以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
「実施形態1」
図1は、本発明の実施形態1に係るインバータ装置を備える電動機駆動システムの構成例を示す図である。本実施形態に係る電動機駆動システムは、例えば車両の駆動システムに用いることができ、二次電池12とコンデンサ14と三相インバータ回路16とモータジェネレータ(回転電機)18を含む高電圧系統10と、高電圧系統10と車体(アース)20間の絶縁抵抗Riの低下を検出する絶縁低下検出装置30と、三相インバータ回路16の駆動を制御するインバータ制御装置50と、を備える。
高電圧系統10において、二次電池12は、充放電可能な直流電源として設けられている。コンデンサ14は、三相インバータ回路16の正側ライン(電源ライン)PLと負側ライン(グランドライン)SL間に二次電池12と並列に設けられている。三相インバータ回路16は、正側ラインPLと負側ラインSL間で互いに並列接続された三相アーム31U,31V,31Wを備える。U相アーム31Uは、正側ラインPLと負側ラインSL間で互いに直列接続されたU相上側及びU相下側スイッチング素子32U,33Uと、スイッチング素子32U,33Uのそれぞれと逆並列接続されたダイオード34U,35Uとを含む。同様に、V相アーム31Vは、正側ラインPLと負側ラインSL間で互いに直列接続されたV相上側及びV相下側スイッチング素子32V,33Vと、スイッチング素子32V,33Vのそれぞれと逆並列接続されたダイオード34V,35Vとを含み、W相アーム31Wは、正側ラインPLと負側ラインSL間で互いに直列接続されたW相上側及びW相下側スイッチング素子32W,33Wと、スイッチング素子32W,33Wのそれぞれと逆並列接続されたダイオード34W,35Wとを含む。モータジェネレータ18の三相コイルは、各アーム31U,31V,31Wの中点36U,36V,36Wとそれぞれ接続されている。三相インバータ回路16は、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33Wのスイッチング動作により、二次電池12からの直流電圧を120°ずつ位相が異なる三相交流に変換してモータジェネレータ18の三相コイルへ供給する。モータジェネレータ18は、三相インバータ回路16からの交流電力を受けて回転駆動可能である。モータジェネレータ18が発生する動力は、車両の走行に用いられる。一方、三相インバータ回路16でモータジェネレータ18の三相コイルの交流電力を直流に変換して、二次電池12に回収して充電を行うことも可能である。
絶縁低下検出装置30において、パルス発生器41は、所定周波数のパルス信号(検出信号)を発生する。パルス発生器41は、検出抵抗42及びカップリングコンデンサ43を介して高電圧系統10(負側ラインSL)に接続されており、パルス発生器41が発生するパルス信号は、検出抵抗42及びカップリングコンデンサ43を介して高電圧系統10(負側ラインSL)に印加される。バンドパスフィルタ44は、検出抵抗42とカップリングコンデンサ43の接続点45に接続されている。パルス発生器41の発生する所定周波数のパルス信号がバンドパスフィルタ44を通過するように、バンドパスフィルタ44の通過帯域が設計されている。絶縁抵抗Riは、図1に例示するように、高電圧系統10(負側ラインSL)と車体20間の抵抗値で等価的に示される。
絶縁低下検出装置30により高電圧系統10と車体20間の絶縁抵抗Riの低下を検出する場合は、パルス発生器41からパルス信号を出力する。出力されたパルス信号は、検出抵抗42とカップリングコンデンサ43と絶縁抵抗Riを含んで構成される直列回路に印加される。その際に、検出抵抗42とカップリングコンデンサ43の接続点45には、絶縁抵抗Ri及び検出抵抗42(抵抗値Rd)の分圧比Ri/(Rd+Ri)とパルス信号の振幅との積を波高値とするパルス電圧が発生し、バンドパスフィルタ44を通過することでパルス電圧以外の周波数成分が除去される。絶縁抵抗Riが低下すると、検出抵抗42とカップリングコンデンサ43の接続点45におけるパルス電圧の波高値が低下するため、バンドパスフィルタ44を通過したパルス電圧Vdの波高値を検出することで、絶縁抵抗Riの低下を検出することが可能である。例えばバンドパスフィルタ44を通過したパルス電圧Vdの波高値が閾値より小さい場合は、絶縁抵抗Riが低下していると判定することが可能である。
インバータ制御装置50において、電圧指令信号生成部52は、モータジェネレータ18を所望のトルク及び回転数で駆動するための電流指令信号とインバータ電流の検出信号とモータジェネレータ18の回転位置情報とに基づいて、三相インバータ回路16の三相電圧指令信号U,V,Wを生成する。三相電圧指令信号U,V,Wの周波数fsは、モータジェネレータ18の回転速度に対応し、モータジェネレータ18の回転速度に応じて変化する。三相電圧指令信号U,V,Wの一例を図2に示す。
固定信号生成部53は、三相電圧指令信号U,V,Wを二相変調するための固定信号を生成する。二相変調信号生成部54は、三相電圧指令信号U,V,Wと固定信号とに基づいて、二相変調信号Us,Vs,Wsを生成する。二相変調の際には、三相電圧指令信号U,V,Wのうち、キャリア信号の最大値以上または最小値以下である固定期間を設定する一相を三相電圧指令信号U,V,Wの周期Ts内で順次変更しつつ、残りの二相を線間電圧の関係が維持されるようにオフセットを加えるための固定信号が生成され、三相電圧指令信号U,V,Wを固定信号によりオフセットさせることで二相変調信号Us,Vs,Wsが生成される。固定信号及び二相変調信号Us,Vs,Wsの一例を図2に示す。図2に示す例では、電圧指令信号(V相)Vが最小となる時刻t1〜t2の期間で、二相変調信号(V相)Vsがキャリア信号の最小値に固定される固定期間となり、電圧指令信号(U相)Uが最大となる時刻t2〜t3の期間で、二相変調信号(U相)Usがキャリア信号の最大値に固定される固定期間となり、電圧指令信号(W相)Wが最小となる時刻t3〜t4の期間で、二相変調信号(W相)Wsがキャリア信号の最小値に固定される固定期間となる。図2に示す例では、二相変調信号Us,Vs,Wsの固定期間が電気角60°(周期Tsの1/6)であるが、固定期間はこれに限定されない。
キャリア信号生成部55は、PWM制御を行うための三角波キャリア信号を生成する。三角波キャリア信号の周波数は、キャリア信号切替部57により切り替えられる。PWM信号生成部56は、二相変調信号Us,Vs,Wsと三角波キャリア信号との比較に基づいて、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WをPWM駆動するためのPWM信号UH,UL,VH,VL,WH,WLを生成する。PWM信号UH,UL,VH,VL,WH,WLは、固定期間にある一相のデューティ比が0または1に固定され、且つ固定期間にある(デューティ比が0または1に固定される)一相が周期Ts内で順次切り替わる。つまり、PWM信号UH,UL,VH,VL,WH,WLによりスイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動を制御する際には、固定期間にある相に対応するスイッチング素子のオン/オフ状態が固定されてPWM駆動が中断され、且つ固定期間にある(PWM駆動が中断される)相に対応するスイッチング素子が周期Ts内で順次切り替わる。キャリア信号及びPWM信号UH,VH,WHの一例を図2に示す。図2に示す例では、時刻t1〜t2の期間でPWM信号(V相)VHのデューティ比が0に固定され、時刻t2〜t3の期間でPWM信号(U相)UHのデューティ比が1に固定され、時刻t3〜t4の期間でPWM信号(W相)WHのデューティ比が0に固定される。つまり、時刻t1〜t2の期間でスイッチング素子(V相)32V,33VのPWM駆動が中断され、時刻t2〜t3の期間でスイッチング素子(U相)32U,33UのPWM駆動が中断され、時刻t3〜t4の期間でスイッチング素子(W相)32W,33WのPWM駆動が中断される。このように、二相変調制御によりスイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動を制御することで、スイッチング損失の低減を図ることが可能となる。
ただし、二相変調制御において、キャリア信号の周波数(キャリア周波数)fcと二相変調信号Us,Vs,Wsの周波数(変調周波数)fsに関して、fc=Ns×fsを満たす整数Nsが存在せず、周波数差Δf=fc−Ns×fsがある場合は、キャリア信号と二相変調信号Us,Vs,Wsとの位相差が周波数Δfで周期的に変化する。二相変調信号の周波数fs=125Hz、キャリア信号の周波数fc=20.0025kHzである図3の例では、キャリア信号が最大となるタイミングと二相変調信号の固定期間の解除タイミングとの時間差(位相差)が80msずつ変化し、400msで1サイクルとなる。その場合は、PWM信号UH,UL,VH,VL,WH,WLのデューティ比が0または1に固定される期間が、実際には周波数Δfで周期的に変動する。つまり、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動を中断する期間が、実際には周波数Δfで周期的に変動する。したがって、二相変調制御によりスイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動を制御する際には、この周期的な変動によって、高電圧系統10と車体20間のコモンモード電圧が周波数Δfで周期的に変動することによるコモンモードノイズが発生する。
高電圧系統10と車体20間の絶縁抵抗Riの低下を検出するために、絶縁低下検出装置30のパルス発生器41から出力されるパルス信号の周波数fdは、通常キャリア周波数fc及び変調周波数fsと比較して十分小さい値である。そのため、周波数fcや周波数fsのコモンモードノイズが高電圧系統10(負側ラインSL)に重畳したとしても、バンドパスフィルタ44で除去されることで、絶縁抵抗Riの低下の検出に影響を与えない。しかし、周波数差Δf(=fc−Ns×fs)がパルス信号の周波数fdに近いと、高電圧系統10(負側ラインSL)に重畳した周波数Δfのコモンモードノイズがバンドパスフィルタ44を通過することで、例えば図4に示すように、バンドパスフィルタ44を通過したパルス電圧Vdの波高値が変動する。その場合は、絶縁抵抗Riの低下を精度よく検出することが困難となる。
特許文献2では、キャリア周波数を変調波周波数の整数倍になるように制御することで、スイッチング休止期間のアンバランスの抑制を図り、負荷電流、トルク脈動の低減を図っている。ただし、キャリア周波数の目標値を変調波周波数の整数倍として制御する際に、これらの関係に僅かな偏差があると、周波数差Δfで周期的に変動することによるコモンモードノイズが発生する。特許文献2の制御を用いた場合において検出器への影響を回避するためには、理想的な整数倍の関係を常時保持して制御されなければならないが、制御分解能を考慮すると現実的には困難であり、低周波のコモンモードノイズが検出器に重畳する可能性がある。このノイズ周波数がパルス信号の周波数fdに近いと、図4に示すようにパルス電圧Vdの波高値が変動し、絶縁抵抗Riの低下を精度よく検出することが困難となる。
そこで、本実施形態では、キャリア信号切替部57は、二相変調信号Us,Vs,Wsの周期(変調周期)Tsに基づいて、キャリア信号の周波数fcを変化させる周期を決定する。図2に示す例では、変調周期Ts毎にキャリア信号の周波数fcを変化させているが、変調周期TsのNa(Naは2以上の整数)倍毎にキャリア信号の周波数fcを変化させることも可能である。二相変調信号Us,Vs,Wsの周期Tsに同期させてキャリア信号の周波数fcを変化させることで、周波数差Δf(=fc−Ns×fs)が周期Tsに同期して変化し、Δfに対応する周波数成分が広帯域に拡散する。したがって、例えば図5に示すように、キャリア信号と二相変調信号Us,Vs,Wsとの位相差の周期的な変化が抑制され、PWM信号UH,UL,VH,VL,WH,WLのデューティ比が0または1に固定される期間、つまりスイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動を中断する期間が非周期的に変動する。この非周期的な変動によって、高電圧系統10に重畳するコモンモードノイズの周波数成分が広帯域に拡散し、バンドパスフィルタ44を通過する周波数fd近傍のコモンモードノイズレベルが低減する。その結果、例えば図6に示すように、周波数差Δfのコモンモードノイズによるパルス電圧Vdの波高値の変動を抑制することができ、絶縁抵抗Riの低下を精度よく検出することができる。
図7は、キャリア周波数fcの切り替えの一例を説明する概念図である。図7に示す例では、Naをキャリア周波数fcの切り替え時間間隔を表す係数、Nbをキャリア周波数fcの水準数とし、キャリア周波数fcをNa×Tsの時間間隔でNb通りに切り替えている。Na=1の場合は、図2の例に示すように、二相変調信号Us,Vs,Wsの周期(変調周期)Ts毎にキャリア周波数fcが切り替えられ、Naが2以上の整数の場合は、変調周期TsのNa倍毎にキャリア周波数fcが切り替えられる。Nb通りのキャリア周波数fcの平均値はfc0であり、変更する各キャリア周波数の差Δfcは所定値fm以上(fm>>fd)とする。このように設定すれば、キャリア周波数fcの切り替えに伴い、キャリア周波数差Δfcに起因して発生するノイズ成分を高周波化してその影響を回避することができ、パルス電圧Vdの波高値の変動をより確実に抑制することができる。また、キャリア周波数fcをランダムに変更することも可能である。
図8は、キャリア周波数fcの切り替え時間間隔を表す係数Naと変調周波数fsとの関係の一例を示す概念図であり、図9は、キャリア周波数fcの水準数Nbと変調周波数fsとの関係の一例を示す概念図である。図7に示す例では、Na×Nb×Tsの時間間隔でキャリア周波数fcが同じ値となる。その際に、Na×Nb×Tsがパルス信号の周期Tdに近づくと、1/(Na×Nb×Ts)の周波数のノイズ成分がパルス電圧Vdの波高値に影響を与える可能性があり、変調周波数fsが低い動作条件ほどその影響が懸念される。これに対して図8,9に示す例では、Na×Nb×Ts<Tm(=1/fm)となるように、変調周波数fsの低下に対してNa及びNbの少なくとも一方を小さくすることで、周波数1/(Na×Nb×Ts)のノイズ成分を高周波化してその影響を回避することができ、パルス電圧Vdの波高値の変動をより確実に抑制することができる。
以上説明した本実施形態によれば、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33Wのオン/オフ状態を固定してPWM駆動を中断する期間を非周期的に変化させるようにキャリア信号の周波数fcを変化させることで、絶縁抵抗Riの低下の検出に影響を与えるコモンモードノイズの発生を抑制することができる。したがって、コモンモードノイズによるパルス電圧Vdの波高値の変動を抑制することができ、絶縁抵抗Riの低下の検出精度を向上させることができる。
本実施形態では、キャリア信号切替部57は、二相変調信号Us,Vs,Wsの周期Tsに基づいて、キャリア信号の位相を変化させる周期を決定することも可能である。図10に示す例では、変調周期Ts毎にキャリア信号の位相を変化させているが、変調周期TsのNa(Naは2以上の整数)倍毎にキャリア信号の位相を変化させることも可能である。二相変調信号Us,Vs,Wsの周期Tsに同期させてキャリア信号の位相を変化させることによっても、キャリア信号と二相変調信号Us,Vs,Wsとの位相差の周期的な変化が抑制され、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動を中断する期間が非周期的に変動する。したがって、絶縁抵抗Riの低下の検出に影響を与えるコモンモードノイズの発生を抑制することができる。また、図7〜9に示す例に従ってキャリア周波数fcを切り替えるのと同じ要領で、キャリア信号の位相を切り替えてもよい。さらに、キャリア信号切替部57は、二相変調信号Us,Vs,Wsの周期Tsに基づいて、キャリア信号の周波数fc及び位相の両方を変化させる周期を決定することも可能であり、二相変調信号Us,Vs,Wsの周期Tsに同期させてキャリア信号の周波数fc及び位相の両方を変化させることも可能である。
「実施形態2」
図11は、本発明の実施形態2に係るインバータ装置を備える電動機駆動システムの構成例を示す図である。以下の実施形態2の説明では、実施形態1と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施形態1と同様である。
本実施形態では、固定期間切替部58は、二相変調信号Us,Vs,Wsの周期(変調周期)Tsに基づいて、二相変調信号Us,Vs,Wsの固定期間を変化させる周期を決定する。図12に示す例では、変調周期Ts毎に固定期間を変化させているが、変調周期TsのNa(Naは2以上の整数)倍毎に固定期間を変化させることも可能である。二相変調信号Us,Vs,Wsの周期Tsに同期させて固定期間を変化させることによっても、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動を中断する期間が非周期的に変動する。この非周期的な変動によって、高電圧系統10に重畳するコモンモードノイズの周波数成分が広帯域に拡散し、バンドパスフィルタ44を通過する周波数fd近傍のコモンモードノイズレベルが低減する。その結果、例えば図6に示すように、コモンモードノイズによるパルス電圧Vdの波高値の変動を抑制することができる。
図13,14は、固定期間の設定の一例を説明する概念図である。図13,14に示す例では、二相変調信号Us,Vs,Wsの周期(変調周期)Ts毎に固定期間の開始タイミング及び解除タイミングを切り替えることで固定期間を切り替えている。固定期間の開始タイミング及び解除タイミングは、ランダムでも予め定めたものでもよい。開始タイミング及び解除タイミングを切り替える範囲は、キャリア信号の周期Tc以内の時間範囲で十分であり、切り替えによるモータ負荷への影響は軽微である。変調周期Tsに同期させて開始タイミング及び解除タイミングを切り替え、パルス信号の周波数fdより十分高い周波数で固定期間を僅かに変動させることで、固定期間の変動に起因して発生するノイズ成分を高周波化してその影響を回避することができ、パルス電圧Vdの波高値の変動をより確実に抑制することができる。また、変調周期TsのNa倍毎に固定期間の開始タイミング及び解除タイミングを切り替えることで固定期間を切り替えることも可能である。
また、例えば図15に示すように、変調周期Tsの時間単位でスイッチング固定パターンを切り替えることも可能である。図15に示す例では、時刻t11〜t12の期間で固定期間が電気角60°(変調周期Tsの1/6)であり、時刻t12〜t13の期間で固定期間が電気角120°(変調周期Tsの1/3)であり、時刻t13〜t14の期間で固定期間が電気角30°(変調周期Tsの1/12)であり、時刻t14〜t15の期間で固定期間が電気角120°(変調周期Tsの1/3)である。このようにしても、コモンモードノイズによるパルス電圧Vdの波高値の変動を抑制することができる。また、変調周期TsのNa倍毎にスイッチング固定パターンを切り替えることも可能である。
図16は、固定パターンの切り替えの一例を説明する概念図である。図16に示す例では、Naを固定パターンの切り替え時間間隔を表す係数、Nbを固定パターンの水準数とし、固定パターンをNa×Tsの時間間隔でNb通りに切り替えている。Na=1の場合は、二相変調信号Us,Vs,Wsの周期(変調周期)Ts毎に固定期間が切り替えられ、Naが2以上の整数の場合は、変調周期TsのNa倍毎に固定期間が切り替えられる。図16に示す例では、Na×Nb×Tsの時間間隔で固定パターン(固定期間)が同じとなる。その際に、Na×Nb×Tsがパルス信号の周期Tdに近づくと、1/(Na×Nb×Ts)の周波数のノイズ成分がパルス電圧Vdの波高値に影響を与える可能性がある。これに対して図16に示す例では、Na×Nb×Ts<Tm(Tm<<Td)となるように、Na,Nbを設定することで、周波数1/(Na×Nb×Ts)のノイズ成分を高周波化してその影響を回避することができ、パルス電圧Vdの波高値の変動をより確実に抑制することができる。
以上説明した本実施形態によれば、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33Wのオン/オフ状態を固定してPWM駆動を中断する期間を非周期的に変化させるように二相変調信号Us,Vs,Wsの固定期間を変化させることで、絶縁抵抗Riの低下の検出に影響を与えるコモンモードノイズの発生を抑制することができる。したがって、コモンモードノイズによるパルス電圧Vdの波高値の変動を抑制することができ、絶縁抵抗Riの低下の検出精度を向上させることができる。
「実施形態3」
図17は、本発明の実施形態3に係るインバータ装置を備える電動機駆動システムの構成例を示す図である。以下の実施形態3の説明では、実施形態1,2と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施形態1,2と同様である。
本実施形態では、変動抑制固定期間追加部59は、二相変調信号Us,Vs,Wsの固定期間を補正するための補正信号(補正パルス信号)Ua1,Ua2,Va1,Va2,Wa1,Wa2を生成する。N,nを整数、Ts/nを固定期間とすると、各補正パルス信号Ua1,Ua2,Va1,Va2,Wa1,Wa2のパルス長Ta/2は、キャリア信号の周期Tcと三相電圧指令信号U,V,Wの周期Tsに基づいて、Ta/2=(N×Tc−Ts/n)/2に設定される。図18に示すように、補正パルス信号Ua1のパルス出力タイミングは、二相変調信号Usがキャリア信号の最大値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定され、補正パルス信号Ua2のパルス出力タイミングは、二相変調信号Usがキャリア信号の最小値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定される。同様に、補正パルス信号Va1のパルス出力タイミングは、二相変調信号Vsがキャリア信号の最大値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定され、補正パルス信号Va2のパルス出力タイミングは、二相変調信号Vsがキャリア信号の最小値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定される。そして、補正パルス信号Wa1のパルス出力タイミングは、二相変調信号Wsがキャリア信号の最大値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定され、補正パルス信号Wa2のパルス出力タイミングは、二相変調信号Wsがキャリア信号の最小値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定される。
二相変調信号生成部54で二相変調信号Usを生成する際には、図18に示すように、補正パルス信号Ua1の出力期間(Highの期間)でUsをキャリア信号の最小値にラッチ(保持)し、補正パルス信号Ua2の出力期間(Highの期間)でUsをキャリア信号の最大値にラッチすることで、補正固定期間を設定する。同様に、二相変調信号Vsを生成する際には、補正パルス信号Va1の出力期間(Highの期間)でVsをキャリア信号の最小値にラッチし、補正パルス信号Va2の出力期間(Highの期間)でVsをキャリア信号の最大値にラッチすることで、補正固定期間を設定する。そして、二相変調信号Wsを生成する際には、補正パルス信号Wa1の出力期間(Highの期間)でWsをキャリア信号の最小値にラッチし、補正パルス信号Wa2の出力期間(Highの期間)でWsをキャリア信号の最大値にラッチすることで、補正固定期間を設定する。このように、二相変調信号Us,Vs,Wsは、固定期間以外に直前のTa/2の補正固定期間及び直後のTa/2の補正固定期間でキャリア信号の最大値または最小値に固定されるように補正される。二相変調信号Us,Vs,Wsの固定期間Ts/n(図18の例ではn=6)と直前及び直後の補正固定期間Taの合計は、N×Tcとなり、キャリア信号の周期Tcの整数倍となる。図18に示す例では、二相変調信号Us,Vs,Wsの固定期間Ts/nが電気角60°(周期Tsの1/6)であるが、固定期間Ts/nはこれに限定されない。
PWM信号生成部56で生成されるPWM信号UH,UL,VH,VL,WH,WLは、固定期間または補正固定期間にある相のデューティ比が0または1に固定され、且つ固定期間または補正固定期間にある(デューティ比が0または1に固定される)相が周期Ts内で順次切り替わる。つまり、PWM信号UH,UL,VH,VL,WH,WLによりスイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動を制御する際には、固定期間または補正固定期間にある相に対応するスイッチング素子のオン/オフ状態が固定されてPWM駆動が中断され、且つ固定期間または補正固定期間にある(PWM駆動が中断される)相に対応するスイッチング素子が周期Ts内で順次切り替わる。その際に、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動が中断される期間は、N×Tcに維持され、キャリア信号の周期Tcの整数倍に維持される。PWM信号UH,VH,WHの一例を図18に示す。
以上説明した本実施形態によれば、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動を中断する期間がキャリア信号の周期Tcの整数倍に維持されるように二相変調信号Us,Vs,Wsを補正することで、二相変調信号Us,Vs,Wsに対するキャリア信号の位相が変化しても、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動を中断する期間が変動するのを防ぐことができる。これによって、絶縁抵抗Riの低下の検出に影響を与えるコモンモードノイズの発生を抑制することができ、例えば図6に示すように、コモンモードノイズによるパルス電圧Vdの波高値の変動を抑制することができる。したがって、絶縁抵抗Riの低下の検出精度を向上させることができる。
本実施形態では、例えば図19に示すように、二相変調信号Usの固定期間においても補正パルス信号Ua1,Ua2が出力される(Highになる)よう補正パルス信号Ua1,Ua2のパルス長をTs/n+Ta=N×Tc(図19の例ではn=6)に設定することも可能である。その場合に、二相変調信号Usを生成する際には、補正パルス信号Ua1の出力期間(Highの期間)でUsをキャリア信号の最大値にラッチ(保持)し、補正パルス信号Ua2の出力期間(Highの期間)でUsをキャリア信号の最小値にラッチすることで、補正固定期間を設定する。同様に、二相変調信号Vsの固定期間においても補正パルス信号Va1,Va2が出力されるよう補正パルス信号Va1,Va2のパルス長をN×Tcに設定し、補正パルス信号Va1の出力期間でVsをキャリア信号の最大値にラッチし、補正パルス信号Va2の出力期間でVsをキャリア信号の最小値にラッチすることで、補正固定期間を設定することも可能である。そして、二相変調信号Wsの固定期間においても補正パルス信号Wa1,Wa2が出力されるよう補正パルス信号Wa1,Wa2のパルス長をN×Tcに設定し、補正パルス信号Wa1の出力期間でWsをキャリア信号の最大値にラッチし、補正パルス信号Wa2の出力期間でWsをキャリア信号の最小値にラッチすることで、補正固定期間を設定することも可能である。その場合でも、二相変調信号Us,Vs,Wsの固定期間Ts/nと補正固定期間Taの合計は、N×Tcとなり、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動が中断される期間は、N×Tcに維持される。したがって、二相変調信号Us,Vs,Wsに対するキャリア信号の位相が変化しても、絶縁抵抗Riの低下の検出に影響を与えるコモンモードノイズの発生を抑制することができる。
また、図20に示す構成例では、PWM信号生成部56は、二相変調信号Us,Vs,Wsと三角波キャリア信号との比較に基づいて、補正前PWM信号UPWM,VPWM,WPWMを生成する。そして、PWM信号補正部60は、補正信号Ua1,Ua2,Va1,Va2,Wa1,Wa2に基づいて、補正前PWM信号UPWM,VPWM,WPWMを補正することで、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WをPWM駆動するためのPWM信号UH,UL,VH,VL,WH,WLを生成する。図21に示すように、補正信号Ua1がLowとなるタイミングは、二相変調信号Usがキャリア信号の最大値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定され、補正信号Ua2がHighとなるタイミングは、二相変調信号Usがキャリア信号の最小値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定される。補正信号Ua1がLowとなる期間Ta/2、及び補正信号Ua2がHighとなる期間Ta/2は、Ta/2=(N×Tc−Ts/n)/2(図21の例ではn=6)に設定される。同様に、補正信号Va1がLowとなるタイミングは、二相変調信号Vsがキャリア信号の最大値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定され、補正信号Va2がHighとなるタイミングは、二相変調信号Vsがキャリア信号の最小値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定される。そして、補正信号Wa1がLowとなるタイミングは、二相変調信号Wsがキャリア信号の最大値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定され、補正信号Wa2がHighとなるタイミングは、二相変調信号Wsがキャリア信号の最小値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定される。補正信号Va1,Wa1がLowとなる期間Ta/2、及び補正信号Va2,Wa2がHighとなる期間Ta/2も、Ta/2=(N×Tc−Ts/n)/2に設定される。
PWM信号補正部60においては、補正前PWM信号UPWMと補正信号Ua1の論理積がAND回路61Uで演算される。AND回路61Uの出力は、補正前PWM信号UPWM及び補正信号Ua1の両方がHighのときはHighとなり、補正前PWM信号UPWM及び補正信号Ua1の少なくとも一方がLowのときはLowとなる。OR回路62Uでは、AND回路61Uの出力と補正信号Ua2の論理和が演算される。OR回路62Uの出力は、AND回路61Uの出力及び補正信号Ua2の両方がLowのときはLowとなり、AND回路61Uの出力及び補正信号Ua2の少なくとも一方がHighのときはHighとなる。そして、OR回路62Uの出力をPWM信号UHとしてスイッチング素子32UをPWM駆動し、OR回路62Uの出力を反転させたものをPWM信号ULとしてスイッチング素子33UをPWM駆動する。PWM信号UH,ULは、固定期間、補正信号Ua1がLowとなる期間、及び補正信号Ua2がHighとなる期間において、PWM駆動が中断される。これによって、スイッチング素子32U,33UのPWM駆動を中断する期間が、N×Tcに維持される。同様に、補正前PWM信号VPWMと補正信号Va1の論理積がAND回路61Vで演算され、AND回路61Vの出力と補正信号Va2の論理和がOR回路62Vで演算され、OR回路62Vの出力をPWM信号VHとし、OR回路62Vの出力を反転させたものをPWM信号VLとする。そして、補正前PWM信号WPWMと補正信号Wa1の論理積がAND回路61Wで演算され、AND回路61Wの出力と補正信号Wa2の論理和がOR回路62Wで演算され、OR回路62Wの出力をPWM信号WHとし、OR回路62Wの出力を反転させたものをPWM信号WLとする。これによって、スイッチング素子32V,33V,32W,33WのPWM駆動を中断する期間が、N×Tcに維持される。
図20に示す構成例によれば、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動を中断する期間がキャリア信号の周期Tcの整数倍に維持されるようにPWM信号UH,UL,VH,VL,WH,WLを補正する。これによって、二相変調信号Us,Vs,Wsに対するキャリア信号の位相が変化しても、スイッチング素子32U,33U,32V,33V,32W,33WのPWM駆動を中断する期間が変動するのを防ぐことができ、絶縁抵抗Riの低下の検出に影響を与えるコモンモードノイズの発生を抑制することができる。
また、図22に示す構成例の場合は、図23に示すように、補正信号Ua1がHighとなるタイミングは、二相変調信号Usがキャリア信号の最大値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定され、補正信号Ua2がLowとなるタイミングは、二相変調信号Usがキャリア信号の最小値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定される。補正信号Ua1がHighとなる期間Ta/2、及び補正信号Ua2がLowとなる期間Ta/2は、Ta/2=(N×Tc−Ts/n)/2(図23の例ではn=6)に設定される。同様に、補正信号Va1がHighとなるタイミングは、二相変調信号Vsがキャリア信号の最大値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定され、補正信号Va2がLowとなるタイミングは、二相変調信号Vsがキャリア信号の最小値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定される。そして、補正信号Wa1がHighとなるタイミングは、二相変調信号Wsがキャリア信号の最大値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定され、補正信号Wa2がLowとなるタイミングは、二相変調信号Wsがキャリア信号の最小値に固定される固定期間の直前及び直後になるよう固定信号に基づいて設定される。補正信号Va1,Wa1がHighとなる期間Ta/2、及び補正信号Va2,Wa2がLowとなる期間Ta/2も、Ta/2=(N×Tc−Ts/n)/2に設定される。
PWM信号補正部60においては、補正前PWM信号UPWMと補正信号Ua1の論理和がOR回路63Uで演算され、OR回路63Uの出力と補正信号Ua2の論理積がAND回路64Uで演算され、AND回路64Uの出力をPWM信号UHとし、AND回路64Uの出力を反転させたものをPWM信号ULとする。PWM信号UH,ULは、固定期間、補正信号Ua1がHighとなる期間、及び補正信号Ua2がLowとなる期間において、PWM駆動が中断される。これによって、スイッチング素子32U,33UのPWM駆動を中断する期間が、N×Tcに維持される。同様に、補正前PWM信号VPWMと補正信号Va1の論理和がOR回路63Vで演算され、OR回路63Vの出力と補正信号Va2の論理積がAND回路64Vで演算され、AND回路64Vの出力をPWM信号VHとし、AND回路64Vの出力を反転させたものをPWM信号VLとする。そして、補正前PWM信号WPWMと補正信号Wa1の論理和がOR回路63Wで演算され、OR回路63Wの出力と補正信号Wa2の論理積がAND回路64Wで演算され、AND回路64Wの出力をPWM信号WHとし、AND回路64Wの出力を反転させたものをPWM信号WLとする。これによって、スイッチング素子32V,33V,32W,33WのPWM駆動を中断する期間が、N×Tcに維持される。したがって、二相変調信号Us,Vs,Wsに対するキャリア信号の位相が変化しても、絶縁抵抗Riの低下の検出に影響を与えるコモンモードノイズの発生を抑制することができる。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。