JP2015028192A - 導電用Al合金板材 - Google Patents
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本発明に係る導電用Al合金板材は、必須元素としてFe:0.70〜2.00mass%(以下、単に「%」と記す)、Ni:0.05〜2.0%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。また、選択的添加元素として、Ti:0.005〜0.300%を単独で更に含有させ、或いは、これに、B:0.0001〜0.0500%及びC:0.0001〜0.0020%の少なくとも一方を更に含有させてもよい。
Feは材料中にはほとんど固溶しないため、固溶による導電率低下への影響が小さく、Al−Fe系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物として、分散により強化及び溶接性に寄与する必須元素である。Feの含有量が2.00%を超えると、粗大なAl−Fe系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物が形成されるため、加工性が低下すると共に溶接時の溶融挙動が不安定化する。Feの含有量が0.70%未満では、十分な母材強度を得られないと共に、1〜3μmの円相当直径を有するAl−Fe系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物の面密度が小さくなる。Fe含有量は、好ましくは1.20〜2.00%である。
Niは材料中において、主にAl−Ni系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物として、分散により強化及び溶接性に寄与する必須元素である。また、従来のAl−Fe系合金にNiを添加することで、形成されるAl−Fe系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物の微細化に寄与する。Niの含有量が0.05%未満では、十分な母材強度を得られないと共に1〜3μmの前記金属間化合物の面密度が小さくなる。更に、Niの含有量が0.05%未満では、Feの含有量が0.7%以上であってもAl−Fe系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物が粗大化し、1〜3μmの円相当直径を有するこれら金属間化合物の面密度が小さくなることや、20μm以上の円相当直径を有するこれら金属間化合物を形成する場合がある。Niの含有量が2.00%を超えると、粗大なAl−Ni系及びAl−Fe−Ni系金属間化合物が形成されるため、加工性が低下すると共に溶接時の溶融挙動が不安定化する。Ni含有量は、好ましくは1.00〜2.00%である。
Tiはマトリクス中に固溶して強度向上させる他に、層状に分布して板厚方向の腐食の進展を防止する効果を発揮する。また、TiとBから形成されるTiB2と、TiとCから形成されるTiCは、鋳塊組織の微細化材として作用する。更に、Tiは、溶接時には溶接部の結晶粒微細化に寄与し、溶接割れ抑制の効果を発揮する。本発明では、選択的添加元素として、Ti:0.005〜0.300%を単独で含有させ、或いは、これに、B:0.0001〜0.0500%及びC:0.0001〜0.0020%の少なくとも一方を含有させるのが好ましい。Tiが0.005%未満では、上記効果が十分に得られず、0.300%を超えると十分な導電率が得られない。Bが0.0001%未満では、微細化材の効果が十分に得られず、0.0500%を超えるとTi−B系化合物(例えば、TiB2)の粗大凝集物によって溶融挙動が不安定化し、溶接において溶け込み深さやビード幅が不均一となる。また、Cが0.0001%未満では、十分な微細化効果が得られず、0.0020%を超えるとTi−C系化合物(例えば、TiC)の粗大凝集物により、溶接時の安定性が悪化する。なお、Ti含有量は好ましくは0.010〜0.100%であり、B含有量は好ましくは0.0005〜0.0050%であり、C含有量は好ましくは0.0005〜0.0010%である。
本発明に係る導電用Al合金板材では、金属組織中に、1〜3μmの円相当直径を有するAl−Fe系、Al−Ni系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物が14000個/mm2以上存在し、かつ、20μm以上の円相当直径を有するAl−Fe系、Al−Ni系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物が存在しない。1〜3μmの円相当直径を有する前記金属間化合物は金属組織中に多数存在することでレーザ光の吸収や溶融挙動を安定化させるため、溶融溶接におけるAl合金の溶け込みを安定化させる。前記金属間化合物の面密度が14000個/mm2未満では、レーザ光の吸収や溶融挙動が不安定となるため導電体の接合が困難になるだけでなく、FeとNiの固溶量が多量となり、導電用材として必要な導電率が得られない。前記金属間化合物の好ましい面密度は、20000個/mm2以上である。また、前記金属間化合物の面密度の上限は特に規定するものではないが、組成と製造工程により自ずと上限は決まり、本発明では50000個/mm2である。
本発明に係る導電用Al合金板材は、O材に調質された際において90MPa以上の引張強度を有するのが好ましい。溶接部及びその近傍の熱影響部では、加工ひずみによる強化は消失又は低減する。従って、調質をO材とした際の引張強度を90MPa以上とすることにより、構造用材料として溶接部において最低限の強度を確保できる。O材としたときの引張強度の上限は特に規定するものではないが、組成と製造工程により自ずと上限は決まる。本発明では、上限を170MPaとする。また、このような強度を有することにより、ボルト締めする場合に締結部に生じる緩みによる接触抵抗の増加を抑制することができる。調質はO材に限定する必要はなく、加工硬化によりH材として強度を増した材料を用いてもよい。
導電体には、高い導電性が要求される。本発明では、導電用Al合金板材の導電率を55.0%IACS以上に規定する。IACSが55.0%未満では、導電体として必要な導電性が不十分となり、電力損失が増大するような障害が発生する。導電率の上限は特に規定するものではないが、材料により自ずと上限が決まる。本発明では、上限を61.0%IACSとする。
本発明に係る導電用Al合金板材は、鋳造工程、均質化工程、面削工程、熱間圧延の予備加熱工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、焼鈍工程を経て製造される。
所定の組成に調整したAl合金の溶湯を用いて、鋳造工程により鋳塊を作製する。導電率55.0%IACS以上を達成するために、鋳造方法は半連続鋳造法(DC法)を用いるのが好ましいが、連続鋳造法(CC法)によって鋳塊を製造しても良い。DC法を用いる際は、円相当直径が20μm以上のAl−Fe系、Al−Ni系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物が生成しないようにするため、鋳槐の中心部から表面のいずれの場所においても、冷却速度を0.1〜100℃/秒の範囲とするのが好ましい。より好ましくは、0.5〜25℃/秒である。
鋳造工程で作製された鋳塊は、均質化処理工程にかけられる。均質化処理条件は、520〜620℃の温度で4〜10時間加熱し、次いで、500℃から400℃への冷却速度を50℃/時間以下、好ましくは30℃/時間以下とする。これにより、円相当直径が1〜3μmのAl−Fe系、Al−Ni系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物の面密度を14000個/m2以上とすることができる。均質化処理温度を520℃未満とした場合や加熱時間を4時間未満とした場合には、Al−Fe系、Al−Ni系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物を十分析出させることができない。一方、均質化処理温度が620℃を超えると、鋳塊が溶融する恐れがあるため好ましくない。また、加熱時間が10時間を超える場合、材料特性は問題ないが生産性が損なわれる。また、上記冷却速度が50℃/時間を超える場合は、Al−Fe系、Al−Ni系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物の面密度が14000個/m2未満となる可能性がある。
均質化処理工程の前又は後に鋳塊を面削工程にかけて、表面部分を除去する面削を行う。均質化処理工程前に面削工程にかける場合は、均質化処理工程が熱間圧延のための予備加熱工程を兼ねることができる。この場合には、面削した鋳塊を均質化処理温度で所定時間保持後に所定温度まで冷却した後に、熱間圧延のための予備加熱工程を経ずに直ちに熱間圧延工程を開始してもよく、或いは、熱間圧延工程の開始温度とそれより40℃高い温度との範囲内で、0.5〜4時間の熱間圧延のための予備加熱工程にかけてから熱間圧延工程を開始してもよい。
熱間圧延工程の開始時における鋳塊温度は特に限定されるものではないが、効率的な熱間圧延を行うためには350〜520℃とするのが好ましい。この温度が350℃未満では安定した熱間圧延が困難となり、520℃を超えると熱間圧延における再結晶粒が粗大化し、外観不良の原因となる場合がある。また、板厚が2mm以上のAl合金板を導電体として用いる場合には、後述の冷間圧延工程を経ないで、熱間圧延工程後のAl合金板(調質H112材又はO材)を導電体として用いるのが好ましい。
熱間圧延工程後に圧延材を冷間圧延工程にかけることによって、所定の板厚まで圧延することができる。特に、製品板厚が2mmを下回る場合は冷間圧延工程にかけるのが好ましい。また、冷間圧延工程の途中又は冷間圧延工程後に焼鈍工程を設けてもよい。これに代わって、熱間圧延工程後に冷間圧延工程を設けずに焼鈍工程を設けてもよい。冷間圧延条件と焼鈍条件は特に限定されるものではなく、製品の要求強度と成形性に応じて、両者のバランスを考慮することによって適宜決定すればよい。中間焼鈍やO材とするための最終焼鈍では、均一な再結晶組織を得るために、バッチ焼鈍炉を用いて350〜500℃で0.5〜8時間保持する条件が好適である。この焼鈍は、場合により急速に加熱冷却する連続焼鈍ラインを用いて実施してもかまわないが、その場合、370〜520℃の好適範囲で設定された所定焼鈍温度に材料温度が到達した後の保持時間を0秒(保持無しで直ちに冷却)〜60秒とするのが好ましい。また、H2X材とするための最終焼鈍は、必要とする回復度を達成するために条件を適宜選択して実施すればよいが、バッチ焼鈍炉を用いて150〜280℃で0.5〜8時間保持する条件範囲が好適である。但し、中間焼鈍を行わない場合の冷間圧延のトータル圧下率、或いは、中間焼鈍を行う場合の中間焼鈍後の冷間圧延の圧下率が70%以上になると硬化し過ぎて曲げ性が悪化するため、70%未満とすることが好ましい。
本願発明に係る導電用Al合金板材と各種電気機器を溶接で接合する際は、連続波やパルス波によるレーザ溶接やTIG溶接、MIG溶接などが選択可能である。また、ボルト締めする際の締め付けトルクは直径により適宜調整が必要になる。さらに、導電体の一方の端を溶接で、他方の端をボルト締めで固定するように接続方法を2種類適用することも可能である。
シグマテスターを用いて、渦電流法により導電率(%IACS)を測定した。
引張強度はJIS Z 2201で規定されるJIS5号試験片を試料から切り出し、JIS Z 2241準拠による引張試験により測定した。
試料の金属組織中に存在する1〜3μmの円相当直径を有するAl−Fe系、Al―Ni系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物の分布状態(面密度)は、試料の板表面を研磨後ケラーエッチングし、任意断面5箇所において、それぞれ0.025mm2の視野を500倍で光学顕微鏡にて観察した。観察画像は画像解析ソフトによって解析した。すなわち、観察した金属間化合物の大きさを面積が同一の円としたときの円の直径に換算し、この円相当直径が1〜3μmを有する金属間化合物の個数を解析して平均値を求めた。更に、面密度測定と同じ各視野において、粗大金属間化合物の円相当直径も測定した。すなわち、観察された各金属間化合物のうち、最大円相当直径を有するものの当該円相当直径を同じ画像解析により求めた。最大円相当直径が15μm以下の場合を「◎」、15μmを超え20μm未満の場合を「○」、20μm以上の場合を「×」とした。
レーザ溶接性については、イレギュラービードと溶接割れ感受性で評価した。
板厚1.5mmのAl合金板試料に対し、レーザ出力を2000W、溶接速度を15m/分、集光径を0.3mmφ、連続波(CW:Continuous Wave)条件でビードオンプレート(BOP)溶接を長さ100mmにわたって実施した。そして、形成された溶接ビードの形状を測定し、イレギュラービードについて評価した。具体的には、ビード幅の最大値と最小値の差がビード平均幅に対して10%未満のものを「◎」、10〜15%のものを「○」、15%を超えるものを「×」として評価した。◎及び○を合格とし、×を不合格とした。
また、相手材となるアルミニウム合金を変えてレーザ溶接したときの溶接割れ感受性を評価した。評価サンプルとしては、試料及び相手材をそれぞれ幅60mm×長さ100mmの短冊形状に加工し、長辺同士を突合せてレーザ溶接を行った。相手材としては、一般的なアルミニウムのJIS合金である3003、5454、6101を用いた。溶接条件は、レーザ出力を1600W、溶接速度を1.2m/分、集光径を0.3mmφ、パルス波(PW:Pulse Wave)とした。評価は、溶接後断面を観察して、溶接部表面及び断面に溶接割れがないものを「◎」、断面のみに溶接割れが生じているものを「○」、表面及び断面に溶接割れが生じているものを「×」とした。◎及び○を合格とし、×を不合格とした。
ボルト締めした際のボルトの緩み性能の評価は、次の試験で行なった。即ち、5mm×20mm×20mmの板に直径8mmの貫通孔を開けて、M8のボルトを締め付けトルク12N・mで締め付け、この状態で加熱して120℃で3時間保持した。次に、これを室温まで冷却してボルトの解放トルクを測定して、締め付けトルクと解放トルクの変化率を求めた。評価は、変化率が10%以下を合格「○」、10%よりも大きいものを不合格「×」と判定した。
Claims (4)
- Fe:0.70〜2.00mass%、Ni:0.05〜2.00mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、当該アルミニウム合金の金属組織中に、1〜3μmの円相当直径を有するAl−Fe系、Al−Ni系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物が14000個/mm2以上存在し、かつ、20μm以上の円相当直径を有するAl−Fe系、Al−Ni系及びAl−Fe−Ni系の金属間化合物が存在しないことを特徴とする導電用Al合金板材。
- 前記アルミニウム合金が、Ti:0.005〜0.300mass%を単独で、或いは、これに、B:0.0001〜0.0500mass%及びC:0.0001〜0.0020mass%の少なくとも一方を更に含有する、請求項1に記載の導電用Al合金板材。
- O材に調質された際の引張強度が90MPa以上である、請求項1又は2に記載の導電用Al合金板材。
- 55.0%IACS以上の導電率を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電用Al合金板材。
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