JP6798283B2 - 多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法、スクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、伸線ダイス、切削工具、電極ならびに多結晶ダイヤモンドを用いた加工方法 - Google Patents

多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法、スクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、伸線ダイス、切削工具、電極ならびに多結晶ダイヤモンドを用いた加工方法 Download PDF

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Description

本発明は、多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法に関する。本発明にかかる多結晶ダイヤモンドは、スクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、伸線ダイス、切削工具、電極などに好適に用いられる。さらに本発明は、多結晶ダイヤモンドを用いた加工方法に関する。
近年、ナノ多結晶ダイヤモンドが、天然の単結晶ダイヤモンドを超える等方的な硬さを有することが明らかになってきた。このような素材にホウ素化合物を添加することにより導電性を付与したナノ多結晶ダイヤモンドが開発されている。さらに、ホウ素を原子置換型でダイヤモンド結晶粒中に含ませることにより、ダイヤモンド構造に基づいた半導体特性を示すナノ多結晶ダイヤモンドが開発されている。
たとえば、特開2012−106925号公報(特許文献1)は、実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶体であって、ダイヤモンドの最大粒径が100nm以下、平均粒径が50nm以下で、ダイヤモンド粒子内にホウ素を10ppm以上1000ppm以下含む高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体を開示する。
また、特開2013−28500号公報(特許文献2)は、炭素と、炭素中に原子レベルで分散するように添加されたIII族元素と、不可避不純物とで構成され、結晶粒径が500nm以下である多結晶ダイヤモンドを開示する。
特開2012−106925号公報 特開2013−028500号公報
特開2012−106925号公報(特許文献1)に開示の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体は、ホウ素がホウ素化合物としてダイヤモンドの結晶中に含まれることから、ダイヤモンドの表面にホウ素酸化物が形成され、耐酸化性が高くなる。しかしながら、かかるホウ素化合物が、ダイヤモンド構造ではなくダイヤモンドのような高い硬度を有さず、またダイヤモンドと異なる熱膨張率を有するため、耐摩耗性の低下および高温におけるクラックの発生などの問題点がある。
特開2013−28500号公報(特許文献2)に開示の多結晶ダイヤモンドは、ホウ素が原子レベルで分散されホウ素化合物が含まれないことから、クラックの発生などが抑制されるが、表面に露出した炭素が酸化してCOxガスとなって消耗するため、耐摩耗性の低下などの問題点がある。
そこで、表面を保護するための保護膜を形成することができ、上記問題点を解決して、耐摩耗性の高い多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法、上記多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたスクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、伸線ダイス、切削工具および電極、ならびに上記多結晶ダイヤモンドを用いた加工方法を提供することを目的とする。
本発明のある態様にかかる多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド単相を基本組成とする多結晶ダイヤモンドであって、多結晶ダイヤモンドは、複数の結晶粒により構成され、多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、水素と、酸素とを含み、残部が炭素および微量不純物であり、ホウ素は結晶粒中に原子レベルで分散しかつその90原子%以上が孤立置換型として存在し、水素および酸素は結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在し、微量不純物はBC5とB4Cとを含み、BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満であり、B4Cは、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満であり、結晶粒は、その最大粒径が500nm以下である。
本発明の別の態様にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法は、炭素と、炭素の結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在するホウ素と、水素と、酸素と、微量不純物としてBC5およびB4Cと、を含む黒鉛を準備する第1工程と、上記黒鉛を不活性ガス雰囲気下で容器へ充填する第2工程と、容器内で上記黒鉛を加圧熱処理によりダイヤモンドに変換する第3工程と、を含む。
上記によれば、表面を保護するための保護膜を形成することができ、耐摩耗性の高い多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法、多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたスクライブツール、スクライブホイール、ドレッサー、回転工具、伸線ダイス、切削工具および電極、ならびに上記多結晶ダイヤモンドを用いた加工方法を提供することができる。
図1は、本発明のある態様にかかる多結晶ダイヤモンドのSIMSの結果の一例を示すグラフである。 図2は、本発明のある態様にかかる多結晶ダイヤモンドの表面のTOF−SIMSの結果を示すグラフである。 図3は、本発明のある態様にかかる多結晶ダイヤモンドの大気中での加熱の際の質量変化の一例を示すグラフである。 図4は、本発明のある態様にかかる多結晶ダイヤモンドのピン・オン・ディスク摺動試験における動摩擦係数測定の結果の一例を示すグラフである。 図5は、本発明のある態様にかかる多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度測定の結果の一例を示すグラフである。 図6は、本発明のある態様にかかる多結晶ダイヤモンドの二酸化ケイ素に対する摩耗速度測定の結果の一例を示すグラフである。 図7は、本発明の別の態様にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法の工程を示すフローチャートである。 図8は、本発明の別の態様にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法の工程中の第1工程を示すフローチャートである。
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
[1]本発明のある実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド単相を基本組成とする多結晶ダイヤモンドであって、多結晶ダイヤモンドは複数の結晶粒により構成され、多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、水素と、酸素とを含み、残部が炭素および微量不純物であり、ホウ素は結晶粒中に原子レベルで分散しかつその90原子%以上が孤立置換型として存在し、水素および酸素は結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在し、微量不純物はBC5とB4Cとを含み、BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満であり、B4Cは、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満であり、上記結晶粒は、その粒径が500nm以下である。
本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、その内部の高硬度のダイヤモンド構造が維持されるとともに、表面を保護するための保護膜を形成することができ、耐摩耗性が高くなる。
[2]本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、その表面が保護膜で被覆され得る。かかる多結晶ダイヤモンドは、保護膜により、摩擦係数が低減し、摺動特性が高くなり、耐摩耗性が高くなる。
[3]本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドにおいて、上記保護膜は、BOxクラスターと、炭素の酸素終端となるOおよびOHの少なくともいずれかと、を含むことができる。BOxクラスターは表面に露出したB(ホウ素)の反応により形成されるものと考えられ、炭素の酸素終端となるOおよびOHは表面に露出した炭素の反応により形成されるものと考えられ、いずれも摺動性が高く摩擦係数が小さいため、耐摩耗性が高くなる。
[4]本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドにおいて、保護膜は、結晶粒中から析出した析出物を含むことができる。かかる多結晶ダイヤモンドは、保護膜が、摺動性が高く動摩擦係数が小さい析出物を含むことにより、耐摩耗性が高くなる。
[5]本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドにおいて、保護膜は、その平均膜厚を1nm以上1000nm以下とすることができる。かかる多結晶ダイヤモンドは、動摩擦係数を良好に低減させることができる。
[6]本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドにおいて、ホウ素は、全体の99原子%以上が孤立置換型で多結晶ダイヤモンドの結晶中に含まれ得る。かかる多結晶ダイヤモンドは、多結晶ダイヤモンドの内部の高硬度のダイヤモンド構造がより維持されやすい。
[7]本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドにおいて、ホウ素は、その原子濃度を1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下とすることができる。かかる多結晶ダイヤモンドは、その表面に保護膜を形成できる。
[8]本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドにおいて、水素は、その原子濃度を1×1017cm-3以上1×1020cm-3以下とすることができる。かかる多結晶ダイヤモンドは、結晶中に酸素を安定して含むことができるとともに、硬度の低下を抑制できる。
[9]本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドにおいて、酸素は、その原子濃度を1×1017cm-3以上1×1020cm-3以下とすることができる。かかる多結晶ダイヤモンドは、表面における酸化膜である保護膜の形成が促進され耐酸化性が向上し摩擦係数が低下するとともに、硬度の低下を抑制できる。
[10]本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、ラマンスペクトル測定において、1575cm-1±30cm-1を中心として半値幅が20cm-1以下となるピークの面積を、1300cm -1±30cm-1を中心として半値幅が60cm-1以下となるピークの面積の1%未満とすることができる。かかる多結晶ダイヤモンドは、天然のダイヤモンドを超える等方的な硬さを維持できる。
[11]本実施形態の多結晶ダイヤモンドは、その表面(保護膜で被覆されている表面)の動摩擦係数を0.06以下とすることができる。かかる多結晶ダイヤモンドは、摺動特性および耐摩耗性が高い。
[12]本実施形態の多結晶ダイヤモンドは、その表面(保護膜で被覆されている表面)の動摩擦係数を0.05以下とすることができる。かかる多結晶ダイヤモンドは、摺動特性および耐摩耗性が高い。
[13]すなわち、本実施形態の多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド単相を基本組成とする多結晶ダイヤモンドであって、多結晶ダイヤモンドは複数の結晶粒により構成され、多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、水素と、酸素とを含み、残部が炭素および微量不純物であり、ホウ素は結晶粒中に原子レベルで分散しかつその99原子%以上が孤立置換型として存在し、水素および酸素は結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在し、微量不純物はBC5とB4Cとを含み、BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満であり、B4Cは、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満であり、結晶粒はその粒径が500nm以下であり、多結晶ダイヤモンドは、その表面が保護膜で被覆され、保護膜は、BOxクラスターと、炭素の酸素終端となるOおよびOHの少なくともいずれかと、を含み、かつ結晶粒中から析出した析出物を含み、保護膜は、その平均膜厚が1nm以上1000nm以下であり、ホウ素はその原子濃度が1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下であり、水素はその原子濃度が1×1017cm-3以上1×1020cm-3以下であり、酸素は、その原子濃度が1×1017cm-3以上1×1020cm-3以下であり、多結晶ダイヤモンドは、ラマンスペクトル測定において、1575cm-1±30cm-1を中心として半値幅が20cm-1以下となるピークの面積が、1300cm-1±30cm-1を中心として半値幅が60cm-1以下となるピークの面積の1%未満であり、多結晶ダイヤモンドは上記表面(保護膜で被覆されている表面)の動摩擦係数が0.05以下である。かかる多結晶ダイヤモンドは、その内部の高硬度のダイヤモンド構造が維持されるとともに、表面を保護するための保護膜を形成することにより、耐酸化性が高くなり、動摩擦係数が低減し、摺動特性が高くなり、耐摩耗性が高くなる。
[14]本発明の別の実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法は、炭素と、上記炭素の結晶粒中に原子レベルで分散しかつその90原子%以上が孤立置換型として存在するホウ素と、水素と、酸素と、微量不純物としてBC5およびB4Cと、を含む黒鉛を準備する第1工程と、上記黒鉛を不活性ガス雰囲気下で容器へ充填する第2工程と、上記容器内で、上記黒鉛を加圧熱処理によりダイヤモンドに変換する第3工程と、を含む。本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法は、内部の高硬度のダイヤモンド構造を維持するともに、表面を保護するための保護膜を形成することができるため、耐摩耗性が高い多結晶ダイヤモンドを製造することができる。
[15]上記第1工程は、A工程と、B工程と、C工程とを含み、上記A工程を、最大粒径が1μm以下の炭素含有第1粒子と、最大粒径が100nm以下の炭化ホウ素粒子と、最大粒径が100nm以下のホウ酸粒子と、を混合し、あるいは、炭素含有第1粒子と、炭化ホウ素粒子と、不活性ガス雰囲気下で最大粒径が1μm以下の炭素含有第2粒子をホウ酸トリアルキル中で撹拌して水分を導入することによりホウ酸トリアルキルをホウ酸化したものと、を混合し、第1成形体に成形する工程とし、B工程を、第1成形体を2000℃以上2500℃以下で焼結し、第1焼結体を得た後、第1焼結体を最大粒径が50μm以下の粉体に粉砕する工程とし、C工程を、上記粉体を最大粒径が1μm未満になるまで粉砕し、成形し、2000℃以上2500℃以下で焼結することにより、上記黒鉛を準備する工程とし、炭素含有第1粒子および炭素含有第2粒子は、炭化ホウ素粒子を含まず、化学組成が同じまたは異なる炭素含有粒子とすることができる。これにより、内部の高硬度のダイヤモンド構造を維持するともに、表面を保護するための保護膜を形成することができるため、耐摩耗性が高い多結晶ダイヤモンドを効率的に製造することができる。
[16]第1工程は、上記B工程の後であって、上記C工程の前に行なうD工程をさらに含み、D工程は、D1工程とD2工程とD3工程とをこの順に複数回繰り返す工程であり、D1工程を上記粉体を第2成形体に成形する工程とし、D2工程を、第2成形体を2000℃以上2500℃以下で焼結し第2焼結体を得る工程とし、D3工程を第2焼結体を最大粒径が50μm以下の上記粉体に再度粉砕する工程とすることができる。これにより、内部の高硬度のダイヤモンド構造を維持するともに、表面を保護するための保護膜を形成することができるため、耐摩耗性が高い多結晶ダイヤモンドをより効率的に製造することができる。
[17]D工程は、D1工程とD2工程とD3工程とをこの順に5回以上繰り返す工程であることが好ましい。これにより、内部の高硬度のダイヤモンド構造を維持するともに、表面を保護するための保護膜を形成することができるため、耐摩耗性が高い多結晶ダイヤモンドをより効率的に製造することができる。
[18]D工程は、D1工程とD2工程とD3工程とをこの順に10回以上繰り返す工程であることが好ましい。これにより、内部の高硬度のダイヤモンド構造を維持するともに、表面を保護するための保護膜を形成することができるため、耐摩耗性が高い多結晶ダイヤモンドをより効率的に製造することができる。
[19]炭素含有第1粒子は、熱分解黒鉛、グラフェンおよびグラフェン酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことができ、炭素含有第2粒子は、熱分解黒鉛、グラフェンおよびグラフェン酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことができる。これにより、上記効果を備える多結晶ダイヤモンドをより効率的に製造することができる。
[20]第3工程は、加圧熱装置内で、上記黒鉛に直接加圧熱処理を行なうことができる。これにより、コバルトなどからなる結合相(バインダー)などを含むことなく、ダイヤモンド単相を基本組成とする多結晶ダイヤモンドを製造することができる。
[21]加圧熱処理は、6GPa以上かつ1200℃以上の条件で行なうことができる。これにより、上記効果を備える多結晶ダイヤモンドを効率的に製造することができる。
[22]加圧熱処理は、8GPa以上30GPa以下かつ1500℃以上2300℃以下の条件で行なうことができる。これにより、上記効果を備える多結晶ダイヤモンドを効率的に製造することができる。
[23]本発明のさらに別の実施形態にかかるスクライブツールは、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態にかかるスクライブツールは、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
[24]本発明のさらに別の実施形態にかかるスクライブホイールは、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態にかかるスクライブホイールは、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
[25]本発明のさらに別の実施形態にかかるドレッサーは、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態にかかるドレッサーは、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
[26]本発明のさらに別の実施形態にかかる回転工具は、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態にかかる回転工具は、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
[27]本発明のさらに別の実施形態にかかる伸線ダイスは、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態にかかる伸線ダイスは、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
[28]本発明のさらに別の実施形態にかかる切削工具は、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態にかかる切削工具は、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
[29]本発明のさらに別の実施形態にかかる電極は、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態にかかる電極は、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
[30]本発明のさらに別の実施形態にかかる加工方法は、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて対象物を加工することができる。本実施形態にかかる加工方法は、上記実施形態の多結晶ダイヤモンドを用いて対象物を加工するため、効率よく低コストで対象物を加工できる。
[31]上記対象物を絶縁体とすることができる。対象物が絶縁体であっても、トライボプラズマなどによる異常な損耗を発生させることなく、効率よく低コストで対象物を加工できる。
[32]上記絶縁体は100kΩ・cm以上の抵抗率を有することができる。対象物が100kΩ・cm以上の抵抗率を有する絶縁体であっても、トライボプラズマによるエッチングを発生させることなく、効率よく低コストで対象物を加工できる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態についてさらに詳細に説明する。ここで、本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。また、本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。また、本明細書において、各元素および各化合物の濃度は、種々の単位で表示する。たとえば、ホウ素、水素および酸素の濃度は、原子濃度としてcm-3の単位で表示する。BC5およびB4Cの濃度は、X線回折測定の所定範囲の回折角におけるダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対するBC5およびB4Cのそれぞれに由来するすべての回折ピークの総面積の百分率として%の単位で表示する。
≪実施形態1:多結晶ダイヤモンド≫
本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド単相を基本組成とし、複数の結晶粒により構成される。さらに、多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、水素と、酸素とを含み、残部が炭素および微量不純物である。ホウ素は結晶粒中に原子レベルで分散しかつその90原子%以上が孤立置換型として存在し、水素および酸素は結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在する。微量不純物は、BC5と、B4Cとを含む。BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満である。B4Cは、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満である。結晶粒は、その粒径が500nm以下である。
本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド単相を基本組成とすることから、焼結助剤および触媒の両方またはいずれか一方により形成される結合相(バインダー)を含むことがなく、高温条件下においても熱膨張率の差異による脱粒が発生しない。さらに、多結晶ダイヤモンドは、複数の結晶粒により構成される多結晶であり、その粒径が500nm以下であることから、単結晶のような方向性および劈開性がなく、全方位に対して等方的な硬度および耐摩耗性を有する。多結晶ダイヤモンドは、結晶粒中にホウ素と、水素と、酸素素とを含むことから、その表面が水溶性の酸化膜である保護膜で被覆される。これにより耐酸化性が高くなり、かつ動摩擦係数の低減により摺動特性および耐摩耗性が高くなる。
本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおいて、全方位に対して等方的な硬度および耐摩耗性を有する観点から、多結晶ダイヤモンドの結晶粒の最大の粒径は、500nm以下であり、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。硬度が高い観点から、多結晶ダイヤモンドの結晶粒の最小の粒径は、20nm以上が好ましい。
多結晶ダイヤモンドの粒径は、500nm以下であることにより、等方的な硬さを持つ効果が得られる。さらに1nm以上であることにより、ダイヤモンド特有の機械的強度を有する効果が得られる。多結晶ダイヤモンドの粒径は、20nm以上200nm以下であることがより好ましい。加えて、それぞれの粒子の長径aと短径bとのアスペクト比はa/b<4であることがさらに好ましい。
多結晶ダイヤモンドの粒径は、SEM、TEMといった電子顕微鏡法により測定することができる。多結晶ダイヤモンドを任意の面を研磨することにより、粒径を測定するための観察用研磨面を準備し、たとえばSEMを用いて20000倍の倍率により、上記観察用研磨面の任意の1か所(1視野)を観察する。1視野には多結晶ダイヤモンドの結晶粒が120〜200000個程度現れるので、このうち10個の粒径を求め、そのすべてが500nm以下であることを確認する。これを試料のサイズ全体にわたる視野すべてについて行なうことにより、多結晶ダイヤモンドの粒径が500nm以下であることを確認することができる。
多結晶ダイヤモンドの粒径は、以下の条件に基づくX線回折法(XRD法)により測定することもできる。
測定装置: 商品名(品番)「X’pert」、PANalytical社製
X線光源: Cu−Kα線(波長は1.54185Å)
走査軸: 2θ
走査範囲: 20°〜120°
電圧: 40kV
電流: 30mA
スキャンスピード: 1°/min
半値幅は、ピークフィッティングの上、Scherrer式(D=Kλ/Bcosθ)から求めた。ここで、Dはダイヤモンドの結晶粒の粒径、Bは回折線幅、λはX線の波長、θはブラッグ角、KはSEM像との相関から定まる補正係数(0.9)を用いる。
本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドにおいて微量不純物は、BC5と、B4Cとを含む。ここで、微量不純物とは、多結晶ダイヤモンドの製造上、その混入を避けることができない元素の総称をいう。BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満であり、好ましくは0.1%未満であり、より好ましくは0.05%未満である。B4Cは、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満であり、好ましくは0.1%未満であり、より好ましくは0.05%未満である。このようなBC5およびB4Cの濃度の低さにより、多結晶ダイヤモンドは全方位に対する等方的な硬度および耐摩耗性が良好に維持される。
<結晶粒中の元素>
本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおいては、結晶粒中に、ホウ素が原子レベルで分散しかつその90原子%以上が孤立置換型として存在するとともに、水素および酸素が孤立置換型または侵入型として存在することから、表面に露出したホウ素、水素および酸素により酸化膜が形成されて、その酸化膜が保護膜として多結晶ダイヤモンドの表面を被覆する。このため、多結晶ダイヤモンドの耐酸化性が高くなるとともに、摩擦係数を低減するため、摺動特性および耐摩耗性が高くなる。
すなわち、本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおいては、表面が摩耗および/または破損によって損傷したときに表面のみに酸化膜である保護膜が形成され、内部はダイヤモンド構造が維持されて硬度が維持される。また、ホウ素が原子レベルで分散しかつその90原子%以上が孤立置換型として存在することから、内部にクラスター状に凝集することがなく、また、ダイヤモンドの結晶の粒界に凝集することもないため、温度変化および/または衝撃による亀裂の起点となるような不純物偏析がない。また、ホウ素が原子レベルで分散しかつその90原子%以上が孤立置換型として存在することから、多結晶ダイヤモンドの全体にわたって所望の露出表面に局在化した酸化膜である保護膜が形成され、電荷としては正孔過剰な状態であるため、表面のみにさらに酸素をひきつけやすい。
本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおいて、「原子レベルで分散する」とは、炭素とホウ素とを気相状態で混合させて多結晶ダイヤモンドを作成する場合に、多結晶ダイヤモンドの結晶を形成する炭素中にホウ素などの異種元素がそれぞれ有限の活性化エネルギーを持って、ダイヤモンド結晶構造を変えずに、分散するレベルの分散状態をいう。すなわち、かかる分散状態は、孤立して析出する異種元素およびダイヤモンド以外の異種化合物を形成していない状態をいう。また、「孤立置換型」とは、ホウ素、水素および酸素などの異種元素が、孤立して、多結晶ダイヤモンドまたは黒鉛の結晶格子の格子点に位置する炭素に置き換わっている存在形態をいう。また、「侵入型」とは、水素および酸素などの異種元素が、多結晶ダイヤモンドの結晶格子の格子点に位置する炭素間の隙間に侵入している存在形態をいう。
本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおけるホウ素、水素および酸素の分散状態および存在形態は、TEM(透過型電子顕微鏡)により観察できる。ホウ素が「原子レベルで分散」することおよび「孤立置換型」として存在することは、電気抵抗の温度依存性、活性化エネルギーの検出またはTOF−SIMS(飛行時間型−二次イオン質量分析)により確認できる。水素および酸素が「孤立置換型」または「侵入型」で存在していることは、TOF−SIMSにより確認できる。
上記分散状態および存在形態の確認に用いるTEMは、上述した多結晶ダイヤモンドの粒径を測定するための観察用研磨面に対し、20000〜100000倍の倍率で観察用研磨面の任意の10か所(10視野)を観察することにより確認することができる。
TOF−SIMSは、たとえば以下の条件で分析することにより、各元素が「原子レベルで分散する」こと、および各元素が「孤立置換型」または「侵入型」であることなどを確認することができる。
測定装置: TOF−SIMS質量分析計(飛行時間二次イオン質量分析計)
一次イオン源: ビスマス(Bi)
一次加速電圧: 25kV。
ホウ素、水素および酸素の濃度は、多結晶ダイヤモンドの内部についてはSIMS(二次イオン質量分析法)により、多結晶ダイヤモンドの表面およびその近傍(たとえば、保護膜としての酸化膜およびその近傍の多結晶ダイヤモンド、表面から100nmの深さまで)についてはTOF−SIMSにより測定する。また、上記の分散状態および存在状態は、XRD(X線回折)、ラマン分光などによっても評価できる。また、本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおける炭素、ホウ素、水素および酸素以外の元素で形成される微量不純物の濃度は、SIMSまたはICP−MS(誘導結合プラズマ−質量分析法)により測定する。
SIMSは、たとえば以下の条件で分析することにより、多結晶ダイヤモンドの内部におけるホウ素、水素および酸素の原子濃度および微量不純物の原子濃度を測定することができる。
測定装置: 商品名(品番):「IMS−7f」、AMETEK社製
一次イオン種: セシウム(Cs+)
一次加速電圧: 15kV
検出領域: 30(μmφ)
測定精度: ±40%(2σ)。
多結晶ダイヤモンド全体の微量不純物の平均濃度を調べる場合、ICP−MSにより一般的な条件で分析することにより、多結晶ダイヤモンドの内部におけるホウ素、水素および酸素の原子濃度および微量不純物の平均の原子濃度を測定できる。
本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおいて、多結晶ダイヤモンドの内部の高硬度のダイヤモンド構造が維持されやすい観点から、ホウ素は、その90原子%以上が孤立置換型で存在し、好ましくはその95原子%以上が孤立置換型で存在し、より好ましくはその99原子%以上が孤立置換型で存在する。ホウ素の全体に対する孤立置換型ホウ素の割合は、公知のホール測定、電気抵抗の温度依存性測定、C−V測定をSIMSによる全ホウ素原子数に対してホールを担うホウ素原子数の割合を測定により測定する。
(ホウ素の原子濃度)
本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおいて、その表面に好適な酸化膜である保護膜を形成する観点から、ホウ素の原子濃度は、1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下が好ましく、1×1014cm-3以上1×1021cm-3以下がより好ましい。より好ましい範囲は、好ましい範囲に比べて、保護膜の不良率が激減し、歩留が30%以上から90%以上に向上する。
また、多結晶ダイヤモンドは、上記ホウ素の濃度範囲のうちで、1×1019cm-3未満の範囲ではp型半導体としての電気特性を示し、1×1019cm-3以上の範囲では金属的な導電体としての電気特性を示す。
(水素の原子濃度)
本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおいて、結晶中に酸素を安定して含むことができるとともに、硬度の低下および結晶粒径の増大を抑制できる観点から、水素の濃度は、1×1017cm-3以上1×1020cm-3以下が好ましく、1×1017cm-3以上1×1019cm-3以下がより好ましい。しかしながら、たとえ硬度が低下しても、モース硬度が50GPa程度の立方晶型窒化ホウ素、90GPa程度の工業用Ib型ダイヤモンド単結晶よりも高い硬度を有するため、耐摩耗性特性を活かす用途(たとえば、線引きダイス用、摺動部品用など)では十分に有用である。結晶中に水素がない場合は、酸素は多結晶ダイヤモンド中の炭素と反応して酸化炭素(COx)系ガスとなり高温で抜けやすく多結晶ダイヤモンドの結晶内への酸素の添加が困難である。
(酸素の原子濃度)
本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおいて、表面における酸化膜である保護膜の形成が促進され耐酸化性が向上し摩擦係数が低下するとともに、硬度の低下および結晶粒径の増大を抑制できる観点から、酸素の原子濃度は、1×1017cm-3以上1×1020cm-3以下が好ましく、1×1017cm-3以上1×1019cm-3以下がより好ましい。
(微量不純物の濃度)
多結晶ダイヤモンドに含まれる微量不純物とは、多結晶ダイヤモンドの製造上、その混入を避けることができない元素あるいは化合物、および微量に含まれる可能性がある元素あるいは化合物の総称をいう。多結晶ダイヤモンドは、微量不純物としてBC5とB4Cとを含む。BC5およびB4C以外の微量不純物としては、遷移金属に分類される金属元素などが含まれる。この金属元素などの各元素の含有量(原子濃度)は、それぞれ0cm-3以上1×1018cm-3以下であり、各元素の総和(すなわちBC5およびB4C以外の微量不純物の含有量(原子濃度))は0cm-3以上1×1022cm-3以下である。したがって、これらの金属元素は多結晶ダイヤモンドに含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満である。B4Cは、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満である。BC5およびB4Cの総和としては、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、BC5およびB4C由来のすべての回折ピークの総面積が1%以下であることが好ましい。
BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、上記BC5由来のすべての回折ピークの総面積が0.3%未満であることが好ましい。またB4Cの濃度は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、上記ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、上記B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.3%未満であることが好ましい。
上記のようなBC5およびB4Cの濃度測定は、X線回折装置を用いた分析により可能となる。たとえば、X線回折装置(商品名(品番)「X’pert」、PANalytical社製)を用いて以下のような条件で測定することができる。
特性X線: Cu−Kα線
管電圧: 30kV
管電流: 20mA
X線回折法: θ−2θ法
X線照射方法: ピンホールコリメーターを使用してX線を照射。
ここで、ダイヤモンド由来の回折ピーク、BC5由来の回折ピーク、およびB4C由来の回折ピークの帰属は、たとえば、公知の結晶、ASTMカードなどに基づいて行なう。たとえば、ダイヤモンド由来の回折ピークとしては、多結晶ダイヤモンドの(111)面、(220)面、(311)面などに帰属される回折ピークが挙げられる。BC5由来の回折ピークとしては、(001)面、(002)面、(003)面などに帰属される回折ピークが挙げられる。B4C由来の回折ピークとしては、(101)面、(003)面、(012)面などに帰属される回折ピークが挙げられる。
(SIMS測定)
図1は、本実施形態の多結晶ダイヤモンドのSIMSの結果の一例を示すグラフである。図1に示す多結晶ダイヤモンドは、粉末焼結法により形成されたホウ素、水素および酸素を含む黒鉛を16GPaかつ2100℃の条件で直接ダイヤモンドに変換したものである。また、SIMSの測定条件は、以下のとおりである。
測定装置: 商品名(品番):「IMS−7f」、AMETEK社製
一次イオン種: セシウム(Cs+)
一次加速電圧: 15kV
検出領域: 30(μmφ)
測定精度: ±40%(2σ)。
図1を参照して、本実施形態の多結晶ダイヤモンドには、その表面から内部に亘って、ホウ素、水素、および酸素が均一の濃度で含まれている。
(TOF−SIMS測定)
図2は、本実施形態の多結晶ダイヤモンドの表面のTOF−SIMSの結果の一例を示すグラフである。図2に示す多結晶ダイヤモンドは、図1に示すSIMSに用いた多結晶ダイヤモンドである。また、TOF−SIMSの測定条件は以下のとおりである。
測定装置: TOF−SIMS質量分析計(飛行時間二次イオン質量分析計)
一次イオン源: ビスマス(Bi)
一次加速電圧: 25kV。
図2を参照して、多結晶ダイヤモンドの表面を被覆している保護膜としての酸化膜に含まれる含有酸素種として、BO2、O、O2の3種類の化学種が検出されている。ここで、ホウ素が酸化膜中でBO2として検出されていることから、多結晶ダイヤモンドの内部の結晶中では、ホウ素は原子レベルで分散して大部分が孤立置換型で存在していると考えられる。
(ラマンスペクトル測定)
本実施形態の多結晶ダイヤモンドは、ラマンスペクトル測定において、1575cm-1±30cm-1を中心として半値幅が20cm-1以下となるピークの面積が、1300-1±30cm-1を中心として半値幅が60cm-1以下となるピークの面積の1%未満が好ましく、0.1%未満がより好ましい。かかる多結晶ダイヤモンドは、アモルファス炭素またはグラファイト炭素(SP2炭素)に由来する1575cm-1±30cm-1を中心として半値幅が20cm-1以下となるピークの面積が、ダイヤモンド炭素(SP3炭素)に由来する1300-1±30cm-1を中心として半値幅が60cm-1以下となるピークの面積の1%未満であることから、グラファイト炭素はほぼ完全に(具体的には99原子%以上が)ダイヤモンド炭素に変換されているため、高い硬度を有する。
(動摩擦係数)
本実施形態の多結晶ダイヤモンドは、その表面(保護膜で被覆されている表面)の動摩擦係数が、0.06以下が好ましく、0.05以下がより好ましく、0.04以下がさらに好ましく、0.03以下が特に好ましく、0.02以下が最も好ましい。かかる多結晶ダイヤモンドは、動摩擦係数が0.06以下と低いことから、摺動特性が高く、耐摩耗性が高い。
(保護膜)
本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおいて、その表面を被覆する保護膜として形成される酸化膜は、BOxクラスターと、炭素の酸素終端となるOおよびOHの少なくともいずれかと、を含むことが好ましい。BOxクラスターは表面に露出したB(ホウ素)が大気中の酸素および結晶中の酸素(真空中または不活性ガス中では結晶中の酸素)と反応することにより得られるものと考えられ、炭素の酸素終端となるOおよびOHは表面に露出した炭素が大気中の酸素および結晶粒中の酸素(真空中または不活性ガス中では結晶粒中の酸素)と反応することにより得られたものと考えられ、いずれも摺動性が高く摩擦係数が小さいため、耐摩耗性が高くなる。
図2を参照して、本実施形態の多結晶ダイヤモンドの表面のTOF−SIMSの結果の一例から、保護膜である酸化膜に含まれる酸素種として、BO2、O、O2の3種類の化学種が存在していることが分かる。BO2は、BOxクラスターに由来するものであり、BOxクラスターはBO2、B24、B36などの形態で存在しているものと考えられる。OおよびO2は、炭素の酸素終端となるOおよびOHの少なくともいずれかに由来するものと考えられる。
本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおいて、保護膜は、結晶粒中から析出した析出物をさらに含むことが好ましい。かかる多結晶ダイヤモンドは、保護膜が、BOxクラスターと、炭素の酸素終端となるOおよびOHの少なくともいずれかとに加えて、さらに摺動性が高く摩擦係数が小さい結晶粒中からの析出物を含むことにより、耐摩耗性が高くなる。析出物は、特に限定されないが、B23などのホウ素酸化物が主成分である。B23は、多結晶ダイヤモンドの表面から外れたB(ホウ素)およびBO2が大気中の酸素および結晶中の酸素(真空中または不活性ガス中では結晶中の酸素)と反応することにより形成されるものと考えられる。かかる析出物も、デブリ(具体的には、研磨くずからなる堆積物)として残留および蓄積し、潤滑作用を有するため、摩擦係数の低減に寄与する。
本実施形態の多結晶ダイヤモンドにおいて、多結晶ダイヤモンドの機械的損傷によりその表面が欠損しても、保護膜のその欠損以外の部分によりその欠損の部分を充填することにより滑らかな表面を維持する観点から、保護膜の平均膜厚は、1nm以上1000nm以下が好ましく、10nm以上500nm以下がより好ましい。ここで、保護膜の平均膜厚は、触針式表面形状測定装置(たとえば、ブルカー社のDektak(登録商標)触針式プロファイリングシステム)により測定する。保護膜の平均膜厚が1nm以上であることにより、微小な表面粗さを平坦化し、かつ個体潤滑剤効果が発現するため、摺動特性が向上する。保護膜の平均膜厚が1000nm以下であることにより、下地のダイヤモンドによる切削対象物の機械的切削が有利に働く効果が得られる。
すなわち、本実施形態の多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド単相を基本組成とする多結晶ダイヤモンドであって、上記多結晶ダイヤモンドは、複数の結晶粒により構成され、上記多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、水素と、酸素とを含み、残部が炭素および微量不純物であり、ホウ素は結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその99原子%以上が孤立置換型として存在し、水素および酸素は結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在し、微量不純物はBC5とB4Cとを含み、BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満であり、B4Cは、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満であり、結晶粒はその粒径が500nm以下であり、多結晶ダイヤモンドは、その表面が保護膜で被覆され、保護膜は、BOxクラスターと、上記炭素の酸素終端となるOおよびOHの少なくともいずれかと、を含み、かつ結晶粒中から析出した析出物を含み、保護膜は、その平均膜厚が1nm以上1000nm以下であり、ホウ素はその原子濃度が1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下であり、水素はその原子濃度が1×1017cm-3以上1×1020cm-3以下であり、酸素はその原子濃度が1×1017cm-3以上1×1020cm-3以下であり、多結晶ダイヤモンドは、ラマンスペクトル測定において、1575cm-1±30cm-1を中心として半値幅が20cm-1以下となるピークの面積が、1300cm-1±30cm-1を中心として半値幅が60cm-1以下となるピークの面積の1%未満であり、多結晶ダイヤモンドは、その表面(保護膜で被覆されている表面)の動摩擦係数が0.05以下である。かかる多結晶ダイヤモンドは、その内部の高硬度のダイヤモンド構造が維持されるとともに、表面を保護するための保護膜を形成することにより、耐酸化性が高くなり、動摩擦係数が低減し、摺動特性が高くなり、耐摩耗性が高くなる。
本実施形態の多結晶ダイヤモンドの物性の確認および評価について、具体例を挙げて、以下に詳細に説明する。
(保護膜形成の確認)
本実施形態の多結晶ダイヤモンド(ホウ素原子濃度6.8×1020cm-3、水素濃度6.0×1018cm-3、酸素濃度3.0×1018cm-3の表面のAES(オージェ電子分光法)による化学分析により、表面から深さ0.5nm程度までの表層に酸素が検出されることから、室温(たとえば25℃)においても表面に保護膜としての酸化膜が形成されていることが分かる。
図3は、本実施形態の多結晶ダイヤモンドの大気中での加熱の際の質量変化の一例を示すグラフである。図3を参照して、ホウ素、水素および酸素を含む多結晶ダイヤモンドおよびホウ素のみを含む多結晶ダイヤモンドは、800℃程度まで質量が微増する。これは、高温下において表面における酸化膜である保護膜の形成が促進されることを示唆する。また、ホウ素を含まない多結晶ダイヤモンドは800℃程度から急激に質量が低減し、ホウ素のみを含む多結晶ダイヤモンドは800℃程度から徐々に質量が低減しているのに対し、ホウ素、水素および酸素を含む多結晶ダイヤモンドは、1000℃程度まで質量の減少が見られない。すなわち、ホウ素、水素および酸素を含む多結晶ダイヤモンドにおいては、安定な酸化膜が形成され、これが保護膜となって、多結晶ダイヤモンドの耐酸化性が向上したものと考えられる。
(動摩擦係数の評価)
図4は、本実施形態の多結晶ダイヤモンドのピン・オン・ディスク摺動試験による摩擦係数測定の結果の一例を示すグラフである。ピン・オン・ディスク摺動試験は、以下の条件により行なう。
ボール材質: SUS
荷重: 10N
回転数: 400rpm
摺動半径: 1.25mm
試験時間: 100分
温度: 室温
雰囲気: 大気、Arまたは鉱物油。
図4を参照して、乾燥雰囲気(たとえば25℃で相対湿度30%以下)下で、無添加の多結晶ダイヤモンドの動摩擦係数に対して、ホウ素を含む多結晶ダイヤモンドの動摩擦係数は0.25倍以下にまで低下し、ホウ素、水素および酸素を含む多結晶ダイヤモンドの動摩擦係数は0.20倍以下にまでに低下する。なお、本実施形態の多結晶ダイヤモンドの表面に形成される保護膜としての酸化膜は、水溶性であるため、使用環境は乾燥雰囲気中が好ましく、大気中であれば25℃における相対湿度が30%の水分量以下が好ましく、25℃における相対湿度が20%の水分量以下がより好ましく、大気中以外の雰囲気中であれば、水分含有量25%以下が好ましく、水分含有量20%以下がより好ましい。
(硬度の評価)
図5は、本実施形態の多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度測定の結果の一例を示すグラフである。ヌープ硬度測定は、JIS Z2251:2009に準拠して、測定における荷重を4.9Nとする。図5を参照して、無添加の多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度に対して、ホウ素を含む多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は、ホウ素濃度の増大とともに幾分か低下し、ホウ素、水素および酸素を含む多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は、ホウ素濃度、水素濃度および酸素濃度の増大とともにさらに幾分か低下する。多結晶ダイヤモンドに含まれるホウ素、水素および酸素が塑性変形の起点となり、硬度を幾分か低下させているものと考えられる。しかしながら、ホウ素原子濃度4.0×1020cm-3、水素原子濃度1.0×1019cm-3および酸素原子濃度1.0×1019cm-3の多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は、通常の合成単結晶ダイヤモンド(Ib型単結晶ダイヤモンド、孤立置換型の窒素濃度が1.7×1019cm-3のヌープ硬度と同等以上である。
(耐摩耗性の評価)
多結晶ダイヤモンドを、直径1mm×厚さ2mmの円板形状に加工して、番号#800のメタルボンドダイヤモンドホイール(アライドマテリアル社製)を用いた、多結晶ダイヤモンドの摩耗試験(荷重が2.5kgf/mm2、摺動速度が200mm/min)によると、ホウ素(原子濃度が2.5×1019cm-3〜4.0×1020cm-3)、水素(原子濃度が2.2×1018cm-3〜3.5×1019cm-3および酸素(原子濃度が2.2×1018cm-3〜2.2×1019cm-3)を含む多結晶ダイヤモンドは、その摩耗速度が2.5〜3mm3/hであることから、摩耗速度が10mm3/hである無添加の多結晶ダイヤモンドに比べて、耐摩耗性が3〜4倍に向上する。
上記のメタルボンドダイヤモンドホイールを用いた摩耗試験においては、機械的摩耗と熱化学的摩耗が相乗的に進行している。そこで、以下に示すように、機械摩耗特性および熱化学的摩耗特性について評価する。
多結晶ダイヤモンドの機械的摩耗特性を評価するために、主として機械的摩耗が進行する酸化アルミニウム(Al23)に対する低速度長時間摺動試験を行なう。ホウ素(原子濃度が0cm-3〜4.0×1020cm-3)、水素(原子濃度が0cm-3〜4.0×1019cm-3)および酸素(原子濃度が0cm-3〜4.0×1020cm-3)を含む多結晶ダイヤモンドを用いて作成した先端の試験面が直径0.3mmの円錐台形状の試験片をマシニングセンターに用いて、これに0.3MPaの一定荷重でAl23焼結体(純度が99.9質量%)に押し付けて、5m/minの低速度で、10kmの距離を摺動させて、先端径の広がりから摩耗量を算出する。ホウ素、水素、および酸素を含む多結晶ダイヤモンドの摩耗量は、無添加の多結晶体ダイヤモンドに比べて、0.05倍程度であり、耐摩耗性が大幅に向上する。ホウ素、水素、および酸素を含む多結晶ダイヤモンドの摩耗により更新される表面に形成される酸化膜である保護膜の潤滑効果により摺動特性が大きく向上し、機械的摩耗が著しく抑制されるものと考えられる。
多結晶ダイヤモンドの熱化学的摩耗特性を評価するために、主として熱化学的摩耗が進行する二酸化ケイ素(SiO2)に対する摺動試験を行なう。ホウ素(原子濃度が0cm-3〜4.0×1020cm-3)、水素(原子濃度が0cm-3〜4.0×1019cm-3)および酸素(原子濃度が0cm-3〜4.0×1020cm-3)を含む多結晶ダイヤモンドを用いて作成した先端の試験面が直径0.3mmの円錐台形状の試験片を固定して、直径20mmの合成石英(SiO2)を研磨盤として、6000rpm(摺動速度260〜340m/min)で回転させながら、固定した試験片の試験面に0.1MPaで押し付けて摺動させる。図6は、本多結晶体ダイヤモンドの二酸化ケイ素に対する摩耗速度測定の結果の一例を示すグラフである。図6に示すように、ホウ素、水素、および酸素を含む多結晶ダイヤモンドは、無添加の多結晶ダイヤモンドに比べて、摩耗速度が低くなり、耐摩耗性が向上する。特にホウ素の原子濃度が2.0×1019cm-3〜2.0×1020cm-3の多結晶ダイヤモンドにおいては、摩耗速度が著しく低くなり、耐摩耗性が大幅に向上する。多結晶ダイヤモンドの二酸化ケイ素に対する損傷は、化学反応による摩耗により発生するが、ホウ素、水素、および酸素を含む多結晶ダイヤモンドの摩耗により更新される表面に形成される酸化膜である保護膜の潤滑効果により摺動特性が大きく向上し、熱化学的摩耗が著しく抑制されるものと考えられる。
ホウ素、水素、および酸素を含む多結晶ダイヤモンドにおける機械的摩耗の抑制および摩擦による発熱抑制による熱化学的摩耗の抑制は,超硬合金やアルミニウム合金をはじめとする難削材の加工に好適であることを示している。
上記のように、本実施形態の多結晶ダイヤモンドは、結晶粒中に、原子レベルで分散しかつ全体の90原子%以上が孤立置換型で存在するホウ素と、孤立置換型または侵入型で存在する水素および酸素と、により表面に酸化物が形成され、かかる酸化膜である保護膜の耐酸化性および潤滑性により、耐酸化性、耐摩耗性および摺動特性が向上する。
また、本実施形態の多結晶ダイヤモンドは、含まれるホウ素により導電性を有するため、無添加の多結晶ダイヤモンド、通常の単結晶ダイヤモンドなどで見られるトライボプラズマによる異常な損耗も抑制される。したがって、本実施形態多結晶ダイヤモンドは,セラミックス、プラスチック、ガラス,石英などの絶縁性の対象物の加工に対して高い性能が期待できる。
≪実施形態2:多結晶ダイヤモンドの製造方法≫
図7を参照して、本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法は、炭素と、炭素の結晶粒中に原子レベルで分散しかつその90原子%以上が孤立置換型として存在するホウ素と、水素と、酸素と、微量不純物としてBC5およびB4Cと、を含む黒鉛を準備する第1工程S10と、上記黒鉛を不活性ガス雰囲気下で容器へ充填する第2工程S20と、上記容器内で上記黒鉛を加圧熱処理によりダイヤモンドに変換する第3工程S30と、を含む。本実施形態にかかる結晶ダイヤモンドの製造方法により、耐酸化性が高く、摩擦係数が低く、摺動特性および耐摩耗性が高い実施形態1の多結晶ダイヤモンドが得られる。
本実施形態の多結晶ダイヤモンドの製造方法において、「原子レベルで分散する」とは、上記黒鉛の結晶を形成する炭素中にホウ素などの異種元素がそれぞれ有限の活性化エネルギーを持って、上記黒鉛の結晶構造を変えずに、分散するレベルの分散状態をいう。すなわち、かかる分散状態は、孤立して析出する異種元素および上記黒鉛以外の異種化合物を形成していない状態をいう。また、「孤立置換型」とは、ホウ素、水素および酸素などの異種元素が、孤立して、黒鉛母材または黒鉛の結晶格子の格子点に位置する炭素に置き換わっている存在形態をいう。
黒鉛におけるホウ素、窒素およびケイ素の分散状態ならびに存在形態は、上記多結晶ダイヤモンドにおけるこれらの元素の分散状態および存在形態の確認方法と同じ方法によりそれぞれ確認することができる。「原子レベルで分散する」こと、「孤立置換型」または「侵入型」であること、ホウ素、窒素およびケイ素の濃度、ならびに微量不純物の濃度についても、上記多結晶ダイヤモンドにおける確認方法と同じ方法によりそれぞれ確認することができる。
<第1工程>
図7および図8を参照して、第1工程S10は、A工程SAと、B工程SBと、C工程SCとを含むことが好ましい。第1工程S10は、B工程SBの後であってC工程SCの前に行なうD工程SDをさらに含むことがより好ましい。
A工程SAは、最大粒径が1μm以下の炭素含有第1粒子と、最大粒径が100nm以下の炭化ホウ素粒子と、最大粒径が100nm以下のホウ酸粒子と、を混合し、あるいは、上記炭素含有第1粒子と、上記炭化ホウ素粒子と、不活性ガス雰囲気下で最大粒径が1μm以下の炭素含有第2粒子をホウ酸トリアルキル中で撹拌して水分を導入することにより上記ホウ酸トリアルキルをホウ酸化したものと、を混合し、第1成形体に成形する工程である。
すなわち、A工程SAにおいて原料の混合方法には、特に制限はないが、高品質の上記黒鉛を作成する観点から、以下の2通りの混合パターンが好ましい。第1の混合パターンは、最大粒径が1μm以下の炭素含有第1粒子と、最大粒径が100nm以下の炭化ホウ素粒子と、最大粒径が100nm以下のホウ酸粒子と、を混合する方法である。ここで、炭素含有第1粒子とは、炭化ホウ素粒子を除いた炭素含有粒子をいい、微量不純物の少ない多結晶ダイヤモンドを得る観点から、熱分解黒鉛、グラフェン、およびグラフェン酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、熱分解黒鉛およびグラフェン酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。炭化ホウ素粒子は、B4C粒子、BC5粒子などが該当し、少量で多量のホウ素を添加できる観点から、B4C粒子が好ましい。
第2の混合パターンは、最大粒径が1μm以下の炭素含有第1粒子と、最大粒径が100nm以下の炭化ホウ素粒子と、不活性ガス雰囲気下で最大粒径が1μm以下の炭素含有第2粒子をホウ酸トリアルキル中で撹拌して水分を導入することにより上記ホウ酸トリアルキルをホウ酸化したものと、を混合する方法である。第2の混合パターンは、第1の混合パターンに比べて、工程が増えるが、ホウ素、水素および酸素と、炭素とをより均一に混合することができる。ここで、炭素含有第1粒子および炭化ホウ素粒子については、上記のとおりである。不活性ガス雰囲気を形成する不活性ガスは、ホウ酸トリメチルに対して不活性なガスをいい、たとえば、Arガス、Krガス、Heガスなどが好適に挙げられる。炭素含有第2粒子とは、炭化ホウ素粒子を除いた炭素含有粒子をいい、炭素含有第2粒子の化学組成は炭素含有第1粒子の化学組成と同一であっても異なっていてもよく、微量不純物の少ない多結晶ダイヤモンドを得る観点から、熱分解黒鉛、グラフェン、およびグラフェン酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、グラフェンであることがより好ましい。ホウ酸アルキルは、扱いやすい観点から、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチルなどが好ましい。
B工程SBは、上記第1成形体を2000℃以上2500℃以下で焼結し、第1焼結体を得た後、上記第1焼結体を最大粒径が50μm以下の粉体に粉砕する工程である。C工程SCは、上記粉体を最大粒径が1μm未満になるまで粉砕し、成形し、2000℃以上2500℃以下で焼結することにより、上記前記黒鉛を準備する工程である。ここで、上記炭素含有第1粒子および上記炭素含有第2粒子は、上記炭化ホウ素粒子および上記炭化ケイ素粒子を除いた、化学組成が同じまたは異なる炭素含有粒子である。
さらにD工程は、D1工程とD2工程とD3工程とをこの順に複数回繰り返すことが好ましい。D工程は、D1工程とD2工程とD3工程とをこの順に5回以上繰り返すことがより好ましく、10回以上繰り返すことがさらに好ましい。
D1工程SD1は、上記粉体を第2成形体に成形する工程である。D2工程SD2は、上記第2成形体を2000℃以上2500℃以下で焼結し第2焼結体を得る工程である。D3工程SD3は、上記第2焼結体を最大粒径が50μm以下の上記粉体に再度粉砕する工程である。以下、図8を参照して、第1工程を詳細に説明する。なお、図4に示した第1工程は一例であるので、本実施形態にかかる多結晶ダイヤモンドの製造方法における第1工程がこれに限定されるべきではない。
(A工程)
第1工程は、A工程SAから始まる。まず、A工程のステップSA1として、上記黒鉛を作成するための原料粒子を準備する。次に、A工程のステップSA2として、ステップSA1において準備した原料粒子を混合する。上記第1の混合パターンの場合は、ステップSA1において、原料粒子として、最大粒径が1μm以下の炭素含有第1粒子と、最大粒径が100nm以下の炭化ホウ素粒子と、最大粒径が100nm以下のホウ酸粒子とを準備し、ステップSA2において、これら原料を混合する。上記第2の混合パターンの場合は、ステップSA1において、原料粒子として、最大粒径が1μm以下の炭素含有第1粒子と、最大粒径が100nm以下の炭化ホウ素粒子と、最大粒径が1μm以下の炭素含有第2粒子と、不活性ガス雰囲気下で最大粒径が1μm以下の炭素含有第2粒子をホウ酸トリメチル中で撹拌して水分を導入することにより上記ホウ酸トリメチルをホウ酸化したものとを準備し、ステップSA2において、これら原料を混合する。ステップSA2では、上記原料粒子を均一に混合することができる限り、従来公知の混合方法を用いることができる。
次に、A工程のステップSA3として、上記混合原料粒子を焼成装置に載置して2000〜2500℃かつ0.4〜1MPaの条件で焼成する。かかる条件で焼成する限り、従来公知の焼成方法を用いることができる。
次に、A工程のステップSA4として、焼成原料粒子をメッシュの大きさが0.5μmのふるいを用いて粒径を揃える。ステップSA5では、上記焼成原料粒子のうち粒径が0.5μm未満であったもののみを選別し、粒径が0.5μm以上であったものを廃棄する。
次に、A工程のステップSA6として、粒径が0.5μm未満で揃った上記焼成原料粒子を、ホットプレスを用いて、所望の形状(たとえば、円筒状、球状、立方体状、または直方体状)に成形し第1成形体を得る。
(B工程)
第1工程では、上述したA工程SAに続いてB工程SBを行なう。B工程のステップSB1として、A工程SAから得られた第1成形体を焼結装置に載置して2200〜2500℃かつ0.4〜1MPaの条件で焼結し第1焼結体を得る。B工程のステップSB1は、2000〜2500℃かつ0.4〜1MPaの条件で焼結する限り、従来公知の焼結方法を用いることができる。
次に、B工程のステップSB2として、X線回折装置(たとえば、商品名:「X’pert」、Panalytical社製を用い、特性X線:Cu−Kα、管電圧:30kV、管電流:20mA、フィルター:多層ミラー、光学系:集中法、X線回折法:θ−2θ法で測定)により、得られた第1焼結体にB4C由来の回折ピークが認められないことを確認する(検出限界は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、B4C由来のすべての回折ピークの総面積が、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対して0.1%未満である。)。B4C由来の回折ピークが認められた場合、上記第1焼結体を廃棄する。
次に、B工程のステップSB3として、B4C由来のピークが認められないことを確認した上記第1焼結体を、たとえばジェットミルまたは振動ミルを用いて最大粒径が50μm以下(たとえば、図4において1μm以下)の粉体に粉砕する。B工程のステップSB3についても、最大粒径が50μm以下の粉体に粉砕する限り、従来公知の粉砕方法を用いることができる。
次に、B工程のステップSB4として、得られた粉体の最大粒径が50μm以下であるかどうかを、XRD(X線回折)を用いて確認する。ステップSB4において粉体の最大粒径が50μmを超えた場合、当該粉体を廃棄する。
(D工程)
第1工程では、B工程SBの後にD工程SDを行なうことが好ましい。D工程のステップSD1として、最大粒径が50μm以下であることが確認された粉体を、油圧プレスを用いて、所望の形状(たとえば、円柱状、球状、立方体状、または直方体状)に成形し第2成形体を得る(D1工程)。
次に、D工程のステップSD2として、上記第2成形体に対して焼結装置に載置して2000〜2500℃かつ0.1〜1kPaの条件で焼結し第2焼結体を得る(D2工程)。ステップSD2は、2000〜2500℃かつ0.1〜1kPaの条件で焼結する限り、従来公知の焼結方法を用いることができる。
次に、D工程のステップSD3として、上記第2焼結体を、たとえばジェットミルまたは振動ミルを用いて最大粒径が50μm以下の粉体に再度粉砕する(D3工程)。次に、再度粉砕された粉体に対し、D工程のステップSD4としてX線回折装置(たとえば、商品名:「X’pert」、Panalytical社製を用い、特性X線:Cu−Kα、管電圧:30kV、管電流:20mA、フィルター:多層ミラー、光学系:集中法、X線回折法:θ−2θ法で測定)によりB4C由来のピークが認められないことを確認し、粉体にB4Cの析出がないことを確認する(検出限界は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、B4C由来のすべての回折ピークの総面積が、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対して0.1%未満である。)。B4C由来のピークが認められた場合、上記粉体をB工程のステップSB3の工程に戻す。
D工程SDでは、D工程のステップSD5として、上記一連のD工程のステップSD1〜SD4を複数回繰り返すことが好ましい。すなわち、D工程のステップSD1〜SD4を合計5回以上繰り返すことが好ましく、合計10回以上繰り返すことがより好ましい。D工程の繰り返しの回数を増やすことにより、多結晶ダイヤモンド中のBC5およびB4Cの濃度を有効に低減することができる。
(C工程)
第1工程では最後に、C工程SCを行なう。まず、C工程のステップSC1として、D工程のステップSD4においてB4Cの析出がないことが確認された粉体を、ジェットミルまたは振動ミルを用いて最大粒径が1μm未満となるまで粉砕する。次に、C工程のステップSC2として、最大粒径が1μm未満の粉体を、油圧プレスを用いて所望の形状(たとえば、円柱状、球状、立方体状、または直方体状)に成形し第3成形体を得る。次に、C工程のステップSC3として、上記第3成形体を焼結装置に載置して2000〜2500℃かつ0.1〜1MPaの条件で焼結することにより、上記の黒鉛を得る。このようにして得た黒鉛は、上記多結晶ダイヤモンドの効率的な形成の観点から、少なくとも一部に結晶化部分を含む多結晶であることが好ましい。
さらに上記黒鉛は、その微量不純物のうちBC5の濃度が、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、上記BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満となる。BC5の濃度は、上述の面積比率が0.1%未満であることが好ましく、より好ましくは0.05%未満である。また、B4Cの濃度は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、上記ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、上記B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満となる。B4Cの濃度は、上述の面積比率が0.1%未満であることが好ましく、より好ましくは0.05%未満である。BC5およびB4Cの濃度測定は、上述したX線回折装置を用いて上述した条件により測定することができる。
上記黒鉛は、特に制限はないが、上記多結晶ダイヤモンドの形成に好ましい観点から、少なくとも一部に結晶化部分を含む多結晶である。上記黒鉛の微量不純物のうち金属元素の濃度は、微量不純物の少ない高品質の多結晶ダイヤモンドを形成する観点から、SIMSおよび/またはICP−MSの検出限界以下(1×1015cm-3未満)であることが好ましい。かかる観点からも、気相法、特にCVD(化学気相成長法)による上記黒鉛の形成が有効である。上記黒鉛の粒径は、粒径が500nm以下と小さく、ホウ素、水素および酸素の分布が均一な多結晶ダイヤモンドを形成する観点から、10μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。かかる観点からも、気相法、特にCVDによる上記黒鉛の形成が有効である。
上記黒鉛の密度は、後述する第3工程において上記黒鉛から上記多結晶ダイヤモンドに変換する際の体積変化を小さくして歩留まりを高くする観点から、0.8g/cm3以上が好ましく、1.4g/cm3以上2.0g/cm3以下がより好ましい。
<第2工程>
本実施形態の多結晶ダイヤモンドの製造方法の第2工程S20は、上記黒鉛を不活性ガス雰囲気下で容器内に入れる工程である。上記黒鉛を不活性ガス雰囲気下で所定の容器に入れることにより、上記黒鉛および形成される多結晶ダイヤモンドに微量不純物が混入することを抑制することができる。ここで、不活性ガスは、上記黒鉛および形成される多結晶ダイヤモンドへの微量不純物の混入を抑制できるガスであれば特に制限はなく、Ar(アルゴン)ガス、He(ヘリウム)ガス、Ne(ネオン)ガス、Kr(クリプトン)ガスなどが挙げられる。
<第3工程>
本実施形態の多結晶ダイヤモンドの製造方法の第3工程S30は、容器内で上記黒鉛を加圧熱処理によりダイヤモンドに変換する工程である。第3工程S30において、上記黒鉛を上記多結晶ダイヤモンドに変換する際は、形成される多結晶ダイヤモンドへの微量不純物の混入を抑制する観点から、上記黒鉛に直接熱処理を行なうことにより、直接変換(すなわち、焼結助剤および/または触媒などを添加することなく変換)することが好ましい。
第3工程S30における加圧熱処理は、多結晶ダイヤモンドの結晶粒中に、ホウ素が原子レベルで分散しかつその90原子%以上が孤立置換型で存在し、水素および酸素が孤立置換型または侵入型で存在する多結晶ダイヤモンドを好適に製造する観点から、6GPa以上かつ1200℃以上の条件が好ましく、8GPa以上30GPa以下かつ1200℃以上2300℃以下の条件がより好ましい。加圧熱処理は、好ましくは6GPa以上、より好ましくは8GPaであることにより、上記黒鉛を多結晶ダイヤモンドに直接変換することができる。加圧熱処理は、好ましくは30GPa以下であることにより、各元素を揮発させないで、上記黒鉛を多結晶ダイヤモンドに直接変換することができる。また、好ましくは1200℃以上であることにより、上記黒鉛を多結晶ダイヤモンドに直接変換することができる。好ましくは2500℃以下であることにより、各元素を揮発させないで、上記黒鉛を多結晶ダイヤモンドに直接変換することができる。
≪実施形態3:スクライブツール≫
本実施形態にかかるスクライブツールは、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態のスクライブツールは、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
≪実施形態4:スクライブホイール≫
本実施形態にかかるスクライブホイールは、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態のスクライブホイールは、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
≪実施形態5:ドレッサー≫
本実施形態にかかるドレッサーは、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態のドレッサーは、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
≪実施形態6:回転工具≫
本実施形態にかかる回転工具は、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態の回転工具は、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
≪実施形態7:伸線ダイス≫
本実施形態にかかる伸線ダイスは、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態の伸線ダイスは、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
≪実施形態8:切削工具≫
本実施形態にかかる切削工具は、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態の切削工具は、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
≪実施形態9:電極≫
本実施形態にかかる電極は、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成することができる。本実施形態にかかる電極は、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたものであるため、耐摩耗性が高い。
≪実施形態10:加工方法≫
本実施形態にかかる加工方法は、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて対象物を加工することができる。本実施形態にかかる加工方法は、実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて対象物を加工するため、効率よく低コストで対象物を加工できる。
本実施形態にかかる加工方法において、対象物は絶縁体が好ましい。本実施形態にかかる加工方法は、導電性を有する実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて対象物を加工するため、対象物が絶縁体であっても、トライボプラズマなどによる異常な損耗を発生させることなく、効率よく低コストで対象物を加工できる。
本実施形態にかかる加工方法において、対象物たる絶縁体は100kΩ・cm以上の抵抗率を有することが好ましい。本実施形態にかかる加工方法は、導電性を有する実施形態1の多結晶ダイヤモンドを用いて対象物を加工するため、対象物が100kΩ・cm以上の抵抗率を有する絶縁体であっても、トライボプラズマによるエッチングを発生させることなく、効率よく低コストで対象物を加工できる。
(実施例I:多結晶ダイヤモンドの製造)
1.ホウ素、水素、および酸素を含む黒鉛の準備
まず、実施例1〜3では、炭素含有第1粒子として最大粒径が500nm以下の熱分解黒鉛、高純度グラフェン(純度:99.999%以上)および酸化グラフェンと、炭化ホウ素粒子として最大粒径が100nm以下のB4C粒子と、最大粒子が100nm以下のホウ酸粒子と、を所定の割合で混合した。実施例4および5では、炭素含有第1粒子として最大粒径が500μmの熱分解黒鉛、高純度グラフェン(純度:99.999%以上)および酸化グラフェンと、炭化ホウ素粒子として最大粒径が100nm以下のB4C粒子と、炭素含有第2粒子としての最大粒径が500nm以下のグラフェンをホウ酸トリメチル中で撹拌し、次に水分を導入してホウ酸トリメチルをホウ酸化したものと、を所定の割合で混合した。比較例1〜3では、ハロゲン処理した最大粒径が500nm以下の黒鉛と最大粒径が100nm以下のB4C粒子と、を所定の割合で混合した。これらの混合原料粒子を、2200℃かつ0.4MPaの条件で焼成し、メッシュが0.5μmのふるいを通過した粒径が0.5μm未満の焼成粒子を、第1成形体としてのペレット(直径10mm×高さ10mmの円筒形状)に成形した(A工程)。さらに、ペレットを2200℃かつ0.4MPaの条件で焼結し、第1焼結体を得た後、第1焼結体を最大粒径が1μm以下の粉体に粉砕した(B工程)。続いて、この粉体を成形し、2200℃かつ0.4MPaの条件で焼結し、第2焼結体を得た後、該第2焼結体を最大粒径が1μm以下の粉体に粉砕することを10回繰り返した(D工程)。その後、D工程の最後に粉砕された粉体を最大粒径が1μm未満となるまでさらに粉砕し、これを成形し、2200℃かつ0.4MPaの条件で焼結し、直径10mm×高さ10mmの円柱状の上記黒鉛を得た(C工程)。
2.黒鉛の容器内への収納
上記黒鉛を、タブレット形状に加工した後、容器(高圧プレス用セル:容量が直径10.2mm×高さ10.2mmの円柱形状)内に封入した。
3.黒鉛から多結晶ダイヤモンドへの変換
上記黒鉛を封入した容器を加圧熱装置内に入れて、16GPaおよび2100℃の条件で加圧熱処理することにより、上記黒鉛を多結晶ダイヤモンドに直接変換した。得られた比較例1〜3および実施例1〜5の多結晶ダイヤモンドについて、ホウ素が原子レベルで分散しかつ全体の90%以上が孤立置換型で存在することをTEM、電気抵抗の温度依存性およびTOF−SIMSで確認した。また、得られた実施例1〜5の多結晶ダイヤモンドについて、水素および酸素が孤立置換型または侵入型で含まれていることをTEM、SIMS、電気抵抗の温度依存性およびXAFS(X線吸収微細構造解析)で確認した。また、比較例1〜3および実施例1〜5の多結晶ダイヤモンドついて、それらのホウ素濃度、水素濃度および酸素濃度をSIMSにより測定し、それらのBC5およびB4Cの濃度をX線回折測定により測定し、それらの結果を表1にまとめた。表1において、酸素の検出限界以下は酸素の原子濃度が1×1016cm-3未満であった。また、水素の検出限界以下は水素の原子濃度が0.5×1016cm-3未満であった。
TEMによるホウ素の原子レベルでの分散状態の確認は公知の条件で実施した。
SIMSによる添加元素の孤立置換型または侵入型の確認条件、ならびに濃度の測定条件は以下のとおりであった。
測定装置: CAMECA IMS−7f
一次イオン種: Cs
一次加速電圧: 15.0kV
検出領域: 30(μmφ)
測定精度: ±40%(2σ)。
TOF−SIMSによる添加元素の孤立置換型または侵入型の確認条件、ならびに濃度の測定条件は以下のとおりであった。
測定装置: TOF−SIMS質量分析計(飛行時間二次イオン質量分析計)
一次イオン源: ビスマス(Bi)
一次加速電圧: 25kV。
BC5およびB4Cの濃度の測定のためのX線回折測定条件は以下のとおりであった。
特性X線: Cu−Kα線
管電圧: 30kV
管電流: 20mA
X線回折法: θ−2θ法
X線照射方法: ピンホールコリメーターを使用してX線を照射。
(実施例II:スクライブツールの作成と評価)
実施例Iの比較例2の多結晶ダイヤモンドを用いて、先端が4ポイント(四角形平面状)のスクライブツールを作成した。作成されたスクライブツールを用いて、サファイア基板に負荷20gfで長さ50mmのスクライブ溝を200本形成した。その後、そのスクライブツールの先端部分の多結晶ダイヤモンの摩耗量は、電子顕微鏡により観察したところ、Ib型単結晶ダイヤモンド製スクライブツールに比べて0.2倍と少なかった。さらに、実施例Iの実施例2の多結晶ダイヤモンドを用いて上記と同様にしてスクライブツールを作成し、同様の実験を行ったところ、その摩耗量は、Ib型単結晶ダイヤモンド製スクライブツールに比べて0.02倍、比較例2の多結晶ダイヤモンド製スクライブツールに比べて0.1倍と極めて少なかった。なお、実施例Iの比較例2および実施例2の多結晶ダイヤモンドをそれぞれ用いて作成したスクライブホイールについても同様の効果が確認された。
(実施例III:ドレッサーの作成と評価)
実施例Iの比較例2の多結晶ダイヤモンドを用いて、先端がシングルポイント(円錐状)のドレッサーを作成した。作成されたドレッサーを、WA(ホフイトアルミナ)砥石を用いて、湿式で、砥石の周速が30m/secの低速で、切り込み量が0.05mmの条件で、磨耗した。その後、そのドレッサーの磨耗量は、高さゲージ計により測定したところ、Ib型単結晶ダイヤモンド製ドレッサーに比べて、0.3倍と少なくなった。さらに、実施例Iの実施例2の多結晶ダイヤモンドを用いて上記と同様にしてドレッサーを作成し、同様の実験を行ったところ、その摩耗量は、Ib型単結晶ダイヤモンド製ドレッサーに比べて0.03倍、比較例2の多結晶ダイヤモンド製ドレッサーに比べて0.1倍と極めて少なかった。
(実施例IV:回転工具の作成と評価)
実施例Iの比較例2の多結晶ダイヤモンドを用いて、直径1mm、刃長3mmのドリルを作成した。作成されたドリルを用いて、回転数4000rpm、送り2μm/回転の条件で、厚さ1.0mmの超硬合金(WC−Co)(組成:12質量%のCo、残部のWC)製板に孔をあけた。そのドリルが磨耗または破損するまでにあけることができた孔の数は、Ib型単結晶ダイヤモンド製ドリルに比べて5倍と多かった。さらに、実施例Iの実施例2の多結晶ダイヤモンドを用いて上記と同様にしてドリルを作成し、同様の実験を行ったところ、そのドリルが磨耗または破損するまでにあけることができた孔の数は、Ib型単結晶ダイヤモンド製ドリルに比べて50倍、比較例2の多結晶ダイヤモンド製ドレッサーに比べて10倍と極めて多かった。
(実施例V:切削工具Iの作成と評価)
実施例Iの実施例1と同じ方法を用いることにより、かさ密度が2.0g/cm3、ICP−MSにより測定されたホウ酸の原子濃度が1×1021cm-3で、SIMSにより実施例Iと同じ条件で測定された酸素の原子濃度が1×1018cm-3で水素の原子濃度が2.5×1018cm-3の黒鉛を準備した。この黒鉛を、等方的高圧発生装置を用いて、15GPaおよび2200℃の条件で加圧熱処理することにより、多結晶ダイヤモンドに直接変換した。得られた多結晶ダイヤモンドの粒径は各々10nm〜100nmであった。
この多結晶ダイヤモンドを用いて従来公知の方法により切削工具本体を作製した。この切削工具本体に活性ロウ材を用いて、不活性雰囲気で接合し、多結晶ダイヤモンドの面を研磨した後、放電加工により逃げ面を切断加工して、コーナーR0.4mm、逃げ角11°、すくい角0°のRバイトを付与した切削工具(試験工具1)を作成した。比較のために、従来のコバルト(Co)バインダーを含む焼結ダイヤモンドを用いた工具(比較工具A)を同様に放電加工により作成した。放電加工による刃先の稜線精度は、焼結ダイヤモンドを用いた比較工具Aは、含まれるダイヤ砥粒の粒径に依存して、2μm〜5μm程度であったのに対して、本多結晶ダイヤモンドを用いた工具(試験工具1)では0.5μm以下と良好であった。また加工時間も比較工具Aと同等であった。
さらに、逃げ面を研磨により加工してコーナーR0.4mm、逃げ角11°、すくい角0°のRバイトを付与した切削工具(試験工具2)、無添加多結晶ダイヤモンドを用いた切削工具(比較工具B)およびIb型単結晶ダイヤモンドを用いた切削工具(比較工具C)を作成し、以下の段落に示す試験内容の切削評価を行った。試験工具2、比較工具Bともに刃先稜線精度は0.1μm以下と精緻な刃先精度が得られた。
次に、試験工具1〜2および比較工具A〜Cのそれぞれについて、以下の条件により旋削による断続的な切削評価試験を行なった。
・工具形状:コーナーR0.4mm、逃げ角11°、すくい角0°
・被削材:材質−アルミニウム合金 A390
・切削液:水溶性エマルジョン
・切削条件:切削速度Vc=800m/min、切込みap=0.2mm、送り速度f=0.1mm/回転
・切削距離:10km。
上記の切削評価試験を行った後に、工具刃先を観察し、損耗状態を確認したところ、比較工具Aは逃げ面摩耗量が45μmと大きく刃先形状が損なわれていたのに対し、試験工具1は逃げ面摩耗量が2μmと良好であった。一方、研磨仕上げの試験工具2は摩耗量が0.5μmであり、比較工具Bの摩耗量3.5μm、比較工具Cの摩耗量3.5μmと比較して非常に良好であり、従来の無添加多結晶ダイヤと同等以上の耐摩耗特性を示し、工具寿命に優れることが分かった。
(実施例VI:切削工具IIの作成と評価)
実施例Iの実施例1と同じ方法を用いることにより、かさ密度が2.0g/cm3、ICP−MSにより上述と同じ条件で測定されたホウ酸の原子濃度が1×1019cm-3で、SIMSにより実施例Iと同じ条件で測定された酸素の原子濃度が1×1018cm-3で水素の原子濃度が2.5×1018cm-3の黒鉛を準備した。この黒鉛を、等方的高圧発生装置を用いて、15GPaおよび2200℃の条件で加圧熱処理することにより、多結晶ダイヤモンドに直接変換した。多結晶ダイヤモンドの粒径は、各々10nm〜100nmであった。
この多結晶ダイヤモンドを、切削工具本体に活性ロウ材を用いて、不活性雰囲気で接合し、多結晶ダイヤモンドの面を研磨した。さらに逃げ面を研磨により加工した本多結晶ダイヤモンドを用いた工具(試験工具3)、無添加多結晶ダイヤモンドを用いた工具(比較工具B)およびIb型単結晶ダイヤモンドを用いた工具(比較工具C)を作成し、実施例Vと同じ内容の切削評価試験を行なった。
上記の切削評価試験を行なった後に、工具刃先を観察し、損耗状態を確認したところ、試験工具3の摩耗量0.1μmは、比較工具Bの摩耗量3.5μmおよび比較工具Cの摩耗量3.5μmと比較して非常に少なく良好であり、従来の無添加多結晶ダイヤと同等以上の耐摩耗特性を示し、工具寿命に優れることが分かった。
(実施例VII:切削工具IIIの作成と評価)
実施例Iの実施例1と同じ方法を用いることにより、かさ密度が2.0g/cm3、ICP−MSにより上述と同じ条件で測定されたホウ酸の原子濃度が1×1021cm-3で、SIMSにより実施例Iと同じ条件で測定された酸素の原子濃度が1×1018cm-3で水素の原子濃度が2.5×1018cm-3の黒鉛を準備した。この黒鉛を、等方的高圧発生装置を用い、15GPaおよび2200℃の条件で加圧熱処理することにより、多結晶ダイヤモンドに直接変換した。得られた多結晶ダイヤモンドの粒径は各々10nm〜100nmであった。この多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。本多結晶ダイヤモンドから3mm×1mm角の試験片を切り出し、電気抵抗を測定したところ、10Ωであった。
この導電性の多結晶ダイヤモンドを、切削工具本体に活性ロウ材を用いて、不活性雰囲気で接合し、多結晶ダイヤモンドの面を研磨した後、放電加工により逃げ面を切断加工して、ねじれ形状の切れ刃2枚をもつ直径0.5mmのボールエンドミル(試験工具4)を作成した。比較のために、従来のコバルト(Co)バインダーを含む焼結ダイヤモンドを用いた工具(比較工具A−2)を同様に放電加工により作成した。放電加工による刃先の稜線精度は、焼結ダイヤモンドを用いた比較工具A−2は、含まれるダイヤモンド砥粒の粒径に依存して、2μm〜5μm程度であったのに対して、本多結晶ダイヤモンドを用いた工具(試験工具4)では0.03μm以下と良好であった。さらに、無添加の多結晶ダイヤモンドを用いて、レーザ加工により同形状のエンドミル形状を作成し、逃げ面を局所的に研磨加工により刃先品位を仕上げた工具(比較工具B−2)を作成した。
次に、試験工具4、比較工具A−2、および比較工具B−2について、以下の条件により旋削による断続的な切削評価試験を行なった。
・工具形状:直径φ0.5mm、2枚刃、ボールエンドミル
・被削材:材質−STAVAX超硬合金(組成:12質量%のCo、残部のWC)
・切削液:白灯油
・切削条件:工具回転速度420000rpm、切込みap=0.003mm、送り速度f=120mm/min。
上記の内容の切削評価試験を行なったところ、試験工具4の工具寿命は、比較工具A−Sの工具寿命の5倍、比較工具B−2の工具寿命の1.5倍であり、非常に良好であった。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
S10 第1工程
S20 第2工程
S30 第3工程
SA A工程
SA1〜SA6 A工程のステップ
SB B工程
SB1〜SB4 B工程のステップ
SC C工程
SC1〜SC3 C工程のステップ
SD D工程
SD1〜SD4 D工程のステップ

Claims (29)

  1. ダイヤモンド単相を基本組成とする多結晶ダイヤモンドであって、
    前記多結晶ダイヤモンドは、複数の結晶粒により構成され、
    前記多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、水素と、酸素とを含み、残部が炭素および微量不純物であり、
    前記ホウ素は、前記結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在し、
    前記水素および前記酸素は、前記結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在し、
    前記微量不純物は、BC5と、B4Cとを含み、
    前記BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、前記BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満であり、
    前記B4Cは、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、前記ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、前記B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満であり、
    前記結晶粒は、その粒径が500nm以下であり、
    前記ホウ素は、その原子濃度が1×10 14 cm -3 以上1×10 22 cm -3 以下であり、
    前記水素は、その原子濃度が1×10 17 cm -3 以上1×10 20 cm -3 以下であり、
    前記酸素は、その原子濃度が1×10 17 cm -3 以上1×10 20 cm -3 以下である、多結晶ダイヤモンド。
  2. 前記多結晶ダイヤモンドは、その表面が保護膜で被覆されている、請求項1に記載の多結晶ダイヤモンド。
  3. 前記保護膜は、BOxクラスターと、前記炭素の酸素終端となるOおよびOHの少なくともいずれかと、を含む、請求項2に記載の多結晶ダイヤモンド。
  4. 前記保護膜は、前記結晶粒中から析出した析出物を含む、請求項2または請求項3に記載の多結晶ダイヤモンド。
  5. 前記保護膜は、その平均膜厚が1nm以上1000nm以下である、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  6. 前記ホウ素は、その99原子%以上が孤立置換型として前記結晶粒中に含まれる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  7. 前記多結晶ダイヤモンドは、ラマンスペクトル測定において、1575cm-1±30cm-1を中心として半値幅が20cm-1以下となるピークの面積が、1300cm -1±30cm-1を中心として半値幅が60cm-1以下となるピークの面積の1%未満である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  8. 前記多結晶ダイヤモンドは、その表面の動摩擦係数が0.06以下である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  9. 前記多結晶ダイヤモンドは、その表面の動摩擦係数が0.05以下である、請求項1から請求項いずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
  10. ダイヤモンド単相を基本組成とする多結晶ダイヤモンドであって、
    前記多結晶ダイヤモンドは、複数の結晶粒により構成され、
    前記多結晶ダイヤモンドは、ホウ素と、水素と、酸素とを含み、残部が炭素および微量不純物であり、
    前記ホウ素は、前記結晶粒中に、原子レベルで分散し、かつその99原子%以上が孤立置換型として存在し、
    前記水素および前記酸素は、前記結晶粒中に孤立置換型または侵入型として存在し、
    前記微量不純物は、BC5と、B4Cとを含み、
    前記BC5は、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、前記BC5由来のすべての回折ピークの総面積が1%未満であり、
    前記B4Cは、X線回折測定における回折角2θが0°から90°までの範囲において、ダイヤモンド由来のすべての回折ピークの総面積に対し、前記B4C由来のすべての回折ピークの総面積が0.5%未満であり、
    前記結晶粒は、その粒径が500nm以下であり、
    前記多結晶ダイヤモンドは、その表面が保護膜で被覆され、
    前記保護膜は、BOxクラスターと、前記炭素の酸素終端となるOおよびOHの少なく
    ともいずれかと、を含み、かつ前記結晶粒中から析出した析出物を含み、
    前記保護膜は、その平均膜厚が1nm以上1000nm以下であり、
    前記ホウ素は、その原子濃度が1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下であり、
    前記水素は、その原子濃度が1×1017cm-3以上1×1020cm-3以下であり、
    前記酸素は、その原子濃度が1×1017cm-3以上1×1020cm-3以下であり、
    前記多結晶ダイヤモンドは、ラマンスペクトル測定において、1575cm-1±30cm-1を中心として半値幅が20cm-1以下となるピークの面積が、1300cm-1±30cm-1を中心として半値幅が60cm-1以下となるピークの面積の1%未満であり、
    前記多結晶ダイヤモンドは、前記表面の動摩擦係数が0.05以下である、多結晶ダイヤモンド。
  11. 請求項1に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法であって、
    炭素と、前記炭素の結晶粒中に原子レベルで分散し、かつその90原子%以上が孤立置換型として存在するホウ素と、水素と、酸素と、微量不純物としてBC5およびB4Cと、を含む黒鉛を準備する第1工程と、
    前記黒鉛を不活性ガス雰囲気下で容器へ充填する第2工程と、
    前記容器内で、前記黒鉛を加圧熱処理によりダイヤモンドに変換する第3工程と、を含む多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  12. 前記第1工程は、A工程と、B工程と、C工程とを含み、
    前記A工程は、最大粒径が1μm以下の炭素含有第1粒子と、最大粒径が100nm以下の炭化ホウ素粒子と、最大粒径が100nm以下のホウ酸粒子と、を混合し、あるいは、
    前記炭素含有第1粒子と、前記炭化ホウ素粒子と、不活性ガス雰囲気下で最大粒径が1μm以下の炭素含有第2粒子をホウ酸トリアルキル中で撹拌して水分を導入することにより前記ホウ酸トリアルキルをホウ酸化したものと、を混合し、
    第1成形体に成形する工程であり、
    前記B工程は、前記第1成形体を2000℃以上2500℃以下で焼結し、第1焼結体を得た後、前記第1焼結体を最大粒径が50μm以下の粉体に粉砕する工程であり、
    前記C工程は、前記粉体を最大粒径が1μm未満になるまで粉砕し、成形し、2000℃以上2500℃以下で焼結することにより、前記黒鉛を準備する工程であり、
    前記炭素含有第1粒子および前記炭素含有第2粒子は、前記炭化ホウ素粒子を含まず、化学組成が同じまたは異なる炭素含有粒子である請求項11に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  13. 前記第1工程は、前記B工程の後であって、前記C工程の前に行なうD工程をさらに含み、
    前記D工程は、D1工程とD2工程とD3工程とをこの順に複数回繰り返す工程であり、
    前記D1工程は、前記粉体を第2成形体に成形する工程であり、
    前記D2工程は、前記第2成形体を2000℃以上2500℃以下で焼結し第2焼結体を得る工程であり、
    前記D3工程は、前記第2焼結体を最大粒径が50μm以下の前記粉体に再度粉砕する工程である、請求項12に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  14. 前記D工程は、前記D1工程と前記D2工程と前記D3工程とをこの順に5回以上繰り返す工程である、請求項13に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  15. 前記D工程は、前記D1工程と前記D2工程と前記D3工程とをこの順に10回以上繰り返す工程である、請求項13に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  16. 前記炭素含有第1粒子は、熱分解黒鉛、グラフェンおよびグラフェン酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
    前記炭素含有第2粒子は、熱分解黒鉛、グラフェンおよびグラフェン酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項12から請求項15のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  17. 前記第3工程は、加圧熱装置内で、前記黒鉛に直接加圧熱処理を行なう、請求項11から請求項16のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  18. 前記加圧熱処理は、6GPa以上かつ1200℃以上の条件で行なわれる、請求項11から請求項17のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  19. 前記加圧熱処理は、8GPa以上30GPa以下かつ1500℃以上2300℃以下の条件で行なわれる、請求項11から請求項18のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
  20. 請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたスクライブツール。
  21. 請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたスクライブホイール。
  22. 請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成されたドレッサー。
  23. 請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成された回転工具。
  24. 請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成された伸線ダイス。
  25. 請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成された切削工具。
  26. 請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて形成された電極。
  27. 請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドを用いて対象物を加工する、加工方法。
  28. 前記対象物は、絶縁体である、請求項27に記載の加工方法。
  29. 前記絶縁体は、100kΩ・cm以上の抵抗率を有する、請求項28に記載の加工方法。
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