ素化合物を含まずにp型の導電性を具備させたナノ多結晶ダイヤモンドが提案されている。
特開2012−106925号公報 特開2013−028500号公報
しかしながら、特許文献1に開示のダイヤモンド多結晶体は、ホウ素化合物がダイヤモンドの結晶格子に含まれていないので硬度が低下し、かつホウ素化合物とダイヤモンドとの熱膨張率が異なるために高温でクラックが発生する傾向があり、これらの点で改善の余地があった。特許文献2に開示のナノ多結晶ダイヤモンドは、酸素を含むセラミックス、樹脂などの被削材を加工する場合に酸化されてしまうため、耐酸化性において改善の余地があった。
さらに、従来のナノ多結晶ダイヤモンドは、絶縁性の被削材を加工する場合に被削材との間にトライポプラズマが発生し、NPDおよび被削材がともに損耗してしまう傾向があった。さらに酸化ホウ素の保護膜は水溶性であるので、水溶液系の切削液を用いる場合に保護効果を発揮させることができなかった。したがって、硬度の低下およびクラックの発生を抑制しつつ、トライボプラズの発生を抑制することができ、非水溶性の保護膜を形成したナノ多結晶ダイヤモンドが求められている。
本発明は、上記実情に鑑み提案され、トライボプラズマの発生を抑制しつつ、非水溶性の保護膜を形成することも可能な多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法、多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたスクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、ウォータージェット用オリフィス、伸線ダイス、切削工具および電極、ならびに上記多結晶ダイヤモンドを用いた加工方法を提供することを目的とする。
本発明の一態様にかかる多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド単相を基本組成とする多結晶ダイヤモンドであって、前記多結晶ダイヤモンドは、複数の結晶粒により構成され、前記多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、窒素と、ケイ素とを含むとともに、残部が炭素および微量不純物であり、前記ホウ素は、前記結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在し、前記窒素および前記ケイ素は、前記結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在し、前記微量不純物は、BC5と、B4Cとを含み、前記BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、前記BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満であり、前記B4Cは、前記X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、前記ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、前記B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満であり、前記結晶粒は、その粒径が500nm以下である。
本発明の一態様にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法は、炭素と、ホウ素と、窒素と、ケイ素と、微量不純物としてBC5およびB4Cとを含む黒鉛を準備する第1工程と、前記黒鉛を不活性ガス雰囲気下で容器へ充填する第2工程と、前記容器内で、前記黒鉛を加圧熱処理によりダイヤモンドに変換する第3工程とを含み、前記ホウ素は、前記黒鉛の結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在する。
上記によれば、トライボプラズマを抑制しつつ、非水溶性の保護膜を形成することも可能な多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法を提供することができる。
図1は、本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの内部の添加元素分布の一例を示すグラフである。 図2は、高純度アルミナ(純度:99.9質量%)を被削材としたときの切削距離に対する多結晶ダイヤモンド製切削工具の工具摩耗量の変化を示すグラフである。 図3は、本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法の工程を示すフローチャートである。 図4は、本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法の中で、特に第1工程を説明するフローチャートである。
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
[1]本発明の一態様にかかる多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド単相を基本組成とする多結晶ダイヤモンドであって、上記多結晶ダイヤモンドは、複数の結晶粒により構成され、上記多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、窒素と、ケイ素とを含むとともに、残部が炭素および微量不純物であり、上記ホウ素は、上記結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在し、上記窒素および上記ケイ素は、上記結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在し、上記微量不純物は、BC5と、B4Cとを含み、上記BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、上記BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満であり、上記B4Cは、上記X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、上記ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、上記B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満であり、上記結晶粒は、その粒径が500nm以下である。このような構成により多結晶ダイヤモンドは、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成することが可能である。
[2]上記多結晶ダイヤモンドは、その表面が保護膜で被覆されていることが好ましい。この保護膜は、非水溶性の保護膜であることから、工具などに用いた場合に水溶液系の切削液に対して保護効果を発揮させることができる。
[3]上記保護膜は、酸化ケイ素、窒化ケイ素および窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの保護膜は、非水溶性の保護膜であることから、工具などに用いた場合に水溶液系の切削液に対して保護効果を発揮させることができる。
[4]上記保護膜は、上記結晶粒中から析出した析出物を含むことが好ましい。これらの保護膜も、非水溶性の保護膜であることから、工具などに用いた場合に水溶液系の切削液に対して保護効果を発揮させることができる。
[5]上記保護膜は、その平均膜厚が1nm以上1000nm以下であることが好ましい。これにより、摩擦係数を良好に低減させることができる。
[6]上記ホウ素は、その99原子%以上が孤立置換型として上記結晶粒中に存在することが好ましい。これにより、トライボプラズマをより抑制することができる。
[7]上記ホウ素は、その原子濃度が1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下であることが好ましい。これにより、トライボプラズマをさらに抑制することができる。
[8]上記窒素は、その原子濃度が1×1018cm-3以上1×1020cm-3以下であることが好ましい。これにより、非水溶性の保護膜を形成することができる。
[9]上記ケイ素は、その原子濃度が1×1018cm-3以上2×1020cm-3以下であることが好ましい。これにより、非水溶性の保護膜をさらに形成することができる。
[10]上記多結晶ダイヤモンドは、ラマンスペクトル測定において、1575cm-1±30cm-1を中心として半値幅が20cm-1以下となるピークの面積が、1300cm-1±30cm-1を中心として半値幅が60cm-1以下となるピークの面積の1%未満であることが好ましい。これにより、天然の単結晶ダイヤモンドを超える等方的な硬さを維持することができる。
[11]上記多結晶ダイヤモンドは、動摩擦係数が0.2以下であることが好ましい。これにより、セラミックス、樹脂などの絶縁性の被削材を加工する場合に好適となる。
[12]上記多結晶ダイヤモンドは、動摩擦係数が0.1以下であることが好ましい。これにより、セラミックス、樹脂などの絶縁性の被削材を加工する場合により好適となる。
[13]本発明の一態様にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法は、炭素と、ホウ素と、窒素と、ケイ素と、微量不純物としてBC5およびB4Cとを含む黒鉛を準備する第1工程と、上記黒鉛を不活性ガス雰囲気下で容器へ充填する第2工程と、上記容器内で、上記黒鉛を加圧熱処理によりダイヤモンドに変換する第3工程とを含み、上記ホウ素は、上記黒鉛の結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在する。このような構成により、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成した多結晶ダイヤモンドを製造することができる。
[14]上記第1工程は、A工程と、B工程と、C工程とを含み、上記A工程は、最大粒径が1μm以下の炭素含有第1粒子と、最大粒径が100nm以下の炭化ホウ素粒子と、最大粒径が100nm以下の窒化ホウ素粒子と、最大粒径が100nm以下の窒化ケイ素粒子および炭化ケイ素粒子の少なくともいずれかとを混合し、第1成形体に成形する工程であり、上記B工程は、上記第1成形体を2000℃以上2500℃以下で加熱焼結し、第1焼結体を得た後、該第1焼結体を最大粒径が50μm以下の粉体に粉砕する工程であり、上記C工程は、上記粉体を最大粒径が1μm未満になるまで粉砕し、成形し、2000℃以上2500℃以下で加熱焼結することにより、上記黒鉛を準備する工程であり、上記炭素含有第1粒子は、上記炭化ホウ素粒子および上記炭化ケイ素粒子を除いた炭素含有粒子であることが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成することが可能な多結晶ダイヤモンドを効率的に製造することができる。
[15]上記第1工程は、上記B工程の後であって、上記C工程の前に行なうD工程をさらに含み、上記D工程は、D1工程とD2工程とD3工程とを交互に複数回含み、上記D1工程は、上記粉体を第2成形体に成形する工程であり、上記D2工程は、上記第2成形体を2000℃以上2500℃以下で加熱焼結し第2焼結体を得る工程であり、上記D3工程は、上記第2焼結体を最大粒径が50μm以下の上記粉体に再度粉砕する工程であることが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成することが可能な多結晶ダイヤモンドをより効率的に製造することができる。
[16]上記D工程は、上記D1工程と上記D2工程と上記D3工程とを交互に5回以上含むことが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成することが可能な多結晶ダイヤモンドをさらに効率的に製造することができる。
[17]上記D工程は、上記D1工程と上記D2工程と上記D3工程とを交互に10回以上含むことが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成することが可能な多結晶ダイヤモンドを最も効率的に製造することができる。
[18]上記炭素含有第1粒子は、熱分解黒鉛、グラフェンおよび該グラフェンの酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、上記効果を備える多結晶ダイヤモンドの効率的な製造に、原料の観点から寄与することができる。
[19]上記第3工程は、加圧熱装置内で、上記黒鉛に直接加圧熱処理を行なうことが好ましい。これにより、コバルトなどからなる結合相(バインダー)などを含むことなく、ダイヤモンド単相を基本組成とする多結晶ダイヤモンドを製造することができる。
[20]上記加圧熱処理は、6GPa以上かつ1200℃以上の条件で行なわれることが好ましい。これにより、上記効果を備える多結晶ダイヤモンドを効率的に製造することができる。
[21]上記加圧熱処理は、8GPa以上30GPa以下かつ1500℃以上2300℃以下の条件で行なわれることが好ましい。これにより、上記効果を備える多結晶ダイヤモンドをより効率的に製造することができる。
[22]本発明の一態様は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたスクライブツールであることが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成した多結晶ダイヤモンドを用いてスクライブツールを提供することができる。
[23]本発明の一態様は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたスクライブホイールであることが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成した多結晶ダイヤモンドを用いてスクライブツールを提供することができる。
[24]本発明の一態様は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたドレッサーであることが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、非その表面に水溶性の保護膜を形成した多結晶ダイヤモンドを用いてドレッサーを提供することができる。
[25]本発明の一態様は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて形成された回転工具であることが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成した多結晶ダイヤモンドを用いて回転工具を提供することができる。
[26]本発明の一態様は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたウォータージェット用オリフィスであることが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成した多結晶ダイヤモンドを用いてウォータージェット用オリフィスを提供することができる。
[27]本発明の一態様は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて形成された伸線ダイスであることが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成した多結晶ダイヤモンドを用いて伸線ダイスを提供することができる。
[28]本発明の一態様は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて形成された切削工具であることが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成した多結晶ダイヤモンドを用いて切削工具を提供することができる。
[29]本発明の一態様は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて形成された電極であることが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成した多結晶ダイヤモンドを用いて電極を提供することができる。
[30]本発明の一態様にかかる加工方法は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて対象物を加工する加工方法であることが好ましい。これにより、トライボプラズマを抑制しつつ、その表面に非水溶性の保護膜を形成した多結晶ダイヤモンドを用いて、対象物を加工することができる。
[31]上記対象物は、絶縁体であることが好ましい。これにより、多結晶ダイヤモンドが備えるトライボプラズマを抑制する効果を好適に発揮させることができる。
[32]上記絶縁体は、100kΩ・cm以上の抵抗率を有することが好ましい。これにより、多結晶ダイヤモンドが備えるトライボプラズマを抑制する効果をより好適に発揮させることができる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態についてさらに詳細に説明する。ここで、本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
さらに、本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「SiN」と記載されている場合、SiNを構成する原子数の比は、たとえばSiNのSi:N=1:1に限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。このことは、「SiN」以外の化合物の記載についても同様である。本実施形態において、ホウ素(B)、ケイ素(Si)などの半金属元素と、窒素(N)、炭素(C)などの非金属元素とは、必ずしも化学量論的な組成を構成している必要がない。
≪多結晶ダイヤモンド≫
本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド単相を基本組成とし、複数の結晶粒により構成される。さらに、多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、窒素と、ケイ素とを含むとともに、残部が炭素および微量不純物である。ホウ素は、結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在する。窒素およびケイ素は、結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在する。多結晶ダイヤモンドは、その粒径が500nm以下である。さらに本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、その表面が保護膜で被覆されていることが好ましい。
本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド単相を基本組成とすることから、焼結助剤および触媒の両方またはいずれか一方により形成される結合相(バインダー)を含むことがなく、高温条件下においても熱膨張率の差異による脱粒が発生しない。さらに、多結晶ダイヤモンドは、複数の結晶粒により構成される多結晶であり、その粒径が500nm以下であることから、単結晶のような方向性および劈開性がなく、全方位に対して等方的な硬度および耐摩耗性を有する。多結晶ダイヤモンドは、結晶粒中にホウ素と、窒素と、ケイ素とを含むことから、その表面が非水溶性の保護膜で被覆されている。これにより耐酸化性が高くなり、かつ摩擦係数の低減により摺動特性および耐摩耗性が高くなる。
多結晶ダイヤモンドは、微量不純物としてBC5と、B4Cとを含む。BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満である。B4Cは、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満である。このようなBC5およびB4Cの濃度の低さにより、多結晶ダイヤモンドは全方位に対する等方的な硬度および耐摩耗性が良好に維持される。
多結晶ダイヤモンドは、全方位に対して等方的な硬度および耐摩耗性を有する観点から、多結晶ダイヤモンドの最大粒径(多結晶を構成する結晶のうち最大のものの粒径)は、500nm以下である。多結晶ダイヤモンドの最大粒径は、200nm以下であることが好ましい。一方で多結晶ダイヤモンドの最小粒径は、1nm以上であればよい。
多結晶ダイヤモンドの粒径は、500nm以下であることにより、等方的な硬さを持つ効果が得られる。さらに1nm以上であることにより、ダイヤモンド特有の機械的強度を有する効果が得られる。多結晶ダイヤモンドの粒径は、20nm以上200nm以下であることがより好ましい。加えて、それぞれの粒子の長径aと短径bとのアスペクト比はa/b<4であることがさらに好ましい。
多結晶ダイヤモンドの粒径は、SEM、TEMといった電子顕微鏡法により測定することができる。多結晶ダイヤモンドを任意の面を研磨することにより、粒径を測定するための観察用研磨面を準備し、たとえばSEMを用いて20000倍の倍率により、上記観察用研磨面の任意の1か所(1視野)を観察する。1視野には多結晶ダイヤモンドの結晶粒が120〜200000個程度現れるので、このうち10個の粒径を求め、そのすべてが500nm以下であることを確認する。これを試料のサイズ全体にわたる視野すべてについて行なうことにより、多結晶ダイヤモンドの粒径が500nm以下であることを確認することができる。
多結晶ダイヤモンドの粒径は、以下の条件に基づくX線回折法(XRD法)により測定することもできる。
測定装置: 商品名(品番)「X’pert」、PANalytical社製
X線光源: Cu−Kα線(波長は1.54185Å)
走査軸: 2θ
走査範囲: 20°〜120°
電圧: 40kV
電流: 30mA
スキャンスピード: 1°/min.
半値幅は、ピークフィッティングの上、Scherrer式(D=Kλ/Bcosθ)から求める。ここで、Dはダイヤモンドの結晶粒径、Bは回折線幅、λはX線の波長、θはブラッグ各、KはSEM像との相関から定まる補正係数(0.9)を用いる。
<結晶粒中の元素>
多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、窒素と、ケイ素とを含むとともに、残部が炭素および微量不純物である。ホウ素は、多結晶ダイヤモンドの結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在する。窒素およびケイ素は、多結晶ダイヤモンドの結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在する。これらのことから、多結晶ダイヤモンドの内部からその表面に露出したホウ素と、窒素およびケイ素の少なくともいずれかとの反応、およびこれらの元素と大気中の酸素との反応などが進むことにより保護膜が形成され、多結晶ダイヤモンドの表面がその保護膜で被覆される。この保護膜により多結晶ダイヤモンドの耐酸化性が高まり、さらに保護膜が動摩擦係数を低減させるため、摺動特性および耐摩耗性が高まる。本実施形態において保護膜は、多結晶ダイヤモンドの内部からその表面に析出することにより形成される析出物を含んでいてもよい。
多結晶ダイヤモンドは、ホウ素が原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在することから、表面が摩耗などしたときに露出したホウ素が酸化されることにより、その表面のみに保護膜が形成され、内部、すなわち各結晶粒中のダイヤモンド構造は維持される。ホウ素は、多結晶ダイヤモンドの結晶粒中でクラスター状に凝集することがなく、多結晶ダイヤモンドの結晶粒界に凝集することもないため、温度変化および衝撃による亀裂の起点となるような不純物偏析がない。さらに多結晶ダイヤモンドは、導電性があることに加え、その表面の保護膜によって表面エネルギーが下げられ、内部に電子をひきつけやすいことから、トライポプラズマの抑制に寄与する。
ここで本明細書において、「原子レベルで分散する」とは、多結晶ダイヤモンドの結晶粒を構成する炭素中にホウ素などの異種元素がそれぞれ有限の活性化エネルギー(温度依存性の電気抵抗)を持って、ダイヤモンドの結晶構造を変えずに分散すること、またはそのようなレベルの分散状態をいう。すなわち、かかる分散状態は、孤立して析出する異種元素を形成しておらず、かつダイヤモンド以外の異種化合物を形成していない状態となる。「孤立置換型」とは、ホウ素、窒素、ケイ素などの異種元素が、孤立して多結晶ダイヤモンドまたは黒鉛の結晶格子の格子点に位置する炭素と置き換わっている存在形態をいう。「侵入型」とは、窒素、ケイ素などの異種元素が、多結晶ダイヤモンドの結晶格子の格子点に位置する炭素間の隙間に侵入している存在形態をいう。
本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドにおけるホウ素、窒素およびケイ素の分散状態および存在形態は、TEM(透過型電子顕微鏡)またはHRTEM(高分解能透過型電子顕微鏡)により観察することができる。ホウ素が「原子レベルで分散する」および「孤立置換型」であることは、TOF−SIMS(飛行時間型−二次イオン質量分析)により確認することができる。窒素、ケイ素が「孤立置換型」または「侵入型」で存在していることも、TOF−SIMSにより評価することができる。
上記分散状態および存在形態の確認に用いるTEMは、上述した多結晶ダイヤモンドの粒径を測定するための観察用研磨面に対し、20000〜100000倍の倍率で観察用研磨面の任意の10か所(10視野)を観察することにより確認することができる。
TOF−SIMSは、たとえば以下の条件で分析することにより、各元素が「原子レベルで分散する」こと、および各元素が「孤立置換型」または「侵入型」であることなどを確認することができる。
測定装置: Tof−SIMS質量分析計(飛行時間二次イオン質量分析計)
一次イオン源: ビスマス(Bi)
一次加速電圧: 25kV。
ホウ素は、多結晶ダイヤモンドの結晶粒中にその90原子%以上が孤立置換型で存在し、好ましくはその95原子%以上が孤立置換型で存在する。より好ましくは、多結晶ダイヤモンドの結晶粒中に、その99原子%以上が孤立置換型で存在し、最も好ましくはその100原子%が孤立置換型で存在する。多結晶ダイヤモンド結晶粒中のホウ素全体に対する孤立置換型のホウ素の割合は、電気伝導度特性およびC−V測定により測定することができる。ホウ素は、多結晶ダイヤモンド結晶粒中にその90原子%以上が孤立置換型で存在することにより、モース硬度が50GPa程度である立方晶型窒化ホウ素、および90GPa程度のIb型ダイヤモンド単結晶よりも高い硬度を有する。このため、多結晶ダイヤモンドは耐摩耗性を活かす用途(たとえば、ダイス用、スクライビングツール用など)において十分に有用である。多結晶ダイヤモンド結晶粒中のホウ素の全体に対する孤立置換型のホウ素の割合が90原子%未満となると、凝集したホウ素がダイヤモンド構造を持たずに破壊の起点となって、割れおよび亀裂が生じる傾向がある。
(ホウ素の原子濃度)
ホウ素は、多結晶ダイヤモンドの表面に好適な保護膜を形成する観点および粒径を500nm以下とする観点から、その原子濃度が1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下であることが好ましく、1×1014cm-3以上1×1021cm-3以下であることがより好ましい。より好ましいホウ素の原子濃度であるとき、保護膜の不良率が激減し、好ましいホウ素の原子濃度であるときよりも、歩留まりが30%以上から90%以上に向上する。ホウ素の原子濃度は、トライボプラズマを抑制する導電性を付与する観点からも、1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下であることが好ましい。
多結晶ダイヤモンドは、ホウ素の原子濃度が1×1019cm-3未満ではp型半導体としての電気特性を示し、1×1019cm-3以上では金属的な導電体の電気特性を示す。したがって、ホウ素の原子濃度は1×1018cm-3以上1×1020cm-3以下であることがさらに好ましい。
ホウ素の原子濃度が1×1014cm-3以上であることにより、トライボプラズマを抑制する効果が得られ、1×1022cm-3以下であることにより、結晶粒の脱落が抑えられる効果が得られる。
(窒素の原子濃度)
窒素は、結晶粒中に窒素を安定して含み、表面に非水溶性の保護膜を好適に形成する観点、ならびに硬度の低下および粒径の増大を抑制できる観点から、その原子濃度が1×1018cm-3以上1×1020cm-3以下であることが好ましく、1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下であることがより好ましい。
窒素の原子濃度が1×1018cm-3以上であることにより、表面にBNおよびSiNの保護膜を形成することができる効果が得られ、1×1020cm-3以下であることにより、凝集せずに硬度を維持することができる効果が得られる。
(ケイ素の原子濃度)
ケイ素は、結晶粒中にケイ素を安定して含み、表面に非水溶性の保護膜を好適に形成する観点、ならびに硬度の低下および粒径の増大を抑制できる観点から、その原子濃度が1×1018cm-3以上2×1020cm-3以下であることが好ましく、1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下であることがより好ましい。
ケイ素の原子濃度が1×1018cm-3以上であることにより、SiNの保護膜を形成することができる効果が得られ、2×1020cm-3以下であることにより、凝集せずに硬度を維持することができる効果が得られる。
(微量不純物の濃度)
多結晶ダイヤモンドに含まれる微量不純物とは、多結晶ダイヤモンドの製造上、その混入を避けることができない元素あるいは化合物、および微量に含まれる可能性がある元素あるいは化合物の総称をいう。多結晶ダイヤモンドは、微量不純物としてBC5とB4Cとを含む。BC5およびB4C以外の微量不純物としては、遷移金属に分類される金属元素などが含まれる。この金属元素などの各元素の含有量(原子濃度)は、それぞれ0cm-3以上1×1018cm-3以下であり、各元素の総和(すなわちBC5およびB4C以外の微量不純物の含有量(原子濃度))は0cm-3以上1×1022cm-3以下である。したがって、これらの金属元素は多結晶ダイヤモンドに含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満である。B4Cは、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満である。BC5およびB4Cの総和としては、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、BC5およびB4C由来のすべての回折ピークの総面積が1%以下であることが好ましい。
BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、上記BC5由来のすべての回折ピークの総面積が0.1%未満であることが好ましく、最も好ましくは0%である。またB4Cの濃度は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、上記ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、上記B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.1%未満であることが好ましく、最も好ましくは0%である。
上記のようなBC5およびB4Cの濃度測定は、X線回折装置を用いた分析により可能となる。たとえば、X線回折装置(商品名(品番)「X’pert」、PANalytical社製)を用いて以下のような条件で測定することができる。
特性X線: Cu−Kα線
管電圧: 30kV
管電流: 20mA
X線回折法: θ−2θ法
X線照射範囲: ピンホールコリメーターを使用し、X線を照射。
ホウ素、窒素およびケイ素の原子濃度は、多結晶ダイヤモンドの内部においてはSIMS(二次イオン質量分析法)により、多結晶ダイヤモンドの表面およびその近傍(たとえば、保護膜およびその近傍の多結晶ダイヤモンドであって表面から1000nmの深さまで)についてはTOF−SIMSにより上述した条件でそれぞれ測定することができる。炭素、ホウ素、窒素およびケイ素以外の元素で形成される微量不純物の濃度は、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析法)によっても測定することができる。
SIMSは、たとえば以下の条件で分析することにより、多結晶ダイヤモンドの内部におけるホウ素、窒素およびケイ素の原子濃度およびBC5、B4C以外の微量不純物の原子濃度を測定することができる。
測定装置: 商品名(品番):「IMS−7f」、AMETEK社製
一次イオン種: セシウム(Cs+
一次加速電圧: 15kV
検出領域: 30(μmφ)
測定精度: ±40%(2σ)。
図1は、本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの内部の添加元素分布の一例を示すグラフである。この添加元素分布は、SIMSを用いて測定されている。図1に示す多結晶ダイヤモンドは、最大粒径が1μm以下の炭素含有第1粒子(ただし、炭化ホウ素粒子および炭化ケイ素粒子を除く)と、最大粒径が100nm以下の炭化ホウ素粒子と、最大粒径が100nm以下の窒化ホウ素粒子と、最大粒径が100nm以下の窒化ケイ素粒子および炭化ケイ素粒子の両方とを混合し、成形体に成形し、該成形体を2000℃以上2500℃以下で加熱焼結することにより黒鉛を形成し、これを16GPaかつ2100℃の条件で加圧熱処理することにより直接ダイヤモンドに変換したものである。図1から、本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、その表面から内部に亘ってホウ素、窒素およびケイ素が均一の濃度で含まれていることが理解される。
<ラマンスペクトル測定における多結晶ダイヤモンドの特定>
本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、ラマンスペクトル測定において、1575cm-1±30cm-1を中心として半値幅が20cm-1以下となるピークの面積が、1300-1±30cm-1を中心として半値幅が60cm-1以下となるピークの面積の1%未満であることが好ましい。この面積比率は、0.1%未満であることがより好ましく、最も好ましくは0%である。これにより、グラファイト炭素がほぼ完全に、具体的には99.9原子%以上がダイヤモンド炭素に変換されていることが分かる。上記面積比率が1%以上となると、多結晶ダイヤモンドの硬度は低下する傾向にある。ラマンスペクトル測定において、1575cm-1±30cm-1を中心とする半値幅が20cm-1以下となるピークは、アモルファス炭素、グラファイト炭素またはsp2炭素に由来するものである。1300-1±30cm-1を中心として半値幅が60cm-1以下となるピークは、ダイヤモンド炭素由来のピークである。
<動摩擦係数>
本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの表面は、動摩擦係数が0.2以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましく、0.05以下であることがさらに好ましく、0.02以下であることが最も好ましい。これにより多結晶ダイヤモンドは、高い摺動特性を有し、かつ高い耐摩耗性を有することができる。多結晶ダイヤモンドの表面の動摩擦係数が0.2を超えると、多結晶ダイヤモンドが所望の摺動特性および耐摩耗性を備えない傾向にある。
多結晶ダイヤモンドの表面の動摩擦係数は、以下の条件において行なうピン・オン・ディスク摺動試験によって測定することができる。
ボール材質: SUS
荷重: 10N
回転数: 400rpm
摺動半径: 1.25mm
試験時間: 100分
温度: 室温
雰囲気: 大気、Arまたは鉱物油。
多結晶ダイヤモンドの表面の動摩擦係数が0.2以下である場合、たとえば乾燥雰囲気下(たとえば25℃で相対湿度40%以下)において、無添加の多結晶ダイヤモンドの表面の動摩擦係数の0.25倍以下に低下する。本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの表面の動摩擦係数は、無添加の多結晶ダイヤモンドの表面の動摩擦係数の0.2倍以下であることが好ましい。ここで本明細書において「無添加の多結晶ダイヤモンド」とは、結晶粒中にホウ素、窒素およびケイ素がいずれも孤立置換型で存在していない多結晶ダイヤモンドであって、これらの添加元素が粒界に析出した場合であっても、その原子濃度が1×1018cm-3を超えないものをいう。
<保護膜>
本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドにおいて、保護膜は、酸化ケイ素、窒化ケイ素および窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。酸化ケイ素は、摩耗などにより結晶粒中からその表面に露出したケイ素が、大気中の酸素と反応することにより生成し、露出した表面において保護膜としての酸化膜を形成するものと考えられる。窒化ケイ素は、摩耗などにより結晶粒中からその表面に露出した窒素が、同様に結晶粒中から表面に露出したケイ素と反応することにより生成し、露出した表面において保護膜を形成するものと考えられる。窒化ホウ素も、摩耗などにより結晶粒中からその表面に露出した窒素が、同様に結晶粒中から表面に露出したホウ素と反応することにより生成し、露出した表面において保護膜を形成するものと考えられる。いずれの保護膜も潤滑作用を有し動摩擦係数が小さいため、多結晶ダイヤモンドの摺動特性および耐摩耗性を向上させることができる。特に、酸化ケイ素、窒化ケイ素および窒化ホウ素は、いずれも非水溶性であるため水溶性の切削液を用いる場合にも保護効果を発揮することができる。
保護膜は、結晶粒中から析出した析出物を含むことができる。析出物には、ホウ素、窒素、ケイ素などの化合物が含まれる。ホウ素、窒素、ケイ素などの化合物は、多結晶ダイヤモンドの結晶粒中に侵入型として存在し、摩耗などによりその表面に露出した表面に露出し、析出物となるものと考えられる。これらの析出物も潤滑作用を有するため、動摩擦係数の低減に寄与する。さらに、多結晶ダイヤモンドの表面近傍などで生成された酸化ケイ素および窒化ホウ素が、析出物となる場合がある。
保護膜は、最大粒径を持つ粒子が機械的ダメージによって脱粒したとしても、その脱粒により形成された空間を充填する体積を有するという観点から、その平均膜厚が1nm以上1000nm以下であることが好ましい。保護膜の平均膜厚は、20nm以上500nm以下であることがより好ましい。保護膜の平均膜厚が1nm以上であることにより、微小な表面粗さを平坦化し、かつ個体潤滑剤効果が発現するため、摺動特性が向上する。1000nm以下であることにより、下地のダイヤモンドによる切削対象物の機械的切削が有利に働く効果が得られる。
多結晶ダイヤモンドの表面に保護膜が形成されているかどうかの確認は、AES(オージェ電子分光法)を用いることにより行なうことができる。たとえば、多結晶ダイヤモンド(ホウ素濃度3.5×1020cm-3、窒素濃度5×1018cm-3、ケイ素濃度1×1018cm-3)に対し、AESによる化学分析により、その表面から深さ0.5nm程度までの表層において酸素の有無を調べることにより、室温における保護膜の有無を確認することができる。
さらに多結晶ダイヤモンドの表面の保護膜の平均膜厚は、ナノ表面計測機器(商品名:「Dektak XT」、Brucker社製)、またはTEMにより測定することができる。たとえば、上記した多結晶ダイヤモンドの粒径を測定するための観察用研磨面に対し、TEMを用いて20000倍の倍率により、観察用研磨面の任意の5か所(5視野)を観察することにより測定する。ただし、上記5か所は、各視野に多結晶ダイヤモンドの表面となる部分が含まれるものとする。各視野に現れた観察用研磨面の保護膜部分の厚みを視野毎に求め、その平均値を保護膜の平均膜厚とすることができる。
本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの物性(硬度、耐摩耗性および抵抗率)の評価の方法については、以下のとおりである。
(硬度の評価)
多結晶ダイヤモンドは、ヌープ硬度をJIS Z 2251:2009に準拠して測定することにより硬度を評価することができる。たとえば、荷重を4.9Nとしてヌープ硬度を測定する。本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、結晶粒中に存在するホウ素、窒素、ケイ素などが塑性変形の起点となり、無添加の多結晶ダイヤモンドよりも硬度を幾分か低下させることが考えられる。しかしながら、後述する表1に示すように、本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンド(たとえば、B−NPD−III、ホウ素濃度1×1019cm-3、窒素濃度1×1019cm-3、ケイ素濃度1×1018cm-3)のヌープ硬度は、合成単結晶ダイヤモンド(Ib型SCD)よりも硬度が同等もしくは高くなる。
(耐摩耗性の評価)
さらに、多結晶ダイヤモンドの耐摩耗性の評価は、以下の方法により行なうことができる。すなわち多結晶ダイヤモンドを、1mm×1mm×2mmの円柱形状の加工体に加工し、この加工体に対して番号#800(番号(#)はふるいの目の細かさを意味し、数字が大きくなるほどふるいを通る粒子は細かくなる)のメタルボンドダイヤモンドホイールを用いて摩耗試験(荷重が2.5kgf/mm2、摺動速度が200mm/min)を行なう。このとき多結晶ダイヤモンドは、摩耗レートが0.01μm/minであると評価される。
さらに、上記摩耗試験においては、機械的摩耗と熱化学的摩耗が相乗的に進行するため、以下に示すように機械摩耗特性および熱化学的摩耗特性についてそれぞれ評価することが望ましい。
多結晶ダイヤモンドの機械的摩耗特性の評価としては、機械的摩耗が進行する酸化アルミニウム(Al23)に対する低速度長時間摺動試験を行なう。たとえば多結晶ダイヤモンドを用い、先端の試験面が直径0.3mmの円錐台形状となる試験片を作製する。次に、この試験片をマシニングセンターにより0.3MPaの一定荷重でAl23焼結体(純度:99.9質量%)に押し付け、5m/minの低速度で、10kmの距離を摺動させることにより、先端径の広がりから摩耗量を算出し、多結晶ダイヤモンドの機械的摩耗特性を評価する。本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの摩耗量は、無添加の多結晶ダイヤモンドに比べて、20倍程度であり、耐摩耗性が大幅に向上する。多結晶ダイヤモンドの摩耗により、表面に形成される保護膜も次々と更新され、その都度の潤滑効果により摺動特性が大きく向上し、機械的摩耗が著しく抑制されるものと考えられる。
多結晶ダイヤモンドの熱化学的摩耗特性の評価としては、熱化学的摩耗が進行する二酸化ケイ素(SiO2)に対する摺動試験を行なう。たとえば多結晶ダイヤモンドを用い、先端の試験面が直径0.3mmの円錐台形状となる試験片を作製する。次に、この試験片を固定してその試験面に、直径20mmの合成石英(SiO2)を研磨盤として、6000rpm(摺動速度260〜340m/min)で回転させながら0.1MPaで押し付ける。これにより試験片を摺動させ、摩耗が進展する速度(摩耗速度)を測定することにより、多結晶ダイヤモンドの熱化学的摩耗特性を評価する。多結晶ダイヤモンドは、無添加の多結晶ダイヤモンドに比べて、摩耗速度が低くなり、耐摩耗性が向上する。多結晶ダイヤモンドの摩耗により、表面に形成される保護膜も次々と更新され、その都度の潤滑効果により摺動特性が大きく向上し、機械的摩耗が著しく抑制されるものと考えられる。
多結晶ダイヤモンドの導電性の評価は、以下の方法で抵抗率を測定することにより行なうことができる。すなわち多結晶ダイヤモンドの表面を鏡面加工し、この加工体に対して電極を用いて4端子法により抵抗率を測定する。この電極は、Ti/Pt/Auの積層膜をAr中320℃でアニールして形成する。本実施形態では、上記加工体を5個準備し、これらの加工体の抵抗率から平均値を算出し、この平均値を多結晶ダイヤモンドの抵抗率とすることが好ましい。
以上から、本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、その表面に非水溶性の保護膜が形成され、この保護膜によって耐酸化性、耐摩耗性および摺動特性を向上させることができる。さらに導電性を有するため、無添加の多結晶ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンドなどで見られるトライボプラズマによる異常な損耗も抑制される。したがって、超硬合金、アルミニウム合金をはじめとする難削材の加工に好適であり、かつセラミックス、プラスチック、ガラス、石英などの絶縁性の対象物の加工に対して高い性能を発揮することができる。特に、保護膜を構成する酸化ケイ素および窒化ホウ素は、いずれも非水溶性であるため、水溶性の切削液を用いる場合にも保護効果を発揮させることができる。
≪多結晶ダイヤモンドの製造方法≫
本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法は、図3に示すように、炭素と、ホウ素と、窒素と、ケイ素と、微量不純物としてBC5およびB4Cとを含む黒鉛を準備する第1工程S10と、上記黒鉛を不活性ガス雰囲気下で容器へ充填する第2工程S20と、上記容器内で、上記黒鉛を加圧熱処理によりダイヤモンドに変換する第3工程S30とを含む。特に、上記ホウ素は、上記黒鉛の結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在する。上記構成により、耐酸化性、摺動特性および耐摩耗性が高く、動摩擦係数が低い多結晶ダイヤモンドを製造することができる。
黒鉛母材におけるホウ素、ならびに黒鉛におけるホウ素、窒素およびケイ素の分散状態ならびに存在形態は、上記多結晶ダイヤモンドにおけるこれらの元素の分散状態および存在形態の確認方法と同じ方法によりそれぞれ確認することができる。「原子レベルで分散する」こと、「孤立置換型」または「侵入型」であること、ホウ素、窒素およびケイ素の濃度、ならびに微量不純物の濃度についても、上記多結晶ダイヤモンドにおける確認方法と同じ方法によりそれぞれ確認することができる。
<第1工程>
第1工程S10は、A工程と、B工程と、C工程とを含む。第1工程S10は、B工程の後であってC工程の前に行なうD工程をさらに含むことが好ましい。
A工程は、最大粒径が1μm以下の炭素含有第1粒子(たとえば、高純度グラフェンなど)と、最大粒径が100nm以下の炭化ホウ素粒子(たとえば、B4C粒子)と、最大粒径が100nm以下の窒化ホウ素粒子(たとえば、BN粒子)と、最大粒径が100nm以下の窒化ケイ素粒子および炭化ケイ素粒子の少なくともいずれか(たとえば、SiN粒子)とを混合し、第1成形体に成形する工程である。B工程は、この第1成形体を2000℃以上2500℃以下(たとえば、2200℃)で加熱焼結し、第1焼結体を得た後、該第1焼結体を最大粒径が50μm以下の粉体に粉砕する工程である。C工程は、この粉体を最大粒径が1μm未満になるまで粉砕し、成形し、2000℃以上2500℃以下(たとえば、2200℃)で加熱焼結することにより、黒鉛を準備する工程である。
さらにD工程は、D1工程とD2工程とD3工程とを交互に複数回含む。D工程は、D1工程とD2工程とD3工程とを交互に5回以上含むことが好ましく、10回以上含むことが好ましい。
具体的にはD1工程は、上記粉体を第2成形体に成形する工程である。D2工程は、第2成形体を2000℃以上2500℃以下(たとえば、2200℃)で加熱焼結し第2焼結体を得る工程である。D3工程は、第2焼結体を最大粒径が50μm以下の粉体に再度粉砕する工程である。ここで上記炭素含有第1粒子は、炭化ホウ素粒子および炭化ケイ素粒子を除いた炭素含有粒子であり、最大粒径が1μm以下の熱分解黒鉛、グラフェンおよび該グラフェンの酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、原料の観点から効率的な多結晶ダイヤモンドの製造に寄与することができる。以下、さらに図4を参照しつつ、本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法における第1工程を詳述する。なお図4に示した第1工程は一例であるので、本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法における第1工程がこれに限定されるべきではない。
(A工程)
第1工程は、A工程SAから始まる。まずA工程のステップSA1として、最大粒径が0.5〜1μmの高純度グラフェン(純度:99.999%以上)の粒子と、最大粒径が100nm以下のB4C粒子と、最大粒径が100nm以下のBN粒子と、最大粒径が100nm以下のSiN粒子とを準備する。A工程のステップSA2として、これらの粒子をAr雰囲気内でミキサーを用いて均一に混合し、混合体を得る。A工程のステップSA2では、上記粒子を均一に混合することができる限り、従来公知の混合方法を用いることができる。
さらにA工程のステップSA3として、この混合体(粒子群)を焼結装置に載置して2200℃、0.1MPaの条件で焼結する。A工程のステップSA3についても、2200℃、0.1MPaの条件で焼結する限り、従来公知の焼結方法を用いることができる。
次に、A工程のステップSA4として焼結された粒子群をメッシュの大きさが0.5μmのふるいを用いて粒径を揃える。A工程のステップSA5では、上記粒子群のうち粒径が0.5μm未満であったもののみを選別し、粒径が0.5μm以上であったものを廃棄する。
A工程のステップSA6として、粒径が0.5μm未満で揃った粒子群を、ホットプレスを用いてペレット形状に成形し第1成形体を得る。
(B工程)
第1工程では、上述したA工程SAに続いてB工程SBを行なう。B工程のステップSB1では、A工程SAから得られた第1成形体を焼結装置に載置して2200℃、0.1MPaの条件で焼結し第1焼結体を得る。B工程のステップSB1は、2200℃、0.1MPaの条件で焼結する限り、従来公知の焼結方法を用いることができる。次にB工程のステップSB2として、X線回折装置(たとえば、商品名(品番)「X’pert」、PANalytical社製を用い、特性X線:Cu−Kα、管電圧:30kV、管電流:20mA、フィルター:多層ミラー、光学系:集中法、X線回折法:θ−2θ法で測定)により、得られた第1焼結体にB4C由来のピークが認められないことを確認する。B4C由来のピークが認められた場合、上記第1焼結体を廃棄する。
B工程のステップSB3では、B4C由来のピークが認められないことを確認した上記第1焼結体を、粉砕ミルを用いて最大粒径が50μm以下(たとえば、図4において1μm以下)の粉体に粉砕する。B工程のステップSB3についても、最大粒径が50μm以下の粉体に粉砕する限り、従来公知の粉砕方法を用いることができる。得られた粉体の最大粒径が50μm以下であるかどうを、B工程のステップSB4として、汎用の粒度分布装置またはSEMを用いて確認する。B工程のステップSB4において粉体の最大粒径が50μmを超えた場合、当該粉体を廃棄する。
(D工程)
第1工程では、B工程SBの後にD工程SDを行なうことが好ましい。D工程のステップSD1として、最大粒径が50μm以下であることが確認された粉体をホットプレスを用いてペレット形状に成形し第2成形体を得る(D1工程)。その後、D工程のステップSD2として、上記第2成形体に対して焼結装置に載置して2200℃、0.1MPaの条件で焼結し第2焼結体を得る(D2工程)。D工程のステップSD2は、2200℃、0.1MPaの条件で焼結する限り、従来公知の焼結方法を用いることができる。
さらにD工程のステップSD3として、該第2焼結体を、粉砕機を用いて最大粒径が50μm以下(たとえば、図4において1μm以下)の粉体に再度粉砕する(D3工程)。続いてこの粉体に対し、D工程のステップSD4としてX線回折装置(たとえば、商品名(品番)「X’pert」、PANalytical社製を用い、特性X線:Cu−Kα、管電圧:30kV、管電流:20mA、フィルター:多層ミラー、光学系:集中法、X線回折法:θ−2θ法で測定)によりB4C由来のピークが認められないことを確認し、粉体にB4Cの析出がないことを確認する。B4C由来のピークが認められた場合、上記粉体をB工程のステップSB3の工程に戻す。
D工程SDでは、D工程のステップSD5として、これら一連のD工程のステップSD1〜SD4を複数回繰り返すことが好ましい(図4においてアスタリスク(*)で示される)。すなわち、D工程のステップSD1〜SD4を合計5回以上行なうことが好ましく、合計10回以上行なうことがさらに好ましい。D工程の繰り返しの回数を増やすことにより、多結晶ダイヤモンド中のBC5およびB4Cの濃度を有効に低減することができる。
(C工程)
第1工程では最後に、C工程SCを行なう。まずC工程のステップSC1として、D工程のステップSD4においてB4Cの析出がないことが確認された粉体を、粉砕ミルを用いて最大粒径が1μm未満となるまで粉砕する。さらにC工程のステップSC2として、最大粒径が1μm未満の粉体を、ホットプレスを用いてペレット形状に成形し第3成形体を得る。さらにC工程のステップSC3として、上記第3成形体を焼結装置に載置して2200℃、0.1MPaの条件で焼結することにより、φ10×10t(t:thickness)の円柱形状の黒鉛を得る。このようにして得た黒鉛は、上記多結晶ダイヤモンドの効率的な形成の観点から、少なくとも一部に結晶化部分を含む多結晶であることが好ましい。
さらに上記黒鉛は、その微量不純物のうちBC5の濃度が、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、上記BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満となる。BC5の濃度は、上述の面積比率が0.1%未満であることが好ましく、最も好ましくは0%である。またB4Cの濃度は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、上記ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、上記B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満となる。B4Cの濃度は、上述の面積比率が0.1%未満であることが好ましく、最も好ましくは0%である。BC5およびB4Cの濃度測定は、上述したX線回折装置を用いて上述した条件により測定することができる。
黒鉛に含まれる微量不純物(たとえば、遷移金属)の濃度は、SIMSおよびICP−MSの検出限界以下(1015cm-3未満)であることが好ましい。さらに、黒鉛の粒径は、粒径が1〜500nmと小さく、かつホウ素、窒素およびケイ素の分布が均一な多結晶ダイヤモンドを形成する観点から、10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
黒鉛の密度は、後述する第3工程において黒鉛から多結晶ダイヤモンドに変換する際の体積変化を小さくして歩留まりを高くする観点から、0.8g/cm3以上が好ましく、1.4g/cm3以上2.0g/cm3以下がより好ましい。
<第2工程>
第2工程S20は、上記黒鉛を不活性ガス雰囲気下で容器へ充填する工程である。黒鉛を不活性ガス雰囲気下で所定の容器(たとえば、高圧プレス用セル)に充填することにより、黒鉛および製造される多結晶ダイヤモンドに微量不純物が混入することを抑制することができる。ここで不活性ガスは、微量不純物の混入を抑制できるガスであればよく、たとえばArガス、Krガス、Heガスなどを例示することができる。
<第3工程>
第3工程S30は、容器内で上記黒鉛を加圧熱処理によりダイヤモンドに変換する工程である。特に第3工程S30は、多結晶ダイヤモンドへの微量不純物の混入を抑制する観点から、加圧装置内で上記黒鉛に直接加圧熱処理を行なうことが好ましい。これにより、黒鉛を多結晶ダイヤモンドへ直接変換させること、すなわち焼結助剤および触媒などを添加することなく変換させることができる。加圧熱処理とは、加圧下で行なわれる熱処理をいう。
第3工程S30における加圧熱処理は、6GPa以上かつ1200℃以上の条件で行なわれることが好ましい。加圧熱処理は、8GPa以上30GPa以下かつ1500℃以上2300℃以下の条件で行なわれることがさらに好ましい。これにより、結晶粒中にホウ素が原子レベルで分散しかつその90原子%以上が孤立置換型で存在し、窒素およびケイ素が孤立置換型または侵入型として存在する多結晶ダイヤモンドを好適に製造することができる。加圧熱処理は、圧力には上限がないが、温度が2500℃である条件が上限となる。加圧熱処理は、7GPa以上であることにより、黒鉛を多結晶ダイヤモンドに直接変換することが可能となる。さらに、1200℃以上であることにより、黒鉛を多結晶ダイヤモンドに直接変換することが可能となる。2500℃以下であることにより、各元素を揮発させないで、黒鉛を多結晶ダイヤモンドに直接変換することが可能となる。
以上より、本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法は、耐酸化性、摺動特性および耐摩耗性が高く、動摩擦係数が低い多結晶ダイヤモンドを製造することができる。多結晶ダイヤモンドは、直径15×15t(t:thickness)程度の任意の形状および厚みで製造される。多結晶ダイヤモンドは、たとえば黒鉛の体積密度が1.8g/cm3程度である場合、加圧熱処理によって該黒鉛の70〜80%の体積に収縮するが、形状は黒鉛と同じまたはほぼ同じとなる。
<スクライブツール>
本実施形態にかかるスクライブツールは、上記多結晶ダイヤモンドを用いて作製することができる。
本実施形態にかかるスクライブツールは、上記多結晶ダイヤモンドを用いる限り、従来公知の方法により作製することができる。
<スクライブホイール>
本実施形態にかかるスクライブホイールは、上記多結晶ダイヤモンドを用いて作製することができる。
本実施形態にかかるスクライブホイールは、上記多結晶ダイヤモンドを用いる限り、従来公知の方法により作製することができる。
<ドレッサー>
本実施形態にかかるドレッサーは、上記多結晶ダイヤモンドを用いて作製することができる。
本実施形態にかかるドレッサーは、上記多結晶ダイヤモンドを用いる限り、従来公知の方法により作製することができる。
<回転工具>
本実施形態にかかる回転工具は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて作製することができる。
本実施形態にかかる回転工具は、上記多結晶ダイヤモンドを用いる限り、従来公知の方法により作製することができる。
<ウォータージェット用オリフィス>
本実施形態にかかるウォータージェット用オリフィスは、上記多結晶ダイヤモンドを用いて作製することができる。
本実施形態にかかるウォータージェット用オリフィスは、上記多結晶ダイヤモンドを用いる限り、従来公知の方法により作製することができる。
<伸線ダイス>
本実施形態にかかる伸線ダイスは、上記多結晶ダイヤモンドを用いて作製することができる。
本実施形態にかかる伸線ダイスは、上記多結晶ダイヤモンドを用いる限り、従来公知の方法により作製することができる。
<切削工具>
本実施形態にかかる切削工具は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて作製することができる。
本実施形態にかかる切削工具は、上記多結晶ダイヤモンドを用いる限り、従来公知の方法により作製することができる。
<電極>
本実施形態にかかる電極は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて作製することができる。
本実施形態にかかる電極は、上記多結晶ダイヤモンドを用いる限り、従来公知の方法により作製することができる。
<加工方法>
本実施形態にかかる加工方法は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて対象物を加工する方法である。本実施形態にかかる加工方法は、上記多結晶ダイヤモンドを用いて対象物を加工するため、効率よく低コストで対象物を加工できる。
本実施形態にかかる加工方法において、対象物は絶縁体が好ましい。本実施形態にかかる加工方法は、上記多結晶ダイヤモンドが導電性を有するため、対象物が絶縁体であっても、トライボプラズマなどによる異常な損耗を発生させることなく、効率よく低コストで対象物を加工できる。
上記絶縁体は100kΩ・cm以上の抵抗率を有することが好ましい。絶縁体の抵抗率の上限は無限大(∞)である。本実施形態では、対象物が100kΩ・cm以上の抵抗率を有する絶縁体であっても、トライボプラズマによるエッチングを発生させることなく、効率よく低コストで対象物を加工できる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1:多結晶ダイヤモンドの製造>
(4種の多結晶ダイヤモンドの製造)
実施例1では、後述する実施例2〜4で用いる4種の多結晶ダイヤモンド(B−NPD−I、B−NPD−II、B−NPD−III、B−NPD−IV)を製造した。これらの多結晶ダイヤモンドは、いずれも実施例に相当する。
1.ホウ素、窒素およびケイ素を含む黒鉛の準備
まず、炭素含有第1粒子として最大粒径が500μmの高純度グラフェン(純度:99.999%以上)および酸化グラフェンと、これらの炭素含有第1粒子の総和を100質量部としたとき、この100質量部に対して0.5質量部となる最大粒径が100nm以下のB4C粒子と、上記100質量部に対して0.05質量部となる最大粒径が100nm以下のBN粒子と、上記100質量部に対して0.05質量部となる最大粒径が100nm以下のSiN粒子とを混合し、第1成形体としてのペレット(φ10×10mmの円柱形状)に成形した(A工程)。さらに、ペレットを2200℃で加熱焼結し、第1焼結体を得た後、該第1焼結体を最大粒径が1μmの粉体に粉砕した(B工程)。続いて、この粉体を成形し、2200℃で加熱焼結し、第2焼結体を得た後、該第2焼結体を最大粒径が1μmの粉体に粉砕することを10回繰り返した(D工程)。その後、D工程の最後に粉砕された粉体を最大粒径が1μm未満となるまでさらに粉砕し、これを成形し、2200℃で加熱焼結し、(φ10×10mmの円柱形状)の黒鉛を得た(C工程)。
2.黒鉛の容器内への収納
上記黒鉛を、タブレット形状に加工した後、容器(高圧プレス用セル:φ10×10tの円柱形状)内に封入した。
3.黒鉛から多結晶ダイヤモンドへの変換
上記黒鉛を封入した容器を加圧熱装置内に入れて、16GPaおよび2100℃の条件で加圧熱処理することにより、上記黒鉛を多結晶ダイヤモンドに直接変換した。得られた4種の多結晶ダイヤモンドについては、X線および電子線回折装置により、ダイヤモンド単相を基本組成として結合相を含まないことを確認した。さらに4種の多結晶ダイヤモンドについて、ホウ素が原子レベルで分散しかつその90原子%以上が孤立置換型として存在すること、ならびにその原子濃度をTEM、SIMSおよびTOF−SIMSを用いて確認した。さらに窒素およびケイ素が孤立置換型または侵入型として存在すること、ならびにその原子濃度をTOF−SIMSで確認した。
具体的には、TEMによるホウ素の原子レベルでの分散状態は、従来公知の方法により確認した。
SIMSを用いて以下の条件により、多結晶ダイヤモンドの内部におけるホウ素、窒素およびケイ素の原子濃度および微量不純物の原子濃度を測定した。
測定装置: 商品名(品番):「IMS−7f」、AMETEK社製
一次イオン種: セシウム(Cs+
一次加速電圧: 15kV
検出領域: 30(μmφ)
測定精度: ±40%(2σ)。
TOF−SIMSを用いて以下の条件により、各元素が「原子レベルで分散する」こと、および各元素が「孤立置換型」または「侵入型」であることなどを分析した。
測定装置: Tof−SIMS質量分析計(飛行時間二次イオン質量分析計)
一次イオン源: ビスマス(Bi)
一次加速電圧: 25kV。
その他、抵抗率およびヌープ硬度を上述した方法により測定し、かつ大気中での酸化開始温度を従来公知の方法により測定した。これらの測定結果を表1に示す。さらに上記の4種の多結晶ダイヤモンドにおいてSIMSによって微量不純物を検出するとBC5およびB4Cのみであった。それらの濃度を上記のX線回折測定により測定したので、その結果を表1に示す。B−NPD−I、B−NPD−II、B−NPD−III、B−NPD−IVの多結晶ダイヤモンドの結晶粒径(最大粒径)は、上述した条件に基づいたX線回折装置(XRD)による(111)ピークの半値幅の測定から、いずれも500nm以下であることを確認した。
(NPDおよび1b型SCD、PCDの製造)
実施例1では比較例として、ホウ素が非孤立置換型(侵入型)で4×1019cm-3未満添加された絶縁体の多結晶ダイヤモンド(NPD)、Ib型単結晶ダイヤモンド(Ib型SCD)およびダイヤモンド粒子をコバルトを含むバインダーで結合し焼結して形成した粒径(最大粒径)が3〜5μmである焼結ダイヤモンド(PCD)を作製した。さらに比較例の多結晶ダイヤモンド(C−NPD−I)として、上述したC工程においてD工程の最後に粉砕された粉体を、最大粒径1μm未満とすることなく成形し、2200℃で加熱焼結して得た黒鉛から作製したものを準備した。別の比較例の多結晶ダイヤモンド(C−NPD−II)として、上述したD工程において粉体がB4C由来のピークを有していたにもかかわらず、該粉体をB工程に戻さずに黒鉛を得て、この黒鉛から作製したものを準備した。これらの比較例に対し、ホウ素などの濃度、ヌープ硬度、抵抗率などを4種の多結晶ダイヤモンドと同じ方法により測定した。これらの測定結果も表1に示す。
Figure 0006743666
<実施例2:耐摩耗性評価(熱化学的摩耗特性)>
実施例2では上記4種の多結晶ダイヤモンド、1b型SCDおよびNPDを用いてそれぞれ公知の製造方法により切削工具を作製し、被削材をビッカーズ硬さ(Hv)が9GPaの石英ガラスを被削材として切削し、耐摩耗性評価を行なった。作製した切削工具の形状は、汎用スローアウェーチップに分類される形状であり、いずれもコーナーR0.8mm、逃げ角7°、すくい角0°のRバイトとした。
耐摩耗性評価では、超精密旋盤に上述した切削工具をそれぞれセットし、切削速度(Vc)=100〜200m/min(低速条件:100m/min、高速条件:200m/min)とし、送り(f)=0.001mm/rot、切込み(ap)=0.005、0.001mmで被削材を200m切削したときの逃げ面摩耗幅Vb(単位はmm)を測定した。その結果を、表2に示す。
Figure 0006743666
表2より、低速条件では1b型SCDを用いた切削工具の摩耗量が大きく、4種の多結晶ダイヤモンドおよび比較例のNPDを用いた切削工具の摩耗量がいずれも同程度であった。高速条件では、1b型SCDおよびNPDを用いた切削工具で摩耗量が大きかったのに対し、4種の多結晶ダイヤモンドを用いた切削工具おいてはB−NPD−IIで摩耗量が大きかったが、その他はいずれも摩耗量が極めて少なかった。これらは、4種の多結晶ダイヤモンドの表面に形成された保護膜により、石英に対して潤滑性が発揮され、ダイヤモンドと石英との間の反応摩耗が抑制されたことによる効果であるものと推測された。
<実施例3:耐摩耗性評価(機械的摩耗特性)>
実施例3では4種の多結晶ダイヤモンドのうちB−NPD−I、B−NPD−IIIを用い、比較例としてNPDおよびPCDを用いてそれぞれ公知の製造方法により切削工具を作製し、被削材をビッカーズ硬さ(Hv)が16GPaの高純度アルミナ焼結体(純度:99.9質量%)を被削材として切削し、耐摩耗性評価を行なった。作製した切削工具の形状は、汎用スローアウェーチップに分類される形状であり、いずれもコーナーR0.8mm、逃げ角7°、すくい角0°のRバイトとした。
耐摩耗性評価では、超精密旋盤に上述した切削工具をそれぞれセットし、以下の条件において切削距離(m)に対する最大摩耗量(VBmax(単位はμm)を測定した。その結果を、図2に示す。
被削材: KYOCERA A479 φ50mm焼結体、旋削
切削条件: 切削速度(Vc):30、300m/min、送り(f):0.01mm、切込み(ap):0.01mm、乾式/湿式:湿式。
図2に示すように、PCDを用いた切削工具では切削距離が600m程度で100μmを超える最大摩耗量となった。その一方で、NPDを用いた切削工具では切削距離が5000mを超えても最大摩耗量が100μmを超えることはなかった。さらにB−NPD−Iを用いた切削工具は、NPDに比べ1.5倍の高い耐摩耗性を示し、B−NPD−IIIを用いた切削工具は、NPDに比べ2〜2.5倍の高い耐摩耗性を示した。
<実施例4:絶縁体の切削による寿命評価>
実施例4では上記4種の多結晶ダイヤモンド、1b型SCDおよびNPDを用いてそれぞれ公知の製造方法により切削工具を作製し、被削材をポリカーボネート(抵抗率:∞kΩ・cm)として切削し、刃先の寿命評価を行なった。作製した切削工具の形状は、いずれもコーナーR0.8mm、逃げ角7°、すくい角7°のRバイトとした。
実施例4の刃先の寿命評価では、超精密旋盤に上述した切削工具をそれぞれセットし、以下の条件において4.5km切削をし、その後仕上げ切削した後、刃先の損傷度を評価し、その損傷度に基づいて寿命をそれぞれの切削工具で算出した。具体的には、1b型SCDを用いた切削工具の寿命を1としたときの他の切削工具の寿命を相対的に評価した。その結果を、表3に示す。
被削材: ポリカーボネート(タキロンPCP1609A)。
切削条件:
(1)4.5km切削: 切削速度(V):100〜400m/min、送り(f):0.04mm/rot、切込み(ap):0.2mm
(2)仕上げ切削: 切削速度(V):75m/min、送り(f):0.002mm/rot、切込み(ap):0.002mm、乾式/湿式:乾式。
Figure 0006743666
表3より、1b型SCDを用いた切削工具の寿命を1としたとき、NPDを用いた切削工具の寿命は1であったが、4種の多結晶ダイヤモンドを用いた切削工具では2.8以上となり、いずれも良好な寿命を示した。4種の多結晶ダイヤモンドの表面に形成された保護膜および4種の多結晶ダイヤモンドの導電性により、ポリカーボネートのような絶縁性の被削材に対してトライポプラスマによる損耗が抑制されたことによる効果、および潤滑性が発揮されて摩耗が抑制されたことによる効果であるものと推測された。
<実施例5:各種ツールにおける評価>
(多結晶ダイヤモンドの作製)
実施例1と同じ方法により、後述する各種ツールにおける評価で用いる多結晶ダイヤモンド(B−NPD−V〜IX)を製造し、かつ従来公知の方法によりホウ素が非孤立置換型(凝集型)で添加された多結晶ダイヤモンド(NPD−I〜III)を製造した。ダイヤモンド単相を基本組成とすること、ホウ素が原子レベルで分散しかつ全体の90原子%以上が孤立置換型として存在すること、ならびに窒素およびケイ素が孤立置換型または侵入型として存在することを確認する方法も実施例1と同じとした。さらに、炭素、ホウ素、窒素およびケイ素、ならびに微量不純物の原子濃度を、SIMSにより実施例1と同じ条件で測定した。上記の多結晶ダイヤモンド(B−NPD−V〜IX)においてSIMSによって微量不純物を検出するとBC5およびB4Cのみであった。
これらの測定結果を表4に示す。さらに、これらの多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、X線回折装置(XRD)による(111)ピークの半値幅から、いずれも200nm以下であることを確認した。
Figure 0006743666
(スクライブツールの作製と評価)
NPD−IIおよびB−NPD−VIを用いて、先端が4ポイント(四角形平面状)のスクライブツールをそれぞれ作製した。これらのスクライブツールを用いて、サファイア基板に負荷20gfで長さ50mmのスクライブ溝を200本形成した。その後、そのスクライブツールの先端部分の摩耗量を、電子顕微鏡により観察した。その結果、B−NPD−VIを用いたスクライブツールの摩耗量は、NPD−IIと比べて0.1倍と極めて少なかった。NPD−IIおよびB−NPD−VIを用いてそれぞれ作製したスクライブホイールについても同様の効果が確認された。
(ドレッサーの作製と評価)
NPD−IIおよびB−NPD−VIを用いて、先端がシングルポイント(円錐状)のドレッサーを作製した。これらのドレッサーを、WA(ホワイトアルミナ)砥石を用い、砥石の周速が30m/secであり、切り込み量が0.05mmであり、湿式である条件で摩耗させた。その後、そのドレッサーの摩耗量を、高さゲージ計により測定した。その結果、B−NPD−VIを用いたドレッサーの摩耗量は、NPD−IIを用いたものに比べて0.1倍と極めて少なかった。
(微小回転工具(ミニチュアドリル)の作製と評価)
NPD−IIおよびB−NPD−VIを用いて、直径φ1mm、刃長3mmのミニチュアドリルを作製した。これらのミニチュアドリルを用いて、回転数4000rpm、送り2μm/回の条件で、厚さ1.0mmの超硬合金(WC−Co)製板材(組成:12質量%のCo、残部のWC)に穴をあけた。これらのミニチュアドリルが摩耗または破損するまでにあけることができた穴の数(穴あけ回数)を評価した。その結果、B−NPD−VIを用いたミニチュアドリルの穴あけ回数は、NPD−IIを用いたものに比べて10倍多かった。
<実施例6:切削工具Iの評価>
実施例6では、実施例1と同じ方法を用いることにより、かさ密度が2.0g/cm3、ICP−MSによる上述した条件での測定でホウ素濃度が1×1021cm-3となった黒鉛を準備した。この黒鉛に対して等方的高圧発生装置を用いて15GPaおよび2200℃の条件で加圧熱処理することにより、多結晶ダイヤモンドに直接変換した。得られた多結晶ダイヤモンドの粒径は各々10nm〜100nmであった。X線回折パターンから、B4Cの析出などは見られなかった。SIMSによる実施例1と同じ条件での測定から、ケイ素濃度は1×1018cm-3、窒素濃度は2.5×1018cm-3であった。ホウ素濃度は1×1021cm-3であった。
この多結晶ダイヤモンドを用いて従来公知の方法により切削工具本体を作製した。この切削工具本体に活性ロウ材を不活性雰囲気下で接合し、多結晶ダイヤモンドの面を研磨した後、放電加工により逃げ面を切断加工してコーナーR0.4mm、逃げ角11°、すくい角0°のRバイトを付与した切削工具I(試験工具1)、逃げ面をさらに研磨により加工してコーナーR0.4mm、逃げ角11°、すくい角0°のRバイトを付与した切削工具I(試験工具2)をそれぞれ作製した。比較例として、従来のコバルト(Co)バインダーを含む焼結ダイヤモンドを用いて従来公知の方法により切削工具(比較工具A)を作製し、試験工具1と同じ放電加工により、試験工具1と同じ形状のRバイトを付与した。さらに、無添加の多結晶ダイヤモンドを用いて従来公知の方法により切削工具(比較工具B)およびIb型単結晶ダイヤモンドを用いた工具(比較工具C)をそれぞれ作製し、これらの逃げ面を試験工具2と同じ研磨により加工して試験工具2と同じ形状のRバイトを付与した。放電加工による刃先の稜線精度は、比較工具Aが、2〜5μm程度であったのに対して、試験工具1が0.5μm以下と良好であった。研磨による刃先の稜線精度についても試験工具2が0.1μmと良好であった。試験工具1は、比較工具Aと同等の加工時間であった。
次に、試験工具1〜2、比較工具A〜Cのそれぞれについて、以下の条件により旋削による断続切削評価試験を行なった。
工具形状: コーナーR0.4mm、逃げ角11°、すくい角0°
被削材: 材質−アルミニウム合金 A390(形状:直径φ100×500mmU字形状4溝付)
加工方法: 円筒外周断続旋盤加工(湿式)
切削液: 水溶性エマルジョン
切削条件: 切削速度(Vc)=800m/min、切込み(ap)=0.2mm、送り速度(f)=0.1mm/回転
切削距離: 10km。
上記の断続切削評価試験を行った後に、それぞれの工具刃先を観察し、損耗状態を確認した。その結果、比較工具Aは逃げ面摩耗量が45μmと大きく刃先形状が損なわれていたのに対し、試験工具1は逃げ面摩耗量が2μmと良好であった。さらに、試験工具2は摩耗量が0.5μmであり、比較工具Bの摩耗量3.5μm、比較工具Cの摩耗量3.5μmと比較して非常に良好であった。
<実施例7:切削工具IIの評価>
実施例7では、トリメチルホウ素と、メタンと、窒素と、ケイ素とからなる混合ガスを導入すること以外について、実施例1と同じ方法を用いることにより、かさ密度が2.0g/cm3、SIMSによる実施例1と同じ条件での測定でホウ素濃度が1×1019cm-3となった黒鉛を準備した。この黒鉛に対して等方的高圧発生装置を用いて15GPaおよび2200℃の条件で加圧熱処理することにより、多結晶ダイヤモンドに直接変換した。得られた多結晶ダイヤモンドの粒径は各々10nm〜100nmであった。X線回折パターンから、B4Cの析出などは見られなかった。SIMSによる実施例1と同じ条件での測定から、ケイ素濃度は1×1018cm-3、窒素濃度は2.5×1018cm-3であった。ホウ素濃度は1×1019cm-3であった。
この多結晶ダイヤモンドを用いて従来公知の方法により切削工具本体を作製した。この切削工具本体に活性ロウ材を不活性雰囲気下で接合し、多結晶ダイヤモンドの面を研磨した後、逃げ面をさらに研磨により加工してコーナーR0.4mm、逃げ角11°、すくい角0°のRバイトを付与した切削工具II(試験工具3)を作製した。比較例として、実施例6で用いたものと同じ比較工具A〜Cを準備した。試験工具3の刃先の稜線精度は、0.1μm以下と良好であった。
実施例7においても、試験工具3に対して実施例6と同じ条件の断続切削評価試験を行なった。その結果、試験工具3の摩耗量は0.1μmであり、比較工具A〜Cの摩耗量と比較して非常に良好であった。
<実施例8:切削工具IIIの評価>
実施例8では、ジボランと、メタンと、窒素およびケイ素からなる混合ガスを反応容器内に導入し、チャンバ内の真空度を26.7kPaで一定としながら黒鉛を作製した。その後、真空度10-2Pa以下に減圧し、雰囲気温度を300℃まで冷却した後、1sccm(standard cubic centimeter per minute)でケイ素および窒素を含む混合ガスをさらに黒鉛に導入した。これにより、かさ密度が1.9g/cm3、SIMSによる実施例1と同じ条件での測定でホウ素濃度が1×1021cm-3となった黒鉛を準備した。この黒鉛に対して等方的高圧発生装置を用いて15GPaおよび2200℃の条件で加圧熱処理することにより、多結晶ダイヤモンドに直接変換した。得られた多結晶ダイヤモンドの粒径は各々10nm〜100nmであった。ヌープ硬度は120GPaであった。多結晶ダイヤモンドから3mm×1mm角の試験片を切り出し、抵抗率を上述した方法により測定したところ、0.5mΩ・cmであった。SIMSによる実施例1と同じ条件での測定から、ケイ素濃度は1×1018cm-3、窒素濃度は2.5×1018cm-3であった。ホウ素濃度は1×1021cm-3であった。
この多結晶ダイヤモンドを用いて従来公知の方法により切削工具本体を作製した。この切削工具本体に活性ロウ材を不活性雰囲気下で接合し、多結晶ダイヤモンドの面を研磨した後、放電加工で逃げ面を切断加工することにより、ねじれ形状の切れ刃2枚をもつ直径φ0.5mmのボールエンドミル(試験工具4)を作製した。比較例として、従来のコバルト(Co)バインダーを含む焼結ダイヤモンドを用い、試験工具4と同じ形状を有するボールエンドミル(比較工具A−2)を試験工具4と同じ放電加工で逃げ面を切断加工することにより作製した。さらに無添加の多結晶ダイヤモンドを用い、試験工具4と同じ形状を有するボールエンドミル(比較工具B−2)をレーザー加工により逃げ面を切断加工することにより作製し、局所的に研磨加工により刃先品位を表面粗さRa30nmに仕上げた。
実施例8では、試験工具4、比較工具A−2、比較工具B−2のそれぞれについて、以下の条件により切削評価試験を行なった。
工具形状: 直径φ0.5mm、2枚刃、ボールエンドミル
被削材: 材質−STAVAX超硬合金(WC−12%Co)
切削液: 白灯油
切削条件: 工具回転速度420000rpm、切込み(ap)=0.003mm、送り速度(f)=120mm/min。
上記の切削評価試験を行なったところ、試験工具4の工具寿命は、比較工具A−2の工具寿命の5倍、比較工具B−2の工具寿命の1.5倍であり、非常に良好であった。水溶液系の切削液でも同様な効果が得られた。
<実施例9:ウォータージェット用オリフィスIの評価>
実施例9では、実施例1と同じ方法を用いることにより、かさ密度が2.0g/cm3、ICP−MSによる上述した条件での測定でホウ素濃度が1×1019cm-3となった黒鉛を準備した。この黒鉛に対して等方的高圧発生装置を用いて15GPaおよび2200℃の条件で加圧熱処理することにより、多結晶ダイヤモンドに直接変換した。得られた多結晶ダイヤモンドの最大粒径は100nmであった。X線回折パターンから、B4Cの析出などは見られなかった。SIMSによる実施例1と同じ条件での測定から、ケイ素濃度は1×1018cm-3、窒素濃度は2.5×1018cm-3であった。ホウ素濃度は1×1019cm-3であった。
この多結晶ダイヤモンドを用いて従来公知の方法により直径φ300μmのオリフィス孔を有するウォータージェット用オリフィスIを作製した。比較例として、従来公知の方法により作製した1b型SCDを用い、ウォータージェット用オリフィスIと同じオリフィス孔を有する1b型SCDウォータージェット用オリフィスを作製した。さらに従来公知の方法により作製した無添加の多結晶ダイヤモンドを用い、ウォータージェット用オリフィスIと同じオリフィス孔を有する無添加の多結晶ダイヤモンドウォータージェット用オリフィスを作製した。
これらのウォータージェット用オリフィスを用い、従来公知の条件でオリフィス孔が直径φ350μmに拡がるまでの切断時間を測定することにより、その切断性を評価した。その結果、実施例9のウォータージェット用オリフィスIは、1b型SCDウォータージェット用オリフィスの5倍の切断時間を有していた。さらに無添加の多結晶ダイヤモンドウォータージェット用オリフィスの2倍の切断時間を有していた。
<実施例10:ウォータージェット用オリフィスIIの評価>
実施例10では、実施例1と同じ方法を用いることにより、かさ密度が2.0g/cm3、ICP−MSによる上述した条件での測定でホウ素濃度が1×1019cm-3となった黒鉛を準備した。この黒鉛に対して等方的高圧発生装置を用いて15GPaおよび2200℃の条件で加圧熱処理することにより、多結晶ダイヤモンドに直接変換した。得られた多結晶ダイヤモンドの最大粒径は200nmであった。X線回折パターンから、B4Cの析出などは見られなかった。SIMSによる実施例1と同じ条件での測定から、ケイ素濃度は1×1018cm-3、窒素濃度は2.5×1018cm-3であった。ホウ素濃度は1×1019cm-3であった。
この多結晶ダイヤモンドを用いて従来公知の方法により短辺が150μm、長辺が300μmの矩形ウォータージェット用オリフィスを作製した。比較例として、従来公知の方法により作製したPCDを用い、ウォータージェット用オリフィスIIと同じ形状のPCDウォータージェット用オリフィスを作製した。さらに従来公知の方法により作製した無添加の多結晶ダイヤモンドを用い、ウォータージェット用オリフィスIIと同じ形状の無添加の多結晶ダイヤモンドオリフィスを作製した。
これらのウォータージェット用オリフィスを用い、従来公知の条件で長辺が400μmに拡がるまでの切断時間を測定することにより、その切断性を評価した。その結果、実施例10のウォータージェット用オリフィスIIは、PCDウォータージェット用オリフィスの40倍の切断時間を有していた。無添加の多結晶ダイヤモンドウォータージェット用オリフィスの2倍の切断時間を有していた。
<実施例11:B−NPD−IIIとC−NPD−1との性能比較>
本実施例では、表1に示すB−NPD−IIIとC−NPD−Iとを性能比較した。その結果、B−NPD−IIIのヌープ硬度は120GPaであったのに対し、C−NPD−Iは60GPaであった。さらに、B−NPD−IIIは、大気中で900℃付近まで安定であったのに対し、C−NPD−Iは400〜600℃程度で酸化し、割れた。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
S10 第1工程
S20 第2工程
S30 第3工程
SA A工程
SA1〜SA6 A工程のステップ
SB B工程
SB1〜SB4 B工程のステップ
SC C工程
SC1〜SC3 C工程のステップ
SD D工程
SD1〜SD4 D工程のステップ。

Claims (32)

  1. ダイヤモンド単相を基本組成とする多結晶ダイヤモンドであって、
    前記多結晶ダイヤモンドは、複数の結晶粒により構成され、
    前記多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、窒素と、ケイ素とを含むとともに、残部が炭素および微量不純物であり、
    前記ホウ素は、前記結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在し、
    前記窒素および前記ケイ素は、前記結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在し、
    前記微量不純物は、BC5と、B4Cとを含み、
    前記BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、前記BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満であり、
    前記B4Cは、前記X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、前記ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、前記B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満であり、
    前記結晶粒は、その粒径が500nm以下である、多結晶ダイヤモンド。
  2. 前記多結晶ダイヤモンドは、その表面が保護膜で被覆されている、請求項1に記載の多結晶ダイヤモンド。
  3. 前記保護膜は、酸化ケイ素、窒化ケイ素および窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項2に記載の多結晶ダイヤモンド。
  4. 前記保護膜は、前記結晶粒中から析出した析出物を含む、請求項2または請求項3に記載の多結晶ダイヤモンド。
  5. 前記保護膜は、その平均膜厚が1nm以上1000nm以下である、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  6. 前記ホウ素は、その99原子%以上が孤立置換型として前記結晶粒中に存在する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  7. 前記ホウ素は、その原子濃度が1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  8. 前記窒素は、その原子濃度が1×1018cm-3以上1×1020cm-3以下である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  9. 前記ケイ素は、その原子濃度が1×1018cm-3以上2×1020cm-3以下である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  10. 前記多結晶ダイヤモンドは、ラマンスペクトル測定において、1575cm-1±30cm-1を中心として半値幅が20cm-1以下となるピークの面積が、1300cm-1±30cm-1を中心として半値幅が60cm-1以下となるピークの面積の1%未満である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  11. 前記多結晶ダイヤモンドは、動摩擦係数が0.2以下である、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  12. 前記多結晶ダイヤモンドは、動摩擦係数が0.1以下である、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  13. 炭素と、ホウ素と、窒素と、ケイ素と、微量不純物としてBC5およびB4Cとを含む黒鉛を準備する第1工程と、
    前記黒鉛を不活性ガス雰囲気下で容器へ充填する第2工程と、
    前記容器内で、前記黒鉛を加圧熱処理によりダイヤモンドに変換する第3工程とを含み、
    前記ホウ素は、上記黒鉛の結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在する、多結晶ダイヤモンドの製造方法であって、
    前記第1工程は、A工程と、B工程と、C工程とを含み、
    前記A工程は、最大粒径が1μm以下の炭素含有第1粒子と、最大粒径が100nm以下の炭化ホウ素粒子と、最大粒径が100nm以下の窒化ホウ素粒子と、最大粒径が100nm以下の窒化ケイ素粒子および炭化ケイ素粒子の少なくともいずれかとを混合し、第1成形体に成形する工程であり、
    前記B工程は、前記第1成形体を2000℃以上2500℃以下で加熱焼結し、第1焼結体を得た後、該第1焼結体を最大粒径が50μm以下の粉体に粉砕する工程であり、
    前記C工程は、前記粉体を最大粒径が1μm未満になるまで粉砕し、成形し、2000℃以上2500℃以下で加熱焼結することにより、前記黒鉛を準備する工程であり、
    前記炭素含有第1粒子は、前記炭化ホウ素粒子および前記炭化ケイ素粒子を除いた炭素含有粒子である、多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  14. 前記第1工程は、前記B工程の後であって、前記C工程の前に行なうD工程をさらに含み、
    前記D工程は、D1工程とD2工程とD3工程とをこの順に5回以上繰り返す工程であり、
    前記D1工程は、前記粉体を第2成形体に成形する工程であり、
    前記D2工程は、前記第2成形体を2000℃以上2500℃以下で加熱焼結し第2焼結体を得る工程であり、
    前記D3工程は、前記第2焼結体を最大粒径が50μm以下の前記粉体に再度粉砕する工程である、請求項13に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  15. 前記D工程は、前記D1工程と前記D2工程と前記D3工程とをこの順に5回以上繰り返す工程である、請求項14に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  16. 前記D工程は、前記D1工程と前記D2工程と前記D3工程とをこの順に10回以上繰り返す工程である、請求項14に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  17. 前記炭素含有第1粒子は、熱分解黒鉛、グラフェンおよび該グラフェンの酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項13から請求項16のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  18. 前記第3工程は、加圧熱装置内で、前記黒鉛に直接加圧熱処理を行なう、請求項13から請求項17のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  19. 前記加圧熱処理は、6GPa以上かつ1200℃以上の条件で行なわれる、請求項13から請求項18のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  20. 前記加圧熱処理は、8GPa以上30GPa以下かつ1500℃以上2300℃以下の条件で行なわれる、請求項13から請求項19のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  21. 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたスクライブツール。
  22. 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたスクライブホイール。
  23. 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたドレッサー。
  24. 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成された回転工具。
  25. 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたウォータージェット用オリフィス。
  26. 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成された伸線ダイス。
  27. 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成された切削工具。
  28. 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成された電極。
  29. 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて対象物を加工する、加工方法。
  30. 前記対象物は、絶縁体である、請求項29に記載の加工方法。
  31. 前記絶縁体は、100kΩ・cm以上の抵抗率を有する、請求項30に記載の加工方法。
  32. ダイヤモンド単相を基本組成とする多結晶ダイヤモンドであって、
    前記多結晶ダイヤモンドは、複数の結晶粒により構成され、
    前記多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、窒素と、ケイ素とを含むとともに、残部が炭素および微量不純物であり、
    前記ホウ素は、前記結晶粒中に、原子レベルで分散し、かつその99原子%以上が孤立置換型として存在し、
    前記窒素および前記ケイ素は、前記結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在し、
    前記微量不純物は、BC5と、B4Cとを含み、
    前記BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、前記BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満であり、
    前記B4Cは、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、前記B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満であり、
    前記結晶粒は、その粒径が500nm以下であり、
    前記多結晶ダイヤモンドは、その表面が保護膜で被覆され、
    前記保護膜は、酸化ケイ素、窒化ケイ素および窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、かつ前記結晶粒中から析出した析出物を含み、
    前記保護膜は、その平均膜厚が1nm以上1000nm以下であり、
    前記ホウ素は、その原子濃度が1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下であり、
    前記窒素は、その原子濃度が1×1018cm-3以上1×1020cm-3以下であり、
    前記ケイ素は、その原子濃度が1×1018cm-3以上2×1020cm-3以下であり、
    前記多結晶ダイヤモンドは、ラマンスペクトル測定において、1575cm-1±30cm-1を中心として半値幅が20cm-1以下となるピークの面積が、1300cm-1±30cm-1を中心として半値幅が60cm-1以下となるピークの面積の1%未満であり、
    前記多結晶ダイヤモンドは、動摩擦係数が0.1以下である、多結晶ダイヤモンド。
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