JP2015010260A - 転がり軸受の高周波加熱方法および誘導加熱コイル - Google Patents
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Abstract
【課題】軌道面とつば部とを有する軌道輪を備える転がり軸受の軌道輪に対し、つば部等の軌道面以外の部分の残留オーステナイトを低く抑えつつ、軌道面の残留オーステナイトを所定に確保することができる転がり軸受用軌道輪の高周波加熱方法を提供する。【解決手段】ワーク(軌道輪)30の表面を均一に加熱するための表面均一加熱用コイル10と、ワーク30の軌道面31の品質を調整するための軌道面品質調整用コイル20とを用い、ワーク30を周方向に沿って回転させつつ高周波加熱を行う。ここで、表面均一加熱用コイル10は、ワーク30を径方向で挟むように対向配置された複数対の柱状部1A、1B〜4A、4Bを有し、各対の柱状部1A、1B〜4A、4Bに、ワーク30の内径側および外径側の柱状部相互に逆向きの電流を流すことでワーク縦断面35において擬似的な独立した閉回路を作るようになっている。【選択図】図2
Description
本発明は、転がり軸受用の軌道輪(以下、「ワーク」ともいう)に対する高周波加熱方法に係り、特には、外輪の外径がφ180mm以上の大形の産業用転がり軸受を製造する上で好適な転がり軸受の高周波熱処理方法および誘導加熱コイルに関する。
転がり軸受には寿命と靭性が要求される。特に高い荷重や衝撃的な荷重がかかることが多い産業用の転がり軸受に関しては、両者のバランスが重要視される。ここで、転がり軸受の転がり寿命は、内部起点型はく離と表面起点型はく離に大別される。
前者の内部起点型はく離は、鋼中に含まれる非金属介在物を起点とする。そのため、鋼材の酸素量を低減させる手法により長寿命化が行われてきた。これまで様々な製鋼プロセスの改善により酸素量の低減が図られているが、化学成分においては、炭素量が多いことが酸素量の低下に関して望ましい。実際に中炭素鋼であるS53Cに比べてSUJ2に代表される軸受鋼は高い清浄度を示すことが知られている。
前者の内部起点型はく離は、鋼中に含まれる非金属介在物を起点とする。そのため、鋼材の酸素量を低減させる手法により長寿命化が行われてきた。これまで様々な製鋼プロセスの改善により酸素量の低減が図られているが、化学成分においては、炭素量が多いことが酸素量の低下に関して望ましい。実際に中炭素鋼であるS53Cに比べてSUJ2に代表される軸受鋼は高い清浄度を示すことが知られている。
後者の表面起点型はく離に関しては、油中に含まれる金属紛などの異物のかみ込みによって生じる圧痕の縁部の応力集中によりはく離が生じる。そのため、これを緩和する目的で残留オーステナイト量を制御して長寿命化が図られてきた。一般に、表面起点型はく離は、内部起点型はく離に比べて明らかに短寿命であることから、長寿命軸受の開発は表面起点型はく離に関するものが多い。
残留オーステナイトを多量に析出させるためには、ワーク表面に炭素や窒素の富化領域を形成させる必要が有る。そのためには浸炭や浸炭窒化などの特殊なガス雰囲気下での焼入れ処理が必要となる。しかし、多量の残留オーステナイトの析出は、転がり軸受にとって最も必要な表面硬度の低下をもたらす。そのため、必要な表面硬度を硬質の炭窒化物で補う必要が有り、そのために、Moなどの高価な合金元素が添加される場合もある。
一方、靭性に関しては材料の硬度とトレードオフの関係がある。したがって、靭性を向上させるためには硬度の低い領域をできるだけ多く確保することが基本的な方針になる。このような視点から、低・中炭素鋼に浸炭あるいは浸炭窒化処理を施して、表面のみ硬化させた浸炭軸受が開発されている。ただし、浸炭鋼は鉄鋼用の軸受など比較的大きな軸受に使用されることが多く、焼入れ性を確保するために、NiやMo、Crといった比較的高価な合金元素を添加することが主流であり、浸炭処理などの熱処理の煩雑さと併せて、生産コストの増大を招いているのが現状である。
以上のような諸問題を受けて、近年では、転がり軸受の機能上必要な部分に対してその表面だけ焼入れ硬化する高周波熱処理が着目されている。高周波熱処理であれば、1つの部品の中で高い面圧に耐える硬化層と、靭性に優れた非硬化層を作り出すことで寿命と靭性を両立させることができる。さらに、非硬化層を有することで、表面の硬化層には圧縮の残留応力を付与し、寿命およびクラックの発生抑制に効果があると考えられている。また、焼入れ処理の有無で硬度をコントロールできるので、高合金の低炭素鋼でなく、清浄度に優れた汎用の軸受鋼に代表される高炭素鋼を使用することができる。
ところで、転がり軸受の表面損傷に関して、残留オーステナイトが有効であることは上述したが、高周波焼入れの特性上、電流密度はワーク表面が高く、母材の炭素濃度が0.7%程度あれば、極表層のみに浸炭鋼並みの残留オーステナイトを確保することもできる。多量の残留オーステナイトは寸法変化という負の要因の一つになることも知られているが、深さ方向に見ると急激に残留オーステナイト量が低下するので、最大せん断応力深さ以下の極表面部には多量に残留オーステナイトを存在させつつも、全体の体積率は低く抑えられるという利点も存在する。すなわち、軸受鋼に代表される高炭素鋼を用いて、高周波焼入れを施すことによって、内部疲労、表面疲労のいずれの破損形態にも優れた寿命特性を有し、耐割れ強度に優れた軸受を製造できると考えられる。
ただし、転がり軸受の軌道輪に高周波焼入れを適用する場合に問題点も存在する。その多くは、高周波熱処理が非常に短時間の処理であること、および加熱される領域が誘導加熱コイルの形状に依存する点に起因している。したがって、高周波熱処理法に関する先行技術文献は、高周波に適した鋼材に関するもの、前熱処理に関するもの、装置に関するものなどが数多く報告されているところ、例えば、特許文献1においては、環状部材の高周波加熱において、円環状のワークの上端面にコイルが対向配置され、下端面にはコイルが配置されていない同一形状の誘導加熱コイルを円周方向に複数配置し、それら同一形状を有する複数の誘導加熱コイルとワークとの距離を調整することによって均一加熱を実現し得ると報告されている。
しかしながら、浸炭等で作製された軌道輪が表面疲労に対して長寿命な転がり軸受とする上では、軌道面の残留オーステナイトを15〜40体積%に確保する必要がある。その一方で、軌道輪中の残留オーステナイトの総量が多くなると長時間の使用による寸法安定性の劣化が避けられないため、軌道面以外のつば部等の他の部分の残留オーステナイトはできるだけ低く抑える必要がある。
これに対し、特許文献1で報告された複数の誘導加熱コイルを用いた高周波加熱の場合、同一構成を有する複数のコイルを円周方向に配置するものなので、軌道面以外の部分(例えばはめ合い面やコイルが対向配置されている軌道輪端面)まで均一に加熱される。そのため、長寿命の転がり軸受とする上で、軌道面の残留オーステナイト量を増加させることが難しい。さらに、各コイルにおいて、ワークである軌道輪の上下の端面に着目すると、上端面にはコイルが対向配置されているのに対し、下端面にはコイルが配置されていないため、上下端面で発熱にアンバランスが生じやすい。また、円周方向に同一形状のコイルを配置しているため、軌道面のみを温度上昇させるような調整が難しいという問題がある。このように、表面疲労による寿命延長が求められる転がり軸受において、その軌道輪に対して適切な加熱を行うことができる高周波熱処理法は未だ確立されていないのが現状である。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、転がり軸受の軌道輪に対し、例えばつば部等の軌道面以外の部分の残留オーステナイトは低く抑えつつ、軌道面の残留オーステナイトを所定に確保することができる転がり軸受の高周波加熱方法および誘導加熱コイルを提供することを目的としている。
上記課題を解決するために、本発明者らは以下のような検討を行った。
ここで、高周波熱処理では、ワークに対してコイルが正対した部分に渦電流が流れ、それがワークの発熱をもたらす。そのため、加熱部と非加熱部を区別して部分的に加熱できる反面、電流の流れ方の制御が適切になされないと特定部分に多く電流が流れてその部分だけが極端に温度上昇するオーバーヒートと呼ばれる現象が起こる。オーバーヒートが発生すると、その部分の結晶粒が著しく粗大化し、靭性を中心とした機械的特性が劣化する。一方、加熱温度が不足すると、炭素の基地への溶け込みが不十分となる。
ここで、高周波熱処理では、ワークに対してコイルが正対した部分に渦電流が流れ、それがワークの発熱をもたらす。そのため、加熱部と非加熱部を区別して部分的に加熱できる反面、電流の流れ方の制御が適切になされないと特定部分に多く電流が流れてその部分だけが極端に温度上昇するオーバーヒートと呼ばれる現象が起こる。オーバーヒートが発生すると、その部分の結晶粒が著しく粗大化し、靭性を中心とした機械的特性が劣化する。一方、加熱温度が不足すると、炭素の基地への溶け込みが不十分となる。
転がり軸受の転動疲労や摩耗に対して硬度は非常に重要な特性であり、硬度は軸受鋼を含む構造用鋼と呼ばれる成分範囲では基地の炭素量に依存する。そのため、必要な部位には炭素を十分に溶け込ませる必要がある。すなわち、高周波熱処理時に、ワークの温度が高い部分と低い部分の差が少ないコイルほど、出力条件によってワークの熱処理品質を調整しやすい良いコイルと言える。
一方、転がり軸受は特定のワークをのぞいて、つば部などの凹凸部が存在し、凸部には熱が集中しやすく、凹部には熱が入りにくいことが知られている。そこで、本発明者らは、種々のつば部を有する円錘型軌道面を有する内輪ワークに対して種々の形状の誘導加熱コイルを用いて軌道輪の試作を繰り返した。その結果、つば部のオーバーヒートは、円環状ワークの周方向に沿って流れる電流が多いほど起こりやすいことが分かった。例えば、ターンコイル(ワークと同心円状にコイルを配置する)とオーバーヒートが非常に極端に生じ、つば部のみに加熱が集中し、その近傍には電流が流れずに極端なオーバーヒートがつば部のみに発生する。
これを解決するためには、ワークの縦断面方向に均一に電流を流すことが必要である。具体的には、ワークを軸方向から見た場合に、径方向の一の角度について、中心線から直線状にコイル⇒ワーク⇒コイルの順に並んでおり、且つ、内径側のコイルと外径側のコイルの電流の向きが逆になっている必要がある。このように配置したコイル(以下、「表面均一加熱用コイル」ともいう)を制御することにより、電流はワークの縦断面において擬似的に閉回路として流れ、これにより、ワーク表面には、ワークの凹凸形状に拘らず均一な電流が流れやすくなる。
一方、上記表面均一加熱用コイルは、ワーク表面全体を均一加熱するために好適なコイルであるが、転がり軸受の場合、転動体が転がる軌道面にはさらに厳密な品質管理が求められる。具体的には、軌道面の残留オーステナイト量を15〜40体積%に制御しつつ、旧オーステナイト粒径を30μm以下に制御する必要がある。これを達成するためには、上記表面均一加熱用コイルに加えて、軌道輪(ワーク)の軌道面のみの温度を上げることができるコイル(以下、「軌道面品質調整用コイル」ともいう)が別途に必要である。この軌道面品質調整用コイルは、軌道面に正確に正対して配置し、隣り合うつば部などへの電流の流れを最小限にする必要がある。
本発明者らは、以上のような検討により上記課題を解決するに至った。
すなわち、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る転がり軸受の高周波加熱方法は、転がり軸受に用いられ軌道面を有する円環状のワークに対して該ワークの円周上に配置した複数の誘導加熱コイルを用いて該ワークに高周波加熱を行う方法であって、前記複数の誘導加熱コイルとして、前記ワーク表面を均一に加熱するための表面均一加熱用コイルと、前記ワークの軌道面の品質を調整するために軌道面に沿って配置される軌道面品質調整用コイルとを用い、前記表面均一加熱用コイルとして、前記ワークの内径側および外径側の面それぞれに対向して前記ワークを挟むように一対の柱状部を配置し、前記一対の柱状部を、前記ワークの中心から放射状に伸びる仮想直線上に且つ前記ワークの軸方向に沿って配置するとともに、該一対の柱状部を前記ワークの周方向に離隔して複数対配置し、各柱状部の端部を、前記ワークの周方向で隣り合う他の柱部の端部とは相互に前記ワーク端面の同じ側で周方向に沿った第一の連結部によって連結するとともに、周方向の端部に位置する一対の柱状部相互を前記ワーク端面の同じ側で径方向に沿った第二の連結部によって連結することで複数対の柱状部全体を直列に接続し、さらに、前記ワークの両端面のうち、両端面の幅が同じ場合にはいずれか一方の端面、若しくは両端面の幅が異なる場合には幅が狭い側の端面と前記第一の連結部の軸方向中央の位置とのワーク軸方向での距離を端面側隙間Gu、前記ワークの軌道面とは反対側の側面と前記柱状部との対向方向の隙間を反軌道面隙間Giとするとき、前記複数対の柱状部全体を、前記端面側隙間Guを前記反軌道面隙間Giで除した無次元数Gu/Giを1以上とし、前記ワークの内径側および外径側で対をなす柱状部相互に逆向きの電流を流して各対の柱状部毎に前記ワークの縦断面において擬似的な独立した閉回路を形成しつつ前記ワークを周方向に沿って回転させて高周波加熱を行うことを特徴とする。
すなわち、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る転がり軸受の高周波加熱方法は、転がり軸受に用いられ軌道面を有する円環状のワークに対して該ワークの円周上に配置した複数の誘導加熱コイルを用いて該ワークに高周波加熱を行う方法であって、前記複数の誘導加熱コイルとして、前記ワーク表面を均一に加熱するための表面均一加熱用コイルと、前記ワークの軌道面の品質を調整するために軌道面に沿って配置される軌道面品質調整用コイルとを用い、前記表面均一加熱用コイルとして、前記ワークの内径側および外径側の面それぞれに対向して前記ワークを挟むように一対の柱状部を配置し、前記一対の柱状部を、前記ワークの中心から放射状に伸びる仮想直線上に且つ前記ワークの軸方向に沿って配置するとともに、該一対の柱状部を前記ワークの周方向に離隔して複数対配置し、各柱状部の端部を、前記ワークの周方向で隣り合う他の柱部の端部とは相互に前記ワーク端面の同じ側で周方向に沿った第一の連結部によって連結するとともに、周方向の端部に位置する一対の柱状部相互を前記ワーク端面の同じ側で径方向に沿った第二の連結部によって連結することで複数対の柱状部全体を直列に接続し、さらに、前記ワークの両端面のうち、両端面の幅が同じ場合にはいずれか一方の端面、若しくは両端面の幅が異なる場合には幅が狭い側の端面と前記第一の連結部の軸方向中央の位置とのワーク軸方向での距離を端面側隙間Gu、前記ワークの軌道面とは反対側の側面と前記柱状部との対向方向の隙間を反軌道面隙間Giとするとき、前記複数対の柱状部全体を、前記端面側隙間Guを前記反軌道面隙間Giで除した無次元数Gu/Giを1以上とし、前記ワークの内径側および外径側で対をなす柱状部相互に逆向きの電流を流して各対の柱状部毎に前記ワークの縦断面において擬似的な独立した閉回路を形成しつつ前記ワークを周方向に沿って回転させて高周波加熱を行うことを特徴とする。
また、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る誘導加熱コイルは、転がり軸受に用いられて軌道面を有する円環状のワークに高周波加熱を行うための誘導加熱コイルであって、前記ワーク表面を均一に加熱するための表面均一加熱用コイルと、前記ワークの軌道面の品質を調整するために軌道面に沿って配置される軌道面品質調整用コイルとを備え、前記表面均一加熱用コイルは、前記ワークの内径側および外径側の面それぞれに対向して前記ワークを挟むように配置された一対の柱状部を有し、前記一対の柱状部は、前記ワークの中心から放射状に伸びる仮想直線上に且つ前記ワークの軸方向に沿って配置されるとともに、該一対の柱状部が前記ワークの周方向に離隔して複数対配置され、各柱状部の端部は、前記ワークの周方向で隣り合う他の柱部の端部とは相互に前記ワーク端面の同じ側で周方向に沿った第一の連結部によって連結されるとともに、周方向の端部に位置する一対の柱状部相互が前記ワーク端面の同じ側で径方向に沿った第二の連結部によって連結されることで複数対の柱状部全体が直列に接続されており、さらに、前記ワークの両端面のうち、両端面の幅が同じ場合にはいずれか一方の端面、若しくは両端面の幅が異なる場合には幅が狭い側の端面と前記第一の連結部の軸方向中央の位置とのワーク軸方向での距離を端面側隙間Gu、前記ワークの軌道面とは反対側の側面と前記柱状部との対向方向の隙間を反軌道面隙間Giとするとき、前記複数対の柱状部全体は、前記端面側隙間Guを前記反軌道面隙間Giで除した無次元数Gu/Giが1以上とされ、前記ワークの内径側および外径側で対をなす柱状部相互に逆向きの電流を流すことで各対の柱状部毎に前記ワークの縦断面において擬似的な独立した閉回路を作るようになっていることを特徴とする。
本発明によれば、転がり軸受に用いられ軌道面を有する円環状のワークに対して、その円周上に複数の誘導加熱コイルを配置し、これら複数の誘導加熱コイルとして、表面均一加熱用コイルと軌道面品質調整用コイルといった加熱の役割が異なる複数のコイルを用い、表面均一加熱用コイルは、ワークの回転中心点から径方向の一の角度についてその構成を見たときに、内径側の柱状部とワークと外径側の柱状部とが直線状に配置され、対をなす柱状部相互に逆向きの電流を流すことで各対の柱状部毎にワークの縦断面において擬似的な独立した閉回路を作るので、軌道面以外のつば部等の部分の残留オーステナイトは低く抑えつつ、軌道面に沿って配置される軌道面品質調整用コイルによって、軌道面のみを温度上昇させるような調整が可能なので、軌道面の残留オーステナイトを所定に確保することができる。
以下、本発明の一態様に係る転がり軸受の高周波加熱方法および誘導加熱コイルの一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
まず、本実施形態の高周波加熱方法で使用する高周波熱処理装置について説明する。
図1に斜視図を示すように、この高周波熱処理装置は、軌道面31を有する円環状のワーク30に対して役割の異なる複数の誘導加熱コイル10,20を用いる。本実施形態では、複数のコイル10,20として、ワーク30の表面を均一に加熱するための表面均一加熱用コイル10と、ワーク30の軌道面31の品質を調整するための軌道面品質調整用コイル20とを各一つずつ用いている。そして、本実施形態の高周波加熱方法は、一つのワーク30に対して、役割の異なる複数の誘導加熱コイル10,20をワーク30の円周上に所定の隙間を隔てて配置し、ワーク30を周方向に沿って回転させつつワーク30に高周波加熱を施すものである。同図の例は、円環状のワーク30として円筒状の内輪を対象とした例を示し、この内輪は外周側に円錐状の軌道面31を有し、この軌道面31の上下には、凸状のつば部32が設けられている例である。なお、この内輪30は、転がり軸受が円錐ころ軸受の例であって、特に図示しないが、内輪、外輪、複数の円筒ころ(転動体)、および保持器で構成される円錐ころ軸受の内輪として用いられる。
まず、本実施形態の高周波加熱方法で使用する高周波熱処理装置について説明する。
図1に斜視図を示すように、この高周波熱処理装置は、軌道面31を有する円環状のワーク30に対して役割の異なる複数の誘導加熱コイル10,20を用いる。本実施形態では、複数のコイル10,20として、ワーク30の表面を均一に加熱するための表面均一加熱用コイル10と、ワーク30の軌道面31の品質を調整するための軌道面品質調整用コイル20とを各一つずつ用いている。そして、本実施形態の高周波加熱方法は、一つのワーク30に対して、役割の異なる複数の誘導加熱コイル10,20をワーク30の円周上に所定の隙間を隔てて配置し、ワーク30を周方向に沿って回転させつつワーク30に高周波加熱を施すものである。同図の例は、円環状のワーク30として円筒状の内輪を対象とした例を示し、この内輪は外周側に円錐状の軌道面31を有し、この軌道面31の上下には、凸状のつば部32が設けられている例である。なお、この内輪30は、転がり軸受が円錐ころ軸受の例であって、特に図示しないが、内輪、外輪、複数の円筒ころ(転動体)、および保持器で構成される円錐ころ軸受の内輪として用いられる。
詳しくは、この高周波熱処理装置は、上記複数の誘導加熱コイル10,20として、同図に示すように、表面均一加熱用コイル10と、軌道面品質調整用コイル20とをワーク30の円周方向に離隔して備えている。この例では、表面均一加熱用コイル10と、軌道面品質調整用コイル20とは、ワーク30の円周方向に180°対向する位置に配置されている。これら誘導加熱コイル10,20は、一定断面の銅製中空角型パイプによって形成され、全長で中空部が連続するように角型パイプを接合しており、角型パイプの端部から必要な電力を供給可能とされるとともに、角型パイプの管路内に端部の開口部から冷却水を循環可能とされている。
また、この高周波熱処理装置は、回転ローラ機構を有する回転台(不図示)をワーク30の下方に備えており、この回転台上に円環状のワーク30を載置し、回転ローラ機構を駆動することにより、ワーク30の中心を軸としてワーク30をその周方向に沿って回転させられるようになっている。
軌道面品質調整用コイル20は、ワーク30の軌道面31の目的とする品質を確保するためのものであり、そのためには、転動体が通過する軌道面31の温度をその他の部分よりも高くする必要がある。そこで、この高周波熱処理装置では、軌道面31のみを加熱する誘導加熱コイルとして軌道面品質調整用コイル20を配置している。つまり、この軌道面品質調整用コイル20は、軌道面31に沿って配置される軌道面加熱専用のコイルであり、軌道面31のみを加熱する様に同分野での一般的な技術を用いて形成される。具体的には、その先端部21がワーク外周の軌道面31に倣って形成された短い円弧状に形成されている。円弧状の先端部21の両端には、ワーク30の径方向外側に向けて張り出す支持部22がそれぞれ連結されている。さらに、各支持部22の端部に上方に向かって延びる腕部23がそれぞれ連結され、この腕部23から必要な電力が供給される。そして、上記先端部21がワーク30の軌道面31の品質を調整可能なように、ワーク30の軌道面31に所定間隔を隔てて対向配置され、回転台上でワーク30を回転させつつ高周波誘導加熱を行うことによって、専ら軌道面31について残留オーステナイトを15〜40体積%に調整可能となっている。
一方、表面均一加熱用コイル10は、ワーク30の表面を均一に加熱するためのものであり、高周波誘導加熱によって硬化すべき部位としてワーク30表面全体を対象としている。以下、この表面均一加熱用コイル10について詳しく説明する。
ここで、この表面均一加熱用コイル10では、ワーク30表面の均一加熱が必要であり、そのためには、ワーク縦断面(ワーク30の軸方向に沿った断面)内で電流を流すこと、言い換えれば、つば部32に円周方向に沿って電流を流さないことが重要になる。これを実現するためには、ワーク30内径側と外径側にワーク30を挟むように一対をなす柱状のコイル(以下、「柱状部」ともいう)をワーク30の軸方向に沿って対向配置した上で、内径側と外径側の柱状部に互いに逆向きの電流を流すように連結する必要がある。
ここで、この表面均一加熱用コイル10では、ワーク30表面の均一加熱が必要であり、そのためには、ワーク縦断面(ワーク30の軸方向に沿った断面)内で電流を流すこと、言い換えれば、つば部32に円周方向に沿って電流を流さないことが重要になる。これを実現するためには、ワーク30内径側と外径側にワーク30を挟むように一対をなす柱状のコイル(以下、「柱状部」ともいう)をワーク30の軸方向に沿って対向配置した上で、内径側と外径側の柱状部に互いに逆向きの電流を流すように連結する必要がある。
詳しくは、図2に示すように、一対をなす柱状部は、円環状のワーク30の中心点Oからワーク30の半径方向の一の角度において、内径側の柱状部⇒ワーク30⇒外径側の柱状部という順番に配置される。図2に示す例では、一対の柱状部1Aと1Bは、ワーク30の中心Oから放射状に伸びる仮想直線L上にそれぞれ位置する。そして、この一対の柱状部1A、1Bの組合せと同様の構成を円周方向に複数対配置する(本実施形態の例では、4対の柱状部1A、1B〜4A、4Bが円周方向に離隔して配置されている)。すなわち、円周方向において隣り合う柱同士の間隔は内径側が外径側よりも狭くなる。
次に、一対の柱状部1A、1B〜4A、4Bの各対に対する電流の流し方は、ワーク30を挟んだ一対の柱状部については電流を互いに逆向きに流す必要がある。すなわち、一対の柱状部1Aと1B(同様に、2A、2B〜4A、4B)は、互いに逆向きの電流が流れるようにする。また、円周方向において隣り合う柱状部同士については、独立した複数の閉回路を各対の柱状部にてワークの縦断面に沿って形成させるために、円周方向において隣り合う柱状部相互は逆向きの電流を流す必要がある。すなわち、円周方向において隣り合う柱状部1Aと2A(同様に、「2A、3A」、「3A、4A」)は、互いに逆向きの電流が流れるように接続する。
そこで、本実施形態の例では、各柱状部1A、1B〜4A、4Bの端部を、ワーク30の周方向で隣り合う他の柱状部の端部とは相互にワーク30端面の同じ側で周方向に沿った第一の連結部5A、5B〜7A、7Bによって電気的に連結した(図2、および図1の斜視図参照)。さらに、周方向の端部に位置する一対の柱状部1A、1B相互をワーク30端面の同じ側で径方向に沿った第二の連結部8によって電気的に連結し、複数対の柱状部1A、1B〜4A、4B全体を電気的に直列に接続している。ただし、柱状部間の円周方向での接続部位(つまり第一の連結部)は、内径側の柱状部1B,2B,3B,4Bと外径側の柱状部1A,2A,3A,4Aとは、径方向で同じ側で第一の連結部が対向するように(例えば内径側が上端面ならば外径側も上端面にて)接続する。
これにより、この軌道面品質調整用コイル20は、図1に示すように、角型パイプをワーク30の縦断面形状に対応してワーク30の径方向の内外で対称なジグザク形状に直列に連続して形成されることで、図2に示す8個の柱状部1A、1B〜4A、4Bの内、1A、2B、3A、4Bには同じ向きに電流が流れ、1B、2A、3B、4Aにはそれとは逆向きに電流が流れるように接続される。なお、同図の例では、一対の柱状部4A、4Bが上方まで延長されており(図1参照)、この一対の柱状部4A、4Bの上端部から必要な電力が供給されるとともに、柱状部4A、4Bの上端開口部から、角型パイプの管路内に冷却水が循環するように給排される。
ここで、これら複数対の柱状部1A、1B〜4A、4B、および柱状部同士を相互につなぐコイル(第一の連結部5A、5B〜7A、7B、第二の連結部8)とワーク30との相対位置によっては、ワーク30に流れる電流がワーク縦断面内で閉回路を形成せず、周方向で隣り合う柱状部間の連結部の作用によりワーク30の周方向に沿って閉回路を形成してしまい、電気的に接続を行った連結部側に位置したワーク端面の加熱が不十分になる場合がある。そのため、適切なコイルギャップ(柱状部とワーク30との対向距離、および柱状部同士をつなぐ連結部とワーク30との対向距離)を設定する必要がある。
そこで、適切なコイルギャップを設定するために、以下のような解析から検討を行った。図3に解析を行うモデルの概要図を示す。
同図に示すように、この解析モデルでは、円環状のワーク30として、円錐ころ軸受に用いる円筒状の内輪を対象とした。この内輪は外周側に円錐状に形成された軌道面31を有し、軌道面31の上下には、凸状のつば部32が設けられている。この解析モデルでの内輪の配置姿勢は、端面幅の狭い側33を同図下側とし、端面幅の広い側34を同図上側としている。なお、解析用のワーク30の設定寸法は、内径φ290mm、外径φ340.5mm、高さ40mmとし、また、設定材料はSUJ3とした。
同図に示すように、この解析モデルでは、円環状のワーク30として、円錐ころ軸受に用いる円筒状の内輪を対象とした。この内輪は外周側に円錐状に形成された軌道面31を有し、軌道面31の上下には、凸状のつば部32が設けられている。この解析モデルでの内輪の配置姿勢は、端面幅の狭い側33を同図下側とし、端面幅の広い側34を同図上側としている。なお、解析用のワーク30の設定寸法は、内径φ290mm、外径φ340.5mm、高さ40mmとし、また、設定材料はSUJ3とした。
一対の柱状部1Aと1Bは、ワーク30の内径側(反軌道面側)に柱状部1Bが配置され、ワーク30の外径側(軌道面側)に柱状部1Aが配置されている。各柱状部1A、1Bの下端には、ワーク30の周方向に沿って互いに逆側に伸びる第一の連結部5A、9がそれぞれに接続されている。また、柱状部1A、1B相互は、相互の上端部が第二の連結部8によって相互に連結されている。
ここで、同図の解析モデルにおいて、端面側隙間Guは、周方向で隣り合う柱状部の端部をつなぐ第一の連結部5A、9の軸方向中央の位置(側面の幅中央)からワーク端面(端面幅の狭い側33)までのワーク軸方向での距離とした。また、ワーク30の軌道面31とは反対側の側面(反軌道面)36と柱状部1Bとの対向方向の隙間を反軌道面隙間Giとした。そして、上記端面側隙間Guを0mmから25mmまで5mm間隔でそれぞれ解析モデルを作成し、上記表面均一加熱用コイル10だけを用いて高周波熱処理を施したときの磁場解析、および熱解析を行った。誘導加熱条件は、周波数10kHz、出力160kW、加熱時間30秒、ワーク回転速度100min−1である。表1にワーク30の反軌道面36とつば部32の発熱密度を示す。なお、磁場解析および熱解析にあたっては、設定材料であるSUJ3の各物性値(B−Hカーブ、電気伝導率、熱伝導率、比熱)の温度依存性を測定し、その測定結果を磁場解析(B−Hカーブ、電気伝導率)および熱解析(熱伝導率、比熱)に組み込んでいる。
表1に示すように、端面側隙間Guが狭いときに、ワーク30の端面幅の狭い側33のつば部32の発熱密度が端面側隙間Guが広いものに比べて低い理由は、周方向で隣り合う柱状部間をつなぐ第一の連結部5A、9の作用によりワーク30の周方向に沿って閉回路を形成してしまい、つば部32に流れる電流が小さくなるためである。反対に、端面側隙間Guが十分にあるときには、ワーク30の周方向に沿って流れる電流が減少し、つば部32まで十分な大きさの電流が流れ、つば部と反軌道面36の加熱密度の差は小さくなる。
さらに、磁場解析と熱解析の連成解析により仮想コイルで20秒間加熱したときの反軌道面36とつば部32の温度を計算した。反軌道面36とつば部32の温度は、上記端面側隙間Guと反軌道面隙間Giそれぞれの隙間の大きさが両方影響すると考え、端面側隙間Guを反軌道面隙間Giで除した無次元数を隙間規格値(Gu/Gi)とし、この隙間規格値(Gu/Gi)で結果を整理することにした。表2に、20秒間加熱時の各隙間規格値におけるワーク30の反軌道面36とつば部32の温度との関係を示す。また、図4に、各隙間規格値と、つば部32と反軌道面36の温度の影響との関係をグラフで示す。
図4に示すように、隙間規格値(Gu/Gi)が0のとき、すなわち、第一の連結部5A、9の中央とつば側端面33が一致しているときは、つば部32と反軌道面36の温度差が100℃を超える結果が得られた。また、隙間規格値(Gu/Gi)が1未満のときに、急激につば部32と反軌道面36の温度差が広がることがわかる。
また、図5に各隙間規格値における20秒間加熱時のワーク縦断面35の温度のコンターマップを示す。同図(a)、(b)に示すように、隙間規格値(Gu/Gi)が1以上の場合、軌道面31を除いた表面が均一に加熱され、隙間規格値(Gu/Gi)が1未満の場合(同図(c))、つば部32の加熱が不十分となり、均一に加熱されないことがわかる。
また、図5に各隙間規格値における20秒間加熱時のワーク縦断面35の温度のコンターマップを示す。同図(a)、(b)に示すように、隙間規格値(Gu/Gi)が1以上の場合、軌道面31を除いた表面が均一に加熱され、隙間規格値(Gu/Gi)が1未満の場合(同図(c))、つば部32の加熱が不十分となり、均一に加熱されないことがわかる。
次に、ワーク30の反軌道面36とつば部32の温度差が熱処理品質に及ぼす影響を調査するために、上記端面側隙間Guと反軌道面隙間Giそれぞれの隙間を調節した表面均一加熱用コイル10を製作し、上述した解析と条件を揃えて高周波加熱を行い、熱処理品質を調査した。表3および図6に、熱処理後のワーク30の反軌道面36の硬度(HV)およびつば部32の角部の硬度(HV)を示す。
表3および図6に示すように、上記解析においてワーク30の反軌道面36とつば部32の温度差が小さいことが確認されている隙間規格値(Gu/Gi)≧1の表面均一加熱用コイル10(実施例1、2)では、反軌道面36、つば部32の角部の硬度が、いずれもHV700以上と十分な結果である。一方で、隙間規格値(Gu/Gi)<1の表面均一加熱用コイル10(比較例1、2)では、つば部32の角部の硬度が不足している(この例では、HV220、HV650)。特に、隙間規格値(Gu/Gi)=0.3の比較例1では、組織観察で、未変態のフェライトが確認された。
このように、上記端面側隙間Guと反軌道面隙間Giそれぞれの隙間を適切に設定した、図2に示すように配置したコイル構成とすることによって、ワーク縦断面35に沿って4つの独立した閉回路が形成される。以上から、本実施形態においては、ワーク30の円周方向の均一性を確保するために、端面側隙間Guを反軌道面隙間Giで除した無次元数Gu/Giを1以上とし、ワーク30の内径側および外径側で対をなす柱状部1A、1B〜4A、4B相互に逆向きの電流を流して各対の柱状部毎にワーク縦断面35において擬似的な独立した閉回路を形成しつつ、ワーク30を周方向に沿って回転させて高周波加熱を行うこととした。これにより、上記表面均一加熱用コイル10によれば、ワーク30の表面を均一加熱可能となっている。
次に、上記高周波熱処理装置を用いた高周波加熱方法、および作用効果について説明する。
上記高周波熱処理装置で高周波加熱を行う際は、円環状のワーク30を回転台(不図示)に載置し、ワーク30の回転中心を確保する。ここで、ワーク30としては、例えば、上述したような両端につば部32が形成された円錘型の軌道面31を有する内輪ワークを対象とする。そして、例えば汎用の高炭素クロム鋼(SUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5)に代表される過共析組成のずぶ焼き鋼を用いて、心部が残存しかつ表面が全て硬化されるように、当該ワーク30に所期の高周波熱処理を施すものである。
上記高周波熱処理装置で高周波加熱を行う際は、円環状のワーク30を回転台(不図示)に載置し、ワーク30の回転中心を確保する。ここで、ワーク30としては、例えば、上述したような両端につば部32が形成された円錘型の軌道面31を有する内輪ワークを対象とする。そして、例えば汎用の高炭素クロム鋼(SUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5)に代表される過共析組成のずぶ焼き鋼を用いて、心部が残存しかつ表面が全て硬化されるように、当該ワーク30に所期の高周波熱処理を施すものである。
次いで、ワーク30の回転中心を確保後に、表面均一加熱用コイル10と軌道面品質調整用コイル20をワーク30に対する所定の位置に位置するように配置する。ここで、表面均一加熱用コイル10は、ワーク30を径方向で挟むように対向配置された一対の柱状部を複数対有し、各対の柱状部1A、1B〜4A、4Bが、ワーク30の内径側および外径側の柱状部相互に逆向きの電流を流すことでワーク縦断面35において擬似的な独立した閉回路をそれぞれの一対の柱状部1A、1B〜4A、4Bが作るものを用いる。次いで、回転ローラ機構(不図示)を駆動することによりワーク30を50〜200min−1で回転させ、定常状態になったことを確認した後、表面均一加熱用コイル10に電流を流して高周波加熱を開始する。表面均一加熱用コイル10での誘導加熱条件は、例えば、周波数8〜12kHz、出力10〜350kW、加熱時間5〜200秒である。所定の時間加熱した後に、軌道面品質調整用コイル20に電力を投入して高周波加熱を行う。軌道面品質調整用コイル20での誘導加熱条件は、例えば、周波数8〜40kHz、出力30〜100kW、加熱時間5〜200秒である。所定の時間経過後、電力をカットし、ワーク30に20〜50℃の冷却水を噴霧して水冷を行う。次いで、ワーク30を加熱炉に入れて160〜220℃に2時間保持した後、放冷することで焼戻しを行う。次に、研磨などの後加工を施すことによって内輪30を完成する。
以上説明したように、本実施形態の誘導加熱コイルおよびこれを用いた高周波加熱方法によれば、軌道面31を有する円環状のワーク30に対して、その円周上に複数のコイル10,20を配置し、これら複数のコイル10,20として、表面均一加熱用コイル10と軌道面品質調整用コイル20といった加熱の役割が異なるコイルを用い、表面均一加熱用コイル10は、ワーク30の回転中心点Oから径方向の一の角度についてその構成を見たときに、内径側の柱状部とワーク30と外径側の柱状部とが仮想直線L上に配置され、対をなす柱状部1A、1B〜4A、4B相互に逆向きの電流を流すことで各対の柱状部毎にワーク30の縦断面35において擬似的な独立した閉回路を作ることができるので、ワーク表面の温度をA1変態点以上に加熱することで、軌道面31以外のつば部32等の部分の残留オーステナイトは低く抑えつつ、軌道面品質調整用コイル20により軌道面31の内部組織を微調整することにより、軌道面31の残留オーステナイトを所定(例えば15〜40体積%)に確保することができる。よって、本実施形態であれば、上記構成の表面均一加熱用コイル10により、つば部32のオーバーヒートを抑制した上で、ワーク表面を均一に加熱するとともに、軌道面品質調整用コイル20により、軌道面31に対して加熱を追加することで軌道面31の転がり耐久性を確保しながら短時間で高品質の転がり軸受用軌道輪の製造が可能となる。すなわち、本実施形態の誘導加熱コイルおよびこれを用いた高周波加熱方法によれば、軌道面31を有する円環状の転がり軸受用軌道輪30の生産性と機能を両立することができ、軌道輪30表面を均一に加熱するとともに、軌道面31表面の残留オーステナイトおよび大きなせん断応力を受ける領域の組織を制御し、異物混入潤滑環境下等の寿命低下が懸念される用途において、長寿命を示す転がり軸受用の軌道輪30を製造する上で好適である。
特に、本実施形態の誘導加熱コイルおよびこれを用いた高周波加熱方法によれば、表面均一加熱用コイル10でワーク30の表面をムラ無く加熱するために適切なコイルギャップを、上記無次元数(Gu/Gi)が1以上となるように規定しているので、例えば、汎用の高炭素クロム鋼(SUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5)に代表される過共析組成のずぶ焼き鋼を用い、心部が残存しかつ表面が全て硬化されるように、円環状ワーク30に高周波熱処理を好適に施すことができる。
なお、本発明に係る転がり軸受の高周波加熱方法および誘導加熱コイルは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、転がり軸受用の軌道輪(ワーク)30として、両端につば部32が形成された円錘型軌道面31を有する内輪の例で説明したが、これに限らず、本発明に係る転がり軸受の高周波加熱方法および誘導加熱コイルの適用対象とし得るワークとしては、軌道面を有する円環状の軌道輪であれば、外輪は勿論、つば部の有無に拘らず種々の転がり軸受用軌道輪を対象とすることができる。
また、上記実施形態では、端面側隙間Guの設定について、ワーク30の幅が狭い側の端面33と第一の連結部の軸方向中央の位置とのワーク軸方向での距離とした例で説明したが、ワーク30の両端面の幅が同じ場合にはいずれか一方の端面について第一の連結部の軸方向中央の位置とのワーク軸方向での距離を端面側隙間Guとして設定することができる。
また、役割が異なる複数の誘導加熱コイル10,20についても、その配置数が上記実施形態に限定されるものではなく、本発明は、一つのワークに対して異なる機能を有する誘導加熱コイルを円周上に複数配置することを特徴としており、例えばワークサイズが大きく、各々のコイルの加熱能力が不十分な場合は、誘導加熱コイルの数を必要分だけ増加させても問題ない。また、誘導加熱コイル10,20の断面形状についても、上記実施形態では、角型パイプを例に説明したが、これに限らず、例えば断面丸形のパイプ状のコイル材料を用いてもよいし、棒状、あるいは板状のコイル材料を用いてもよい。
1A、1B 柱状部
2A、2B 柱状部
3A、3B 柱状部
4A、4B 柱状部
5A、5B 第一の連結部
6A、6B 第一の連結部
7A、7B 第一の連結部
8 第二の連結部
9 (解析用)第一の連結部
10 表面均一加熱用コイル(誘導加熱コイル)
20 軌道面品質調整用コイル(誘導加熱コイル)
21 先端部
22 支持部
23 腕部
30 軌道輪(ワーク)
31 軌道面
32 つば部
33 (幅が狭い側の)端面
34 (幅が広い側の)端面
35 ワーク縦断面
36 反軌道面
Gu 端面側隙間
Gi 反軌道面隙間
O ワークの中心点
L 仮想直線
2A、2B 柱状部
3A、3B 柱状部
4A、4B 柱状部
5A、5B 第一の連結部
6A、6B 第一の連結部
7A、7B 第一の連結部
8 第二の連結部
9 (解析用)第一の連結部
10 表面均一加熱用コイル(誘導加熱コイル)
20 軌道面品質調整用コイル(誘導加熱コイル)
21 先端部
22 支持部
23 腕部
30 軌道輪(ワーク)
31 軌道面
32 つば部
33 (幅が狭い側の)端面
34 (幅が広い側の)端面
35 ワーク縦断面
36 反軌道面
Gu 端面側隙間
Gi 反軌道面隙間
O ワークの中心点
L 仮想直線
Claims (2)
- 転がり軸受に用いられ軌道面を有する円環状のワークに対して該ワークの円周上に配置した複数の誘導加熱コイルを用い該ワークに高周波加熱を行う方法であって、
前記複数の誘導加熱コイルとして、前記ワーク表面を均一に加熱するための表面均一加熱用コイルと、前記ワークの軌道面の品質を調整するために軌道面に沿って配置される軌道面品質調整用コイルとを用い、
前記表面均一加熱用コイルとして、前記ワークの内径側および外径側の面それぞれに対向して前記ワークを挟むように一対の柱状部を配置し、前記一対の柱状部を、前記ワークの中心から放射状に伸びる仮想直線上に且つ前記ワークの軸方向に沿って配置するとともに、該一対の柱状部を前記ワークの周方向に離隔して複数対配置し、
各柱状部の端部を、前記ワークの周方向で隣り合う他の柱部の端部とは相互に前記ワーク端面の同じ側で周方向に沿った第一の連結部によって連結するとともに、周方向の端部に位置する一対の柱状部相互を前記ワーク端面の同じ側で径方向に沿った第二の連結部によって連結することで複数対の柱状部全体を直列に接続し、
さらに、前記ワークの両端面のうち、両端面の幅が同じ場合にはいずれか一方の端面、若しくは両端面の幅が異なる場合には幅が狭い側の端面と前記第一の連結部の軸方向中央の位置とのワーク軸方向での距離を端面側隙間Gu、前記ワークの軌道面とは反対側の側面と前記柱状部との対向方向の隙間を反軌道面隙間Giとするとき、
前記複数対の柱状部全体を、前記端面側隙間Guを前記反軌道面隙間Giで除した無次元数Gu/Giを1以上とし、
前記ワークの内径側および外径側で対をなす柱状部相互に逆向きの電流を流して各対の柱状部毎に前記ワークの縦断面において擬似的な独立した閉回路を形成しつつ前記ワークを周方向に沿って回転させて高周波加熱を行うことを特徴とする転がり軸受の高周波加熱方法。 - 転がり軸受に用いられて軌道面を有する円環状のワークに高周波加熱を行うための誘導加熱コイルであって、
前記ワーク表面を均一に加熱するための表面均一加熱用コイルと、前記ワークの軌道面の品質を調整するために軌道面に沿って配置される軌道面品質調整用コイルとを備え、
前記表面均一加熱用コイルは、前記ワークの内径側および外径側の面それぞれに対向して前記ワークを挟むように配置された一対の柱状部を有し、
前記一対の柱状部は、前記ワークの中心から放射状に伸びる仮想直線上に且つ前記ワークの軸方向に沿って配置されるとともに、該一対の柱状部が前記ワークの周方向に離隔して複数対配置され、
各柱状部の端部は、前記ワークの周方向で隣り合う他の柱部の端部とは相互に前記ワーク端面の同じ側で周方向に沿った第一の連結部によって連結されるとともに、周方向の端部に位置する一対の柱状部相互が前記ワーク端面の同じ側で径方向に沿った第二の連結部によって連結されることで複数対の柱状部全体が直列に接続されており、
さらに、前記ワークの両端面のうち、両端面の幅が同じ場合にはいずれか一方の端面、若しくは両端面の幅が異なる場合には幅が狭い側の端面と前記第一の連結部の軸方向中央の位置とのワーク軸方向での距離を端面側隙間Gu、前記ワークの軌道面とは反対側の側面と前記柱状部との対向方向の隙間を反軌道面隙間Giとするとき、
前記複数対の柱状部全体は、前記端面側隙間Guを前記反軌道面隙間Giで除した無次元数Gu/Giが1以上とされ、
前記ワークの内径側および外径側で対をなす柱状部相互に逆向きの電流を流すことで各対の柱状部毎に前記ワークの縦断面において擬似的な独立した閉回路を作るようになっていることを特徴とする誘導加熱コイル。
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2013
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